(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068994
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】レーザピーニング装置及びレーザピーニング方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/356 20140101AFI20240514BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20240514BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B23K26/356
B23K26/064 K
B23K26/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179726
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100118474
【弁理士】
【氏名又は名称】寺脇 秀▲徳▼
(74)【代理人】
【識別番号】100141911
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 譲
(72)【発明者】
【氏名】千田 格
(72)【発明者】
【氏名】今崎 一人
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AC02
4E168AD18
4E168CA13
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA06
4E168DA24
4E168DA38
4E168EA13
4E168EA17
4E168EA24
4E168FB09
4E168FC01
4E168KA04
(57)【要約】
【課題】一端が封止された孔の内面に圧縮応力を付与することのできるレーザピーニング装置及びレーザピーニング方法を提供する。
【解決手段】
一端が封止された被加工物である孔20の内面にレーザピーニングを行うレーザピーニング装置50であって、パルスレーザ光2を射出するレーザ発振器1と、前記レーザ発振器1から射出された前記パルスレーザ光2を前記被加工物である孔20の表面まで伝送するレーザ光伝送機構21と、前記孔20の内部に流体18を供給するための流体供給機構6と、から構成され、前記レーザ光伝送機構21として光ファイバ40にこの光ファイバ40の断面積より入射側の受光面積が大きいエンドキャップ41を融着したエンドキャップファイバ22を用いることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が封止された被加工物である孔の内面にレーザピーニングを行うレーザピーニング装置であって、
パルスレーザ光を射出するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器から射出された前記パルスレーザ光を前記被加工物である孔の表面まで伝送するレーザ光伝送機構と、
前記孔の内部に流体を供給するための流体供給機構と、
から構成され、
前記レーザ光伝送機構として光ファイバにこの光ファイバの断面積より入射側の受光面積が大きいエンドキャップを融着したエンドキャップファイバを用いることを特徴とするレーザピーニング装置。
【請求項2】
前記被加工物表面に対向する前記エンドキャップファイバの先端に衝撃波から前記エンドキャップファイバを保護するファイバ先端保護機構を具備することを特徴とする請求項1記載のレーザピーニング装置。
【請求項3】
前記ファイバ先端保護機構としてサファイアを用いることを特徴とする請求項2記載のレーザピーニング装置。
【請求項4】
前記エンドキャップファイバの先端と前記ファイバ先端保護機構との間に中間層として液体を封入配置したことを特徴とする請求項2または請求項3記載のレーザピーニング装置。
【請求項5】
前記被加工物表面に対向する前記エンドキャップファイバの先端に、このエンドキャップファイバ先端から照射されたレーザ光を平行光に成形するコリメートレンズユニットを具備することを特徴とする請求項1記載のレーザピーニング装置。
【請求項6】
前記エンドキャップファイバの先端からレーザ照射位置までの距離を計測する位置確認機構を具備し、この位置確認機構によって計測された前記エンドキャップファイバの先端からレーザ照射位置までの距離によって前記エンドキャップファイバを移動して前記パルスレーザ光の焦点位置を変更可能とすることを特徴とする請求項1記載のレーザピーニング装置。
【請求項7】
前記ファイバ先端保護機構の先端からレーザ照射位置までの距離を計測する位置確認機構を具備し、この位置確認機構によって計測された前記ファイバ先端保護機構の先端からレーザ照射位置までの距離によって前記エンドキャップファイバを移動して前記パルスレーザ光の焦点位置を変更可能とすることを特徴とする請求項2記載のレーザピーニング装置。
【請求項8】
前記エンドキャップファイバを構成する光ファイバの外周部に可とう管を用いた駆動機構を具備し、この駆動機構は駆動機構動作部によって前記光ファイバ先端の角度を変えることを特徴とする請求項1記載のレーザピーニング装置。
【請求項9】
前記駆動機構動作部は前記エンドキャップファイバを前記被加工物である孔の中心軸に対して回転および上下動、平行移動、傾斜させることを特徴とする請求項1記載のレーザピーニング装置。
【請求項10】
前記エンドキャップは、入射側の受光面積が光ファイバとの接合部の面積より大きい円錐状のコーンロッドであることを特徴とする請求項1記載のレーザピーニング装置。
【請求項11】
光ファイバにこの光ファイバの断面積より入射側の受光面積が大きいエンドキャップを融着したエンドキャップファイバにレーザ光を入射し、前記光ファイバの位置や角度を変更することで前記光ファイバの先端から前記レーザ光が照射される位置を自在に制御しながら一端が封止された孔の内面にレーザピーニングを行うことを特徴とするレーザピーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、圧縮応力を付与するレーザピーニング装置及びレーザピーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の表面は、疲労破壊や応力腐食割れなどが発生する起点になり易い。このため、 圧縮残留応力を材料の表面近傍へ付与して、き裂の発生、進展を抑制することで、材料の耐疲労破壊性、耐応力腐食割れ性を向上することができる。
【0003】
例えば金型の冷却水通路(水冷孔)の表面に圧縮残留応力を付与するために、冷却水通路の表面にショットピーニングを行なう場合がある。
【0004】
また、レーザピーニングを用いた圧縮応力付与機構も用いられる。レーザピーニングは、施工対象の表面に圧縮残留応力を付与する技術である。施工対象にパルスレーザを照射してプラズマを発生、膨張させる。この膨張の力学的反作用により施工対象の表面近傍が圧縮され、応力が残留する。レーザピーニングでは、レーザ光のエネルギー、照射面積などの施工条件を調節することで、圧縮残留応力の大きさや、付与される深さを制御できる。さらに、光ファイバと照射ヘッドを組み合わせることにより、タービン翼植込み部やパイプの内面などの狭隘部への施工も可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-290222号公報
【特許文献2】特許第6107821号公報
【特許文献3】特許第5649332号公報
【特許文献4】特許第5814652号公報
【特許文献5】特開2022-67857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザピーニングでは、パルスレーザを被施工対象物表面に照射することによりアブレーションプラズマを発生させ、プラズマの圧力により被施工対象物表面において塑性変形を生じさせることにより圧縮応力を付与する。
【0007】
例えば一端が封止された冷却孔の内径が十分大きければレーザ光を内部に照射することが可能であるが、一般に冷却孔は例えばφ10mm以下と小口径である場合が多く、内部にレーザピーニングを行うための照射ヘッドあるいは光学系を挿入することは困難である。また、配管の内面を施工するための照射ヘッドを使用した場合、冷却孔側面にレーザピーニングを施工することはできても冷却孔底面についてはレーザ光を照射することができず応力改善を行うことはできない。
【0008】
冷却孔底面にレーザ照射を行う方法として、冷却孔外部に設けた集光レンズを用いて冷却孔底面にレーザ光を集光する方法が考えられるが、冷却孔の孔径が小口径の場合や冷却孔の深さが深い場合には冷却孔にレーザ光が干渉してしまい、冷却孔の底面まで所定のエネルギーとスポット径を有するレーザ光を照射することができない可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係るレーザピーニング装置は、一端が封止された被加工物である孔の内面にレーザピーニングを行うレーザピーニング装置であって、パルスレーザ光を射出するレーザ発振器と、前記レーザ発振器から射出された前記パルスレーザ光を前記被加工物である孔の表面まで伝送するレーザ光伝送機構と、前記孔の内部に流体を供給するための流体供給機構と、から構成され、前記レーザ光伝送機構として光ファイバにこの光ファイバの断面積より入射側の受光面積が大きいエンドキャップを融着したエンドキャップファイバを用いることを特徴とする。
【0010】
また、実施形態に係るレーザピーニング方法は、光ファイバにこの光ファイバの断面積より入射側の受光面積が大きいエンドキャップを融着したエンドキャップファイバにレーザ光を入射し、前記光ファイバの位置や角度を変更することで前記光ファイバの先端から前記レーザ光が照射される位置を自在に制御しながら一端が封止された孔の内面にレーザピーニングを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態は、上述した課題を解決するためになされたものであり、一端が封止された孔の内面に圧縮応力を付与することのできるレーザピーニング装置及びレーザピーニング方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係るレーザピーニング装置を一端が封止された孔に施工する状態を示す概念図。
【
図2】孔内部に本実施形態のレーザピーニング装置を挿入した状態を示しており、(a)は孔の中心にエンドキャップファイバが配置された状態を、(b)はレーザピーニング装置全体を平行移動させた状態を、(c)はレーザピーニング装置全体を孔の中心軸に対して傾斜させた状態を各々示す側断面図。
【
図3】本実施形態のレーザピーニング装置におけるエンドキャップファイバを曲げて孔側面への施工状況を側面から観察した状況を示す側断面図。
【
図4】孔の底部を上面から見た状態を示しており、(a)は孔の中心にエンドキャップファイバが配置された状態を示す平断面図、(b)はレーザピーニング装置全体を平行移動させた状態を示す平断面図、(c)はレーザピーニング装置全体を孔の中心軸に対して傾斜させた状態を示す平断面図、(d)はレーザピーニング装置におけるエンドキャップファイバを曲げた状態を示す平断面図。
【
図5】レーザ光伝送機構の先端の構造を側面から観察した状況示し、(a)はエンドキャップファイバ先端からレーザ光を被加工対象物に照射した状態を示す平断面図、(b)から(d)は各々エンドキャップファイバの先端部の変形例を示す平面図。
【
図6】(a)はエンドキャップファイバを示す側断面図、(b)はエンドキャップファイバの変形例を示す側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係るレーザピーニング装置50の構成図であり、冷却孔内部に本発明のレーザピーニング装置50を挿入した状態の断面図を示している。
【0014】
このレーザピーニング装置50及びレーザピーニング方法は、金型に設けられた冷却孔20などの一端が封止された孔であって、径が例えば、数ミリ乃至十数ミリ程度(特に3mm乃至10mm程度)の孔の内面にレーザピーニングを行うものである。
【0015】
図1に示すようにレーザピーニング装置50は、レーザ発振器1、レーザ光伝送機構21、集光レンズユニット5、流体供給機構6、カバー10、流体保管機構12、吸引機構11、エンドキャップファイバ22、保護機構26等から構成されている。そして、
図1は、上記エンドキャップファイバ22を収納した保護機構26を一端が封止された冷却孔20内に挿入した状態を示している。
【0016】
このように保護機構26の外径は、冷却孔20の内径より小さく設定されている。上記レーザ光伝送機構21にはレーザ光2を反射させるためのミラーを少なくとも2つ具備しており、例えば
図1に示す構成において第1ミラー3には外部に位置確認機構9、第2ミラー4はレーザ光2の照射角度を変更するために図示しない駆動機構を具備している。
【0017】
レーザ発振器1は、レーザピーニングのためのパルスレーザ光を発振(射出)する。このパルスレーザ光の波長及びパルス幅は、適宜選択することができる。例えば、Nd:YAGレーザを用いて、波長1064nm、あるいは532nm、パルス幅が数ns~数十nsのパルスレーザ光を射出できる。なお、流体18の光の吸収特性に合わせてパルスレーザ光の波長を選定することで、レーザ光のエネルギーロスを小さくすることができる。
【0018】
例えば、流体供給機構6に収容された流体18が水の場合、波長532nmのレーザを用いることで0.5%程度のエネルギーロスでレーザ光2を照射することができる。また、1064nmのレーザを用いた場合でも、水中の伝送距離に応じて水で吸収されるエネルギー、例えば50%吸収される場合は2倍のパルスエネルギーを照射すれば良い。
【0019】
レーザ発振器1から射出されたレーザ光2は、レーザ光伝送機構21及び筐体25内部に設けられた集光レンズユニット5を介してエンドキャップファイバ22に入射され、エンドキャップファイバ22先端から照射されたレーザ光2は冷却孔20内面に照射される。前述したとおりレーザ光伝送機構21は、第1ミラー3と、第2ミラー4の少なくとも2枚のミラーを具備しており、例えば第2ミラー4の角度を変えることでエンドキャップファイバ22への入射位置調整を行うことができ、冷却孔20の側面、底面等の内面の所定の位置にレーザ光2を照射することができる。
【0020】
さらに、筐体25内部には、必要に応じて集光レンズユニット5の前にビーム強度調整部24を配置することができる。このビーム強度調整部24は回折光学素子やシリンドリカルアレイなどから構成されるレーザ用のホモジナイザが好ましく、ガウス分布のように中心のピーク強度が高いレーザ光の強度分布を均一にする機能を備えており、レーザ光2の強度が強い場合などにエンドキャップファイバ22のダメージを軽減することができる。
【0021】
また、例えばレーザ光伝送機構21内部にはアッテネーター17を具備することもでき、冷却孔20に照射されるパルスエネルギーを所定の強度に制御することや、図示しない制御装置との組み合わせでパルスエネルギーが所定の値よりも低い場合にはシャッター16を閉じて施工を停止することも可能である。
【0022】
エンドキャップファイバ22は、
図6(a)に示すように光ファイバ40に接合部43を介してエンドキャップ41と呼ばれる円筒状の部材を融着して構成されている。エンドキャップファイバ22のエンドキャップ41は
図6(a)に示すように円筒状の部材が望ましいが、
図6(b)に示すようにレーザ光2の入射側の受光面積が光ファイバ40との接合部43の面積より大きい円錐状のコーンロッド42のようにレーザ光2入射側はダメージ軽減のため受光面積が光ファイバ40の断面積より大きく、光ファイバ40と接合部43を介して融着による接合が可能であれば良い。このエンドキャップファイバ22において、エンドキャップ41及び光ファイバ40は同じ材質である石英が用いられ、同じ材質を用いることでレーザ光2が入射された際に接合部43における屈折率が変化しない構成になっている。
【0023】
エンドキャップファイバ22において、光ファイバ40の口径はφ0.4~1.0mmが望ましく、光ファイバ先端から照射されたレーザ光2が被加工物表面に投影された際にφ0.6~φ1.5mmでアブレーションプラズマ13が発生するパワー密度が確保できれば良い。
【0024】
また、エンドキャップ41はレーザ光入射部においてφ5~10mm程度であればエンドキャップファイバ22が損傷することなくレーザ伝送が可能となる。例えば、φ8mm×5mmのエンドキャップ41にコア径φ1.0mm×7mの光ファイバ40を融着した構造のエンドキャップファイバ22を用いた場合、パルスエネルギー160mJのレーザ光2をエンドキャップ41から入射するとファイバ40の出射端において130mJのレーザ光が出射され、エンドキャップ41及び光ファイバ40の端面反射によるロスを含んで約80%の伝送効率でのレーザ伝送をすることができる。
【0025】
エンドキャップファイバ22の外周には保護機構26を具備することができ、冷却孔20内部に挿入する際にエンドキャップファイバ22の光ファイバ40が損傷しないよう保護することができる。また、保護機構26の外径は光ファイバ40の外径に応じて調整することが可能である。例えばコア径φ1.0mm光ファイバ40からなるエンドキャップファイバ22を用いた場合、光ファイバ40に具備される図示しないバッファ層と被覆を合わせた外径がφ3mm程度となるため、ファイバ先端保護機構(以下保護機構と呼ぶ)26の外径はφ6mm程度まで小型化が可能となる。
【0026】
レーザピーニングにおいて使用されるスポット径については、被施工対象物(冷却孔20内面)の材質と導入する残留応力によって変えることができる。例えば、
図1に示す構成ではエンドキャプファイバ22からレーザ照射位置までの距離を変えることで所定のスポット径のレーザ光を照射することができるが、エンドキャップファイバ22から照射されたレーザ光2は光ファイバ固有の開口数(NA: Numerical Aperture)で広がるため、光ファイバ40の口径以上のスポット径でアブレーションプラズマ13が発生するレーザ光2を照射できる条件下であれば適用可能となる。
【0027】
レーザピーニングでは、被施工対象物表面においてアブレーションプラズマ13を発生させ、プラズマ圧力により材料に塑性変形を生じさせることで圧縮応力を付与する。その際、プラズマを閉じ込めるために水などの流体18が必要となるが、冷却孔20は細いためポンプなどを用いて冷却孔20内部に流体18を供給しようとしてもキャビテーションが発生したり部分的に流体18が供給さないところが生じたりと安定的な施工ができない。
【0028】
本実施形態のレーザピーニング装置50には、カバー10内部への流体18の流入を制御するための開閉ユニット7と、吸引機構11を用いて冷却孔20内部を負圧状態にするためのカバー10を具備している。冷却孔20に本実施形態のレーザピーニング装置50を設置し、開閉ユニット7を閉じた状態で吸引機構11を用いて冷却孔20内部を吸引すると、
図2に示すようにカバー10内部が負圧になるとともに冷却孔20内部に残存する気泡14やゴミを事前に除去することができる。
【0029】
この状態で開閉ユニット7を開くと、内部が負圧なので流体供給機構6の内部の流体18が吸い上げられ、流体の流れ19に示す方向で流体伝送機構8を通って
図3に示すように冷却孔20内部に安定的に流体18を供給することが可能となる。さらに冷却孔20の内径が小さく流体18を冷却孔20内部へ供給することが困難な場合、冷却孔20に覆いかぶさるように保護機構26に図示しない逆止弁を配置することで冷却孔20内部の流体18を優先的に排出することが可能となる。
【0030】
ここで、流体18としては水が望ましく、例えば波長532nmのパルスレーザを用いると水中での伝送ロスがほとんどない状態でのレーザピーニング施工が可能となる。また、防錆剤を混入した水やアンモニア水などの流体18を用いれば、被施工対象物の発錆を抑制しつつレーザピーニングが可能となる。アルカリイオン水、防錆油などを用いても良い。
【0031】
本実施形態には、位置確認機構9を具備することができ、レーザ光伝送機構21の先端(エンドキャップファイバ22の先端)から冷却孔20のレーザ照射位置までの距離を測定することも可能である。位置確認機構9としては、例えばレーザ距離計などを用いることができ、レーザ光伝送機構21から反射したレーザ光と冷却孔20から反射したレーザ光をそれぞれ測定することで位置を同定することができるため、冷却孔20内部のレーザ光伝送機構21の位置を外部から認識することが可能となる。位置確認機構9として、レーザ距離計に限らず、音波や光センサーなど別の光源を用いた手法、あるいはカメラによりレーザ光伝送機構21先端の画像を確認するなどの方法を用いても良い。また、レーザ光伝送機構21の先端に
図5(b)に示すようにファイバ先端保護機構23を具備する場合でも前述の手法により位置を同定することが可能である。
【0032】
そして、この位置確認機構9によって計測されたエンドキャップファイバ22の先端またはファイバ先端保護機構23の先端からレーザ照射位置までの距離から駆動機構動作部28等によってエンドキャップファイバ22を移動させてレーザ光2の焦点位置を変更して所定のスポット径のレーザ光2を照射することができる。
【0033】
ここで、シャッター16を開くと、
図1に示すようにレーザ光2が冷却孔20底部まで到達し、レーザピーニングを行うことが可能となる。冷却孔20底面へのレーザピーニング施工方法については、
図2から
図4を参照して説明する。
【0034】
図2および
図3は冷却孔20内部に本実施形態のレーザピーニング装置50を挿入した状態の側断面図を示している。また、
図4は冷却孔20底部を上面から見た状態を示す断面図である。
【0035】
本実施形態では、レーザ光伝送機構21の光ファイバ40外周部に保護機構26及び駆動機構27を具備しており、冷却孔20等に挿入する際にレーザ光伝送機構21が接触により損傷するのを防止することができる。さらに、
図3に示すように駆動機構27を用いることでレーザ光伝送機構21先端の光ファイバ40の角度を変えることもできる。
【0036】
例えば、駆動機構27として蛇腹状の可とう管を用い、レーザ光伝送機構21と保護機構26及び駆動機構27の間に図示しないワイヤが配置され、駆動機構27と
図1に示す駆動機構動作部28をこのワイヤにより接続された構造とすることができる。駆動機構動作部28で図示しないワイヤを駆動機構動作部28側に引き上げることでレーザ光伝送機構21先端の角度を変えることができる。駆動機構動作部28には図示しないワイヤを出し入れするためのモータとワイヤの位置を測定するためのセンサーなどを具備しているのが好ましく、ワイヤを出し入れする長さによりレーザ光伝送機構21の傾斜角度の制御を行うことも可能となる。さらに、この駆動機構動作部28にエンドキャップファイバ22の軸方向に回転する回転機構を備えることでより広範囲にレーザピーニングを施工することができる。
【0037】
図2(a)は冷却孔20の中心にエンドキャップファイバ22が配置された状態であり、
図2(a)および
図4(a)に示すようにレーザ光2はレーザピーニング施工可能範囲30と同一である冷却孔20底面の中心部に照射されている。ここで、レーザピーニング装置全体を平行移動させると
図2(b)のようになり、レーザ光2は冷却孔20中心から駆動機構27が冷却孔20側面に接触する範囲まで移動させることが可能となり、駆動機構動作部28によってエンドキャップファイバ22を冷却孔20の中心軸に対して回転させることで、
図4(b)のレーザピーニング施工可能範囲30に示すように冷却孔20中央部に対して
図4(a)のレーザピーニング施工可能範囲の周囲についてレーザピーニングを行うことが可能となる。
【0038】
次にエンドキャップファイバ22全体を冷却孔20の中心軸に対して傾斜させると
図2(c)に示すような状態となり、駆動機構動作部28によってエンドキャップファイバ22を冷却孔20の中心軸に対して回転させることで、
図4(c)に示すようにレーザピーニング施工可能範囲30は
図2(b)の場合よりもさらに広範囲となる。また、駆動機構27によりエンドキャップファイバ22を曲げると
図3に示すような状態となり、レーザ光2の移動可能範囲はさらに広くなり、
図4(d)に示すように冷却孔20底部全体や側面に対してレーザピーニングを行うことが可能となる。さらにエンドキャップファイバ22全体を冷却孔20の中心軸に対して上方に移動させていくことによって冷却孔20の側面のレーザピーニングを行うことが可能となる。
【0039】
また、レーザピーニング施工可能範囲30がレーザ光2の照射角度に対して垂直から外れた場合はレーザ光2のスポット径が楕円形状となるが、楕円の面積が等価となる円と同じピーニング効果が得られるため、焦点距離の制御により対応が可能となる。
【0040】
そして、
図1に示すように、吸引機構11により吸引された流体18は、流体保管機構12に保管される。保管された流体18は図示しないポンプなどを用いて流体供給機構6に戻すことで、流体18を循環して利用することも可能である。また、吸引機構11を用いて冷却孔20から流体保管機構12に引き込まれた流体18には、レーザピーニングに伴う気泡14やアブレーションプラズマ13の発生に伴う図示しない金属小片が含まれている。このため、流体供給機構6に循環利用する場合には、図示しないフィルタなどでろ過することが望ましい。
【0041】
また、レーザピーニング施工時に発生する気泡14が流体18中に残存した状態で次のパルスレーザを照射した場合、残存した気泡14にレーザ光2が照射されることでエネルギーロスが生じ、施工が不安定になる場合がある。本実施形態のレーザピーニング装置50では、レーザ光伝送機構21内に具備する第1ミラー3を介して保護機構26内部並びにレーザ照射位置の画像を確認するための気泡確認機構15を具備している。
【0042】
以上のような構成の実施形態のレーザピーニング装置及びレーザピーニング方法によれば、アクセスが困難な一端が封止された冷却孔20等の内面に圧縮応力を付与することができる。また、例えば、予め被施工対象物の冷却孔20の位置と深さ、並びにレーザピーニング施工範囲がわかっていれば、図示しない制御装置等を用いて集光レンズユニット5の焦点距離と移動パターンをプログラミングしておき、レーザ発振器1の周波数に応じてレーザ照射位置への移動、レーザ光2の照射、気泡確認機構15を用いた残存気泡の確認などを組み合わせることで、狭隘な冷却孔20の底部にレーザピーニングを自動で行うことが可能となる。
【0043】
(第2実施形態)
第2の実施形態について、
図5を用いて説明する。
図5は、レーザ光伝送機構の先端の構造を側面から観察した状況示す概念図であり、流体18中でレーザ伝送機構21からレーザ光2を被加工対象物31に照射してレーザピーニングを実施する状況を示している。
【0044】
図5(a)において、高出力のレーザ光2を被加工対象物31に照射すると、レーザ光2は被加工対象物31に吸収され、一定の閾値以上のエネルギーに達すると被加工対象物31が気化してアブレーションプラズマ13が発生する。
【0045】
レーザ光伝送機構21として使用するエンドキャップファイバ22が石英製ファイバの場合、石英固有の広がり角NA=0.2で広がりながら流体18中をレーザ光2が伝播する。例えば、エンドキャップファイバ22における光ファイバ40のコア径がφ1.0mmの場合、波長532nmでパルスエネルギー40mJのレーザ光2を光ファイバ40から水中に照射して被加工対象物31として配置したニッケル基合金Alloy600に照射すると、先端から2mm離れた位置ではレーザ光2のビーム径はφ1.1mm程度の大きさに拡大されるもののエネルギー密度が高いためアブレーションプラズマ13が発生する。
【0046】
流体18中ではアブレーションプラズマ13が流体18の圧力により封じ込められることで衝撃波32が発生し、この衝撃波32により被加工対象物31に塑性変形が生じ、表面近傍に圧縮応力が形成されるのがレーザピーニングのプロセスである。ここで、衝撃波32は被加工対象物31に伝播するだけでなく流体18中にも伝播され、一部はエンドキャップファイバ22にも到達する。エンドキャップファイバ22として石英製ファイバを用いた場合、
図5(a)に示すようにアブレーションプラズマ13により生じた衝撃波32がエンドキャップファイバ22に到達し、その高い衝撃力により損傷する場合がある。
【0047】
一方、本実施形態では
図5(b)に示すようにレーザ光伝送機構21の先端にファイバ先端保護機構23を具備しており、前述の衝撃波32が到達した場合においても高い耐衝撃性により損傷の発生を防止することが可能となる。ファイバ先端保護機構23はサファイアが好ましく、このサファイアはレーザ光透過性が高いため、例えばエンドキャップファイバ22としてエンドキャップファイバやテーパファイバなどに石英を用いた場合に伝送ロスの発生はほとんど生じることはない。ここで、ファイバ先端保護機構23はエンドキャップファイバ22とオプティカルコンタクト(高精密度に研磨された2つのプリズムを、接着剤を使わずに接合する技術)で配置すれば良いが、エンドキャップファイバ22と融着させても同等の機能を有する構造とすることができる。
【0048】
さらに、本発明では
図5(c)に示すようにエンドキャップファイバ22とファイバ先端保護機構23の間に液体33を封入配置した構造を用いることも可能である。液体33を封入配置することでオプティカルコンタクトに必要な面精度を形成するための研磨工程が不要となることや、融着を行う必要もなくなる利点がある。液体33としては水が好ましく、波長532nmのレーザ光であれば伝送ロスがほとんどなくなることや、屈折率の変化も小さくすることが可能となる。
【0049】
さらに本実施形態では、
図5(d)に示すようにファイバ先端保護機構23の代わりにレーザ光を平行にするコリメートレンズユニット29を具備することも可能である。レーザ光伝送機構21としてエンドキャップファイバやテーパファイバなど石英製のファイバを用いた場合、光ファイバ40先端から射出されたレーザ光2は石英固有の広がり角NA=0.2で拡大しながら伝播されることになるが、コリメートレンズユニット29を具備することでエンドキャップファイバ22から射出されたレーザ光2のビーム径よりも大きな口径を維持しながら長距離伝送を行うことが可能となる。
【0050】
例えば、エンドキャップファイバ22としてレーザ光射出端のコア径φ0.8mmのエンドキャップファイバを用いた場合、コリメートレンズユニット29でφ0.9mmの平行光として照射することが可能となり、コリメートレンズユニット29から20mm離れた位置でもφ0.9mmのビーム径でレーザ光2を射出することができる。そのため、
図5(d)に示すようにアブレーションプラズマ13起因の衝撃波32の影響を受けずにレーザピーニングが行えると共に、被加工対象物31との距離を正確に維持しなくても同じビーム径で加工を行うことが可能となると共に、裕度範囲を拡大することが可能となる。
【0051】
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
【0052】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0053】
1:レーザ発振器、2:レーザ光(パルスレーザ光)、3:第1ミラー、4:第2ミラー、5:集光レンズユニット、6:流体供給機構、7:開閉ユニット、8:流体伝送機構、9:位置確認機構、10:カバー、11:吸引機構、12:流体保管機構、13:アブレーションプラズマ、14:気泡、15:気泡確認機構、16:シャッター、17:アッテネーター、18:流体、19:流体の流れ、20:冷却孔、21:レーザ光伝送機構、22:エンドキャップファイバ、23:ファイバ先端保護機構、24:ビーム強度調整部、25:筐体、26:保護機構、27:駆動機構、28:駆動機構動作部、29:コリメートレンズユニット、30:レーザピーニング施工可能範囲、31:被加工対象物、32:衝撃波、33:液体、40:光ファイバ、41:エンドキャップ、42:コーンロッド、43:接合部、50:レーザピーニング装置。