(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068995
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】加速器システム
(51)【国際特許分類】
H05H 9/00 20060101AFI20240514BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H05H9/00 B
G21K5/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179727
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100118474
【弁理士】
【氏名又は名称】寺脇 秀▲徳▼
(74)【代理人】
【識別番号】100141911
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 譲
(72)【発明者】
【氏名】佐古 貴行
(72)【発明者】
【氏名】川崎 泰介
(72)【発明者】
【氏名】大崎 一哉
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩昌
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085AA06
2G085BA07
2G085BA08
2G085BA15
2G085BC11
2G085BC18
(57)【要約】
【課題】ビーム通路の大口径化と消費電力の低減が可能な加速器システムを提供することである。
【解決手段】実施形態の加速器システムは、真空状態に保持されると共に、荷電粒子ビームが通過するビーム通路および前記ビーム通路を臨む位置に加速ギャップを有する真空容器と、前記真空容器内に設置されて高周波エネルギーを前記真空容器内に導き、前記加速ギャップに加速電場を形成して前記荷電粒子ビームを加速させるアンテナと、前記真空容器外に配置されて、前記ビーム通路内を流れる前記荷電粒子ビームを収束させる収束磁石と、を備える加速空洞が前記荷電粒子ビームの軸方向に複数接続された加速器システムであって、前記加速空洞のうち、前記軸方向の上流側に位置する第一加速空洞のビーム通路の平均口径は、前記第一加速空洞よりも前記軸方向の下流側に位置する第二加速空洞のビーム通路の平均口径よりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空状態に保持されると共に、荷電粒子ビームが通過するビーム通路および前記ビーム通路を臨む位置に加速ギャップを有する真空容器と、
前記真空容器内に設置されて高周波エネルギーを前記真空容器内に導き、前記加速ギャップに加速電場を形成して前記荷電粒子ビームを加速させるアンテナと、
前記真空容器外に配置されて、前記ビーム通路内を流れる前記荷電粒子ビームを収束させる収束磁石と、
を備える加速空洞が前記荷電粒子ビームの軸方向に複数接続された加速器システムであって、
前記加速空洞のうち、前記軸方向の上流側に位置する第一加速空洞のビーム通路の平均口径は、前記第一加速空洞よりも前記軸方向の下流側に位置する第二加速空洞のビーム通路の平均口径よりも大きいことを特徴とする加速器システム。
【請求項2】
前記加速空洞は、前記真空容器の前記ビーム通路に、位置を調整することで前記ビーム通路の口径を変化させる可動式内壁を備えることを特徴とする請求項1に記載の加速器システム。
【請求項3】
前記ビーム通路のうち前記軸方向の上流側端部の口径は下流側端部の口径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の加速器システム。
【請求項4】
前記ビーム通路の口径は、前記上流側端部から前記下流側端部に向かって連続的に小さくなることを特徴とする請求項3に記載の加速器システム。
【請求項5】
前記第一加速空洞と前記第二加速空洞との間に真空状態に保持されたダクトをさらに備えることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の加速器システム。
【請求項6】
前記第一加速空洞が備える第一アンテナに接続される第一高周波電源と、
前記第二加速空洞が備える第二アンテナに接続される第二高周波電源と
をさらに備えることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の加速器システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、加速器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
初段加速器として広く用いられている高周波四重極線形加速器(RFQ)では1A以上の大電流イオンビームの加速は困難である。RFQでは電極ボア径がmmオーダーで小さく、ビームの空間電荷効果による発散のためにビームを収束して輸送できないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ビーム通路の大口径化によって内部を通過するビームサイズを拡大し、空間電荷効果を抑制することで加速可能なビーム電流値を増大させることができる。一方で、ビーム通路を大口径化すると、ビームを加速するための消費電力が増大するため、ビーム通路の大口径化とビームの加速には制約が生じる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ビーム通路の大口径化と消費電力の低減が可能な加速器システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、実施形態の加速器システムは、真空状態に保持されると共に、荷電粒子ビームが通過するビーム通路および前記ビーム通路を臨む位置に加速ギャップを有する真空容器と、前記真空容器内に設置されて高周波エネルギーを前記真空容器内に導き、前記加速ギャップに加速電場を形成して前記荷電粒子ビームを加速させるアンテナと、前記真空容器外に配置されて、前記ビーム通路内を流れる前記荷電粒子ビームを収束させる収束磁石と、を備える加速空洞が前記荷電粒子ビームの軸方向に複数接続された加速器システムであって、前記加速空洞のうち、前記軸方向の上流側に位置する第一加速空洞のビーム通路の平均口径は、前記第一加速空洞よりも前記軸方向の下流側に位置する第二加速空洞のビーム通路の平均口径よりも大きいことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る加速器システムの構成例を示す断面図。
【
図2】第1実施形態の変形例に係る加速器システムの構成例を示す断面図。
【
図3】第1実施形態の変形例に係る加速器システムの構成例を示す断面図。
【
図4】第1実施形態の変形例に係る加速器システムの構成例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明を実施するための実施形態について説明する。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る加速器システム1の構成例を示す断面図である。加速器システム1は、第一加速空洞10Aと第二加速空洞10Bとを備える。以下の説明では、第一加速空洞10Aおよび第二加速空洞10Bを区別する必要がない場合に単に加速空洞10と説明する。加速空洞10は、真空容器12と、アンテナ18と、収束磁石24とを備える。なお、ここでは加速器システム1が二台の加速空洞10を備える例を説明するが、三台以上の加速空洞10を備えていても良い。
【0010】
真空容器12は、容器本体14と導電性の一対のギャップ形成板16とが接合して構成され、内部が真空状態に保持される。真空容器12の内部には、容器本体14およびギャップ形成板16を貫通して荷電粒子ビームが通過するビーム通路40が設けられる。ビーム通路40を臨む位置には、一対のギャップ形成板16の間に、加速電場を形成するための空間である加速ギャップ42が設けられる。
【0011】
容器本体14およびギャップ形成板16は、ボルト等を用いて締結しても良く、導電性の単一のインゴットを切削加工することで一体に形成しても良い。容器本体14およびギャップ形成板16の接合部は、後述するアンテナ18からの高周波エネルギーの導入により高電圧が生じるため、湾曲加工(R加工)を施し、表面を平滑化することが好ましい。
【0012】
容器本体14およびギャップ形成板16から構成される真空容器12の製造方法としては、鉄等の金属素材を加工した後に電気導電率の高い銅等を鍍金するほか、無酸素銅やタフピッチ銅等のインゴットから全体を切削加工により形成しても良く、またそのように形成された部品を接続して形成しても良い。独立した部品を接続する場合には、真空漏れを防ぐために、メタルガスケット、ゴムOリング、インジウムリング等の金属パッキン等によって真空封止することが好ましい。また、高周波エネルギーの表面電流の損失を低減するために、フィンガーコンタクト等のRF(Radio Frequency)コンタクトを部品間に設けることが好ましい。
【0013】
真空容器12の特に容器本体14には、複数のポート(図示省略)を設けても良く、これらポートにターボ真空ポンプ、イオンポンプ、クライオポンプ、スクロールポンプ、ロータリーポンプ等の真空ポンプを接続し、さらにヌードイオンゲージ、コールドカソードゲージ、ピラニーゲージ、電離真空計等の真空計を接続しても良い。また、加速空洞10内部のガスの成分分析のために四重極形質量分析計等の分析計を接続しても良い。なお、これらのポートは、アンテナ18から導入される高周波エネルギーに合わせて、高周波エネルギーの漏洩を防ぐためのスリット構造を備えても良い。
【0014】
ビーム通路40は、導電性の金属で形成された円柱形状、直方体形状、またはそれらにテーパーを施した形状等で形成される。荷電粒子ビームとして例えば1A以上の大電流ビームを通過させるため、その内径は例えば100mm以上に形成される。このビーム通路40の軸心は、荷電粒子ビームのビーム軸Pと一致して設けられる。荷電粒子ビームは、
図1の矢印で示すビーム軸P方向に加速されてビーム通路40を通過する。以下の説明では、ビーム通路40のビーム軸P方向に垂直な断面の径をビーム通路40の口径と呼称する。また、この口径の大きさについて言及する場合は、上記断面積の大きさとしての意味も含むものとする。
【0015】
アンテナ18は、容器本体14内に設けられ、例えば銅等の金属素材をループ状に形成し、その一端が後述する導波管22または同軸ケーブル(図示省略)のフランジ20等のアース部に、他端が導波管22または同軸ケーブルの芯線に接続される。フランジ20のアース部および芯線はセラミック等の絶縁材により絶縁される。また、セラミック表面はTiN等によりコーティングし保護することが好ましい。
【0016】
フランジ20は、真空容器12の真空隔壁も担い、大気側は円形または矩形等の導波管22およびN端子、BNC(Bayonet Neill Concelman)端子、またはSHV(Safe HighVoltage Connector)端子等の同軸ケーブルが接続され、その先に高周波電源・増幅器等のいわゆるRFアンプ(図示省略)が接続される。つまり、アンテナ18は、導波管22または同軸ケーブルを介して高周波電源および増幅器等のRFランプに接続されて、真空容器12内に高周波エネルギーを導入する。高周波エネルギーを真空容器12内に導入することで加速ギャップ42に加速電場を形成し、ビーム通路40を流れる荷電粒子ビームをビーム軸P方向に加速させる。
【0017】
なお、高周波電源には、真空管、クライストロン、半導体アンプ等を用いる。また、これら高周波電源の制御のために基準信号を発するシグナルジェネレータやローレベル制御装置を設けても良い。さらに、ダミーロードやサーキュレータ等を接続しても良い。
【0018】
なお、複数の加速空洞10に対して一台の高周波電源を設けても良いし、一台の加速空洞10に対して一台の高周波電源を設けても良い。つまり、
図1においては、第一加速空洞10Aが備えるアンテナ18(第一アンテナ)に接続する第一高周波電源と、第二加速空洞10Bが備えるアンテナ18(第二アンテナ)に接続する第二高周波電源とをそれぞれ設けても良い。複数の加速空洞10に対してそれぞれ独立の高周波電源を設けることで、加速ギャップ42に発生する加速電場の強度や位相等を加速空洞10ごとに調整することができる。また、手動調整だけでなく、ローレベル制御を介して自動周波数調整や自動位相調整等を適用することができる。
【0019】
収束磁石24は、永久磁石または電磁石で構成されるソレノイド磁石または四重極磁石であり、真空容器12の外部に配置される。収束磁石24は、ビーム軸P方向に1個から複数個並べて配置され、荷電粒子ビームの収束と発散を繰り返すことで全体として収束させる等の方式がある。なお、収束磁石24は、常伝導素材で構成されても良いし、超電導素材で構成されも良い。
【0020】
収束磁石24を超電導素材で構成する場合は、収束磁石24を内包する収束用空洞26を容器本体14と隣接して設けるのが好ましい。収束用空洞26の内部は真空であり、真空計や真空ポンプを容器本体14と類似の構成で設けても良い。また、超電導磁石には、超電導状態を保持するための冷凍機、輻射シールド、断熱材等が設けられ、電流を流すためのリード線等(いずれも図示省略)が接続される。
【0021】
上述したような加速空洞10は、ビーム軸P方向に複数接続して設けられる。加速空洞10の接続は、複数台の加速空洞10を直接接続しても良いし、真空容器12の一部を各加速空洞10の共通要素として形成し、組み立てることで複数台の加速空洞10をそれぞれ構成しても良い。
【0022】
隣接する加速空洞10のうちのいずれかは、上流側の加速空洞10が備えるビーム通路40の平均口径が、下流側の加速空洞10が備えるビーム通路40の平均口径よりも大きく構成される。なお、ビーム通路40の平均口径は、ビーム軸Pに垂直な断面の平均口径(平または均断面積)である。つまり、
図1においては、第一加速空洞10Aのビーム通路40の平均口径が、第二加速空洞10Bのビーム通路40の平均口径よりも大きく構成される。
【0023】
上述のように構成された本実施形態においては、荷電粒子ビームの空間電荷効果による発散力が強いビーム通路40上流側の平均口径が、下流側の平均口径よりも大きく構成される。つまり、ビーム通路40上流側においては、その平均口径を大きくすることで荷電粒子ビームの発散による荷電粒子ビームとビーム通路40との衝突を抑制する。そして、荷電粒子ビームが加速されてより大きな加速電圧が必要なビーム通路40下流側においては、荷電粒子ビームの加速に伴いその発散力が低減するので、荷電粒子ビームとビーム通路40との衝突を抑制しながらその平均口径を小さくすることができる。これにより、高周波エネルギーを導入する際の消費電力を低減して荷電粒子ビームを加速させることができる。
【0024】
なお、本実施形態の変形例として、
図2に示すように、第一加速空洞10Aおよび第二加速空洞10Bの間にダクト28を設け、このダクト28を介して第一加速空洞10Aおよび第二加速空洞10Bを接続しても良い。なお、加速空洞10とダクト28とは、真空封止可能な構造で接続し、ダクト28の口径はビーム通路40の上流側との接続部の口径以上であれば良く、上流側から下流側に向かって縮小しても良い。ダクト28は、例えば円柱や直方体等の容器でも良く、ティーやクロス等と呼称されるビーム軸P方向とは異なる方向に個別のポート(図示省略)を備える容器でも良い。ポートを備えることで、ファラデーカップやカレントトランス等の電流検出器、絶縁された金属板・ワイヤーモニター・蛍光板・カメラの組み合わせによるプロファイルモニター・位置検出器、ペッパーポット方式等によるエミッタンスモニター等の各種ビームの状況を確認するためのモニター類(図示省略)を接続することができる。また、ポートには荷電粒子ビームの一部またはすべてを遮断するスリット(図示省略)を設けても良い。これらモニター類およびスリットは直線導入機等で荷電粒子ビームの通過領域に対して挿入・退避が可能に構成される。また、各種真空計や真空ポンプ、真空封止用のゲートバルブ等(図示省略)を接続しても良い。
【0025】
この変形例により、第1実施形態と同様な効果に加えて、荷電粒子ビームおよび真空状態等を監視することで、その結果に対して加速器システム1の運転を調整することができる。
【0026】
なお、本実施形態の別の変形例として、
図3に示すように、真空容器12のビーム通路40に可動式内壁30を設けても良い。可動式内壁30は、ビーム通路40の内壁であり、例えば金属製の内壁32とそれを支持する位置調整機構34とで構成される。内壁32は真空容器12とRFコンタクト等で接触し、その表面を高周波エネルギーが伝導可能に構成される。位置調整機構34は例えばマニピュレーター、ネジ等で構成し、外部から制御可能とする。可動式内壁30は、位置調整機構34によって内壁32の位置を調整することで、ビーム通路40の口径を変化させることができる。
【0027】
この変形例により、第1実施形態と同様な効果に加えて、荷電粒子ビームの透過率やサイズ等の状態と消費電力とを監視しながらビーム通路40の口径を任意に調整可能とすることができる。また、ビーム通路40の口径を任意に調整できるので、ビーム通路40の口径が同様な加速空洞10を構成しても、組み立てた後で可動式内壁30によるビーム通路40の口径の調整によって第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0028】
なお、本実施形態の更なる変形例として、
図4に示すように、加速空洞10それぞれが構成するビーム通路40の口径をビーム軸P方向の上流側端部44の方が下流側端部46よりも大きく構成しても良い。なお、
図4においてこの口径は上流側端部44から下流側端部46に向かって連続的に変化させているが、断続的に変化させても良い。その方法は、例えばビーム通路40を形成する切削工程でビーム通路40の口径を変化させる。ビーム通路40の口径は、上流側から下流側に向かって、ビーム通路40の断面が円形の場合は円形断面の半径を縮小させる、断面が楕円の場合は長軸と短軸との縮小割合をビーム軸P方向毎に変える、断面が長方形や台形の場合は断面において各方向の縮小率を変える等の方法でその口径を変化させる。
【0029】
この変形例により、第1実施形態と同様な効果に加えて、ビーム通路40の下流側ほど口径を小さくできるので、加速空洞10における消費電力をより低減できる。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
1…加速器システム、10…加速空洞、10A…第一加速空洞、10B…第二加速空洞、12…真空容器、14…容器本体、16…ギャップ形成板、18…アンテナ、20…フランジ、22…導波管、24…収束磁石、26…収束用空洞、28…ダクト、30…可動式内壁、32…内壁、34…位置調整機構、40…ビーム通路、42…加速ギャップ、44…上流側端部、46…下流側端部。