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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068980
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240514BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240514BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240514BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20240514BHJP
   H01M 50/117 20210101ALI20240514BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M50/103
H01M50/117
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179705
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宇人
【テーマコード(参考)】
5H011
5H029
【Fターム(参考)】
5H011AA01
5H011CC05
5H011CC08
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AL03
5H029AL08
5H029AM12
5H029BJ12
5H029DJ02
5H029DJ08
5H029EJ03
5H029EJ06
5H029HJ07
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】 外気の侵入を抑制しつつクラックの発生を抑制することができる全固体電池を提供する。
【解決手段】 全固体電池は、固体電解質層と、電極活物質を含む内部電極層と、が交互に積層された積層部分と、前記積層部分の少なくとも一部を覆う外装部と、を備え、前記外装部は、前記積層部分の側の内側層と、前記積層部分とは反対側の外側層と、を備え、前記内側層および前記外側層は、空間的に連続して形成された骨格をなすマトリクス材と、空間的に分散して配置されるフィラー材と、を含み、前記フィラー材/(前記フィラー材+前記マトリクス材)の面積比率は、前記内側層よりも前記外側層で低い。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、電極活物質を含む内部電極層と、が交互に積層された積層部分と、
前記積層部分の少なくとも一部を覆う外装部と、を備え、
前記外装部は、前記積層部分の側の内側層と、前記積層部分とは反対側の外側層と、を備え、
前記内側層および前記外側層は、空間的に連続して形成された骨格をなすマトリクス材と、空間的に分散して配置されるフィラー材と、を含み、
前記フィラー材/(前記フィラー材+前記マトリクス材)の面積比率は、前記内側層よりも前記外側層で低い、全固体電池。
【請求項2】
前記内側層は、前記積層部分において積層方向の上端面および下端面を覆うカバー層である、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記内側層は、前記固体電解質層の主面上に設けられた前記内部電極層の周囲に設けられた余白層である、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記フィラー材は、アルミナまたはシリカである、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記マトリクス材は、酸化物系固体電解質またはガラス材料である、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記マトリクス材は、NASICON型結晶構造を有する酸化物系固体電解質であるガラス材料である、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型の全固体電池は、発火や漏液の心配がなく、またリフロー半田付けが可能であり、安全で取り扱いが容易な二次電池である(例えば、特許文献1~4参照)。従来の電解液を使用したリチウムイオン電池からの移行が検討されており、幅広い分野での利用に展開されることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/186449号
【特許文献2】国際公開第2020/070989号
【特許文献3】国際公開第2021/070927号
【特許文献4】特開2017-182945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような全固体電池において、充放電時の電極活物質の体積膨張および体積収縮に起因して、クラックが発生するおそれがある。クラックの発生を抑制しようとすると、外気が内部に侵入するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、外気の侵入を抑制しつつクラックの発生を抑制することができる全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る全固体電池は、固体電解質層と、電極活物質を含む内部電極層と、が交互に積層された積層部分と、前記積層部分の少なくとも一部を覆う外装部と、を備え、前記外装部は、前記積層部分の側の内側層と、前記積層部分とは反対側の外側層と、を備え、前記内側層および前記外側層は、空間的に連続して形成された骨格をなすマトリクス材と、空間的に分散して配置されるフィラー材と、を含み、前記フィラー材/(前記フィラー材+前記マトリクス材)の面積比率は、前記内側層よりも前記外側層で低い。
【0007】
上記全固体電池において、前記内側層は、前記積層部分において積層方向の上端面および下端面を覆うカバー層であってもよい。
【0008】
上記全固体電池において、前記内側層は、前記固体電解質層の主面上に設けられた前記内部電極層の周囲に設けられた余白層であってもよい。
【0009】
上記全固体電池において、前記フィラー材は、アルミナまたはシリカであってもよい。
【0010】
上記全固体電池において、前記マトリクス材は、酸化物系固体電解質またはガラス材料であってもよい。
【0011】
上記全固体電池において、前記マトリクス材は、NASICON型結晶構造を有する酸化物系固体電解質であるガラス材料であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、外気の侵入を抑制しつつクラックの発生を抑制することができる全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】全固体電池の基本構造を示す模式的断面図である。
図2】複数の電池単位が積層された積層型の全固体電池の部分断面斜視図である。
図3図2のA-A線断面図である。
図4図2のB-B線断面図である。
図5】(a)はサイドマージンの断面の拡大図であり、(b)は第1エンドマージンの断面の拡大図である。
図6】外装部の模式的な断面図である。
図7】全固体電池の製造方法のフローを例示する図である。
図8】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
図9】積層工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0015】
(実施形態)
図1は、全固体電池100の基本構造を示す模式的断面図である。図1で例示するように、全固体電池100は、第1内部電極層10と第2内部電極層20とによって、固体電解質層30が挟持された構造を有する。第1内部電極層10は、固体電解質層30の第1主面上に形成されている。第2内部電極層20は、固体電解質層30の第2主面上に形成されている。例えば、第1内部電極層10、第2内部電極層20、および固体電解質層30は、粉末材料を焼結させることによって得られる焼結体である。
【0016】
全固体電池100を二次電池として用いる場合には、第1内部電極層10および第2内部電極層20の一方を正極として用い、他方を負極として用いる。本実施形態においては、一例として、第1内部電極層10を正極層として用い、第2内部電極層20を負極層として用いるものとする。
【0017】
固体電解質層30は、NASICON型の結晶構造を有し、イオン伝導性を有する酸化物系固体電解質を主成分とする。固体電解質層30の固体電解質は、例えばリチウムイオン伝導性を有する酸化物系固体電解質である。当該固体電解質は、例えば、リン酸塩系固体電解質である。NASICON型の結晶構造を有するリン酸塩系固体電解質は、高い導電率を有するとともに、大気中で安定しているという性質を有している。リン酸塩系固体電解質は、例えば、リチウムを含んだリン酸塩である。当該リン酸塩は、特に限定されるものではないが、例えば、Tiとの複合リン酸リチウム塩(例えば、LiTi(PO)などが挙げられる。または、TiをGe,Sn,Hf,Zrなどといった4価の遷移金属に一部あるいは全部置換することもできる。また、Li含有量を増加させるために、Al,Ga,In,Y,Laなどの3価の遷移金属に一部置換してもよい。より具体的には、例えば、Li1+xAlGe2-x(POや、Li1+xAlZr2-x(PO、Li1+xAlTi2-x(POなどが挙げられる。例えば、第1内部電極層10および第2内部電極層20に含有されるオリビン型結晶構造をもつリン酸塩が含む遷移金属と同じ遷移金属を予め添加させたLi-Al-Ge-PO(LAGP)材料が好ましい。例えば、第1内部電極層10および第2内部電極層20にCoおよびLiを含むリン酸塩が含有される場合には、Coを予め添加したLi-Al-Ge-PO系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。この場合、電極活物質が含む遷移金属の電解質への溶出を抑制する効果が得られる。第1内部電極層10および第2内部電極層20にCo以外の遷移元素およびLiを含むリン酸塩が含有される場合には、当該遷移金属を予め添加したLi-Al-Ge-PO系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。
【0018】
正極として用いられる第1内部電極層10は、オリビン型結晶構造をもつ物質を電極活物質として含有する。第2内部電極層20も、当該電極活物質を含有していることが好ましい。このような電極活物質として、遷移金属とリチウムとを含むリン酸塩が挙げられる。オリビン型結晶構造は、天然のカンラン石(olivine)が有する結晶であり、X線回折において判別することができる。
【0019】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質の典型例として、Coを含むLiCoPOなどを用いることができる。この化学式において遷移金属のCoが置き換わったリン酸塩などを用いることもできる。ここで、価数に応じてLiやPOの比率は変動し得る。なお、遷移金属として、Co,Mn,Fe,Niなどを用いることが好ましい。
【0020】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質は、正極として作用する第1内部電極層10においては、正極活物質として作用する。例えば、第1内部電極層10にのみオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合には、当該電極活物質が正極活物質として作用する。第2内部電極層20にもオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合に、負極として作用する第2内部電極層20においては、その作用メカニズムは完全には判明してはいないものの、負極活物質との部分的な固溶状態の形成に基づくと推察される、放電容量の増大、ならびに、放電に伴う動作電位の上昇という効果が発揮される。
【0021】
第1内部電極層10および第2内部電極層20の両方ともオリビン型結晶構造をもつ電極活物質を含有する場合に、それぞれの電極活物質には、好ましくは、互いに同一であっても異なっていてもよい遷移金属が含まれる。「互いに同一であっても異なっていてもよい」ということは、第1内部電極層10および第2内部電極層20が含有する電極活物質が同種の遷移金属を含んでいてもよいし、互いに異なる種類の遷移金属が含まれていてもよい、ということである。第1内部電極層10および第2内部電極層20には一種だけの遷移金属が含まれていてもよいし、二種以上の遷移金属が含まれていてもよい。好ましくは、第1内部電極層10および第2内部電極層20には同種の遷移金属が含まれる。より好ましくは、両電極が含有する電極活物質は化学組成が同一である。第1内部電極層10および第2内部電極層20に同種の遷移金属が含まれていたり、同組成の電極活物質が含まれていたりすることにより、両内部電極層の組成の類似性が高まるので、全固体電池100の端子の取り付けを正負逆にしてしまった場合であっても、用途によっては誤作動せずに実使用に耐えられるという効果を有する。
【0022】
第2内部電極層20は、負極活物質を含んでいる。一方の電極だけに負極活物質を含有させることによって、当該一方の電極は負極として作用し、他方の電極が正極として作用することが明確になる。なお、両方の電極に負極活物質として公知である物質を含有させてもよい。電極の負極活物質については、二次電池における従来技術を適宜参照することができ、例えば、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、リチウムチタン複合リン酸塩、カーボン、リン酸バナジウムリチウムなどの化合物が挙げられる。
【0023】
第1内部電極層10および第2内部電極層20の作製においては、これら電極活物質に加えて、イオン電導性を有する固体電解質や、導電性材料(導電助剤)などが添加されている。これらの部材については、バインダと可塑剤を水あるいは有機溶剤に均一分散させることで内部電極用ペーストを得ることができる。導電助剤として、カーボン材料などが含まれていてもよい。導電助剤として、金属が含まれていてもよい。導電助剤の金属としては、Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金などが挙げられる。第1内部電極層10および第2内部電極層20に含まれる固体電解質は、例えば、固体電解質層30の主成分固体電解質と同じとすることができる。
【0024】
図2は、複数の電池単位が積層された積層型の全固体電池100aの部分断面斜視図である。図3は、図2のA-A線断面図である。図4は、図2のB-B線断面図である。全固体電池100aは、略直方体形状を有する積層チップ60を備える。積層チップ60において、積層方向端の上面および下面以外の4面のうちの2面である2側面に接するように、第1外部電極40aおよび第2外部電極40bが設けられている。当該2側面は、隣接する2側面であってもよく、互いに対向する2側面であってもよい。本実施形態においては、互いに対向する2側面(以下、2端面と称する)に接するように第1外部電極40aおよび第2外部電極40bが設けられているものとする。
【0025】
なお、図2図4において、X軸方向は、積層チップ60の2端面が対向する方向であり、第1外部電極40aと第2外部電極40bとが対向する対向方向である。Y軸方向は、第1内部電極層10および第2内部電極層20の幅方向であり、積層チップ60の4側面のうち2端面以外の2側面が対向する対向方向である。Z軸方向は、積層方向であり、積層チップ60の上面と下面とが対向する方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0026】
以下の説明において、全固体電池100と同一の組成範囲および同一の厚み範囲を有するものについては、同一符号を付すことで詳細な説明を省略する。
【0027】
全固体電池100aにおいては、複数の第1内部電極層10と複数の第2内部電極層20とが、固体電解質層30を介して交互に積層されている。複数の第1内部電極層10のX軸方向の端縁は、積層チップ60の第1端面に露出し、第2端面には露出していない。複数の第2内部電極層20のX軸方向の端縁は、積層チップ60の第2端面に露出し、第1端面には露出していない。それにより、第1内部電極層10および第2内部電極層20は、第1外部電極40aと第2外部電極40bとに、交互に導通している。なお、固体電解質層30は、第1外部電極40aから第2外部電極40bにかけて延在している。このように、全固体電池100aは、複数の電池単位が積層された構造を有している。
【0028】
第1内部電極層10、固体電解質層30および第2内部電極層20の積層部分の上端面に、カバー層50が積層されている。当該カバー層50は、最上層の内部電極層(第1内部電極層10および第2内部電極層20のいずれか一方)に接するとともに、固体電解質層30の一部に接している。当該積層体の下端面にも、カバー層50が積層されている。当該カバー層50は、最下層の内部電極層(第1内部電極層10および第2内部電極層20のいずれか一方)に接するとともに、固体電解質層30の一部に接している。例えば、カバー層50は、粉末材料を焼結させることによって得られる焼結体である。
【0029】
さらに、積層チップ60において、第1外部電極40aと第2外部電極40bとの間の最表面に、保護層55が設けられている。例えば、保護層55は、粉末材料を焼結させることによって得られる焼結体である。保護層55は、第1外部電極40aと第2外部電極40bとの間において、上側のカバー層50の上面を覆い、下側のカバー層50の下面を覆い、固体電解質層30、第1余白層95a、第2余白層95bの外側の側面を覆っている。
【0030】
図3で例示するように、第1外部電極40aに接続された第1内部電極層10と第2外部電極40bに接続された第2内部電極層20とが対向する領域は、電池容量を生じる領域である。そこで、当該領域を、電池容量領域70と称する。すなわち、電池容量領域70は、異なる外部電極に接続された2つの隣接する内部電極層が対向する領域である。
【0031】
第1外部電極40aに接続された第1内部電極層10同士が、第2外部電極40bに接続された第2内部電極層20を介さずに対向する領域を、第1エンドマージン80aと称する。また、第2外部電極40bに接続された第1内部電極層10同士が、第1外部電極40aに接続された第1内部電極層10を介さずに対向する領域を、第2エンドマージン80bと称する。すなわち、エンドマージンは、同じ外部電極に接続された内部電極層が異なる外部電極に接続された内部電極層を介さずに対向する領域である。第1エンドマージン80aおよび第2エンドマージン80bは、電池容量を生じない領域である。
【0032】
図4で例示するように、積層チップ60において、積層チップ60の2側面から第1内部電極層10および第2内部電極層20に至るまでの領域をサイドマージン90と称する。すなわち、サイドマージン90は、上記積層体において積層された複数の第1内部電極層10および第2内部電極層20が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。
【0033】
図5(a)は、サイドマージン90の断面の拡大図である。サイドマージン90は、固体電解質層30と余白層とが、電池容量領域70における第1内部電極層10と第2内部電極層20との積層方向において交互に積層された構造を有する。第1内部電極層10と同じ層内では、第1余白層95aが設けられている。第2内部電極層20と同じ層内では、第2余白層95bが設けられている。この構成によれば、電池容量領域70とサイドマージン90との段差が抑制される。
【0034】
図5(b)は、第1エンドマージン80aの断面の拡大図である。サイドマージン90との比較において、第1エンドマージン80aでは、積層される複数の内部電極層のうち、1つおきに第1エンドマージン80aの端面まで内部電極層が延在する。すなわち、第1エンドマージン80aでは、第1内部電極層10が端面まで延在し、第2内部電極層20が端面まで延在していない。第2内部電極層20と同じ層内では、第2余白層95bが設けられている。また、第1内部電極層10が第1エンドマージン80aの端面まで延在する層では、第1余白層95aが積層されていない。この構成によれば、電池容量領域70と第1エンドマージン80aとの段差が抑制される。なお、第2エンドマージン80bでは、第2内部電極層20が端面まで延在し、第1内部電極層10が端面まで延在していない。第2エンドマージン80bでは、第1内部電極層10と同じ層内では、第1余白層95aが設けられている。
【0035】
カバー層50、第1余白層95a、第2余白層95b、および保護層55は、積層チップ60の内部への外気の侵入を抑制する働きを有している。カバー層50、第1余白層95a、第2余白層95b、および保護層55のことを総称して、外装部と称することがある。また、カバー層50、第1余白層95a、および第2余白層95bは、外装部において内側に配置されていることから、内側層と総称することがある。また、保護層55は、内側層よりも外側に配置されていることから、外側層と称することがある。
【0036】
外装部は、図6で例示するように、マトリクス材91およびフィラー材92を備える。マトリクス材91は、骨格を形成している。この骨格によって複数の隙間が形成される。フィラー材92は、この隙間に配置されている。したがって、マトリクス材91が空間的に連続して形成している骨格において、複数のフィラー材92が空間的に分散して配置されている。フィラー材92は、マトリクス材91とは異なる組成を有している結晶材である。
【0037】
マトリクス材91同士のネッキングは強固であるため、外装部がマトリクス材91だけで構成されていると、充放電時に電極活物質に体積膨張および体積収縮が生じると破断が生じ、良好なサイクル特性を維持できないおそれがある。マトリクス材91とフィラー材92とのネッキングはマトリクス材91間のネッキングほど強固ではないため、充放電時に電極活物質に体積膨張および体積収縮が生じても、変位を吸収することができる。しかしながら、フィラー材92が介在することで緻密度が低下し、外気が侵入するおそれがある。
【0038】
そこで、本実施形態においては、外装部の部位に応じて、フィラー材92の比率を異ならせる。フィラー材92の比率とは、積層方向を含む断面において、フィラー材92/(マトリクス材91+フィラー材)の面積比率のことである。具体的には、保護層55におけるフィラー材92の比率を、カバー層50、第1余白層95a、第2余白層95bにおけるフィラー材92の比率よりも低くする。
【0039】
この構成では、外装部の内側層ではフィラー材92が多く添加されるため、マトリクス材91とフィラー材92との間の低密着性領域が増える。それにより、充放電時に電極活物質に体積膨張および体積収縮が生じても、外装部の内側層は容易に変形し、クラックの発生を抑制することができる。
【0040】
外装部の外側層ではフィラー材92の添加量が少なくなるため、緻密性が高くなり、外気の侵入経路が少なくなる。それにより、外装部の外側層では耐湿性が向上する。
【0041】
以上のように、本実施形態によれば、外気の侵入を抑制しつつ、クラックの発生を抑制することができる。
【0042】
外装部の内側層の変形を容易にするために、外装部の内側層においてフィラー材92の比率に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、カバー層50、第1余白層95a、第2余白層95bにおけるフィラー材92の比率は、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。
【0043】
一方で、外装部の内側層においてフィラー材92の比率が高すぎると、外気侵入のおそれがある。そこで、外装部の内側層においてフィラー材92の比率に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、カバー層50、第1余白層95a、第2余白層95bにおけるフィラー材92の比率は、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
外装部の外側層に十分な緻密性を持たせるために、外装部の外側層においてフィラー材92の比率に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、保護層55におけるフィラー材92の比率は、40%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
例えば、マトリクス材91は、全固体電池100aを焼成する際に、ネッキングを生じて骨格を形成しやすい材料であることが好ましい。例えば、マトリクス材91として、ガラス材料、酸化物系固体電解質材料などを用いることができる。カバー層50、第1余白層95a、および第2余白層95bの密着性の観点から、マトリクス材91は、固体電解質層30の主成分の酸化物系固体電解質、第1内部電極層10に含まれる酸化物系固体電解質、第2内部電極層20に含まれる酸化物系固体電解質と共通の構造を有していることが好ましい。例えば、マトリクス材91は、NASICON型結晶構造を有していることが好ましい。また、マトリクス材91は、固体電解質層30の主成分の酸化物系固体電解質と同じ組成を有していることが好ましい。また、マトリクス材91は、第1内部電極層10に含まれる固体電解質と同じ組成を有していることが好ましい。また、マトリクス材91は、第2内部電極層20に含まれる固体電解質と同じ組成を有していることが好ましい。マトリクス材91として、例えば、Li-Al-Ge-PO系材料(LAGP)、Li-Al-Zr-PO、Li-Al-Ti-POなどを用いることができる。
【0046】
または、マトリクス材91は、絶縁性を有するガラス材料であることが好ましい。例えば、マトリクス材91として、Zn-Si-B-O系ガラス、Li-Al-Ge-PO系ガラス、Li-Si-B-O系ガラスなどを用いることが好ましい。
【0047】
フィラー材92は、全固体電池100aを焼成する際にマトリクス材91よりもネッキングを生じにくい材料であることが好ましい。例えば、フィラー材92として、アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニアなどを用いることが好ましい。
【0048】
Z軸方向における各保護層55の厚みは、例えば、2μm以上200μm以下であり、5μm以上50μm以下であり、10μm以上20μm以下である。Z軸方向における各カバー層50の厚みは、例えば、5μm以上500μm以下であり、10μm以上350μm以下であり、20μm以上200μm以下である。Y軸方向における第1余白層95aおよび第2余白層95bの各厚みは、例えば、10μm以上500μm以下であり、25μm以上400μm以下であり、50μm以上300μm以下である。
【0049】
続いて、図2で例示した全固体電池100aの製造方法について説明する。図7は、全固体電池100aの製造方法のフローを例示する図である。
【0050】
(固体電解質層用の原料粉末作製工程)
まず、上述の固体電解質層30を構成する固体電解質層用の原料粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、酸化物系固体電解質の原料粉末を作製することができる。得られた原料粉末を乾式粉砕することで、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrOボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0051】
(カバー層用の原料粉末作製工程)
上述のカバー層50を構成するセラミックスの原料粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、カバー層用の原料粉末を作製することができる。得られた原料粉末を乾式粉砕することで、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrOボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0052】
(余白層用の原料粉末作製工程)
上述の第1余白層95aおよび第2余白層95bを構成するマトリクス材91およびフィラー材92の原料粉末を作製する。マトリクス材91として、フィラー材92よりもネッキングが生じやすい材料を用いる。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、余白層用の原料粉末を作製することができる。得られた原料粉末を乾式粉砕することで、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrOボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0053】
(保護層用の原料粉末作製工程)
上述の保護層55を構成するセラミックスの原料粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、保護層用の原料粉末を作製することができる。得られた原料粉末を乾式粉砕することで、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrOボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0054】
(電極層用ペースト作製工程)
次に、上述の第1内部電極層10および第2内部電極層20の作製用の内部電極用ペーストを個別に作製する。例えば、導電助剤、電極活物質、固体電解質材料、焼結助剤、バインダ、可塑剤などを水あるいは有機溶剤に均一分散させることで内部電極用ペーストを得ることができる。固体電解質材料として、上述した固体電解質ペーストを用いてもよい。導電助剤として、カーボン材料などを用いる。導電助剤として、金属を用いてもよい。導電助剤の金属としては、Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金などが挙げられる。Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金や各種カーボン材料などをさらに用いてもよい。
【0055】
内部電極用ペーストの焼結助剤として、例えば、Li-B-O系化合物、Li-Si-O系化合物、Li-C-O系化合物、Li-S-O系化合物,Li-P-O系化合物などのガラス成分のどれか1つあるいは複数などのガラス成分が含まれている。
【0056】
(外部電極用ペースト作製工程)
次に、上述の第1外部電極40aおよび第2外部電極40bの作製用の外部電極用ペーストを作製する。例えば、導電性材料、ガラスフリット、バインダ、可塑剤などを水あるいは有機溶剤に均一分散させることで外部電極用ペーストを得ることができる。
【0057】
(固体電解質グリーンシート作製工程)
固体電解質層用の原料粉末を、結着材、分散剤、可塑剤などとともに、水性溶媒あるいは有機溶媒に均一に分散させて、湿式粉砕を行うことで、所望の平均粒径を有する固体電解質スラリを得る。このとき、ビーズミル、湿式ジェットミル、各種混練機、高圧ホモジナイザーなどを用いることができ、粒度分布の調整と分散とを同時に行うことができる観点からビーズミルを用いることが好ましい。得られた固体電解質スラリにバインダを添加して固体電解質ペーストを得る。得られた固体電解質ペーストを塗工することで、固体電解質グリーンシート51を作製することができる。塗工方法は、特に限定されるものではなく、スロットダイ方式、リバースコート方式、グラビアコート方式、バーコート方式、ドクターブレード方式などを用いることができる。湿式粉砕後の粒度分布は、例えば、レーザ回折散乱法を用いたレーザ回折測定装置を用いて測定することができる。
【0058】
(積層工程)
図8(a)で例示するように、固体電解質グリーンシート51の一面に、内部電極用ペースト52を印刷する。固体電解質グリーンシート51上で内部電極用ペースト52が印刷されていない周辺領域には、余白層用ペースト53を印刷する。余白層用ペースト53は、固体電解質グリーンシート作製工程と同様の手法で余白層用の原料粉末を塗工することで形成することができる。図8(b)で例示するように、印刷後の複数の固体電解質グリーンシート51を、交互にずらして積層する。図9で例示するように、積層方向の上下から、カバーシート54を圧着することで、積層体を得る。この場合、当該積層体において、一方の端面に第1内部電極層10用の内部電極用ペースト52が露出し、他方の端面に第2内部電極層20用の内部電極用ペースト52が露出するように、略直方体形状のグリーンチップを得る。カバーシート54は、固体電解質グリーンシート作製工程と同様の手法でカバー層用の原料粉末を塗工することで形成することができる。カバーシート54は、固体電解質グリーンシート51よりも厚く形成しておく。塗工時に厚くしてもよく、塗工したシートを複数枚重ねることで厚くしてもよい。
【0059】
(焼成工程)
次に、得られたグリーンチップを焼成することによって積層チップ60を得る。焼成の条件は酸化性雰囲気下あるいは非酸化性雰囲気下で、最高温度を好ましくは400℃~1000℃、より好ましくは500℃~900℃などとすることが特に限定なく挙げられる。最高温度に達するまでにバインダを十分に除去するために酸化性雰囲気において最高温度より低い温度で保持する工程を設けてもよい。プロセスコストを低減するためにはできるだけ低温で焼成することが望ましい。焼成後に、再酸化処理を施してもよい。その後、積層チップ60の2端面に外部電極用ペーストを塗布形成・硬化することで第1外部電極40aおよび第2外部電極40bを形成する。その後、第1外部電極40aと第2外部電極40bとの間に、保護層用の原料粉末をペースト状にしたものを塗布して焼き付けることで、保護層55を形成する。
【実施例0060】
(実施例1)
上記実施形態に従って積層型の全固体電池を作製した。第1固体電解質グリーンシート上に、第1内部電極層(正極層)用の第1内部電極用ペーストをスクリーン印刷法により塗布形成した。第1固体電解質グリーンシート上において、第1内部電極用ペーストの周囲に、第1余白層用の余白層用ペーストを印刷した。第2固体電解質グリーンシート上に、第2内部電極層(負極層)用の第2内部電極用ペーストをスクリーン印刷法により塗布形成した。第2固体電解質グリーンシート上において、第2内部電極用ペーストの周囲に、第2余白層用の余白層用ペーストを印刷した。正極層用の第1内部電極用ペーストと、負極層用の第2内部電極用ペーストとが同じ厚みになるようにした。複数の第1固体電解質グリーンシートと、複数の第2固体電解質グリーンシートとを、正極層と負極層とが交互に左右に引き出されるように積層した。所定のサイズにカットし、積層型全固体電池のグリーンチップを得た。グリーンチップを脱脂・焼成することで焼結し、外部電極用ペーストを塗布形成・硬化することで外部電極形成し、積層型全固体電池を得た。保護層は、外部電極間に保護層用ペーストを塗布して焼き付けることで形成した。
【0061】
実施例1においては、保護層におけるフィラー材の比率を、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率よりも低くした。具体的には、保護層におけるフィラー材の比率を10%とし、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率を40%とした。
【0062】
(実施例2)
実施例2においても、保護層におけるフィラー材の比率を、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率よりも低くした。具体的には、保護層におけるフィラー材の比率を10%とし、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率を50%とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0063】
(実施例3)
実施例3においても、保護層におけるフィラー材の比率を、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率よりも低くした。具体的には、保護層におけるフィラー材の比率を10%とし、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率を60%とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0064】
(実施例4)
実施例4においても、保護層におけるフィラー材の比率を、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率よりも低くした。具体的には、保護層におけるフィラー材の比率を20%とし、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率を60%とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0065】
(比較例1)
比較例1では、保護層におけるフィラー材の比率を、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率よりも高くした。具体的には、保護層におけるフィラー材の比率を50%とし、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率を10%とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0066】
(比較例2)
比較例2でも、保護層におけるフィラー材の比率を、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率よりも高くした。具体的には、保護層におけるフィラー材の比率を50%とし、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率を30%とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0067】
(比較例3)
比較例3でも、保護層におけるフィラー材の比率を、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率よりも高くした。具体的には、保護層におけるフィラー材の比率を70%とし、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率を10%とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0068】
(比較例4)
比較例4では、保護層におけるフィラー材の比率を、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率と同じにした。具体的には、保護層におけるフィラー材の比率を40%とし、カバー層、第1余白層、および第2余白層におけるフィラー材の比率を40%とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0069】
(クラックの有無)
実施例1~4および比較例1~4の各全固体電池について、サイクル試験後のクラックの発生有無を確認した。実施例1~4では、クラックの発生が確認されなかった。これは、外装部の内側層におけるフィラー材の比率を外側層におけるフィラー材の比率よりも小さくしたからであると考えられる。比較例1~4では、クラックの発生が確認された。これは、外装部の内側層におけるフィラー材の比率を外側層におけるフィラー材の比率よりも大きくしたか、同じにしたからであると考えられる。
【0070】
(サイクル特性試験)
実施例1~4および比較例1~4の各全固体電池について、サイクル特性試験を行った。サイクル特性試験では、25℃の環境において、上限電圧を3.3Vとし、下限電圧を2.0Vとし、0.2Cで充放電サイクル試験を行なった。
【0071】
サイクル特性試験を行った結果、1stサイクルに対する2000サイクル後の放電容量の維持率が、85%以上100%以下であれば合格「〇」と判定し、85%未満であればやや不合格「×」と判定した。実施例1~4では、サイクル特性試験が合格「〇」と判定された。これは、外装部の内側層におけるフィラー材の比率を外側層におけるフィラー材の比率よりも小さくしたことで、外側層の緻密性が向上し、外気の侵入が抑制されたからであると考えられる。比較例1~4では、サイクル特性が不合格「×」と判定された。これは、外装部の内側層におけるフィラー材の比率を外側層におけるフィラー材の比率よりも大きくしたか、同じにしたからであると考えられる。
【表1】
【0072】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0073】
10 第1内部電極層
20 第2内部電極層
30 固体電解質層
40a 第1外部電極
40b 第2外部電極
50 カバー層
51 固体電解質グリーンシート
52 内部電極用ペースト
53 余白層用ペースト
54 カバーシート
55 保護層
60 積層チップ
70 電池容量領域
80a 第1エンドマージン
80b 第2エンドマージン
90 サイドマージン
91 マトリクス材
92 フィラー材
95a 第1余白層
95b 第2余白層
100,100a 全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9