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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069056
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/00 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
B60C5/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179835
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】松波 翔
(72)【発明者】
【氏名】湯川 直樹
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BC23
3D131BC31
3D131BC44
3D131CB03
3D131CB11
(57)【要約】
【課題】 パンク修理材によるパンク修理の効率化とノイズ性能とを両立し得る空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 トレッド部2を有する空気入りタイヤ1である。空気入りタイヤ1は、トレッド部2の内面2bにスポンジ状の吸音体9が固着されている。吸音体9は、タイヤ半径方向の外側を向く外周面9aを有している。外周面9aには、複数の溝10と、複数の溝10により区分された複数の陸部11とが形成されている。複数の溝10のそれぞれは、溝10の長手方向に直交する向きの断面において、外周面9aでの開口幅w1が、溝10の溝底幅w2よりも大きい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有する空気入りタイヤであって、
前記トレッド部の内面にスポンジ状の吸音体が固着されており、
前記吸音体は、タイヤ半径方向の外側を向く外周面を有し、
前記外周面には、複数の溝と、前記複数の溝により区分された複数の陸部とが形成されており、
前記複数の溝のそれぞれは、前記溝の長手方向に直交する向きの断面において、前記外周面での開口幅が、前記溝の溝底幅よりも大きい、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記外周面と前記内面との固着面積は、前記吸音体を前記内面に投影した投影面積の10%~48%である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記複数の溝のそれぞれは、前記断面において、断面形状が台形状である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記複数の溝のそれぞれは、一対の溝壁を有し、
前記一対の溝壁のそれぞれは、前記外周面に対して傾斜する壁面を有し、
前記壁面と前記外周面との傾斜角度は、95~170°である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記壁面と前記外周面との間の角部には、それぞれ、面取部が形成されている、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記複数の溝は、前記断面において、それぞれの前記溝底幅が互いに同一であり、
前記複数の陸部は、前記断面において、それぞれの前記外周面での幅が互いに同一であり、
前記幅は、前記溝底幅に等しい、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記複数の溝のそれぞれは、前記溝底幅が3~30mmであり、前記溝の溝深さが1~10mmである、請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記複数の溝のそれぞれは、タイヤ周方向に対して5~90°の角度で延びている、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記複数の溝のそれぞれは、タイヤ周方向に対して5°未満の角度で延びている、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記吸音体は、タイヤ周方向に一対の端面を有し、
前記一対の端面の間には、隙間が形成されている、請求項9に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部を有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロードノイズを低減するために、トレッド部の内面に吸音具が設けられた空気入りタイヤが知られている。例えば、下記特許文献1は、吸音具のタイヤ半径方向の内向面に凸部と凹部とを形成することで、ロードノイズをより一層低減した空気入りタイヤを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-108034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の空気入りタイヤは、吸音具が固着された部分でのパンクをパンク修理材を用いて修理する場合、パンク修理材が吸音具を介して供給されるので、パンク修理に要する時間が長くなることがあった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、トレッド部の内面にスポンジ状の吸音体を設けることを基本として、パンク修理材によるパンク修理の効率化とノイズ性能とを両立し得る空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有する空気入りタイヤであって、前記トレッド部の内面にスポンジ状の吸音体が固着されており、前記吸音体は、タイヤ半径方向の外側を向く外周面を有し、前記外周面には、複数の溝と、前記複数の溝により区分された複数の陸部とが形成されており、前記複数の溝のそれぞれは、前記溝の長手方向に直交する向きの断面において、前記外周面での開口幅が、前記溝の溝底幅よりも大きい、空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、上述の構成を備えることにより、パンク修理材によるパンク修理の効率化とノイズ性能とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示す断面図である。
図2】吸音体の部分斜視図である。
図3】溝の長手方向に直交する拡大断面図である。
図4】面取部が形成された溝の長手方向に直交する拡大断面図である。
図5】本実施形態の吸音体を外周面側から見た展開図である。
図6】空気入りタイヤの部分断面図である。
図7】吸音体の素材を示す模式図である。
図8】吸音体製造時の説明図である。
図9】他の実施形態の吸音体を外周面側から見た展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき詳細に説明される。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ1を示す正規状態における回転軸を含むタイヤ子午線断面図である。ここで、「正規状態」とは、空気入りタイヤ1が正規リムにリム組みされ、かつ、正規内圧に調整された無負荷の状態である。以下、特に言及しない場合、空気入りタイヤ1の各部の寸法等は、この正規状態で測定された値である。
【0010】
「正規リム」は、空気入りタイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が有る場合、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。「正規リム」は、空気入りタイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が無い場合、リム組み可能であって、エア漏れを生じさせないリムのうち、最もリム径が小さく、その中で最もリム幅が小さいリムである。
【0011】
「正規内圧」は、空気入りタイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が有る場合、各規格がタイヤ毎に定める空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。「正規内圧」は、空気入りタイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が無い場合、メーカー等がタイヤ毎に定める空気圧である。
【0012】
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、環状に延びるトレッド部2と、トレッド部2のタイヤ軸方向の両側の一対のサイドウォール部3と、サイドウォール部3のそれぞれのタイヤ半径方向の内側のビード部4とを有している。
【0013】
本実施形態のトレッド部2は、外面2aが走行時に路面に接する接地面を構成している。サイドウォール部3は、トレッド部2のタイヤ軸方向の両側からタイヤ半径方向の内側に延びるのが望ましい。トレッド部2とサイドウォール部3との間には、例えば、バットレス部が設けられている。ビード部4は、例えば、リム組みされたときにリムに接する部分を含んでいる。本実施形態のビード部4は、環状に延びるビードコア5を有している。ビードコア5は、例えば、スチールワイヤから形成されている。
【0014】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2から一対のサイドウォール部3を経て一対のビード部4に至るカーカス6と、トレッド部2におけるカーカス6のタイヤ半径方向の外側に配されたベルト層7とを有している。空気入りタイヤ1は、例えば、ベルト層7のタイヤ半径方向の外側に、図示省略のバンド層が配されていてもよい。
【0015】
カーカス6は、一対のビード部4のビードコア5間を、トレッド部2及び一対のサイドウォール部3を介してトロイド状に延びるのが望ましい。カーカス6は、少なくとも1枚、例えば、1枚のカーカスプライ6Aを含んでいる。本実施形態のカーカスプライ6Aは、一対のビード部4の間を、トレッド部2及び一対のサイドウォール部3を介して延びている。
【0016】
カーカスプライ6Aは、例えば、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至る本体部6aと、本体部6aに連なり、かつ、ビードコア5の周りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返された折返し部6bとを含んでいる。このようなカーカス6は、ビード部4の剛性を向上させ、空気入りタイヤ1の耐久性能を向上させることに役立つ。
【0017】
ベルト層7は、少なくとも1枚、例えば、2枚のベルトプライ7A、7Bを含んでいる。2枚のベルトプライ7A、7Bは、例えば、タイヤ半径方向の内側に位置する第1ベルトプライ7Aと、第1ベルトプライ7Aの外側に位置する第2ベルトプライ7Bとを含んでいる。このようなベルト層7は、トレッド部2の剛性を高め、空気入りタイヤ1の耐久性能を向上させることができる。
【0018】
空気入りタイヤ1は、例えば、ビード部4に、タイヤ半径方向の外側に延びるビードエーペックス8が配されている。ビードエーペックス8は、例えば、カーカス6の本体部6aと折返し部6bとの間でビードコア5からタイヤ半径方向の外側に延びている。このようなビードエーペックス8は、ビード部4の剛性を向上させ、空気入りタイヤ1の耐久性能を向上させることに役立つ。
【0019】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2のタイヤ半径方向の内面2bにスポンジ状の吸音体9が設けられている。吸音体9は、タイヤ半径方向の外側を向く外周面9aと、タイヤ半径方向の内側を向く内周面9bとを有するのが望ましい。本実施形態の吸音体9は、外周面9aがトレッド部2の内面2bに固着されている。
【0020】
このような吸音体9は、空気入りタイヤ1のロードノイズを低減させることができ、空気入りタイヤ1のノイズ性能を向上させることができる。ここで、吸音体9の固着には、粘着剤、接着剤、両面テープ等で内面2bに接着するものの他、内面2bに塗布されたシーラント剤等を介して固定するものも含まれる。
【0021】
図2は、吸音体9の部分斜視図である。図1及び図2に示されるように、本実施形態の吸音体9の外周面9aには、複数の溝10と、複数の溝10により区分された複数の陸部11とが形成されている。本実施形態では、複数の陸部11が、それぞれ、溝10の長手方向に沿って連続してトレッド部2の内面2bに固着されている。
【0022】
このような吸音体9は、空気入りタイヤ1がパンクした場合にも、溝10を介してパンク修理材をパンク箇所に供給することができ、確実にパンク箇所を修理することができる。また、この吸音体9は、溝10によりトレッド部2との間に隙間が形成されることで、高速走行時にトレッド部2が発熱した場合にも、吸音体9による蓄熱を抑制することができる。
【0023】
図3は、溝10の長手方向に直交する拡大断面図である。図2及び図3に示されるように、本実施形態の複数の溝10のそれぞれは、溝10の長手方向に直交する断面において、外周面9aでの開口幅w1が、溝10の溝底幅w2よりも大きい。
【0024】
このような吸音体9は、トレッド部2の内面2bとの固着面積を低減することができ、空気入りタイヤ1の良好なノイズ性能を維持しつつ、パンク修理材をパンク箇所に供給することが容易である。このため、本実施形態の空気入りタイヤ1は、パンク修理材によるパンク修理の効率化とノイズ性能とを両立することができる。
【0025】
より好ましい態様として、外周面9aと内面2bとの固着面積は、吸音体9を内面2bに投影した投影面積の10%~48%である。固着面積が投影面積の10%以上であることで、吸音体9の剥離を抑制することができ、空気入りタイヤ1の耐久性能を向上させることに役立つ。固着面積が投影面積の48%以下であることで、吸音体9に接触しない内面2bの面積を大きくすることができ、パンク修理材によるパンク修理を効率化することができる。
【0026】
複数の溝10のそれぞれは、例えば、溝10の長手方向に直交する断面において、断面形状が台形状である。このような溝10は、外周面9aでの開口幅w1を大きくしつつ、吸音体9の体積の低減を抑制することができるので、パンク修理材によるパンク修理の効率化とノイズ性能とを両立することができる。
【0027】
本実施形態の複数の溝10は、溝10の長手方向に直交する断面において、それぞれの開口幅w1が互いに同一である。また、本実施形態の複数の溝10は、溝10の長手方向に直交する断面において、それぞれの溝底幅w2が互いに同一である。このような吸音体9は、長手方向に直交する方向における不均衡を抑制し、空気入りタイヤ1のノイズ性能をバランスよく向上させることができる。
【0028】
本実施形態の複数の陸部11は、溝10の長手方向に直交する断面において、それぞれの外周面9aでの幅w3が互いに同一である。陸部11の幅w3は、溝10の溝底幅w2に等しいのが望ましい。本実施形態の複数の陸部11は、溝10の長手方向に直交する断面において、それぞれの最も大きい最大幅w4が互いに同一である。陸部11の最大幅w4は、溝10の開口幅w1に等しいのが望ましい。
【0029】
すなわち、陸部11の断面形状は、溝10の断面形状に等しいのが望ましい。このような吸音体9は、1つの素材M(図7に示す)を外周面9aに沿ってカットして製造する場合に、カットした両方を吸音体9として使用することができ、製造ロスを低減することができる。
【0030】
複数の溝10のそれぞれは、好ましくは、開口幅w1が5~50mmである。開口幅w1が5mm以上であることで、内面2bとの間に確実に隙間が形成されるので、空気入りタイヤ1のパンク修理材によるパンク修理を効率化することができる。開口幅w1が50mm以下であることで、吸音体9の良好なノイズ抑制効果を維持することができ、空気入りタイヤ1のノイズ性能を向上することができる。
【0031】
複数の溝10のそれぞれは、好ましくは、溝底幅w2が3~30mmである。溝底幅w2が3mm以上であることで、溝10の断面積を大きくすることができ、パンク修理材によるパンク修理を効率化することができる。また、陸部11の幅w3が溝底幅w2に等しい場合には、吸音体9の強度を維持することにも役立ち、空気入りタイヤ1の耐久性能を向上させることができる。溝底幅w2が30mm以下であることで、吸音体9の良好なノイズ抑制効果を維持することができ、空気入りタイヤ1のノイズ性能を向上することができる。
【0032】
複数の溝10のそれぞれは、好ましくは、外周面9aからの溝深さdが1~10mmである。溝深さdが1mm以上であることで、内面2bとの間に確実に隙間が形成されるので、パンク修理材によるパンク修理を効率化することができる。このような観点から、吸音体9の固着手段が粘着剤又は両面テープである場合、溝深さdは、好ましくは、2mm以上であり、吸音体9がシーラント剤を介して固着される場合、溝深さdは、好ましくは、3mm以上である。溝深さdが10mm以下であることで、吸音体9の良好なノイズ抑制効果を維持することができ、空気入りタイヤ1のノイズ性能を向上することができる。
【0033】
図3に示されるように、複数の溝10のそれぞれは、一対の溝壁10aを有するのが望ましい。本実施形態の一対の溝壁10aのそれぞれは、外周面9aに対して傾斜する壁面10bを有している。壁面10bと外周面9aとの傾斜角度θ1は、好ましくは、95~170°である。このような溝10は、傾斜角度θ1が鈍角であるので、陸部11の強度の低下を抑制して吸音体9の剥離を抑制することができ、空気入りタイヤ1の耐久性能を向上させることができる。
【0034】
複数の溝10のそれぞれは、一対の壁面10bを連結する底面10cを有するのが望ましい。本実施形態の壁面10bと底面10cとの傾斜角度θ2は、壁面10bと外周面9aとの傾斜角度θ1に等しい。このような吸音体9は、外周面9aと底面10cとを平行に形成することができ、1つの素材M(図7に示す)を外周面9aに沿ってカットして製造する場合に、カットした両方を吸音体9として使用することに役立つ。
【0035】
図4は、面取部10dが形成された溝10の長手方向に直交する拡大断面図である。図4に示されるように、例えば、例えば、壁面10bと底面10cとの間の角部には、それぞれ、面取部10dが形成されていてもよい。面取部10dは、溝10の長手方向に直交する断面において、例えば、円弧状に形成されている。このような溝10は、陸部11の強度の低下を抑制して吸音体9の剥離を抑制することができ、空気入りタイヤ1の耐久性能を向上させることができる。
【0036】
この実施形態の壁面10bと外周面9aとの間の角部には、それぞれ、円弧状の面取部12が形成されている。底面10c側の面取部10dと外周面9a側の面取部12とは、同一の曲率半径rを有するのが望ましい。このような陸部11は、良好な強度が維持され、吸音体9の剥離を抑制することに役立つ。
【0037】
面取部12が形成された溝10の開口幅w1は、面取部12間の最小距離として規定されるのが望ましい。また、面取部10dが形成された溝10の溝底幅w2は、例えば、面取部10d間の直線部の長さとして規定されている。同様に、面取部12が形成された陸部11の幅w3は、面取部12間の直線部の長さとして規定され、面取部10dが形成された陸部11の最大幅w4は、面取部10d間の最大距離として規定されるのが望ましい。
【0038】
底面10c側の面取部10d及び外周面9a側の面取部12の曲率半径rは、それぞれ、好ましくは、0.5~2mmである。曲率半径rが0.5mm以上であることで、陸部11の強度が維持され、走行時のトレッド部2の変形による吸音体9の剥離を抑制することができる。曲率半径rが2mm以下であることで、吸音体9の固着面積が小さくなることを抑制し、吸音体9の剥離を抑制することができる。
【0039】
図5は、本実施形態の吸音体9を外周面9a側から見た展開図である。図5に示されるように、本実施形態の複数の溝10のそれぞれは、タイヤ周方向に対して5°未満の角度θ3で延びている。すなわち、複数の溝10のそれぞれは、タイヤ周方向に対して平行に延びているといえる。吸音体9は、例えば、タイヤ周方向に一対の端面9cを有している。複数の溝10のそれぞれは、一対の端面9cで開口するのが望ましい。このような吸音体9は、固着面積と強度とを両立し、吸音体9の剥離を抑制しつつパンク修理材の供給を効率化することができ、空気入りタイヤ1の耐久性能とパンク修理材によるパンク修理の効率化とを両立させることができる。
【0040】
図6は、空気入りタイヤ1のタイヤ赤道Cにおける部分断面図である。ここで、タイヤ赤道Cは、図1に示されるタイヤ軸方向の両側のトレッド接地端Teの中央位置である。また、トレッド接地端Teは、正規状態の空気入りタイヤ1に正規荷重が負荷されキャンバー角0°で平面に接地したときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置である。すなわち、トレッド接地端Teの間のトレッド接地幅TWが、正規状態の空気入りタイヤ1に正規荷重が負荷されときの接地面の最大幅である。
【0041】
ここで、「正規荷重」は、空気入りタイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が有る場合、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。「正規荷重」は、空気入りタイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が無い場合、メーカー等がタイヤ毎に定める荷重である。
【0042】
図6に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ1の内面2bに固着された吸音体9一対の端面9cの間には、隙間Lが形成されている。このような吸音体9は、溝10の端面9cからパンク修理材を供給可能であり、パンク修理材によるパンク修理をより効率化することができる。
【0043】
端面9c間の隙間Lは、好ましくは、3~60mmである。隙間Lが3mm以上であることで、溝10の端面9cからパンク修理材を確実に供給することができる。隙間Lが60mm以下であることで、タイヤ周方向における不均衡を抑制し、高速走行時の振動、ノイズ等の発生を抑制することに役立つ。
【0044】
一対の端面9cの少なくとも一方、本実施形態では両方は、タイヤ半径方向の高さが漸減するテーパー面9dを有している。本実施形態のテーパー面9dは、平面状に形成されている。テーパー面9dは、例えば、円弧状に形成されていてもよい。このような吸音体9は、走行時に応力が集中する端面9cからの剥離を抑制し、空気入りタイヤ1の高速耐久性を向上させることができる。
【0045】
本実施形態のテーパー面9dは、端面9cの一部に形成されている。端面9cのテーパー面9dが形成されていない部分の高さHは、好ましくは、3~10mmである。このような吸音体9は、端面9cの鋭角部分の破損を抑制することができ、トレッド部2の内面2bへの固着作業を効率化することができる。なお、テーパー面9dは、例えば、端面9cの全体に形成されていてもよい。
【0046】
テーパー面9dは、好ましくは、内周面9bに対して、30~80°の角度θ4で傾斜している。内周面9bに対する角度θ4が30°以上であることで、吸音体9による良好な吸音効果を維持することができる。内周面9bに対する角度θ4が80°以下であることで、端面9cからの剥離の抑制効果を確実に奏することができる。
【0047】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、1つの吸音体9の一対の端面9cがタイヤ周方向に隙間Lを有して固着されているが、このような態様に限定されるものではなく、空気入りタイヤ1は、複数の吸音体9がタイヤ周方向に隙間Lを有して固着されていてもよい。この場合、互いに隣接する吸音体9の端面9c間に隙間Lが形成されている。このような空気入りタイヤ1は、目的に応じて、吸音体9の量、形状等を選択することができる。
【0048】
図1に示されるように、吸音体9のタイヤ軸方向の幅W1は、ベルト層7のタイヤ軸方向の幅Waよりも小さいのが望ましい。このような吸音体9は、空気入りタイヤ1の重量が過度に大きくなることを抑制し、空気入りタイヤ1の操縦安定性能を向上させることに役立つ。
【0049】
図7は、吸音体9の素材Mを示す模式図であり、図8は、吸音体9製造時の説明図である。図7及び図8に示されるように、本実施形態の吸音体9は、1つの素材Mを外周面9aに沿ってカットして製造されている。吸音体9は、例えば、溝10及び陸部11に沿ってカットされた後、溝10の長手方向にスライドさせて2つの吸音体9に分離される。
【0050】
本実施形態の吸音体9は、溝10の長手方向に直交する断面において、幅方向に非対称である。このため、本実施形態の吸音体9は、分離された2つの吸音体9を同一形状の吸音体9として使用することができ、製造ロスをより低減することができる。
【0051】
吸音体9の素材Mは、スポンジ材が好適に用いられる。スポンジ材としては、例えば、エーテル系ポリウレタン、エステル系ポリウレタン、ポリエチレン等が挙げられる。このような吸音体9は、重量増加を抑制しつつロードノイズを低減させることができる。なお、スポンジ材は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、ゴム系のスポンジ材であってもよい。
【0052】
図9は、他の実施形態の吸音体19を外周面19a側から見た展開図である。図9に示されるように、この実施形態の吸音体19の外周面19aには、上述の吸音体9と同様、複数の溝10と、複数の溝10により区分された複数の陸部11とが形成されている。この実施形態でも、複数の陸部11が、それぞれ、溝10の長手方向に沿って連続してトレッド部2の内面2b(図1に示す)に固着されている。
【0053】
この実施形態の複数の溝10のそれぞれは、タイヤ周方向に対して5~90°の角度θ5で延びている。溝10の角度θ5は、例えば、15~45°程度のときに高速耐久性に有効であり、90°に近いときにパンク修理材の供給に有効である。これらのことから、溝10の角度θ5は、好ましくは、45~60°である。このような吸音体19は、高速耐久性とパンク修理の効率化とを両立させることに役立つ。
【0054】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施され得る。
【実施例0055】
図1の基本構造を有する空気入りタイヤが、表1及び表2の仕様に基づき試作された。試作されたタイヤを用いて、ノイズ性能、パンク修理時間及び耐久性能が評価された。主な共通仕様と評価方法は、以下のとおりである。
【0056】
<共通仕様>
タイヤサイズ : 215/55R17
吸音体の幅W1 : 120mm
吸音体の素材M : エーテル系ポリウレタン
【0057】
<ノイズ性能>
無響室に設置されたドラム試験機に、空気圧が250kPaに調整された試作タイヤが装着され、6.6kNの荷重が負荷された状態で時速120kmで走行したときの音圧が計測され、空洞共鳴音ピーク値が小さいほど数値が大きくなる指数で評価された。結果は、比較例1を100とする指数で表され、数値が大きいほど空洞共鳴音ピーク値が小さく、ノイズ性能に優れていることを示す。
【0058】
<パンク修理時間>
試作タイヤのトレッド部の中央域に直径5mmの釘を貫通させることでパンクさせ、市販のパンク修理キットを用いてパンク修理材によるパンク修理が行われた。このときのパンク箇所からパンク修理材の流出が収まるまでの時間が計測され、時間が短いほど数値が大きくなる指数で評価された。結果は、比較例1を100とする指数で表され、数値が大きいほどパンク修理材の流出が収まるまでの時間が短く、効率的にパンク修理されることを示す。
【0059】
<耐久性能>
ドラム試験機に、空気圧が250kPaに調整された試作タイヤが装着され、6.6kNの荷重が負荷された状態で時速120kmで30000km走行した後のタイヤ内部構造の状態が評価された。結果は、比較例1を100とする指数で表され、数値が大きいほどタイヤ内部構造の状態が良好であり、耐久性能に優れていることを示す。
【0060】
評価の結果が表1及び表2に示される。
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
評価の結果、実施例の空気入りタイヤは、比較例に対して、同等のノイズ性能を維持しつつ、パンク修理時間が短くなっており、パンク修理材によるパンク修理の効率化とノイズ性能とを両立していることが確認された。また、実施例に空気入りタイヤは、比較例に対して、耐久性能にも優れていることが確認された。
【0063】
[付記]
本発明は、次のとおりである。
【0064】
[本発明1]
トレッド部を有する空気入りタイヤであって、
前記トレッド部の内面にスポンジ状の吸音体が固着されており、
前記吸音体は、タイヤ半径方向の外側を向く外周面を有し、
前記外周面には、複数の溝と、前記複数の溝により区分された複数の陸部とが形成されており、
前記複数の溝のそれぞれは、前記溝の長手方向に直交する向きの断面において、前記外周面での開口幅が、前記溝の溝底幅よりも大きい、
空気入りタイヤ。
【0065】
[本発明2]
前記外周面と前記内面との固着面積は、前記吸音体を前記内面に投影した投影面積の10%~48%である、本発明1に記載の空気入りタイヤ。
【0066】
[本発明3]
前記複数の溝のそれぞれは、前記断面において、断面形状が台形状である、本発明1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【0067】
[本発明4]
前記複数の溝のそれぞれは、一対の溝壁を有し、
前記一対の溝壁のそれぞれは、前記外周面に対して傾斜する壁面を有し、
前記壁面と前記外周面との傾斜角度は、95~170°である、本発明1ないし3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【0068】
[本発明5]
前記壁面と前記外周面との間の角部には、それぞれ、面取部が形成されている、本発明4に記載の空気入りタイヤ。
【0069】
[本発明6]
前記複数の溝は、前記断面において、それぞれの前記溝底幅が互いに同一であり、
前記複数の陸部は、前記断面において、それぞれの前記外周面での幅が互いに同一であり、
前記幅は、前記溝底幅に等しい、本発明1ないし5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【0070】
[本発明7]
前記複数の溝のそれぞれは、前記溝底幅が3~30mmであり、前記溝の溝深さが1~10mmである、本発明1ないし6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【0071】
[本発明8]
前記複数の溝のそれぞれは、タイヤ周方向に対して5~90°の角度で延びている、本発明1ないし7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【0072】
[本発明9]
前記複数の溝のそれぞれは、タイヤ周方向に対して5°未満の角度で延びている、本発明1ないし7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【0073】
[本発明10]
前記吸音体は、タイヤ周方向に一対の端面を有し、
前記一対の端面の間には、隙間が形成されている、本発明1ないし9のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【符号の説明】
【0074】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
2b 内面
9 吸音体
9a 外周面
10 溝
11 陸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9