(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068971
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】表皮成熟因子の発現亢進剤、フィラグリン(FLG)発現亢進剤、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー(ABCA12)発現亢進剤、タイトジャンクション形成促進剤、及び角層細胞間脂質産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240514BHJP
A61K 36/61 20060101ALI20240514BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20240514BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240514BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240514BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240514BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20240514BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240514BHJP
A61Q 1/14 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K36/61
A61K36/185
A61P17/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61K38/17
A61K8/64
A61Q19/00
A61Q1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179689
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】横田 真理子
(72)【発明者】
【氏名】清野 絢美
(72)【発明者】
【氏名】岡部 伊織
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AB032
4C083AB172
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC182
4C083AC352
4C083AC422
4C083AC432
4C083AC442
4C083AC482
4C083AD022
4C083AD042
4C083AD092
4C083AD352
4C083AD411
4C083AD412
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC24
4C083DD27
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE12
4C084AA02
4C084BA44
4C084DC50
4C084MA02
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4C084MA63
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC411
4C084ZC412
4C084ZC75
4C088AB12
4C088AB57
4C088AC01
4C088CA04
4C088MA08
4C088MA52
4C088MA63
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB21
4C088ZC41
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】本発明の解決しようとする課題は、皮膚の保湿機能、バリア機能の獲得等に関与する表皮成熟因子の発現を亢進させることのできる、新規な技術を提供することにある。
【解決手段】本発明は、シモンジア科(Simmondsiaceae)シモンジア属(Simmondsia)に属する植物の抽出物及びフトモモ科(Myrtaceae)フトモモ属(Syzygium)に属する植物の抽出物を含む複合エキス、並びに/又はオステオカルシンを有効成分として含む、表皮成熟因子の発現亢進剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シモンジア科(Simmondsiaceae)シモンジア属(Simmondsia)に属する植物の抽出物及びフトモモ科(Myrtaceae)フトモモ属(Syzygium)に属する植物の抽出物を含む複合エキス、並びに/又はオステオカルシンを有効成分として含む、表皮成熟因子の発現亢進剤。
【請求項2】
前記複合エキスを有効成分として含む、請求項1に記載の表皮成熟因子の発現亢進剤。
【請求項3】
前記表皮成熟因子は、表皮角化細胞の増殖及び/又は分化、皮膚バリアの形成、並びに皮膚の水分調節機能の形成から選ばれる1又は2以上に関与することにより、表皮のターンオーバーを促進する因子である、請求項1に記載の表皮成熟因子の発現亢進剤。
【請求項4】
前記表皮成熟因子が、下記(a)~(j)から選ばれる遺伝子オントロジー(gene ontology)の何れか1以上に分類されるものである、請求項1に記載の表皮成熟因子の発現亢進剤。
(a)skin development
(b)keratinocyte differentiation
(c)epidermal cell differentiation
(d)epidermis development
(e)cell-substrate junction assembly
(f)mitotic sister chromatid segregation
(g)establishment of skin barrier
(h)regulation of water loss via skin
(i)nitrogen compound transport
(j)negative regulation of apoptotic process
【請求項5】
前記表皮成熟因子が、フィラグリン(FLG)、タイトジャンクション関連因子及び角層細胞間脂質関連因子から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1に記載の表皮成熟因子の発現亢進剤。
【請求項6】
前記タイトジャンクション関連因子がクローディン-4(CLDN4)である、請求項5に記載の表皮成熟因子の発現亢進剤。
【請求項7】
前記角層細胞間脂質関連因子が、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー(ABCA12)、スフィンゴミエリンフォスフォジエステラーゼ1(SMPD1)、及び超長鎖脂肪酸伸長タンパク4(ELOVL4)から選ばれる1種又は2種以上である、請求項5に記載の表皮成熟因子の発現亢進剤。
【請求項8】
前記表皮成熟因子が、フィラグリン(FLG)、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー(ABCA12)、スフィンゴミエリンフォスフォジエステラーゼ1(SMPD1)、クローディン-4(CLDN4)及び超長鎖脂肪酸伸長タンパク4(ELOVL4)の全てである、請求項1に記載の表皮成熟因子の発現亢進剤。
【請求項9】
オステオカルシンを有効成分として含む、請求項2に記載の表皮成熟因子の発現亢進剤。
【請求項10】
オステオカルシンの分泌量が減少した対象に適用することを特徴とする、請求項1~9の何れか一項に記載の表皮成熟因子の発現亢進剤。
【請求項11】
前記対象が宇宙空間に滞在中である、請求項10に記載の表皮成熟因子の発現亢進剤。
【請求項12】
シモンジア科(Simmondsiaceae)シモンジア属(Simmondsia)に属する植物の抽出物及びフトモモ科(Myrtaceae)フトモモ属(Syzygium)に属する植物の抽出物を含む複合エキス、並びに/又はオステオカルシンを有効成分として含む、フィラグリン(FLG)発現亢進剤。
【請求項13】
シモンジア科(Simmondsiaceae)シモンジア属(Simmondsia)に属する植物の抽出物及びフトモモ科(Myrtaceae)フトモモ属(Syzygium)に属する植物の抽出物を含む複合エキス、並びに/又はオステオカルシンを有効成分として含む、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー(ABCA12)発現亢進剤。
【請求項14】
シモンジア科(Simmondsiaceae)シモンジア属(Simmondsia)に属する植物の抽出物及びフトモモ科(Myrtaceae)フトモモ属(Syzygium)に属する植物の抽出物を含む複合エキスを有効成分として含む、タイトジャンクション形成促進剤。
【請求項15】
シモンジア科(Simmondsiaceae)シモンジア属(Simmondsia)に属する植物の抽出物及びフトモモ科(Myrtaceae)フトモモ属(Syzygium)に属する植物の抽出物を含む複合エキスを有効成分として含む、角層細胞間脂質産生促進剤。
【請求項16】
スフィンゴミエリンフォスフォジエステラーゼ1(SMPD1)及び/又は超長鎖脂肪酸伸長タンパク4(ELOVL4)の発現を亢進する、請求項15に記載の角層細胞間脂質産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮成熟因子の発現亢進剤、フィラグリン(FLG)発現亢進剤、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー(ABCA12)発現亢進剤、タイトジャンクション形成促進剤、及び角層細胞間脂質産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の表皮は、バリア機能を有する重要な組織である。表皮は、下層から、基底層、有棘層、顆粒層、角層から構成される。表皮最下層では、表皮角化細胞が足場となる基底膜に接着して盛んに分裂している。そして、分裂能力を失った細胞は上層に移動しながら成熟し、最外層の角層となり、その後垢となって剥がれ落ちる。このような表皮の成熟にかかる一連の過程を表皮のターンオーバーと呼ぶ。
【0003】
角層は、角層細胞と角層細胞間脂質(SCL)で構成され、皮膚のバリア機能の中心的役割を担っている。角層細胞間脂質は、主にセラミド、コレステロール及び遊離脂肪酸で構成されている。中でもセラミドは、スフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合した化合物であり、皮膚の角層細胞間脂質が形成するラメラ構造の主成分である。
【0004】
SCLは、顆粒層において親水性前駆体であるスフィンゴミエリン、グルコシルセラミド、コレステロールエステル、グリセロリン脂質が層板顆粒(ラメラボディ)として蓄積され、分化の最終段階の脱核・角化の際に角層細胞の外に放出された後、各種酵素の作用で各SCL成分に変換され角層細胞の間隙に層状の強固なバリアを形成する(非特許文献1)。
【0005】
そして、加齢、乾燥肌、アトピー性皮膚炎、紫外線暴露等が原因で、角層中のセラミドが減少し、表皮バリア機能が低下することが知られている。
【0006】
また、表皮の保湿に関わる因子として、アミノ酸等で構成される天然保湿因子(NMF)がある。角層に含まれるNMFの量が減少すると、乾燥肌等を引き起こすことが知られている。NMFは、表皮の顆粒層で産生されたプロフィラグリンが、角層へ移行する過程でフィラグリンに変換され、さらにプロテアーゼによりフィラグリンが分解されることにより生じる。
【0007】
また、表皮組織では、表皮角化細胞どうしが密接に結合しあうことにより、細胞の層を形成している。細胞接着は、タイトジャンクション(TJ)やアドへレンスジャンクション(AJ)、デスモソーム(DS)などにより構成されている。
このうち、タイトジャンクションは、表皮バリア機能に重要な役割を示すことが明らかとなっている。
また、バリア機能の指標であるTEER値に関与する接着タンパク質として、TJP1(Tight Junction Protein 1)、CLD1(Claudin 1)、OCL(Occludin)、ZO1(Zonula Occludens Protein 1)などが知られている(非特許文献2)。
【0008】
ところで、ホホバは、その葉から抽出したエキスが広く化粧品用途等に用いられている。例えば、エストロゲン様作用剤(特許文献1)、ヒアルロニダーゼ阻害剤(特許文献2)としての用途が知られている。
【0009】
また、チョウジから得たエキスは、抗酸化作用、抗アレルギー作用を有することが知られている。そして、特許文献3には、チョウジエキスを含む紫外線ダメージ抑制剤が記載されている。
【0010】
また、オステオカルシンは、骨芽細胞が産生する非コラーゲン性タンパク質である。オステオカルシンは、グルコースのホメオスタシスや運動能力、脳の発達、認知能力、男性の生殖能力など、様々な生物学的プロセスの制御に関与していることが知られている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-306834号公報
【特許文献2】特開2003-034644号公報
【特許文献3】特許6305727号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Y. Uchida,Skin Lipids. in COSMETIC SCIENCE AND TECHNOLOGY: THEORETICAL PRINCIPLES AND APPLICATIONS. Elsevier, pp. 685-698(2017).
【非特許文献2】Frontiers in Immunology, December 2015, Volume 6, Article 612
【非特許文献3】Front Endocrinol (Lausanne). 2019 Jan 10;9:794.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記先行技術のあるところ、本発明は、皮膚の保湿機能、バリア機能の獲得等に関与する表皮成熟因子の発現を亢進させることのできる、新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明は、シモンジア科(Simmondsiaceae)シモンジア属(Simmondsia)に属する植物の抽出物及びフトモモ科(Myrtaceae)フトモモ属(Syzygium)に属する植物の抽出物を含む複合エキス、並びに/又はオステオカルシンを有効成分として含む、表皮成熟因子の発現亢進剤である。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記複合エキスを有効成分として含む。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記表皮成熟因子は、表皮角化細胞の成長及び/又は分化、皮膚バリアの形成、並びに皮膚の水分調節機能の形成から選ばれる1又は2以上に関与することにより、表皮のターンオーバーを促進する因子である。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記表皮成熟因子が、下記(a)~(j)から選ばれる遺伝子オントロジー(gene ontology)の何れか1以上に分類されるものである。
(a)skin development
(b)keratinocyte differentiation
(c)epidermal cell differentiation
(d)epidermis development
(e)cell-substrate junction assembly
(f)mitotic sister chromatid segregation
(g)establishment of skin barrier
(h)regulation of water loss via skin
(i)nitrogen compound transport
(j)negative regulation of apoptotic process
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記表皮成熟因子が、フィラグリン(FLG)、タイトジャンクション関連因子及び角層細胞間脂質関連因子から選ばれる1種又は2種以上である。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記タイトジャンクション関連因子がクローディン-4(CLDN4)である。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記角層細胞間脂質関連因子が、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー(ABCA12)、スフィンゴミエリンフォスフォジエステラーゼ1(SMPD1)、クローディン-4(CLDN4)及び超長鎖脂肪酸伸長タンパク4(ELOVL4)から選ばれる1種又は2種以上である。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記表皮成熟因子が、FLG、ABCA12、SMPD1、CLDN4及びELOVL4の全てである。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記複合エキスとオステオカルシンを有効成分として含む。
【0023】
本発明の好ましい形態では、本発明は、オステオカルシンの分泌量が減少した対象に適用することを特徴とする。
【0024】
本発明の好ましい形態では、前記対象が宇宙空間に滞在中である。
【0025】
また、本発明は、シモンジア科シモンジア属に属する植物の抽出物及びフトモモ科フトモモ属に属する植物の抽出物を含む複合エキス、並びに/又はオステオカルシンを有効成分として含む、FLG発現亢進剤、又はABCA12発現亢進剤に関する。
また、本発明は、シモンジア科シモンジア属に属する植物の抽出物及びフトモモ科フトモモ属に属する植物の抽出物を含む複合エキスを有効成分として含む、タイトジャンクション形成促進剤に関する。
【0026】
また、本発明は、シモンジア科シモンジア属に属する植物の抽出物及びフトモモ科フトモモ属に属する植物の抽出物を含む複合エキスを有効成分として含む、角層細胞間脂質産生促進剤に関する。
【0027】
本発明の好ましい形態では、本発明の角層細胞間脂質産生促進剤は、SMPD1及び/又はELOVL4の発現を亢進する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、皮膚の保湿機能、バリア機能の獲得等に関与する表皮成熟因子の発現を亢進させることができる。
より具体的には、本発明の表皮成熟因子発現亢進剤は、表皮におけるFLG、ABCA12、SMPD1、CLDN4及びELOVL4から選ばれる1又は2以上の表皮成熟因子の発現を亢進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】試験例1において、ホホバ(Simmondsia chinensis)抽出物及びチョウジ(Syzygium aromaticum)抽出物を含む複合エキスを添加した表皮細胞を用いたエンリッチメント解析(Biological Process)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<表皮成熟因子の発現亢進剤>
(1)有効成分
(1-1)複合エキス
本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、シモンジア科(Simmondsiaceae)シモンジア属(Simmondsia)に属する植物の抽出物及びフトモモ科(Myrtaceae)フトモモ属(Syzygium)に属する植物の抽出物を含む、複合エキスを含む。
【0031】
[シモンジア属植物の抽出物]
本発明において、シモンジア科(Simmondsiaceae)シモンジア属(Simmondsia)に属する植物は、ホホバ(Simmondsia chinensis)であることが好ましい。
シモンジア科(Simmondsiaceae)シモンジア属(Simmondsia)に属する植物の抽出物(以下、シモンジア属植物の抽出物ともいう)の抽出部位は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、葉部、茎部、花部、果実部、根部などが挙げられる。本発明においては、葉を用いることが好ましい。
【0032】
抽出に際して、シモンジア属に属する植物の抽出部位又はその乾燥物は、予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出部位の乾燥は、天日で行ってもよいし、通常使用されている乾燥機を用いて行ってもよい。
【0033】
抽出は、常圧、若しくは加圧、減圧下で、室温、冷却又は加熱した状態で抽出溶媒に浸漬させて抽出する方法、水蒸気蒸留などの蒸留法を用いて抽出する方法並びに抽出部位を圧搾して抽出物を得る圧搾法などが例示され、これらの方法を単独で、又は2種以上を組み合わせて抽出を行うこともできる。
【0034】
浸漬によって抽出する場合、シモンジア属に属する植物の植物体、地上部、根茎部、及び/又は種子の乾燥物1質量部に対して溶媒を1~30質量部加え、室温であれば数日間、溶媒の沸点付近の温度であれば数時間浸漬することにより行うことができる。浸漬後は、室温まで冷却し、所望により不要物を除去した後、溶媒を減圧濃縮等により除去すればよい。しかる後、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィーなどで分画精製して、所望の抽出物を得ることができる。
【0035】
抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール及びブタノール等のアルコール類、1,3-ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びグリセリン等の多価アルコール類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類、並びにジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類から選択される1種又は2種以上が好適に例示でき、中でもエタノール、1,3-ブチレングリコール又は水を用いて抽出することが好ましい。
【0036】
本発明で使用するシモンジア属植物の抽出物は、化粧品表示名称がホホバ葉エキス(Simmondsia Chinensis (Jojoba) Leaf Extract)であるものを用いることが好ましい。
【0037】
[フトモモ属植物の抽出物]
本発明において、フトモモ科(Myrtaceae)フトモモ属(Syzygium)に属する植物は、チョウジ(Syzygium aromaticum)であることが好ましい。
【0038】
フトモモ科(Myrtaceae)フトモモ属(Syzygium)に属する植物の抽出物(以下、フトモモ属植物の抽出物ともいう)の抽出部位は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、葉部、茎部、花部、果実部、根部などが挙げられる。本発明においては、花部、特に蕾を用いることが好ましい。
【0039】
フトモモ属植物の抽出物は、上記のシモンジア属植物の抽出物と同様に既存の手法により抽出することができる。
本発明にかかるフトモモ属植物の抽出物は、抽出溶媒としてエタノール、1,3-ブチレングリコール又は水を用いて抽出されたものであることが好ましい。
【0040】
本発明で使用するフトモモ属植物の抽出物は、化粧品表示名称がチョウジエキス(Eugenia Caryophyllus (Clove) Flower Extract)であるものを用いることが好ましい。
【0041】
(1-2)オステオカルシン
本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、オステオカルシンを有効成分として含む形態とすることもできる。
【0042】
オステオカルシンは、粗砕又は粉砕した豚、牛等の哺乳類、鳥類、魚類等の骨を、抽出溶媒に浸漬させることで、抽出することができる。粗砕又は粉砕する前、使用する骨は、予め熱水処理をし、加熱乾燥しておくことが好ましい。
【0043】
使用する抽出液は特に限定されず、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性水溶液、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸などの有機酸などの酸性水溶液が挙げられ、アルカリ性水溶液を後いることがより好ましい。
【0044】
得られたオステオカルシンの抽出液は、中和処理を行うことが好ましい。具体的には、アルカリ水溶液で抽出処理した場合には、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、乳酸、クエン酸、酢酸、アスコルビン酸などの有機酸などで中和することができ、酸性水溶液で抽出処理した場合には、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性水溶液で中和することができる。
【0045】
オステオカルシンは、中和後、濃縮したものを用いることができる。濃縮は、減圧や加熱などにより抽出液から溶媒を蒸発させる蒸発法や、限外ろ過、ゲル濾過、イオン交換樹脂等の膜を用いた膜濃縮法で行うことができる。
【0046】
また、本発明で使用するオステオカルシンは、不活性型オステオカルシン、活性型オステオカルシンの何れであってもよいし、これらの混合物であってもよい。
【0047】
本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、上記の複合エキスとオステオカルシンの何れかのみを含んでいてもよい。また、複合エキスとオステオカルシンの両方を含んでいてもよい。
複合エキスとオステオカルシンを両方含む本発明は、一方のみを含む場合と比して、表皮成熟因子の発現を向上させることができる。
【0048】
(2)表皮成熟因子
本発明にかかる表皮成熟因子とは、表皮の発達、分化、バリア、水分制御といった皮膚の成熟に関わる因子である。
より具体的には、本発明における表皮成熟因子は、表皮角化細胞の成長及び/又は分化、皮膚バリアの形成、及び皮膚の水分調節機能の形成から選ばれる1又は2以上に関与することにより、表皮のターンオーバーを促進する因子であることが好ましい。
【0049】
ここで、表皮角化細胞の成長及び/分化とは、表皮角化細胞が、基底層から有棘層、顆粒層、角質層を構成する細胞へと分化、成長していくことを含む。
表皮バリアの形成とは、角層細胞間脂質やNMFが正常に産生されることにより、また、タイトジャンクションを構成するオクルディン、クローディン等やアドヘレンスジャンクションを構成するカドヘリン等の細胞接着因子の発現が亢進することにより、表皮バリア機能が形成されることを含む。
皮膚の水分調節機能の形成とは、角層細胞間脂質やNMF、タイトジャンクションを構成するオクルディン、クローディン等やアドヘレンスジャンクションを構成するカドヘリン等の細胞接着因子が産生されることを含む。
【0050】
本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、表皮の成熟を促進することができる。本発明において、表皮の成熟とは、具体的には、表皮の成熟による皮膚バリア機能及び/又は保湿機能の獲得等のことをいう。
【0051】
また、本発明により促進される表皮成熟因子は、下記(a)~(j)から選ばれる遺伝子オントロジー(gene ontology:GO)の何れか1以上に分類されるものであることが好ましい。
(a)skin development
(b)keratinocyte differentiation
(c)epidermal cell differentiation
(d)epidermis development
(e)cell-substrate junction assembly
(f)mitotic sister chromatid segregation
(g)establishment of skin barrier
(h)regulation of water loss via skin
(i)nitrogen compound transport
(j)negative regulation of apoptotic process
【0052】
上記(a)~(j)のGOに分類される因子は、表皮の成熟に関与するものである。すなわち、本発明は、上記GOの何れか1以上に分類される表皮成熟因子の発現を亢進することができる。
【0053】
また好ましい形態では、本発明は、上記(a)~(j)のGOの何れか1以上に分類される、複数の因子、すなわち2以上の因子の発現を亢進する。すなわち、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、表皮の成熟にかかる複数の機構にアプローチし、より表皮の成熟状態の改善等への効果を促すことができる。
また、好ましい形態では、本発明は、上記(a)~(j)のGOの何れか1以上に分類される因子のうち、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上、特に好ましくは5以上の発現を亢進する。
【0054】
また、本発明により亢進される表皮成熟因子は、フィラグリン(FLG)、タイトジャンクション関連因子及び角層細胞間脂質関連因子から選ばれる1又は2以上であることが好ましい。
【0055】
タイトジャンクション関連因子は、クローディン-4(CLDN4)であることが好ましい。
【0056】
上記の角層細胞間脂質関連因子は、具体的には、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー(ABCA12)、スフィンゴミエリンフォスフォジエステラーゼ1(SMPD1)、及び超長鎖脂肪酸伸長タンパク4(ELOVL4)から選ばれる1又は2以上であることが好ましい。
【0057】
以下、上記の表皮成熟因子の表記は、略称により記載する。
【0058】
FLGは、角質層におけるNMFの前駆物質である。フィラグリン発現の低下により、皮膚の乾燥、バリア機能の低下が引き起こされることが知られている。
【0059】
ABCA12は、脂質を運搬するタンパク質であり、ヒトにおいて脂質恒常性維持に重要な役割を果たす。表皮の角層において、ABCA12はラメラボディの表面に存在し、セラミドの原料である脂質をラメラボディに取り込む作用を有する。そして、ABCA12の発現が減少すると、表皮のバリア機能が低下することが知られている。
【0060】
SMPD1は、スフィンゴミエリンをセラミドに加水分解する酵素として知られている。
【0061】
CLDN4は、顆粒層の表皮角化細胞、粘膜上皮において発現する、タイトジャンクションの構成タンパク質である。タイトジャンクションは、角層直下の表皮顆粒層第2層に発現しており身体の内外で異物の侵入を防ぐバリア機能を発揮することが知られている。また同時に、細胞間脂質(油相)で満たされる角層と水相である生細胞を隔てる液液界面の役割を果たす。この顆粒層から角層への最終分化プロセスには、細胞膜脂質二重層の消失や細胞内オルガネラの消失、細胞の角化、細胞間隙への脂質充填が含まれる。したがって、タイトジャンクションの機能不全により、これら最終分化プロセスが阻害されることで、角層バリア機能が損なわれることが報告されている。
【0062】
ELOVL4は、結合型セラミドの産生に関与することが知られている。結合型セラミドは、周辺帯タンパク質にセラミドが共有結合したものであり、角層を構成している角質細胞と、角層細胞間脂質層を結びつける角層細胞脂質エンベロープを構成する。
【0063】
また、本発明により亢進される表皮成熟因子は、FLG、ABCA12、SMPD1、CLDN4及びELOVL4の全ての因子であることが好ましい。
上記特徴を有する本発明は、肌状態を各因子の発現亢進に起因する複数のメカニズム、具体的には表皮の水分調節機能、バリア機能にアプローチすることで、表皮の成熟を促進させることができる。
【0064】
本発明で亢進される表皮成熟因子の発現は、遺伝子発現(mRNA発現)、タンパク質発現の何れも含む。本発明では、各因子の遺伝子発現を確認することにより、表皮成熟因子の発現を確認することができる。
遺伝子発現の解析には、市販のプライマー、例えば、QuantiTect Primer Assay(QIAGEN社製)、を利用することができる。より具体的には、FLG(GeneGlobe Id:QT00092218)、ABCA12(GeneGlobe Id:QT00082124)、SMPD1(GeneGlobe Id:QT00082124)、CLDN4(GeneGlobe Id:QT00241073)及びELOVL4(GeneGlobe Id:QT00017283)などが挙げられる。
【0065】
(3)剤形
本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、有効成分である複合エキス及び/又はオステオカルシンを原液で体内投与等により利用しても良いし、有効成分である複合エキス及び/又はオステオカルシンを任意の濃度に希釈して利用してもよい。
【0066】
また、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、製剤化に用いられる任意の成分と適宜組み合わせて配合することにより、皮膚外用剤又は経口剤の形態とすることができる。
本発明においては、皮膚外用剤の形態とすることが好ましい。
【0067】
皮膚外用剤としては、例えば、化粧料、医薬部外品、皮膚外用医薬等の形態が挙げられ、日常的に使用できることから、化粧料、医用部外品がより好ましい。また、それらの剤形は特に制限されない。
【0068】
化粧料として利用する場合には、ローション剤、乳化剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤等の形態とすることが好ましい。より具体的には、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、パック、ヘアクリーム、スプレー、サンケア品等の形態が挙げられ、特に化粧水、ジェル、乳液、クリーム、クレンジング又は洗顔料の形態とすることが好ましい。
【0069】
本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤を皮膚外用剤とする場合、有効成分であるシモンジア属植物の抽出物、及びフトモモ属植物の抽出物(すべて乾燥物)は、各々、皮膚外用剤全量に対し、好ましくは0.0000001質量%~80質量%、より好ましくは、0.0001質量%~30質量%、さらに好ましくは、0.001質量%~10質量%含有することができる。上記下限値以上であれば、本発明の皮膚外用剤の効果が発揮され、上限値以下であれば効果の頭打ちを避けることができると考えられる。
【0070】
また、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤を皮膚外用剤とする場合、シモンジア属植物の抽出物、フトモモ属植物の抽出物の質量含有比は、乾燥質量換算で、1:0.25~1:5であることが好ましく、1:0.5~1:2であることがより好ましく、1:0.5~1:1.5であることがさらに好ましい。
【0071】
本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤を皮膚外用剤とする場合、有効成分であるオステオカルシン(乾燥物)は、各々、皮膚外用剤全量に対し、好ましくは0.000000001質量%~8質量%、より好ましくは、0.000001質量%~3質量%、さらに好ましくは、0.0001質量%~1質量%含有することができる。上記下限値以上であれば、本発明の皮膚外用剤の効果が発揮され、上限値以下であれば効果の頭打ちを避けることができると考えられる。
【0072】
また、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤を皮膚外用剤とする場合、シモンジア属植物の抽出物及びフトモモ属植物の抽出物を含む複合エキスと、オステオカルシンの質量含有比は、乾燥質量換算で、100:1~2:1であることが好ましく、60:1~2:1であることがより好ましく、30:1~5:1であることがさらに好ましい。
なお、複合エキスの質量は、シモンジア属植物の抽出物及びフトモモ属植物の抽出物の質量の合計である。
【0073】
以下、化粧料等の皮膚外用剤に適用される場合、皮膚外用剤中に含有させることができる成分について説明する。例えば、炭化水素類、エステル類、トリグリセライド類、脂肪酸、高級アルコール等の油性成分、アニオン界面活性剤類、両性界面活性剤類、カチオン界面活性剤類、非イオン界面活性剤類等の界面活性剤、多価アルコール類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を任意に配合することができる。
また、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤の効果を妨げない限り、本発明にかかる複合エキス及びオステオカルシン以外の有効成分を含有してもよい。有効成分としては、特に限定されないが、美白成分、シワ改善成分、抗炎症成分、動植物由来の抽出物等が挙げられる。
【0074】
本発明の皮膚外用剤は、有効成分である複合エキス及び/又はオステオカルシンと、上記に記載の任意成分等を常法により処理することにより調製することができる。
【0075】
本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤を経口剤として利用する場合には、有効成分である複合エキス及び/又はオステオカルシンを含む食品用組成物の形態とすることができる。より具体的には、一般食品、錠剤、顆粒剤、ドリンク剤等の剤形を有するサプリメントの形態とすることが好ましい。
【0076】
本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤を経口剤とする場合、有効成分であるシモンジア属植物の抽出物、フトモモ属植物の抽出物、及びオステオカルシン(すべて乾燥物)は剤形に応じて適宜調節することができるが、1回あたりの摂取量が、各々、好ましくは0.1mg~2000mgであり、より好ましくは1mg~1000mgであり、さらに好ましくは10~500mgである。
【0077】
(4)用途
本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、肌荒れの改善又は予防のために用いることができる。また、表皮のバリア機能の改善、保湿のために用いることができる。
また、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、表皮のバリア機能低下に起因する疾患、皮膚状態の悪化等に対し、好適に用いることができる。
【0078】
本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、FLG発現亢進、ABCA12発現亢進、SMPD1発現亢進、CLDN4の発現亢進、及び/又はELOVL4発現亢進の用途で用いることが好ましく、前記全ての因子の発現亢進用途で用いることがより好ましい。
【0079】
すなわち、本発明は、FLG発現亢進剤、ABCA12発現亢進剤、SMPD1発現亢進剤、CLDN4発現亢進剤、及び/又はELOVL4発現亢進剤の形態であってもよい。
この場合、FLG発現亢進剤、及びABCA12発現亢進剤は、本発明に係るシモンジア属植物の抽出物及びフトモモ属植物の抽出物を含む複合エキス、並びに/又はオステオカルシンを有効成分として含むことが好ましい。
SMPD1発現亢進剤、CLDN4発現亢進剤、及び/又はELOVL4発現亢進剤は、本発明に係るシモンジア属植物の抽出物及びフトモモ属植物の抽出物を含む複合エキスを有効成分として含むことが好ましい。
【0080】
また、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、ABCA12、CLDN4、SMPD1、ELOVL4等の角層細胞間脂質の産生に関与する因子の発現を亢進する。すなわち、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、角層細胞間脂質の産生促進用途で用いることができる。なお、本発明において「角層細胞間脂質の産生促進」とは、角層細胞間脂質の産生を直接的に促進することだけでなく、角層細胞間脂質を形成する脂質の運搬等を促進するといった、角層細胞間脂質の産生を間接的に促進することも含む。
また、上記の表皮成熟因子は、角層細胞間脂質のうち、セラミド産生に関与する因子である。すなわち、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、セラミド産生促進用途で用いることができる。
【0081】
以上に鑑み、本発明は、角層細胞間脂質産生促進剤、又はセラミド産生促進剤の形態であってもよい。この場合、角層細胞間脂質産生促進剤及びセラミド産生促進剤は、本発明に係るシモンジア属植物の抽出物及びフトモモ属植物の抽出物を含む複合エキス、並びに/又はオステオカルシンを有効成分とすることが好ましく、前記複合エキスを複合成分として含むことがより好ましい。
【0082】
角層細胞間脂質産生促進剤、及びセラミド産生促進剤は、ABCA12、SMPD1、及び/又はELOVL4の発現を亢進させるものであることが好ましく、SMPD1、及びELOVL4の発現を亢進させるものであることがより好ましく、ABCA12、SMPD1、及びELOVL4全ての発現を亢進させるものであることがより好ましい。
【0083】
また、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤において発現が亢進されるCLDN4は、細胞間におけるタイトジャンクションを形成する。すなわち、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、タイトジャンクション形成促進の用途として用いることができる。
また、本発明は、タイトジャンクション形成促進剤の形態であってもよい。この場合、タイトジャンクション形成促進剤は、本発明に係るシモンジア属植物の抽出物及びフトモモ属植物の抽出物を含む複合エキスを有効成分として含むことが好ましい。
【0084】
後述する実施例に示す通り、本発明にかかる複合エキスは、オステオカルシンの存在下で、表皮成熟因子の発現をより向上させる。そして、オステオカルシンは、体内において分泌されることが知られている。すなわち、特に複合エキスを含む本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、体内において分泌されたオステオカルシンと該複合エキスとが作用することにより、表皮の成熟を促進する効果をより発揮するものである。
【0085】
(5)適用対象
本発明は、表皮のターンオーバーの乱れが生じている対象、肌荒れが生じている対象等に対し、適用することができる。
【0086】
また、オステオカルシンは、角層成熟に寄与するものである。また、オステオカルシンは、一定条件下でその分泌が低下することが知られている。そして、後述の実施例で示す通り、複合エキスを含む本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、オステオカルシンの非存在下でも表皮成熟因子の遺伝子発現を亢進することが示されている。
すなわち、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤は、オステオカルシンの分泌量が減少した対象に適用することができる。
【0087】
オステオカルシンの分泌量が検証した対象として、例えば、宇宙空間に滞在中の対象が好適に挙げられる。
地上では重力の影響で骨への刺激が生じ、オステオカルシンが分泌される。一方、宇宙等の微重力下では、オステオカルシンの発現が減少することが知られている(T Kunisada. Acta Med Okayama. 51.135-140.199)。すなわち、本発明は、宇宙空間に滞在しており、オステオカルシンの分泌量が減少している対象に対し、肌状態の悪化の抑制、肌状態の改善のために用いることができる。
【0088】
本発明は、オステオカルシンを正常に分泌する健常者に適用することができる。また、加齢、疾患等により、オステオカルシンの分泌量が、若年者や健常者よりも減少した対象に対しても、好ましく適用することができる。
【0089】
(6)表示
本発明を皮膚外用剤又は経口剤等の形態とする場合、本発明は、「表皮成熟因子の発現亢進のため」といった用途の表示が付された形態とすることも好ましい。また、用途の表示は、「表皮のバリア機能の改善」「肌の保湿力の向上及び/又は改善」「肌荒れの抑制、予防及び/又は改善」等であってもよい。
【0090】
前記「表示」は、需要者に対して前記用途を知らしめる機能を有する全ての表示を含む。すなわち、前記用途を想起・類推させうるような表示であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て前記「表示」に該当する。
また、前記「表示が付された」とは、前記表示と、皮膚外用剤又は経口剤(製品)を関連付けて認識させようとする表示行為が存在していることをいう。
【0091】
表示行為は、需要者が前記用途を直接的に認識できるものであることが好ましい。具体的には、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤に係る商品又は商品の包装への前記用途の記載行為、商品に関する広告、価格表もしくは取引書類(電磁的方法により提供されるものを含む)への前記用途の記載行為が例示できる。
【実施例0092】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の例示であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0093】
<試験例1>NHEKsにおける、複合エキスによる表皮成熟因子の発現亢進作用
(1-1)エンリッチメント解析
NHEKs(正常ヒト表皮角化細胞)をセミコンフルエントになるようHuMedia KG2培地(クラボウ社製)に播種した。NHEKsの接着後、0.1%ホホバ葉エキスと0.1%チョウジエキスを含む複合エキス(濃度は抽出物としての最終濃度であり、乾燥減量としては0.001%ホホバ葉エキスと0.005%チョウジエキスに相当する)を含有するHuMedia KB2培地(クラボウ社製)で24時間培養し、RNAを回収した。また、コントロール(N.C.)は、複合エキスを含有しない溶媒を添加したHuMedia KB2培地を用いた。DNA array法を用いて網羅的に遺伝子発現を評価した。
【0094】
次いで、コントロール(N.C.)と複合エキスを添加した細胞の遺伝子発現の変動を算出し、複合エキスの添加により有意かつ遺伝子発現が一定以上変動した遺伝子群を抽出した。抽出した遺伝子群について、Enrichr(https://maayanlab.cloud/Enrichr/)を用いてエンリッチメント解析(Biological Process)を行った。結果を、
図1に示す。
【0095】
図1に示す通り、複合エキスの添加により、表皮の発達、分化、バリア、水分制御に関わる遺伝子発現が変動することが明らかとなった。すなわち、ホホバ葉エキスとチョウジエキスを含む複合エキスを配合する本発明は、表皮の成熟に関与する因子(表皮成熟因子)の発現の改善に寄与することが示唆された。
【0096】
(1-2)表皮成熟因子の発現解析
上記(1-1)と同様の手順で、複合エキスを添加した培地においてNHEKsを培養した。また、コントロール(N.C.)は、複合エキスを含有しない溶媒を添加したHuMedia KB2培地を用いた。上記(1-1)と同様の手順でNHEKsを培養した。
次いで、NHEKsからRNAを回収し、リアルタイムRT-PCR法を用いて、表皮成熟因子(FLG、ABCA12、SMPD1、CLDN4及びELOVL4)の遺伝子発現を評価した。n=4における平均値の算出結果を、表1に示す。
【0097】
【0098】
表1に示す通り、0.1%ホホバ葉エキスと0.1%チョウジエキスを含む複合エキスを添加した場合、コントロール(N.C.)と比してFLG、ABCA12、SMPD1、CLDN4及びELOVL4の遺伝子発現量が上昇した。すなわち、上記複合エキスには、FLG、ABCA12、SMPD1、CLDN4及びELOVL4の発現を促進させる効果を奏することが明らかとなった。
【0099】
以上より、シモンジア属植物の抽出物とフトモモ属植物の抽出物を含む複合エキスを含む剤は、FLG、ABCA12、SMPD1、CLDN4及びELOVL4から選ばれる1種又は2種以上の表皮成熟因子の発現を亢進させる、表皮成熟因子の発現亢進剤として用いることができるといえる。
【0100】
また、シモンジア属植物の抽出物とフトモモ属植物の抽出物を含む複合エキスを配合した剤は、FLG発現亢進剤として用いることもできる。
【0101】
また、シモンジア属植物の抽出物とフトモモ属植物の抽出物を含む複合エキスを配合した剤は、CLDN4の発現を亢進させることから、タイトジャンクション形成促進剤、より具体的にはCLDN4発現亢進剤として用いることができる。
【0102】
さらに、上記のABCA12、SMPD1、及びELOVL4は、角層細胞間脂質、より具体的にはセラミド産生に関与するタンパク質である。すなわち、シモンジア属植物の抽出物とフトモモ属植物の抽出物を含む複合エキスを配合した剤は、角層細胞間脂質産生促進剤、セラミド産生促進剤、より具体的には、ABCA12、SMPD1、及び/又はELOVL4の発現亢進剤として用いることができる。
【0103】
<試験例2>NHEKsにおける、オステオカルシンによるGPR37発現亢進作用
NHEKsをセミコンフルエントになるようHuMedia KG2培地(クラボウ社製)に播種した。NHEKsの接着後、オステオカルシン((Glu17.21.24)-Osteocalcin、不活性型オステオカルシン)を含有するHuMedia KB2培地(クラボウ社製)(オステオカルシン最終濃度:10nmol/L又は20nmol/L)で24時間培養した。コントロール(N.C.)は、オステオカルシンを含有しないHuMedia KB2培地で24時間培養した。
培養後、NHEKsからRNAを回収し、リアルタイムRT-PCR法を用いて、GPR37の遺伝子発現を評価した。n=3における平均値の算出結果を、表2に示す。
【0104】
【0105】
表2に示す通り、オステオカルシンを10nmol/L又は20nmol/Lの濃度で添加濃度した場合、何れも、オステオカルシンレセプターであるGPR37の遺伝子発現が上昇した。
よって、表皮でもオステオカルシンへの応答が生じていることが明らかとなった。
【0106】
<試験例3>NHEKsにおける、オステオカルシンによる遺伝子発現亢進作用
NHEKsをセミコンフルエントになるようHuMedia KG2培地(クラボウ社製)に播種した。NHEKsの接着後、オステオカルシン((Glu17.21.24)-Osteocalcin、不活性型オステオカルシン)を含有するHuMedia KB2培地(オステオカルシン最終濃度20nmol/L)で24時間培養した。コントロール(N.C.)は、オステオカルシンを含有しないHuMedia KB2培地(クラボウ社製)で24時間培養した。
培養後、NHEKsからRNAを回収し、リアルタイムRT-PCR法を用いて、表皮成熟因子(FLG及びABCA12)の遺伝子発現を評価した。n=4における平均値の算出結果を、表3に示す。
【0107】
【0108】
表3に示す通り、最終濃度20nmol/Lのオステオカルシンを含む培地で培養した場合には、コントロール(N.C.)と比してFLGの遺伝子発現が上昇した。また、最終濃度20nmol/Lのオステオカルシンを含む培地で培養した場合には、コントロール(N.C.)と比して、ABCA12の遺伝子発現も上昇した。
このことから、オステオカルシンの存在下では、表皮細胞においてFLG及びABCA12の発現が上昇するといえる。すなわち、表皮においてオステオカルシンへの応答が生じた結果、FLGやABCA12の発現が亢進されること、及び、これらの因子の発現亢進により表皮の成熟度が上昇することが明らかとなった。
以上より、オステオカルシンを有効成分として含む剤は、FLG発現亢進剤、ABCA12発現亢進剤、表皮成熟因子の発現亢進剤として用いることができる。
【0109】
<試験例4>NHEKsにおける、オステオカルシンと複合エキスの併用による遺伝子発現亢進作用
NHEKsをセミコンフルエントになるようHuMedia KG2培地(クラボウ社製)に播種した。NHEKsの接着後、複合エキス(試験例1と同様の濃度)、又は複合エキス及び10nmol/Lオステオカルシン((Glu17.21.24)-Osteocalcin、不活性型オステオカルシン)を含有するHuMedia KB2培地(クラボウ社製)で24時間培養し、RNAを回収した。また、コントロール(N.C.)は、オステオカルシン及び複合エキスを含有しないHuMedia KB2培地を用いた以外は、上記と同様の手順でNHEKsを培養した。
【0110】
次いで、NHEKsからRNAを回収し、リアルタイムRT-PCR法を用いて、表皮成熟因子(FLG、ABCA12)の遺伝子発現を評価した。n=4における平均値の算出結果を、表4に示す。
【0111】
【0112】
表4に示す通り、複合エキスとオステオカルシンを共に添加した場合、複合エキスのみを添加した場合と比して、FLG及びABCA12の遺伝子発現が上昇することが確認された。すなわち、上記複合エキスとオステオカルシンを共に添加することで、フィラグリン及びABCA12の発現をより亢進させることができることが示された。
【0113】
<製造例>
以下、本発明の表皮成熟因子の発現亢進剤の一実施形態である、化粧料の処方例を挙げる。なお、ホホバ葉エキス及びチョウジエキスは、何れもBG抽出によるものを用いた。また、以下の処方において、ホホバ葉エキスの最終濃度は0.1質量%、チョウジエキスの最終濃度は0.1質量%となるように調整した(最終濃度は抽出物としての濃度であり、乾燥減量としては0.001%ホホバ葉エキスと0.005%チョウジエキスに相当する)。
【0114】
下記表5の処方1~3に従って、本発明の皮膚外用剤である化粧水を調整した。まず、B成分及びC成分を60℃に加温して混合し、均一溶解させた。その後、35℃に冷却後、(B+C)相にA成分を添加し、攪拌冷却することで化粧水を得た。
【0115】
【0116】
また、下記表6の処方4~6に従って、本発明の皮膚外用剤である水系ジェルクリームを調整した。まず、B+Cの成分とD成分をそれぞれ80℃に加温して、各々混合し均一溶解させた。その後(B+C)相にD成分を徐々に添加し、乳化した。45℃に冷却後、(B+C+D)相にE成分を添加し、均一になったところでA成分を添加し、攪拌冷却することで水系ジェルクリームを得た。
【0117】
【0118】
下記表7の処方7~9に従って、本発明の皮膚外用剤であるクレンジングウォッシュを調整した。まず、B+Cの成分を80℃に加温して、混合し均一溶解させた。その後、45℃に冷却後D成分を添加し、次いでA成分を添加し、攪拌冷却することでクレンジングウォッシュを得た。
【0119】
【0120】
処方1~3の化粧水、処方4~6の水系ジェルクリームを肌に塗布することにより、表皮成熟因子の発現亢進作用が期待される。また、処方7~9のクレンジングウォッシュを用いることにより、表皮成熟因子の発現亢進作用が期待される。