(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069355
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の治療に使用するためのシクロスポリン製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/13 20060101AFI20240514BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20240514BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240514BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240514BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20240514BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240514BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20240514BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240514BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240514BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240514BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
A61K38/13
A61K9/12
A61K9/127
A61K9/19
A61K9/72
A61K45/00
A61K47/69
A61P11/00
A61P43/00 121
A61K9/08
A61K47/02
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035414
(22)【出願日】2024-03-07
(62)【分割の表示】P 2020555145の分割
【原出願日】2019-04-09
(31)【優先権主張番号】18172067.3
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】62/656,226
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520387689
【氏名又は名称】ブレス テラポイティクス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】BREATH THERAPEUTICS GMBH
【住所又は居所原語表記】Aldringenstr. 4 80639 Muenchen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】デンク, オリファー
(72)【発明者】
【氏名】ブルナー, ゲルハルド
(72)【発明者】
【氏名】イアコノ, アルド
(57)【要約】 (修正有)
【課題】両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の予防に使用するため、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するためまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させるための、組成物を提供する。
【解決手段】リポソームシクロスポリンA(L-CsA)を含む組成物であって、治療上有効用量のシクロスポリンAを含むエアロゾル化形態の組成物の吸入によって前記患者に投与される組成物とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の予防に使用するため、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するためまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させるための、リポソームシクロスポリンA(L-CsA)を含む組成物であって、
治療上有効用量のシクロスポリンAを含むエアロゾル化形態の組成物の吸入によって前記患者に投与される組成物。
【請求項2】
前記両肺移植患者がBOS 1またはBOS 2と診断されている、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
水性液体ビヒクルを含む液体組成物である、請求項1または2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記水性液体ビヒクルが、生理食塩水、好ましくは0.25%の濃度の生理食塩水から本質的になる、請求項3に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記液体組成物が、0.5~10mg/mLの範囲のCsA濃度を有する、請求項1から4のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記液体組成物が、凍結乾燥形態のリポソームシクロスポリンAの再構成によって調製される、項目1から5のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項7】
シクロスポリンAが、5~30mgの範囲の有効1日量で投与される、請求項1から6のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項8】
シクロスポリンAが、20mgの有効1日量で投与される、請求項1から7のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記患者に1日2回投与される、請求項1から8のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項10】
少なくとも24週間の期間にわたって投与される、請求項1から9のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記両肺移植患者が、標準的な免疫抑制療法で同時治療される、請求項1から10のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項12】
前記製剤が電子振動膜ネブライザーでエアロゾル化される、請求項1から11のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記製剤が少なくとも75%のアドヒアランスで吸入される、項目1から12のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項14】
BOSと診断されている前記両肺移植患者のBOSの進行が予防される、または前記治療開始時の1秒量(FEV1)値と比較して、前記患者のFEV1の最大20%低下のレベルまで低減される、請求項1から13のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項15】
BOSと診断されている前記両肺移植患者の無イベント生存確率が、前記治療開始から少なくとも48週間後に少なくとも60%であり、前記イベントが、少なくとも20%のFEV1の低下、再移植の必要性および/または死亡から選択される、請求項1から14のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項16】
BOSと診断されている前記両肺移植患者のFEV1の平均月変化(ΔFEV1/月)が、実質的に一定のままである、または約0~約0.04L/月の範囲の値を有する、請求項1から15のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項17】
CsAを含むエアロゾル化形態の本発明の組成物で治療された前記両肺移植患者についての前記治療開始から少なくとも48週間の期間以内の少なくとも20%のFEV1の低下、再移植の必要性および/または死亡から選択されるイベントを経験するリスクが、標準的な免疫抑制療法(SOC)のみによる治療下での対応するイベントを経験するリスクと比較して、少なくとも30%(絶対)、好ましくは少なくとも35%(絶対)減少する、項目1から16のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項18】
BOSと診断されている前記両肺移植患者のFEV1の平均月変化(ΔFEV1/月)が、実質的に一定のままである、または約0~約0.04L/月の範囲の値を有する、項目1から17のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項19】
BOSと診断されている前記両肺移植患者のベースライン(前記治療開始)と前記治療期間終了時との間のFEV1の絶対変化(ΔFEV1/絶対)が350mL以下である、項目1から18のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項20】
標準的な免疫抑制療法(SOC)のみで治療された患者のFEV1の損失に対する、BOSと診断されている前記両肺移植患者のFEV1の相対損失(ΔFEV1/相対)が少なくとも200mLである、請求項1から19のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項21】
前記両肺移植患者が、気管支肺胞洗浄(BAL)を用いた気管支鏡検査によって確認した場合に、前記治療開始前、および好ましくは前記治療開始後24週目に気道狭窄と診断されていない、項目1から20のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項22】
BOSと診断されている前記両肺移植患者が、無作為化前、および好ましくは前記治療開始後24週目に未治療感染症と診断されていない、項目1から21のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項23】
BOSと診断されており、CsAを含む液体組成物で治療されている前記両肺移植患者のCsAの最大血中濃度が最大100ng/mL、好ましくは最大60ng/mLである、項目1から22のいずれかに記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の予防に使用するため、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させるための、シクロスポリンA(CsA)を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肺移植は、さまざまな慢性および末期の肺疾患の有効な治療選択肢となっている。肺保存技術が時間とともに開発され、満足のいく短期結果がもたらされた(Hachem RR,Trulock EP.Bronchiolitis obliterans syndrome:pathogenesis and management.Semin Thorac Cardiovasc Surg 2004;16:350-355)。免疫抑制が、通常、全身シクロスポリンA(CsA)またはタクロリムスと、アザチオプリンまたはミコフェノール酸モフェチルと、副腎皮質ステロイドとを含む三剤療法レジメンからなる重要な移植後介入である(Knoop C,et al.Immunosuppressive therapy after human lung transplantation.Eur Respir J 2004;23:159-171)。
【0003】
片肺葉の移植と両肺葉の移植の両方が可能である。両肺移植は、嚢胞性線維症、原発性肺高血圧症、α1アンチトリプシン欠損症、全体的な機能不全を伴う肺気腫、頻繁な重篤な感染症、ならびに繰り返しの感染症による合併症を伴う特発性肺線維症の場合に必要を示される。
【0004】
シクロスポリンまたはタクロリムスと、アザチオプリンまたはミコフェノール酸モフェチルと、副腎皮質ステロイドとによる全身免疫抑制療法にもかかわらず、肺移植後の慢性拒絶反応は、肺移植における死亡の30%を占める重篤な肺合併症であり、そのため新たな治療選択肢の評価が望まれる。
【0005】
肺慢性移植片機能不全の主な原因である閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の発症は、肺移植の長期生存者における罹患率および死亡率の主因であり、依然として肺移植後の長期生存に対する主要な制限のままである。これは、5年生存する移植レシピエントの60~70%で発生する。BOSの発症までの中央時間はおよそ18ヶ月である。BOSの病因は多因子性であり、完全には理解されていないが、免疫依存性応答(急性拒絶エピソード)に起因する慢性拒絶反応が、免疫抑制のための全身カルシニューリン阻害剤の使用にもかかわらず、肺移植後のBOSの主な原因である(Moffatt-Bruce S.,“Invited commentary”,Ann Thorac Surg.2009 Sep;88(3):964-5.doi:10.1016/j.athoracsur.2009.06.014)と考えられている(lacono AT,et al.A randomized trial of inhaled cyclosporine in lung-transplant recipients.N Engl J Med 2006;354:141-150)。いったん慢性拒絶反応が発生すると、気道損傷は進行性かつ不可逆的であり、患者は最終的に移植不全または肺炎で死亡する。
【0006】
現在、両肺移植後のBOSの有効な治療のための満足のいく治療選択肢は入手可能でない。高用量の基本的な免疫抑制に一般的に使用される薬物を使用した免疫抑制の増強は無効であることが証明されており、薬物負荷の増加により、時間の経過とともに高い有害事象発生率を一時的に伴う。免疫抑制抗体は、急性肺移植片拒絶反応の予防に有用となり得るが、慢性拒絶反応を治療するための治療的試みは期待外れの結果をもたらした。急性肺移植片拒絶反応は基本的に血管の上皮に対する有害な反応から始まる血管炎であるので、病理学的機序の観点からはこれは包括的である。対照的に、全ての詳細についてはまだ完全には理解されていないが、慢性肺拒絶反応の原因は肺管腔、すなわち細気管支にあるため、血管炎ではなく細気管支炎であることに同意がある。したがって、全身投与された薬物は、毛細血管-肺胞関門を通過することが要求される。フォトフェレーシスは、高病期BOS患者の最後の手段として頻繁に選択され、医学的理由よりもむしろ心理的目的で実施される。したがって、特に両肺移植後の、肺慢性移植片拒絶反応を予防および治療するための新たな療法が非常に望まれている。
【0007】
現在、生存期間中央値は、片肺移植患者で4.6年であり、両肺移植患者で6.6年である。この異なる生存は、片肺移植と比較して、両肺移植後のBOSの発症におけるかなりの遅延に関連していることが示されている(Hadjiliadis D,et al.Is transplant Operation important in determining posttransplant risk of bronchiolitis obliterans syndrome in lung transplant recipients? Chest 2002;122:1168-1175)。
【0008】
BOSの予防の成功、またはBOSが既に診断されている場合、BOSの進行の遅延は、肺移植の転帰を改善するための主要な要件として特定されている。
【0009】
BOSの最も重要な原因は、主要組織適合抗原または免疫依存性機序によるTリンパ球の活性化であることが示唆されている(Soubani AO,Uberti JP.Bronchiolitis obliterans following haematopoietic stem cell transplantation.Eur Respir J 2007;29:1007-1019;Halloran PF,et al.The“injury response”:A concept linking nonspecific injury,acute rejection,and long-term outcomes.Transplant Proc 1997;29:79-81)。全身施用から、CsAがカルシニューリン酵素のホスファターゼ活性を阻害することによってTリンパ球増殖を遮断し、通常T細胞活性化で誘導されるいくつかのサイトカイン遺伝子(例えば、インターロイキン[IL]-2)の発現を低下させることが周知である。
【0010】
ほとんどの固形臓器移植は局所免疫療法に到達できないが、肺移植は、外部環境との固有の連通のために例外であり、吸入が治療選択肢となる。
【0011】
肺へのCsAの局所施用は有効性を改善し、毒性免疫抑制剤の全身曝露を減少させる可能性があると提案されている(Iacono A,et al.Dose related reversal of acute lung rejection by aerosolized ciclosporin.Am J Respir Crit Care Med 1997;155:1690-1698)。シクロスポリンAは11アミノ酸からなる環状ポリペプチドである。これは、真菌種ボーベリア・ニベア(Beauveria nivea)によって代謝産物として産生される。シクロスポリンは、欧州で1980年代初頭以来、移植後レジメンのほとんどで臓器移植後の移植片拒絶反応を予防するために使用されてきたカルシニューリン阻害剤のグループに属する免疫抑制剤である。
【0012】
肺疾患を予防および治療するためのエアロゾル化シクロスポリンの使用は、国際公開第00/45834号パンフレットに記載されている。より具体的には、エアロゾル吸入による移植された肺へのシクロスポリンの送達が開示されている。シクロスポリンは、乾燥粉末またはプロピレングリコールでエアロゾル化されたシクロスポリン粉末などの湿潤形態のいずれかで投与され得る。しかしながら、この文献は、リポソームシクロスポリンAの形態のシクロスポリンの使用については言及していない。さらに、治療された対象のいずれも閉塞性細気管支炎を発症していると報告されていない。
【0013】
Corcoranらの研究(Preservation of post-transplant lung function with aerosol cyclosporin.Eur Respir J 2004;23:378-383)から、およそ5mg以上のCsAプロピレングリコール(CsA-PG)末梢肺沈着が、移植患者の肺機能を改善するが、より少ない用量は減少をもたらすと結論付けられた。後者の研究から、治療効果を得るために、肺の末梢に沈着したCsAが15mg/週以上または2mg/日以上の有効な閾値に到達するべきであることが導き出された。
【0014】
A.T.Iaconoらは、Eur.Resspir.J.2004;23:384-390の中で、閉塞性細気管支炎を有する肺移植レシピエントでのエアロゾルシクロスポリン療法について報告している。この研究でも、シクロスポリンは、プロピレングリコールに溶解した粉末形態で使用された。最も注目すべきことに、両肺移植レシピエントが、片肺移植レシピエントと比較して、閉塞性細気管支炎の発症後の死亡リスクが増加していることが報告された。
【0015】
58人の肺移植患者での第II相臨床試験は、吸入CsA-PGによる最大2年間の治療後に、プラセボと比較してCsA-PG療法に有利な、BOSフリー生存および全生存の統計学的に有意な差を示した(lacono AT,et al.A randomized trial of inhaled cyclosporine in lung-transplant recipients.N Engl J Med 2006;354:141-150)。対照的に、CsAを肺移植患者の慢性拒絶反応を予防するための補助的標的療法として使用した場合、多施設第III相臨床試験は、標準治療を超える有効性を示さなかった。この研究の結果は、治療反応の期待を可能にする多数の前臨床および臨床研究と食い違っている。この結果から、この非常に易損性の患者集団へのシクロスポリンエアロゾルの投与は課題がないわけではなく、これらの課題の1つまたは複数が研究結果に影響を及ぼした可能性があると結論付けられた。これらの課題の分析から、吸入治療または全身置換の設定内でより頻繁な間隔で薬物を投与するより簡便な送達システムの使用が成功する可能性があると結論付けられた(Niven RW,et al.The challenges of developing an inhaled cyclosporine product for lung transplant patients.Respiratory Drug Delivery 2012;51-60)。
【0016】
CsA-PG製剤に関しては、最大30分の長い吸入時間による患者の不耐性およびアドヒアランスの欠如が報告されている(Corcoran TE.Inhaled delivery of aerosolized cyclosporine.Adv Drug Deliv Rev 2006;58:1119-1127)。プロピレングリコールは高浸透圧性であることが知られており、患者が耐えられない可能性があるため、気管支拡張薬および局所麻酔薬の前投薬が必要である。
【0017】
これらの課題を考慮して、吸入用のシクロスポリンの新たなリポソーム製剤が開発された。製剤は国際公開第2007/065588号パンフレットに記載されている。
【0018】
さらに、CsAを吸入するための新たな吸入システムが提案されており、これらのシステムが肺へのCsAのより効率的な沈着を可能にすると想像される。このようなシステムの例は、振動膜ネブライザーである。このような吸入システムは、高い末梢沈着に適切なサイズの粒子を製造することにより、薬物のより良い標的化を達成する。また、このようなデバイスの高い薬物送達率は、患者のアドヒアランスに関して有利であると予想されるはるかに短い吸入時間を支持する。
【0019】
第Ib相臨床試験では、10mgおよび20mgの放射性標識エアロゾル化リポソームCsA(L-CsA)の肺沈着および薬物動態が、5人の両肺移植患者および7人の片肺移植患者で調査された。エアロゾルは、eFlow(登録商標)ネブライザーで生成された。患者は、10mgまたは20mgのリポソームCsAの単回投与施用を与えられ、これらは良好な耐容性を示した。それぞれ40±6%(10mg用量の場合)および33±7%(20mg用量の場合)が肺に沈着することが示された。これにより、末梢肺用量はそれぞれ2.2±0.5 mg(10mg用量の場合)および3.5±0.9 mg(20 mg用量の場合)となった。10mgの名目薬物量のL-CsAで1日1回または2回の投与を想定すると、それぞれ14mgおよび28mg/週の末梢沈着を達成することができた。10mgおよび20mgの名目用量についての全体的な吸入時間は、それぞれおよそ9±1分および20±5分であった。片肺移植患者では、ほとんど全ての沈着(88~90%)が肺の移植部分で発生した。片肺移植患者と両肺移植患者の間に統計学的に有意な差はなかった。いくつかの前臨床および臨床研究が吸入CsAで実施されたが、両肺移植患者に対する吸入シクロスポリンの実際の有効性に関する結論は矛盾している。したがって、現在利用可能な研究は、肺慢性移植片拒絶反応、より具体的には肺移植後の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の治療における吸入シクロスポリンの実際の有効性に関して結論を出すことはできない。
【0020】
閉塞性細気管支炎症候群(BOS)は、最大の移植後値からのFEV1の持続的な20%以上の低下として生理学的に定義されている。既存の免疫抑制レジメンはほとんど効果がないままである。増加したシクロスポリンは吸入により肺に沈着し、気道濃度が高くなるため、BOSの治療についての有効性が高くなり得る。
【0021】
国際公開第2016/146645号パンフレットは、片肺移植患者の肺慢性移植片拒絶反応を予防または治療する方法で吸入用エアロゾルとして使用するためのシクロスポリン液体製剤を開示している。具体的な実施形態では、肺慢性移植片拒絶反応が、閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を特徴とする。しかしながら、この文献は、片肺移植患者の亜集団の予想外に成功した治療を強調しているが、両肺移植患者の治療、特に閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を既に発症している両肺移植患者について結論を出すことができない。この開示を考慮すると、BOSを既に発症している両肺移植患者の治療の成功は予期できない。
【0022】
A.Iaconoらは、The Journal of Heart and Lung Transplantation,Vol 37,No 4S,211で、閉塞性細気管支炎症候群についてのエアロゾル化リポソームシクロスポリンA(L-CsA)による肺機能の安定化および生存改善について報告している。しかしながら、この文献は、研究の結果、したがって、具体的な患者亜集団、すなわち、片肺移植レシピエントまたは両肺移植レシピエントに関する治療の有効性については言及していない。
したがって、両肺移植を受けた患者で発症し、診断された場合の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の予防または有効な治療が依然として必要である。したがって、特にBOS、特にBOS 1またはBOS 2などのBOSのより重篤な形態を既に発症し、それと診断された両肺移植患者の成功した予防または治療の手段を提供することが本発明の目的である。本発明のさらなる目的は、本開示を考慮して明らかになるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開第00/45834号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/065588号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2016/146645号パンフレット
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Hachem RR,Trulock EP.Bronchiolitis obliterans syndrome:pathogenesis and management.Semin Thorac Cardiovasc Surg 2004;16:350-355
【非特許文献2】Knoop C,et al.Immunosuppressive therapy after human lung transplantation.Eur Respir J 2004;23:159-171
【非特許文献3】Moffatt-Bruce S.,“Invited commentary”,Ann Thorac Surg.2009 Sep;88(3):964-5.doi:10.1016/j.athoracsur.2009.06.014
【非特許文献4】Iacono AT,et al.A randomized trial of inhaled cyclosporine in lung-transplant recipients.N Engl J Med 2006;354:141-150
【非特許文献5】Hadjiliadis D,et al.Is transplant Operation important in determining posttransplant risk of bronchiolitis obliterans syndrome in lung transplant recipients?Chest 2002;122:1168-1175
【非特許文献6】Soubani AO,Uberti JP.Bronchiolitis obliterans following haematopoietic stem cell transplantation.Eur Respir J 2007;29:1007-1019
【非特許文献7】Halloran PF,et al.The “injury response”:A concept linking nonspecific injury,acute rejection,and long-term outcomes.Transplant Proc 1997;29:79-81
【非特許文献8】Iacono A,et al.Dose related reversal of acute lung rejection by aerosolized ciclosporin.Am J Respir Crit Care Med 1997;155:1690-1698
【非特許文献9】Corcoran et al.Preservation of post-transplant lung function with aerosol cyclosporin.Eur Respir J 2004;23:378-383
【非特許文献10】A.T.Iacono et al.Eur.Resspir.J.2004;23:384-390
【非特許文献11】Niven RW,et al.The challenges of developing an inhaled cyclosporine product for lung transplant patients.Respiratory Drug Delivery 2012;51-60
【非特許文献12】Corcoran TE.Inhaled delivery of aerosolized cyclosporine.Adv Drug Deliv Rev 2006;58:11191127
【非特許文献13】A.Iacono et al.The Journal of Heart and Lung Transplantation,Vol 37,No 4S,211
【発明の概要】
【0025】
第1の態様では、本発明は、両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の予防に使用するため、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させるための、リポソームシクロスポリンA(L-CsA)を含む組成物であって、
治療上有効用量のシクロスポリンAを含むエアロゾル化形態の組成物の吸入によって前記患者に投与される組成物に関する。
【0026】
第2の態様では、本発明は、両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を予防する、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させる方法であって、
(a)両肺移植を受け、BOS、具体的にはBOSグレードI以上を発症するリスクがある、または後に発症した患者を特定するステップと;
(b)吸入により、治療的有効用量のエアロゾル化リポソームシクロスポリンA(L-CsA)を前記患者に投与するステップと
を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】以下にさらに記載される、臨床研究における片肺移植患者および両肺移植患者の登録の詳細を要約するフローチャートである。
【0028】
【
図2】48週間の研究期間中にBOSと診断されている片肺移植患者および両肺移植患者のBOS無増悪生存確率のカプランマイヤープロットを示す図である。
【0029】
【
図3】BOSと診断されている両肺移植患者についての無イベント生存確率のカプランマイヤープロットを示す図である。
【0030】
【
図4】BOSと診断されている片肺移植患者についての無イベント生存確率のカプランマイヤープロットを示す図である。
【0031】
【
図5】無作為化後5年目のBOSと診断されている片肺移植患者および両肺移植患者の全生存確率のカプランマイヤープロットを示す図である。
【0032】
【
図6】L-CsA治療群(上のグラフ;「L-CsA」)およびSOC治療群(下のグラフ;「SOC」)の片肺移植患者および両肺移植患者についての48週間の研究期間中の絶対FEV
1値の経過の回帰傾向分析を示す図である。
【0033】
【
図7】L-CsA治療群(上のグラフ;「L-CsA」)およびSOC治療群(下のグラフ;「SOC」)の両肺移植患者についての48週間の研究期間中の絶対FEV
1値の経過の回帰傾向分析を示す図である。
【0034】
【
図8】L-CsA治療群(上のグラフ;「L-CsA」)およびSOC治療群(下のグラフ;「SOC」)の片肺移植患者についての48週間の研究期間中の絶対FEV
1値の経過の回帰傾向分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書で使用される以下の用語または表現は、明細書で特に定義されていない限り、または具体的な文脈が他のことを示していない限りもしくは要求していない限り、通常はこの節で概説される通りに解釈されるべきである。
【0036】
本明細書で使用される「からなる(consist of)」、「からなる(consists of)」および「からなる(consisting of)」という用語は、言及される成分のみが存在することを意味する、いわゆる閉じた言語である。本明細書で使用される「含む(comprise)」、「含む(comprises)」および「含む(comprising)」という用語は、1つまたは複数のさらなる成分が存在していてもしていなくてもよいことを意味する、いわゆる開いた言語である。
【0037】
「医薬品有効成分」(この文書を通して「API」とも呼ばれる)という用語は、状態、障害または疾患の予防、診断、安定化、治療、または一般的に言えば、管理に有用な任意の種類の薬学的に活性な化合物または誘導体を指す。
【0038】
本明細書で使用される「治療上有効量」という用語は、所望の薬理効果を生み出すのに有用な用量、濃度または強度を指す。本発明の文脈において、「治療上有効」という用語は、予防的活性も含む。治療用量は、個々の施用例に応じて定義されるべきである。疾患の性質および重症度、施用経路、ならびに患者の身長および状態に応じて、治療用量は、当業者に知られている方法で決定されるべきである。
【0039】
本発明の文脈において、「医薬組成物」は、少なくとも1つのAPIと、最も単純な場合には、例えば、水または生理食塩水などの水性液体担体であり得る少なくとも1つのアジュバントとの調製物である。
【0040】
「a」または「an」という表現は、複数を除外するものではない;すなわち、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈で明確に指示されていない限り、または他に必要とされていない限り、複数の指示対象を含むと理解されるべきである。換言すれば、本開示の単数の特徴または制限への全ての言及は、明示的に別段に指定されない限り、または言及される文脈によって明らかに逆に暗示されない限り、対応する複数の特徴または制限を含み、逆もまた同様である。したがって、「a」、「an」および「the」という用語は、特に定義されない限り、「少なくとも1つ」または「1つまたは複数」と同じ意味を有する。例えば、「成分(an ingredient)」への言及は、成分の混合物などを含む。
【0041】
「一実施形態(one embodiment)」、「実施形態(an embodiment)」、「具体的な実施形態(a specific embodiment)」などの表現は、特定の特徴(feature)、特性(property)もしくは特徴(characteristic)、または特徴、特性もしくは特徴の特定の群もしくは組み合わせが、それぞれの表現と組み合わせて言及される場合、本発明の実施形態の少なくとも1つに存在することを意味する。本明細書を通してさまざまな場所でのこれらの表現の出現は、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らない。さらに、特定の特徴、特性または特徴を、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0042】
本明細書で使用される「治療」という用語は、疾患、状態または症状の治癒をもたらすことができる治療的介入を含むが、向上、改善、制御、進行の制御なども含む。
【0043】
「予防」という用語は、疾患、状態もしくは症状の進行の予防もしくは遅延、または疾患状態もしくは症状のさらなる成長および拡大、ならびに最初の改善後もしくは原因の最初の除去後の再発もしくは進行の予防を含むことを意図している。
【0044】
「患者」および「対象」という用語は、本明細書では同義的に使用される。典型的には、これらの用語はヒトを指す。しかしながら、本発明はヒトのみに限定されず、必要に応じて動物に使用され得る。
【0045】
属性または値に関連する「本質的に」、「約」、「およそ」、「実質的に」などの用語は、正確な属性または正確な値、ならびに関連する技術分野で受け入れられている通常の範囲または変動性に入ると典型的に考えられる任意の属性または値を含む。例えば、「水を実質的に含まない」とは、製剤に水が意図的に含まれていないことを意味するが、残留水分の存在を排除するものではない。
【0046】
本明細書で使用される場合、「約(about)」または「約(ca.)」という用語は、製造ばらつきおよび/または時間による製品劣化による含有量の違いなどの、製薬業界で許容され、医薬品に固有の変動性を補う。この用語は、医薬品の実施において、製品が、主張される製品の列挙される強度と、哺乳動物において生物学的に同等であるとみなされると評価されることを可能にする任意の変動を許す。
【0047】
本明細書で使用される「ビヒクル」は、生物活性化合物または物質の送達を補助する、可能にする、または改善する製剤の一部である任意の化合物、構築物または物質を一般的に意味し得る。
【0048】
「薬学的に許容される」という用語は、化合物または混合物が、一般的に安全で非毒性であり、生物学的にもその他の点でも望ましくないことがない医薬組成物の調製に有用であることを意味し、ヒトの医薬用途に許容されるものを含む。
【0049】
広義には、本発明は、両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の予防に使用するため、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するためまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させるための、シクロスポリンA(CsA)を含む組成物であって、
治療上有効用量のシクロスポリンAを含むエアロゾル化形態の組成物の吸入によって前記患者に投与される組成物に関する。
【0050】
さらに、本発明は、閉塞性細気管支炎症候群(BOS)と診断されている両肺移植患者のBOSの治療に使用するため、またはBOSの進行を予防するもしくは遅延させるための、シクロスポリンA(CsA)を含む組成物であって、
治療上有効用量のシクロスポリンAを含むエアロゾル化形態の組成物の吸入によって前記患者に投与される組成物に関する。
【0051】
第1の態様では、より具体的には、本発明は、両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の予防に使用するため、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するためまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させるための、リポソームシクロスポリンA(L-CsA)を含む組成物であって、
治療上有効用量のシクロスポリンA(CsA)を含むエアロゾル化形態の組成物の吸入によって前記患者に投与される組成物に関する。
【0052】
本発明による使用のための組成物は、以下にさらに記載され、例えば、前記の国際公開第2007/065588号パンフレットに詳細に記載される治療上有効用量または量のシクロスポリンA(CsA)、またはより具体的にはリポソームCsA(L-CsA)を含む。本発明よる使用のための医薬組成物は、具体的な実施形態では、液体組成物であり得る。これらの実施形態では、本発明による使用のための組成物が、L-CsAと、L-CsAを溶解、分散または懸濁することができる液体担体またはビヒクルとを含む。具体的な実施形態では、これらの組成物が、治療上有効用量のCsAと、水性担体液体と、リン脂質の群から選択される第1の溶解促進物質と、非イオン性界面活性剤の群から選択される第2の溶解促進物質とを含み、リポソームによって可溶化されたCsA(L-CsA)を形成する。
【0053】
本発明による使用のための組成物に含まれ得るリン脂質は、特に、天然または濃縮リン脂質、例えば、市販のPhospholipon G90、100またはLipoid 90、S 100などのレシチンの混合物である。したがって、好ましい実施形態では、本発明による使用のための組成物に含まれ得るリン脂質が、天然リン脂質の混合物であるリン脂質の群から選択され得る。
【0054】
リン脂質は、リンを含有する両親媒性脂質である。これらは、ホスファチドとしても知られており、特に生体膜の二重層形成成分として本質的に重要な役割を果たし、ホスファチジン酸から化学的に誘導されるリン脂質が製薬目的で頻繁に使用される。後者は(通常は二重)アシル化グリセロール-3-リン酸であり、
脂肪酸残基が長さが異なる場合がある。ホスファチジン酸の誘導体は、例えば、リン酸基がコリンでさらにエステル化されているホスホコリンまたはホスファチジルコリン、ならびにホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール等である。レシチンは、通常は高い割合のホスファチジルコリンを含有するさまざまなリン脂質の天然混合物である。本発明による好ましいリン脂質は、レシチン、ならびにジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリンおよびジステアロイルホスファチジルコリンなどの純粋なまたは濃縮ホスファチジルコリンである。
【0055】
具体的な実施形態では、本発明による使用のための組成物に含まれるリン脂質の群から選択される第1の溶解促進物質が、リン脂質の群から選択され得、レシチン、より具体的には、不飽和脂肪酸残基を含有するレシチンであり得る。なおさらに好ましい実施形態では、リン脂質の群から選択される膜形成物質が、大豆レシチン、Lipoid S100、Phospholipon(登録商標)G90、10、好ましくはLipoid S100または同等のレシチンからなる群から選択されるレシチンである。さらに好ましい実施形態では、リン脂質の群から選択される膜形成物質が、Lipoid S100、Lipoid S75、特にLipoid S100から選択される。
【0056】
具体的な実施形態では、上記のリン脂質の群から選択される第1の膜形成物質とCsAの重量比が、約8:1~約11:1、好ましくは約8.5:1~約10:1、例えば約13:1の範囲で選択される。
【0057】
本発明による使用のための医薬組成物は、第2の溶解促進物質または非イオン性界面活性剤の群から選択される2つ以上の異なる溶解促進物質をさらに含み得る。非イオン性界面活性剤は、他の界面活性剤と同様に、少なくとも1つのある程度親水性の分子領域および少なくとも1つのある程度親油性の分子領域を有する。モノマー低分子量非イオン性界面活性剤、およびオリゴマーまたはポリマー構造を有する非イオン性界面活性剤がある。本発明に含まれ得る適切な非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ソルビタン脂肪酸エステル、ポロキサマー、ビタミンE-TPGS(D-α-トコフェリル-ポリエチレングリコール-1000-スクシネート)およびチロキサポールが挙げられる。
【0058】
具体的な実施形態では、非イオン性界面活性剤の群から選択される第2の溶解促進物質が、ポリソルベートおよびビタミンE-TPGSの群から選択され得、好ましくはポリソルベートの群から選択される。特に好ましい実施形態では、非イオン性界面活性剤の群から選択される溶解促進物質がポリソルベート80である。
【0059】
本医薬組成物の具体的な実施形態では、リン脂質の群から選択される第1の膜形成物質、好ましくはレシチンの量が、非イオン性界面活性剤の群から選択される第2の溶解促進物質の量よりも多い。例示的な実施形態では、リン脂質の群から選択される第1の膜形成物質、好ましくはレシチンと非イオン性界面活性剤の群から選択される第2の溶解促進物質、好ましくはポリソルベートの重量比が、約15:1~約9:1、好ましくは約14:1~約12:1、例えば約13:1の範囲で選択される。
【0060】
さらなる具体的な実施形態では、リン脂質の群から選択される第1の溶解促進物質(の合計)と、一方では非イオン性界面活性剤の群から選択される第2の溶解促進物質、他方ではCsAとの間の重量比が、約5:1~約20:1、好ましくは約8:1~約12:1、より好ましくは約10:1の範囲で選択される。
【0061】
なおさらなる具体的な実施形態では、リン脂質の群から選択される第1の溶解促進物質、好ましくはレシチンと、非イオン性界面活性剤の群から選択される第2の溶解促進物質、好ましくはポリソルベートと、CsAとの間の重量比が、約15:1:1.5~約5:0.3:0.5、好ましくは約9:0.7:1の範囲で選択される。
【0062】
具体的な実施形態では、本発明による使用のための組成物、またはより具体的には、液体組成物が、リポソームシクロスポリンA(L-CsA)の形態、または換言すれば、リポソームによって可溶化された形態のシクロスポリンA(CsA)を含む。したがって、具体的な実施形態では、本発明による使用のための液体組成物が、リポソーム製剤である。CsAを含むリポソーム、または換言すれば、リポソームCsA(L-CsA)は、組成物に含有されるリン脂質によって主に形成され、好ましくは単層リポソームである。リポソームは、好ましくは、例えば、Malvern ZetaSizerデバイスを用いた光子相関分光法を使用してz平均として測定される最大約100nmの平均直径、および同様に光子相関分光法によって測定した場合に、最大約0.5、好ましくは最大約0.4の多分散性指数を有する。
【0063】
具体的な実施形態では、本発明による使用のための液体組成物が、水性液体ビヒクルを含む。液体ビヒクルは、水、および場合により、エタノールまたはプロピレングリコールなどの1つまたは複数の生理学的に許容される有機溶媒を含み得る。しかしながら、好ましい実施形態では、特に液体医薬組成物の形態の本医薬組成物が、有機溶媒を含まないもしくは実質的に含まない、特にプロピレングリコールを含まない、または有機溶媒としてエタノールのみを含む。
【0064】
本発明による使用のための液体組成物は、場合により、CsAの適切な液体担体、好ましくは適切な水性液体担体中水溶液または懸濁液を用意し、少なくとも1つのリン脂質および少なくとも1つのリポソームの形態の上記の非イオン性界面活性剤の添加後にCsAを溶解することによって調製することができる。
【0065】
具体的な実施形態では、本発明による使用のための液体組成物が、場合により、吸入直前にL-CsAを水性溶媒またはビヒクルと混合するまたは接触させることを含む再構成のための対応する固体製剤から調製することができる。したがって、具体的な実施形態では、本発明による使用のためのリポソームCsA(L-CsA)を含む液体組成物が、リポソームシクロスポリンA(L-CsA)、好ましくは凍結乾燥形態のL-CsAの再構成によって調製される。
【0066】
L-CsAを含む再構成用の固体製剤は、液体製剤から溶媒を除去するのに適した任意の方法によって調製することができる。しかしながら、このような固体製剤または組成物を調製する方法の好ましい例は、凍結乾燥および噴霧乾燥を含む。好ましくは、凍結乾燥が使用される。
【0067】
乾燥工程中に有効成分を保護するために、糖または糖アルコール、特にスクロース、フルクトース、グルコース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、イソマルトまたはキシリトールなどの凍結保護剤および/または増量剤を組み込むことが有用となり得る。これらの薬剤のうち、スクロースが特に好ましい。
【0068】
有効量の活性化合物、すなわち、L-CsAの形態で提供されるCsA(すなわち、単位用量)を含む固体組成物の部分は、好ましくは、上記の水性液体ビヒクルに溶解可能または分散可能である。具体的な実施形態では、水性液体ビヒクルが、約10ml以下の体積を有する。好ましくは、有効量または単位用量のCsAまたはL-CsAが、約5ml以下、約4ml以下、またはさらには約3ml以下の体積の水性液体ビヒクルに溶解可能または分散可能である。固体L-CsA製剤の再構成に必要な水性液体ビヒクルの体積は、有効成分の用量、ならびに所望の濃度に依存する。より少ない用量が治療効果のために必要とされる場合、より少ない体積の水性液体ビヒクルが、L-CsAを含む固体製剤を溶解または分散させるのに十分であるかもしれない。
【0069】
具体的な実施形態では、水溶液が、好ましくは、再構成用の水性液体ビヒクルとして使用される。したがって、本発明の液体組成物の好ましい実施形態では、水性液体ビヒクルが生理食塩水を含む。
【0070】
具体的な実施形態では、生理食塩水が水性液体ビヒクルとして使用され、塩化ナトリウムの濃度が、再構成後に生理学的に許容される浸透圧および忍容性を有する液体製剤を生成するために調整される。本発明による使用のための液体組成物の浸透圧は、好ましい実施形態では、約450~約550mOsmol/kgの範囲である。しかしながら、ある程度の低浸透圧および高浸透圧は、一般的にはまだ耐容性を示される。31~300mMの濃度の浸透性アニオン(塩化物など)が存在すると、忍容性が向上し得る(Weber et al.“Effect of nebulizer type and antibiotic concentration on device performance”,Paediatric Pulmonology 23 (1997) 249-260)。高浸透圧製剤は、一定の用途では実際に好まれ得る。例えば、本発明による使用のための再構成された液体組成物の浸透圧は、150~800mOsmol/kgの範囲であり得る。好ましくは、水性液体組成物は、約250~約700mOsmol/kg、または約250~600mOsmol/kgの浸透圧を有する。最も好ましくは、本発明による使用のための水性液体組成物は、約400~約550mOsmol/kgの浸透圧を有する。
【0071】
具体的な実施形態では、本発明による使用のための液体組成物が、生理食塩水から本質的になる水性液体ビヒクルを含む。これらの具体的な実施形態ならびに水性液体ビヒクルがさらなる成分または溶媒を含む他の実施形態では、塩化ナトリウムの濃度が、約0.1~約0.9%(w/v)の範囲であり得る。好ましくは、約0.25%(w/v)の塩化ナトリウム濃度を有する生理食塩水溶液が使用され、「w/v」という用語は、水性液体組成物に含まれる液体ビヒクルの体積当たりの溶解した塩化ナトリウムの重量を意味する。
【0072】
液体組成物が乾燥製剤の再構成によって調製される場合、乾燥前の製剤の浸透圧に応じて、塩化ナトリウムの濃度はまた、約0.1~約0.9%(w/v)の範囲であり得る。好ましくは、上記の0.25%(w/v)生理食塩水が使用される。
【0073】
本発明による使用のための液体組成物の調製に使用する場合、再構成用の、好ましくはL-CsAの形態のCsAを含む固体組成物は、医薬キットの一部であり得る。このようなキットは、好ましくは、再構成用の液体水性ビヒクルと共に固体組成物を含む。エアロゾルとして投与するための液体組成物を調製するためのこのようなキットは、国際公開第03/035030号パンフレットに記載されている。
【0074】
再構成後、CsA、またはより具体的にはL-CsA製剤は、乾燥前と同じ組成を有するはずである。製剤がリポソーム製剤である場合、製剤は再構成後にリポソームも含有するはずである。好ましくは、リポソームのサイズも、乾燥前および再構成後も同様である。リポソームのサイズに関しては、光子相関分光法によってz平均として測定されるリポソームのサイズが40~100nmであり、0.25%(w/v)生理食塩水で再構成した後、均一なサイズ分布(多分散性指数<0.4)を示すことが特に好ましい。
【0075】
驚くべきことに、特に上記のリポソームシクロスポリンA(L-CsA)を含む液体組成物が、両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を予防する、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させる方法に有用であることが分かり、
組成物は治療上有効用量のシクロスポリンA(Cs-A)を含むエアロゾル化形態の前記液体組成物の吸入によって前記患者に投与される。
【0076】
本発明によると、両肺移植患者で、閉塞性細気管支炎症候群(本明細書では「BOS」とも呼ばれる)を有効に予防もしくは治療、好ましくは治療することができる、または両肺移植を受けた患者(本明細書では「両肺移植患者」とも呼ばれる)およびBOS、特にBOS 1もしくはBOS 2と診断された患者で、BOSの進行を有効に予防するもしくは遅延させることができる。
【0077】
驚くべきことに、片肺移植を受けた患者(本明細書では「片肺移植患者」とも呼ばれる)、特にBOSと診断された患者と比較すると、両肺移植患者で、治療、またはより具体的には、顕在化したBOSの進行の予防もしくは遅延を、より有効に達成することができる。より具体的には、標準的な免疫抑制療法(以下、「標準治療」または「SOC」とも呼ばれる)に加えて、本発明よる使用のためのリポソームシクロスポリンA液体製剤を吸入する両肺移植患者で、顕在化したBOSの進行のかなりの遅延または予防さえも得られる。本発明による使用のためのL-CsA含有組成物で治療した場合、またはSOCのみで治療した場合、標準的な免疫抑制療法のみを受けている両肺移植集団で、または片肺移植患者と比較した場合に、同じ時間枠内でBOSの同等の遅延または予防は見られなかった。
【0078】
移植のタイプ(両肺移植対片肺移植)を考慮した、本発明による使用のための吸入シクロスポリン組成物の異なる効果は、国際公開第2016/146645号パンフレットに開示される臨床研究の以前の結果を考慮すると、完全に驚くべきもので、予期せぬものであったことに留意すべきである。
【0079】
本発明によると、L-CsAを含む液体組成物は、両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を予防する、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させる方法に有用である。しかしながら、好ましい実施形態では、本発明による使用のためのL-CsAを含む液体組成物が、閉塞性細気管支炎症候群(BOS)と診断されている両肺移植患者のBOSを治療する、またはBOSの進行を予防するもしくは遅延させる方法に有用である。BOSの存在は、強制呼気量(FEV)の肺活量測定に基づいて決定することができる。好ましくは、1秒量(FEV1)の減少が、BOSの存在の指標として、したがって、肺慢性移植片拒絶反応のリスクの指標として使用される。FEV1測定は、現在の米国胸部学会(ATS)/欧州呼吸器学会(ERS)の肺活量測定ガイドラインに従って実施することができる。1秒量(FEV1)はリットル(L)で表される。
【0080】
BOSは、他の原因がない場合に、FEV1が患者の最大値から少なくとも20%持続的に減少した場合に存在すると見なされる。BOSは、少なくとも3週間離れている少なくとも2回のFEV1測定によって確認され得る。移植後最大値は、少なくとも3週間離れて取った2つの最良のFEV1値である。FEV1測定値は、少なくとも3週間離れて持続および測定されるべきである。FEV1を評価する前に、気管支拡張薬の投与を停止すべきである。急性拒絶反応またはリンパ球性気管支炎または感染症などの慢性拒絶反応以外の原因によるFEV1の減少は適切な医療管理に反応し、持続的な不可逆的な機能低下は慢性拒絶反応およびBOSの進行に関連していると考えられる。
【0081】
FEV1の減少の割合に基づいて、BOSの格付けが可能である(Estenne M,et al.Bronchiolitis obliterans syndrome 2001:an update of the diagnostic criteria.J Heart Lung Transplant 2002;21(3):297-310)。以下の定義および基準を適用することができる:
-BOS 0:FEV1>ベースラインの90%
-BOS 0-p:FEV1 ベースラインの81%~90%
-BOS 1:FEV1 ベースラインの66%~80%
-BOS 2:FEV1 ベースラインの51%~65%
-BOS 3:FEV1 ベースラインの50%以下
【0082】
本発明による使用のための組成物は、一般的にBOS、すなわちBOS 0、BOS 0-p、BOS 1、BOS 2もしくはBOS 3、好ましくはBOS 1、BOS 2もしくはBOS 3などのいずれかのグレードのBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療する、またはBOSの進行の予防するもしくは遅延させる方法に有用となり得る。しかしながら、具体的な実施形態では、本発明による使用のための液体組成物が、BOS 0-p以上、好ましくはBOS 1またはBOS 2と診断された両肺移植患者の治療に特に有用である。さらに具体的な実施形態では、本発明による使用のための液体組成物が、BOS 0-pまたはBOS 1と診断された両肺移植患者の治療に特に有用である。
【0083】
実際、片肺移植患者と両肺移植患者の両方を単一研究内の1つの集団として治療できるようにするために、片肺移植患者に投与される用量は、好ましくは両肺移植患者に投与される用量の約半分である。活性化合物CsAは局所効果を有するので、標的表面も半分に減らした場合、半分に減らした用量で同じ効果が得られると予想された。換言すれば、移植のタイプに応じて用量を調整すれば、片肺移植患者と両肺移植患者で同じ効果が得られると予想された。それにもかかわらず、同等の用量を投与した場合でさえ、本発明者らは、驚くべきことに、顕在化したBOS、特にBOS 1またはBOS 2の予防または遅延における吸入シクロスポリンの効果が、両肺移植集団ではるかに顕著であることを見出した。
【0084】
驚くべきことに、本発明による使用のための組成物が、標準的な免疫抑制療法(SOC)のみによる従来の治療と比較した場合、または片肺移植患者と比較した場合、両肺移植後に顕在化し、診断されたBOS、特にBOS 1またはBOS 2の進行を予防する、または有意に遅延させるもしくは低減することができることが分かった。
【0085】
したがって、両肺移植患者の治療に使用される本発明による使用のためのCsAまたはL-CsA含有組成物は、両肺移植後にBOS、より具体的にはBOS 1もしくはBOS 2を発症するリスクがあるまたは発症した患者の生存確率および生存期間を有意に延長および最大化、したがって、慢性肺移植片拒絶反応の発症または進行を減少または最小化するのに寄与することができる。本発明による使用のための組成物は、所定の投与レジメンに従って投与することができる。より具体的には、組成物を、治療の各週の間に特定の回数、両肺移植患者に投与することができる。例えば、組成物を週に3回投与することができる。好ましい実施形態では、本発明による使用のための組成物が毎日投与される。具体的な実施形態では、本発明による使用のための組成物が、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている前記両肺移植患者に1日2回またはさらには数回投与される。
【0086】
本発明による使用のための組成物、好ましくは液体組成物は、好ましくは約0.5~約10mg/mLの範囲のCsA濃度を有する、または換言すれば、液体組成物は、約0.5~約10mg/mL、好ましくは約1~約6mg/mL、より好ましくは約1~最大約5mg/mLの濃度のL-CsAの形態のCsAを含む。最も好ましくは、本発明による使用のための組成物は、約4mg/mLの濃度のCsA(L-CsAの形態)を含有する。
【0087】
本発明による使用のための組成物の単位用量の体積は、短い噴霧時間を可能にするために好ましくは低い。「用量の体積」または「用量単位体積」または「単位用量体積」とも呼ばれる体積は、1回の単回投与に使用されることを意図した体積として理解されるべきである。単位用量は、1回の単回投与のためにネブライザーに充填された、組成物、より具体的には液体組成物中のCsA(L-CsAの形態)の用量として定義される。具体的には、単位用量の体積は10mL未満であり得る。好ましくは、体積は、約0.3~約3.5mL、より好ましくは約1~約3mLの範囲である。例えば、体積は約1.25mLまたは約2.5mLである再構成後に組成物が得られる場合、液体ビヒクル、好ましくは水性液体ビヒクル、またはさらにより好ましくは再構成用の生理食塩水の体積を、再構成された組成物の所望の体積に従って適合させるべきである。
【0088】
本発明による使用のための組成物に含まれるCsAの治療上有効単位用量は、好ましくは、1日当たり片肺移植患者について約1mg~約15mgの範囲である。最も好ましくは、1日当たり約10mgの有効単位用量のCsAを、片肺移植患者に施用することができる。このような用量は、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者によって十分に耐容性を示されることが分かった。
【0089】
BOSと診断されている両肺移植患者に投与されるCsAの治療上有効1日量は、2mg~30mgの範囲であり得る。したがって、好ましい実施形態では、CsAが、2~30mgの範囲の有効1日量で、または5~30mgの範囲の有効1日量で投与される。好ましい実施形態では、約20mgの有効1日量のCsAを、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者に投与することができる。CsAがL-CsAの形態で投与される場合、上に概説される全ての量は、リポソームに含有されるCsAの量を指すことを理解すべきである。
【0090】
本発明による使用のための組成物、またはより好ましくは、液体組成物は、有利にはエアロゾル化され、L-CsAの形態のCsAを含む本組成物などの溶液、コロイド製剤または懸濁液を、肺の末梢に到達することができる高割合の液滴に変換することができるネブライザーによって投与され得る。実際には、ジェットネブライザー、超音波ネブライザー、圧電ネブライザー、電気流体力学ネブライザー、膜ネブライザー、電子膜ネブライザーまたは電子振動膜ネブライザーが使用され得る。適切なネブライザーの例としては、SideStream(登録商標)(Philips)、AeroEclipse(登録商標)(Trudell)、LC Plus(登録商標)(PARI)、LC Star(登録商標)(PARI)、LC Sprint(登録商標)(PARI)、I-Neb(登録商標)(Philips/Respironics)、IH50(Beurer)、MicroMesh(登録商標)(Health & Life、Schill)、Micro Air(登録商標)U22(Omron)、Multisonic(登録商標)(Schill)、Respimat(登録商標)(Boehringer)、eFlow(登録商標)(PARI)、AeroNebGo(登録商標)(Aerogen)、AeroNeb Pro(登録商標)(Aerogen)およびAeroDose(登録商標)(Aerogen)デバイスファミリーが挙げられる。
【0091】
しかしながら、好ましくは、特にL-CsAを含む液体組成物を噴霧する場合、圧電ネブライザー、電気流体力学ネブライザー、膜ネブライザー、電子膜ネブライザーまたは電子振動膜ネブライザーが使用され得る。これらの場合、適切なネブライザーには、I-Neb(登録商標)(Philips/Respironics)、IH50(Beurer)、MicroMesh(登録商標)(Health & Life、Schill)、Micro Air(登録商標)U22(Omron)、Multisonic(登録商標)(Schill)、Respimat(登録商標)(Boehringer)、eFlow(登録商標)(PARI)、AeroNebGo(登録商標)(Aerogen)、AeroNeb Pro(登録商標)(Aerogen)およびAeroDose(登録商標)(Aerogen)デバイスファミリーが含まれる。好ましい実施形態では、そのまま、またはリポソームCsA(L-CsA)の形態の薬物CsAを下気道に標的化するために、本発明による使用のための組成物が、電子振動膜ネブライザーでエアロゾル化される。特に好ましい実施形態では、本発明による使用のための液体組成物が、eFlow(登録商標)ネブライザー(PARI Pharma GmbH)でエアロゾル化される。
【0092】
eFlow(登録商標)ネブライザーは、本発明の組成物などの液体薬物製剤を噴霧し、有孔振動膜により、弾道運動量(ballistic momentum)が低く、通常5pm未満の呼吸可能なサイズ範囲の液滴の割合が高いエアロゾルが得られる。eFlow(登録商標)ネブライザーは、ジェットネブライザーなどの従来のネブライザーと比較して、噴霧速度が高く、薬物消耗が低く、送達用量(DD)および呼吸可能な用量(RD)として利用可能な薬物の割合が高いため、医薬品をより迅速かつ効率的に噴霧できるように設計されている。
【0093】
好ましくは、適切なネブライザー、特に振動膜ネブライザーは、このような単位用量を少なくとも約0.1mL/分の速度で、または組成物の相対密度が通常およそ1であると仮定して、少なくとも約100mg/分の速度で送達することができる。より好ましくは、ネブライザーは、それぞれ少なくとも約0.15mL/分または150mg/分の出力速度をそれぞれ生成することができる。さらなる実施形態では、ネブライザーの出力速度が、少なくとも約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1 mL/分である。
【0094】
さらに、ネブライザーの出力速度は、液体組成物の短い噴霧時間を達成するように選択されるべきである。明らかに、噴霧時間は、エアロゾル化される組成物の体積および出力速度に依存する。好ましくは、ネブライザーが、約20分以内に有効用量の活性化合物を含む液体組成物の体積をエアロゾル化できるように選択または適合されるべきである。より好ましくは、単位用量の噴霧時間が約10分以下である。さらにより好ましくは、単位用量の噴霧時間が約5分以下である。
【0095】
高い送達用量を提供し、短い噴霧時間を有することに加えて、L-CsAの形態のCsAを投与するためのネブライザーは、好ましくはCsAによる環境の汚染が阻害されるように構築される。この目的のために、ネブライザーの呼気弁にフィルター装置を配置することができる。
【0096】
好ましい実施形態では、ネブライザーが、例えば、患者による吸入の時間、日付および持続時間を監視するための特徴を備える。このような特徴の例は、噴霧時間および持続時間が記録されるチップカードである。
【0097】
あるいは、このようなデータのクラウドおよび/またはサーバーへの無線送信を適用することができる。これにより、医療スタッフが患者のアドヒアランスを確認できる。監視システムは、上記のようなネブライザー、コントローラー、サーバー、データバンク、クラウド、プロバイダー、医師、健康保険会社および/または電話サービスを含み得る。
【0098】
両肺移植患者のBOSの進行の関連する予防または遅延を得るために、少なくとも65%、または少なくとも75%のアドヒアランスが有益であることが分かった。少なくとも65%のアドヒアランスを達成するためは、BOS、特にBOS 1またはBOS 2を発症するリスクがあるまたはそれと診断されている両肺移植患者が、意図される吸入サイクルの少なくとも65%で意図されるように製剤を吸入しなければならない。例えば、1日2回の吸入レジメンに基づいて、これは、患者が、1週間当たりおよそ5回の吸入に相当する8週間の間に39回超の吸入を見逃すことが許されないことを意味する。省略された吸入、完全な単位用量が吸入されるまで実施されない吸入、またはその他の理由で不十分な吸入は、「見逃された」吸入、換言すれば「意図されるように」ではない吸入と見なされる。より好ましくは、本発明による使用のための製剤が、少なくとも75%のアドヒアランスで吸入される、すなわち、患者が、1日2回の吸入レジメンに基づいて、意図される吸入サイクルの少なくとも75%で意図されるように製剤を吸入しなければならない。これは、8週間の期間に見逃される吸入が28回以下である、または1週間当たりで見逃される吸入がおよそ3.5回である場合に達成される。
【0099】
別の実施形態では、噴霧時間、日付および持続時間を記録するための特徴が、所定の数の吸入サイクルで吸入が適時に正しく実施されないとすぐに信号を生成するシステムに接続される。このような監視システムを使用することにより、信号を生成するシステムの有無にかかわらず、患者がネブライザー装置を正しく使用することが保証され得る。信号を生成するためのシステムは、例えば、流体リザーバー内の流体の存在のセンサーによる検出、吸入流、吸入時間、吸入持続時間および/または吸入体積の測定を含み得る。視覚的、聴覚的または感覚的フィードバックを、例えば、関連する患者の行動および治療に影響を及ぼす使用因子、または施用の診断について与えることができる。このフィードバックには、定義された医療プロトコルならびに/あるいは肺へのCsAの沈着および分布に対する患者のアドヒアランスを改善するための情報が含まれ得る。
【0100】
例えば、各吸入の時間、日付および持続時間が監視のために特徴に記録される実施形態では、患者を継続的に監視することが可能である。監視システムが信号を生成するシステムと接続されている実施形態では、患者のアドヒアランスが所定のアドヒアランス限界を下回るとすぐに、患者の吸入行動を修正することができる。信号は、ネブライザー自体によって生成される信号であることができるが、例えば患者の医師に通知する、リモートデバイスで生成される信号であることもできる。アドヒアランスの欠如が通知されると、医師は患者に連絡して、適切な吸入が肺慢性移植片拒絶反応の予防を成功させるために必須であることを患者に思い出させることができる。
【0101】
本発明者らは、液体L-CsA組成物吸入製剤の効果がコンプライアンスのある患者でより顕著であるため、監視が肺移植患者、特に両肺移植患者で有用であることを見出した。
【0102】
さらに、本発明による使用のための組成物を、少なくとも2週間、または少なくとも4週間、または少なくとも8週間、または少なくとも12週間、または少なくとも16週間、または少なくとも20週間またはそれ以上の期間などの長期間にわたって、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者に投与することが有利であることが分かった。特に好ましい実施形態では、本発明による使用のための液体組成物が、少なくとも24週間、またはさらには36週間、またはさらには48週間、またはさらに長く、例えば12ヶ月、24ヶ月、36ヶ月またはさらには数年、例えば4年間、または5年間、またはさらには6年間などの期間にわたって投与され、この場合、両肺移植患者のBOSを予防するまたはBOS、特にBOS 1もしくはBOS 2の進行を遅延させるもしくは低減することが示され得る。
【0103】
さらに好ましい実施形態では、本発明による使用のための組成物の投与が、少なくとも24週間、好ましくは少なくとも48週間の期間にわたって、連続的に毎日、好ましくは1回またはさらには複数回、好ましくは1日2回実施される。
【0104】
さらなる実施形態では、本発明の吸入CsA組成物が、肺移植後の標準的な免疫抑制療法で使用される1つまたは複数の有効成分と組み合わせて使用される。したがって、好ましい実施形態では、本発明による使用のための液体組成物が、両肺移植患者が標準的な免疫抑制療法(本明細書では「SOC」とも呼ばれる)で同時治療されることを特徴とする。
【0105】
肺移植後の標準的な免疫抑制療法では、免疫抑制剤と副腎皮質ステロイドの群の1つまたは複数の有効成分を投与することができる。免疫抑制剤の例は、免疫グロブリン(抗体)、細胞周期阻害剤(代謝拮抗薬/抗増殖薬)、例えばアザチオプリンおよびミコフェノール酸およびその塩、ならびにカルシニューリン阻害剤、例えばシクロスポリン、タクロリムス、またはmTOR阻害剤、例えばシロリムスおよびエベロリムスの群に属する化合物である。副腎皮質ステロイドの例は、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、ならびにそれらの塩、エステルおよび誘導体のいずれかの群に属する化合物である。
【0106】
具体的な実施形態では、本発明による使用のための組成物が、好ましくは経口的な標準的な免疫抑制療法において、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチルおよび/または副腎皮質ステロイドからなる群から選択される1つまたは複数の有効成分と組み合わせて使用される。したがって、具体的な実施形態では、本発明による使用のための組成物が、タクロリムスまたはシクロスポリンと;ミコフェノール酸モフェチルまたはシロリムスと;副腎皮質ステロイドとからなる群から選択される1つまたは複数の有効成分の投与を含む標準的な免疫抑制療法と組み合わせて投与される。
【0107】
さらなる具体的な実施形態では、本発明による使用のための組成物が、カルシニューリン阻害剤、細胞周期阻害剤および副腎皮質ステロイドの組み合わせが投与される三剤薬物療法と組み合わせて使用される。好ましくは、カルシニューリン阻害剤がタクロリムスであり、細胞周期阻害剤がミコフェノール酸モフェチルであり、副腎皮質ステロイドがプレドニゾンである。本発明による組成物と組み合わせて使用される有効成分は、好ましくは経口投与される。標準的な免疫抑制療法のこれらの場合では、タクロリムスが通常、8~12ng/mLの全血中レベル(WBTL)を達成する量、好ましくは(治療される患者の体重に関して)約0.06mg/kgの量で投与される。さらに、標準的な免疫抑制療法におけるミコフェノール酸モフェチルは、典型的には約1gから、時には最大3g、好ましくは約1gの量で投与される。プレドニゾンは、標準的な免疫抑制療法の下で使用される場合、典型的には、約20~約25mg/日、好ましくは約20mg/日の量で投与される。
【0108】
結果として、本発明による吸入用シクロスポリン液体組成物をこれらの成分と組み合わせて使用すると、標準的な免疫抑制療法で使用される有効成分の通常の用量を減少させることができる。換言すれば、吸入CsA、またはより具体的にはL-CsAを使用しない場合に免疫抑制を成功させるために一般的に必要な用量(本明細書では通常の用量として定義される)を、しばしば減少させることができる。全身投与される免疫抑制剤の使用は、一般に用量依存性であるかなりの有害効果をもたらすおそれがあるため、これは有利である。
【0109】
本発明による使用のための組成物は、両肺移植患者のBOSの有効な治療もしくは予防、またはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSの進行の有効な遅延を可能にする。前記のように、1秒量(FEV1)の減少を、BOSの存在の指標として、したがって、肺慢性移植片拒絶反応のリスクの指標として使用することができる。したがって、具体的な実施形態では、本発明による使用のための組成物が、両肺移植患者のBOS、特にBOS 1またはBOS 2の治療に有用であり、両肺移植患者のBOSの進行が、実質的に予防される、またはそれぞれ治療開始時、もしくは無作為化開始時、もしくは試験開始時の前記患者の1秒量(FEV1)値と比較して、前記患者のFEV1の最大50%、もしくは最大40%、もしくは最大30%、もしくは最大20%、もしくはさらには最大15%、もしくは10%、もしくはさらには最大5%低下のレベルまで低減される。好ましい実施形態では、両肺移植患者のBOS、特にBOS 1またはBOS 2の進行が、実質的に予防される、またはそれぞれ治療開始時、もしくは無作為化開始時、もしくは試験開始時の前記患者の1秒量(FEV1)値と比較して、前記患者のFEV1の最大20%低下のレベルまで低減される。
【0110】
この効果は、少なくとも2週間、または少なくとも4週間、または少なくとも8週間、または少なくとも12週間、または少なくとも16週間、または少なくとも20週間、またはさらに長く、例えば少なくとも24週間、またはさらには36週間、またはさらには48週間、またはさらに長く、例えば12ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、またはさらには数年、例えば4年間、または5年間、または6年間などの長期間、本発明の組成物による、または本発明の方法による、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者の治療によって達成され得、この場合、両肺移植患者のBOS、特にBOS 1またはBOS 2を予防する、その進行を遅延させるまたは低減することが示され得る。
【0111】
さらに好ましい実施形態では、少なくとも24週間の期間の本発明による使用のための組成物による治療、引き続いて少なくとも24週間の治療なしの前記両肺移植の治療後、両肺移植患者のBOSの進行が、実質的に予防される、またはそれぞれ治療開始時、もしくは無作為化開始時、もしくは試験開始時の前記患者の1秒量(FEV1)値と比較して、前記患者のFEV1の最大20%、好ましくは最大10%低下のレベルまで低減される。
【0112】
さらに、本発明による使用のための組成物が、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている、好ましくはBOSと診断されている両肺移植患者の無イベント生存の有意な延長を可能にすることが分かり、無イベント生存は、両肺移植患者が少なくとも20%のFEV1の低下および/または再移植の必要性もしくは死亡を経験しない生存期間として特徴付けられる。
【0113】
さらに、本発明による使用のための組成物は、BOS、特にBOS 1またはBOS 2を発症するリスクがあるまたはそれと診断されている両肺移植患者の無イベント生存確率の有意な拡大を可能にする。したがって、好ましい実施形態では、本発明による使用のための組成物が、無イベント生存確率が、治療開始から少なくとも12週間、もしくは少なくとも24週間、もしくは少なくとも36週間の期間後、またはさらには少なくとも48週間、もしくはさらに長く、例えば12ヶ月、24か月、36ヶ月、もしくはさらには数年、例えば4年、もしくは5年、もしくはさらには6年後に少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、またはさらには少なくとも90%であり、イベントが少なくとも10%もしくは20%のFEV1の低下および/または再移植の必要性もしくは死亡から選択される、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者の治療を可能にする。好ましい実施形態では、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている、好ましくはBOSと診断されている両肺移植患者の無イベント生存確率が、少なくとも24週間の期間の本発明による使用のための組成物による治療、引き続いて少なくとも24週間の治療なしの後、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%である。
【0114】
さらなる実施形態では、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者についての治療開始から少なくとも2週間、または少なくとも4週間、または少なくとも8週間、または少なくとも12週間、または少なくとも16週間、または少なくとも20週間、またはさらに長く、例えば少なくとも24週間、またはさらには36週間、またはさらには48週間、またはさらに長く、例えば12ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、またはさらには数年、例えば4年間、または5年間、またはさらには6年間などの長期間以内、ただし好ましくは48週間以内の、少なくとも10%もしくは少なくとも20%のFEV1の低下、再移植の必要性および/または死亡から選択されるイベントを経験するリスクが有意に減少し得る。
【0115】
したがって、本発明による使用のための組成物は、CsAまたは好ましくはL-CsAを含むエアロゾル化形態の本発明の組成物で治療された両肺移植患者についての治療開始から少なくとも2週間、または少なくとも4週間、または少なくとも8週間、または少なくとも12週間、または少なくとも16週間、または少なくとも20週間、またはさらに長く、例えば少なくとも24週間、またはさらには36週間、またはさらには48週間、またはさらに長く、例えば12ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、またはさらには数年、例えば4年間、または5年間、またはさらには6年間などの長期間、好ましくは少なくとも48週間以内の、少なくとも20%のFEV1の低下、再移植の必要性および/または死亡から選択されるイベントを経験するリスク(無イベント生存確率)が、標準的な免疫抑制療法(SOC)のみによる治療下での対応するイベントを経験するリスクと比較して、少なくとも30%(絶対)、好ましくは少なくとも35%(絶対)減少する、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者の治療を可能にする。
【0116】
好ましい実施形態では、上記の少なくとも20%のFEV1の低下、再移植の必要性および/または死亡から選択されるイベントを経験するリスクが、特に少なくとも24週間の期間の本発明による使用のための組成物による治療、引き続いて少なくとも24週間の治療なしの後、少なくとも30%、好ましくは少なくとも35%(絶対)減少する。
【0117】
両肺移植患者のBOSの進行の潜在的な予防または遅延を決定するためのさらなる尺度は、少なくとも12週間、または少なくとも24週間、もしくは少なくとも36週間の期間にわたって、またはさらには少なくとも48週間、もしくは12ヶ月、もしくはさらには24か月、もしくは36ヶ月、もしくはさらに長く、例えば4年、もしくは5年、もしくはさらには6年後、好ましくは48週間の期間などの上記の長期間にわたって、定期的におよび繰り返しで行われるFEV1測定値に基づいてこのような患者について決定されるFEV1の平均月変化、またはより具体的には月損失もしくは低下(ΔFEV1/月、以下では「FEV1の傾き」とも呼ばれる)の決定である。したがって、好ましい実施形態では、本発明による使用のための組成物が、FEV1の月変化(ΔFEV1/月)が実質的に一定のままである、または約0~約0.055L/月(最大0.055L/月のFEV1の損失もしくは低下に対応)、もしくは約0~約0.05L/月、もしくは約0~約0.045L/月、約0~約0.04L/月の範囲の値を有する、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者の治療を可能にする。好ましい実施形態では、本発明による使用のための組成物が、FEV1の月変化(ΔFEV1/月)が実質的に一定のままである、または約0~約0.04L/月の範囲の値を有する(FEV1の月損失が約0~約0.04Lの範囲であることを意味する)、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者の治療を可能にする。
【0118】
BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSの潜在的な遅延または進行を決定するためのなおさらなる別の尺度は、治療開始時および治療終了時、具体的には少なくとも12週間、または少なくとも24週間、もしくは少なくとも36週間の期間にわたって、またはさらには少なくとも48週間、もしくは12ヶ月、もしくはさらには24か月、もしくは36ヶ月、もしくはさらに長く、例えば4年、もしくは5年、もしくはさらには6年後、好ましくは48週間の期間などの長期間後に行われるFEV1測定に基づく、このような患者について決定されるFEV1の絶対変化の測定、またはより具体的には絶対損失(ΔFEV1/絶対)である。したがって、具体的な実施形態では、本発明による使用のための組成物が、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者の、ベースライン(治療開始)と治療期間終了時、例えば治療開始後48週との間のFEV1の絶対変化(ΔFEV1/絶対)が、350mL以下であり、前記患者のFEV1の全体損失が350mL以下、好ましくは300mL以下、または250mL以下、または200mL以下、またはさらには150mL以下であることを意味する、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者の治療を可能にする。さらなる実施形態では、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている、好ましくはBOSと診断されている両肺移植患者の、ベースライン(治療開始)と治療期間終了時、例えば、治療開始後48週との間のFEV1の絶対変化(ΔFEV1/絶対)が、150~350mlの範囲である。
【0119】
BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されており、本発明による使用のための組成物で治療されている両肺移植患者のBOSの潜在的な遅延または進行を決定するためのなおさらなる尺度は、具体的には少なくとも12週間、または少なくとも24週間、または少なくとも36週間、またはさらには48週間、または12か月、またはさらには24ヶ月、または36ヶ月、またはさらに長く4年、または5年、またはさらには6年の期間にわたる、好ましくは48週間の期間わたるなど長期間の治療後の、標準的な免疫抑制療法(SOC)のみで治療された患者のFEV1の損失に対する相対変化、またはより具体的にはFEV1の相対損失(ΔFEV1/相対)の決定である。したがって、具体的な実施形態では、本発明による使用のための組成物が、標準的な免疫抑制療法(SOC)のみで治療された患者のFEV1の損失に対する本発明による使用のためのL-CsAを含む組成物で治療された両肺移植患者のFEV1の相対変化または差(ΔFEV1/相対)が、治療開始後、少なくとも12週間、もしくは少なくとも24週間、もしくは少なくとも36週間の期間後、またはさらには少なくとも48週間、もしくは12ヶ月、もしくはさらには24ヶ月、もしくは36ヶ月、もしくはさらに長く4年、もしくは5年、もしくはさらには6年後、好ましくは48週間の期間にわたって、少なくとも200mL、または少なくとも250mL、または少なくとも300mL、またはさらには、例えば少なくとも350mL、または少なくとも400mLである、BOSと診断されている両肺移植患者の治療を可能にする。
【0120】
好ましい実施形態では、本発明による使用のためのL-CsAを含む組成物が、標準的な免疫抑制療法(SOC)のみで治療された患者のFEV1の損失に対するFEV1の相対損失または差(ΔFEV1/相対)が、治療開始から48週間後に約200~約400mLの範囲である、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者の治療を可能にする。これは、例えば、これらの好ましい実施形態によると、48週間の期間後に、本発明による組成物で治療された患者は、標準的な免疫抑制療法のみで治療されている両肺移植患者のFEV1値よりも約200~約400mL高いFEV1値を有することを意味する。
【0121】
本発明による使用のための組成物は、気管支肺胞洗浄(BAL)を用いた気管支鏡検査によって確認した場合に、治療開始前に気道狭窄と診断されていない、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者の治療の成功、および特に、さらに治療開始後24週目に気道狭窄と診断されていない患者に特に有用となり得る。
【0122】
さらに、本発明による使用のための組成物は、治療の開始前に未治療感染症と診断されていない、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者の治療の成功、および特に、さらに治療開始後24週目に未治療感染症と診断されていない患者に特に有用となり得る。
【0123】
本発明による使用のためのCsA、特にL-CsAを含む組成物は、エアロゾル化された形態で吸入されなければならない。しかしながら、これは、患者の全身曝露を大幅に減らすのに役立ち得る。したがって、本発明による使用のための組成物は、さらに、BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者の治療を可能にし、吸入によりCsAを含む液体組成物で治療された両肺移植患者のCsAの平均血中濃度は、最大100ng/mL、好ましくは最大60ng/mLである。
【0124】
さらなる態様では、本発明は、両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を予防もしくは治療するための、またはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSの進行を予防するもしくは遅延させるための医薬の調製におけるシクロスポリンA(CsA)を含む組成物の使用であって、組成物が治療上有効用量のCsAを含むエアロゾル化形態の前記組成物の吸入によって前記患者に投与される使用を提供する。本発明の第1の態様の組成物に関連して上に概説されるように、CsAを含む組成物は、本発明のこの態様による医薬を調製するために固体または液体形態で使用され得る。固体組成物が使用される場合、これらは、上に詳細に記載されたように、適切な液体ビヒクルまたは溶媒で再構成され得る。これに加えて、本発明の第1の態様による使用のための組成物に関連して上に開示および記載される全ての特徴を、本発明のこの態様によるこのような組成物の使用にも適用することができる。
【0125】
なおさらなる態様では、本発明は、両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を予防する、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させる方法であって、
(a)両肺移植を受け、BOSを発症するリスクがある、または後に発症した患者を特定するステップと;
(b)吸入により、治療的有効用量のエアロゾル化シクロスポリンA(CsA)を前記患者に投与するステップと
を含む方法を提供する。
【0126】
本発明のこの態様による方法についても、本発明の第1の態様による使用のための組成物に関連して上に開示および記載される全ての特徴を、両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を予防する、またはBOSを治療する、または本発明のこの態様によりBOSと診断されている両肺移植患者のBOSの進行を予防するもしくは遅延させる方法にも適用することができることが指摘されるべきである。
【0127】
しかしながら、誤解を避けるために、以下は、両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を予防する、またはBOSを治療する、または本発明のこの態様によりBOSと診断されている両肺移植患者のBOSの進行を予防するもしくは遅延させる方法にも含まれる、両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の予防に使用するため、または本発明によりBOSと診断されている両肺移植患者のBOSの進行を予防するもしくは遅延させるためのシクロスポリンA(CsA)、特にリポソームCsA(L-CsA)を含む組成物の番号付けされた実施形態のリストである:
【0128】
1.両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の予防に使用するため、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するためまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させるための、シクロスポリンA(CsA)を含む組成物であって、
治療上有効用量のシクロスポリンAを含むエアロゾル化形態の組成物の吸入によって前記患者に投与される組成物。
【0129】
2.BOSと診断されている両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の治療における、またはBOSの進行を予防するもしくは遅延させるための、項目1に記載の使用のためのシクロスポリンA(CsA)を含む組成物であって、
治療上有効用量のシクロスポリンAを含むエアロゾル化形態の組成物の吸入によって前記患者に投与される組成物。
【0130】
3.両肺移植患者がBOS 1またはBOS 2と診断されている、項目1または2に記載の使用のための組成物。
【0131】
4.リポソームシクロスポリンA(L-CsA)の形態のシクロスポリンAを含む、項目1から3のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0132】
5.液体組成物である、項目1から4のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0133】
6.水性液体ビヒクルを含む、項目5に記載の使用のための組成物。
【0134】
7.水性液体ビヒクルが生理食塩水を含む、項目6に記載の使用のための組成物。
【0135】
8.水性液体ビヒクルが、生理食塩水、好ましくは0.25%の濃度の生理食塩水から本質的になる、項目6または7に記載の使用のための組成物。
【0136】
9.液体組成物が、0.5~10mg/mLの範囲のCsA濃度を有する、項目1から8のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0137】
10.液体組成物が、凍結乾燥形態のリポソームシクロスポリンAの再構成によって調製される、項目1から9のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0138】
11.シクロスポリンAが、5~30mgの範囲の有効1日量で投与される、項目1から10のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0139】
12.シクロスポリンAが、20mgの有効1日量で投与される、項目1から11のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0140】
13.前記患者に1日2回投与される、項目1から12のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0141】
14.少なくとも24週間の期間にわたって投与される、項目1から13のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0142】
15.両肺移植患者が、標準的な免疫抑制療法で同時治療される、項目1から14のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0143】
16.標準的な免疫抑制療法が、タクロリムスまたはシクロスポリンと;ミコフェノール酸モフェチルまたはシロリムスと;副腎皮質ステロイドとからなる群から選択される1つまたは複数の有効成分の投与を含む、項目15に記載の使用のための組成物。
【0144】
17.標準的な免疫抑制療法が、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチルおよびプレドニゾンの経口投与を含む、項目15または16に記載の使用のための組成物。
【0145】
18.タクロリムスが0.06mg/kgの量で投与される、項目15から17のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【0146】
19.ミコフェノール酸モフェチルが1gの量で投与される、項目15から18のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【0147】
20.プレドニゾンが約20~約25mg/日の量で投与される、項目15から19のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【0148】
21.製剤が電子振動膜ネブライザーでエアロゾル化される、項目1から20のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0149】
22.製剤がeFlow(登録商標)ネブライザーでエアロゾル化される、項目1から21のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0150】
23.BOSと診断されている両肺移植患者のBOSの進行が予防される、または治療開始時の1秒量(FEV1)値と比較して、前記患者のFEV1の最大20%低下のレベルまで低減される、項目1から22のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0151】
24.BOSと診断されている両肺移植患者の無イベント生存確率が、治療開始から少なくとも48週間後に少なくとも60%であり、イベントが、少なくとも20%のFEV1の低下、再移植の必要性および/または死亡から選択される、項目1から23のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0152】
25.CsAを含むエアロゾル化形態の本発明の組成物で治療された両肺移植患者についての治療開始から少なくとも48週間の期間以内の少なくとも20%のFEV1の低下、再移植の必要性および/または死亡から選択されるイベントを経験するリスクが、標準的な免疫抑制療法(SOC)のみによる治療下での対応するイベントを経験するリスクと比較して、少なくとも30%(絶対)、好ましくは少なくとも35%(絶対)減少する、項目1から24のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0153】
26.BOSと診断されている両肺移植患者のFEV1の平均月変化(ΔFEV1/月)が、実質的に一定のままである、または約0~約0.04L/月の範囲の値を有する、項目1から25のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0154】
27.BOSと診断されている両肺移植患者のベースライン(治療開始)と治療期間終了時との間のFEV1の絶対変化(ΔFEV1/絶対)が350mL以下である、項目1から26のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0155】
28.標準的な免疫抑制療法(SOC)のみで治療された患者のFEV1の損失に対する、BOSと診断されている両肺移植患者のFEV1の相対損失(ΔFEV1/相対)が少なくとも200mLである、請求項1から27のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0156】
29.両肺移植患者が、気管支肺胞洗浄(BAL)を用いた気管支鏡検査によって確認した場合に、治療開始前、および好ましくは治療開始後24週目に気道狭窄と診断されていない、項目1から28のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0157】
30.BOSと診断されている両肺移植患者が、無作為化前、および好ましくは治療開始後24週目に未治療感染症と診断されていない、項目1から29のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0158】
31.BOSと診断されており、CsAを含む液体組成物で治療されている両肺移植患者のCsAの最大血中濃度が最大100ng/mL、好ましくは最大60ng/mLである、項目1から30のいずれかに記載の使用のための組成物。
【0159】
32.ネブライザーが少なくとも約0.1mL/分の速度で単位用量を送達することができる、項目21または22に記載の使用のための組成物。
【0160】
33.両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を予防する、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させる方法であって、
(a)両肺移植を受け、BOSを発症するリスクがある、または後に発症した患者を特定するステップと;
(b)吸入により、治療的有効用量のエアロゾル化シクロスポリンA(CsA)を前記患者に投与するステップと
を含む方法。
【0161】
34.両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を治療する、またはBOSと診断されている両肺移植患者におけるBOSの進行を予防するもしくは遅延させる、項目33に記載の方法であって、
(a)両肺移植を受け、BOSを後に発症した患者を特定するステップと;
(b)吸入により、治療的有効用量のエアロゾル化シクロスポリンA(CsA)を前記患者に投与するステップと
を含む方法。
【0162】
35.両肺移植患者がBOS 1またはBOS 2(BOSグレードIまたはII)と診断されている、項目33または34に記載の方法。
【0163】
36.CsAが、リポソームシクロスポリンA(L-CsA)を含むエアロゾル化組成物の形態で投与される、項目33または34に記載の方法。
【0164】
37.CsAが、シクロスポリンA(CsA)を含むエアロゾル化液体組成物の形態で投与される、項目33に記載の方法。
【0165】
38.CsAが、リポソームシクロスポリンA(L-CsA)の形態で投与される、項目33に記載の方法。
【0166】
39.組成物が水性液体ビヒクルをさらに含む、項目36に記載の方法。
【0167】
40.水性液体ビヒクルが生理食塩水を含む、項目39に記載の方法。
【0168】
41.水性液体ビヒクルが、生理食塩水、好ましくは0.25%(w/v)の濃度の生理食塩水から本質的になる、項目39または40に記載の方法。
【0169】
42.液体組成物が、0.5~10mg/mLの範囲のCsA濃度を有する、項目37に記載の方法。
【0170】
43.液体組成物が、凍結乾燥形態のリポソームシクロスポリンA(L-CsA)の再構成によって調製される、項目38に記載の方法。
【0171】
44.シクロスポリンAが、5~30mgの範囲の有効1日量で投与される、項目33に記載の方法。
【0172】
45.シクロスポリンAが、20mgの有効1日量で投与される、項目33に記載の方法。
【0173】
46.組成物が前記患者に1日2回投与される、項目33に記載の方法。
【0174】
47.CsAが、少なくとも24週間の期間にわたって投与される、項目33に記載の方法。
【0175】
48.両肺移植患者が、標準的な免疫抑制療法で同時治療される、項目33に記載の方法。
【0176】
49.標準的な免疫抑制療法が、タクロリムスまたはシクロスポリンと;ミコフェノール酸モフェチルまたはシロリムスと;副腎皮質ステロイドとからなる群から選択される1つまたは複数の有効成分の投与を含む、項目48に記載の方法。
【0177】
50.標準的な免疫抑制療法が、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチルおよびプレドニゾンの経口投与を含む、項目48に記載の方法。
【0178】
51.タクロリムスが0.06mg/kgの量で投与される、項目49または50に記載の方法。
【0179】
52.ミコフェノール酸モフェチルが1gの量で投与される、項目49または50に記載の方法。
【0180】
53.プレドニゾンが20mg/日の量で投与される、項目49または50に記載の方法。
【0181】
54.製剤が電子振動膜ネブライザーでエアロゾル化される、項目33に記載の方法。
【0182】
55.製剤がeFlow(登録商標)ネブライザーでエアロゾル化される、項目33に記載の方法。
【0183】
56.製剤が少なくとも75%のアドヒアランスで吸入される、項目36に記載の方法。
【0184】
57.BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSの進行が予防される、または治療開始時の1秒量(FEV1)値と比較して、前記患者のFEV1の最大20%低下のレベルまで低減される、項目33に記載の方法。
【0185】
58.BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者の無イベント生存確率が、治療開始後少なくとも48週間後に少なくとも60%であり、イベントが、少なくとも20%のFEV1の低下、再移植の必要性および/または死亡から選択される、項目33に記載の方法。
【0186】
59.CsAを含むエアロゾル化形態の本発明の組成物で治療された両肺移植患者についての治療開始から少なくとも48週間の期間以内の少なくとも20%のFEV1の低下、再移植の必要性および/または死亡から選択されるイベントを経験するリスクが、標準的な免疫抑制療法(SOC)のみによる治療下での対応するイベントを経験するリスクと比較して、少なくとも30%(絶対)、好ましくは少なくとも35%(絶対)減少する、項目33に記載の方法。
【0187】
60.BOSと診断されている両肺移植患者のFEV1の平均月変化(ΔFEV1/月)が、実質的に一定のままである、または約0~約0.04L/月の範囲の値を有する、項目33に記載の方法。
【0188】
61.BOSと診断されている両肺移植患者のベースライン(治療開始)と治療期間終了時との間のFEV1の絶対変化(ΔFEV1/絶対)が350mL以下である、項目33に記載の方法。
【0189】
62.標準的な免疫抑制療法(SOC)のみで治療された患者のFEV1の損失に対する、BOSと診断されている両肺移植患者のFEV1の相対損失(ΔFEV1/相対)が少なくとも200mLである、項目33に記載の方法。
【0190】
63.BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者が、気管支肺胞洗浄(BAL)を用いた気管支鏡検査によって確認した場合に、治療開始前、および好ましくは治療開始後24週目に気道狭窄と診断されていない、項目33に記載の方法。
【0191】
64.BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されている両肺移植患者が、治療開始前、および好ましくは治療開始後24週目に未治療感染症と診断されていない、項目33に記載の方法。
【0192】
65.BOSを発症するリスクがあるまたはBOSと診断されており、CsAを含む液体組成物で治療されている両肺移植患者のCsAの最大血中濃度が最大100ng/mL、好ましくは最大60ng/mLである、項目33に記載の方法。
【0193】
66.ネブライザーが少なくとも約0.1mL/分の速度で単位用量を送達することができる、項目54または55に記載の方法。
【0194】
65.両肺移植患者の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を予防するため、あるいはBOSと診断されている両肺移植患者のBOSを治療するためまたはBOSの進行を予防するもしくは遅延させるための医薬の調製におけるリポソームシクロスポリンA(L-CsA)を含む組成物の使用であって、組成物が治療上有効用量のCsAを含むエアロゾル化形態の前記組成物の吸入によって前記患者に投与される使用。
図面の詳細な説明
【0195】
図1は、以下の実施例に記載される研究における片肺移植患者および両肺移植患者の登録の詳細を要約するフローチャートを示す。合計43人の患者を適格性について評価し、そのうち23人の患者が適格性基準を満たした。無作為化の前に、1人の患者が死亡し、1人の患者が研究から離脱した。21人の患者を無作為化して、11人をL-CsA治療群、および10人をSOC(標準治療、すなわち、標準的な免疫抑制療法)治療群にした。L-CsAの1人の患者は、24週間の追跡中に進行性の皮膚がんのために研究から離脱した。この患者のがんが進行性であったため、伝統的な全身免疫抑制を中止し、この患者を治療の目的で管理した。
【0196】
図2は、48週間の研究期間中にBOSと診断されている片肺移植患者および両肺移植患者のBOS無増悪生存確率のカプランマイヤープロットを示す(すなわち、片肺移植患者と両肺移植患者との間に区別がない)。SOC群の患者は、L-CsAと比較して、研究期間中の治療失敗(BOS進行、再移植または死亡として定義される)のリスクが高くなる傾向があった(ハザード比(HR):3.19;95% 信頼区間(95%CI):0.62~16.50;p=0.14)。
【0197】
図3は、BOSと診断されている両肺移植患者のみについての無イベント生存確率のカプランマイヤープロットを示す(すなわち、片肺移植患者についての結果はない)。BOSと診断されている両肺移植患者についての無イベント生存確率は、L-CsA治療群で83%であったのに対し、SOC治療のみの群では50%であった。さらに、両肺移植患者では、ハザード比(HR)が3.43で、95%CIが0.31~37.95;p=0.29であり、L-CsA治療下の両肺移植患者と比較して、SOC治療単独下では、両肺移植患者の群について、BOS進行、再移植の必要性または死亡を経験するリスクが3.43倍高いことを意味していた。
【0198】
図4は、片肺移植患者のみについての無イベント生存確率のカプランマイヤープロットを示す(すなわち、両肺移植患者についての結果はない)。片肺移植患者についての無イベント生存確率は、L-CsA治療群で80%であったのに対し、SOC治療のみの群では50%であった。さらに、片肺移植患者では、ハザード比(HR)が2.78で、95%CIが0.29~26.98;p=0.36であり、L-CsA治療下の片肺移植患者と比較して、SOC治療単独下では、片肺移植患者の群について、BOS進行、再移植の必要性または死亡を経験するリスクが2.78倍だけ高いことを意味していた。
【0199】
図5は、無作為化後5年目の片肺移植患者および両肺移植患者の全生存確率のカプランマイヤープロットを示す。データは、L-CsAで治療された片肺または両肺移植患者の著しい改善を実証している:L-CsAで治療された11人の参加者のうちの5人の患者(45%)が、SOCのみで治療された最初の10人の患者のうちの0人と比較して、5年間の追跡で生存していた。L-CsAで治療された患者群の生存期間中央値は、SOCのみで治療された患者群についての2.9年に対して、4.1年であった(p=0.03)。死因は慢性同種移植片拒絶反応であり、例外の2症例は1例が播種性皮膚がん(L-CsA)、1例が腎不全(SOC)で死亡した。
【0200】
図6は、ランダム傾き混合モデルでの無作為化前と無作為化後の測定データを調整した後の、片肺移植患者および両肺移植患者(すなわち、片肺移植患者と両肺移植患者との間に区別がない)の全体的FEV
1発達の分析を示す。L-CsAで治療された患者群(11人の患者)では、平均絶対FEV
1値のわずかな減少が、無作為化時のおよそ1.75Lから出発して48週間の期間の最後の1.70Lまで観察され、SOCで治療された患者群(10人の患者;1人の患者は人工呼吸が必要なため、無作為化後のPFT測定はなかった;この患者をFEV
1の傾きの計算に含めた:患者が人工呼吸に進んだ時点で、0のFEV
1値を負わせた;この患者は無作為化後のPFT(肺機能検査)測定値がなかった)については、およそ1.75Lからおよそ1.15LへのFEV
1の値の安定な、有意な減少が観測された。片肺移植患者および両肺移植患者のこの全体的な分析では、FEV
1の月変化(ΔFEV
1/月)が、95%CIが-0.100~-0.006で-0.054に対して、L-CsAで治療された患者群について95%CIが-0.033~0.018で-0.007あった(p=0.10)。
【0201】
図7は、L-CsA治療群(上のグラフ;「L-CsA」)およびSOC治療群(下のグラフ;「SOC」)の両肺移植患者についての(すなわち、片肺移植患者についての結果はない)48週間の研究期間中の平均絶対FEV
1値の発達を示す。L-CsAで治療された患者群(6人の患者)では、平均絶対FEV
1値が、48週間を通して1.8Lでほぼ一定のままであった。これとは対照的に、SOC群の両肺移植患者群(4人の患者)では、平均絶対FEV
1値が、同じ期間にわたっておよそ1.8Lからおよそ1.1Lまで著しく減少した。したがって、両肺移植患者のFEV
1の月変化(ΔFEV
1/月)は、L-CsA治療群については95%CIが-0.049~0.049で0.000、SOC治療群については95%Clが-0.096~-0.026で-0.061であった(p=0.07)。
【0202】
図8は、L-CsA治療群(上のグラフ;「L-CsA」)およびSOC治療群(下のグラフ;「SOC」)の片肺移植患者についての(すなわち、両肺移植患者についての結果はない)48週間の研究期間中の平均絶対FEV
1値の発達を示す。L-CsAで治療された患者群(5人の患者)では、無作為化直後のおよそ1.75Lから無作為化後48週目のおよそ1.4Lまでの平均絶対FEV
1値の減少が観察された。SOC群の片肺移植群(6人の患者;1人の患者は人工呼吸が必要なため、無作為化後のPFT測定値がなかった;患者をFEV
1の傾きの計算に含めた:患者が人工呼吸に進んだ時点で、0のFEV
1値を負わせた;この患者は無作為化後のPFT(肺機能検査)測定値がなかった)については、平均FEV
1値が、同じ期間にわたって(計算方法により、SOC治療群についてのグラフは1月目で終了)、およそ1.75Lからおよそ1.05Lまで著しく減少した。したがって、両肺移植患者のFEV
1の月変化(ΔFEV
1/月)は、L-CsA治療群については95%CIが-0.019~0.001で-0.029、SOC治療群については95%Clが-2.074~0.872で-0.600であった(p=0.37)。
【0203】
以下の実施例は、本発明を例示するのに役立つが、本発明の範囲を制限するものとして理解されるべきではない。
実施例
【0204】
実施例1:液体CsA製剤のインビトロエアロゾル特性評価
活性物質CsA(Ph.Eur.)および賦形剤lipoid S100、ポリソルベート80、エデト酸二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム十二水和物およびリン酸二水素ナトリウム一水和物からなる吸入用リポソームシクロスポリン液体製剤を調製した。製剤を、pH(6.5±0.2)および浸透圧(350~450mOsmol/kg)の生理学的に耐えられる値に調整した。
【0205】
約95mlの体積の混合チャンバーを使用して、eFlow(登録商標)ネブライザーを使用してエアロゾルを生成した。このネブライザーで生成されたエアロゾルを、呼吸シミュレーション、レーザー回折およびインパクター測定を使用して特徴付けた。これらの測定結果を表1に要約する。
【0206】
表1:eFlow(登録商標)ネブライザーで噴霧されたリポソームシクロスポリン(L-CsA)製剤のエアロゾルの特徴
値を平均±標準偏差として表す;MMD=質量中央径;DD=送達用量(マウスピースから);RD=呼吸可能な用量
【0207】
76%の送達用量(DD)(マウスピースからの量)およびおよそ47%の3.3μmより小さい液滴の呼吸可能な用量(RD)が達成された。3.3pmより小さい粒子は、効果的な肺移植片保護のための最適な薬物沈着部位と見なされる肺の遠位部に沈着する可能性が高い。一般的に、5μmより小さいエアロゾル液滴は、肺全体に沈着する可能性が高く、ある程度の肺移植片保護のために同様に考慮されるべきである。5μmより小さい液滴の呼吸可能な用量はおよそ68%であった。
【0208】
これらの結果に基づいて、10mgの名目薬物量の場合、対応する送達用量(mg)はおよそ7.6 mg CsAになると結論付けることができる。5pmおよび3.3pm未満の液滴の呼吸可能な用量(mg)は、それぞれ約6.8mgおよび4.7mg CsAになる。
【0209】
実施例2:再構成されたCsA製剤のインビトロエアロゾル特性評価
スクロースを凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)として実施例1に記載される製剤に添加した。その後、製剤を凍結乾燥した。噴霧の直前に、製剤を2.3mlの0.25%生理食塩水で再構成した。リポソームサイズは40~100 nm(0.040~0.10 μm)の範囲で、再構成後の多分散性指数は0.40未満であった。
【0210】
再構成された製剤を、実施例1のネブライザーと同じ吸入チャンバー、すなわち、約95mlの体積の混合チャンバーを有するeFlow(登録商標)ネブライザーで噴霧した。再構成された製剤で得られたエアロゾル特性評価データの結果を表2に示す。
【0211】
結果は、実施例1で得られた結果と比較して実質的な差を示さなかった。
【0212】
表2:eFlow(登録商標)ネブライザーで噴霧された再構成されたリポソームシクロスポリン製剤のエアロゾルの特徴
値を平均±標準偏差として表す;MMAD=質量中央空気動力学径;GSD=幾何標準偏差;DD=送達用量(マウスピースから);RD=呼吸可能な用量
【0213】
実施例3:BOSの治療における吸入シクロスポリンを用いた臨床試験
臨床研究登録:
43人の患者を適格性について評価し、そのうち23人が適格性基準を満たした。無作為化の前に、1人の患者が死亡し、1人の患者が離脱した。21人の患者を無作為化して、11人の患者をL-CsA治療群、および10人の患者をSOC治療群にした。(
図1)L-CsAの1人の患者は、24週間の追跡期間中に進行性の皮膚がんのために研究から離脱した。この場合、標準的な全身免疫抑制を中止した。
【0214】
BOS 1またはBOS 2の患者は、無作為化前および24週目および臨床的に必要を示された時に実施された気管支肺胞洗浄(BAL)を用いた気管支鏡検査によって、未治療感染症および気道狭窄がない場合に適格であった。
【0215】
閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の格付けを以下の通り適用した:隔月のFEV1測定に基づいて、BOS評価を継続的に実施した。BOの定義は、Estenneらの刊行物(Estenne M,et al.Bronchiolitis obliterans syndrome 2001:an update of the diagnostic criteria.J Haert Lung Transplant.2002;21(3):297-310)からの修正したBOS基準に準拠する。
【0216】
以下の定義および基準を適用した:
-BOS 0:FEV1>ベースラインの90%
-BOS 0-p:FEV1 ベースラインの81%~90%
-BOS 1:FEV1 ベースラインの66%~80%
-BOS 2:FEV1 ベースラインの51%~65%
-BOS 3:FEV1 ベースラインの50%以下
【0217】
臨床研究設計:
21人のBOSグレード1または2と診断された片肺または両肺移植患者を、標準的な免疫抑制のみ(SOC)と比較して、BOS 1およびBOS 2(グレード1~2)についての標準的な免疫抑制に加えたエアロゾル化L-CsAの追加を評価する、この単施設、無作為化、オープンラベル臨床試験に登録した。
【0218】
患者を48週間追跡する予定であった(以下に記載されるようにL-CsAを投与する24週間、および試験群では投与なしの24週間の追跡)。SOC群の患者を、主要エンドポイントを満たした後、L-CsA投薬の群に、または主要エンドポイントが24週間の追跡中に生じた場合にL-CsA群にクロスオーバーすることができた。
【0219】
患者を、1日2回、標準治療である全身免疫抑制に加えて、それぞれ片肺移植(SLT)もしくは両肺移植(DLT)患者について5mg/1.25mlもしくは10mg/2.5ml L-CsA療法(L-CsA群)、または標準治療である全身免疫抑制のみ(SOC群)を24週間受けるよう割り当て、これに24週間の試験薬物の投与なし(L-CsA)を続けた。
【0220】
L-CsA製剤を、0.25%生理食塩水で再構成した凍結乾燥物の形態で使用し、eFlow(登録商標)ネブライザー(PARI、ドイツ)を使用して噴霧した。吸入チャンバーの排気弁にフィルターを配置した。さらに、ネブライザーを、吸入時間および持続時間が監視されるキーカード(eFlow(登録商標)チップカード)がネブライザーに導入された場合にのみ操作できるように設計した。
【0221】
治療プロトコル:
患者を、L-CsA群(治療)またはSOC群(CsAによる治療なし)のいずれかに無作為に割り当てた。L-CsAを、タクロリムス(0.06mg/kg;トラフレベル8~12ng/ml)と、ミコフェノール酸モフェチル(1gm PO bid)またはシロリムス(2mg PO 日;レベル7~12ng/ml)と、プレドニゾン(20mg/日)とからなる標準的な免疫抑制に加えて、1日2回、5mgまたは10mg(それぞれ、片肺移植患者または両肺移植患者)投与し、SOC群は標準的な免疫抑制のみを受けた。利用した場合、シロリムスおよびタクロリムスの合計血中濃度は4~5ng/mlに維持された。研究施設での臨床パラメータおよびプロトコルの臨床医ベースの評価によって、調整を行った。感染症予防には、バルサイト、ボリコナゾールおよびスルファメトキサゾール/トリメトプリムが含まれる。強化された免疫抑制は、パルス副腎皮質ステロイド(3日間、1日当たり1gmの用量の静脈内メチルプレドニゾロンまたは経口プレドニゾン(14日間にわたって100mgを10mgに漸減))または抗胸腺細胞グロブリン(1.5 mg/kg/日を3~5日間)からなっていた。FEV1によるBOSの進行を、少なくとも3週間離れて測定される同時発症疾患について治療前後に検証し、2人の共同研究者によって確認した。
【0222】
エンドポイント:
BOS進行の主要エンドポイントは以下の通りであった:
1)無作為化からのFEV1の20%以上の減少;
2)死、または
3)再移植。
【0223】
副次エンドポイントには、肺機能の変化、エアロゾルの忍容性、薬物動態、サイトカインの変化および薬物毒性が含まれていた。日常的な実験室データを30日間隔で収集した。サイトカイン(IL-1β、IL-2、IL-6、IL-8、IL-10、IL-17、IFN-γおよびTNF-α)を、Luminex 100リーダーを使用して多重アッセイ(BioRad(登録商標))によって、BAL液から無作為化前および治療期間終了時に測定し、BioRadのソフトウェアを使用して分析した。
【0224】
統計分析:
BOS進行と患者の全生存の組み合わせた主要エンドポイントを、カプランマイヤー法およびログランク検定によって比較した。生存に影響を及ぼす因子としての移植タイプを、コックス比例ハザードモデルによって評価した。データをハザード比(HR)および95%信頼区間(95%CI)で提示する。肺機能分析については、多変量線形混合効果統計モデル(PROC MIXED、SASバージョン9.1.3;SAS Institute、Cary、NC)を利用した(Laird NM,Ware JH.Random-effects models for longitudinal data;Biometric 1982;38:963-974)。混合モデルは、無作為化後の機能に影響を与える可能性のある変更を調整して、群内および群間の値を無作為化前および無作為化後に分析した。サイトカイン値を、二元配置分散分析によって比較した。混合モデル統計を使用して、臨床検査値および薬物レベルを分析した。クロスオーバー症例を含む全ての結果を、治療の目的として分析した。合計242の肺機能検査、サイトカインのための42の気管支肺胞洗浄(BAL)検体および603の血液試料を分析した。
【0225】
結果
患者の特性評価:
11人の患者をL-CsA群に無作為化し、10人をSOC群に無作為化した(
図1参照)。2つの群のベースライン特徴および臨床管理は類似であった。ベースラインの人口統計的特性の分布は、群間で明らかには異ならなかった。L-CsAによる平均治療期間は167.5±12.5日であった。L-CsAに起因する臨床研究離脱を必要とする有害事象はなく、追跡に失敗した患者はいなかった。
【0226】
SOC群の主要エンドポイントを満たした2症例は、L-CsAによるクロスオーバー療法を受け、L-CsAに無作為化された1人の患者が、最初の24週間の薬物投与間隔後にL-CsAを再開した(FEV1低下>20%)。再発性皮膚がんのため全身免疫抑制の中止が必要であったため、最初の24週間のL-CsA間隔後に1人の患者が研究から離脱した。
【0227】
閉塞性細気管支炎の安定化:
無イベント生存確率を、カプランマイヤー生存分析によって全体的に、すなわち、片肺移植患者および両肺移植患者による層別化なし、ならびに片肺移植または両肺移植(本明細書ではそれぞれ、「SLT」または「DLT」とも呼ばれる)による層別化ありで分析した。いつでも、何らかの理由で、エンドポイントイベントを経験せずに試験への参加を終了した患者は打ち切った。
【0228】
分析を実施するために、最大の解析対象集団(Full Analysis Set)(FAS)と治験実施計画に適合した対象集団(Per-Protocol Analysis Set)(PPS)を定義した。FASには、少なくとも1回投与の治験治療を受けた全ての患者が含まれた。PPSには、科学的側面および研究結果の解釈を損なうと見なされた主要なプロトコル違反(例えば、誤った組み入れ、75%未満のアドヒアランス、禁止された併用薬物)のないFASからの全ての患者が含まれた。
【0229】
BOSの安定化は、SOC群と比較してL-CsA治療群で主要研究エンドポイントに従って、明確に分析された両肺および片肺レシピエントで観察された:L-CsAとSOCで治療された11人の患者のうち9人では、無イベント生存確率が82%であったのに対して、SOCのみで治療された10人の患者のうち5人では50%であった。(HR(ハザード比):3.19;95%CI(信頼区間):0.62~16.50;p=0.14;
図2参照)
【0230】
両肺移植患者の場合、無イベント生存確率は、L-CsA治療群では83%であったのに対し、SOC治療のみの群では50%であった。さらに、両肺移植患者では、ハザード比(HR)が3.43で、95%CIが0.31~37.95;p=0.29であり、L-CsA治療下の両肺移植患者と比較して、SOC治療単独下では、両肺移植患者の群について、BOS進行、再移植の必要性または死亡を経験するリスクが3.43倍高いことを意味していた(
図3参照)。
【0231】
片肺移植患者の場合、無イベント生存確率は、L-CsA治療群では80%であったのに対し、SOC治療のみの群では50%であった。さらに、片肺移植患者では、ハザード比(HR)が2.78で、95%CIが0.29~26.98;p=0.36であり、L-CsA治療下の片肺移植患者と比較して、SOC治療単独下では、片肺移植患者の群について、BOS進行、再移植の必要性または死亡を経験するリスクが2.78倍だけ高いことを意味していた(
図4参照)。
【0232】
L-CsA群で主要イベントを経験した2つの症例のうち、一方は(主要エンドポイント基準に基づいて)L-CsA再開に応答し、他方は再移植された;SOC群の5つの主要イベントのうち、2例は再移植され、2例は人工呼吸を要し、SOCからクロスオーバーした2例のうちの1例はL-CsAに応答した。
【0233】
図2~
図4のカプランマイヤーから分かるように、両肺移植患者に投与されたL-CsAの効果は、48週間の治療および観察期間全体で分析した場合、片肺移植患者よりも有意に高い。片肺移植患者についての生存確率の尺度としてのハザード比(HR)1:2.78(L-Cs-A:SOC)は、1:3.43(L-CsA:SOC)の比を有する両肺移植患者よりも有意に好ましくない。
【0234】
無作為化後の5年での全生存確率は、L-CsAで治療された片肺または両肺移植患者で著しい改善を実証した:L-CsAで治療された11人の参加者のうちの5人の患者(45%)が、SOCのみで治療された最初の10人の患者のうちの0人と比較して、5年間の追跡で生存していた。L-CsAで治療された患者群の生存期間中央値は、SOCのみで治療された患者群についての2.9年に対して、4.1年であった(p=0.03;
図5参照)。死因は慢性同種移植片拒絶反応であり、例外の2症例は1例が播種性皮膚がん(L-CsA)、1例が腎不全(SOC)で死亡した。
【0235】
肺機能の変化
L-CsA群およびSOC群でBOSと診断されている片肺および両肺移植患者のBOSの安定化または進行の尺度として、FEV1値(努力呼気の最初の1秒後の強制呼気量)の変化を48週間の研究期間中に観察した。
【0236】
図6に示されるように、ランダム傾き混合モデルでの無作為化前と無作為化後の測定データを調整した後の、片肺移植患者および両肺移植患者の全体的FEV
1発達の分析が明確な結果を与える:L-CsAで治療された患者群(11人の患者)では、平均絶対FEV
1値のわずかな減少が、無作為化時のおよそ1.75Lから出発して48週間の期間の最後の1.70Lまで観察され、SOCで治療された患者群(10人の患者;1人の患者は人工呼吸が必要なため、無作為化後のPFT測定はなかった;この患者をFEV
1の傾きの計算に含めた:患者が人工呼吸に進んだ時点で、0のFEV
1値を負わせた;この患者は無作為化後のPFT(肺機能検査)測定値がなかった)については、およそ1.75Lからおよそ1.15LへのFEV
1の値の安定な、有意な減少が観測された。片肺移植患者および両肺移植患者のこの全体的な分析では、FEV
1の月変化(ΔFEV
1/月)が、95%CIが-0.100~-0.006で-0.054に対して、L-CsAで治療された患者群について95%CIが-0.033~0.018で-0.007であった(p=0.10)ことに留意すべきである。
【0237】
図7に示されるように、L-CsA治療群(上のグラフ;「L-CsA」)およびSOC治療群(下のグラフ;「SOC」)の両肺移植患者のみについての48週間の研究期間中の絶対FEV
1値の発達は、さらにより重要な結果を与える:L-CsAで治療された患者群(6人の患者)では、平均絶対FEV
1値が、48週間を通して1.8Lでほぼ一定のままであった。これとは対照的に、SOC群の両肺移植患者群(4人の患者)では、平均絶対FEV
1値が、同じ期間にわたっておよそ1.8Lからおよそ1.1Lまで著しく減少した。したがって、両肺移植患者のFEV
1の月変化(ΔFEV
1/月)は、L-CsA治療群については95%CIが-0.049~0.049で0.000、SOC治療群については95%Clが-0.096~0.026で-0.061であった(p=0.07)ことに留意すべきである。
【0238】
図8に示されるように、L-CsA治療群(上のグラフ;「L-CsA」)およびSOC治療群(下のグラフ;「SOC」)の片肺移植患者のみについての48週間の研究期間中の絶対FEV
1値の発達も同様の傾向を示す:L-CsAで治療された患者群(5人の患者)では、無作為化直後のおよそ1.75Lから無作為化後48週目のおよそ1.4Lまでの平均絶対FEV
1値の減少が観察された。SOC群の片肺移植群(6人の患者;1人の患者は人工呼吸が必要なため、無作為化後のPFT測定値がなかった;患者をFEV
1の傾きの計算に含めた:患者が人工呼吸に進んだ時点で、0のFEV
1値を負わせた;この患者は無作為化後のPFT(肺機能検査)測定値がなかった)については、平均FEV
1値が、同じ期間にわたって(計算方法により、SOC治療群についてのグラフは1月目で終了)、およそ1.75Lからおよそ1.05Lまで著しく減少した。したがって、両肺移植患者のFEV
1の月変化(ΔFEV
1/月)は、L-CsA治療群については95%CIが-0.019~0.001で-0.029、SOC治療群については95%Clが-2.074~0.872で-0.600であった(p=0.37)。