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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069297
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】限外濾過によるエクソソームの濃縮
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20240514BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C12N5/00
C12N1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024032800
(22)【出願日】2024-03-05
(62)【分割の表示】P 2022119589の分割
【原出願日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】63/203,662
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522300709
【氏名又は名称】ナショナル ヤン ミン チアオ トゥン ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オスカー クアン-シェン リー
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー フイ-チュン ホー
(72)【発明者】
【氏名】ハオ-シアン ウー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】濃縮されたエクソソームの集団を含むエクソソーム組成物を提供する。
【解決手段】約1x10エクソソーム/mLを超える濃度の濃縮されたエクソソームの集団を含むエクソソーム組成物であって、エクソソーム組成物が、製剤化ではなく単離及び限外濾過又は超遠心分離によって直接得られる、エクソソーム組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約1x109エクソソーム/mLを超える濃度の濃縮されたエクソソームの集団を含むエクソソーム組成物であって、エクソソーム組成物が、製剤化ではなく単離及び限外濾過又は超遠心分離によって直接得られる、エクソソーム組成物。
【請求項2】
組成物中のエクソソームの濃度が約1x1010エクソソーム/mLを超える、請求項1に記載のエクソソーム組成物。
【請求項3】
平均粒径が約135nm~約150nmである濃縮されたエクソソームの集団を含む、請求項1に記載のエクソソーム組成物。
【請求項4】
濃縮されたエクソソームの集団が、分子量約3kDaを超えるエクソソームを含む、請求項1に記載のエクソソーム組成物。
【請求項5】
濃縮されたエクソソームの集団が、分子量約10kDaを超えるエクソソームを含む、請求項1に記載のエクソソーム組成物。
【請求項6】
濃縮されたエクソソームの集団が、分子量約50kDaを超えるエクソソームを含む、請求項1に記載のエクソソーム組成物。
【請求項7】
濃縮されたエクソソームの集団が、分子量約100kDaを超えるエクソソームを含む、請求項1に記載のエクソソーム組成物。
【請求項8】
濃縮されたエクソソームの集団が、粒径約200nm未満のエクソソームを約80%超含む、請求項1に記載のエクソソーム組成物。
【請求項9】
濃縮されたエクソソームの集団が、粒径約100nm未満のエクソソームを約10%超含む、請求項1に記載のエクソソーム組成物。
【請求項10】
濃縮されたエクソソームの集団が、分子量約3kDaを超え、以下に挙げる特徴のうち1つ以上を有するエクソソームを含む、請求項1に記載のエクソソーム組成物:
濃度が約1x1010エクソソーム/mLを超える;
エクソソームの約90%~約93%は、粒径が約200nm未満である;
エクソソームの約16%~約20%は、粒径が約100nm未満である;及び
平均粒径は、約135nm~約145nmである。
【請求項11】
濃度が約2x1010エクソソーム/mLを超え、エクソソームの約92%は、粒径が約200nm未満であり、エクソソームの約17%~19%は、粒径が約100nm未満であり、及び/又は平均粒径の範囲は、約137nm~約142nmである、請求項10に記載のエクソソーム組成物。
【請求項12】
濃縮されたエクソソームの集団が、分子量約10kDaを超え、以下に挙げる特徴のうち1つ以上を有するエクソソームを含む、請求項1に記載のエクソソーム組成物:
濃度が約2x1010エクソソーム/mLを超える;
エクソソームの約90%~約93%は、粒径が約200nm未満である;
エクソソームの約14%~約18%は、粒径が約100nm未満である;及び
平均粒径は、約138nm~約148nmである。
【請求項13】
濃度が約2.5x1010エクソソーム/mLを超え、エクソソームの約91%は、粒径が約200nm未満であり、エクソソームの約15%~約17%は、粒径が約100nm未満であり、及び/又は平均粒径の範囲は、約140nm~約145nmである、請求項12に記載のエクソソーム組成物。
【請求項14】
濃縮されたエクソソームの集団が、分子量約50kDaを超え、以下に挙げる特徴のうち1つ以上を有するエクソソームを含む、請求項1に記載のエクソソーム組成物:
濃度が1.0x1010エクソソーム/mLを超える;
エクソソームの約85%~約90%は、粒径が約200nm未満である;
エクソソームの約15%~約25%は、粒径が約100nm未満である;及び
平均粒径は、約140nm~約150nmである。
【請求項15】
濃度が約1.0x1010エクソソーム/mLを超え、エクソソームの約88.86%は、粒径が約200nm未満であり、エクソソームの約18%~約20%は、粒径が約100nm未満であり、及び/又は平均粒径の範囲は、約142nm~約148nmである、請求項14に記載のエクソソーム組成物。
【請求項16】
濃縮されたエクソソームの集団が、分子量約100kDaを超え、以下に挙げる特徴のうち1つ以上を有するエクソソームを含む、請求項1に記載のエクソソーム組成物:
濃度が1.0x1010エクソソーム/mLを超える;
エクソソームの約88%~92%は、粒径が約200nm未満である;
エクソソームの約15%~約20%は、粒径が約100nm未満である;及び
平均粒径は、約138nm~約145nmである。
【請求項17】
濃度が約1.2x1010エクソソーム/mLを超え、エクソソームの約90.93%は、粒径が約200nm未満であり、エクソソームの約16%~約19%は、粒径が約100nm未満であり、及び/又は平均粒径の範囲は、約140nm~約144nmである、請求項16に記載のエクソソーム組成物。
【請求項18】
エクソソームが幹細胞に由来する、請求項1に記載のエクソソーム組成物。
【請求項19】
請求項1に記載のエクソソーム組成物を製造する方法であって、
所望の量の細胞を培地中に入れる工程;
培地を遠心分離して細胞残屑を除去した後、得られた上清を濾過して細胞のアポトーシス小体及びマイクロベシクルを除去する工程;
分画分子量約3kDa~約100kDaの膜で、得られた上清を限外濾過する工程;及び
得られた上清を、約6,000g~約15,000gで少なくとも約10分間遠心分離してポリマー沈殿法によりエクソソームを沈殿させ、濃縮されたエクソソームを含むエクソソーム組成物を得る工程;
を含む、エクソソーム組成物の製造方法。
【請求項20】
請求項1に記載のエクソソーム組成物を製造する方法であって、
所望の量の細胞を培地中に入れる工程;
培地を遠心分離して細胞残屑を除去した後、得られた上清を濾過して細胞のアポトーシス小体及びマイクロベシクルを除去する工程;
得られた上清を、約80,000g~約12,000gで約50分間~約90分間、超遠心分離することにより、濃縮されたエクソソームを含むエクソソーム組成物を得る工程;
を含む、エクソソーム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、濃縮されたエクソソームを含むエクソソーム組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは、大部分の真核細胞のエンドソーム区画内で産生される膜結合性の細胞外小胞(EV)である。エクソソームのサイズ範囲は一般に、エンドソームに由来するもので、直径約40nm~160nm(平均約100nm)である。それらの表面は、ドナー細胞の細胞膜に由来する脂質二重層からなり、それらは、エクソソームを産生した細胞に由来する細胞質基質を含み、且つ親細胞由来の膜タンパク質をその表面上に提示する。エクソソームは、最初は不要なタンパク質を除去するためのメカニズムであると考えられていた。エクソソームは、細胞間の相互作用と同様の原理で細胞表面受容体に結合することができる。また、エクソソームは、細胞膜に付着して、それらの細胞に新しい受容体及び特性を付与することができる。そのため、エクソソームは、標的細胞と融合して、2つの型の細胞の間で膜タンパク質及び細胞質基質を交換することができる。これらは、細胞間のコミュニケーションを仲介し、タンパク質の移送を容易にすることが知られている。また、エクソソームの内包物(exosome cargo)は、広範囲のシグナル伝達因子を含み、これらのシグナル伝達因子は細胞型に特異的であり、分泌細胞の環境に応じて異なるように調節されることも知られている。エクソソームは、それらの天然の物質輸送特性、比較的小さな分子構造、及び優れた生体適合性を持つため、天然の細胞間情報キャリア(natural intercellular information carrier)として、薬物キャリアの分野において幅広く適用できる可能性を秘めている。
【発明の概要】
【0003】
本開示の一つの態様は、サイズ及び分子量において特定の分布を有する濃縮されたエクソソームを含むエクソソーム組成物に関する。
【0004】
一実施形態では、エクソソーム組成物は、濃度が約1x109エクソソーム/mLを超える濃縮されたエクソソームの集団を含み、エクソソーム組成物は、製剤化ではなく、単離及び限外濾過又は超遠心分離により直接得られる。
【0005】
さらなる実施形態では、組成物中のエクソソームの濃度は、約1x1010エクソソーム/mLを超える。幾つかの実施形態では、組成物中のエクソソームの濃度は、約1x1010エクソソーム/mL~約1x1015エクソソーム/mL、約1x1010エクソソーム/mL~約1x1014エクソソーム/mL、約1x1010エクソソーム/mL~約1x1013エクソソーム/mL、約1x1010エクソソーム/mL~約1x1012エクソソーム/mL、約1x1010エクソソーム/mL~約1x1011エクソソーム/mL、又は約1x1010エクソソーム/mL~約5x1010エクソソーム/mLである。
【0006】
一実施形態では、エクソソーム組成物は、平均粒径が約135nm~約150nm又は約138nm~約148nmである、濃縮されたエクソソームの集団を含む。
【0007】
一実施形態では、本明細書中に記載される濃縮されたエクソソームの集団は、分子量が約3kDa、約10kDa、約50kDa、又は約100kDaを超えるエクソソームを含む。
【0008】
一実施形態では、本明細書中に記載される濃縮されたエクソソームの集団は、粒径が約200nm未満であるエクソソームを約75%超、約80%超、約85%超、約88%超、又は約90%超含む。幾つかの実施形態では、本明細書に記載される濃縮されたエクソソームの集団は、粒径が約200nm未満であるエクソソームを約75%~約95%、約80%~約95%、約85~約95%、約75%~約93%、約80%~約93%、約85%~約93%又は約85%~約92%含む。
【0009】
一実施形態では、本明細書に記載される濃縮されたエクソソームの集団は、粒径が100nm未満であるエクソソームを約10%超、約12%超、又は約15%超含む。幾つかの実施形態では、本明細書中に記載される濃縮されたエクソソームの集団は、サイズが約100nm未満であるエクソソームを約10% ~約25%、約10%~約20%、約12%~約25%、約12%~約20%、約15%~約25%、約15%~約20%、約16%~約25%又は約16%~約20%含む。
【0010】
幾つかの実施形態では、本明細書中に記載される濃縮されたエクソソームの集団は、分子量が約3kDaを超え、以下に挙げる特徴のうち1つ以上を有するエクソソームを含む:
濃度が1x1010エクソソーム/mLを超える;
エクソソームの約90%~約93%は、粒径が約200nm未満である;
エクソソームの約16%~約20%は、粒径が約100nm未満である;及び
平均粒径は、約135nm~約145nmである。
【0011】
さらなる実施形態では、濃度は約2x1010エクソソーム/mL又は約3x1010エクソソーム/mLを超え(好ましくは約3.2x1010エクソソーム/mL);エクソソームの約92%は、粒径が約200nm未満であり;エクソソームの約17%~約19%(好ましくは約18.6x1010エクソソーム/mL)は、粒径が約100nm未満であり;及び/又は平均粒径の範囲は、約137nm~約142nm(好ましくは約140nm)である。
【0012】
幾つかの実施形態では、本明細書中に記載される濃縮されたエクソソームの集団は、分子量が約10kDaを超え、以下に挙げる特徴のうち1つ以上を有するエクソソームを含む:
濃度が2x1010エクソソーム/mLを超える;
エクソソームの約90%~約93%は、粒径が約200nm未満である;
エクソソームの約14%~約18%は、粒径が約100nm未満である;及び
平均粒径は、約138nm~約148nmである。
【0013】
さらなる実施形態では、濃度は約2.5x1010エクソソーム/mL、約3.0x1010エクソソーム/mL、約3.5x1010エクソソーム/mL、又は約4.0x1010エクソソーム/mLを超え(好ましくは約4.2x1010エクソソーム/mL);エクソソームの約91%は、粒径が約200nm未満であり;エクソソームの約15%~約17%(好ましくは約16.27x1010エクソソーム/mL) は、粒径が約100nm未満であり;及び/又は平均粒径の範囲は、約140nm~約145nm(好ましくは約143.7nm)である。
【0014】
幾つかの実施形態では、本明細書中に記載される濃縮されたエクソソームの集団は、分子量が約50kDaを超え、以下に挙げる特徴のうち1つ以上を有するエクソソームを含む:
濃度が1.0x1010エクソソーム/mLを超える;
エクソソームの約85%~約90%は、粒径が約200nm未満である;
エクソソームの約15%~約25%は、粒径が約100nm未満である;及び
平均粒径は、約140nm~約150nmである。
【0015】
さらなる実施形態では、濃度は約1.0 x 1010エクソソーム/mLを超え(好ましくは約1.44x1010エクソソーム/mL);エクソソームの約88.86%は、粒径が約200nm未満であり;エクソソームの約18%~約20%(好ましくは約19.21x1010エクソソーム/mL)は、粒径が約100nm未満であり;及び/又は平均粒径は、約142nm~148nm(好ましくは約145nm)である。
【0016】
幾つかの実施形態では、本明細書中に記載される濃縮されたエクソソームの集団は、分子量が約100kDaを超え、以下に挙げる特徴のうち1つ以上を有するエクソソームを含む: 濃度が1.0x1010エクソソーム/mLを超える;
エクソソームの約88%~約92%は、粒径が約200nm未満である;
エクソソームの約15%~約20%は、粒径が約100nm未満である;及び
平均粒径は、約138nm~約145nmである。
【0017】
さらなる実施形態では、濃度は約1.2x1010エクソソーム/mLを超え(好ましくは約1.48x1010エクソソーム/mL);エクソソームの約90.93%は、粒径が約200nm未満であり;エクソソームの約16%~約19%(好ましくは約18.7x1010エクソソーム/mL)は、粒径が約100nm未満であり;及び/又は平均粒径の範囲は、約140nm~約144nm(好ましくは約142.2nm)である。
【0018】
一実施形態では、本明細書中に記載されるエクソソームは、幹細胞由来である。幾つかの実施形態では、幹細胞は、胚性幹細胞(ESC)、間葉系幹細胞(MSC)、造血幹細胞移植(HSCT)又は人工多能性幹細胞(iPS細胞若しくはiPSC)である。
【0019】
本開示の別の態様は、このようなエクソソーム集団を製造する方法に関する。
【0020】
一実施形態では、本開示は、本明細書中に記載されるエクソソーム組成物を製造する方法であって、以下に挙げる工程を含む方法に関する:
所望の量の細胞を培地中に入れる工程;
培地を遠心分離して細胞残屑を除去した後、得られた上清を濾過して細胞のアポトーシス小体及びマイクロベシクルを除去する工程;
得られた上清を分画分子量(molecular weight cutoff)約3kDa~約100kDaの膜で限外濾過する工程;及び
ポリマー沈殿法によりエクソソームを沈殿させて、濃縮されたエクソソームを含むエクソソーム組成物を得る工程。
【0021】
一実施形態では、この方法で使用される細胞は幹細胞である。幾つかの実施形態では、幹細胞は胚性幹細胞(ESC)、間葉系幹細胞(MSC)、造血幹細胞移植(HSCT)又は人工多能性幹細胞(iPS細胞若しくはiPSC)である。
【0022】
本開示の幾つかの実施形態では、分画分子量を有する膜を用いた限外濾過は、スピンカラムコンセントレータにより行われる。
【0023】
一実施形態では、本開示は、本明細書に記載されるエクソソーム組成物を製造する方法であって、以下に挙げる工程を含む方法を提供する:
所望の量の細胞を培地に入れる工程;
培地を遠心分離して細胞残屑を除去した後、得られた上清を濾過して細胞のアポトーシス小体及びマイクロベシクルを除去する工程;及び
得られた上清を、約80,000g~約12,000gで、約50分間~約90分間、超遠心分離にかけて、濃縮されたエクソソームを含むエクソソーム組成物を得る工程。
【0024】
一実施形態では、超遠心分離は、約80,000g~約12,000g、約85,000g~約11,500g、約90,000g~約11,000g、又は約95,000g~約10,500gで、約50分~約90分間、約55分間~約85分間、約60分間~約80分間、又は約65分間~約75分間の範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、限外濾過の所要時間(time-consuming)の結果を示す。
図2図2は、実施例1におけるナノ粒子トラッキング解析の結果を示す。
図3図3は、ナノ粒子トラッキング解析のパラメータを示す。3kDa、10kDa、50kDa、及び100kDaの限外濾過における、平均サイズ、D90、及びD10を示す。
図4図4は、エクソソームマーカーの発現を示す。Alixはエクソソーム内タンパク質である。CD81は、エクソソームの表面タンパク質であり、3kDaと比べて50kDa及び100kDaにおいて減少する。
図5図5は、粒子濃度を示す。粒子濃度は推定値である。ナノ粒子トレーシング解析によると、粒子濃度は、3kDaと比べて50kDa及び100kDaにおいて減少した。
図6図6は、UCMSC由来エクソソームの透過型電子顕微鏡(TEM)解析を示す。
図7図7は、実施例1及び3におけるナノ粒子トラッキング解析の結果を示す。
図8図8は、実施例1及び3におけるナノ粒子トラッキング解析のパラメータを示す。
図9図9は、実施例1及び3における粒子濃度及びエクソソームマーカーの発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
特に数を明記したり文脈上示唆したりしない限り、冠詞「a」、「an」及び「the」は「1以上」を意味する。
【0027】
本明細書で使用される場合、「約」とは、当業者であれば理解できるであろうし、それらが使用される文脈においてある程度変化する。もし、「約」という用語が使用されている文脈から、その数値範囲が当業者にとって自明ではない使用があった場合、「約」は、具体的に挙げた数値の±10%を意味する。
【0028】
本明細書で使用される場合、「エクソソーム」という用語は、ヒト若しくは動物由来の任意の体液(例えば血液)に由来する任意の細胞外小胞、ヒト若しくは動物細胞株、細胞培養物、及び初代培養に由来する任意の細胞外小胞を指し、自己由来エクソソーム、ユニバーサルドナーエクソソーム、同種異系エクソソーム、及び改変エクソソームに限らない。
【0029】
「製剤」という用語は、活性成分の生理活性を有効にするような形態の調製物を指す。
【0030】
本明細書中で使用される場合、「幹細胞」という用語は、自己複製の特性を有し且つより分化した細胞型へと自然に分化する分化能を有する未分化の若しくは一部分化した状態の細胞を指し、分化能(即ち全能性、万能性、多能性等)に関して特定することを意図しない。自己複製とは、幹細胞が、その分化能を維持しつつ、増殖可能であり且つそのような幹細胞を増やすことができることを意味する。従って、「幹細胞」という用語は、特定の状況下において、より特化若しくは分化した表現型へと分化する分化能を有し、且つある状況下において、実質的に分化せずに増殖する能力を保持している、細胞の任意のサブセットを指す。
【0031】
本明細書で使用される場合、「~に由来する」という用語は、特定の試料若しくは試料群が、特定の種を起源とするものであるが、その特定の起源から必ずしも直接得られたものである必要はないことを示すものととらえるべきである。
【0032】
エクソソーム自体又は医薬ペイロード(drug payload)を送達するためのビヒクルとしてのエクソソームは、治療薬としてさかんに探究されている。リポソームと対照的に、注入されたエクソソームは、他の細胞に入り込むのに効率がよく、内包した機能性物質(functional cargo)を最小の免疫クリアランスで送達することができ、外因性投与の際には良好な耐性を示す。
【0033】
エクソソームの異種性は、それらのサイズ、含有量、受容細胞に対する機能的インパクト、及び細胞の起源を反映するようである。サイズの不均等は、多胞体(MVB)の境界膜の不均質な陥入(これにより液体及び固体の含有量が必然的に異なってくる)、又は、他のEVが関与する単離方法によるものであろう。EVが関与する精巧な分取法により、エクソソームが、特徴的なサイズ範囲により定義されるサブ集団を含み得ることが明らかとなった。またサイズの不均一性により、エクソソームの含有量が異なり得る。細胞の微小環境及び固有の生物学は、エクソソームの含有量及びそれらの生物学的マーカーに影響を及ぼし得る(Raghu Kalluri and Valerie S. LeBleu, Science Vol.367, Issue 6478,07 Feb 2020)。
【0034】
本明細書中に開示されるのは、約1x109エクソソーム/mLを超える濃度に濃縮されたエクソソームの集団を含むエクソソームである。また、本明細書中では、開示されるエクソソームの製造方法についても熟考する。
【0035】
エクソソーム組成物は、筋肉、脂肪、器官、又は骨若しくは骨髄等の、多くの組織源に由来するものとできる。様々な細胞を用いて、本開示のエクソソーム組成物を調製することができる。特に、エクソソーム組成物は細胞に由来するものとすることができる。本開示の幾つかの実施形態では、細胞は、真核生物又は細胞株に由来するものとすることができる。本開示の幾つかの実施形態では、細胞は、植物又は動物に由来するものとすることができる。細胞は、遺伝的に改変されたものでもよい。本開示の幾つかの実施形態では、細胞は幹細胞である。幾つかの実施形態では、幹細胞は、胚性幹細胞(ESC)、間葉系幹細胞(MSC)、造血幹細胞移植(HSCT)、又は人工多能性幹細胞(iPS細胞若しくはiPSC)である。
【0036】
特定のプロセスを用いて、本開示のエクソソーム組成物を製造する。本開示のエクソソーム組成物を製造するための方法では、まず、所望の量の細胞を提供する。本開示の幾つかの実施形態では、所望の量の細胞を得るのに十分な時間、培地の中で細胞を培養する。本開示の幾つかの実施形態では、細胞数は、約1x105細胞/mL~約1x108細胞/mL;約2x105細胞/mL~約8x107細胞/mL;約4x105細胞/mL~約6x107細胞/mL;約6x105細胞/mL~約4x107細胞/mL;約8x105細胞/mL~約2x107細胞/mL;約1x106細胞/mL~約1x107細胞/mL;約2x106細胞/mL~約8x106細胞/mL;又は約4x106細胞/mL~約6x106細胞/mLである。培養方法は、細胞に応じて異なる。本開示の幾つかの実施形態では、培地は、特定の特性を有する所望の量の細胞を得るための馴化培地である。例えば、未分化の段階又は分化した段階に細胞を維持するための馴化培地が提供される。
【0037】
所望の量の細胞を含む培地を、予備洗浄過程(pre-clearance procedure)に供して死細胞及び/又は細胞残屑を除去する。本開示の一実施形態では、培地を遠心分離にかけて、死細胞を除去する。本開示の幾つかの実施形態では、死細胞は、約300g、約 350g、又は約400gで、約5分間、約6分間、約7分間、約8分間、約9分間、約10分間、約11分間、約12分間、約13分間、約14分間、又は約15分間かけて、除去することができる。本開示の一実施形態では、培地を遠心分離にかけて、細胞残屑を除去する。本開示の幾つかの実施形態では、細胞残屑は、約1,500g、約1,600g、約1,700g、約1,700g、約1,800g、約1,900g、約2,000g、約2,100g、約2,200g、約2,300g、約2,400g、又は約2,500gで、約10分間、約11分間、約12分間、約13分間、約14分間、約15分間、約16分間、約17分間、約18分間、約19分間、又は約20分間かけて、除去することができる。
【0038】
次に、死細胞及び/又は細胞残屑を除去した後に得られた上清を濾過して、細胞のアポトーシス小体及びマイクロベシクルを除去する。本開示の一実施形態では、得られた上清を、約0.15μm、約0.16μm、約0.18μm、約0.20μm、約0.22μm、約0.24μm、約0.26μm、又は約0.28μmフィルタに通して濾過する。
【0039】
本開示の一実施形態では、予備洗浄後に得られた上清を次に、分画分子量約3kDa~約100kDaの膜を用いて、限外濾過にかける。本開示の幾つかの実施形態では、限外濾過は、スピンカラムコンセントレータにより行われる。本開示の幾つかの実施形態では、膜の分画分子量を約3kDaとし、480分間限外濾過を行う。本開示の幾つかの実施形態では、膜の分画分子量を約10kDaとし、60分間限外濾過を行う。
【0040】
半透膜を介して力(例えば圧力や濃度勾配)により分離を行う、一種の膜濾過法。限外濾過膜は、典型的には、膜の分画分子量により特徴付けられる。懸濁した高分子量の固体及び溶質は、残存物中に留まるが、水と低分子量溶質は膜を通過し透過物となる。異なるタイプのモジュールを限外濾過プロセスに使用することができる。このようなモジュールの例としては、プラスチック製若しくは紙製のチューブの内側にポリマー膜が配された管状エレメント、複数の中空繊維を含む中空繊維デザイン、スパイラル型モジュール(複数の平らな膜シートが、中心となる穿孔チューブの周りに巻きつけられた薄いメッシュのスペーサ部材によって隔てられ、管状の鋼製圧力容器内に装着されたもの)、並びに濾液が通過するメッシュ状部材により隔てられた平らなプレート上に配置された膜を用いるプレートとフレームのアセンブリが挙げられる。
【0041】
限外濾過後に得られた上清を次にエクソソーム沈殿にかけて濃縮する。本開示の幾つかの実施形態では、限外濾過後に得られた上清を、ポリマー沈殿法により沈殿させる。得られた上清は、濃度が約1x109エクソソーム/mLを超える濃縮されたエクソソームの集団を含む。
【0042】
細胞馴化培地は、エクソソーム抽出のための重要な工程である。大量の細胞馴化培地は、エクソソームの抽出及び濃縮にかかるコストを増大させるもととなる。限外濾過により細胞馴化培地を濃縮してエクソソーム抽出物を濃縮する。本開示は、抽出のためのエクソソーム濃縮の効率的な製造プロセスを提供する。
【0043】
本開示の一実施形態では、予備洗浄後に得られた上清を次に、約80,000g~約12,000gで、約50分間~約90分間、超遠心分離にかける。
【0044】
エクソソーム組成物は、その分子量、平均粒径、エクソソームの濃度、及び粒径範囲を決定することによって同定することができる。結果を本明細書中に記載する。本開示の幾つかの実施形態では、ナノ粒子トレーシング解析において、3kDaの限外濾過後のエクソソーム抽出物は、伝統的な超遠心分離に比べて粒子数が増加することが分かる。3kDaの限外濾過ではエクソソームマーカーの発現も増加する。さらに、10kDaの限外濾過後のエクソソーム抽出の効率は、超遠心分離と同じぐらいである。平均サイズは約150nm~約160nmであり、サイズ分布は約100nm~約200nmである。
【0045】
本発明のエクソソーム組成物は、以下に挙げる疾患(ただしこれらに限定されない)のいずれかを治療するために使用することができる:癌及び腫瘍性疾患;感染症;循環器疾患;1型糖尿病及び2型糖尿病を含む糖尿病;肝臓病;肥満;難治性疾患;胃腸疾患;骨疾患;及び鎌状赤血球症。また本発明のエクソソーム組成物は、細胞治療、ベクター及び細胞工学、並びに薬理学及び毒性学のアッセイ開発にも使用することもできる。
【0046】
本開示は、本明細書において例示目的のためだけに具体的な実施形態を用いて記載されている。しかし、本発明の原則を他の方法で具現化することができることは、当業者にとっては自明であろう。したがって、本発明の範囲は、特定の実施形態及び特許請求の範囲に限定されるものとみなされるべきではない。
【0047】
(実施例)
実施例1:エクソソーム組成物の製造
臍帯間葉系幹細胞(MSC)を、細胞量が1.5x106細胞/mLに到達するまで細胞馴化培地中で培養した。培養液を、350gで4℃にて10分間遠心分離し、死細胞を除去した。得られた上清を、2,000gで4℃にて15分間さらに遠心分離して細胞残屑を除去した。得られた上清を、0.22μmフィルタを用いて濾過し、細胞のアポトーシス小体及びマイクロベシクルを除去した。
【0048】
予備洗浄した細胞馴化培地30mlを、3kDa、10kDa、50kDa及び100kDaのスピンカラムコンセントレータ、VIVASPIN(登録商標)6(試料ロード量2mL~6mL)及び20(試料ロード量5mL~20mL)により限外濾過した。スピンカラムコンセントレータの膜の孔サイズは、キロダルトンに比例する。予備洗浄した細胞馴化培地30mLを1mLに濃縮する所要時間を推測し、表1及び図1に示した。結果、3kDaの限外濾過(480分)は、10kDa(60分)、50kDa(55分)、100kDa(50分)よりもかなり時間がかかった。
【0049】
【表1】
【0050】
TOOLSharp(登録商標) Cell Culture Media Exosome Extraction Kitを用いて、ポリマー沈殿法によりエクソソームを沈殿した。次に、濃縮したエクソソームの集団を含むエクソソーム組成物を得た。エクソソーム組成物は、表2、図2及び図3に示す特徴を有することが判明した。エクソソームのサイズ分布を、ナノ粒子トラッキング解析により分析した。図2に示すように、3kDa、10kDa、50kDa及び100kDaにおけるサイズ分布は似通っており、100nm~200nmであった。図3に示すように、平均粒径は150nm~160nmである。D90及びD10のサイズ分布は100nm~200nmであった。
【0051】
【表2】
【0052】
実施例2:エクソソームの集団を含むエクソソーム組成物
実施例1で得られたUCMSC由来エクソソーム上のAlix及びCD81の量を、電気泳動により測定し、図4に示した。Alix及びCD81は、3kDaと比べて50kDa及び100kDaにおいて減少する。
【0053】
ナノ粒子トレーシング解析を行ったところ、3kDaと比べて50kDa及び100kDaにおいて粒子濃度は減少した。
【0054】
UCMSC由来エクソソームにおける透過型電子顕微鏡(TEM)の解析結果を図6に示す。
【0055】
実施例3:エクソソーム組成物の製造-超遠心分離
臍帯間葉系幹細胞(MSC)を、細胞量が1.5x106細胞/mLに到達するまで細胞馴化培地中で培養した。培養液を、350gで4℃にて10分間遠心分離し、死細胞を除去した。得られた上清をさらに、2,000gで4℃にて15分間遠心分離し、細胞残屑を除去した。得られた上清を、0.22μmフィルタを用いて濾過し、細胞のアポトーシス小体及びマイクロベシクルを除去した。
【0056】
予備洗浄した細胞馴化培地12mLを、100,000gで70分間、超遠心分離にかけた。この実施例(超遠心分離)及び実施例1(3kDa及び10kDa)におけるエクソソームのサイズ分布を、ナノ粒子トラッキング解析により分析し、図7に示した。結果として、サイズ分布は似通っており、100nm~200nmであることを示す。
【0057】
この実施例(超遠心分離)及び実施例1(3kDa及び10kDa)におけるナノ粒子トラッキング解析のパラメータを、ナノ粒子トラッキング解析により分析し、図8に示した。全ての粒子の平均粒径は、約150nm~160nmである。D90及びD10のサイズ分布は、100nm~200nmであった。
【0058】
この実施例(超遠心分離)及び実施例1(3kDa及び10kDa)で得られたUCMSC由来エクソソーム上のAlix及びCD81の粒子濃度及び量を測定し、図9に示した。10kDa及び超遠心分離と比べて3kDaの限外濾過では粒子濃度が増加した。また、Alix及びCD81の発現も3kDaにおいて増加した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9