(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069332
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】TMEM176B、その発現または活性モジュレーターを有効成分として含む神経変性脳疾患の予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20240514BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240514BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240514BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240514BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240514BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20240514BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240514BHJP
C12N 15/85 20060101ALN20240514BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P25/00 ZNA
A61K48/00
A61K31/7088
A61K35/76
A61P25/28
A23L33/17
C12N15/12
C12N15/85 Z
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024034357
(22)【出願日】2024-03-06
(62)【分割の表示】P 2022525503の分割
【原出願日】2020-11-06
(31)【優先権主張番号】10-2019-0141927
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Witepsol
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521237192
【氏名又は名称】アミルロイド ソリューション インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AMYLOID SOLUTION INC.
【住所又は居所原語表記】(Sampyeong-dong) 601,58, Pangyo-ro 255beon-gil, Bundang-gu, Seongnam-si Gyeonggi-do 13486 Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョンファン
(72)【発明者】
【氏名】パク サンフン
(72)【発明者】
【氏名】パク ソンジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム ヘジュ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】神経変性脳疾患の予防または治療用組成物を提供する。
【解決手段】TMEM176B(Transmembrane Protein 176B)タンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、またはそれらの活性または発現増強剤を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TMEM176B(Transmembrane Protein 176B)タンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、またはそれらの活性または発現増強剤を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
TMEM176B(Transmembrane Protein 176B)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項3】
TMEM176B(Transmembrane Protein 176B)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項4】
TMEM176B(Transmembrane Protein 176B)タンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドの活性または発現増強剤を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または改善のための健康機能性食品。
【請求項5】
TMEM176B(Transmembrane Protein 176B)タンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドの活性または発現増強剤を有効成分として含む、認知障害の予防または改善または記憶力改善用健康機能性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
神経変性脳疾患の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性脳疾患は、中枢神経系の神経細胞に退行性変化が現れ、運動や感覚機能の損傷、および記憶、学習、演算、推理などの高次の原因機能が阻害されるなどの様々な症状が誘発される疾患である。神経変性脳疾患の種類には、アルツハイマー疾患(Alzheimer’s disease)、パーキンソン疾患(Parkinson’s disease)、および記憶障害などがある。神経変性脳疾患は、急激に、あるいは遅く進行する壊死(necrosis)やアポトーシス(apoptosis)による神経細胞の死滅が現れる。したがって、神経細胞の死滅機序に対する理解は、中枢神経系疾患の予防、調節、および治療法の開発のために理解されるべきである。
【0003】
一方、神経変性脳疾患の一種であるアルツハイマー疾患の重要な病理学的特徴は、老人斑(senile plaque)と呼ばれるペプチド凝集体の形成であり、これにより、シナプスの機能障害や神経細胞の死滅が誘発される。これらの老人斑の成分の一つは、40~42アミノ酸の長さを有するアミロイドベータ(amyloid-beta)である。アミロイドベータ単量体は、オリゴマー、プロトフィブリル(protofibril)、およびベータ-シートが豊富な繊維であり、自己組織化(self-assemble)されやすく、神経毒性の発症に関連する。
【0004】
アミロイドベータプラークと神経毒性との間の相関関係は、未だに明確にわかっていないが、アミロイドベータの中間に位置するオリゴマーまたは凝集体への自己組織化は、アルツハイマー疾患などの脳神経疾患の発症と関連すると考えられている。
【0005】
一方、最近、グリア細胞とミクログリア細胞がアルツハイマー疾患の主な発症原因ペプチドであるアミロイドベータを食作用(phagocytosis)できることが報告されている(Chung, WS, et al.,Do glia drive synaptic and cognitive impairment in disease?, Nat Neurosci, 2015.18(11):p.1539-45.)
【0006】
したがって、アミロイドベータ凝集抑制または凝集体を分解するか、異常に過剰リン酸化されているタウタンパク質を減少させたり、グリア細胞の食作用を増加させたりすることが、アルツハイマー疾患やパーキンソン疾患などの神経変性脳疾患の治療のための方法として提案される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一態様は、TMEM176B(Transmembrane Protein 176B)タンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、またはそれらの活性または発現増強剤を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供することである。
【0008】
他の態様は、TMEM176Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供することである。
【0009】
他の態様は、TMEM176Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて形質転換された細胞を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用医薬組成物を提供することである。
【0010】
他の態様は、TMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドの活性または発現増強剤を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または改善用健康機能性食品を提供することである。
【0011】
他の態様は、TMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドの活性または発現増強剤を有効成分として含む、認知障害の予防または改善、または記憶力改善用健康機能性食品を提供することである。
【0012】
他の態様は、有効量のTMEM176B(Transmembrane Protein 176B)タンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、またはそれらの活性または発現増強剤を必要とする個体に投与するステップを含む、神経変性脳疾患を予防、改善または治療する方法を提供することである。
【0013】
他の態様は、有効量のTMEM176B(Transmembrane Protein 176B)タンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、またはそれらの活性または発現増強剤を、神経変性脳疾患の予防、改善または治療用助成物の製造に使用するための用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一態様は、TMEM176Bタンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、またはそれらの活性または発現増強剤を有効成分として含む神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0015】
本明細書において、「TMEM176B(Transmembrane protein 176B)」という用語は、膜貫通型タンパク質であってもよく、LR8またはMS4B2とも呼ばれる。本明細書において、上記のTMEM176Bは、TMEM176Bのパラログ、オーソログ、またはホモログのすべてを含むことを意味し得る。一実施形態では、上記のTMEM176Bタンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0016】
本明細書において、「ポリヌクレオチド(Polynucleotide)」という用語は、一本鎖または二本鎖として存在するデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのポリマーである。RNAゲノム配列、DNA(gDNAおよびcDNA)およびそれらから転写されるRNA配列を包括し、特に断りのない限り、天然のポリヌクレオチドの類似体を含み得る。
【0017】
上記のポリヌクレオチドは、上記のTMEM176Bタンパク質のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列だけでなく、その配列に相補的な(complementary)配列も含み得る。上記の相補的な配列は完全に相補的な配列だけでなく、実質的に相補的な配列も含み、これは当業界における既知のストリンジェント条件(stringent conditions)下で、例えば前記タンパク質のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列のヌクレオチド配列とハイブリダイズし得る配列を意味する。
【0018】
上記の活性または発現増強剤は、TMEM176Bに直接的または間接的に作用し、TMEM176Bの発現または活性を改善、誘導、刺激、および増加させる物質を意味する。このような物質としては、有機化合物や無機化合物などの単一化合物、ペプチド、タンパク質、抗体、核酸、炭水化物、脂質などの生体高分子化合物、複数化合物の複合体などが挙げられる。上記の物質がTMEM176Bの活性または発現を増強(促進)するメカニズムは特に制限されない。例えば、物質が転写、翻訳などの遺伝子発現を増大させることをいう。
【0019】
一実施形態において、上記の薬学的組成物は、
(1)アミロイドベータのレベル又はアミロイドベータの凝集レベルが神経変性脳疾患を有しない正常個体よりも高いかあるいは高い危険性がある個体、
(2)タウタンパク質の凝集レベルが、神経変性脳疾患を有しない正常個体よりも高いかあるいは高い危険性がある個体、
(3)タウタンパク質のリン酸化のレベルが、神経変性脳疾患を有しない正常個体よりも高いかあるいは高い危険性がある個体、
(4)グリア細胞(glia)の機能が、神経変性脳疾患を有しない正常個体よりも低下(dysfunction)するかあるいは低下する危険性がある個体、
(5)前記(1)~(4)中1つ以上に該当する個体に投与するためのものであってもよい。
【0020】
上記のアミロイドベータまたはタウタンパク質の凝集レベルは、アミロイドベータ凝集体またはタウタンパク質の凝集体の量(濃度)、または全体アミロイドベータまたは全体タウタンパク質に対するアミロイドベータ凝集体またはタウタンパク質凝集体の割合を意味してもよい。
【0021】
上記のタウタンパク質のリン酸化レベルは、リン酸化されたタウタンパク質の量(濃度)または全体タウタンパク質に対するリン酸化されたタウタンパク質の割合を意味してもよい。
【0022】
ヒトアミロイドベータ(amyloid-beta)は、約36~43個のアミノ酸を含むペプチド分子であり、アルツハイマー疾患を有する患者の脳で発現されるアミロイドプラークの主な成分であり、アルツハイマー疾患の発症に関与することが知られている。上記のアミロイドベータペプチド分子は、アミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein(APP);UniProtKB P05067)をベータセクレターゼ(beta secretase)およびガンマセクレターゼ(gamma secretase)によって切断して得られるものであってもよい。アミロイドベータのペプチド分子は、凝集して神経細胞の毒性オリゴマーを形成し、神経変性脳疾患を誘発する。
【0023】
上記のタウ(Tau)タンパク質は、N-末端突出部分と、プロリン(proline)凝集ドメインと、微細小器官結合ドメインと、C-末端との4つの部分からなっており(Mandelkow et al., Acta.Neuropathol.,103,26-35,1996)、中枢神経系の神経細胞の中でタウが異常に過剰リン酸化されたり変形されたりする場合、パーキンソン疾患、タウオパチー(tauopathy)などの神経変性脳疾患が誘発されると知られている。
【0024】
本明細書において、「神経変性脳疾患」という用語は、脳の神経変性変化と関連するすべての疾患、特に、脳および/または脳神経細胞におけるアミロイドベータの凝集などの要因によって誘発され得るすべての疾患(脳疾患)を包括的に記載するために使用される。一実施形態において、上記の神経変性脳疾患は、認知症、アルツハイマー疾患(Alzheimer’s disease)、パーキンソン疾患、ハンチントン疾患、軽度認知障害(mild cognitive impairment)、大脳アミロイド血管症、ダウン症候群、アミロイド性脳卒中(stroke)、全身性アミロイドーシス、ダッチ(Dutch)型アミロイドーシス、ニーマン・ピック疾患、老人性認知症、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、脊髄小脳運動失調症(Spinocerebellar Atrophy)、トゥレット症候群(Tourette`s Syndrome)、フリードライヒ運動失調症(Friedrich` s Ataxia)、マチャド・ジョセフ病(Machado-Joseph`s disease)、レビー小体型認知症(Lewy Body Dementia)、ジストニア(Dystonia)、進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy)、および前頭側頭型認知症(Frontotemporal Dementia)からなる群から選択されるものであってもよいが、これに限定されるものではなく、アミロイドベータの凝集による疾患であれば、いずれの疾患でも対象となり得る。
【0025】
上記の「正常」は、上記の薬学的組成物が適用される個体と同種の個体中、先に定義した「神経変性脳疾患」を有していない個体または上記の個体から分離および/または培養された脳組織または脳細胞(脳神経細胞)であってもよい。
【0026】
一実施形態において、上記のTMEM176Bたんぱく質、それをコードするポリヌクレオチド、またはそれらの活性または発現増強剤は、グリア細胞(glial cell)のアミロイドベータに対する食作用を増加させてもよい。また、上記のグリア細胞は、上衣細胞(ependymal cell)、希突起膠細胞(oligodendrocyte)、アストロサイト(asrocyte)、またはミクログリア細胞(microglia)であってもよい。したがって、一実施形態による上記のTMEM176Bタンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、またはそれらの活性または発現増強剤は、個体の脳内のアミロイドベータの凝集および/または蓄積を抑制することができ、神経変性脳疾患を含むアミロイドベータの凝集による疾患に有用に使用してもよい。
【0027】
他の態様は、TMEM176Bタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターを提供する。
【0028】
上記のTMEM176Bタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、例えば、配列番号1をコードするポリヌクレオチドと少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有するポリヌクレオチド配列を含み、上記のポリヌクレオチド配列によってコードされたタンパク質は、配列番号1で表されるタンパク質の機能的活性を実質的に有する。
【0029】
他の態様は、上記のベクターで遺伝子組み換えした細胞を提供する。
【0030】
他の態様は、TMEM176Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0031】
一実施形態において、上記のベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター(adeno-associated virus、AAV)からなる群から選択されるいずれかであってもよいが、これらに限定されない。また、上記のアデノ随伴ウイルスベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10およびAAV11からなる群から選択されるいずれかであってもよいが、これらに限定されない。
【0032】
具体的には、本発明は、TMEM176Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むAAVベクターを提供することであってもよい。好ましくは、AAVベクターはAAV粒子の形態である。ウイルスベクターおよびウイルスベクター粒子、例えば、AAVに由来するものを調製および変形させる方法は当業界において既知のことである。
【0033】
AAVベクターは、AAVゲノムまたはその断片または誘導体を含み得る。AAVゲノムは、AAV粒子の製造に必要とされる機能をコードするポリヌクレオチド配列である。これらの機能は、AAV粒子へのAAVゲノムのカプシド形成を含み、宿主細胞でのAAVの複製とパッケージング周期でのこれらのオペレーティングを含む。天然に生じるAAVは複製欠損性であり、複製およびパッケージング周期を完了するため、トランスに(in trans)作用するヘルパー機能の提供に依存する。AAVゲノムは、1本鎖形態のポジティブ又はネガティブセンスのいずれであってもよく、あるいは、2本鎖形態であってもよい。2本鎖形態の使用により、標的細胞でのDNA複製ステップのバイパスが可能となり、その結果、導入遺伝子の発現を加速することができる。
【0034】
AAVゲノムは、AAVの任意の天然由来の血清型、又はAAVの分離株若しくはクレード(clade)のいずれでもよい。したがって、AAVゲノムは、天然に生じるAAVの完全なゲノムであってよい。当業界で既知のとおり、天然に生じるAAVは、様々な生物学的システムに従って分類され得る。一般に、AAVはその血清型に関して言及される。血清型は、カプシド表面抗原の発現のプロファイルのため、他の様々な亜種とそれを区別するのに使用され得る独自の反応性を有する様々なAAV亜種に対応する。概して、特定のAAV血清型を有するウイルスは、他のいかなるAAV血清型に特異的な中和抗体とも効率的に交差反応しない。AAV血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10及びAAV11、また、霊長類の脳から最近同定されたRec2、Rec3等の組み換え血清型を含む。そのような任意のAAV血清型を本発明で使用することができる。
【0035】
AAVはまた、クレードまたはクローンに関して言及することができる。これは、天然に由来するAAVの系統発生的関係を指し、概して、共通の祖先に遡ることができるAAVの系統発生グループを指し、それら全ての子孫を含む。さらに、AAVは、特定の分離株、すなわち、天然に見出された特定のAAVの遺伝的分離株に関して言及され得る。遺伝的分離株という用語は、他の天然に生じるAAVと限定された遺伝的混合を経験したAAV集団をいい、それにより、遺伝的レベルで認知可能な集団を定義する。
【0036】
当業者は業界で共通した一般知識に基づいて、本発明での使用に向けたAAVの適した血清型、クレード、クローンまたは分離株を選択することができる。
【0037】
上記のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、特定の細胞にウイルスを作ることができる材料を導入することによって作製されたものであり、本発明による核酸を含む発現ベクターは、当業界における既知の方法、例えば、これらに限定されないが、一過性トランスフェクション(transient transfection)、マイクロインジェクション、形質導入(transduction)、細胞融合、リン酸カルシウム沈殿法、リポソーム媒介トランスフェクション(liposome-mediated transfection)、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション(DEAE Dextran- mediated transfection)、ポリブレン媒介トランスフェクション(polybrene-mediated transfection)、電気穿孔法(electroporation)、遺伝子銃(gene gun)、および細胞内に核酸を流入させるための他の既知の方法によって細胞に導入することができる。例えば、TMEM176Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドをAAVに挿入して発現ベクターを作製した後、このベクターをパッケージング(packaging)細胞に形質導入し、形質導入されたパッケージング細胞を培養した後、濾過してAAV溶液を得て、これを用いて脳細胞、神経細胞および/または神経前駆細胞などの細胞を感染させることにより、細胞にTMEM176B遺伝子を導入することができる。
【0038】
AAVを含む上記のベクターは、宿主細胞で目的遺伝子を発現させるための手段を意味するものであり得る。上記のベクターは、目的遺伝子発現のためのエレメント(elements)を含むものであり、複製起点(replication origin)、プロモーター、作動遺伝子(operator)、転写終結配列(terminator)などを含み、宿主細胞のゲノム内への導入に適した酵素部位(例えば、制限酵素部位)および/または宿主細胞への成功した導入を確認するための選択マーカーおよび/またはタンパク質への翻訳のためのリボソーム結合部位(ribosome binding site;RBS)、IRES(Internal Ribosome Entry Site)などをさらに含むことができる。上記のベクターは、上記のプロモーター以外の転写制御配列(例えば、エンハンサーなど)をさらに含み得る。
【0039】
上記の組み換えベクター中、上記のタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、プロモーターに作動的に連結されるものであり得る。「作動的に連結された(operatively linked)」という用語は、プロモーター配列などのヌクレオチド発現制御配列と他のヌクレオチド配列との間の機能的結合を意味し、それによって上記の制御配列は上記の他のヌクレオチド配列の転写および/または解読を制御するようになる。
【0040】
上記の組み換えベクターは、宿主細胞内で安定的に上記のTMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドを発現させることができる発現用ベクターであり得る。上記の発現用ベクターは、当業界において植物、動物または微生物から外来のタンパク質を発現する上で用いられる通常のものを使用することができる。上記の組み換えベクターは、当業界における既知の様々な方法を通じて構築することができる。
【0041】
また、上記のベクターは遺伝子治療用発現ベクターを意味するものであってもよい。したがって、上記のウイルスベクターは、所望の細胞、組織および/または器官に治療遺伝子または遺伝物質を送達できるウイルスベクターを意味することであってもよい。上記の「遺伝子治療」という用語は、遺伝子異常によって誘発される各種遺伝子疾患を治療するために、遺伝子異常を有する細胞に正常遺伝子を挿入するか、または新たな機能を提供してその機能を正常化する方法を意味するものであってもよい。したがって、本発明の組み換えベクターは、TMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドを発現することによって神経変性脳疾患を予防または治療することができる。
【0042】
他の態様は、TMEM176Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0043】
本明細書において「形質転換」という用語は、外部から与えられたDNAによって生物の遺伝的性質が変化すること、すなわち、生物のある系統の細胞から抽出された核酸の一種であるDNAを他の系統の生細胞に導入したとき、DNAがその細胞に入り、遺伝形質が変化する現象を意味するものであり得る。
【0044】
一実施形態では、上記の形質転換された細胞は、幹細胞、前駆細胞または動物細胞であり得るが、これらに限定されない。また、上記の幹細胞は、具体的には胚幹細胞、成体幹細胞または人工多能性幹細胞(induced pluipotent stem cell、iPS)であってもよいが、これらに限定されず、上記の幹細胞から分化した幹細胞、例えば胚幹細胞由来の間葉系幹細胞、人工多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞、人工多能性幹細胞由来の神経幹細胞等を全て含むものであってもよい。さらに、上記の細胞は自己由来(autologous)または他家、または同種他家由来(allogenic)または異種由来(Xenogenic)であり得る。
【0045】
本発明において上記の形質転換された細胞は、TMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドを発現することによって神経変性脳疾患を予防または治療することができる。
【0046】
本明細書において「治療」という用語は、病状の軽減または改善、疾患部位の減少、疾患進行の遅延または緩和、疾患状態または症状の改善、軽減、または安定化、部分的または完全な回復、生存の延長、他の有益な治療の結果などをすべて含む意味で使用される。「予防」という用語は、特定の病気を有していない対象に作用し、前記特定の病気が発症しないようにするか、その発症時期を遅らせるか、または発症頻度を低減するすべてのメカニズムおよび/または効果を含む意味で使用される。
【0047】
「薬学的組成物」という用語は、対象への投与時にいくつかの有利な効果を与える分子または化合物を指すことができる。有利な効果は以下のとおりである。診断的決定を可能にし、病気、症状、障害または病態を改善し、病気、症状、障害または疾患の発症を減少または予防し、及び一般に、疾病、症状、障害又は病態に対応することを含み得る。
【0048】
上記の薬学的組成物は、上記の有効成分に加えて、薬学的に許容可能な担体、賦形剤、希釈剤、充填剤、増量剤、湿潤剤、崩壊剤、乳化剤(界面活性剤)、潤滑剤、甘味料、香味剤、懸濁剤、保存剤などからなる群より選択される1種以上の補助剤をさらに含んでもよい。上記の補助剤は、上記の薬学的組成物が適用される製剤に応じて適切に調整されてもよく、薬剤学分野で通常的に使用され得る全ての補助剤中の1つ以上を選択して使用してもよい。一実施形態において、上記の薬学的に許容可能な担体は、薬物の製剤化に通常的に利用されるものとして、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストローズ溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれら成分のうち1成分以上を混合して使用することができ、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び潤滑剤をさらに添加して、水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用製剤、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤で製剤化することができ、標的器官に特異的に作用するよう標的器官特異的抗体または他のリガンドを上記の担体と結合させ使用することができる。ひいては、この技術分野における適正な方法を用いて、またはレミントンの文献(Remington’s Pharmaceutical Science(最近版),Mack Publishing Company,Easton PA)に開示されている方法を用いて、各疾患に対応して、または成分によって、適宜に製剤化することができる。
【0049】
上記の有効成分の有効量、または上記の薬学的組成物は、臨床投与時に経口投与または非経口投与することができ、一般的な医薬品製剤の形態で使用してもよい。非経口投与とは、直腸、静脈、腹膜、筋肉、動脈、経皮、鼻腔(Nasal)、吸入、眼球または皮下などの経口以外の投与経路を介した投与を意味することができ、病変部位の局所投与などによって投与してもよい。経口投与の時、上記の薬学的組成物は、活性成分が胃内で分解されないようにするために、活性成分をコーティングするか、または胃の分解作用から保護可能な製剤に製剤化されてもよい。本発明における上記の薬学的組成物を医薬品として用いる場合、同一または類似の機能を示す有効成分1種以上をさらに含有してもよい。
【0050】
また、本明細書において「有効成分」という用語は、本明細書で述べられた物質が、本明細書で述べられた薬理学的な活性(例えば、神経変性脳疾患の治療)を達成するために使用される生理活性物質を意味してもよく、これは、本明細書で述べられた病気を治療するために、上記の物質のみを投与するか、または他の物質と一緒に併用投与、あるいは付加的に投与することとは区別される。すなわち、上記のTMEM176Bたんぱく質またはそれをコードするポリヌクレオチド、上記のポリヌクレオチドを含むベクター、上記のポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された細胞、およびTMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドの活性または発現増強剤は、神経変性脳疾患の直接的な治療効果のために単独の有効成分として投与されてもよい。
【0051】
上記の薬学的組成物は、水性または油性媒体中の溶液、懸濁液、シロップ剤またはエマルジョンの形態であるか、または散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤などの形態で製剤化されてもよく、製剤化のために分散剤または安定化剤をさらに含んでもよい。上記の薬学的組成物を製剤化する際に通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調製することができる。非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれてもよい。非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール(Propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、エチルオレートなどの注射可能なエステルなどを用いることができる。坐剤の基剤としては、ウイテプゾール(Witepsol)、マクロゴール、ツイン(Tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが用いられる。
【0052】
上記の薬学的組成物は、生理食塩水や有機溶媒のように薬剤として許容された様々な担体(carrier)と混合して用いることができ、安定性や吸収性を向上させるために、グルコース、スクロース、デキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸(Ascorbic acid)、グルタチオン(Glutathione)などの抗酸化剤(Antioxidants)、キレート剤(Chelating agents)、低分子タンパク質、他の安定化剤(Stabilizers)などを薬剤として用いることができる。
【0053】
上記の薬学的組成物は薬学的有効量で投与してもよい。その与方量において特に制約されることはなく、患者の生体内吸収性、体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度などによって有効投与量が決定される。本発明の薬学的組成物は有効量範囲を考慮して製造するようにし、このように製剤化された単位用量製剤は、必要に応じて薬剤の投与を監視または観察する専門家の判断と個人の要求に従って専門化された投薬法を使用することも、所定の間隔をあけて複数回投与するもできる。薬学的組成物の投与量は、1日1μg/kg/日~1,000mg/kg/日であり得るが、これらに限定されない。上記の1日または1回投与量は、単位容量形態で一つの製剤として製剤化されるか、適切な量に分けて製剤化されるか、または大容量容器内に組み込まれて製造されてもよい。
【0054】
上記の個体は哺乳類、例えば、人間、牛、馬、豚、犬、羊、ヤギ、または猫であり得る。上記の個体は、神経変性脳疾患の治癒を必要とする個体であり得る。
【0055】
本発明の有効成分が組み換えベクターである場合、具体的には0.01~500mgを含有することができ、より具体的には0.1~300mgを含有することができ、上記の組み換えベクターを含む組み換えウイルスの場合、具体的には103~1012IU(10~1010PFU)を含有することができ、より具体的には105~1010IUを含有することができるが、これに限定されない。
【0056】
本発明の有効成分が細胞である場合、具体的には103~108個を含有することができ、より具体的には104~107個を含有することができるが、これに限定されない。
【0057】
本発明における組成物の有効用量は、組み換えベクターの場合は0.05~12.5mg/kg(体重)、組み換えウイルスの場合は107~1011ウイルス粒子(105~109IU)/kg、細胞の場合は103~106細胞/kgであってもよく、具体的に組み換えベクターの場合は0.1~10mg/kg、組み換えウイルスの場合は108~1010粒子(106~108IU)/kg、細胞の場合は102~105細胞/kgであってもよく、1日1~3回投与することができる。上記の組成は必ずしもこれに限定されず、患者の状態および発症の程度に応じて変わり得る。
【0058】
他の態様は、薬学的有効量のTMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチド、上記のポリヌクレオチドを含むベクター、上記のポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された細胞、およびTMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドの活性または発現増強剤を神経変性脳疾患の個体に投与するステップを含む、神経変性脳疾患を治療する方法を提供する。
【0059】
他の態様は、薬学的有効量のTMEM176Bたんぱく質またはそれをコードするポリヌクレオチド、上記のポリヌクレオチドを含むベクター、上記のポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された細胞、およびTMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドの活性または発現増強剤を個体に投与するステップを含む、神経変性脳疾患を予防する方法を提供する。
【0060】
他の態様は、アミロイドベータ凝集抑制および/または分解を必要とする個体に薬学的に有効量のTMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチド、上記のポリヌクレオチドを含むベクター、上記のポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された細胞及びTMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドの活性または発現増強剤を個体に投与するステップを含む、アミロイドベータ凝集抑制および/または分解方法を提供する。上記の方法は、上記の投与ステップの前に、アミロイドベータ凝集抑制および/または分解を必要とする個体を確認するステップをさらに含んでもよい。
【0061】
上記のタウタンパク質の分解(および/または凝集抑制)および/またはタウタンパク質のリン酸化抑制を必要とする個体に、薬学的有効量の上記のTMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチド、上記のポリヌクレオチドを含むベクター、上記のポリヌクレオチド含むベクターで形質転換された細胞、およびTMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドの活性または発現増強剤を個体に投与するステップを含む、タウタンパク質の分解(および/または凝集抑制)および/またはタウタンパク質のリン酸化抑制方法を提供する。上記の方法は、上記の投与ステップの前に、タウタンパク質の分解(および/または凝集抑制)および/またはタウタンパク質のリン酸化抑制を必要とする対象を確認するステップをさらに含んでもよい。
【0062】
上記のTMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチド、上記のポリヌクレオチドを含むベクター、上記のポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された細胞、およびTMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドの活性または発現増強剤を有効成分として含む薬学的有効量を投与するステップを含む、神経変性脳疾患の予防および/または治療方法を提供する。上記の方法は、上記の投与ステップの前に、神経変性脳疾患の予防および/または治療を必要とする個体を確認するステップをさらに含み得る。
【0063】
他の態様は、TMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドの活性または発現増強剤を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または改善のための健康機能性食品を提供する。
【0064】
他の態様は、TMEM176Bタンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドの活性または発現増強剤を有効成分として含む、認知障害の予防または改善、または記憶力改善用健康機能性食品を提供する。
【0065】
本明細書において「認知」という用語は、思考、経験および感覚を通じて知識および理解を得る精神的活動またはプロセスであり得る。これには、知識、注意、記憶及びワーキングメモリー、判断及び評価、推論及び計算、問題解決及び意思決定、言語の理解及び生成などのプロセスが含まれてもよい。上記の認知障害は、学習、記憶、知覚及び問題解決に主に影響を及ぼす精神的健康障害のカテゴリーであり、記憶喪失、認知症およびせん妄(delirium)を含み得る。
【0066】
上記の記憶力改善は、神経解剖学的構造の損傷の結果、記憶の保存、保持および再収集を改善することを意味し得る。また、進行性であり得る(アルツハイマー疾患を含む)記憶力障害を改善することを意味し得る。
【0067】
上記の健康機能性食品は、毎日の食事で不足しやすい栄養素や人体に有用な機能を有する原料や成分(以下、「機能性原料」)を使用して製造した食品であり、健康を維持したり、所定の病気や症状を予防および/または改善したりするために役立つ全ての食品を意味し、最終製品形態は、特に限定されない。例えば、上記の健康機能性食品は、各種の食品、飲料組成物、食品添加物などからなる群より選択されるものであってもよいが、これらに限定されない。
【0068】
上記の健康機能性食品に含まれる有効成分の含有量は、食品の形態、所望の用途などに応じて適切に調整することができ、特に限定されなく、例えば、全体食品の重量に対して、0.0001~99重量%、0.0001~95重量%、0.0001~90重量%、0.0001~80重量%、0.0001~50重量%、0.001~99重量%、0.001~95重量%、0.001~90重量%、0.001~80重量%、0.001~50重量%、0.01~99重量%、0.01~95重量%、0.01~90重量%、0.01~80重量%、0.01~50重量%、0.1~99重量%、0.1~95重量%、0.1~90重量%、0.1~80重量%、0.1~50重量%、0.1~30重量%、0.1~10重量%、1~99重量%、1~95重量%、1~90重量%、1~80重量%、1~50重量%、1~30重量%、1~10重量%、10~99重量%、10~95重量%、10~90重量%、10~80重量%、10~50重量%、10~30重量%、25~99重量%、25~95重量%、25~90重量%、25~80重量%、25~50重量%、25~30重量%、40~99重量%、40~95重量%、40~90重量%、40~80重量%、40~50重量%、50~99重量%、50~95重量%、50~90重量%、50~80重量%、60~99重量%、60~95重量%、60~90重量%、または60~80重量%であってもよいが、これらに限定されない。
【0069】
上記の健康機能性食品は、様々な栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成フレーバー又は天然フレーバーなどのフレーバー、着色剤、増粘剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸またはその塩、アルギン酸またはその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などからなる群より選択される1種以上をさらに含有してもよい。これらの添加剤の割合は、全体の健康機能性食品の100重量部当たり、0.001~約20重量部の範囲内で選択されるのが一般的であるが、これに限定されない。
【0070】
上記の発明について記述した用語および方法などは、各発明において同様に適用される。
【発明の効果】
【0071】
一態様によるグリア細胞のアミロイドベータ食作用を増加させるTMEM176Bタンパク質、これをコードするポリヌクレオチドまたはそれらの活性または発現増強剤を有効成分として含む神経変性脳疾患の治療用薬学的組成物によれば、アストロサイトのアミロイドベータ食作用を促進し、アミロイドプラークを減少させるだけでなく、アルツハイマー疾患が発症した動物モデルにおいて行動および認知機能改善の効果があり、様々な神経変性脳疾患の予防および/または治療に有用に使用できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【
図1】TMEM176B阻害剤が処理されたアストロサイトのFAM-アミロイドベータに対する食作用を測定した結果を示すグラフである。
【
図2】アデノ随伴ウイルスを用いてTMEM176B遺伝子を導入したアストロサイトでTMEM176B発現増加を確認したウェスタンブロットの結果及びグラフである。
【
図3】アデノ随伴ウイルスを用いてTMEM176B遺伝子を導入したアストロサイトの食作用が増加することを確認したグラフである。
【
図4】アルツハイマー病モデルマウスにおけるTMEM176B‐アデノ随伴ウイルスの治療効果を確認するための投与および評価方法の模式図である。
【
図5】アミロイドベータの染色によるTMEM176B‐アデノ随伴ウイルス投与群におけるプラークの減少を確認した写真である。
【
図6】アミロイドベータの染色によるTMEM176B‐アデノ随伴ウイルス投与群におけるプラークの減少を確認したグラフである。
【
図7】水中迷路試験によりTMEM176B‐アデノ随伴ウイルス投与群でプラットフォームに到達する時間が減少したことを確認したグラフである。
【
図8】プラットフォームを除去した後の行動評価において、TMEM176B-アデノ随伴ウイルス投与群の認知機能が改善されたことを確認したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下では、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、これは例示的なものにすぎず、本発明の範囲は、限定されない。下記に記載の実施例は、発明の本質的な要旨を逸脱しない範囲で変形できることは当業者にとって自明であろう。
【0074】
実施例1 TMEM176B抑制によるアストロサイト(astrocyte)の食作用の確認
TMEM176Bを抑制することにより、アストロサイトの食作用にどのような影響を及ぼすかを確認した。
【0075】
具体的には、TMEM176Bの阻害剤にはBAYK8644(Merck)を使用し、アストロサイト(Abm)に阻害剤を処理した後、食作用を確認する方法は以下のように進行した。96-ウェルの細胞培養用黒色プレート(SPL)中にFBS(GIBCO)10%、ペニシリン/ストレプトマイシン(Thermo)、ヒトEGF10ng/mL(Abm)、L-グルタミン(Abm)が含まれたPriGrow IV培地(Abm)を用いて1ウェル当たり50,000個のアストロサイトの培養を開始した。この時、TMEM176B阻害剤を0μM、3.703μM、11.11μM、33.33μM、100μMの濃度で処理した後、37℃、5%CO
2インキュベーターで18~24時間培養して安定化させた。蛍光を発するFAM-アミロイドベータを5μM濃度で冷PBS(Anaspec)に溶かした後、光を遮断し、4℃冷蔵庫で24時間保管してオリゴマーを作製した。安定化が終わった細胞に24時間保管したアミロイドベータオリゴマーを処理した後、37℃、5%CO
2インキュベーターで18~24時間培養した。培養終了後、培養液を吸引して除去し、0.4%トリパンブルー(GIBCO)を入れ、1分間37℃、5%CO
2インキュベーターで培養した。1分後、トリパンブルーを吸引して除去し、蛍光測定可能なマイクロプレートリーダーを用いて485nm励起/535nm発光波長帯を用いて食作用が起こったアミロイドベータオリゴマーを測定した。測定終了後、PBSで1回洗浄した後、50μg/mlのHoechst Dye 33342(abcam)を加え、37℃、5%CO
2インキュベーターで30分間培養して核を染色した。培養終了後、PBSで1回洗浄し、360nm励起/465nm発光波長帯を用いて染色した核を測定し、その結果を
図1に示した。
【0076】
その結果、
図1に示すように、アストロサイトにTMEM176B阻害剤を処理した結果、アミロイドベータオリゴマーに対する食作用機能が減少することを確認した。これらの結果は、TMEM176Bの過剰発現、または活性増強の場合、アルツハイマー疾患を含む神経変性脳疾患の治療効果があることを示している。
【0077】
実施例2 TMEM176Bの発現または活性増強によるアストロサイトに対する効果の確認
TMEM176B遺伝子を発現するように作製した組み換えアデノ随伴ウイルスを用いて、アストロサイトにおけるTMEM176Bの過剰発現を誘導した後、その効果を確認した。
【0078】
<2-1> TMEM176B-アデノ随伴ウイルスの製造
TMEM176B-アデノ随伴ウイルスは、アデノ随伴ウイルス血清型9番を用いてCMVプロモーターとマウス由来のTMEM176B配列を導入したウイルスで、Vigene Biosciencesに依頼して生産した。
【0079】
<2-2> TMEM176B-アデノ随伴ウイルスを接種したアストロサイトにおけるTMEM176B発現の確認
12-ウェルの細胞培養プレート(Corning)にFBS(GIBCO)10%、ペニシリン/ストレプトマイシン(Thermo)、ヒトEGF 10ng/mL(Abm)、L-グルタミン(Abm)を含むPriGrow IV培地(Abm)を用いて1ウェル当たり100,000個のアストロサイトを接種した。適正な接種濃度を知るために、24時間後、0.5、1、2X10
6GC(genome copies)/cellでアデノ随伴ウイルスを接種し、48時間後に感染の有無をウェスタンブロットで確認した。ウェスタンブロットは抗TMEM176B抗体(Abclonal)とHRP結合抗ウサギ免疫グロブリンG抗体(Thermo)を用いて進行し、その結果を
図2に示した。
【0080】
その結果、
図2に示すように、1X10
6GC/cell接種条件でTMEM176Bの発現が約2倍増加することを確認した。
【0081】
<2-3> TMEM176B が過剰発現されたアストロサイトの食作用の確認
96-ウェルの細胞培養用黒色プレート(SPL)に、FBS(GIBCO)10%、ペニシリン/ストレプトマイシン(Thermo)、ヒトEGF 10ng/mL(Abm)、L-グルタミン(Abm)が含まれたPriGrow IV培地(Abm)を用いて、1ウェル当たり50,000個のTMEM176Bが感染したアストロサイトと一般のアストロサイトを接種した。この時、TMEM176B-アデノ随伴ウイルスが接種されたアストロサイトのみにTMEM176B阻害剤を0μM、10μM、50μM濃度で処理した後、37℃、5%CO
2インキュベーターで18~24時間培養して安定化させた。FAM-アミロイドベータ(Anaspec)を5μM濃度で冷PBSに溶かした後、光を遮断し、4℃冷蔵庫で24時間保管してオリゴマーを作製した。安定化が終わった細胞に24時間保管したアミロイドベータオリゴマーを処理した後、37℃、5%CO
2インキュベーターで18~24時間培養した。培養終了後、培養液を除去し、0.4%トリパンブルー(GIBCO)を入れ、1分間37℃、5%CO
2インキュベーターで培養した。1分後、トリパンブルーを除去し、蛍光測定可能なマイクロプレートリーダーを用いて485nm励起/535nm発光波長帯を用いて食作用が起こったアミロイドベータオリゴマーを測定した。測定終了後、PBSで1回洗浄した後、50μg/mlのHoechst Dye 33342(abcam)を加え、37℃、5%CO
2インキュベーターで30分間培養して核を染色した。培養終了後、PBSで1回洗浄し、蛍光測定可能なマイクロプレートリーダーを使用することで360nm励起/465nm発光波長帯を用いて染色した核を測定し、その結果を
図3に示した。
【0082】
その結果、
図3に示すように、TMEM176B-アデノ随伴ウイルスが接種されたアストロサイトで食作用が増加することを確認し、TMEM176B阻害剤により濃度依存的に食作用が減少することを確認した。これらの結果は、TMEM176Bの過剰発現または活性増強の場合、アストロサイトのアミロイドベータに対する食作用が増加するにつれて、アルツハイマー疾患を含む神経変性脳疾患の治療効果があることを示している。
【0083】
実施例3 TMEM176B-アデノ随伴ウイルスをアルツハイマー病のマウスに投与して治療効果を確認する
アデノ随伴ウイルスにTMEM176Bを導入し、生体内(in vivo)感染時にTMEM176Bが過剰発現されるようにした。アルツハイマー病のマウスにTMEM176B-アデノ随伴ウイルスを感染させて脳内のアミロイドベータの凝集体形成を確認し、水中迷路試験を用いた行動評価を通じて治療効果を確認した。
【0084】
<3-1>アルツハイマー病モデルマウスを用いたTMEM176Bの有効性確認実験
Jackson Labから購入したAPP/PS1アルツハイマー病モデルマウスを使用し、飼育および実験はケイピーシー(KPC)で行った。入ったマウスは、6ヶ月間の純化と老化の後、TMEM176B-アデノ随伴ウイルス投与を開始した。純化期間中、各マウスはケージ当たり1匹ずつ飼育され、マウスの識別はイヤータグで表示され、さらにケージにラベル紙を貼り付けて区分した。群分離の時にも各マウス固有番号を用い、群分離及び試験開始後は飼育箱ごとに個体識別カード(群情報、マウス番号、性別、投与期間)を付着した。各群は野生型(Wild Type,WT)対照群5頭、APP/PS1対照群8頭、APP/PS1 TMEM176B投与群8頭から構成して進行した。イソフルラン(Isoflurane)吸入麻酔薬を用いて動物を麻酔した後、頭部を脳定位固定装置(stereotaxic instrument)に固定した。ICV(intracerebroventricular)投与を行う脳位置(AP:-0.58、ML:-1.25、DV:-2.1)にハミルトンシリンジ(Hamilton syringe)を挿入し、試験物質5μlを1μl/minの速度で注入した。試験物質が周囲に拡散するように5分~10分程度置いた後、シリンジを抜いた。32~34週目に1回投与した後、8週間後に行動評価を行った。
図4に示すように、8ヶ月目に1回投与した後、2ヶ月後に行動評価を行い、TMEM176Bの効能を確認した。
【0085】
図4は、アルツハイマー病モデルマウスを用いてTMEM176B‐アデノ随伴ウイルスの治療効果を確認するための実験スケジュールを示す。
【0086】
<3-2>アミロイドベータ染色によるプラーク減少の確認
治療および行動試験の後、マウスを犠牲にし、野生型(WT)(G1)、APP/PS1対照群(G2)、APP/PS1TMEM176B投与群(G3)のアミロイドベータプラークを検出して分析した。具体的には、脳を4%PFA溶液に固定した後、パラフィンブロックを作製した後、ミクロトーム(HM340E、Thermo、USA)で4μm厚に切断し、スライドに付着した。スライドをキシレンで脱パラフィン化し、エタノール(100%-95%-80%-70%)で再水和してパラフィンを完全に除去した。内因性ペルオキシダーゼを遮断するために0.03%H
2O
2で処理した後、Tris/EDTA pH9.0緩衝液で熱媒介抗原検査を行った。スライドを一次抗体(6E10、1:2000)と1時間、二次抗体(Envision anti-rabbit HRP)と30分間培養し、次にDAB(diaminobenzidine)で発色させた後、Mayer’s Hematoxylinでカウンター染色した。共焦点レーザー顕微鏡(confocal microscopy)を用いて分析を行い、プラークの数と面積を測定し、その結果を
図5及び
図6に示した。
【0087】
その結果、
図5及び
図6に示すように、APP/PS1 TMEM176B投与群(G3)におけるプラーク数は脳全体、海馬と皮質のいずれでも減少した。
【0088】
<3-3>モリス水中迷路試験(Morris water maze test)による認知機能改善の確認
モリスによって考案された方法に基づいて水中迷路試験を行った。具体的には、ステンレスプール(直径90cm、高さ50cm)に水(22±1℃)を満たし、水面高さが30cmとなるようにした。隠されたプラットホーム(直径9cm)は、水面下1cmの位置にあるようにした。評価の最初日に3回~4回の訓練を行った。1マウス当たりの水泳時間は全体で60秒に設定し、60秒以内にプラットフォームを見つけたマウスは、10秒間プラットフォーム上に滞在するようにして記憶を誘導した。60秒経ってもプラットフォームを見つけられなかったマウスは人為的にプラットフォームに案内し、プラットフォーム上で10秒間滞在するようにし、この時のescape timeは60秒とした。5日間の認知試験(acquisition test:AQ test)を実施し、プラットフォームに到達する時間を日付別に比較して、試験物質の認知機能に関連した有効性を検証した。1日目には、プラットフォームに到達する時間を記録せず、東西南北の4つの方向からvisual cuesを利用してプラットフォームに到達する訓練を行った。2日目(Aq1と表記)から4日間プラットフォームに到達する時間を記録し、実験は東西南北の各方向からプラットフォームに到達する時間を記録したため、1マウス当たり4つの値が記録され、その結果を
図7に示した。
【0089】
その結果、
図7に示すように、日付ごとにG2群と比較したとき、G1群はAq2日目から最後の日であるAq4日目までプラットフォームに到達する時間が有意に減少した(Aq2、p=0.025;Aq3、p=0.018;Aq4、p<0.001)。さらに、TMEM176B投与群(G3)でG2群と比較した時、Aq4日目で有意な差が観察された(p=0.042)。
【0090】
その後、水中迷路試験6日目にプラットフォームを除去した後、probe testを行い、空間知覚能力(latency to target、target crossing numbers、percentage of time in SW area(%))を測定した。分析は、SMART VIDEO TRACKING Software(Panlab、USA)を用いて行った。水泳時間中、プラットフォームが配置されていた象限で過ごした時間の割合(Percentage of time in SW area, %)、プラットフォームのあった位置に到達するまでの所要時間(Latency to target, sec)、プラットフォームのあった場所を通過した回数(Target Crossing、numbers)を比較して、合計3つの指標で結果を算出し、その結果を
図8に示した。
【0091】
上記の実験で得られた全てのデータは平均±標準誤差(Standard Error Mean;SEM)と表記し、全ての結果はSPSS(IBM SPSS Statistics, Version 22)を用いてone-way ANOVAで分析し、事後検証はLSD(The least significant difference) testで実施した。
【0092】
その結果、
図8に示すように、G3群とG2群を比較した結果、プラットフォームのあった位置に到達するまでの所要時間(latency to target)指標でG3群が有意な差を示し(p=0.012)、プラットフォームのあった場所を通過した回数(target crossing)でも有意な差を示した(p=0.040)。
【0093】
以上の結果は、一実施形態に係るTMEM176Bがアストロサイトのアミロイドベータ食作用を促進し、アミロイドプラークを減少させるだけでなく、アルツハイマー病の動物モデルにおいて行動及び認知機能改善の効果があり、神経変性脳疾患の治療に有用に使用できることを意味する。
【配列表】