(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069385
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】軟組織の補填及び再生の増強のためのナノファイバー-ハイドロゲル複合体
(51)【国際特許分類】
A61L 27/20 20060101AFI20240514BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240514BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240514BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20240514BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20240514BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20240514BHJP
A61L 27/48 20060101ALI20240514BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240514BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20240514BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240514BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
A61L27/20
A61L27/18
A61L27/22
A61L27/24
A61L27/36 130
A61L27/44
A61L27/48
A61L27/50
A61L27/52
A61L27/54
A61L27/56
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037297
(22)【出願日】2024-03-11
(62)【分割の表示】P 2020563415の分割
【原出願日】2019-05-09
(31)【優先権主張番号】62/669,307
(32)【優先日】2018-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ゴアテックス
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518056003
【氏名又は名称】ザ ジョンズ ホプキンス ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】マーティン, ラッセル
(72)【発明者】
【氏名】レディ, サシャンク
(72)【発明者】
【氏名】コルバート, ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】マオ, ハイ-クアン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】軟組織の再生を促しながら、失われた軟組織量を回復させる複合材及び方法を提供する。
【解決手段】複合材は、ゲルと、そのゲル内に配置された少なくとも1つのナノ構造体を含むことができる。軟組織欠損部の治癒方法は、複合材を軟組織欠損部に適用することを含むことができ、その複合材は、ゲルと、そのゲル内に配置されたナノ構造体を含む。軟組織欠損部を治癒させる際に使用する複合材の製造方法は、ゲルを用意すること、及びナノファイバーをそのゲル内に配置することを含むことができる。
【選択図】
図2C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均長が約200マイクロメートル未満である複数のポリカプロラクトン繊維に共有結合している官能化ヒアルロン酸の網目構造と、約1mg/mL~約25mg/mLの濃度で存在する架橋剤、
を含む実質的に非球状のマイクロビーズの集団であって、
前記マイクロビーズの平均寸法が、最長寸法に沿って約50マイクロメートル~約300マイクロメートルの範囲内である前記マイクロビーズ集団。
【請求項2】
事前に反応されている、請求項1に記載のマイクロビーズ。
【請求項3】
実質的に、室温で少なくとも約6カ月安定している、請求項1または2に記載のマイクロビーズ。
【請求項4】
平均長が約200マイクロメートル未満である複数のポリカプロラクトン繊維に共有結合している官能化ヒアルロン酸の網目構造と、約1mg/mL~約25mg/mLの濃度で存在する架橋剤、
を含む実質的に非球状のマイクロビーズの集団を含む凍結乾燥製剤。
【請求項5】
前記マイクロビーズが、事前に反応されている、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
前記マイクロビーズの水分含有率が、約15%未満である、請求項4または5に記載の製剤。
【請求項7】
前記マイクロビーズが実質的に、室温で少なくとも約12カ月安定している、請求項4~6のいずれかに記載の製剤。
【請求項8】
前記マイクロビーズが、実質的に炎症を起こさない、請求項1~3のいずれかに記載のマイクロビーズ集団。
【請求項9】
前記官能化ヒアルロン酸が、アクリル化ヒアルロン酸を含み、前記架橋剤が、チオール化ポリ(エチレングリコール)またはその誘導体を含む、請求項1~3または8のいずれかに記載のマイクロビーズ集団。
【請求項10】
前記官能化ヒアルロン酸が、チオール化ヒアルロン酸を含み、前記架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)またはその誘導体を含む、請求項1~3または8もしくは9のいずれかに記載のマイクロビーズ集団。
【請求項11】
前記複数のポリカプロラクトン繊維が、エレクトロスピニング紡糸繊維を含む、請求項1~3または8~10のいずれかに記載のマイクロビーズ集団。
【請求項12】
前記ポリカプロラクトン繊維の直径が、約100ナノメートル~約5マイクロメートルの範囲内である、請求項1~3または8~11のいずれかに記載のマイクロビーズ集団。
【請求項13】
前記マイクロビーズの平均貯蔵弾性率が、約50Pa~約2500Paである、請求項1~3または8~12のいずれかに記載のマイクロビーズ集団。
【請求項14】
複数の孔を含む、請求項1~3または8~12のいずれかに記載のマイクロビーズ集団。
【請求項15】
前記マイクロビーズ集団を対象の標的組織に投与したときに、組織の成長及び細胞の浸潤を促すように、孔が、前記ヒアルロン酸の網目構造の全体にわたり配置されている、請求項14に記載のマイクロビーズ集団。
【請求項16】
前記複数の孔の面密度が、1cm2当たり約50個以上であり、少なくとも約80%の孔の平均寸法が、約5マイクロメートル以上である、請求項14に記載のマイクロビーズ集団。
【請求項17】
請求項1~3または8~16のいずれかの請求項に記載のマイクロビーズ集団を含む移植可能または注射可能な生体材料であって、対象の標的組織に皮膚投与または皮下投与するために調合されている前記生体材料。
【請求項18】
請求項17に記載の生体材料を含む製剤であって、16ゲージ以下、18ゲージ以下、20ゲージ以下、22ゲージ以下、24ゲージ以下、26ゲージ以下、27ゲージ以下、28ゲージ以下、29ゲージ以下、30ゲージ以下、31ゲージ以下または31ゲージ未満の針によって皮膚注射するのに適する前記製剤。
【請求項19】
請求項1~3または8~16のいずれかに記載のマイクロビーズが約0.1mL~約20mL入ったシリンジを含むキットであって、前記マイクロビーズが、i)実質的に脱水されたビーズ、またはii)対象の標的組織に注射できる状態である水和ビーズとして調合されている前記キット。
【請求項20】
請求項1~3または8~16のいずれかに記載のマイクロビーズ集団を含む製剤であって、脱水マイクロビーズを形成するために、前記マイクロビーズが凍結乾燥されており、前記脱水マイクロビーズが、対象の標的組織に投与する前に水、生理食塩水または好適な再構成液で再構成して、失われた量(重量によって測定)の水を実質的に補充して、前記失われた量の水を補充したときに、前記再構成液中の前記マイクロビーズの濃度が、凍結乾燥前のマイクロビーズの濃度と同じまたは実質的に同じになるようにするのに適する前記製剤。
【請求項21】
前記脱水マイクロビーズが、投与の必要な対象の標的組織に投与する前に水、生理食塩水または好適な再構成液によって再構成したときに、そのビーズ形態を維持または回復する、請求項20に記載の製剤。
【請求項22】
前記脱水マイクロビーズが実質的に、室温で少なくとも約12カ月安定している、請求項20に記載の製剤。
【請求項23】
対象の標的組織に即時に投与するために、請求項1~3または8~16のいずれかに記載のマイクロビーズ集団を調製するためのキットであって、前記キットが、前記マイクロビーズの入ったバイアルを含み、前記マイクロビーズが、凍結乾燥され、粉末ケーキに形成されており、前記凍結乾燥された粉末ケーキが、水、生理食塩水または好適な再構成液によって再構成できる前記キット。
【請求項24】
対象の標的組織に即時に注射するために、請求項1~3または8~16のいずれかに記載のマイクロビーズ集団を調製するためのキットであって、前記キットが、(i)凍結乾燥ゲルビーズとして調合されたマイクロビーズの入ったシリンジと、(ii)水、生理食塩水または好適な再構成液の入ったバイアルを含み、水、生理食塩水または好適な再構成液が、前記バイアルから前記シリンジに吸引することができ、それによって、前記凍結乾燥マイクロビーズが再水和される前記キット。
【請求項25】
対象の標的組織に即時に注射するために、請求項2に記載のマイクロビーズ集団を調製するためのキットであって、前記キットが、(i)前記マイクロビーズの入ったシリンジと、(ii)水、生理食塩水または好適な再構成液の入ったバイアルを含み、水、生理食塩水または好適な再構成液が、前記バイアルから前記シリンジに吸引することができ、それによって、前記凍結乾燥マイクロビーズが再水和される前記キット。
【請求項26】
成長因子、血管新生を刺激する化合物、免疫調節剤、炎症抑制剤及びこれらを組み合わせたものからなる群から選択した化合物をさらに含む、請求項1~3または8~16のいずれかに記載のマイクロビーズ集団。
【請求項27】
治療作用、血管新生作用、抗血管新生作用、抗炎症作用、抗菌作用、抗ヒスタミン作用及びこれらを組み合わせた作用を持つ化合物をさらに含む、請求項1~3、8~16または26のいずれかに記載のマイクロビーズ集団。
【請求項28】
処理した組織細胞外マトリックスをさらに含み、前記処理した組織細胞外マトリックスが、脂肪組織から抽出可能なものである、請求項1~3、8~16、26または27のいずれかに記載のマイクロビーズ集団。
【請求項29】
美顔手順または再建手順を行うか、あるいは外傷、外科的介入、または加齢性の疾患、障害もしくは状態に起因する組織欠損部を軽減または逆転させる方法であって、平均長が約200マイクロメートル未満である複数のポリカプロラクトン繊維に共有結合している官能化ヒアルロン酸の網目構造と、約1mg/mL~約25mg/mLの濃度で存在する架橋剤とを含む実質的に非球状のマイクロビーズの集団を前記組織及び/または前記組織欠損部に注射することを含み、
前記マイクロビーズの平均寸法が、最長寸法に沿って約50マイクロメートル~約300マイクロメートルの範囲内であり、
前記マイクロビーズが、事前に反応されており、
前記マイクロビーズが実質的に、室温で少なくとも約6カ月安定している前記方法。
【請求項30】
平均長が約200マイクロメートル未満である複数のポリマー繊維に共有結合している官能化ハイドロゲルの網目構造と、約1mg/mL~約25mg/mLの濃度で存在する架橋剤を含む実質的に非球状のマイクロビーズの集団であって、
前記マイクロビーズの平均寸法が、最長寸法に沿って約50マイクロメートル~約300マイクロメートルの範囲内であり、
前記マイクロビーズが、事前に反応されており、
前記マイクロビーズが実質的に、室温で少なくとも約6カ月安定している前記マイクロビーズ集団。
【請求項31】
前記ポリマー繊維またはその断片が、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、ポリ(乳酸)及び/またはポリカプロラクトン、これらを組みわせたもの、またはこれらの誘導体を含む合成ポリマー材、あるいはシルク、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸、キトサン、これらの誘導体またはこれらを組み合わせたものからなる群から選択した生体ポリマー材を含む、請求項30に記載のマイクロビーズ。
【請求項32】
前記ハイドロゲル材が、ポリ(エチレングリコール)、コラーゲン、デキストラン、エラスチン、アルギネート、ヒアルロン酸、ポリ(ビニルアルコール)、これらの誘導体またはこれらを組み合わせたものを含む、請求項30に記載のマイクロビーズ複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年5月9日に出願した米国特許仮出願第62/669,307号に基づく利益を主張するものであり、この仮出願は、参照により、その全体が本明細書に援用される。
【0002】
政府支援
本発明は、米国立衛生研究所によって付与された助成金番号1R21NS085714、及び米国立科学財団によって付与された助成金番号DMR1410240の下で、米国政府からの援助によって行われたものである。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
技術分野
本開示は、軟組織の再生を促しながら、失われた軟組織量を回復させる複合材及び方法に関するものである。本発明は、美顔及び再建目的の複合材及び方法に関するものでもある。
【0004】
関連技術の説明
外傷、腫瘍切除術または先天性奇形に起因する軟組織欠損部は、従来の手段によって治療するのは難しい。組織の再構成または組織の移入を含む現行の療法は、ドナーの部位を欠損させる。補綴用インプラントのような他の療法では、線維化及びカプセル化が生じる。組織の侵入・成長を促すための既存の方策も、軟組織欠損部を治療するには不十分である。現行の無細胞マトリックスで得られるのは、理想的な再建に必要な柔らかい3次元組織ではなく、平らな線維性の組織シートである。そして、脂肪移植は、軟組織欠損部を回復できるが、脂肪移植のさらに広範な利用は、移植片生着率にばらつきがあるとともに、回復の体積が限られていることが妨げとなっている。軟組織再建の理想的なアプローチは、脂肪組織のような軟組織の再生をin vivoで促してから、その組織を移植して、再生を促すものであろう。しかしながら、組織の再成長には、細胞が付着し、移動し、増殖し、分化して、新しい組織へと組織化する好適なマトリックスが必要となる。天然型の細胞外マトリックス(ECM)の大半は、修復部位に欠失している。したがって、失われた組織量を速やかに回復させるのみならず、その微小環境を再調整し、宿主細胞の浸潤を補佐し、軟組織の再生を促すことも行う合成マトリックスを作り直すことは、脂肪組織ベースの再建を用いて軟組織欠損部を修復するときに不可欠な作業になる。
【0005】
ハイドロゲルは、水溶性生体分子を容易に輸送可能にする高い水分量及び水膨潤性の網目構造により、ECM模倣体として大きな注目を集めている。すなわち、ハイドロゲルは、軟組織の再建用のフィラー材として、いくつかの利点を提供する。
【0006】
いくつかのハイドロゲルでは、軟組織の再建においていくつか利点が見られるが、すべての機械的な課題に次々に対応できる材料は、現時点では存在しない。
【0007】
充分な機械的特性を得るには、通常は、高めの架橋密度が必要とされる。しかしながら、これらの条件下では、宿主組織細胞(例えば、脂肪細胞の前駆細胞及び内皮前駆細胞)は、足場に浸透して、足場内に成長することはできない。分解性ハイドロゲルの場合には、瘢痕化及び線維組織の形成が典型である。宿主組織の侵入・成長が、非常に遅いか、または少なくともその線維物質の吸収よりも遅いペースで行われるからである。
【0008】
最近、様々な細胞活性を補佐するためのECM模倣体として機能するように、官能化ナノファイバーが開発された。ポリカプロラクトン(PCL)またはポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)のようなFDA準拠の合成生分解性ポリ-a-エステルを用いて、エレクトロスピニングとして知られるプロセスを通じて、ナノファイバーを作製できる。これらのポリマーから調製した生分解性の縫合糸及びインプラントは、生体適合性に関する優れた実績により、臨床で広く用いられている。幹細胞の操作用途用に、様々な直径及びトポグラフィーの様々なナノファイバーが開発されてきた。しかしながら、これらのナノファイバーは、巨視的な構造をもたらさないので、3D足場として使用するのは困難となっている。
【0009】
多くの市販のハイドロゲルフィラーは、患者において中度から重度の炎症を引き起こす一方で、時間の経過とともに、完全な元々の体積が維持されない。
【0010】
このような従来の方法及びシステムと関連する様々な問題を考慮すると、当該技術分野では、軟組織欠損部を治癒するための解決策の改善に対するニーズが依然として存在する。本開示は、このニーズに対する解決策であって、当該技術分野において認められている様々な問題を解消する解決策を提供する。
【発明の概要】
【0011】
下記の開示における組成物及び方法は、特性が改善された(例えば、下にさらに詳述されているように、軟組織の再建の質が改善された)繊維-ハイドロゲル複合体マイクロビーズのような繊維-ハイドロゲル複合体を含む組成物を使用することによって、このニーズに対処するように設計されている。
【0012】
したがって、一態様では、本発明で開示するのは、平均長が約200マイクロメートルである複数のポリカプロラクトン繊維に共有結合している官能化ヒアルロン酸の網目構造と、約1mg/mL~約25mg/mLの濃度で存在する架橋剤を含む実質的に非球状のマイクロビーズの集団であって、そのマイクロビーズの平均寸法が、最長寸法に沿って約50マイクロメートル~約300マイクロメートルの範囲内であり、そのマイクロビーズが、事前に反応されており、そのマイクロビーズが実質的に、室温で少なくとも約6カ月安定している集団である。
【0013】
別の態様では、本発明で開示するのは、平均長が約200マイクロメートル未満である複数のポリカプロラクトン繊維に共有結合している官能化ヒアルロン酸の網目構造と、約1mg/mL~約25mg/mLの濃度で存在する架橋剤を含む実質的に非球状のマイクロビーズの集団を含む凍結乾燥製剤であって、そのマイクロビーズが、事前に反応されており、そのマイクロビーズの水分含有率が、約15%未満であり、そのマイクロビーズが実質的に、室温で少なくとも約12カ月安定している凍結乾燥製剤である。
【0014】
一実施形態では、そのマイクロビーズは、実質的に炎症を起こさない。
【0015】
一実施形態では、その官能化ヒアルロン酸は、アクリル化ヒアルロン酸を含み、その架橋剤は、チオール化ポリ(エチレングリコール)またはその誘導体を含む。
【0016】
別の実施形態では、その官能化ヒアルロン酸は、チオール化ヒアルロン酸を含み、その架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)またはその誘導体を含む。
【0017】
特定の実施形態では、その複数のポリカプロラクトン繊維は、エレクトロスピニング紡糸繊維を含む。
【0018】
一実施形態では、そのポリカプロラクトン繊維の直径は、約100ナノメートル~約5マイクロメートルの範囲内である。
【0019】
別の実施形態では、そのマイクロビーズは、平均貯蔵弾性率が約50Pa~約2500Paである。
【0020】
一実施形態では、そのマイクロビーズは、複数の孔を含む。任意に、その孔は、対象の標的組織に投与したときに、組織の成長及び細胞の浸潤を促すように、そのヒアルロン酸の網目構造の全体にわたり配置されている。別の実施形態では、その複数の孔は、面密度が、1cm2当たり約50個以上であり、孔の少なくとも約80%の平均寸法が、約5マイクロメートル以上である。
【0021】
一態様では、本発明で提供するのは、マイクロビーズ集団を含む移植可能または注射可能な生体材料であって、対象の標的組織への皮膚投与または皮下投与用に調合されている生体材料である。
【0022】
一態様では、本発明で提供するのは、本発明の生体材料を含む製剤であって、16ゲージ以下、18ゲージ以下、20ゲージ以下、22ゲージ以下、24ゲージ以下、26ゲージ以下、27ゲージ以下、28ゲージ以下、29ゲージ以下、30ゲージ以下、31ゲージ以下または31ゲージ未満の針によって、皮膚に注射するのに適する製剤である。
【0023】
本発明のさらなる態様は、本発明のマイクロビーズが約0.1mL~約20mL入ったシリンジを含むキットであって、前記マイクロビーズが、i)実質的に脱水されたビーズまたはii)対象の標的組織に注射できる状態である水和ビーズとして調合されているキットを提供する。
【0024】
本発明の追加の態様は、マイクロビーズ集団を含む製剤であって、脱水マイクロビーズを形成するために、そのマイクロビーズが凍結乾燥されており、その脱水マイクロビーズが、対象の標的組織に投与する前に水、生理食塩水または好適な再構成液で再構成して、失われた量(重量によって測定)の水を実質的に補充して、その失われた量の水を補充したときに、その再構成液中のマイクロビーズの濃度が、凍結乾燥前のマイクロビーズの濃度と同じまたは実質的に同じになるようにするのに適する製剤を提供する。
【0025】
一態様では、本発明で提供するのは、上記の製剤うち、投与の必要な対象の標的組織に投与する前に水、生理食塩水または好適な再構成液によって再構成したときに、その脱水マイクロビーズが、そのビーズ形態を維持または回復する製剤である。特定の態様では、本発明で提供するのは、上記の製剤のうち、その脱水マイクロビーズが実質的に、室温で少なくとも約12カ月安定している製剤である。
【0026】
本発明の別の態様は、対象の標的組織に即時に投与するためのマイクロビーズ集団を調製するためのキットであって、そのキットが、そのマイクロビーズの入ったバイアルを含み、前記マイクロビーズが、凍結乾燥され、粉末ケーキに形成されており、その凍結乾燥された粉末ケーキが、水、生理食塩水または好適な再構成液によって再構成できるキットを提供する。
【0027】
本発明のさらなる態様は、対象の標的組織に即時に注射するためのマイクロビーズ集団を調製するためのキットであって、そのキットが、(i)凍結乾燥ゲルビーズとして調合されたマイクロビーズの入ったシリンジと、(ii)水、生理食塩水または好適な再構成液の入ったバイアルを含み、水、生理食塩水または好適な再構成液が、そのバイアルからそのシリンジに吸引することができ、それによって、その凍結乾燥マイクロビーズが再水和されるキットを提供する。
【0028】
本発明のさらなる態様は、対象の標的組織に即時に注射するためのマイクロビーズ集団を調製するためのキットであって、そのキットが、(i)そのマイクロビーズの入ったシリンジと、(ii)水、生理食塩水または好適な再構成液の入ったバイアルを含み、水、生理食塩水または好適な再構成液が、そのバイアルからそのシリンジに吸引することができ、それによって、その凍結乾燥マイクロビーズが再水和されるキットを提供する。
【0029】
本発明のさらなる態様は、成長因子、血管新生を刺激する化合物、免疫調節剤、炎症抑制剤及びこれらを組み合わせたものからなる群から選択した化合物をさらに含むマイクロビーズ集団を提供する。
【0030】
本発明の別の態様は、治療作用、血管新生作用、抗血管新生作用、抗炎症作用、抗菌作用、抗ヒスタミン作用及びこれらを組み合わせた作用を持つ化合物をさらに含むマイクロビーズ集団を提供する。
【0031】
一実施形態では、本発明のマイクロビーズ集団は、処理した組織細胞外マトリックスをさらに含み、その処理した組織細胞外マトリックスは、脂肪組織から抽出可能なものである。
【0032】
本発明のさらなる態様は、美顔手順または再建手順を行うか、あるいは外傷、外科的介入、または加齢性の疾患、障害もしくは状態に起因する組織欠損部を軽減または逆転させる方法であって、平均長が約200マイクロメートル未満である複数のポリカプロラクトン繊維に共有結合している官能化ヒアルロン酸の網目構造と、約1mg/mL~約25mg/mLの濃度で存在する架橋剤を含む実質的に非球状のマイクロビーズの集団をその組織及び/またはその組織欠損部に注射することを含み、そのマイクロビーズの平均寸法が、最長寸法に沿って約50マイクロメートル~約300マイクロメートルの範囲内であり、そのマイクロビーズが、事前に反応されており、そのマイクロビーズが実質的に、室温で少なくとも約6カ月安定している方法を提供する。
【0033】
本発明の別の態様は、平均長が約200マイクロメートル未満である複数のポリマー繊維に共有結合している官能化ハイドロゲルの網目構造と、約1mg/mL~約25mg/mLの濃度で存在する架橋剤を含む実質的に非球状のマイクロビーズの集団であって、そのマイクロビーズの平均寸法が、最長寸法に沿って約50マイクロメートル~約300マイクロメートルの範囲内であり、そのマイクロビーズが、事前に反応されており、そのマイクロビーズが実質的に、室温で少なくとも約6カ月安定しているマイクロビーズ集団を提供する。特定の実施形態では、そのポリマー繊維またはその断片は、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、ポリ(乳酸)及び/またはポリカプロラクトン、これらを組みわせたもの、またはこれらの誘導体を含む合成ポリマー材、あるいはシルク、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸、キトサン、これらの誘導体またはこれらを組み合わせたものからなる群から選択した生体ポリマー材を含む。別の実施形態では、そのハイドロゲル材は、ポリ(エチレングリコール)、コラーゲン、デキストラン、エラスチン、アルギネート、ヒアルロン酸、ポリ(ビニルアルコール)、これらの誘導体またはこれらを組み合わせたものを含む。
【0034】
適用可能であるか、または具体的に放棄されていない場合、本明細書に記載されている実施形態のいずれか1つは、他の実施形態が、本発明の異なる態様において説明されていても、そのいずれかの他の1つ以上の実施形態と組み合わせることができるように企図されている。
【0035】
上記の実施形態及び他の実施形態は、下記の詳細な説明に開示されているか、または下記の詳細な説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1A】注射後の炎症性応答を示す画像である。チオール化HA(HA-SH)+ジアクリル化ポリエチレングリコール(PEGDA)(架橋剤)を含むゲル(上向きの矢印)と、アクリル化HA(HA-Ac)+チオール化ポリエチレングリコール(PEGSH、下向きの矢印)を含むゲルについて、注射から1日目に炎症性応答を比較したものが示されている。
【
図1B】注射後の炎症性応答を示す画像である。ブタ内ももモデルでの炎症試験から、0日目(中央パネル)及び2日目(右パネル)に得られた画像が示されている。左パネルには、各皮下注射の際の複合体の内訳が示されており、内もも画像に示されているパターンに対応している。
【
図1C】注射後の炎症性応答を示す画像である。移植から48時間後のブタ内ももモデルにおける重要な群に対する組織学的応答が示されている。青色染色部は、ヒアルロン酸を示しており、赤色染色部は、免疫細胞染色部を示している。注射部位は、チオール化HA群では、注射部位の外縁での単球の活性化(このHA群に対する強力な急性免疫応答を示す)によって可視化されているように、宿主組織と注射部位の境界が明瞭な状態でカプセル化されている。
【
図1D】LSの剛性複合体及び柔性複合体、ならびに関連する市販のコントロール材のせん断貯蔵弾性率(単位:Pa)を示すグラフである。
【
図2A】個々のビーズを画像化するために100倍希釈した後のビーズ状複合体LSの光学顕微鏡画像である。直径250マイクロメートルのビーズに微粒化した後の複合体を示している。
【
図2B】個々のビーズを画像化するために100倍希釈した後のビーズ状複合体LSの光学顕微鏡画像である。凍結乾燥及び再水和を行った後の複合体を示しており、その複合体が、元の外観を保持していることが示されている。
【
図2C】個々のビーズを画像化するために100倍希釈した後のビーズ状複合体LSの光学顕微鏡画像である。そのビーズ状製剤のナノファイバー成分及びハイドロゲル成分を示す10倍画像である。
【
図2D】個々のビーズを画像化するために100倍希釈した後のビーズ状複合体LSの光学顕微鏡画像である。非希釈状態のそのビーズ状製剤の光学顕微鏡画像である。
【
図2E】ビーズ化及び凍結乾燥が貯蔵弾性率に影響を及ぼさないことを示している。
【
図2F】複合体マイクロビーズを作製する概略である。
【
図2G】ビーズ直径のヒストグラムである(平均=209.412±62.27μm、中央値=210μm、n=51)。ビーズの直径は、共焦点顕微鏡画像で、粒子の最長軸に沿って測定した。
【
図2H】75μmの篩(左)、150μmの篩(中央)、250μmの篩(右)を用いたビーズの顕微鏡画像である。粒子内の最長軸を測定することによって、約75μm、約150μm及び約200μmの寸法のビーズであることが示されている。より堅実な測定のために、エッジ検出を利用する画像解析プログラムを用いて、ビーズ分布のさらなる特徴付けを行った。
【
図2I】複合体のビーズ寸法に応じて複合体の注入性を評価するために、特定の圧力下での変位を示す注入力曲線である。力学試験機MTS Criterion43に連結したシリンジ固定具(Instron)に、150μmのビーズ及び75μmのビーズを充填したシリンジを取り付けた。シリンジから、27ゲージの針(長さ1/2インチ、BD)を通じて、1mm/秒のクロスヘッド速度で、ゲルを注射した。150μm群及び75μm群のいずれでも、許容される注入プロファイルが得られた。
【
図2J】ハイドロゲル全体に分散された繊維の長さ分布を示している(平均=110.36±85.48μm、範囲=12.00~442.00μm、n=108)。
【
図2K】第1のGood Manufacturing Protocol(GMP)(ロット0001~0025)から得られた繊維であって、ハイドロゲル全体に分散させて配置した繊維の長さ分布を示している(平均=30.10±26.87μm、範囲=2.50~205.00μm、n=993)。
【
図3】塊状の複合体ゲルの貯蔵弾性率を150μm及び250μmのビーズ状粒子と比較したもの示している。
【
図4A】複合体LS-1の解析結果を示すグラフである。MRIによる定量によって評価した場合の、ビーズ状複合体の体積保持を市販のコントロール材と比較したもの示している。
【
図4B】複合体LS-1の解析結果を示すグラフである。4Aで用いた複合体と同じHA濃度及び繊維充填量で調製した複合体のせん断貯蔵弾性率に対して、HA分子量(MW)が及ぼす作用を示している。
【
図4C】複合体LS-1の解析結果を示すグラフである。同じHA MW及び繊維充填条件で調製した複合体のせん断貯蔵弾性率に対して、HA濃度(mg/ml)が及ぼす作用を示している。
【
図4D】複合体LS-1の解析結果を示すグラフである。同じHA MW及び繊維充填条件で調製した複合体の圧縮貯蔵弾性率に対して、HA濃度(mg/ml)が及ぼす作用を示している。
【
図4E】複合体LS-1の解析結果を示すグラフである。特性の異なる足場(表1を参照されたい)の体積の保持を示しており、本発明の複合体の調整性が示されている。
【
図5A】競合他社製品と比べて、新たな組織がLS9足場注射部位に浸潤していることを示す一連のMRI画像である。JUVEDERM(登録商標)フィラーでは、注射から14日目、30日目及び50日目に、組織の侵入・成長が0%であることを示しており、この製品では、宿主細胞組織の侵入・成長が見られないことが示されている。
【
図5B】競合他社製品と比べて、新たな組織がLS9足場注射部位に浸潤していることを示す一連のMRI画像である。LS-9製剤の注射後の組織の侵入・成長を示しており、14日目には、新たな組織が18%、30日目には、新たな組織が52%、50日目には、新たな組織が84%見られた。
【
図5C】in vivoにおいて複合体の持続性に最も大きな作用を及ぼすものを明らかにするために、変化させた5つのパラメーター、すなわち、ハイドロゲルの分子量、ハイドロゲルの変性度、ハイドロゲルの濃度、ナノファイバーの濃度及び架橋密度を示している。示されているように、その線形回帰モデルの線形予測能は、14日目(R2=0.95)及び30日目(R2=0.86)において、許容されるものである。ハイドロゲルの濃度及びナノファイバーの濃度が、最も大きな作用を及ぼすと見られた。
【
図6A】予め形成したビーズ状複合体LSの膨潤評価結果を市販のコントロール材と比較したものを示している。画像(上パネル)及びMRI断面(下パネル)の両方とも、0日目及び2日目において、予め形成した複合体(左下に注射)をJUVEDERM(右下に注射)と比較した画像を示している。
【
図6B】予め形成したビーズ状複合体LSの膨潤評価結果を市販のコントロール材と比較したものを示している。JUVEDERM(登録商標)VOLUMA XC(登録商標)(左側の2本)、ULTRA PLUS XC(登録商標)(中央の2本)及びLSビーズ(右側の2本)の0日目(左のバー)及び2日目(右のバー)の膨潤作用のペアワイズ比較結果をグラフ化したものを示している。
【
図6C】予め形成したビーズ状複合体LSの膨潤評価結果を市販のコントロール材と比較したものを示している。LS-9複合体が、施術後の膨潤を限定し、宿主組織の侵入・成長を最大限に高めることによって、市販の比較品と一線を画すことを示すグラフである。
【
図7B】軟組織注射剤のtanδを示すグラフである(エネルギー損失とエネルギー貯蔵のバランスを定量したものである。弾性率または粘度にかかわらず、tanδが大きいほど、より液体に近い特性を示し、tanδが小さいほど、より固体に近い特性を示す)。
【
図7C】複合体(左上)と天然型のヒト脂肪(左下)の比較を示す3つの画像である。これらの2つの材料は、右パネルに、並んだ状態で示されている。
【
図8A】ビーズ状複合体の凍結乾燥形態の発生過程を示している。ビーズ状複合体LSの光学顕微鏡画像を示している。HA-Ac、ナノファイバー及び5kの2-アーム型PEGSHをPBS中で調合、一晩反応させる。
図8Aは、一晩反応させる前(「ビーズ化前」)の複合体の画像である。
【
図8B】ビーズ状複合体の凍結乾燥形態の発生過程を示している。ビーズ状複合体LSの光学顕微鏡画像を示している。HA-Ac、ナノファイバー及び5kの2-アーム型PEGSHをPBS中で調合、一晩反応させる。
図8Bは、ビーズ形成後(「ビーズ」)の複合体の画像である。
【
図8C】ビーズ状複合体の凍結乾燥形態の発生過程を示している。ビーズ状複合体LSの光学顕微鏡画像を示している。HA-Ac、ナノファイバー及び5kの2-アーム型PEGSHをPBS中で調合、一晩反応させる。
図8Cは、凍結乾燥及び再水和を行った後(「凍結乾燥後」)の複合体の画像である。
【
図8D】8A~8Cのそれぞれのせん断貯蔵弾性率の測定結果を示すグラフであり、ビーズ状複合体の安定性が塊状の複合体よりも向上したことが示されている。
【
図9A】ビーズ化前の試料、ビーズ状の試料及び改良した凍結乾燥プロセスによる凍結乾燥後の試料のせん断弾性率を示すグラフである。
【
図9B】ビーズ化前の試料、ビーズ状の試料及び改良した凍結乾燥プロセスによる凍結乾燥後の試料の圧縮弾性率を示すグラフである。
【
図10A】低張製剤を用いる凍結乾燥法の進展過程を示す一連のグラフである。250マイクロメートルのビーズ試料(ビーズ化前のもの、ビーズ化後のもの、糖溶液中の凍結乾燥後ビーズ、PBS中の凍結乾燥後ビーズを含む)の貯蔵弾性率を示している。
【
図10B】ビーズ化後のせん断弾性率を示している。
【
図10C】250マイクロメートルのビーズ及び150マイクロメートルのビーズのビーズ化後のtanδを示している。
【
図10D】本明細書に記載されている複合体を含む市販の製剤のtanδが低下していく動向を示している。
【
図11A】合成軟組織の作製方法を示している。ウサギモデルにおいて鼠径部脂肪体に欠損部を作製するための一般的な手順を示している。
【
図11B】合成軟組織の作製方法を示している。術後14日目における、異なる移植片マトリックス(150Paの複合体、150Paのハイドロゲル及び80Paのハイドロゲル)への宿主血管の浸潤を示している。内皮細胞をCD31で赤色に染色し、細胞核をDAPIで青色に染色した。繊維をF8BTで緑色に標識した。スケールバーは100μmである。
【
図12】LS-5の注射から13週目のラットモデルにおける組織学的解析(HE染色)結果を示している。細胞の成長/浸潤パターンが明白に観察され、そのパターンでは、下地となるビーズの形態が再現されている。
【発明を実施するための形態】
【0037】
下記の詳細な説明は、例として示されているが、本発明を限定するものではなく、記載されている具体的な実施形態を限定するように意図されているに過ぎず、添付の図面と併せれば、最も深く理解することができる。
【0038】
本発明は、事前に反応させたビーズ状複合材であって、ハイドロゲル及びナノ構造体を含み、軟組織の再建方法で使用するためのものであるビーズ状複合材に関するものである。
【0039】
本発明は、生分解性繊維に共有結合している生体材料を含む足場複合体を含む組成物を用いて、軟組織傷害を修復または再建する方法にも関するものである。本発明は、別の態様では、軟組織の再建で使用するための組成物を作製する方法であって、その組成物が、ハイドロゲル、及びそのハイドロゲル内に配置されたナノ構造体を含む方法にも関するものである。
【0040】
以下は、当業者が本発明を実施するのを補佐するために提供する、本発明の詳細な説明である。当業者は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに、本明細書に記載されている実施形態に対して、修正及び改変を加えることができる。別段の定義のない限り、本明細書で用いられているすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味である。本明細書において、本発明の説明で用いられている専門用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、本発明を限定するようには意図されていない。本明細書で言及されているすべての刊行物、特許出願、特許、図及びその他の参照文献は、参照により、その全体が明示的に援用される。
【0041】
本明細書に記載されている方法及び材料と類似または同等のいずれの方法及び材料も、本発明の実施及び試験の際に使用できるが、以下では、好ましい方法及び材料を説明する。本明細書で言及されているすべての刊行物は、その刊行物の引用部分と関連する方法及び/または材料を開示及び説明する目的で、参照により、本明細書に援用される。
【0042】
別段の定義のない限り、本明細書で用いられているすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解される意味である。Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(2nd ed.1994)、The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker ed.,1988)、The Glossary of Genetics,5th Ed.,R.Rieger et al.(eds.),Springer Verlag(1991)及びHale & Marham,the Harper Collins Dictionary of Biology(1991)という参照文献(参照により、その開示内容の全体が本明細書に援用される)により、当業者は、(本明細書で別段に定義されていない限り)本発明で用いられている多くの用語の一般的な定義を得られる。概して、本明細書に記載されているかまたは本発明にまつわる分子生物学的方法などの手順は、当該技術分野において用いられている一般的な方法である。
このような標準的な技法は、例えば、Sambrook et al.,(2000,Molecular Cloning--A Laboratory Manual,Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratories)及びAusubel et al.,(1994,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New-York)のようなリファレンスマニュアルに見ることができる。
【0043】
下記の用語は、別段の定めのない限り、以下でそれらの用語に割り当てられた意味である場合がある。しかしながら、当然のことながら、当業者によって知られているかまたは理解されている他の意味も可能であり、その他の意味も、本発明の範囲内である。本明細書で言及されているすべての刊行物、特許出願、特許及びその他の参照文献は、参照により、その全体が援用される。矛盾がある場合には、定義を含め、本明細書が優先されることになる。加えて、材料、方法及び例は、例示的なものに過ぎず、限定するようには意図されていない。
【0044】
定義
「a」及び「an」という用語は、その冠詞の文法上の目的語が1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)であることを指す。例としては、「an」が付された「要素」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0045】
本明細書で使用する場合、「約」は、状況に応じて、±1パーセント未満、または1パーセント、2パーセント、3パーセント、4パーセント、5パーセント、6パーセント、7パーセント、8パーセント、9パーセント、10パーセント、11パーセント、12パーセント、13パーセント、14パーセント、15パーセント、16パーセント、17パーセント、18パーセント、19パーセント、20パーセント、25パーセント、30パーセントもしくは30パーセント超を意味することができ、当業者によって知られているかまたは理解可能である。
【0046】
本明細書で使用する場合、「1人の対象」、「複数の対象」または「個体」としては、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物、例えば、飼育動物、畜産動物または野生動物のような哺乳動物、ならびに鳥類及び水生動物を挙げてよいが、これらに限らない。
【0047】
本明細書で使用する場合、「生物活性剤」という用語は、生物活性のあるいずれかの有機剤または無機剤を指し、すなわち、生物活性剤は、生体組織、臓器または生物において、統計的に有意な生体応答を誘導する。生物活性剤は、医薬、ペプチド、多糖またはポリヌクレオチド、例えば、DNA及びRNAであることができる。生物活性剤は、消化/代謝領域、血液及び凝固領域、心血管領域、皮膚科学的領域、尿生殖器領域、ホルモン領域、免疫学的領域、感染領域、がん領域、筋骨格領域、神経学的領域、寄生性領域、眼科領域、呼吸器領域及び感覚器領域のような治療領域における疾患を治療するための薬剤であることができる。生物活性剤はさらに、骨粗しょう症、てんかん、パーキンソン病、疼痛及び認知機能障害のような疾患の治療用であることができる。生物活性剤は、ホルモン機能障害疾患の治療、またはホルモン治療、例えば、避妊のための治療、ホルモン補充療法もしくはステロイドホルモンによる治療のための薬剤であることができる。生物活性剤はさらに、抗生剤もしくは抗ウイルス剤、抗炎症剤、神経保護剤、予防ワクチン、記憶促進剤、鎮痛剤(もしくは混合鎮痛剤)、免疫抑制剤、抗糖尿病剤、または抗ウイルス剤のような薬剤であることができる。生物活性剤は、抗喘息剤、抗けいれん剤、抗うつ剤、抗糖尿病剤または抗腫瘍剤であることができる。生物活性剤は、抗精神病剤、鎮痙剤、抗コリン剤、交感神経様作用薬、抗不整脈剤、抗高血圧剤または利尿剤であることができる。生物活性剤は、鎮痛剤または鎮静剤であることができる。生物活性剤は、トランキライザーまたは認知機能障害用の薬物であることもできる。その薬剤は、遊離酸形態、遊離塩基形態、塩または中性化合物であることができる。生物活性剤は、ペプチド、例えばレボドパ、または抗体断片であることができる。生物活性剤は、ポリヌクレオチド、可溶性イオンまたは塩であることができる。
【0048】
本明細書で使用する場合、「足場複合体」は、ポリマー繊維及びハイドロゲル材という2つの成分のいずれかの共有結合を含む。足場複合体は、「機能的な網目構造」にポリマー繊維及びハイドロゲル材を含み、機能的な網目構造とは、成分間の相互作用により、化学的、生化学的、生物物理的、物理的または生理学的な利点が得られることを意味する。
加えて、機能的な網目構造は、細胞、生体物質(例えば、ポリペプチド、核酸、脂質、炭水化物)、治療用化合物、合成分子などを含む追加の成分を含み得る。特定の実施形態では、足場複合体は、ヒト対象に存在する標的組織に移植すると、組織の成長及び細胞の浸潤を促す。
【0049】
本明細書で使用する場合、「ハイドロゲル」という用語は、「ゲル」の一種であり、共有架橋または非共有架橋によって連結された巨大分子(例えば、親水性ポリマー、疎水性ポリマー、それらのブレンド)の3次元網目構造からなる水膨潤性のポリマーマトリックスであって、相当量の水(例えば、水以外の分子1単位当たり50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または99%超)を吸収して、弾性ゲルを形成できるマトリックスを指す。そのポリマーマトリックスは、いずれかの好適な合成または天然のポリマー材で形成し得る。本明細書で使用する場合、「ゲル」という用語は、液体媒体内に広がって、表面張力作用を通じて液体媒体を捕らえる、固体の3次元網目構造を指す。この内部網目構造は、物理的結合(物理ゲル)または化学的結合(化学ゲル)、及び分散媒内で不変のままである微結晶またはその他の接合部に起因し得る。実質的には、水(ハイドロゲル)、油及び空気(エアロゲル)を含め、いずれの流体も分散媒として使用できる。重量の面でも体積の面でも、ゲルは、大半が流体の組成であるので、密度が、その構成物質である液体の密度と同程度である。ハイドロゲルは、水を液体媒体として用いる種類のゲルである。
【0050】
「疎水性」ポリマー及び「親水性」ポリマーの定義は、100%の相対湿度において、ポリマーによって吸収される水蒸気量に基づく。この分類によると、疎水性ポリマーは、100%の相対湿度(「rh」)において、最大でも1%の水しか吸収しないが、中度の親水性ポリマーは、1~10%の水を吸収し、親水性ポリマーは、10%超の水を吸収でき、吸湿性ポリマーは、20%超の水を吸収する。「水膨潤性」ポリマーは、水性媒体に浸漬すると、そのポリマー自体の重量の少なくとも50%超の量の水を吸収するポリマーである。
【0051】
「架橋」という用語は、本明細書では、共有結合を通じて生じるか、または非共有結合を通じて生じるかにかかわらず、分子内架橋及び/または分子間架橋を含む組成物を指し、直接的な架橋であっても、架橋剤を含んでもよい。「非共有」結合には、水素結合及び静電(イオン)結合の両方が含まれる。
【0052】
「ポリマー」という用語には、直鎖ポリマー構造及び分岐ポリマー構造が含まれ、架橋ポリマー及びコポリマー(架橋されいてもいなくてもよい)も含まれ、すなわち、ブロックコポリマー、交互コポリマー、ランダムコポリマーなどが含まれる。本明細書では「オリゴマー」と称されるこれらの化合物は、分子量が約1000Da未満、好ましくは約800Da未満のポリマーである。ポリマー及びオリゴマーは、天然のものであっても、合成の供給源から得てもよい。
【0053】
本明細書で使用する場合、「マイクロビーズ」という用語は、本発明の材料の粒子であって、最長寸法が300μm未満の粒子を意味する。
【0054】
本明細書で使用する場合、「処理した組織細胞外マトリックス」という用語は、動物対象、好ましくはヒトから採取した細胞外マトリックス(ECM)であって、殺菌して、細胞を除去する目的で処理したECMを意味する。
【0055】
本明細書で使用する場合、「生体材料」という用語は、生物系と相互作用するように操作した有機材料を意味する。本発明のいくつかの実施形態では、生体材料は、ハイドロゲルである。いくつかの実施形態では、生体材料は、細菌由来のヒアルロン酸である。
【0056】
本明細書で使用する場合、「生分解性」という用語は、対象において、生物的手段によって分解できる材料を指す。
【0057】
本明細書で使用する場合、「貯蔵弾性率」という用語は、その材料が変形または応力に対してどの程度応答するかを示す動的弾性率の弾性成分の測定値を定義する目的で使用する。実施形態では、「変形」とは、力の印加による、物体の形または寸法の変化を意味する。
【0058】
本明細書で使用する場合、「せん断弾性率」という用語は、剛性率としても知られており、Gで表され、せん断歪に対するせん断応力の比率として定義される。実施形態では、「せん断応力」とは、材料の断面と同一平面である応力の成分を意味する。実施形態では、「せん断歪」とは、材料の断面と垂直な力を意味する。
【0059】
本明細書で使用する場合、「移植可能な」という用語は、シリンジによって対象に移植するものとして調合できることを意味する。
【0060】
本明細書で使用する場合、「軟組織」という用語は、体の他の構造及び臓器と結合するか、それらを支持するか、またはそれらを包囲する組織を指す。軟組織としては、筋肉、腱、靭帯、筋膜、神経、線維組織、脂肪、血管及び滑膜が挙げられる。
【0061】
本明細書で使用する場合、「安定」という用語は、室温において分解しない材料を指す。
【0062】
本明細書で使用する場合、「自己」という用語は、後でその材料を再導入する個体と同じ個体に由来するいずれかの材料を指す。
【0063】
本明細書で使用する場合、「同種異系(allogeneic)」あるいは「同種異系(allogenic)」という用語は、その材料を導入する個体と同じ種の異なる動物、またはその個体と異なる患者に由来するいずれかの材料を指す。
【0064】
本明細書で使用する場合、「凍結乾燥された」という用語は、凍結乾燥を行った後の材料を指し、凍結乾燥とは、水を材料から除去することによって、材料を保存する際に用いるプロセスであり、まず、材料を凍結してから、その材料を真空下、超低温で乾燥することを伴う。
【0065】
本明細書で使用する場合、「官能化」という用語は、その材料に結合された機能的な化学部分を持つように均一または不均一に修飾された(例えば、化学修飾された)材料を指す。場合によっては、機能的な化学部分は、反応して、共有結合または非共有結合を形成させることができる。場合によっては、機能的な化学部分は、材料の特性を改善させることができる。
【0066】
軟組織の再建
毎年、数百万人が、腫瘍の摘出、外傷、加齢または先天性奇形による重度の軟組織欠損により、影響を受けている。皮膚、脂肪及び筋肉を含む組織の欠損により、従来の手段によっては治療するのが難しい重度の機能的及び審美的な異常が生じる。例えば、米国では毎年、乳房の部分切除が300,000件余り行われ、乳房軟組織の欠損により、醜い乳房瘢痕が残る。軟組織の修復のための既存の選択肢には、重大な欠点がある。自己組織弁移動術には、長期の外科手術で、体の別の部分から軟組織を移動させる必要があり、その手術では、ドナー部位が欠損したままとなる{LoTempio 2010.Plastic and Reconstructive Surgery,126(2),393-401、Patel 2012.Annals of Plastic Surgery,69(2),139-144}。補綴用インプラントは、線維化及びカプセル化をもたらす異物応答を起こす傾向がある{Calobrace 2014 Plastic and Reconstructive Surgery,134(1 Suppl),6S-11、Tsoi 2014.Plastic and Reconstructive Surgery,133(2),234-249}。脂肪吸引で採取した脂肪細胞の移植を伴う脂肪移植は、少量に限られ、移植片の生着不良が障害となっている{Kakagia 2014 Surgical Innovation,21(3),327-336、Largo 2014 British Journal of Plastic Surgery,67(4),437-448}。
【0067】
そして、注射可能なハイドロゲル軟組織フィラーを用いることができるが、これらは、小規模の欠損にのみ適する。しかしながら、既存のフィラーによって得られる、ボリュームの回復は、一過性である{Young 2011.Acta Biomaterialia,7(3),1040-1049、Varma 2014 Acta Biomaterialia,10(12),4996-5004}。当該技術分野では、加齢性の審美的欠損に対する解決策をもたらすことができる長持ちするフィラーを提供するニーズが存在する。ハイドロゲルの足場を鋳型として用いて、再建部位で、脂肪組織のような軟組織を再生することに焦点を当てた新世代のティッシュエンジニアリングソリューションが提案されてきた。
【0068】
現行のティッシュエンジニアリングは、軟組織の再建に近づいている。
【0069】
軟組織欠損部周辺の創傷床において、脂肪組織由来幹細胞(ASC)が特定されている{Salibian 2013 Archives of plastic surgery 40.6:666-675}。これらの細胞は、好適なマトリックス微小環境によって支持すると、脂肪のような軟組織に分化できる。したがって、機能性物質で修復部位を充填する方策には、内因性ASCを用いるか、あるいは標準的な外科的処置を用いて容易に得ることができる脂肪吸引物に存在するASC及び/またはその他の間葉細胞を用いて、新たな組織を再生可能にする可能性がある。ハイドロゲルは、軟組織の3次元(3D)の性質及び弾性特性と似ているその3Dの性質及び弾性特性により、組織欠損部の再生用の足場マトリックスとして、広く研究されている。周囲組織からの物理的応力に対して、その体積及び形状を維持しながら、弾性率が天然型の脂肪組織と同程度(約2kPa)であるハイドロゲル足場を作製するのに、様々な方法が用いられてきた{Alkhouli 2013 American Journal of Physiology.Endocrinology and Metabolism,305(12),E1427-35、Sommer 2013 Acta biomaterialia 9.11(2013):9036-9048}。この場合には、架橋密度の上昇と、平均孔径の縮小が必要とされ{Ryu 2011 Biomacromolecules 12.7(2011):2653-2659、Khetan 2013 Nature Materials,12(5),458-465、Li 2014 Journal of Neurotrauma,31(16),1431-1438}、それにより、細胞浸潤性が低くなり、再生不良となる。ハイドロゲル足場が細胞浸潤を促す能力は、軟組織の修復がうまくいくための鍵である。大量の脂肪の移植及びティッシュエンジニアリングの他の試みがうまくいかないのは、血管浸潤が見られないことが原因である。軟組織を再生するために、早期の血管新生及びASCの分化を促しながら、軟組織欠損部で失われた体積分を充填できる材料は、現在はない。
【0070】
ハイドロゲルマトリックス
せん断貯蔵弾性率(G’)が天然型の脂肪組織と同程度(150~500Pa)であるハイドロゲルフィラーを作製して、そのフィラーが、周囲組織からの物理的応力に対して、特有の体積及び形状を維持し得るようにするのには、様々な方法が用いられてきている。今までは、これらの弾力のある構造的な特性は、ハイドロゲルの網目構造における架橋密度の高さと平均孔径の小ささを犠牲にして得てきたものであり、そのため、細胞浸潤が限定され、その結果、再生不良となる。
【0071】
インプラント材の空隙率及び孔径は、マクロファージの浸潤及び活性に対する作用により、宿主の生体応答に影響を及ぼし得る。いくつかの研究により、その足場の孔の特徴及び機械的特性によって誘発される、マクロファージの偏った極性化が、血管新生及びマトリックスのリモデリング(M2マクロファージが優性の応答)に対する線維化及び瘢痕形成(M1マクロファージが優性の応答)の度合に影響を及ぼし得ることが示されている。
軟組織に移植する多孔質材料では、非多孔性インプラントと比べて、マクロファージの再生誘発的な極性化が調節され、血管新生が促進され、線維化及び瘢痕の形成が軽減された。したがって、ハイドロゲル足場が、細胞の浸潤及び血管の侵入・成長を促す能力は、急性炎症及び慢性炎症を調節し、組織のリモデリング、血管新生及び再生を促し、軟組織の修復の長期持続を実現するための鍵である。
【0072】
ここ数年間で、Li及びWenは、ラミニン由来のループペプチド(CCRRIKVAVWLC(配列番号1)、10μM)とコンジュゲートしたヒアルロン酸(HA)ハイドロゲルであって、幹細胞移植用に孔径及び弾性率(10~100Pa)が最適化されたハイドロゲルを開発した。このハイドロゲルが、活発な神経幹細胞(NSC)の移動、及びその分化細胞からの神経突起の発芽を後押しすることを彼らは示した{Li 2014 Journal of Neurotrauma,31(16),1431-1438}。外傷性脳損傷に関する制御式皮質損傷(CCI)ラットモデルで、このハイドロゲルは、CCI損傷から3日目に注射したところ、移植から4週間~6カ月で、病変部位(10mm超)を充填する血管系網目構造の有意な形成を促した。この血管新生の改善は、このハイドロゲルが、組織から分泌される成長因子、特に血管内皮成長因子(VEGF)を保持及び提示する能力によるものであった。文献での報告により、3~10個の二糖単位からなるHA分解小断片が、内皮細胞の増殖、移動、小管形成及び血管新生の強力な制御因子であることも明らかにされた{Slevin 2002 Journal of Biological Chemistry,277(43),41046-41059}。
最近の研究では、このHAハイドロゲルが、CCI損傷の後、脳病変部位において、ヒト胎児組織由来のNSCスフェロイドを送達する有効性が試験された。このHAハイドロゲルは、移植後、足場マトリックスの内部で、活発な血管形成をもたらした。再生した血管は、病変内まで成長し、移植したマトリックスを透過し、ニューロン前駆細胞の生存及び成長を後押しした。これらの結果から、この最適化されたHAハイドロゲル組成物が宿主血管の侵入・成長を促進する特有の能力が確認された。さらに重要なことに、そのハイドロゲルマトリックスは、そのハイドロゲルマトリックス内部で細胞を活発に移動可能にするのに充分な多孔性を有している。しかしながら、このHAハイドロゲルを軟組織の再建に直接用いることは、現実的ではない。その機械的特性が、移植部位の完全性を保持するほど充分には高くないからである(周囲脂肪組織の弾性率は10倍超高い)。その弾性率を改善するために、架橋密度を向上させると、細胞の浸潤及び移動には不十分な透過性となる。その塊状のハイドロゲルの平均孔径をあまり小さくせずに、機械的特性を向上させるには、新たな方策が必要である。実施形態では、本発明のハイドロゲルは、実質的に精製されたヒアルロン酸(HA)であって、好ましくは細菌によって産生されたHAである。
【0073】
提供するのは、ハイドロゲル材または他の生体材料とポリマー繊維を組みわせ、充分な空隙率及び強度を維持しながら、密度、繊維に対するゲルの比率及びその他の特性が様々となるように調合した足場マトリックスである。提供するのは、脂肪組織から抽出した細胞外マトリックス及び/または脂肪組織から抽出可能な細胞外マトリックスなど、処理した組織細胞外マトリックスを含み、及び/または処理した組織細胞外マトリックスから単離される材料を含む足場マトリックスである。
【0074】
いくつかの実施形態では、ハイドロゲル材は、官能化されている。特定の実施形態では、ハイドロゲル材は、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、チオ、アクリレート、スルホネート、ホスフェート、アミド、及びこれらの改変形態(活性化形態または保護形態など)を含む基で官能化されている。好ましい実施形態では、ハイドロゲル材は、ヒアルロン酸(HA)を含む。より好ましい実施形態では、ハイドロゲル材は、官能化ヒアルロン酸(HA)を含む。別の好ましい実施形態では、ハイドロゲル材は、アクリル化ヒアルロン酸(HA)を含む。いくつかの実施形態では、ハイドロゲル材は、チオール化ヒアルロン酸(HA)を含む。
【0075】
足場複合体
提供するのは、例えば注射または移植によって足場複合体を投与されるヒト対象の組織に導入する医療用具で用いるのに適する足場複合体である。その足場複合体は、概して平均直径が約10nm~約10,000nm(約100nm~約8000nmもしくは約150nm~約5,000nmなど)、または約100nm、150nm、200nm、250nm、300nm、350nm、400nm、450nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1,000nm、1,500nm、2,000nm、2,500nm、3,000nm、3,500nm、4,000nm、4,500nm、5,000nm、5,500nm、6,000nm、6,500nm、7,000nm、7,500nmもしくは8,000nmであるポリマー繊維を含む。そのポリマー繊維は概して、平均長が約10μm~約500μm(約10μm、50μm、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450または500μmなど)である。実施形態では、その繊維の長さは、光学蛍光顕微鏡を用いて求める。実施形態では、その繊維の長さは、電子顕微鏡を用いて求める。
【0076】
いくつかの実施形態では、繊維は、官能化されている。いくつかの実施形態では、繊維は、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、チオ、アクリレート、スルホネート、ホスフェート、マレイミド、アミド、及びこれらの改変形態(活性化形態または保護形態など)を含む基で官能化されている。
【0077】
本明細書に示されているように、ハイドロゲル材に対するポリマー繊維の比率は、当該技術分野において知られているいずれかの手段によって求めることができる。例えば、ハイドロゲル材に対するポリマー繊維の比率は、成分質量ベースで約1:100~約100:1(約1:50~約50:1など)または1:10~約10:1(1:5~約5:1など、例えば約1:3~約3:1)である。ハイドロゲル材に対するポリマー繊維の比率は、濃度ベースとして、例えば、ハイドロゲル材の体積当たりのポリマー繊維の定められた重量としても示される。例えば、その濃度は、約1~50mg/mLである。ハイドロゲル材は概して、ポリマー繊維の外面(組成及び形状に応じた外面)に結合させるなど、ポリマー繊維に配置してよい。本発明の足場複合体は概して、均一な固体材料ではない。その代わりに、足場複合体は、その足場複合体の表面上または表面内にある複数の孔を含む。その孔の有無、寸法、分布、密度及びその他のパラメーターは、足場複合体の作製時に調節できる。孔径は、約1μm未満~100μm以下(1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、10μm、15μm、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90または100μmを含む)であることができ、孔の少なくとも40%(50%、60%、70%、80%、90%、95%または95%超など)が、所望の寸法となるか、または所望の寸法の範囲内になるように、その寸法を狭く調整してもよい。
【0078】
本発明の足場複合体は、ヒト対象の組織に導入するのに適するので、概して「生体適合性」があり、生体適合性とは、生物系(ヒト対象で見られる系など)内の病態生理学的応答及び/またはその生物系による病態生理学的応答を誘発せずに、その生物系と相互作用できることを意味する。いくつかの実施形態では、本発明の足場複合体は、組織内で永続的に保持されるように供給する。あるいは、本発明の足場複合体は、ヒト対象において一過性に保持され、実質的に生分解性のものとして供給する。好ましくは、ポリマー繊維は、生体適合性の生分解性ポリエステルを含む。好ましい実施形態では、そのポリマー繊維は、ポリカプロラクトンを含む。
【0079】
本明細書に示されているように、ポリマー繊維及びハイドロゲルを含む複合体の相互作用の好ましい一形態は、概して、ポリマー繊維とハイドロゲル材の間に結合を導入するのに有効な量、例えば、ポリカプロラクトン繊維とヒアルロン酸との架橋を誘導するのに有効な量で存在する架橋部分を含む。
【0080】
軟組織の修復のための足場のデザイン
本発明の複合体の概念は、材料強化機構として広く用いられている。例えば、ヒドロキシアパタイト粒子をハイドロゲルに加えると、その剛性を向上させることができ{Wu 2008 Materials Chemistry and Physics 107.2(2008):364-369}、細長い粒子では、複合体の引張弾性率がさらに上昇する{Yusong 2007 Journal of Materials Science,42(13),5129-5134}。エレクトロスピニング紡糸ナノファイバーのメッシュは、トポグラフィーが天然型のECMに似ているために、ティッシュエンジニアリングの基材として広く用いられている。特に興味深いことに、脂肪組織からなる脱細胞化ECMは本質的に、高度な繊維状及び多孔質状のものである(
図6G){Young 2011.Acta Biomaterialia,7(3),1040-1049}。いくつかの最近の研究では、断片化したポリ(ラクチド)(PLA)繊維またはキトサン繊維をポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリルアミドまたはアルギネートのハイドロゲルに導入することによって、線維成分を再現することを目指している{Coburn 2011 Smart Structures and Systems,7(3),213;#37、Zhou 2011 Colloids and Surfaces B:Biointerfaces,54(1),155-162、Shin 2015 Journal of Materials Chemistry}。その断片化繊維をハイドロゲル前駆体溶液と混合して、ゲル化プロセスの間にハイドロゲルに導入し、3D構造を作製する。繊維が埋め込まれたこれらのハイドロゲルでは、対応するハイドロゲルよりも改善された機械的特性が示されている。しかしながら、宿主細胞の浸潤のin vivo試験に関する報告は存在しない。加えて、これらのハイドロゲルは、非分解性であり、脂肪細胞の接着及び分化には接着リガンドを要する。
【0081】
ナノファイバー-生体材料複合体のデザイン
ハイドロゲル相において高い空隙率を維持しながら、繊維による強化作用を得るために、他の足場と比べて優れた特性をもたらすエレクトロスピニング紡糸繊維-ハイドロゲル複合体を提供する。以前報告された、ナノファイバー及びハイドロゲルマトリックスのブレンド{Cobum 2011 Smart Structures and Systems,7(3),213}を上回るものとして、本発明で導入するのは、繊維表面とハイドロゲルの架橋網目構造との界面結合である(
図6)。このような複合体デザインにより、その固体繊維成分による機械的強化をさらに増強可能になるのみならず、ハイドロゲル相の塊状での機械的特性及び平均孔径/空隙率を独立して調整可能にもなり、最適な細胞浸潤特性及び構造的一体性の両方を得られる。繊維を、ASC及び内皮前駆細胞の好ましい細胞接着基材として用いることができること、すなわち、細胞の移動及びASCの分化を補佐するためのガイドとして機能することがさらに企図されている。
【0082】
所望の作用をさらに得られるように、本発明は、ナノファイバー間と、さらにはナノファイバーとハイドロゲルの間に架橋を導入するために、PEG架橋剤を含む。これにより、製品の耐久期間を延ばす助けとなり、最適な他の特性をもたらす目的で、架橋密度を調整可能になる。
【0083】
非球状ビーズ状製剤
当該技術分野において知られている他のダーマルフィラー組成物では、複合体/ハイドロゲルは、粒子製剤に形成されており、より高い濃度での各成分の使用及び安定性の向上が可能である。例えば、いくつかの市販されているハイドロゲルベースのフィラーは、これらのビーズを形成するためのブレンド方法である。この方法は、理想的ではない。ビーズの寸法及び形状をほとんど制御できないからである。
【0084】
本発明の変形形態では、ナノ粒子-ハイドロゲル足場マトリックスは、塊状の複合体ゲルとして形成される。提供するのは、その複合体をビーズ状ゲルとして導入することを含む改良策である。これにより、ユーザーが、所望の結果を得るために、ビーズ特性を変更可能になり(表1、
図4B、4C及び4D)、複合体の貯蔵弾性率が改善する(
図3)。
本発明では、1個、2個、3個または4個以上のメッシュスクリーンに通し、互いに形状及び寸法が比較的近い非球状ビーズの集団を作製するなどによって、予め形成したハイドロゲル-ナノファイバー複合体を物理的に調節する粒子化システムを導入する。この二重スクリーンシステムによって、ビーズの寸法を厳格に制御可能になるので、ユーザーが、必要に応じて寸法を調節できるようになる(表1)。
表1:予め形成した複合体を高い架橋密度(剛性)または低い架橋密度で混合し、両方の種類の粒子の利点(高い剛性、遅い分解速度、長い持続期間に対して、高い多孔質性、優れた細胞浸潤性及び血管新生性)を組みわせた。これらの2つの種類の複合体粒子の比率を調整して、本発明の様々な望ましい特質を組み合わせることができる。これらの最適化パラメーターに基づき、14個の製剤を作製し、試験が行われている。
【表1】
【0085】
事前に反応させた複合体
本明細書に記述されているように、記載されている本発明は、注射前または保存前に反応されている複合体を含む。本発明の以前の実施形態では、その製剤の成分は、対象に注射する直前に、エンドユーザーが混合するものであった。これにより、人的要因の煩雑さが生じ、例えば、ユーザーが調製及び作業を行わなければならなくなる。混合時間及び待機時間のばらつきにより、反応時間が変化し得るので、複合体の剛性が大きく変化する。
これにより、シリンジによって注射するには、ゲルが硬くなり過ぎたり、または充分に硬くならなかったりする可能性があり、対象に注射するときに、望ましくない特性が生じることがある。この問題に対処するために、本発明者は、事前に反応させた組成物であって、保存前に、その反応(例えばゲル化)を行う組成物を開発した。
【0086】
HA-Acを7mg/mL、マレイミドを含む繊維を8~10mg/mL、及びPEGSHを6.9m/mL含む製剤を大量に、37℃で完全に反応させる。本発明者は、製造の際に、ゲルを事前に反応させることによって、不安定な官能基を保護する必要性を排除し、エンドユーザーがよく混合及び硬化させる必要性を排除した。
【0087】
凍結乾燥
本発明は、本発明の複合体を保存する前に、凍結乾燥する工程を含む。凍結乾燥の導入により、機能を喪失せずに、製品を室温で長期間保存可能になる。実施形態では、本発明のビーズ状製品は、スクロース、トレハロース及び塩化ナトリウムの等張溶液で凍結乾燥する。これらの可変液は、乾燥プロセス中にミクロ構造を保護し、製品の貯蔵寿命を長くする。実施形態では、その凍結乾燥ゲルビーズは、保存後、水で再構成し、すぐに注射できる状態にできる。
【0088】
本発明の繊維-ハイドロゲル複合体のナノファイバー相の機械的特性は、大半のハイドロゲル成分とは対照的に、乾燥状態または凍結状態において実質的に変化しない。したがって、凍結または凍結乾燥中に、その繊維部分は、複合体のミクロ構造全体を保持するのを助けることができる。本発明の複合体は、正確な凍結乾燥サイクル及び調合により、再水和しても、個別のビーズとして維持される状態で、凍結乾燥することができる。
【0089】
新規性
特定の態様では、新規性は、事前に反応させた、ビーズ状のナノファイバー-ハイドロゲル複合体デザインであって、ナノファイバー表面とハイドロゲルの網目構造の間に架橋及び界面結合を有し、凍結乾燥できるとともに、再水和後にその組成を維持できる複合体デザインである。技術を駆使して作られたこの複合体には、そのハイドロゲル相の平均孔径を大きくは縮小させずに、そのハイドロゲルの機械的特性を大幅に改善させる可能性がある。界面結合の導入により、それらの2つの成分を物理的にブレンドするだけの場合と比べて、優れた機械的強度向上作用を得ることができる。今回の研究では、エレクトロスピニング紡糸ポリカプロラクトン(PCL)繊維-HAハイドロゲル複合体で得られる機械的特性(密度、空隙率及びせん断弾性率)の範囲を、ブレンドの場合と比較して明らかにするつもりである。
【0090】
重大な新規性は、本発明の複合材をin situで形成する際に、化学的性質を最適化することによって、炎症が軽減されることである。本発明者は、対象における炎症の原因となる化学的特性を特定し、この問題を軽減する新たな特性を有する組成物を作製することによって、本発明を先行研究よりも改善させた。本発明の以前の実施形態では、チオール化HA(HA-SH)及びアクリル化PEG架橋剤(PEGDA)を使用した。この実施形態では、対象において、
図1Cに示されているような急性免疫応答、及び注射後の炎症(
図1A及び1B)を含む芳しくない応答が見られた。代替的な組成物は、アクリル化HA(HA-Ac)及びチオール化PEG架橋剤(PEGSH)を含む。この反応性基の減少により、炎症問題に対する解決策が得られる。
図1A及び1Bには、本発明の以前の実施形態と比べて、及び他の市販のフィラーと比べて、このように改善されたことが示されている。
【0091】
別の新規性は、このようなナノファイバー-ハイドロゲル複合体が軟組織欠損部を回復させることが示された点である。予備的な特徴付けにより、本発明の複合体が、脂肪組織と構造的な特徴を共有していることが示された(
図6){Christman,2012 US 20120264190 A1、Young 2011.Acta Biomaterialia,7(3),1040-1049}。この複合体によって、軟組織の再生にとって重要な構造的一体性及び機械的特性が得られるという仮説が立てられた。この研究により、複合体が、ハイドロゲルと比べて、汎用性があり、効率的であることも示されている。
【0092】
別の態様では、重大な新規性は、細胞結合部分または組織結合部分をナノファイバー-ハイドロゲル複合材に導入することである。ペプチド、アプタマー、抗体、小分子またはその他の結合試薬を含むこれらの部分により、本発明の複合体が、局所的な創傷環境に由来する細胞、または体外から供給される細胞を組み込む能力が増強される。得られた、結合ナノファイバー、ハイドロゲル及び細胞の一体構造は、ナノファイバー-ハイドロゲル複合体単独よりも、天然型の組織に近い挙動を見せる。組み込まれた細胞要素(脂肪細胞、内皮細胞、周皮細胞及びその他の間葉細胞を含む)は、ナノファイバー-ハイドロゲル複合体及び周囲組織とより密接に結び付き、それらをリモデリングして、より自然で、耐久性のある修復を行うことができる。
【0093】
別の態様では、重大な新規性は、細胞とナノファイバー-ハイドロゲル複合材の結合である。結合した細胞要素(脂肪細胞、内皮細胞、周皮細胞及びその他の間葉細胞を含む)は、ナノファイバー-ハイドロゲル複合体及び周囲組織とより密接に結び付き、それらをリモデリングして、より自然で、耐久性のある修復を行う一方で、好適な機械的強度をもたらして、ECMを模倣することができる。
【0094】
別の態様では、重大な新規性は、組織とナノファイバー-ハイドロゲル複合材の結合である。脂肪組織のような、結合した組織は、ナノファイバー-ハイドロゲル複合体及び周囲組織とより密接に結び付き、それらをリモデリングして、より自然で、耐久性のある修復を行う一方で、好適な機械的強度をもたらして、ECMを模倣することができる。
【0095】
本発明の重大な新規性は、室温(15℃(59°F)~18℃(64°F))での複合体の安定性である。多くの市販のハイドロゲルまたはヒアルロン酸ベースのフィラーで見られる問題は、低温状態で保存しなければならないことである。これにより、保存できる時間の長さが限られるので、エンドユーザーがその製品を対象に投与できる時間枠が短くなる。この点における本発明の目的は、保存安定性の改善である。事前に反応させたビーズ状の製剤であって、凍結乾燥できるとともに、投与の際に再水和できる製剤を作ることで、この未充足ニーズが満たされる。
【0096】
このプロジェクトが成功を収めると、失われた軟組織量の回復のために、特に、血管網を確立し、組織の修復部位の完全性を維持し、細胞の移動及び構築を促し、宿主細胞を動員させることがすべて、持続可能な組織修復に欠かせない大規模な欠損に対して、画一的な解決策が得られることになる。この複合体デザインで用いられる材料成分、すなわち、HAハイドロゲル及び生分解性ポリエステル繊維の臨床での大きな実績とともに、組織適合性に関するこれらの予備的データから、優れた組織適合性が得られ、臨床応用のための薬事認可が容易になることがうかがえる。
【0097】
特徴:
いくつかの実施形態では、本発明は、ハイドロゲル成分におけるナノファイバーとポリマーの網目構造との架橋及び界面結合を提供する。これは、「真の」複合体の形成に重要である。このような繊維とハイドロゲルをブレンドしても、同程度の機械的増強は得られないことが示された。ナノファイバー-ハイドロゲルブレンドの使用に関しては、過去の報告もある。換言すると、重要なことに、架橋及び界面結合によって、この新規研究は、先行技術とは一線を画すものとなる。さらに、本発明の界面結合は、本明細書に示されているような共有結合、ならびに水素結合及び静電相互作用のような第2の結合を含むことができる。
【0098】
いくつかの実施形態では、本発明は、ナノファイバー-ハイドロゲル複合体内の間葉細胞結合要素であって、得られる複合体が間葉細胞を動員、捕捉及び/または包埋する能力を増強できる要素を提供する。細胞及びナノファイバー-ハイドロゲル複合体の両方からなる、得られる材料は、ナノファイバー-ハイドロゲル複合体単独よりも、天然型の組織に近い挙動を見せることができ、自然で、耐久性のある修復を行うことができる。
【0099】
いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の複合体構造体に導入する間葉細胞を提供する。任意に、これらの細胞は、当業者による日常的な臨床診療において、脂肪吸引物から得ることができる。脂肪細胞、間葉幹細胞、内皮前駆細胞、脂肪細胞前駆細胞、内皮細胞及び周皮細胞を含むこのような細胞を本発明のナノファイバー-ハイドロゲル複合体に導入して、天然型の軟組織を模する新規材料を作製できる。
【0100】
これは、当該技術分野において、等方性の強化を示す初めての研究成果であり、すなわち、本発明の複合体は、任意の幾何学形状をした体積的欠損を補うのに必要とされるように、あらゆる方向で強度が増している。ナノファイバーマットまたは少数の整列したフィラメントによるデザインは、本質的には異方性である。本発明のデザインは、等方性の材料及び異方性の材料の両方を形成できる。
【0101】
本発明では、足場の他の重要な物理的特性(強度及び貯蔵弾性率など)を保持した状態で、各成分の化学組成が、患者において炎症を軽減する目的で改変されている。[[これに関する詳細は、実施例に開示するものとする。特に重要なのは、この製剤におけるチオール基の位置(本発明の開示における節A2)が、感受性に大きな影響を有した点である。]]
【0102】
本明細書に示されている研究成果により、非球状マイクロビーズに調合される足場複合体が定められる。このビーズ化により、ゲルの保存安定性が改善され、その複合体の機能を改善できるとともに、それぞれ異なる目的のために、品質を変更できる他の特性を変動可能になる。
【0103】
本明細書に示されている研究成果により、エンドユーザーによる誤用の可能性を低下させるために、注射前に反応される足場複合体が定められる。複合体をin situで形成すると、ユーザーが調製及び作業を行わなければならなくなることを含め、人的要因の煩雑さが生じる。分単位の混合時間及び待機時間により、望ましくない剛性及び弾性となるなど、製剤の特性が影響を受ける(
図12A及び12B)。
【0104】
この点において、本発明では、ビーズ状の足場複合体を凍結乾燥して、室温で保存したときに、その複合体が安定するようできる工程を導入する(
図11)。そのビーズは、その元々の特性を保持したままで、使用前にすぐに再水和できる。既存のHAフィラーは、滅菌のために照射を行うことはできない。その水性環境により、HA鎖が過剰に切断されるからである。本発明の製品を保存前に凍結乾燥することにより、その組成物をさらに長期間保存可能になるのみならず、追加の最終滅菌方式、すなわち、γ線または電子線の照射も可能になる。
【0105】
本明細書に示されている研究成果、少なくとも特定の態様における研究成果により、細胞の移動及び宿主組織の侵入・成長に充分な孔径及び空隙率(ビーズ周囲及びビーズ内)を備えるハイドロゲルの網目構造、ならびに直径が50nm~10μmの範囲であるポリマー繊維を概ね含むナノファイバーである複合体を形成する際に用いる成分が定められる。
【0106】
ゲル/ハイドロゲル成分
実施形態では、本発明の足場複合体は、ハイドロゲルを含む複合体である。そのハイドロゲルは、いずれのタイプの好適なハイドロゲル成分も含むことができる。本発明では、当該技術分野において知られているいずれかの好適なハイドロゲル成分を含むいずれかの好適なゲル成分を含むナノ構造体/ゲル複合体が企図されている。そのゲル及び/またはハイドロゲルは、いずれかの好適な合成または天然の材料で形成できる。
【0107】
例えば、そのゲル及び/またはハイドロゲルのポリマー成分は、セルロースエステル、例えば、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)、酢酸酪酸セルロース(CAB)、プロピオン酸セルロース(CP)、酪酸セルロース(CB)、プロピオン酸酪酸セルロース(CPB)、二酢酸セルロース(CDA)、三酢酸セルロース(CTA)などを含むことができる。これらのセルロースエステルは、米国特許第1,698,049号、同第1,683,347号、同第1,880,808号、同第1,880,560号、同第1,984,147号、同第2,129,052号及び同第3,617,201号に記載されており、当該技術分野において知られている技法を用いて調製するか、または市販のものを入手してよい。本発明に適する市販のセルロースエステルとしては、CA320、CA398、CAB381、CAB551、CAB553、CAP482、CAP504が挙げられ、いずれも、Eastman Chemical Company,Kingsport,Tenn.から入手可能である。このようなセルロースエステルは典型的には、数平均分子量が約10,000~約75,000である。
【0108】
そのセルロースエステルは、セルロースモノマー単位とセルロースエステルモノマー単位の混合物を含み、例えば、市販の酢酸酪酸セルロースは、酢酸セルロースモノマー単位、ならびに酪酸セルロースモノマー単位及びエステル化されていないセルロース単位を含む。
【0109】
本発明のゲル/ハイドロゲルは、概してアクリル酸、メタクリル酸、酢酸メチル、酢酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル及び/またはその他のビニルモノマーから形成されるアクリレートポリマーのような他の水膨潤性ポリマーで構成されていてもよい。好適なアクリレートポリマーは、上記のように、Rohm Pharma(ドイツ)から「EUDRAGIT(登録商標)」という商品名で入手可能なコポリマーである。
EudragitシリーズE、L、S、RL、RS及びNEというコポリマーが、有機溶媒、水性分散液に可溶化されたものとして、または乾燥粉末として入手可能である。好ましいアクリレートポリマーは、Eudragit L及びEudragit Sシリーズのポリマーのような、メタクリル酸とメタクリル酸メチルのコポリマーである。特に好ましいこのようなコポリマーは、Eudragit L-30D-55及びEudragit L-100-55である(後者のコポリマーは、Eudragit L-30D-55の噴霧乾燥形態であり、水で再構成することができる)。Eudragit L-30D-55及びEudragit L-100-55というコポリマーの分子量は、約135,000Daであり、遊離カルボキシル基とエステル基の比率は、約1:1である。このコポリマーは概して、pHが5.5未満の水性流体に不溶である。別の特に好適なメタクリル酸-メタクリル酸メチルコポリマーは、Eudragit S-100であり、このコポリマーは、Eudragit L-30D-55とは、遊離カルボキシル基とエステル基の比率が約1:2である点が異なる。Eudragit S-100は、pH5.5未満では不溶であるが、Eudragit L-30D-55とは異なり、pHが5.5~7.0の範囲である水性流体にはわずかに可溶である。このコポリマーは、pH7.0以上では可溶である。Eudragit L-100も使用してよく、このコポリマーは、pH6.0未満で不溶性である範囲内で、Eudragit L-30D-55及びEudragit S-100の溶解プロファイルの中間のpH依存性溶解プロファイルを有する。Eudragit L-30D-55、L-100-55、L-100及びS-100は、同様のpH依存性溶解特性を有する他の許容されるポリマーと置き換えることができるのは当業者には明らかであろう。
【0110】
ヒアルロン酸(HA)
他の各種実施形態では、本発明の複合材は、ハイドロゲル材としてのヒアルロン酸(HA)をベースとしたものであることができる。HAは、ハイドロゲル成分を形成する二糖の繰り返し単位を有する直鎖状の非硫酸化多糖である。HAは、ヒト組織における細胞外マトリックスの非免疫原性な天然型の成分でもあり、審美的な手順及び再建手順においてダーマルフィラーとして広く用いられている。
【0111】
いくつかの実施形態では、ヒアルロン酸は、官能化されている。特定の実施形態では、ヒアルロン酸は、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、チオ、アクリレート、スルホネート、ホスフェート、アミド、及びこれらの改変形態(活性化形態または保護形態など)を含む基で官能化されている。
【0112】
HAの分解は、組織損傷及び炎症のある区域で発現が増加する天然型のヒアルロニダーゼによって促される。重要なことに、研究により、3~10個の二糖単位からなるHA分解小断片が、内皮細胞の増殖、移動、小管の形成及び血管新生の強力な制御因子であることが示されている。HAのこれらの生体機能は、Ras及びPKCが関与する経路において、CD44によって媒介されると考えられている。in vitroにおいて、抗CD44抗体を用いて、CD44/HAの相互作用を遮断したところ、ヒト微小血管内皮細胞の増殖及び移動が減少した。HAハイドロゲルは、細胞送達のための潜在的なマトリックスとして、細胞傷害及び組織傷害の様々なモデルにおいて研究されている。これらのハイドロゲルは、細胞の保護用足場及び支持足場として機能でき、瘢痕化を低減することもできる。したがって、HAには、細胞浸潤を促すとともに、血管新生を促すことによって、組織の再生を高める際の重要な役割があると考えられる。
【0113】
第1に、この材料は、天然型の脂肪組織と同程度の3次元完全性及び硬さを有する。これにより、失われた軟組織量を画一的に回復させるのに適する材料となっている。第2に、この材料は好ましくは、脂肪細胞及び内皮前駆細胞の移動のための基材として機能し得る複数の可撓性ナノファイバーとともに堆積し得る。第3に、この材料は、足場の周囲に線維性被膜を形成させるのではなく、これらの前駆細胞を足場に速やかに浸潤させて、その足場に組み込ませるのに充分な空隙率である。第4に、そのHAハイドロゲル成分は、圧縮及び体積膨張をもたらす一方で、重要な、血管形成のきっかけも供給する。第5に、そのナノファイバー成分及びハイドロゲル成分は、生分解性であり、再生された軟組織に置き換え可能である。第6に、すべての成分材料には、FDAから認可を受けた多くの用具において、優れた安全性の実績があり、臨床応用の際に規制上のハードルが下がる可能性がある。
【0114】
ヒアルロン酸の分子量は、複合体の全体的特性に影響を及ぼす(
図4B)。Allergan及びその他のダーマルフィラーメーカーも、製品の持続性に対するHA分子量の重要性を認識している。AllerganのJuvedermという製品は、分子量2.5MDaのHAで製造される。さらに、Juvedermの特許US8450475B2において、Allerganは、「本発明の典型的な実施態様では、低分子量HAに対する高分子量HAの割合は、少なくとも約2、好ましくは2超であり(w/w≧2)、高分子量HAの分子量は、1.0MDa超である。」と述べている。
【0115】
HAの開示としては、米国特許出願第12/393,884号、米国特許第6,921,819号(固体ヒアルロン酸(HA)の水和の際に、そのHAを多官能性リンカーと反応させることによって、そのHAを架橋するプロセス)、米国特許第6,685,963号(HAのアクリル粒子)、米国特許出願公開第200610194758号(高分子量及び低分子量のナトリウムHAを架橋することによって、ハイドロゲルを作製する方法)、米国特許出願公開第2009/0036403号(「調節可能に」架橋されたHAをもたらすための、4官能性PEGエポキシドによるHAの架橋)、米国特許出願公開第2009/0143331号(持続時間の延長されたフィラーを提供するために、コンドロイチン硫酸のような分解阻害剤を含むHAダーマルフィラー)、米国特許出願公開第2009/0143348号(ステロイドと組み合わせたHA)、ならびに米国特許出願公開第2009/0155314号(ボツリヌス毒素と組み合わせたHA)が挙げられる。加えて、米国特許出願公開第2009/0148527号には、マイクロスフェアのHA、同第2009/0093755号には、コラーゲンを用いて架橋されたHA、同第2009/0022808号には、タンパク質で被覆されたHAが開示されている。HAのさらなる開示としては、WO2009/034559(少なくとも1つのC-グリコシド誘導体を含む組成物で、皮膚を審美的及び/または修復的に治療するプロセス)、WO2009/024719(HA及びC-グリコシド誘導体を含む化粧品組成物及び医薬組成物であって、皮膚の凹部/陥没を充填し、体または顔のボリュームを回復させ、加齢の徴候を軽減するのに有用な化粧品組成物及び医薬組成物)、WO2007/128923(1つ以上の活性新油性及び/または両親媒性成分が制御放出される生体適合性ゲルを調製する方法)、米国特許出願公開第2009/0018102号(HA及び少なくとも1つのレチノイドまたはその塩/誘導体をオリゴ糖及びHA分解阻害剤と組み合わせて含む組成物であって、しわ、線、線維芽細胞の枯渇及び瘢痕を治療するための組成物)、米国特許第3,763,009号(アスコルビン酸、マルトース及び/またはオリゴ糖の混合物をAspergillus属、Penicillium属またはその他の菌に由来する酵素に暴露して、酵素によってその混合物をアスコルビン酸グルコシドに変換することによって、アスコルビン酸の酸化耐性を改善するプロセス)、米国特許第5,616,611号(直接還元活性を示さず、安定しており、医薬分野及び化粧品分野において安定剤、品質改良剤、抗酸化剤、生理活性剤、紫外線吸収剤として有用であるa-グリコシル-L-アスコルビン酸)、米国特許第5,843,907号(ビタミンC強化剤、食品、医薬及び化粧品に適する結晶性2-O-a-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸の作製及び使用)、EP0539196(高純度の2-O-a-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸の工業規模の調製)、ならびに米国特許出願公開第2002/0151711号が挙げられる。HA及び/またはビタミンC剤が組み込まれた市販の製品としては、MESOGLOW(登録商標)の製品、REVITACARE(登録商標)及びNCTF(登録商標)135/135 HA Mesotherapyの製品が挙げられる。上で引用した参照文献及び刊行物はそれぞれ個々に、参照により、その全体が本明細書に援用される。
【0116】
実施形態では、本発明のHAは、細菌発酵に由来する滅菌HAである。ヒアルロン酸は、Streptococcus菌のA群菌及びC群菌によって産生させることができる。
HAは免疫応答を開始させないので、Streptococcus zooepidemicusのような細菌は、それらの細胞をカプセル化し、分子擬態を行って、宿主の免疫系による検出を回避する手段として、HAを合成する(Boyce JD,Chung JY,Adler B, J Biotechnol.2000 Sep 29;83(1-2):153-60.、Wessels MR,Moses AE,Goldberg JB,DiCesare TJ,Proc Natl Acad Sci USA.1991 Oct 1;88(19):8317-21)。HAは、天然において、Streptococcus pyogenes、Streptococcus uberis、Pasteurella multocida及びCryptococcus neoformansを含む他の病原菌によっても産生される(Blank LM,Hugenholtz P,Nielsen LKJ Mol Evol.2008 Jul;67(1):13-22.、DeAngelis PL,Jing W,Drake RR,Achyuthan AM,J Biol Chem.1998 Apr 3;273(14):8454-8.、Jong A,Wu CH,Chen HM,Luo F,Kwon-Chung KJ,Chang YC,Lamunyon CW,Plaas A,Huang SH Eukaryot Cell.2007 Aug;6(8):1486-96)。
【0117】
細菌発酵によるHAの産生は、この20年にわたり、着実に進化してきた。開発の初期段階では、天然においてHAを産生するStreptococci A群及びC群を発酵槽で成長させ、HAを精製した。しかしながら、これらの細菌は、多くの毒素を産生するので、代わりの細菌が模索された。HA生合成経路をコードする遺伝子を特定したら、多くの細菌(Bacillus、Agrobacterium、E.coli及びLactococcus)を遺伝子改変して、これらの遺伝子を発現して、HAを産生するようにした。その後の研究では、培養培地及び培養条件の最適化に焦点が当てられた(Mao Z,Chen RR,Biotechnol Prog.2007 Sep-Oct;23(5):1038-42.、Wessels MR,Moses AE,Goldberg JB,DiCesare TJ,Proc Natl Acad Sci USA.1991 Oct 1;88(19):83 17-21.、Widner B,Behr R,Von Dollen S,Tang M,Heu T,Sloma A,Sternberg D,Deangelis PL,Weigel pH,Brown S,Appl Environ Microbiol.2005 Jul;71(7):3747-52、Sze,Brownlie,Love,3 Biotech.2016;6(1):67.doi:10.1007/s13205-016-0379-9)。
【0118】
活性剤の送達
本明細書に記載のゲル/ハイドロゲル組成物のいずれかを用いて、活性剤を含めて、それにより、活性剤を体表(例えば組織修復部位)に送る関連で、体表に塗布したときに、活性剤送達システムとして機能するようにしてよい。本発明のハイドロゲル組成物に「充填した」活性剤の放出は典型的には、膨潤制御式の拡散機序による、水の吸収及び活性剤の脱着の両方を伴う。活性剤を含むハイドロゲル組成物は、例として、経皮薬物送達システム、創傷包帯剤、局所医薬製剤、埋め込み型薬物送達システム、経口剤形などで採用し得る。
【0119】
本発明のハイドロゲル組成物に導入して、全身送達(例えば、経皮送達、経口送達または薬物の全身投与に適する他の剤形によって送達)し得る好適な活性剤としては、蘇生薬、鎮痛剤、麻酔薬、抗関節炎剤、抗喘息剤を含む呼吸器薬、抗腫瘍薬を含む抗がん剤、抗コリン剤、抗けいれん剤、抗うつ剤、抗糖尿病剤、止瀉薬、駆虫薬、抗ヒスタミン剤、抗高脂血症剤、抗高血圧剤、抗生剤及び抗ウイルス剤のような抗感染症剤、抗炎症剤、抗片頭痛調製剤、制吐剤、抗パーキンソン薬、止痒剤、抗精神病剤、解熱剤、鎮痙剤、抗結核剤、抗潰瘍剤、抗ウイルス剤、抗不安剤、食欲抑制剤、注意欠陥障害(ADD)及び注意欠陥・多動性障害(ADHD)の薬物、カルシウムチャネル遮断薬、抗狭心症剤、中枢神経系(CNS)剤、βブロッカー及び抗不整脈剤を含む心血管調整剤、中枢神経系刺激薬、うっ血除去剤を含む咳及び風邪に対する調整剤、利尿剤、遺伝物質、漢方薬、抗ホルモン薬、睡眠薬、血糖降下薬、免疫抑制剤、ロイコトリエン阻害剤、有糸分裂阻害剤、筋肉弛緩剤、麻薬拮抗薬、ニコチン、ビタミン、必須アミノ酸及び脂肪酸のような栄養剤、抗緑内障薬のような眼科薬、副交感神経遮断薬、ペプチド薬、精神刺激薬、鎮静薬、プロゲストゲン、エストロゲン、副腎皮質ステロイド、アンドロゲン及びタンパク同化剤を含むステロイド、禁煙剤、交感神経様作用薬、トランキライザー、ならびに心臓、末梢及び脳を含む血管の拡張剤が挙げられるが、これらに限らない。本発明の接着組成物が有用である具体的な活性剤としては、アナバシン、カプサイチン、硝酸イソソルビド、アミノスチグミン、ニトログリセリン、ベラパミル、プロプラノロール、シラボリン、フォリドン、クロニジン、シチシン、フェナゼパム、ニフェジピン、フルアシジン及びサルブタモールが挙げられるが、これらに限らない。
【0120】
局所薬物投与及び/または薬物添加クッション(例えば薬物添加フットパッド)用では、好適な活性剤としては、例として、以下のものが挙げられる。
【0121】
静菌剤及び殺菌剤:好適な静菌剤及び殺菌剤としては、例として、ヨウ素、ヨードポビドン複合体(すなわち、PVPとヨウ素の複合体、「ポビジン」ともいい、Betadineという商品名でPurdue Frederickから入手可能である)、ヨウ化物塩、クロラミン、クロロヘキシジン及び次亜塩素酸ナトリウムのようなハロゲン化合物、スルファジアジン、銀タンパク質アセチルタンネート、硝酸銀、酢酸銀、乳酸銀、硫酸銀及び塩化銀のような銀及び銀含有化合物、トリ-n-ブチルスズベンゾエートのような有機スズ化合物、亜鉛及び亜鉛塩、過酸化水素及び過マンガン酸カリウムのような酸化剤、ホウ酸フェニル水銀またはメルブロミンのようなアリール水銀化合物、チオマーサルのようなアルキル水銀化合物、チモール、o-フェニルフェノール、2-ベンジル-4-クロロフェノール、ヘキサクロロフェン及びヘキシルレゾルシノールのようなフェノール、ならびに8-ヒドロキシキノリン、クロルキナルドール、クリオキノール、エタクリジン、ヘキセチジン、クロルヘキセジン及びアンバゾンのような有機窒素化合物が挙げられる。
【0122】
抗生剤:好適な抗生剤としては、リンコマイシン系抗生剤(元々はstreptomyces lincolnensisから回収された種類の抗生剤を指す)、テトラサイクリン系抗生剤(元々はstreptomyces aureofaciensから回収された種類の抗生剤を指す)、及び硫黄ベースの抗生剤、すなわち、スルホンアミドが挙げられるが、これらに限らない。例示的なリンコマイシン系抗生剤としては、リンコマイシン、クリンダマイシン、例えば米国特許第3,475,407号、同第3,509,127号、同第3,544,551号及び同第3,513,155号に記載されているような関連化合物、ならびにそれらの薬理学的に許容される塩及びエステルが挙げられる。例示的なテトラサイクリン系抗生剤としては、テトラサイクリンそのもの、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、デメクロサイクリン、ロリテトラサイクリン、メタサイクリン及びドキシサイクリン、ならびにそれらの薬学的に許容される塩及びエステル、特に、塩酸塩のような酸付加塩が挙げられる。例示的な硫黄ベースの抗生剤としては、スルホンアミド、スルファセタミド、スルファベンズアミド、スルファジアジン、スルファドキシン、スルファメラジン、スルファメタジン、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、ならびにそれらの薬理学的に許容される塩及びエステル、例えばスルファセタミドナトリウムが挙げられるが、これらに限らない。
【0123】
鎮痛剤:好適な鎮痛剤は、局所麻酔剤であり、局所麻酔剤としては、アセトアミドオイゲノール、酢酸アルファドロン、アルファキサロン、アムブカイン、アモラノン、アミロカイン、ベノキシネート、ベトキシカイン、ビフェナミン、ブピバカイン、ブテタミン、ブタカイン、ブタンベン、ブタニリカイン、ブタリタール、ブトキシカイン、カルチカイン、2-クロロプロカイン、シンコカイン、コカエチレン、コカイン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジペロドン、ダイクロニン、エクゴニジン、エクゴニン、アミノ安息香酸エチル、塩化エチル、エチドカイン、エトキサドロール,β-オイカイン、ユープロシン、フェナルコミン、フォモカイン、ヘキソバルビタール、ヘキシルカイン、ヒドロキシジオン、ヒドロキシプロカイン、ヒドロキシテトラカイン、イソブチルp-アミノベンゾエート、ケタミン、ロイシノカインメシレート、レボキサドロール、リドカイン、メピバカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、メトヘキシタール、塩化メチル、ミダゾラム、ミルテカイン、ネパイン、オクタカイン、オルトカイン、オキセサゼイン、パレトキシカイン、フェナカイン、フェンシクリジン、フェノール、ピペロカイン、ピリドカイン、ポリドカノール、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロパニジド、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポフォール、プロポキシカイン、プソイドコカイン、ピロカイン、リソカイン、サリチルアルコール、テトラカイン、チアルバルビタール、チアミラール、チオブタバルビタール、チオペンタール、トリカイン、トリメカイン、ゾラミン及びこれらを組み合わせたものが挙げられるが、これらに限らない。テトラカイン、リドカイン及びプリロカインは、本明細書では鎮痛剤と称する。
【0124】
本発明のハイドロゲル組成物を薬物送達システムとして用いて送達し得る他の局所剤としては、ウンデシレン酸、トルナフテート、ミコナゾール、グリセオフルビン、ケトコナゾール、シクロピロックス、クロトリマゾール及びクロロキシレノールのような抗真菌剤と、サリチル酸、乳酸及び尿素のような角質溶解剤と、カンタリジンのような発疱薬と、有機ペルオキシド(例えば過酸化ベンゾイル)、レチノイド(例えば、レチノイン酸、アダパレン及びタザロテン)、スルホンアミド(例えばナトリウムスルファセタミド)、レゾルシノール、副腎皮質ステロイド(例えばトリアムシノロン)、α-ヒドロキシ酸(例えば、乳酸及びグリコール酸)、α-ケト酸(例えばグリオキシル酸)、ならびにとりわけニキビ治療に適応される抗菌剤(アゼライン酸、クリンダマイシン、エリスロマイシン、メクロサイクリン、ミノサイクリン、ナジフロキサシン、セファレキシン、ドキシサイクリン及びオフロキサシンを含む)のような抗ニキビ剤と、ハイドロキノン、コジック酸、グリコール酸及び他のα-ヒドロキシ酸、アルトカルピン、ならびに特定の有機ペルオキシドのような皮膚美白剤及び脱色剤と、いぼを治療するための薬剤(サリチル酸、イミキモド、ジニトロクロロベンゼン、ジブチルスクアリン酸、ポドフィリン、ポドフィロトキシン、カンタリジン、トリクロロ酢酸、ブレオマイシン、シドフォビル、アデフォビル及びそれらの類似体を含む)と、副腎皮質ステロイド、ならびに非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であって、このNSAIDには、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ベノキサプロフェン、インドプロフェン、ピルプロフェン、カルプロフェン、オキサプロジン、プラノプロフェン、スプロフェン、アルミノプロフェン、ブチブフェン、フェンブフェン及びチアプロフェン酸が含まれる。
【0125】
創傷包帯剤では、好適な活性剤は、創傷の治療に有用な活性剤であり、その活性剤としては、静菌化合物、殺菌化合物、抗生剤、鎮痛剤、血管拡張剤、組織治癒促進剤、アミノ酸、タンパク質、タンパク質分解酵素、サイトカイン及びポリペプチド成長因子が挙げられるが、これらに限らない。
【0126】
いくつかの活性剤の局所投与及び経皮投与、ならびに創傷包帯剤の場合には、薬剤が皮膚に浸透するかまたは皮膚を透過する速度を高めるために、透過促進剤を本発明のハイドロゲル組成物に導入するのが必要であるかまたは望ましいこともある。好適な促進剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びデシルメチルスルホキシドのようなスルホキシド、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Transcutolとして市販されている)及びジエチレングリコールモノメチルエーテルのようなエーテル、ラウリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、塩化ベンザルコニウム、Poloxamer(231、182、184)、Tween(20、40、60、80)及びレシチン(米国特許第4,783,450号)のような界面活性剤、1-置換アザシクロヘプタン-2-オン、特に1-n-ドデシルシクラザ-シクロヘプタン-2-オン(Azoneという商標でNelson Research & Development Co.,Irvine,Calif.から市販されている。米国特許第3,989,816号、同第4,316,893号、同第4,405,616号及び同第4,557,934を参照されたい)、エタノール、プロパノール、オクタノール、デカノール、ベンジルアルコールなどのようなアルコール、ラウリン酸、オレイン酸及び吉草酸のような脂肪酸、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、プロピオン酸メチル及びオレイン酸エチルのような脂肪酸エステル、プロピレングリコール、エチレングリコール、グリセロール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール及びポリエチレングリコールモノラウレート(PEGML、例えば米国特許第4,568,343号を参照されたい)のようなポリオール及びそのエステル、尿素、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、エタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンのようなアミド及びその他の窒素化合物、テルペン、アルカノン、ならびに有機酸、特にサリチル酸、サリチル酸塩、クエン酸及びコハク酸が挙げられる。2つ以上の促進剤の混合物も使用し得る。
【0127】
特定の他の実施形態では、ゲル(例えばハイドロゲル成分)及びナノ構造体を含む本発明の複合体組成物は、追加の任意の添加成分も含んでよい。このような成分は、当該技術分野において知られており、その成分としては、例えば、充填剤、保存剤、pH調整剤、軟化剤、増粘剤、顔料、色素、屈折性粒子、安定剤、強化剤、不粘着剤、医薬剤(例えば、抗生剤、血管新生促進剤、抗真菌剤、免疫抑制剤、抗体など)及び透過促進剤を挙げることができる。これらの添加剤及びそれらの量は、本発明のハイドロゲル組成物の所望の化学的及び物理的特性に有意には干渉しないような形で選択する。
【0128】
有益には、吸収性充填物を組み込んで、その接着剤が皮膚またはその他の体表上にあるときの水和度を制御してよい。このような充填物としては、微結晶性セルロース、タルク、ラクトース、カオリン、マンニトール、コロイダルシリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、疎水性デンプン、硫酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウム二水和物、織紙、不織紙及び木綿材を挙げることができる。他の好適な充填剤は、不活性、すなわち、実質的に非吸収性であり、この充填剤としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタンとポリエーテルアミドのコポリマー、ポリエステルとポリエステルのコポリマー、ナイロン及びレーヨンが挙げられる。
【0129】
本発明の組成物は、1つ以上の保存剤を含むことができる。保存剤としては、例として、p-クロロ-m-クレゾール、フェニルエチルアルコール、フェノキシエチルアルコール、クロロブタノール、4-ヒドロキシ安息香酸メチルエステル、4-ヒドロキシ安息香酸プロピルエステル、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、クロロヘキシジンジアセテート、クロロヘキシジングルコネート、エタノール及びプロピレングリコールが挙げられる。
【0130】
本発明の組成物は、pH調整化合物も含んでよい。pH調整剤として有用な化合物としては、グリセロール緩衝剤、クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤が挙げられるが、これらに限らず、または本発明のハイドロゲル組成物のpHが、個体の体表のpHと適合するようにする目的で、クエン酸-リン酸緩衝剤も含めてもよい。
【0131】
本発明の組成物は、好適な軟化剤も含んでよい。好適な軟化剤としては、クエン酸トリエチルもしくはクエン酸アセチルトリエチルのようなクエン酸エステル、酒石酸ジブチルのような酒石酸エステル、グリセロールジアセテート及びグリセロールトリアセテートのようなグリセロールエステル、フタル酸ジブチル及びフタル酸ジエチルのようなフタル酸エステル、及び/または親水性界面活性剤、好ましくは親水性非イオン性界面活性剤(例えば、糖の部分脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸アルコールエーテル及びポリエチレングリコールソルビタン-脂肪酸エステルなど)が挙げられる。
【0132】
本発明の組成物は、増粘剤も含んでよい。本発明における好ましい増粘剤は、天然化合物またはその誘導体であり、例として、コラーゲン、ガラクトマンナン、デンプン、デンプンの誘導体及び加水分解物、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロース誘導体、コロイド状ケイ酸、ならびにラクトース、スクロース、フルクトース及びグルコースのような糖が挙げられる。ポリビニルアルコール、ビニルピロリドン-ビニルアセテート-コポリマー、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのような合成増粘剤も使用してよい。
【0133】
特定の実施形態では、ハイドロゲル及びナノ構造体を含む本発明のハイドロゲル複合体は、血管新生を促す成分をさらに含む。本発明前における、臨床的に有意義な軟組織再生を実現するための難題は、再生される組織を好ましくは血管再生しなければならない点である。したがって、軟組織の再生を促すいずれかの材料は好ましくは、血管新生も促さなければならない。これを達成する方法の1つは、ヘパリンを含むハイドロゲル成分を使用することと考えられ、この成分は、血管新生及び組織の形成を促す成長因子を濃縮及び保持するための成長因子結合部位として機能できる。
【0134】
実施形態では、本発明の組成物は、抗体をさらに含み、抗体を送達する。「抗体」という用語は、本明細書では、最も広い意味で用いられており、抗原またはエピトープに特異的に結合する1つ以上の抗原結合ドメインを含む特定の種類の免疫グロブリン分子を含む。具体的には、抗体には、インタクトな抗体(例えば、インタクトな免疫グロブリン)、抗体断片及び多特異性抗体が含まれる。
【0135】
いくつかの実施形態では、その抗体は、1つの抗体を含む。いくつかの態様では、その抗体は、モノクローナル抗体である。いくつかの態様では、その抗体は、キメラ抗体である。いくつかの態様では、その抗体は、ヒト化抗体である。いくつかの態様では、その抗体は、ヒト抗体である。いくつかの態様では、その抗体は、抗体断片を含む。いくつかの実施形態では、その抗体は、代替足場を含む。
【0136】
「完全長抗体」、「インタクト抗体」及び「全抗体」という用語は、本明細書では、天然の抗体の構造と実質的に同様の構造を有するとともに、Fc領域を含む重鎖を有する抗体を指す目的で同義的に用いられている。例えば、「完全長抗体」は、IgG分子を指す目的で使用するときには、2本の重鎖及び2本の軽鎖を含む抗体である。
【0137】
「Fc領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域であって、天然抗体において、Fc受容体及び補体系の特定のタンパク質と相互作用する領域を意味する。様々な免疫グロブリンのFc領域、及びその領域に含まれる糖鎖付加部位の構造は、当該技術分野において知られている。Schroeder and Cavacini,J.Allergy Clin.Immunol.,2010,125:S41-52(参照により、その全体が援用される)を参照されたい。そのFc領域は、天然のFc領域、または当該技術分野または本開示の他の箇所で説明されているようにして改変されたFc領域であってよい。
【0138】
VH領域及びVL領域はさらに、より保存性の高い領域が間に挟み込まれた超可変性領域(「超可変領域(HVR)」、「相補性決定領域」(CDR)ともいう)に細分し得る。その、より保存性の高い領域は、フレームワーク領域(FR)という。それぞれのVH及びVLは概して、3つのCDR及び4つのFRを含み、これらは、(N末端からC末端に向かって)FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4という順に並んでいる。CDRは、抗原の結合に関与し、抗原の特異性及び抗体の結合親和性に影響を及ぼす。Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest 5th ed.(1991)Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(参照により、その全体が援用される)を参照されたい。
【0139】
いずれの脊椎動物種に由来する軽鎖も、その定常ドメインの配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)という2つの種類のうちの1つに割り当てることができる。
【0140】
いずれの脊椎動物種に由来する重鎖も、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMという5つの異なるクラス(すなわちアイソタイプ)のうちの1つに割り当てることができる。これらのクラスはそれぞれ、α、δ、ε、γ及びμとも称される。IgG及びIgAのクラスはさらに、配列及び機能の違いに基づき、サブクラスに分類される。ヒトは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2というサブクラスを発現する。
【0141】
当業者は、Kabatらの上記文献に記載のナンバリングスキーム(「Kabat」ナンバリングスキーム)、Al-Lazikani et al.,1997,J.Mol.Biol.,273:927-948(「Chothia」ナンバリングスキーム)、MacCallum et al.,1996,J.Mol.Biol.262:732-745(「Contact」ナンバリングスキーム)、Lefranc et al.,Dev.Comp.Immunol.,2003,27:55-77(「IMGT」ナンバリングスキーム)及びHonegge and Pliickthun,J.Mol.Biol.,2001,309:657-70(「AHo」ナンバリングスキーム)に記載されているものを含む多くの既知のナンバリングスキームのうちのいずれかを用いて、CDRのアミノ酸配列境界を求めることができ、上記の各文献は、参照により、その全体が援用される。
【0142】
「抗体断片」は、インタクト抗体の抗原結合領域または可変領域のような、インタクト抗体の一部を含む。抗体断片としては、例えば、Fv断片、Fab断片、F(ab’)2断片、Fab’断片、scFv(sFv)断片及びscFv-Fc断片が挙げられる。
【0143】
「Fv」断片は、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインが非共有結合で連結したダイマーを含む。
【0144】
「Fab」断片は、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインに加えて、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1定常ドメイン(CH1)を含む。Fab断片は、例えば、組み換え法または完全長抗体のパパイン消化によって作製し得る。
【0145】
「F(ab’)2」断片は、2つのFab’断片が、ヒンジ領域の近くで、ジスルフィド結合によって連結されたものを含む。F(ab’)2断片は、例えば、組み換え法またはインタクト抗体のペプシン消化によって作製し得る。F(ab’)断片は、例えば、1-メルカプトエタノールによる処理によって解離できる。
【0146】
「一本鎖Fv」、「sFv」または「scFv」抗体断片は、1本のポリペプチド鎖にVHドメイン及びVLドメインを含む。そのVH及びVLは概して、ペプチドリンカーによって連結されている。Pliickthun A.(1994)の文献を参照されたい。いずれの好適なリンカーも使用し得る。いくつかの実施形態では、そのリンカーは、(GGGGS)n(配列番号127)である。いくつかの実施形態では、nは、1、2、3、4、5または6である。Antibodies from Escherichia coli.In Rosenberg M. & Moore G.P.(Eds.),The Pharmacology of Monoclonal Antibodies vol.113(pp.269-315).Springer-Verlag,New York(参照により、その全体が援用される)を参照されたい。
【0147】
「scFv-Fc」断片は、scFvがFcドメインに結合されたものを含む。例えば、Fcドメインは、scFvのC末端に結合し得る。そのFcドメインは、そのscFvにおける可変ドメインの向き(すなわち、VH-VLまたはVL-VH)に応じて、VHまたはVLの後に位置してもよい。当該技術分野において知られているかまたは本明細書に記載されているいずれの好適なFcドメインも使用し得る。場合によっては、そのFcドメインは、IgG4 Fcドメインを含む。
【0148】
「単一ドメイン抗体」という用語は、抗体の1つの可変ドメインが、他の可変ドメインの非存在下で、抗原に特異的に結合する分子を指す。単一ドメイン抗体及びその断片は、Arabi Ghahroudi et al.,FEBS Letters,1998,414:521-526及びMuyldermans et al.,Trends in Biochem.Sci.,2001,26:230-245に記載されており、この各文献は、参照により、その全体が援用される。単一ドメイン抗体は、sdAbまたはナノボディとしても知られている。
【0149】
「多特異性抗体」は、2つ以上の異なるエピトープに一緒に特異的に結合する2つ以上の異なる抗原結合ドメインを含む抗体である。その2つ以上の異なるエピトープは、同じ抗原(例えば、細胞によって発現される単一のTIGIT分子)または異なる抗原(例えば、同じ細胞によって発現される異なるTIGIT分子、もしくはTIGIT分子及びTIGIT以外の分子)上のエピトープであってよい。いくつかの態様では、多特異性抗体は、2つの異なるエピトープと結合する(すなわち「二重特異性抗体」)。いくつかの態様では、多特異性抗体は、3つの異なるエピトープと結合する(すなわち「三重特異性抗体」)。いくつかの態様では、多特異性抗体は、4つの異なるエピトープと結合する(すなわち「四重特異性抗体」)。いくつかの態様では、多特異性抗体は、5つの異なるエピトープと結合する(すなわち「五重特異性抗体」)。いくつかの態様では、多特異性抗体は、6つ、7つ、8つまたは9つ以上の異なるエピトープと結合する。それぞれの結合特異性は、いずれかの好適な価数で存在し得る。
【0150】
「単特異性抗体」は、単一のエピトープに特異的に結合する1つ以上の結合部位を含む抗体である。単特異性抗体の例は、2価である(すなわち、2つの抗原結合ドメインを有する)が、その2つの抗原結合ドメインのそれぞれにおいて、同じエピトープを認識する天然のIgG分子である。結合特異性は、いずれかの好適な価数で存在し得る。
【0151】
「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得た抗体を指す。実質的に均一な抗体の集団は、モノクローナル抗体の作製中に通常発生し得るバリアントを除き、実質的に同種であり、同じエピトープ(複数可)と結合する抗体を含む。このようなバリアントは概して、微量しか存在しない。モノクローナル抗体は典型的には、複数の抗体から単一抗体を選択することを含むプロセスによって得られる。例えば、その選択プロセスは、ハイブリドーマクローン、ファージクローン、酵母クローン、細菌クローンまたはその他の組み換えDNAクローンのプールのような複数のクローンから特有のクローンを選択することであることができる。その選択した抗体をさらに改変して、例えば、標的に対する親和性を改善し(「親和性成熟」)、抗体をヒト化し、細胞培養の際のその産生を向上させ、及び/または対象でのその免疫原性を低下させることができる。
【0152】
「キメラ抗体」という用語は、重鎖及び/または軽鎖の一部が、特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖及び/または軽鎖の残部が、異なる供給源または種に由来する抗体を指す。
【0153】
非ヒト抗体の「ヒト化」形態は、その非ヒト抗体に由来する最小配列を含むキメラ抗体である。ヒト化抗体は概して、ヒト抗体(レシピエント抗体)の1つ以上のCDRに由来する残基が、非ヒト抗体(ドナー抗体)の1つ以上のCDRに由来する残基に置き換えられているヒト抗体である。そのドナー抗体は、所望の特異性、親和性または生体作用を有するマウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、トリ抗体またはヒト以外の霊長類動物抗体のようないずれの好適な非ヒト抗体であることができる。場合によっては、レシピエント抗体の所定のフレームワーク領域残基が、ドナー抗体由来の対応するフレームワーク領域残基によって置き換えられている。ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体のいずれでも見られない残基も含み得る。このような改変を行って、抗体機能をさらに高めてよい。さらなる詳細については、Jones et al.,Nature,1986,321:522-525、Riechmann et al.,Nature,1988,332:323-329及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.,1992,2:593-596を参照されたい(各文献は、参照により、その全体が援用される)。
【0154】
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体、またはヒト抗体レパートリーもしくはヒト抗体コード配列(例えば、ヒト供給源から得たかもしくはde novo設計した配列)を利用する、ヒト以外の供給源から得られる抗体である。ヒト抗体からはヒト化抗体が明確に除外される。
【0155】
実施形態では、本明細書に記載されている組成物によって供給する抗体または抗原結合タンパク質は、特定の種類の宿主細胞を標的とする。実施形態では、その抗体は、細菌細胞または真菌細胞のような非宿主細胞に結合する。実施形態では、その抗体またはADPは、少なくとも二重特異性であり、少なくとも2つの宿主標的に結合する。実施形態では、その抗体またはADCは、少なくとも二重特異性であり、少なくとも1つの宿主標的及び1つの非宿主標的に結合する。実施形態では、その抗体またはADPは、単特異性または二重特異性である。実施形態では、その抗体は、三重特異性または四重特異性である。
【0156】
実施形態では、その抗体は、受容体をアゴナイズする。実施形態では、その抗体は、受容体をアンタゴナイズする。
【0157】
実施形態では、本発明で提供する組成物は、送達するための細胞を含む。いくつかの実施形態では、その細胞は、その細胞を投与される対象に由来する。いくつかの態様では、その細胞は、その細胞を投与される対象以外の供給源に由来する。いくつかの態様では、その細胞は、細胞株に由来する。いくつかの態様では、その細胞は、ヒト供給源に由来する。いくつかの態様では、その細胞は、ヒト化動物供給源に由来する。
【0158】
いくつかの態様では、供給するその細胞は、幹細胞である。
【0159】
いくつかの態様では、供給するその細胞は、脂肪細胞(fat cell)(脂肪細胞(adipocyte))である。いくつかの態様では、供給するその細胞は、筋肉細胞、神経細胞、皮膚細胞または臓器細胞である。いくつかの態様では、供給するその細胞は、肝臓細胞、膵臓細胞、心臓細胞、肺細胞、食道細胞、内皮細胞または上皮細胞である。
【0160】
いくつかの態様では、供給するその細胞は、免疫細胞である。いくつかの実施形態において供給する免疫細胞は、T細胞またはB細胞である。いくつかの実施形態では、その供給する細胞は、CD-8+T細胞である。いくつかの実施形態では、その供給する細胞は、CD-4+T細胞である。
【0161】
いくつかの態様では、その供給する細胞は、インスリン、コラーゲンまたは抗体のような有用な物質を産生する。いくつかの実施形態では、この能力は、組み換えDNAによって導入する。
【0162】
いくつかの実施形態では、本発明で提供する組成物は、送達するための小分子をさらに含み、その小分子は、生物活性剤である。いくつかの実施形態では、その小分子は、疾患の診断、治癒、緩和、治療もしくは予防における薬理活性もしくは別の直接的作用を引き起こすことができるか、または体の構造または機能に作用を及ぼすことができる。
【0163】
本発明のゲル/ハイドロゲル/ナノ構造体複合体は、上皮細胞成長因子(EDF)、PDGF及び神経成長因子(NGF)を含む数ある成長因子のような組織修復剤も含むことができる。例えば、本発明の組成物は、EGFを含んでよい。上皮細胞成長因子(EGF)は、実験用マウスの皮膚創傷が、そのマウスに創傷を舐めさせた方が速やかに治癒するように見えることが観察された後に発見された。これは単に、唾液中の何らかの殺菌作用物質(リゾチームなど)によるものではなかった。今日ではEGFとして知られている特定の成長因子が原因であることが示された。EGFは、ウロガストロンと同一であり、血管新生特性を有する。トランスフォーミング成長因子-α(TGFα)は、非常に似ており、同じ受容体に結合し、上皮細胞の再生(上皮形成)を刺激する効果がより一層高い。
【0164】
したがって、EGF/TGFを含む本発明のハイドロゲルは有益なことに、創傷及び熱傷の治癒の加速、(特に熱傷の際の)ケロイド瘢痕の形成の低減、皮膚生着用包帯剤、ならびに慢性下腿潰瘍の治療で使用し得る。
【0165】
本発明で有用な組織修復剤としては、上皮細胞成長因子(EDF)、PDGF及び神経成長因子(NGF)を含む多くの成長因子が挙げられる。概して、成長促進ホルモンは、1~4個の組織に作用することになる。このようなタンパク質から開発された製品の多くは、ある種の創傷修復を対象としているが、他の適応症が存在する。特に重要な組織成長因子のうちのいくつかについては、下記にさらに説明されている。
【0166】
本発明のゲル/ナノ構造体組成物は、組織の修復方法及び本発明の他の用途で有用であり得る1つ以上の成長因子も含んでよい。
【0167】
例えば、本発明では、PDGFを本発明の組成物に含めることが企図されている。血小板由来成長因子(PDGF)は、ほぼすべての間葉由来細胞、すなわち、血液、筋肉、骨、軟骨及び結合組織細胞に対するマイトジェンである。PDGFは、AAホモダイマーもしくはBBホモダイマーとして、またはABヘテロダイマーとして存在するダイマーの糖タンパク質である。多くの成長因子と同様に、PDGFは今日では、より大きい因子ファミリーのメンバーとみなされている。PDGFに加えて、このファミリーには、ホモダイマー因子である血管内皮成長因子(VEGF)及び胎盤成長因子(PIGF)、VEGF/PIGFヘテロダイマー、ならびにヒト血管内皮細胞及び線維芽細胞によって分泌されるPDGF様因子である結合組織成長因子(CTGF)が含まれる。PDGFは今日では、NGF、TGFβ、及びヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)のような糖タンパク質ホルモンとともに、システインノット成長因子スーパーファミリーのメンバーとして分類されている。これらの因子のいずれも、本発明のハイドロゲルと併せて使用し得る。
【0168】
PDGFは、血小板によって産生され、血液凝固の過程で放出される。PDGFは、これらの細胞に由来する成長因子の1つに過ぎない。PDGFは、線維芽細胞及び白血球を傷害部位に引き寄せるとともに、置換結合組織(主に線維芽細胞及び平滑筋細胞)の成長を刺激する。PDGFは、コラーゲンを産生する細胞を含む様々な細胞において細胞分裂を刺激し、その結果、血管新生を促す。PDGFは、有糸分裂誘発、血管収縮、走性、酵素活性及びカルシウム動員も刺激する。
【0169】
血小板由来成長因子を用いて、本発明の組成物を用いる特定の治療の際に、骨及び軟組織の再成長を回復するとともに、慢性創傷及び急性創傷の治癒プロセスを加速し得る。したがって、本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物は有益なことに、血小板由来成長因子カクテルを含んでよい。
【0170】
本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、例えば、PDGF遺伝子を局所送達するための遺伝子療法で使用し得る。PDGFをコードするプラスミドDNAは、ハイドロゲルマトリックス及び肉芽組織線維芽細胞(創傷周囲の生組織に由来し、増殖し、マトリックスの中まで移動し、プラスミド遺伝子の移入及び発現の標的として働く)に組み込まれる。
【0171】
本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、血管新生を促すためにVEGFも含み得る。血管内皮成長因子(VEGF--血管透過性因子としても知られている)は、多機能な血管新生サイトカインである別の血管成長因子である。VEGFは、微小血管レベルで内皮細胞の増殖を刺激し、その細胞を移動させて、その遺伝子発現を変化させることによって、間接的にも直接的にも血管新生(血管成長)に寄与する。VEGFは、これらの内皮細胞の透過性を亢進して、その細胞に血漿タンパク質を血管腔外に放出させ、これにより、その区域を変化させ、血管新生に寄与する。
【0172】
本発明の組成物は、FGFも含んでよい。線維芽細胞成長因子(FGF)は実際には、ヘパリン結合成長因子ファミリーに属する少なくとも19個の14~18kDのペプチドからなるファミリーであり、培養した線維芽細胞及び血管内皮細胞に対してマイトジェン作用を示す。FGFは、in vivoにおいて血管新生性でもあり、この血管新生性は、TNFによって増強される。FGFは、EGFと同様の形で使用し得る。bFGFは、FGF-2としても知られており、ヒトの巨核球造血の制御に関与し、FGFは、内皮細胞の形成を刺激するのに有効であるとともに、結合組織の修復を補佐するのに有効であることが示されている。
【0173】
ハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、創傷の治癒、及び上皮細胞の破壊を伴うその他の傷害に使用するために、FGF-7としても知られるケラチノサイト成長因子(KGF)も含んでよい。
【0174】
トランスフォーミング成長因子(TGF)は、様々な細胞株を形質転換する能力を有し、例えば、培養下で、制限を超えた世代数にわたって成長する能力、単層ではなく多層での成長、及び異常な核型の発生をもたらし得る。TGFファミリーには、少なくとも5つのメンバーが存在し、特に広く研究されている2つのメンバーは、TGF-α及びTGF-βである。TGF-αは、線維芽細胞及び内皮細胞に対してマイトジェン作用を示し、血管新生性があり、骨吸収を促進する。組成物は、TGFも含んでよい。TGF-βは、細胞調節の一般的なメディエーター、細胞成長の強力な阻害因子であり、多くの種類の細胞の増殖を阻害する。TGF-βは、他のペプチド成長因子のマイトジェン作用をアンタゴナイズでき、多くの腫瘍細胞株の成長を阻害することもできる。TGF-βは、血管新生作用も有し、線維芽細胞においてコラーゲンの形成を促す。本発明のハイドロゲルの適応症には、糖尿病患者における神経栄養性足潰瘍のような慢性皮膚潰瘍が含まれる。他の領域としては、創傷の治癒、骨の修復及び免疫抑制疾患が挙げられる。
【0175】
本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物を用いて、例えば、好適な細胞を担持し得る。これら細胞は、創傷またはその他の好適な区域に適用する直前に、そのゲルに導入して、有効性を最大化し得る。好適な細胞としては、自己線維芽細胞及びケラチノサイトが挙げられ、これらは、真皮及び表皮の形成を主に担うものである。1種類の細胞をそれぞれ含む別々のゲルを連続してもしくは一緒に適用してよく、または1つのゲルが両方の種類の細胞を含んでもよいが、これは概して、前者よりも好ましくない。
【0176】
本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物は有用なことに、例えばコラーゲンを含んでよい。コラーゲンは、この形態では、有用な構造的機能を発揮する可能性が低いが、望ましくないことにタンパク質分解活性が高い場合に、主として犠牲タンパク質として機能し、それにより、例えば、健常組織の浸軟を防ぐのを助ける。
【0177】
ハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、特定の酵素を含むこともできる。酵素は、急性創傷及び慢性創傷の両方の壊死組織除去で用いられている。壊死組織除去は、創傷から壊死組織及び異物を除去することであり、創傷修復プロセスにおいては天然の事象である。炎症期では、好中球及びマクロファージが、創傷区域の「使用済みの」血小板、細胞破片及び無血管の傷害組織を消化して、創傷区域から除去する。しかしながら、かなりの量の損傷組織が蓄積すると、この天然のプロセスは、追いつかなくなり、不十分になる。そして、壊死組織の増加により、創傷に対する食細胞の必要性が相当大きくなり、創傷の治癒が遅くなる。このため、壊死組織の除去は、局所療法の具体的な目標及び最適な創傷管理の重要な構成要素である。
【0178】
例えば、局所適用向けに、酵素を本発明のハイドロゲルに組み込んで、選択的な壊死組織除去法を行ってよい。好適な酵素は、オキアミ、カニ、パパイヤ、ウシ抽出物及び細菌のような様々な供給源に由来するものであってよい。好適な市販の酵素としては、コラゲナーゼ、パパイン/尿素、及びフィブリノリジンとデオキシリボヌクレアーゼを組み合わせたものが挙げられる。
【0179】
本発明で用いる酵素は概して、かさぶたの構成要素(例えば、フィブリン、細菌、白血球、細胞破片、漿液滲出液、DNA)を直接消化することによる方法、または無血管組織を下の創傷床に固定するコラーゲン「アンカー」を溶解することによる方法という2つの方法のうちの1つで機能する。
【0180】
本発明のハイドロゲルは、所望の場合、概して、抗微生物作用及び臭気制御力を発揮するために、デーキン液を含み得る。壊死組織除去剤としては、デーキン液は、その細胞毒性特性により、非選択的なものである。デーキン液は、タンパク質を変性させ、そのタンパク質が創傷からさらに容易に除去されるようにする。かさぶたの密度を粗くすると、他の方法による壊死組織除去も容易になる。壊死組織除去が目的である場合、デーキン液を含むハイドロゲルは、1日に2回変更してよい。創傷周囲の皮膚の保護は概して、例えば、軟膏剤、液体皮膚バリア膜包帯剤または固体皮膚バリアウエハーで行うべきである。
【0181】
本発明のゲルは、シリンジもしくは蛇腹パック(単回用量送達システム)、または加圧式送達システムのような複数回投与システム、あるいは「バッグ内蔵式の缶」タイプのシステム(WO98/32675で公開されたようなシステム)による送達などのいずれかの好適な方法によって送達し得る。蛇腹パックの例は、英国意匠公開第2082665号に示されている。
【0182】
したがって、本発明は、創傷の治療用に、本発明によるゲルを含む単回用量送達システムにも及ぶ。本発明は、本発明によるゲルを含む加圧式送達システム、及びエアゾール容器内の、本発明による加圧ハイドロゲルであって、その容器から圧力が解放されると噴霧できるハイドロゲルにも及ぶ。このような送達手段の使用により、患者の区域のうち、直接的な塗布によっては届きにくい区域(患者が横たわっているときの患者の背中など)にゲルを送達可能になる。
【0183】
特定の実施形態では、生体用電極及びその他の電気療法の関連で使用するために、すなわち、電極またはその他の導電性部材を体表に取り付けるために、本発明のハイドロゲル組成物を導電性にするのが有益なことがある。例えば、本発明のハイドロゲル組成物を用いて、経皮的神経刺激電極、電気手術用リターン電極またはEKG電極を患者の皮膚または粘膜組織に取り付けてよい。これらの用途には、導電性の化学種を含むように、本発明のハイドロゲル組成物を改変することが伴う。好適な導電性の化学種は、イオン伝導性電解質、特に、通常、皮膚またはその他の体表に塗布するのに使われている導電性接着剤の製造に用いられるものであり、イオン化可能な無機塩、有機化合物またはこれらの両方を組み合わせたものが挙げられる。イオン伝導性電解質の例としては、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、酢酸モノエタノールアミン、酢酸ジエタノールアミン、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化リチウム、過塩素酸リチウム、クエン酸ナトリウム及び塩化カリウム、ならびに第二鉄塩及び第一鉄塩(硫酸塩及びグルコン酸塩など)の混合物のような酸化還元対が挙げられるが、これらに限らない。好ましい塩は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム及び酢酸マグネシウムであり、EKG用途では、塩化カリウムが最も好ましい。本発明の接着剤組成物には、実質的にいずれの量の電解質も存在してよいが、いずれの電解質も、本発明のハイドロゲル組成物の約0.1~約15重量%の範囲の濃度で存在するのが好ましい。Nielsenらの米国特許第5,846,558号に記載されている、生体用電極の作製手順を、本発明のハイドロゲル組成物で用いるために改変してよく、その特許の開示内容は、参照により、製造法の詳細に関して援用される。当業者には明らかなように、他の好適な作製手順も使用し得る。
【0184】
架橋
特定の用途、特に、高い凝集力が所望されるときには、本発明のゲル/ハイドロゲルのポリマーは、共有架橋されていてよい。本開示では、架橋は、本発明のゲル/ハイドロゲル成分のポリマー間の架橋が望ましいこともあるが、架橋は、本発明の複合材のゲル/ハイドロゲルのポリマーとナノ構造体成分の間の架橋が望ましいこともあることが企図されている。本発明では、ポリマーを互いに架橋するとともに、本発明のゲル/ハイドロゲルポリマーと、本発明のナノ構造体成分を架橋するためのいずれの好適な手段も企図されている。本発明のゲル/ハイドロゲルポリマーは、他のポリマーまたは本発明のナノ構造体に、分子内におけるか、分子間におけるか、または共有結合を介するかのいずれかで共有架橋されていてもよい。前者の場合には、本発明のポリマーは、互いにまたは本発明のナノ構造体に共有結合されておらず、後者の場合には、本発明のポリマーは、互いにまたは本発明のナノ構造体に共有架橋結合されている架橋は、加熱、放射線照射または化学硬化(架橋)剤を使用することを含め、いずれかの好適な手段を用いて形成し得る。架橋度は、圧縮下でのコールドフローを排除するかまたは少なくとも最小限にするのに充分でなければならない。架橋には、架橋プロセスで使用する第3の分子である「架橋剤」の使用も含まれる。
【0185】
「架橋剤(Cross-linker)」または「架橋剤(Cross-linking agent)」は好適なことに、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、例えば、チオール化ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)またはこれらの誘導体の群から選択し得る。
【0186】
熱架橋では、フリーラジカル重合開始剤を使用し、その開始剤は、従来からビニル重合で用いられている既知のフリーラジカル生成開始剤のうちのいずれであることもできる。
好ましい開始剤は、有機ペルオキシド及びアゾ化合物であり、概して、重合可能な材料の約0.01重量%~15重量%、好ましくは0.05重量%~10重量%、より好ましくは約0.1重量%~約5%、最も好ましくは約0.5重量%~約4重量%の量で使用する。好適な有機ペルオキシドとしては、t-ブチルペルオキシド及び2,2ビス(t-ブチルペルオキシ)プロパンのようなジアルキルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド及びアセチルペルオキシドのようなジアシルペルオキシド、t-ブチルペルベンゾエート及びt-ブチルペル-2-エチルヘキサノエートのようなペルエステル、ジセチルペルオキシジカーボネート及びジシクロヘキシルペルオキシジカーボネートのようなペルジカーボネート、シクロヘキサノンペルオキシド及びメチルエチルケトンペルオキシドのようなケトンペルオキシド、ならびにクメンヒドロペルオキシド及びtert-ブチルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシドが挙げられる。好適なアゾ化合物としては、アゾビス(イソブチロニトリル)及びアゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。熱架橋温度は、実際の成分に左右されることになり、当業者が容易に推定し得るが、典型的には、約80℃~約200℃の範囲である。
【0187】
架橋は、典型的には光開始剤の存在下で、放射線照射によって行ってもよい。その放射線照射は、紫外線、α線、β線、γ線、電子線及びX線の照射であってよいが、紫外線の照射が好ましい。有用な光増感剤は、「水素引き抜き」型の三重項増感剤であり、その光増感剤としては、ベンゾフェノン及び置換ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタール、4-アクリルオキシベンゾフェノン(ABP)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジエトキシアセトフェノン及び2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンのようなアセトフェノン、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノンのような置換α-ケトール、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテルのようなベンゾインエーテル、アニソインメチルエーテルのような置換ベンゾインエーテル、2-ナフタレンスルホニルクロリドのような芳香族スルホニルクロリド、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシ-カルボニル)-オキシムのような光活性オキシム、アルキル置換チオキサントン及びハロゲン置換チオキサントンを含むチオキサントン(2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4ジメチルチオキサントン、2,4ジクロロチオキサントン及び2,4-ジエチルチオキサントンなど)、ならびにアシルホスフィンオキシドが挙げられる。本発明で用いるには、波長が200~800nm、好ましくは200~500nmである放射線が好ましく、大半の場合、架橋を誘導するには、低強度の紫外光で充分である。しかしながら、水素引き抜き型の光増感剤では、充分な架橋をもたらすには、高強度のUVへの暴露が必要な場合がある。このような暴露は、PPG、Fusion、Xenonなどから入手可能なような水銀ランププロセッサーによって行うことができる。架橋は、γ線または電子線の照射によっても誘導し得る。適切な照射パラメーター、すなわち、架橋を行うために用いる放射線の種類及び線量は、当業者には明らかであろう。
【0188】
好適な化学硬化剤(化学架橋「促進剤」ともいう)としては、2,2-ジメルカプトジエチルエーテル、ジペンタエリトリトールヘキサ(3-メルカプトプロピオネート)、エチレンビス(3-メルカプトアセテート)、ペンタエリトリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラチオグリコレート、ポリエチレングリコールジメルカプトアセテート、ポリエチレングリコールジ(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリ(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリチオグリコレート、トリメチロールプロパントリ(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリチオグリコレートのようなポリメルカプタン、ジチオエタン、ジチオプロパンまたはトリチオプロパン、及び1,6-ヘキサンジチオールが挙げられるが、これらに限らない。架橋促進剤は、未架橋の親水性ポリマーに加えて、その共有架橋を促すか、または未架橋の親水性ポリマーと相補的オリゴマーのブレンドに加えて、これらの2つの成分間の架橋をもたらす。
【0189】
本発明のポリマー及び/またはナノ構造体は、相補的オリゴマーに添加混合する前に架橋してもよい。このような場合には、多官能性コモノマーを有するポリマーにモノマー前駆体を添加混合し、共重合することによって、ポリマーを架橋形態で合成するのが好ましいこともある。モノマー前駆体及び対応するポリマー生成物の例は、N-ビニルアミド前駆体に対する生成物ポリ(N-ビニルアミド)、N-アルキルアクリルアミドに対する生成物ポリ(N-アルキルアクリルアミド)、アクリル酸に対する生成物ポリアクリル酸、メタクリル酸に対する生成物ポリメタクリル酸、アクリロニトリルに対する生成物ポリ(アクリロニトリル)、及びN-ビニルピロリドン(NVP)に対する生成物ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)である。重合は、バルク、懸濁液、溶液またはエマルジョンで行ってよい。溶液重合が好ましく、酢酸エチル及び低級アルカノール(例えば、エタノール、イソプロピルアルコールなど)のような極性有機溶媒が特に好ましい。親水性ビニルポリマーの調製の際には、合成は典型的には、上記のようなフリーラジカル開始剤の存在下で、フリーラジカル重合プロセスによって行うことになる。多官能性コモノマーとしては、例えば、ビスアクリルアミド、ブタンジオール及びヘキサンジオールのようなジオールのアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル(1,6-ヘキサンジオールジアクリレートが好ましい)、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、1,2-エチレングリコールジアクリレート及び1,12-ドデカンチオールジアクリレートのようなその他のアクリレートが挙げられる。他の有用な多官能性架橋モノマーとしては、オリゴマー及びポリマーの多官能性(メタ)アクリレート、例えば、ポリ(エチレンオキシド)ジアクリレートまたはポリ(エチレンオキシド)ジメタクリレート、置換及び非置換のジビニルベンゼンのようなポリビニル架橋剤、EBECRYL270(重量平均分子量1500のアクリル化ウレタン)及びEBECRYL230(重量平均分子量5000のアクリル化ウレタン)(いずれもジョージア州スマーナのUCSから入手可能)のような二官能性ウレタンアクリレート、ならびにこれらを組み合わせたものが挙げられる。化学架橋剤を用いる場合、その使用量は好ましくは、架橋剤と親水性ポリマーの重量比が、約1:100~1:5の範囲となるような量となる。望ましい場合、より高い架橋密度を得るには、化学架橋を放射線による硬化と組み合わせる。
【0190】
ナノ構造体
本発明のナノ構造体成分は、繊維、フィラメント、メッシュ切片、分岐フィラメントもしくは網目構造、シート、または成形粒子を含むいずれかの好適な形態であってよい。本発明のナノ構造体は、そのナノ構造体と本発明のハイドロゲルのポリマーとの共有架橋または非共有架橋を促すためのいずれの好適な化学官能基も含んでよい。ナノ構造体を作製及び官能化するための方法、技法及び材料は、当該技術分野において周知である。
【0191】
特定の実施形態では、微細加工法を用いて、本発明のナノ構造体を作製する。様々な実施形態において、いずれかの好適な微細加工技法を用いて、開示されている用具を組織化及び/または製造することができる。このような方法及び技法は、当該技術分野において広く知られている。
【0192】
本発明で開示するナノ構造体を作製するのに使用できる微細加工プロセスとしては、リソグラフィー、レーザーエッチング、プラズマエッチング、フォトリソグラフィーもしくは化学エッチング(ウェット化学エッチング、ドライエッチング及びフォトレジスト除去法など)のようなエッチング技法、3次元印刷(3DP)、ステレオリソグラフィー(SLA)、選択的レーザー焼結(SLS)、弾道粒子作製法(BPM)及び溶融堆積モデリング法(FDM)を含む無固形形態技法によるもの、微細機械加工によるもの、シリコンの熱酸化、電気メッキ及び無電解めっき、ホウ素拡散、リン拡散、ヒ素拡散及びアンチモン拡散のような拡散プロセス、イオン注入、蒸着(フィラメント蒸着、電子線蒸着、フラッシュ蒸着、シャドウイング蒸着及びステップカバレッジ法)、スパッタリング、化学気相堆積(CVD)、エピタキシー法(気相エピタキシー法、液相エピタキシー法及び分子線エピタキシー法)、電気メッキ、スクリーン印刷、ラミネーション法のような膜堆積、またはこれらを組み合わせた技法によるものが挙げられる。Jaeger,Introduction to Microelectronic Fabrication(Addison-Wesley Publishing Co.,Reading Mass.1988)、Runyan,et al.,Semiconductor Integrated Circuit Processing Technology(Addison-Wesley Publishing Co.,Reading Mass.1990)、Proceedings of the IEEE Micro Electro Mechanical Systems Conference 1987-1998、Rai-Choudhury,ed.,Handbook of Microlithography,Micromachining & Microfabrication(SPIE Optical Engineering Press,Bellingham,Wash.1997)を参照されたい。モールドとして用いる材料の選択によって、分岐構造を形成する際に表面がどのような形態になるのかが決まる。
【0193】
例えば、半導体分野から得られたフォトリソグラフィーのプロセス及び方法を用いて、微小電気機械システム(MEMS)を作製するための最先端のプロセスを使用し得る。さらに最近になって開発された方法としては、「ソフトリソグラフィー」(Whitesides et al,Angew chem.Int ed,37;550-575,(1998))及びマイクロフルイディクステクトニクス(米国特許第6,488,872号、Beebe et al.,Nature;404:588-59(2000))が挙げられる。ポリマー製の微小デバイスの作製に関する論評及びその他の考察としては、Madou,M.J.Fundamentals of Microfabrication:The Science of Miniaturization;2nd ed.;CRC Press:Boca Raton,1997、Becker,H.,and Locascio,L.E.“Polymer microfluidic devices.”Talanta,56(2):267-287,2002、Quake,S.R.,and Scherer,A.“From micro- to nanofabrication with soft materials.”Science,290(5496):1536-1540,2000及びWhitesides,G.M.,and Stroock,A.D.“Flexible methods for microfluidics.”Physics Today,54(6):42-48,2001が挙げられ、これらの各文献は、参照により、本明細書に援用される。
【0194】
本発明のナノ構造体は、静電紡糸法(エレクトロスピニングともいう)によって作製してもよい。繊維を形成できる液体及び/または溶液をエレクトロスピニングする技法は、周知であり、例えば米国特許第4,043,331号及び同第5,522,879号のような多くの特許で説明されている。エレクトロスピニングのプロセスは概して、液体を電場に置いて、その液体によって繊維が作られるようにすることを伴う。これらの繊維は概して、静電引力で導体に引き寄せられ、集められる。液体が繊維に変換される間に、繊維は、硬化及び/または乾燥する。この硬化及び/または乾燥は、液体の冷却によるもの(すなわち、その液体が、通常、室温において固体である場合)、溶媒の蒸発、例えば、脱水(物理的誘導により硬化)によるもの、または硬化機構(化学的誘導による硬化)によるものであり得る。
【0195】
静電紡糸法のプロセスは典型的には、例えば米国特許第4,043,331号に開示されているように、繊維を使用してマットまたはその他の不織材を作製する目的で行われてきた。直径が50nm~5マイクロメートルの範囲のナノファイバーを、不織ナノファイバーメッシュまたは整列されたナノファイバーメッシュにエレクトロスピニング紡糸できる。繊維直径が短いために、エレクトロスピニング紡糸テキスタイルは本質的に、表面積が非常に広く、孔径が小さい。これらの特性により、エレクトロスピニング紡糸ファブリックは、膜、組織の足場及びその他の生物医学的用途を含む多くの用途用の有力な候補となっている。
【0196】
エレクトロスピニング紡糸繊維は、直径が非常に小さくなるように作製できる。エレクトロスピニング紡糸繊維の直径、粘度及び均一性に影響を及ぼすパラメーターとしては、繊維を形成する配合液内のポリマー材及び架橋剤の濃度(充填量)、印加電圧、ならびに針とコレクターの距離が挙げられる。本発明の一実施形態によれば、本発明のナノファイバーは、直径が約1nm~約100.0mmの範囲である。別の実施形態では、本発明のナノファイバーは、直径が約1nm~約1000nmの範囲である。さらに、本発明のナノファイバーは、アスペクト比が少なくとも約10~少なくとも約100の範囲であってよい。本発明の繊維は、直径が非常に短いので、単位質量当たりの表面積が非常に大きいことは明らかであろう。質量に対する表面積の比率が大きいことにより、繊維を形成する溶液または液体をわずか数秒で、液体または溶媒和の繊維形成材から固体のナノファイバーに変換可能となる。
【0197】
本発明のナノファイバー/ナノ構造体を形成するのに用いるポリマー材は、架橋剤と適合するいずれの繊維形成材から選択してもよい。意図する用途に応じて、繊維を形成するポリマー材は、親水性であっても、疎水性であっても、両親媒性であってもよい。加えて、繊維を形成するポリマー材は、感熱性ポリマー材であってよい。
【0198】
合成または天然の生分解性または非生分解性のポリマーが、本発明のナノファイバー/ナノ構造体を形成してよい。「合成ポリマー」とは、合成によって調製されるとともに、非天然のモノマー単位を含むポリマーを指す。例えば、合成ポリマーは、アクリレート単位またはアクリルアミド単位のような非天然のモノマー単位を含むことができる。合成ポリマーは典型的には、付加重合、縮合重合またはフリーラジカル重合のような従来の重合反応によって形成する。合成ポリマーには、非天然のモノマー単位(例えば、合成のペプチド、ヌクレオチド及び単糖誘導体)と併せて、天然のペプチド、ヌクレオチド及び単糖のモノマー単位のような天然のモノマー単位を有するポリマーも含めることができる。これらの種類の合成ポリマーは、固相合成のような標準的な合成技法、または可能なときには組み換えによって作製できる。
【0199】
「天然ポリマー」とは、天然において、組み換えによってまたは合成によって調製されるとともに、ポリマー主鎖において天然のモノマー単位からなるポリマーを指す。場合によっては、天然ポリマーは、その天然ポリマーの化学的及び/または物理的特性を変更するために、改変、処理、誘導体化または別段の処理が行われていてもよい。これらの場合には、「天然ポリマー」という用語には、その天然ポリマーに対する変更を反映するように、修飾語が付されることになる(例えば、「誘導体化された天然ポリマー」または「糖鎖が除去された天然ポリマー」)。
【0200】
ナノファイバー材は例えば、ポリオレフィン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエステル、セルロースエーテル、セルロースエステル、ポリアルキレンスルフィド、ポリアリーレンオキシド、ポリスルホン、変性ポリスルホンポリマー及びこれらの混合物のように、付加ポリマー材及び縮合ポリマー材の両方を含んでよい。これらの一般的な種類の範囲内の例示的な材料としては、ポリエチレン、ポリ(e-カプロラクトン)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコレート)、ポリプロピレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリメタクリル酸メチル(及びその他のアクリル樹脂)、ポリスチレン及びこれらのコポリマー(ABA型のブロックコポリマーを含む)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(塩化ビニリデン)、様々な加水分解度(87%~99.5%)のポリビニルアルコールであって、架橋形態及び非架橋形態のものが挙げられる。例示的な付加ポリマーは、ガラス質である(Tgが室温を上回る)傾向がある。この傾向は、ポリ塩化ビニル及びポリメタクリル酸メチル、ポリスチレンポリマーの組成物またはアロイの場合であり、あるいは、ポリフッ化ビニリデン及びポリビニルアルコールの材料では、結晶化度が低い。
【0201】
本発明のいくつかの実施形態では、ナノファイバー/ナノ構造体の材料は、ポリアミド縮合ポリマーである。より具体的な実施形態では、そのポリアミド縮合ポリマーは、ナイロンポリマーである。「ナイロン」という用語は、あらゆる長鎖合成ポリアミドの一般名称である。少量の水の存在下で、εカプロラクタムを重縮合させることによって、別のナイロンを作製できる。この反応により、直鎖ポリアミドであるナイロン-6(環状ラクタムから作られる。ε-アミノカプロン酸としても知られる)が形成される。さらに、ナイロンコポリマーも企図されている。コポリマーは、様々なジアミン化合物、様々な二酸化合物及び様々な環状ラクタム構造体を反応混合物で組み合わせてから、ポリアミド構造内にモノマー物質がランダムに配置されたナイロンを形成することによって作製できる。例えば、ナイロン6,6-6,10という物質は、ヘキサメチレンジアミン、及びC6の二酸とC10の二酸のブレンドから作られるナイロンである。ナイロン6-6,6-6,10は、εアミノカプロン酸、ヘキサメチレンジアミン、及びC6の二酸材とC10の二酸材のブレンドを共重合させることによって作られるナイロンである。
【0202】
ブロックコポリマーも、ナノファイバーの材料として使用できる。ナノファイバーを調製するための組成物の調製の際には、溶媒系は、両方のブロックが溶媒に溶解するように選択できる。一例は、塩化メチレン溶媒中のABA(スチレン-EP-スチレン)またはAB(スチレン-EP)ポリマーである。このようなブロックコポリマーの例は、KratonタイプのAB及びABAブロックポリマー(スチレン/ブタジエン及びスチレン/水素化ブタジエン(エチレンプロピレン)を含む)、Pebaxタイプのε-カプロラクタム/酸化エチレン、ならびにSympatexタイプのポリエステル/酸化エチレン及び酸化エチレンとイソシアン酸塩のポリウレタンである。
【0203】
付加ポリマー(ポリフッ化ビニリデン、シンジオタクチックポリスチレン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、ポリビニルアルコール、酢酸ポリビニル、ポリ(アクリロニトリル)ならびにアクリル酸及びメタクリル酸塩とのそのコポリマー、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)及びその様々なコポリマー、ポリ(メタクリル酸メチル)及びその様々なコポリマーのような非結晶性付加ポリマーなど)は、低い圧力及び温度で溶解可能なので、比較的容易に溶液紡糸できる。ポリエチレン及びポリプロピレンのような高結晶性ポリマーは概して、溶液紡糸しなければならない場合には、高い温度及び高い圧力が必要となる。
【0204】
ナノファイバーは、ポリマー添加混合物、アロイ形態、または架橋された化学結合構造中に2つ以上のポリマー材を含むポリマー組成物からも形成できる。2つの関連するポリマー材をブレンドして、有益な特性を有するナノファイバーをもたらすことができる。例えば、高分子量ポリ塩化ビニルを低分子量ポリ塩化ビニルとブレンドできる。同様に、高分子量ナイロン材を低分子量ナイロン材とブレンドできる。さらに、一般的な種類のポリマーのうちの異なる種をブレンドできる。例えば、高分子量スチレン材を低分子量のハイインパクトポリスチレンとブレンドできる。ナイロン-6という材料は、ナイロン-6;6,6;6,10コポリマーのようなナイロンコポリマーとブレンドできる。さらに、87%加水分解されたポリビニルアルコールのように、加水分解度の低いポリビニルアルコールは、完全加水分解ポリビニルアルコールまたは加水分解度が98~99.9%以上の超加水分解ポリビニルアルコールとブレンドできる。添加混合物中のこれらの材料のいずれも、適切な架橋機構を用いて架橋できる。ナイロンは、アミド結合における窒素原子と反応性のある架橋剤を用いて架橋できる。ポリビニルアルコール材は、モノアルデヒド(ホルムアルデヒドなど)、尿素、メラミンホルムアルデヒド樹脂及びその類似体、ホウ酸及びその他の無機化合物、ジアルデヒド、二酸、ウレタン、エポキシ、ならびにその他の既知の架橋剤のようなヒドロキシル反応材を用いて架橋できる。架橋試薬は、反応して、ポリマー鎖間に共有結合を形成して、分子量、耐薬品性、全体的強度、及び機械的劣化に対する耐性を実質的に向上させる。
【0205】
本発明のナノ構造体を調製する際には、生分解性ポリマーも使用できる。生分解性材料として研究されてきた種類の合成ポリマーの例としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオルトエステル、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリイミノカーボネート、脂肪族カーボネート、ポリホスファゼン、ポリアンハイドライド及びこれらのコポリマーが挙げられる。例えば移植可能な医療用具の関連で使用できる生分解性材料の具体例としては、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(グリコリド-co-ポリジオキサノン)、ポリアンハイドライド、ポリ(グリコリド-co-トリメチレンカーボネート)及びポリ(グリコリド-co-カプロラクトン)が挙げられる。これらのポリマーと他の生分解性ポリマーのブレンドも使用できる。
【0206】
いくつかの実施形態では、本発明のナノファイバーは、非生分解性ポリマーである。非生分解性とは、概して、非酵素的分解、加水分解的分解または酵素的分解ができないポリマーを指す。例えば、非生分解性ポリマーは、プロテアーゼによって引き起こすことのできる分解に対する耐性を有する。非生分解性ポリマーには、天然ポリマーまたは合成ポリマーのいずれも含めてよい。
【0207】
本発明のナノファイバーを形成する組成物内に架橋剤を含めると、そのナノファイバーが、広範な支持表面と適合可能になる。その架橋剤は、単独で用いることも、所望の表面特性をもたらすための他の材料と組み合わせることもできる。
【0208】
好適な架橋剤としては、放射線、電気エネルギーまたは熱エネルギーなどのエネルギー源に暴露されると、他の材料と共有結合を形成できる潜在反応性の活性化可能基を少なくとも2つ有するモノマー材(小分子物質)またはポリマー材のいずれかが挙げられる。概して、潜在反応性の活性化可能基は、印加された所定の外部エネルギーまたは刺激に応答して活性種を生成させて、その結果、隣接する化学構造への共有結合を形成させる化学的部分である。潜在反応性基は、保存条件下では、その共有結合を維持するが、外部エネルギー源により活性化すると、他の分子と共有結合を形成する基である。いくつかの実施形態では、潜在反応性基は、フリーラジカルのような活性種を形成する。これらのフリーラジカルとしては、ナイトレン、カルベン、または外部から印加した電気エネルギー、電気化学エネルギーもしくは熱エネルギーを吸収して励起状態となったケトンを挙げてよい。
既知または市販の潜在反応性基の様々な例は、米国特許第4,973,493号、同第5,258,041号、同第5,563,056号、同第5,637,460号または同第6,278,018号に報告されている。
【0209】
例えば、Aldrich Chemicals、Produits Chimiques Auxiliaires et de Syntheses(Longjumeau,France)、Shin-Nakamara Chemical、Midori Chemicals Co.,Ltd.またはPanchim S.A.(France)のいずれかから入手可能な、トリクロロメチルトリアジンベースの市販の多官能性光架橋剤を使用できる。その8個の化合物には、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5トリアジン、2-(メチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-メトキシナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-エトキシナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、4-(4-カルボキシルフェニル)-2,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(1-エテン-2-2’-フリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン及び2-(4-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジンが含まれる。
【0210】
使用方法及び例示的な実施形態
本発明で開示するゲル/ハイドロゲル/ナノ構造体組成物は有益なことに、組織修復の多くの状況、ならびにカテーテル、他の手術具、及びインプラントにコーティングを施す用途のような他の用途で使用できる。本発明のゲル/ハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、本明細書に記載されている活性剤(抗生剤、成長因子及び免疫抑制剤など)を送達するのにも用いることができる。
【0211】
特定の実施形態では、本発明は、軟組織欠損部の治癒方法であって、複合材を軟組織欠損部に適用することを含み、その複合材が、ゲルとそのゲル内に配置されたナノ構造体を含む方法を提供する。
【0212】
本明細書に記載されているハイドロゲル/ナノ構造体組成物の有益な特性には、1)容易な特徴付け及び品質制御を行える能力、2)既存の組織マトリックスと一体化する能力、3)新たに形成されるマトリックスに直接組み込まれる能力、4)細胞及び生理活性因子を直接含む能力、5)生体適合性を保持する能力、6)生体吸収性を制御する能力、7)そのナノ構造に起因する、構造的剛性の向上により、複雑な解剖学的形状に容易に成型できる能力、ならびに8)関節軟骨のような天然組織の機械的特性を呈する能力が含まれることは明らかであろう。
【0213】
用途の1つでは、本発明のハイドロゲル/ナノ構造体複合体組成物を用いて、軟骨組織を修復できる。軟骨修復のための、生物学に基づく現行の外科手術としては、自己軟骨細胞の移植、ドリリング、剥離軟骨形成術、マイクロフラクチャー法及びモザイク関節形成術が挙げられる。これらの手順はいずれも、限局性の関節軟骨損傷を治療するに過ぎず、重度の変形性関節症及び関節リウマチで見られるような、軟骨の露出した関節表面は治療しない。また、これらの手順は、軟骨組織プラグ、または患者から採取した増殖軟骨細胞のいずれかを用いて、軟骨欠損部を埋める。これらの組織または軟骨細胞は、既存の軟骨マトリックスと一体化したとともに、正常な軟骨の生物機械的特性を有する完全なde novo物質(新たに合成される硝子軟骨など)を合成することによって、欠損を埋めると予想される。しかしながら、このような手順はいずれも、真の硝子軟骨ではなく、修復組織(線維軟骨)の形成を促進し、線維軟骨にさらなる機械的損傷を引き起こす(その機械的損傷は、その関節を変形性関節症に罹患しやすくすると考えられる)。さらに、修復材としての内因性軟骨の利用可能度は、かなり限られている。その軟骨を得ることにより、患者は、その取得によるリスクと病的状態を負うからである。上記の考察から明らかなように、本明細書に開示されている、得られたハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、軟骨変性疾患に罹患した患者において、新たな療法を期待させる実用的な材料をもたらす。
【0214】
本明細書に記載されているように、本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、いずれかの数の合成組織の移植または増大術、及びその他の臨床的用途に適する多種多様な特性を有するように調製できる。すでに述べたように、本発明の材料を用いて、傷害または疾患のいずれかが原因で発生した軟骨欠損部を修復できる。本発明の材料を用いて修復できる、傷害による欠損は、スポーツまたは事故に関連する欠損であることができ、表面の軟骨層のみに影響を及ぼすものであってもよく、または下層の軟骨下骨を含んでもよい。
本明細書に記載されている組成物を用いて修復できる、疾患による欠損としては、変形性関節症及び関節リウマチに起因する欠損が挙げられる。傷害によるか疾患によるかにかかわらず、このような欠損は、成熟軟骨または成長板軟骨のいずれの欠損であってもよい。
合成成長板軟骨用のハイドロゲルの製剤では、成長時に生体材料の生体吸収性を制御できるように、非置換の足場材を含めなければならない場合がある。
【0215】
本明細書に記載されているハイドロゲル/ナノ構造体組成物が有用であり得る別の分野は、頭頸部の軟骨組織及び軟組織の修復、再建または増大術である。軟組織増大術及び頭頸部再建術用の生体材料の利用可能度は、形成外科手術及び再建手術の分野において、依然として根本的な課題となっている。適切な生物学的適合性及び耐用期間を有する材料の開発のために、多大な研究及び投資が行われてきた。この研究の結果は、芳しくない。免疫応答性のある動物に留置したところ、現在提案されている材料の構造的一体性が得られなかったことが示されている。フレームワークが吸収されるためである。さらに、従来の合成材は、耐用期間の面で優れているが、一定の避けられない欠点がある。例えば、シリコーンには、安全性の懸念及び長期的な免疫関連作用が付きまとっている。合成ポリマーPTFE(ゴアテックス)及びシラスティックでは、組織反応性は低いが、組織との一体化は見られず、異物感染症及び突出の長期的なリスクが発生し得る。本願に記載されている材料は、頭頸部の軟組織欠損の増大術または修復向けの合成軟組織足場材を調製するのに有用となる。特に、本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、炎症を起こさず、非免疫原性であり、適切な粘弾度を有するように調製でき(本明細書の説明を参照されたい)、有効な移植可能足場材として使用し得る。
【0216】
加えて、本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、例えば、外傷または先天性異常に続発する軟骨欠損または骨欠損を修復するために、頭頸部の再建手順で頻繁に使われる軟骨インプラントを調製するための新規な生体適合性かつ生体順応性材料として使用できる。耳に特有の用途としては、耳形成術及び耳介再建術が挙げられ、これらは、外傷、新生物(すなわち、扁平上皮細胞癌、基底細胞癌及びメラノーマ)、ならびに小耳症のような先天性欠損による、軟骨の欠損を修復する目的で行う場合が多い。鼻に特有の用途としては、鼻及び鼻中隔の美容手順及び再建手順が挙げられる。鼻整形術では、鼻背部隆鼻術、チップグラフト、シールドグラフト及びスプレッダーグラフトを用いる場合が多い。外傷、新生物、ウェゲナー肉芽腫症のような自己免疫疾患、または先天性欠損を受けて行う鼻再建術には、修復のために軟骨が必要となる。鼻中隔せん孔は、管理が難しく、処置がうまくいかないことが多い。軟骨移植は、これらの用途では理想的である。自己軟骨またはドナー軟骨が利用できない場合が多いからである。咽喉に特有の用途としては、喉頭気管の再建が挙げられ、この再建では、小児においては通常、肋軟骨の摘出が必要となり、病的状態が生じないわけではない。耳介軟骨及び鼻中隔軟骨は、この用途には不充分である場合が多い。本発明で開示するハイドロゲルから調製した合成軟骨性材料は、試薬濃度、置換比率及び架橋比率のような、ハイドロゲルの合成パラメーターの調整に基づき、上記の各用途に適合するように合成できる。喉頭気管の再建は通常、声門下または気管の狭窄による気道狭窄に対して行う。その病因は、外傷性のもの(すなわち、挿管による外傷もしくは気管切開)、または特発性のものであり得る。他の可能性としては、頭蓋顔面での多くの用途に加えて、顎及び頬の増大術、ならびに下眼瞼外反の修復術での使用が挙げられる。これらの用途では、関節軟骨の厳密な機械的特性を有する軟骨が必要になるとは限らないことに留意されたい。細胞集団または生理活性剤を含めるのが望ましいこともある。
【0217】
本明細書に記載されているハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、通常、侵襲性が非常に高い外科的切除の後に、鼻道に流体が慢性的に貯留して、それにより、感染及び痂皮形成が起こるのを防ぐために、鼻腔の修復及び縮小を行うのにも使用できる。別の有望な用途は、小児及び成人の両方で、例えば、心血管手術のような外科手術の際の挿管を原因とする、喉頭気管の傷害により、喉頭気管を再建する際の用途である。本明細書に記載されているようなハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、がんのために頸部を切除した後に、頸動脈を保護するための輪状軟骨代替物を供給するのにも使用でき、本発明の組成物は、皮膚バリアの喪失に対する頸動脈保護バリアとして、頸動脈と皮膚の間に配置できる。本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、切除された神経のニューロンが再増殖している際の保護膜として使用できる。多くの場合、ニューロンの再増殖よりも速く、線維組織が形成され、最終的なニューロンの形成を妨げるからである。本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物を事前にチューブに成型したものの中に、神経終末を配置すると、再増殖部位から線維組織が形成されないようにできる。
【0218】
本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、いずれの内臓または非内臓器官の軟組織欠損部の修復にも使用できる。例えば、本発明の材料は、頭蓋顔面での多くの用途に加えて、顎及び頬の増大術で使用できるとともに、下眼瞼外反の修復術に使用できる。本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、頭頸部以外の部位での美容目的及び再建目的で、例えば、乳房増大術用の乳房インプラントとしての用途、例えば、乳房または頸部のリンパ節の除去(すなわち、がんによる除去)の後に残った空隙を充填するため、リンパ管を封止したり、流体が切除部位内に無制御に排出される(この排出により、感染及び合併症が起きることがある)のを軽減したりするための創傷密封材としての用途で使用できる。
【0219】
上記の使用法に加えて、本明細書に記載されているハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、人工軟骨の合成に関して上記したようなものと同様の方策及び手法を用いて、整形外科用の合成組織(骨、腱、靭帯、半月板及び椎間板が挙げられるが、これらに限らない)を作製するための他のティッシュエンジニアリング用途で使用できる。本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、人工軟骨の合成に関して上記したようなものと同様の方策及び手法を用いて、整形外科用以外の合成組織(声帯、硝子体、心臓弁、肝臓、膵臓及び腎臓が挙げられるが、これらに限らない)を作製するのにも使用できる。
【0220】
本発明で開示するハイドロゲル/ナノ構造体組成物を使用できる別の分野は、腹部または胃腸の器官における瘢痕組織または狭窄の形成を治療または予防する必要がある胃腸用途の分野である。様々な臨床段階及びFDA認可段階にある製品であって、瘢痕化及び/または狭窄形成の治療及び予防に有用であるように設計または意図されている「ハイドロゲル」と概ね称されている製品は、すでに多く存在する。本発明で開示するハイドロゲルが、ハイドロゲル材に支持力、形状及び強度をもたらすことができるナノ構造体を含むことができる点で、本発明の材料は、他の既知のハイドロゲルよりも優れている。本発明で開示するハイドロゲル/ナノ構造体組成物は、すでに既知のハイドロゲルが使用されているか、または使用されるように意図されている用途(胃腸管の狭窄または瘢痕化の治療が挙げられる)と同様の用途で使用できる。その治療は、瘢痕化を予防するために、狭窄が予測される部位に、または、狭窄した胃腸管を広げるための療法を行った後に、狭窄の再発を予防するために、既存の狭窄部位に、そのハイドロゲル材を注射することを伴う。
【0221】
本発明の材料は、食道狭窄の治療にも使用できる。食道狭窄は、胃食道逆流症(GERD)の一般的な合併症である。GERDは、食道に逆流して、食道の粘膜細胞を傷つける酸、胆汁及びその他の有害な胃内容物を原因とする。GERD患者の約7~23%が、食道狭窄または食道の線維性瘢痕化を発現する。食道の瘢痕化は、バレット食道の治療に用いたアブレーション療法も原因とし得る。このようなアブレーション療法の主な合併症は、焼灼による損傷が、食道壁の奥深くにまで及び、それにより、食道の瘢痕または狭窄が起きることである。食道狭窄は、正常な嚥下を妨げ、患者の病的状態の主な原因となる。
本明細書に記載されている材料は、GERD、バレット食道及び食道アブレーション療法に起因する食道狭窄の治療または予防に使用し得る。
【0222】
本発明の複合材は、クローン病の治療にも使用し得る。クローン病は、腸の管腔を塞いだり、狭くしたりする狭窄または瘢痕を発生させて、腸の正常な機能を妨げる。本発明の材料は、このような狭窄の治療または予防に有用な場合もある。
【0223】
本発明の複合材は、原発性硬化性胆管炎(PSC)の治療方法にも使用できる。PSCは、肝臓の胆管の希少疾患である。胆管は、肝臓内で枝分かれした樹状構造を形成し、2本の主枝によって肝臓から出て、それらの主枝が、肝臓及び胆嚢の胆汁を十二指腸に排出させる総胆管に合流する。胆管は、直径が非常に小さく、その測定値は、通常、最も大きい最遠位部でも2mm以下に過ぎず、しかも、通常、毎日数リットルの胆汁を肝臓から十二指腸に排出しなければならない。これらの胆管のいずれの閉塞によっても、大量の毒素、特にヘモグロビン分解産物を体内に蓄積させる黄疸として知られる重篤な状態に至ることがある。PSCは、肝臓内の胆管、及び肝臓を小腸につなぐ上記の肝外胆管が瘢痕化または狭窄する疾患である。PSCの胆管狭窄は、本発明のハイドロゲル/ナノ構造体組成物で治療または予防し得る。
【0224】
本発明の複合材は、慢性膵炎の治療にも使用できる。慢性膵炎は、膵管の瘢痕または狭窄によって合併し得る、膵臓の慢性炎症性疾患である。これらの狭窄は、通常は、膵臓から、膵管または排管のシステムを介して小腸に排出されなければならない膵液の排出を遮断する。膵液は、正常な消化及び栄養の吸収にとって重要な多くの消化酵素及びその他の要素を含む。慢性膵炎による膵管の閉塞または狭窄によって、膵臓が自己消化を起こし、命にかかわる腹部感染及びまたは膿瘍を発生させる重大な合併症が発生し得る。慢性膵炎の膵臓狭窄は、本発明のハイドロゲルで治療または予防し得る。
【0225】
本明細書に記載されている組成物は、胆石によって誘発される胆管狭窄及び膵管狭窄の治療にも使用し得る。胆石は、よく見られる障害であり、その主要な合併症は、胆管狭窄及び膵管狭窄の形成であり、それらは、本発明のハイドロゲルで治療または予防し得る。
本発明のハイドロゲルは、虚血性腸疾患の治療に使用できる。腸は、血液の供給が低下すると、瘢痕または狭窄を形成する傾向がある。血流の低下は、虚血といい、心血管疾患、アテローム性動脈硬化症、低血圧、循環血液量の減少、腎疾患または肝疾患によって誘発される低アルブミン血症、血管炎、薬害疾患などを含む多くの病変を原因とし得る。これらのすべての病因の末期の症状により、腸を塞いで、その正常な機能を妨げる腸狭窄が発生し得る。本発明のハイドロゲル/ナノ構造体複合体は、虚血性腸狭窄の治療または予防に使用し得る。
【0226】
本発明の組成物は、放射線によって誘発される腸狭窄の治療にも使用し得る。がんに対する放射線療法は、多くの病的状態を伴い、その中でも重要なのは、腸狭窄の形成である。本発明のハイドロゲル複合体は、放射線によって誘発される腸狭窄の治療または予防にも使用し得る。
【0227】
本発明で開示するハイドロゲル/ナノ構造体複合体は、合成組織の作製または天然の組織の修復に加えて、手術または別段のin vivo移植で使用する非生物学的な構造体または用具(手術器具、またはセラミックもしくは金属製の義足など)にコーティングを施すのにも使用できる。このようなコーティングは、その非生物学的な用具の材料と生体組織の間にバリアをもたらすことになる。非生物学的な用具に対するバリアとしてのハイドロゲルの役割としては、1)非生物学的な用具の表面上での巨大分子及び/または細胞の吸収を予防すること(吸収により、用具表面において、タンパク質のファウリングまたは血栓症が発生し得る)、2)別段の非生体適合性材料から作られた用具に、無毒で、炎症を起こさず、非免疫原性な生体適合性表面をもたらすこと、3)グルコースセンサーにおけるグルコースの拡散、圧力センサーにおける機械的力の伝達、または血管グラフトもしくはステントの内皮化のような、用具の機能と適合すること、4)MEMSベースの人工ネフロンにおいて、既存のサイズバリアにチャージバリアをもたらすなど、用具の機能を増強すること、5)水性の生理学的に適合可能な環境内に封入した生細胞集団を非生物学的な用具に導入すること、ならびに6)薬物または生理活性因子(成長因子、抗ウイルス剤、抗生剤、または血管新生、その用具の上皮化もしくは内皮化を促すように設計された接着分子など)を含めることが挙げられるが、これらに限らない。
【0228】
上記に基づき、本発明のハイドロゲル/ナノ構造体複合体は、糖尿病の管理のための移植可能なグルコースセンサーを含む様々な移植可能な用具に、アレルギーを起こさないコーティングを施すのに使用し得る。加えて、本発明のハイドロゲル/ナノ構造体複合体は、MEMSベースの人工ネフロンの開発のためのチャージバリア、封入された腎細胞(有足突起など)をMEMSベースの人工ネフロンのデザインに導入できる水性の生理学的に適合可能な環境、ならびに様々な目的で設計された移植可能なMEMS用具(薬物送達システム、機械的感知システム及び生物検出システムが挙げられるが、これらに限らない)をもたらすのに使用し得る。
【0229】
開示されているハイドロゲル/ナノ構造体複合体、特に、ヒアルロナンベースのハイドロゲルは、例えば、チラミンの第1級アミンをそのシリコン表面にまず共有結合させることを通じて、シリコンベースの用具に共有結合させて、ヒドロキシフェニル被覆表面の化学物質をもたらすこともできる。この際には、遊離アミンで修飾したDNAをシリコン表面に結合するのに使用する化学反応と同じ化学反応を使用し得る。そして、HAベースのハイドロゲルは、上記のその好ましい架橋様式で用いられる化学反応であって、ペルオキシダーゼによって促される化学反応と同じ化学反応によって、そのヒドロキシフェニル被覆表面に共有結合する。
【0230】
本発明のハイドロゲル/ナノ構造体複合体は、カテーテル、ステント及び血管グラフトのような非生物学的な心血管用具をコーティングするのにも使用できる。これらの用具には、従来は、生体不適合性のために用いられなかったが、現在使用されている上記の用具よりも、設計面で優れた特徴を持つ材料から作られた用具も含まれることになる。生理活性因子を本発明のハイドロゲルに導入して、そのハイドロゲルの内皮化または上皮化、すなわち埋め込んだ用具の内皮化または上皮化を促すことができる。
【0231】
本発明のハイドロゲル/ナノ構造体複合体の具体的な例及び使用法について本明細書で説明してきたが、そのような具体的な使用法は、限定するようには意図されていない。本発明のハイドロゲル/ナノ構造体複合体は、概して既知のハイドロゲルにおいて用いられているいずれの用途にも用いることができ、特に、体のあらゆる場所の軟組織の修復及び/または再生に有用である。
【実施例0232】
実施例1.炎症プロファイルが軽減されたin situ形成複合体
5mg/mLのチオール化HA(HA-SH)、10mg/mLのポリカプロラクトン(PCL)繊維、チオール濃度が、アクリレートとマレイミドを合わせた濃度と一致して1:1になるように設定した濃度のPEGDA(5mg/mL)を含むin situ形成複合体を開発した。手術前に、ゲル化を開始させるために、これらの成分を一緒に混合して、約30分反応させ、そのゲル化の大半をin situで完了させた。
【0233】
チオール化HAを用いた化学調製物では、in vitro、ならびに動物(皮下(s.c.)注射による齧歯動物及びウサギ)において、ゲル化がうまく行われた一方で、皮下ウサギモデルで注射したところ、短期間、中程度の炎症が生じた。炎症が軽減された複合体製剤を作製するために、HAとPEGの間の反応性基を逆にし、繊維-マレイミド成分を含む上述の調合はそのままにした。
【0234】
図1Aに示されているように、上向きの矢印は、HA-SH及びPEGDAを含むゲルの注射部位を示し、下向きの矢印は、HA-Ac及びPEGSHを含む代替的な組成物の注射部位を含む。
【0235】
これらの化学物質をブタモデルで再度試験したところ、同様の炎症プロファイルが観察された。ゲル及び複合体をブタの内ももに、注射1回当たり400μLの体積で皮下注射した。その後48時間にわたり、その組織を画像化してから、摘出した。いずれの群の皮膚炎症も、肉眼では軽度に見えた(
図1B)。
【0236】
しかしながら、組織学的解析(マッソントリクローム染色)では、チオール化HA群において、注射部位の外縁での単球の活性化(赤色)によって可視化されているように、宿主組織と注射部位の境界が明瞭な状態で、注射部位がカプセル化していることから、強い急性(48時間)免疫応答が見られた(
図1C)。HAアクリレート(HA-Ac)群の方が、市販のHAであるネガティブコントロール群に近く、宿主とインプラントの界面において、カプセル化があまり見られなかった。
【0237】
その新規製剤では、5mg/mLのHA-Ac及び6mg/mLのPEGSH(PEGチオール、MW10kの4-アーム型PEGSH。アクリレート+マレイミドに対して2倍量のチオールを含む(この比率により、最大の機械的強度が得られるからである))を使用した。HA-Acは、分子量が731kDaであり、アクリル化度が10~12.5%であった。加えて、200kのHA-Acも試したが、得られたゲルは、上記のものよりもかなり脆弱であった。
【0238】
ウサギにおける炎症プロファイルをさらに軽減するために、チオールとアクリレート+マレイミドの化学量論組成が1:1の状態で、2-アーム型PEGSH架橋剤を使用した。所望の貯蔵弾性率を得るために、7mg/mLという少し高い初期濃度のHA-Acを使用した。繊維成分は、8~10mg/mLに保ち、化学量論組成が1:1となるように2-アーム型PEGSHを設定した(5kのPEGSHでは、6.9mg/mLとなった)。分子量3.4kDa及び8kDaのPEGSH試料も試験したが、これらの試料の方が、同じ化学量論組成において脆弱なゲルであったので、MW5kDaをin situゲル化製剤として選択した。
【0239】
核磁気共鳴画像法(MRI)を用いて、この製剤の2つの変種(5.5mg/mLのHA-Acベースの柔性製剤、及び7.5mg/mLベースの剛性製剤、
図1D、表2)を評価した。図で見られるように、コントロールである市販のJuvederm(登録商標)と比べて、施術後の腫脹は、あまり観察されなかった。試験したこれらの2つの複合体は、対象とする剛性レジメ(表1)の両端で調合した。これらの製剤は、剛性が、試験した2種類のJuvederm(登録商標)、すなわち、Ultra XC(登録商標)及びVoluma(登録商標)と同程度であったことから、本発明で開示する複合体の調整性が示された。
表2:開示されているラット試験で試験した2つの複合体の配合の詳細
【表2】
【0240】
図1Eに示されているように、本発明の複合体における体積保持についても、市販のコントロール材と比べて、MRIによる定量によって評価したところ、本発明の複合体での炎症は、市販のコントロールと比べて軽減されたことが示された。
【0241】
実施例2.新規組成物を含む複合体ビーズであって、事前に反応させた複合体ビーズ
保存安定性を向上させ、エンドユーザーにとって、より簡潔で一貫性の向上したゲルを作製するために、事前に反応させたビーズ状製剤を含むゲルを形成したが、その製剤(HA-Acを7mg/mL、マレイミドを含む繊維を8~10mg/mL、及びPEGSHを6.9m/mL)は、塊状において、37℃で完全に反応させたものである。製造時にゲルを事前に反応させることによって、不安定な官能基を保護する必要がなく、エンドユーザーがよく混合して硬化させる必要性が排除された。
【0242】
その塊状のゲルを150μmまたは250μmのビーズに形成してから、(乾燥プロセス中にミクロ構造を保護するとともに、製品の貯蔵寿命を長くする目的で、)スクロース、トレハロース及び塩化ナトリウムの等張溶液で凍結乾燥した。そして、そのゲルビーズは、水で再構成され、すぐに注射できる状態になり、その貯蔵弾性率は、凍結乾燥前と同じである。そのビーズ状複合体の光学顕微鏡画像は、
図2に示されている。
図2Aには、直径250μmのビーズに微粒化した後の複合体が示されており、
図2Bには、さらに凍結乾燥及び再水和した後の複合体を示されており、その複合体が、元の外観を保持していることが示されている。
図2Cは、そのビーズ状製剤のナノファイバー成分及びハイドロゲル成分を示す10倍画像であり、
図2Dは、非希釈状態であるそのビーズ状製剤の光学顕微鏡画像である。
【0243】
図2に示されているビーズは、ビーズを可視化できるように100倍希釈されていることに留意されたい。非希釈状態では、得られたゲルは、肉眼では、ビーズ化前の状態(個々のビーズを識別できない)と同じように見える(
図2D)。これを明確化することは、提案している作用機序にとって重要である。宿主由来の浸潤細胞は、天然型細胞外マトリックス(ECM)と同様の形で、複合材と相互作用する。そして、凍結乾燥ビーズは、すぐに再水和でき、長い作用時間とともに、エンドユーザーにとって一貫したゲル特性を有することができる。ビーズ寸法、凍結乾燥プロセス及び凍結乾燥の配合を評価して、細かくしてビーズ状にし、凍結乾燥してから、再水和した後に、最初の特性との一貫性を最も保持するようにした。凍結乾燥の配合は、重要な変動要素であった。PBSで乾燥した製剤の方が、貯蔵弾性率の変化がかなり大きかったことから、ミクロ構造レベルでの変化が示唆されたからである。一次乾燥期では、ビーズを個々の粒子として保つために、棚温を-30℃以下に維持する必要があった。それよりも高い凍結乾燥温度では、シリンジに吸引できない固体プラグ材が生成された。ビーズ化及び凍結乾燥が、上記の複合体の貯蔵弾性率に影響を及ぼさないことは、
図2Eに示されている。
【0244】
実施例3.複合体ビーズの物理化学的な特徴付け
寸法分布の測定
複合体ビーズの直径を共焦点顕微鏡画像で、その粒子の最長軸に沿って測定した。解析は、51個の粒子を計数して行った。それらの粒子のヒストグラム(
図2G)から、平均ビーズ寸法は209.41±62.27μmであった。
図2Hには、粒子内の最長軸を測定することによって、寸法が約75μm、約150μm及び約200μmであったビーズの共焦点顕微鏡画像が示されている。
【0245】
より堅実な測定のために、エッジ検出を利用する画像解析プログラムを用いて、ビーズ寸法分布のさらなる特徴付けを行う。
【0246】
いくつかの実施形態では、塊状の複合体を処理するのに、メッシュ寸法の異なる篩を用いることにより、ビーズ寸法に関して、それぞれ異なるヒストグラムを得ることができる。
【0247】
代替的な実施形態では、SEM(走査電子顕微鏡)を使用して、複合体ビーズを画像化する。画像化プロセスの際には、ハイドロゲルまたは繊維の走査が必要となる場合がある。
【0248】
複合体ビーズの寸法に基づく注入性の評価
Good Manufacturing Practice(GMP)ロットの余剰ゲルを再加工して、ビーズ寸法に応じた注入性を評価した。簡潔に述べると、ゲルを10ccのシリンジに充填し、そのゲルを所定のメッシュのステンレス鋼製メッシュスクリーン(McMaster Carr製の25mmのステンレス鋼製メッシュをSartorius製の25mmのフィルターホルダーに配置したもの)に通すことによって微粉化した。ゲルは、250μmのスクリーンの後に、150μmのスクリーンに通した。続いて、このゲルを1ccのBD製ポリカーボネートシリンジに充填して、「150μm」群を作製した。次に、ロットの残りを追加の75メッシュスクリーンに3回通し、1ccのBD製ポリカーボネートシリンジに充填して、「75μm」群を形成させた。続いて、力学試験機MTS Criterion43に連結したシリンジ固定具(Instron)に、上記の充填済みのシリンジを取り付けた。シリンジから、27ゲージの針(長さ1/2インチ、BD)を通じて、1mm/秒のクロスヘッド速度で、ゲルを注入した。代表的な変位曲線が
図2Iに示されている。150μm群及び75μm群のいずれでも、許容される注入プロファイルが得られた。それらのプロファイルは似通っている。いずれの群でも、27ゲージの針の内径210μmを下回るゲルビーズが作られるからである。
【0249】
繊維の長さ分布の測定
ImageJを用いた位相差光学顕微鏡で見られる繊維の測定を通じて、本発明のハイドロゲル材の全体に分散している繊維の長さ分布を求めた(
図2J、K)。代替的な方法として、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて、繊維の長さ分布を求めることもできる。
【0250】
繊維及びハイドロゲルの官能基(化学的機能性)の定性的及び定量的な特徴付け
トルイジンブルー(TBO)アッセイを用いて、プラズマ処理後の繊維の-COOH基の特徴付けを行った。マイクロプレートリーダー:BioTeck Synergy2を用いて、このアッセイを評価した。従ったプロトコールの工程は、以下に記載されている。
・直径0.8cmのパンチを用いて、4片のアクリル酸変性繊維シートを打ち抜く。
・打ち抜いた繊維シートを24ウェルプレートに入れる。
・その繊維シートを1mLの0.1mM NaOHで2回洗浄する。
・0.1mM NaOH中の0.5mMトルイジンブルーO(TBO)溶液を調製する。
・1mLの0.5mM TBO溶液を各ウェルに加える。
・そのプレートを200rpmの振盪機にかけ、室温で12時間静置する。
・反応緩衝液を吸引除去する。
・その繊維シートを0.1mM NaOHで洗浄する。
・1mLの50%(v/v)酢酸を各ウェルに加える。
・そのプレートを200rpmの振盪機に、室温で30分かける。
・その上清100μLを96ウェルプレートに移す。
【0251】
50%(v/v)酢酸中のTBOを標準物質として、マイクロプレートリーダーを用いて、633nmで測定した。これらの実施例で用いた繊維で見られた典型的な値は、70~100nmol/cm2のCOOH密度である。
【0252】
EDC-NHS化学反応によって変性させて、マレイミド(MAL)基を加えた後、エルマンアッセイを行って、消費されたチオール基を測定した。マイクロプレートリーダー:BioTeck Synergy2を用いて、そのアッセイを評価した。従ったプロトコールの工程は、以下に記載されている。
・反応緩衝液、すなわち、1mM EDTAを含む0.1Mリン酸ナトリウム(pH8.0)を調製する。
・その反応緩衝液中で4mg/mLのエルマン試薬を調製する。
・その反応緩衝液中で0.5mMアセチルシステイン溶液を調製する。
・直径0.8cmの4片のマレイミド変性繊維シートをパンチで打ち抜く。
・その繊維シートを24ウェルプレートに入れる。
・その繊維シートを1mLの反応緩衝液で洗浄する。
・0.5mLの0.5mMアセチルシステイン溶液を各ウェルに加える。
・そのプレートを200rpmの振盪機に、室温で4時間かける。
・20μLの上清を96ウェルプレートに移す。
・その上清を反応緩衝液で50倍に希釈することによって、エルマン反応溶液を調製する。
・200μLのエルマン反応溶液を96ウェルプレートの各ウェルに加える。
【0253】
最後に、その96ウェルプレートを200rpmの振盪機に15分かけ、反応緩衝液中のアセチルシステインを標準物質として、マイクロプレートリーダーを用いて、412nmで測定する。そして、消費されたチオールを算出し、MAL密度を求める。これらの実施例で用いた繊維で見られた典型的な値は、70~100nmol/cm2のMAL密度である。
【0254】
核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて、修飾ヒアルロン酸のアクリル化の化学的定性及びアクリル化度の定量を行った。20mgのHA-Acを800mgの(D2O)重水に直接、NMRチューブにおいて加え、超音波処理によって60℃で2時間溶解させた。続いて、得られたスペクトルをVarian NMR Systemというスペクトロメーターで、400MHzの1H NMRによって解析した。Varianというソフトウェア、フーリエ変換、ベースラインのドリフト補正、位相合わせ、1HNMRの積分及びベースラインのフラット化を用いて、得られた曲線を処理した。
【0255】
6ppmに対応する3つのピークを積分し、2ppmにおける積分値で除した。2ppmにおける積分値を3とした。6ppmにおける3つのピークは、アクリレート基において炭素と結合した3つの水素と一致する(アクリレート基1つ当たり、合計3個の水素が存在すると予想される)。2ppmのピークは、ヒアルロン酸の各繰り返し単位に存在するアセチル基と結合した水素(繰り返し単位1個当たり3個)に対応する。したがって、置換度は、3つの6ppmピークの合計積分面積を2ppmピークの積分面積で除して、アクリレート基を有するHA繰り返し単位の割合を求めるたものである。アクリル化度(%)は、その割合に100%を乗じてパーセントに変換したものである。
【0256】
実施例4.異なる寸法の複合体ビーズのレオロジー特性の測定
メッシュ寸法1mm、250μm、150μm及び90μmのスクリーンを用いて、異なる寸法のビーズを調製した。それらの粒子の注入性(形成外科医からの評価)及びレオロジー特性について評価した。1000μmのビーズは、直径が、25ゲージの針の孔径よりもかなり大きいため、注射不能であった一方で、90μmのビーズは、ビーズ化プロセスで大きく損傷したので、両方の寸法とも、それ以降の試験からは除外した。250μm及び150μmのいずれのビーズ群も、27ゲージの針でスムーズに注射が行われた。
これらのビーズ寸法は、妥当な針寸法(25ゲージ=250μm、27ゲージ=210μm及び30ゲージ針=160μm)の内径と同程度である。250μm及び150μmのビーズのレオロジー特性は、
図3に示されている。固体プラグ材をビーズに形成すると、貯蔵弾性率が多少低下するが、得られるビーズは、本発明者が目標とする剛性の範囲内であり、最初の配合を変更することによって、剛性または柔性を高くすることができる。250μm及び150μmのビーズでは、同程度のレオロジー特性が見られ、いずれも、さらなる試験用に適するものであった。
【0257】
実施例5.ウサギモデルでの皮下注射による皮内反応性
次に、ウサギ皮下注射モデルにおいて、本発明のビーズ状製剤とJuvederm Voluma(登録商標)を1:1で試験した。組織診断の後、組織スライドの盲検評価を行った[CROから方法を取り入れる必要があった]。表2には、切り出した試料を3つの異なるカテゴリー(炎症、浮腫及び線維化)について評価するのに用いた評価尺度が示されている。この試験は、皮内反応性を判定するためのISO10993試験パッケージで必要とされる試験形態と同様の試験形態である。表3に示されているように、本発明で開示するビーズ状製剤では、Juvederm Volumaと比べて、炎症、浮腫及び線維化に及ぼす全体的な作用が小さかった。
表2:(Mass Histology,Worcester,MA)によって用いられている半定量的評価における評価尺度
【表2】
表3:ビーズ状製剤LS及びJuvederm Volumaの皮内反応性の半定量的評価
【表3】
【0258】
実施例6.ビーズ状複合体LS-1の特徴付け
最初のビーズ状製剤LS-1(7mg/mLのHA-Ac、7.1mg/mLのPEGSH、10mg/mLの繊維)のMRIの結果は、実施例1に記載されているin situゲル化製剤と同程度であり、ラットモデルにおいて持続性が不充分であった(
図4A)。in vivoにおいて、ビーズ状製剤LS-1の持続性を高めるために、HA-Ac成分及び繊維成分の濃度を上昇させ、HA-Acの分子量を大きくして、最適な生体適合性プロファイルを維持しつつ、持続性を改善した。これらの変更は、以前の塊状のゲル製剤ではなく、予め形成したナノファイバー-HAハイドロゲル複合体粒子でのみ行える点に留意されたい。HAのMWを大きくすることの作用を試験するために、平均MWが731kDaのHAを用いた複合体を作製した。持続性を高める試みでは、分子量の大きいHAを用いた複合体は、元々の複合体に用いたものと同じGMP供給源から使用した。
図4Bに示されているように、MWの大きい複合体ゲル(1.55MDa及び2.67MDa)は、分子量の小さい最初のプロトタイプ(731kDa)と比べて、貯蔵弾性率が多少高いが、臨床的に有意義なゲージ針を通じて完全に注射可能な状態を保持する。in vivo MRI試験により、MWの大きい方の複合体の持続性の向上が示された。
【0259】
in situ形成複合体製剤を最適化したとき、塊状のハイドロゲル複合体を31Gの針で注射しやくするために、ポリカプロラクトン(PCL)繊維の充填量を1%未満(膨潤複合体のw/v)に維持した。予め形成した複合体粒子を最適化するときには、注入性は、あまり問題にならない。したがって、HAハイドロゲルに対するPCL繊維の比率を高くした場合のPCLナノファイバーの強化作用を調べる。また、繊維充填量を増やすと、細胞のマトリックス透過性移動も増大し、その浸潤細胞に由来するコラーゲンの沈着が増加し得る。さらに、PCL繊維成分は、加水分解または酵素による分解プロセスに対する耐性が最も高い。
【0260】
HA濃度がせん断貯蔵弾性率に及ぼす作用を試験するために、さらに高い濃度のHAを(さらに高い濃度のPEG架橋剤とともに)使用して、架橋密度及び剛性を向上させて、耐久性を延ばすようにした。この方法は、PEG架橋剤を用いる最初のものである。架橋密度は、細胞の浸潤が可能になるように最適化する必要がある。剛性を最適化した場合、微粉化した複合体粒子間の空間によっても、細胞の浸潤及び移動が促される。
図4Cには、同じHA MW及び繊維充填条件で調製した複合体のせん断貯蔵弾性率にHA濃度(mg/ml)が及ぼす作用が示されている。
図4Dには、同じHA MW及び繊維充填条件で調製した複合体の圧縮貯蔵弾性率にHA濃度(mg/ml)が及ぼす作用が示されている。
【0261】
架橋密度及び剛性の異なる複合体粒子を組み合わせるために、予め形成した複合体粒子であって、高い架橋密度(剛性)及び低い架橋密度を有する粒子を混合し、両方の種類の粒子の利点(高い剛性、遅い分解速度、長い持続期間に対して、高い多孔質性、優れた細胞浸潤性及び血管新生性)を組みわせる。これらの2つの種類の複合体粒子の比率は、もう1つの調整可能な新規パラメーターである。
【0262】
これらの最適化パラメーターに基づき、14種類のLS製剤を作製し、MRI体積保持モデルで試験した(
図6A、表4)。我々は、齧歯類動物試験でこれらのパラメーターを最適化することによって、組織の侵入・成長性の向上及びより自然な感触は維持したままで、既存の市販されている標準物質に匹敵する耐久性を取り戻した。LS-2~LS-14の製剤の多くが、ビーズ化前の形態に変換することによって、最終的な製剤として検討するために実用化したに過ぎず、最初のin situの反応化学物質では不可能であろう点に留意されたい。貯蔵弾性率(Pa)によって認められたように、ゲル剛性が、(実質的にいくつかの場合において)元々のLS-1製剤から上昇したからである。この試験の代表的な群が
図4Eに示されている。この試験では、Juvederm(登録商標)Voluma XC(登録商標)を市販のコントロールとした。
表4:LS1製剤の変形形態LS-2~LS-14の特徴付け
【表4】
【0263】
実施例7.組織の侵入・成長のMRI及び組織学的解析による評価
組織の侵入・成長をフィラーJuvederm Volumaと比較して、MRI画像法及び組織学的解析によって特徴付けた(
図5A~5B)。MRI解析によって示されているように、合成組織と宿主組織の水分量の違いから、足場は、明るい白色に見える。時間の経過とともに、注射部位の周囲の宿主組織は浸潤し始め、新たな組織を形成する。このことは、長期持続性の注入剤に置き換えることができ、その場合、足場は、宿主組織が欠損部位を修復するのに充分に長い期間存続するが、天然の宿主組織によってリモデリングされる。これは、体内でカプセル化し、そのフィラーが分解機構に耐えられる限りは存続する従来のHAハイドロゲル(Sans Fibers)とは正反対である(
図5B)。
【0264】
図5A及び5Bに示されているように、5つの入力パラメーター(ハイドロゲルの分子量、ハイドロゲルの変性度、ハイドロゲルの濃度、ナノファイバーの濃度及び架橋密度)を変化させた。in vivoにおいて持続性及び性能を向上させるパラメーターがまだ明らかになっていなかったからである。78日間にわたってデータを収集した後(現時点において、試験は続行中である)、体積保持に対する影響が最も大きい入力パラメーターを決定した。
図5Cに示されているように、線形回帰モデルの線形予測能は、14日目(R
2=0.95)及び30日目(R
2=0.86)において、許容されるものである。これらの線形モデルに対する寄与要因は、時間とともに変化する。14日の時間枠では、ハイドロゲル濃度が最も大きい入力寄与要因であった。この原因は、ハイドロゲルがin vivoにおいて膨潤すること、すなわち、高濃度のゲルが、低濃度のゲルよりも膨潤することである可能性が高い。最も興味深いのは、ナノファイバーの濃度の影響は、注射から30日時点で最も大きかったことである。繊維は、組織の侵入・成長を誘導するのを助け、そのため、性能の最も高い複合体製剤で見られた、体積保持性の向上に不可欠である可能性が高い。
【0265】
実施例8.ラットモデルでのMRIによる膨潤評価
上記の複合体ビーズのLS群の完全に反応させた微粒化製剤では、Juvedermのような市販の皮下フィラーと比べると、優れた膨潤特性が見られる。具体的には、齧歯類動物MRIモデルにおいて、Juvedermを注射した場合に観察された、施術後の著しい膨潤は、LS複合体では見られず、臨床医が所望する「見たまま」以上の外観が可能になる。本発明の微粉化複合体形態のHA濃度、繊維充填量及び架橋度の最適化の継続は今でも続いており、体積増大力の向上、膨潤性の低減及びより自然な感触を維持したままで、既存の市販の標準物質に匹敵する耐久性を取り戻すと予想される。膨潤度は、
図6A~Cで特徴付け及びプロット化が行われている。
【0266】
tanδは、エネルギー損失とエネルギー貯蔵のバランスを定量するものである。弾性率または粘度にかかわらず、tanδが大きいほど、液体のような特性が強いことを示し、tanδが小さいほど、固体のような特性が強いことを示す。
タンデルタ(tanδ)=G’’/G’
【0267】
LSのビーズ状複合体は、tanδ測定値が、市販のフィラーよりも小さく(
図7A)、それと同時に、同程度の剛性プロファイルを保持している(
図7B)。より固体に近いその特性には、in vivoの脂肪(軟組織再建の現在のゴールドスタンダードである)の特性が映し出されている(
図7C)。
【0268】
実施例9.本発明のビーズ状複合体のデザインにより可能になる注射可能製剤
本発明のビーズ状のハイドロゲルのデザインによって、4つの有望な注射可能製剤が可能になる。
【0269】
一実施形態では、その注射可能製剤は、注射の前に速やかに再構成される凍結乾燥粉末ケーキの入ったバイアルを含む。これは、ボトックス注射で用いられているワークフローと同様のものである。
【0270】
別の実施形態では、2本のシリンジのシステムを用いて、複合体を再水和する。臨床医は、2本のシリンジを連結し、再水和してから、すぐに製剤を注射することになる。
【0271】
別の実施形態では、1本のシリンジによって使用する製剤を使用し、その場合、ビーズは、製造設備において、パッケージングの際に再水和されており、そのパッケージを空けると、すぐに注射できる状態になっている。
【0272】
別の実施形態では、再構成液の入ったバイアルとともに、凍結乾燥粉末の入ったシリンジを供給する。その再構成液をバイアルからシリンジまで吸い上げて、粉末と混合する。
【0273】
4つのすべての実施形態では、高度な開発試験で有望であることが示されている。
【0274】
実施例10.凍結乾燥方法及び調合の開発
上記の実施例に記載されている複合体構造の主な利点は、当該技術分野において知られている大半のハイドロゲル成分とは対照的に、本発明の繊維-ハイドロゲル複合体のナノファイバー相の機械的特性が、乾燥状態または凍結状態において、あまり変化しない点である。すなわち、凍結または凍結乾燥中に、その繊維部分は、複合体のミクロ構造全体を保持するのを助けることができる。正確な凍結乾燥サイクル及び調合により、その複合体は、再水和しても、個別のビーズとして維持される状態で凍結乾燥できる。
【0275】
この複合体構造においても、理想的な凍結乾燥の調合及びプロセスは、実験によって求める必要がある。この実施例では、MW700kのHA-アクリレートを7.3mg/mL、ナノファイバーを10mg/mL、及びPEGSH(5kの2-アーム型)を8.18mg/mL、PBS中で調合し、一晩、5ccのシリンジにおいて、37℃のインキュベーター内で反応させた。また、レオロジー試験のために、その溶液145μLを直径8mmの3個のモールドに入れる(
図8A、
図8Dにおける「ビーズ化前」)。ゲル化後、その複合体ゲルを250μmのスクリーンに通すことによって、そのゲルをビーズにする。そのビーズを直径8mmの3個のモールドに注入し、すぐにレオロジーについて試験する(
図8B、
図8Dにおける「ビーズ」群)。残りの量のビーズを液体窒素で急速凍結し、Labconco(登録商標)のフラスコ凍結乾燥機(FreeZone(登録商標)6)で48時間凍結乾燥した。凍結乾燥後、凍結乾燥ケーキは、凍結溶液の体積よりも小さかったことから、その試料が、期間全体にわたっては凍結状態を保たなかったことが示された。そのビーズを再水和して、失われた量(重量によって測定)の水を正確に補充した。得られた再構成ゲルは、凍結乾燥前とは異なる特性を有しており、そのゲルは、二相性で、ゲル相に完全には吸収されなかった余剰の水相を含む状態であった。また、そのゲルは、シリンジに吸引によっては充填できなかった。ミクロ構造の変化により、個々のビーズが融合されたからである。レオロジーについて試験したところ(
図8C、
図8Dにおける「凍結乾燥後」群)、そのゲルは、剛性がかなり高く、貯蔵弾性率は、ビーズ化前のゲルよりも5.19倍高く、ビーズ状のゲルよりも6.39倍高かった。これは、拡散したハイドロゲル構造が縮んで、緻密性の増した二相性構造になったことが原因である。注入性、物理的特性及び空隙率はいずれも、凍結乾燥プロセスによる影響を受ける。
【0276】
実施例11.改良された凍結乾燥方法及び調合の開発
凍結乾燥プロセス中、凍結乾燥する試料を、より低い温度(その凍結する試料のガラス転移温度未満)に維持するために、シェルフ内式凍結乾燥機を用いて、凍結乾燥に対する制御性を高めた以外は、上記と同じ手順に従った。MW700kのHA-アクリレートを7.3mg/mL、ナノファイバーを10mg/mL、及びPEGSH(5kの2-アーム型)を8.18mg/mL、PBS中で調合し、一晩、5ccのシリンジにおいて、37℃のインキュベーター内で反応させた。また、レオロジー試験のために、その溶液145μLを直径8mmの3個のモールドに入れる(
図9A~Bにおける「ビーズ化前」)。
ゲル化後、その複合体ゲルを250μmのスクリーンに通すことによって、そのゲルをビーズにする。そのビーズを直径8mmの3個のモールドに注入し、すぐにレオロジーについて試験した(
図9A~Bにおける「ビーズ」群)。残った量のビーズを-80℃のインキュベーターで凍結してから、予冷した凍結乾燥機Labconco(登録商標)Triad(登録商標)に24時間、-10℃の棚温で置いた後、24時間、20℃で二次乾燥した。凍結乾燥後、凍結乾燥ケーキは、バイアル中で、凍結乾燥前の凍結試料と同じ容積を占めたことから、そのケーキが、凍結乾燥中に溶融し始めなかったことが示された。そのビーズを再水和して、失われた量(重量によって測定)の水を正確に補充した。再構成したゲルは、シリンジに吸引によっては充填できなかったが、ルアーロックコネクターによってシリンジ間を通すと、最初は互いに強くくっついていたゲルビーズを個々のビーズに分散させることができた。レオロジーについて試験したところ(
図9A~Bにおける「凍結乾燥後」群)、ビーズは、剛性がかなり大きく、貯蔵弾性率及びヤング率が大きく上昇した。これは、拡散したハイドロゲル構造が縮んで、緻密性の増した二相性構造になったことが原因である。注入性、物理的特性及び空隙率はいずれも、凍結乾燥プロセスによる影響を受ける。
【0277】
実施例12.低張調合による凍結乾燥方法の開発
MW700kのHA-アクリレートを7.0mg/mL、ナノファイバーを10mg/mL、及びPEGSH(5kの2-アーム型)を7.18mg/mL、一晩、5ccのシリンジにおいて、37℃のインキュベーター内で反応させてから、150μmまたは250μmのスクリーンでビーズ化した。この実施例では、ビーズは、低張材として調合した(PBSの代わりに、脱イオン水を使用した)。
【0278】
そのビーズを1cc、Labconco(登録商標)凍結乾燥バイアルに充填し、そのバイアルに、等張溶液を1cc加え、さらに、脱イオン水を1cc加えて、バイアル中の溶液の総体積を3ccにし、ビーズをその体積の全体にわたって分散させた。その等張溶液は、A:3%スクロース、3%トレハロース、0.3%NaCl及び700kの遊離HAを2mg/mL、またはB:PBS及び700kの遊離HAを2mg/mlのいずれかであった。そのバイアルを液体窒素で急速凍結してから、-30℃の棚温及び10Paの減圧下で48時間凍結乾燥し、24時間、20℃まで上昇させた温度で、シェルフ内式凍結乾燥機Labconco Triadにおいて二次乾燥を行った。凍結乾燥後、そのビーズを再水和して、失われた量(重量によって測定)の水を正確に補充した。その複合体ゲルビーズは、シリンジに容易に吸引できたことから、個々のビーズ構造が保持されたことが示された(光学顕微鏡によって確認した)。スクロース-トレハロース溶液で凍結乾燥した群は、ビーズ化プロセスの直後、希釈及び凍結乾燥の前に行った群と、感触及びハンドリング性が同じであった。そのレオロジー特性も、実質的に同じで、その群は、貯蔵弾性率が最初のビーズ化前のゲルの90%であり、凍結乾燥前のビーズ状のゲルよりも弾性率が22%高かった(
図10A)。PBS緩衝液で希釈した群も、シリンジに容易に吸引され、スクロース-トレハロース群と同様の挙動を見せたが、貯蔵弾性率は上昇し、最初のビーズ化前の弾性率よりも87%高く、凍結乾燥前のビーズ状のゲルよりも154%高かった。これにより、PBS群では、粒子が別個のビーズを保持した場合でも、依然として、何らかのミクロ構造変化が起きたことが示されている。
【0279】
ビーズ寸法の決定
ビーズ化プロセスで使用するスクリーンのメッシュ寸法を変えることによって、ビーズ寸法を変動させた。
【0280】
目開きが250μmを超えるビーズスクリーンは除外した。得られるビーズは、少なくとも1つの寸法が、シリンジの針の内径よりも小さくなければならないからである。ダーマルフィラーの適用の際に一般的に用いられている針は、内径が260μm~160μmの25ゲージ~30ゲージの範囲である。目開き90μmスクリーンによって、小さめのビーズを試したが、その小さいメッシュ寸法により、複合体ゲルのミクロ構造が破壊された。目開き90μm寸法は、個々の繊維の多くの長さよりも小さく、そのため、均質なゲル-繊維複合体に分かれずに、繊維とゲルが引き裂かれた。90μmのスクリーンで処理しても、特徴付けに充分な材料は得られなかった。250μm及び150μmのスクリーンによって作製したビーズ(
図10B)では、
図10Aにおけるようにして形成したビーズと、レオロジー特性が同程度のゲル、特に、貯蔵弾性率及びタンデルタがダーマルフィラーに適するゲルが得られた。
【0281】
タンデルタ
タンデルタは、レオロジーに関して損失弾性率を貯蔵弾性率で除した値であり、タンデルタの数値が低いほど、より「固体に近い」とみなされ、その反対は、「液体に近い」材料であることを意味する。上記プロセスの試料(ビーズ化前、250μmのビーズ、150μmのビーズ)のタンデルタは、
図10Cに示されている。
図10Dに示されている動向に見られるように、ダーマルフィラー業界では、時間とともに、タンデルタ値が低下する傾向が示されてきた。これは、感触が固体に近づいていく傾向であり、この傾向では、皮膚欠損部を充填する際のリフティング力が向上している。本発明の繊維-ハイドロゲル複合材では、リフティング力が向上する傾向がさらに進み、ビーズ化プロセス後でも、その特質が維持される。レオメーターAres G2で、1Hz(0.1~10%の振幅)において振幅掃引中にタンデルタのデータを得て、その1~10%の振幅のタンデルタ値を平均した。複合体の値は、
図10Cに示されている、150μmのビーズ群のものである。
【0282】
実施例13.細胞送達による合成軟組織
大型動物の軟組織欠損モデル
【0283】
上記の実施例では、皮下注射モデルに従って、有効性及び宿主組織応答性を調べた。これらのモデルは、本発明で開示する皮下フィラー製品に最適であるからである。この技術の用途をさらに発展させるために、再建手術を対象とするさらに大きい軟組織欠損部の修復が探求されている。
【0284】
ニュージーランドウサギの鼠径部脂肪体において、10mmの生検パンチを用いて、中程度の大きさの欠損部(円筒状:直径10mm×高さ13mm、約1cc)を作製し、塩析法を用いて、異なるウサギにおいて、除去される脂肪の体積の一貫性を確保した。1ccの体積は、軟組織の修復で現在用いられている個々の脂肪移植片のボーラスサイズよりも大きく、有意義な概念実証として機能する。in situで形成したビーズ状複合体またはコントロールのハイドロゲルは、欠損形状を呈した(
図11A)。
【0285】
POD14(術後14日目)に採取した組織試料の予備的調査によって、POD14に、宿主血管が150Paの複合体に浸潤した程度が、80Paのハイドロゲルへの浸潤よりも大きかったことが確認された。対照的に、150Paのハイドロゲルでは、血管の移植片への有意な侵入・成長は見られず、150Paのハイドロゲルと宿主組織の間に明瞭な境界が見られた。この予備的な調査では、幹細胞を複合体に播種することも、自己脂肪移植片を複合体に混合することもしなかった。上記の結果によっては、血管の複合体のみへの侵入・成長が示されている。また、上記モデルは、今後、より体積の大きい軟組織の再建で、細胞を導入した状態で使用するモデルにもなる。
図11Bには、POD14における、異なる移植片マトリックス(150Paの複合体、150Paのハイドロゲル及び80Paのハイドロゲル)への宿主血管の浸潤が示されている。内皮細胞は、CD31で赤色に染色し、細胞核は、DAPIで青色に染色した。繊維は、F8BTで緑色に染色した。スケールバーは、100μmである。
【0286】
下記に明らかにされている試験により、大型動物外傷モデルにおいて、さらに大きくて深い軟組織欠損部を修復する技術の進展が示されている。
【0287】
実施例14.ラットモデルにおける複合体ビーズの皮下移植
実施例5の実験から得た複合体ビーズLS-5を含むラットから、in vivoで13週間目に、組織試料を採取した。その組織試料を固定し、切片化し、H&E染色及びマッソントリクローム染色で染色した。H&E染色による組織像(
図12)に、その細胞の成長/浸潤パターンが示されており、そのパターンでは、下地となるビーズの形態が再現されている。
【0288】
代替的な実施形態では、繊維密度の異なる様々な複合体ビーズを移植して、細胞の増殖、形態的変化、移動挙動を評価する。
【0289】
実施例15.複合体ビーズの安定性の測定
開示されている複合体ビーズの安定性を評価するために、マイクロビーズで、様々な時点に、レオロジー試験を行って、機械的安定性を求める。4℃の水和形態で、マイクロビーズが、6カ月安定していることが明らかになった。
【0290】
水和形態及び脱水形態のビーズで、構造的一体性を求めるためのレオロジー試験(せん断弾性率)を室温で、1カ月、3カ月、6カ月、9カ月、12カ月及び24カ月の時点に行う。ハイドロゲル分子量、アクリル化度、繊維濃度、マレイミド度及び架橋密度の異なる様々な複合体ビーズの安定性について試験する。
【0291】
上記の実施例に記載されているように、本発明のビーズ状製剤は、臨床的に有意義な27~31ゲージまたは16~31ゲージの針を通じて容易に注射可能な状態を保ち、in situでゲル化するプロトタイプを上回るいくつかの改良点をもたらす。本発明のビーズ状製剤により、使いやすさが向上するように、シリンジによる単回送達システムが可能になる。表面積が大幅に増加することで、凍結乾燥ビーズは、さらに速く再水和するので、2本のシリンジをよく混合する必要がなくなる。本発明のビーズ状製剤により、その製剤で用いられるヒアルロン酸、ナノファイバー及び架橋剤の濃度の上昇が可能になる。
以前は、最高濃度は、粘度及び注入力によって管理した。微粉化ビーズに移行することによって、構成成分の濃度は、律速要因ではなくなり、構成成分群はさらに、剛性を改変し、耐久性を高めることができる。本発明のビーズ状製剤により、安定性を向上可能になる。事前に反応させた本発明の複合体ビーズ形態は、反応させない形態よりも、温度、湿度及び変光に対する耐性がかなり大きく、国境を越えた輸送を複数回行った後も、特性が変化しない。そして、本発明のビーズ状製剤によって、強化された細胞足場及び組織送達足場が得られる。
【0292】
均等物
本明細書に記載されている詳細な実施例及び実施形態は、例として、例示目的で示されているに過ぎず、いかなる形においても、本発明を限定するものとしてはみなされないと理解する。本発明に鑑み、様々な改変または変更が当業者に示唆され、それらの改変または変更は、本願の趣旨及び範囲に含まれ、添付の請求項の範囲内とみなす。例えば、成分の相対量を変更して、所望の作用を最適化してもよく、追加の成分を加えてもよく、及び/または記載されいてる成分のうちの1つ以上を類似の成分に置き換えてもよい。本発明のシステム、方法及びプロセスと関連するさらなる有益な特徴及び機能は、添付の請求項から明らかになるであろう。さらに、当業者は、本明細書に記載されている本発明の具体的実施形態の多くの均等物を認識するか、または常法に過ぎない実験を用いて、それらの均等物を把握できるであろう。このような均等物は、添付の請求項に含まれるように意図されている。
平均長が約200マイクロメートル未満である複数のポリカプロラクトン繊維に共有結合している官能化ヒアルロン酸の網目構造と、約1mg/mL~約25mg/mLの濃度で存在する架橋剤、
を含む実質的に非球状のマイクロビーズの集団であって、
前記マイクロビーズの平均寸法が、最長寸法に沿って約50マイクロメートル~約300マイクロメートルの範囲内である前記マイクロビーズ集団。