IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金ステンレス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-締結部品及び締結部品の設計方法 図1
  • 特開-締結部品及び締結部品の設計方法 図2
  • 特開-締結部品及び締結部品の設計方法 図3A
  • 特開-締結部品及び締結部品の設計方法 図3B
  • 特開-締結部品及び締結部品の設計方法 図4
  • 特開-締結部品及び締結部品の設計方法 図5
  • 特開-締結部品及び締結部品の設計方法 図6
  • 特開-締結部品及び締結部品の設計方法 図7
  • 特開-締結部品及び締結部品の設計方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069023
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】締結部品及び締結部品の設計方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 35/00 20060101AFI20240514BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240514BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20240514BHJP
   F16B 35/04 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
F16B35/00 J
G06F30/10 100
G06F30/20
F16B35/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179778
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】櫻庭 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田所 裕
(72)【発明者】
【氏名】坂井 浩樹
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DC04
5B146DJ07
5B146DJ11
(57)【要約】
【課題】頭部での破断が起こりにくい二相ステンレス鋼からなる締結部品及び締結部品の設計方法を提供する。
【解決手段】ねじ部を有する軸部と、軸部の一端に接続されて軸部の延在方向と直交する方向に延在する頭部と、を備えたT字状の締結部品であって、0.2%耐力が500MPa以上、加工硬化指数が0.25以下のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼からなり、下記式(1)で求められるS値が1.20超である締結部品を採用する。
S=(2×B×0.6)/A …(1)
式(1)において、Aは、軸部の長手方向と直交する断面であって、断面積が最小となる位置での断面の断面積であり、Bは、頭部の長手方向と直交する頭部の断面であって軸部の一端と頭部とが接する隅部から頭部の長手方向の端部に向けて隅部の隅部Rの終点位置での断面の断面積である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ部を有する軸部と、前記軸部の一端に接続されて前記軸部の延在方向と直交する方向に延在する頭部と、を備えたT字状の締結部品であって、
0.2%耐力が500MPa以上、加工硬化指数が0.25以下のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼からなり、
下記式(1)で求められるS値が1.20超である、締結部品。
S=(2×B×0.6)/A …(1)
式(1)において、Aは、前記軸部の長手方向と直交する断面であって、断面積が最小となる位置での断面の断面積であり、Bは、前記頭部の長手方向と直交する前記頭部の断面であって前記軸部の前記一端と前記頭部とが接する隅部から前記頭部の長手方向の端部に向けて隅部の隅部Rの終点位置での断面の断面積である。
【請求項2】
ねじ部を有する軸部と、前記軸部の一端に接続されて前記軸部の延在方向と直交する方向に延在する頭部と、を備えたL字状の締結部品であって、
0.2%耐力が500MPa以上、加工硬化指数が0.25以下のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼からなり、
下記式(2)で求められるS値が1.20超である、締結部品。
S=(B×0.6)/A …(2)
式(2)において、Aは、前記軸部の長手方向と直交する断面であって、断面積が最小となる位置での断面の断面積であり、Bは、前記頭部の長手方向と直交する前記頭部の断面であって前記軸部の前記一端と前記頭部とが接する隅部から前記頭部の長手方向の端部に向けて隅部の隅部Rの終点位置での断面の断面積である。
【請求項3】
前記式(1)または前記式(2)で求められるS値が1.50以下である、請求項1または請求項2に記載の締結部品。
【請求項4】
ねじ部を有する軸部と、前記軸部の一端に接続されて前記軸部の延在方向と直交する方向に延在する頭部と、を備えた締結部品の設計方法であって、
前提条件として、前記締結部品の素材を、0.2%耐力が500MPa以上、加工硬化指数が0.25以下のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼とした上で、前記軸部及び前記頭部を有する前記締結部品の形状を初期設定し、初期設定した形状に基づき、前記頭部の高さ方向の下端部を固定した状態で前記軸部に引張応力を印加する場合のダメージ値の分布を数値シミュレーションによって予測して、前記頭部が破断する直前での前記軸部と前記頭部とが接する隅部における最大ダメージ値を求める第1ステップと、
前記隅部における最大ダメージ値が閾値を超える場合に、前記頭部の高さを増加させた前記締結部品の形状を再設定するとともに再設定した前記締結部品の形状に基づいて前記隅部のダメージ値の測定を、最大ダメージ値が閾値以下になるまで繰り返す第2ステップと、
前記第1ステップまたは前記第2ステップにおいて、前記隅部における最大ダメージ値が閾値以下になる場合に、その場合の前記頭部の高さを備えた前記締結部品の形状を、製品形状として決定する第3ステップと、を備える締結部品の設計方法。
【請求項5】
前記締結部品の素材を、オーステナイト系ステンレス鋼とする前提条件下で、前記頭部の高さ方向の下端部を固定した状態で前記軸部に引張応力を印加する場合のダメージ値を数値シミュレーションによって予測して、前記頭部が破断する直前での前記軸部の前記一端と前記頭部とが接する前記隅部における最大ダメージ値を求め、この最大ダメージ値以下の数値を、前記閾値とする、請求項4に記載の締結部品の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結部品及び締結部品の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、水道管に利用されるダクタイル鋳鉄管の管継手には、締結部品としてT頭ボルトおよびナットが用いられる。T頭ボルトは、ねじ部を有する軸部と、軸部の一端にある頭部とから構成される。頭部は、軸部の長手方向と直交する方向に延在している。そして、T頭ボルトは、軸部および頭部によって、外観上、T字状の形状を有している。
【0003】
また、T頭ボルト以外の締結部品として、L字形の締結部品も知られている。L字形の締結部品は、ねじ部を有する軸部と、軸部の一端にある頭部とから構成される。頭部は、軸部の長手方向と直交する方向に延在している。L字形の締結部品は、軸部および頭部によって、外観上、L字状の形状を有している。
【0004】
T頭ボルトを用いた管継手の簡単な具体例として、一方の管の端部と他方の管の端部のそれぞれにフランジ部を設け、双方の管のフランジ部を突き合わせた状態で、フランジ部に設けられた貫通孔にT頭ボルトを挿入し、ナットで締結したものを例示できる。管継手におけるフランジ部は、T頭ボルトの頭部とナットとの間に挟まれた状態で締結される。このため、管継手におけるT頭ボルトの軸部には、軸部の長手方向に引張応力が加わり、また、頭部には、頭部の長手方向と直交する方向に剪断応力が加わる。
【0005】
上述の締結部品は、一般に、棒鋼を鍛造して所定の形状に加工し、ひずみを除去するための熱処理を行い、更に、軸部にねじ部を形成することによって製造される。従来から、T頭ボルト等の締結部品の素材としては、ダグタイル鋳鉄、炭素鋼、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS403等のマルテンサイト系ステンレス鋼が採用されているが、最近では、耐食性に優れたSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼が素材として用いられている(例えば、特許文献1)。
【0006】
しかし、オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性に優れるものの、Ni等の高価な金属を含有することから、コストの問題がある。そこで、最近では、オーステナイト系ステンレス鋼に代えて、フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼が注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-274295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼(以下、二相ステンレス鋼という場合がある)は、Niのような高価な金属の含有量が少なく、耐食性もオーステナイト系ステンレス鋼と同等である。しかしながら、T頭ボルトに対して引張破壊試験を行うと、オーステナイト系ステンレス鋼からなるT頭ボルトは軸部が延性破断するのに対して、二相ステンレス鋼からなるT頭ボルトでは頭部が剪断破断することが判明した。オーステナイトステンレス鋼での破断箇所である軸部は、管継手のフランジ部の貫通孔内にあるので、延性破断したとしても周囲への影響は小さい。しかしながら、二相ステンレス鋼での破断箇所である頭部は、管継手の外部に露出しているので、頭部の剪断破断によって頭部の破片が周囲に飛び散り、周囲のものを破損するなどの影響を及ぼす恐れがある。このようなことは、T頭ボルトに限らず、L字形の締結部品においても起こり得る。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、頭部での破断が起こりにくい二相ステンレス鋼からなる締結部品及び締結部品の設計方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] ねじ部を有する軸部と、前記軸部の一端に接続されて前記軸部の延在方向と直交する方向に延在する頭部と、を備えたT字状の締結部品であって、
0.2%耐力が500MPa以上、加工硬化指数が0.25以下のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼からなり、
軸部と頭部の断面積より算出される下記式(1)のS値が1.20超である、締結部品。
S=(2×B×0.6)/A …(1)
式(1)において、Aは、前記軸部の長手方向と直交する断面であって、断面積が最小となる位置での断面の断面積であり、Bは、前記頭部の長手方向と直交する前記頭部の断面であって前記軸部の前記一端と前記頭部とが接する隅部から前記頭部の長手方向の端部に向けて前記隅部の隅部Rの終点位置での断面の断面積である。
[2] ねじ部を有する軸部と、前記軸部の一端に接続されて前記軸部の延在方向と直交する方向に延在する頭部と、を備えたL字状の締結部品であって、
0.2%耐力が500MPa以上、加工硬化指数が0.25以下のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼からなり、
軸部と頭部の断面積より算出される下記式(2)S値が1.20超である、締結部品。
S=(B×0.6)/A …(2)
式(2)において、Aは、前記軸部の長手方向と直交する断面であって、断面積が最小となる位置での断面の断面積であり、Bは、前記頭部の長手方向と直交する前記頭部の断面であって前記軸部の前記一端と前記頭部とが接する隅部から前記頭部の長手方向の端部に向けて前記隅部の隅部Rの終点位置での断面の断面積である。
[3] 前記式(1)または前記式(2)で求められるS値が1.50以下である、[1]または[2]に記載の締結部品。
【0011】
[4] ねじ部を有する軸部と、前記軸部の一端に接続されて前記軸部の延在方向と直交する方向に延在する頭部と、を備えた締結部品の設計方法であって、
前提条件として、前記締結部品の素材を、0.2%耐力が500MPa以上、加工硬化指数が0.25以下のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼とした上で、前記軸部及び前記頭部を有する前記締結部品の形状を初期設定し、初期設定した形状に基づき、前記頭部の高さ方向の下端部を固定した状態で前記軸部に引張応力を印加する場合のダメージ値の分布を数値シミュレーションによって予測して、前記頭部が破断する直前での前記軸部と前記頭部とが接する隅部における最大ダメージ値を求める第1ステップと、
前記隅部における最大ダメージ値が閾値を超える場合に、前記頭部の高さを増加させた前記締結部品の形状を再設定するとともに再設定した前記締結部品の形状に基づいて前記隅部のダメージ値の測定を、最大ダメージ値が閾値以下になるまで繰り返す第2ステップと、
前記第1ステップまたは前記第2ステップにおいて、前記隅部における最大ダメージ値が閾値以下になる場合に、その場合の前記頭部の高さを備えた前記締結部品の形状を、製品形状として決定する第3ステップと、を備える締結部品の設計方法。
[5] 前記締結部品の素材を、オーステナイト系ステンレス鋼とする前提条件下で、前記頭部の高さ方向の下端部を固定した状態で前記軸部に引張応力を印加する場合のダメージ値を数値シミュレーションによって予測して、前記頭部が破断する直前での前記軸部の前記一端と前記頭部とが接する前記隅部における最大ダメージ値を求め、この最大ダメージ値以下の数値を、前記閾値とする、[4]に記載の締結部品の設計方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、頭部での破断が起こりにくい二相ステンレス鋼からなる締結部品及び締結部品の設計方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態の締結部品の一例であるT頭ボルトを示す拡大模式図。
図2図2は、図1のA-A線における断面図。
図3A図3Aは、軸部で破断したT頭ボルトを示す模式図。
図3B図3Bは、頭部で破断したT頭ボルトを示す模式図。
図4図4は、数値シミュレーションによって予測されたダメージ値の分布を示す図であって、(a)は二相ステンレス鋼からなるT頭ボルトのダメージ値の分布図であり、(b)オーステナイト系ステンレス鋼からなるT頭ボルトのダメージ値の分布図。
図5図5は、本実施形態の締結部品の設計方法を説明するフローチャート。
図6図6は、本実施形態の締結部品の設計方法において、数値シミュレーションによりダメージ値を予測する場合の引張試験のモデルを示す模式図。
図7図7は、二相ステンレス鋼からなるM24のT頭ボルトについて、数値シミュレーションによって予測されたダメージ値の分布を示す図であり、(a)は基準となるダメージ値の分布図であり、(b)は基準に対して頭部高さを0.5mm増加させた場合のダメージ値の分布図であり、(c)は基準に対して頭部高さを1.0mm増加させた場合のダメージ値の分布図である。
図8図8は、二相ステンレス鋼からなるM20のT頭ボルトについて、数値シミュレーションによって予測されたダメージ値の分布を示す図であり、(a)は基準となるダメージ値の分布図であり、(b)は基準に対して頭部高さを1.5mm増加させた場合のダメージ値の分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ねじ部が設けられた軸部と、軸部の一端に備えられた頭部とを有するT字形またはL字形の締結部品が知られている。このような締結部品の一例として、図1及び図2に示すようなT頭ボルトがある。図1及び図2に示すT頭ボルト1は、図示略のねじ部を有する軸部2と、軸部2の長手方向と直交する方向に延在する頭部3とを有する。そして、T頭ボルト1は、軸部2および頭部3によって、外観上、T字状の形状を有している。
【0015】
このようなT頭ボルト1に対して、軸部の長手方向と平行な方向に応力を付与すると、図3Aに示すように、軸部2が延性破断する場合と、図3Bに示すように、頭部3が剪断破断する場合とがある。仮に、軸部2の断面積と頭部3の断面積を同一にした場合は、軸部2が延性破断するよりも前に、頭部3が剪断破断する。T頭ボルト1の頭部3は、管継手等の外部に露出しているため、頭部3が破断すると周囲に破片が飛んで影響を及ぼす畏れがある。従って、T頭ボルト1を設計する場合は、頭部3では破断させず、軸部2で破断するように形状を設計する必要がある。そこで、本発明者らは、頭部3で破断する前に軸部2で破断する締結部品について検討した。
【0016】
検討にあたり、本発明者らは、ダメージ値に注目した。ダメージ値は、変形中の応力を考慮した歪み量であり、例えば、下記のcockcroft&Lathamの延性破壊条件式(M)で与えられるD値が知られている。
【0017】
【数1】
【0018】
式(M)において、σmaxは最大主応力(MPa)であり、σは相当応力(MPa)であり、dεは相当ひずみ増分である。
【0019】
ダメージ値の分布の一例を図4に示す。図4は、数値シミュレーションによって予測されたダメージ値の分布を示す図であって、(a)は二相ステンレス鋼からなるT頭ボルトのダメージ値の分布図であり、(b)はオーステナイト系ステンレス鋼からなるT頭ボルトのダメージ値の分布図である。数値シミュレーションによってダメージ値を予測することができる。
【0020】
図4(a)及び図4(b)は、何れも、破断直前におけるダメージ値の分布図である。図4(a)に示すように、二相ステンレス鋼からなるT頭ボルトの場合、軸部と頭部の接続部分である隅部におけるダメージ値が最大となり、その値(最大ダメージ値)は0.92である。一方、図4(b)に示すように、オーステナイト系ステンレス鋼からなるT頭ボルトの場合、隅部の最大ダメージ値は0.35となる。最大ダメージ値が高いほど、その箇所において破壊が起きることが示唆される。実際に、引張試験では、二相ステンレス鋼からなるT頭ボルトでは頭部が破断し、オーステナイト系ステンレス鋼からなるT頭ボルトでは軸部が破断する。従って、最大ダメージ値は、破断が起きるかどうかを予測する指標となる。最大ダメージ値は、素材の強度や、頭部の断面積に影響を受けるが、本発明者は、これらに加えて、素材の加工硬化指数も限界ダメージ値に影響を与えることを見出した。
【0021】
以下、本発明の実施形態である締結部品及び締結部品の設計方法を説明する。説明の便宜上、最初に締結部品の設計方法について説明し、次に、締結部品について説明する。
【0022】
(締結部品の設計方法)
本実施形態の締結部品の設計方法は、図1及び図2に例示したように、図示略のねじ部を有する軸部2と、軸部2の一端に接続されて軸部2の延在方向と直交する方向に延在する頭部3と、を備えた締結部品の設計方法であって、第1ステップと、第2ステップと、第3ステップよりなる。以下、図5を参照しつつ、各ステップについて説明する。
【0023】
第1ステップでは、まず前提条件として、締結部品の素材を、0.2%耐力が500MPa以上、加工硬化指数が0.25以下のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼とする。素材の機械特性としては、0.2%耐力および加工硬化指数のほかに、伸び量および引張強度を考慮してもよい。この場合、伸び量は20%以上、引張強度は750MPa以上としてもよい。
【0024】
ここで、加工硬化指数n値について詳細を述べる。本実施形態の締結部品は、従来まで締結部品の素材の機械特性としてあまり注目されていなかった加工硬化指数に着目した。図4で示したように、二相ステンレス鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼において、破断直前の最大ダメージ値の分布位置に大きな差が生じるのは、加工硬化指数に違いによることを見出した。オーステナイト系ステンレス鋼は、ひずみが加わると、加工誘起により硬質なマルテンサイト変態が起こりやすい。この硬質なマルテンサイトが生成されることで変形は周囲の軟質なオーステナイト相が担い、変形領域が拡大する。これによりオーステナイト系ステンレス鋼は加工硬化指数が0.43程度と比較的高く、また、延性も高い。このため、オーステナイト系ステンレス鋼からなるT頭ボルトにひずみが加わると、加工誘起により隅部5(図1を参照)においてマルテンサイト変態が起こり、隅部5が周囲よりも硬化する。更にひずみが加わると、硬化する領域が拡大するととともに、更にその周囲に変形領域が広がるので、隅部5にはひずみが集中しにくい。このため、オーステナイト系ステンレス鋼からなるT頭ボルトは、隅部5の最大ダメージ値が小さくなり、頭部3での剪断破壊が起こりにくくなる。
【0025】
一方、二相ステンレス鋼からなるT頭ボルトにひずみが加わると、二相スレンレス鋼の組織中のオーステナイト相が加工誘起によってマルテンサイトに変態して硬化するものの、軟質なフェライト相が優先的に変形するため、加工硬化指数は低く、隅部5における硬化の程度はオーステナイト系ステンレス鋼よりも小さい。このため、ひずみ量の増加に伴う変形領域の拡大がオーステナイト系ステンレス鋼ほどには広がらず、隅部において変形が進み、ひずみが集中する。このため、二相ステンレス鋼からなるT頭ボルトは、隅部5の最大ダメージ値が大きくなり、限界ダメージ値に到達しやすくなるため、頭部3での剪断破壊が起こりやすくなる。
【0026】
以上のように、締結部品における頭部の剪断破壊は、加工硬化指数が影響することを知見した。本実施形態の締結部品は、加工硬化指数が0.25以下であり、剪断破壊に不利な素材を用いる場合でも、頭部の剪断破壊を防止可能な締結部品の設計を可能とする。
【0027】
上記の前提条件に加えて、本実施形態では、図5のST1に示すように、初期条件として、軸部及び頭部を有する締結部品の形状を初期設定しておく。
【0028】
次に、第1ステップでは、図5のST2に示すように、上記の前提条件および初期設定した締結部品の形状のもとで、頭部の高さ方向の下端部を固定した状態で軸部に引張応力を印加する場合のダメージ値の分布を、数値シミュレーションによって予測する。図6に、数値シミュレーションにおいて引張応力を印加する場合のモデル図を示す。頭部3の高さ方向の下端部3aを治具4により固定した状態で、軸部2の他端2bを軸部2の長手方向に沿って引張応力を付与する。治具4は、なるべく軸部2に近い位置に配置した状態とする。これにより、軸部2には、軸部2の延在方向と平行な方向に応力が加わる。また、頭部3においては、治具4との接触位置において、頭部3の延在方向、すなわち、軸部2の長手方向と直交する方向に対してせん断応力が加わる。
【0029】
数値シミュレーションは、締結部品を複数の要素に分割した状態で、FEM解析を行い、各要素の変形量をシミュレーションし、この変形量をひずみ量に変換する。そして、引張応力の印加開始から終了に至るまでの間で、上記式(M)に基づき、要素毎にダメージ値を計算する。
【0030】
そして、頭部3が破断する直前でのダメージ値の最大値(最大ダメージ値)を求める。ダメージ値の最大値(最大ダメージ値)は、治具4の軸部側の端部4aが頭部3に接する位置の近傍、すなわち、軸部2の一端2aと頭部3とが接する隅部5において得られる場合が多いが、頭部3の形状によっては、ダメージ値の最大値(最大ダメージ値)となる位置が、多少ずれる場合もあり得る。
【0031】
次に、図5のST3において、隅部5における最大ダメージ値が閾値以下になる場合は、第3ステップに進み、隅部5における最大ダメージ値が閾値を超える場合は、第2ステップに進む。
【0032】
第2ステップは、図5のST3及びST4に示すように、隅部における最大ダメージ値が閾値を超える場合に、頭部3の高さを増加させた締結部品の形状を再設定する。頭部3の高さの増加量は、特に限定はないが、例えば、0.1mmでもよく、0.3mmでもよく、0.5mmでもよく、1.0mmでもよい。頭部高さを増加した締結部品は、初期設定した形状に対して、頭部3の断面積が増加している。
【0033】
次いで、図5のST2~ST4に示すように、再設定した締結部品の形状に基づいて隅部5における最大ダメージ値の測定を行う。
【0034】
そして、第2ステップでは、頭部3の高さを増加させた締結部品の形状を再設定する操作と、再設定した締結部品の形状に基づいて隅部5の最大ダメージ値を測定する操作を、最大ダメージ値が閾値以下になるまで繰り返し行う。
【0035】
すなわち、図5のST2において再設定した締結部品の形状に基づき、図5のST2において、頭部3の高さ方向の下端部3aを固定した状態で軸部2に引張応力を印加する場合のダメージ値の分布を、数値シミュレーションによって予測し、頭部3が破断する直前での軸部2の一端2aと頭部3とが接する隅部5における最大ダメージ値を求める。そして、ST3において、最大ダメージ値が閾値以下であるかどうかを確認する。最大ダメージ値が閾値超の場合は、ST4における締結部品の形状の再設定と、ST2におけるダメージ値の予測を繰り返す。他方、最大ダメージ値が閾値以下になった場合は、第3ステップに進む。
【0036】
第3ステップでは、図5のST5に示すように、第1ステップまたは第2ステップにおいて隅部5における最大ダメージ値が閾値以下になる場合に、その場合の頭部高さを備えた締結部品の形状を、製品形状として決定する。
【0037】
図5のST3におけるダメージ値の閾値は、締結部品の素材をオーステナイト系ステンレス鋼とする前提条件下で、先に説明したST1及びST2と同様にして、頭部3の高さ方向の下端部3aを固定した状態で軸部2に引張応力を印加する場合のダメージ値を数値シミュレーションによって予測し、頭部3が破断する直前での軸部2の一端2aと頭部3とが接する隅部5における最大ダメージ値を求め、この最大ダメージ値以下の数値を、閾値としてもよい。
【0038】
一例として、図4の(b)には、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304からなるT頭ボルトのダメージ値の分布図が示されている。図4(b)において、最大となるダメージ値(最大ダメージ値)は0.35であるので、閾値を0.35以下としてもよい。
【0039】
以下、本実施形態の設計方法の具体例を示す。図7は、二相ステンレス鋼からなるM24のT頭ボルトについて、数値シミュレーションによって予測されたダメージ値の分布を示す図である。図7(a)は、基準となるダメージ値の分布図であり、図7(b)は、図7(a)の基準に対して頭部高さを0.5mm増加させた場合のダメージ値の分布図であり、図7(c)は、図7(a)の基準に対して頭部高さを1.0mm増加させた場合のダメージ値の分布図である。二相ステンレス鋼としては、0.2%耐力:601MPa、引張強度:793MPa、伸び:29.9%、n値:0.19の二相ステンレス鋼NSSC2120(日鉄ステンレス株式会社製)を用いた。
【0040】
図7(a)に示すように、初期形状とした締結部品の場合、最大ダメージ値は0.42を示し、閾値である0.35を上回った。そこで、初期の形状よりも頭部高さを0.5mm高くした形状について最大ダメージ値を測定したところ、図7(b)に示すように最大ダメージ値は0.36を示し、閾値である0.35を僅かに上回った。更に、初期の形状よりも頭部高さを1.0mm高くした形状について同様に測定したところ、図7(c)に示すように最大ダメージ値は0.28を示し、閾値である0.35を下回った。なお、頭部の断面積は、図7(a)の場合は317mm図7(b)の場合は329mm図7(c)の場合は340mmであった。以上により、頭部高さを1.0mm高くして頭部の断面積を340mmとしたT頭ボルトは、頭部で破断するよりも前に、軸部で破断することが期待される。
【0041】
次に、設計方法の別の具体例を示す。図8は、二相ステンレス鋼からなるM20のT頭ボルトについて、数値シミュレーションによって予測されたダメージ値の分布を示す図であり、図8(a)は、基準となるダメージ値の分布図であり、図8(b)は、図8(a)の基準に対して頭部高さを1.5mm増加させた場合のダメージ値の分布図である。二相ステンレス鋼は、NSSC2120を用いた。
【0042】
図8(a)に示すように、初期形状とした締結部品の場合、最大ダメージ値は0.92を示し、閾値である0.35を大幅に上回った。そこで、初期の形状よりも頭部高さを1.5mm高くした形状についてダメージ値を測定したところ、最大ダメージ値は0.26を示し、閾値である0.35を下回った。なお、頭部の断面積は、図8(a)の場合は218mm図8(b)の場合は247mmであった。以上により、頭部高さを1.5mm高くして頭部の断面積を247mmとしたT頭ボルトは、頭部で破断するよりも前に、軸部で破断することが期待される。
【0043】
また、詳細なデータは示さないが、隅部の曲率半径を大きくすることによっても、ダメージ値を低減することが可能である。例えば、NSSC2120からなるM20のT頭ボルトにおいて、図8(a)に示したように、初期形状である締結部品は限界ダメージ値が0.92を示し、初期の形状よりも頭部高さを1.5mm高くした形状では最大ダメージ値が0.26となるが、隅部の曲率半径を元のR3からR5へと大きくした場合の最大ダメージ値は0.41を示し、隅部の曲率半径を高めることが有効であることがわかった。隅部の曲率半径のみで改善する場合にはボルトのサイズや取り付け部の形状にもよるが、隅部の曲率半径はR7以上がよい。
【0044】
次に、本実施形態の締結部品について説明する。
締結部品の設計方法において示唆されたように、頭部の破断を防止する場合は、頭部高さを増加して頭部の断面積を増加することが有効であることが示唆されたが、ボルトのサイズ毎に頭部の断面積の好適範囲は大きく異なっており、最適な頭部の断面積を一般的に求めることは容易ではない。
【0045】
軸部の引張応力σは下記式(3)で示すことができる。ここでのFは棒状素材の長手方向への引張荷重、Aは軸部の長手方向と直交する断面であって、断面積が最小となる位置での断面の断面積である。ところで、T頭ボルトの頭部の破断は、剪断により破断する。他方で、棒状の素材に対する長手方向と直交する方向の剪断破壊応力は、棒状素材の長手方向に引っ張った場合の引張破壊応力に対して、0.6倍になることが知られている。上記の関係と式(3)より、軸部の引張応力と同等の応力を受ける頭部の剪断面積は式(4)に示すように、頭部の断面積の0.6倍で示すことができる。頭部の剪断破壊を回避するためには頭部の剪断応力が軸部の引張応力を上回る必要がある。一方で、軸部の破断強度は、軸部の直径が大きくなるほど高まる。これらのことから、本発明者らが検討したところ、軸部と頭部の断面積の関係より、T字形の締結部品については、下記式(1)で求められるS値が1.20超、L字状の締結部品については、下記式(2)で求められるS値が1.20超を満足する場合に、頭部の破断を防止できることを見出した。
式(1)、式(2)は、応力の算出式と引張応力とせん断応力の関係より導かれる式となる。
【0046】
S=(2×B×0.6)/A …(1)
S=(B×0.6)/A …(2)
σ=F/A …(3)
A=B×0.6 …(4)
【0047】
すなわち、本実施形態の締結部品は、T字状の締結部品でもよく、L字状の締結部品でもよい。
【0048】
T字状の締結部品は、ねじ部を有する軸部と、軸部の一端に接続されて軸部の延在方向と直交する方向に延在する頭部と、を備えたT字状の締結部品であって、0.2%耐力が500MPa以上、加工硬化指数が0.25以下のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼からなり、上記式(1)で求められるS値が1.20超を満足する必要がある。
【0049】
式(1)において、Aは、軸部の長手方向と直交する断面であって、断面積が最小となる位置での断面の断面積であり、Bは、頭部の長手方向と直交する頭部の断面であって軸部の一端と頭部とが接する隅部から頭部の長手方向の端部に向けて隅部の隅部Rの終点位置での断面の断面積である。隅部Rとは、所定の曲率半径にて曲面加工された領域を指し、隅部Rの終点とは、曲面加工された領域の頭部側の端の位置をいう。なお、断面積A、Bや隅部Rの算出には、例えば、製品CADのデータを算出するか、あるいは、3次元形状測定機を用いて実製品の形状を測定することで算出することができる。
【0050】
隅部の隅部Rの終点位置は、締結部品を施工穴に挿入した際に、施工穴の内径に対応する位置になる。隅部Rの曲率半径は、R3以上でもよく、R5以上でもよく、R7以上でもよい。隅部Rの曲率半径が大きくなるほど、隅部Rの終点位置は頭部の長手方向の端部に寄ることになる。なお、隅部Rの終点位置が不明りょうである場合は、隅部から頭部の長手方向に向けて2mm離れた位置を隅部Rの終点位置としてもよい。
【0051】
また、L字状の締結部品は、ねじ部を有する軸部と、軸部の一端に接続されて軸部の延在方向と直交する方向に延在する頭部と、を備えたL字状の締結部品であって、0.2%耐力が500MPa以上、加工硬化指数が0.25以下のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼からなり、上記式(2)で求められるS値が1.20超を満足する必要がある。
【0052】
式(2)において、Aは、軸部の長手方向と直交する断面であって、断面積が最小となる位置での断面の断面積であり、Bは、頭部の長手方向と直交する頭部の断面であって軸部の一端と頭部とが接する隅部から頭部の長手方向の端部に向けて隅部の隅部Rの終点位置での断面の断面積である。式(2)におけるBの定義の詳細は、式(1)におけるBの定義の詳細と同様でよい。
【0053】
式(1)または式(2)で求められるS値は、1.25以上であることがより好ましく、1.30以上であることが更に好ましく、1.35以上であることが更に好ましい。S値が高いほど、破断位置が軸部になる可能性が高まる。
【0054】
また、式(1)または式(2)で求められるS値は高いほど好ましいが、S値が高くなると、締結部品の頭部高さ、すなわち頭部の断面積が大きくなり、締結部品の質量が増大してしまい、素材のコストも増大する。よってS値は、1.50以下であることが好ましい。
【0055】
以上の条件を満足することにより、頭部が破断するよりも先に、軸部が破断する締結部品を得ることができる。
【0056】
下記の表1は、図1に示すT頭ボルトについて、様々な形状のボルトを試作し、実際に引張試験を行って破断位置を確認した例を示す。T頭ボルトの素材は二相ステンレス鋼NSSC2120(日鉄ステンレス株式会社製)である。ボルトのサイズはM24である。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、S値が1.20超の場合に、軸部で破断が起こることが確認された。
【符号の説明】
【0059】
1…締結部品(T頭ボルト)
2…軸部
3…頭部
4…頭部の下端部
5…隅部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8