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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069381
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】連続鋳造スラブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20240514BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240514BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240514BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C21D9/00 101W
C22C38/00 301Z
C22C38/60
B22D11/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037206
(22)【出願日】2024-03-11
(62)【分割の表示】P 2023541323の分割
【原出願日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2022077134
(32)【優先日】2022-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 大輝
(72)【発明者】
【氏名】小田垣 智也
(72)【発明者】
【氏名】鼓 健二
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和彦
(57)【要約】      (修正有)
【課題】靭性の低い高合金スラブであっても、当該スラブの冷却中のスラブ割れを発生させない連続鋳造スラブの製造方法を提供する。
【解決手段】高強度鋼用の連続鋳造スラブ製造方法であって、質量%で、C:0.10~0.40%、Si:0.10~2.50%、Mn:1.00~5.00%を含有するスラブを鋳造後、所定の冷却速度でスラブを冷却することにより、連続鋳造スラブ表層から10mm位置における平均旧オーステナイト粒径を100μm以上0.5mm以下とし、かつ、ミクロ組織をフェライト、パーライト、ベイナイトの三相複合組織とし、ミクロ組織は、面積率で、フェライトが10%以上、パーライトが10%以上、ベイナイトが1%以上30%以下とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度鋼用の連続鋳造スラブの製造方法であって、
質量%で、C:0.10~0.40%、Si:0.10~2.50%およびMn:1.00~5.00%を含有し、
任意選択的に、P:0.100%以下、S:0.0200%以下、N:0.0100%以下、sol.Al:0.100%以下およびO:0.0100%以下から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、
さらに、任意選択的に、Ti:0.200%以下、Nb:0.200%以下、V:0.200%以下、Ta:0.10%以下、W:0.10%以下、B:0.0100%以下、Cr:1.00%以下、Mo:1.00%以下、Ni:1.00%以下、Co:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Sn:0.200%以下、Sb:0.200%以下、Ca:0.0100%以下、Mg:0.0100%以下、REM:0.0100%以下、Zr:0.020%以下、Te:0.020%以下、Hf:0.10%以下、およびBi:0.200%以下から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるスラブを鋳造後、
スラブ幅中央の表層下10mm位置の温度が1200~900℃の温度範囲でBs点以下に急冷後、冷却を停止し、Ac点以上に復熱させ、連続鋳造スラブ表層から10mm位置における平均旧オーステナイト粒径が100μm以上0.5mm以下となるようにし、
スラブ幅中央表面の温度が850℃~700℃および700℃~500℃の範囲の平均冷却速度は、成分組成に応じて作成した連続冷却変態図上で、フェライト、パーライトおよびベイナイトの変態開始線を通過するように定め、ミクロ組織をフェライト、パーライト、ベイナイトの三相複合組織とし、
ミクロ組織は、面積率で、フェライトが10%以上、パーライトが10%以上、ベイナイトが1%以上30%以下となるようにする、
ここで、ミクロ組織は、フェライトの面積率を確定し、残部のうちパーライトおよびベイナイトは、走査電子顕微鏡を用いてフェライトを視野から外して観察し、得られた組織画像において、ベイナイトは凹部の組織、パーライトは凹部の組織でラメラ状の炭化物を含む組織として面積率を求め、フェライトとの合計面積率を100%と計算する、
ことを特徴とする連続鋳造スラブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却時の割れを防止した連続鋳造スラブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の分野では、車体のさらなる薄肉化と衝突安全性の確保の両立のため、高強度鋼のさらなる高強度化、そのための高合金化が進行している。高合金化によりスラブの靭性を大きく低下させている。
【0003】
高合金化による靭性の低下に伴い、スラブ冷却時の割れ、いわゆる、置き割れが頻発するようになってきた。置き割れが生じると、スラブ搬送時にスラブが破断し、熱間圧延に供することができなくなる。また、スラブが破断しなくとも、熱間圧延中にき裂が開口して、熱間圧延鋼板が破断する。あるいは、き裂が小さいものについては、熱間圧延後や冷間圧延後、焼鈍後あるいはめっき後の鋼板にヘゲ疵やスリバー疵などの表面欠陥となって表れる。通常、スラブ表面のき裂はグラインダーで除去している。ところが、高合金化によってスラブの靭性が低下し、グラインダーの応力によりき裂が進展してしまい、完全に除去することができないことがある。き裂が小さいものについては、見逃される場合があり、熱間圧延後、冷間圧延後、焼鈍後あるいはめっき後の鋼板に表面欠陥として現れる場合がある。このことから、スラブの割れは抑制する必要がある。
【0004】
図1は走査電子顕微鏡(SEM)による連続鋳造スラブの亀裂部破面の観察像である。破面は旧オーステナイト粒界に沿った粒界破面の様相を呈していた。図2に亀裂部の断面を組織写真で示す。亀裂の深さは主にスラブ表層から20mm程度であった。亀裂は旧オーステナイト粒界近傍を伝播しており、亀裂先端には粒界フェライトが存在していた。また、旧オーステナイト粒内には、パーライト、あるいは、パーライトとベイナイトが観察された。
【0005】
粒界破壊は、旧オーステナイト粒が粗大であり、粒界が脆化した場合に発生する。粒界は粒内に比べて析出物やフェライトが生成しやすい。粒界の析出物は粒界強度を下げ、靭性を低下させる要因となる。旧オーステナイト粒が粗大であると、粒界の占める割合が少なくなり、析出物密度が大きくなるため粒界はさらに脆化する。また、粒界フェライトが生じた場合、粒内のパーライトおよびベイナイトとの強度差が生じるため、強度の低い粒界フェライト部に応力集中が起こり、より低い応力でも亀裂へと進展する。こちらも旧オーステナイト粒が粗大であると、直線的に薄く伸びた粒界フェライトが析出してしまうため、割れの伸展を止めることができず被害が拡大する。一方、スラブを冷却すると、スラブ表面と内部の熱収縮差や変態膨張差に起因した応力が発生する。この応力が高いとスラブを室温まで冷却する際にスラブ割れが発生する。近年の高合金高強度鋼ではスラブの靭性が低いため、このように発生した亀裂が深く、グラインダー等の手入れによって除去することが困難であり、スラブの歩留まりを大きく下げる問題となっていた。
【0006】
この点について、たとえば、特許文献1や2に記載されているような、スラブの割れに対する対策が検討されている。特許文献1には、オーステナイトからフェライトに変態する温度域である700~500℃を徐冷することで、ベイナイト/マルテンサイト変態を抑制し、その変態膨張によって生じる応力を低減させる方法が開示されている。特許文献2には、鋳造後すぐに徐冷を開始し、700℃以上の温度で10時間以上、700~500℃までの温度をさらに徐冷することで温度差や変態時の応力を低減する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-139209号公報
【特許文献2】特開2019-167560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術には以下のような課題があった。特許文献1や2に記載された高張力鋼のスラブを鋳造後に冷却する方法は、スラブに発生する内部応力が小さくなるように制御している。しかし、近年の高合金化された高強度鋼ではスラブの靭性が低いため、置き割れが伝播する旧オーステナイト粒界の状態も非常に重要になってくる。特許文献1や2に記載の方法では、旧オーステナイト粒径や粒界フェライトの制御を行っておらず、スラブのミクロ組織について何ら限定していない。また、発明者らが鋭意検討した結果、従来技術にて製造したC、Si、Mnを多く含んだスラブは靭性がかなり低く、スラブの置き割れ発生を十分に抑制することができないことがわかった。
【0009】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、靭性の低い高合金スラブであっても、当該スラブの冷却中のスラブ割れを発生させない連続鋳造スラブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた。その結果、スラブ割れの破壊形態を解析し、その破面が旧オーステナイト粒界に沿った粒界破面、旧オーステナイト粒界を横切る粒内破面(へき開破面)の破面のうち少なくとも1種が存在していることを見出した。さらに、発明者らは、詳細な検討を重ね、スラブの置き割れは、冷却速度の制御および温度ムラの低減による応力低下だけでは抑制できず、ミクロ組織の形態が大きく影響していることを明らかにした。具体的には、連続鋳造スラブの平均旧オーステナイト粒径およびミクロ組織を制御し、その靭性を向上させることにより、連続鋳造スラブの冷却過程でのスラブ置き割れを抑制できることを見出し、本発明に想到した。
【0011】
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.高強度鋼用の連続鋳造スラブの製造方法であって、
質量%で、C:0.10~0.40%、Si:0.10~2.50%およびMn:1.00~5.00%を含有し、
任意選択的に、P:0.100%以下、S:0.0200%以下、N:0.0100%以下、sol.Al:0.100%以下およびO:0.0100%以下から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、
さらに、任意選択的に、Ti:0.200%以下、Nb:0.200%以下、V:0.200%以下、Ta:0.10%以下、W:0.10%以下、B:0.0100%以下、Cr:1.00%以下、Mo:1.00%以下、Ni:1.00%以下、Co:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Sn:0.200%以下、Sb:0.200%以下、Ca:0.0100%以下、Mg:0.0100%以下、REM:0.0100%以下、Zr:0.020%以下、Te:0.020%以下、Hf:0.10%以下、およびBi:0.200%以下から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるスラブを鋳造後、
スラブ幅中央の表層下10mm位置の温度が1200~900℃の温度範囲でBs点以下に急冷後、冷却を停止し、Ac点以上に復熱させ、連続鋳造スラブ表層から10mm位置における平均旧オーステナイト粒径が100μm以上0.5mm以下となるようにし、
スラブ幅中央表面の温度が850℃~700℃および700℃~500℃の範囲の平均冷却速度は、成分組成に応じて作成した連続冷却変態図上で、フェライト、パーライトおよびベイナイトの変態開始線を通過するように定め、ミクロ組織をフェライト、パーライト、ベイナイトの三相複合組織とし、
ミクロ組織は、面積率で、フェライトが10%以上、パーライトが10%以上、ベイナイトが1%以上30%以下となるようにする、
ここで、ミクロ組織は、フェライトの面積率を確定し、残部のうちパーライトおよびベイナイトは、走査電子顕微鏡を用いてフェライトを視野から外して観察し、得られた組織画像において、ベイナイトは凹部の組織、パーライトは凹部の組織でラメラ状の炭化物を含む組織として面積率を求め、フェライトとの合計面積率を100%と計算する、
ことを特徴とする連続鋳造スラブの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高合金である高強度鋼板用成分系であっても、冷却過程で割れが発生しない連続鋳造スラブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】連続鋳造スラブの亀裂部破面の走査電子顕微鏡による観察像である。
図2】上記亀裂部の断面組織写真である。
図3】連続鋳造スラブの冷却速度とミクロ組織の関係を連続冷却変態図(CCT図)上に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための鋼組成や組織を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
まず、連続鋳造スラブのミクロ組織の適性範囲および限定理由について説明する。なお、以下の説明において、ミクロ組織の構成率を示す「%」は、特に明記しない限り「面積%」を意味する。また、組織の観察は常温で行った。
【0016】
[平均旧オーステナイト粒径:100μm以上0.5mm以下]
平均旧オーステナイト粒径は破壊の単位を決める因子であり、大きいほど スラブの靭性は低下し、粒界破面を呈するスラブ割れが生じる。従来の連続鋳造スラブでは、平均旧オーステナイト粒径が数mmサイズと非常に大きい。このため、当該連続鋳造スラブの靭性を大きく低下させている。従来の低合金鋼ではもともとの靭性も高いため問題とならなかったが、高合金高強度鋼においては非常に重大な問題となりうる。そこで、本実施形態では連続鋳造スラブ表層から10mm位置における平均旧オーステナイト粒径を100μm以上0.5mm以下とする。オーステナイト粒径を決定する因子は冷却温度であり、たとえば、スラブ幅中央の表面温度が1200~900℃の温度範囲でスラブ表面をBs点以下に急冷後、冷却を停止し、Ac3点以上に復熱させることで、連続鋳造スラブ表層から深さ10mmにおける平均旧オーステナイト粒径を微細化することができる。加えて、1450~1200℃の滞留時間を40s以上130s以下となるように冷却することが好ましい。上述の温度は実測することが困難なため、伝熱解析によって連続鋳造スラブ表層下10mm位置での温度履歴を計算した。解析位置はスラブ内部でも最も上記温度域の滞在時間が長くなるスラブ幅中央とした。なお、平均旧オーステナイト粒径は0.4mm以下であることが好ましい。
【0017】
[ミクロ組織種]
オーステナイト粒以下のフェライト、パーライト、ベイナイトなどの内部組織の比率も破壊の単位を決める因子であり、適切な比率で靭性が向上することが知られている。スラブのミクロ組織はオーステナイトからフェライトに変態する温度(Ar温度)以下での冷却速度が大きく影響する。発明者らは、冷却速度を制御し、ミクロ組織として、面積率で、フェライトが10%以上、パーライトが10%以上、ベイナイトが1%以上30%以下であることで、鋼スラブの靭性が向上することを見出した。好ましくはベイナイトが5%以上30%以下である。
【0018】
上述のミクロ組織に制御するための冷却速度は鋼成分によって大きく異なる。そこでその成分の鋼の連続冷却変態図(CCT図)を作製し、ミクロ組織が好適となる冷却速度を決定した。
【0019】
この冷却条件は、連続鋳造機出側のスラブ温度、スラブを積重ねるまでの時間、積重ねる枚数または水靭処理等の条件を変更することで制御可能である。冷却速度の測定は熱電対で行った。連続鋳造機からスラブが出てきた後にスラブの広い面(長辺×幅)の上面中央部(長手方向中央かつ幅方向中央)に熱電対を設置した。
【0020】
C、Si、Mnを多く含んだ連続鋳造スラブは、靭性が極めて低く、平均旧オーステナイト粒径のみ、ミクロ組織種のみの要件を満たす、といった制御では置き割れが発生しないほどの十分な靭性を確保することができず、置き割れが発生してしまった。したがって、本実施形態に係る高強度鋼用連続鋳造スラブは平均旧オーステナイト粒径とミクロ組織の要件を同時に満足することが重要である。
【0021】
次に、成分組成の適正範囲およびその限定理由について説明する。なお、以下の説明において、鋼の成分元素の含有量を表す「%」は、特に明記しない限り「質量%」を意味する。
【0022】
[C:0.10~0.40%]
Cは、鋼板の強度を高める重要な元素である。Cの含有量が0.10%未満では、鋼板に必要な引張強度を実現することが困難になる。一方、Cの含有量が0.40%を超えると、前述のようなフェライト、パーライトおよびベイナイトが混在するミクロ組織を得ることが出来ない。したがって、Cの含有量は、0.10~0.40%の範囲とする。好ましくは0.12%以上とする。好ましくは0.35%以下とする。より好ましくは0.15%以上とする。より好ましくは0.30%以下とする。
【0023】
[Si:0.10~2.50%]
Siは、焼鈍工程で残留オーステナイトを確保するために添加する必要がある。加えて、固溶強化により高強度化にも寄与するため必須の添加元素である。このことから、0.10%以上添加する必要がある。一方、2.50%超の添加は効果が飽和するだけでなく、熱延板に強固なスケールが発生する。これにより、外観や酸洗性を劣化させることから、上限は2.50%とする。したがって、Siの含有量は、0.10~2.50%の範囲とする。好ましくは0.50%以上とする。好ましくは2.0%以下とする。より好ましくは1.00%以上とする。より好ましくは1.80%以下とする。
【0024】
[Mn:1.00~5.00%]
Mnは、鋼板の強度を高めるために添加する元素である。具体的には、熱延での変態制御を通じて鋼板強度を制御するために添加する元素である。1.00%未満では、十分な強化が出来ないことから1.00%以上添加する必要がある。一方、5.00%超の添加は、その効果が飽和するとともに、経済性に欠ける。したがって、Mnの含有量は、1.00~5.00%の範囲とする。好ましくは1.50%以上とする。好ましくは4.50%以下とする。より好ましくは1.80%以上とする。より好ましくは4.00%以下とする。
【0025】
本実施形態の連続鋳造スラブは、上記成分組成を有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、適切な範囲の平均旧オーステナイト粒径およびミクロ組織を有するものである。その限りにおいて、他の特性を考慮し、Pを0.100%以下、Sを0.0200%以下、Nを0.0100%以下、sol.Alを0.100%以下およびOを0.0100%以下、含有していてもよい。ここで不純物として、Zn、PbおよびAsが挙げられる。これら不可避的不純物の合計で0.100%以下の含有は許容される。
【0026】
Pは、旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させるため、スラブ割れを生じさせることがある。そのため、Pの含有量は0.100%以下にすることが好ましい。なお、Pの含有量の下限は特に規定しないが、Pは固溶強化元素であり、鋼板の強度を上昇させることができることから、0.001%以上とすることが好ましい。したがって、Pの含有量は、好ましくは、0.100%以下とする。好ましくは0.001%以上とする。さらに好ましくは0.070%以下とする。
【0027】
Sは、硫化物として存在し、スラブ脆化をもたらす元素である。そのため、Sの含有量は0.0200%以下にすることが好ましい。なお、Sの含有量の下限は特に規定しないが、生産技術上の制約から、0.0001%以上とすることが好ましい。したがって、Sの含有量は、好ましくは0.0200%以下とする。好ましくは0.0001%以上とする。さらに好ましくは0.0050%以下とする。
【0028】
Alは、スラブ冷却中の炭化物生成を抑制し、残留オーステナイトの生成を促進することから、スラブの残留オーステナイトの分率に影響する元素である。また、脱酸のため0.005%以上添加することが好ましい。Alの含有量が0.100%を超えると、スラブ脆化をもたらすおそれがある。したがって、Alの含有量は、0.100%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは0.010%以上とする。さらに好ましくは0.080%以下とする。
【0029】
Nは、窒化物として存在し、スラブの脆化をもたらす元素である。そのため、Nの含有量は0.0100%以下にすることが好ましい。なお、Nの含有量の下限は特に規定しないが、生産技術上の制約から、Nの含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。したがって、Nの含有量は、好ましくは0.0100%以下とする。好ましくは0.0001%以上とする。さらに好ましくは0.0050%以下とする。
【0030】
Oは、酸化物として存在し、スラブの脆化をもたらす元素である。そのため、Oの含有量は0.0100%以下にすることが好ましい。なお、Oの含有量の下限は特に規定しないが、生産技術上の制約から、Oの含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。したがって、Oの含有量は、好ましくは0.0100%以下とする。好ましくは0.0001%以上とする。さらに好ましくは0.0050%以下とする。
【0031】
本実施形態の連続鋳造スラブは、高強度鋼用として、上記成分組成に加えて、さらに、Ti:0.200%以下、Nb:0.200%以下、V:0.200%以下、Ta:0.10%以下、W:0.10%以下、B:0.0100%以下、Cr:1.00%以下、Mo:1.00%以下、Ni:1.00%以下、Co:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Sn:0.200%以下、Sb:0.200%以下、Ca:0.0100%以下、Mg:0.0100%以下、REM:0.0100%以下、Zr:0.020%以下、Te:0.020%以下、Hf:0.10%以下、およびBi:0.200%以下から選ばれる少なくとも1種の元素を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて含有しても良い。
【0032】
Ti、NbおよびVは、それぞれ0.200%以下の含有量であれば粗大な析出物や介在物が多量に生成せず、スラブの靭性を低下させない。そのため、Ti、NbおよびVの含有量はそれぞれ0.200%以下にすることが好ましい。なお、Ti、NbおよびVの含有量の下限は特に規定しないが、熱間圧延時あるいは連続焼鈍時に、微細な炭化物、窒化物もしくは炭窒化物を形成することによって、鋼板の強度を上昇させることから、Ti、NbおよびVの含有量はそれぞれ0.001%以上とすることがより好ましい。したがって、Ti、NbおよびVを含有する場合には、その含有量はそれぞれ0.200%以下とする。より好ましくは0.001%以上とする。さらに好ましくは0.100%以下とする。
【0033】
TaおよびWは、それぞれ0.10%以下の含有量であれば粗大な析出物や介在物が多量に生成せず、スラブの靭性を低下させない。そのため、TaおよびWの含有量はそれぞれ0.10%以下にすることが好ましい。なお、TaおよびWの含有量の下限は特に規定しないが、熱間圧延時あるいは連続焼鈍時に、微細な炭化物、窒化物もしくは炭窒化物を形成することによって、鋼板の強度を上昇させることから、TaおよびWの含有量はそれぞれ0.01%以上とすることがより好ましい。したがって、TaおよびWを含有する場合には、その含有量はそれぞれ0.10%以下とする。より好ましくは0.01%以上とする。さらに好ましくは0.08%以下とする。
【0034】
Bは、0.0100%以下であればスラブの靭性に影響をしない。そのため、Bの含有量は0.0100%以下にすることが好ましい。なお、Bの含有量の下限は特に規定しないが、熱間圧延や焼鈍中にオーステナイト粒界に偏析し、焼入れ性を向上させる元素であることから、Bの含有量は0.0003%以上とすることがより好ましい。したがって、Bを含有する場合には、その含有量は0.0100%以下とする。より好ましくは0.0003%以上とする。さらに好ましくは0.0080%以下とする。
【0035】
Cr、MoおよびNiは、それぞれ1.00%以下であれば粗大な析出物や介在物が増加せず、スラブの靭性を低下させない。そのため、Cr、MoおよびNiの含有量はそれぞれ1.00%以下にすることが好ましい。なお、Cr、MoおよびNiの含有量の下限は特に規定しないが、焼入れ性を向上させる元素であることから、Cr、MoおよびNiの含有量はそれぞれ0.01%以上とすることがより好ましい。したがって、Cr、MoおよびNiを含有する場合には、その含有量はそれぞれ1.00%以下とする。より好ましくは0.01%以上とする。さらに好ましくは0.80%以下とする。
【0036】
Coは、1.00%以下であれば粗大な析出物や介在物が増加せず、スラブの靭性を低下させない。そのため、Coの含有量は1.00%以下にすることが好ましい。なお、Coの含有量の下限は特に規定しないが、焼入れ性を向上させる元素であることから、Coの含有量は0.001%以上とすることがより好ましい。したがって、Coを含有する場合には、その含有量は1.00%以下とする。より好ましくは0.001%以上とする。さらに好ましくは0.80%以下とする。
【0037】
Cuは、1.00%以下であれば粗大な析出物や介在物が増加せず、スラブの靭性を低下させない。そのため、Cuの含有量は1.00%以下にすることが好ましい。なお、Cuの含有量の下限は特に規定しないが、焼入れ性を向上させる元素であることから、Cuの含有量は0.01%以上とすることよりが好ましい。したがって、Cuを含有する場合には、その含有量は1.00%以下とする。より好ましくは、0.01%以上とする。さらに好ましくは0.80%以下とする。
【0038】
Snは、0.200%以下であればスラブの靭性に影響をしない。そのため、Snの含有量は0.200%以下にすることが好ましい。なお、Snの含有量の下限は特に規定しないが、Snは焼入れ性を向上させる元素(一般的には耐食性を向上させる元素)であることから、Snの含有量は0.001%以上とすることがより好ましい。したがって、Snを含有する場合には、その含有量は0.200%以下とする。より好ましくは0.001%以上とする。さらに好ましくは0.100%以下とする。
【0039】
Sbは、0.200%以下であれば粗大な析出物や介在物が増加せず、スラブの靭性を低下させない。そのため、Sbの含有量は0.200%以下にすることが好ましい。なお、Sbの含有量の下限は特に規定しないが、脱炭を抑制し、鋼板の強度調整を可能にする元素であることから、Sbの含有量は0.001%以上とすることがより好ましい。したがって、Sbを含有する場合には、その含有量は0.200%以下とする。より好ましくは0.001%以上とする。さらに好ましくは0.100%以下とする。
【0040】
Ca、MgおよびREMは、それぞれ0.0100%以下であれば粗大な析出物や介在物が増加せず、スラブの靭性を低下させない。そのため、Ca、MgおよびREMの含有量は0.0100%以下にすることが好ましい。なお、Ca、MgおよびREMの含有量の下限は特に規定しないが、窒化物や硫化物の形状を球状化し、スラブの靭性を向上する元素であることから、Ca、MgおよびREMの含有量はそれぞれ0.0005%以上とすることがより好ましい。したがって、Ca、MgおよびREMを含有する場合には、その含有量はそれぞれ0.0100%以下とする。より好ましくは0.0005%以上とする。さらに好ましくは0.0050%以下とする。
【0041】
ZrおよびTeは、それぞれ0.100%以下であれば粗大な析出物や介在物が増加せず、スラブの靭性を低下させない。そのため、ZrおよびTeの含有量は0.100%以下にすることが好ましい。なお、ZrおよびTeの含有量の下限は特に規定しないが、窒化物や硫化物の形状を球状化し、スラブの靭性を向上する元素であることから、ZrおよびTeの含有量はそれぞれ0.001%以上とすることがより好ましい。したがって、ZrおよびTeを含有する場合には、その含有量はそれぞれ0.100%以下とする。より好ましくは0.001%以上とする。さらに好ましくは0.080%以下とする。
【0042】
Hfは、0.10%以下であれば粗大な析出物や介在物が増加せず、スラブの靭性を低下させない。そのため、Hfの含有量は0.10%以下にすることが好ましい。なお、Hfの含有量の下限は特に規定しないが、窒化物や硫化物の形状を球状化し、鋼板の極限変形能を向上する元素であることから、Hfの含有量は0.01%以上とすることがより好ましい。したがって、Hfを含有する場合には、その含有量は0.10%以下とする。より好ましくは0.01%以上とする。さらに好ましくは0.08%以下とする。
【0043】
Biは、0.200%以下であれば粗大な析出物や介在物が増加せず、スラブの靭性を低下させない。そのため、Biの含有量は0.200%以下にすることが好ましい。なお、Biの含有量の下限は特に規定しないが、偏析を軽減する元素であることから、Biの含有量は0.001%以上とすることがより好ましい。したがって、Biを含有する場合には、その含有量は0.200%以下とする。より好ましくは0.001%以上とする。さらに好ましくは0.100%以下とする。
【0044】
なお、上記したTi、Nb、V、Ta、W、B、Cr、Mo、Ni、Co、Cu、Sn、Sb、Ca、Mg、REM、Zr、Te、HfおよびBiについて、各含有量が好ましい下限値未満の場合には本発明の効果を害することがないため、不可避的不純物として含むものとする。
【実施例0045】
[平均旧オーステナイト粒径の測定]
ここで、平均旧オーステナイト粒径の測定方法は、以下の通りである。冷却後のスラブの幅中央位置からサンプルを切り出し、スラブ幅方向に平行なスラブ厚断面が観察面となるようにした。次いで、観察面はダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨し、その後、コロイダルシリカを用い仕上げ研磨を施し、さらに、3vol%ナイタールでエッチングして観察面に組織を現出させる。光学顕微鏡を用いて、連続鋳造スラブ表層下10mm位置において、10倍の倍率で、5視野観察し、組織画像を得る。得られた組織画像をJIS G 0551:2020に準拠した切断法により、旧オーステナイト粒径の平均値を求めた。
【0046】
[フェライトの面積率の測定方法]
フェライト面積率の測定方法は、上記平均旧オーステナイト粒径の測定方法と同様にスラブの観察面を用意する。次いで、観察面はダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨し、その後、コロイダルシリカを用い仕上げ研磨を施し、さらに、3vol%ナイタールでエッチングして組織を現出させる。加速電圧が15kVの条件で、SEM(Scanning Electron Microscope;走査電子顕微鏡)を用いて、連続鋳造スラブ表層下10mm位置において、50倍の倍率で10視野観察し、得られた組織画像を、Adobe社のPHOTOSHOP(登録商標)を用いて、フェライトの面積率を10視野分算出し、それらの値を平均してフェライトの面積率として求めた。なお、フェライトはその他の組織(パーライト、ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、焼入れマルテンサイト、残留オーステナイト)と比較して粒径が大きく、かつ、平滑な表面でコントラストが暗いため、50倍の倍率で容易に区別ができる。
【0047】
[パーライトおよびベイナイトの面積率の測定方法]
これらの組織の面積率の測定方法は、上記フェライトの測定方法と同様にスラブの観察面に組織を現出させる。加速電圧が15kVの条件で、SEMを用いて、連続鋳造スラブ表層下10mm位置において、フェライトを視野から外して10000倍の倍率で10視野観察し、得られた組織画像を、Adobe社のPHOTOSHOP(登録商標)を用いて、パーライトおよびベイナイトの面積率を10視野分算出し、それらの値を平均し、前述の方法で測定したフェライトの面積率と合わせて合計で100%になるように計算し、各組織の面積率として求めた。ベイナイトは凹部の組織、パーライトは凹部の組織でラメラ状の炭化物を含む組織である。
【0048】
[スラブ割れの評価方法]
スラブ割れの評価方法はJIS Z 2343:2017に規定された浸透探傷試験に基づいて試験を行い、スラブの切断面以外の、広面部(長手×幅)および狭面部(長手×厚み)の割れの有無を評価した。現像液を塗布後に浸透液の表出を目視することにより、目視で表面の割れや疵をチェックした。
【0049】
検討に用いた鋼の化学組成を表1に示し、表2にスラブ冷却条件とスラブミクロ組織、スラブ割れの態様を示す。ミクロ組織の欄中のF、P、Bはそれぞれフェライト、パーライト、ベイナイトを示す。
【0050】
試験No.1~4は、連続鋳造スラブ表層下10mm位置での平均旧オーステナイト粒径が0.5mmより大きくなってしまった条件である。これらの場合、連続鋳造機を出てからのスラブ冷却の条件を種々変更したとしてもスラブ割れを抑制することができなかった。
【0051】
試験No.5~9は連続鋳造スラブ表層下10mm位置での平均旧オーステナイト粒径は0.5mm以下であるが、ミクロ組織種あるいはその比率が適合せず、スラブ割れが抑制できなかった例である。
【0052】
試験No.10~23は発明例であり、連続鋳造スラブ表層下10mm位置での平均旧オーステナイト粒径が0.5mm以下であり、かつ、ミクロ組織が、面積率で、フェライトを10%以上、パーライトを10%以上、ベイナイトを1%以上30%以下であった。これらは、冷却後にスラブ割れが発生していない。
【0053】
なお、本発明に係る連続鋳造スラブは諸条件により積替えが発生する。積替えが発生した場合、連続鋳造スラブの冷却速度は一時的に既定の冷却速度を超えることがある。しかしながら、変態にかかる時間は10hr以上と非常にゆっくりであるため、積替え程度のハンドリング時間(長くて1~2hr)であれば、置き割れの発生に至らない。そのため本発明では最大冷却速度ではなく平均冷却速度と規定している。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
まとめると、連続鋳造スラブ表層下10mm位置の平均旧オーステナイト粒径を100μm以上0.5mm以下とし、同位置でのミクロ組織をフェライト、パーライト、ベイナイトの三相複合組織とすることでスラブの冷却時の割れが抑制可能なことを見出した。
【0057】
なお、このようなスラブ組織を得るためには、たとえば、スラブ幅中央の表面温度が900℃~1200℃の温度範囲のとき、スラブ表面をBs点以下に急冷後、冷却を停止しAc点以上に復熱させ、その後、スラブ幅中央表面の温度が850℃~700℃および700℃~500℃の平均冷却速度をそれぞれ所定の範囲とすることで得ることができる。しかし、製造方法はこの方法に限らない。
【0058】
次に、図3にて、ミクロ組織が好適となる冷却速度を決定する方法を示す。図3は、表1の鋼Cの連続冷却変態図(CCT図)である。図3においてフェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイトの変態開始線、マルテンサイトの変態終了線を符号F、P、B、Ms、Mfで示す。さらに、図3において冷却速度線を冷却速度が速い順に符号X、Y、Z、Wで示す。冷却速度線でY~Zの範囲でフェライト、パーライト、ベイナイトの三相が析出するので、好適な冷却速度はこの範囲の内部にあることがわかる。ただし、連続冷却変態図から、変態後の組織の分率の予測は困難であることと、スラブの冷却速度は一般的に常に一定ではないことから、目安として扱うことが好ましい。なお、使用する連続冷却変態図の作成方法は特に規定しない。一般的な商用ソフトを用いて計算しても、実験により作成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に適合するミクロ組織を持つ連続鋳造スラブであれば、鋳造後のスラブ割れの無い高合金高強度鋼板用の連続鋳造スラブを提供でき、圧延時の穴あきトラブル等も防ぐことが可能となるので産業上有用である。
図1
図2
図3