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  • 特開-バイオマス処理システム 図1
  • 特開-バイオマス処理システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068972
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】バイオマス処理システム
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/151 20060101AFI20240514BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20240514BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240514BHJP
   B01J 29/04 20060101ALI20240514BHJP
   B01J 23/72 20060101ALI20240514BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20240514BHJP
   C07C 43/04 20060101ALI20240514BHJP
   C07C 41/09 20060101ALI20240514BHJP
   C07C 29/76 20060101ALI20240514BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C07C29/151
C01B3/56 Z
C01B32/50
B01J29/04 Z
B01J23/72 Z
C07C31/04
C07C43/04 D
C07C41/09
C07C29/76
B01D71/02 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179691
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】514213202
【氏名又は名称】イーセップ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】澤村 健一
【テーマコード(参考)】
4D006
4G140
4G146
4G169
4H006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA02
4D006MA06
4D006MA31
4D006MB04
4D006MB14
4D006MB15
4D006MC03
4D006PA04
4D006PB18
4D006PB64
4D006PB65
4D006PB66
4G140FA02
4G140FB04
4G140FC01
4G140FE03
4G146JA02
4G146JB10
4G146JC11
4G146JD01
4G169AA02
4G169AA11
4G169BA01B
4G169BA07B
4G169BB02B
4G169BC31B
4G169BC35B
4G169CC21
4G169DA05
4G169EA08
4G169ED10
4G169EE09
4G169FA03
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC43
4H006AD19
4H006BC10
4H006BC11
4H006BE20
4H006BE41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】バイオマス原料からメタノールとジメチルエーテル混合物を高収率で転換することができるバイオマス処理システムを提供する。
【解決手段】バイオマス処理システム100は、バイオマスからCOと水素を生成するガス供給部200と前記ガス供給部から供給されるCOと水素を原料として反応させメタノールとジメチルエーテルに転換させるCO転換部300とを備える。CO転換部300は、メタノール合成触媒と分離膜と前記分離膜を支持し多孔質材料で形成された支持体とメタノール転化触媒とがこの順で積層された積層体を備える。前記分離膜はSi/Al比10~20のZSM-5型ゼオライト膜であり、ゼオライト骨格中のAlの交換カチオンサイトにCOや水素に対してメタノール及び水を選択的に吸着する金属カチオンが固定されており、CO及び水素よりもメタノールと水を選択的に透過させるように構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスからCOと水素を生成するガス供給部と、
前記ガス供給部から供給されるCOと水素を原料として反応させメタノールとジメチルエーテルに転換させるCO転換部と、
を備え、
前記CO転換部は、
メタノール合成触媒と、
分離膜と、
前記分離膜を支持し、多孔質材料で形成された支持体と、
メタノール転化触媒と、がこの順で積層された積層体、
を備え、
前記分離膜は、Si/Al比10~20のZSM-5型ゼオライト膜であり、ゼオライト骨格中のAlの交換カチオンサイトに、COや水素に対してメタノール及び水を選択的に吸着する金属カチオンが固定されており、CO及び水素よりもメタノールと水を選択的に透過させるように構成されており、
前記メタノール合成触媒によりCOと水素からメタノールと水を生成させ、次いでCOと水素を含む反応系から、生成したメタノールと水を前記分離膜により選択的に膜透過させ、前記メタノール転化触媒によってメタノールとジメチルエーテルと水の混合物を得る、バイオマス処理システム。
【請求項2】
前記ガス供給部は、
バイオマスを加熱してガス化するガス化部を含み、
前記ガス化部にバイオマスとともに酸素が供給される、請求項1に記載のバイオマス処理システム。
【請求項3】
車両に搭載されている、請求項1または2に記載のバイオマス処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
2050年でのカーボンニュートラル達成を目指し、2020年を境に、世界的にカーボンニュートラルに向けたグリーン技術開発投資が加速し、自動車から化学、環境、エネルギーなど殆どの分野で、その事業環境は一変した。天然ガスや石炭などの化石資源ではなく、カーボンニュートラルとなる再生可能なバイオマス由来、あるいは回収されたCOを原料とする化学品や燃料の新規合成方法の開発や改良が急務となった。以下の反応に示すように、従来の化石資源由来の原料では一酸化炭素(CO)と水素の混合ガスである合成ガスを経由した合成(式1)がメインであったが、COを原料とする場合、特に式2~4を考慮する必要がある。
CO+2H⇔MeOH (発熱反応) (式1)
CO+H⇔CO+HO (吸熱反応) (式2)
CO+3H⇔MeOH+HO (発熱反応) (式3)
2MeOH⇔DME+HO (発熱反応) (式4)
1/2nDME→(CH)n+1/2nHO (発熱反応、nは2以上) (式5)
(式1)~(式4)までは平衡反応であるが、(式5)は平衡の制約は受けない。そのため一旦DMEまで転換できれば、炭素数2以上のオレフィンやガソリンへの転換技術は、既存技術が利用できる。式5によりDMEがオレフィンやガソリン等に転換されると(式4)でMeOHからのDME転換が促進される。そのため、COからMeOHとDMEの混合物を得るまでの工程が、現状のボトルネック工程と判断される。
【0003】
例えば特許文献1には、排熱を高効率利用して、CO回収装置も備えたメタノールを経由してガソリン又はジメチルエーテルを製造する方法が開示されている。一方で、使用する原料は天然ガスであり、COを多く含むバイオマス由来、あるいは回収されたCOを原料とする場合には、そのままの適用は困難である。
【0004】
特許文献2では、COと水素を反応させメタノールを経由して炭素数2以上の炭化水素を製造する方法が記載されている。しかしCO転化率が20%程度と低く、更なる改良が必要である。
【0005】
特許文献3では、COの転化率向上のため、メタノール合成触媒とメタノール転化触媒を複合させた新規触媒を開発し、COと水素を含む混合ガスから炭素数2以上の炭化水素を製造する方法が記載されている。
しかしCO転化による生成物の65%以上はCOであり、目的とする炭素数2以上の炭化水素の収率は10%未満と低い。
【0006】
非特許文献1、2では、COと水素を原料とする反応系から、分離膜により水のみを選択的に膜透過させることで、式3のMeOH生成及び式4のDME生成を促進させることで、CO転化率83%、DME収率54.5%と大幅な性能向上を報告している。一方で、MeOHとDMEを合算しても収率は60%程度であり、実用化を見据えると更なる性能向上は必須である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5863421号公報
【特許文献2】特開2015-44926号公報
【特許文献1】特許第6338218号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Li et al., Science 367, 667-671 (2020).
【非特許文献2】Li et al., J. Mater.Che.A, 9, 2678-2682 (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
バイオマス由来のCOを原料とする化学品や燃料の合成については、その合成工程で多量のエネルギーを消費してしまうことはカーボンニュートラルの観点からは本末転倒であり、より一層の省エネ化、高効率化が必要である。
バイオマス由来のCOからMeOHとDMEの混合物を得るまでのボトルネック工程についても、CO転化率を高効率化することができるシステムの設計・開発が必須である。
【0010】
本発明は上述のような課題を鑑みたものであり、バイオマス原料からメタノールとジメチルエーテル混合物を高収率で転換することができるバイオマス処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある態様は、バイオマス処理システムである。当該バイオマス処理システムは、バイオマスからCOと水素を生成するガス供給部と、前記ガス供給部から供給されるCOと水素を原料として反応させメタノールとジメチルエーテルに転換させるCO転換部と、を備え、前記CO転換部は、メタノール合成触媒と、分離膜と、前記分離膜を支持し、多孔質材料で形成された支持体と、メタノール転化触媒と、がこの順で積層された積層体、を備え、前記分離膜は、Si/Al比10~20のZSM-5型ゼオライト膜であり、ゼオライト骨格中のAlの交換カチオンサイトに、COや水素に対してメタノール及び水を選択的に吸着する金属カチオンが固定されており、CO及び水素よりもメタノールと水を選択的に透過させるように構成されており、前記メタノール合成触媒によりCOと水素からメタノールと水を生成させ、次いでCOと水素を含む反応系から、生成したメタノールと水を前記分離膜により選択的に膜透過させ、前記メタノール転化触媒によってメタノールとジメチルエーテルと水の混合物を得る。
上記態様のバイオマス処理システムにおいて、前記ガス供給部は、バイオマスを加熱してガス化するガス化部を含み、前記ガス化部にバイオマスとともに酸素が供給されてもよい。
上記態様のバイオマス処理システムは、車両に搭載されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バイオマス原料からメタノールとジメチルエーテル混合物を高収率で転換する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係るバイオマス処理システムの概略を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る膜分離部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。
【0015】
図1は、実施形態に係るバイオマス処理システム100の概略を示すブロック図である。
図1に示すように、バイオマス処理システム100は、ガス供給部200およびCO転換部300を備える。
【0016】
ガス供給部200は、バイオマスからCOと水素を生成する。具体的には、ガス供給部200は、ガス化部210、熱交換部220、および洗浄部230を有する。
【0017】
ガス化部210の具体例はガス化炉である。ガス化部210に、原料として、粉体状あるいはチップ状のバイオマスが供給される。ガス化部210において、供給されたバイオマスが加熱され、ガス化される。バイオマスとしては、木材に由来する木質バイオマス、食品廃棄物系バイオマスなどが挙げられる。また、ガス化部210に酸素および水蒸気が供給される。ガス化部210において、800~1200℃、常圧の環境下で、供給されたバイオマスのガス化が進行する。ガス化部210における主な反応は以下のとおりである。
燃焼反応
C+1/2O→CO
C+O→CO
ガス化反応
C+CO→2CO
C+HO→CO+H
C+2H→CH
【0018】
本実施形態では、ガス化部210にバイオマスとともに、空気に代えて酸素が供給される。これにより、バイオマスのガス化効率を高めることができる。
【0019】
ガス化部210で生じたガス成分(CO、CO、H)は、熱交換部220において水と熱交換した後、洗浄部220に供給される。高温状態のガス成分と水とを熱交換させ、熱交換により生じた水蒸気をガス化部210に供給することにより、バイオマス処理システム100のエネルギー効率を向上させることができる。
【0020】
洗浄部230の具体例はスクラバである。洗浄部230において、ガス化部210から供給されるガス成分に混入した灰や水分が除去される。洗浄部230により清浄化されたガス成分は、CO転換部300に供給される。
【0021】
CO転換部300は、ガス供給部200から供給されるCOと水素を原料として反応させメタノールとジメチルエーテルに転換させる。
【0022】
本実施形態において、CO転換部300は、圧縮部310、熱交換部320、および膜分離部400を有する。
【0023】
圧縮部310において、ガス成分の圧力が所定の圧力(たとえば、5MPa)に高められる。
【0024】
圧縮部310により圧力が調整されたガス成分は、熱交換部320において熱交換を行い、250℃程度に温度が下げられる。
【0025】
熱交換部320により温度が調整されたガス成分は、膜分離部400に供給される。膜分離400は、メタノール合成触媒と、分離膜と、分離膜を支持し、多孔質材料で形成された支持体と、メタノール転化触媒と、がこの順で積層された積層体を含む。膜分離部400をCO転換装置と呼ぶこともできる。
【0026】
ここで、膜分離部400の詳細について説明する。図2は、実施形態に係る膜分離部400の概略図である。
【0027】
図2を参照すると、膜分離部400は、主としてCOと水素の混合ガス(或いはさらにCOを加えたもの)を原料とし、COと水素を反応させ(或いはCOと水素を反応させ)メタノールあるいはジメチルエーテルに転換させる。未反応の混合ガスは、膜分離部出口ガス1から排出される。
膜分離部400は、メタノール合成触媒410とメタノール転化触媒420を、支持体430に支持された分離膜440を隔て配置している。分離膜440を介して3~7MPaの高圧側に配置したメタノール合成触媒410によりCOと水素からメタノール(MeOH)と水(HO)を生成させ、次いでCOと水素を含む220~280℃の反応系から、生成したメタノールと水を分離膜440により選択的に膜透過させ、0.5MPa以下の低圧側に配置したメタノール転化触媒420によって250~400℃にてメタノールとジメチルエーテルと水の混合物(MeOH,DME,HO)を得て、膜分離部出口ガス2より排出される。排出された混合物は例えばオレフィンやガソリンへの更なる転換がなされる。なお、低圧側に反応で得られた混合物用の空間(生成ガス流路)を図示したが、高圧側において、メタノール合成触媒3の上部に間隙(原料ガス流路)を設け、原料ガス流路を経てメタノール合成触媒410に原料ガスを供給してもよく、或いは膜分離部400をモジュール筐体に入れてその筐体と膜分離部400の間に原料ガスを通す形にしてもよい。また、ここでは図示していないが、稼働するためにCOと水素の混合ガスを原料に供給する装置や圧力調整装置、温度制御装置等を設置してもよい。
【0028】
ここで、メタノール合成触媒410としては銅-亜鉛系触媒などの公知の触媒を用いることができ、一般的な最適稼働条件は3~7MPa、220~280℃の範囲である。またメタノール転化触媒420としては、アルミノシリケート型ゼオライト系触媒などの公知の触媒を用いることができ、0.5MPa以下、250~400℃の範囲でMeOHからDMEへ転換できる。なお、バイオマス処理システム100は、オレフィンやガソリンを製造するためのオレフィン、ガソリン製造システムに用いることができる。そのため、オレフィンやガソリンへの更なる転換を想定すると、触媒劣化を緩和するため、MeOH・DME・水の混合物として得ることが望ましい。MeOHから一気にDME→ガソリンと変換すると急激な発熱により局所的にホットスポットを形成し、触媒劣化を加速する。そのためオレフィンやガソリンに転換する前に、ある程度MeOHからDMEへ転換し、反応熱を制御・調整することが望ましい。ここで、オレフィンへの転換ではH-SAPO型ゼオライト触媒、ガソリンへの転換ではH-ZSM-5型ゼオライト触媒など、公知の触媒を用いることができ、その作動温度は300~450℃である。そのため、MeOHからDMEへの転換時に発生する反応熱により、外部熱エネルギーを投入することなくMeOHとDMEの混合ガスを300℃以上まで予熱することが望ましい。また水分については触媒上への炭素析出を抑制する効果がある一方で、450℃以上の高温になると触媒劣化の原因となるため、必要に応じて分離膜により水蒸気のみを分離・除去し、その水分濃度を調整することもできる。メタノール転化触媒420については、固定層として配置する方法に加え、触媒再生を容易にするために、流動層として配置することもできる。メタノール合成触媒410についても、粉状にして充填する或いはスラリーにして焼結する等使い方に応じて適宜選択して配置する。
【0029】
分離膜440としては、耐久性に優れたゼオライト膜を用いることができる。ゼオライト膜は、ZSM-5型ゼオライト膜であることが望ましい。膜耐久性及びメタノール・水透過分離性能の観点から、ゼオライト骨格中のAlの交換カチオンサイトに、COや水素に対してメタノール及び水を選択的に吸着するLi、Na、Kなどの金属カチオンが固定されていることが望ましい。ゼオライト膜は、Si/Al比10~20であることが望ましい。ゼオライト膜は、Si/Al比10~20のZSM-5型ゼオライト膜であることが望ましい。Si/Al比が低すぎると膜耐久性が乏しく、Si/Al比が高すぎるとCOや水素に対してメタノール及び水の分離選択性が発現しない。またゼオライト骨格中のAlの交換カチオンサイトに金属カチオンが固定されていない場合も、COや水素に対してメタノール及び水の分離選択性が発現しない。COや水素に対するメタノール及び水の分離選択性としては、30以上、40以上、又は、50以上のものが望ましい。このように構成することで、原料ガスとなるCOや水素の漏洩が大きくなり過ぎることを抑制し、所定の効果を得ることが容易となる。また非特許文献1、2で用いられているA型ゼオライト膜については、水は透過させるがメタノールはほとんど膜透過させないこと、及び膜耐久性が十分ではないため、分離膜440としてZSM-5型ゼオライト膜を用いることが好ましい。例えばゼオライト骨格中のAlの交換カチオンサイトにNaカチオンを固定したSi/Al比10~20のZSM-5型ゼオライト膜によって、200~300℃の高温条件において、COや水素に対するメタノール及び水の分離選択性として30以上、40以上、又は、50以上であり、かつ10-[mol/(m・s・Pa)]以上のメタノールの透過度及び10-[mol/(m・s・Pa)]以上の水の透過度を得ることができる。
【0030】
分離膜440の厚さは、0.5~10μmであることが好ましく、1~5μmであることがより好ましい。
【0031】
別の観点では、分離膜440は、メタノールの膜透過度の下限が、2×10-8[mol/(m・s・Pa)]以上、3×10-8[mol/(m・s・Pa)]以上、5×10-8[mol/(m・s・Pa)]以上、又は、8×10-8[mol/(m・s・Pa)]以上、であることが好ましい。
分離膜440は、(水の膜透過度)/(メタノールの膜透過度)が、2.0以下、1.5以下、1.3以下、又は、1.2以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、0.5以上、0.8以上、又は、1.0以上である。
各成分の分離膜透過度は、Si/Al比、金属カチオンの種類、金属カチオンの固定量などにより調整することができる。
【0032】
本開示で用いる分離膜440の支持体430としては、耐圧性に加え、断熱性に優れた気孔率45~55%の多孔質α-アルミナ基材が好ましい。気孔率が25%未満であると耐圧性に優れる一方で、断熱性及び膜透過性が必要以上に低下する。また気孔率が55%よりも大きくなると、耐圧性が低下して膜を介した圧力差で分離膜440が破損する懸念が生じる。本開示のCO転換装置では、メタノール合成触媒層の温度を220~280℃に維持しつつも、(式4)の反応により発生した熱によって、後段のメタノール転化触媒層以降の工程の温度をより高温状態に維持することを特徴としている。(式5)に示したDMEからオレフィンやガソリンを合成する反応温度は一般に300~450℃であり、断熱性に優れた分離膜の支持体を用いることで、(式4)のMeOHからDMEへの転化によりした反応熱により、外部熱エネルギーを投入することなくMeOHとDMEの混合ガスを300℃程度まで予熱することができるという効果を奏する。熱伝導性の高いSiC等の一般的に利用される支持体430は、メタノール合成触媒410とメタノール転化触媒420の温度差を維持することが困難であるため、本実施形態の分離膜440の支持体430としては好ましくない。また支持体430の形状としては管状のものが一般的であり、耐久性及び経済性の観点から、直径1~1.6cm、長さ40~120cmの範囲のものが好ましい。支持体を管状のものとするとき、本開示のCO転換装置の基本部分(CO転換モジュール)も管状となる。図2の概要図は管状の支持体の中心軸を通り、その軸方向に沿った断面のうち、部分断面図である。この場合、支持体の外周側に分離膜440が配置され、低圧側は支持体430の中空部分となる。
支持体430の厚さは、1~3mmであることが好ましく、1~2mmであることがより好ましい。
【0033】
以上説明したバイオマス処理システム100によれば、バイオマス原料からメタノールとジメチルエーテル混合物を高収率で転換することができる。
【0034】
(バイオマス処理システムの設置方法)
バイオマス処理システム100の設置方法は、据え置き型、移動型の両方を採用しうるが、移動型とすることが好ましい。バイオマス処理システム100を移動型とすることにより、バイオマスが生じる森林などの目的地において、バイオマスを処理することにより、バイオマスの輸送費や時間を節約することができる。本実施形態のバイオマス処理システム100は、膜分離部400をコンパクトな設計にすることができるため、小型化が容易である。このため、バイオマス処理システム100は移動型のシステムとしての活用に適している。バイオマス処理システム100を移動型とする例としては、トラックなど車両にバイオマス処理システム100を搭載する構成が挙げられる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0036】
以下、本発明を具体例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
上述したバイオマス処理システム100の一部である膜分離部400についての具体例について説明する。
【0038】
供給ガス組成(CO、CO、及びH)、膜透過度(H、CO、CO、HO、MeOH、DME)、触媒配置(MeOH転化触媒、MeOH合成触媒)、高圧側運転条件(温度、圧力)及び低圧側運転条件(温度、圧力)を変動させ、転化率及び膜分離部出口ガス1(残留物)と膜分離部出口ガス2(目的物)のカーボンバランスを、プロセスシミュレーションにより算出した。当該プロセスシミュレーションでは、対象分離工程で用いられる分離膜の領域を1万~100億個のセルに分割し、各分割セルにおける反応量及び膜透過量を逐次計算により算出可能である。解析前提条件としては、解析処理のため迅速化(簡略化)のため、流れ方向に対して等温・等圧条件にて解析を行った。分離膜の膜面積は45mに固定し、触媒量は各分割セルに対して平衡に到達する十分量にて解析した。供給ガス組成、膜透過度、触媒配置、運転条件を表1、解析結果を表2にそれぞれ示す。
(解析条件)
分離膜のセル分割数:100億個
解析ソフト:イーセップ社製、「eSepMR-Methanol Synthesis」シリーズ
MeOH転化触媒: 東ソー社製、ZSM-5型ゼオライト、型番822HOD1A MeOH合成触媒:Thermo Fisher Scientific社製、Cu/Zn/Al触媒
分離膜の材料:東ソー社製、ZSM-5型ゼオライト(例1-1~1-3のSi/Al比12に相当、例1-4のSi/Al比は20に相当、例1-5のSi/Al比は10に相当)型番822HOA(ナトリウム型にイオン交換したもの)
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
例1-1~例1-10は、図1に示す本開示のCO転換システムの実施形態において、目的物であるMeOH+DMEの収率を90%程度達成することができる条件を抜粋したものである。
例2-1~例2-3は例1-1~例1-3においてそれぞれ分離膜を用いずにMeOH合成触媒とMeOH転化触媒を同一雰囲気下に配置した場合であり、原料ガス中のCO濃度が高くなるにつれ、目的物であるMeOH+DMEの収率は大幅に低下した。
【0042】
例2-4~例2-6は非特許文献1、2で用いられている手法の最適化に対応し、例2-1~例2-3において脱水膜を設置することで、分離膜により水のみを選択的に膜透過させることで、式3のMeOH生成及び式4のDME生成の促進を試みた。例2-1~例2-3と比べるとMeOH+DMEの収率は大幅に向上したが、例2-4の供給ガスがCOと水素のみでCO を含まない原料(以下、CO原料と言う)の場合は理想的な条件でもMeOH+DMEの収率は81.3%までしか到達せず、例1-1~例1-3の性能に及ばなかった。
【0043】
例2-7~例2-9は例2-4~例2-6からメタノールと水の膜透過量の割合を変化させたものであり、メタノール透過度を10倍に増大することで、目的物であるMeOH+DMEの収率も向上した。ただし、例2-7のCO原料の場合は理想的な条件でもMeOH+DMEの収率は82.3%までしか到達せず、例1-1~例1-3の性能には及ばなかった。
【0044】
例2-10~例2-12は例2-4~例2-6からメタノールと水の膜透過量の割合を変化させたものであり、メタノール透過度を100倍に増大することで、目的物であるMeOH+DMEの収率も向上した。ただしCO原料の場合は理想的な条件でもMeOH+DMEの収率は85.7%までしか到達せず、例1-1~例1-3の性能には及ばなかった。
【0045】
例2-13~例2-15は例1-1~例1-3においてMeOH転化触媒を高圧側にも配置した場合である。触媒を追加しているにもかかわらず、CO原料の場合は理想的な条件でもMeOH+DMEの収率は86.8%までしか到達せず、例1-1~例1-3の性能には及ばなかった。すなわち、MeOH転化触媒は、低圧側のみに配置されることが好ましい。
【0046】
例2-16~例2-18は例1-1~例1-3からメタノールと水の膜透過量の割合を変化させたものであり、メタノール透過度を1/10に低下させることで、目的物であるMeOH+DMEの収率も大幅に低下した。例えばCO原料の場合はMeOH+DMEの収率は43.0%まで低下した。
【0047】
例2-19~例2-21は例1-1~例1-3からメタノールと水の膜透過量の割合を変化させたものであり、メタノール透過度を1/2に低下させる代わりに水透過度を1.5倍にした。その結果、CO原料の場合はMeOH+DMEの収率は75.4%まで低下するなど、例1-1~例1-3の性能には及ばなかった。
【0048】
例2-22は例1-1において、メタノール・水に対する水素、CO、COの膜透過度をそれぞれ5倍にし、例えばメタノール・水に対する水素の分離選択性を20まで低下させた(例1-1のメタノール・水に対する水素の分離選択性は100)。その結果、CO原料の場合はMeOH+DMEの収率で78.7%まで低下した。
【0049】
例2-23は例1-1において、メタノール・水に対する水素、CO、COの膜透過度をそれぞれ10倍にし、例えばメタノール・水に対する水素の分離選択性を10まで低下させた。その結果、CO原料の場合はMeOH+DMEの収率で66.2%まで低下した。
【0050】
以上の結果から、CO原料の場合においてMeOH+DMEの収率を高める(好ましくは90%程度以上とする)ことができ、本開示のCO転換装置の実施形態の有用性が確認された。なお、COを容易に供給できる場合においては、例1-2、例1-3に示すように原料ガスに加えてより高い収率を得ることができる。
【0051】
実際の装置を準備し、例1-1~例1-3の各条件で実際の試験を行ったところ、表2の結果と同等の結果が得られた。
【0052】
以上説明した膜分離部をバイオマス処理装置に適用することにより、バイオマス由来のCOからMeOHとDMEの混合物を高効率で得ることができる。
【符号の説明】
【0053】
100 バイオマス処理装置、200 ガス供給部、210 ガス化部、220 熱交換部、230 洗浄部、300 CO転換部、310 圧縮部、320 熱交換部、400 膜分離部、410 メタノール合成触媒、420 メタノール転化触媒、430 支持体、440 分離膜
図1
図2