(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068984
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】悪性腫瘍治療薬としてのLSRを認識する抗体薬物複合体
(51)【国際特許分類】
A61K 47/64 20170101AFI20240514BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240514BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240514BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240514BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
A61K47/64 ZNA
A61K47/68
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
C07K16/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179709
(22)【出願日】2022-11-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (刊行物等1)発表日:2022年7月14日、刊行物名:第64回日本婦人科腫瘍学会学術講演会 プログラム・抄録集、公開者:神田瑞希、平松宏祐、世良田聡、永瀬慶和、船内雅史、上田豊、仲哲治、木村正、第64回日本婦人科腫瘍学会学術講演会 プログラム・抄録集 (刊行物等2)発表日:2022年7月15日、開催場所:第64回日本婦人科腫瘍学会学術講演会、公開者:神田瑞希、平松宏祐、世良田聡、永瀬慶和、船内雅史、上田豊、仲哲治、木村正、第64回日本婦人科腫瘍学会学術講演会にて発表したスライド
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】507148456
【氏名又は名称】学校法人 岩手医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】仲 哲治
(72)【発明者】
【氏名】世良田 聡
(72)【発明者】
【氏名】藤本 穣
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA21
4C085BB11
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA50
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
(57)【要約】
【課題】悪性腫瘍を治療または予防するための組成物および方法を提供すること。
【解決手段】本開示の一局面は、脂肪分解刺激リポタンパク質受容体(LSR)またはそのフラグメントに対する結合因子と薬剤との複合体を提供する。いくつかの実施形態において、LSRまたはそのフラグメントに対する結合因子は、抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントであり、抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントは、リンカーを介して薬剤に結合し得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪分解刺激リポタンパク質受容体(LSR)またはそのフラグメントに対する結合因子と薬剤との複合体。
【請求項2】
前記LSRに対する結合因子が、前記薬剤とリンカーを介して作動可能に連結されている、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記LSRに対する結合因子が、抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
前記抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、およびscFv-Fcから選択される抗体である、請求項3に記載の複合体。
【請求項5】
前記抗体のエピトープが、配列番号7の116~135位および/または216~230位を含む、請求項3または4に記載の複合体。
【請求項6】
前記抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントが、以下:
(a)それぞれ配列番号1の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~230位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(b)それぞれ配列番号2の31~35位、50~66位、99~103位、152~165位、182~188位、および221~230位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(c)それぞれ配列番号3の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(d)それぞれ配列番号4の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(e)それぞれ配列番号5の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、または
(f)それぞれ配列番号6の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
請求項3~5のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項7】
前記薬剤が、細胞傷害性活性を有する薬剤である、請求項1~6のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項8】
前記細胞傷害性活性を有する薬剤が、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、メイタンシノイドDM1、メイタンシノイドDM4、カリケアマイシン、デュオカルマイシン、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)、およびトポイソメラーゼ阻害剤からなる群から選択される、請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
前記細胞傷害性活性を有する薬剤が、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)である、請求項7に記載の複合体。
【請求項10】
前記リンカーが、酵素切断部位を有するリンカー、酸不安定性リンカー、またはジスルフィドリンカーである、請求項2に記載の複合体。
【請求項11】
前記リンカーが、マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MC-vc-PAB)である酵素切断部位を有するリンカーである、請求項10に記載の複合体。
【請求項12】
前記リンカーが、ヒドラゾンである酸不安定性リンカーである、請求項10に記載の複合体。
【請求項13】
前記リンカーが、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)ブタノエート(SPDB)、またはN-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)ペンタノエート(SPP)から選択されるジスルフィドリンカーである、請求項10に記載の複合体。
【請求項14】
抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントと、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)の複合体であって、該抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントが、該MMAEとリンカーを介して作動可能に連結されており、
該抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントが、以下:
(a)それぞれ配列番号1の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~230位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(b)それぞれ配列番号2の31~35位、50~66位、99~103位、152~165位、182~188位、および221~230位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(c)それぞれ配列番号3の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(d)それぞれ配列番号4の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(e)それぞれ配列番号5の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、または
(f)それぞれ配列番号6の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含み、
該リンカーが、マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MC-vc-PAB)である、複合体。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の複合体を含む、悪性腫瘍を治療または予防するための組成物。
【請求項16】
前記悪性腫瘍が、LSR陽性悪性腫瘍である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記悪性腫瘍が、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、胃癌、子宮内膜癌または大腸癌である、請求項15または16に記載の組成物。
【請求項18】
LSRの検出試薬を含む、請求項15~17のいずれか一項に記載の組成物による治療を必要とするかどうかを判断するためのコンパニオン試薬。
【請求項19】
LSRの検出試薬と、請求項15~17のいずれか一項に記載の組成物と、指示書とを含む、悪性腫瘍を治療または予防するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、悪性腫瘍の治療薬およびこれに関連する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
卵巣癌は60%以上が腹膜播種等を伴う進行癌として診断され、その5年生存率が20~30%程度と、婦人科悪性腫瘍の中で最も予後不良で、最も難治性の疾患である。現在1st lineの治療法として用いられるプラチナ・タキサン製剤は、卵巣癌で最も多い組織型である高異型度漿液性癌に対し初回治療で効果を示すものの、早期に耐性が生じ、その後の有効な治療法はまだ確立されていない。また欧米人に比して日本人で多い組織型である明細胞癌では多くが当初からプラチナ耐性を有している。
【0003】
このような背景から、我が国における卵巣癌の予後を改善するにはこれまでとは異なる新たな作用機序を有する抗癌剤の開発が必要である。発明者等は卵巣癌の新規標的抗原としてLSRを世界に先駆けて同定した(Hiramatsu K, Naka T, et al. Cancer Res. (2018) 78 (2): 516-527、WO2015/098113)。LSRは脂質代謝においてリポタンパク質の細胞内への取り込みに関わる受容体である(Bihain BE, et al. Curr Opin Lipidol. 1998 Jun;9(3):221-4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hiramatsu K, Naka T, et al. Cancer Res. (2018) 78 (2): 516-527
【非特許文献2】Bihain BE, et al. Curr Opin Lipidol. 1998 Jun;9(3):221-4
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者等の解析では、卵巣癌患者の約50%から60%を占めるLSR高発現卵巣癌患者群は低発現群と比べて有意に予後不良であった。また、腹膜播種の原因として卵巣癌以上に頻度が高い胃癌や、5年生存率が約20%の膵臓癌など、卵巣癌以外の難治性癌においてもLSRが高発現を示すことも明らかにしている。本開示の課題は、卵巣癌等LSRを高発現する難治性固形癌に対してLSRを標的とした抗体薬物複合体を開発し予後を改善することである。
【0007】
本開示は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
脂肪分解刺激リポタンパク質受容体(LSR)またはそのフラグメントに対する結合因子と薬剤との複合体。
(項目2)
前記LSRに対する結合因子が、前記薬剤とリンカーを介して作動可能に連結されている、前記項目に記載の複合体。
(項目3)
前記LSRに対する結合因子が、抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントである、前記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目4)
前記抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、およびscFv-Fcから選択される抗体である、前記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目5)
前記抗体のエピトープが、配列番号7の116~135位および/または216~230位を含む、前記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目6)
前記抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントが、以下:
(a)それぞれ配列番号1の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~230位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(b)それぞれ配列番号2の31~35位、50~66位、99~103位、152~165位、182~188位、および221~230位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(c)それぞれ配列番号3の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(d)それぞれ配列番号4の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(e)それぞれ配列番号5の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、または
(f)それぞれ配列番号6の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
前記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目7)
前記薬剤が、細胞傷害性活性を有する薬剤である、前記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目8)
前記細胞傷害性活性を有する薬剤が、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、メイタンシノイドDM1、メイタンシノイドDM4、カリケアマイシン、デュオカルマイシン、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)、およびトポイソメラーゼ阻害剤からなる群から選択される、前記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目9)
前記細胞傷害性活性を有する薬剤が、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)である、前記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目10)
前記リンカーが、酵素切断部位を有するリンカー、酸不安定性リンカー、またはジスルフィドリンカーである、前記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目11)
前記リンカーが、マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MC-vc-PAB)である酵素切断部位を有するリンカーである、前記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目12)
前記リンカーが、ヒドラゾンである酸不安定性リンカーである、前記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目13)
前記リンカーが、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)ブタノエート(SPDB)、またはN-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)ペンタノエート(SPP)から選択されるジスルフィドリンカーである、前記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目14)
抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントと、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)の複合体であって、該抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントが、該MMAEとリンカーを介して作動可能に連結されており、
該抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントが、以下:
(a)それぞれ配列番号1の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~230位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(b)それぞれ配列番号2の31~35位、50~66位、99~103位、152~165位、182~188位、および221~230位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(c)それぞれ配列番号3の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(d)それぞれ配列番号4の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、
(e)それぞれ配列番号5の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含む、または
(f)それぞれ配列番号6の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示される重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列を含み、
該リンカーが、マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MC-vc-PAB)である、複合体。
(項目15)
前記項目のいずれか一項に記載の複合体を含む、悪性腫瘍を治療または予防するための組成物。
(項目16)
前記悪性腫瘍が、LSR陽性悪性腫瘍である、前記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目17)
前記悪性腫瘍が、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、胃癌、子宮内膜癌または大腸癌である、前記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目18)
LSRの検出試薬を含む、前記項目のいずれか一項に記載の組成物による治療を必要とするかどうかを判断するためのコンパニオン試薬。
(項目19)
LSRの検出試薬と、前記項目のいずれか一項に記載の組成物と、指示書とを含む、悪性腫瘍を治療または予防するためのキット。
【0008】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0009】
本開示の抗体薬物複合体は、LSRを発現する癌を高い有効性で治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、卵巣癌細胞株OVCAR3、OVCAR3-Luc、およびES2に対してFACSおよびウェスタンブロット法でLSRの発現を解析した結果を示す。
【
図2】
図2は、抗LSR抗体とMMAF結合2次抗体とを組み合わせたADCを使用したADCアッセイの結果を示す。
【
図3】
図3は、例示的な抗体薬物複合体(ADC)の構造の概略図を示す。
【
図4】
図4は、ニワトリマウスキメラ抗LSRモノクローナル抗体(#16-6)、およびペイロードにコンジュゲートした#16-6(LSR-ADC)のLSR発現陽性のOVCAR3細胞に対する結合能についてのFACS解析の結果を示す。
【
図5】
図5は、ニワトリマウスキメラ抗LSRモノクローナル抗体(#16-6)がどのくらいの速度で細胞内にインターナライズするのかを、OVCAR3細胞を用いてFACS解析により測定した結果を示す。
【
図6】
図6は、細胞内局在について、リソソームマーカーであるCD107aと抗LSR抗体あるいはLSR-ADCとの局在を蛍光二重染色法で評価した結果を示す。緑がLSRを示し、赤がCD107aを示し、青がDAPIを示す。
【
図7】
図7は、LSR-ADC(MMAE)の薬効評価の結果を示す。LSR陽性の卵巣癌細胞株としてOVCAR3細胞およびLSRの発現が陰性のES2細胞を用いてin vitro ADCアッセイを行った。その結果、LSR-ADC(MMAE)はLSR陽性癌細胞株に対して薬効を発揮したが、LSR陰性癌細胞株には薬効を示さなかった。
【
図8】
図8は、上パネルにおいて、AGS細胞またはKATOIII細胞におけるFACSによるLSR発現解析結果を示す。下パネルにおいて、LSR-ADC(MMAE)の薬効評価の結果を示す。LSR陽性の胃癌細胞株としてAGSおよびKATOIIIを用いてin vitro ADCアッセイを行った。その結果、その結果、LSR-ADC(MMAE)はLSR陽性癌細胞株に対して薬効を発揮した。
【
図9】
図9は、LSR-ADC(MMAE)およびコントロールADCのOVCAR3細胞に対する細胞周期解析の結果を示す。*p<0.001、one-way ANOVA検定、次いでTukey-Kramer検定。
【
図10】
図10は、OVCAR3細胞におけるCaspase3/7活性測定の結果を示す。*p<0.05、**p<0.01、student’s t検定。
【
図11】
図11は、AGSおよびKATOIII細胞におけるCaspase3/7活性測定の結果を示す。*p<0.05、**p<0.01、student’s t検定。
【
図12】
図12は、OVCAR3皮下移植モデルを用いたin vivo薬効試験の模式図を示す。
【
図13】
図13は、PBS、1mg/kg、3mg/kg、または10mg/kgのLSR-ADCが投与されたOVCAR3ゼノグラフトマウスにおけるin vivo薬効試験結果を示す。LSR-ADC(MMAE)はOVCAR3ゼノグラフトマウスに対して濃度依存的な強力な抗腫瘍効果を発揮した。**p<0.01、one-way ANOVA検定、次いでHolm-Sidak検定。
【
図14】
図14は、PBS、1mg/kg、3mg/kg、または10mg/kgのLSR-ADCが投与されたOVCAR3ゼノグラフトマウスにおける体重変化を示す。
【
図15】
図15は、OVCAR3ゼノグラフトマウスに、PBS、1mg/kg、3mg/kg、および10mg/kgのLSR-ADC(MMAE)を投与し、24時間後に摘出した腫瘍組織に対してG2/M期細胞周期マーカーであるphospho-histone H3(Ser10)の発現を免疫組織化学染色法にて解析した結果を示す。**P<0.01、one-way ANOVA検定、次いでHolm-Sidak検定。
【
図16】
図16は、卵巣癌PDXマウスを用いたin vivo薬効試験の模式図を示す。
【
図17】
図17は、PBS、1mg/kg、3mg/kg、または10mg/kgのLSR-ADCが投与されたOvx6皮下移植モデルにおけるin vivo薬効試験結果を示す。
【
図18】
図18は、PBS、1mg/kg、3mg/kg、または10mg/kgのLSR-ADCが投与されたOVCAR3ゼノグラフトマウスにおける体重変化を示す。
【
図19】
図19は、OVCAR3-Luc腹膜播種モデルを用いたin vivo薬効試験の模式図を示す。
【
図20】
図20は、PBSまたは10mg/kgのLSR-ADCが投与された卵巣癌腹膜播種モデルにおけるin vivo薬効試験結果を示す。
【
図21】
図21は、PBSまたは10mg/kgのLSR-ADCが投与された卵巣癌腹膜播種モデルにおいてカプラン・マイヤー法を用いて生存期間の解析を行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
(定義)
最初に本開示において使用される用語および一般的な技術を説明する。
【0013】
本明細書において、「約」とは、示される値の±10%を意味する。
【0014】
本明細書において「LSR(Lipolysis stimulated lipoprotein receptor)」とは、一般的に、低密度リポタンパク質(LDL)の代謝に関わる分子として知られている。LSRのアミノ酸配列等の詳細は、NCBI(NationalCenter for Biotechnology Information)、またはHGNC(HUGO Gene Nomenclature Committee)等のWEBサイトから見ることができる。NCBIに記載されているLSRのアクセッションナンバーは、例えば、NP_991403(アミノ酸)、/NM_205834.3(mRNA)である。LSRのアミノ酸配列は、例えば、配列番号7である。LSR mRNAの塩基配列は、例えば、配列番号8である。LSRは、LSR活性を有していれば、そのアミノ酸配列は限定されない。したがって、本開示の具体的な目的に合致する限り、特定の配列番号またはアクセッション番号に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質(あるいはそれをコードする核酸)のみならず、機能的に活性なその類似体もしくは誘導体、または機能的に活性なそのフラグメント、またはその相同体、または高ストリンジェンシー条件または低ストリンジェンシー条件下で、このタンパク質をコードする核酸にハイブリダイズする核酸にコードされる変異体もまた、本開示において用いることができることが理解される。
【0015】
本明細書で使用される「誘導体」、「類似体」または「変異体」は、好ましくは、限定を意図するものではないが、対象となるタンパク質(例えば、LSR)に実質的に相同な領域を含む分子を含み、このような分子は、種々の実施形態において、同一サイズのアミノ酸配列にわたり、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントを行ってアラインされる配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%同一であるか、あるいはこのような分子をコードする核酸は、(高度に)ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、またはストリンジェントでない条件下で、構成要素タンパク質をコードする配列にハイブリダイズ可能である。これは、それぞれ、アミノ酸置換、欠失および付加によって、天然存在タンパク質を改変した産物であり、その誘導体がなお天然存在タンパク質の生物学的機能を、必ずしも同じ度合いでなくてもよいが示すタンパク質を意味する。例えば、本明細書において記載されあるいは当該分野で公知の適切で利用可能なin vitroアッセイによって、このようなタンパク質の生物学的機能を調べることも可能である。本明細書で使用される「機能的に活性な」は、本明細書において、本開示のポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体が関連する態様に従って、生物学的活性などの、タンパク質の構造的機能、制御機能、または生化学的機能を有する、ポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体を指す。本開示では、LSRについてヒトが主に論じられるが、ヒト以外の多くの動物がLSRを発現していることが知られているため、これらの動物、特に哺乳動物についても、本開示の範囲内に入ることが理解される。好ましくは、LSRの機能的ドメイン、例えば、膜貫通ドメイン(260-280位)、リン酸化部位(309位、328位、406位、493位、528位、530位、535位、540位、551位、586位、615位、646位)は保存されていることが好ましい。
【0016】
LSRの代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号7記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチ
ド;
(b)配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメント
をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号8に記載のアミノ酸配列において、1以上または1もしくは数個のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号7に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)~(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)~(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、LSRの有する活性またはマーカーとして同じ生物内に存在する他のタンパク質から識別し得ることをいう。
【0017】
LSRのアミノ酸配列としては、
(a)配列番号8に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号7に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号8に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)~(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、であり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、LSRの有する活性またはマーカーとして同じ生物内に存在する他のタンパク質から識別し得ること(例えば、抗原として用いられる場合特異的エピトープとして機能し得る領域を含むこと)をいう。
【0018】
本開示において、「LSRに結合する物質」、「LSR(の)結合剤」または「LSR相互作用分子」、「LSRに対する結合因子」は、少なくとも一時的にLSRに結合する分子または物質である。検出目的では好ましくは、結合したことを表示しうる(例えば標識されるか標識可能な状態である)ことが有利であり、治療目的では、さらに治療用薬剤が結合していることが有利である。これらは、例としては、抗体、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、siRNA、低分子量分子(LMW)、結合性ペプチド、アプタマー、リボザイムおよびペプチド模倣体(peptidomimetic)等を挙げることができる。LSRに結合する物質またはLSR相互作用分子は、LSRの阻害剤であってもよく、例えばLSRに対して向けられる、特にLSRの活性部位に対して向けられる、結合性タンパク質または結合性ペプチド、並びにLSR遺伝子に対して向けられる核酸も含まれる。LSRに対する核酸は、例えばLSR遺伝子の発現またはLSRの活性を阻害する、二本鎖または一本鎖DNAまたはRNA、あるいはその修飾物または誘導体を指し、そしてアンチセンス核酸、アプタマー、siRNA(低分子干渉RNA)およびリボザイムを含むがこれらに限定されない。本明細書において、LSRについて「結合タンパク質」または「結合ペプチド」とは、LSRに結合する任意のタンパク質またはペプチドを指し、そしてLSRに対して指向される抗体(例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体)、抗体フラグメントおよび機能的等価物を含むがこれらに限定されない。
【0019】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST2.13.0(2022/5/17発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0020】
本開示の一実施形態において「数個」は、例えば、10、8、6、5、4、3、または2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。1または数個のアミノ酸残基の欠
失、付加、挿入、または他のアミノ酸による置換を受けたポリペプチドが、その生物学的活性を維持することは知られている(Market al., Proc Natl Acad Sci USA.1984
Sep;81(18): 5662-5666.、Zoller et al.,Nucleic Acids Res. 1982 Oct 25;10(20): 6487-6500.、Wang et al., Science. 1984 Jun 29;224(4656): 1431-1433.)。欠失等がなされた抗体は、例えば、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、または抗体ファージライブラリを用いたバイオパニング等によって作製できる。部位特異的変異導入法としては、例えばKOD-Plus- Mutagenesis Kit (TOYOBO CO., LTD.)を使用できる。欠失等を導入した変異型抗体から、野生型と同様の活性のある抗体を選択することは、FACS解析やELISA等の各種キャラクタリゼーションを行うことで可能である。
【0021】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1~n-1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20
、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このようなフラグメントは、例えば、全長のものがマーカーまたは標的分子として機能する場合、そのフラグメント自体もまたマーカーまたは標的分子としての機能を有する限り、本開示の範囲内に入ることが理解される。
【0022】
本開示に従って、用語「活性」は、本明細書において、最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。適用可能な場合、この用語はまた、最も広い意味でのタンパク質複合体の機能にも関する。
【0023】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、特異的な抗体の生成、酵素活性、抵抗性の付与等を挙げることができるがそれらに限定されない。本開示においては、例えば、LSRがVLDLの取り込みの阻害等に関与する機能などを挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含され、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。2つの因子が相互作用する場合、その生物学的活性は、その二分子の間の結合およびそれによって生じる生物学的変化であり得、そして、例えば、一つの分子を抗体を用いて沈降させたときに他の分子も共沈するとき、2分子は結合していると考えられる。従って、そのような共沈を見ることが一つの判断手法として挙げられる。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、本開示のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに直接結合する化合物の親和性、または例えば、いくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度が挙げられる。
【0024】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様である。したがって、本明細書において「発現産物」とは、このようなポリペプチドもしくはタンパク質、またはmRNAを含む。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシン
グを受けたものであり得る。例えば、LSRの発現レベルは、任意の方法によって決定することができる。具体的には、LSRのmRNAの量、LSRタンパク質の量、そしてLSRタンパク質の生物学的な活性を評価することによって、LSRの発現レベルを知ることができる。このような測定値はコンパニオン診断において使用し得る。LSRのmRNAやタンパク質の量は、本明細書の他の箇所に詳述したような方法あるいは他の当該分野において公知の方法によって決定することができる。
【0025】
本明細書において「機能的等価物」とは、対象となるもとの実体に対して、目的となる機能が同じであるが構造が異なる任意のものをいう。従って、「LSR」またはその抗体の機能的等価物は、LSRまたはその抗体自体ではないが、LSRまたはその抗体の変異体または改変体(例えば、アミノ酸配列改変体等)であって、LSRの持つ生物学的作用を有するもの、ならびに、作用する時点において、LSRまたはその抗体自体またはこのLSRまたはその抗体の変異体もしくは改変体に変化することができるもの(例えば、LSRまたはその抗体自体またはLSRまたはその抗体の変異体もしくは改変体をコードする核酸、およびその核酸を含むベクター、細胞等を含む)が包含されることが理解される。本開示において、LSRまたはその抗体の機能的等価物は、格別に言及していなくても、LSRまたはその抗体と同様に用いられうることが理解される。機能的等価物は、データベース等を検索することによって、見出すことができる。本明細書において「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol. 215:403-410(1990))、FASTA (Pearson & Lipman, Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444-2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman, J.Mol.Biol.147: 195-197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch, J.Mol.Biol. 48:443-453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびin situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本開示において使用される遺伝子には、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
【0026】
本開示の機能的等価物としては、アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加されたものを用いることができる。本明細書において、「アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、あるいは天然の変異により、天然に生じ得る程度の複数個の数のアミノ酸の置換等により改変がなされていることを意味する。改変アミノ酸配列は、例えば1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~9個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~2個のアミノ酸の挿入、置換、もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加がなされたものであることができる。改変アミノ酸配列は、好ましくは、そのアミノ酸配列が、LSRまたはその抗体のアミノ酸配列において1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。ここで「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0027】
本明細書において「抗体」は、広義にはポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、および抗イディオタイプ抗体、ならびにそれらのフラグメント、例えばFvフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2およびFabフラグメント、ならびにその他の組換えにより生産された結合体または機能的等価物(例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー(diabody)、sc(Fv)2(singlechain(Fv)2)、scFv-Fc)を含む。さらにこのような抗体を、酵素、例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、αガラクトシダーゼなど、に共有結合させまたは組換えにより融合させてよい。本開示で用いられる抗LSR抗体は、LSRのタンパク質に結合すればよく、その由来、種類、形状などは問われない。具体的には、非ヒト動物の抗体(例えば、マウス抗体、ラット抗体、ラクダ抗体)、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体が使用できる。本開示においては、モノクローナル、あるいはポリクローナルを抗体として利用することができるが好ましくはモノクローナル抗体である。抗体のLSRタンパク質への結合は特異的な結合であることが好ましい。また抗体は、抗体修飾物または抗体非修飾物を含む。抗体修飾物は、抗体と、例えばポリエチレングリコール等の各種分子が結合していてもよい。抗体修飾物は、抗体に公知の手法を用いて化学的な修飾を施すことによって得ることができる。
【0028】
本明細書において、「抗LSR抗体」は、LSRに結合性を有する抗体を含む。この抗LSR抗体の生産方法は特に限定されないが、例えば、LSRを哺乳類または鳥類に免疫することによって生産してもよい。
【0029】
また、「LSRに対する抗体(抗LSR抗体)、または、そのフラグメント」の「機能的等価物」は、例えば、抗体の場合、LSRの結合活性、必要であれば抑制活性を有する抗体自体
およびそのフラグメント自体のほか、キメラ抗体、ヒト化抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(singlechain(Fv)2)、scFv-Fcなども包含されることが理解される。
【0030】
本開示の一実施形態に係る複合体において使用される抗LSR抗体は、悪性腫瘍の増殖が特に強く抑制される観点からは、LSRの特定のエピトープに特異的に結合する抗LSR抗体であることが好ましい。
【0031】
本開示の一実施形態に係る抗LSR抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体であれば、ポリクローナル抗体に比べて、効率的にLSRに対して作用させることができる。抗LSRモノクローナル抗体を効率的に生産する観点からは、LSRをニワトリに免疫することが好ましい。
【0032】
本開示の一実施形態に係る複合体において使用される抗LSR抗体の抗体クラスは特に限定されないが、例えばIgM、IgD、IgG、IgA、IgE、またはIgYであってもよい。
【0033】
本開示の一実施形態に係る抗LSR抗体は、抗原結合活性を有する抗体フラグメントであっても良い。この場合、安定性または抗体の生産効率が上昇する等の効果がある。
【0034】
本開示の一実施形態に係る複合体において使用される抗LSR抗体は、融合タンパク質であってもよい。この融合タンパク質は、抗LSR抗体のNまたはC末端に、ポリペプチドまたはオリゴペプチドが結合したものであってもよい。ここで、オリゴペプチドは、Hisタグであってもよい。また融合タンパク質は、マウス、ヒト、またはニワトリの抗体部分配列を融合したものであってもよい。それらのような融合タンパク質も、本実施形態に係る抗LSR抗体の一形態に含まれる。
【0035】
本開示の一実施形態に係る複合体において使用される抗LSR抗体は、例えば、精製LSR、LSR発現細胞、またはLSR含有脂質膜で生物を免疫する工程を経て得られる抗体であってもよい。LSR陽性悪性腫瘍に対する治療効果を高める観点からは、LSR発現細胞を免疫に使用することが好ましい。
【0036】
本開示の一実施形態に係る複合体において使用される抗LSR抗体は、精製LSR、LSR発現細胞胞またはLSR含有脂質膜で生物を免疫する工程を経て得られる抗体の、CDRセットを有する抗体であってもよい。LSR陽性悪性腫瘍に対する治療効果を高める観点からは、LSR発現細胞を免疫に使用することが好ましい。CDRセットとは、重鎖CDR1、2、および3、並びに、軽鎖CDR1、2、および3のセットである。
【0037】
本開示の一実施形態において「LSR発現細胞」は、例えば、LSRをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入後、LSRを発現させることによって得てもよい。ここでLSRは、LSRフラグメントを含む。また本開示の一実施形態において「LSR含有脂質膜」は、例えば、LSRと脂質二重膜を混合することによって得てもよい。ここでLSRは、LSRフラグメントを含む。また本開示の一実施形態に係る複合体において使用される抗LSR抗体は、LSR陽性悪性腫瘍に対する治療効果を高める観点からは、抗原をニワトリに免疫する工程を経て得られる抗体、またはその抗体のCDRセットを有する抗体が好ましい。
【0038】
本開示の一実施形態に係る複合体において使用される抗LSR抗体は、目的を達成する限り、どのような結合力を有していてもよく、例えば、少なくとも1.0×106以上、2.0×106以上、5.0×106以上、1.0×107以上を挙げることができるがこれらに限定されず、通常は、KD値(kd/ka)が、1.0×10-7以下であってもよく、1.0×10-9(M)あるいは1.0×10-10(M)以下であり得る。
【0039】
本開示の一実施形態に係る複合体において使用される抗LSR抗体は、LSRの野生型または変異型に結合する抗体であってもよい。変異型とは、個体間のDNA配列の差異に起因するものを含む。野生型または変異型のLSRのアミノ酸配列は、配列番号8に示すアミノ酸配列に対し、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有している。
【0040】
本明細書において「ポリクローナル抗体」は、例えば、抗原に特異的なポリクローナル抗体の産生を誘導するために、哺乳類(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、サル等)、鳥類等に、目的の抗原を含む免疫原を投与することによって生成することが可能である。免疫原の投与は、1つ以上の免疫剤、および所望の場合にはアジュバントの注入をしてもよい。アジュバントは、免疫応答を増加させるために使用されることもあり、フロイントアジュバント(完全または不完全)、ミネラルゲル(水酸化アルミニウム等)、または界面活性物質(リゾレシチン等)等を含んでいてもよい。免疫プロトコールは、当該技術分野で公知であり、選択する宿主生物に合わせて、免疫応答を誘発する任意の方法によって実施される場合がある(タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):86-91.)。
【0041】
本明細書において「モノクローナル抗体」は、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に単一のエピトープに対応する抗体である場合を含む。または、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に同一である抗体であってもよい。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、異なるエピトープに対応する異なる抗体を典型的に含むような、通常のポリクローナル抗体とは異なる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンによって汚染されていないハイブリドーマ培養から合成できる点で有用である。「モノクローナル」という形容は、実質的に均一な抗体集団から得られるという特徴を示していてもよいが、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、モノクローナル抗体は、"Kohler G, Milstein C., Nature. 1975 Aug7;256(5517):495-497."に掲載されているようなハイブリドーマ法と同様の方法によって作製してもよい。あるいは、モノクローナル抗体は、米国特許第4816567号に記載されているような組換え法と同様の方法によって作製してもよい。または、モノクローナル抗体は、"Clackson et al., Nature. 1991 Aug 15;352(6336): 624-628."、または"Marks et al., J Mol Biol. 1991 Dec 5;222(3): 581-597."に記載されているような技術と同様の方法を用いてファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。または、"タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):92-96."に掲載されている方法でよって作製してもよい。
【0042】
抗体の大量生産については、当該分野で公知の任意の手法を用いることができるが、例えば、代表的な抗体の大量生産系の構築および抗体製造としては、以下を例示することができる。すなわち、CHO細胞にH鎖抗体発現ベクターおよびL鎖抗体発現ベクターをトランスフェクションし、選択試薬であるG418およびZeocinを用いて培養を行い、限界希釈法によるクローニングを行う。クローニング後、安定的に抗体を発現しているクローンをELISA法により選択する。選択したCHO細胞を用いて拡大培養し、抗体を含む培養上清を回収する。回収した培養上清からProtein AもしくはProtein G精製により抗体を精製することができる。
【0043】
本明細書において「Fv抗体」は、抗原認識部位を含む抗体である。この領域は、非共有結合による1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインの二量体を含む。この構成において、各可変ドメインの3つのCDRは相互に作用してVH-VL二量体の表面に抗原結合部位を形成することができる。
【0044】
本明細書において「Fab抗体」は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む抗体をタンパク質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体が一部のジスルフィド結合を介して結合した抗体である。Fabは、例えば、Fab領域およびFc領域を含む本開示の実施形態に係る抗LSR抗体を、タンパク質分解酵素パパインで処理して得ることができる。
【0045】
本明細書において「F(ab’)2抗体」は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む抗体をタンパク質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち、Fabに相当する部位を2つ含む抗体である。F(ab’)2は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む本開示の実施形態に係る抗LSR抗体を、タンパク質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。また、例えば、下記のFab’をチオエーテル結合あるいはジスルフィド結合させることで、作製することができる。
【0046】
本明細書において「Fab’抗体」は、例えば、F(ab’)2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断して得られる抗体である。例えば、F(ab’)2を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。
【0047】
本明細書において「scFv抗体」は、VHとVLとが適当なペプチドリンカーを介して連結した抗体である。scFv抗体は、例えば、本開示の実施形態に係る複合体において使用される抗LSR抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、VH-ペプチドリンカー-VLをコードするポリヌクレオチドを構築し、そのポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
【0048】
本明細書において「ダイアボディー(diabody)」は、二価の抗原結合活性を有する抗体である。二価の抗原結合活性は、同一であることもできるし、一方を異なる抗原結合活性とすることもできる。ダイアボディー(diabody)は、例えば、scFvをコードするポリヌクレオチドをペプチドリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築し、得られたポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
【0049】
本明細書において「dsFv」は、VHおよびVL中にシステイン残基を導入したポリペプチドを、システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させた抗体である。システイン残基に導入する位置はReiterらにより示された方法(Reiteret al., Protein Eng. 1994 May;7(5):697-704.)に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。
【0050】
本明細書において「抗原結合性を有するペプチドまたはポリペプチド」は、抗体のVH、VL、またはそれらのCDR1、2、もしくは3を含んで構成される抗体である。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。
【0051】
本開示において使用されるFv抗体、Fab抗体、F(ab’)2抗体、Fab’抗体、scFv抗体、ダイアボディー(diabody)、dsFv抗体、抗原結合性を有するペプチドまたはポリペプチド(以下、「Fv抗体等」と称することもある)の生産方法は特に限定しない。例えば、本開示の実施形態に係る複合体において使用される抗LSR抗体におけるFv抗体等の領域をコードするDNAを発現用ベクターに組み込み、発現用細胞を用いて生産できる。または、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBOC法(t-ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によって生産してもよい。なお本開示の一実施形態に係る抗原結合性断片は、上記Fv抗体等の1種以上であってもよい。
【0052】
本明細書において「キメラ抗体」は、例えば、異種生物間における抗体の可変領域と、抗体の定常領域とを連結したもので、遺伝子組換え技術によって構築できる。マウス-ヒトキメラ抗体は、例えば、"Roguska et al., Proc Natl Acad Sci USA. 1994 Feb 1;91(3):969-973."に記載の方法で作製できる。マウス-ヒトキメラ抗体を作製するための基本的な方法は、例えば、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列および可変領域配列を、哺乳類細胞の発現ベクター中にすでに存在するヒト抗体定常領域をコードする配列に連結する。または、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列および可変領域配列をヒト抗体定常領域をコードする配列に連結した後、哺乳類細胞発現ベクターに連結してもよい。ヒト抗体定常領域の断片は、任意のヒト抗体のH鎖定常領域およびヒト抗体のL鎖定常領域のものとすることができ、例えばヒトH鎖のものについてはCγ1、Cγ2、Cγ3またはCγ4を、L鎖のものについてはCλまたはCκを各々挙げることができる。
【0053】
本明細書において「ヒト化抗体」は、例えば、非ヒト種由来の1つ以上のCDR、およびヒト免疫グロブリン由来のフレームワーク領域(FR)、さらにヒト免疫グロブリン由来の定常領域を有し、所望の抗原に結合する抗体である。抗体のヒト化は、当該技術分野で既知の種々の手法を使用して実施可能である(Almagro et al., Front Biosci. 2008 Jan 1;13: 1619-1633.)。例えば、CDRグラフティング(Ozaki et al.,Blood. 1999 Jun 1;93(11): 3922-3930.)、Re-surfacing(Roguska et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1994 Feb 1;91(3):969-973.)、またはFRシャッフル(Damschroder et al., Mol Immunol. 2007 Apr;44(11):3049-3060. Epub 2007 Jan 22.)などが挙げられる。抗原結合を改変するために(好ましくは改善するために)、ヒトFR領域のアミノ酸残基は、CDRドナー抗体からの対応する残基と置換してもよい。このFR置換は、当該技術分野で周知の方法によって実施可能である(Riechmann et al., Nature. 1988 Mar 24;332(6162):323-327.)。例えば、CDRとFR残基の相互作用のモデリングによって抗原結合に重要なFR残基を同定してもよい。または、配列比較によって、特定の位置で異常なFR残基を同定してもよい。
【0054】
本明細書において「ヒト抗体」は、例えば、抗体を構成する重鎖の可変領域および定常領域、軽鎖の可変領域および定常領域を含む領域が、ヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来する抗体である。主な作製方法としてはヒト抗体作製用トランスジェニックマウス法、ファージディスプレイ法などがある。ヒト抗体作製用トランスジェニックマウス法では、内因性Igをノックアウトしたマウスに機能的なヒトのIg遺伝子を導入すれば、マウス抗体の代わりに多様な抗原結合能を持つヒト抗体が産生される。さらにこのマウスを免疫すればヒトモノクローナル抗体を従来のハイブリドーマ法で得ることが可能である。例えば、"Lonberg et al., Int Rev Immunol. 1995;13(1):65-93."に記載の方法で作製できる。ファージディスプレイ法は、典型的には大腸菌ウイルスの一つであるM13やT7などの繊維状ファージのコートタンパク質(g3p、g10p等)のN末端側にファージの感染性を失わないよう外来遺伝子を融合タンパク質として発現させるシステムである。例えば、"Vaughan et al., Nat Biotechnol. 1996 Mar;14(3):309-314."に記載の方法で作製できる。
【0055】
また抗体は、CDR-grafting(Ozaki et al., Blood. 1999 Jun 1;93(11):3922-3930.)によって任意の抗体に本開示の実施形態に係る抗LSR抗体の重鎖CDRまたは軽鎖CDRをグラフティングすることで作製してもよい。または、本開示の実施形態に係る抗LSR抗体の重鎖CDRまたは軽鎖CDRをコードするDNAと、公知のヒトまたはヒト以外の生物由来の抗体の、重鎖CDRまたは軽鎖CDRを除く領域をコードするDNAとを、当該技術分野で公知の方法に従ってベクターに連結後、公知の細胞を使用して発現させることによって得ることができる。このとき、抗LSR抗体の標的抗原への作用効率を上げるために、当該分野で公知の方法(例えば、抗体のアミノ酸残基をランダムに変異させ、反応性の高いものをスクリーニングする方法、またはファージディスプレイ法等)を用いて、重鎖CDRまたは軽鎖CDRを除く領域を最適化してもよい。また、例えば、FRシャッフル(Damschroder et al., Mol Immunol. 2007 Apr;44(11):3049-3060. Epub 2007 Jan 22.)、またはバーニヤゾーンのアミノ酸残基またはパッケージング残基を置換する方法(特開2006-241026、またはFooteet al., J Mol Biol.1992 Mar 20;224(2):487-499.)を用いて、FR領域を最適化してもよい。
【0056】
本明細書において「重鎖」は、典型的には、全長抗体の主な構成要素である。重鎖は、通常、軽鎖とジスルフィド結合および非共有結合によって結合している。重鎖のN末端側のドメインには、同種の同一クラスの抗体でもアミノ酸配列が一定しない可変領域(VH)と呼ばれる領域が存在し、一般的に、VHが抗原に対する特異性、親和性に大きく寄与していることが知られている。例えば、"Reiter et al., J Mol Biol. 1999 Jul 16;290(3):685-98."にはVHのみの分子を作製したところ、抗原と特異的に、高い親和性で結合したことが記載されている。さらに、"Wolfson W, Chem Biol. 2006 Dec;13(12):1243-1244."には、ラクダの抗体の中には、軽鎖を持たない重鎖のみの抗体が存在していることが記載されている。
【0057】
本明細書において「CDR(相補性決定領域)」は、抗体において、実際に抗原に接触して結合部位を形成している領域である。一般的にCDRは、抗体のFv(可変領域:重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む)上に位置している。また一般的にCDRは、5~30アミノ酸残基程度からなるCDR1、CDR2、CDR3が存在する。そして、特に重鎖のCDRが抗体の抗原への結合に寄与していることが知られている。またCDRの中でも、CDR3が抗体の抗原への結合における寄与が最も高いことが知られている。例えば、"Willy et al., Biochemical and Biophysical Research Communications Volume 356, Issue 1, 27 April 2007, Pages 124-128"には、重鎖CDR3を改変させることで抗体の結合能を上昇させたことが記載されている。CDRは1または数個(例えば、2個、3個等)の改変(例えば、保存的改変)をしても結合力が保持されることが知られており、
本開示においてこれらの改変体も特定のCDRの範囲内であることが理解される。CDR以外のFv領域はフレームワーク領域(FR)と呼ばれ、FR1、FR2、FR3およびFR4からなり、抗体間で比較的よく保存されている(Kabatet al.,「Sequence of Proteins of Immunological Interest」US Dept. Health and Human Services,1983.)。即ち、抗体の反応性を特徴付ける要因はCDRにあり、特に重鎖CDRにあるといえる。
【0058】
CDRの定義およびその位置を決定する方法は複数報告されている。例えば、Kabatの定義(Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))、またはChothiaの定義(Chothiaet al., J. Mol. Biol.,1987;196:901-917)を採用してもよい。本開示の一実施形態においては、Kabatの定義を好適な例として採用するが、必ずしもこれに限定されない。また、場合によっては、Kabatの定義とChothiaの定義の両方を考慮して決定しても良く、例えば、各々の定義によるCDRの重複部分を、または各々の定義によるCDRの両方を含んだ部分をCDRとすることもできる。そのような方法の具体例としては、Kabatの定義とChothiaの定義の折衷案である、Oxford Molecular's AbM antibody modeling softwareを用いたMartinらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1989;86:9268-9272)がある。このようなCDRの情報を用いて、本開示に使用されうる変異体を生産することができる。このような抗体の変異体では、もとの抗体のフレームワークに1または数個(例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個)の置換、付加もしくは欠失を含むが、該CDRには変異を含まないように生産することができる。
【0059】
本明細書において「抗原」(antigen)とは、抗体分子によって特異的に結合され得る任意の基質をいう。本明細書において「免疫原」(immunogen)とは、抗原特異的免疫応答を生じるリンパ球活性化を開始し得る抗原をいう。本明細書において「エピトープ」または「抗原決定基」とは、抗体またはリンパ球レセプターが結合する抗原分子中の部位をいう。エピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。本開示の抗体は、エピトープが同じであれば、他の配列を有する抗体であっても同様に利用することができることが理解される。
【0060】
本明細書において使用される抗体は、擬陽性が減じられる限り、どのような特異性の抗体を用いても良いことが理解される。従って、本開示において用いられる抗体は、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよい。
【0061】
本明細書において「手段」とは、ある目的(例えば、検出、診断、治療)を達成する任意の道具となり得るものをいい、特に、本明細書では、「選択的に認識する手段」とは、ある対象を他のものとは異なって認識することができる手段をいう。
【0062】
本明細書において使用される「悪性腫瘍」は、例えば、正常な細胞が突然変異を起こして発生する腫瘍を含む。悪性腫瘍は全身のあらゆる臓器や組織から生じ得る。この悪性腫瘍は、例えば、肺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、腎臓癌、副腎癌、胆道癌、乳癌、大腸癌、小腸癌、卵巣癌、子宮癌、膀胱癌、前立腺癌、尿管癌、腎盂癌、尿管癌、陰茎癌、精巣癌、脳腫瘍、中枢神経系の癌、末梢神経系の癌、頭頸部癌、グリオーマ、多形性膠芽腫、皮膚癌、メラノーマ、甲状腺癌、唾液腺癌、悪性リンパ腫、癌腫、肉腫、および血液悪性腫瘍からなる群から選ばれる1種以上を含む。ここで、卵巣癌は、例えば、卵巣漿、液性腺癌、または卵巣明細胞線癌を含む。子宮癌は、例えば、子宮内膜癌、または子宮頸癌を含む。頭頸部癌は、例えば、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、鼻腔癌、副鼻腔癌、唾液腺癌、または甲状腺癌を含む。肺癌は、例えば、非小細胞肺癌、または小細胞肺癌を含む。また悪性腫瘍は、LSR陽性であってもよい。
【0063】
悪性腫瘍の中でも漿液性腺癌は、非常に進行の早い癌であり、市販の抗癌剤でも癌を全て消し去るのは難しい。さらに、再発した場合は、市販の抗癌剤がほとんど効かない。また、明細胞線癌は、市販の抗癌剤ではほとんど治療効果が期待できない。一方で、本開示の実施形態に係る抗LSR抗体は、漿液性腺癌および明細胞線癌の新しい治療薬となり得る。
【0064】
本開示の一実施形態において「LSR陽性悪性腫瘍」は、LSRを有意または過剰に発現している悪性腫瘍を含む。悪性腫瘍がLSR陽性かどうかは、例えば、RT-PCR、ウェスタンブロット、または免疫組織化学染色法で評価してもよい。また、ウェスタンブロットに悪性腫瘍細胞の総タンパク質を供し、目視でLSRに相当するバンド(例えば、649aa付近のバンド)が確認できた場合に、LSR陽性と判断してもよい。または、患者由来の悪性腫瘍細胞のLSR発現量が、正常細胞の場合に比べて有意に大きい場合に、LSR陽性と判断してもよい。LSR陽性であることを正確に診断することによって、より最適な投薬を実現する観点からは、抗LSR抗体を使用してLSRの発現を検査することが好ましい。
【0065】
本明細書において「被験体(者)」とは、本開示の診断または検出、あるいは治療等の対象となる対象(例えば、ヒト等の生物または生物から取り出した細胞、血液、血清等)をいう。
【0066】
本明細書において「試料」とは、被験体等から得られた任意の物質をいい、例えば、血液、血清、血漿、唾液、尿、涙液、脳脊髄液等が含まれる。当業者は本明細書の記載をもとに適宜好ましい試料を選択することができる。
【0067】
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0068】
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害(例えば、悪性腫瘍)について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消退させることをいい、患者の疾患、もしくは疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果あるいは予防効果を発揮しうることを含む。事前に診断を行って適切な治療を行うことは「コンパニオン治療」といい、そのための診断薬を「コンパニオン診断薬」ということがある。
【0069】
本明細書において「治療薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、悪性腫瘍等の疾患など)を治療できるあらゆる薬剤をいう。本開示の一実施形態において「治療薬」は、有効成分と、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体とを含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、例えば有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また治療薬は、治療のために用いられる物であれば使用形態は限定されず、有効成分単独であってもよいし、有効成分と任意の成分との混合物であってもよい。また上記担体の形状は特に限定されず、例えば、固体または液体(例えば、緩衝液)であってもよい。なお悪性腫瘍の治療薬は、悪性腫瘍の予防のために用いられる薬物(予防薬)、または悪性腫瘍細胞の増殖抑制剤を含む。
【0070】
本明細書において「予防」とは、ある疾患または障害(例えば、悪性腫瘍)について、そのような状態になる前に、そのような状態にならないようにすることをいう。本開示の薬剤を用いて、診断を行い、必要に応じて本開示の薬剤を用いて例えば、悪性腫瘍等の予防をするか、あるいは予防のための対策を講じることができる。
【0071】
本明細書において「予防薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、悪性腫瘍等の疾患など)を予防できるあらゆる薬剤をいう。
【0072】
本明細書において「相互作用」とは、2つの物質についていうとき、一方の物質と他方の物質との間で力(例えば、分子間力(ファンデルワールス力)、水素結合、疎水性相互作用など)を及ぼしあうこという。通常、相互作用をした2つの物質は、会合または結合している状態にある。本開示の検出、検査および診断は、このような相互作用を利用して実現することができる。
【0073】
本明細書中で使用される用語「結合」は、2つの物質の間、あるいはそれらの組み合わせの間での、物理的相互作用または化学的相互作用を意味する。結合には、イオン結合、非イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合、疎水性相互作用などが含まれる。物理的相互作用(結合)は、直接的または間接的であり得、間接的なものは、別のタンパク質または化合物の効果を介するかまたは起因する。直接的な結合とは、別のタンパク質または化合物の効果を介してもまたはそれらに起因しても起こらず、他の実質的な化学中間体を伴わない、相互作用をいう。
【0074】
従って、本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドなどの生物学的因子に対して「特異的に」相互作用する(または結合する)「因子」(または、薬剤、検出剤等)とは、そのポリヌクレオチドまたはそのポリペプチドなどの生物学的因子に対する親和性が、他の無関連の(特に、同一性が30%未満の)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する親和性よりも、代表的には同等またはより高いか、好ましくは有意に(例えば、統計学的に有意に)高いものを包含する。そのような親和性は、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ、結合アッセイなどによって測定することができる。
【0075】
本明細書において第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に」相互作用する(または結合する)とは、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して、第二の物質または因子以外の物質または因子(特に、第二の物質または因子を含む試料中に存在する他の物質または因子)に対するよりも高い親和性で相互作用する(または結合する)ことをいう。物質または因子について特異的な相互作用(または結合)としては、例えば、核酸におけるハイブリダイゼーション、タンパク質における抗原抗体反応、酵素-基質反応など、核酸およびタンパク質の反応、タンパク質-脂質相互作用、核酸-脂質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、物質または因子がともに核酸である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して少なくとも一部に相補性を有することが包含される。また例えば、物質または因子がともにタンパク質である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に」相互作用する(または結合する)こととしては、例えば、抗原抗体反応による相互作用、レセプター-リガンド反応による相互作用、酵素-基質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。2種類の物質または因子がタンパク質および核酸を含む場合、第一の物質または因
子が第二の物質または因子に「特異的に」相互作用する(または結合する)ことには、抗体と、その抗原との間の相互作用(または結合)が包含される。このような特異的な相互作用または結合の反応を利用することにより、試料中の対象物の検出または定量を行うことができる。
【0076】
本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチド発現の「検出」または「定量」は、例えば、検出剤、検査剤または診断剤への結合または相互作用を含む、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、発光イムノアッセイ(LIA)、免疫沈降法(IP)、免疫拡散法(SRID)、免疫比濁法(TIA)、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、NatGenet.2002 Dec;32 Suppl:526-532に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT-PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two-hybridシステム、invitro翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
【0077】
本明細書において「発現量」とは、目的の細胞、組織などにおいて、ポリペプチドまたはmRNA等が発現される量をいう。そのような発現量としては、本開示の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本開示ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本開示において使用されるポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本開示において使用されるポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。あるマーカーの発現量を測定することによって、マーカーに基づく種々の検出または診断を行うことができる。
【0078】
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「減少」または「抑制」あるいはその類義語は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における減少、または減少させる活性をいう。減少のうち「消失」した場合は、活性、発現産物等が検出限界未満になることをいい、特に「消失」ということがある。本明細書では、「消失」は「減少」または「抑制」に包含される。
【0079】
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「増加」または「活性化」あるいはその類義語は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における増加または増加させる活性をいう。
【0080】
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(例えば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、蛍光法、ビオチン法、化学発光法等を挙げることができる。本開示のマーカーまたはそれを捕捉する因子または手段を複数、蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。リガンドを標識する場合、機能に影響を与えないものならば何れも用いることができるが、蛍光物質としては、AlexaTM Fluorが望ましい。AlexaTMFluorは、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、シアニンなどを修飾して得られた水溶性の蛍光色素であり、広範囲の蛍光波長に対応したシリーズであり、他の該当波長の蛍光色素に比べ、非常に安定で、明るく、またpH感受性が低い。蛍光極大波長が10nm以上ある蛍光色素の組み合わせとしては、AlexaTM555とAlexaTM633の組み合わせ、AlexaTM488とAlexaTM555の組み合わせ等を挙げることができる。核酸を標識する場合は、その塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができるが、シアニン色素(例えば、CyDyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、2-アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)等を使用することが好ましい。蛍光発光極大波長の差が10nm以上である蛍光物質としては、例えば、Cy5とローダミン6G試薬との組み合わせ、Cy3とフルオレセインとの組み合わせ、ローダミン6G試薬とフルオレセインとの組み合わせ等を挙げることができる。本開示では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
【0081】
本明細書において使用される場合、「タグ」とは、受容体-リガンドのような特異的認識機構により分子を選別するための物質、より具体的には、特定の物質を結合するための結合パートナーの役割を果たす物質(例えば、ビオチン-アビジン、ビオチン-ストレプトアビジンのような関係を有する)をいい、「標識」の範疇に含まれうる。よって、例えば、タグが結合した特定の物質は、タグ配列の結合パートナーを結合させた基材を接触させることで、この特定の物質を選別することができる。このようなタグまたは標識は、当該分野で周知である。代表的なタグ配列としては、mycタグ、Hisタグ、HA、Aviタグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
本明細書において「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする物質が配置されるべき位置をいう。
【0083】
本明細書において「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
【0084】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬、抗体、標識、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬をどのように使用するか、あるいは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、検査薬、診断薬、治療薬、抗体等の使い方などを記載した指示書などが含まれる。
【0085】
本明細書において「指示書」は、本開示を使用する方法を医師または他の使用者に対する説明を記載したものである。この指示書は、本開示の検出方法、診断薬の使い方、または医薬などを投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、経口、食道への投与(例えば、注射などによる)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本開示が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0086】
本明細書で使用される「細胞内移行(インターナライズ/インターナライゼーション)」とは、細胞表面上の抗原に結合した物質を媒介してエンドサイトーシスまたは食作用によって細胞が抗原に結合した物質を取り込むことを指す。このような活性を有するLSRに結合する物質(例えば、抗LSR抗体)は、LSRを細胞表面に発現する細胞に対して目的の有効成分を細胞内移行させ、目的の有効成分による所望の効果をLSR発現細胞において生じさせることができる。目的の有効成分としては、細胞傷害性活性を有する薬剤、抗がん剤、造影剤、siRNA、アンチセンス核酸、リボザイムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
本明細書において「抗体薬物複合体(ADC)」とは、1つまたは複数の目的の有効成分と化学的に連結された抗体これらの抗原結合フラグメントを指す。好ましい実施形態において、ADCは、リンカーを介して作動可能に連結されている。本明細書において「作動可能に連結されている」とは、連結される物質が予測された様式で作動することが可能な関係にあることを指す。ADCに含まれ得る目的の有効成分としては、以下に限定されないが、細胞傷害性活性を有する薬剤、抗がん剤、造影剤、siRNA、アンチセンス核酸、リボザイムなどが挙げられる。リンカーとして使用され得るものは、開裂型リンカーであっても、非開裂型のリンカーであってもよい。開裂型リンカーとしては、タンパク質分解酵素による切断配列を有するリンカー、酸不安定性のリンカー、ジスルフィドリンカーなどが挙げられるが、これらに限定されない。非開裂型リンカーとしては、MCCリンカーなどが挙げられるが、これに限定されない。
【0088】
本明細書において「細胞傷害活性」とは、例えば、細胞に病理的な変化をもたらすこと、直接的な外傷にとどまらず、DNAの切断や塩基の二量体の形成、染色体の切断、細胞分裂システムの損傷、各種酵素活性の低下などあらゆる細胞の構造や機能上の損傷により、細胞の機能を直接または間接的に遮断することによって細胞死をもたらすことをいう。したがって、「細胞傷害活性を有する薬剤」としては、例えば、以下に限定されないが、アルキル化剤、腫瘍壊死因子阻害剤、インターカレーター、微小管阻害剤、キナーゼ阻害剤、プロテアソーム阻害剤、及びトポイソメラーゼ阻害剤などが挙げられる。
【0089】
本明細書において「50%阻害濃度(IC50)」とは、50%の細胞が死滅させるために必要な化合物の濃度をいう。本明細書では、実施例7に記載の方法を使用してIC50が測定される。
【0090】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0091】
本発明者らは、実施例に示されるように、LSRまたはそのフラグメントに対する結合因子と薬剤との複合体が、高い抗腫瘍効果を有することを見出した。したがって、1つの局面において、本開示は、脂肪分解刺激リポタンパク質受容体(LSR)またはそのフラグメントに対する結合因子と薬剤との複合体を提供する。
【0092】
いくつかの実施形態において、LSRに対する結合因子は、薬剤とリンカーを介して作動可能に連結し得る。特定の実施形態では、リンカーは血中では安定だが、細胞内移行後に切断されるのが好ましい。例えば、リンカーは、血中に存在する酵素では分解されないが、細胞内にのみ存在する酵素によって切断される切断サイトを有するように設計され得る。このようなリンカーとしては、例えば、リソソーム内酵素切断配列を有するリンカー(バリン-シトルリン(Val-Citr))のようなものが挙げられる。当業者であれば、周知の方法を使用して適切な酵素切断部位を有する適切なリンカーを設計することができる。
【0093】
さらなる、特定の実施形態では、本開示の複合体で使用されるリンカーはカテプシン切断配列を含み得る。このようなリンカーとしては、例えば、マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MC-vc-PAB)であり得る。
【0094】
別の実施形態では、本開示の複合体で使用されるリンカーは、酸不安定性リンカーであってもよい。細胞内移行後のエンドソーム内の酸性pHを利用し、酸性で不安定なpHに応答性のリンカーを使用することができる。このようなリンカーとしては、例えば、ヒドラゾンなどが挙げられる。
【0095】
さらなる別の実施形態では、本開示の複合体で使用されるリンカーは、ジスルフィドリンカーであってもよく、このようなリンカーとしては、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)ブタノエート(SPDB)、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)ペンタノエート(SPP)などが挙げられる。
【0096】
本開示の複合体で使用されるリンカーは、非開裂型リンカーであってもよい。非開裂型リンカーとしてはマレイミドメチルシクロヘキサン-1-カルボン酸(MCCリンカー)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
好ましい実施形態において、リンカーは、マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MC-vc-PAB)であり得る。
【0098】
薬剤は、細胞傷害性を有することが知られる任意の薬剤を挙げることができる。そのような例としては、アウリスタチン(モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)など)、メイタンシノイド(DM1、DM4)、カリケアマイシン、デュオカルマイシン、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)、トポイソメラーゼ阻害剤を挙げることができる。当業者であれば、対象とするがんの薬剤に対する感受性に応じて、複合体で使用される薬剤を適切に選択することが可能である。がんに対する薬剤の感受性は当該分野で周知である。また、特定の薬剤に対する特定のがんの感受性が明らかでなかったとしても、当業者は、例えば実施例のように、対象とするがんの細胞株を使用して、薬剤のがん細胞株に対する感受性を容易に調べることができる。
【0099】
また、本開示の複合体は、細胞内に移行することによって細胞傷害性活性が発揮され得る。したがって、ある実施形態では、LSRに結合する物質は、標的細胞に対して細胞内移行する活性を有し得る。他の実施形態では、細胞傷害性活性を有する薬剤自体が細胞透過性を有することで、細胞傷害性活性が発揮され得る。
【0100】
好ましい実施形態において、薬剤は、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)であり得る。
【0101】
いくつかの実施形態において、LSRまたはそのフラグメントに対する結合因子は、抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは機能的等価物であり得る。
【0102】
特定の実施形態では、本開示のLSRまたはそのフラグメントに対する結合因子は、LSRの抑制剤であり得、VLDLによる亢進阻害能をも有することが好ましい。より特定された実施形態では、本開示の抗LSR抗体は、VLDLによる亢進阻害能をも有する抗体である。理論に束縛されることを望まないが、LSRはVLDLを取り込み脂質代謝を亢進させてがん増殖に作用する。すなわち、LSRを発現するがん細胞は、LSRの機能を抑制することで、がん細胞の増殖を抑制することが強化されるものと考えられる。本開示の抗体は、LSRのVLDLのがん細胞内への取り込みを抑制することで、がん細胞の増殖の抑制を強化することができる。したがって、本開示が対象とするがんまたはがん細胞は、VLDLに関連するがんまたは細胞(例えば、実施例で示される癌または癌細胞に関連する癌、卵巣癌等)であってもよい。
【0103】
本開示の抗体は、本開示において別の箇所に記載された具体的な配列であり得る。抗体は、全長配列のCDRを含む任意の配列を含む抗体またはその抗原結合フラグメント、あるいは、以下の配列の可変領域を含む抗体またはその抗原結合フラグメントであって、そのフレームワーク領域において、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、12個、15個、17個、もしくは、20個、またはそれ以上の置換、不可、もしくは、欠失を含む抗体またはその抗原結合フラグメントであってもよい。抗体の製造等については、本開示の他の箇所に記載された実施形態および/または当該分野で公知の手法を用いることができる。なお、本開示の治療または予防の目的では、このような抗体またはそのフラグメントもしくは機能的等価物は、好ましくは、LSRまたはその情報伝達経路の下流の抑制活性を有することが好ましい。そのような活性は、LSRの発現量またはその活性をみるか、あるいは卵巣明細脂肪癌細胞等の悪性腫瘍細胞株を直接使用して細胞の増殖阻害、またはモデル動物に移植して腫瘍の退縮を観察する等をみることで確認してもよい。これらの手法は、当該分野において周知であり、本開示において使用される手法を用いてもよい。
【0104】
本開示の組成物、医薬、治療剤、予防剤等の投与経路は、治療に際して効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、または経口投与等であってもよい。投与形態としては、例えば、注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤等であってもよい。抗体またはポリヌクレオチドを投与する場合には、注射剤として用いることが効果的である。注射用の水溶液は、例えば、バイアル、またはステンレス容器で保存してもよい。また注射用の水溶液は、例えば生理食塩水、糖(例えばトレハロース)、NaCl、またはNaOH等を配合してもよい。また治療薬は、例えば、緩衝剤(例えばリン酸塩緩衝液)、安定剤等を配合してもよい。
【0105】
一般的に、本開示の組成物、医薬、治療剤、予防剤等は、治療有効量の治療剤または有効成分、および薬学的に許容しうるキャリアもしくは賦形剤を含む。本明細書において「薬学的に許容しうる」は、動物、そしてより詳細にはヒトにおける使用のため、政府の監督官庁に認可されたか、あるいは薬局方または他の一般的に認められる薬局方に列挙されていることを意味する。本開示において使用される「キャリア」は、治療剤を一緒に投与する、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。このようなキャリアは、無菌液体、例えば水および油であることも可能であり、石油、動物、植物または合成起源のものが含まれ、限定されるわけではないが、ピーナツ油、ダイズ油、ミネラルオイル、ゴマ油等が含まれる。医薬を経口投与する場合は、水が好ましいキャリアである。医薬組成物を静脈内投与する場合は、生理食塩水および水性デキストロースが好ましいキャリアである。好ましくは、生理食塩水溶液、並びに水性デキストロースおよびグリセロール溶液が、注射可能溶液の液体キャリアとして使用される。適切な賦形剤には、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等が含まれる。組成物は、望ましい場合、少量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝剤もまた含有することも可能である。これらの組成物は、溶液、懸濁物、エマルジョン、錠剤、ピル、カプセル、粉末、持続放出配合物等の形を取ることも可能である。伝統的な結合剤およびキャリア、例えばトリグリセリドを用いて、組成物を座薬として配合することも可能である。経口配合物は、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的キャリアを含むことも可能である。適切なキャリアの例は、E.W.Martin, Remington’s Pharmaceutical Sciences (Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)に記載される。このような組成物は、患者に適切に投与する形を提供するように、適切な量のキャリアと一緒に、治療有効量の療法剤、好ましくは精製型のものを含有する。配合物は、投与様式に適していなければならない。これらのほか、例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含んでいてもよい。
【0106】
本開示の抗体、複合体、組成物等を医薬として投与する場合、種々の送達(デリバリー)系が知られ、そしてこのような系を用いて、本開示の治療剤を適切な部位(例えば、食道)に投与することも可能であり、このような系には、例えばリポソーム、微小粒子、および微小カプセル中の被包:治療剤(例えば、ポリペプチド)を発現可能な組換え細胞の使用、受容体が仲介するエンドサイトーシスの使用;レトロウイルスベクターまたは他のベクターの一部としての療法核酸の構築などがある。導入法には、限定されるわけではないが、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻内、硬膜外、および経口経路が含まれる。好適な経路いずれによって、例えば注入によって、ボーラス(bolus)注射によって、上皮または皮膚粘膜裏打ち(例えば口腔、直腸および腸粘膜など)を通じた吸収によって、医薬を投与することも可能であるし、必要に応じてエアロゾル化剤を用いて吸入器または噴霧器を使用しうるし、そして他の生物学的活性剤と一緒に投与することも可能である。投与は全身性または局所であることも可能である。本開示が卵巣領域で使用される場合、さらに、卵巣等の患部に直接注入する等、適切な経路いずれかによって投与されうる。
【0107】
好ましい実施形態において、公知の方法に従って、ヒトへの投与に適応させた医薬組成物として、組成物を配合することができる。このような組成物は注射により投与することができる。代表的には、注射投与のための組成物は、無菌等張水性緩衝剤中の溶液である。必要な場合、組成物はまた、可溶化剤および注射部位での疼痛を和らげるリドカインなどの局所麻酔剤も含むことも可能である。一般的に、成分を別個に供給するか、または単位投薬型中で一緒に混合して供給し、例えば活性剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密封容器中、凍結乾燥粉末または水不含濃縮物として供給することができる。組成物を注入によって投与しようとする場合、無菌薬剤等級の水または生理食塩水を含有する注入ビンを用いて、分配することも可能である。組成物を注射によって投与しようとする場合、投与前に、成分を混合可能であるように、注射用の無菌水または生理食塩水のアンプルを提供することも可能である。
【0108】
本開示の組成物、医薬、治療剤、予防剤を中性型または塩型あるいは他のプロドラッグ(例えば、エステル等)で配合することも可能である。薬学的に許容しうる塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する遊離型のカルボキシル基とともに形成されるもの、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどの遊離型のアミン基とともに形成されるもの、並びにナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、および水酸化第二鉄などに由来するものが含まれる。
【0109】
特定の障害または状態の治療に有効な本開示の治療剤の量は、障害または状態の性質によって変動しうるが、当業者は本明細書の記載に基づき標準的臨床技術によって決定可能である。さらに、場合によって、in vitroアッセイを使用して、最適投薬量範囲を同定するのを補助することも可能である。配合物に使用しようとする正確な用量はまた、投与経路、および疾患または障害の重大性によっても変動しうるため、担当医の判断および各患者の状況に従って、決定すべきである。しかし、投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり0.001、1、5、10、15、100、または1000mg/kg体重であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1、7、14、21、または28日あたりに1または2回投与してもよく、それらいずれか2つの値の範囲あたりに1または2回投与してもよい。投与量、投与間隔、投与方法は、患者の年齢や体重、症状、対象臓器等により、適宜選択してもよい。また治療薬は、治療有効量、または所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。悪性腫瘍マーカーが、投与後に有意に減少した場合に、治療効果があったと判断してもよい。
【0110】
本開示の一実施形態において「患者」は、ヒト、またはヒトを除く哺乳動物(例えば、マウス、モルモット、ハムスター、ラット、ネズミ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、マーモセット、サル、またはチンパンジー等の1種以上)を含む。また患者は、LSR陽性悪性腫瘍を発症していると判断または診断された患者であってもよい。このとき、判断または診断は、LSRのタンパク質レベルを検出することにより行われることが好ましい。
【0111】
本開示の医薬組成物または治療剤もしくは予防剤はキットとして提供することができる。
【0112】
特定の実施形態では、本開示は、本開示の抗体、複合体、組成物または医薬の1以上の成分が充填された、1以上の容器を含む、薬剤パックまたはキットを提供する。場合によって、このような容器に付随して、医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形で、政府機関による、ヒト投与のための製造、使用または販売の認可を示す情報を示すことも可能である。
【0113】
別の実施形態では、前記抗LSR抗体は、LSRのエピトープに特異的に結合する抗LSR抗体でありうる。より詳細には、抗体は、配列番号7の116~135位および/または216~230位をエピトープとして有するものであってもよい。
【0114】
本開示一実施形態は、(a)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号1の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~230位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(b)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号2の31~35位、50~66位、99~103位、152~165位、182~188位、および221~230位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(c)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号3の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(d)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号4の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、(e)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号5の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、および(f)重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、および3が、それぞれ配列番号6の31~35位、50~66位、99~104位、153~165位、182~188位、および221~229位で示されるアミノ酸配列を含む抗体、からなる群から選ばれる1種以上の抗体、あるいは該抗体の変異体であって、該変異体において該抗体のフレームワークに1または数個の置換、付加もしくは欠失を含むが、該CDRには変異を含まない、変異体である、抗LSR抗体でありうる。この抗LSR抗体を用いれば、LSR陽性悪性腫瘍細胞の増殖を特に効果的に抑制することができる。また、効率的にLSR陽性悪性腫瘍の診断をすることができる。また本開示の別の実施形態は、上に列挙した重鎖CDR1、2、および3のアミノ酸配列のセットのうち、少なくとも1つのセットを含む抗LSR抗体である。これらの抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、およびscFv-Fcから選択される抗体であってもよい。
【0115】
別の実施形態において、LSRに対する結合性を維持しつつ、抗体の6つのCDRのうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つのCDRに1または数個の置換、付加もしくは欠失を含んでもよい。別の実施形態において、3つ以下、好ましくは2つ以下、より好ましくは1つのCDRに2つ以下、好ましくは1つの置換、付加もしくは欠失を含み得る。好ましい実施形態において、置換は保存的置換であり得る。
【0116】
本開示の一実施形態に係る抗LSR抗体は、重鎖CDR1、2、および3、ならびに軽鎖CDR1、2および3のアミノ酸配列のセットを含み、さらに、重鎖FR1、2、3、4、軽鎖FR1、2、3、および4のうち少なくとも1つ、好ましくは2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、あるいはすべてのフレームワークが配列番号1~6のいずれかのものと同一または実質的に同一あるいは保存的置換を除き同一であるものであり得る。1種以上の抗体であってもよい。また本開示の別の実施形態は、上に列挙した重鎖FR1、2、3、および4のアミノ酸配列のセットのうち、少なくとも1つのセットを含む抗LSR抗体である。
【0117】
本開示の一実施形態に係る抗LSR抗体は、scFvの形態であってもよく、その場合、重鎖と軽鎖間のリンカーが、配列番号1の116~132位、配列番号2の116~132位、配列番号3の116~132位、配列番号4の116~132位、配列番号5の116~132位、または配列番号6の116~132位で示されるアミノ酸配列を有していてもよい。
【0118】
なお、後述する実施例に記載の#9-7、#16-6、No.26-2、No.27-6、No.1-25、No.1-43のVHは、それぞれ配列番号1の1~115位、配列番号2の1~115位、配列番号3の1~115位、配列番号4の1~115位、配列番号5の1~115位、配列番号6の1~115位である。また、後述する実施例に記載の#9-7、#16-6、No.26-2、No.27-6、No.1-25、およびNo.1-43のVLは、それぞれ配列番号1の133~238位、配列番号2の133~239位、配列番号3の133~238位、配列番号4の133~238位、配列番号5の133~238位、配列番号6の133~238位である。
【0119】
上に列挙したアミノ酸配列は、抗LSR抗体が所望の効果を有する限り、(i)上記のアミノ酸配列において、1または数個の塩基配列が欠失、置換、挿入、もしくは付加しているアミノ酸配列、(ii)上記のアミノ酸配列に対して、90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列、および(iii)上記のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列、からなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列であってもよい。
【0120】
本開示の一実施形態に係る抗LSR抗体をコードするポリヌクレオチドまたはベクターを細胞に導入することによって、形質転換体を作成できる。この形質転換体を用いれば、本開示の実施形態に係る抗LSR抗体を作製できる。形質転換体は、ヒトまたはヒトを除く哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ウシ、サル等)の細胞であってもよい。哺乳動物細胞としては、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、サル細胞COS-7などが挙げられる。または、形質転換体はEscherichia属菌、酵母等であってもよい。
【0121】
上記のベクターとしては、例えば大腸菌由来のプラスミド(例えばpET-Blue)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110)、酵母由来プラスミド(例えばpSH19)、動物細胞発現プラスミド(例えばpA1-11、pcDNA3.1-V5/His-TOPO)、λファージなどのバクテリオファージ、ウイルス由来のベクターなどを用いることができる。これらのベクターは、プロモーター、複製開始点、または抗生物質耐性遺伝子など、タンパク質発現に必要な構成要素を含んでいてもよい。ベクターは発現ベクターであってもよい。
【0122】
上記のポリヌクレオチドまたはベクターの細胞への導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、アデノウイルスによる方法、レトロウイルスによる方法、またはマイクロインジェクションなどを使用できる(改訂第4版新 遺伝子工学ハンドブック, 羊土社(2003):152-179.)。抗体の細胞を用いた生産方法としては、例えば、"タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):128-142."に記載の方法を使用できる。抗体の精製においては、例えば、硫酸アンモニウム、エタノール沈殿、プロテインA、プロテインG、ゲルろ過クロマトグラフィー、陰イオン、陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、またはレクチンクロマトグラフィーなどを用いることができる(タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):27-52.)。
【0123】
別の局面において、本開示は、抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントと、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)の複合体であって、該抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントが、該MMAEとリンカーを介して作動可能に連結されており、該抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントが、本開示に別の箇所に記載の特定の配列(配列番号1~6)に記載のCDR配列を有する抗体であり、該リンカーが、マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MC-vc-PAB)である、複合体を提供する。好ましい実施形態において、抗LSR抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2に記載のCDR配列を含む。シスプラチンなどでは腫瘍消失が得られる投与量では腎臓への毒性による体重減少など副作用が生じるが、本開示の複合体は、後述する実施例において示されるように、毒性を示すことなく、腫瘍を退縮させほぼ消失させることができ、極めて高い抗腫瘍効果を示した。
【0124】
さらなる局面において、本開示の複合体を含む、悪性腫瘍を治療または予防するための組成物を提供する。悪性腫瘍は、LSR陽性であり得る。悪性腫瘍は、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、胃癌、子宮内膜癌または大腸癌であり得、これらはLSR陽性であり得る。
【0125】
さらなる局面において、LSRの検出試薬を含む、本開示の複合体、組成物、医薬等による治療を必要とするかどうかを判断するためのコンパニオン試薬を提供する。
【0126】
さらなる局面において、LSRの検出試薬と、本開示の複合体、組成物、医薬等と、指示書とを含む、悪性腫瘍を治療または予防するためのキットを提供する。
【0127】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0128】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0129】
以下、本開示を実施例によりさらに説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0130】
実施例1:FACSおよびウェスタンブロット法によるLSRの発現解析
FACS解析
卵巣癌細胞株(OVCAR3, OVCAR3-Luc、ES-2)について、FACS解析によりLSRの発現を解析した。マウス抗LSR抗体(#16-6)を1次抗体として用い、2次抗体としてはFITC標識GoatAnti-Mouse IgG (H+L chain specific)(southern biothech社)を用い、FACS CantoII (BD社)を用いて測定し、測定データは、FlowJoTMソフトウェア (Tree star社)を用いて解析した。
【0131】
ウェスタンブロット解析
10 cm plateに撒いた細胞株が90%コンフルエント程度に達した後、培養上清を捨て、氷冷PBSで洗浄後、セルスクレイパーで細胞を剥がして回収し、にRIPA buffer (10 mM Tris-HCl,pH 7.5, 150 mM NaCl, 1% Nonidet P-40, 0.1% sodium deoxycholate, 0.1% SDS, 1×phosphatase inhibitor cocktail (Nacalai Tesque) and 1×protease inhibitor cocktail (Nacalai Tesque))を用いてタンパク質抽出を行い、ウェスタンブロット法によりタンパク質発現差の解析を行った。一次抗体は以下のものを用いた。抗LSR抗体(CST #14804)、抗beta-actin抗体(sc-69879) (Santa Cruz Biotechnology (Santa Cruz, CA))。
【0132】
(結果)
卵巣癌細胞株OVCAR3、OVCAR3-Luc、ES2に対してFACSおよびウェスタンブロット法でLSRの発現を解析した結果、いずれの解析手法においてもOVCAR3、OVCAR3-LucにおいてLSRの発現が陽性、ES2においてLSRの発現が陰性であることが確認された(
図1)。
【0133】
実施例2:抗LSR抗体とMMAF結合2次抗体を組み合わせたADCアッセイ
96ウェルプレートに5000個のOVCAR3細胞を80μlで添加した。一晩、37度、5%CO2インキュベーターで培養し、翌日、最終濃度に対して10倍濃縮した一次抗体および抗がん剤結合二次抗体を1ウェルあたり10μlずつ添加して合計100μlとした。37度、5%CO2インキュベーターで6日間培養してCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay試薬を用いてATP量を検出することで細胞の生存を測定した。培地は、RPMI1640+10%FBS+1%PSを使用した。一次抗体の最終濃度は、0、0.004、0.0156、0.0625、0.25および1.0nMとした。二次抗体は、0.75μg/mlのFab-aMFc-CL-MMAF(型番AM202AF-50、Moradec)を使用した。
【0134】
(結果)
発明者等はヒトLSRに対するニワトリマウスキメラモノクローナル抗体を複数クローン開発した(特許第6372930号)。その後の解析の結果、ニワトリマウスキメラ抗LSRモノクローナル抗体をLSR陽性卵巣癌細胞株に添加すると、細胞内へインターナライズする活性が高いクローンとして、クローン#16-6を発見した(
図2)。そこで、本抗体にリンカーを介して抗癌剤をコンジュゲートしたLSRを認識する抗体薬物複合体(LSR-ADC(MMAE))を癌患者に投与すると、抗癌剤を癌細胞特異的に輸送することが出来ると考えた。
【0135】
実施例3:ADCの作製
例示的なADCの構造の概略図を
図3に示す。ニワトリマウスキメラ抗LSRモノクローナル抗体(#16-6)に、
図3に示すようにシステイン残基に、カテプシンBにより切断される切断型リンカーを介してバイスタンダー効果を有するペイロードであるMMAEをコンジュゲートした。
【0136】
ADCの作製
本開示のADCは以下のとおり作製した。
・抗LSR抗体#16-6を25.67ml(4.81ml/ml)ストックに濃縮した。mAbを37℃でTCEPにより還元し、次いで、マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル-モノメチルアウリスタチンE(MC-vc-PAB-MMAE)と反応させた。コンジュゲートは、最初に37℃でTCEPによりmAbの鎖間ジスルフィド結合を還元し、次いで薬物のマレイミド部分を還元されたシステインに結合させるマレイミド-システインベースの方法で行った。
・ADCをSephadex G50カラムで脱塩し、未反応の毒素を取り除き、次いで、PBSにバッファーを交換した。その後、ADCをろ過滅菌して滅菌PBSバッファーで1mg/mlに希釈し、1mlチューブに分画した後、4℃で保存した。
・A248nm:A280nmの比で決定された薬物-抗体比(DAR)は、αLSR-CL-MMAEについては2.8であった。
【0137】
実施例4:LSR-ADCと未標識抗体のFACSによる抗原親和性解析
抗体を用いたFACS解析を行うにあたり、LSR陽性細胞として、ヒト卵巣癌細胞株(OVCAR3)細胞を用いた。抗LSR抗体(#16-6)および実施例3で作製したLSR-ADC(MMAE)を、濃度を振って1次抗体として用い、2次抗体としてはGoat Anti-Mouse IgG (H+L chain specific) Fluorescein (FITC) Conjugate (型番1031-02、Southernbiotech社)を用い、FACS CantoII (BD社)を用いて測定し、測定データはBD FACSDiva software (BD社)を用いて解析した。
【0138】
(結果)
ニワトリマウスキメラ抗LSRモノクローナル抗体(#16-6)にペイロードをコンジュゲートしたことによる抗原親和性への影響について、LSR発現陽性のOVCAR3細胞を用いて、抗体濃度依存的な結合能をFACS解析により評価した。その結果、LSR-ADC(MMAE)はニワトリマウスキメラ抗LSRモノクローナル抗体(#16-6)と同等のKD値を示したため、ペイロードのコンジュゲートにより抗原親和性の大きな低下は起きていないことが確認された(
図4)。
【0139】
実施例5:FACSによる抗LSR抗体(#16-6)の細胞内インターナライズアッセイ
ニワトリマウスキメラ抗LSRモノクローナル抗体(#16-6)がどのくらいの速度で細胞内にインターナライズするのかを、OVCAR3細胞を用いてFACS解析により測定した。その結果、ニワトリマウスキメラ抗LSRモノクローナル抗体(#16-6)は細胞に結合させて1時間で80%程度が細胞内にインターナライズするという結果が得られた(
図5)。
【0140】
実施例6:抗LSR抗体(#16-6)およびLSR-ADC(MMAE)の細胞内の局在
本実施例では、抗LSR抗体(#16-6)および実施例3で作製したLSR-ADC(MMAE)について、LSR陽性OVCAR3細胞株を用いてインターナライズした際の抗LSR抗体(#16-6)およびLSR-ADC(MMAE)の細胞内の局在を、蛍光顕微鏡を用いて調べた。
【0141】
18mm microcover glass (matsunami)を入れた12ウェルプレート(Corning: 3513)にOVCAR3細胞を7.5 x 104 cells/well (1ml/well)で播種し、37度、5%CO2インキュベーターで細胞を一晩培養した。
【0142】
翌日、培地を除去し、ウェルに1.0mlの氷冷RPMI1640+10%FBS+100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシンを加え、4度で1時間インキュベートし、細胞のインターナライズ活性を下げた。
【0143】
続いて、ウェル内部の培地を除去し、10 μg/mlの1次抗体(氷冷した抗LSR抗体(#16-6)およびLSR-ADC(MMAE)を500 μl/well添加し、4度で15分インキュベートした。
15分後に抗体溶液をアスピレートし、1.0mlの氷冷RPMI1640+10%FBS + 100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシンを加え、細胞を洗浄した。この時点のサンプルを0時間サンプル(0h)として回収した。
【0144】
インターナライズさせるサンプルについては、溶液をアスピレートし、1.0mlのRPMI1640+10%FBS+100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシン(37度で温めたもの)を加え37度、5%CO2インキュベーターで2時間培養し、この時点のサンプルを2時間サンプル(2h)として回収した。
【0145】
0時間および2時間の時点でのサンプルについては、ウェル内の培地を除去し、1ml氷冷PBSで細胞を洗浄した。
【0146】
次に、1mlの100%(氷冷)メタノールを加え、-20度で15分インキュベートすることで細胞を固定した。固定した後、1mlのPBSで3回洗浄し、1%BSA, 0.3% Triton X-100/PBS(-)を1ml加え、1時間、室温でブロッキング処理をした。ブロッキング後、溶液を除去し、1%BSA,0.3% Triton X-100/PBS(-)で100倍希釈した1次抗体(Anti-CD107a mAb (CST社 型番#9091 LAMP1 (D2D11) XP(登録商標) Rabbit mAb))を0.5 ml/well添加し、4度で遮光して一晩反応させた。
【0147】
1次抗体反応を一晩行った後、1mlのPBSで3回洗浄し、1%BSA, 0.3% Triton X-100/PBS(-)で200倍希釈したDonkey anti-Mouse IgG (H+L) Highly Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa488 (Life technology社, A21202)と200倍希釈したdonkey-anti-Rabbit IgG-Alexa647(Life technology社,A31573)を0.5ml/wellずつ添加し、室温、遮光して1時間反応させた。
【0148】
2次抗体反応後、1mlのPBSで3回洗浄し、細胞が接着したカバーガラスを取り出し、スライドガラス上で、Vectashield (vectashield H1200)で封入し、オールインワン蛍光顕微鏡(キーエンス社、BZ-X800)で観察した。
【0149】
本開示のADCが抗腫瘍効果を発揮するにはリソソーム内の酵素のカテプシンBによりADCのリンカー部分が切断される必要がある。そこで、細胞内局在について、リソソームマーカーであるCD107aと抗LSR抗体またはLSR-ADCとの局在を蛍光二重染色法で評価した。その結果、ニワトリマウスキメラ抗LSRモノクローナル抗体(#16-6)およびLSR-ADC(MMAE)はいずれもCD107aと共局在したことから、ニワトリマウスキメラ抗LSRモノクローナル抗体(#16-6)およびLSR-ADC(MMAE)はLSRと結合した後、リソソームに移行することが確認された(
図6)。
【0150】
実施例7:LSR-ADC(MMAE)を用いたin vitro ADCアッセイ
具体的には、以下のとおりアッセイを行った。
(1)細胞をThermo Fisher Scientific社の96ウェルホワイトプレート(型番136101)にまいた(細胞懸濁液90μL)。培地はRPMI1640+10%FBS+100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシンを使用した(OVCAR3とOVCAR3-Luc細胞はRPMI1640+10%FBS+100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシン、ES2はMcCoy's 5aMedium+10%FBS+100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシン、Ho-1-u-1はDMEM/F12+10%FBS+100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシンを用いた)。細胞をプレート中央の60ウェルにまき、培地100μLを外側の36ウェルに添加した。37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。
(2)翌日、細胞に実施例3で作製したADCを10μL加えた(総量100μL)
(3)144時間培養後、CellTiter-Glo(登録商標)Luminescence Cell Viability Assay試薬(Promega社)を100μL/ウェル加え混合した。
(4)プレートリーダーで測定した。
(5)GraphPad Prism6で解析した。
【0151】
IC50値は以下の式から計算した(Hossain MM, Hosono-Fukao T, Tang R, Sugaya N, van Kuppevelt TH, Jenniskens GJ, Kimata K, Rosen SD, Uchimura K (2010) Direct detection of HSulf-1 and HSulf-2 activities on extracellular heparan sulphate and their inhibition by PI-88. Glycobiology 20(2): 175-186.)。
IC50=10^(Log[A][B]×(50-C)/(D-C)+Log[B])
A:50%を挟む高い濃度
B:50%を挟む低い濃度
C:Bでの阻害率
D:Aでの阻害率。
【0152】
実施例8:FACSによるLSR発現解析
胃癌細胞株(AGS、KATOIII)について、FACS解析によりLSRの発現を解析した。マウス抗LSR抗体(#16-6)を1次抗体として用い、2次抗体としてはFITC標識GoatAnti-Mouse IgG (H+L chain specific)(southern biothech社)を用い、FACS CantoII (BD社)を用いて測定し、測定データは、FlowJoTMソフトウェア (Tree star社)を用いて解析した。
【0153】
LSR-ADC(MMAE)の薬効評価
細胞をThermo Fisher Scientific社の96ウェルホワイトプレート(型番136101)にまいた(細胞懸濁液90μL)。培地はRPMI1640+10%FBS+100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシンを使用した。細胞をプレート中央の60ウェルにまき、培地100μLを外側の36ウェルに添加した。37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。
【0154】
翌日、細胞にADCを10μL加えた(総量100μL)。144時間培養後、CellTiter-Glo(登録商標)Luminescence Cell Viability Assay試薬(Promega社)を100μL/ウェル加え混合した。プレートリーダーで発光値を測定した。解析は、GraphPad Prism6で行った。
【0155】
IC50値は以下の式から計算した(Hossain MM, Hosono-Fukao T, Tang R, Sugaya N, van Kuppevelt TH, Jenniskens GJ, Kimata K, Rosen SD, Uchimura K (2010) Direct detection of HSulf-1 and HSulf-2 activities on extracellular heparan sulphate and their inhibition by PI-88. Glycobiology 20(2): 175-186.)。
IC50=10^(Log[A][B]×(50-C)/(D-C)+Log[B])
A:50%を挟む高い濃度
B:50%を挟む低い濃度
C:Bでの阻害率
D:Aでの阻害率。
【0156】
(結果)
作成したLSR-ADC(MMAE)の薬効の評価を試みた。LSR陽性の卵巣癌細胞株としてOVCAR3細胞、胃癌細胞株としてAGS、KATOIII、および、LSRの発現が陰性のES2細胞を用いてin vitro ADC assayを行った。その結果、LSR-ADC(MMAE)はLSR陽性癌細胞株に対して薬効を発揮したが、LSR陰性癌細胞株には薬効を示さなかったため、LSR-ADC(MMAE)がLSR発現依存的に薬効を示すことが確認された(
図7,8)。
【0157】
実施例9:細胞周期解析
OVCAR3細胞を6ウェルプレートに20,000cells/well撒き、37℃のCO2インキュベーターにて一晩インキュベートした。6ウェルプレートの細胞上清を除き、RPMI 1640培地(1% FBSおよび1% penicillin-streptomycin含有)で16 nMの濃度となるように実施例3で作製したLSR-ADC(MMAE)あるいはcontrol-ADC(MMAE)を加えた。また、コントロールとして、非抗LSR抗体であるマウスIgG2(biolegend社、400224、MOPC-173)を使用した。抗体添加後、96時間後にCycle Test Plus DNA Reagent kits (BD Biosciences)を用いて細胞内のDNAを染色し、FACSCanto flow cytometerを用いて細胞周期解析を実施した。
【0158】
(結果)
LSR-ADC(MMAE)はOVCAR3細胞に対してG2/M期での細胞周期停止を誘導した(
図9)。ADCのペイロードががん細胞に作用してG2/M期にて細胞周期を停止させるとがん細胞の増殖が停止し、がん患者の生存期間延長に貢献し得る。
【0159】
実施例10:Caspase 3/7活性測定
細胞をThermo Fisher Scientific社の96ウェルホワイトプレート(型番136101)に撒いた(細胞懸濁液90μL)。培地はRPMI1640+10%FBS+100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシンを使用した。細胞をプレート中央の60ウェルにまき、培地100μLを外側の36ウェルに添加した。37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。
【0160】
翌日、細胞に実施例3で作製したADCを10μL加えた(総量100μL)。144時間培養後、Caspase-Glo(登録商標) 3/7 Assay System-試薬(Promega社)を100μL/ウェル加え混合し、遮光して室温で1時間反応した。プレートリーダーで発光値を測定した。
【0161】
(結果)
LSR-ADC(MMAE)はOVCAR3、AGS、KATOIII細胞に対してcaspase3/7活性上昇によるアポトーシスを誘導することが確認された(
図10,11)。ADCのペイロードががん細胞に作用してカスパーゼ活性を増加させ、がん細胞のアポトーシスを誘導し、がん患者の生存期間延長に貢献し得る。
【0162】
実施例11:卵巣癌細胞株を用いたLSR―ADCのin vivoでの薬効試験
図12は、OVCAR3皮下移植モデルを用いたin vivo薬効試験の模式図を示す
具体的には、6週齢のSCID雌性マウスにOVCAR3細胞株を5.0×10
6個皮下移植し、移植後腫瘍サイズが約120mm
3となったところで、コントロールとしてPBS、実施例3で作製したLSR-ADC(1mg/kg)、LSR-ADC(3mg/kg)、およびLSR-ADC(10mg/kg)の投与を開始した。
図12の実験概要に記載の時点で薬剤の尾静脈内投与、腫瘍体積計測、体重測定を実施した。
【0163】
OVCAR3の皮下腫瘍形成後に、(1)PBS、(2)LSR-ADC 1mg/kg、3mg/kgおよび10mg/kgを1回尾静脈内投与し、24時間後に腫瘍を摘出した。パラフィン包埋組織の薄切を脱パラフィン後、アルコールによる脱水を行った。Phospho-Histon H3(Ser10)に対する免疫組織化学染色法を抗Phospho-Histon H3(Ser10)抗体(Cell Signaling Technology:#9701)とChemMate Envision kit HRP 500T(Dako社:K5007)を用いて行った。
【0164】
(結果)
LSR陽性のOVCAR3細胞をSCIDマウスの皮下に移植したゼノグラフトマウスに薬剤を週2回で合計4回静脈内投与した(
図12)。その結果、LSR-ADC(MMAE)はOVCAR3ゼノグラフトマウスに対して濃度依存的な強力な抗腫瘍効果を発揮した(
図13)。特に10mg/kgのLSR-ADC(MMAE)の投与群では、腫瘍をほぼ消失した。この際、体重減少など認められなかったため(
図14)、LSR-ADC(MMAE)は特徴的な毒性を示さなかった。従来の治療薬(例えば、シスプラチン等)では腫瘍消失が得られる投与量では腎臓への毒性による体重減少など副作用が生じるが、本開示のADCは、毒性を示すことなく、腫瘍消失という高い抗腫瘍効果を示した。OVCAR3ゼノグラフトマウスにPBSおよび1 mg/kg, 3mg/kg, 10 mg/kgのLSR-ADC(MMAE)を投与し、24時間後に摘出した腫瘍組織に対してG2/M期細胞周期マーカーであるphospho-histone H3(Ser10)の発現を免疫組織化学染色法にて解析し、総細胞数に対するphospho-histone H3(Ser10)陽性細胞数の割合を調べた。その結果、LSR-ADC(MMAE)は濃度依存的にphospho-histone H3(Ser10)陽性細胞の割合を上昇させたことから、抗LSR抗体により癌細胞に抗癌剤が輸送されたことが確認された(
図15)。
【0165】
実施例12:卵巣癌PDXマウスを用いたin vivo薬効試験
図16は、卵巣癌PDXマウスを用いたin vivo薬効試験の模式図を示す
卵巣癌PDX(Patient-derived tumor xenograft)は、卵巣癌患者由来の卵巣癌手術時の癌組織の病理解析の残余組織をいう。本実施例では、NOGマウスなど超免疫不全マウスの皮下に移植して作成した卵巣癌PDXモデルを使用した。SCIDマウスではヒト腫瘍を移植しても生着しにくいが、NOGマウスはSCIDマウスよりも更に重度な免疫不全マウスのため、ヒト腫瘍が生着しやすい。そのため、細胞株を移植したマウスモデルよりも、PDXモデルはヒトの腫瘍に近い環境があるため、PDXモデルで得られた情報は薬効評価に役立つ。
【0166】
(卵巣癌PDXのLSR発現の確認)
パラフィン包埋組織の薄切を脱パラフィン後、アルコールによる脱水を行った。LSRに対する免疫組織化学染色法は抗LSR抗体(CST #14804)とChemMate Envision kit HRP 500T(Dako社:K5007)を用いて行った。
【0167】
具体的には、6週齢のNOG雌性マウスに卵巣癌PDX(Ovx6)を皮下移植し、移植後腫瘍サイズが約100mm
3となったところで、コントロールとしてPBS、実施例3で作製したLSR-ADC(1mg/kg)、LSR-ADC(3mg/kg)、およびLSR-ADC(10mg/kg)の投与を開始した。
図16の実験概要に記載の時点で薬剤の尾静脈内投与、腫瘍体積計測、体重測定を実施した。
【0168】
(結果)
LSR陽性の卵巣癌患者手術組織をNOGマウスの皮下に移植した卵巣癌PDXマウス(Ovx6)を作成し、薬剤を週2回で合計4回静脈内投与した(
図16)。その結果、LSR-ADC(MMAE)はOvx6に対して濃度依存的な強力な抗腫瘍効果を発揮した(
図17)。特に10mg/kgのLSR-ADC(MMAE)の投与群では、腫瘍をほぼ消失した。この際、体重減少など認められなかったため(
図18)、LSR-ADC(MMAE)は特徴的な毒性を示さなかった。従来の治療薬(例えば、シスプラチン等)では腫瘍消失が得られる投与量では腎臓への毒性による体重減少など副作用が生じるが、本開示のADCは、毒性を示すことなく、腫瘍消失という高い抗腫瘍効果を示した。
【0169】
実施例13:OVCAR3-Luc腹膜播種モデルを用いたin vivo薬効試験
図19は、OVCAR3-Luc腹膜播種モデルを用いたin vivo薬効試験の模式図を示す。
【0170】
具体的には、6週齢のSCID雌性マウスにOVCAR3-Luc細胞株を1.0×107個腹腔内投与移植し、腹膜播種モデルを作成した。移植後、ルシフェリンを週1回の頻度で腹腔内投与し、IVIS-Lumina(Xenogen Corporation)を用いて発光値を測定することで腫瘍細胞の増殖をモニターした。発光値が5×105~2×107phot/secに達した時点で群分けし、PBS、実施例3で作製したLSR-ADC(10mg/kg)の投与を開始した。生存期間の解析はカプラン・マイヤー法を用いて実施した。
【0171】
(結果)
卵巣癌は進行期には腹膜播種を形成することが多く、有効な治療法もないため予後不良の原因の一つである。LSR陽性のOVCAR3-Luc細胞をSCIDマウスの腹腔内に投与して腹膜播種モデルを作成し、ルシフェリンを腹腔内投与した後、IVIS Luminaを用いてルシフェラーゼ活性を測定し、播種を形成した腫瘍の増殖をモニターした(
図19)。OVCAR3-Luc腹膜播種モデルマウスに薬剤を週2回で合計4回静脈内投与した結果、PBS投与群と比較してLSR-ADC(MMAE)投与群ではOVCAR3-Luc腹膜播種モデルマウスに対して有意な腫瘍増殖阻害効果が得られ、有意な生存期間の延長効果が認められた(
図20,21)。
【0172】
これらの結果は、LSRを発現する卵巣癌など難治性固形癌に対して、LSRを標的としたADCは優れた有効性と安全性が高い画期的な治療薬の開発につながることを示唆している。
【0173】
以上、本開示を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0174】
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。