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特開2024-69226急性腎障害の予防及び治療のための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069226
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】急性腎障害の予防及び治療のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/13 20060101AFI20240514BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240514BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20240514BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 31/215 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 36/25 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
A61K38/13
A61K31/706
A61K31/436
A61P43/00 121
A61K47/64
A61K47/61
A61P13/12
A61K31/19
A61K31/215
A61K31/7048
A61K36/25
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024022099
(22)【出願日】2024-02-16
(62)【分割の表示】P 2020520713の分割
【原出願日】2018-06-20
(31)【優先権主張番号】PA201770488
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(71)【出願人】
【識別番号】519457890
【氏名又は名称】エーケーアイ・セラピューティクス・エーぺーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ラース・オットー・ウッテンタル
(57)【要約】
【課題】1つには、虚血、腎毒性若しくは炎症、又はこれら原因因子の組合せに由来する急性腎障害(ARI)の予防、先制的治療又は治療のための、前述のクラスの既知の薬物の組合せ及び製剤を含む医薬組成物を提供すること。
【解決手段】急性腎障害の治療、先制的治療又は予防のための医薬組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキセクロスポリンを含む、シクロスポリンファミリーのメンバー、並びに非シクロスポリン化合物のタクロリムス、セロリムス及びエベロリムスを含むリストから選択される薬物を含む組成物であって、リンパ球による取込みを妨げ、且つ/又は前記薬物を主として腎臓に標的化するためのコンジュゲート、又はリポソーム、ミセル若しくはナノ粒子懸濁液の形態での静脈内投与のために製剤化される組成物。
【請求項2】
静脈内投与のために製剤化される、薬物の組合せを含む組成物であって、組合せが、セラストロール、プリスチメリン及びベツリン酸を含むリストから選択される五環性トリテルペノイドと共に、ジオスミン、ヘスペリジン及びアメリカニンジン(Panax quinquefolium)由来のサポニンを含むリストから選択されるサポニン又はフラボノイドからなる、組成物。
【請求項3】
急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療における使用のための、静脈内投与のために製剤化される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記薬物が、グリコシル化及び/若しくはそのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を任意選択で欠いてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたシクロスポリンAである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記薬物が、グリコシル化及び/若しくはそのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を任意選択で欠いてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたシクロスポリンGである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記薬物が、グリコシル化及び/若しくはそのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を任意選択で欠いてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたオキセクロスポリンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記薬物が、グリコシル化及び/若しくはそのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を任意選択で欠いてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたタクロリムスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記薬物が、グリコシル化及び/若しくはそのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を任意選択で欠いてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたセロリムスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記薬物が、グリコシル化及び/又は、そのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を任意選択で欠いていてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたエベロリムスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記NGALが、グリコシル化を欠くNGAL、又は87位のシステイン残基を欠くNGAL、又はグリコシル化を欠き87位のシステイン残基を欠くNGALのいずれか1つの形態である、請求項4から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記薬物の組合せが、ベツリン酸及びジオスミンを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項12】
前記薬物の組合せが、セラストロール及びジオスミンを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項13】
前記薬物が、グリコシル化及び/若しくはそのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を任意選択で欠いてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしている、請求項11又は12に記載の組成物。
【請求項14】
急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療における使用のための、別の薬物と組み合わされた、請求項1~2及び請求項4~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療における使用のための、静脈内投与のために製剤化される、請求項1~2及び請求項4~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療のための方法であって、そうした予防及び/又は治療を必要とする対象に請求項1~2及び請求項4~13のいずれか一項に記載の組成物を静脈内投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性腎障害(ARI)の予防、先制的(pre-emptive)治療又は治療のための薬剤を含む組成物を提供する。したがって、本発明は、医療及び手術の分野において、特に救命救急医療、実際には、重篤な疾患、事故及び治療的又は診断的介入によって患者がARIのリスクにさらされる全ての医療分野において有用であろう。
【背景技術】
【0002】
急性腎障害(ARI)の定義
以下において、急性腎障害(ARI)という用語は、いくつかの腎機能のうちの1つ又は複数の喪失を引き起こすのに十分な、腎臓内で急性的に発生する任意の細胞傷害を指し、この細胞傷害は、顕微鏡によって検知可能であるかどうかは問わず、又は機能の喪失も、血清クレアチニン等の腎機能マーカー物質の濃度の変化によって検知可能であるかどうかは問わない。そうした腎障害は、有害なプロセスに応答して腎臓内の細胞から放出されるいくつもの腎障害マーカーのうちの1つ又は複数の循環血中濃度又は尿中濃度の上昇によって検知することもできる。
【0003】
ARIの原因の分類
ARIは、多くの異なる原因を有することがあり、通常、3つの異なる項目:1)虚血/再灌流、2)腎毒性、及び3)炎症性にグループ分けされる。「腎毒性」の定義は、腎臓に対するいかなる有害な影響をも表すように拡大されることもあり、したがってこの用語は、虚血/再灌流及び炎症性障害も含む。ここでは、この用語は、身体に本来備わっていない物質、特に薬物によって発揮される腎臓に対する毒性作用を表すために使用される。
【0004】
虚血/再灌流障害(IRI)は、細胞又は臓器への動脈血供給の一時的な停止又は急激な減少から生じる細胞又は臓器の障害を表し、したがって細胞は、正常な活動を維持するための酸素及び必須栄養素を奪われ、これに続いて、一時的欠乏の結果としての細胞応答を伴う血液供給の回復が起こる。一時的な無酸素又は低酸素は、細胞又は臓器から、栄養素を奪うことなく酸素を奪うことになり、再酸素化時に、これが、IRIと類似性のある低酸素/再酸素化障害(HRI)を引き起こす。患者におけるIRIは、心肺バイパス処置中の大動脈遮断等の、一時的に腎臓及び下半身から動脈血を奪う外科的介入の結果として生じることがある。
【0005】
本明細書において、腎毒性障害(NI)は、健常な生物体には内在しない作用物質による、腎臓又はその特定の構成細胞に対する障害を表す。そうした作用物質は、一般に、がん治療のために与えられるアミノグリコシド、他の特定の抗生物質、及び細胞傷害性薬剤等の治療的意図をもって与えられる薬物であるが、植物毒及び真菌毒、或いは人工であろうが天然であろうが、環境を汚染している毒性物質等、意識することなく食物と共に摂取される毒素であることもある。
【0006】
腎臓に対する炎症性障害(II)は、身体に内在する炎症メディエーター又は外因性作用物質、例えば、腎臓全体に又はその特定の細胞及び構造に対して有害である可能性がある炎症性応答を腎臓に引き起こすよう作用するとき、炎症性メディエーターの放出の原因となる細菌性抗原等、から生じる障害にわたる広範な用語である。一例は、グラム陰性菌由来のリポ多糖類(LPS)であり、腎臓において有害な炎症性応答を引き起こすことになる。LPSは外因性であるため、その作用は、実際、腎毒性として記述されることもある。
【0007】
ヒト疾患において、ARIを、これらのうちの単一の原因によるものであると分類することは不可能であることが多い。入院患者において、最も一般的なARIの原因は、敗血症であり、これはIRI及びIIの両方の状況を含むことがある。敗血症は、重度の低血圧(敗血症性ショック)を引き起こすことがあり、それが腎臓等の重要臓器の低灌流及び不全につながることがある。しかし、長期の低灌流による障害は、IRIとは一致せず、虚血及び再灌流の両方に特有なプロセスが並行して進行する中間的状態であることがある。更に、腎血流の物理的測定値は、充血を示しているところから、敗血症において、腎臓が実際、低灌流であるかどうかは疑問視されている。これは、腎臓内循環系の個別の部分は、低灌流であることがある一方で、腎臓全体としては充血しているという証拠により反論されている。同時に、ARIの主原因となる役割を果たすのは敗血症であり、敗血症では腎障害は、LPS等の細菌性抗原の存在と相まっての全身性の炎症応答及び循環炎症性メディエーターレベルの上昇から生じるIIによるものとされてきた。
【0008】
ARIに関与する細胞内経路
敗血症におけるARIの原因の理解が不十分であるのと同様に、損傷が媒介される細胞内経路も全く解明されていない。ARIの原因は一般に、特に腎尿細管上皮細胞において認められる、壊死、アポトーシス、又はネクロプトーシスのいずれかによる腎細胞死に帰着する。細胞の一部は、亜致死的に障害されて生存できる一方で、その他の細胞は、1つ以上の前述の細胞死のプロセスによって死ぬ運命にある。障害性要因の中で、重要であるとみなされるのは、以下である:
【0009】
1)ミトコンドリア透過性遷移孔(mptp)形成。これは、NI又はIRIに応答して、特に再灌流期において起こることがある。腎近位曲尿細管細胞は、代謝的に活性が高く、且つミトコンドリアを豊富に供給されている。mptpの形成は、壊死及びアポトーシスの両方につながる細胞プロセスを開始させる。孔は、ミトコンドリア内膜内に形成され、分子に対するミトコンドリア透過性を分子量1500Daまで、増大する。これは、ミトコンドリア外膜を破裂されることがあるミトコンドリア膨化をもたらし、シトクロムcの細胞質への放出及び必然的な細胞死に至る。ミトコンドリア透過性遷移は、bcl-2遺伝子ファミリーのメンバーによって調節され、mptpは、タンパク質であるシクロフィリンD(cypD)によって制御され、cypDの作用は、免疫抑制抗生物質、シクロスポリン類の結合によって遮断される。
【0010】
2)FAS/FAS-L経路、下流MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)及びJNK(c-Jun N末端キナーゼ)シグナル伝達、又はカスパーゼカスケードの活性化を介してのRANK/RANK-L(NF-κB活性化受容体)経路。アポトーシスに帰着するカスパーゼカスケードは、腫瘍壊死因子受容体1(TNF-R1)及びFas/CD95/APO1等の細胞死受容体、又はシトクロムcのミトコンドリアからの放出のいずれかによって、誘発されうる。
【0011】
3)核因子κB(NF-κB)の活性化は、腎尿細管上皮細胞において、細胞内カルシウムイオンレベルに感受性のあるレドックス非依存性経路によって、起こる。NF-κB活性の誘導因子には、活性酸素種(ROS)、TNFα、インターロイキン1-β(IL-1β)及びLPSが含まれる。NF-κBは、炎症性応答において中心的役割を果たす一組の関連転写因子からなる。NF-κBは、障害された腎細胞周囲の炎症細胞の動員に関与する一連のサイトカイン及びケモカイン全体を上方制御する。その作用及びそれが動員する炎症細胞の結果、初期の炎症性反応は腎機能の長期間の障害の一因になることがある線維症のプロセスへと進行する。
【0012】
IRI、NI及びIIを改善させることが知られている薬物
シクロスポリン類及びその他の免疫抑制抗生物質
多くの薬物の中で、1つ又は複数の組織又は臓器においてIRIを改善することが実験的に見出されているのは、シクロスポリン類である。これは、一般にカルシニューリン阻害剤と称される、一連の周期性ポリペプチド抗生物質である。カルシニューリンは、カルシウム依存性のセリン・トレオニンフォスファターゼであり、転写因子NFATc(活性化T細胞核内因子)を脱リン酸化し、したがって活性化し、次にNFATcが、インターロイキン2(IL-2)の発現を上方制御し、非自己抗原に応答して、T細胞の増殖及び分化を刺激する。この経路は、cypDと結合してカルシニューリンを阻害するシクロスポリン類によって遮断される。シクロスポリン類は、したがって、臓器移植における免疫抑制剤として使用され、シクロスポリンAは、最も一般的に使用される。しかし、cypD結合のもう1つの結果は、mptpの開口を阻害し、ミトコンドリアが誘発するアポトーシス及び壊死から細胞を保護するのを助ける。
【0013】
シクロスポリンAは、11個のアミノ酸残基からなり、且つ1203の分子量を有する。シクロスポリン類は、各々AからZの文字によって識別される類縁薬物の大きなファミリーを形成する。特に興味深いのは、シクロスポリンAのL-α-アミノブチリル残基がL-ノルバリンによって置換されたシクロスポリンG、及びオキセクロスポリン(oxeclosporin)としても知られ、シクロスポリンAの2-(O-(2-ヒドロキシエチル)-D-セリン8)類似体であるSDZ IMM 125である。これら2つの類似体は、シクロスポリンAよりも低い腎毒性活性を示すことが報告されている。シクロスポリン類は、指標化合物シクロスポリンAによって例証されるように、細胞をIRIから、例えば心臓において(Duchen他1993; Hausenloy他 2012)及び脳において(Li他 1997)及び心停止後に複数の臓器においてさえも(Cour他 2014)守ることが昔から知られている。シクロスポリンAはまた、マウス腎臓をNIから守ることが示されている(Wen他 2012)。しかし、ARIの最も多く見られる原因が敗血症である患者における使用に関して、既知の免疫抑制作用がある薬物の使用は、障害された腎臓に対する有益な作用が、感染症に対する患者の細胞免疫応答を損なうことなく、どのように得られうるのかという疑問を提起する。その他の免疫抑制抗生物質、例えばタクロリムス、シロリムス(ラパマイシンとしても知られる)及びエベロリムス(シロリムスの40-O-(2-ヒドロキシエチル)誘導体)等、もまた組織虚血に対する改善効果を有することが知られている。
【0014】
カルシニューリン阻害剤のシクロスポリンA及びタクロリムスは、それら自体が、移植された腎臓の一部分、特に移植前に長時間の冷阻血を受けた腎臓においてNIを引き起こすことが知られている。いくつかの事例では、NIは急性であるが、より頻回にNIは、これらの免疫抑制剤の長期の使用後に認められる。メカニズムは完全には理解されていないが、それに続いて長期の間質性線維症が起きる血栓性微小血管症をもたらす細動脈血管収縮及び内皮損傷に関与すると思われる。このタイプのNIは、非移植腎においては研究されていないが、他の理由により急性ARIを治療するために薬物が使用される場合、長期の腎毒性の可能性を考慮に入れなければならない。これは、薬剤が、ARI発症後できる限り早く、短期間のみ投与されなければならないことを意味する。カルシニューリン阻害剤ではないシロリムス及びエベロリムスは、移植された腎臓においてはるかに低いNI発生率に関連する一方で、これらが移植後の免疫抑制に使用された場合に、血栓性微小血管症の少数の事例もまた、観察されている。しかし、これらの事例は稀であり、シロリムスへの転換はシクロスポリンA腎毒性の進行を防止する(Sereno他 2014)。
【0015】
五環性トリテルペノイド
種々の組織及び臓器においてIRI及び炎症の両方を改善することが見出されている薬物の別のクラスは、セラストロール及びベツリン酸等の植物由来の五環性トリテルペノイドからなる。五環性トリテルペノイドは、化合物の大きな群であり、その個々のメンバーは、抗炎症性、抗腫瘍性、抗糖尿病性、及びホルモン活性を含む生物学的活性の選択を示すことがあり、一部はまた昆虫や魚類に有毒であり、また一部は、哺乳類において肝臓及び他の臓器に対して毒性がある。
【0016】
セラストロールは、急性心筋梗塞のラットモデルにおいて、おそらくは心保護タンパク質HO-1の発現を誘発することにより、梗塞巣周囲領域において筋線維芽細胞及びマクロファージ浸潤を低減しながら、梗塞サイズ及び線維症を低減する(Der Sarkissian他 2014)。ラットモデルにおいて虚血性脳卒中後に、セラストロールは、p-JNK、p-c-Jun及びNF-κΒの発現を下方制御し神経障害及び梗塞サイズを低減した(Li他 2012)。セラストロールはまた、腎IRIを改善し、NF-κΒサブユニットp65の核移行を抑制することによって炎症性メディエーターの上方制御を防止した(Chu他 2014)。プリスチメリン(pristimerin)はセラストロールのメチルエステルであり、セラストロールと類似の抗炎症効果を有することが知られているが、組織損傷モデルにおいては試験されていない。
【0017】
ベツリン酸前処理は、心筋損傷マーカー酵素LDH及びCKの放出を低減し、心筋IRIのラットモデルにおいて心筋細胞アポトーシスを低減した(Xia他 2014)。また、マウスにおいて、酸化ストレス及びニトロソ化ストレスの低減によって、脳虚血-再灌流障害を防いだ(Lu他 2011)。ベツリン酸前処理はまた、オキシダント応答を減弱することによって腎IRIを防ぎ、微視的損傷及び腎機能を改善し、同時に、好中球浸潤を阻害した(Eksioglu-Demiralp他 2010)。
【0018】
サポニン及びフラボノイド
植物由来薬物の関連クラスは、親油性テルペン誘導体と組み合わされた1つ又は複数の親水性グリコシド部分から構成される、洗剤活性を有する両親媒性グリコシドであるサポニンからなる。多種多様な医薬特性がまた、これらの薬物によるものとされてきた。このクラスには、柑橘類果実の皮中に存在するフラボノイドである化合物ヘスペリジン、及びその誘導体で、静脈の緊張増加及び毛細血管透過性の低減に使用されるジオスミンが、分類される。サポニンであるβ-エスシンは、同じ目的に使用されてきた。これらの化合物は、血管内皮への好中球接着を、したがって炎症組織への好中球の流入を低減し、したがって抗炎症効果を発揮する。抗腫瘍及び抗酸化(フリーラジカル捕捉)効果が報告されている。アメリカニンジン(Panax quinquefolium)から抽出されるサポニンもまた、IRIの結果を改善する有意な効果を有することが示されている(例えば、Li他 2014を参照)。
【0019】
浮腫を低減する効果ばかりではなく、ジオスミン前処置は、ラット心臓のex vivoモデルにおけるIRI(Senthamizhselvan他 2014)、マウスモデルにおける脳IRI (Liu他 2014)及びラットにおける肝IRI(Tanrikulu他 2013)の結果を改善する。ヘスペリジンもまた、種々の臓器においてIRIに対する保護効果を有することが見出されている。他方では、β-エスシンもまた、局所脳虚血の影響を改善するが、小児での心肺バイパス手術における使用によって、β-エスシンがNIに関連する可能性があるとの疑念が提起された(Hellberg他 1975)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
前記の考察を考慮して、したがって本発明は、虚血、腎毒性若しくは炎症、又はこれら原因因子の組合せに由来する急性腎障害(ARI)の予防、先制的治療又は治療のための、前述のクラスの既知の薬物の組合せ及び製剤を含む医薬組成物からなる。本発明の目的は、薬物が、重大な感染症の存在下での免疫抑制等の、患者に対して有害でありうる作用を有することが既知であるような事例において、薬物が、腎臓を標的とするか、又は機能が阻害されるべきではない免疫細胞から少なくとも離れているように、薬物を製剤化又は誘導体化することである。効果が部分的であることは、ARIにおける保護作用が個々に試験されている五環性トリテルペノイド、サポニン及びフラボノイドの特徴である。その結果、ARIの発症後に更なる損傷を防止するための相乗効果を得るために、異なる経路を介してARIの結果を個々に改善するこれらの異なるクラスの薬物を組み合わせることも本発明の目的である。したがって、医薬組成物は以下を含む:
【課題を解決するための手段】
【0021】
急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療のために使用される、オキセクロスポリンを含む、シクロスポリンファミリーのメンバー及び非シクロスポリン化合物のタクロリムス、セロリムス(serolimus)及びエベロリムスを含むリストから選択される薬物を含む組成物であって、リンパ球による取込みを妨げ、且つ/又は薬物を主として腎臓に標的化するコンジュゲート、又はリポソーム、ミセル若しくはナノ粒子懸濁液の形態での静脈内投与のために製剤化される、組成物。
【0022】
静脈内投与のために製剤化される薬物の組合せを含む組成物であって、前記組合せが、セラストロール、プリスチメリン及びベツリン酸を含むリストから選択される五環性トリテルペノイドと共に、ジオスミン、ヘスペリジン及びアメリカニンジン由来のサポニンを含むリストから選択されるサポニン又はフラボノイドからなる、組成物。
【0023】
以下の本発明の詳細な説明において、特定の組合せ、製剤及び誘導体化、並びに組成物の使用が、本発明の実用的性能の詳細と共に、記述されることになる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
免疫抑制抗生物質の腎臓への標的化
ARIを含む組織障害を改善することができる前述の免疫抑制剤は、実質的に修飾されない形態で、重大な感染症を有さない患者に対して投与されうる。しかし、相当な数のARI患者は、免疫抑制剤が危険とみなされる重度の感染症を有する。したがって、本発明の目的は、これら物質のリンパ球による取込みを妨げ、腎臓による取込みを促進するであろう、これら物質の誘導体又はコンジュゲートを創製することである。「コンジュゲート」によって、指標物質が、共有結合又は供与/配位結合によってもう1つの物質と化学的に結合していることが意味され、この場合、それが、生じたコンジュゲートが生物学的標的分子と結合することを可能にする。そうした誘導体又はコンジュゲートの腎臓による取込みが、この臓器における薬物濃度を、一般的な全身濃度よりも何倍も大きくすることにつながる場合、腎臓における有効濃度が低投与量で得られる一方で、全身濃度は望まれていない又は有害な影響を生じるには不十分である。
【0025】
水に難溶である(一般用語では、不溶である)こともまた、前記の薬剤の特徴である。しかし、前記の薬剤は脂質及び細胞膜には可溶性であり、したがって、これらは経口投与された場合、限定的なバイオアベイラビリティを伴って吸収されうる。ARIが高リスクの重病患者において、経口投与は実行不可能であることがあり、薬剤は静脈内に投与されなければならない。許容されないほど大きな粒子又は液滴の投与を防止するためにミクロポアフィルターを通して与えられる、水中油エマルションの注入の形態での静脈内投与を可能にするための製剤が開発されて久しい。これら薬剤の標的化された誘導体又はコンジュゲートは、同様な方法で、静脈内に投与されることになる。
【0026】
前記薬剤が共通して有する更なる特徴は、最も簡潔な方法によるコンジュゲーション又は誘導体化を可能にする反応基(アミノ、カルボキシ、スルフヒドリル又は芳香族基)を欠いていることである。しかし、ジオスミンが2個のヘキソースユニットを含むグリコシドであることに留意すべきである。しかし、これらは全て、コンジュゲーションに使用されうるヒドロキシ基を呈する。オキセクロスポリン及びエベロリムスの場合には、O-(2-ヒドロキシエチル)側鎖中に追加のヒドロキシ基が存在する。
【0027】
これらの薬剤を腎臓に対して標的化するために、ARIによって最も影響を受ける構造体であることが多いメガリン受容体(腎近位尿細管において高度に発現されるマルチリガンドエンドサイトーシス受容体)によって取り込まれる担体にコンジュゲートされる。薬物-担体複合体分子は、尿細管液に流入してメガリン受容体によって取り込まれるように、糸球体によって濾過されることが可能でなければならない。このことは、実質的に、担体の分子サイズを30kDa球状タンパク質相当量未満に限定する。
【0028】
相当数の可能な担体の中で、以下の3つの担体が、好ましい:
【0029】
1. 最も好ましいのは、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、好ましくは組換え型ヒトNGALである。これは、内在性タンパク質であり、178のアミノ酸残基の非グリコシル化モノマータンパク質鎖に対して分子量20.5kDa、未変性のグリコシル化形態に対して約25kDaの分子量を有する。NGALは、メガリン受容体を経由して近位曲尿細管上皮細胞によって取り込まれ、ARIにおいてこれら及び他の腎尿細管細胞によって急速に上方制御されて分泌されるのに加え、そのためARIの早期診断マーカーとしても働くことが知られているところから、標的化担体として特に適している。NGAL自体がARIにおける治療的効果を有する可能性があることもまた示唆されているが、これは依然として立証されていない。NGALはまた、腎尿細管細胞及び他の特定の細胞上に認められるが免疫担当細胞上には見られない、24p3Rとして知られるより特異的な受容体とも結合する。使用される組換え型ヒトNGALの好ましい形態は、非グリコシル化形態であり、例えば、形質転換大腸菌細胞中での発現によって得ることが可能である。組換え型ヒトNGALのより好ましい形態は、成熟タンパク質の178-アミノ酸残基鎖長の87位のシステイン残基が、例えばセリン又は他の非システインアミノ酸残基によって置換されることによって、存在しない、修飾された形態である。これは、タンパク質の共有結合性自己会合が、ジスルフィド架橋によって結合されたダイマーを形成するのを防止することになる。
【0030】
2. 2番目の可能な担体は、天然の酵素リゾチーム、好ましくは組換え型ヒトリゾチームである。これは、分子量14kDaの内在性タンパク質である。
【0031】
3. 3番目の可能な担体は、低度にN-アセチル化されたヒドロキシエチル低分子量キトサンである。キトサンは、グルコサミンと、キチンから誘導されたN-アセチルグルコサミンとの天然コポリマーである。腎尿細管細胞によって特異的に取り込まれ、優れた生態的合成及び生分解性を示す。ヒドロキシエチルキトサンは、分子量20kDa以下のものであり、且つ10%レベルまでランダムにN-アセチル化されている。薬物部分は、コハク酸スペーサーアームによって結合されている。この技術は、非コンジュゲートプレドニゾロン対照による濃度よりも13倍高い腎プレドニゾロン濃度が得られるように、水難溶性のステロイド薬物プレドニゾロンを腎尿細管細胞へと標的化するための優れた結果をもたらしている(Yuan他 2007、2009、2011)。
【0032】
前述の2つ以外の低分子量タンパク質担体を使用することができ、ウシ膵臓又は肺由来の6-kDaプロテアーゼ阻害剤のアプロチニンが含まれる。しかし、これはヒトタンパク質ではないため、時折アレルギー反応が見られ、また心肺バイパス手術において抗線溶薬として高投与量で使用された場合、ARIの発生率の増加に関連したことから、より好ましくない。
【0033】
薬物と担体のコンジュゲーション
提案される免疫抑制薬の唯一の反応基は、ヒドロキシ基であるため、コンジュゲーションはこの基を介して行われる。このタイプのコンジュゲーションは水及びアルコールの非存在下で行われなければならない。全ての薬物がジメチルスルホキシド(DMSO)に高度に可溶性であり、したがって乾燥DMSOはコンジュゲーションのための媒質を形成する。ヒドロキシ基は、担体上のアミノ基とカルバメート結合を形成することができるよう、薬剤N,N'-カルボニルジイミダゾール(CDI)、N,N'-ジスクシンイミジルカーボネート(DSC)、又はN-ヒドロキシスクシンイミジルクロロホルメートのうちの1つによって活性化される。この手順及び他の適切な手順が、先行技術に知られている(Yuan他 2007、Hermanson 2013)。活性化後に、薬物は、別法として、更なるより実用的なコンジュゲーションの可能性を与える、4-(アミノメチル)ピリジン等の、部分と結合してよい。これは、プラチナ(II)ベースのUniversal Linkage System (ULS; Kreatech Diagnostics、オランダ、アムステルダム)によってコンジュゲーションの基盤を形成することができるピリジン環を付加する。このプラチナリンカーは、ピリジル基又は他のタイプの芳香族窒素との安定な配位性結合を形成し、リゾチーム等のタンパク質性の担体中のチオール基とコンジュゲートすることができる(Dolman他 2012)。
【0034】
五環性トリテルペノイド/サポニン組合せの形成
構造的特徴及びそれらのコンジュゲーションの可能性に関して記述された免疫抑制剤に当てはまる考察の多くはまた、本発明の組成物における五環性トリテルペノイド、フラボノイド及びサポニンにも当てはまる。それらは、中性に近いpHにおいて水又はバッファーに難溶であり、通常は、不溶とみなされ、溶解するためには、強アルカリ又は有機溶媒中での溶解等の特別な条件を必要とする。ジオスミンは、グリコシドであり、より水溶性である。現在、ヒトで使用されるものは、通常、経口投与され、吸収を助け、且つバイオアベイラビリティを増大するために、微粒子化形態であることが多い。それらは、全てDMSOに容易に溶解し、原則として、DMSO/水混合物の静脈内注入として投与することができる。
【0035】
DMSOは実際、ヒト患者にかなり大きな用量で投与されることがあり、低投与量で、許容可能な安全性プロファイルを有する。DMSOは、固有の抗炎症作用を有し、関節リウマチ、アミロイドーシス、頭蓋内圧亢進及び間質性膀胱炎の治療のために、全身的に投与されてきた。それは、鎮痛及び抗炎症剤として局所適用されてきた。報告されている主要な不都合は、ニンニク様の口臭である。しかし、その有益な効果は弱く、DMSOは経口又は静脈内医薬としての一般的許容には到達していない。
【0036】
エマルション
静脈内注入のための、希釈溶液中低パーセンテージのDMSOを可能にすることは許容されうるが、前述の組合せの従来の静脈内製剤に関するパラダイムは、Cremophor EL(ポリオキシエチレン化ヒマシ油)とのエマルション及び注入前に生理食塩水で5から20倍に希釈される無水エタノール混合物を含む、プラクシタキソール(praxitaxol)又はシクロスポリンA等の、他の水に不溶な天然製品の許容された製剤であろう。しかし、Cremophor ELはそれ自体、アナフィラキシーを含む有害反応に関連するため、純粋なトリグリセリド油及びレシチンに基づく代替製剤もまた使用されうる。
【0037】
リポソーム
前述の五環性トリテルペノイド及びサポニンを送達する別の方法は、リポソームの水性懸濁液の形態におけるものである。これらの疎水性薬物に関して、リポソームは単層であり、その製造は当業者に周知である。これらは、腎細胞の表面タンパク質に親和性のあるタンパク質分子、例えば腎細胞表面抗原に対する抗体を、親水性の外膜に包埋することによって、腎臓に対してさえも標的化されうる。しかし、リポソームが、含有された薬物の作用が最も重要であると考えられる腎尿細管細胞の頂端膜側に到達することは起こりそうもない。リポソームが、糸球体内皮において、開窓を通過して、糸球体濾液に流入する場合、メサンギウム細胞を標的とする可能性が最も高いことになる。したがって、ARIに関連していかなる標的化も最適でありそうもないため、リポソーム製剤の使用は、いっそう、これら薬物の静脈内送達のためのエマルションの代替とみなされる。
【0038】
五環性トリテルペノイド及びサポニンの腎臓に対する標的化
前述の薬物の毒性プロファイルについて知られていることは、全身毒性を低減するために、これら薬物を腎臓に対して標的化する必要性を求めるというようなことではない。しかし、これら薬物を腎臓に対して標的化することは、より低投与量でより大きな腎臓への効果が得られること及び発生しうるいかなる全身的副作用をも低減することを可能にすることになる。これら薬物は実際、免疫抑制薬に関して記述されている方法と非常に類似した方法によって、腎尿細管細胞に対して標的化されうる。トリテルペノイド及びサポニンの標的化についてのパラダイムは、トリプトライドの標的化によって与えられる。トリプトライドは実際、中国において多発性嚢胞腎等の慢性腎疾患の治療に使用されるジテルペノイドエポキシドである。したがって、トリプトライド、そのコンジュゲート及び腎疾患を治療するためのそれらの使用は、本発明の範囲外にある。トリプトライドは、非常に低い水溶性及び消化器系、泌尿生殖器系、循環器系及び生殖器系に対する非常に低い毒性作用の両方を有する。トリプトライドは、コハク酸スペーサーによるエステル結合によってリゾチームにコンジュゲートされた。コンジュゲートの腎中濃度は、静脈注射の30分後に等用量の薬物によって得られるものより20倍高かった(Zheng他 2006)。トリプトライド-リゾチームコンジュゲートは、非コンジュゲートトリプトライドが示した肝毒性のわずか約1/5の肝毒性を示し、且つ免疫系に対する有害作用を生じなかった。本発明の目的において、コンジュゲーションに使用される好ましい標的化担体は、組換え型ヒトNGAL、好ましくはその非グリコシル化形態で、且つタンパク質鎖の87位のシステイン残基が欠落している組換え型ヒトNGALである。
【0039】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は他の薬物と組み合わせての使用のためのものである。
【0040】
いくつかの実施形態において、組成物は、他の薬物と組み合わせて使用される場合、急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療のために使用される。
【0041】
本発明の実施形態
1.オキセクロスポリンを含む、シクロスポリンファミリーのメンバー、及び非シクロスポリン化合物のタクロリムス、セロリムス及びエベロリムスを含むリストから選択される薬物を含む組成物であって、リンパ球による取込みを妨げ、且つ/又は前記薬物を主として腎臓に標的化するコンジュゲート、又はリポソーム、ミセル若しくはナノ粒子懸濁液の形態での静脈内投与のために製剤化される組成物。
2.静脈内投与のために製剤化される、薬物の組合せを含む組成物であって、前記組合せが、セラストロール、プリスチメリン及びベツリン酸を含むリストから選択される五環性トリテルペノイドと共に、ジオスミン、ヘスペリジン及びアメリカニンジン由来のサポニンを含むリストから選択されるサポニン又はフラボノイドからなる、組成物。
3.静脈内投与のために製剤化される、急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療における使用のための、実施形態1又は2に記載の組成物。
4.薬物が、任意選択でグリコシル化及び/又は、そのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を欠いていてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたシクロスポリンAである、実施形態1に記載の組成物。
5.薬物が、任意選択でグリコシル化及び/又は、そのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を欠いていてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたシクロスポリンGである、実施形態1に記載の組成物。
6.薬物が、任意選択でグリコシル化及び/又は、そのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を欠いていてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたオキセクロスポリンである、実施形態1に記載の組成物。
7.薬物が、任意選択でグリコシル化及び/又は、そのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を欠いていてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたタクロリムスである、実施形態1に記載の組成物。
8.薬物が、任意選択でグリコシル化及び/又は、そのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を欠いていてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたセロリムスである、実施形態1に記載の組成物。
9.薬物が、任意選択でグリコシル化及び/又は、そのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を欠いていてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたエベロリムスである、実施形態1に記載の組成物。
10.NGALが、グリコシル化を欠いているNGAL、又は87位のシステイン残基を欠いているNGAL、又はグリコシル化を欠いており87位のシステイン残基を欠いているNGALのいずれか1つの形態である、実施形態4から9のいずれか1項に記載の組成物。
11.薬物の組合せが、ベツリン酸及びジオスミンを含む、実施形態2に記載の組成物。
12.薬物の組合せが、セラストロール及びジオスミンを含む、実施形態2に記載の組成物。
13.薬物が、任意選択でグリコシル化及び/又は、そのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を欠いていてよいヒトNGAL、又はリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしている、実施形態11又は12に記載の組成物。
14.急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療における使用のための、別の薬物と組み合わされた、実施形態1~13のいずれか一項に記載の組成物。
15.急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療における使用のための、静脈内投与のために製剤化される、実施形態1~2、4~13のいずれか一項に記載の組成物。
16.急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療のための方法であって、そうした予防及び/又は治療を必要とする対象に実施形態1~2及び4~13のいずれか一項に記載の組成物を静脈内投与することを含む方法。
【0042】
本発明の好ましい組成物
本発明の組成物は、好ましくは単独でARIの早期治療、先制的治療又は予防に使用される、オキセクロスポリンを含む、シクロスポリンファミリーのメンバー、及び非シクロスポリン化合物のタクロリムス、セロリムス及びエベロリムスを含むリストから選択される化合物を含む。化合物は、リンパ球による取込みを妨げ、且つ/又は薬物を主として腎臓に標的化することを目的とする、コンジュゲート、又はリポソーム、ミセル若しくはナノ粒子懸濁液の形態で、静脈内に投与されうるような方法で製剤化される。好ましい化合物は、シクロスポリンAであり、より好ましくはシクロスポリンGであり、最も好ましくはオキセクロスポリンである。単一化合物の使用に対する選好にもかかわらず、化合物は、ARI治療に対する相加的又は相乗的な有益な効果を有することが示されている他の化合物と組み合わせられて又は共に使用されてよい。リンパ球による化合物の取込みを妨げ、且つ/又は薬物を主として腎臓に標的化するための好ましい担体又はコンジュゲーションパートナーは、NGALである。
【0043】
本発明の組成物はまた、セラストロール、プリスチメリン及びベツリン酸を含むリストから選択される五環性トリテルペノイドと共に、ジオスミン、ヘスペリジン及びアメリカニンジン由来のサポニンを含むリストから選択されるサポニン又はフラボノイドからなる薬物の組合せをも含む。この組合せの薬物は、組合せが静脈内に投与されうるような方法で製剤化される。この組合せの薬物はまた、それらを主として腎臓に標的化するためのコンジュゲートとして製剤化されていてもよい。好ましい組合せは、ジオスミンと組み合わせたベツリン酸であるが、より好ましい組合せは、ジオスミンと組み合わせたセラストロールである。好ましい担体又はコンジュゲーションパートナーは、NGALである。
【0044】
使用される適応症
本発明による組成物が使用される適応症は以下の通りである:
【0045】
1)臨床的特徴、並びに客観的マーカー、腎損傷マーカータンパク質、例えば、最も注目されているものを挙げると、NGAL、インターロイキン18(IL-18)、肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)、腎障害分子1(KIM-1)、インスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)、組織メタロプロテアーゼ阻害物質-2(TIMP-2)、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、熱ショックタンパク質70(Hsp70)、システインリッチタンパク質61(Cyr61)、オステオポンチン、ジペプチジルペプチターゼIV(DP4)、シスタチンC(cysC)及びネトリン-1のうちの1つ又は複数の尿排出量の低下又は尿中濃度の上昇によって、診断が確立されているものと臨床医がみなしてすぐのARIの早期治療。
【0046】
2)ARIのリスクが高いと臨床医が判定した場合、及び診断的にでなくても、腎損傷マーカータンパク質の濃度の実質的な上昇がある場合のARIの先制的治療。
【0047】
3)患者がある事象に苦しんでいるか、又はARIの高リスクに関連することが知られている医療若しくは外科的処置(心肺バイパス手術等)を受けた場合のARIの予防。
【0048】
製剤
エンドユーザーに送達されるときの本発明の組成物の製剤化の主要な側面は、前述されている。組成物は、静脈内注入によって投与される前に希釈用の溶液、エマルション、又はリポソーム調製物として送達される。0.9%塩化ナトリウム溶液、5%ブドウ糖溶液、緩衝食塩水、生理学的適合性のある緩衝液等を含む種々の水性希釈剤が使用されてよいが、これらに限定されるものではない。組成物は、典型的には、水性希釈剤5の中に1、から20の中に1までの容量の希釈液として与えられる。
【0049】
組成物は、pH調整剤又は緩衝剤及び/又は浸透圧調整剤、例えば、コハク酸、クエン酸、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等を含むが、これらに限定されない、薬学的に許容される補助物質又はアジュバントを含んでよい。
【0050】
本発明の組成物及び製剤のpH値は、3から10の間;例えば、4から9の間;例えば、4から8の間;例えば、5から8の間;例えば、6から8の間;好ましくは6.5から7.5の間のpHに調整されてもよく、例えば、前記組成物は、約7、例えば、7.4のpHを有する。
【0051】
投与
本発明の組成物は、希釈された調製物の注入による静脈内投与のためのものである。投与のタイミングは重要である。投与は、担当臨床医が使用される適応症が存在するとみなしてすぐに行われるべきである。
【0052】
免疫抑制抗生物質のコンジュゲートを含む調製物は、典型的には、単一用量として与えられ、24時間後に1回反復投与されてよい。これは、ARIに対する有益な作用が即時性であるためであるが、一方で、非コンジュゲート活性物質の長期的使用は、前述のように、異なるタイプの腎損傷を誘発するわずかな、可変的リスクに関連する。
【0053】
五環性トリテルペノイド/サポニン組合せを含む調製物は、典型的には、単一1日用量で、5日間まで投与される。ARIが、この期間内に治療に応答しない場合、治療を延長することによって何らかの利益が得られることは見込まれない。
【0054】
投与量
本発明の組成物の投与量は、単一用量で投与される各活性物質の量に関係する。標的化されたコンジュゲートが使用される場合、投与量はコンジュゲート中に存在する活性物質の量に関係する。
【0055】
標的化されたコンジュゲートに関して、投与量は、非コンジュゲート薬物物質の通常の用量の1/5以下、例えば1/20の1/10であってよい。したがって、投与量は以下の範囲である:
【0056】
コンジュゲートシクロスポリンA: 0.25mg/kgから1mg/kg
コンジュゲートシクロスポリンG: 0.25mg/kgから1mg/kg
コンジュゲートオキセクロスポリン: 0.5mg/kgから2mg/kg
コンジュゲートタクロリムス: 0.005mg/kgから0.02mg/kg
コンジュゲートシロリムス: 0.5μg/kgから2μg/kg
コンジュゲートエベロリムス: 0.5μg/kgから2μg/kg
【0057】
セラストロール: 0.5mg/kgから2mg/kg(標的化コンジュゲートについてはこの用量の1/10)
プリスチメリン: 0.5mg/kgから2mg/kg(標的化コンジュゲートについてはこの用量の1/10)
ベツリン酸: 0.25mg/kgから1mg/kg(標的化コンジュゲートについてはこの用量の1/10)
ジオスミン: 0.5mg/kgから2mg/kg(標的化コンジュゲートについてはこの用量の1/10)
ヘスペリジン: 0.5mg/kgから2mg/kg(標的化コンジュゲートについてはこの用量の1/10)
アメリカニンジンサポニン: 0.5mg/kgから2mg/kg(標的化コンジュゲートについてはこの用量の1/10)
【実施例0058】
ARIの動物モデルにおける本発明の実施は、以下に記述の非限定的実施例によって例証される。
【0059】
動物モデル:現在使用されているARIの動物モデルは数多くある。最も一般的に使用されるのは、マウス及びラット等の齧歯類モデルである。使用されたモデルの非限定的例は以下である:
【0060】
虚血/再灌流障害:Sprague-Dawleyラット又はWistarラットが最も一般的に使用されるが、マウスもまた使用されうる。ラットに対するプロトコールの非限定的例並びにマウスに対するプロトコールの非限定的一例がMishra他(2003)によって示されている。
【0061】
腎毒性障害:マウス及びラットの両方が一般的に使用される。CD-1マウスにおいてARIが、葉酸の腹腔内注射によって誘発されるプロトコールが、Wen他(2012)によって示され、Mishra他(2003)は、シスプラチンの腹腔内注射によるマウスにおけるARIの誘発に関するプロトコールを提供している。
【0062】
炎症性障害:齧歯類における炎症性ARIのモデルは、糞便性腹膜炎を誘発するための、高用量のLPSの注射、細菌の注射、又は盲腸の結紮及び穿孔を含む。そうしたモデル及び非齧歯類動物における代替モデルは、Zarjou及びAgarwal(2011)並びにRabb他(2016)によって論じられている。
【0063】
化合物の投与:本発明の化合物に共通しているのは、細胞内タンパク質と相互作用してAIRの結果を軽減することがある効果を生み出す特定の反応基をほとんど又は全く含まない水に不溶(ジオスミンを除く)な、平面分子であることである。経口投与された場合、それらは吸収され難く、且つ10~20%の範囲で、低いバイオアベイラビリティを示す。ARIに罹りやすい重篤状態の患者において、そうした薬物は静脈内に投与する必要があることになる。したがって、静脈内投与は、ヒトでの使用可能性への転移性を確保するために、実験動物における試験に対する好ましい処置である。したがって化合物は、静脈内投与を可能にするよう製剤化される腹腔内投与は、代替として使用されうるが、患者における所期の投与経路よりは劣る。
【0064】
(実施例1)
腎臓に標的化されていない化合物の試験
セラストロール、ベツリン酸及びジオスミンは、Sigma-Aldrich Co.より購入した。セラストロール及びベツリン酸をDMSOに溶解し、静脈注射用に又は別法として、腹腔内注射用に、その溶液を0.9%塩化ナトリウム溶液で希釈して各活性化合物を少なくとも1mg/mLの濃度にする。これらの化合物を、単独で及び組み合わせて、Wen他(2012)によって記述されているように、葉酸の腹腔内注射によってマウスにおいて誘発されたARIの予防及び/又は治療に関して試験した。セラストロール又はベツリン酸の用量は、5~50mg/kgの範囲であり、ジオスミンの用量は、10~100mg/kgの範囲である。これらを尾静脈に静脈内投与する。ARIの予防を試験するために、葉酸投与の30分前に化合物を投与し、ARIの治療を試験するために、葉酸投与の30分後に化合物を投与する。投与は、毎日、5日間繰り返す。第2、3、7及び14日に、メタボリックケージ内で尿を採取し、血液試料を伏在静脈から採取する。少なくとも尿、クレアチニン及びNGALを試料において測定する。各群12匹のマウスで、正常対照、葉酸未処置群、及び異なる用量又は薬物の組合せによる3つの治療群を構成する。
【0065】
(実施例2)
腎臓に対して標的化されていない化合物の確認試験
前述の化合物の確認試験は、(例えば、Mishra他、2003において記述のように)虚血-再灌流障害のラットモデルにおいて行われてよい。薬物の用量は、実施例1で得られた結果に照らして決定されたものであり、治療効果の確認のために再灌流の開始以降に静脈内投与しなければならない。サンプリングは、最初の24時間の間のタイムポイントにおいて行うものとし、同一のバイオマーカーを測定するものとする。
【0066】
(実施例3)
腎臓に標的化されたコンジュゲート化合物の試験
試験される化合物は、前述の投与量のセクションに列挙したコンジュゲート化合物のいずれか1つであり、そのセクションにおいて示された対応する用量範囲で試験される。担体又はコンジュゲーションパートナーは、コンジュゲートが試験される動物種の非グリコシル化組換え型NGALである。試験のプロトコールは、前述の実施例1及び実施例2において示されたものである。
【0067】
【表1】
【表2】
【表3】
【手続補正書】
【提出日】2024-03-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキセクロスポリンを含む、シクロスポリンファミリーのメンバー、並びに非シクロスポリン化合物のタクロリムス、セロリムス及びエベロリムスを含むリストから選択される薬物を含む組成物であって、前記薬物が、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)又はリゾチーム又は低分子量キトサンとコンジュゲートしており、前記コンジュゲートが、ヒト対象における急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療における使用のための静脈内投与のために製剤化される、組成物。
【請求項2】
前記薬物が、グリコシル化及び/若しくはそのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を任意選択で欠いてよい組換えで製造されたヒトNGAL、又は組換えで製造されたヒトリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたシクロスポリンAである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記薬物が、グリコシル化及び/若しくはそのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を任意選択で欠いてよい組換えで製造されたヒトNGAL、又は組換えで製造されたヒトリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたシクロスポリンGである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記薬物が、グリコシル化及び/若しくはそのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を任意選択で欠いてよい組換えで製造されたヒトNGAL、又は組換えで製造されたヒトリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしたオキセクロスポリンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記薬物が、タクロリムス、セロリムス及びエベロリムスを含むリストから選択され、グリコシル化及び/若しくはそのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を任意選択で欠いてよい組換えで製造されたヒトNGAL、又は組換えで製造されたヒトリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしている、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記NGALが、グリコシル化を欠くNGAL、又は87位のシステイン残基を欠くNGAL、又はグリコシル化を欠き87位のシステイン残基を欠くNGALのいずれか1つの形態である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
ヒト対象における急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療における使用のための静脈内投与のために製剤化される薬物の組合せを含む組成物であって、前記組合せが、セラストロール、プリスチメリン及びベツリン酸を含むリストから選択される五環性トリテルペノイドと共に、ジオスミン、ヘスペリジン及びアメリカニンジン(Panax quinquefolium)由来のサポニンを含むリストから選択されるサポニン又はフラボノイドからなる、組成物。
【請求項8】
前記薬物の組合せが、ベツリン酸及びジオスミンを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記薬物の組合せが、セラストロール及びジオスミンを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記薬物が、グリコシル化及び/若しくはそのタンパク質鎖の87位のシステイン残基を任意選択で欠いてよい組換えで製造されたヒトNGAL、又は組換えで製造されたヒトリゾチーム、又は低分子量キトサンとコンジュゲートしており、前記コンジュゲートが、ヒト対象における急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療における使用のための静脈内投与のために製剤化される、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療における使用のための請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物であって、前記組成物が、別の薬物と組み合わされる、組成物。
【請求項12】
急性腎障害の予防及び/又は先制的治療及び/又は治療のための方法であって、そうした予防及び/又は治療を必要とする対象に請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物を静脈内投与することを含む、方法。
【外国語明細書】