(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069363
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】翼状片を治療するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240514BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240514BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240514BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/407 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/7072 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/53 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/52 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20240514BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240514BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240514BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240514BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240514BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240514BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20240514BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P27/02
A61K45/06
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K31/407
A61K31/513
A61K31/7072
A61K31/7068
A61K31/53
A61K31/52
A61K31/519
A61K31/675
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/107
A61K47/34
A61K31/496
A61K31/5377
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035547
(22)【出願日】2024-03-08
(62)【分割の表示】P 2023024878の分割
【原出願日】2016-06-03
(31)【優先権主張番号】62/172,063
(32)【優先日】2015-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/186,660
(32)【優先日】2015-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517425240
【氏名又は名称】クラウドブレイク・セラピューティクス・エル・エル・シー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジンソン・ニー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】視軸/角膜中央からの翼状片退縮を誘導するため、翼状片を安定化させるため、翼状片患者における充血及び症状を治療するため、並びに翼状片切除後の翼状片再発を治療するための組成物及び方法を提供する。
【解決手段】方法は、処置を必要とする対象の患部の目に治療有効量の(1)マルチキナーゼ阻害薬;(2)上皮細胞増殖及び線維芽細胞増殖を阻害する代謝拮抗薬;又は(3)その組み合わせを投与することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
視軸/角膜中央からの翼状片退縮を誘導するための方法であって、処置を必要とする対象の患部の目に治療有効量の(1)マルチキナーゼ阻害薬;(2)上皮細胞増殖及び線維芽細胞増殖を阻害する代謝拮抗薬;又は(3)その組み合わせを投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記マルチキナーゼ阻害薬、前記代謝拮抗薬又はその組み合わせの投与の結果として、前記患部の目における翼状片の大きさが縮小する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マルチキナーゼ阻害薬、前記代謝拮抗薬又はその組み合わせの投与の結果として、前記患部の目における翼状片成長速度がマイナスとなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
翼状片を安定化させるための方法であって、このような処置を必要とする対象の患部の目に治療有効量の(1)マルチキナーゼ阻害薬;(2)上皮細胞増殖及び線維芽細胞増殖を阻害する代謝拮抗薬;又は(3)その組み合わせを投与することを含む、前記方法。
【請求項5】
前記マルチキナーゼ阻害薬、前記代謝拮抗薬又はその組み合わせの投与の結果として、前記患部の目における翼状片の大きさが安定化する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記マルチキナーゼ阻害薬、前記謝拮抗薬又はその組み合わせの投与の結果として、前記患部の目における翼状片成長速度がほぼゼロになる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記マルチキナーゼ阻害薬が、EGFR、ErbB2、ErbB3、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、TrkA、NGFR、VEGFR(1、2、3)、PDGFR(α、β)、TGF-βR(I、II、III)、FLT3、Lck、Lyn、Src、c-Kit、c-Fms、Raf-1、B-Raf、RET、CSF-1Rから選択される1種以上の細胞内及び/又は細胞表面タンパク質キナーゼの翼状片における活性を低下させる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記マルチキナーゼ阻害薬は、
VEGFR(1、2、3)に対するIC50が<200nMであり、
PDGFR(α、β)に対するIC50が<200nMであり、及び/又は
FGFR(1、2、3)に対するIC50が<1000nMである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記マルチキナーゼ阻害薬が、アファチニブ、アムバチニブ、アキシチニブ、カボザンチニブ、カネルチニブ、セジラニブ、セリチニブ、クレノラニブ、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、ダコミチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、フォレチニブ、ゲフィチニブ、ゴルバチニブ、イブルチニブ、イコチニブ、イデラリシブ、イマチニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、ネラチニブ、ニロチニブ、ニンテダニブ、パルボシクリブ、パゾパニブ、ポナチニブ、キザルチニブ、レゴラフェニブ、ルキソリチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、タンズチニブ、チバンチニブ、チボザニブ、トラメチニブ、バンデタニブ、バタラニブ及びベムラフェニブから構成される群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記代謝拮抗薬が、マイトマイシンC、5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、シタラビン、6-アザウラシル、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル及びチオテパから構成される群から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記マルチキナーゼ阻害薬、前記代謝拮抗薬又はその組み合わせを局所眼用製剤、軟膏、ゲル剤、徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントの形態で前記患部の目に投与する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記マルチキナーゼ阻害薬、前記代謝拮抗薬又はその組み合わせを局所眼用製剤の形態で前記患部の目に投与し、前記患部の目に局所投与する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記局所眼用製剤が、溶液剤、懸濁剤又は乳剤である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記局所眼用製剤が、更に、安定剤、界面活性剤、ポリマーベース担体、ゲル化剤、有機補助溶媒、pH調整成分及び浸透圧調整成分から選択される1種以上の医薬的に許容される添加剤を含有し、防腐剤を含有してもしなくてもよい、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントを前記患部の目に挿入する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントが、更に、医薬的に許容される添加剤を含有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントが、
マルチキナーゼ阻害薬、代謝拮抗薬又はその組み合わせ;及び
ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PLGA)及びポリ乳酸とポリグリコール酸との共重合体から選択される生分解性ポリマー
を含有する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
翼状片患者に投与を実施する、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
処置を必要とする患者の翼状片、瞼裂斑及び偽翼状片における充血及びその症状の軽減方法であって、対象の患部の目に治療有効量のマルチキナーゼ阻害薬を投与することを含む、前記方法。
【請求項20】
処置を必要とする対象における翼状片再発の低減又は予防方法であって、対象の患部の目に治療有効量のマルチキナーゼ阻害薬を投与することを含む、前記方法。
【請求項21】
翼状片の外科的除去前に投与を実施する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
翼状片の外科的除去処置中に投与を実施する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
翼状片の外科的除去後に投与を実施する、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記マルチキナーゼ阻害薬は、
VEGFR(1、2、3)に対するIC50が<50nMであり、
PDGFR(α、β)に対するIC50が<100nMであり、
FGFR(1、2、3)に対するIC50が<150nMであり
FGFR4に対するIC50が<1000nMであり、
FLT3に対するIC50が<50nMであり、
Lckに対するIC50が<50nMであり、
Lynに対するIC50が<200nMであり、
Srcに対するIC50が<200nMである、請求項19から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記マルチキナーゼ阻害薬が、ニンテダニブ{(3Z)-3-{[(4-{メチル[(4-メチルピペラジン-1-イル)アセチル]アミノ}フェニル)アミノ](フェニル)メチリデン}-2-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-6-カルボン酸メチル}、その遊離塩基、水和物、溶媒和物又は医薬的に許容される塩から構成される群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記マルチキナーゼ阻害薬が、ニンテダニブ遊離塩基又はニンテダニブエシラート(エタンスルホン酸塩)である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記マルチキナーゼ阻害薬を、局所眼用製剤、徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントの形態で前記患部の目に投与する、請求項19から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
ニンテダニブを、局所眼用製剤の形態で前記患部の目に投与し、前記患部の目に局所投与する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記局所眼用製剤が、溶液剤、懸濁剤又は乳剤である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記局所眼用製剤におけるニンテダニブの濃度が、重量換算で前記製剤の総量の0.001%~10%である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記局所眼用製剤が、更に、安定剤、界面活性剤、ポリマーベース担体、ゲル化剤、有機補助溶媒、pH調整成分、浸透圧調整成分及び防腐剤から選択される1種以上の医薬的に許容される添加剤を含有する、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントを、前記患部の目に挿入する、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントが、ニンテダニブ及び医薬的に許容される添加剤を含有する、前記方法請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントにおけるニンテダニブの量が、1μg~100mgである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントが、ニンテダニブ;及びポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PLGA)及びポリ乳酸とポリグリコール酸との共重合体から選択される生分解性ポリマーを含有する、請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は原発性及び再発性翼状片を治療するための眼用組成物及び方法、より具体的には視軸/角膜中央からの翼状片退縮を誘導するため、翼状片を安定化させるため、翼状片手術の前、それと同時又はその後に目の充血と翼状片再発とを抑制するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
翼状片は異常な上皮細胞及び線維芽細胞増殖が鼻側又は耳側結膜から角膜輪部を越えて角膜まで進展する眼表面疾患である。翼状片患者は目の不快感、充血の症状を生じることが多く、病変が視軸に侵入すると、視力障害を引き起こす危険がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
特定の態様において、本開示は治療を必要とする対象の目に(1)マルチキナーゼ阻害薬、(2)代謝拮抗薬又は(3)マルチキナーゼ阻害薬と代謝拮抗薬との組み合わせを投与することにより原発性及び再発性翼状片を治療するための方法を提供する。特定の態様において、本願に開示する方法は翼状片を安定化させ、患部組織がそれ以上増殖しないようにする。別の態様において、本願に開示する方法は視軸/角膜中央からの翼状片退縮を誘導する。特定の態様において、本願に開示するマルチキナーゼ阻害薬はVEGFR(1、2、3)及びPDGFR(α、β)のキナーゼ受容体を標的とする。特定の態様において、前記マルチキナーゼ阻害薬は患部の目に局所投与される局所眼用製剤に配合される。特定の態様において、前記局所眼用製剤は溶液剤、懸濁剤又は乳剤である。別の態様において、前記マルチキナーゼ阻害薬は患部の目に挿入されるインプラント又は半固形徐放性製剤に配合される。特定の態様において、前記代謝拮抗薬はマイトマイシンC、5-フルオロウラシル及びチオテパである。特定の態様において、前記代謝拮抗薬は患部の目に局所投与される局所眼用製剤に配合される。特定の態様において、前記局所眼用製剤は溶液剤、懸濁剤又は乳剤である。別の態様において、前記代謝拮抗薬は患部の目に挿入されるインプラント又は半固形徐放性製剤に配合される。特定の態様において、本願に開示する方法はマルチキナーゼ阻害薬と代謝拮抗薬との組み合わせにより実施される。特定の態様において、マルチキナーゼ阻害薬と代謝拮抗薬との組み合わせは患部の目に局所投与される局所眼用製剤に配合される。特定の態様において、前記局所眼用製剤は溶液剤、懸濁剤又は乳剤である。別の態様において、マルチキナーゼ阻害薬と代謝拮抗薬との組み合わせは患部の目に挿入されるインプラント又は半固形徐放性製剤に配合される。特定の態様において、本願に開示する方法は翼状片患者における充血、異常な新生血管形成及び他の症状を軽減する。別の態様において、本願に開示する方法は翼状片手術後の翼状片再発を予防する。特定の態様において、本願に開示する方法は翼状片再発を抑制又は予防するために、翼状片の外科的除去の前、翼状片除去手術と同時、又は翼状片の外科的除去の後に実施される。特定の態様において、本願に開示するマルチキナーゼ阻害薬はVEGFR(1、2、3)、PDGFR(α、β)、FGFR(1、2、3、4)の最小限のキナーゼ受容体に加え、FLT3、Lck、Lyn及びSrcの最適なキナーゼ受容体を標的とする。特定の態様において、本願に開示するマルチキナーゼ阻害薬はニンテダニブである。特定の態様において、本願に開示する方法は局所眼用製剤を使用する。特定の態様において、前記製剤は水溶液剤、懸濁剤又は乳剤である。特定の態様において、前記製剤におけるニンテダニブの濃度は0.001%~10%である。特定の態様において、前記製剤は患部の目に挿入されるインプラント又は半固形徐放性製剤である。特定の態様において、前記インプラントにおけるニンテダニブの量は1μg~100mgである。
【0004】
1態様において、本開示は視軸/角膜中央からの翼状片退縮を誘導するための方法として、このような処置を必要とする対象の患部の目に治療有効量の(1)マルチキナーゼ阻害薬;(2)上皮細胞及び線維芽細胞増殖を抑える代謝拮抗薬;又は(3)その組み合わせを投与することを含む方法を提供する。全態様の所定の実施形態では、前記マルチキナーゼ阻害薬、前記代謝拮抗薬又はその組み合わせの投与の結果として、患部の目における翼状片の大きさが縮小する。場合により、前記マルチキナーゼ阻害薬、前記代謝拮抗薬又はその組み合わせの投与の結果として、患部の目における翼状片成長速度がマイナスとなる。
【0005】
別の態様において、本開示は翼状片を安定化させるための方法として、このような処置を必要とする対象の患部の目に治療有効量の(1)マルチキナーゼ阻害薬;(2)上皮細胞及び線維芽細胞増殖を抑える代謝拮抗薬;又は(3)その組み合わせを投与することを含む方法を提供する。場合により、前記マルチキナーゼ阻害薬、前記代謝拮抗薬又はその組み合わせの投与の結果として、患部の目における翼状片の大きさが安定化する。場合により、前記マルチキナーゼ阻害薬、前記代謝拮抗薬又はその組み合わせの投与の結果として、患部の目における翼状片成長速度がほぼゼロになる。
【0006】
全態様の所定の実施形態において、前記マルチキナーゼ阻害薬は、EGFR、ErbB2、ErbB3、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、TrkA、NGFR、VEGFR(1、2、3)、PDGFR(α、β)、TGF-βR(I、II、III)、FLT3、Lck、Lyn、Src、c-Kit、c-Fms、Raf-1、B-Raf、RET、CSF-1Rから選択される1種以上の細胞内及び/又は細胞表面タンパク質キナーゼの翼状片における活性を低下させる。場合により、前記マルチキナーゼ阻害薬はVEGFR(1、2、3)に対するIC50が<200nMであり、PDGFR(α、β)に対するIC50が<200nMであり、及び/又はFGFR(1、2、3)に対するIC50が<1000nMである。
【0007】
全態様の所定の実施形態において、前記マルチキナーゼ阻害薬はアファチニブ、アムバチニブ、アキシチニブ、カボザンチニブ、カネルチニブ、セジラニブ、セリチニブ、クレノラニブ、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、ダコミチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、フォレチニブ、ゲフィチニブ、ゴルバチニブ、イブルチニブ、イコチニブ、イデラリシブ、イマチニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、ネラチニブ、ニロチニブ、ニンテダニブ、パルボシクリブ、パゾパニブ、ポナチニブ、キザルチニブ、レゴラフェニブ、ルキソリチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、タンズチニブ、チバンチニブ、チボザニブ、トラメチニブ、バンデタニブ、バタラニブ及びベムラフェニブから構成される群から選択される。場合により、前記代謝拮抗薬はマイトマイシンC、5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、シタラビン、6-アザウラシル、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル及びチオテパから構成される群から選択される。
【0008】
全態様の所定の実施形態では、前記マルチキナーゼ阻害薬、前記代謝拮抗薬又はその組み合わせを局所眼用製剤、軟膏、ゲル剤、徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントの形態で患部の目に投与する。場合により、前記マルチキナーゼ阻害薬、前記代謝拮抗薬又はその組み合わせを局所眼用製剤の形態で患部の目に投与し、患部の目に局所投与する。
【0009】
場合により、前記局所眼用製剤は溶液剤、懸濁剤又は乳剤である。場合により、前記局所眼用製剤は更に、安定剤、界面活性剤、ポリマーベース担体、ゲル化剤、有機補助溶媒、pH調整成分及び浸透圧調整成分から選択される1種以上の医薬的に許容される添加剤を含有し、防腐剤を含んでも含まなくてもよい。場合により、前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントを患部の目に挿入する。所定の実施形態において、前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントは更に、医薬的に許容される添加剤を含有する。場合により、前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントはマルチキナーゼ阻害薬、代謝拮抗薬又はその組み合わせと;ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PLGA)及びポリ乳酸とポリグリコール酸との共重合体から選択される生分解性ポリマーとを含有する。
【0010】
全態様の所定の実施形態では、翼状片患者に投与を実施する。
【0011】
別の態様において、本開示は処置を必要とする患者の翼状片、瞼裂斑及び偽翼状片における充血及びその症状の軽減方法として、対象の患部の目に治療有効量のマルチキナーゼ阻害薬を投与することを含む方法を提供する。
【0012】
別の態様において、本開示は処置を必要とする対象における翼状片再発の低減又は予防方法として、前記対象の患部の目に治療有効量のマルチキナーゼ阻害薬を投与することを含む方法を提供する。全態様の所定の実施形態では、翼状片の外科的除去前に投与を実施する。場合により、翼状片の外科的除去処置中に投与を実施する。場合により、翼状片の外科的除去後に投与を実施する。
【0013】
全態様の所定の実施形態において、前記マルチキナーゼ阻害薬はVEGFR(1、2、3)に対するIC50が<50nMであり、PDGFR(α、β)に対するIC50が<100nMであり、FGFR(1、2、3)に対するIC50が<150nMであり、FGFR4に対するIC50が<1000nMであり、FLT3に対するIC50が<50nMであり、Lckに対するIC50が<50nMであり、Lynに対するIC50が<200nMであり、Srcに対するIC50が<200nMである。場合により、前記マルチキナーゼ阻害薬は、ニンテダニブ{(3Z)-3-{[(4-{メチル[(4-メチルピペラジン-1-イル)アセチル]アミノ}フェニル)アミノ](フェニル)メチリデン}-2-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-6-カルボン酸メチル}、その遊離塩基、水和物、溶媒和物又は医薬的に許容される塩から構成される群から選択される。場合により、前記マルチキナーゼ阻害薬はニンテダニブ遊離塩基又はニンテダニブエシラート(エタンスルホン酸塩)である。
【0014】
全態様の所定の実施形態では、前記マルチキナーゼ阻害薬を局所眼用製剤、徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントの形態で患部の目に投与する。場合により、ニンテダニブを局所眼用製剤の形態で患部の目に投与し、患部の目に局所投与する。場合により、前記局所眼用製剤は溶液剤、懸濁剤又は乳剤である。全態様の所定の実施形態において、前記局所眼用製剤におけるニンテダニブの濃度は重量換算で前記製剤の総量の0.001%~10%である。
【0015】
全態様の所定の実施形態において、前記局所眼用製剤は更に、安定剤、界面活性剤、ポリマーベース担体、ゲル化剤、有機補助溶媒、pH調整成分、浸透圧調整成分及び防腐剤から選択される1種以上の医薬的に許容される添加剤を含有する。場合により、前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントを患部の目に挿入する。場合により、前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントはニンテダニブと医薬的に許容される添加剤とを含有する。場合により、前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントにおけるニンテダニブの量は1μg~100mgである。場合により、前記徐放性半固形製剤、徐放性固形製剤又は眼内インプラントはニンテダニブと;ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PLGA)及びポリ乳酸とポリグリコール酸との共重合体から選択される生分解性ポリマーとを含有する。
【0016】
本願で使用する「1以上」なる用語は、「1以上」であると指定されるものが少なくとも1、より適切には1、2、3、4、5、10、20、50、100、500等であることを含む。
【0017】
「対象」なる用語は、動物もしくはヒト、又は動物もしくはヒトに由来する1種以上の細胞を意味する。対象はヒトであることが好ましい。対象はまた、非ヒト霊長類をも含む。ヒト対象を患者と呼ぶ場合もある。
【0018】
特に定義しない限り、本願で使用する全科学技術用語は、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されていると同一の意味を有する。本願には本発明で使用する方法及び材料について記載するが、当分野で公知の他の適切な方法と材料も使用することができる。これらの材料、方法及び具体例は例証に過ぎず、これらによって制限するものではない。本願に引用する全刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリ及び他の参考資料はその内容全体を本願に援用する。内容が相容れない場合には、定義を含めて本願明細書を優先する。
【0019】
本発明の他の特徴及び利点は以下の詳細な説明及び図面、並びに特許請求の範囲から容易に理解されよう。
【0020】
本特許又は出願書類にはカラー図面を少なくとも1葉添付する。カラー図面を含めた本特許又は特許出願公開公報の写しは申請及び必要な手数料の納付後に特許庁から交付されよう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】
図1A及び1Bはウサギ角膜縫合糸モデルにおけるニンテダニブの抗血管新生作用を実証するグラフである。
図1Aは12日目の結果を示す。各投与群の角膜新生血管形成面積を示す。第1群:陽性対照0.05%スニチニブTID;第2群:0.2%ニンテダニブBID;第3群:0.2%ニンテダニブTID;第4群:0.05%ニンテダニブBID;第5群:0.05%ニンテダニブTID;第6群:基剤対照TID。各群を基剤投与群と比較したt検定有意水準を星印により示す。
【
図1B】
図1A及び1Bはウサギ角膜縫合糸モデルにおけるニンテダニブの抗血管新生作用を実証するグラフである。
図1Bは14日目の結果を示す。各投与群の角膜新生血管形成面積を示す。第1群:陽性対照0.05%スニチニブTID;第2群:0.2%ニンテダニブBID;第3群:0.2%ニンテダニブTID;第4群:0.05%ニンテダニブBID;第5群:0.05%ニンテダニブTID;第6群:基剤対照TID。各群を基剤投与群と比較したt検定有意水準を星印により示す。
【
図2A】
図2Aはヒト翼状片マウスモデルにおけるニンテダニブ(CBT-001)の効果を実証するグラフである。0.2%ニンテダニブはマウス角膜上の翼状片病変面積を縮小させた。14日目と17日目の翼状片病変面積は7日目のベースラインレベルよりも有意に小さい。対照的に、生理食塩水対照群の目における翼状片面積は10日間の間に増大し、14日目と17日目では7日目よりも有意に大きかった。
【
図2B】
図2Bはヒト翼状片マウスモデルにおけるニンテダニブ(CBT-001)の効果を実証するグラフである。0.2%ニンテダニブは角膜上の新生血管形成を低減し、17日目のレベルを7日目のベースラインと比較すると、低減は有意であった。生理食塩水対照群の目では、新生血管形成は若干亢進したが、ベースラインから統計的有意差はなかった。
【
図3A】
図3Aは翼状片マウスモデルにおけるスニチニブ(CBT-003)の効果を実証するグラフである。0.05%スニチニブは翼状片病変面積の縮小傾向を示したが、7日目のベースラインからの各時点の差は統計的に有意ではない。生理食塩水対照群の目における翼状片面積は10日間の間に増加し、14日目と17日目では7日目よりも有意に大きかった。
【
図3B】
図3Bは翼状片マウスモデルにおけるスニチニブ(CBT-003)の効果を実証するグラフである。0.05%スニチニブは角膜上の新生血管形成を低減し、14日目と17日目のレベルを7日目のベースラインと比較すると、低減は有意であった。生理食塩水対照群の目では、新生血管形成は有意に変化しなかった。
【
図4A】
図4Aは翼状片マウスモデルにおけるマイトマイシン(CBT-002)の効果を実証するグラフである。0.002%マイトマイシンは翼状片病変面積の縮小傾向を示したが、7日目のベースラインからの各時点の差は統計的に有意ではない。生理食塩水対照群の目における翼状片面積は増大し、10日目、14日目及び17日目では7日目よりも有意に大きかった。
【
図4B】
図4Bは翼状片マウスモデルにおけるマイトマイシン(CBT-002)の効果を実証するグラフである。0.002%マイトマイシンは角膜上の新生血管形成を低減し、17日目のレベルを7日目のベースラインと比較すると、低減は有意であった。生理食塩水対照群の目では、新生血管形成は有意に変化しなかった。
【
図5A】
図5Aは翼状片マウスモデルにおけるニンテダニブ(CBT-001)とマイトマイシン(CBT-002)の併用の効果を実証するグラフである。生理食塩水対照群の目における翼状片面積は増加し、14日目と17日目では7日目よりも有意に大きかったが、併用投与群では面積は有意に増加しなかった。
【
図5B】
図5Bは翼状片マウスモデルにおけるニンテダニブ(CBT-001)とマイトマイシン(CBT-002)の併用の効果を実証するグラフである。新生血管形成面積は生理食塩水投与群と併用投与群のどちらも有意に変化しなかった。
【発明を実施するための形態】
【0022】
翼状片は線維血管増殖が鼻側又は耳側結膜から角膜輪部を越えて角膜まで進展する眼表面疾患である。翼状片患者は目の不快感、充血の症状を生じることが多く、病変が視軸に侵入すると、視力障害を引き起こす危険がある。翼状片の発生率は生涯日光曝露量、並びに加齢、男性及び農村居住等の他の危険因子に明白に関連しており、眼鏡や帽子の着用により保護効果があることが示されている。また、翼状片は溶接工、肉体労働者及び屋外労働者等の所定の職業グループで発症率が高く、この疾患の病因における紫外線(UV)曝露の重要な役割を反映している。
【0023】
翼状片は浸潤性の成長傾向と再発傾向があるが、転移傾向がないことから、良性腫瘍とみなされることが多い。翼状片の病因に関する現在の認識によると、複数のプロセスが関与しており、これらは遺伝的要因、環境誘因(紫外線、ウイルス感染)、及びその成長を持続させる因子(サイトカイン、成長因子及びマトリックスプロテアーゼ)に分けられる。このうち、慢性的な紫外線曝露は翼状片の病因の単独の最大要因である。紫外線曝露と翼状片の関係は疫学研究に加え、皮膚光老化、白内障、気候性滴状角膜症、扁平上皮癌及び基底細胞癌等の他の紫外線関連病態とのその関連により十分に裏付けられている。酸化ストレスや成長因子受容体(GFR)シグナル伝達等の紫外線活性化分子メカニズムは、サイトカイン、成長因子及びマトリックスプロテアーゼ等の翼状片の成長を持続させるエフェクター分子の合成と分泌をもたらす。紫外線はよく知られた酸化ストレスインデューサーであると共に、皮膚光老化の一因でもある。紫外線による酸化ストレスは上皮成長因子受容体(EGFR)の活性化を媒介した後、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ経路を介して下流のシグナル伝達を媒介する。
【0024】
現時点で翼状片の治療方法として承認済みの薬物療法は存在しない。翼状片切除後に結膜自家移植を行う方法が依然として原発性及び再発性のどちらの翼状片にも選択される決定的な治療方法である。これらの病変の多くは容易に除去することができ、当初は執刀医と患者の双方に満足が得られるが、翼状片の再発を生じる場合がある。翼状片の再発率を低下させるために、翼状片手術と同時又は手術後に、5-FUやMMC等の代謝拮抗薬が使用されている(Almond et al.,Pterygium:Techniques and Technologies for Surgical Success.Hovanesian JA.Ed.SLACK Incorporated.2012;pp 55-63)。
【0025】
翼状片は多因子性疾患であり、VEGFやPDGF等の数種の成長因子が病因である可能性がある。しかし、この疾患を治療するための、これらの成長因子に対抗する医薬品は開発されていない。抗VEGF抗体であるベバシズマブとラニビズマブは世界中で翼状片患者に臨床試験されているが、結果は非常に様々であり、抗体を使用したこのような治療が有効であるか否かは不明である。少数の試験はベバシズマブが翼状片成長を阻止できたと報告しているが、大半の試験は否定的な結果を報告している。これまでのところ、低分子型抗血管新生薬を翼状片に臨床試験したという報告は存在していない。発表件数は僅かに2件であるが、ヒト翼状片マウスモデルが最近開発されている(Lee et al.Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol.2014;252(4):609-18;Cox et al.Ophthalmology.2010;117(9):1782-91)。しかし、これまでにこのモデルで抗血管新生薬は試験されていない。後述するように、本発明者らは抗血管新生活性をもつマルチキナーゼ阻害薬が翼状片成長を有効に阻害及び/又は安定化させると共に、マウスモデルにおける翼状片組織病変の大きさを縮小させることを初めて実証する。更に、本発明者らは代謝拮抗薬でも同様の結果が得られることを実証する。本開示は一部においてこれらの新規知見に基づく。従って、本開示は、翼状片を安定化させること及び退縮を誘導することにより翼状片を治療するためにマルチキナーゼ阻害薬、代謝拮抗薬、又はマルチキナーゼ阻害薬と代謝拮抗薬との組み合わせを投与する組成物及び方法を提供する。
【0026】
本願で使用する「翼状片退縮」なる用語は、患部の目における翼状片の大きさの減少又は縮小を意味する。例えば、「翼状片退縮」なる用語は患部の目における翼状片の大きさの少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも100%の減少又は縮小を意味する。
【0027】
本願で使用する「目の充血」又は「充血」なる用語は、白目(強膜)に血液が過剰になり、目が赤くなることを意味する。「充血を軽減する」なる用語は、患部の目における赤い部分の縮小及び/又は白い部分の拡大を意味する。赤い部分の縮小及び/又は白い部分の拡大は専門家による目視評価を含む当業者に周知の方法により確認又は測定することができる。
【0028】
本願で使用する「翼状片を安定化させる」又は「翼状片の大きさの安定化」なる用語は、患部の目における翼状片の大きさを維持することを意味する。
【0029】
本願で使用する「翼状片再発」なる用語は、原発性翼状片の除去(例えば外科的除去)後の目に翼状片が再び出現することを意味する。
【0030】
本願で使用する「治療有効」及び「有効量」なる用語は、目標とする薬理学的結果、治療結果又は予防結果を生じるために有効な薬剤の量を意味する。薬理学的有効量は、障害の1種以上の症状の改善をもたらすか、又は障害の進行を防ぐか、又は障害の退縮を生じるか、又は障害を予防する。例えば、翼状片退縮の誘導に関して、治療有効量とは、翼状片の大きさを少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも100%縮小させる治療薬の量を意味する。
【0031】
本願に記載する方法における治療有効用量は、治療担当医師が決定することができる。例えば、医師はマルチキナーゼ阻害薬又は代謝拮抗薬について製造業者により推奨されている用量を使用して治療を開始し、医師による治療効果の観察に基づいて増減することができる。詳細な手引きについては本願明細書及び実施例に記載する。更に、患者集団を治療する際に統計的に有意な治療効果を生じるために有効な用量を決定する目的で臨床試験を実施することができる。
【0032】
「又はその組み合わせ」又は「と併用」なる用語は、第1の薬剤を第2の阻害性核酸分子や化学療法薬等の第2の薬剤と共に提供する全形態の投与を意味し、これらの2種類の薬剤は、同時投与又は任意の順序で順次投与される。2種以上の薬剤を相互に併用投与する場合、これらの薬剤を同時に又は同一製剤として投与する必要はない。相互に併用投与される薬剤は、これらの薬剤が送達される対象の体内で同時に生物学的活性を示すか又は有する。対象の体内に薬剤が存在するか否かは実証実験モニタリング又はこの薬剤について分かっている薬物動態特性を使用した計算により容易に判定することができる。
【0033】
「治療」、「治療用」、「治療する」等の用語は、通常、本願では所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得るという意味で使用される。効果は疾患もしくはその症状を完全もしくは部分的に防ぐという意味で予防効果でもよいし、並びに/又は疾患及び/もしくはこの疾患に起因する有害作用の部分的もしくは完全な安定化もしくは治癒という意味で治療効果でもよい。「治療」なる用語は哺乳動物、特にヒトにおける疾患のあらゆる治療を包含し、(a)疾患又は症状に罹患しやすい素因をもつと思われるが、まだ罹患していると診断されていない対象に疾患及び/又は症状が生じないように予防すること;(b)疾患及び/又は症状を妨げること、即ちその発症を阻止すること;あるいは(c)疾患症状を緩和すること、即ち疾患及び/又は症状を後退させることを含む。治療を必要とする者としては、既に罹患している者(例えば癌患者、感染者等)、及び予防が望まれる者(例えば癌になりやすい者、感染しやすい者、癌の疑いのある者、感染の疑いのある者等)が挙げられる。
【0034】
本願で使用する「マルチキナーゼ阻害薬」(MKI)なる用語は、例えば細胞内及び/又は細胞表面タンパク質キナーゼを含む2種以上のキナーゼの発現又は活性を低減又は阻害する医薬品化合物(例えば低分子)を意味する。
【0035】
本願で使用する「低分子」とは、分子量2,000ダルトン未満、より好ましくは200~1,000ダルトン、更に好ましくは300~700ダルトンの化合物を意味するものとする。これらの低分子は有機分子であることが好ましい。特定の実施形態において、「低分子」はペプチド又は核酸分子を含まない。
【0036】
本願に記載する方法で使用される例示的なマルチキナーゼ阻害薬は、特定のキナーゼ阻害プロファイルを示す。例えば、本願に記載する方法で使用されるマルチキナーゼ阻害薬は、VEGFR(1、2、3)に対してIC50<200nMであり、PDGFR(α、β)に対してIC50<200nMであり、FGFR(1、2、3)に対してIC50<1μMであるIC50を有するキナーゼ阻害プロファイルをもつことができる。
【0037】
本願に記載する方法で使用される例示的なマルチキナーゼ阻害薬としては、例えばアファチニブ、アムバチニブ、アキシチニブ、カボザンチニブ、カネルチニブ、セジラニブ、セリチニブ、クレノラニブ、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、ダコミチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、フォレチニブ、ゲフィチニブ、ゴルバチニブ、イブルチニブ、イコチニブ、イデラリシブ、イマチニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、ネラチニブ、ニロチニブ、ニンテダニブ、パルボシクリブ、パゾパニブ、ポナチニブ、キザルチニブ、レゴラフェニブ、ルキソリチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、タンズチニブ、チバンチニブ、チボザニブ、トラメチニブ、バンデタニブ、バタラニブ及びベムラフェニブが挙げられる。
【0038】
ニンテダニブ{(3Z)-3-{[(4-{メチル[(4-メチルピペラジン-1-イル)アセチル]アミノ}フェニル)アミノ](フェニル)メチリデン}-2-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-6-カルボン酸メチル}は、本願に記載するようなマルチキナーゼ阻害薬の1例である。ニンテダニブは例えば血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR1~3)、血小板由来成長因子受容体(PDGFRα及びβ)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR1~4)等の受容体型チロシンキナーゼ(下表1参照)を主に阻害し、ユニークなキナーゼ阻害プロファイルを示す。
【0039】
【0040】
本願で使用する「代謝拮抗薬」なる用語は、代謝産物の利用を阻害し、従って、迅速に分裂している細胞の増殖を低減、妨害又は阻害する医薬品化合物を意味する。例えば、本開示の代謝拮抗薬は、細胞分裂の低減、妨害又は阻害をもたらす種々のメカニズムによりDNA複製を阻害することができる。本願に記載する方法で使用される例示的な代謝拮抗薬としては、例えばプリン及びピリミジンアナログ(例えば5-フルオロウラシル(5-FU))、抗生物質(例えばマイトマイシンC(MMC))、並びに抗葉酸化合物(例えばメトトレキサート)が挙げられる。本願に記載する方法で使用される例示的な代謝拮抗薬としては、例えばマイトマイシンC、5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、シタラビン、6-アザウラシル、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル及びチオテパが挙げられる。
【0041】
マイトマイシンC(MMC)は、本願に記載するような代謝拮抗薬の1例である。MMCは抗腫瘍性抗生物質であり、還元により活性化され、強力なアルキル化剤となる。低酸素条件下において、通常ではグアニンのN2位でDNAを架橋させることによりDNA複製を妨害するため、活発に分裂している細胞で最も有効である。好気条件下では、RNA及びタンパク質合成を非特異的に妨害することが可能な毒性の酸素ラジカルを発生する。MMCは特に胃腸管、膵臓、肺及び乳房の腫瘍に対する抗腫瘍剤として静脈内経路で使用されている。膀胱癌に対しても、膀胱内適用において使用されている。
【0042】
5-FUは本願に記載するような代謝拮抗薬の1例である。5-FUはフッ化ピリミジンであり、その主要な代謝拮抗作用はチミジル酸合成酵素の阻害であり、その結果、DNA産生のための細胞内チミジンが欠乏すると考えられている。また、5-FUには他の酵素の阻害又はその代謝産物のRNAへの取り込みに起因する他の作用もある。
【0043】
マルチキナーゼ阻害薬及び代謝拮抗薬は、当業者に周知であり、癌の治療に広く使用されている。
【0044】
翼状片又は瞼裂斑又は偽翼状片の初期に患者は目の不快感、充血、刺激、霧視、異物感及び痛みを生じるが、本願に記載する組成物及び方法はこのような患者の治療に有用であり、その治療目標は充血と症状を軽減することである。例えば、本開示は充血及び他の症状を軽減するためにマルチキナーゼ阻害薬であるニンテダニブを適切な眼用剤形で使用する組成物及び治療方法を提供する。
【0045】
線維血管増殖が結膜から角膜輪部を越えて角膜中央まで進展して視軸に侵入する翼状片の後期には、強膜露出法による翼状片切除後に結膜自家移植又は羊膜移植を行う方法が一般に選択される治療法であったが、本願に記載する組成物及び方法はこのような患者の治療にも有用である。外科技術及び補助療法の進歩と共に再発の危険は著しく減っているが、再発は依然として外科医と患者に重大な問題である。翼状片再発を予防する目的で、本開示は翼状片再発を低減するためにニンテダニブを適切な眼用剤形で使用する組成物及び治療方法を提供する。
【0046】
実施例1に記載するウサギ縫合糸モデル試験に示すように、本願に記載する組成物及び方法は充血を治療し、それに付随する症状を軽減するためにも有用である。同実施例において、ニンテダニブは角膜に縫合糸により誘発させた新生血管形成を阻害するのに優れた効果があった。下表2に示すように、ニンテダニブを投与した目では基剤投与群に比較して新生血管面積変化率(百分率)が実質的に低下する。ニンテダニブの効果は、用量濃度及び投与頻度レジメンに依存する。興味深いことに、ニンテダニブは、新生血管面積の縮小に関して、スニチニブよりも明白に優位な傾向を示した。これらの2種のキナーゼ阻害薬は標的が実質的にオーバーラップするが、このウサギモデルでは異なる効果が認められた。ニンテダニブは阻害する標的数がスニチニブよりも少ないため、安全性限界が良好になり、より高い用量を増量できるという別の利点もある。実際に、実施例1に示すように、スニチニブ投与群では投与期間中に水晶体の部分的混濁を伴う水晶体異常という潜在的毒性がウサギ1羽で認められたが、ニンテダニブ投与群では全く認められなかった。また、ウサギの角膜に縫合糸を留置してスニチニブを7日間投与したインビボ角膜縫合糸ウサギモデル試験では、1日目に前房内細胞反応が観察された(Perez-Santonja JJ et al,Am J Ophthalmol.2010;150(4):519-528)。虹彩表面へのスニチニブ沈着を示す虹彩表面の黄色みがかった着色が、全投与期間中に観察された。スニチニブは瞳孔縁を起点として虹彩の下四分円に沈着し、瞳孔と前房隅角のと間にある程度まで広がり、長期間の間に潜在的に毒性作用を生じる可能性がある。更に、>3.3μg/mLの濃度では、ヒト角膜上皮細胞に添加して24時間インキュベーション後にスニチニブの顕著な毒性が認められた(Bayyoud T et al.,Current Eye Research,39(2):149-154,2014)。
【0047】
【0048】
ニンテダニブ及びスニチニブはいずれも主要なVEGFR及びPDGFRファミリーを阻害するが、数種の標的はオーバーラップしない(表1参照)。しかし、ニンテダニブはキナーゼ標的のユニークな組み合わせによりスニチニブよりも有効で安全であると思われ、ニンテダニブは角膜新生血管形成を低減するための最も強力なマルチキナーゼ阻害薬の1種であると思われる。以下の細胞内及び/又は細胞表面タンパク質キナーゼに対する最大インビトロIC50で表されるユニークな阻害プロファイルを具体的に示すと、VEGFR(1、2、3)(IC50<50nM)、PDGFR(α、β)(IC50<100nM)、FGFR(1、2、3)(IC50<150nM)、FGFR4(IC50<1000nM)、FLT3(IC50<50nM)、Lck(IC50<50nM)、Lyn(IC50<200nM)、及びSrc(IC50<200nM)である。FGFR4、Lyn及びSrcの3種の標的はスニチニブ又は他の一般的なキナーゼ阻害薬では阻害されず、これらの標的によりニンテダニブをスニチニブ等から区別することができる。また、ニンテダニブはFGFR1~3に対する効力がスニチニブよりも実質的に高く、この点もニンテダニブのほうが角膜縫合糸ウサギモデルで優れた効果が得られる一因であると思われる。
【0049】
翼状片の中期では線維血管増殖が結膜から角膜輪部及び角膜まで進展するが、本願に記載する組成物及び方法はこのような患者の治療にも有用である。翼状片の中期では、翼状片進行を安定化させ、翼状片を除去するための手術を遅らせるか又は避けること、あるいは視軸/角膜中央からの翼状片退縮を誘導することが目標となる。この目標を達成するために、本開示はマルチキナーゼ阻害薬、代謝拮抗薬又は両者の組み合わせを適切な眼用剤形で使用する組成物及び治療方法を提供する。
【0050】
翼状片を安定化させるため及び翼状片の退縮を誘導するためにマルチキナーゼ阻害薬を使用して患部の目を治療するための組成物及び方法の1例を下記実施例2に記載し、免疫不全マウスの角膜上のヒト翼状片細胞増殖に及ぼすこのような組成物の効果を示す。この試験において、ニンテダニブ及びスニチニブはマウス角膜上のヒト翼状片の成長を妨げ、ニンテダニブは翼状片の大きさを著しく縮小させた。下表3に示すように、翼状片細胞は17日目までの治療期間を通して増殖したが、ニンテダニブ、スニチニブ、MMC又はニンテダニブ及びMMCの組み合わせにより治療した群のうち、ニンテダニブの場合には翼状片細胞が増殖しないか又は退縮した。従って、マウスモデルからの本発明者らの新規な洞察の結果、翼状片成長を阻止するため又は翼状片組織の退縮すらを誘導するために、ニンテダニブ又はスニチニブ等のマルチキナーゼ阻害薬を使用することができることが示された。1例として、本願に記載する組成物及び方法で使用されるマルチキナーゼ阻害薬の標的キナーゼプロファイルは、以下のキナーゼを特定のインビトロIC50で標的とすることができる。VEGFR(1、2、3)(IC50<200nM)、PDGFR(α、β)(IC50<200nM)、FGFR(1、2、3)(IC50<1μM)。
【0051】
【0052】
本願に記載する組成物及び方法は翼状片を安定化させるため及び翼状片の退縮を誘導するために上皮細胞及び線維芽細胞増殖の阻害剤である代謝拮抗薬を使用して患者を治療するためにも有用である(実施例2参照)。上記表3に示すように、マイトマイシンC(MMC)はヒト翼状片細胞の増殖を防ぐことができ、角膜上の翼状片組織の大きさを縮小させる傾向を示した。
【0053】
翼状片の多因子性を考慮すると、最適な効果を得るためには複数の医薬品の併用治療が必要であると思われる。表3に示すように、ニンテダニブ及びMMCを併用治療を受けた角膜上の翼状片細胞は顕著な増殖を示さなかったが、生理食塩水対照では著しく増殖した。
【0054】
製剤及び投与レジメン
本願に記載する方法は本願に記載する手法により有効成分として同定された化合物を含有する医薬組成物の製造及び使用を含む。このような医薬組成物自体も本願に含まれる。
【0055】
医薬組成物は、医薬的に許容される添加剤を含むのが一般的である。本願で使用する「医薬的に許容される添加剤」又は「医薬的に許容される担体」なる用語は医薬品投与に適合可能な生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤、抗真菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤等を含む。
【0056】
適切な医薬組成物の製剤化方法は当分野で公知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21st ed.,2005、及びDrugs and the Pharmaceutical Sciences:a Series of Textbooks and Monographs(Dekker,NY)のシリーズにおける成書を参照されたい。例えば、眼科適用のために使用される溶液剤、懸濁剤又は乳剤は、以下の成分、即ち注射用水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶剤等の滅菌希釈剤;抗細菌剤;酸化防止剤;キレート剤;酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩等の緩衝剤;及び塩化ナトリウム又はブドウ糖等の張度調整剤を含有することができる。pHは塩酸又は水酸化ナトリウム等の酸又は塩基で調整することができる。
【0057】
注射用に適した医薬組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液と、滅菌注射溶液又は分散液の即時調製用の滅菌粉末を挙げることができる。前記組成物は製造・保存条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用に対して保護される必要がある。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール等)及びその適切な混合物を含む溶媒又は分散媒とすることができる。例えばレシチン等のコーティング剤を使用したり、分散液の場合には必要な粒子径を維持したり、更には界面活性剤を使用することにより、適正な流動性を維持することができる。種々の抗細菌剤及び抗真菌剤(例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等)により微生物の作用を防ぐことができる。多くの場合には、等張化剤(例えば糖類、マンニトール及びソルビトール等のポリアルコール類、並びに塩化ナトリウム)を組成物に含めることが好ましい。吸収を遅らせる物質(例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン)を組成物に含めることにより注射用組成物の長期吸収を実現することができる。
【0058】
滅菌注射溶液は必要量の活性化合物を必要に応じて上記成分の1種又は組み合わせと共に適切な溶媒に配合した後、濾過滅菌することにより製造することができる。一般に、分散液は、塩基性分散媒と上記成分から選択される必要な他の成分を含有する滅菌基剤に活性化合物を配合することにより製造される。滅菌注射溶液の調製用の滅菌粉末の場合には、好ましい製造方法は真空乾燥法と凍結乾燥法であり、予め滅菌濾過したその溶液から有効成分及びその他の所望の成分の粉末が得られる。
【0059】
1実施形態において、治療用化合物は、治療用化合物が体外に急激に排出されないように保護する担体を使用して製造される(例えばインプラント及びマイクロカプセルデリバリーシステムを含む制御放出製剤)。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸等の生分解性で生体適合性のポリマーを使用することができる。このような製剤は標準技術を使用して製造することもできるし、市販品として入手することもできる。
【0060】
医薬組成物は、投与説明書を添付して容器、パック又はディスペンサーに収容することができる。
【0061】
本願に記載するようなマルチキナーゼ阻害薬、代謝拮抗薬又はマルチキナーゼ阻害薬と代謝拮抗薬との組み合わせを含有する組成物及び製剤は、局所投与することもできるし、半固形製剤又は固形インプラントとして挿入することもできるし、当分野で公知のいずれかの他の適切な方法により投与することもできる。本願に開示する薬剤を単独で治療に使用することも可能であるが、例えば目的の投与経路と標準医薬プラクティスに鑑みて選択された適切な医薬品添加剤、希釈剤又は担体と混合した医薬製剤として薬剤を投与することが好ましいと思われる。医薬製剤は、医薬的に許容される添加剤、希釈剤及び/又は担体と共に少なくとも1種の活性化合物を含有する。
【0062】
組成物又は製剤の投与は1日1回、1日2回、1日3回、1日4回又はそれ以上とすることができる。治療薬による治療維持期には頻度を減らし、例えば毎日又は1日2回ではなく、2日又は3日に1回としてもよい。用量と投与頻度は、例えば本願の方法で治療する病態の疾患の臨床徴候、病理徴候並びに臨床及び亜臨床症状、並びに患者の臨床歴を考慮して、治療担当医師の判断に基づいて調節することができる。
【0063】
当然のことながら、治療用として必要な本願に開示する薬剤の量は、投与経路、治療を必要とする病態の種類、並びに患者の年齢、体重及び健康状態により異なり、最終的に主治医の裁量に委ねられよう。組成物は一般的に有効量の有効成分を単剤又は合剤として含有する。動物試験に従って暫定用量を決定し、当分野で一般に認められているプラクティスに従って人体投与に見合うように投与量の増減を行うことができる。
【0064】
治療期間、即ち日数は、対象を治療する医師により容易に決定されるが、治療日数は約1日~約365日とすることができる。本願の方法により提供される治療効果を治療期間中にモニターし、治療が成功しているか否か又は治療の追加(又は変更)が必要であるか否かを判定することができる。
【0065】
例えばLD50(母集団の50%が死亡する用量)及びED50(母集団の50%で治療効果が現れる用量)を決定する手段として標準的な薬学的手法により細胞培養又は実験動物で治療用化合物の投与量、毒性及び治療効果を判定することができる。マルチキナーゼ阻害薬及び代謝拮抗薬の投与量及び剤形、並びに併用療法におけるそれらの個々の投薬量強度(dose strength)は、通常の知識を有する当業者が容易に決定することができ、例えば当分野で公知の標準方法に従って投与量、安全性及び有効性を決定する手段として文献に報告されている動物モデル及び臨床試験で得ることができる。厳密な処方、投与経路及び投与量は、患者の健康状態を考慮して個々の医師が選択することができる。
【0066】
マルチキナーゼ阻害薬の投薬量強度(dosage strength)としては、例えばマルチキナーゼ阻害薬約0.001~約100.0mg、約0.01~約90mg、約0.1mg~約75mg、約0.25~約50mg、約0.5~約25mg、約0.75~約20mg、約1.0~約15mg、約1.25~約10mg、約1.5~約5.0mg、約1.75~約2.5mg、例えば0.001mg、0.01mg、0.1mg、0.25mg、0.5mg、0.75mg、1.0mg、1.25mg、1.5mg、1.75mg、2.0mg、2.5mg、5.0mg、10.0mg、15.0mg、25.0mg、30.0mg、40.0mg、50.0mg、60.0mg、75.0mg又は100.0mgが挙げられる。例えば、ニンテダニブの投薬量強度としては、例えばニンテダニブ0.1mg、0.25mg、0.5mg、0.75mg、1.0mg、1.25mg、1.5mg、1.75mg、2.0mg、2.5mg、5.0mg、10.0mg、15.0mg、25.0mg、30.0mg、40.0mg、50.0mg、60.0mg、75.0mg又は100.0mgが挙げられる。
【0067】
本願の方法で使用される組成物は,重量又は体積換算で組成物総量の0.001%~10%の濃度のマルチキナーゼ阻害薬を含有することができる。例えば、水性組成物は、0.001%、0.01%、0.1%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、5.0%又は10%までのニンテダニブを含有する。
【0068】
代謝拮抗薬の投薬量強度としては、例えば代謝拮抗薬約0.001~約100.0mg、約0.01~約90mg、約0.1mg~約75mg、約0.25~約50.0mg、約0.5~約25mg、約0.75~約20mg、約1.0~約15mg、約1.25~約10mg、約1.5~約5.0mg、約1.75~約2.5mg、例えば0.001mg、0.01mg、0.1mg、0.25mg、0.5mg、0.75mg、1.0mg、1.25mg、1.5mg、1.75mg、2.0mg、2.5mg、5.0mg、10.0mg、15.0mg、25.0mg、30.0mg、40.0mg、50.0mg、60.0mg、75.0mg又は100.0mgが挙げられる。例えば、MMCの投薬量強度としては、例えばMMC0.1mg、0.25mg、0.5mg、0.75mg、1.0mg、1.25mg、1.5mg、1.75mg、2.0mg、2.5mg、5.0mg、10.0mg、15.0mg、25.0mg、30.0mg、40.0mg、50.0mg、60.0mg、75.0mg又は100.0mgが挙げられる。
【0069】
本願の方法で使用される組成物は、重量又は体積換算で組成物総量の0.001%~10%の濃度の代謝拮抗薬を含有することができる。例えば、水性組成物は、0.001%、0.01%、0.1%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、5.0%又は10%までのMMCを含有する。
【0070】
当業者に自明の通り、水溶液を目に投与するには、滴下器もしくはピペット又は他の専用滅菌器具から(例えばマルチキナーゼ阻害薬溶液、代謝拮抗薬溶液又はその組み合わせの)「液滴」又は複数液滴として投与することができる。このような液滴は、一般的に50マイクロリットルまでの体積となるが、もっと少量でもよく、例えば10マイクロリットル未満でもよい。
【実施例0071】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例は特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定するものではない。
【0072】
[実施例1]:新生血管形成及び充血のウサギ角膜縫合糸モデル
角膜新生血管形成に及ぼす医薬品効果を評価するためにウサギ角膜縫合糸モデルが確立されている(Ko et al.Cornea.2013;32(5):689-695;Perez-Santonja et al.Am J Ophthalmol.2010;150(4):519-528)。このモデルでニンテダニブをその抗新生血管形成活性について試験した。
【0073】
局所眼用製剤
10%の2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを添加したリン酸緩衝液(pH7.4)中に0.2%又は0.05%のニンテダニブを含有する局所組成物を調製した。また、同一基剤で0.05%のスニチニブを含有する組成物も調製し、陽性対照とした。
【0074】
動物及び治療手順
ニュージーランドホワイト(Zealand White)種の雌性ウサギ36羽を使用して試験を行った。要約すると、1日目に各動物の右目の角膜上皮層の5カ所に縫合糸を留置し、新生血管形成を誘発させた。表4に記載するように動物の両目に投与した。
【0075】
【0076】
試験中、目の種々の徴候、及び体重を含む一般健康状態について動物を綿密に観察した。7日目、10日目、12日目、14日目、21日目、28日目に解析用に目の画像を撮影した。
【0077】
データ解析
NIH ImageJ(R)ソフトウェアを使用して目の画像を解析した。各画像をImageJ(R)で開き、写真にルーラーを使用して目盛を設定し、縫合糸の近くの角膜上の新生血管形成領域を選択ツールにより選択した。ソフトウェアの測定ツールにより面積(mm2)を計算し、エクセルで記録し、画像をキャプチャーし、保存した。両側t検定を使用し、各群の対毎に有意差があるか否かを判定した。簡単に比較できるように平均値と標準偏差のヒストグラムとして結果をプロットした。
【0078】
結果と考察
この試験の結果を、
図1A及び1B及び下表5にまとめる。この結果は、ニンテダニブはウサギ角膜に縫合糸により誘発させた新生血管形成に対して顕著な阻害効果があったことを実証した。高用量の0.2%ニンテダニブは0.05%ニンテダニブに比較して有効性の改善を示し、TID投与とした高頻度投与レジメンはBID投与に比較して有効性の改善を示した。驚くべきことに、ニンテダニブはこのモデルで新生血管面積の縮小に関して陽性対照スニチニブよりも明白な優位傾向を示した。
【0079】
ウサギ縫合糸モデルにおいて、スニチニブは抗VEGF抗体であるベバシズマブよりも有効に血管新生を阻害することがこれまでに示されている(Ko et al.Cornea.2013;32(5):689-695;Perez-Santonja et al.Am J Ophthalmol.2010;150(4):519-528)。これらの観察は、複数の受容体型チロシンキナーゼ経路を標的とする低分子キナーゼ阻害薬には非常に選択的な経路を標的とする抗体医薬品に勝る利点がある場合があることが示唆されている。今回の試験の結果、ニンテダニブも縫合糸モデルで新生血管形成を非常に有効に阻害することが判明した。全く予想外であったが、本発明者らはキナーゼ阻害薬にはキナーゼ標的が実質的にオーバーラップしていても有効性が異なる場合があることを発見した。ニンテダニブとスニチニブはいずれも主要なVEGFRファミリーを阻害するが、数種の標的はオーバーラップしない。表1に示すように、ニンテダニブの標的プロファイルはスニチニブ及び研究界で非常によく似ているとみなされている数種の他のMKIの標的プロファイルと異なる。ニンテダニブのキナーゼ標的の特殊な組み合わせにより、少なくとも2つの驚くべき利点が得られると思われる。1)ウサギ縫合糸モデルで実証されるように、ニンテダニブは新生血管形成の非常に有効な阻害薬となり、スニチニブよりも有効となる;2)標的とするキナーゼ数がスニチニブよりも少ないため、安全性限界が良好になり、用量を増量できる。このため、ニンテダニブはスニチニブに比較して有効性の改善とより良好な安全性プロファイルを示したものと推測される。
【0080】
【0081】
本発明者らの主張の理論的根拠は、MKIが広く使用されている分野である癌研究における従来の研究結果により裏付けられる。癌では、標的が実質的にオーバーラップするいくつかのMKIは、患者においてなお非常に異なる有効性を有する場合がある。例えば、標的のオーバーラップする多数の低分子MKIが非小細胞肺癌(NSCLC)患者で試験されているが、興味深いことに、ニンテダニブのみが有効性を示し、他の医薬品との併用療法に是認されている(Hall RD et al.Transl Lung Cancer Res.2015;4(5),515-23)。このような観察から、キナーゼ阻害薬の標的プロファイルは特定の適応症で劇的に有効性を発揮できることが示された。
【0082】
本発明者らの新規な洞察は次のように要約される。先ず、一般に、特定の標的プロファイルをもつ低分子MKIは、異常な角膜新生血管形成の治療用として抗体医薬品よりも優れている。このことは従来の研究で暗示されていたが、ベバシズマブとスニチニブの一対のみの比較によるものであった。今回、ニンテダニブに関する本発明者らの試験により、この理論の重みを従来よりも著しく増した。第2に、本発明者らの新規な着想は、各MKIは固有の標的プロファイルをもつが、全てのMKIが翼状片症状を治療するのに同等に安全で有効であるという訳ではない。理論に拘泥するものではないが、本発明者らはニンテダニブが翼状片の最も有効で安定な治療法の1つを実現するユニークなプロファイルを提供すると考える。
【0083】
つまり、ニンテダニブはユニークな標的プロファイルにより、翼状片のより有効で安全な治療薬になり得る。ニンテダニブはスニチニブよりも有効にFGFR1~3を阻害する。また、スニチニブの標的ではないFGFR4、Lyn、Srcも阻害する(背景技術のセクションの表1参照)。更に、スニチニブは同じクラスの化合物よりも多くのキナーゼを攻撃することが知られており(Kumar et al.Br J Cancer.2009;101(10):1717-23)、表1に記載していないいくつかの他のキナーゼも阻害するため、ニンテダニブはスニチニブよりも安全性プロファイルが良好であると予想される。これらのキナーゼのうちにはCaMKファミリーのように正常な細胞機能に重要なものもあり、これらが阻害されると、安全性の問題を生じかねない。
【0084】
[実施例2]:ヒト翼状片マウスモデル
免疫不全マウスの角膜上のヒト翼状片成長を評価するためにヒト翼状片マウスモデルが記載されている(Lee et al.,Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol.2014;252(4):609-18)。今回の試験では、翼状片成長に及ぼす数種の医薬品の効果を検討した。これらの医薬品はニンテダニブ、スニチニブ及びマイトマイシンCである。
【0085】
局所眼用製剤
10%の2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを添加したリン酸緩衝液(pH7.4)で試験薬を調製した。製剤の詳細な情報については後記セクションに開示する。
【0086】
動物
7週齢雄性無胸腺ヌードマウスを密閉式フィルタートップケージで無病原体条件下に順応させた。
【0087】
ヒト翼状片初代細胞培養
外科的切除後に採取した検体からヒト翼状片上皮細胞(hPEC)を単離・培養した。参加者全員が試験の総合的な説明を受けた後に書面によるインフォームドコンセントを提出した。コラーゲン(ラット尾I型コラーゲン)をコーティングした表面で10%ウシ胎児血清、0.5%ジメチルスルホキシド及び1%抗生物質/抗真菌剤を添加したDMEM/F12培地にて新鮮な翼状片検体を3日間培養した処、この間に細胞は外植体から遊走した。その後、外植体を取り出し、5%BCSと1%抗生物質/抗真菌剤を添加した角化細胞用無血清培地に培地を交換し、上皮細胞増殖を更に促進した。
【0088】
ヒト翼状片の誘発
結膜下注入に備え、ケタミン(30mg/kg)とロンプン(2.5mg/kg)の腹腔内注射によりマウスに麻酔した。0日目に両目の鼻側結膜下スペースにhPEC1×104個を注入することによりマウスに翼状片を誘発させた。7日後に、hPECで誘発させたマウスを試験に供した。
【0089】
処置
動物を次のように処置した。
第1群:右目に基剤、左目に生理食塩水;
第2群:右目に0.2%ニンテダニブ、左目に生理食塩水;
第3群:右目に0.002%マイトマイシン、左目に生理食塩水;
第4群:右目に0.05%スニチニブ、左目に生理食塩水;
第5群:右目に0.2%ニンテダニブと0.002%マイトマイシンの混合物、左目に生理食塩水。
【0090】
7日目、10日目及び14日目に鼻側結膜下注射を行い、8日目、9日目、11日目、12日目、13日目、15日目及び16日目に1日4回ずつ局所点眼することにより動物を処置した。各注射の前と17日目に、実体顕微鏡を使用して目を観察し、写真撮影した。
【0091】
臨床所見
実験期間中、マウスを臨床毒性徴候について毎日観察した。注射の前と17日目に目を観察し、写真撮影した。疾患、診断及び治療を含む全所見を記録した。0日目、7日目、11日目、15日目及び17日目にマウスの体重を測定した。
【0092】
角膜翼状片解析
ImageJ(R)を使用して写真の画像解析を行い、0日目、7日目、10日目、14日目及び17日目の病変の大きさを測定した。これらのデータは角膜全体に対する翼状片の比として計算した。
【0093】
角膜新生血管形成解析
全マウスの目の臨床特徴を評価した。角膜新生血管形成(NV)の程度を0から3で採点し、0=NVなし、1=NVが角膜周辺に限定している、2=NVが瞳孔縁まで延びている、3=NVが瞳孔縁を越えて角膜中央まで延びているとした。
【0094】
統計解析
Windows用SPSSバージョン18.0(SPSS,Chicago,IL)によりデータを解析し、平均±標準偏差として表す。
【0095】
結果と考察
結果を
図2A~B、3A~B、4A~B及び5A~Bに示し、更に上記表4にまとめる。ヒト翼状片マウスモデルでは、0.2%ニンテダニブ投与の結果、14日目と17日目の翼状片面積は7日目のベースラインレベルと比較して縮小した(
図2A及び2B)。対照的に、生理食塩水を投与した対照群の目は14日目と17日目に翼状片面積の増大を示した。ニンテダニブは投与期間中に角膜上の新生血管形成スコアも低下させ、17日目のレベルは7日目のベースラインに対して有意差を示した(
図2A及び2B)が、対照群の目は統計的に有意ではない若干の新生血管形成の増加を示した(
図2A及び2B)。このモデルでは、0.002%マイトマイシン及び0.05%スニチニブも翼状片面積の縮小傾向を示したが、どの時点でも統計的有意には達しなかった(
図3A~3B、4A~4B)。対照的に、生理食塩水を投与した対照群の目はほぼ全時点で翼状片面積の増大を示し、増加は時間の経過に伴ってほぼ直線的である。マイトマイシンとスニチニブも新生血管形成スコアを低下させ、マイトマイシンは17日目、スニチニブは14日目と17日目に有意低下を示した(
図3A~3B、4A~4B)。この場合も、対照群の目は投与期間中に新生血管形成の有意変化を示さなかった。ニンテダニブとマイトマイシンを併用投与した目では、翼状片面積は増大しなかったが、生理食塩水対照群では有意に増加した(
図5A~5B)。新生血管形成スコアは、この動物群では有意変化を示さなかった。
【0096】
[実施例3]:製剤
ニンテダニブ眼用溶液剤
本医薬品製剤は、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン又は他の同様のシクロデキストリンと、pH範囲5.5~8.0の緩衝液で調製した等張眼用溶液剤である。製剤の機能性を高めるために他の粘度調整剤、滑沢剤、防腐剤を加えてもよい。本眼用溶液剤の組成を表6に開示する。
【0097】
【0098】
ニンテダニブ眼用懸濁剤
本医薬品製剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウムと、pH範囲5.5~8.0の緩衝液で調製した等張眼用懸濁剤である。原薬粒子径を40ミクロン未満まで低下させる。懸濁製剤の機能性を高めるために他の粘度調整剤、滑沢剤、溶解補助剤及び防腐剤を加えてもよい。組成を表7に開示する。
【0099】
【0100】
ニンテダニブ眼用乳剤
本医薬品製剤は、等張眼用乳剤である。原薬を混合油相と乳化剤に溶解させた後、乳化させ、pH範囲5.5~8.0の水相と混合する。乳剤製剤の機能性を高めるために他の粘度調整剤、滑沢剤、溶解補助剤及び防腐剤を加えてもよい。組成を表8に開示する。
【0101】
【0102】
ニンテダニブ徐放性半固形製剤
本医薬品製剤は、等張徐放性半固形製剤である。原薬をpH範囲5.5~8.0の半固形媒体に溶解及び/又は懸濁させる。徐放性半固形製剤の機能性を高めるために他の粘度調整剤、滑沢剤、溶解補助剤及び防腐剤を加えてもよい。組成を表9に開示する。
【0103】
【0104】
ニンテダニブ徐放性インプラント
本医薬品製剤は、固形インプラントである。原薬を1種以上のポリマーと混合・ブレンドする。原薬とポリマーとの混合物を既定温度で溶融させ、既定直径寸法のフィラメント状に押し出す。眼組織に埋め込むことができる既定寸法のセグメント状に製剤フィラメントを切断する。組成を表10に開示する。
【0105】
【0106】
限定されないが、本発明の方法で使用される例示組成物は、既存の眼用に許容される組成物から改変することができる。
【0107】
その他の実施形態
以上、本発明の詳細な説明を含めて本発明について記載したが、当然のことながら、以上の記載は本発明を具体的に説明することを目的としており、本発明の範囲を限定しようとするものではなく、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲により定義される。他の態様、利点及び改変も以下の特許請求の範囲に含まれる。
患部の目における視軸/角膜中央からの翼状片退縮の誘導、患部の目における翼状片の安定化、又は患部の目における翼状片成長速度の低減における使用のための、(1)ニンテダニブの医薬的に許容される塩、又は(2)ニンテダニブの医薬的に許容される塩、並びにマイトマイシンC、5-フルオロウラシル及びチオテパから構成される群から選択される代謝拮抗薬から選択される剤を含む、医薬組成物。
前記局所眼用製剤が、更に、安定剤、界面活性剤、ポリマーベース担体、ゲル化剤、有機補助溶媒、pH調整成分、浸透圧調整成分及び防腐剤から選択される1種以上の医薬的に許容される添加剤を含有する、請求項6に記載の医薬組成物。