(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006943
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】MnZnNiCo系フェライト
(51)【国際特許分類】
C04B 35/38 20060101AFI20240110BHJP
H01F 1/34 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C04B35/38
H01F1/34 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036065
(22)【出願日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2022108038
(32)【優先日】2022-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】野島 明瑞美
(72)【発明者】
【氏名】曽我 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 由紀子
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AB02
5E041AB19
5E041CA01
5E041CA02
5E041NN01
5E041NN13
5E041NN15
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】広い温度域かつ広い周波数領域において小さな磁気損失を維持しながら、飽和磁束密度が高く、さらには連続励磁下でのコアの温度上昇を防止することができるMnZnNiCo系フェライトを提供する。
【解決手段】基本成分を、FeがFe2O3換算で、53.90~55.40mol%、ZnがZnO換算で9.60~10.60mol%、NiがNiO換算で1.00~3.00mol%、CoがCoO換算で0.10~0.50mol%およびMnがMnO換算で32.55~35.60mol%とし、副成分を、前記基本成分に対し、SiがSiO2換算で50~500質量ppm、CaがCaO換算で200~2000質量ppmおよびNbがNb2O5換算で50~500質量ppmとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本成分、副成分および不可避的不純物からなるMnZnNiCo系フェライトにおいて、
前記基本成分のうち、
FeがFe2O3換算で53.90~55.40mol%、
ZnがZnO換算で9.60~10.60mol%、
NiがNiO換算で1.00~3.00mol%、
CoがCoO換算で0.10~0.50mol%および
MnがMnO換算で32.55~35.60mol%
であって、
前記副成分が、前記基本成分に対し、
SiがSiO2換算で50~500質量ppm、
CaがCaO換算で200~2000質量ppmおよび
NbがNb2O5換算で50~500質量ppm
であるMnZnNiCo系フェライト。
【請求項2】
最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzのときの、40~120℃の範囲の磁気損失が420kW/m3以下であって、
かつ、最大磁束密度:50mT、周波数:500kHzのときの、40~120℃の範囲の磁気損失が220kW/m3以下である請求項1に記載のMnZnNiCo系フェライト。
【請求項3】
温度:100℃における磁化力:1200A/mでの飽和磁束密度が425mT以上である請求項1または2に記載のMnZnNiCo系フェライト。
【請求項4】
温度:120℃において、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzの条件で、連続して励磁した際の前記MnZnNiCo系フェライトの温度上昇率が20%以下である請求項1または2に記載のMnZnNiCo系フェライト。
【請求項5】
温度:120℃において、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzの条件で、連続して励磁した際の前記MnZnNiCo系フェライトの温度上昇率が20%以下である請求項3に記載のMnZnNiCo系フェライト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MnZnNiCo系フェライトに関し、特に車載のDC―DCコンバータのメイントランスに適する、磁気損失が改善されたMnZnNiCo系フェライトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
MnZnNiCo系フェライトは、代表的な軟磁性材料のうちの1つであり、車載のDC―DCコンバータ内のメイントランスやノイズフィルターなどに用いられている。その中でもメイントランスの電源用として用いられているMnZnNiCo系フェライトは、近年、高周波でかつ広い温度範囲で低損失である材料が要求されている。
【0003】
磁気損失を広い温度範囲で低く保つために制御すべき因子の1つとして、磁気異方性定数K1がある。磁気損失は、かかるK1が0となる温度で最小値をとり、K1の絶対値がゼロに近いほど、磁気損失の値が小さくなる。また、K1はフェライトの主成分の元素それぞれのK1の足し合わせによって決定する。
ここで、プラスのK1を有するのはFe2+とCo2+であり、マイナスのK1を有するのはFe3+、Ni2+、Mn2+である。Co2+は、K1の温度依存性を小さくすることができるため、K1の温度変化率を小さくする。よって、Co2+が存在すると、Co2+が存在していないときよりも広い温度範囲でK1が0に近い値を取るようになるため、磁気損失を広い温度範囲で小さくすることができる。
【0004】
例えば、特許文献1では、Fe2O3、MnO、ZnOを主成分とするフェライトに、Coイオンを0.01~0.5mol%導入することにより、K1=0の温度範囲を広げることで、磁気損失の温度特性が平坦になる技術が開示されている。
【0005】
ところで、磁気損失は、ヒステリシス損失、渦電流損失、残留損失に分けられる。
このうち、渦電流損失は、フェライトコアの比抵抗を向上させることにより低減することが可能であることが知られている。かかるフェライトコアの比抵抗を向上させるためには、粒界に高抵抗相を形成するような基本成分以外の物質の添加が有効である。
【0006】
例えば、特許文献2では、MnZn系フェライトに副成分として酸化カルシウムや酸化ケイ素などの酸化物を微量添加して粒界に偏析させ、粒界抵抗を高めることで、全体としての抵抗率を0.01~0.05Ω・m程度から数Ω・m以上高めることにより渦電流損失が低下し、全体の磁気損失を低下させる技術が開示されている。
【0007】
また、昨今、車載に搭載される部品類は小型化がすすんでいる。それに伴い、MnZnフェライトコアについても小型化が要求されている。フェライトコアを小型化するためには飽和磁束密度を高くする必要がある。
【0008】
飽和磁束密度は、MnZnフェライト成分のFe2O3の含有量を増やすことで高温でも高い飽和磁束密度となることが知られている。(例えば、特許文献3参照)
【0009】
特許文献4では、室温から100℃付近の温度範囲で損失が低く、かつ高い磁束密度をもつフェライトについて言及されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平04-033755号公報
【特許文献2】特公昭36-002283号公報
【特許文献3】特開平11-329822号公報
【特許文献4】特開2007-31210号公報
【特許文献5】特開2012-116700号公報
【特許文献6】特開2013-107811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載されているフェライトは、同文献の第1図に示されている通り、損失極小温度が低温側にあり、近年における高温での動作範囲では、温度上昇が加速して熱暴走を起こす危険性がある。また、近年におけるフェライトコアの小型化に必要な特性である飽和磁束密度についての言及がなされていない。
【0012】
特許文献2に記載された技術では、Coが含有されていないことから、磁気損失の温度特性が平坦でないと考えられ、磁気損失が最低値となる温度から離れた温度であるほど、一層、磁気損失は高くなることが予想されるものの、かかる磁気損失についての言及がなされていない。
【0013】
特許文献3に記載された技術では、Fe2O3の含有量が増えているので、磁気損失の最低値を取る温度が低温側にシフトし、それに伴って高温側の磁気損失が高くなってしまうという問題があるものの、かかる磁気損失についての言及がなされていない。
【0014】
特許文献4で言及されている損失の周波数は100kHzであり、これを超えた高い周波数での損失については言及されていない。また、周波数:100kHz、磁束密度:200mTの損失についても値が高く、近年における低損失な材料としての使用には問題が残っている。
【0015】
すなわち、従来の技術では、磁気損失と飽和磁束密度が後述する数値を同時に満たすMnZnNiCo系フェライトを提供することが困難であった。
【0016】
さらにいえば、MnZnNiCo系フェライトについて、一定の周波数および磁束密度の条件下で、連続で励磁させた場合に、周囲の温度が高温だとコアの温度上昇がみられる。これは、励磁させることで磁気損失が発生し、その分コアの温度が上昇するためであると考えられる。かようなMnZnNiCo系フェライトが使用される車載用途では、部品の温度上昇を抑制するために冷却技術が用いられているものの、その部品であるフェライトコアの温度上昇が抑えられれば、冷却に必要なエネルギーをより抑えることができる。
ここで、連続励磁時の発熱を防止する技術としては、特許文献5および特許文献6が開示されている。しかし、これらに記載の技術でもコアの温度上昇の防止は十分ではない。
【0017】
本発明の主な目的は、広い温度域および広い周波数領域において小さな磁気損失を維持しながら、温度:100℃における磁化力:1200A/mでの飽和磁束密度が425mT以上であって、さらには連続励磁下でのコアの温度上昇を防止することができるMnZnNiCo系フェライトを提供することである。なお、本発明において、広い温度域とは40~120℃程度の範囲を意味し、広い周波数領域とは100~500kHz程度の範囲を意味する。また、本発明において温度とは、特に断らない限り、フェライト焼結体や、コア、部品等の対象物の表面を熱電対で測定した値を意味する。より具体的には、対象物の雰囲気温度を所定の温度に設定し、対象物の表面温度が雰囲気と同じ温度になったことを確認して、磁気特性等を測定した。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、従来のMnZnNiCo系フェライトから飽和磁束密度を高くするためにFe2O3量を増やす一方で、Fe2O3が増えたことによる温度特性のズレを、NiOを主成分組成に組み込む等することで、上記した諸課題を解決することに成功した。
【0019】
すなわち、本発明の要旨構成は次の通りである。
1.基本成分、副成分および不可避的不純物からなるMnZnNiCo系フェライトにおいて、前記基本成分のうち、FeがFe2O3換算で53.90~55.40mol%、ZnがZnO換算で9.60~10.60mol%、NiがNiO換算で1.00~3.00mol%、CoがCoO換算で0.10~0.50mol%およびMnがMnO換算で32.55~35.60mol%であって、前記副成分が、前記基本成分に対し、SiがSiO2換算で50~500質量ppm、CaがCaO換算で200~2000質量ppmおよびNbがNb2O5換算で50~500質量ppmであるMnZnNiCo系フェライト。
【0020】
2.最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzのときの、40~120℃の範囲の磁気損失が420kW/m3以下であって、かつ、最大磁束密度:50mT、周波数:500kHzのときの、40~120℃の範囲の磁気損失が220kW/m3以下である前記1に記載のMnZnNiCo系フェライト。
【0021】
3.温度:100℃における磁化力:1200A/mでの飽和磁束密度が425mT以上である前記1または2に記載のMnZnNiCo系フェライト。
【0022】
4.温度:120℃において、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzの条件で、連続して励磁した際の前記MnZnNiCo系フェライトの温度上昇率が20%以下である前記1~3のいずれかひとつに記載のMnZnNiCo系フェライト。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、広い周波数帯域であり、かつ広い温度範囲であっても、磁気損失が低くかつ高温での飽和磁束密度が高く、さらには連続励磁時のコアの温度上昇を効果的に低減するMnZnNiCo系フェライトを提供することができる。
また、本発明は、エネルギー効率が良い小型のメイントランスの電源用フェライトとして使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のMnZnNiCo系フェライトは、磁気損失が低くかつ高い飽和磁束密度を有すると共に磁気損失の温度特性を最適化する観点から、Fe2O3、ZnO、NiO、CoO、およびMnOを後述する適正量とした基本組成を有するものである。
また、磁気損失が最小となる温度は、Fe2O3、ZnO、NiO、CoO、およびMnOの組成比で決定される。磁気損失の最小となる温度が低すぎたり、全体的に磁気損失が大きかったりすると、フェライトコアにおける温度上昇率が大きくなる。よって、コアの温度上昇率の観点からも、以下の基本組成を有する必要がある。なお、以下のmol%は基本成分中の組成比である。よって、基本成分の合計量は100.00mol%となる。
【0025】
まず、本発明のMnZnNiCo系フェライトの基本成分について具体的に説明する。
FeがFe2O3換算で基本成分中53.90~55.40mol%
Fe2O3換算で53.90mol%未満であると、飽和磁束密度が425mTを下回ってしまうため、FeはFe2O3換算で基本成分中53.90mol%以上とする必要がある。好ましくは54.00mol%以上である。一方、FeがFe2O3換算で基本成分中55.40mol%を超えると、磁気損失が大きくなり過ぎる。そのため、上限を55.40mol%とする。好ましくは55.38mol%以下である。
【0026】
ZnがZnO換算で基本成分中9.60~10.60mol%
ZnOは、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzの条件下において、40~120℃という幅広い温度範囲における磁気損失を420kW/m3以下に抑えるために、ZnはZnO換算で基本成分中9.60~10.60mol%の範囲とする必要がある。好ましくは9.65mol%以上である。また、好ましくは10.20mol%以下である。
【0027】
NiがNiO換算で基本成分中1.00~3.00mol%
FeがFe2O3換算で前記した範囲内の場合に、NiがNiO換算で基本成分中1.00mol%未満であると、磁気損失が最低値をとる温度が低温側となり過ぎるので、温度:120℃の磁気損失が大きく劣化してしまう。そのため、NiはNiO換算で基本成分中1.00mol%以上とする必要がある。好ましくは1.03mol%以上である。一方、FeがFe2O3換算で前記した範囲内の場合に、NiがNiO換算で基本成分中3.00mol%を超えると、温度:100℃における磁化力:1200A/mでの飽和磁束密度が425mTを下回ってしまう。そのため、NiはNiO換算で基本成分中、その上限を3.00mol%とする。好ましくは2.50mol%以下であり、より好ましくは2.20mol%以下である。
【0028】
CoがCoO換算で基本成分中0.10~0.50mol%
CoOは、前述したように温度特性を調節する働きがある。しかし、CoOを過剰に含有すると、磁気損失が最低値をとる温度が低下してしまう。よって、CoはCoO換算で基本成分中0.50mol%を上限とする。好ましくは0.45mol%以下である。一方、CoOは、含有量が少ないと温度係数の改善効果が小さくなって、磁気損失値の改善が望めない。よって、CoはCoO換算で基本成分中0.10mol%を下限とする。好ましくは0.20mol%以上であり、より好ましくは0.30mol%以上である。
【0029】
本発明は、MnZnNiCo系フェライトであるが、上記したFe2O3、ZnO、NiOおよびCoO以外の基本成分の残部は、マンガン酸化物である。マンガン酸化物を全てMnOとして換算した場合の、MnOの範囲は32.55~35.60mol%である。ここで、かかるMnOの範囲は32.56mol%以上が好ましい。一方、かかるMnOの範囲は35.00mol%以下が好ましく、34.80mol%以下がより好ましい。
【0030】
本発明のMnZnNiCo系フェライトは、上記基本成分以外に、副成分としてSiO2やCaO、Nb2O5等を含有させることを特徴とする。
【0031】
SiO2:前記基本成分に対して50~500質量ppm
SiO2は、CaOと共に粒界に偏析し、高抵抗相を形成することで、渦電流損失が小さくなり、全体の磁気損失を低減する効果がある。含有量が50質量ppm未満では含有した効果が十分に得られない。一方、500質量ppmを超えて含有すると、焼結時に結晶粒が異常に成長する事象が発生し、かえって磁気損失が大幅に増加する。
したがって、SiO2は、前記基本成分に対して50~500質量ppmの範囲で含有する必要がある。さらに、異常粒成長をより確実に抑制するためには、50質量ppm以上の含有が好ましく、400質量ppm以下の含有が好ましい。SiO2は、より好ましくは、75質量ppm以上である。また、SiO2は、より好ましくは、300質量ppm以下である。
【0032】
CaO:前記基本成分に対して200~2000質量ppm
CaOは、SiO2と共存した場合、粒界に偏析して抵抗を向上させることにより磁気損失の低減に寄与するが、含有量が200質量ppm未満では、その添加効果が十分に得られない。一方、2000質量ppmより多くなると、磁気損失は増大する。したがって、CaOは、前記基本成分に対して200~2000質量ppmの範囲で含有する必要がある。CaOは、好ましくは、500質量ppm以上である。また、CaOは、好ましくは、1500質量ppm以下である。
【0033】
Nb2O5:前記基本成分に対して50~500質量ppm
Nb2O5は、SiO2およびCaOとの共存下で、比抵抗の増大に有効に寄与する。含有量が50質量ppm未満である場合、十分な効果が得られない。一方、500質量ppmを超過すると、磁気損失を増大させてしまう。したがって、Nb2O5は、前記基本成分に対して50~500質量ppmの範囲で含有する必要がある。なお、好ましくは、75質量ppm以上であって、より好ましくは90質量ppm以上である。また、好ましくは、400質量ppm以下であって、より好ましくは350質量ppm以下である。
【0034】
本発明のMnZnNiCo系フェライトは、上記した基本成分、副成分および不可避的不純物からなっている。
ここで、本発明における不可避的不純物は、基本成分の原料に含まれるCl、Sr、Ba等が挙げられる。また、MnZnNiCo系フェライト全体に対し、0.01質量%程度以下であれば許容される。
【0035】
次に、本発明におけるMnZnNiCo系フェライトの製造方法について説明する。
基本成分となるFe2O3、MnO、ZnO、NiOおよびCoOの組成比が本発明の規定範囲内となるように秤量した原料粉末を、十分に混合した後、仮焼する。かかる仮焼後の粉末に、副成分であるSiO2、CaOおよびNb2O5を本発明の規定範囲内となるように秤量して含有し、十分に混合および粉砕を行う。かかる混合および粉砕を施した粉末にバインダーを加えて造粒し、金型を用いて圧縮成形する。かかる成形後の成形体を焼成してフェライト焼結体(製品)とする。
【0036】
かくして、上記フェライト焼結体は、従来のMnZnNiCo系フェライトではその実現が極めて困難であった、100℃における磁化力:1200A/mでの飽和磁束密度が425mT以上、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzで測定した40~120℃における磁気損失がいずれも420kW/m3以下、最大磁束密度:50mT、周波数:500kHzで測定した40~120℃における磁気損失がいずれも220kW/m3以下、および120℃において周波数:100kHz、磁束密度:200mTで連続的に励磁した際のコアの温度上昇率が20%以下という、100℃まで高い飽和磁束密度を維持したまま、100kHz以上で駆動する場合に、広い温度範囲にわたって磁気損失が小さく、連続励磁下での温度上昇が低い本発明のMnZnNiCo系フェライトとなる。
【0037】
ここで、100℃における磁化力:1200A/mでの飽和磁束密度が425mT以上であると、フェライトコアを小型化することが可能であるため、例えば、搭載されるDC―DCコンバータ内のフェライトコアが占拠する場所を少なくすることができる。
【0038】
最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzで測定した40~120℃における磁気損失がいずれも420kW/m3以下で、かつ、最大磁束密度:50mT、周波数:500kHzで測定した40~120℃における磁気損失がいずれも220kW/m3以下であると、広い温度範囲で磁気損失が低いため、フェライトコアの発熱を抑えることができる。また、広い周波数範囲で低損失であるため、様々な周波数に対応することが可能である。
【0039】
120℃において周波数:100kHz、磁束密度:200mTで測定した際のコアの温度上昇率が20%以下であると、連続で使用することによる熱暴走を防ぐことができる。
【0040】
その他上記に記載のない焼結体(MnZnNiCo系フェライト)を製造する方法は、その条件や使用機器等に特に限定はなく、いわゆる常法に従えば良い。
【実施例0041】
以下、本発明について確認した実施例について説明する。
まず、基本成分である、Fe2O3、ZnO、MnO、NiOおよびCoOを表1に示す組成比(mol%)となるように秤量し、かかる秤量した原料粉末を、湿式ボールミルを用いて16時間混合し、大気中、925℃の環境下で3時間仮焼した。
上記仮焼後の基本成分を有する仮焼粉に対し、副成分としてSiO2、CaOおよびNb2O5を、表1に示した比率の量(質量ppm)となるように含有し、湿式ボールミルを用いて16時間粉砕した。かかる粉砕後に乾燥して得られた粉砕粉に対し、バインダーとしてPVAを加え篩に通して造粒した。
上記造粒後の造粒粉を、外径:36mm、内径:24mm、高さ:12mmのリング状に成形し、酸素分圧:1~5vol%の範囲に制御した窒素と空気の混合ガス中にて、最高温度:1350℃で2時間の焼成を施し、リング状試料(フェライト焼結体)を得た。
【0042】
前記リング状試料について、1次側:40巻・2次側:20巻の巻線を施し、直流磁化特性試験装置を用いて、23~120℃において、1200A/mの磁界をかけたときの磁束密度を測定した。かかる大きさの磁界では、磁束はほぼ飽和しているため、かかる磁束密度の値が飽和磁束密度と考えられる。
【0043】
また、1次側:5巻・2次側:5巻の巻線を施し、交流BHループトレーサーを用いて、温度が23~130℃の範囲において、周波数:100kHzで磁束密度:200mTまで励磁したときの磁気損失、および周波数:500kHzで磁束密度:50mTまで励磁したときの磁気損失をそれぞれ測定した。
加えて、コアに1次側:5巻・2次側:5巻の巻線を施し、コアを120℃の温度に保った後、交流BHループトレーサーを用いて、周波数:100kHz、磁束密度:200mT、の条件で20分間励磁し続け、コアに装着した熱電対で測定した、励磁開始時のコアの温度(120℃)と、励磁開始から20分後のコアの上昇した温度との差を算出し、励磁開始時のコアの温度で割って、連続励磁時のコアの温度上昇率を求めた。
なお、上記20分の励磁時間で、かかるコアの温度上昇はおさまりコアの温度が一定になって、コアの温度が充分に安定していることを確認している。
【0044】
上記測定結果に基づき、100℃での飽和磁束密度、磁気損失極小温度、および温度が40℃、120℃での磁気損失値、連続励磁時のコアの温度上昇率を、それぞれ表1に示す。
ここで、表1のNo.1~17は、本発明に適合する発明例を、一方、表1のNo.18~40は、本発明の範囲から外れた比較例を示したものである。
なお、表1における実施例において、不可避的不純物量は、いずれも0.01質量%以下であることを確認している。
【0045】
表1の記載からわかるように、Fe2O3、ZnO、MnO、NiOおよびCoOの基本成分とSiO2、CaOおよびNb2O5の副成分の組成をそれぞれ適切に選んだ上で得られた発明例のMnZnNiCo系フェライトは、いずれも磁化力:1200A/m、温度が100℃での飽和磁束密度が425mT以上となっている。
また、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzで測定した、温度が40~120℃における磁気損失は420kW/m3以下で、かつ、最大磁束密度:50mT、周波数:500kHzで測定した、温度が40~120℃における磁気損失は220kW/m3以下であり、いずれの発明例も広い周波数領域かつ広い温度域で低損失であることがわかる。
さらに、温度が120℃において、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzの条件で、連続して励磁した際の前記MnZnNiCo系フェライトの温度上昇率は20%以下であった。
これらのことから、本発明に従えば、飽和磁束密度を高く維持したまま、温度が40~120℃の温度域、かつ100~500kHzの広い周波数領域で磁気損失の低いMnZnNiCo系フェライト材が得られることが分かる。
【0046】
これに対して、Fe2O3、ZnO、MnO、NiOおよびCoOの基本成分並びにSiO2、CaOおよびNb2O5の副成分の組成のいずれかが一つでも本発明の範囲を外れると、100℃での飽和磁束密度、温度が40℃若しくは120℃での磁気損失値または連続励磁時のコアの温度上昇率の少なくともいずれか一つが劣った結果になった。
【0047】
本発明は、飽和磁束密度が高く、かつ100kHzの低い周波数から500kHzといった高周波までの広い周波数領域で、さらには広い温度域にわたって磁気損失が小さく、連続励磁の際のフェライトの温度上昇率の低いMnZnNiCo系フェライトを提供することができるので、各種電源トランスコアやチョークコイル等に広く応用することができる。