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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069042
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】プレス成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/20 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
B21D22/20 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179815
(22)【出願日】2022-11-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】592204886
【氏名又は名称】冨士発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128923
【弁理士】
【氏名又は名称】納谷 洋弘
(74)【代理人】
【識別番号】100128912
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100180297
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】小田垣 敏弘
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA04
4E137BB01
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA24
4E137GA02
4E137GB18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から底部を有する筒状の容器を成形する際に、ワークの底部側に歪みが生じてしまうことを抑制できるプレス成形方法を提供する。
【解決手段】第1のプレス絞り加工工程は、長孔状の第1の成形孔73Aを有する第1の金型を用いて行われ、最終回以外の少なくともいずれかのプレス絞り加工工程として構成される。第2のプレス絞り加工工程は、長孔状の第2の成形孔73Bを有する第2の金型を用いて行われ、第1のプレス絞り加工工程の次のプレス絞り加工工程として構成される。第1の成形孔73Aは、第2の成形孔73Bよりも、長手方向Xに垂直な幅方向Yの寸法が大きく形成され、長手方向Xにおける両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に向かって窄まるように形成されている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から底部を有する筒状の容器を成形するプレス成形方法であって、
長孔状の前記成形孔としての第1の成形孔を有する第1の金型を用いて行われ、前記複数回のプレス絞り加工工程のうちから最終回のプレス絞り加工工程を除いたプレス絞り加工工程のうちの少なくともいずれかのプレス絞り加工工程として構成される第1のプレス絞り加工工程と、
長孔状の前記成形孔としての第2の成形孔を有する第2の金型を用いて行われ、前記複数回のプレス絞り加工工程のうちの前記第1のプレス絞り加工工程の次のプレス絞り加工工程として構成される第2のプレス絞り加工工程と、を備え、
前記第1の成形孔は、前記第2の成形孔よりも、長孔状に延びる方向である長手方向に垂直な方向である幅方向の寸法が大きく形成され、
前記第1の成形孔は、前記長手方向における両端側から中央側にかけて前記幅方向の内側に向かって窄まるように形成されている、
ことを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
前記第1のプレス絞り加工工程は、前記複数回のプレス絞り加工工程のうちの初回のプレス絞り加工工程として構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のプレス成形方法。
【請求項3】
前記第1の成形孔は、前記長手方向における両端側から中央側にかけて前記幅方向の内側に向かって湾曲しながら窄まるとともに、前記長手方向における中央位置において前記幅方向の内側に最も窄まるように形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプレス成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形においては、成形孔が設けられたダイとワークをダイの成形孔に押し込むパンチとを備える金型を用いてワークの加工が行われる。そして、断面が長手方向を有する形状で底部を有する筒状の容器を成形する際には、長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から筒状の容器を成形するプレス成形が行われる。例えば、非特許文献1には、長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで、平板から断面が略長方形の角筒状の容器を成形するプレス成形方法が開示されている。
【0003】
非特許文献1に開示されているように、長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うプレス成形方法が実施されることで、平板から角筒状の容器が成形される。なお、複数回のプレス絞り加工工程を経て成形された容器の形状が製品としての最終形状を規定する場合もあるが、複数回のプレス絞り加工工程を行うプレス成形方法が終了した後に、成形された角筒状の容器に対して更に扱き加工工程が施される場合もある。複数回のプレス絞り加工工程が終了した後に行われる扱き加工工程では、扱き加工用の金型を用い、成形された角筒状の容器に対して、容器の壁部の板厚みを扱いて減厚して製品としての最終形状を規定する扱き加工が行われる。
【0004】
非特許文献1に開示されているように、断面が略長方形の角筒状の容器を成形する際には、複数回のプレス絞り加工工程における最終回以外のプレス絞り加工工程において、直線部がなく外側に楕円状に広がった形状の成形孔を有する金型が用いられる。即ち、製品の最終形状を規定するもしくは製品の最終形状に対応するような形状を規定する最終回のプレス絞り加工工程以外の途中のプレス絞り加工工程においては、金型における長孔状の成形孔の形状は、全周に亘ってなだらかに円弧状につながって楕円状に広がった形状に形成される。
【0005】
長孔状の成形孔を有する金型を用いてプレス絞り加工を行う場合、プレス絞り加工されるワークには、成形孔が長孔状に延びる方向である長手方向の両端側で加工される部分において圧縮力が発生する。一方、長孔状の成形孔における長手方向に沿って延びる部分が直線状に形成されている場合、ワークにおいては、成形孔の長手方向の中央側で加工される部分では、周方向の力が生じずに曲げ加工が施される状態となってしまう。この場合、ワークにおいては、長手方向における両端側で加工される部分から長手方向の中央側で加工される部分に圧縮力が作用する状態となる。即ち、長手方向における両端側で加工される部分で圧縮力が生じることで、その影響により、曲げ加工される状態の長手方向の中央側でも圧縮力が生じることになる。このため、長手方向の中央側で加工される部分において座屈が生じてしわが発生し易くなる。そこで、非特許文献1に開示されているように、最終回以外のプレス絞り加工工程において長孔状の成形孔を有する金型を用いてプレス絞り加工が行われる場合は、全周に亘って外側に楕円状に広がった形状の成形孔の金型が用いられる。楕円状に広がった形状の成形孔の金型が用いられることで、プレス絞り加工されるワークにおいて、長手方向の両端側で加工される部分だけでなく、長手方向の中央側で加工される部分においても、圧縮力が生じることになる。このため、ワークにおいては、周方向の全周に亘って圧縮力が生じることになり、長手方向の中央側で加工される部分において座屈が生じにくくなってしわの発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】吉田弘美著、「プレス加工大全」日刊工業新聞、2015年9月、p.94-95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
長孔状の成形孔を有する金型を用いて行うプレス絞り加工工程において、楕円状に広がった形状の成形孔の金型が用いられることで、ワークにおいて、周方向の全周に亘って圧縮力を生じさせ、長手方向の中央側における座屈によるしわの発生を抑制することができる。しかし、長手方向の両端側での絞り加工量は大きく、長手方向の両端側から中央側へと材料の塑性流動が生じるため、長手方向の中央側で加工される部分でも周方向の圧縮力が生じている状態では、長手方向の中央側の材料の体積が過剰となる。このため、体積が過剰となった長手方向の中央側の材料は、金型のパンチとダイによって拘束されていないワークの底部側へと塑性流動することになる。これにより、プレス絞り加工後には、ワークにおける長手方向の中央側の部分の底部側に歪みが生じ易いという問題がある。また、複数回のプレス絞り加工工程が終了して成形されたワークである容器において、長手方向の中央側の部分の底部側に歪みが生じると、複数回のプレス絞り加工後に扱き加工工程が行われる場合、容器に対して全体的な歪みや寸法異常が生じることになる。より具体的には、複数回のプレス絞り加工後に長手方向の中央側の部分の底部側に歪みが生じると、その後に扱き加工工程が行われる場合、容器の底部側の部分だけでなく容器の壁部にも歪みが生じ、更に、容器の底部の角部分の寸法異常も生じることになる。したがって、複数回のプレス絞り加工工程を行うプレス成形が実施された後に更に扱き加工工程が行われる場合には、ワークの底部側に歪みがあることで、扱き加工後の容器の壁部の歪みや容器の底部の角部分の寸法異常も発生させてしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から底部を有する筒状の容器を成形する際に、ワークの底部側に歪みが生じてしまうことを抑制できるプレス成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明のプレス成形方法は、
長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から底部を有する筒状の容器を成形するプレス成形方法であって、
長孔状の前記成形孔としての第1の成形孔を有する第1の金型を用いて行われ、前記複数回のプレス絞り加工工程のうちから最終回のプレス絞り加工工程を除いたプレス絞り加工工程のうちの少なくともいずれかのプレス絞り加工工程として構成される第1のプレス絞り加工工程と、
長孔状の前記成形孔としての第2の成形孔を有する第2の金型を用いて行われ、前記複数回のプレス絞り加工工程のうちの前記第1のプレス絞り加工工程の次のプレス絞り加工工程として構成される第2のプレス絞り加工工程と、を備え、
前記第1の成形孔は、前記第2の成形孔よりも、長孔状に延びる方向である長手方向に垂直な方向である幅方向の寸法が大きく形成され、
前記第1の成形孔は、前記長手方向における両端側から中央側にかけて前記幅方向の内側に向かって窄まるように形成されている、
ことを特徴とする。
【0010】
上記(1)に記載のプレス成形方法によれば、第1の成形孔は、第2の成形孔の幅方向の寸法よりも大きい幅方向の寸法の範囲で、長手方向における両端側から中央側にかけて幅方向の内側に向かって窄まるように形成されている。これにより、第1のプレス絞り加工工程においては、ワークにおいて、第1の成形孔における長手方向の中央側で加工される部分では第1の成形孔の周方向に引張力が発生する状態となる。このため、ワークにおいて、第1の成形孔の長手方向の中央側で加工される部分で生じる周方向の引張力が、第1の成形孔の長手方向の両端側で加工される部分で生じる圧縮力と対向することになる。これにより、第1の成形孔の長手方向の中央側で加工される材料の体積が過剰となることが抑制され、ワークの底部側へと塑性流動することが抑制される。したがって、ワークにおいて、長手方向の中央側の部分の底部側に歪みが生じてしまうことを抑制することができる。また、上記(1)に記載のプレス成形方法では、長手方向の中央側で加工される部分で生じる周方向の引張力が、長手方向の両端側で加工される部分で生じる周方向の圧縮力と対向するため、長手方向の中央側で加工される部分において座屈も生じにくくしわの発生も抑制することができる。
【0011】
以上の通り、上記(1)に記載のプレス成形方法によれば、長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から底部を有する筒状の容器を成形する際に、ワークの底部側に歪みが生じてしまうことを抑制することができる。
【0012】
(2)本発明のプレス成形方法において、
前記第1のプレス絞り加工工程は、前記複数回のプレス絞り加工工程のうちの初回のプレス絞り加工工程として構成される、
ようにするとより好ましい。
【0013】
平板に対してプレス絞り加工を行う初回のプレス絞り加工工程においては、成形孔の長手方向の両端側で加工される部分で生じる圧縮力も大きくなる。しかし、上記(2)に記載のプレス成形方法によれば、初回のプレス絞り加工工程において、成形孔の長手方向の両端側で加工される部分で生じる周方向の圧縮力と対向するように、成形孔の長手方向の中央側で加工される部分で周方向の引張力を生じさせることができる。このため、ワークの底部側の歪みを生じ易い初回のプレス絞り加工工程においても、効率よくワークの底部側の歪みの発生を抑制することができる。
【0014】
(3)本発明のプレス成形方法において、
前記第1の成形孔は、前記長手方向における両端側から中央側にかけて前記幅方向の内側に向かって湾曲しながら窄まるとともに、前記長手方向における中央位置において前記幅方向の内側に最も窄まるように形成されている、
ようにするとより好ましい。
【0015】
上記(3)に記載のプレス成形方法によれば、長手方向の両端側で加工される部分で生じる周方向の圧縮力に対してより均等に対向するように、長手方向の中央側で加工される部分で周方向の引張力を生じさせることができる。このため、更に効率よくワークの底部側の歪みの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から底部を有する筒状の容器を成形する際に、ワークの底部側に歪みが生じてしまうことを抑制できるプレス成形方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のプレス成型方法の実施に用いられるプレスシステムの一例である。
図2】プレスシステムにおけるトランスファプレス装置の側断面図であって、トランスファプレス装置の一部を拡大して示す図である。
図3】本実施形態のプレス成形方法の一例を示すフローチャートであって、本実施形態のプレス成形方法の後に行われる扱き加工工程とともに示すフローチャートである。
図4】プレス成形方法における第1のプレス絞り加工工程で用いられる第1の金型の一例を示す図であって、図4(A)は、第1の金型のうちのパンチの平断面図であり、図4(B)は、第1の金型のうちのダイの平面図であり、図4(C)は、図4(B)のA-A線矢視断面図である。
図5】プレス成形方法における第2のプレス絞り加工工程で用いられる第2の金型の一例を示す図であって、図5(A)は、第2の金型のうちのパンチの平断面図であり、図5(B)は、第2の金型のうちのダイの平面図であり、図5(C)は、図5(B)のB-B線矢視断面図である。
図6】プレス成形方法でプレス絞り加工が施されるワークについて説明するための図である。
図7】第1の絞り加工工程及び第2の絞り加工工程で用いられるダイの成形孔を対比して模式的に示す図である。
図8】第1のプレス絞り加工工程においてワークに作用する力を説明するための図である。
図9】従来のプレス絞り加工工程について説明するための図であって、図9(A)は、ダイを示す平面図であり、図9(B)は、ワークに絞り加工が施されている状態を示す断面図であり、図9(C)は、図9(B)において破線で囲まれたD部を拡大して示す図である。
図10】本実施形態の第1のプレス絞り加工工程について説明するための図であって、図10(A)は、ダイを示す平面図であり、図10(B)は、ワークに絞り加工が施されている状態を示す断面図であり、図10(C)は、図10(B)において破線で囲まれたF部を拡大して示す図である。
図11】変形例に係るプレス成形方法を示すフローチャートである。
図12】変形例に係るプレス成形方法におけるプレス絞り加工工程で用いられる金型の一例を示す図であって、図12(A)は、1回目プレス絞り加工工程で用いられる金型におけるパンチの平断面図及びダイの平面図であり、図12(B)は、2回目プレス絞り加工工程で用いられる金型におけるパンチの平断面図及びダイの平面図であり、図12(C)は、3回目プレス絞り加工工程で用いられる金型におけるパンチの平断面図及びダイの平面図である。
図13】変形例に係るプレス成形方法における複数回のプレス絞り加工工程の成形孔を対比して模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態について説明する。なお、本発明は、長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から底部を有する筒状の容器を成形するプレス成形方法として、種々の用途に広く適用することができるものである。以下の説明においては、まず、プレス成形方法の実施の際に用いられるプレスシステムの一例について説明し、次いで、本発明の実施形態に係るプレス成形方法について説明する。
【0019】
[1.プレスシステム]
図1は、本実施形態のプレス成型方法の実施に用いられるプレスシステム1の一例である。図2は、プレスシステム1におけるトランスファプレス装置50の側断面図であって、トランスファプレス装置50の一部を拡大して示す図である。なお、説明の便宜上、上下方向、左右方向、及び前後方向の各方向を図1及び図2に示すように定義する。
【0020】
図1を参照して、プレスシステム1は、ワーク供給装置10及びトランスファプレス装置50を含んで構成されている。本実施形態では、左側にワーク供給装置10が配置されており、右側にトランスファプレス装置50が配置されている。ワーク供給装置10は、トランスファプレス装置50にワークWを供給するものである。
【0021】
ワーク供給装置10は、トランスファプレス装置50にワークW(後述の図4及び図6(A)を参照)を供給する装置であり、トランスファプレス装置50のワーク搬送方向上流側に隣接して配置されている。ワーク供給装置10は、鉛直に起立しかつ左右方向で対向する一対の側壁13A,13Bで構成されるフレーム12を備える。フレーム12は、一対の側壁13A,13Bの間に、ラム支持壁14及びボルスタ支持壁16等が差し渡された構造をなしている。なお、ワーク供給装置10の左側の側部には、一対のレール82A,82B(図2を参照)を駆動させる駆動部32が配置されている。
【0022】
ラム支持壁14は、上下方向に移動即ち昇降動作できるようにラム20を支持している。ラム20は、図示しないサーボモータからの動力をカムシャフト22を通して受けて、上下方向に移動可能となっている。また、ラム20は、図示しないパンチを支持している。カムシャフト22の左側端部は、左右方向に対向配置された一対の側壁13A,13Bのうち左側の側壁13Aを貫通して外側に突出している。左側の側壁13Aを貫通して外側に突出した部位は、プーリ24と図示しないタイミングベルトとを介して上述の図示しないサーボモータが連結されている。図示しないサーボモータによりカムシャフト22が回転駆動すると、ラム20が上下に往復移動する。また、カムシャフト22の左側端部には、プーリ24とともにフライホイール26が取り付けられている。プーリ24、図示しないタイミングベルト、及びフライホイール26を含む各種部材は、側壁13Aの外側面に固定されたサイドカバー28で覆われている。
【0023】
ボルスタ支持壁16は、ボルスタ18を介してダイホルダ30を支持している。ダイホルダ30は、上段部及び下段部の2段構造をなしている。ダイホルダ30の下段部の上面は、トランスファプレス装置50の後述するダイホルダ70の上面と面一となっている。ダイホルダ30の上段部は、下段部の上面の上方に間隔を空けて配置されている。ダイホルダ30の上段部には図示しないダイが保持されている。
【0024】
ワーク供給装置10においては、ラム20を下方に移動させてラム20に支持された図示しないパンチとダイとによって板金を打ち抜くことで平板としてのワークW(後述の図4及び図6(A)を参照)が形成される。ワーク供給装置10にて形成された平板の状態のワークWは、トランスファプレス装置50へと供給される。
【0025】
図1を参照して、トランスファプレス装置50は、ワーク供給装置10のワーク搬送方向下流側に隣接して配置されている。ワーク供給装置10で成型された平板の状態のワークWは、トランスファプレス装置50に搬送され、トランスファプレス装置50によって、ワークWに対して複数回のプレス絞り加工が施される。
【0026】
トランスファプレス装置50は、鉛直に起立しかつ左右方向で対向する一対の側壁53A,53Bで構成されるフレーム52を備える。フレーム52は、一対の側壁53A,53Bの間に、図示しないラム支持壁及びボルスタ支持壁56等が差し渡された構造をなしている。
【0027】
図示しないラム支持壁は、上下方向に移動即ち昇降動作できるようにラム60を支持している。ラム60は、図示しないサーボモータからの動力をカムシャフト62を通して受けて、上下方向に移動可能となっている。また、ラム60は、左右方向(即ちワーク搬送方向)に沿って配置された複数のパンチ74を支持している。一対の側壁53A,53Bの間には、図示しないラム支持壁より上側にカムシャフト62が差し渡されている。カムシャフト62のカム61にはラム60が係合している。
【0028】
カムシャフト62の右側端部は、左右方向に対向配置された一対の側壁53A,53Bのうち右側の側壁53Bを貫通して外側に突出している。右側の側壁53Bを貫通して外側に突出した部位は、プーリ64と図示しないタイミングベルトとを介して上述の図示しないサーボモータが連結されている。
【0029】
図示しないサーボモータによりカムシャフト62が回転駆動すると、ラム60が上下に往復移動する。また、カムシャフト62の右側端部には、プーリ64とともにフライホイール66が取り付けられている。プーリ64、図示しないタイミングベルト、及びフライホイール66を含む各種部材は、側壁53Bの外側面に固定されたサイドカバー68で覆われている。
【0030】
ボルスタ支持壁56は、一対の側壁53A,53Bの下端部の間に差し渡され、その上面にはボルスタ58が固定されている。ボルスタ58の上面には、ワーク搬送方向に沿って配置された複数のダイホルダ70を介して、複数のダイ72(図1及び図2を参照)が固定されている。複数のダイ72と複数のパンチ74とは同数であり、上下に配置された一対のダイ72及びパンチ74が、1回のプレス絞り加工工程を行うために用いられる金型を構成している。即ち、上下に配置された複数対のダイ72及びパンチ74のそれぞれは、複数回のプレス絞り加工工程をそれぞれ行うために用いられる金型を構成している。
【0031】
図1及び図2を参照して、トランスファプレス装置50は、ワーク搬送方向に沿って配置された複数の金型である複数対のダイ72及びパンチ74を備えている。複数対のダイ72及びパンチ74は、それぞれ、左右方向に一定ピッチで配置されている。図2を参照して、各ダイ72は、ダイホルダ70に固定されている。ダイホルダ70には、その上部に段差部70Aが形成されている。ダイホルダ70の段差部70Aには、ダイ72が固定されている。ダイ72が段差部70Aに固定された状態で、ダイホルダ70の上面とダイ72の上面とは面一となる。ダイ72には、上下方向に視た平面視で長孔状に形成された成形孔73が設けられている。プレス絞り加工は、パンチ74が、ダイ72における長孔状の成形孔73にワークWを押し込んで通過させることで行われる。パンチ74がダイ72の長孔状の成形孔73にワークWを押し込むことで、ワークWは、細長く延びる断面形状を有する筒状の形状に成形される。また、ダイ72の成形孔73に対応する下方には、ノックアウトピン94が配置されている。ノックアウトピン94は、パンチ74がダイ72の成形孔73にワークWを押し込んで成形する際、ワークWの下面を上方に向けて押圧し、ワークWの下方への膨出を規制する。また、パンチ74が上昇する際、ワークWをダイ72の成形孔73から上方に向けて押し出すことができる。
【0032】
ワーク搬送方向の下流側へのワークWの搬送は、トランスファ装置80により行われる。ワークWは、トランスファ装置80によってワーク搬送方向の下流側へ搬送され、左右方向に並ぶ複数対のダイ72及びパンチ74のそれぞれにおいてプレス絞り加工が行われる。
【0033】
図1及び図2を参照して、トランスファ装置80は、ダイホルダ70の上に配置されており、一対のレール82A,82Bと、複数対のフィンガー84A,84Bと、複数対のフィンガー84A,84Bのそれぞれを駆動させる駆動源としての複数対のエアシリンダ86A,86Bと、一対のレール82A,82Bを左右方向に作動させる駆動部32(図1参照)とを備える。
【0034】
一対のレール82A,82Bは、左右方向が長手方向となるように水平に配置され、複数対のダイ72及びパンチ74に亘って延びるように配置されている。一対のレール82A,82Bは、前後方向に一定の距離を有して平行に配置されている。一対のレール82A,82Bには、上下方向において各一対のダイ72及びパンチ74に対応する位置に、一対のフィンガー84A,84B及び一対のエアシリンダ86A,86Bが載置されている。そのため、駆動部32(図1参照)により一対のレール82A,82Bを左右方向に移動させると、複数のエアシリンダ86A,86B、及び複数のフィンガー84A,84Bについても、ともに左右方向に移動する。このようにして、フィンガー84A,84Bで挟持されたワークWをワーク搬送方向の下流側へと搬送することができる。なお、図2では、ワークWがフィンガー84A,84Bで挟持された態様を示している。
【0035】
図2に示されるように、フィンガー84A,84Bは、それぞれ、エアシリンダ86A,86Bのロッドの先端部に設けられており、エアシリンダ86A,86Bの作動により開閉可能に構成されている。エアシリンダ86A,86Bは、前側のエアシリンダ86Aと後側のエアシリンダ86Bとが前後方向に対称的に作動する。即ち、エアシリンダ86Aが前方向から後方向に向けて作動するときは、エアシリンダ86Bが後方向から前方向に向けて作動する。このとき、フィンガー84A,84Bは、互いに接近する方向に向けて、即ち開から閉に向けて作動する。また、エアシリンダ86Aが後方向から前方向に向けて作動するときは、エアシリンダ86Bが前方向から後方向に向けて作動する。このとき、フィンガー84A,84Bは、互いに離間する方向に向けて、即ち閉から開に向けて作動する。このようにフィンガー84A,84Bを開閉動作させることにより、ワークWを離したり挟持したりすることができる。
【0036】
ワーク搬送方向(即ち左右方向)において隣り合うフィンガー84A,84Bどうしの間隔は、左右方向において隣り合うパンチ74(図1参照)及びダイ72どうしの間隔と同じ一定ピッチである。駆動部(図1参照)は、ラム60(図1参照)の昇降動作に同期して、一対のレール82A,82Bを、水平状態を保ちつつ左右方向に一定ピッチの往復動作を繰り返す。また、複数対のエアシリンダ86A,86Bは、一対のレール82A,82Bの左右方向への往復動作によってワークWが搬送されるように、フィンガー84A,84Bの開閉動作を繰り返し行う。このようにして、ワークWは、トランスファ装置80によってワーク搬送方向上流側(即ち左側)からワーク搬送方向下流側(即ち右側)へと搬送され、複数対のダイ72及びパンチ74のそれぞれによって順番にプレス絞り加工が行われる。これにより、ワークWに対して複数回のプレス絞り加工工程が行われる。
【0037】
プレスシステム1によってワークWに対して複数回のプレス絞り加工工程が行われる際には、行われるプレス絞り加工工程の回数に応じた数のダイ72とパンチ74とが用いられる。なお、図1に例示するプレスシステム1では、8対のダイ72及びパンチ74が備えられた形態を例示している。ワークWに対して8回のプレス絞り加工工程が行われる際には、8対のダイ72及びパンチ74が用いられる。例えば、ワークWに対して2回のプレス絞り加工工程が行われる場合には、2対のダイ72及びパンチ74のみが用いられる。即ち、この場合、プレスシステム1においては、8対のダイ72及びパンチ74のうちのいずれかの2対のダイ72及びパンチ74のみが取り付けられて用いられ、他の6対のダイ72及びパンチ74は、プレスシステム1には取り付けられない。同様に、例えば、ワークWに対して3回のプレス絞り加工が施される場合には、3対のダイ72及びパンチ74のみが用いられる。この場合、プレスシステム1においては、3対のダイ72及びパンチ74のうちのいずれかの3対のダイ72及びパンチ74のみが取り付けられて用いられ、他の5対のダイ72及びパンチ74は、プレスシステム1には取り付けられない。なお、プレスシステム1においてダイ72が取り付けられない箇所においては、例えば、成形孔が設けられていないブロック状の部材が取り付けられる。
【0038】
[2.プレス成形方法]
次に、本発明の実施形態に係るプレス成形方法について説明する。
【0039】
[2-1.プレス成形方法の概要]
本実施形態のプレス成形方法は、長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から底部を有する筒状の容器を成形するプレス成形方法である。本実施形態のプレス成形方法は、例えば、プレスシステム1を用いてワークWに対して複数回のプレス絞り加工工程を行うことで実施される。よって、本実施形態のプレス成形方法は、ダイ72及びパンチ74を含んで構成されて長孔状の成形孔73を有する複数の金型を用いてワークWに対して複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から筒状の容器を成形するプレス成形方法として構成される。
【0040】
本実施形態のプレス成形方法は、複数回のプレス絞り加工工程を備えて構成される。本実施形態のプレス成形方法は、複数回のプレス絞り加工工程として、2回のプレス絞り加工工程を備えて構成されてもよく、また、3回以上のプレス絞り加工工程を備えて構成されてもよい。図3は、本実施形態のプレス成形方法の一例を示すフローチャートであって、本実施形態のプレス成形方法の後に行われる扱き加工工程とともに示すフローチャートである。図3に示す本実施形態の一例のプレス成形方法は、第1のプレス絞り加工工程S1と、第2のプレス絞り加工工程S2とを備えて構成されている。図3に例示するプレス成形方法は、2回のプレス絞り加工工程を備えて構成されており、1回目である初回のプレス絞り加工工程が第1のプレス絞り加工工程S1を構成し、2回目である最終回のプレス絞り加工工程が第2のプレス絞り加工工程S2を構成している。
【0041】
なお、図3に示すように、第1のプレス絞り加工工程S1と第2のプレス絞り加工工程S2とを行う本実施形態のプレス絞り加工工程が終了すると、続いて、扱き加工工程S3が行われてもよい。扱き加工工程S3は、複数回のプレス絞り加工工程を行う本実施形態のプレス成形方法が終了した後に、成形された筒状の容器に対して行われる。扱き加工工程S3では、扱き加工用の金型を用い、成形された筒状の容器に対して、容器の壁部の板厚みを扱いて減厚して製品としての最終形状を規定する扱き加工が行われる。なお、複数回のプレス絞り加工を行う本実施形態のプレス成形方法の後に扱き加工工程S3が行われない場合は、複数回のプレス絞り加工工程を経て成形された容器の形状が製品としての最終形状を規定することになる。
【0042】
第1のプレス絞り加工工程S1は、複数回のプレス絞り加工工程のうちから最終回のプレス絞り加工工程を除いたプレス絞り加工工程のうちの少なくともいずれかのプレス絞り加工工程として構成される。図3に示すプレス成形方法は、2回のプレス絞り加工工程を行うプレス成形方法として構成されるため、第1のプレス絞り加工工程S1は、最終回である2回目のプレス絞り加工工程を除いた1回目のプレス絞り加工工程として構成される。そして、図3に示すプレス成形方法では、第1のプレス絞り加工工程S1は、複数回のプレス絞り加工工程のうちの初回のプレス絞り加工工程として構成される。
【0043】
第2のプレス絞り加工工程S2は、複数回のプレス絞り加工工程のうちの第1のプレス絞り加工工程S1の次のプレス絞り加工工程として構成される。図3に示すプレス成形方法は、2回のプレス絞り加工工程を行うプレス成形方法として構成されるため、第2のプレス絞り加工工程S2は、初回のプレス絞り加工工程としての第1のプレス絞り加工工程S1の次のプレス絞り加工工程である最終回のプレス絞り加工工程として構成される。本実施形態のプレス成形方法は、第1のプレス絞り加工工程S1と第2のプレス絞り加工工程S2とが行われることで終了する。なお、図3に示すように、複数回のプレス絞り加工工程を行うプレス成形方法が終了した後に、容器の壁部の板厚みを扱いて減厚するための扱き加工工程S3が実施されてもよい。
【0044】
[2-2.プレス絞り加工工程の特徴的な構成]
次に、本実施形態のプレス成形方法のプレス絞り加工工程の特徴的な構成について説明する。図4は、図3に示すプレス成形方法における第1のプレス絞り加工工程S1で用いられる第1の金型71Aの一例を示す図であって、図4(A)は、第1の金型71Aのうちのパンチ74Aの平断面図であり、図4(B)は、第1の金型71Aのうちのダイ72Aの平面図であり、図4(C)は、図4(B)のA-A線矢視断面図である。図5は、図3に示すプレス成形方法における第2のプレス絞り加工工程S2で用いられる第2の金型71Bの一例を示す図であって、図5(A)は、第2の金型71Bのうちのパンチ74Bの平断面図であり、図5(B)は、第2の金型71Bのうちのダイ72Bの平面図であり、図5(C)は、図5(B)のB-B線矢視断面図である。図6は、プレス成形方法でプレス絞り加工が施されるワークWについて説明するための図である。
【0045】
図4を参照して、第1のプレス絞り加工工程S1において用いられる第1の金型71Aは、ダイ72A及びパンチ74Aを含んで構成されている。ダイ72Aは、プレスシステム1において取り付けられる複数のダイ72のうちの1つのダイ72として設けられ、第1のプレス絞り加工工程S1で用いられるダイ72として構成される。パンチ74Aは、プレスシステム1において取り付けられる複数のパンチ74のうちの1つのパンチ74として設けられ、第1のプレス絞り加工工程S1で用いられるパンチ74として構成される。
【0046】
図4(B)及び図4(C)を参照して、ダイ72Aには、ダイ72の長孔状の成形孔73としての第1の成形孔73Aが設けられている。即ち、ダイ72Aには、上下方向に視た平面視で長孔状に形成された成形孔73としての第1の成形孔73Aが設けられている。なお、第1の成形孔73Aは、長孔状の断面形状でダイ72Aを上下方向に貫通するように設けられている。第1の成形孔73Aは、長孔状に延びる方向である長手方向Xの寸法が、長手方向Xに垂直な方向である幅方向Yの寸法よりも大きくなるように形成されている。なお、図4(B)では、長手方向Xについては両端矢印Xで示しており、幅方向Yについては両端矢印Yで示している。
【0047】
第1の成形孔73Aは、例えば、長手方向Xの両端部のそれぞれが半円弧状に形成されている。そして、第1の成形孔73Aは、周方向における長手方向Xの両端部を除く部分の形状が、長手方向Xにおける両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に向かって窄まるように形成されている。即ち、第1の成形孔73Aは、周方向における長手方向Xの両端部を除く部分の形状が、長手方向Xにおける両端側から中央側にかけて幅方向Yの寸法が徐々に小さくなるように形成されている。更に、第1の成形孔73は、長手方向Xにおける両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に向かって滑らかに円弧状に湾曲しながら窄まるとともに、長手方向Xにおける中央位置CXにおいて幅方向Yの内側に最も窄まるように形成されている。なお、図4(B)では、ダイ72Aの第1の成形孔73Aの長手方向Xにおける中央位置CXについては一点鎖線CXで示している。
【0048】
図4(A)を参照して、パンチ74Aは、ダイ72Aの第1の成形孔73Aに対応した形状に形成される。即ち、パンチ74Aの外周形状は、ダイ72Aの第1の成形孔73Aに対応した形状に形成される。このため、パンチ74Aは、第1の成形孔73Aの長手方向Xと平行な方向の両端部がそれぞれ半円弧状の断面形状となるように形成されている。そして、パンチ74Aは、周方向における上記の半円弧状の断面形状の両端部を除く部分の形状が、第1の成形孔73Aの長手方向Xに平行な方向における両端側から中央側にかけて、第1の成形孔73Aの幅方向Yに平行な方向における内側に向かって滑らかに円弧状に湾曲して凹むように形成されている。
【0049】
第1のプレス絞り加工工程S1は、長孔状の成形孔73としての第1の成形孔73Aを有する第1の金型71Aを用いて行われる。即ち、第1のプレス絞り加工工程S1は、長孔状で長手方向Xの中央側にかけて幅方向Yの内側に滑らかに窄んだ形状の第1の成形孔73Aが設けられたダイ72Aと、第1の成形孔73Aに対応する断面形状のパンチ74Aとを用いて行われる。第1のプレス絞り加工工程S1では、プレスシステム1のワーク供給装置10から供給される平板の状態のワークWとしてのワークW1に対して、ダイ72Aとパンチ74Aとを用いたプレス絞り加工が施される。なお、図6(A)では、平板の状態のワークWとしてのワークW1が斜視図で示されており、図4(B)及び図4(C)では、ワークW1が二点鎖線で示されている。
【0050】
第1のプレス絞り加工工程S1では、パンチ74Aがダイ72Aの第1の成形孔73AにワークW1を押し込むことで、ワークW1は、底部を有する筒状の形状のワークWとしてのワークW2に成形される。なお、図6(B)では、第1のプレス絞り加工工程S1を経て成形されたワークWとしてのワークW2が斜視図で示されている。ワークW2は、底部を有するとともに、第1の成形孔73Aの形状に対応した断面形状で筒状に延びる形状に形成されている。
【0051】
図5を参照して、第2のプレス絞り加工工程S2において用いられる第2の金型71Bは、ダイ72B及びパンチ74Bを含んで構成されている。ダイ72Bは、プレスシステム1において取り付けられる複数のダイ72のうちの1つのダイ72として設けられ、第2のプレス絞り加工工程S2で用いられるダイ72として構成される。パンチ74Aは、プレスシステム1において取り付けられる複数のパンチ74のうちの1つのパンチ74として設けられ、第2のプレス絞り加工工程S2で用いられるパンチ74として構成される。
【0052】
図5(B)及び図5(C)を参照して、ダイ72Bには、ダイ72の長孔状の成形孔73としての第2の成形孔73Bが設けられている。即ち、ダイ72Bには、上下方向に視た平面視で長孔状に形成された成形孔73としての第2の成形孔73Bが設けられている。なお、第2の成形孔73Bは、長孔状の断面形状でダイ72Bを上下方向に貫通するように設けられている。第2の成形孔73Bは、長孔状に延びる方向である長手方向Xの寸法が、長手方向Xに垂直な方向である幅方向Yの寸法よりも大きくなるように形成されている。なお、図5(B)では、長手方向Xについては両端矢印Xで示しており、幅方向Yについては両端矢印Yで示している。
【0053】
第2の成形孔73Bは、長手方向Xに細長く延びる略長方形の形状に形成されている。より詳細には、第2の成形孔73Bは、長方形の四隅の角部が円弧状に形成された長方形の形状に形成されている。なお、本実施形態では、第2のプレス絞り加工工程S2は、最終回のプレス絞り加工工程を構成している。このため、第2の成形孔73Bの形状は、本実施形態のプレス成形方法における複数回のプレス絞り加工工程を経て最終的に成形される製品としての筒状の容器の断面形状に対応した形状となっている。
【0054】
図5(A)を参照して、パンチ74Bは、ダイ72Bに対応した形状に形成される。即ち、パンチ74Bの外周形状は、ダイ72Bの第2の成形孔73Bに対応した形状に形成される。このため、パンチ74Bは、第2の成形孔73Bの長手方向Xと平行な方向に細長く延びる略長方形の断面形状に形成されている。
【0055】
第2のプレス絞り加工工程S2は、略長方形の形状の長孔状の成形孔73としての第2の成形孔73Bを有する第2の金型71Bを用いて行われる。即ち、第2のプレス絞り加工工程S2は、略長方形の長孔状の第2の成形孔73Bが設けられたダイ72Bと、第2の成形孔73Bに対応する断面形状のパンチ74Bとを用いて行われる。第2のプレス絞り加工工程S2では、第1のプレス絞り加工工程S1を経て成形された筒状のワークW1に対して、ダイ72Bとパンチ74Bとを用いたプレス絞り加工が施される。なお、図5(B)及び図5(C)では、ワークW2が二点鎖線で示されている。
【0056】
第2のプレス絞り加工工程S2では、パンチ74Bがダイ72Bの第2の成形孔73BにワークW2を押し込むことで、ワークW2は、底部を有する角筒状の容器の形状のワークWとしてのワークW3に成形される。図6(C)では、第2のプレス絞り加工工程S2を経て成形されたワークWとしてのワークW3が斜視図で示されている。なお、本実施形態では、第2のプレス絞り加工工程S2は、最終回のプレス絞り加工工程を構成している。このため、第2のプレス絞り加工工程S2を経て成形されたワークW3は、本実施形態のプレス成形方法における複数回のプレス絞り加工工程を経て最終的に成形される製品の形状に形成されており、底部を有する角筒状の容器を構成している。
【0057】
ここで、第1のプレス絞り加工工程S1と第2のプレス絞り加工工程S2とにおけるダイ72の成形孔73の形状の関係について更に説明する。図7は、第1の絞り加工工程S1及び第2の絞り加工工程S2で用いられるダイ72の成形孔73を対比して模式的に示す図である。即ち、図7では、第1のプレス絞り加工工程S1で用いられるダイ72Aの第1の成形孔73Aと第2のプレス絞り加工工程S2で用いられるダイ72Bの第2の成形孔73Bとを対比して模式的に示している。なお、当然に、ダイ72Aとダイ72Bとは、1つのダイ72ではなく別々の異なるダイ72であるが、図7では、第1の成形孔73Aと第2の成形孔73Bとの対比のため、ダイ72Aとダイ72Bとを重ねた状態で模式的に図示している。
【0058】
図7を参照して、第1の成形孔73Aの領域は、第2の成形孔73Bの領域よりも、領域の全周に亘って大きくなっている。即ち、ダイ72Aとダイ72Bとを重ねた状態では、平面視において、第1の成形孔73Aの輪郭と第2の成形孔73Bの輪郭とが重なることなく、第1の成形孔73Aの内側に第2の成形孔73Bが配置される状態となる。このため、第1の成形孔73Aは、第2の成形孔73Bよりも、長孔状に延びる方向である長手方向Xに亘って長手方向Xと垂直な幅方向Yの寸法が大きく形成されている。より詳細には、まず、第2の成形孔73Bは略長方形の形状であり、第2の成形孔73Bの幅方向Yにおける寸法である幅寸法YBは、一定の寸法に設定されている。一方、第1の成形孔73Aは、長手方向Xの両端部の半円弧状の部分は、第2の成形孔73Bの長手方向の両端部を外側で囲む大きさに形成されている。更に、第1の成形孔73Aは、周方向における長手方向Xの両端部を除く部分では、長手方向Xにおける両端側から中央側にかけて幅方向Yの寸法が徐々に小さくなり、長手方向Xにおける中央位置CXにて最も小さい幅寸法YAとなるように形成されている。そして、第1の成形孔73Aにおける長手方向Xの両端部以外の部分で最も幅方向Yの寸法が小さい部分の幅寸法YAは、第2の成形孔73Bの幅寸法YBよりも大きく形成されている。このため、第1の成形孔73Aは、第2の成形孔73Bよりも、長孔状に延びる方向である長手方向Xと垂直な幅方向Yの寸法が大きく形成されている。
【0059】
(第1のプレス絞り加工工程の作用)
次に、第1のプレス絞り加工工程S1の作用について説明する。図8は、第1の絞り加工工程S1においてワークWに作用する力を説明するための図である。なお、図8では、第1のプレス絞り加工工程S1においてダイ72Aとパンチ74Aとによってプレス絞り加工が施されている途中の状態のワークWであるワークW1を模式的に示している。また、図8では、ダイ72A及びパンチ74Aの図示は省略しており、第1の成形孔73Aを二点鎖線で模式的に図示している。
【0060】
図8を参照して、第1のプレス絞り加工工程S1が開始されると、ダイ72Aに載置されたワークW1がパンチ74Aによって第1の成形孔73Aに押し込まれる。ワークW1が第1の成形孔73Aに押し込まれる際には、ワークW1において第1の成形孔73Aの長手方向Xの両端側の半円弧状の領域で加工される部分には、第1の成形孔73Aの周方向において圧縮力が生じることになる。なお、図8及び後述の図10(A)では、ワークW1において第1の成形孔73Aの長手方向Xの両端側で加工される部分については、一点鎖線の両端矢印P1で示しており、以下、この部分について、「両端側加工部分P1」とも称する。ワークW1における両端側加工部分P1は、縮みフランジ成形の状態となるため、周方向に圧縮力が生じることになる。
【0061】
一方、ワークW1が第1の成形孔73Aに押し込まれる際、ワークW1において第1の成形孔73Aの長手方向Xの両端部以外の中央側の領域で加工される部分には、第1の成形孔73Aの周方向において引張力が生じることになる。なお、図8及び後述の図10(A)では、ワークW1において第1の成形孔73Aの長手方向Xの両端部以外の中央側の領域で加工される部分については、一点鎖線の両端矢印P2で示しており、以下、この部分について「中央側加工部分P2」とも称する。ワークW1における中央側加工部分P2は、伸びフランジ成形の状態となるため、周方向に引張力が生じることになる。
【0062】
上述のように、第1のプレス絞り加工工程S1では、ワークW1において、両端側加工部分P1では周方向に圧縮力が生じ、中央側加工部分P2では周方向に引張力が生じる。このため、ワークW1において、中央側加工部分P2で生じる周方向の引張力が、両端側加工部分P1で生じる周方向の圧縮力と対向することになる。そして、ワークW1において、圧縮力が生じている両端側加工部分P1側から引張力が生じている中央側加工部分P2側へと円滑に塑性流動が生じ、ダイ72Aとパンチ74Aとの間でワークW1がプレス加工され、ワークW1がワークW2の形状へと成形される。また、第1のプレス絞り加工工程S1では、圧縮力が生じている両端側加工部分P1側から引張力が生じている中央側加工部分P2側へと円滑に塑性流動が生じるため、中央側加工部分P2で材料の体積が過剰となることが抑制され、ワークW2の形状に成形されている部分の底部側へと塑性流動することが抑制される。これにより、第1のプレス絞り加工工程S1を経てワークW1がワークW2へと成形された際に、長手方向Xの中央側の部分におけるワークW2の底部側に歪みが生じてしまうことが抑制される。
【0063】
ここで、第1のプレス絞り加工工程S1を経て成形されたワークW2において底部の歪みが生じることが抑制される作用について、従来のプレス絞り加工工程と対比して更に説明する。図9は、従来のプレス絞り加工工程について説明するための図であって、図9(A)は、ダイ172Aを示す平面図であり、図9(B)は、ワークW101に絞り加工が施されてワークW102が成形されている状態を示す断面図であり、図9(C)は、図9(B)において破線で囲まれたD部を拡大して示す図である。なお、図9を参照して説明する従来のプレス絞り加工工程は、複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板のワークW101から筒状の容器を成形する従来のプレス成形方法における初回のプレス絞り加工工程を構成している。
【0064】
図9を参照して、従来のプレス絞り加工工程は、長孔状の成形孔173Aが設けられたダイ172Aと、ダイ172Aに対応するパンチ174Aとを用いて行われる。ダイ172Aの成形孔173Aは、長孔状に延びる方向である長手方向Xの寸法が、長手方向Xに垂直な方向である幅方向Yの寸法よりも大きくなるように形成されている。なお、図9(A)では、長手方向Xについては両端矢印Xで示しており、幅方向Yについては両端矢印Yで示している。また、ダイ172Aの成形孔173Aは、全周に亘って外側に楕円状に広がった形状に形成されている。パンチ174Aは、ダイ172Aの成形孔173Aに対応した形状に形成されている。即ち、パンチ174Aの外周形状は、ダイ172Aの成形孔の形状と同様に、全周に亘って外側に楕円状に広がった形状に形成されている。
【0065】
従来のプレス絞り加工工程では、平板の状態のワークW101に対して、ダイ172Aとパンチ174Aとを用いたプレス絞り加工が施される。なお、図9(A)及び図9(B)では、ワークW101が二点鎖線示されている。従来のプレス絞り加工工程では、パンチ174Aがダイ172Aの成形孔173AにワークW101を押し込むことで、ワークW101は、底部を有する筒状のワークW102に成形される(図9(B)を参照)。ワークW101が成形孔173Aに押し込まれる際、ワークW101においては、周方向の全周に亘って周方向の圧縮力が生じることになる。即ち、従来のプレス絞り加工工程では、全周に亘って外側に楕円状に広がった成形孔173Aでワーク101が成形されるため、ワークW101において、成形孔173Aの長手方向Xの両端側で加工される部分だけでなく、成形孔173Aの長手方向Xの中央側の領域で加工される部分においても、圧縮力が生じることになる。なお、図9(A)では、ワークW101において成形孔173Aの長手方向Xの両端側で加工される部分については、一点鎖線の両端矢印P10で示しており、以下、この部分について「両端側加工部分P10」とも称する。そして、ワークW101において成形孔173Aの中央側の領域で加工される部分については、一点鎖線の両端矢印P20で示しており、以下、この部分について「中央側加工部分P20」とも称する。
【0066】
従来のプレス絞り加工工程では、ワークW101において、成形孔173Aの全周に亘って周方向の圧縮力が生じ、両端側加工部分P10及び中央側加工部分P20のいずれにおいても周方向の圧縮力が生じる。しかし、全周に亘って外側に楕円状に広がった長孔状の成形孔173Aは、長手方向Xの両端部の曲率の方が長手方向Xの中央側の部分の曲率よりも大きいため、両端側加工部分P10の加工量の方が、中央側加工部分P20の加工量よりも大きくなる。このため、両端側加工部分P10から中央側加工部分P20へと塑性流動が生じ、中央側加工部分P20の材料の体積が過剰となる。このため、体積が過剰となった中央側加工部分P20の材料は、ダイ172Aとパンチ174Aとによって拘束されていないワークW102の底部側へと塑性流動することになる。これにより、図9(B)及び図9(C)に示すように、従来のプレス絞り加工工程では、プレス絞り加工が施されたワークW102の底部の長手方向Xの中央側の部分の一部がパンチ174Aから離れて膨らんだような状態となり易く、長手方向Xの中央側の部分におけるワークW102の底部に歪みが生じ易くなる。
【0067】
一方、本実施形態の第1のプレス絞り加工工程S1では、第1のプレス絞り加工工程S1を経て成形されたワークW2において底部の歪みが生じることが抑制される。図10は、本実施形態の第1のプレス絞り加工工程S1について説明するための図であって、図10(A)は、ダイ72Aを示す平面図であり、図10(B)は、ワークW1に絞り加工が施されてワークW2が成形されている状態を示す断面図であり、図10(C)は、図10(B)において破線で囲まれたF部を拡大して示す図である。
【0068】
図10を参照して、第1のプレス絞り加工工程S1は、長手方向Xの両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に向かって窄まった形状に形成された第1の成形孔73Aが設けられたダイ72Aと、ダイ72Aに対応するパンチ74Aとを用いて行われる。そして、第1のプレス絞り加工工程S1では、平板の状態のワークW1に対して、ダイ72Aとパンチ74Aとを用いたプレス絞り加工が施される。そして、パンチ74Aがダイ72Aの第1の成形孔73AにワークW1を押し込むことで、ワークW1は、底部を有する筒状のワークW2に成形される(図10(B)を参照)。ワークW1が第1の成形孔73Aに押し込まれる際、ワークW1における両端側加工部分P1には、第1の成形孔73Aの周方向において圧縮力が生じることになる。一方、ワークW1が第1の成形孔73Aに押し込まれる際、ワークW1における中央側加工部分P2には、第1の成形孔73Aの周方向において引張力が生じることになる。
【0069】
第1のプレス絞り加工工程S1では、ワークW1において、両端側加工部分P1では周方向に圧縮力が生じ、中央側加工部分P2では周方向に引張力が生じる。このため、ワークW1において、中央側加工部分P2で生じる周方向の引張力が、両端側加工部分P1で生じる周方向の圧縮力と対向する。そして、ワークW1において、圧縮力が生じている両端側加工部分P1側から引張力が生じている中央側加工部分P2側へと円滑に塑性流動が生じ、ダイ72Aとパンチ74Aとの間でワークW1がプレス加工され、ワークW1がワークW2の形状へと成形される。即ち、圧縮力が生じている両端側加工部分P1側から引張力が生じている中央側加工部分P2側へ塑性流動した材料は、中央側加工部分P2にて体積が過剰となることなく中央側加工部分P2の成形に供されることになる。このように、第1のプレス絞り加工工程S1では、圧縮力が生じている両端側加工部分P1側から引張力が生じている中央側加工部分P2側へと円滑に塑性流動が生じるため、中央側加工部分P2で材料の体積が過剰となることが抑制され、ワークW2の形状に成形されている部分の底部側への塑性流動が抑制される。これにより、図10(B)及び図10(C)に示すように、第1のプレス絞り加工工程S1では、プレス絞り加工が施されたワークW2の底部の長手方向Xの中央側の部分は、パンチ74Aから離れにくく、パンチ74Aと略同一の形状又はパンチ74Aの形状に相当に近づいた形状となる。このため、第1のプレス絞り加工工程S1では、長手方向Xの中央側の部分におけるワークW2の底部側に歪みが生じてしまうことが抑制される。
【0070】
[2-3.本実施形態の効果]
本実施形態のプレス成形方法によれば、第1の成形孔73Aは、第2の成形孔73Bの幅方向Yの寸法である幅寸法YBよりも大きい幅方向Yの寸法の範囲で、長手方向Xにおける両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に向かって窄まるように形成されている。これにより、第1のプレス絞り加工工程S1においては、ワークW1において、第1の成形孔73Aの長手方向Xの中央側で加工される部分である中央側加工部分P2では第1の成形孔73Aの周方向に引張力が発生する状態となる。このため、ワークW1において、中央側加工部分P2で生じる周方向の引張力が、第1の成形孔73Aの長手方向Xの両端側で加工される部分である両端側加工部分P1で生じる圧縮力と対向することになる。これにより、第1の成形孔73Aの長手方向Xの中央側で加工される材料の体積が過剰となることが抑制され、ワークW2の底部側へと塑性流動することが抑制される。したがって、ワークW2において、長手方向Xの中央側の部分の底部側に歪みが生じてしまうことを抑制することができる。また、本実施形態のプレス成形方法では、中央側加工部分P2で生じる周方向の引張力が、両端側加工部分P1で生じる周方向の圧縮力と対向するため、中央側加工部分P2において座屈も生じにくくしわの発生も抑制することができる。なお、本実施形態のプレス成形方法によると、ワークWの底部側に歪みが生じてしまうことを抑制することができる。このため、本実施形態のプレス成形方法の後に扱き加工工程S3が行われる場合において、扱き加工工程S3が行われた後のワークWとしての容器の壁部に歪みが生じることも抑制でき、更に、容器の底部の角部分の寸法異常が生じることも抑制することができる。
【0071】
以上の通り、本実施形態のプレス成形方法によれば、長孔状の成形孔73を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から底部を有する筒状の容器を成形する際に、ワークWの底部側に歪みが生じてしまうことを抑制することができる。
【0072】
また、平板に対してプレス絞り加工を行う初回のプレス絞り加工工程においては、成形孔73の長手方向Xの両端側で加工される部分で生じる圧縮力も大きくなる。しかし、本実施形態のプレス成形方法によれば、第1のプレス絞り加工工程S1として構成される初回のプレス絞り加工工程において、両端側加工部分P1で生じる周方向の圧縮力と対向するように、中央側加工部分P2で周方向の引張力を生じさせることができる。このため、ワークWの底部側の歪みを生じ易い初回のプレス絞り加工工程においても、効率よくワークWの底部側の歪みの発生を抑制することができる。
【0073】
また、本実施形態のプレス成形方法では、第1の成形孔73Aは、長手方向Xにおける両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に向かって湾曲しながら窄まるとともに、長手方向Xにおける中央位置CXにおいて幅方向Yの内側に最も窄まるように形成されている。これにより、本実施形態のプレス成形方法によれば、両端側加工部分P1で生じる周方向の圧縮力に対してより均等に対向するように、中央側加工部分P2で周方向の引張力を生じさせることができる。このため、更に効率よくワークWの底部側の歪みの発生を抑制することができる。
【0074】
[3.変形例]
上述の実施形態では、複数回のプレス絞り加工工程として2回のプレス絞り加工工程を備え、1回目である初回のプレス絞り加工工程が第1のプレス絞り加工工程として構成され、2回目である最終回のプレス絞り加工工程が第2のプレス絞り加工工程として構成されたプレス成形方法を例にとって説明したが、この通りでなくもよい。複数回のプレス絞り加工工程として、3回以上のプレス絞り加工工程を備えたプレス成形方法が実施されてもよい。また、3回以上のプレス絞り加工工程を備えたプレス成形方法において、第1のプレス絞り加工工程及び第2のプレス絞り加工工程が、複数回に亘って構成される形態のプレス成形方法が実施されてもよい。例えば、図11に示すプレス成形方法が実施されてもよい。
【0075】
図11は、変形例に係るプレス成形方法を示すフローチャートである。図11に示す本変形例のプレス成形方法は、長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板の状態のワークWから底部を有する筒状の容器を成形するプレス成形方法である。本変形例のプレス成形方法は、例えば、プレスシステム1を用いてワークWに対して複数回のプレス絞り加工工程を行うことで実施される。したがって、本変形例のプレス成形方法は、ダイ72及びパンチ74を含んで構成されて長孔状の成形孔73を有する複数の金型を用いてワークWに対して複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から筒状の容器を成形するプレス成形方法として構成される。
【0076】
本変形例のプレス成形方法は、複数回のプレス絞り加工工程として、3回のプレス絞り加工工程を備えて構成されている。即ち、図11に示すように、本変形例のプレス成形方法は、1回目プレス絞り加工工程S11と、2回目プレス絞り加工工程S12と、3回目プレス絞り加工工程S13とを備えて構成されている。1回目プレス絞り加工工程S11は、初回のプレス絞り加工工程である。2回目プレス絞り加工工程S12は、1回目プレス絞り加工工程S11に次いで行われるプレス絞り加工工程である。3回目プレス絞り加工工程S13は、2回目プレス絞り加工工程S12に次いで行われる最終回のプレス絞り加工工程である。なお、図11においては、本変形例のプレス成形方法が終了した後に扱き加工工程が行われる形態を例示していないが、本変形例のプレス成形方法の終了後に扱き加工工程が行われてもよい。即ち、1~3回目プレス絞り加工工程S11~S13を行う本変形例のプレス成形方法が終了した後に、成形された筒状の容器に対して、容器の壁部の板厚みを扱いて減厚するための扱き加工工程が行われてもよい。
【0077】
1回目プレス絞り加工工程S11は、本変形例のプレス成形方法における複数回のプレス絞り加工工程のうちから最終回の3回目プレス絞り加工工程S13を除いたプレス絞り加工工程のうちの1つのプレス絞り加工工程であり、本発明における第1のプレス絞り加工工程を構成している。
【0078】
2回目プレス絞り加工工程S12は、本変形例のプレス成形方法における複数回のプレス絞り加工工程のうちの第1のプレス絞り加工工程の次のプレス絞り加工工程であり、本発明の第2のプレス絞り加工工程を構成している。即ち、2回目プレス絞り加工工程S12は、第1のプレス絞り加工工程としての1回目プレス絞り加工工程S11の次のプレス絞り加工工程であり、第2のプレス絞り加工工程を構成している。また、2回目プレス絞り加工工程S12は、1回目プレス絞り加工工程S11に対しては、第2のプレス絞り加工工程を構成しているが、3回目プレス絞り加工工程S13に対しては、第1のプレス絞り加工工程を構成している。具体的には、2回目プレス絞り加工S12は、本変形例のプレス成形方法における複数回のプレス絞り加工工程のうちから最終回の3回目プレス絞り加工工程S13を除いたプレス絞り加工工程のうちの1つのプレス絞り加工工程であり、3回目プレス絞り加工工程S13に対しては、本発明における第1のプレス絞り加工工程を構成している。
【0079】
3回目プレス絞り加工工程S13は、本変形例のプレス成形方法における複数回のプレス絞り加工工程のうちの第1のプレス絞り加工工程の次のプレス絞り加工工程であり、本発明の第2のプレス絞り加工工程を構成している。即ち、3回目プレス絞り加工工程S13は、第1のプレス絞り加工工程としての2回目プレス絞り加工工程S12の次のプレス絞り加工工程であり、第2のプレス絞り加工工程を構成している。以下、1~3回目プレス絞り加工工程S11~S13について更に詳しく説明する。
【0080】
図12は、本変形例のプレス成形方法におけるプレス絞り加工工程で用いられる金型の一例を示す図である。より具体的には、図12(A)は、1回目プレス絞り加工工程S11で用いられる金型71Cにおけるパンチ74Cの平断面図及びダイ72Cの平面図である。図12(B)は、2回目プレス絞り加工工程S12で用いられる金型71Dにおけるパンチ74Dの平断面図及びダイ72Dの平面図である。図12(C)は、3回目プレス絞り加工工程S13で用いられる金型71Eにおけるパンチ74Eの平断面図及びダイ72Eの平面図である。なお、1~3回目プレス絞り加工工程S11~S13で用いられるダイ72C~72Eには、長孔状の成形孔73がそれぞれ設けられている。図12(A)~(C)では、成形孔73が長孔状に延びる方向である長手方向Xについては両端矢印Xで示しており、長手方向Xに垂直な方向である幅方向Yについては両端矢印Yで示している。
【0081】
図12(A)を参照して、1回目プレス絞り加工工程S11において用いられる金型71Cは、ダイ72C及びパンチ74Cを含んで構成されている。ダイ72Cは、プレスシステム1において取り付けられる複数のダイ72のうちの1つのダイ72として設けられ、1回目プレス絞り加工工程S11において用いられるダイ72として構成される。パンチ74Cは、プレスシステム1において取り付けられる複数のパンチ74のうちの1つのパンチ74として設けられ、1回目プレス絞り加工工程S11で用いられるパンチ74として構成される。
【0082】
図12(A)を参照して、ダイ72Cには、ダイ72の長孔状の成形孔73としての成形孔73Cが設けられている。即ち、ダイ72Cには、長手方向Xの寸法が幅方向Yの寸法よりも大きく、平面視で長孔状に形成された成形孔73Cが設けられている。成形孔73Cは、例えば、長手方向Xの両端部のそれぞれが半円弧状に形成されている。そして、成形孔73Cは、周方向における長手方向Xの両端部を除く部分の形状が、長手方向Xの両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に向かって窄まるように形成されている。即ち、成形孔73Cは、周方向における長手方向Xの両端部を除く部分の形状が、長手方向Xにおける両端側から中央側にかけて幅方向Yの寸法が徐々に小さくなるように形成されている。更に、成形孔73Cは、長手方向Xにおける両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に向かって滑らかに円弧状に湾曲しながら窄まるように形成されている。
【0083】
図12(A)を参照して、パンチ74Cは、その外周形状が、ダイ72Cの成形孔73Cに対応した形状に形成される。このため、パンチ74Cは、成形孔73Cの長手方向Xと平行な方向の両端部がそれぞれ半円弧状の断面形状となるように形成されている。そして、パンチ74Cは、周方向における上記の半円弧状の断面形状の両端部を除く部分の形状が、成形孔73Cの長手方向Xに平行な方向における両端側から中央側にかけて、成形孔73Cの幅方向Yに平行な方向における内側に向かって滑らかに円弧状に湾曲して凹むように形成されている。
【0084】
なお、1回目プレス絞り加工工程S11は、第1のプレス絞り加工工程を構成している。このため、成形孔73Cは、本発明の第1の成形孔を構成し、第1の成形孔としての成形孔73Cが設けられたダイ72Cとダイ72Cに対応するパンチ74Cとを有する金型71Cは、本発明の第1の金型を構成している。
【0085】
1回目プレス絞り加工工程S11は、第1の成形孔としての成形孔73Cを有する第1の金型としての金型71Cを用いて行われる。1回目プレス絞り加工工程S11では、プレスシステム1のワーク供給装置10から供給される平板の状態のワークWとしてのワークW11に対して、ダイ72Cとパンチ74Cとを用いたプレス絞り加工が施される。なお、図12(A)では、平板の状態のワークW11が二点鎖線で示されている。1回目プレス絞り加工工程S11では、パンチ74Cがダイ72Cの成形孔73CにワークW11を押し込むことで、ワークW11は、底部を有する筒状の形状のワークWとしてのワークW12(図12(B)を参照)に成形される。なお、1回目プレス絞り加工工程S11を経て成形されたワークW12は、底部を有するとともに、成形孔73Cの形状に対応した断面形状で筒状に延びる形状に形成されており、図12(B)では、平面視で見た状態のワークW12を二点鎖線で示している。
【0086】
図12(B)を参照して、2回目プレス絞り加工工程S12において用いられる金型71Dは、ダイ72D及びパンチ74Dを含んで構成されている。ダイ72Dは、プレスシステム1において取り付けられる複数のダイ72のうちの1つのダイ72として設けられ、2回目プレス絞り加工工程S12において用いられるダイ72として構成される。パンチ74Dは、プレスシステム1において取り付けられる複数のパンチ74のうちの1つのパンチ74として設けられ、2回目プレス絞り加工工程S12で用いられるパンチ74として構成される。
【0087】
図12(B)を参照して、ダイ72Dには、ダイ72の長孔状の成形孔73としての成形孔73Dが設けられている。即ち、ダイ72Dには、長手方向Xの寸法が幅方向Yの寸法よりも大きく、平面視で長孔状に形成された成形孔73Dが設けられている。成形孔73Dは、例えば、長手方向Xの両端部のそれぞれが半円弧状に形成されている。そして、成形孔73Dは、周方向における長手方向Xの両端部を除く部分の形状が、長手方向Xの両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に向かって滑らかに円弧状に湾曲しながら窄まるように形成されている。また、成形孔73Dは、1回目プレス絞り加工工程S11で用いられるダイ72Cの成形孔73Cよりも、長手方向Xに亘って幅方向Yの寸法が小さく形成されている。言い換えれば、1回目プレス絞り加工工程S11で用いられるダイ72Cの成形孔73Cは、2回目プレス絞り加工工程S12で用いられるダイ72Dの成形孔73Dよりも、長手方向Xに亘って幅方向Yの寸法が大きく形成されている。
【0088】
図12(B)を参照して、パンチ74Dは、その外周形状が、ダイ72Dの成形孔73Dに対応した形状に形成される。このため、パンチ74Dは、成形孔73Dの長手方向Xと平行な方向の両端部がそれぞれ半円弧状の断面形状となるように形成されている。そして、パンチ74Dは、周方向における上記の半円弧状の断面形状の両端部を除く部分の形状が、成形孔73Dの長手方向Xに平行な方向における両端側から中央側にかけて、成形孔73Dの幅方向Yに平行な方向における内側に向かって滑らかに円弧状に湾曲して凹むように形成されている。
【0089】
なお、2回目プレス絞り加工工程S12は、第1のプレス絞り加工工程としての1回目プレス絞り加工工程S11に対しては、第2のプレス絞り加工工程を構成している。このため、1回目プレス絞り加工工程S11との関係では、成形孔73Dは、本発明の第2の成形孔を構成し、第2の成形孔としての成形孔73Dが設けられたダイ72Dとダイ72Dに対応するパンチ74Dとを有する金型71Dは、本発明の第2の金型を構成している。また、2回目プレス絞り加工工程S12は、第2のプレス絞り加工工程としての3回目プレス絞り加工工程S13に対しては、第1のプレス絞り加工工程を構成している。このため、3回目プレス絞り加工工程S13との関係では、成形孔73Dは、本発明の第1の成形孔を構成し、第1の成形孔としての成形孔73Dが設けられたダイ72Dとダイ72Dに対応するパンチ74Dとを有する金型71Dは、本発明の第1の金型を構成している。
【0090】
2回目プレス絞り加工工程S12は、1回目プレス絞り加工工程S11に対しては、第2の成形孔としての成形孔73Dを有する第2の金型としての金型71Dを用いて行われることになる。また、2回目プレス絞り加工工程S12は、3回目プレス絞り加工工程S13に対しては、第1の成形孔としての成形孔73Dを有する第1の金型としての金型71Dを用いて行われることになる。2回目プレス絞り加工工程S12では、1回目プレス絞り加工工程S11を経て成形された筒状のワークW12に対して、ダイ72Dとパンチ74Dとを用いたプレス絞り加工が施される。2回目プレス絞り加工工程S12では、パンチ74Dがダイ72Dの成形孔73DにワークW12を押し込むことで、ワークW12は、筒状のワークWとしてのワークW13(図12(C)を参照)に成形される。なお、2回目プレス絞り加工工程S12を経て成形されたワークW13は、ワークW12に対して面積が同等もしくは小さい底部を有するとともに、成形孔73Dの形状に対応した断面形状で筒状に延びる形状に形成されており、図12(C)では、平面視で視た状態のワークW13を二点鎖線で示している。
【0091】
図12(C)を参照して、3回目プレス絞り加工工程S13において用いられる金型71Eは、ダイ72E及びパンチ74Eを含んで構成されている。ダイ72Eは、プレスシステム1において取り付けられる複数のダイ72のうちの1つのダイ72として設けられ、3回目プレス絞り加工工程S13において用いられるダイ72として構成される。パンチ74Eは、プレスシステム1において取り付けられる複数のパンチ74のうちの1つのパンチ74として設けられ、3回目プレス絞り加工工程S13で用いられるパンチ74として構成される。
【0092】
図12(C)を参照して、ダイ72Eには、ダイ72の長孔状の成形孔73としての成形孔73Eが設けられている。即ち、ダイ72Eには、長手方向Xの寸法が幅方向Yの寸法よりも大きく、平面視で長孔状に形成された成形孔73Eが設けられている。成形孔73Eは、長手方向Xに細長く延びる略長方形の形状に形成されている。より詳細には、成形孔73Eは、長方形の四隅の角部が円弧状に形成された形状に形成されている。また、成形孔73Eは、2回目プレス絞り加工工程S12で用いられるダイ72Dの成形孔73Dよりも、長手方向Xに亘って幅方向Yの寸法が小さく形成されている。言い換えれば、2回目プレス絞り加工工程S12で用いられるダイ72Dの成形孔73Dは、3回目プレス絞り加工工程S13で用いられるダイ72Eの成形孔73Eよりも、長手方向Xに亘って幅方向Yの寸法が大きく形成されている。なお、本変形例では、3回目プレス絞り加工工程S13は、最終回のプレス絞り加工工程を構成している。このため、成形孔73Eの形状は、本変形例のプレス成形方法における複数回のプレス絞り加工工程を経て最終的に成形される製品としての筒状の容器の断面形状に対応した形状となっている。
【0093】
図12(C)を参照して、パンチ74Eは、その外周形状が、ダイ72Eの成形孔73Eに対応した形状に形成される。このため、パンチ74Eは、成形孔73Bの長手方向Xと平行な方向に細長く延びる略長方形の断面形状に形成されている。
【0094】
なお、3回目プレス絞り加工工程S13は、第1のプレス絞り加工工程としての2回目プレス絞り加工工程S12に対して、第2のプレス絞り加工工程を構成している。このため、成形孔73Eは、本発明の第2の成形孔を構成し、第2の成形孔としての成形孔73Eが設けられたダイ72Eとダイ72Eに対応するパンチ74Eとを有する金型71Eは、本発明の第2の金型を構成している。
【0095】
3回目のプレス絞り加工工程S13は、2回目プレス絞り加工工程S12に対しては、第2の成形孔としての成形孔73Eを有する第2の金型としての金型71Eを用いて行われることになる。3回目プレス絞り加工工程S13では、2回目プレス絞り加工工程S12を経て成形された筒状のワークW13に対して、ダイ72Eとパンチ74Eとを用いたプレス絞り加工が施される。3回目プレス絞り加工工程S13では、パンチ74Eがダイ72Eの成形孔73EにワークW13を押し込むことで、ワークW13は、底部を有する角筒状の容器の形状のワークWに成形される。なお、本変形例では、3回目プレス絞り加工工程S13は、最終回のプレス絞り加工工程を構成している。このため、3回目プレス絞り加工工程S13を経て成形されたワークWは、本変形例のプレス成形方法における複数回のプレス絞り加工工程を経て最終的に成形される製品の形状に形成されており、底部を有する角筒状の容器を構成している。
【0096】
ここで、1回目プレス絞り加工工程S11と2回目プレス絞り加工工程S12と3回目プレス絞り加工工程S13とにおけるダイ72の成形孔73の形状の関係について更に説明する。図13は、変形例に係るプレス成形方法における複数回のプレス絞り加工工程の成形孔73を対比して模式的に示す図である。即ち、図13では、1回目プレス絞り加工工程S11で用いられるダイ72Cの成形孔73Cと、2回目プレス絞り加工工程S12で用いられるダイ72Dの成形孔73Dと、3回目プレス絞り加工工程S13で用いられるダイ72Eの成形孔73Eとを対比して模式的に示している。なお、当然に、ダイ72C、ダイ72D、及びダイ72Eは、1つのダイ72ではなく別々の異なるダイ72であるが、図13では、成形孔73Cと成形孔73Dと成形孔73Eとの対比のため、ダイ72Cとダイ72Dとダイ72Eとを重ねた状態で模式的に図示している。
【0097】
まず、1回目プレス絞り加工工程S11で用いられるダイ72Cの成形孔73Cと、2回目プレス絞り加工工程S12で用いられるダイ72Dの成形孔73Dとの形状の関係について説明する。第1のプレス絞り加工工程としての1回目プレス絞り加工工程S11と第2のプレス絞り加工工程としての2回目プレス絞り加工工程S12との関係では、成形孔73Cは第1の成形孔を構成しており、成形孔73Dは第2の成形孔を構成している。図13を参照して、第1の成形孔を構成する成形孔73Cの領域は、第2の成形孔を構成する成形孔73Dの領域よりも、領域の全周に亘って大きくなっている。即ち、ダイ72Cとダイ72Dとを重ねた状態では、平面視において、成形孔73Cの輪郭と成形孔73Dの輪郭とが重なることなく、成形孔73Cの内側に成形孔73Dが配置される状態となる。このため、第1の成形孔を構成する成形孔73Cは、第2の成形孔を構成する成形孔73Dよりも、長手方向Xに亘って幅方向Yの寸法が大きく形成されている。より詳細には、成形孔73Cは、長手方向Xの両端部の半円弧状の部分が、成形孔73Dにおける長手方向Xの両端部の半円弧状の部分を外側で囲む大きさに形成されている。そして、成形孔73Cにおける長手方向Xの両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に窄まるように形成された部分は、成形孔73Dにおける長手方向Xの両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に窄まるように形成された部分を、幅方向Yの外側で囲む大きさに形成されている。このため、第1の成形孔を構成する成形孔73Cは、第2の成形孔を構成する成形孔73Eよりも、幅方向Yの寸法が大きく形成されている。
【0098】
次に、2回目プレス絞り加工工程S12で用いられるダイ72Dの成形孔73Dと、3回目プレス絞り加工工程S13で用いられるダイ72Eの成形孔73Eとの形状の関係について説明する。第1のプレス絞り加工工程としての2回目プレス絞り加工工程S12と第2のプレス絞り加工工程としての3回目プレス絞り加工工程S13との関係では、成形孔73Dは第1の成形孔を構成しており、成形孔73Eは第2の成形孔を構成している。図13を参照して、第1の成形孔を構成する成形孔73Dの領域は、第2の成形孔を構成する成形孔73Eの領域よりも、領域の全周に亘って大きくなっている。即ち、ダイ72Dとダイ72Eとを重ねた状態では、平面視において、成形孔73Dの輪郭と成形孔73Eの輪郭とが重なることなく、成形孔73Dの内側に成形孔73Eが配置される状態となる。このため、第1の成形孔を構成する成形孔73Dは、第2の成形孔を構成する成形孔73Eよりも、長手方向Xに亘って幅方向Yの寸法が大きく形成されている。より詳細には、まず、成形孔73Eは略長方形の形状であり、成形孔73Eの幅方向Yにおける寸法である幅寸法YEは、一定の寸法に設定されている。一方、成形孔73Dは、長手方向Xの両端部の半円弧状の部分は、成形孔73Eの長手方向の両端部を外側で囲む大きさに形成されている。更に、成形孔73Dは、周方向における長手方向Xの両端部を除く部分では、長手方向Xにおける両端側から中央側にかけて幅方向Yの寸法が徐々に小さくなり、長手方向Xにおける中央位置にて最も小さい幅寸法YDとなるように形成されている。そして、成形孔73Dにおける長手方向Xの両端部以外の部分で最も幅方向Yの寸法が小さい部分の幅寸法YDは、成形孔73Eの幅寸法YEよりも大きく形成されている。このため、第1の成形孔を構成する成形孔73Dは、第2の成形孔を構成する成形孔73Eよりも、幅方向Yの寸法が大きく形成されている。
【0099】
以上説明した本変形例に係るプレス成形方法によると、1回目プレス絞り加工工程S11で用いられるダイ72Cの成形孔73Cは、2回目プレス絞り加工工程S12で用いられるダイ72Dの成形孔73Dよりも幅方向Yの寸法が大きい範囲で、長手方向Xにおける両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に向かって窄まるように形成されている。これにより、1回目プレス絞り加工工程S11においては、ワークW11において、成形孔73Cの長手方向Xの中央側で加工される部分では成形孔73Cの周方向に引張力が発生する状態となる。このため、ワークW11において、成形孔73Cの長手方向Xの中央側で加工される部分で生じる引張力が、成形孔73Cの長手方向Xの両端側で加工される部分で生じる圧縮力と対向することになる。これにより、成形孔73Cの中央側で加工される材料の体積が過剰となることが抑制され、ワークW12の底部側へと塑性流動することが抑制される。したがって、ワークW12において、長手方向Xの中央側の部分の底部側に歪みが生じてしまうことを抑制することができる。
【0100】
更に、本変形例に係るプレス成形方法によると、2回目プレス絞り加工工程S12で用いられるダイ72Dの成形孔73Dは、3回目プレス絞り加工工程S13で用いられるダイ72Eの成形孔73Eよりも幅方向Yの寸法が大きい範囲で、長手方向Xにおける両端側から中央側にかけて幅方向Yの内側に向かって窄まるように形成されている。これにより、2回目プレス絞り加工工程S12においては、ワークW12において、成形孔73Dの長手方向Xの中央側で加工される部分では成形孔73Dの周方向に引張力が発生する状態となる。このため、ワークW12において、成形孔73Dの長手方向Xの中央側で加工される部分で生じる引張力が、成形孔73Dの長手方向Xの両端側で加工される部分で生じる圧縮力と対向することになる。これにより、成形孔73Dの中央側で加工される材料の体積が過剰となることが抑制され、ワークW13の底部側へと塑性流動することが抑制される。したがって、ワークW13において、長手方向Xの中央側の部分の底部側に歪みが生じてしまうことを抑制することができる。
【0101】
以上の通り、本変形例のプレス成形方法によれば、長孔状の成形孔73を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から底部を有する筒状の容器を成形する際に、ワークWの底部側に歪みが生じてしまうことを抑制することができる。
【0102】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明したが、本発明は、上述の実施形態及び変形例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて種々変更して適用することが可能なものである。
【0103】
例えば、上述の実施形態及び変形例において説明した第1のプレス絞り加工工程及び第2のプレス絞り加工工程は、2回のプレス絞り加工工程又は3回のプレス絞り加工工程を行うことで実施されるプレス成形方法に限られず、4回以上のプレス絞り加工工程を行うことで実施されるプレス成形方法において適用することもできる。また、上述の実施形態及び変形例において説明した第1のプレス絞り加工工程及び第2のプレス絞り加工工程は、複数の金型が設けられたトランスファプレス装置50を有するプレスシステム1を用いて複数回のプレス絞り加工を行うプレス成形方法に限らず、金型がそれぞれ設けられた単発のプレス機を複数備えたプレスシステムを用いて複数回のプレス絞り加工を行うプレス成形方法において適用することもできる。なお、複数の単発のプレス機を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うプレス成形方法においては、ワークは、複数のプレス機の間において、作業者によって搬送されてもよく、また、ワーク搬送機によって搬送されてもよい。
【符号の説明】
【0104】
71A 第1の金型
71B 第2の金型
73 成形孔
73A 第1の成形孔
73B 第2の成形孔
W、W1、W2、W3 ワーク
S1 第1のプレス絞り加工工程
S2 第2のプレス絞り加工工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2023-05-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から底部を有する筒状の容器を成形するプレス成形方法であって、
長孔状の前記成形孔としての第1の成形孔を有するダイを含む第1の金型を用いて行われ、前記複数回のプレス絞り加工工程のうちから最終回のプレス絞り加工工程を除いたプレス絞り加工工程のうちの少なくともいずれかのプレス絞り加工工程として構成される第1のプレス絞り加工工程と、
長孔状の前記成形孔としての第2の成形孔を有する第2の金型を用いて行われ、前記複数回のプレス絞り加工工程のうちの前記第1のプレス絞り加工工程の次のプレス絞り加工工程として構成される第2のプレス絞り加工工程と、を備え、
前記第1の成形孔は、当該第1の成形孔が前記ダイを貫通する方向である上下方向の全長に亘って、前記第2の成形孔よりも、長孔状に延びる方向である長手方向に垂直な方向である幅方向の寸法が大きく形成され、
前記第1の成形孔は、前記上下方向の全長に亘って、前記長手方向における両端側から中央側にかけて前記幅方向の内側に向かって窄まるように形成されている、
ことを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
前記第1のプレス絞り加工工程は、前記複数回のプレス絞り加工工程のうちの初回のプレス絞り加工工程として構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のプレス成形方法。
【請求項3】
前記第1の成形孔は、前記長手方向における両端側から中央側にかけて前記幅方向の内側に向かって湾曲しながら窄まるとともに、前記長手方向における中央位置において前記幅方向の内側に最も窄まるように形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプレス成形方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
(1)本発明のプレス成形方法は、
長孔状の成形孔を有する複数の金型を用いて複数回のプレス絞り加工工程を行うことで平板から底部を有する筒状の容器を成形するプレス成形方法であって、
長孔状の前記成形孔としての第1の成形孔を有するダイを含む第1の金型を用いて行われ、前記複数回のプレス絞り加工工程のうちから最終回のプレス絞り加工工程を除いたプレス絞り加工工程のうちの少なくともいずれかのプレス絞り加工工程として構成される第1のプレス絞り加工工程と、
長孔状の前記成形孔としての第2の成形孔を有する第2の金型を用いて行われ、前記複数回のプレス絞り加工工程のうちの前記第1のプレス絞り加工工程の次のプレス絞り加工工程として構成される第2のプレス絞り加工工程と、を備え、
前記第1の成形孔は、当該第1の成形孔が前記ダイを貫通する方向である上下方向の全長に亘って、前記第2の成形孔よりも、長孔状に延びる方向である長手方向に垂直な方向である幅方向の寸法が大きく形成され、
前記第1の成形孔は、前記上下方向の全長に亘って、前記長手方向における両端側から中央側にかけて前記幅方向の内側に向かって窄まるように形成されている、
ことを特徴とする。