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特開2024-69063磁極位置推定装置および磁極位置推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069063
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】磁極位置推定装置および磁極位置推定方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/16 20160101AFI20240514BHJP
   H02P 21/18 20160101ALI20240514BHJP
【FI】
H02P6/16
H02P21/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179844
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇治
(72)【発明者】
【氏名】北原 通生
(72)【発明者】
【氏名】平野 曜生
(72)【発明者】
【氏名】碓井 淳之
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505DD03
5H505DD06
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505GG06
5H505JJ04
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505LL07
5H505LL22
5H505LL41
5H505MM19
5H560BB04
5H560DA07
5H560DB20
5H560DC12
5H560HA01
5H560RR03
5H560TT08
5H560XA02
5H560XA06
5H560XA12
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】同期電動機を静止摩擦やクーロン摩擦が存在する機械系に用いた場合でも、機械系に与える衝撃や振動を減らし、少ないステップ数で高い精度のロータ磁極位置の推定が可能な磁極位置推定装置を提供する。
【解決手段】磁極位置推定装置であって、同期電動機に流れる電流を検出する電流検出器9と、電流検出器9で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換器10と、電流指令とフィードバック側座標変換器10で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御部と、電圧指令、または、電流指令を座標変換する指令側座標変換器6と、ロータの位置を検出する位置検出部11と、ロータの位置と位置指令とロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する磁極位置算出部12と、ロータの加速度を算出する加速度算出器15と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定装置であって、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換器と、
電流指令と前記フィードバック側座標変換器で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御部と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換器と、
前記ロータの位置を検出する位置検出部と、
前記ロータの位置と位置指令と前記ロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する磁極位置算出部と、
前記ロータの加速度を算出する加速度算出器と、
を備え、
前記磁極位置算出部で算出された前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量に基づいて、前記フィードバック側座標変換器と前記指令側座標変換器が座標変換することにより、前記磁極位置推定装置は前記ロータの磁極位置を推定し、
前記電流指令はディザ信号を含み、
前記加速度算出器で算出された前記ロータの加速度、または、前記ロータの速度に基づいて、前記ディザ信号の大きさを制御することを特徴とする、磁極位置推定装置。
【請求項2】
前記電流指令をソフトスタートで制御して、電流指令値を次第に増加させる、請求項1に記載の磁極位置推定装置。
【請求項3】
前記ロータの加速度、または、前記ロータの速度が基準値よりも小さい場合、ディザ信号の大きさを次第に増加させるように前記ディザ信号を制御し、
前記ロータの加速度、または、前記ロータの速度が基準値以上の場合、前記ディザ信号の大きさを一定値となるように前記ディザ信号の大きさを制御する、請求項1に記載の磁極位置推定装置。
【請求項4】
前記磁極位置算出部は、
前記ロータの位置と前記位置指令との偏差から前記制御磁極位置を算出する位置制御器、または、前記ロータの速度と前記速度指令との偏差から前記磁極ずれ量を算出する速度制御器、を備える、請求項1に記載の磁極位置推定装置。
【請求項5】
前記磁極位置算出部は、
前記磁極ずれ量に前記ロータの位置を加算することで、前記制御磁極位置を算出する、請求項1または4に記載の磁極位置推定装置。
【請求項6】
同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定方法であって、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出工程と、
前記電流検出工程で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換工程と、
電流指令と前記フィードバック側座標変換工程で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御工程と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換工程と、
前記ロータの位置を検出する位置検出工程と、
前記ロータの位置と位置指令と前記ロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する算出工程と、
前記ロータの加速度を算出する加速度算出工程と、
を備え、
前記算出工程で算出された前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量に基づいて、前記フィードバック側座標変換工程と前記指令側座標変換工程において座標変換することにより、前記ロータの磁極位置を推定し、
前記電流指令はディザ信号を含み、
前記加速度算出工程で算出された前記ロータの加速度、または、前記ロータの速度に基づいて、前記ディザ信号の大きさを制御することを特徴とする、磁極位置推定方法。
【請求項7】
同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定方法であって、
q軸電流指令に基づいて電流制御を行い、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を第一収束値に収束させる第一工程と、
d軸電流指令に基づいて電流制御を行い、前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量を第二収束値に収束させる第二工程と、
前記q軸電流指令または前記d軸電流指令にディザ信号を加算した電流指令に基づいて電流制御を行い、前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量を第三収束値に収束させる第三工程と、
を備え、
前記第一工程、前記第二工程、及び前記第三工程は、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出工程と、
前記電流検出工程で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換工程と、
前記電流指令と前記フィードバック側座標変換工程で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御工程と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換工程と、
前記ロータの位置を検出する位置検出工程と、
前記ロータの位置と位置指令と前記ロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量を算出する算出工程と、
を有し、
前記第三工程は、
前記ロータの加速度を算出する加速度算出工程をさらに有し、
前記第三工程において、前記加速度算出工程で算出された前記ロータの加速度、または、前記ロータの速度に基づいて、前記ディザ信号の大きさを制御することを特徴とする、磁極位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁極位置推定装置および磁極位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータの磁極位置に応じた電流をステータの巻線に流してトルクを発生させる同期電動機において、ロータの位置検出器としてインクリメンタルエンコーダを用いて、駆動開始時にロータの磁極位置の初期値を推定する技術が知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、駆動開始時にロータの磁極位置の初期値を推定する技術が開示されている。具体的には、一定のdq軸電流を流した時にロータの磁極位置と制御磁極位置とのずれである磁極位置誤差が存在すると、磁極位置誤差に応じてトルクが発生し、ロータの位置が移動する。移動したロータの位置を検出し、移動前のロータの位置に対する偏差をPI演算して座標変換位置を補正することで、磁極ずれ量を0に収束させ、ロータの磁極位置の初期値を推定する。
また、特許文献1には、同期電動機を用いた機械系の静止摩擦の影響を受けずにロータの磁極位置の初期値を推定する技術が開示されている。具体的には、非特許文献1に開示されている技術に加えて、ロータの位置を正方向に移動させた場合の磁極ずれ量の収束値と負方向に移動させた場合の磁極ずれ量の収束値の平均値を算出し、ロータの磁極位置の初期値を推定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】電気学会論文誌D、Vol.122、No.9、2002 「インクリメンタルエンコーダ付きブラシレスDCサーボモータの磁極位置検出法と制御」
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-183022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、モータ制御装置のインバータ容量等からステータの巻線に流す電流量には制約がある。そのため、非特許文献1の手法では同期電動機を用いた機械系の静止摩擦やクーロン摩擦が大きい場合、磁極位置誤差を小さくできず、高精度なロータの磁極位置の推定が困難であった。また、特許文献1に開示されているロータの磁極位置の初期値の推定方法は、4つの工程から構成されており、推定時間が長いという課題があった。さらに、機械系は、モータ、動力伝達機構、テーブル等で構成され、例えば、テーブル上には被加工物や被搬送物等が置かれていて、衝撃を防ぐ必要がある場合が多い。非特許文献1の手法、および、特許文献1に開示されている推定方法は、q軸電流やd軸電流をステップ的に印加するため、印加時に過大なトルクが発生してしまい、機械系に衝撃を与えてしまうという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、同期電動機を静止摩擦やクーロン摩擦が存在する機械系に用いた場合でも、機械系に与える衝撃や振動を減らし、少ない工程数で高精度なロータの磁極位置の推定が可能な磁極位置推定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定装置は、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換器と、
電流指令と前記フィードバック側座標変換器で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御部と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換器と、
前記ロータの位置を検出する位置検出部と、
前記ロータの位置と位置指令と前記ロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する磁極位置算出部と、
前記ロータの加速度を算出する加速度算出器と、
を備え、
前記磁極位置算出部で算出された前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量に基づいて、前記フィードバック側座標変換器と前記指令側座標変換器が座標変換することにより、前記磁極位置推定装置は前記ロータの磁極位置を推定し、
前記電流指令はディザ信号を含み、
前記加速度算出器で算出された前記ロータの加速度、または、前記ロータの速度に基づいて、前記ディザ信号の大きさを制御する。
【0009】
本発明の一側面に係る同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定方法は、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出工程と、
前記電流検出工程で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換工程と、
電流指令と前記フィードバック側座標変換工程で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御工程と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換工程と、
前記ロータの位置を検出する位置検出工程と、
前記ロータの位置と位置指令と前記ロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を算出する算出工程と、
前記ロータの加速度を算出する加速度算出工程と、
を備え、
前記算出工程で算出された前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量に基づいて、前記フィードバック側座標変換工程と前記指令側座標変換工程において座標変換することにより、前記ロータの磁極位置を推定し、
前記電流指令はディザ信号を含み、
前記加速度算出工程で算出された前記ロータの加速度、または、前記ロータの速度に基づいて、前記ディザ信号の大きさを制御する。
【0010】
本発明の一側面に係る同期電動機のロータの磁極位置を推定する磁極位置推定方法は、
q軸電流指令に基づいて電流制御を行い、制御磁極位置、または、磁極ずれ量を第一収束値に収束させる第一工程と、
d軸電流指令に基づいて電流制御を行い、前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量を第二収束値に収束させる第二工程と、
前記q軸電流指令または前記d軸電流指令にディザ信号を加算した電流指令に基づいて電流制御を行い、前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量を第三収束値に収束させる第三工程と、
を備え、
前記第一工程、前記第二工程、及び前記第三工程は、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流検出工程と、
前記電流検出工程で検出された電流検出値を座標変換するフィードバック側座標変換工程と、
前記電流指令と前記フィードバック側座標変換工程で座標変換された電流フィードバックから、電圧指令を算出する電流制御工程と、
前記電圧指令、または、前記電流指令を座標変換する指令側座標変換工程と、
前記ロータの位置を検出する位置検出工程と、
前記ロータの位置と位置指令と前記ロータの速度と速度指令の少なくとも一方に基づいて、前記制御磁極位置、または、前記磁極ずれ量を算出する算出工程と、
を有し、
前記第三工程は、
前記ロータの加速度を算出する加速度算出工程をさらに有し、
前記第三工程において、前記加速度算出工程で算出された前記ロータの加速度、または、前記ロータの速度に基づいて、前記ディザ信号の大きさを制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、同期電動機を静止摩擦やクーロン摩擦が存在する機械系に用いた場合でも、機械系に与える衝撃や振動を減らし、少ない工程数で高精度なロータの磁極位置の推定が可能な磁極位置推定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る磁極位置推定装置のロータの磁極位置を推定するフローチャートである。
図3】本発明の実施形態に係る磁極位置推定装置のシミュレーション結果である。
図4】参考例に係る磁極位置推定装置のシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本発明の実施形態)
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、実施形態の説明において既に説明された部材と同一の参照番号を有する部材については、説明の便宜上、その説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る磁極位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、サーボモータMの制御装置(以下、磁極位置推定装置ともいう)は、dq軸電流指令設定器1と、q軸ソフトスタート制御器2と、d軸ソフトスタート制御器3(以下、q軸ソフトスタート制御器2とd軸ソフトスタート制御器3を、まとめてソフトスタート制御器ともいう)と、q軸電流制御器4と、d軸電流制御器5(以下、q軸電流制御器4とd軸電流制御器5を、まとめて電流制御部ともいう)と、指令側座標変換器6と、PWM制御器7と、電力変換機8と、電流検出器9と、フィードバック側座標変換器10と、位置検出部(エンコーダ)11と、磁極位置算出部12と、第1フィルタ13と、磁極ずれ量保存器14と、加速度算出器15と、第2フィルタ16と、大きさ制御器17と、ディザ信号生成器18から構成される。磁極位置算出部12は、速度算出器19と、位置制御器20と、速度制御器21とを含む。dq軸電流指令設定器1と大きさ制御器17は、磁極位置推定コントローラ30によって制御される。位置制御器20は、例えば比例制御器で構成され、速度制御器21は例えば比例積分制御器で構成される。
【0015】
dq軸電流指令設定器1は、q軸電流指令設定値を出力する。q軸ソフトスタート制御器2は、dq軸電流指令設定器1から入力されるq軸電流指令設定値をソフトスタート制御する。ここで、ソフトスタート制御とは、電流指令設定値を、初期値から所定値まで一定の時間割合で徐々に増加させることをいう。ディザ信号生成器18は、ディザ信号を生成し出力する。ここで、ディザ信号とは、三角波や正弦波等の正方向と負方向に交互に振動する波形であり、正方向の振幅と負方向の振幅が同じ値であり、静止摩擦やクーロン摩擦より大きなトルクを発生させる値である。ソフトスタート制御されたq軸電流指令設定値に、ディザ信号が加算されることで、q軸電流指令IqCが算出される。算出されたq軸電流指令IqCとフィードバック側座標変換器10からのq軸電流フィードバックIqFとの偏差がq軸電流制御器4に入力される。q軸電流制御器4は、入力された偏差からq軸電圧指令VqCを算出する。
【0016】
また、dq軸電流指令設定器1は、d軸電流指令設定値を出力する。d軸ソフトスタート制御器3は、dq軸電流指令設定器1から入力されるd軸電流指令設定値をソフトスタート制御して、d軸電流指令IdCを出力する。出力されたd軸電流指令IdCとフィードバック側座標変換器10からのd軸電流フィードバックIdFとの偏差がd軸電流制御器5に入力される。d軸電流制御器5は、入力された偏差からd軸電圧指令VdCを算出する。
【0017】
算出されたq軸電圧指令VqCとd軸電圧指令VdCは、指令側座標変換器6に入力される。指令側座標変換器6は、制御磁極位置θcに基づいて、q軸電圧指令VqCとd軸電圧指令VdCを、dq回転座標系から三相静止座標系へ座標変換し、三相電圧指令VUC、VVC、VWCを算出する。なお、制御磁極位置θcは、磁極位置算出部12から出力される磁極ずれ量推定値θeにロータの位置θFBが加算されて算出される。算出された三相電圧指令VUC、VVC、VWCはPWM制御器7に入力され、PWM制御器7は入力された三相電圧指令VUC、VVC、VWCからPWM制御信号を生成し、出力する。出力されたPWM制御信号は電力変換機8に入力され、電力変換機8はPWM制御信号に基づいてサーボモータMを駆動する。
【0018】
なお、本実施形態ではq軸電圧指令VqCとd軸電圧指令VdCが、指令側座標変換器6に入力されて、dq回転座標系から三相静止座標系へ座標変換される構成となっているが、q軸電流指令IqCとd軸電流指令IdCが、指令側座標変換器6に入力されて、dq回転座標系から三相静止座標系へ座標変換される構成であってもよい。
【0019】
電流検出器9はサーボモータMのU相のモータ電流IUと、V相のモータ電流IVを検出する。モータ電流IU、IVの電流検出値はフィードバック側座標変換器10に入力される。フィードバック側座標変換器10は、制御磁極位置θcに基づいて、モータ電流IU、IVの電流検出値を、三相静止座標系からdq回転座標系へ座標変換し、q軸電流フィードバックIqFとd軸電流フィードバックIdFを算出する。
【0020】
位置検出部(エンコーダ)11は、サーボモータMに搭載されていて、サーボモータMのロータの位置θFBを検出する。検出されたロータの位置θFBは、速度算出器19及び加速度算出器15に入力される。速度算出器19は、検出されたロータの位置θFBを微分処理してロータ速度VFBを算出し、出力する。加速度算出器15は、検出されたロータの位置θFBを2回微分処理してロータ加速度AFBを算出し、出力する。
【0021】
また、位置指令θcmdと検出されたロータの位置θFBの偏差が位置制御器20に入力され、位置制御器20は速度指令Vcmdを出力する。出力された速度指令Vcmdとロータ速度VFBとの偏差が速度制御器21に入力され、速度制御器21は磁極ずれ量推定値θeを算出する。算出された磁極ずれ量推定値θeに、ロータの位置θFBが加算されることで、制御磁極位置θcが算出される。算出された制御磁極位置θcは、指令側座標変換器6とフィードバック側座標変換器10に入力される。また、算出された磁極ずれ量推定値θeは、第1フィルタ13に入力される。第1フィルタ13は、ローパスフィルタ等で構成され、ディザ信号による磁極ずれ量推定値θeの変動を抑制する。第1フィルタ13を通過した磁極ずれ量推定値θeは、磁極ずれ量保存器14に保存される。
【0022】
加速度算出器15から出力されたロータ加速度AFBは、第2フィルタ16に入力される。第2フィルタ16は、ローパスフィルタ等で構成され、ロータ加速度AFBのディザ周波数成分を平均化して、ディザ信号による変動を抑制する。第2フィルタ16を通過したロータ加速度AFBは、大きさ制御器17に入力される。大きさ制御器17は入力されたロータ加速度AFBに基づいて、ディザ信号の大きさを制御するための大きさ信号Sを生成し、出力する。出力された大きさ信号Sがディザ信号生成器18に入力され、ディザ信号生成器18は大きさ信号Sに基づいた大きさ(振幅)のディザ信号を生成する。
【0023】
上記構成において、位置指令θcmdを0に設定し、速度制御器21を比例積分制御器で構成することで、速度指令Vcmdとロータ速度VFBとの定常偏差が0となるように制御される。その結果、検出されたロータの位置θFBは最終的に0に収束される。
【0024】
なお、本実施形態では位置指令θcmdが入力される構成となっているが、位置制御器20を設けずに、速度指令Vcmdが入力される構成であってもよい。
【0025】
図2は、本発明の実施形態に係る磁極位置推定装置のロータの磁極位置を推定するフローチャートである。
磁極位置推定装置が磁極位置推定フローを開始すると、第一工程として、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を一定値に設定し、d軸電流指令設定値を0に設定し、大きさ制御器17の大きさ信号Sを0に設定し、同期電動機を駆動する(S101)。
【0026】
これにより、q軸電流指令IqCは、q軸ソフトスタート制御器2によって、一定の時間割合で徐々に増加し、ロータの磁極位置θreと制御磁極位置θcとのずれである磁極位置誤差に応じて、緩やかにロータにトルクが発生し、トルクによりロータの位置θFBが移動する。そして、位置指令θcmdと検出されたロータの位置θFBの偏差が発生し、位置制御器20から速度指令Vcmdが出力される。さらに、速度指令Vcmdとロータ速度VFBとの偏差が発生し、速度制御器21によって磁極ずれ量推定値θeが算出される。算出された磁極ずれ量推定値θeには、ロータの位置θFBが加算されて、制御磁極位置θcが算出される。制御磁極位置θcは、指令側座標変換器6及びフィードバック側座標変換器10に入力されて、サーボモータMの電流制御が行われる。したがって、q軸電流のみ流していることから磁極位置誤差はπ/2(第一収束値)付近に収束し、収束後のロータに発生するトルクはほぼ0になる。位置偏差を抑制する方向に制御系が動作するため、検出されたロータの位置θFBは移動した位置から元の位置に戻る。なお、磁極位置誤差の初期値が-π/2であった場合、ロータに発生するトルクは0となり、検出されたロータの位置θFBは移動せず、磁極位置誤差は-π/2のままである。
【0027】
第一工程においてロータの位置θFBが元の位置に戻るまでの一定時間が経過した後、第二工程として、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を0に設定し、d軸電流指令設定値を一定値に設定し、大きさ制御器17の大きさ信号Sを0に設定し、同期電動機を駆動する(S102)。
【0028】
これにより、d軸電流指令IdCは、d軸ソフトスタート制御器3によって、一定の時間割合で徐々に増加し、磁極位置誤差に応じて、緩やかにロータにトルクが発生し、トルクによりロータの位置θFBが移動する。そして、第一工程と同様に、速度制御器21によって磁極ずれ量推定値θeが算出される。算出された磁極ずれ量推定値θeには、ロータの位置θFBが加算されて、制御磁極位置θcが算出される。算出された制御磁極位置θcは指令側座標変換器6及びフィードバック側座標変換器10に入力されて、サーボモータMの電流制御が行われる。したがって、ロータに発生するトルクが小さくなるように制御され、磁極位置誤差は0(第二収束値)に収束し、収束後にロータに発生するトルクはほぼ0となる。
【0029】
第二工程においてロータの位置θFBが元の位置に戻るまでの一定時間が経過した後、第三工程として、大きさ信号Sの初期値を微小な値に設定し、ディザ信号生成器18で正方向と負方向に交互に振動するM系列信号や三角波等のディザ信号を発生させて、大きさ制御器17によりディザ信号の大きさを自動調整させる(S102)。具体的には、加速度算出器15により算出されたロータ加速度AFBが、ディザ周波数成分を平均化して検出する第2フィルタ16を通過して、大きさ制御器17に入力される。大きさ制御器17は、第2フィルタ16を通過後のロータ加速度AFBを基準値と比較し、ロータ加速度AFBが基準値より小さければ、大きさ信号Sを徐々に大きくする。ロータ加速度AFBが基準値より大きければ、大きさ信号Sをそのままの大きさにする。基準値は、モータが摩擦を超えて動ける範囲において、できるだけ微小な値として、ディザ信号によるロータの動作を極力小さくする。
【0030】
これにより、ロータ加速度AFBが基準値に達するまで、徐々にディザ信号が大きくなり、ディザ信号により出力されるモータトルクが摩擦を僅かに超えて、モータが動けるレベルまでディザ信号の大きさが自動調整される。このように、ディザ信号を徐々に大きくすることにより、ディザ信号による振動が機械系に加わるのを防止し、摩擦を僅かに超えるレベルまでしかモータを動かさないため、機械系に与える影響を最小限に留めて、ロータの磁極位置θreを推定できる。また、ディザ信号の大きさを自動調整することで、様々な摩擦トルクの大きさに対応できる。
【0031】
なお、ディザ信号の周波数は、例えば500Hz~1000Hzのような高い周波数に設定し、機械系の動力伝達機構の反共振周波数より高い周波数では動力伝達機構の負荷側までディザ信号による振動が伝わらないようにする。モータ側が動いているときは、摩擦の影響を受けずにロータの磁極位置θreを推定できるため、動力伝達機構の負荷側が動かなくても問題とならない。また、三角波等の一定周波数の信号を用いる場合は、機械系の反共振周波数や共振周波数と異なる周波数に設定することで、反共振周波数によりディザ信号の効果が得られない状況や、ディザ信号が共振周波数を励振する状況を回避することができる。
【0032】
第三工程において磁極ずれ量推定値θeが収束するまでの一定時間が経過した後、第1フィルタ13を通過した磁極ずれ量推定値θeFが、磁極ずれ量保存器14に保存されて、磁極位置推定フローは終了する。磁極位置推定フロー終了後、磁極ずれ量保存器14に保存されている磁極ずれ量推定値θeFを検出されたロータの位置θFBに加算して、制御磁極位置θcを算出することで、正確なロータの磁極位置での同期電動機の駆動が可能となる。
【0033】
以上のように、本発明の実施形態に係る磁極位置推定方法は、同期電動機を静止摩擦やクーロン摩擦が存在する機械系に用いた場合でも、機械系に与える衝撃や振動を減らし、少ない工程数で高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
【0034】
図3は、本発明の実施形態に係る磁極位置推定装置のシミュレーション結果である。図3の(A)~(G)の横軸は時間tを示し、単位は秒(s)である。0s≦t<0.1sでは、図2に示す第一工程(S101)を行い、0.1s≦t<0.2sでは、図2に示す第二工程(S102)を行い、0.2s≦tでは、図2に示す第三工程(S103)を行う。
【0035】
図3の(A)はq軸電流指令IqCとq軸電流フィードバックIqFの波形を示す。図3の(B)はd軸電流指令IdCとd軸電流フィードバックIdFの波形を示す。第一工程(0s≦t<0.1s)では、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を一定値に設定し、d軸電流指令設定値を0に設定し、大きさ制御器17の大きさ信号Sを0に設定する。そのため、q軸電流指令IqCはq軸ソフトスタート制御器2により、一定値である3Aまで一定の時間割合で徐々に増加する。d軸電流指令IdCは0Aとなる。第二工程(0.1s≦t<0.2s)では、dq軸電流指令設定器1のq軸電流指令設定値を0に設定し、d軸電流指令設定値を一定値に設定し、大きさ制御器17の大きさ信号Sを0に設定する。そのため、q軸電流指令IqCは0Aとなる。d軸電流指令IdCはd軸ソフトスタート制御器3により、一定値である3Aまで一定の時間割合で徐々に増加する。第三工程(0.2s≦t)では、大きさ信号Sの初期値を基準値に設定し、ディザ信号生成器18で正方向と負方向に交互に振動するM系列信号のディザ信号を生成させる。そのため、q軸電流指令IqCはディザ信号によって0Aを中心に振動する波形となり、d軸電流指令IdCは3Aのままである。なお、q軸電流フィードバックIqFとd軸電流フィードバックIdFは、それぞれ、q軸電流指令IqCとd軸電流指令IdCに追従する波形となる。
【0036】
図3の(C)はロータに発生するトルクの波形を、図3の(D)はロータ加速度AFBの波形を、図3の(E)は大きさ信号Sの波形を示す。第一工程の開始時(t=0s)において、q軸ソフトスタート制御器2によるソフトスタート制御を行うため、q軸電流指令IqCは徐々に増加し、図3の(C)に示すように、緩やかにトルクが発生する。また、緩やかに発生するトルクにより、ロータの位置θFBが移動し、図3の(D)に示すように、緩やかに小さなロータ加速度AFBが生じる。その後、磁極位置誤差はπ/2付近に収束し、収束後のロータに発生するトルクはほぼ0(摩擦相当の値)となる。
また、第二工程の開始時(t=0.1s)において、d軸ソフトスタート制御器3によるソフトスタート制御を行うため、d軸電流指令IdCは徐々に増加し、図3の(C)に示すように、緩やかなトルクが発生する。また、緩やかに発生するトルクにより、ロータの位置θFBが移動し、図3の(D)に示すように、緩やかに小さなロータ加速度AFBが生じる。その後、磁極位置誤差は0に収束し、収束後のロータに発生するトルクはほぼ0(摩擦相当の値)となる。
また、第三工程(0.2s≦t)において、図3の(E)に示すように、大きさ制御器17により大きさ信号Sを徐々に大きくし、モータトルクが摩擦を僅かに超えてサーボモータMが動けるレベルまでディザ信号の大きさを自動調整する。これにより、図3の(C)、(D)に示すように、ロータに発生するトルクの大きさやロータ加速度AFBは小さな値に抑制される。
【0037】
図3の(F)はロータの位置θFBの波形を示す。図3の(G)は磁極位置誤差の波形を示す。第三工程開始から、制御磁極位置θcが収束するまでの一定時間が経過した後(0.4s≦t)、磁極位置誤差はディザ信号によって0に収束する。これにより、高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
【0038】
これにより、ロータ加速度AFBが基準値に達するまで、徐々にディザ信号が大きくなり、ディザ信号により出力されるモータトルクが摩擦を僅かに超えて、モータが動けるレベルまでディザ信号の大きさが自動で調整される。ディザ信号を徐々に大きくすることにより、機械系に加わる急激な加速度を防止し、摩擦を僅かに超えるレベルまでしかモータを動かさないため、機械系に与える影響を最小限に留めたロータの磁極位置θreの推定ができる。また、様々な摩擦トルクの大きさに対して、ディザ信号の大きさを自動調整できる。
【0039】
(参考例)
図4は、参考例に係る磁極位置推定装置のクーロン摩擦が存在する場合のシミュレーション結果である。参考例に係る磁極位置推定装置では、本発明の実施形態に係る磁極位置推定装置と異なり、ソフトスタート制御器によるソフトスタート制御を行わず、大きさ制御器17によるディザ信号の大きさの自動調整を行わずに、クーロン摩擦のある機械系に対して、磁極位置推定動作を行う。図4の(A)~(G)は、図3の(A)~(G)と同じ波形を表す。また、図4の(A)~(G)の横軸は時間tを示し、単位は秒(s)である。0≦t<0.1では、図2に示す第一工程(S101)を行い、0.1≦t<0.2では、図2に示す第二工程(S102)を行い、0.2≦tでは、図2に示す第三工程(S103)を行う。
【0040】
第一工程の開始時(t=0s)において、q軸ソフトスタート制御器2によるソフトスタート制御を行わないため、q軸電流指令IqCはステップ的に印加され、図4の(C)に示すように、大きなトルクが発生する。また、第二工程の開始時(t=0.1s)においても、d軸ソフトスタート制御器3によるソフトスタート制御を行わないため、d軸電流指令IdCはステップ的に印加され、図4の(C)に示すように、大きなトルクが発生する。さらに、第三工程(0.2s≦t)において、大きさ信号Sの初期値を基準値に設定する。ディザ信号はいろいろな大きさのクーロン摩擦トルクを考慮して大きい値(振幅)に設定する必要があり、大きさ信号Sの基準値も大きい値に設定する必要がある。そのため、図4の(C)、(D)に示すように、ディザ信号を生成時のトルクやロータ加速度AFBは、図3の(C)、(D)に示す本発明の実施形態におけるトルクやロータ加速度AFBよりも大きな値となる。したがって、大きなトルクがロータに発生し、機械系に与える衝撃や振動が大きくなってしまう。
【0041】
以上のように、本発明の実施形態に係る磁極位置推定装置は、電流指令がディザ信号を含む、または、制御磁極位置にディザ信号が加算されることで、同期電動機を静止摩擦やクーロン摩擦が存在する機械系に用いた場合でも、少ない工程数で高精度なロータの磁極位置の推定が可能となる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではないのは言うまでもない。本実施形態は単なる一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【0043】
本発明の実施形態において、ディザ信号の大きさの自動調整は算出した加速度を基に行ったが、算出した速度を基に行ってもよい。ただし、その場合、機械系の動作量は大きくなる。
【符号の説明】
【0044】
1:dq軸電流指令設定器
2:q軸ソフトスタート制御器
3:d軸ソフトスタート制御器
4:q軸電流制御器
5:d軸電流制御器
6:指令側座標変換器
7:PWM制御器
8:電力変換機
9:電流検出器
10:フィードバック側座標変換器
11:位置検出部(エンコーダ)
12:磁極位置算出部
13:第1フィルタ
14:磁極ずれ量保存器
15:加速度算出器
16:第2フィルタ
17:大きさ制御器
18:ディザ信号生成器
M:サーボモータ
S:大きさ信号
図1
図2
図3
図4