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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069335
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】スペーサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/14 20060101AFI20240514BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20240514BHJP
   B32B 3/26 20060101ALI20240514BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
F02F1/14 A
F02F1/14 Z
F01P3/02 A
B32B3/26 B
B29C45/14
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024034556
(22)【出願日】2024-03-07
(62)【分割の表示】P 2019207661の分割
【原出願日】2019-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プリフォーム工程を不要とし、生産性を向上させることができるスペーサの製造方法を提供する。
【解決手段】内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲む状態で形成された冷却水流路内に配置され、樹脂からなり凸曲部を有する支持体と該支持体における前記凸曲部の凸曲面を含む側面に取り付けられる多孔質体3とを備えるスペーサを成形型10を用いて製造するスペーサの製造方法であって、前記成形型には、前記支持体の前記凸曲部の頂部に対応する凹曲部11bの底部11cを間に挟んで複数の位置決め突部11dが設けられており、シート状とされた前記多孔質体を、前記成形型の凹曲部に沿わせるように曲げた状態で、該多孔質体の両側の端縁を前記位置決め突部の周縁により係止させて前記成形型に配置し、前記成形型内に樹脂を射出してインサート成形を行う。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲む状態で形成された冷却水流路内に配置され、樹脂からなり凸曲部を有する支持体と該支持体における前記凸曲部の凸曲面を含む側面に取り付けられる多孔質体とを備えるスペーサを成形型を用いて製造するスペーサの製造方法であって、
前記成形型には、前記支持体の前記凸曲部の頂部に対応する凹曲部の底部を間に挟んで複数の位置決め突部が設けられており、
シート状とされた前記多孔質体を、前記成形型の凹曲部に沿わせるように曲げた状態で、該多孔質体の両側の端縁を前記位置決め突部の周縁により係止させて前記成形型に配置し、前記成形型内に樹脂を射出してインサート成形を行うことを特徴とするスペーサの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスペーサの製造方法において、
前記複数の位置決め突部は、前記凹曲部の前記底部に対して均等に離れた状態で設けられていることを特徴とするスペーサの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のスペーサの製造方法において、
前記多孔質体は、当該多孔質体の中心が前記凹曲部の底部と一致するように前記成形型に配置されることを特徴とするスペーサの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスペーサの製造方法において、
前記位置決め突部は、前記多孔質体の両側の前記端縁の中央部位に係止するように形成されていることを特徴とするスペーサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲む状態で形成された冷却水流路内に配置されるスペーサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の冷却水流路には、流通する冷却水の流量や流速等を規制するためのスペーサが開口部から挿入されて配置される(例えば、特許文献1参照)。例えば、特許文献1に開示されたスペーサでは、合成樹脂等の剛体製の支持体(スペーサ本体)のシリンダボア側の面に、冷却水と接触すると膨大化して、冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触する多孔質体が取り付けられている。このようにスペーサ本体に取り付けられる多孔質体は、膨大化する前は厚みが薄いため、当該スペーサを冷却水流路内に挿入する際には挿入抵抗を小さくして円滑に挿入することができるとともに、冷却水流路内に配置した後は膨大化して、冷却水の流通を規制することができる。
【0003】
上述のようなスペーサは、成形型内に多孔質体を配置した状態で、当該成形型に溶融樹脂を導入することで一体成型される。このようなスペーサは、スペーサ本体が曲面部分を備えることが多く、当該曲面部分にも多孔質体を配置することが求められる。例えば、スペーサ本体が備える凸曲面に多孔質体を配置する場合、成形型の凹曲面に多孔質体を配置する必要がある。例えば、特許文献1の図17では、成形型の凹曲面に設けた凹部に多孔質体を配置する構成を開示している。また、溶融樹脂を導入したときに、多孔質体に位置ずれが生じることを防止するため、成形型に設けられた突起に多孔質体に設けられた貫通孔を嵌合させる構成を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-128256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示するような、成形型の凹部に多孔質体を配置する場合には、当該工程の前に、平面シート状の多孔質体の形状を成形型の凹部に合致する形状にプリフォームする手法を採用することが考えられる。しかし、生産スループットを向上させる観点では、このようなプリフォーム工程は採用しないことが好ましい。
【0006】
そこで、プリフォーム工程を行わない代わりに、成形型に設けられた上述の突起を長くする構成を採用して、成形型の凹部に多孔質体を配置することも考えられる。このような構成では、成形型からの多孔質体の離脱を避けることはできるが、その反面、型開き量の増大に起因する生産スループットの低下を招くことになる。一方、成形型に設けられた上述の突起に対応する多孔質体の貫通孔の締め代を設定することでも多孔質体の離脱を回避できる可能性はある。しかしながら、このような構成では、型開後に成形型から成形品をスムーズに取り出せず、生産スループットの低下を招くことになる。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、プリフォーム工程を不要とし、生産性を向上させることができるスペーサの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明のスペーサの製造方法は、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲む状態で形成された冷却水流路内に配置され、樹脂からなり凸曲部を有する支持体と該支持体における前記凸曲部の凸曲面を含む側面に取り付けられる多孔質体とを備えるスペーサを成形型を用いて製造するスペーサの製造方法であって、前記成形型には、前記支持体の前記凸曲部の頂部に対応する凹曲部の底部を間に挟んで複数の位置決め突部が設けられており、シート状とされた前記多孔質体を、前記成形型の凹曲部に沿わせるように曲げた状態で、該多孔質体の両側の端縁を前記位置決め突部の周縁により係止させて前記成形型に配置し、前記成形型内に樹脂を射出してインサート成形を行うことを特徴とする。
【0009】
このスペーサの製造方法では、多孔質体を成形型内に位置決めすることができる。このとき、位置決め突部は、成形型の凹曲部の底部を間に挟んだ位置に設けられているため、曲がった状態の多孔質体を位置決め突部により維持することができる。その結果、凸曲部に対応する箇所に多孔質体が取り付けられたスペーサを製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プリフォーム工程を不要とし、生産性を向上させることができるスペーサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るスペーサの一例を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係るスペーサの一例を模式的に示す横断面図である。
図3】(a)から(d)は、本発明の一実施形態に係るスペーサの成形過程の一例を模式的に示す断面図である。
図4】(a)は、本発明の一実施形態に係るスペーサが備える多孔質体の貫通孔と成形型の位置決め突部との関係を模式的に示す拡大断面図である。(b)は、本発明の一実施形態に係るスペーサが備える多孔質体の一例を示す平面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るスペーサの使用状態を模式的に示す縦断面図である。(a)は、多孔質体が膨大化する前の状態を示し、(b)は、多孔質体が膨大化した後の状態を示している。
図6】(a)から(c)は、本発明の一実施形態に係るスペーサの成形過程における多孔質体と位置決め突部との位置関係を模式的に示す図である。
図7】(a)から(d)は、本発明の一実施形態に係るスペーサの成形過程における多孔質体と位置決め突部との位置関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態におけるスペーサの一例を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明の一実施形態におけるスペーサの一例を模式的に示す断面図である。図2は、図1に示すスペーサの横断面図に対応する。なお、本実施形態では、説明のため、2つのシリンダボアが直列に配置されたシリンダブロックにおいて、シリンダボアの周囲に配置されるオープンデッキタイプの溝形状の冷却水流路内に配置されるスペーサを例示している。また、本明細書では、適宜、スペーサにおいて、シリンダボアの軸方向に対応する方向(冷却水流路の深さ方向)を上下方向といい、シリンダボアの配列方向に対応する方向を左右方向という。
【0013】
図1及び図2に示すように本実施形態のスペーサ1は、樹脂からなる支持体2と、支持体2に取り付けられる多孔質体3を備える。支持体2は、それぞれが部分円筒面を構成する2つの円弧部21と、当該隣り合う2つの円弧部21を接続する接続部22を備える。接続部22は、2つの円弧部21の凹面側(以下、凹曲面21aという。)を滑らかに接続する凸曲面22aを備え、当該凸曲面22aを含む側面に多孔質体3が取り付けられている。以下、本明細書では、凸曲面22aを備える接続部22を凸曲部22という。
【0014】
なお、凸曲部22(凸曲面22a)は、上述のように、隣り合う2つの円弧部21(部分円筒面)を接続する部分である。すなわち、図2に示す断面では、凹曲面21a及び凸曲面22aにより構成される支持体2の面のうち、曲率が部分円筒面を構成する面部分の曲率と異なる値となる領域が凸曲部22(凸曲面22a)になる。また、本明細書では、凸曲面22aにおいて最も突出する部分を凸曲部22の頂部22bという。本実施形態のスペーサ1では、凸曲部22は上下方向の形状が同一であるため、凸曲部22の頂部22bは上下方向に沿う直線になる。
【0015】
上述のようなスペーサ1の形状は、上述のシリンダブロックが備える冷却水流路に整合する形状であり、凹面側21aが、シリンダボアと対向する状態で上述の冷却水流路に配置される。また、凸曲面22aがシリンダブロックにおいて直列に配置されたシリンダボアの間のシリンダブロック(シリンダボア間部位)と対向する状態で上述の冷却水流路に配置される。なお、本実施形態では、2つのスペーサ1を、それぞれのスペーサ1が備える凹曲面21a同士及び凸曲面22a同士が対向する状態で連結することで、シリンダブロックの冷却水流路の全体形状に対応する形状が構成される。当該連結された2つのスペーサ1が、シリンダブロックの冷却水流路内に配置される。
【0016】
多孔質体3は矩形状のシート状の部材として構成されるとともに、可撓性を有する。上述のとおり、多孔質体3は凸曲面22aを含む支持体2の側面に取り付けられている。特に限定されないが、本実施形態では、多孔質体3は、凸曲面22aの上下方向の一部を被覆するとともに、左右方向の両端が各円弧部21に重なる状態で支持体2に取り付けられている。つまり、多孔質体3の両端のシリンダボア側の面は、円弧部21の凹曲面21aに連続するとともに、凹曲面21aの一部を構成する。ここでは、凹曲面21aを構成する部分円筒面の軸方向(上下方向)において、多孔質体3の長さは支持体2の長さよりも小さくなっている。本実施形態では、上下方向の多孔質体3の長さは、当該方向の支持体2の長さの半分程度であり、多孔質体3は、支持体2の上下方向の概ね中央に配置されている。
【0017】
また、多孔質体3は、シート状の多孔質体3を厚み方向に貫通する貫通孔4を備える。図1及び図2に示すように、貫通孔4は、凸曲部22の頂部22bを間に挟んで複数設けられている。本実施形態では、多孔質体3は凸曲部22の頂部22bに対して均等に離れた状態で設けられた一対(2つ)の貫通孔4を備える。それぞれの貫通孔4は、多孔質体3において上下方向の中央に設けられている。また、貫通孔4は、左右方向において、凸曲部22の端部に設けられている。すなわち、図2に示す断面において、それぞれの貫通孔4は、凹曲面21a及び凸曲面22aにより構成される支持体2の面に対応する曲線における、凸曲部22の頂部22bに最も近い変曲点の位置にそれぞれ設けられている。
【0018】
上述の構成において、支持体2を構成する樹脂の材質は、射出成形が可能であれば特に限定されない。例えば、ポリアミド系等の硬質合成樹脂を使用することができる。また、多孔質体3を構成する材質は、上述の冷却水流路内で支持体2と一体で冷却水の流路を規制可能であれば特に限定されない。例えば、セルロース系スポンジ、水膨潤性スポンジや、水可溶性のバインダー、あるいは所定温度以上の温度で溶解又は融解するバインダーによって圧縮状態に維持された発泡体又は非発泡性の多孔質体のような圧縮状態に維持され、所定の外的要因が付加されたことを契機として膨大化する特性を有する材料を使用することができる。
【0019】
本実施形態では、特に好適な材質として、多孔質体3の材質に圧縮状態のセルロース系スポンジを使用している。当該セルロース系スポンジは圧縮状態に維持されている。そして、水に接触すると、水との接触が外的要因の付加となり、当該外的要因の付加を契機として圧縮前の状態に膨大化する特性を有する。さらに具体的には、セルロース系スポンジとは、パルプ由来のセルロースと、補強繊維として加えられた天然繊維(例えば、綿等)とからなる天然素材である。セルロースは、親水基(OH)を有しており、化学的に水分になじみ易い性質を有する。また、セルロース系スポンジは、多孔質の素材であり、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から水分に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有する。
【0020】
本実施形態のスペーサ1では、多孔質体3は、インサート成形により支持体2と一体化される。図3(a)から図3(d)は、本発明の一実施形態に係るスペーサの成形過程の一例を模式的に示す断面図である。図3(a)は、多孔質体が配置される成形型を模式的に示す断面図である。図3(b)は、成形型に多孔質体を配置する工程を模式的に示す断面図である。図3(c)は、成形型を閉じた状態を模式的に示す断面図である。図3(d)は、多孔質体と樹脂とを一体成形する工程を模式的に示す断面図である。
【0021】
スペーサ1は、図3(c)及び図3(d)に示すように、成形型10により製造される。本実施形態の成形型10を構成する下型11及び上型13は、型締めしたときにスペーサ1の形状に対応するキャビティ12を形成するように構成される。
【0022】
図3(a)に示すように、下型11は、スペーサ1の各凹曲面21aに対応する凸曲部11aと、スペーサ1の凸曲面22aに対応する凹曲部11bを備える。下型11の凹曲部11bには、凸曲部22の頂部22bに対応する凹曲部11bの底部11cがあり、当該凹曲部11bの底部11cを間に挟んで2つの位置決め突部11dが設けられている。図3(c)に示すように、位置決め突部11dの突出長(下型11表面からの長さ)は、キャビティ12の高さ(支持体2の厚さ)未満に設定されており、型締めしたときに上型13表面と位置決め突部11d先端との間に隙間が形成される構成になっている。また、本実施形態では、好ましい形態として、位置決め突部11dの突出長は、多孔質体13のシート厚より大きい長さに設定されている。
【0023】
図3(b)に示すように、多孔質体3が凹曲部11bに沿って曲げられた状態で、位置決め突部11dは、多孔質体3の貫通孔4に挿入される。これにより、下型11における多孔質体3の配置が位置決めされる。また、多孔質体3が位置決め突部11dに係止される結果、下型11からの多孔質体3の離脱が防止される。なお、位置決め突部11dは、軸方向に直交する方向に切断した断面積が、貫通孔4の開口形状よりも若干大きい円柱状に形成されている。そして、位置決め突部11dが貫通孔4に挿入されたとき、位置決め突部11dは貫通孔4を押し広げて、貫通孔4の開口は位置決め突部11dの周面11eに倣った形状になる。
【0024】
ここで、位置決め突部11dにより、多孔質体3を係止する構成の詳細について説明する。図4(a)は、本発明の一実施形態に係るスペーサが備える多孔質体の貫通孔と成形型の位置決め突部との関係を模式的に示す拡大断面図である。また、図4(b)は、本発明の一実施形態に係るスペーサが備える多孔質体の一例を示す平面図である。なお、図4(a)は多孔質体を湾曲させた状態を示しているのに対し、図4(b)は多孔質体を平面状に伸ばした状態(湾曲させていない状態)を示している。
【0025】
上述のように、多孔質体3を下型11の凹曲部11bに配置する場合、多孔質体3は凹曲部11bの表面形状に沿う状態に湾曲され、当該状態の多孔質体3の貫通孔4に下型11の位置決め突部11dが挿入される。本実施形態の多孔質体3では、図4(a)に示すように、多孔質体3を下型11の凹曲部11bの表面形状と整合する形状に湾曲させたときの貫通孔4の距離L1が、対応する位置決め突部11d間の距離L2に比べてわずかに大きくなるように、貫通孔4が形成されている。なお、図4(a)に示すように、ここでは距離L1は、2つの貫通孔4の開口縁間の最短距離(エッジ間距離)である。また、距離L2は、2つの位置決め突部11dの周面間の最短距離(エッジ間距離)である。
【0026】
このような構成を採用した場合、湾曲された多孔質体3が平面状に戻ろうとすると、貫通孔4の内側面4aの多孔質体3中央側が、当該内側面と対向する位置決め突部11dの周面11eに押し付けられる。その結果、多孔質体3は、湾曲された形状を維持した状態で位置決め突部11dに係止される。したがって、以上のような構成を採用することで、プリフォームを行うことなく多孔質体3を下型11の凹曲部11bに配置しても、多孔質体3が下型11から離脱することを防止できる。なお、上述の距離L1と距離L2の差が大きい場合(L1>>L2)、貫通孔4を位置決め突部11dに嵌合させると、位置決め突部11d間の多孔質体3にシワ等が発生することになる。一方、距離L2が距離L1よりも大きい場合(L2>L1)、位置決め突部11d間において、多孔質体3と下型11の凹曲部11b表面との間に隙間が発生することになる。このような隙間が発生すると、インサート成形の際に、溶融樹脂が当該隙間に流入してしまいスペーサ1の品質が低下してしまう。そのため、上述のように、距離L1が距離L2よりもわずかに大きい構成とすることが好ましい。すなわち、位置決め突部11d間の多孔質体3にシワが発生することがなく、かつ、位置決め突部11d間において、多孔質体3と下型11の凹曲部11b表面との間に隙間が発生しないという条件を満足する構成とすることが好ましい。このような条件を満足する距離L1と距離L2との関係は、スペーサ1及び多孔質体3のサイズや形状に応じて適宜設定されるため一概にはいえないが、例えば、距離L1を距離L2に比べて圧縮された多孔質体3の厚さの半分から1/3程度大きくする構成を採用することができる。
【0027】
なお、特に限定されないが、本実施形態では、位置決め突部11dを円柱状(正円柱状)にするとともに、多孔質体3の貫通孔4を正円形状ではなく、図4(b)に示すように多孔質体3を湾曲させるために外力を作用させる方向に沿って長軸を配置した楕円形状としている。このような構成を採用することで、多孔質体3を凹曲部11bの表面形状に整合する形状に湾曲させた際に、位置決め突部11dの軸方向から見た貫通孔4の形状を正円形状にすることができる。これにより、貫通孔4を正円形状とした場合に比べて、貫通孔4と位置決め突部11dとの嵌合を円滑に行うことができる。
【0028】
以上のようにして、下型11への多孔質体3の設置が完了すると、上型13を下型11に型締めする。図3(c)に示すように、当該状態で成形型10が備える図示しないゲートからキャビティ―12内に溶融樹脂14が射出され、インサート成形される。このとき、多孔質体3は、図3(d)に示すように、溶融樹脂14の射出圧によって下型11の表面に沿う形状に変形された状態でインサート成形されることになる。
【0029】
以上のインサート成形では、貫通孔4と位置決め突部11dとの嵌合により多孔質体3が位置合わせされて当該位置が維持されるため、多孔質体3は溶融樹脂14のキャビティ12内での流動圧によって位置ずれしない。さらに、この実施形態では、多孔質体3が湾曲した状態で複数の位置決め突部11dに係止されるため、多孔質体3を下型11に配置する際に、多孔質体3をプリフォームする必要もない。したがって、スペーサ1の生産性を向上させることが可能である。また、本実施形態では、貫通孔4が凸曲部22の頂部22bに対して均等に離れた状態、かつ多孔質体3において上下方向の中央に設けられているため、位置決め突部11dによって多孔質体3を下型11の凹曲部11bに位置決めする場合に、多孔質体3が均等に曲がった状態を維持することもできる。
【0030】
スペーサ1の成形が終了し、スペーサ1が脱型されると、図1及び図2に示すように、支持体2の凸曲面22aを含む面に対して多孔質体3が確実に一体化されたスペーサ1が得られる。なお、本実施形態のスペーサ1では、上述のとおり、成形型10の下型11に設けた位置決め突部11dの先端が、上型13に接触しない構成を採用している。そのため、図2に示すように、スペーサ1では、支持体2が、多孔質体3の貫通孔4を覆う状態で形成される。したがって、上述の冷却水流路内に配置した場合、冷却水が貫通孔4を通じてスペーサ1の表裏間で流通することがない。したがって、シリンダボア側に向う冷却水を所定量に維持でき、想定していたスペーサ1の機能が低下することを抑制できる。
【0031】
以上のようなスペーサ1は、シリンダブロックにおける冷却水流路内に、その開口部から挿入されて配置される。図5(a)、図5(b)は、本発明の一実施形態に係るスペーサ1の使用状態を模式的に示す縦断面図である。なお、図5(a)、図5(b)は、シリンダブロックのシリンダボアの中心軸を含み、かつスペーサ1が備える多孔質体3を通過する面に沿う部分縦断面図である。
【0032】
図5(a)は、スペーサ1がシリンダブロック40の冷却水流路5内に配置された状態を示している。図5(a)に示すように、スペーサ1は、支持体2に固着された多孔質体3がシリンダボア41と対向する状態で冷却水流路5内に配置される。スペーサ1は、冷却水流路5の開口部51を通じて冷却水流路5内に配置される。このとき、多孔質体3が圧縮状態に維持されており、多孔質体3が冷却水流路5のシリンダボア41側の内側内壁部5aに干渉し難く、円滑に挿入できる。さらに、多孔質体3が圧縮された状態では、多孔質体3の両端のシリンダボア側の面が、円弧部21の凹曲面21aから張り出しておらず、円弧部21の凹曲面21aに連続していることもあり、より多孔質体3が冷却水流路5のシリンダボア41側の内側内壁部5aに干渉し難い。そして、図5(b)に示すように、シリンダブロック40の上面にシリンダヘッド42がヘッドガスケット43を介して締結一体とされ、その後冷却水流路5内に図示しない冷却水導入口から冷却水6が導入される。
【0033】
上述のように、冷却水流路5内に冷却水6が導入されると、セルロース系スポンジからなる多孔質体3に冷却水6が接触し、多孔質体3がシリンダボア41側に膨大化する。この膨大化に伴って、多孔質体3の露出面(支持体2と反対側の面)3aが冷却水流路5の内側内壁面5aに当接する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態のスペーサ1によれば、支持体2の凸曲部22に対応する箇所に多孔質体3を取り付けるに際し、多孔質体3に設けられた貫通孔4に、凸曲部22に対応する成形型10に設けられた位置決め突部11dを挿入して多孔質体3を成形型10内に位置決めすることができる。また、多孔質体3を凹曲部11bの表面形状に整合する形状に湾曲させた状態で貫通孔4に位置決め突部11dを挿入すると、多孔質体3は位置決め突部11dにより係止される。したがって、支持体2の凸曲部22に対応する箇所に多孔質体3を取り付ける際に、プリフォーム工程を不要とすることができ、スペーサ1の生産性を向上させることができる。
【0035】
なお、以上説明した実施形態おいて、多孔質体3の貫通孔4は、凹曲面21a及び凸曲面22aにより構成される支持体2の面に対応する曲線における、凸曲部22の頂部22bに最も近い変曲点の位置に形成されている。貫通孔4が凸曲部22の頂部22b近傍に配置された構成では、下型11の凹曲部11bに多孔質体3を装着した場合、多孔質体3の一部が曲げられた状態から平面状に戻ろうとしたときに、貫通孔4が位置決め突部11dから離脱してしまう可能性がある。一方、貫通孔4が上述の変曲点の位置、あるいは、当該変曲点よりも凸曲部22の外方に離れた位置に存在することで、多孔質体3の一部が曲げられた状態から平面状に戻ろうとしても、位置決め突部11dによって多孔質体3の貫通孔4をより確実に係止することができる。つまり、多孔質体3が平面状に戻ろうとする力で成形型10により確実に固定できるため、貫通孔4と位置決め突部11dとの間に隙間が存在しても許容され、多孔質体3に形成される貫通孔4の寸法精度が緩和されることになる。
【0036】
続いて、図6(a)から(c)、図7(a)から(d)に基づいて、本発明に係るスペーサの成形過程において採用し得る、多孔質体と位置決め突部との位置関係の事例について説明する。なお、図6(a)から(c)、図7(a)から(d)は、図4(a)に示す、多孔質体3と下型11との位置関係において、多孔質体3を上方(下型11が配置されている側と反対側)から見た図である。各図では、多孔質体の外形を実線で示し、下型11が備える位置決め突部の位置を黒丸で示している。また、多孔質体の左右方向の中央が、支持体2の凸曲部22の頂部22b(凹曲部11bの底部11c)に対応する。各図では、頂部22b(底部11c)の位置を一点鎖線で示している。また、多孔質体において、位置決め突部に対応する位置には位置決め突部と嵌合する貫通孔が設けられている。すなわち、各図において、多孔質体と重なる位置の黒丸部分には多孔質体が備える貫通孔が重なっている。また、異なる形状を有しているが、上述のスペーサ1の多孔質体3と同様の機能を有する多孔質体には、同一の符号を用いている。同様に、異なる配置を有しているが、多孔質体の貫通孔及び上述の下型11の位置決め突部11dのそれぞれと同様の機能を有する貫通孔及び位置決め突部には、同一の符号を用いている。
【0037】
上記実施形態では、例示として、位置決め突部11dの数が2つである構成について説明したが、位置決め突部11dの数は支持体2の凸曲部22の頂部22bを間に挟んで複数設けられていればよく、その数は特に限定されない。例えば、図6(a)に示すように、位置決め突部11dは、正面視矩形状の多孔質体3の四隅に対応する位置に配置されてもよい。また、例えば、図6(b)に示すように、上記実施形態において説明した、2つの位置決め突部11dに加えて、当該2つの位置決め突部11dの中間位置(多孔質体3の中央)に位置決め突部11dがさらに配置されてもよい。これらの構成であっても、上記実施形態において説明した構成と同様に、インサート成形に際し、位置決め突部11dによって位置合わせされた位置に多孔質体3を保持することができる。なお、図6(a)及び図6(b)に示す事例では、位置決め突部11dは多孔質体3と重なる位置に配置されているため、多孔質体3における位置決め突部11dに対応する位置には貫通孔4が設けられている。
【0038】
また、位置決め突部11dは、凹曲部11bの表面形状に沿って曲げられた多孔質体3を係止して保持可能であればよく、多孔質体3と重ならない位置に配置することも可能である。例えば、図6(c)に示す事例では、上記実施形態で説明した位置合わせ突部11dの一方を多孔質体3と重ならない位置に併置し、その一方の位置合わせ突部11dの周面11eによって多孔質体3の端縁31が係止される構成になっている。このような構成であっても、上記実施形態において説明した構成と同様に、インサート成形に際し、位置決め突部11dによって位置合わせされた位置に多孔質体3を保持することができる。なお、図6(c)に示す事例において、多孔質体3と重なる位置に配置されている位置決め突部11dについては、多孔質体3における当該位置決め突部11dに対応する位置に貫通孔4が設けられている。
【0039】
さらに、以上の事例では、多孔質体3が少なくとも1つの貫通孔4を備える構成について説明したが、図7(a)から図7(d)に示すように、貫通孔4を備えない構成を採用することもできる。すなわち、多孔質体3を湾曲させるために外力を作用させる方向に位置決め突部11dが位置すればよく、多孔質体3の両側の端縁31、32が位置決め突部11dの周面11eに係止される構成を採用することもできる。例えば、図7(a)に示す事例では、位置決め突部11dが、多孔質体3の上下方向中央に対応する位置にそれぞれ配置され、多孔質体3の両側の端縁31、32が、それぞれ位置決め突部11dの周面11eに係止される。また、図7(b)に示す事例では、位置決め突部11dが、多孔質体3の両側の端縁31、32付近に多孔質体3の上下方向に沿ってそれぞれ2つ配置され、多孔質体3の両側の端縁31、32が、それら2つの位置決め突部11dの周面11eに係止される。さらに、図7(c)に示す事例では、位置決め突部11fが、矩形状に形成されるとともに多孔質体3の上下方向中央に対応する位置にそれぞれ1つずつ配置され、多孔質体3の両側の端縁31、32が、位置決め突部11fの周面11gに係止される。
【0040】
これらの構成では、貫通孔4を備える構成とは異なり、上下方向、すなわち、多孔質体3を湾曲させるために外力を作用させる方向と直交する方向については位置決め作用を得ることができない。しかしながら、上述した、樹脂をインサート成形する成形工程において、成形型10に設置する多孔質体3に対するプリフォームは不要であり、スペーサ1と同様に、スペーサの生産性を向上させるという効果は得ることができる。
【0041】
図7(a)から図7(c)に示す多孔質体3の形状から、例えば、図7(d)に示すように、位置決め突部11dの周面11eに当接する多孔質体3の端縁33、34を凹曲線で構成し、当該凹曲線の頂点において多孔質体3が位置決め突部11dの周面11eに係止される構成とすることもできる。当該構成によれば、貫通孔4を備える構成と同様に、上下方向、すなわち、多孔質体3を湾曲させるために外力を作用させる方向と直交する方向について位置決め作用を得ることも可能である。
【0042】
以上説明したように、本発明によれば、プリフォーム工程を不要とし、生産性を向上させることができるスペーサ及びスペーサの製造方法を提供することができる。
【0043】
なお、上述の実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上述のセルロース系スポンジには、気泡の大きさが非常に小さい微粒品、気泡の大きさが小程度の小粒品、気泡の大きさが中程度の中粒品のいずれを用いてもよい。また、セルロース系スポンジは、セルロースと補強繊維とからなるものが好ましいが、これに限らず、セルロース単独で構成されるものであってもよい。また、セルロース系スポンジとは、セルロース自体からなるスポンジの他、圧縮状態を保持できる程度にセルロースの水酸基を残したセルロース誘導体、例えば、セルロースエ-テル類、セルロースエステル類等からなるスポンジ、あるいは、これらの混合物からなるスポンジのいずれかから選ばれるものであってもよい。さらには、多孔質体3は、多孔質体からなるものであれば、上記以外の素材から構成することも排除されない。
【0044】
さらに、多孔質体と位置決め突部との係止部分の態様は、上述の実施形態で例示したものに限らず、他の構成態様を採用することも可能である。また、支持体2に、多孔質体3の貫通孔4と重なるような箇所に貫通孔を設け、その貫通孔が多孔質体3の貫通孔4と連通するような構成を採用してもよい。この場合、位置決め突部11dに対向する上型13の箇所に、凹部を設け、型締めされる際、位置決め突部11dが凹部に挿入される。また、本発明のスペーサとして2気筒の内燃機関に適用されるスペーサを例示したが、これに限らず他の気筒数の内燃機関にも適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 スペーサ
2 支持体
3 多孔質体
4 貫通孔
5 冷却水流路
10 成形型
11 下型
11b 凹曲部
11c 底部
11d 位置決め突部
21 円弧部
22 凸曲部(接続部)
22a 凸曲面
22b 頂部
40 シリンダブロック
41 シリンダボア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7