(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069055
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】加圧治具
(51)【国際特許分類】
B29C 70/46 20060101AFI20240514BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B29C70/46
B29C70/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179834
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】金光 由実
(72)【発明者】
【氏名】大貫 正秀
(72)【発明者】
【氏名】阪峯 良太
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG08
4F205AJ08
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA25
4F205HA37
4F205HA45
4F205HK03
4F205HK04
4F205HK24
4F205HK31
(57)【要約】
【課題】 成形後の繊維強化樹脂製パイプの強度低下を抑制することができる加圧治具等を提供する。
【解決手段】 プリプレグシートをパイプ状に積層した積層物から繊維強化樹脂製パイプを製造するために用いられる加圧治具1である。パイプ状の第1治具10と、第1治具10と積層物との間に配置される第2治具20とを含む。第1治具10は、軸心方向に延びる螺旋状の切り込み11と、切り込み11によって区分された螺旋構造部12とを含み、軸心CLの周りの捻じりモーメント、又は、軸心方向の力を受けることで、外径及び内径が変化する。第2治具20は、軸心方向に延び、かつ、軸心周りに円弧状に湾曲したシート部材20aを含む。シート部材20aは、自由端である第1エッジ21及び第2エッジ22を備える。シート部材20aは、第1治具10の外径又は内径が変化したときの加圧力を積層物に伝えることができるように、曲げ剛性が0.4(N・mm
2)以上かつ135(N・mm
2) 以下とされる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリプレグシートをパイプ状に積層した積層物から繊維強化樹脂製パイプを製造するために用いられる加圧治具であって、
外径、内径、軸心及び軸心方向を規定するパイプ状の第1治具と、
前記第1治具と前記積層物との間に配置される第2治具とを含み、
前記第1治具は、前記軸心方向に延びる螺旋状の切り込みと、前記切り込みによって区分された螺旋構造部とを含み、
前記螺旋構造部は、前記積層物の内周面又は外周面の側に配置され、
前記螺旋構造部は、前記軸心の周りの捻じりモーメント、又は、前記軸心方向の力を受けることで、前記外径及び前記内径が変化するものであり、
前記第2治具は、前記軸心方向に延び、かつ、前記軸心周りに円弧状に湾曲したシート部材を含み、
前記シート部材は、前記軸心方向に延びる第1エッジ及び第2エッジを備え、
前記第1エッジ及び前記第2エッジがそれぞれ自由端とされており、
前記シート部材は、前記第1治具の前記外径又は前記内径が変化したときの加圧力を前記積層物に伝えることができるように曲げ剛性が0.4(N・mm 2)以上かつ135(N・mm 2) 以下とされている、
加圧治具。
【請求項2】
前記シート部材の厚さtが0.5mm以下である、請求項1に記載の加圧治具。
【請求項3】
前記シート部材は、金属材料を含む、請求項1又は2に記載の加圧治具。
【請求項4】
前記シート部材は、繊維強化プラスチックを含む、請求項1又は2に記載の加圧治具。
【請求項5】
前記シート部材は、前記第1治具と前記積層物との間に配されたときに、前記螺旋状の切り込みが前記積層物に直接接触しない軸心方向の長さを有する、請求項1又は2に記載の加圧治具。
【請求項6】
請求項1又は2に記載された加圧治具を用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法であって、
マンドレルの上に、前記プリプレグシートを積層してパイプ状の前記積層物を形成する工程と、
前記積層物の外周面の側に、前記第2治具を介して、前記第1治具を被せる工程と、
前記第1治具の前記螺旋構造部の前記内径を縮めることにより、前記第2治具を介して前記積層物を前記マンドレルの側へ加圧する加圧工程とを含む、
繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載された加圧治具を用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法であって、
前記第1治具の前記螺旋構造部の外周面の側に、前記第2治具を介して、前記プリプレグシートを積層してパイプ状の前記積層物を形成する工程と、
前記積層物を、前記加圧治具と一緒に金型のキャビティの中に位置決めする工程と、
前記キャビティの中で、前記第1治具の前記螺旋構造部の前記外径を広げることにより、前記第2治具を介して前記積層物を前記キャビティの側へ加圧する加圧工程とを含む、
繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
【請求項8】
繊維強化樹脂製パイプの製造装置であって、
マンドレルと、
前記マンドレルの上に形成された前記プリプレグシートのパイプ状の前記積層物を、前記マンドレルの側に加圧するための請求項1又は2に記載された前記加圧治具とを含む、
繊維強化樹脂製パイプの製造装置。
【請求項9】
繊維強化樹脂製パイプの製造装置であって、
外周面の側に、前記プリプレグシートを積層してパイプ状の前記積層物を形成するための請求項1又は2に記載された前記加圧治具と、
前記積層物の外周面を成形するためのキャビティを備えた金型とを含む、
繊維強化樹脂製パイプの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製パイプを製造するために用いられる加圧治具等に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、繊維強化樹脂製パイプを製造するために用いられる加圧治具が記載されている。この加圧治具は、パイプ状の治具本体を含み、前記治具本体は、軸心方向に延びる螺旋状の切り込みと、この切り込みによって区分された金属製の螺旋構造部とを含む。前記螺旋構造部は、プリプレグシートの積層物の内周面又は外周面の側に配置される。また、前記螺旋構造部は、その軸心の周りの捻じりモーメント、又は、軸心方向の力を受けることで、その外径及び内径を変化させる。これにより、螺旋構造部は、プリプレグシートの積層物を強く加圧し、積層物中の空気等を排出し、パイプにボイド等が残存することを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の加圧治具は、その螺旋状の切り込みの部分(すなわち、隙間部分)ではプリプレグシートの積層物を十分に加圧することができない。このため、前記積層物の加圧されなかった部分は、ボイド等が残存しやすく、ひいては、成形後のパイプの強度が低いという課題があった。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、成形後の繊維強化樹脂製パイプの強度低下を抑制することができる加圧治具等を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、プリプレグシートをパイプ状に積層した積層物から繊維強化樹脂製パイプを製造するために用いられる加圧治具であって、外径、内径、軸心及び軸心方向を規定するパイプ状の第1治具と、前記第1治具と前記積層物との間に配置される第2治具とを含み、前記第1治具は、前記軸心方向に延びる螺旋状の切り込みと、前記切り込みによって区分された螺旋構造部とを含み、前記螺旋構造部は、前記積層物の内周面又は外周面の側に配置され、前記螺旋構造部は、前記軸心の周りの捻じりモーメント、又は、前記軸心方向の力を受けることで、前記外径及び前記内径が変化するものであり、前記第2治具は、前記軸心方向に延び、かつ、前記軸心周りに円弧状に湾曲したシート部材を含み、前記シート部材は、前記軸心方向に延びる第1エッジ及び第2エッジを備え、前記第1エッジ及び前記第2エッジがそれぞれ自由端とされており、前記シート部材は、前記第1治具の前記外径又は前記内径が変化したときの加圧力を前記積層物に伝えることができるように、曲げ剛性が0.4(N・mm 2)以上かつ135(N・mm 2) 以下とされている、加圧治具である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の加圧治具は、上記の構成を採用したことにより、成形後の繊維強化樹脂製パイプの強度低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態を示す加圧治具の斜視図である。
【
図4】(A)及び(B)は、
図3の螺旋構造部の変形状態を説明する図である。
【
図5】加圧治具の軸心方向に沿った模式的な部分断面図である。
【
図6】本発明の実施形態1の製造装置の斜視図である。
【
図7】実施形態1の加圧工程を説明するための加圧治具の斜視図である。
【
図9】本発明の実施形態2の製造装置の斜視図である。
【
図10】実施形態2の製造工程を示す加圧治具の部分断面図である。
【
図11】実施形態2の製造工程を示す部分断面図である。
【
図12】実施形態2の加圧工程を示す部分断面図である。
【
図13】(A)及び(B)は、集成材及びその曲げ剛性を説明する線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれている。また、複数の実施形態がある場合、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0010】
[加圧治具]
図1は本発明の一実施形態を示す加圧治具1の斜視図である。
図1に示されるように、本実施形態の加圧治具1は、プリプレグシートをパイプ状に積層した積層物から繊維強化樹脂製パイプ(以下、単に「パイプ」という。)を製造する際に用いられる。より具体的には、加圧治具1は、前記積層物を径方向内側又は外側から加圧することにより、積層物中の空気を外部に排出し、ひいては、ボイド等が抑制されたパイプを製造するために用いられる。
【0011】
本実施形態の加圧治具1は、パイプ状の第1治具10と、第1治具10とプリプレグシートの積層物との間に配置される第2治具20とを含む。
図1では、理解しやすいように、第1治具10と第2治具20とは分離して描かれているが、加圧治具1として使用される場合、第2治具20は、互いの軸心CLが揃うように、第1治具10の径方向外側又は内側に重ねられる。
【0012】
[第1治具]
図2は、第1治具10の側面図、
図3は、
図2の部分拡大図である。
図1~3に示されるように、第1治具10は、その外径do、内径di、軸心CL及び軸心方向Aを規定する。また、第1治具10は、軸心方向Aに延びる螺旋状の切り込み11と、この切り込み11によって区分された螺旋構造部12とを含む。
【0013】
切り込み11は、
図3に示されるように、例えば、第1治具10を貫通しており、本実施形態では、幅Wを有して螺旋状に延びている。
図1~3の切り込み11は、図の左側に螺旋が進むときに、この螺旋が時計回りとなる右巻き螺旋の向きを有する。他の態様では、切り込み11は、
図3とは逆の左巻き螺旋の向きであっても良い。また、本実施形態の切り込み11は、
図2に示されるように、一定の螺旋ピッチPで軸心方向Aに延びている。他の態様では、切り込み11は、軸心方向Aにおいて、変化する螺旋ピッチPを備えていても良い。
【0014】
本実施形態において、第1治具10は、金属材料で構成されている。このため、螺旋構造部12は金属製である。螺旋構造部12を構成する金属材料には、炭素鋼、ステンレス鋼等の各種の金属材料が採用され得る。
【0015】
螺旋構造部12の外周面12o及び内周面12iにより、螺旋構造部12の自由状態(外力を受けずに静置された状態で、以下同様である。)での外径do及び内径diがそれぞれ画定される。螺旋構造部12の外径do及び内径diは、それぞれ、加圧の対象であるプリプレグシートのパイプ状の積層物の内周面又は外周面の側に配置可能なように設計される。
【0016】
図2に示されるように、本実施形態において、第1治具10の一端又は両端には、切り込み11が形成されていない操作部13が設けられている。操作部13には、例えば、螺旋構造部12を捻るための各種のアクチュエータ等が連結され得る。また、操作部13には、例えば、
図6に示されるように、螺旋構造部12を捻るためのレバー14等が設けられても良い。
【0017】
次に、本実施形態の第1治具10の作用が説明される。螺旋構造部12は、軸心CLの周りの捻じりモーメント、又は、軸心方向Aの力(すなわち、軸心方向Aの引張力又は圧縮力)を受けることで、その外径do及び内径diが変化する。
図4(A)及び
図4(B)は、
図3の第1治具10の螺旋構造部12の変形状態を説明する図である。
【0018】
図4(A)には、第1治具10の螺旋構造部12に、例えば、捻じりモーメントT1が与えられた状態が示されている。この捻じりモーメントT1は、切り込み11の幅Wを縮めるような向きとされる。このような捻じりモーメントT1が螺旋構造部12に与えられた場合、螺旋構造部12は、切り込み11の幅Wが減少し、かつ、螺旋構造部12の外径do及び内径diが小さくなるように弾性変形する。
【0019】
したがって、このような第1治具10は、その内周面側に配されたプリプレグシートの積層物をその外周面側から加圧でき、積層物中の空気を外部に排出することができる。なお、上記のような作用は、捻じりモーメントT1に代えて、螺旋構造部12に軸心方向Aの引張力を与えることによっても得ることができる。この場合、螺旋構造部12は、切り込み11の幅Wを広げながら、螺旋構造部12の外径do及び内径diが小さくなるように弾性変形する。
【0020】
図4(B)には、螺旋構造部12に、例えば、捻じりモーメントT2が与えられた状態が示されている。捻じりモーメントT2は、切り込み11の幅Wを拡げるような向きであり、捻じりモーメントT1とは逆向きである。このような捻じりモーメントT2により、螺旋構造部12は、切り込み11の幅Wが増加し、かつ、螺旋構造部12の外径do及び内径diが大きくなるように弾性変形する。
【0021】
したがって、このような第1治具10は、その外周面側に配されたプリプレグシートの積層物をその内周面側から加圧でき、積層物中の空気を外部に排出することができる。なお、このような作用は、捻じりモーメントT2に代えて、螺旋構造部12に軸心方向Aの圧縮力を与えることによっても得ることができる。この場合、螺旋構造部12は、切り込み11の幅Wを縮めつつ、螺旋構造部12の外径do及び内径diが大きくなるように弾性変形する。
【0022】
以上のように、第1治具10は、上述のような螺旋構造部12の外径do及び内径diの拡縮機能を利用して、プリプレグシートの積層物を加圧することができる。また、本実施形態の第1治具10は、金属製であることから、従来のラッピングテープや樹脂チューブ等に比べて、プリプレグシートの積層物をより強く加圧できる。さらに、本実施形態の第1治具10の外径do及び内径diは、捻じりモーメントT1又はT2の大きさ(すなわち、トルクの大きさ)を変えることで、積層物への加圧力を任意に調整することができる。
【0023】
[第2治具]
図1に示されるように、第2治具20は、第1治具10の軸心CLの周りに円弧状に湾曲したシート部材20aを含む。本実施形態の第2治具20は、シート部材20aから構成されている。シート部材20aは、軸心方向Aに延びる第1エッジ21及び第2エッジ22を備える。これらの第1エッジ21及び第2エッジ22は、それぞれ自由端とされている。すなわち、シート部材20aは、軸心CLと直交する断面において、円形にカールしているが、その両端である第1エッジ21及び第2エッジ22は、他の部分に固着されていない自由な状態とされている。本実施形態では、シート部材20aは、自由状態において、第1エッジ21側の端部及び第2エッジ22の端部が互いに重なるような断面渦巻状に形成されている。ただし、シート部材20aは、そのような形状に限定されるものではなく、例えば、第1エッジ21側の端部及び第2エッジ22の端部が互いに周方向で離間した断面C字状であっても良い。
【0024】
本実施形態のシート部材20aは、例えば、適度な剛性と弾性とを有する材料で構成される。したがって、シート部材20aは、その外径(及び内径)を変化させることができる。例えば、シート部材20aは、第1エッジ21側の端部と第2エッジ22の端部の重なり量又は開き量を調整することで、シート部材20a(すなわち、第2治具20)の外径及び内径を適宜変化させることができる。
【0025】
上述のようなシート部材20aは、例えば、金属材料又は繊維強化樹脂を硬化させた繊維強化プラスチックが用いられる。金属材料としては、例えば、チタン、チタン合金、アルミニウム、ステンレス鋼等が好適であり、これらの圧延材又は箔が用いられ得る。繊維強化プラスチックとしては、CFRP等が好適であり、断面渦巻状又はC字状に成形されて用いられ得る。
【0026】
本実施形態のシート部材20aは、好ましくは、第1治具10の内周面側又は外周面側に重ねられたときに、第1治具10の螺旋状の切り込み11が、プリプレグシートの積層物に直接接触しないような軸心方向Aの長さを有する。本実施形態のシート部材20aの軸心方向Aの長さは、例えば、第1治具10の螺旋状の切り込み11の軸心方向の全長さよりも大きい。ただし、本発明は、このような態様に限定されるものではなく、シート部材20aの軸心方向Aの長さは、対象となる積層物の長さとの関係で種々定めることができる。
【0027】
本実施形態において、シート部材20aは、第1治具10の外径do又は内径diが変化したときの加圧力をプリプレグシートの積層物に伝えることができるように剛性が特定される。具体的には、本実施形態のシート部材20aは、曲げ剛性が0.4(N・mm
2)以上かつ135(N・mm
2) 以下とされる。ここで、上記曲げ剛性は、シート部材20aが単一材料や様々な積層材料からなる場合でも適用できるように、
図13(A)及び(B)に示されるように、厚さ方向に積層された集成材(図では3つの材料m1、m2及びm3を積層した例を示す。)の曲げ剛性EIの一般式である下式を利用して特定されるものとする。なお、
図13(A)は、曲げモーメントを受ける前の梁(長さb)を正面図であり、
図13(B)は、曲げモーメントMを受けた状態の梁の正面図である。
【数1】
ここで、上記式の各符号は次のとおりである。
添字i:シート部材20aを構成する各材料m1…に関連付けられる1からnまでの整数である。シート部材20aが単一材料で形成されている場合はn=1となる。
符号b:シート部材の長さであるが、本明細書ではその値は単位長さとして「1mm」に固定される。
符号h
i:
図13(A)に示されるように、集成材の上縁から各材料m1…それぞれの下縁までの距離であり、垂直方向の座標yにおいて下向きを正とする。
符号E
i:各材料m1…それぞれの弾性率であり、シート部材20aとして用いられる際の軸心方向の引張弾性率とする。
符号λ:集成材の上縁から集成材の中立軸N-Nまでの距離であり、座標yにおいて下向きを正とする。
なお、
図13(B)において、ρは集成材の曲げの曲率半径である。
【0028】
[本実施形態の加圧治具の作用]
上で述べたように、第1治具10の螺旋状の切り込み11の部分は、プリプレグシートの積層物を十分に加圧することができない。発明者らは、第2治具20のシート部材20aの弾性率Eや厚さtなどを種々変化させてパイプの製造試験を行った。その結果、第1治具10の螺旋状の切り込み11が積層物に直接接触しないように、第1治具10とプリプレグシートの積層物との間にシート部材20aを介在させ、かつ、シート部材20aの曲げ剛性を一定範囲に規制した場合、積層物を軸心方向にほぼ均一に加圧できることが分かった。すなわち、シート部材20aの曲げ剛性を最適化することで、螺旋構造部12から径方向の力を受けた第2治具20のシート部材20aが、その軸心方向に亘って均一な加圧力を積層物に作用させることができる。これにより、本実施形態の加圧治具1は、積層物から空気を効果的に排出し、ひいてはボイドの生成等を防いで、成形後のパイプの強度低下を抑制することができる。
【0029】
ここで、シート部材20aの曲げ剛性が0.4 N・mm 2未満では、シート部材20aの剛性が十分ではない。この結果、第1治具10で積層物を加圧したときに、積層物から受ける反力によってシート部材20aが第1治具10の螺旋状の切り込み11側へ弾性変形し、積層物を十分に加圧することができない。このような観点より、シート部材20aの曲げ剛性は、15N・mm 2 以上が望ましい。
【0030】
また、シート部材20aの曲げ剛性が135 N・mm 2を超えると、シート部材20aの剛性が過度に高められてしまい、第1治具10の加圧力が積層物に伝達され難くなる。このような観点より、シート部材20aの曲げ剛性は、100 N・mm 2 以下が望ましく、さらには65 N・mm 2 以下がより望ましい。
【0031】
図5には、プリプレグシートの積層物30を加圧しているときの加圧治具1の軸心方向の部分断面図が模式的に示されている。
図5に示されるように、シート部材20aにおいて、螺旋状の切り込み11を跨っている部分20a1は、その軸心方向Aの両端が螺旋構造部12で支持され、軸心方向Aの中央部は積層物30からの力を受ける。これは、梁の3点曲げの状態に近似している。本発明では、シート部材20aの前記部分20a1の変形のしづらさの指標として、曲げ剛性に着目し、上記のように曲げ剛性の範囲を特定することで、第1治具10の外径又は内径が変化したときの加圧力を積層物に伝え得る。
【0032】
次に、本実施形態の加圧治具1を用いたいくつかのパイプの製造方法及び製造装置の具体的な実施形態が説明される。
【0033】
[製造方法及び製造装置の実施形態1(外圧法)]
図6には、実施形態1の繊維強化樹脂製パイプの製造装置100が示されている。実施形態1の製造装置100は、例えば、マンドレル40と、前記加圧治具1とを含む。マンドレル40は、例えば、金属製又は耐熱樹脂製の円柱軸である。
【0034】
実施形態1の製造方法では、まず、マンドレル40の上に、未硬化の繊維強化樹脂材料であるプリプレグシートを積層してパイプ状の積層物30が形成する工程が行われる。プリプレグシートの構成は、特に限定されるものではなく、製造対象のパイプ(例えば、ゴルフクラブシャフト等)に応じて、適切なものが選択されれば良い。
【0035】
次に、積層物30の外周面の側に、第2治具20を介して、第1治具10を被せる工程が行われる。この工程は、例えば、シート部材20aの内側に、マンドレル40及び積層物30を挿入し、それらの外側に第1治具10が被せられても良い。また、他の例では、予め第2治具20を第1治具10の内周面側に配置しておき、その第2治具20の内周面側に、マンドレル40及び積層物30が挿入されても良い。
【0036】
次に、
図7に示されるように、第1治具10の螺旋構造部12に、例えば、捻じりモーメントT1を作用させる。これにより、第1治具10は、螺旋構造部12の内径diが小さくなるように弾性変形する。
図8は、
図7の軸心方向と直角な断面図である。
図7及び
図8に示されるように、螺旋構造部12は、第2治具20のシート部材20aを径方向内側へと加圧する。加圧された第2治具20のシート部材20aは、曲げ剛性が最適化されているため、螺旋状の切り込み11に対向する部分20a1においても、積層物30をマンドレル40の側に加圧し、ひいては積層物30中の空気を外部へと排出することができる。
【0037】
次に、積層物30が、硬化炉等に投入されて加熱される(加熱工程)。好ましい態様では、加熱工程は、積層物30が、加圧治具1で加圧された状態で行われる。すなわち、加圧治具1は、螺旋構造部12で積層物30を加圧した状態のまま、積層物30及びマンドレル40と一緒に硬化炉に投入される。これにより、熱エネルギーを受けた積層物30の樹脂は、加圧治具1からのより強い加圧力を受けながら溶融し、樹脂中に内在していた空気が外部へと効果的に排出され、ひいては、ボイドの少ないパイプを製造することができる。
【0038】
なお、加熱工程の終了後、第1治具10に与えられていた捻じりモーメントT1を取り除くと、螺旋構造部12の内径diが元の状態へ拡がる。これにより、第1治具10及び第2治具20は、成形されたパイプから軸心方向Aに容易に取り除くことができる。
【0039】
ここで、シート部材20aの厚さtは、上述の曲げ剛性が特定されれば、特に限定されるものではない。一方、
図8から理解されるように、シート部材20aの厚さtが過度に大きくなると、積層物30に接触する第1エッジ21又は第2エッジ(
図8では、第2エッジ22)の箇所で、積層物30に段差が形成されやすくなる。このような段差を抑制してより平滑なパイプ表面を形成するという観点では、シート部材20aの厚さtは、好ましくは0.5mm以下とされる。また、上述の段差を抑制する観点では、シート部材20aの厚さtは小さいほど好ましいことから、厚さtの下限値は特に定めない。
【0040】
[製造方法及び製造装置の実施形態2(内圧法)]
図9には、実施形態2のパイプの製造装置200が示されている。実施形態2の製造装置200は、例えば、前記加圧治具1と、キャビティ52を備えた金型50とを含む。
【0041】
金型50は、例えば、上型50Aと、下型50Bとを含む。上型50A及び下型50Bには、例えば、上キャビティ52A及び下キャビティ52Bがそれぞれ形成されている。そして、金型50は、上型50Aと下型50Bとを閉じることにより、上キャビティ52A及び下キャビティ52Bが連続し、製造すべきパイプの外周面を成形するためのキャビティ52が形成される。本実施形態では、キャビティ52は、円筒形状である、キャビティ52の内径は、例えば、加圧治具1の上に形成された積層物30の外径よりも大きい。したがって、キャビティ52の中に、積層物30を配置することができる。
【0042】
実施形態2の製造方法では、
図10に示されるように、まず、第1治具10の螺旋構造部12の外周面の側に、第2治具20を介して、プリプレグシートを積層してパイプ状の積層物30を形成する工程が行われる。
【0043】
次に、
図11に示されるように、積層物30を、加圧治具1(第1治具10及び第2治具20)と一緒に金型50のキャビティ52の中に位置決めする工程が行われる。本実施形態では、この状態において、加圧治具1の操作部13は、例えば、金型50の外部に突出している。
【0044】
次に、
図12に示されるように、キャビティ52の中で、第1治具10に捻りモーメントT2を加えて、螺旋構造部12の外径doが広げられる。螺旋構造部12は、第2治具20のシート部材20aを径方向外側へと加圧する。加圧された第2治具20のシート部材20aは、曲げ剛性が最適化されているため、螺旋状の切り込み11の箇所においても、積層物30をキャビティ52の側に加圧して積層物30中の空気を外部へと排出することができる。
【0045】
また、加圧工程の前、後又は途中で、金型50が加熱される(加熱工程)。この実施形態2においても、加熱工程の少なくとも一部は、積層物30が加圧治具1で加圧された状態で行われるのが望ましい。これにより、熱エネルギーを受けた積層物30の樹脂は、加圧治具1からのより強い加圧力を受けながら溶融し、樹脂中に内在していた空気が外部へと効果的に排出され、ひいては、ボイドの少ないパイプを製造することができる。なお、金型50内の空気は、慣例に従い、ベントホール(図示省略)などで金型外部に排出され得る。
【0046】
なお、加熱工程の終了後、加圧治具1への捻りモーメントT2を取り除くことにより、第1治具10の螺旋構造部12の外径doは元の状態へと縮小する。これにより、加圧治具1は、成形されたパイプから軸心方向Aに容易に取り除くことができる。
【0047】
なお、実施形態1及び2において、積層物30と第2治具20との間に、積層物30を第2治具20から容易に分離するための離型層(図示省略)が配されても良い。離型層は、例えば、塗布タイプのものや樹脂シート等であっても良い。
【0048】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。また、本実施形態は、例えば、ゴルフクラブシャフト、釣り竿、ラケットフレーム、その他各種の部材の製造方法として利用でき、パイプの用途については、特に限定されるものではない。
【実施例0049】
本発明の効果を確認するために、加圧治具が複数種類準備された。各加圧治具において、第1治具は、いずれも次の仕様で共通とされた。
【0050】
<外圧法用の第1治具(実施形態1)>
材料:機械構造用炭素鋼
外径:19.1mm
管肉厚:1.2mm
螺旋状の切り込みの幅:5mm
螺旋ピッチ:50mm
【0051】
<内圧法用の第1治具(実施形態2)>
材料:機械構造用炭素鋼
外径:12.7mm
管肉厚:1.0mm
螺旋状の切り込みの幅:0.5mm
螺旋ピッチ:25mm
【0052】
準備された第2治具のシート部材は、それぞれ、表1の仕様のとおりである。シート部材は、いずれも幅43mm×長さ210mmとされた。表1において、CFRPのシート部材の仕様は、次のとおりである。
[実施例5]
三菱ケミカル社製のC/Fプリプレグシート(TR355C-075Sを3層)を使用し、これらが表1記載の繊維角度で外径13mmのマンドレルに巻き付けられた。また、巻き付けと巻き終わりの重なり部分(
図1の第1エッジ21及び第2エッジ22に相当)には、予め、離型性を有するラッピングシートを介在させた。その後、オーブンで、130℃で2時間加熱して硬化させることにより、シート部材を得た。
[実施例6]
三菱ケミカル社製のC/Fプリプレグシート(MRX350G-150Sの2層及びTR355C-075Sの1層)を使用し、これらが表1記載の繊維角度で外径14mmのマンドレルに巻き付けられた。その後は、実施例5と同様の手順でシート部材が製造された。
【0053】
そして、上記実施形態1(外圧法)及び実施形態2(内圧法)で、複数のCFRP製パイプが試作された。パイプの主な仕様は、次の通りである。
プリプレグシート:TR350C-150S(三菱ケミカル社製)
プリプレグシートの寸法:10枚の短冊にカット、幅は内側から51/51/51/51/50/50/50/50/54/55mmであり、長さは200mm
繊維角度:内側から-45/90/45/0/90/90/0/0/90/0(度)
パイプ重量:27.5g
内圧法によるパイプ外径:15.6mm
外圧法によるパイプ外径:15.2mm
【0054】
内圧法の場合、外径12mmのフッ素樹脂製のマンドレルに上記プリプレグシートを巻き付けた後、脱芯し、その内周面側に、第2治具を介して、第1治具が装着された。その後、これらは金型に配置された。次に、金型が電熱プレスにセットされ、第1治具にねじりモーメントを与えて拡径しながら130℃で2時間硬化させることにより、繊維強化樹脂製パイプが製造された。
【0055】
外圧法の場合、外径13.2mmの鉄製マンドレルに上記プリプレグシートを巻き付けた後、その外周面側に、第2治具を介して、第1治具が装着された。その後、これらをオーブンに入れ、第1治具にねじりモーメントを与えて縮径しながら130℃で2時間硬化させることにより、繊維強化樹脂製パイプが製造された。
【0056】
次に、製造された各パイプについて、3点曲げ試験が行われ、最大の曲げ荷重(N)が測定された。この最大の曲げ荷重が大きいほど、パイプ強度が高いことを意味する。なお、3点曲げ試験において、支点間距離は150mmであり、圧子速度は20mm/minとした。
【0057】
【0058】
試験の結果、実施例の第2治具を用いた加圧治具で製造されたパイプは、いずれも、高い曲げ強度を備えることが確認できた。一方、比較例1と4では、第2治具を用いなかったため、加圧治具がパイプに食い込んでいたため、パイプを加圧治具から取り外すことができなかった。比較例2と3では、第2治具として、超耐熱・超耐寒性ポリイミドフィルムと厚みが薄いSUS304を用いたが、低強度であった。
【0059】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0060】
[本発明1]
プリプレグシートをパイプ状に積層した積層物から繊維強化樹脂製パイプを製造するために用いられる加圧治具であって、
外径、内径、軸心及び軸心方向を規定するパイプ状の第1治具と、
前記第1治具と前記積層物との間に配置される第2治具とを含み、
前記第1治具は、前記軸心方向に延びる螺旋状の切り込みと、前記切り込みによって区分された螺旋構造部とを含み、
前記螺旋構造部は、前記積層物の内周面又は外周面の側に配置され、
前記螺旋構造部は、前記軸心の周りの捻じりモーメント、又は、前記軸心方向の力を受けることで、前記外径及び前記内径が変化するものであり、
前記第2治具は、前記軸心方向に延び、かつ、前記軸心周りに円弧状に湾曲したシート部材を含み、
前記シート部材は、前記軸心方向に延びる第1エッジ及び第2エッジを備え、
前記第1エッジ及び前記第2エッジがそれぞれ自由端とされており、
前記シート部材は、前記第1治具の前記外径又は前記内径が変化したときの加圧力を前記積層物に伝えることができるように、曲げ剛性が0.4(N・mm2)以上かつ135(N・mm 2) 以下とされている、
加圧治具。
である。
[本発明2]
前記シート部材の厚さtが0.5mm以下である、本発明1に記載の加圧治具。
[本発明3]
前記シート部材は、金属材料を含む、本発明1又は2に記載の加圧治具。
[本発明4]
前記シート部材は、繊維強化プラスチックを含む、本発明1又は2に記載の加圧治具。
[本発明5]
前記シート部材は、前記第1治具と前記積層物との間に配されたときに、前記螺旋状の切り込みが前記積層物に直接接触しない軸心方向の長さを有する、本発明1又は2に記載の加圧治具。
[本発明6]
本発明1又は2に記載された加圧治具を用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法であって、
マンドレルの上に、前記プリプレグシートを積層してパイプ状の前記積層物を形成する工程と、
前記積層物の外周面の側に、前記第2治具を介して、前記第1治具を被せる工程と、
前記第1治具の前記螺旋構造部の前記内径を縮めることにより、前記第2治具を介して前記積層物を前記マンドレルの側へ加圧する加圧工程とを含む、
繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
[本発明7]
本発明1又は2に記載された加圧治具を用いた繊維強化樹脂製パイプの製造方法であって、
前記第1治具の前記螺旋構造部の外周面の側に、前記第2治具を介して、前記プリプレグシートを積層してパイプ状の前記積層物を形成する工程と、
前記積層物を、前記加圧治具と一緒に金型のキャビティの中に位置決めする工程と、
前記キャビティの中で、前記第1治具の前記螺旋構造部の前記外径を広げることにより、前記第2治具を介して前記積層物を前記キャビティの側へ加圧する加圧工程とを含む、
繊維強化樹脂製パイプの製造方法。
[本発明8]
繊維強化樹脂製パイプの製造装置であって、
マンドレルと、
前記マンドレルの上に形成された前記プリプレグシートのパイプ状の前記積層物を、前記マンドレルの側に加圧するための本発明1又は2に記載された前記加圧治具とを含む、
繊維強化樹脂製パイプの製造装置。
[本発明9]
繊維強化樹脂製パイプの製造装置であって、
外周面の側に、前記プリプレグシートを積層してパイプ状の前記積層物を形成するための本発明1又は2に記載された前記加圧治具と、
前記積層物の外周面を成形するためのキャビティを備えた金型とを含む、
繊維強化樹脂製パイプの製造装置。