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  • 特開-接合構造及び接合方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000692
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】接合構造及び接合方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/62 20060101AFI20231226BHJP
   B23K 11/00 20060101ALI20231226BHJP
   B23K 20/10 20060101ALI20231226BHJP
   H01R 4/02 20060101ALI20231226BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01R4/62 A
B23K11/00 561
B23K20/10
H01R4/02 C
H01R13/03 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099540
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】福田 絵美
【テーマコード(参考)】
4E167
5E085
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167AB01
4E167AB04
5E085BB01
5E085BB14
5E085DD03
5E085EE23
5E085EE24
5E085HH13
5E085HH22
5E085JJ36
(57)【要約】
【課題】 アルミ線とターミナルとの接合において、接合強度の向上やアルミ線の潰れ量の抑制が可能な接合構造及び接合方法を提供する。
【解決手段】 アルミ線1とターミナル2との接合構造であって、ターミナル2は、材質が鉄であり、表面にはメッキ層22が形成され、加圧及び加熱によってアルミ線1とターミナル2とが接合される。また、メッキ層22は、第1メッキ層221と、第1メッキ層221の下層に形成される第2メッキ層222と、を含み、第2メッキ層222は、第1メッキ層221よりも融点が高い金属で形成される。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ線とターミナルとの接合構造であって、
前記ターミナルは、材質が鉄であり、表面にはメッキ層が形成され、
加圧及び加熱によって前記アルミ線と前記ターミナルとが接合される、接合構造。
【請求項2】
前記メッキ層は、
第1メッキ層と、
前記第1メッキ層の下層に形成される第2メッキ層と、を含み、
前記第2メッキ層は、前記第1メッキ層よりも融点が高い金属で形成される、請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記第2メッキ層は、前記アルミ線よりも融点が高く、鉄よりも融点が低い金属で形成される、請求項2に記載の接合構造。
【請求項4】
前記第1メッキ層の金属は、錫であり、
前記第2メッキ層の金属は、銅である、請求項2又は3に記載の接合構造。
【請求項5】
前記加熱及び前記加熱による前記アルミ線と前記ターミナルとの接合は、抵抗溶接、超音波金属接合及びヒュージングのいずれかで実施される、請求項1に記載の接合構造。
【請求項6】
アルミ線とターミナルとの接合方法であって、
鉄製の前記ターミナルの表面にメッキ層を形成するメッキ工程と、
加圧及び加熱によって前記アルミ線と前記ターミナルとを接合する接合工程と、を備える、接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミ線とターミナルとの接合構造及び接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ線とターミナルとの接合は、はんだ付けやかしめでは接合保証が困難であるため、加圧及び加熱による接合方法(抵抗溶接、超音波金属接合、ヒュージングなど)が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-36505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、加圧及び加熱による接合では、アルミ線の潰れ量が大きいだけでなく、十分な接合強度を得られない可能性がある。例えば、コスト低減を目的にターミナルの材質を鉄とし、鉄製のターミナルとアルミ線とを抵抗溶接で接合させると、アルミ線の潰れ量に大きなバラツキが生じるだけでなく、接合強度も母材強度の1/2程度までしか得られないため、改善の余地がある。また、鉄製のターミナルは、抵抗溶接の電極との間で貼り付きが発生しやすいため、電極の寿命を短くするおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は、アルミ線とターミナルとの接合において、接合強度の向上やアルミ線の潰れ量の抑制が可能な接合構造及び接合方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、以下のような解決手段を提供する。
アルミ線とターミナルとの接合構造であって、
前記ターミナルは、材質が鉄であり、表面にはメッキ層が形成され、
加圧及び加熱によって前記アルミ線と前記ターミナルとが接合されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、アルミ線とターミナルとの接合において、接合強度の向上やアルミ線の潰れ量の抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】接合前のアルミ線及びターミナルを示す概略断面図である。
図2】接合後のアルミ線及びターミナルを示す概略断面図である。
図3】実施例1、実施例2及び比較例の抵抗溶接時の設定電流値と、接合物の引張強度及び潰れ量との関係を示すグラフである。
図4】実施例1による接合構造を示す平面画像である。
図5】実施例1による接合構造を示す側面画像である。
図6図4のA-A断面画像である。
図7図6の要部拡大画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。
【0010】
(接合構造)
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態に係る接合構造は、アルミ線1とターミナル2との接合構造であって、アルミ線1とターミナル2は、例えば、抵抗溶接装置3による加圧及び加熱で接合される。
【0011】
アルミ線1は、アルミニウム(Al)又はアルミニウム合金を用いて形成される導電線であり、例えば、円形の断面を有する。アルミ線1の表面には、酸化被膜が形成されており、接合時には酸化皮膜を除去することが要求される。
【0012】
ターミナル2は、鉄(Fe)又は鉄系合金を用いて形成される導電板であり、鉄製のターミナル母材21の表面にはメッキ層22が形成される。メッキ層22は、第1メッキ層221と、第1メッキ層221の下層に形成される第2メッキ層222と、を含んでいる。
【0013】
第2メッキ層222は、第1メッキ層221よりも融点が高い金属で形成される。また、第2メッキ層222は、アルミ線1よりも融点が高く、鉄よりも融点が低い金属で形成される。このような条件を満たす第2メッキ層222の金属は、例えば、銅(Cu)であり、第1メッキ層221の金属は、錫(Sn)である。なお、融点は、アルミニウムが約660℃、鉄が約1500℃、銅が約1000℃、錫が約200℃である。
【0014】
抵抗溶接装置3は、一対の電極31と、加圧手段(図示せず)と、加熱手段(図示せず)と、を備える。一対の電極31は、接合させるアルミ線1とターミナル2を挟むように配置される。加圧手段は、一対の電極31又は一方の電極31を近づく方向に移動させることで、アルミ線1とターミナル2を加圧する。加熱手段は、一対の電極31間に電流を流すことで、アルミ線1とターミナル2との接触部を加熱(発熱)する。なお、加圧手段による加圧時の圧力や、加熱手段による通電時の電流値は調整可能である。
【0015】
アルミ線1とターミナル2とを接合させる場合は、アルミ線1と、メッキ工程を経てメッキ層22が形成された鉄製のターミナル2と、抵抗溶接装置3と、を用意し、図1に示すように、抵抗溶接装置3の電極31間にアルミ線1とターミナル2を配置する。その後の接合工程において、電極31間でアルミ線1とターミナル2を加圧しつつ、アルミ線1とターミナル2との接触部を通電により加熱することで、アルミ線1とターミナル2とが接合される。
【0016】
つまり、接合工程では、通電によりアルミ線1とターミナル2との接触部の温度が上昇すると、まず、融点が最も低い第1メッキ層221から溶融が始まり、続いて、アルミ線1、第2メッキ層222の順で溶融する。メッキ層22が溶融してアルミ線1とターミナル母材21が真に接触すると、アルミ線1とターミナル母材21との間で共晶反応が起き、鉄の融点よりも低い温度でアルミ線1とターミナル母材21の溶融が進む。これにより、アルミ線1の酸化皮膜は、溶融除去されて共晶融液に混入する。そして、共晶融液及びメッキ層22の融液は、その後の加圧によってアルミ線1とターミナル母材21との接触部から押し出され、接触部の外端部で凝固して凸部Tを形成する。また、共晶融液及びメッキ層22の融液が排出された後のアルミ線1とターミナル母材21との接合面には、凝固後にアルミと鉄の合金層Gが形成される。
【0017】
このようなアルミ線1とターミナル2との接合構造及び接合方法によれば、アルミ線1とターミナル母材21との間で共晶反応が起きる温度やタイミングをメッキ層22によってコントロールすることができる。したがって、抵抗溶接装置3の設定電流値、設定圧力、通電時間、加圧時間などの最適化により、接合強度の向上やアルミ線1の潰れ量の抑制が可能となる。例えば、アルミ線1よりも融点が高い第2メッキ層222を鉄製のターミナル2の表面に形成することで、共晶反応が起きる温度や抵抗溶接装置3の設定電流値を上げることができる。その結果、共晶反応を促進させて接合強度を向上できるだけでなく、アルミ線1の潰れ量を抑制できる。
【0018】
また、ターミナル2の表面には、錫メッキからなる第1メッキ層221が形成されているので、電極31の貼り付きを防止できるだけでなく、ターミナル2の表面を保護してターミナル2の耐久性を高めることができる。
【0019】
(実施例及び比較例)
つぎに、アルミ線1とターミナル2との接合構造及び接合方法の実施例1、実施例2及び比較例について、図3図7を参照して説明する。
【0020】
実施例1、2では、ターミナル2の表面にメッキ層22を形成した。実施例1のメッキ層22は、第1メッキ層221と、その下層に形成される第2メッキ層222との2層構成とした。第1メッキ層221は、錫メッキとし、その厚さを5~7μmとした。また、第2メッキ層222は、銅メッキとし、その厚さを0.5~1μmとした。また、実施例2のメッキ層22は、第1メッキ層221のみの1層構成とした。第1メッキ層221は、錫メッキとし、その厚さを5~7μmとした。一方、比較例では、ターミナル2の表面にメッキ層22を形成せず、鉄製のターミナル母材21を露出状態とした。
【0021】
つぎに、実施例1、実施例2及び比較例のターミナル2に対し、抵抗溶接装置3を用いてアルミ線1を接合させた。抵抗溶接に際しては、設定電流値を段階的に変化させ、実施例毎及び比較例毎に複数の接合物を作成した。また、抵抗溶接に際しては、設定電流値に応じて通電時間を調整した。具体的には、設定電流値の上昇に応じて通電時間を減らした。
【0022】
その後、実施例1、実施例2及び比較例による接合物について、引張強度(N)及び潰れ量(mm)を測定し、引張強度(N)及び潰れ量(mm)と、設定電流値(kA)との関係を調べた。図3は、その関係を示すグラフである。
【0023】
図3では、実施例1、実施例2及び比較例による接合物において、引張強度が最大となったときの設定電流値及びその前後の設定電流値に対応する引張強度(実線)及び潰れ量(破線)を示している。比較例では、設定電流値が3.5kAのとき、引張強度が最大の約90Nであり、潰れ量が約1mmであった。また、実施例2では、設定電流値が4kAのとき、引張強度が最大の約150Nであり、潰れ量が約0.75mmであった。また、実施例1では、設定電流値が4.5kAのとき、引張強度が最大の約220Nであり、潰れ量が約0.5mmであった。
【0024】
その結果、最大引張強度は、実施例2で比較例の約1.7倍、実施例1で比較例の約2.4倍となった。また、実施例1では、アルミ線単品の引張強度(約240N)に対して約90%との高い引張強度が得られた。また、潰れ量は、実施例2で比較例の約75%、実施例1で比較例の約50%となった。
【0025】
続いて、実施例1による接合物のなかで、最大引張強度を示す接合物の外観及び断面を観察した。図4図6に示すように、アルミ線1とターミナル2との接合部の両側端部には、抵抗溶接によって押し出された融液の凝固物である凸部Tが観察された。また、図7に示すように、アルミ線1とターミナル母材21との接合面には、接合面方向に連続するアルミと鉄の合金層Gが観察された。
【0026】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0027】
なお、以上の本発明の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0028】
(付記1)
アルミ線(1)とターミナル(2)との接合構造であって、
前記ターミナルは、材質が鉄であり、表面にはメッキ層(22)が形成され、
加圧及び加熱によって前記アルミ線と前記ターミナルとが接合される、接合構造。
【0029】
付記1の構成によれば、アルミ線とターミナル母材との間で共晶反応が起きる温度をメッキ層によってコントロールすることができる。したがって、抵抗溶接装置の設定電流値、設定圧力、通電時間などの最適化により、接合強度の向上やアルミ線の潰れ量の抑制が可能となる。また、ターミナルの表面に形成されるメッキ層は、電極(抵抗溶接などの電極)の貼り付きを防止するだけでなく、ターミナルの表面を保護してターミナルの耐久性を高めることができる。
【0030】
(付記2)
前記メッキ層は、
第1メッキ層(221)と、
前記第1メッキ層の下層に形成される第2メッキ層(222)と、を含み、
前記第2メッキ層は、前記第1メッキ層よりも融点が高い金属で形成される、付記1に記載の接合構造。
【0031】
付記2の構成によれば、ターミナルの保護及び電極の貼り付き防止を目的とする第1メッキ層と、共晶反応が起きる温度のコントロールを目的とする第2メッキ層と、を分けることにより、第1メッキ層及び第2メッキ層を形成する金属を最適化できる。
【0032】
(付記3)
前記第2メッキ層は、前記アルミ線よりも融点が高く、鉄よりも融点が低い金属で形成される、付記2に記載の接合構造。
【0033】
付記3の構成によれば、アルミ線よりも融点が高く、鉄よりも融点が低い金属で第2メッキ層を形成することで、共晶反応が起きる温度や抵抗溶接など設定電流値を上げることができる。その結果、共晶反応を促進させて接合強度をより向上できるだけでなく、アルミ線の潰れ量をより抑制できる。
【0034】
(付記4)
前記第1メッキ層の金属は、錫であり、
前記第2メッキ層の金属は、銅である、付記2又は3に記載の接合構造。
【0035】
付記4の構成によれば、条件に合った第1メッキ層及び第2メッキ層を形成できる。
【0036】
(付記5)
前記加熱及び前記加熱による前記アルミ線と前記ターミナルとの接合は、抵抗溶接、超音波金属接合及びヒュージングのいずれかで実施される、付記1に記載の接合構造。
【0037】
付記5の構成によれば、抵抗溶接、超音波金属接合及びヒュージングのいずれかで、本発明の接合構造が実現できる。
【0038】
(付記6)
アルミ線(1)とターミナル(2)との接合方法であって、
鉄製の前記ターミナルの表面にメッキ層(22)を形成するメッキ工程と、
加圧及び加熱によって前記アルミ線と前記ターミナルとを接合する接合工程と、を備える、接合方法。
【0039】
付記6の方法によれば、付記1と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0040】
1 アルミ線
2 ターミナル
21 ターミナル母材
22 メッキ層
221 第1メッキ層
222 第2メッキ層
3 抵抗溶接装置
31 電極
T 凸部
G 合金層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7