(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069288
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】治療用タンパク質組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/57 20060101AFI20240514BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240514BHJP
A61K 38/38 20060101ALI20240514BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240514BHJP
A61K 35/14 20150101ALI20240514BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
A61K38/57
A61K38/17 100
A61K38/38
A61P7/00
A61K35/14
A61K39/395 X
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024032239
(22)【出願日】2024-03-04
(62)【分割の表示】P 2022516168の分割
【原出願日】2020-01-10
(31)【優先権主張番号】62/903,659
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518276450
【氏名又は名称】プラズマ テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】PLASMA TECHNOLOGIES, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ズルロ、ユージーン
(72)【発明者】
【氏名】カーティン、デニス
(72)【発明者】
【氏名】ラトケ、ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ブリルハート、カート エル.
(57)【要約】
【課題】本開示は、混入物を最小限に抑え、変性タンパク質をほとんど又はまったく含まない治療用タンパク質調製物を提供する。
【解決手段】本発明の概念の組成物は、変性形態の治療用タンパク質による不純物が2%未満の治療用タンパク質を提供する。そのような組成物は、従来の単離方法から得られる対応する治療用タンパク質調製物よりも、増強された比活性及び保存時及び/又は血清中での改善された安定性を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物を調製する方法であって、
凍結血漿を得る工程、
沈殿剤の存在下、約1℃~約6℃の温度で前記凍結血漿を解凍することで、改変クリオプレシピテート及び改変脱クリオ処理血漿を生成する工程、
前記改変クリオプレシピテートを前記改変脱クリオ処理血漿から分離する工程、
前記改変脱クリオ処理血漿を、沈殿又は実質的な希釈ステップを介さずにクロマトグラフィー媒体に適用して、非結合画分及び結合画分を生成する工程、及び
前記非結合画分又は前記結合画分のいずれかから0.01%~5%の変性治療用タンパク質を含む治療用タンパク質を回収する工程
を含み、
前記治療用タンパク質は、第1の量の天然型及び第2の量の変性型を含み、前記第2の量は、前記第1の量の0.01%~5%であり、前記治療用タンパク質は血液製剤から単離されたものである、方法。
【請求項2】
前記沈殿剤は、有機酸、有機酸の塩、無機塩、及び親水性ポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記沈殿剤はクエン酸ナトリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記治療用タンパク質はα1-アンチトリプシンであり、前記組成物は、基質としてN-ベンゾイル-L-アルギニン-パラ-ニトロアニリド塩酸塩(L-BAPNA)を使用して活性部位滴定したブタ膵臓トリプシンで試験した場合、90%を超える阻害性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記治療用タンパク質は免疫グロブリンであり、前記組成物は、コーン分画法を使用して調製された免疫グロブリン画分よりも少なくとも10%長い生体内半減期を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記治療用タンパク質は少なくとも10%の濃度のアルブミンであり、前記組成物は無色である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
組成物を調製する方法であって、
血液製剤を得る工程、
沈殿物の形成をもたらさない沈殿剤濃度を提供するように前記血液製剤に不揮発性沈殿剤を添加して第1の中間溶液を形成する工程、
前記沈殿剤の目標沈殿濃度に達するまで前記沈殿剤を保持しながら、前記第1の中間溶液から水を除去することにより、沈殿物及び上清を生成する工程、
前記上清から前記沈殿物を分離する工程、及び
前記上清又は前記沈殿物から0.01%~5%の変性治療用タンパク質を含む治療用タンパク質を回収する工程
を含み、
前記治療用タンパク質は、第1の量の天然型及び第2の量の変性型を含み、前記第2の量は、前記第1の量の0.01%~5%であり、前記治療用タンパク質は血液製剤から単離されたものである、方法。
【請求項8】
前記沈殿剤は、有機酸、有機酸の塩、無機塩、及び親水性ポリマーからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記沈殿剤はクエン酸ナトリウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
水は蒸発によって除去される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
蒸発は減圧下で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記沈殿剤は親水性ポリマーであり、水は限外濾過によって除去される、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記治療用タンパク質は前記上清から回収される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記治療用タンパク質は前記沈殿物から回収される、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記治療用タンパク質はα1-アンチトリプシンであり、前記組成物は、基質としてN-ベンゾイル-L-アルギニン-パラ-ニトロアニリド塩酸塩(L-BAPNA)を使用して活性部位滴定したブタ膵臓トリプシンで試験した場合、90%を超える阻害性である、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記治療用タンパク質は免疫グロブリンであり、前記組成物は、コーン分画法を使用して調製された免疫グロブリン画分よりも少なくとも10%長い生体内半減期を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
前記治療用タンパク質は少なくとも10%の濃度のアルブミンであり、前記組成物は無色である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年9月20日に出願された米国仮特許出願第62/903,659号の利益を主張する。これら及び他のすべての参照された外部資料は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれる参考資料における用語の定義又は使用が本明細書で提供されるその用語の定義と矛盾するか又は相反する場合、本明細書で提供されるその用語の定義が優先されるものとする。
【0002】
発明の分野
本発明の分野は、治療用タンパク質、特に血液又は血液製剤から単離された治療用タンパク質である。
【背景技術】
【0003】
背景技術の説明には、本発明を理解するのに役立ち得る情報が含まれている。ここで提供される情報のいずれかが先行技術であるか、又は現在請求されている発明に関連していること、あるいは具体的又は暗黙的に参照されている刊行物が先行技術であることを自認するものではない。
【0004】
現在、様々なタンパク質が、治療用途のためにヒトの血液製剤から単離されている。このようなタンパク質の例には、アルブミン、免疫グロブリン、α1-アンチトリプシン、様々な凝固因子が含まれる。これらの治療用タンパク質は、多くの場合、大量かつ高濃度で使用される。アルブミンは、外科、外傷、及び火傷の患者の血液量を回復するために高濃度(最大25重量%)で使用される。免疫グロブリン製剤(通常、約10重量%のIgGを含む)は、免疫調節剤として使用され、様々な疾患や状態を治療する。また、免疫応答の低下に対してサポートを提供することに加えて、補体活性を調節し、イディオタイプ抗体を抑制し、マクロファージFc受容体を飽和させ、様々な炎症性メディエーターを抑制する。α1-アンチトリプシンの(約60mg/kg体重での)毎週の注入は、α1-アンチトリプシン欠乏症に関連する遺伝性疾患の進行を治療し又は遅らせるために使用される。凝固因子(第VIII因子、第IX因子、フォン・ヴィレブランド因子、及び凝固カスケードの他の成分など)は、血友病の治療に使用され、単純な注射による治療を可能にするために濃縮された形で提供される。
【0005】
このような治療用タンパク質は、量が要求されるため、スケーラブルなプロセス、通常は沈殿、濾過、再可溶化、及びクロマトグラフィー媒体による処理を含む一連のステップを使用して、血液製剤(血漿など)から単離される。要求される高い純度は、大抵は複数の分離ステップの使用を必要とする。通常、血清のコーン分画法が使用される。これには、アルコールの段階的な添加から生じる一連の沈殿ステップが含まれる。しかしながら、そのような大規模な処理は、精製された画分における変性形態の治療用タンパク質の蓄積をもたらし得る。このような変性は、投与時の有害反応、活性の低下、保管時の半減期の低下(特に液体製剤の場合)、及び/又は投与後の血清半減期の短縮につながる可能性がある。
【0006】
したがって、混入物を最小限に抑え、変性タンパク質をほとんど又はまったく含まない治療用タンパク質調製物の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明の主題は、変性した治療用タンパク質及び/又は他の混入物の含有量が低くなるように処理された治療用タンパク質を含む組成物を提供する。そのような組成物は、従来のプロセスによって生成された治療用タンパク質の対応する調製物と比較して、高い比活性及び/又は安定性を提供する。
【0008】
本発明の概念の組成物は、血液製剤(改変脱クリオ処理血漿(modified cryo-poor plasma)など)から単離された治療用タンパク質を含み、その治療用タンパク質は、天然型及び変性型として存在し、変性型は、治療用タンパク質の総量又は治療用タンパク質の天然型のいずれかの約0.01%から約1%、2%、3%、4%、又は5%を占める。いくつかの実施形態において、治療用タンパク質は、単離中に沈殿剤にさらされる。いくつかの実施形態において、治療用タンパク質はα1-アンチトリプシンであり、組成物は、基質としてN-ベンゾイル-L-アルギニン-パラ-ニトロアニリド塩酸塩(L-BAPNA)を使用して活性部位滴定したブタ膵臓トリプシンで試験した場合、90%を超える阻害性である。いくつかの実施形態において、治療用タンパク質は免疫グロブリンのタンパク質であり、コーン分画法を使用して調製された免疫グロブリン画分よりも少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%長い投与後の生体内半減期を有する。いくつかの実施形態において、治療用タンパク質は、少なくとも4%、5%、8%、10%、15%、20%、又は25%の濃度の無色アルブミンである。
【0009】
本発明の概念の別の実施形態は、沈殿剤の存在下、約1℃~約6℃の温度で凍結血漿を解凍し、改変クリオプレシピテート及び改変脱クリオ処理血漿を生成すること、改変クリオプレシピテートを改変脱クリオ処理血漿から分離すること、改変脱クリオ処理血漿を、沈殿又は実質的な希釈ステップを介さずにクロマトグラフィー媒体に適用して、非結合画分及び結合画分を生成すること、ならびに、非結合画分又は結合画分のいずれかから約0.01%~約5%の変性治療用タンパク質しか含まない治療用タンパク質を回収することにより、上述した治療用タンパク質組成物を調製する方法である。適切な沈殿剤には、有機酸、有機酸の塩(クエン酸ナトリウムなど)、無機塩、及び親水性ポリマーが含まれる。
【0010】
本発明の概念の別の実施形態は、沈殿物の形成をもたらさない沈殿剤濃度を提供するように血液製剤に不揮発性沈殿剤を添加して中間溶液を形成すること、沈殿剤の目標沈殿濃度に達するまで沈殿剤を保持しながら、中間溶液から水を除去することにより、沈殿物及び上清を生成すること、上清から沈殿物を分離すること、ならびに、上清又は沈殿物から約0.01%~約1%の変性治療用タンパク質を含む治療用タンパク質を回収することにより、上述した治療用タンパク質組成物を調製する方法である。適切な沈殿剤には、有機酸、有機酸の塩(クエン酸ナトリウムなど)、無機塩、及び親水性ポリマーが含まれる。水は、蒸発(例えば、減圧下)又は限外濾過によって除去することができる。いくつかの実施形態において、治療用タンパク質は上清から回収される。いくつかの実施形態において、治療用タンパク質は沈殿物から回収される。
【0011】
本発明の主題の様々な目的、特徴、態様及び利点は、好ましい実施形態の以下の詳細な説明より明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
以下の説明は、本発明を理解するのに有用であり得る情報を含む。ここで提供される情報のいずれかが先行技術であるか、又は現在請求されている発明に関連していること、あるいは具体的又は暗黙的に参照されている刊行物が先行技術であることを自認するものではない。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明の特定の実施形態を説明し及び主張するために使用される、成分の量、濃度、反応条件などの特性を表す数字は、場合によっては「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。したがって、いくつかの実施形態において、本明細書及び添付の特許請求の範囲に示される数値パラメータは、特定の実施形態によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。いくつかの実施形態において、数値パラメータは、報告された有効桁数に照らして、通常の丸め技法を適用することによって解釈されるべきである。本発明のいくつかの実施形態の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータは近似値であるものの、特定の例に示される数値は、実行可能であるように正確に報告される。本発明のいくつかの実施形態で提示される数値は、それらのそれぞれの試験測定で見出される標準偏差に必然的に起因するある程度の誤差を含み得る。
【0014】
本明細書及び以下の特許請求の範囲全体で使用されるように、「1つ」及び「その」の意味は、文脈上そうでないことが明らかでない限り、複数形を含む。また、本明細書で使用されるように、「内」の意味は、文脈上そうでないことが明らかでない限り、「内」及び「上」を含む。
【0015】
本明細書における値の範囲の記載は、その範囲内にある個々の値を個別に参照するための簡単な方法を意図したものに過ぎない。本明細書に別段の記載がない限り、個々の値は、個別に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されているすべての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈上明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することができる。本明細書の特定の実施形態に関して提供されるすべての例、又は例示的な文言(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をよりよく照らすことを意図しており、他の方法で主張される発明の範囲に制限を課すものではない。本明細書のいかなる文言も、本発明の実施に不可欠なクレームされていない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0016】
本明細書に開示される本発明の代替要素又は実施形態のグループ化は、限定として解釈されるべきではない。各グループメンバーは、個別に、又はそのグループの他のメンバー又は本明細書に見られる他の要素との任意の組み合わせで参照され及び請求されることができる。あるグループの1つ以上のメンバーは、利便性及び/又は特許性の理由から、グループに含めるか、グループから削除することができる。そのような包含又は削除が発生した場合、本明細書は、その変更されたグループを含み、したがって、添付の特許請求の範囲で使用されるすべてのマーカッシュグループに関して明細書の記載要件を満たすと見なされる。
【0017】
本発明の概念の実施形態は、変性した治療用タンパク質及び他の混入物の含有量が少ない治療用タンパク質組成物を提供する。得られた組成物は、生体内でのそれらの状態により類似した状態の治療用タンパク質を提供する(例えば、精製技術に供される前に)。そのような治療用タンパク質調製物は、従来技術の方法から得られる対応する調製物と比較して、投与後のより高い比活性、拡大された安定性、及び/又は延長された生体内半減期を示す。
【0018】
これは、少なくとも部分的には、タンパク質の変性を緻密に回避する調製方法を利用することによって達成される。そのような方法は、例えば、変性をさせる有機溶媒(例えば、アルコール、ケトンなど)の使用を排除し、沈殿剤の局所濃度を最小化するプロセスステップを利用し、泡やフロスの生成を回避するために混合を注意深くし、及び/又は、変性をさせる沈殿剤(有機溶媒など)の使用を回避し又は最小限に抑える。同様に、そのようなプロセスステップは、極端なpHを回避し(例えば、約6.5~約8.5のpH、又は約6.8~約7.5のpHを維持し)、かつ/又は極端な温度を回避する(例えば、約4℃~8℃の温度、又は処理全体を通して約18℃~約25℃の温度を維持する)ことができる。そのような方法の非排他的な例を以下に示す。
【0019】
血液製剤の大部分の原料は、商業的な収集センターから入手した凍結血漿である。この材料を低温(通常は1~6℃)でゆっくりと解凍すると、沈殿したタンパク質(つまり、クリオプレシピテート又は「クリオ」)及びタンパク質が豊富な上清(脱クリオ処理血漿)を含む中間血液製剤が生成される。クリオプレシピテートには、原料血漿に含まれていたフィブリノーゲンの一部、ならびに凝固因子及びフィブリンが含まれる。脱クリオ処理血漿は冷溶性タンパク質を豊富に含み、医薬品タンパク質の供給源として頻繁に使用される。
【0020】
脱クリオ処理血漿は、タンパク質及び/又は変性タンパク質を含有することがあり、その場合、希釈又は処理ステップを挟まなければ、従来のクロマトグラフィー分離への直接適用には不適切となる。驚くべきことに、本発明者らは、解凍プロセスに低濃度(すなわち、血清及び/又は血漿に適用されたときに視認できる沈殿をもたらさない濃度)の沈殿剤を含めると、得られる調製物における冷溶性画分と非冷溶性画分との間でタンパク質の分布を変更できることを見出した。得られた改変脱クリオ処理血漿は、希釈及び/又は沈殿ステップを挟むことなくクロマトグラフィー媒体(例えば、サイズ排除媒体、イオン交換媒体、疎水性相互作用媒体、親和性媒体、混合モードクロマトグラフィー媒体など)への直接適用を可能にするタンパク質含有量を有することが見出された。これは有利なことに、望ましくない変性の機会をもたらすプロセスステップを最小限にする。このようなクロマトグラフィーステップは、タンパク質変性の可能性を減らすために、最初の解凍ステップで使用されるものと同様又は同一の低温(例えば、4℃~8℃)を維持しながら実施することができる。同様に、変性を最小限にするために、これらのステップの間、pHを一定に保つか、又は制限された範囲(例えば、pH6~pH8、pH6.5~7.8、pH6.8~7.2)内に制御することができる。
【0021】
本発明の概念の好ましい実施形態では、クロマトグラフィー媒体は親和性媒体である。これは、プラズマ処理時間に必要な時間及び材料を単純化し、かつ節約するという利点がある。さらに、処理ステップの数を減らすと、敏感なタンパク質種が変性する程度が減り、その結果、保管時の安定性が向上し、投与後の生体内半減期が向上し、及び/又は比活性が向上する。
【0022】
本発明の概念はまた、不揮発性沈殿剤(例えば、硫酸塩、リン酸塩、有機酸の塩、及び/又は可溶性ポリマー)が、1つ以上の標的タンパク質及び1つ以上の混入タンパク質を含む血液製剤に導入される組成物及び方法を提供する。いくつかの実施形態において、沈殿剤は、視認できる沈殿物の形成をもたらさない量又は濃度で提供される。その後、得られた反応混合物から水が除去されることで、タンパク質と沈殿剤の両方の濃度を同時に増加させる。タンパク質濃度と沈殿剤濃度が所望の目標値に達すると、タンパク質沈殿物が形成され、その後、これは上清画分から分離される。沈殿剤との混合及び沈殿物と上清画分の分離は、変性を減らすために、一定温度又は制限された温度範囲内(例えば、15℃~25℃、18℃~22℃)で行うことができる。同様に、変性を最小限に抑えるために、これらのステップの間、pHを一定に保つか、又は制限された範囲内(例えば、pH6~pH8、pH6.5~7.8、pH6.8~7.2)に制御することができる。
【0023】
標的タンパク質及び沈殿剤の性質に応じて、標的タンパク質は沈殿物中又は上清画分中に存在し得る。このプロセス中に沈殿剤濃度が増加するにつれてタンパク質濃度が増加するため、沈殿物と上清画分との間でのタンパク質の分布は異なり、従来の、沈殿物濃度が増加するにつれてタンパク質濃度が減少するか、せいぜい維持される程度の沈殿プロセスで生成されるものとは相違する。いくつかの実施形態において、そのような沈殿プロセスから得られた上清は、タンパク質及び沈殿剤濃度をさらに増加させ、第2の沈殿物及び第2の上清画分を生成するために、追加の溶媒(すなわち、水)除去に供され得る。
【0024】
この方法で沈殿剤濃度を増加させながら同時にタンパク質濃度を増加させると、沈殿の効率が向上し、標的タンパク質の収率が向上する。さらに、視認できる沈殿物を生成しない濃度で沈殿剤を最初に導入することで、局所的な高濃度の沈殿剤(従来のプロセスでの沈殿剤の添加時に見られる)による不要なタンパク質沈殿物の形成が防がれ、望ましくないタンパク質変性の可能性が低下し、そのようなプロセスから回収された標的タンパク質の比活性が向上する。
【0025】
上記のように、本発明の概念の実施形態において、沈殿剤は、不揮発性であるように選択される(すなわち、現在の周囲条件下でのタンパク質の水溶液の水よりも高い蒸気圧を有する)。使用される沈殿剤の量は、沈殿剤の性質によって異なる。適切な沈殿剤は、好ましくは非変性であり、有機酸及び有機酸の塩(例えば、クエン酸ナトリウム)、無機塩(例えば、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム)、及び親水性ポリマー(例えば、PEG、デキストランなど)を含むことができる。例えば、クエン酸ナトリウムなどの有機塩を使用する場合、それは、下限約0.1%、0.2%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、12%、15%、又は約20%未満(w/v)の範囲の濃度で提供することができる。同様に、硫酸アンモニウムなどの無機塩を使用する場合、それは、下限約0.1%、0.2%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、12%、15%、又は約20%未満(w/v)の範囲の濃度で提供することができる。PEGなどの親水性ポリマーを使用する場合、それは、下限約0.01%、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、0.7%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、4%、5%、7%、又は約10%未満(w/v)の範囲の濃度で提供することができる。
【0026】
沈殿剤を含むタンパク質の水溶液から、任意の適切な方法で水を除去することができる。使用する方法は、沈殿剤の性質に応じたものでよい。例えば、沈殿剤が親水性ポリマーである場合、その親水性ポリマーの分子量よりも低い分子量カットオフを有する膜を利用する濾過(例えば、限外濾過、ダイアフィルトレーション)を使用して、水溶液から水を除去することができる。別の実施形態では、蒸発(周囲圧力又は減圧で)を使用して、水溶液から水を除去することができる。
【0027】
本発明の概念の好ましい実施形態では、血液製剤の処理の結果として得られた治療用タンパク質。適切な血液製剤には、血清血漿、脱クリオ処理血漿、上記のような改変脱クリオ処理血漿、再可溶化クリオプレシピテート、及び上記のような改変再可溶化クリオプレシピテートが含まれる。いくつかの実施形態において、血液製剤は、本発明の概念の方法に導入される前に、様々なプロセスステップ(例えば、希釈、pH調整、プロテアーゼ阻害剤の添加、抗凝固剤の添加、沈殿など)を経てもよい。
【0028】
本発明の概念のいくつかの実施形態において、本発明の概念の方法によって生成された上清又は沈殿物をさらに処理して、1つ以上の標的タンパク質を回収し、及び/又は望ましくない混入物を除去することができる。そのような実施形態では、この方法によって生成された沈殿物は、追加の処理の前に再溶解させることができる。適切な追加の処理ステップには、上清からのさらなる水の除去、沈殿させる量での沈殿剤の添加による従来の沈殿、及び/又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換、疎水性相互作用、親和性、混合モード、及び/又はサイズ排除クロマトグラフィー媒体を使用)が含まれる。
【0029】
そのような追加の処理で利用されるクロマトグラフィー媒体は、任意の適切な配合及び構成を有することができる。サイズ排除、イオン交換、疎水性相互作用、親和性、及び/又は混合モード分離のために適切な媒体を構成することができる。適切な媒体は、多孔性の顆粒又はビーズ、非多孔性の顆粒又はビーズ、フィルター、繊維、及び/又は多孔性の膜として提供することができる。クロマトグラフィー媒体の構造部分は、任意の適切な材料をベースとすることができる。非限定的な例には、多糖類(架橋デキストランなど)、合成ポリマー、及び/又は無機材料(ヒドロキシアパタイトなど)が含まれる。クロマトグラフィー媒体は、任意の適切な形状で提供することができる。適切な形状には、オープン式又はシール式のクロマトグラフィーカラム、ラジアルクロマトグラフィーカラム、カートリッジ、メンブレンハウジングなどが含まれる。
【0030】
本発明の概念の方法の例では、血液製剤(血漿など)を得て、急速に撹拌しながら等量の8%(w/v)クエン酸ナトリウムと混合することで、非沈殿クエン酸ナトリウムの濃度が4%(w/v)のタンパク質水溶液を形成する。タンパク質水溶液を密閉容器に移し、気圧を周囲温度の水の蒸気圧未満に下げると、溶液から水分が急速に蒸発する。いくつかの実施形態において、このプロセスの間、少量の空気を密閉容器内に継続的に流し込むことで、密閉チャンバー内の水蒸気の平衡化を防ぐ。水溶液の量が減少してタンパク質濃度の上昇とともにクエン酸ナトリウム濃度が約10%~12%になるまで水を除去し、視認できる沈殿物を形成させる。次に、沈殿物を、例えば濾過又は遠心分離によって上清画分から分離することができる。このような分離は、大気圧又は減圧で行うことができる。
【0031】
本発明の概念の方法の別の例では、血液製剤(血漿など)を得て、急速に撹拌しながら平均分子量5kDを有する等量の2%(w/v)ポリエチレングリコール(PEG)と混合することで、非沈殿PEG濃度が1%(w/v)のタンパク質水溶液を形成する。タンパク質水溶液を、3kDの分子量カットオフを有する非ファウリング膜を使用する限外濾過に供し、これにより、沈殿剤は保持されつつ、水やその他の低分子量種が溶液から迅速に除去される。水溶液の体積がタンパク質水溶液の元の体積の約25%に減少するまで限外濾過を続け、タンパク質濃度を増加させながらPEG濃度を約4%w/vにして、視認できる沈殿物を形成させる。沈殿物はその後、例えば濾過又は遠心分離によって、上清画分から分離することができる。
【0032】
様々な薬学的に有用なタンパク質を、本発明の概念の方法から、高い収率、比活性、純度、インビトロ安定性、及び/又は生体内安定性で得ることができる。そのようなタンパク質には、フィブリノーゲン、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第XIII因子、フォン・ヴィレブランド因子、フィブロネクチン、免疫グロブリン、α1-アンチトリプシン、プロテインC、プロテインS、Clエステラーゼ阻害剤、抗トロンビン3、トロンビン、及び/又はアルブミンが含まれる。
【0033】
上記のように、本発明の概念の組成物に見られる治療用タンパク質では、変性した治療用タンパク質の含有量が少ない。本発明の概念の方法を適切な出発物質に適用した後に変性状態にある治療用タンパク質の部分は、混合物の総治療用タンパク質含有量又は天然治療用タンパク質含有量の約0.01%から約1%、2%、3%、4%、5%、8%、又は10%の範囲であり得る。そのように生成された治療用タンパク質は、従来の方法(例えば、コーン分画法)を使用して作製された対応する治療用タンパク質調製物と比較して、より高い保存安定性及び/又は投与後の生体内安定性、及び/又は高い比活性を有し得る。例えば、本発明の概念の免疫グロブリン調製物は、従来のコーン分画法(すなわちエタノール沈殿)によって製造された対応する免疫グロブリン調製物よりも有意に長い(例えば、少なくとも10%長い)貯蔵寿命及び/又は投与後の生体内半減期を有し得る。同様に、本発明の概念のα1-アンチトリプシン調製物は、基質としてN-ベンゾイル-L-アルギニン-パラ-ニトロアニリド塩酸塩(L-BAPNA)を使用して活性部位滴定したブタ膵臓トリプシンで試験した場合、90%を超える阻害性となり得る。
【0034】
同様に、混入物(例えば、ビリルビン、脂肪酸など)は非常に高度に除去が可能でありながら、治療用タンパク質の90%~99.99%を活性な天然のコンフォメーションで保持し、無色又は本質的に無色のタンパク質溶液を高タンパク質濃度(例えば、10mgmL-1以上)で得ることができる。これはアルブミンにとって特に有用となり得る。その理由は、混入物の減少が同時に望ましくない分子、例えば、循環アミロイドプラーク物質及び/又は小さな有機分子(例えば、治療薬、乱用薬物、薬物代謝物など)を吸着する、治療的に適用された場合のこのタンパク質による能力の向上をもたらし得るためである。
【0035】
本発明の概念から逸脱することなく、すでに説明したもの以外のさらに多くの修正が可能であることは、当業者には明らかである。したがって、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の趣旨以外によって制限されるべきではない。さらに、明細書及び特許請求の範囲の両方を解釈する際には、すべての用語は、文脈と一致する可能な限り広い方法で解釈されるべきである。特に、「含む」という用語は、非排他的な方法で要素、コンポーネント、又はステップを指すものとして解釈されるべきであり、参照された要素、コンポーネント、又はステップが、明示的に参照されていない他の要素、コンポーネント、又はステップと共に存在し、利用され、又は組み合わされて良いことを指す。明細書、特許請求の範囲が、A、B、C....及びNからなる群から選択されるもののうちの少なくとも1つに言及している場合、その文脈は、A+NやB+Nなどではなく、その群から1つの要素のみを必要とすると解釈されるものとする。
【外国語明細書】