(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069117
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】自在キャスターを備えた機器のロック機構
(51)【国際特許分類】
B60B 33/00 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
B60B33/00 501C
B60B33/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022189664
(22)【出願日】2022-11-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】591101490
【氏名又は名称】エイブル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川 延男
(57)【要約】
【課題】自在キャスターを備えたショッピングカート(以降、カート)は路面の傾斜にも拘らず自走しない事、移動式会議机などでは配置後に外力が加わっても移動しないようにする。
【解決手段】2つの車輪その車輪に挟まれ一体化された回転規制部材からなる車輪体を含む自在キャスター、走行とロックを選択する選択手段、下記ロックピンに選択結果を伝え柔軟性を有する伝達手段、自在キャスター旋回中心に配置され伝達手段に連結され上下移動するロックピンからなる。回転規制部材は特定の回転角度の範囲ではロックピンと干渉せず、他の角度範囲では干渉する外形形状を有する。ロック選択時、回転規制部材が特定の回転角度の範囲にある場合はロックピンが下がりロックし、他の角度範囲ではロックピンは回転規制部材と干渉するが、伝達手段の柔軟性により回転規制部材を拘束的には押さず、その後のカートのわずかな移動で車輪体が回転しロックピンが下がる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも本体部、前記本体部に旋回可能に取り付けられた一つの自在キャスターを備え、
前記自在キャスターは少なくとも、路面と接する車輪体と前記車輪体の車軸及び進行方向の変更を可能にするための旋回軸が設けられたフォークからなり、前記車軸と前記旋回軸が偏心していて、
さらに、
ユーザーが機器の走行とロックを選択する選択手段、
前記選択手段による選択結果を下記ロックピンに伝える伝達手段、
及び、前記旋回軸の中心に配置され前記伝達手段の作動により上下移動可能であるロックピン、
が設けられ、
前記車輪体は少なくとも、路面に接する二つの車輪、前記二つの車輪に挟まれて一体化されている回転規制部材からなり、
前記回転規制部材の外形は、前記回転規制部材が特定の回転角度の範囲にあるときは下方向に移動しようとする前記ロックピンと干渉せず、特定の角度の範囲外にあるときは干渉する形状を有している事を特徴とする、自在キャスターを備えた機器のロック機構。
【請求項2】
前記選択手段で走行が選択されると、前記選択手段と前記伝達手段は前記ロックピンを前記回転規制部材と交差しない位置まで引き上げ、ロックが選択されると、前記ロックピンが前記回転規制部材と干渉する位置まで下がることを可能にすることを特徴とする請求項1記載の自在キャスターを備えた機器のロック機構。
【請求項3】
前記伝達手段は、ロックが選択されているときに前記ロックピンを上から拘束して押す力を発生しないことを特徴とする請求項1又は2記載の自在キャスターを備えた機器のロック機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自在キャスターを備えた機器を停止後その場に留めておく、すなわちロックする機構に関する。
【背景技術】
【0002】
自在キャスターを備えた機器は停止後その場に留まっている事が望ましい。例えば、買い物客がスーパーマーケットで自在キャスターを備えたカートを使用する際、ショッピング中並びに駐車場の車まではカートを走行させ、車に到着すると停止させる。
ところで駐車場には水はけのため、水勾配と呼ばれる傾斜が設けられている。この傾斜によって、カートは停止後に手を離すとその場に留まらず勝手に動き出す場合がある。自在キャスターを備えた様々な機器、例えばベビーカー、シニアカー、台車、旅行カバンなども傾斜のある場所で同様の問題を持っている。
また、自在キャスターを備えた会議机、キャビネット、病院のベッドなど水平な床面で用いられる機器では配置する場所まで走行させた後は外力が働いてもその場所に留まっていることが望ましい。
【0003】
固定キャスターを備えた機器の場合は、機器に対して車輪の位置及び方向が一定なので、例えばレバー操作の動きをリンクで伝え車輪外周を押さえて機器をロックする機構を設けることができる。しかし、自在キャスターの場合は旋回可能な性格上、機器に対する車輪の位置及び方向が不定なので上記の機構は適用できない。
【0004】
このため自在キャスター自体にレバーを取り付け、そのレバーの操作によって車輪の回転を止め機器をロックする機構を備えたものもあるが、レバーを操作しようとすると、旋回可能な性格上、自在キャスターの位置及び方向が不定でレバーを探すことになる。更にレバーが機器本体の下に入り込んで操作しにくい場合もある。また、レバーがロック側にセットされているのか否かが見た目で分かり難い。このような課題から使いにくいのが現状である。
【0005】
これらの課題に対して、特許文献1では外周に停止溝を設けた停止体を車輪と一体化し、昇降具に設けた爪体を停止溝に噛み合わせて車輪の回転を止める技術が開示されている。
特許文献2ではブレーキ操作部材を上下させてばね力でブレーキシューを車輪の外周に押し当てて車輪の回転を止める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-187423
【特許文献2】実開平7-8149
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以下、従来の機構の動作を説明する。
特許文献1に記載された技術では、爪体、ガイド溝、軸穴から成る昇降具を必要とする。またその昇降具を上下軸に回動可能に固定するための構造が必要となる。更に停止体に設けた停止溝は爪体に合わせた窪んだ形状で多数設けてあり加工コストが高い。なお類似な技術は他にも特開2010-201972、特開2016-2946など多数の文献にみられ、いずれも構造が複雑である。
【0008】
特許文献2に記載された技術は特許文献1記載の技術に比べると構造が簡単であるが、それでもなおブレーキシューが必要となり、またそのブレーキシュー及びバネをフレーム(本発明ではフォークに相当)に取り付ける必要があり構造が複雑である。
【0009】
また、特許文献2に記載された技術は車輪の外周に対する摩擦で車輪の回転を止める為、車輪の外周やブレーキシューの汚れ、摩耗などによって効果が不安定である。
【0010】
本発明は従来の技術に比べ、極めて簡易な構造で自在キャスターを備えた機器をロックすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る構成では少なくとも、ユーザーが機器の走行とロックを選択する選択手段、選択結果をロックピンに伝える伝達手段、自在キャスター毎にその旋回中心と同軸に配置され前記伝達手段の作動によって上下移動可能なロックピン、路面に接する二つの車輪及び前記二つの車輪に挟まれて一体化された回転規制部材から構成された車輪体からなり、前記回転規制部材の外形は、回転規制部材が特定の回転角度の範囲にあるときは下方向に移動しようとするロックピンと干渉せず、前記特定の角度の範囲外にあるときは干渉する形状を有している。
【0012】
また、ユーザーが走行を選択した際は、選択手段と伝達手段はロックピンを前記回転規制部材と交差しない高さまで引き上げ、ロックを選択した際は、ロックピンの回転規制部材と干渉する位置までの移動を可能にする。
【0013】
さらに、ロックを選択した際、伝達手段はロックピンの下への移動を可能にするが回転規制部材が特定の回転角度の範囲外でロックピンが回転規制部材と干渉しても拘束的には押さない。
【0014】
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、極めて簡単な構造で自在キャスターを備えた機器にロックをかける事が可能になる。
【0016】
また、走行とロックの選択によりロックピンが上下移動し、走行選択時に機器は走行が可能、ロック選択時にはロックが可能となる。
【0017】
さらに、ロックを選択した際に回転規制部材が特定の回転角度の範囲外にあるとロックピンが回転規制部材と干渉するが、ロックピンは回転規制部材を拘束的に押さないので車輪体が回転可能であり、わずかな機器の移動によって特定の回転角度の範囲まで車輪体が回転しロックがかかる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係る自在キャスターを備えた機器の例としての荷物運搬用台車(以降、台車1)全体を斜め後方下から見た斜視図。
【
図2】
図1A部を拡大した斜視図で、ロックピン9が吊り上げられた状態。
【
図4】
図2と同じくロックピン9が吊り上げられた状態の
図1A部断面図。
【
図5】ロックピン9が最下部まで下がった状態を示す断面図。
【
図6】ロックピン9に回転規制部材352の角が当たって台車1がロックされた状態を示す断面図。
【
図7】回転規制部材352の各辺が45度傾いている際に降下したロックピン9が回転規制部材352と干渉している状態を示す断面図。
【
図8】ロックピン9と回転規制部材352の辺がなす角度が小さい状態を示す断面図。
【
図9】操作部6、連結部7、支柱5を示す斜視図で、操作部6の二種類の状態を示す。
【
図11】本発明の第二の実施形態に係る伝達部を示す斜視図及び断面図。
【
図12】回転規制部材352の様々な外形形状の例を示す断面図。
【
図13】操作部を左右独立に操作可能にした操作レバー63を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【実施例0019】
以下、図を参照しながら本発明について説明する。
自在キャスターを備えた機器として台車を例に説明する。
図1は台車1全体を斜め後方下から見た斜視図である。台車1は本体部2、本体部2後端に取り付けられた2つの自在キャスター3、前端に取り付けられた2つの前輪自在キャスター4、左右の支柱5、概ねコの字型になっている操作部6、支柱5と操作部6を連結する左右の連結部7からなる。ユーザー(図示せず)は台車1の後、
図1では台車1の右側に位置して操作部6を操作する。
本実施例では後端に取り付けられた自在キャスター3に本発明を適用している。台車1の構造はユーザーから見て左右対称となっていて以降の説明は片側で行うが、反対側も同様の動作をする。
【0020】
次に、
図2、
図3、
図4を用いて本発明の説明をする。
自在キャスター3は、取り付け台31、ベアリング32、フォーク33、旋回軸34、車輪体35、車軸36からなる。車輪体35が路面8に接する。自在キャスター3全体は取り付け台31によって本体部2に固定される。固定の具体的方法はねじの他、様々あるが一般的な方法で充分なので省略する。支柱5など他の部品の固定も同様に省略する。車輪体35は車軸36によってフォーク33に回転可能に取り付けられている。車軸36は旋回軸34に対して偏心している。フォーク33はベアリング32を介して旋回軸34で取り付け台31に回転可能に取り付けられている。
【0021】
ここまでは自在キャスターの基本構造の説明である。他にも様々な構造の自在キャスターがあるが、要は路面に接する車輪体がフォークに回転可能に取り付けられ、そのフォークが取り付け台に旋回可能に取り付けられ、その取り付け台で本体部に固定されていて、車輪体の回転中心とフォークの旋回中心が偏心していればどのような構造、形式の自在キャスターであっても構わない。
【0022】
ここから本発明の特徴部分を説明する。
図3に示すように、本発明の車輪体35は2つの車輪351及びその車輪351に挟まれた回転規制部材352からなり、2つの車輪351と回転規制部材352は一体化されている。本実施例では回転規制部材352の外形形状は概ね正方形である。
【0023】
ロックピン9は概ね丸棒で、直径は回転規制部材352の厚みより小さい。旋回軸34の中心にはロックピン9より大きな穴が設けられている。ロックピン9は旋回軸34の中心すなわち、自在キャスター3の旋回中心に配置されている。さらに、ロックピン9はガイド部材10に設けられた2つのガイド穴101を貫通し、上下方向にのみ移動可能に規制され、下部は本体部2、旋回軸34に設けられた穴を貫通し、上部は吊り上げワイヤー11に連結されている。ロックピン9は平面的には2つの車輪351の中間に位置している。
【0024】
12は押し下げばねであって、下端はロックピン9に取り付けられたばね受け13に、上端はガイド部材10に当たっていてロックピン9を下方向に押している。但し、押し下げばね12はロックピン9の下方向への移動を補助するのが役目なので、ロックピン9が自重で確実に下がれば省略可能である。
【0025】
ばね受け13はEリング状の部品や柔らかいプラスチック板をワッシャ状に成型した部品をロックピン9に設けた溝に差し込めば実現できる。
【0026】
ここで
図9及び
図10を用いて操作部6、連結部7、吊り上げワイヤー11及びロックピン9の関係及び動作について説明する。
図9(a)、
図9(b)は操作部6の二種類の状態を示す斜視図、
図10は
図9(a)の断面図である。
図9(a)は走行、
図9(b)はロックに対応する。連結板75は支柱5に固定されている。連結板75には揺動中心ピン71、ガイドピン72を案内する円弧状の連結板ガイド穴73が設けられている。ガイドピン72はこの連結板ガイド穴73と操作部6に設けた長穴61を貫通していて2つの穴の中を移動する。74は揺動中心ピン71とガイドピン72の間に設けた引っ張りばねである。ガイドピン72は引っ張りばね74に引かれているので連結板ガイド穴73の内側の円弧に接している。
【0027】
Sは揺動中心ピン71を中心とし、連結板ガイド穴73の両端の円弧に内接する円弧である。図示したように連結板ガイド穴73の内側の円弧の曲率はSの曲率より大きい。
操作部6を
図9(a)から
図9(b)の状態に切り変えようとすると引っ張りばね74の変形が漸次大きくなって引っ張り力による摩擦抵抗も増大するので、変形がピークになる中間点までは元に戻ろうとし、中間点を過ぎると自ら
図9(b)に進むもうとする。これにより二安定な動作をする。
【0028】
吊り上げワイヤー11はロープ、柔らかいワイヤーまたは釣り糸のような、引っ張り力は伝えるが圧縮力は伝えないフレキシブルな素材を用いている。その上端は
図10に示すように操作部6の先端近くに固定する。固定方法は接着、ねじ止め、その他の一般的な方法で構わない。
【0029】
図9(a)では吊り上げワイヤー11が
図9(b)に比べ高い位置にある。吊り上げワイヤー11の下端はロックピン9の上部に連結されている。このため
図9(a)の状態ではロックピン9の高さは操作部6によって位置決めされ、
図9(b)の状態では
図9(a)の状態に比べてロックピン9は下に移動可能となる。
【0030】
図4は操作部6が
図9(a)に示した状態に対応している。このときロックピン9の最下部が車軸36の中心から回転規制部材352の頂点までの距離を半径とする円の中には入り込まない、つまり交差しないように吊り上げワイヤー11の長さを調整しておく。
以上により、
図4の状態では車輪体35は回転に支障がなく、台車1は走行可能である。つまり、操作部6が
図9(a)に示した状態ではロック機構のない台車と同じ動作をする。
【0031】
図5は回転規制部材352の正方形の各辺が水平及び垂直になっている際にユーザーがロックを選択した状態を示す。
吊り上げワイヤー11が下がり、ロックピン9は自重と押し下げばね12の力によってばね受け13がガイド部材10に当接するまで下がる。この際、吊り上げワイヤー11はたるんでも構わない。
【0032】
上記のように、吊り上げワイヤー11がたるむようにしておくと、ロックピン9の高さが操作部6の作動量に依存せず、ロックピン9の変位に比べ操作部6の上下動で生じる変位の方を大きくする事ができ、操作部6の上下動に関する設計上の制約を少なくできる。
但し、ばね受け13をガイド部材10に当接させず、操作部6の上下動で生じる変位によって直接ロックピン9の上下を位置決めする事も可能である。
【0033】
図5に示したように、回転規制部材352の一辺と車軸36の中心までの距離をa、ロックピン9の直径をD、旋回軸34の中心すなわち旋回中心と車軸36の中心までの距離を偏心量Eとし、a、D、Eの関係をE>a+D/2にしておく事で、
図5のように回転規制部材352とロックピン9は干渉せずに下がることが可能となる。
【0034】
図5の状態から車輪体35が左回転しようとすると
図6に示すように、回転規制部材352の左上の角がロックピン9に当たり回転が阻止される。右回転の場合は回転規制部材352の左下の角がロックピン9に当たり回転が阻止される。つまり、台車1はロックされる。
【0035】
上で述べた、ロックピン9が下がった状態で回転規制部材352の上下の角が当たるまで車輪体35が左右に回転できる角度が請求項1に示した特定の回転角度の範囲である。
【0036】
つまり、回転規制部材352が特定の回転角度の範囲にあるときは下方向に移動しようとするロックピン9と回転規制部材352は干渉せず、ロックピン9はばね受け13がガイド部材10に当接する高さ最も下まで下がる事が可能となる。
【0037】
ところで、ユーザーによるロックの選択操作でロックピン9が下がる際の回転規制部材352の回転角度はあらゆる角度となり得る。上記例のようにユーザーがロックを選択した際に回転規制部材352が特定の回転角度の範囲にある確率は実際的には小さい。
【0038】
図7は回転規制部材352の各辺が水平及び垂直から45度傾いている際にロックピン9吊り上げワイヤー11が下がった場合の例で、ロックピン9は回転規制部材352の外形と干渉し、途中の高さで留まっている。
このとき、吊り上げワイヤー11はフレキシブルな素材なので途中がたるみ、ロックピン9が自重と押し下げばね12以上の力で回転規制部材352の外形を押すことはない。
【0039】
この段階から、台車1が前方(左方向)に移動すると車輪体35は矢印Fの方向に回転する。車輪体35が約45度回転すると回転規制部材352が特定の回転角度の範囲になるのでロックピン9と回転規制部材352の干渉がなくなり、ロックピン9が下がり
図5ないし
図6の状態になる。
つまり、車輪体35が45度回転する距離分だけ台車1が前に動くと車輪体35の回転が阻止されて台車1はロックされる。この移動距離は小さいので実用上問題にならない。
【0040】
台車1が後方に移動し車輪体35が矢印Rの方向に回転する場合についても考える。回転が始まるとロックピン9の下端は回転規制部材352の辺によって上方向に持ち上げられ、かつ、回転規制部材352の辺の表面を滑る。車輪体35が約45度回転すると回転規制部材352が特定の回転角度の範囲になるのでロックピン9と回転規制部材352の干渉がなくなりロックピン9が下がり
図5ないし
図6の状態になる。
【0041】
吊り上げワイヤー11の素材がフレキシブルなので、ロックピン9を持ち上げるのに必要となる力の大きさは、ロックピン9の自重と押し下げばね12のばね力のみで小さく、実質的に車輪体35の回転を妨げない。
【0042】
以上から、車輪体35が前方、後方共に約45度回転する分台車1が動けば、台車1はロックされる。
【0043】
ところで、
図8に示すように、ロックピン9が下がろうとする際の回転規制部材352の辺とロックピン9がなす角度がある程度より小さくなるとR方向に回転しようとしても回転規制部材352の辺がロックピン9を上方向に持ち上げる分力が小さく、横方向の分力が大きくなってロックピン9を持ち上げられなくなる。この場合も車輪体35の回転が阻止されて、やはり台車1はロックされる。
この場合は、この後台車1がF方向に少しでも動けばロックピン9は下まで下がりきる。つまり実質的には少し時間がたつ間の台車1の微細な動きで
図5ないし
図6の状態に落ち着く。
【0044】
ここまで、伝達手段として吊り上げワイヤー11を例とし引っ張り力は伝えるが圧縮力は伝えないフレキシブルな素材で説明してきたが、伝達手段として堅い素材を用いる構成も可能である。
【0045】
図11に、第二の実施例として堅い素材からなる吊り下げロッド111、伝達板112を用いた伝達手段を示す。
図11(a)、(b)は操作部6が水平で、第一実施例の
図4に相当する。吊り上げロッド111は、上部が操作部6に設けられた操作部ピン62に回転可能に軸支され、下部は吊り上げロッドピン113で伝達板112を回転可能に軸支している。
【0046】
伝達板112には伝達板長穴1121が設けられていて、伝達板長穴1121の下端はロックピン9に設けられたスライドピン114を介してロックピン9を吊り下げている。
吊り上げロッド111、伝達板112及びロックピン9の長さ、伝達板長穴1121下端の位置、吊り上げロッドピン113、スライドピン114の取り付け位置などは操作部6が水平な位置にあるときにロックピン9の下端が回転規制部材352に干渉しないように予め選択する。
【0047】
図11(c)、(d)は第一実施例の
図5に相当する。操作部ピン62が下がり、連動して吊り上げロッド111、伝達板112及びロックピン9も下がる。
図11(c)、(d)ではロックピン9は、ばね受け13がガイド部材10に当接することで高さが位置決めされ、伝達板長穴1121の下端とスライドピン114の間は隙間1122が空くように予め伝達板長穴1121の長さを選択しておく。この隙間1122を設けるのは、伝達手段としてワイヤー11を用いた場合にたるみを設けたのと同じ理由である。但し、隙間1122を設けず、スライドピン114を伝達板長穴1121の下端に当てて直接ロックピン9の高さを決める事も可能である。
【0048】
図11(e)、(f)は第一実施例の
図6に相当する。この時、操作部ピン62は下がり、連動して吊り上げロッド111も下がる。しかし、ロックピン9は下端が回転規制部材352と干渉するので下がりきらず、スライドピン114は伝達板長穴1121の中間に位置している。これにより、操作部6がロックの位置にあってもロックピン9は押されず、ロックピン9が回転規制部材352を拘束的に押さえることがない。その後の動作は第一実施例と同様である。
【0049】
以上をまとめると、第一実施例同様、操作部6が
図9(a)の状態ではロックピン9が吊り上げられ、操作部6が
図9(b)の状態では、ロックピン9は下がるが、回転規制部材352に拘束的な力は加えない。
【0050】
ここまで、伝達板112は吊り上げロッド111の吊り上げロッドピン113に軸支していたが、ロックピン9側で軸支することも可能である。更に、伝達板112を操作部ピン62に軸支し、ここまで説明のロックピン9と吊り上げロッド111を一体化して新たにロックピンとし、このロックピンにスライドピン114を設ける構造も可能である。
【0051】
これまでの実施例の台車1ではユーザーが水平な操作部6を前方に押して走行可能となる。ロックさせるには意図して下から操作部6を持ち上げる。二安定な動作をするのでユーザーは走行とロックを迷うことなく選択できる。
【0052】
操作部は上に述べた動作・機構に限らない。例えば、操作部が通常はばね力で持ち上がっていてロックがかかり、走行時は操作部を上から押して水平として走行する機構、操作部が通常はばね力で水平に引き下げられ、そのばね力に対抗して持ち上げている間はロックされ、離せばばね力で戻って走行可能となる機構、操作部がばね力で持ち上がっていて走行可能、押し下げるとロックされ、離せば操作部がばね力で持ち上がって再び走行可能となる機構、など従来から実用化されている様々な機構を組み合わせることができる。
ここまで操作部の二種類の姿勢の内、一方の姿勢を水平の例で説明してきたが、要は二種類であればよく、水平以外の角度であっても構わない。
【0053】
水平な床面で用いられる病院のベッド、キャビネット、会議机などの機器の場合、操作部は必ずしもこれまで説明してきたような揺動を利用して走行とロックを切り替える形式に限らず、操作部を垂直方向に移動させて切り替え操作をする形式も考えられる。
この場合はこれまで述べてきた揺動によって操作部先端を上下する操作部に置き換えて、直接吊り下げワイヤーないし、吊り下げロッドを上下機構に取り付ければこれまでの説明と同様な動作を実現できる。
【0054】
操作部を上下させて切り替える場合は二重のパイプ構造にして外側のパイプには垂直とその上部に水平な案内溝を設け、内側のパイプには案内溝で案内される突起を設け、内側のパイプが下がった状態では吊り下げワイヤーないし、吊り下げロッドが下がり、内側のパイプを上げてひねる事で突起を案内溝の水平部分に当て、吊り下げワイヤーないし、吊り下げロッドを上げる方法、前記案内溝をらせん状にする方法、縦長の穴に横からくさび状の部品を出し入れして上下させる方法など、様々考えられる。
【0055】
ここまで回転規制部材352の外形形状は正方形の例で説明したが、回転規制部材352が特定の回転角度の範囲にあるときは下方向に移動しようとするロックピン9と干渉せず、前記特定の角度の範囲外にあるときは干渉する形状を有する外形形状は他にも様々ある。
【0056】
図12に別の回転規制部材352の形状の例を示す。
(a)は円形の一部を一つの直線で切り欠いたもの、(b)は二つの直線で切り欠いたもの、(c)は三つの直線で切り欠いたもの、(d)は楕円形、(e)は円形でその中心を車軸36から偏心させたもの、(f)は正方形の辺の一部に切り欠きを設けたもの、(g)は正方形の一部の切り欠きを(f)に比べて大きく設けたもの、(h)は(g)の先端部のみを残したもの、(i)は(h)の先端部を円形にしたものである。
また、図が同じになるので図は省略するが(i)で示した円形をボールベアリングに置き換えると摩擦力が減少して動作がスムースになり摩耗も減少する。(f)、(g)で示した回転規制部材352の正方形の辺への切込みはロックピン9と回転規制部材352が当たる角度を90度に近づける事でロックピン9に加わる横方向の力をより小さくするためである。
更に、これら例示した形を組み合わせたもの等様々な形、構造が考えられる。
【0057】
ロックピン9の先端形状は半球で説明してきたが平らでも構わない。また、ロックピン9の外形はばね受け13の取り付け部を除いて均一な丸棒で説明してきたが特に上部は丸棒に拘る必要はない。
【0058】
操作部6は
図1に示したようにコの字型で説明してきたが、
図13のように左右を結ぶ部分を除いて、左右独立に操作ができる操作レバー63のような構造も可能である。これによれば、左右の自在キャスター3の車輪体35の回転を独立に阻止して台車1を希望の方向に向かせることが容易になる。
【0059】
以上まとめると、本発明による機器は極めて簡単な構造で走行とロックを選択できる。更に、ロックの作用を路面に接しない部品に対して行うので、汚れ、摩耗による動作不安定の恐れがなく、長期にわたって安定的にメンテナンスフリーに作動可能である。
本発明の機器によれば斜面でも自走しないので駐車場を有する施設では駐車場の水勾配を従来に比べ大きくすることができる。駐車場は時間経過によって地盤が不等沈下する場合があり、これによる水たまり発生でメンテナンスが必要になる。水勾配が大きくなれば水たまりが発生し難くなりメンテナンス間隔を長くすることが出来る。これはメンテナンコストのみならず休業など営業への制約の点からも施設にメリットをもたらす。本発明による機器の構造は極めて簡単でコスト上昇が僅かで済むので、利用者へのメリットと同時に施設にもメリットを提供できる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の形態に限られるものではなく、請求の範囲に記載した範囲内で様々に変更して実施できる。