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特開2024-6925感光性樹脂組成物、フレキソ印刷原版、フレキソ印刷版、硬化物の製造方法、フレキソ印刷版の製造方法、及び印刷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006925
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】感光性樹脂組成物、フレキソ印刷原版、フレキソ印刷版、硬化物の製造方法、フレキソ印刷版の製造方法、及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/26 20060101AFI20240110BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20240110BHJP
   G03F 7/027 20060101ALI20240110BHJP
   B41N 1/06 20060101ALI20240110BHJP
   B41C 1/055 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G03F7/26 501
G03F7/00 502
G03F7/027 513
B41N1/06
B41C1/055
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011540
(22)【出願日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2022104604
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】玉野 孝一
【テーマコード(参考)】
2H084
2H114
2H196
2H225
【Fターム(参考)】
2H084AA30
2H084AA32
2H084BB04
2H084CC01
2H084CF02
2H084CF03
2H084CF06
2H114AA23
2H114BA02
2H114DA60
2H114EA02
2H114FA02
2H196AA02
2H196AA30
2H196EA02
2H196LA17
2H225AC21
2H225AC24
2H225AC33
2H225AC36
2H225AC57
2H225AD02
2H225AD04
2H225AM49P
2H225AM64P
2H225AN23P
2H225BA09P
2H225CA02
2H225CB02
2H225CC01
2H225CC13
(57)【要約】
【課題】優れた耐溶剤性と柔軟性を高いレベルで両立したフレキソ印刷版を製造可能な感光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】波長360nmを含む光の硬化物が、下記の<条件1>、及び<条件2>を満たす、感光性樹脂組成物。
<条件1>
23℃において、測定部分が厚さ1mm、縦30mm、横3mmのダンベル型の試験片を、500mm/minの速度で引張試験をしたときの破断伸度が250%以上である。
<条件2>
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)又はγ-ブチロラクトン(GBL)に24時間浸漬させたときの質量増加率が25質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長360nmを含む光の硬化物が、下記の<条件1>、及び<条件2>を満たす、感光性樹脂組成物。
<条件1>
23℃において、測定部分が厚さ1mm、縦30mm、横3mmのダンベル型の試験片を、500mm/minの速度で引張試験をしたときの破断伸度が250%以上である。
<条件2>
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)又はγ-ブチロラクトンに24時間浸漬させたときの質量増加率が25質量%以下である。
【請求項2】
前記感光性樹脂組成物が、ポリウレタンプレポリマーを含有する、
請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリウレタンプレポリマーが、水素化ポリブタジエン構造を有している、
請求項2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
基材と、
請求項1に記載の感光性樹脂組成物と、
を、有するフレキソ印刷原版。
【請求項5】
基材と、
請求項1に記載の感光性樹脂組成物の波長360nmを含む光の硬化物と、
を、有し、
前記硬化物が、前記<条件1>における破断伸度が250%以上であり、かつ、前記<条件2>におけるN-メチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトンに24時間浸漬させたときの質量増加率が25質量%以下である、フレキソ印刷版。
【請求項6】
請求項1に記載の感光性樹脂組成物に、波長360nmを含む光を照射する工程を有する、
硬化物の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の感光性樹脂組成物を基材に積層させ、フレキソ印刷原版を得る工程と、
前記フレキソ印刷原版に、波長360nmの光を含む光を照射して前記感光性樹脂組成物を光硬化させる工程と、
前記光硬化における未露光部を除去する現像工程と、
を、有するフレキソ印刷版の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のフレキソ印刷版の製造方法によりフレキソ印刷版を製造する工程と、
前記フレキソ印刷版に対してインキを付着させるインキ付着工程と、
前記インキを転写させる転写工程と、
を、有する、印刷方法。
【請求項9】
液晶表示素子の製造に使用する液晶配向膜を印刷する方法である、
請求項8に記載の印刷方法。
【請求項10】
前記インキが、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネート、エチルエトキシプロピオネート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、シクロヘキサン、1-オクタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれる、1種以上の溶剤を含む、
請求項8に記載の印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂組成物、フレキソ印刷原版、フレキソ印刷版、硬化物の製造方法、フレキソ印刷版の製造方法、及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂組成物を用いたフレキソ印刷版を活用したフレキソ印刷は、凹凸のある紙や不織布、平滑性の高いプラスチックフィルムに対して優れた印刷特性を示すため、段ボール印刷や食品包装用印刷等、各種産業で広く用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、フレキソ印刷版は、高度な柔軟性を備えるため、液晶用無アルカリガラス板や、半導体ウエハー等の表面に傷がつくことが許容できない面に対する印刷用途へも近年は展開されている。
特に、液晶用無アルカリガラス板に対する印刷を行う印刷版、具体的には配向膜印刷に供されるフレキソ印刷版においては、大型化と、大型サイズ内での版厚み精度や版表面パターンの高精細性が要求されるようになっている。
【0004】
液晶用無アルカリガラス板に形成される配向膜は、ポリイミドやその前駆体であるポリアミド酸をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)やγ-ブチロラクトン等の極性溶媒で溶解した配向膜ワニスを、フレキソ印刷版を用いて印刷することで得られる。
しかし、前記配向膜ワニスを形成するために用いる前記極性溶媒は、フレキソ印刷版を膨潤させるものであり、高い印刷品質(版厚み精度や版表面パターンの高精細性)を達成するためには、フレキソ印刷版を形成する感光性樹脂組成物の耐溶剤性を向上させることが必要である。
【0005】
一般的に、フレキソ印刷版を形成する感光性樹脂組成物は架橋性高分子であることから、従来から、架橋密度を向上させることにより感光性樹脂組成物の耐溶剤性を向上させている。
しかしながら、感光性樹脂組成物の架橋密度を向上させると、最終的に得られるフレキソ印刷版の柔軟性が損なわれ、フレキソ印刷版の耐久性の指標である伸度と靭性が低下する傾向にある、という問題点を有している。フレキソ印刷版においては、一か所の破損でフレキソ印刷版が全損となることから、大型化したフレキソ印刷版には小型のフレキソ印刷版以上の耐久性が必要となる。
【0006】
例えば、特許文献3、4には、耐溶剤性を向上させたフレキソ印刷版に関する技術が開示されている。
しかしながら、大型のフレキソ印刷版に求められる印刷品質、例えば、版厚み精度や版表面パターンの高精細性と、耐溶剤性との両立が未だ不十分であり、改善の余地があるという問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-92659号公報
【特許文献2】特開2004-148309号公報
【特許文献3】特許第3835867号公報
【特許文献4】特許第5206434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来においては、印刷品質の向上のために感光性樹脂組成物の架橋密度を向上させることにより耐溶剤性を改善させる技術が提案されていたが、それにより感光性樹脂組成物の柔軟性が失われ、フレキソ印刷版の耐久性が低下するという問題点があった。
【0009】
そこで本発明においては、優れた耐溶剤性(低膨潤)と、柔軟性(伸度、靭性)を高いレベルで両立したフレキソ印刷版を製造可能な、感光性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、所定の物性を有する感光性樹脂組成物が、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、下記の通りである。
【0011】
〔1〕
波長360nmを含む光の硬化物が、下記の<条件1>、及び<条件2>を満たす、感光性樹脂組成物。
<条件1>
23℃において、測定部分が厚さ1mm、縦30mm、横3mmのダンベル型の試験片を、500mm/minの速度で引張試験をしたときの破断伸度が250%以上である。
<条件2>
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)又はγ-ブチロラクトンに24時間浸漬させたときの質量増加率が25質量%以下である。
〔2〕
前記感光性樹脂組成物が、ポリウレタンプレポリマーを含有する、前記〔1〕に記載の感光性樹脂組成物。
〔3〕
前記ポリウレタンプレポリマーが、水素化ポリブタジエン構造を有している、前記〔2〕に記載の感光性樹脂組成物。
〔4〕
基材と、
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の感光性樹脂組成物と、
を、有するフレキソ印刷原版。
〔5〕
基材と、
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の感光性樹脂組成物の波長360nmを含む光の硬化物と、
を、有し、
前記硬化物が、前記<条件1>における破断伸度が250%以上であり、かつ、前記<条件2>におけるN-メチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトンに24時間浸漬させたときの質量増加率が25質量%以下である、フレキソ印刷版。
〔6〕
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の感光性樹脂組成物に、波長360nmを含む光を照射する工程を有する、硬化物の製造方法。
〔7〕
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の感光性樹脂組成物を基材に積層させ、フレキソ印刷原版を得る工程と、
前記フレキソ印刷原版に、波長360nmの光を含む光を照射して前記感光性樹脂組成物を光硬化させる工程と、
前記光硬化における未露光部を除去する現像工程と、
を、有するフレキソ印刷版の製造方法。
〔8〕
前記〔7〕に記載のフレキソ印刷版の製造方法によりフレキソ印刷版を製造する工程と、
前記フレキソ印刷版に対してインキを付着させるインキ付着工程と、
前記インキを転写させる転写工程と、
を、有する、印刷方法。
〔9〕
液晶表示素子の製造に使用する液晶配向膜を印刷する方法である、前記〔8〕に記載の印刷方法。
〔10〕
前記インキが、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネート、エチルエトキシプロピオネート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、シクロヘキサン、1-オクタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれる、1種以上の溶剤を含む、前記〔8〕又は〔9〕に記載の印刷方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた耐溶剤性と柔軟性を高いレベルで両立したフレキソ印刷版を製造可能な感光性樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施できる。
【0014】
〔感光性樹脂組成物〕
本実施形態の感光性樹脂組成物は、
波長360nmを含む光の硬化物が、下記の<条件1>、及び<条件2>を満たす。
<条件1>
23℃において、測定部分が厚さ1mm、縦30mm、横3mmのダンベル型の試験片を、500mm/minの速度で引張試験をしたときの破断伸度が250%以上である。
<条件2>
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)又はγ-ブチロラクトンに24時間浸漬させたときの質量増加率が25質量%以下である。
【0015】
上記構成を有することにより、優れた耐溶剤性と柔軟性を高いレベルで両立したフレキソ印刷版を製造可能な感光性樹脂組成物が得られる。
【0016】
(感光性樹脂組成物の硬化物の破断伸度)
本実施形態の感光性樹脂組成物は、光硬化性を有する樹脂組成物であり、波長360nmを含む光による硬化物の、上記<条件1>における破断伸度が250%以上である。好ましくは250%以上1000%以下であり、より好ましくは300%以上900%以下であり、さらに好ましくは350%以上800%以下である。
【0017】
上記<条件1>における硬化物の破断伸度を250%以上とすることにより、優れた柔軟性が得られ、フレキソ印刷版の取り扱い時、具体的には印刷時の版胴への巻き付け工程、取り外し工程、印刷後洗浄工程の破損の機械的な外力に対し十分な耐久性を持つ傾向にある。特に本実施形態の感光性樹脂組成物の硬化物が面積0.5m2以上の場合は、ハンドリング上の取り扱い易さの観点から前記破断伸度は300%以上であることが好ましい。さらに、本実施形態の感光性樹脂組成物の硬化物が大型の面積3m2以上である場合は、前記破断伸度は350%以上であることが好ましい。
【0018】
本実施形態の感光性樹脂組成物は一般的な光硬化反応と同じく、露光により光反応が進行するため、露光量を調整することにより硬化反応を制御することが可能である。前記露光量を調整することにより硬化物の破断伸度を上記数値範囲に制御できる。ただし、靭性に関しては、常に50kgf×mm以上に保つ必要性がある。
本実施形態の感光性樹脂組成物の硬化物の破断伸度は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
破断伸度の増加手法としては、樹脂の化学あるいは物理架橋点の低密度化が有効であり、本実施形態の感光性樹脂組成物に用いる樹脂組成や硬化方法を調整することにより、上記数値範囲に制御することができる。
具体的には感光性樹脂組成物の樹脂組成として、温度23℃で液状であるポリマー成分、ラジカル反応性基を有するエチレン性モノマー成分、エチレン性モノマーの反応を開始する開始剤成分を含むものとすることが好ましい態様である。前記温度23℃で液状のポリマー成分としては、例えば、23℃で液体のポリウレタンプレポリマーを用いることができ、開始剤成分としては、例えば、光ラジカル重合開始剤を用いることができる。このとき、エチレン性モノマーの含有量をポリウレタンプレポリマー100質量部に対して、40質量部以下10質量部以上とし、エチレン性モノマー100質量部に対してラジカル反応性官能基を2つ以上有するエチレン性モノマーを0質量部以上30質量部以下で含むものとすることが好ましい。この感光性樹脂組成物を1mm厚に成形し、360nmを含む光で照射することで条件1を満たすものとすることができる。硬化方法としては例えば照度が0.5~500mW/cm2の光で、表裏をそれぞれ0.05~60分露光することで条件1を満たすものとすることができる。
【0019】
(感光性樹脂組成物の硬化物の耐溶剤性)
本実施形態の感光性樹脂組成物は、光硬化性を有する樹脂組成物であり、波長360nmを含む光の硬化物を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)又はγ-ブチロラクトンに24時間浸漬させたときの質量増加率が25質量%以下である。
具体的には、波長360nmを含む光の硬化物を1cm×5cm×1mm厚のサンプル片に切り取り、前記サンプル片をN-メチル-2-ピロリドン(NMP:富士フィルム和光純薬製99.0+% (Capillary GC))又はγ-ブチロラクトン(GBL:東京化成製>99.0%(GC))に、温度23℃(湿度50%)で、24時間浸漬させたときの質量増加率が25質量%以下である。
好ましくは1質量%以上25質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上15質量%以下である。
【0020】
硬化物において前記質量増加率を1質量%以上であれば、フレキソ印刷版の表面と配向膜ワニスとの濡れ性は必要十分になりムラなく印刷が可能になる傾向にある。
また、前記質量増加率を25質量%以下とすることによって優れた耐溶剤性が発揮でき、実際の配向膜印刷時でのフレキソ印刷版表面へ形成したパターンの変形を抑制でき、高精細化を達成できる傾向にある。
また、特にフレキソ印刷版の面積が0.5m2以上の場合は、前記質量増加率を15質量%以下、特にフレキソ印刷版の面積が大型の3m2以上の場合は、前記質量増加率を10質量%以下にすることで、フレキソ印刷版の大型化に伴う面内厚みムラを抑制できる。
本実施形態の感光性樹脂組成物の硬化物の質量増加率は、硬化物を形成する際の露光量を調整することにより、上記数値範囲に制御できる。
本実際形態の感光性樹脂組成物の硬化物の質量増加率は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
質量増加率は、樹脂の化学あるいは物理架橋点の高密度化を行うことにより小さくすることができ、これにより耐溶剤性の向上は図られる。これらは樹脂組成や硬化方法により調整することにより、制御することができる。
具体的には感光性樹脂組成物の樹脂組成として疎水性の単位構造を有したポリマー成分、エチレン性モノマー成分、エチレン性モノマーの反応を開始する開始剤成分を含むものとすることが好ましい態様である。疎水性の単位構造としては例えば水素添加したポリブタジエンを有するポリウレタンプレポリマーを用いることができ、前記エチレン性モノマー成分としては、例えば、ラジカル反応性官能基を2つ以上有しているもの;あるいは疎水性が高く、エチレン性モノマーが単独重合した高分子量体のガラス転移温度が50℃以上となる、飽和環状化合物、ラジカル反応性官能基を1つのみ有するエチレン性モノマー;を用いることができ、さらに、感光性樹脂組成物は、光ラジカル重合開始剤を含有することが好ましい。この感光性樹脂組成物を1mm厚に成形し、360nmを含む光で照射することで条件2を満たすものとすることができる。硬化方法としては例えば照度が0.5から500mW/cm2の光で、表裏をそれぞれ0.05から60分露光することで条件2を満たすものとすることができる。
【0021】
(感光性樹脂組成物の硬化物の靭性)
本実施形態の感光性樹脂組成物は、波長360nmを含む光による硬化物の靭性が、50kgf×mm以上300kgf×mm以下であることが好ましい。より好ましくは80kgf×mm以上250kgf×mm以下であり、さらに好ましくは100kgf×mm以上220kgf×mm以下である。
硬化物の靭性を50kgf×mm以上とすることにより、柔軟性が得られ、本実施形態の感光性樹脂組成物を用いたフレキソ印刷版による印刷時に、被印刷物の凹凸に追従可能となる硬度となり、印刷物の不良発生の抑制を可能とすることができる。また印刷時の版胴への巻き付け工程で、破損を防止でき、良好な作業効率を実現できる。
また、硬化物の靭性を50kgf×mm以上とすることにより、高い耐欠け性が得られ、本実施形態の感光性樹脂組成物を用いたフレキソ印刷版による印刷時、ハンドリング時に、物理的な衝撃や過剰な力による版の破損を防止でき、良好な状態を長期間保持できる。
一方で過剰な靭性は版カットのなどの整版作業においてハンドリング性が悪化することが起こりうるため300kgf×mm以下とすることが好ましく、これらを満たすことにより製版作業性と、上述した各種物性のバランスを保つことができる。
本実施形態の感光性樹脂組成物は、光硬化における露光量を調整することにより、硬化物の靭性を制御することができる。また、感光性樹脂組成物の組成を調整することにより硬化物の靭性を上述した数値範囲に制御することができる。
具体的には感光性樹脂組成物の樹脂組成として温度23℃で液状のポリマー成分、エチレン性モノマー成分、エチレン性モノマーの反応を開始する開始剤成分を含むものとすることが好ましい態様である。温度23℃で液状のポリマー成分としては、例えば23℃で液体のポリウレタンプレポリマーを用いることができ、開始剤成分としては、例えば光ラジカル重合開始剤を用いることができる。このときエチレン性モノマーの含有量がポリウレタンプレポリマー100質量部に対して、40質量部以下10質量部以上とすることが好ましい。さらにエチレン性モノマーは、当該エチレン性モノマーの単独重合物のガラス転移温度が50℃以上発現するモノマーであり、かつ、官能基として飽和環状構造と1つのラジカル反応性官能基を有するエチレン性モノマーを含むものであることが好ましい。さらにまた、感光性樹脂組成物は、光ラジカル重合開始剤を含有することが好ましい。この感光性樹脂組成物を1mm厚に成形し、360nmを含む光で照射することで、上述した靭性の条件を満たすものとすることができる。硬化方法としては例えば照度が0.5から500mW/cm2の光で、表裏をそれぞれ0.05から60分露光することで上述した靭性を満たすものとすることができる。
本実際形態の感光性樹脂組成物の硬化物の靭性は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0022】
(感光性樹脂組成物の構成材料)
本実施形態の感光性樹脂組成物は、ポリウレタンプレポリマー、エチレン性モノマー、光重合開始剤を含有していることが好ましい。
【0023】
<ポリウレタンプレポリマー>
前記ポリウレタンプレポリマーは、疎水性を有していることが好ましく、具体的にはカルボニル基、エーテル基といった極性基を有さない炭化水素のみで構成された繰り返し構造であることが好ましく、例えば、ポリオレフィン構造や水素化ポリブタジエン構造を有していることが好ましい。具体的には、前記ポリウレタンプレポリマーは、前記構造を有した両末端水酸基化合物を、ジイソシアネートによりウレタン結合で鎖延長して得られるプレポリマー前駆体の末端に重合可能なエチレン性二重結合を少なくとも1個導入して得られるポリウレタンプレポリマーであることが好ましい。
なお、極性官能基を単位構造に有したポリウレタンプレポリマーや、SBS等のエラストマーは、感光性樹脂組成物の硬化物に対して破断伸度や靭性といった機械的物性を付与する観点からは問題ないが、これらは極性が高いため、感光性樹脂組成物の硬化物に対して耐溶剤性を付与する観点からは好ましくないという側面がある。よって、前記ポリウレタンプレポリマーとしては、ポリオレフィン構造や水素化ポリブタジエンといった疎水性の単位構造を有するものであることが好ましい。
【0024】
前記ポリウレタンプレポリマーは公知の方法で合成することができる。
例えば、上述した、水素化ポリブタジエン化合物をジイソシアネートによりウレタン結合で鎖延長して得られるプレポリマー前駆体の末端に重合可能なエチレン性二重結合を少なくとも導入する反応は、第3級アミンやスズ化合物等のウレタン化触媒の存在下又は不在下で行わせることができる。また、この際の反応温度は40~100℃が好ましい。
【0025】
前記ジイソシアネートとしては、脂肪族、脂環族及び芳香族ジイソシアナートが用いられる。以下に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、2,6-及び/又は2,4-トリレンジイソシアネート(2,6-及び/又は2,4-TDI)、パラフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水素化2,6-及び/又は2,4-TDI、水素化MDI、ジシクロヘキシルジメチルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0026】
前記ポリウレタンプレポリマーを得るために、プレポリマー前駆体の末端に少なくとも1個のエチレン性二重結合を導入する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリマー前駆体の末端水酸基にあらかじめジイソシアネートを反応させて末端にイソシアネート基を導入し、次いでエチレン性二重結合とヒドロキシ基等の活性水素をもつ官能基とを有する化合物と反応させる方法や、末端水酸基とエチレン性二重結合を有するカルボン酸とエステル化させる方法が挙げられる。
【0027】
エチレン性二重結合の導入に用いられる、エチレン性二重結合とヒドロキシル基等の活性水素をもつ官能基とを有する化合物としては、以下に限定されないが、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、以下に限定されないが、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
ポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、以下に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(Mn=300~1,000)、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(Mn=300~1,000)、グリコール酸とグリシジル(メタ)アクリレートとの1:1付加反応生成物、グリセリン酸とグリシジル(メタ)アクリレートとの1:1付加反応生成物、グリセリンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
感光性樹脂組成物中のポリウレタンプレポリマーの含有量は、フレキソ印刷版の高い耐溶剤性及び高い柔軟性の観点から、感光性樹脂組成物全体100質量部に対して40~95質量部が好ましく、65~85質量部がより好ましい。
40質量部以上であることにより、ポリウレタンプレポリマーにより発現する高い耐溶剤性及び柔軟性が十分に発現でき、95質量部以下とすることにより、粘度の増加が抑制でき、良好な作業性が得られる。
【0029】
<エチレン性モノマー>
前記エチレン性モノマーとしては、公知のものが使用でき、以下に限定されないが、例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートやステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートやヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(Mn=300~1,000)やポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート(Mn=300~1,000)等のポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;カプロラクトン(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N-置換又はN,N’-置換(メタ)アクリルアミド、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(Mn=300~1,000)やポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(Mn=300~1,000)等のポリオキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらエチレン性モノマーは、目的に応じて1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
エチレン性モノマーの添加量は、前記ポリウレタンプレポリマー100質量部に対して5質量部以上200質量部以下が好ましい。エチレン性モノマーの添加量が前記ポリウレタンプレポリマー100質量部に対して5質量部以上であることにより、感光性樹脂組成物の粘度を適切なものとでき、得られるフレキソ印刷版の機械的物性のバランスが良好なものとなる。また、エチレン性モノマーの添加量が前記ポリウレタンプレポリマー100質量部に対して200質量部以下であることにより、光硬化の際の硬化収縮が大きくなり過ぎることを防止でき、目的とするフレキソ印刷版の厚み精度が良好なものとなり、また十分な機械的物性を有するフレキソ印刷版が得られる。
感光性樹脂組成物の製版装置における作業性及び機械的物性のバランスの観点から、エチレン性モノマーの添加量は前記ポリウレタンプレポリマー100質量部に対し、15質量部以上100質量部以下であることがより好ましく、さらに好ましくは30質量部以上70質量部以下である。
【0031】
前記エチレン性モノマーのうち、最低でも1種類は、疎水性が高く、そのエチレン性モノマー単独重合物のガラス転移温度が50以上であるエチレン性モノマーを添加することが好ましい。このようなエチレン性モノマーとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、1-エチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-メチルアダマンチル(メタ)アクリレート、2-イソプロピル-2-(メタ)アクリロイルアダマンタン、メタクリル酸2-シクロヘキシルプロパン-2-イル等の飽和環状化合物が挙げられる。これらは特にフレキソ印刷版の耐溶剤性の向上や、柔軟性の付与に効果があるため好ましく、前記エチレン性モノマーを少なくとも1種類含むことが好ましい。これらエチレン性モノマーの添加量は、前記ポリウレタンプレポリマー100質量部に対し5質量部以上80質量部以下が好ましく、10質量部以上50質量部以下がより好ましい。
【0032】
<光重合開始剤>
前記光重合開始剤としては、公知のものを使用でき、以下に限定されないが、例えば、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン-n-プロピルエーテル、ベンゾイン-イソプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタノール等のベンゾイン(ジ)アルキルエーテル類;ベンジル、ジアセチル、ジフェニルスルフィド、ジメチルアセトフェノン等が挙げられる。
これらの光重合性開始剤の配合量は、前記ポリウレタンプレポリマーと前記エチレン性モノマーとの総量100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。
【0033】
<その他の材料>
本実施形態の感光性樹脂組成物は、目的に応じて、前記ポリウレタンプレポリマー、エチレン性モノマー、光重合開始剤の他、例えば、熱重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、染顔料、滑剤、酸化防止剤、無機充填剤、界面活性剤、可塑剤、プロセスオイル、流動パラフィン、液状ゴム等を添加することができる。
【0034】
〔フレキソ印刷原版〕
本実施形態のフレキソ印刷原版は、基材と、本実施形態の感光性樹脂組成物とを有する。
本実施形態のフレキソ印刷原版は、基材上に本実施形態の感光性樹脂組成物の層を積層することにより製造できる。
本実施形態のフレキソ印刷原版によれば、優れた耐溶剤性と柔軟性を高いレベルで両立したフレキソ印刷版を製造可能である。
【0035】
〔フレキソ印刷版〕
本実施形態のフレキソ印刷版は、基材と、本実施形態の感光性樹脂組成物の波長360nmを含む光の硬化物とを有し、これには硬化後にレーザーなどにより追加で加工したものも含まれる。前記硬化物は、前記<条件1>における破断伸度が250%以上であり、かつ、前記<条件2>におけるN-メチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトンに24時間浸漬させたときの質量増加率が25質量%以下である。
本実施形態のフレキソ印刷版によれば、優れた耐溶剤性と柔軟性を高いレベルで両立できる。
【0036】
〔硬化物の製造方法〕
本実施形態の硬化物の製造方法は、上述した本実施形態の感光性樹脂組成物に、波長360nmを含む光を照射する工程を有する。
本実施形態の硬化物の製造する方法においては、硬化後未硬化樹脂を取り除く未硬化樹脂回収工程、洗浄工程、後露光工程をさらに実施することができる。
照射光である波長360nmを含む光の光源としては、蛍光灯やLED光を使用することができる。
照射時間については所望の厚みを出せる露光量以上当て、硬化させることができる時間を選択する。照射環境は大きな制約なしに硬化することが可能である。
【0037】
〔フレキソ印刷版の製造方法〕
本実施形態のフレキソ印刷版の製造方法は、本実施形態の感光性樹脂組成物を基材に積層させ、フレキソ印刷原版を得る工程と、
前記フレキソ印刷原版に、波長360nmを含む光を照射して前記感光性樹脂組成物を光硬化させる工程と、
前記光硬化における未露光部を除去する現像工程と、
を、有する。
【0038】
具体的には、ガラス板の上にネガフィルムを置きその上を薄い保護フィルムでカバーし、その上に本実施形態の感光性樹脂組成物を積層する。支持体となるベースフィルム(基材)を貼り合わせた状態で、前記感光性樹脂組成物層の厚みが予め設定された一定値となるようにベースフィルムの上にガラス板を当てる。次いで、上部活性光線源により短時間のバック露光を行い、支持体全面に均一な薄い樹脂層すなわちバック露光層を形成する。次いで下部活性光線源により波長360nmを含む光を照射して画像形成露光を行い、レリーフを形成する。そして未硬化における未露光部の感光性樹脂組成物を洗浄除去する現像工程を実施する。次いで得られた版全体を水中あるいは空気中で更に活性光線を照射(後露光)して硬化をより完全なものとし、その後乾燥処理を行い、フレキソ印刷版を得る。
【0039】
前記フレキソ印刷版の製造工程において露光に用いられる活性光線源としては、例えば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ等が挙げられる。またレリーフ像を形成するために用いられる透明画像担体としては、銀塩像による写真製版用のネガ又はポジフィルムが主に用いられる。
【0040】
未硬化樹脂の洗浄液としては、例えば、水、アルカリ水溶液、界面活性剤水溶液、溶剤等が用いられる。
【0041】
本実施形態の感光性樹脂組成物は、フレキソ印刷版やスタンプ版等の製版にも使用することができる。
【0042】
フレキソ印刷版やスタンプ版等の印刷に用いられる被印刷物としては、ガラス板の他、ウエハー;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリ乳酸、テフロン(登録商標)、ABS樹脂・AS樹脂・アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン・ポリイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニルエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド 、ポリテトラフロロエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、メタクリル樹脂、ポリエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレートを1種以上含む樹脂、鋼、ステンレス、アルミニウム、マグネシウム、チタン、銅、鉛、亜鉛、ニッケル、クロム、タングステン、金、銀、白金及びこれらを2種以上含む合金を用いることができる。
【0043】
〔印刷方法〕
本実施形態の印刷方法は、上述したフレキソ印刷版の製造方法によりフレキソ印刷版を製造する工程と、前記フレキソ印刷版の凸部に対してインキを付着させるインキ付着工程と、前記インキを転写させる転写工程とを有する。
本実施形態の印刷方法は、例えば、液晶表示素子の製造に使用する液晶配向膜を基板上に印刷する方法として好適である。
【0044】
本実施形態の印刷方法において用いるインキは、溶剤として、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の高極性溶剤が用いられており、その他、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネート、エチルエトキシプロピオネート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、シクロヘキサン、1-オクタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル及びテトラヒドロフラン等の1種以上を含む溶剤が挙げられる。
【0045】
本実施形態の印刷方法によれば、本実施形態のフレキソ印刷版が柔軟性及び耐溶剤性に優れているため、高品質で長時間の印刷を達成することができる。
【実施例0046】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本実施形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
【0047】
〔実施例1~7、比較例1~2の感光性樹脂組成物を構成するエラストマー種であるポリウレタン樹脂(PU-1)の製造例1〕
末端水酸基型の水素化ポリブタジエン300gと、トリレンジイソシアネート20.7gを40℃で30分攪拌混合し、次いで80℃で5時間反応させた後、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート11g、ハイドロキノン0.3g、及びジブチルスズジラウレート0.6gの混合液を加え、80℃で反応させ、赤外吸収スペクトルのチャートにおいて、NCO基特性吸収が消失したところで反応を止め、ポリウレタンプレポリマーを得た。
【0048】
〔実施例8、9、11の感光性樹脂組成物を構成するエラストマー種であるポリウレタン樹脂(PU-2)の製造例2〕
末端水酸基型のポリオレフィン300gと、トリレンジイソシアネート20.7gを40℃で30分攪拌混合し、次いで80℃で5時間反応させた後、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート11g、ハイドロキノン0.3g、及びジブチルスズジラウレート0.6gの混合液を加え、80℃で反応させ、赤外吸収スペクトルのチャートにおいて、NCO基特性吸収が消失したところで反応を止め、ポリウレタンプレポリマーを得た。
【0049】
〔実施例1~11〕、〔比較例1~6〕
実施例1~11及び比較例1~2で使用した化合物の略号、及び感光性樹脂組成物の材料組成を下記表1に記載した。
前記製造例1で製造したポリウレタンプレポリマー、表1に記載するエチレン性モノマー、光重合開始剤、重合禁止剤を加え、実施例1~11、比較例1~2の感光性樹脂組成物を製造した。
表1に記載する化合物の略号について、以下に説明する。
PU-1:製造例1で製造したプレポリマー :エラストマー
PU-2:製造例2で製造したプレポリマー :エラストマー
SLMA:ラウリルメタクリレート:エチレン性モノマー
HP:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート:エチレン性モノマー
AP-400:ポリオキシプロピレンモノアクリレート:エチレン性モノマー
KH:メタクリル酸2―ヒドロキシエチル:エチレン性モノマー
GMGA:グリセリンモノメタクリレート:エチレン性モノマー
CH:シクロヘキシルメタクリレート:エチレン性モノマー
IBX:イソボニルメタクリレート:エチレン性モノマー
IBX-A:イソボニルアクリレート:エチレン性モノマー
MADMA:メタクリル酸2-メチルアダマンタン-2-イル
FA-512M:ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート
HOP(N):2-ヒドロキシプロピルメタクリレート:エチレン性モノマー
513AS:ジシクロペンタニルアクリレート:エチレン性モノマー
TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート:エチレン性モノマー
6EO:トリメチロールプロパンEO6モル変性トリアクリレート:エチレン性モノマー
A-DPH:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:エチレン性モノマー
Z4:2-(1-メチルエトキシ)―1,2―ジフェニルエタノン、ベンゾインイソプロピルエーテル:光重合開始剤
Z7:2,2―ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン:光重合開始剤
Z8:ベンゾフェノン:光重合開始剤
I13:2,6-ジ-t―ブチル-4-メチルフェノール:重合禁止剤
I14:3,9―ビス-{1,1―ジメチル-2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン:重合禁止剤
【0050】
【表1】
【0051】
比較例3においては、旭化成(株)社製 商品名「K-11」を、感光性樹脂組成物として用いた。
なお、表2~表3中の「ポリウレタン樹脂」は、製造例1のポリウレタン樹脂(ポリウレタンプレポリマー)ではなく、一般的なポリマー分類であるポリウレタン樹脂であることを意味する。
【0052】
比較例4においては、旭化成(株)社製 商品名「KS-80」を、感光性樹脂組成物として用いた。
なお、表2~表3中の「ポリウレタン樹脂」は、製造例1のポリウレタン樹脂(ポリウレタンプレポリマー)ではなく、一般的なポリマー分類であるポリウレタン樹脂であることを意味する。
【0053】
比較例5においては、旭化成(株)社製 商品名「SH」を、感光性樹脂組成物として用いた。
前記「SH」に使用されているバインダーポリマーは、表3に示すように、エラストマー種がSBS樹脂である。
【0054】
比較例6においては、旭化成(株)社製 商品名「F-900」を、感光性樹脂組成物として用いた。
なお、表2~表3中の「ポリウレタン樹脂」は、製造例1のポリウレタン樹脂(ポリウレタンプレポリマー)ではなく、一般的なポリマー分類であるポリウレタン樹脂であることを意味する。
前記「F-900」に使用されているバインダーポリマーは、表3に示すように、エラストマー種がポリウレタン樹脂である。
【0055】
実施例1~11、及び比較例1~6の感光性樹脂組成物のエラストマー種、及びその単位構造を下記表2~表3に示す。
なお、エラストマー種において、ポリウレタン樹脂である場合を「〇」、SBS樹脂である場合を「×」と記載した。
また、エラストマー種の単位構造に関して、ブタジエンである場合を「〇」、エステルやエーテル有した単位構造、スチレンを有した単位構造である場合を「×」と記載した。
【0056】
〔特性の測定方法、評価方法〕
((1)膨潤率(質量増加率)の測定方法)
実施例1~11、比較例1~6の感光性樹脂組成物を、薄い保護フィルムを被せた厚さ4mmの透明樹脂板2枚の間に、厚みが1mmになるようにスペーサーをかませて挟み込み、透明樹脂板上の照度が2.0mW/cm2の光源強度で、表裏を照射ランプを用いて露光を施し、厚さ1mmのサンプル板を作製した。
このサンプル板を1cm×5cmのサンプル片に切り取り、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、又はγ-ブチロラクトン(GBL)に24時間浸漬させた。
浸漬前と浸漬後のそれぞれのサンプル片の質量を測定し、質量増加率(膨潤率(質量%))を算出した。
膨潤率を下記の基準により評価した。
〇:25質量%以下。
×:25質量%を超えている。
【0057】
((2)破断伸度、靭性の測定方法)
前記膨潤率の測定方法と同様の方法で、厚さ1mmのサンプル板を作製した。
サンプル板を用いて測定部分が縦30mm×横3mmのダンベル型サンプルを作製し、引張伸度測定用の試験片とした。
引張伸度は引張試験機(AUTOGRAPH AG-AGS-X型:島津製作所製)を用いて、23℃において前記試験片を500mm/minの引張スピードで破壊するまで引っ張り、破断伸度(%)、靭性(kgf×mm)を得、下記の基準により評価した。
<破断伸度>
〇:250%以上。
×:250%未満。
<靭性>
〇:50kgf×mm以上
×:50kgf×mm未満
【0058】
((3)膨潤前後の500μm独立線幅の変化率の測定方法)
500μmの独立線を形成するネガを用い、下記に示すような、成型・露光工程、現像工程、後露光工程、乾燥工程を順次経ることにより、実施例1~11、比較例1~6の感光性樹脂組成物を用いたフレキソ印刷版を作製した。
<1:成型・露光工程>
ALF-213E型製版機(旭化成(株)製)を用いて、厚み2.84mm、R.D=1.5mmとなるようなマスク露光量、レリーフ露光量で、硬化を行い、500μmの独立線を有したフレキソ印刷版を得た。
<2:現像工程>
未硬化の感光性樹脂組成物を常法により回収した後に、AL-400W型現像機(ドラム回転スプレー式、旭化成(株)製、ドラム回転数:20回転/分、スプレー圧:0.15Pa)に感光性樹脂組成物を乳化し得るAPR(登録商標)洗浄剤 タイプW-6(旭化成(株)製):4.5質量%と、消泡剤SH-4(シリコーン混和物、旭化成(株)製):0.18質量%と、を含む水溶液を現像液として調合し、液温40℃、現像時間20分間の条件で現像を行った。
現像後、水道水で現像液による泡が落ちる程度に洗浄した。
<3:後露光工程>
紫外線蛍光灯、殺菌灯の双方を装備したAL-200UP型後露光機(旭化成(株)製)を用い、水中露光方式により露光を行った。それぞれの光源から照射される露光量が、感光性樹脂組成物の硬化物の表面で紫外線蛍光灯:960mJ/cm2、殺菌灯:1920mJ/cm2となる露光時間で露光を行った。
<4:乾燥工程>
ALF-DRYER(旭化成(株)製)を用い、後露光後の硬化物の版を、その表面の水分がなくなるまで約30分間以上乾燥し、フレキソ印刷版を得た。
<5:500μmの独立線幅の変化率の測定>
製版した500μm独立線を、前記((1)膨潤率の測定方法)と同じ条件で浸漬した。
その後、サンプルを取り出し、浸漬前後での線幅の変化率を算出した。
【0059】
膨潤前後500μm幅の変化率の値については、20%以上変化すると印刷時のパターンの太り、変形など印刷品質に悪影響を及ぼすことから20%未満であることが実用上好ましい、とし、下記の基準により評価した。
〇:変化率が20%未満
×:変化率が20%以上
【0060】
((4)硬度(ショアA硬度)測定方法)
上述した、((3)膨潤前後の500μmの独立線幅の変化率の測定方法)と同様の方法で、ベタ面を有するフレキソ印刷版(厚さ:2.84mm)を作製した。
作製したフレキソ印刷版を、温度23℃、相対湿度50%恒温恒湿室内に一日放置した後、JIS定圧荷重器GS-710(株式会社テクロック社製、ジュロメーターGS-719G ASTM:D2240A、JIS:K6253A、ISO:7619A)を用いて、ショアA硬度を測定した。ベタ面への荷重(質量1kg)15秒後の値をショアA硬度とした。
フレキソ印刷版が硬すぎると、均一なベタ表面を有する印刷物が得られないことから、フレキソ印刷版のショアA硬度は、50°以下であることが実用上好ましいとし、下記の基準により評価した。
<評価基準>
〇:50°以下
×:50°超
【0061】
((5)耐ノッチ亀裂性の測定方法)
前記((3)膨潤前後の500μmの独立線幅の変化率の測定方法)と同様の方法で、ベタ面を有するフレキソ印刷版(厚さ:2.84mm)を作製した。
ベタ面領域から、幅2cm、長さ5cmの短冊状のサンプル版3個を切り出し、長さ方向の中央部分にカッターで深さ1.0mmの切筋(ノッチ)を入れ、サンプル版とした。
サンプル版を、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に一日放置し、同室内で以下の操作で測定を実施した。
サンプル版の長さ方向両端を、前記切筋(ノッチ)が外側になるようにやや湾曲させて軽く一方の手の指でつまみ、それから、サンプル版の切筋(ノッチ)の裏側に位置する支持体が、切筋(ノッチ)の真下で折れ曲がるよう、もう一方の手の指をその支持体にあてがい、サンプル版を素早く折り曲げて支持体同士が密着した形状を保持するようサンプル版を支持した。サンプル版を折り曲げた瞬間から切筋(ノッチ)から生じた亀裂が支持体に到達するまでの時間を秒単位で測定した。
フレキソ印刷版は、版胴に取り付ける際や、梱包する際など湾曲させる機会がある。その際に微小な傷が入っていると、フレキソ印刷版に亀裂が入り樹脂が完全に割れてしまうおそれがある。これを防ぐために耐ノッチ亀裂性は、5秒以上であることが、実用上好ましいものとして、下記の基準により評価した。
<評価基準>
〇:5秒以上
×:5秒未満
【0062】
((6)印刷品質評価)
((3)膨潤前後の500μmの独立線幅の変化率の測定方法)と同様の方法で、500μmの独立線を有するフレキソ印刷版を作製し、このフレキソ印刷版を用いて、印刷を行い、印刷品質を評価した。
印刷機は、「FlexPress16S」(独国、Fischer&Krecke社製、商標)を用いた。
インキは、配向膜「SE-130」(日産化学(株)製)を用いた。
被印刷体として、厚み45μmの乳白ポリエチレンフィルムを用いた。
アニロックスロールの線数は900(lpi)、アニロックスロールのセル容積は4ccとした。
印刷速度は200m/分とした。
【0063】
フレキソ印刷版をNMPに対して未浸漬の状態と、フレキソ印刷版をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に24時間浸漬した状態で、それぞれ印刷評価を行い、各状態の500μm独立線印刷物を得た。
初期と浸漬後のフレキソ印刷版を用いて印刷した印刷物の線幅の変化率を顕微鏡により測長し変化率を算出した。
【0064】
フレキソ印刷版を用いて液晶表示装置の配向膜の印刷を行った場合に、前記配向膜の印刷品質がばらつくと、液晶表示装置の不良につながることから、フレキソ印刷版を膨潤した前後における、印刷物の500μm幅変化率の値は、±30%以内であることが実用上好ましいものとして、下記のようにして評価した。
〇:±30%以内
×:±30%を超えている。
【0065】
上記に記した測定結果及び評価結果を、表2~表5に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
実施例1~11は、高い柔軟性を示したフレキソ印刷版が得られた。
実施例1~11は、優れた耐溶剤性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の感光性樹脂組成物は、フレキソ印刷版製造分野において産業上の利用可能性を有している。