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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069430
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】筋強直性ジストロフィー1型治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20240514BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240514BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240514BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240514BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
A61K31/7088
C12N15/63 Z ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K14/00
C12N15/86 Z
A61P21/00
A61K48/00
A61K35/76
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038955
(22)【出願日】2024-03-13
(62)【分割の表示】P 2023517588の分割
【原出願日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2021077262
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517163227
【氏名又は名称】エディットフォース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】中森 雅之
(72)【発明者】
【氏名】八木 祐介
(72)【発明者】
【氏名】今井 崇喜
(72)【発明者】
【氏名】沖井 英里香
(72)【発明者】
【氏名】玉井 喬之
(72)【発明者】
【氏名】二宮 理紗
(57)【要約】
【課題】
筋強直性ジストロフィー1型(DM1)の治療に有効な医薬組成物または方法を提供する。
【解決手段】
改変されたPPRタンパク質を利用したDM1の治療薬または治療方法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋強直性ジストロフィー1型治療用の医薬組成物であって、
前記医薬組成物はCUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質をコードする核酸を含み、
前記CUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質は、式1で表される30~38アミノ酸長のポリペプチドからなるペンタトリコペプチドリピート(PPR)モチーフを少なくとも6個含み、
【化1】
(式1中:
Helix Aは、12アミノ酸長の、αヘリックス構造を形成可能な部分であって、式2で表され、
【化2】
式2中、A~A12はそれぞれ独立にアミノ酸を表し;
Xは、存在しないか、または、1~9アミノ酸長からなる部分であり;
Helix Bは、11~13アミノ酸長からなる、αヘリックス構造を形成可能な部分であり;
Lは、2~7アミノ酸長の、式3で表される部分であり;
【化3】
式3中、各アミノ酸は、“i”(-1)、“ii”(-2)、とC末端側からナンバリングされ、
ただし、Liii~Lviiは存在しない場合がある。)
前記の各PPRモチーフにおけるA、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせ、又はA、Liiの2つのアミノ酸の組み合わせが、前記の各PPRモチーフがC、UまたはGに結合するように選択され、それにより前記タンパク質が前記CUGリピート配列に特異的に結合するように構成されている、
医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物であって、前記CUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質は、前記PPRモチーフを9~30個含む、
医薬組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の医薬組成物であって、前記CUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質は、前記PPRモチーフを12~24個含む、
医薬組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、前記の各PPRモチーフにおけるA、A、およびLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが;
PPRモチーフの標的とする塩基がA(アデニン)である場合には、A、A、およびLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、(A、A、Lii)の順に、(バリン、トレオニン、アスパラギン)、(フェニルアラニン、セリン、アスパラギン)、(フェニルアラニン、トレオニン、アスパラギン)、(イソロイシン、アスパラギン、アスパラギン酸)、または(トレオニン、トレオニン、アスパラギン)であり;
PPRモチーフの標的とする塩基がG(グアニン)である場合には、A、A、およびLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、(A、A、Lii)の順に、(グルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸)、(バリン、トレオニン、アスパラギン酸)、(リジン、トレオニン、アスパラギン酸)、または(ロイシン、トレオニン、アスパラギン酸)であり;
PPRモチーフの標的とする塩基がU(ウラシル)である場合には、A、A、およびLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、(A、A、Lii)の順に、(バリン、アスパラギン、アスパラギン酸)、(イソロイシン、アスパラギン、アスパラギン)、(イソロイシン、アスパラギン、アスパラギン酸)、(イソロイシン、メチオニン、アスパラギン酸)、(フェニルアラニン、プロリン、アスパラギン酸)、または(チロシン、プロリン、アスパラギン酸)であり;または、
PPRモチーフの標的とする塩基がC(シトシン)である場合には、A、A、およびLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、(A、A、Lii)の順に、(バリン、アスパラギン、アスパラギン)、(イソロイシン、アスパラギン、アスパラギン)、(バリン、アスパラギン、セリン)、または(イソロイシン、メチオニン、アスパラギン酸)である、
医薬組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、前記の各PPRモチーフにおけるAおよびLiiの2つのアミノ酸の組み合わせが;
PPRモチーフの標的とする塩基がA(アデニン)である場合には、AおよびLiiの2つのアミノ酸の組み合わせが、(A、Lii)の順に、(トレオニン、アスパラギン)、
(セリン、アスパラギン)、または(グリシン、アスパラギン)であり;
PPRモチーフの標的とする塩基がG(グアニン)である場合には、AおよびLiiの2つのアミノ酸の組み合わせが、(A、Lii)の順に、(トレオニン、アスパラギン酸)
または(グリシン、アスパラギン酸)であり;
PPRモチーフの標的とする塩基がU(ウラシル)である場合には、AおよびLiiの2つのアミノ酸の組み合わせが、(A、Lii)の順に、(アスパラギン、アスパラギン酸)、(プロリン、アスパラギン酸)、(メチオニン、アスパラギン酸)、または(バリン、トレオニン)であり;
PPRモチーフの標的とする塩基がC(シトシン)である場合には、AおよびLiiの2つのアミノ酸の組み合わせが、(A、Lii)の順に、(アスパラギン、アスパラギン)、
(アスパラギン、セリン)、または(ロイシン、アスパラギン酸)である、
医薬組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の医薬組成物であって、
前記CUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質をコードする核酸が発現ベクターに組み込まれていることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の医薬組成物であって、
前記CUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質をコードする核酸がウイルスベクターに組み込まれていることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の医薬組成物であって、
前記ウイルスベクターが、筋組織に対する指向性を有するウイルスベクターであることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の医薬組成物であって、
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、または、単純ヘルペスウイルスベクターであることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の医薬組成物であって、
前記ウイルスベクターが、AAVベクターであることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の医薬組成物であって、
前記AAVベクターが、AAV1ベクター、AAV2ベクター、AAV6ベクター、AAV7ベクター、AAV8ベクター、AAV9ベクター、AAV10ベクター、AAV11ベクター、または、AAV12ベクターであることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項12】
請求項1において定義されるCUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質をコードする核酸を含む、発現ベクター。
【請求項13】
請求項12に記載の発現ベクターを含む、細胞。
【請求項14】
請求項13に記載の細胞から産生される、CUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質。
【請求項15】
請求項1において定義されるCUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質をコードする核酸を含む、ウイルス発現ベクター。
【請求項16】
請求項15に記載のウイルス発現ベクターを含む、細胞。
【請求項17】
請求項16に記載の細胞から産生される、ウイルスベクター。
【請求項18】
筋強直性ジストロフィー1型治療用の医薬の製造における、請求項1において定義されるCUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質をコードする核酸の使用。
【請求項19】
筋強直性ジストロフィー1型の治療方法であって、
対象に治療上有効量の請求項1に記載の医薬組成物を適用するステップを含む、
方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋強直性ジストロフィー1型の治療用医薬組成物または治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋強直性ジストロフィー1型(Myotonic Dystrophy type I、以下、「DM1」と略記する場合がある)は、成人で最も多い筋疾患である。DM1は、骨格筋、平滑筋とともに眼球、心臓、内分泌系、中枢神経系に影響する常染色体優性多臓器障害であり、その症状は、筋萎縮、筋力低下、筋強直(ミオトニア)、白内障、インスリン抵抗性、性腺機能低下、心伝導系障害、前部禿頭、知能障害等多岐にわたる。DM1はミオトニンプロテインキナーゼ(DMPK)遺伝子の3’UTR(3’側非翻訳領域)のCTG繰り返し配列の異常伸長が原因である。異常伸長したCUG繰り返し配列を持つ転写産物(mRNA)に特定のスプライシング制御因子が結合し、結果として正常なスプライシングに必要なスプライシング制御因子が不足することによりスプライシング異常を惹起する。
【0003】
現在、低分子化合物や核酸医薬等、様々なアプローチでDM1の治療薬の開発が進められている(例えば、非特許文献1、2)が、現段階で根本的な治療薬はなく、DM1の治療は主に対症療法にとどまっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nakamori et al. Ann Clin Transl Neurol. (2015)
【非特許文献2】Overby et al. Drug Discov. Today (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)の治療に有効な医薬組成物または方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ペンタトリコペプチドリピート(PPR)タンパク質は、約35アミノ酸長からなるPPRモチーフの繰り返しを含むタンパク質であり、PPRモチーフ1つが1つの塩基と特異的または選択的に結合することが知られている。近年、PPRモチーフがRNA結合特性を発揮する際に機能するアミノ酸が同定され、PPRモチーフの構造と標的塩基との関係が明らかにされたことで、PPRタンパク質を利用したRNA編集/改変技術が開発されつつある(例えば、WO2013/058404)。
【0007】
本発明者らは、DM1を治療し得る新規な化合物・物質を探索した結果、改変されたPPRタンパク質を利用することによってDM1を治療し得ることを見出した。
【0008】
本発明は、上記知見に基づくものであり、以下の特徴を有してよい。
【0009】
[1]:筋強直性ジストロフィー1型治療用の医薬組成物であって、
前記医薬組成物はCUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質をコードする核酸を含み、
前記CUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質は、式1で表される30~38アミノ酸長のポリペプチドからなるペンタトリコペプチドリピート(PPR)モチーフを少なくとも6個含み、
【化1】
(式1中:
Helix Aは、12アミノ酸長の、αヘリックス構造を形成可能な部分であって、式2で表され、
【化2】
式2中、A~A12はそれぞれ独立にアミノ酸を表し;
Xは、存在しないか、または、1~9アミノ酸長からなる部分であり;
Helix Bは、11~13アミノ酸長からなる、αヘリックス構造を形成可能な部分であり;
Lは、2~7アミノ酸長の、式3で表される部分であり;
【化3】
式3中、各アミノ酸は、“i”(-1)、“ii”(-2)、とC末端側からナンバリングされ、
ただし、Liii~Lviiは存在しない場合がある。)
前記の各PPRモチーフにおけるA、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせ、又はA、Liiの2つのアミノ酸の組み合わせが、前記の各PPRモチーフがC、UまたはGに結合するように選択され、それにより前記タンパク質が前記CUGリピート配列に特異的に結合するように構成されている、
医薬組成物。
【0010】
[2]:[1]に記載の医薬組成物であって、前記CUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質は、前記PPRモチーフを9~30個含む、
医薬組成物。
【0011】
[3]:[2]に記載の医薬組成物であって、前記CUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質は、前記PPRモチーフを12~24個含む、
医薬組成物。
【0012】
[4]:[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物であって、前記の各PPRモチーフにおけるA、A、およびLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが;
PPRモチーフの標的とする塩基がA(アデニン)である場合には、A、A、およびLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、(A、A、Lii)の順に、(バリン、トレオニン、アスパラギン)、(フェニルアラニン、セリン、アスパラギン)、(フェニルアラニン、トレオニン、アスパラギン)、(イソロイシン、アスパラギン、アスパラギン酸)、または(トレオニン、トレオニン、アスパラギン)であり;
PPRモチーフの標的とする塩基がG(グアニン)である場合には、A、A、およびLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、(A、A、Lii)の順に、(グルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸)、(バリン、トレオニン、アスパラギン酸)、(リジン、トレオニン、アスパラギン酸)、または(ロイシン、トレオニン、アスパラギン酸)であり;
PPRモチーフの標的とする塩基がU(ウラシル)である場合には、A、A、およびLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、(A、A、Lii)の順に、(バリン、アスパラギン、アスパラギン酸)、(イソロイシン、アスパラギン、アスパラギン)、(イソロイシン、アスパラギン、アスパラギン酸)、(イソロイシン、メチオニン、アスパラギン酸)、(フェニルアラニン、プロリン、アスパラギン酸)、または(チロシン、プロリン、アスパラギン酸)であり;または、
PPRモチーフの標的とする塩基がC(シトシン)である場合には、A、A、およびLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、(A、A、Lii)の順に、(バリン、アスパラギン、アスパラギン)、(イソロイシン、アスパラギン、アスパラギン)、(バリン、アスパラギン、セリン)、または(イソロイシン、メチオニン、アスパラギン酸)である、
医薬組成物。
【0013】
[5]:[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物であって、前記の各PPRモチーフにおけるAおよびLiiの2つのアミノ酸の組み合わせが;
PPRモチーフの標的とする塩基がA(アデニン)である場合には、AおよびLiiの2つのアミノ酸の組み合わせが、(A、Lii)の順に、(トレオニン、アスパラギン)、
(セリン、アスパラギン)、または(グリシン、アスパラギン)であり;
PPRモチーフの標的とする塩基がG(グアニン)である場合には、AおよびLiiの2つのアミノ酸の組み合わせが、(A、Lii)の順に、(トレオニン、アスパラギン酸)
または(グリシン、アスパラギン酸)であり;
PPRモチーフの標的とする塩基がU(ウラシル)である場合には、AおよびLiiの2つのアミノ酸の組み合わせが、(A、Lii)の順に、(アスパラギン、アスパラギン酸)、(プロリン、アスパラギン酸)、(メチオニン、アスパラギン酸)、または(バリン、トレオニン)であり;
PPRモチーフの標的とする塩基がC(シトシン)である場合には、AおよびLiiの2つのアミノ酸の組み合わせが、(A、Lii)の順に、(アスパラギン、アスパラギン)、
(アスパラギン、セリン)、または(ロイシン、アスパラギン酸)である、
医薬組成物。
【0014】
[6]:[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
前記CUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質をコードする核酸が発現ベクターに組み込まれていることを特徴とする、
医薬組成物。
【0015】
[7]:[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
前記CUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質をコードする核酸がウイルスベクターに組み込まれていることを特徴とする、
医薬組成物。
【0016】
[8]:[7]に記載の医薬組成物であって、
前記ウイルスベクターが、筋組織に対する指向性を有するウイルスベクターであることを特徴とする、
医薬組成物。
【0017】
[9]:[8]に記載の医薬組成物であって、
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、または、単純ヘルペスウイルスベクターであることを特徴とする、
医薬組成物。
【0018】
[10]:[9]に記載の医薬組成物であって、
前記ウイルスベクターが、AAVベクターであることを特徴とする、
医薬組成物。
【0019】
[11]:[10]に記載の医薬組成物であって、
前記AAVベクターが、AAV1ベクター、AAV2ベクター、AAV6ベクター、AAV7ベクター、AAV8ベクター、AAV9ベクター、AAV10ベクター、AAV11ベクターまたはAAV12ベクターであることを特徴とする、
医薬組成物。
【0020】
[12]:[1]において定義されるCUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質をコードする核酸を含む、発現ベクター。
【0021】
[13]:[12]に記載の発現ベクターを含む、細胞。
【0022】
[14]:[13]に記載の細胞から産生される、CUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質。
【0023】
[15]:[1]において定義されるCUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質をコードする核酸を含む、ウイルス発現ベクター。
【0024】
[16]:[15]に記載のウイルス発現ベクターを含む、細胞。
【0025】
[17]:[16]に記載の細胞から産生される、ウイルスベクター。
【0026】
[18]:筋強直性ジストロフィー1型治療用の医薬の製造における、[1]において定義されるCUGリピート配列に特異的に結合するタンパク質をコードする核酸の使用。
【0027】
[19]:筋強直性ジストロフィー1型の治療方法であって、
対象に治療上有効量の[1]に記載の医薬組成物を適用するステップを含む、
方法。
【0028】
なお、上記の一又は複数の特徴を任意に組み合わせた発明も、本発明の範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)の症状を治療または軽減し得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明のPPRタンパク質がCUGリピート配列に特異的に結合したことを示す。
図2図2は、本発明のPPRタンパク質がDM1モデル細胞においてRNA-fociの形成を抑制したことを示す。
図3図3は、本発明のPPRタンパク質がDM1モデル細胞においてスプライシング異常を改善したことを示す。
図4図4は、本発明のPPRタンパク質がDM1モデル動物において筋分化効率を改善したことを示す。
図5図5は、本発明のPPRタンパク質がDM1モデル動物においてRNA-fociの形成を抑制したことを示す。
図6図6は、本発明のPPRタンパク質がDM1モデル動物においてスプライシング異常を改善したことを示す。
図7図7は、本発明のPPRタンパク質がDM1モデル動物における筋強直を改善したことを示す。
図8図8は、本発明による異常スプライシングの改善効果と筋強直の改善効果との関連を示す。
図9図9は、AAV9-CUG-PPR1がDM1モデル動物において用量依存的にRNA-fociの形成を抑制したことを示す。図中、「Ctrl」はPBS投与群、「LD」はAAV9-CUG-PPR1低用量投与群、「MD」はAAV9-CUG-PPR1中用量投与群、「HD」はAAV9-CUG-PPR1高用量投与群を示す。縦軸は、RNA-foci陽性細胞率を示す。
図10図10は、AAV9-CUG-PPR1がDM1モデル動物において用量依存的にスプライシング異常を改善したことを示す。左図はClcn1、右図はAtp2a1の異常スプライシング検出系における結果を示す。図中、「Ctrl」はPBS投与群、「LD」はAAV9-CUG-PPR1低用量投与群、「MD」はAAV9-CUG-PPR1中用量投与群、「HD」はAAV9-CUG-PPR1高用量投与群を示す。縦軸は、それぞれ正常スプライシングアイソフォームの含有率(%)を示す。
図11図11は、AAV9-CUG-PPR1がDM1モデル動物において用量依存的に筋強直を改善したことを示す。縦軸はミオトニアスコアを示し、スコア3、2、1、0の順で筋強直放電の頻度は減少する。筋強直放電回数の頻度と重篤度は相関する。図中、「Ctrl」はPBS投与群、「LD」はAAV9-CUG-PPR1低用量投与群、「MD」はAAV9-CUG-PPR1中用量投与群、「HD」はAAV9-CUG-PPR1高用量投与群を示す。
図12図12は、AAV9-CUG-PPR1の投与用量とPPR mRNA発現量との関係を示す。内部標準はGAPDHを使用している。それぞれの個別点は各マウス個体の大腿筋におけるPPR mRNA発現量を示す。縦軸はLog表示で表示している。図中、「Ctrl」はPBS投与群、「LD」はAAV9-CUG-PPR1低用量投与群、「MD」はAAV9-CUG-PPR1中用量投与群、「HD」はAAV9-CUG-PPR1高用量投与群を示す。
図13図13は、AAV9-CUG-PPR1がDM1モデル動物において時間依存的にRNA-fociの形成を抑制したことを示す。図中、「Ctrl」はPBS投与群を示す。「2w」「4w」「8w」「16w」は、それぞれAAV9-CUG-PPR1投与後の試験期間を示す。縦軸はRNA-foci陽性細胞率を示す。
図14図14は、AAV9-CUG-PPR1がDM1モデル動物において時間依存的にスプライシング異常を改善したことを示す。左図はClcn1、右図はAtp2a1の異常スプライシング検出系における結果を示す。図中、「Ctrl」はPBS投与群を示す。「2w」「4w」「8w」「16w」は、それぞれAAV9-CUG-PPR1投与後の試験期間を示す。縦軸はそれぞれ正常スプライシングアイソフォームの含有率を示す。
図15図15は、AAV9-CUG-PPR1がDM1モデル動物において時間依存的に筋強直を改善したことを示す。縦軸はミオトニアスコアを示し、スコア3、2、1、0の順で筋強直放電の頻度は減少する。筋強直放電回数の頻度と重篤度は相関する。図中、「Ctrl」はPBS投与群を示す。「2w」「4w」「8w」「16w」は、それぞれAAV9-CUG-PPR1投与後の試験期間を示す。
図16図16は、AAV9-CUG-PPR1投与後、包括的にスプライシング異常が正常化することを示す。図16aは、WTとPBS投与HSA-LRマウス間で、PSI(Percent spliced in)0.2以上の変化があったスプライシングイベント(左)が、PPR投与HSA-LRマウス(右)でどのように変化したかを示した図である。図16bは、Tanner et al.(2021)において同定されたDM1関連スプライシングイベントについての変化を示した図である。黒丸が正常マウスのシグナル、青四角がPBS投与した薬効マウス群のシグナル、赤三角がPPR投与薬効マウス群のシグナルを示す。図16cは、a図の各点の遺伝子についてのGene ontology解析の結果を示す。P-valueは、各Gene ontology termのP値を示す。PPR投与HSA-LRマウスにおいて、エクソンスキッピング改善率が50%より大きい,20~50%,20%以下の3段階における遺伝子の数を表記している。
図17図17は、AAV9-CUG-PPR1投与マウスの各臓器におけるPPR mRNA発現量を示す。縦軸は1×1013vg/kg投与マウスの発現量を1とした時の相対発現量をLog表示で示している。GAPDH mRNA発現量を内部標準としている。横軸はAAV9-CUG-PPR1投与量(vg/kgマウスの体重)を示している。それぞれのマウス個体の値を丸点でプロットしており、中央値を線で結んでいる。
図18図18は、AAV9-CUG-PPR1投与マウスの各臓器におけるmRNA発現の持続性を示す。縦軸はAAV投与2週(Day14)マウス1個体の発現量を1とした時の相対発現量を表示している。GAPDH mRNA発現量を内部標準としている。横軸は、「Ctrl」はPBS群を示し、「14」「28」「56」「112」「183」は投与後の日数を示している。それぞれのマウス個体の値を丸点でプロットしており、平均値を線で結んでいる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[PPRモチーフ及びPPRタンパク質]
本開示で「PPRモチーフ」というときは、特に記載した場合を除き、Web上のタンパク質ドメイン検索プログラムでアミノ酸配列を解析した際に、PfamにおいてPF01535、PrositeにおいてPS51375で得られるE値が所定値以下(望ましくはE-03)のアミノ酸配列をもつ30~38アミノ酸で構成されるポリペプチドをいう。本開示で定義するPPRモチーフを構成するアミノ酸の位置番号は、PF01535とほぼ同義である一方で、PS51375のアミノ酸の場所から2引いた数(例;本発明の1番→PS51375の3番)に相当する。ただし、“ii”(-2)番のアミノ酸というときは、PPRモチーフを構成するアミノ酸の後ろ(C末端側)から2番目のアミノ酸、又は次のPPRモチーフの1番アミノ酸に対して2つN末端側、すなわち-2番目のアミノ酸とする。次のPPRモチーフが明確に同定されない場合、次のヘリックス構造の1番目のアミノ酸に対して、2つ前のアミノ酸を“ii”とする。
【0032】
PPRモチーフの保存アミノ酸配列は、アミノ酸レベルでの保存性は低いが、2次構造上で2つのαへリックスはよく保存されている。典型的なPPRモチーフは35アミノ酸で構成されるが、その長さは30~38アミノ酸と可変的である。
【0033】
PPRモチーフの基本骨格は、式1で表されることが知られている。
【0034】
【化4】
(式中:
Helix Aは、12アミノ酸長の、αヘリックス構造を形成可能な部分であって、式2で表され、
【0035】
【化5】
式2中、A~A12はそれぞれ独立にアミノ酸を表し;
Xは、存在しないか、または、1~9アミノ酸長からなる部分であり;
Helix Bは、11~13アミノ酸長からなる、αヘリックス構造を形成可能な部分であり;
Lは、2~7アミノ酸長の、式3で表される部分であり;
【0036】
【化6】
式3中、各アミノ酸は、“i”(-1)、“ii”(-2)、とC末端側からナンバリングされ、
ただし、Liii~Lviiは存在しない場合がある。
【0037】
本開示で「PPRタンパク質」というときは、特に記載した場合を除き、上述のPPRモチーフを、1個以上、好ましくは2個以上有するPPRタンパク質をいう。本開示で「タンパク質」というときは、特に記載した場合を除き、ポリペプチド(複数のアミノ酸がペプチド結合した鎖)からなる物質全般をいい、比較的低分子のポリペプチドからなるものも含まれる。本発明で「アミノ酸」という場合、通常のアミノ酸分子を指すことがあるほか、ペプチド鎖を構成しているアミノ酸残基を指すことがある。いずれを指しているかは、文脈から、当業者には明らかである。
【0038】
本開示で、PPRモチーフのRNA塩基との結合性に関し、「選択的」または「特異的」というときは、特に記載した場合を除き、RNA塩基のいずれか一つの塩基に対する結合活性が、他の塩基に対する結合活性より高いことをいう。この選択性または特異性は、当業者であれば公知の方法に基づいて実験を企画し、確認することができるほか、当業者が計算により求めることもできる。
【0039】
本開示でRNA塩基というときは、特に記載した場合を除き、RNAを構成するリボヌクレオチドの塩基を指し、具体的には、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、又はウラシル(U)のいずれかをいう。なおPPRタンパク質は、RNA中の塩基に対して選択性を有しうるが、核酸モノマーに結合するわけではない。
【0040】
PPRタンパク質は植物に多く存在し、シロイヌナズナでは500タンパク質、約5000モチーフが見いだせる。イネ、ポプラ、イワヒバ等、多くの陸上植物にも多様なアミノ酸配列のPPRモチーフおよびPPRタンパク質が存在する。本発明においては、自然界に存在するPPRモチーフおよびPPRタンパク質を用いてもよいし、例えばWO2013/058404に開示された方法に基づいて設計されたPPRモチーフおよびPPRタンパク質を利用してもよい。具体的には、WO2013/058404に開示された以下の情報に基づいて、所望のPPRモチーフおよびPPRタンパク質を設計することができる。
【0041】
(I)選択的結合のために重要なアミノ酸の位置に関する情報
PPRモチーフの、1、4、“ii”(-2)番の3つのアミノ酸の組み合わせ(A、A、Lii)、又は4、“ii”(-2)番の2つのアミノ酸の組み合わせ(A、Lii)が、RNA塩基との選択的な結合のために重要であり、これらの組み合わせにより、結合するRNA塩基がいずれであるかを決定できる。
【0042】
本発明は、WO2013/058404に開示された、A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせ、および/またはA、及びLiiの2つのアミノ酸の組み合わせに関する知見を利用することができる。
【0043】
(II)A 、A 、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせとRNA塩基との対応に関する情報
(3-1)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、アスパラギン及びアスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Uに強く結合し、次にCに、その次にA又はGに対して結合するという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-2)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、トレオニン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Aに強く結合し、次にGに、その次にCに対して結合するが、Uには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-3)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、アスパラギン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Cに強く結合し、次にA又はUに対して結合するが、Gには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-4)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、グルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Gに強く結合するが、A、U及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-5)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、イソロイシン、アスパラギン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Cに強く結合し、次にUに、その次にAに対して結合するが、Gには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-6)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、トレオニン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Gに強く結合し、次にUに対して結合するが、AとCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-7)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、リジン、トレオニン、アスパラギン酸、の場合、そのPPRモチーフは、Gに強く結合し、次にAに対して結合するが、U及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-8)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、フェニルアラニン、セリン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Aに強く結合し、次にCに、その次にG及びUに対して結合するという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-9)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、アスパラギン、セリンの場合、そのPPRモチーフは、Cに強く結合し、次にUに対して結合するが、A及びGには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-10)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、フェニルアラニン、トレオニン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Aに強く結合するが、G、U及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-11)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、イソロイシン、アスパラギン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Uに強く結合し、次にAに対して結合するが、G及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-12)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、トレオニン、トレオニン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Aに強く結合するが、G、U及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-13)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、イソロイシン、メチオニン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Uに強く結合し、次にCに対して結合するが、A及びGには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-14)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、フェニルアラニン、プロリン、アスパラギン酸の場合PPR、そのモチーフは、Uに強く結合し、次にCに対して結合するが、A及びGには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-15)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、チロシン、プロリン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Uに強く結合するが、A、G及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-16)A、A、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、ロイシン、トレオニン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Gに強く結合するが、A、U及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
【0044】
(II)A 、及びL ii の2つのアミノ酸の組み合わせとRNA塩基との対応に関する情報
(2-1)A、Liiが、順に、アスパラギン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Uに強く結合し、次にC、その次にA及びGに対して結合するという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(2-2)A、Liiが、順に、アスパラギン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Cに強く結合し、次にU、その次にA及びGに対して結合するという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(2-3)A、Liiが、順に、トレオニン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Aに強く結合し、次にG、U及びCに対して弱く結合するという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(2-4)A、Liiが、順に、トレオニン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Gに強く結合し、次にA、U及びCに対して弱く結合するという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(2-5)A、Liiが、順に、セリン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Aに強く結合し、次にG、U及びCに対して結合するという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(2-6)A、Liiが、順に、グリシン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Gに強く結合し、次にU、その次にAと結合するが、Cに結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(2-7)A、Liiが、順に、アスパラギン、セリンの場合、そのPPRモチーフは、Cに強く結合し、次にU、その次にA及びGに対して結合するという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(2-8)A、Liiが、順に、プロリン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Uに強く結合し、次にG、C及びCに対して結合するが、Aに結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(2-9)A、Liiが、順に、グリシン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Aに強く結合し、次にGに対して結合するが、C及びUに結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(2-10)A、Liiが、順に、メチオニン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Uに強く結合し、次にA、G及びCに対して弱く結合するという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(2-11)A、Liiが、順に、ロイシン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Cに強く結合し、次にUに対して結合するが、A及びGに結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(2-12)A、Liiが、順に、バリン、トレオニンの場合、そのPPRモチーフは、Uに強く結合し、次にAに対して結合するが、G及びCに結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
【0045】
なお、上記の法則性は、PPRモチーフの(A、A、Lii)または(A、Lii)のアミノ酸の組み合わせにより、PPRモチーフが標的の塩基に結合する可能性を統計学的に有意に高め得ることを意味し、上記の法則によって100%の確率で標的の塩基(または塩基配列)に結合するPPRモチーフ(またはPPRタンパク質)を製造し得る訳ではない。ただし、当業者であれば、上記の法則性に基づいて数種類~数十種類程度の候補PPRタンパク質を製造することで、高い確率で標的の塩基(または塩基配列)に結合するPPRモチーフ(またはPPRタンパク質)を取得することができる。なお、候補PPRタンパク質の製造および確認を通じた所望のPPRタンパク質の選択は、当業者が通常の試行錯誤の範囲内において行い得るものであり、当業者に過度の負担となるものではない。
【0046】
[PPRモチーフおよびPPRタンパク質の利用]
1つのPPRモチーフは、RNAの特定の塩基を認識しうる。そして、本発明に基づけば、特定の位置のアミノ酸を適切に選択することで、A、U、G、Cそれぞれに選択的なPPRモチーフを選択または設計することができる。さらに、そのようなPPRモチーフの適切な連続を含むタンパク質は、対応する塩基配列を特異的または選択的に認識しうる。さらに、上述の知見により、所望のRNA塩基に選択的に結合可能なPPRモチーフ、および所望のRNAに配列特異的に結合可能な、複数個のPPRモチーフを有するタンパク質を設計することができる。設計に際し、PPRモチーフ中の重要な位置のアミノ酸以外の部分は、天然型のPPRモチーフの配列情報を参考にしてもよい。また、全体として天然型のPPRモチーフを用い、前記の重要な位置のアミノ酸だけを置換することにより、設計してもよい。PPRモチーフの繰り返し数は、標的配列に応じ、適宜とすることができるが、例えば2個以上とすることができ、2~30個とすることができる。
【0047】
[CUGリピート配列に特異的に結合するPPRタンパク質]
本発明は、DM1の原因となる異常伸長したCUGリピート配列を含むmRNAに特異的に結合するPPRタンパク質に関する。本発明に係るPPRタンパク質は、前述の理論に基づいて、[Cに結合するPPRモチーフ、Uに結合するPPRモチーフ、Gに結合するPPRモチーフ]のセットを、複数連結させることで作製することができる。なお、本発明に係るPPRタンパク質の最初のPPRモチーフが必ずしもCに結合するPPRモチーフである必要はなく、PPRタンパク質全体としてCUGリピート配列に特異的に結合する限り、最初のPPRモチーフはUに結合するPPRモチーフであってもGに結合するPPRモチーフであってもよい。また、当然ながら、本発明に係るPPRタンパク質が全体としてCUGリピート配列に特異的に結合する構成となっている限り、PPRタンパク質に含まれるPPRモチーフの数が3の倍数である必要もない。
【0048】
本発明において用いてよいC結合性PPRモチーフの非限定的な例として、以下の配列を有するPPRモチーフを挙げることができる。
【0049】
【0050】
本発明においては、上記の配列のA、A、Lii位のアミノ酸、またはA、Lii位のアミノ酸が保存されるという条件で、上記の配列と80%以上(好ましくは、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の配列相同性(または、配列同一性)を有し、Cに対する結合性を有するPPRモチーフを用いてもよい。
【0051】
本発明においては、上記の配列のA、A、Lii位のアミノ酸、またはA、Lii位のアミノ酸が保存されるという条件で、上記の配列に対して7塩基以内(すなわち、1、2、3、4、5、6、または7塩基)の置換、付加、および/または欠失を有し、Cに対する結合性を有するPPRモチーフを用いてもよい。なお、アミノ酸の置換は、例えば本分野において知られているアミノ酸の保存的置換であってよい。
【0052】
本発明において用いてよいU結合性PPRモチーフの非限定的な例として、以下の配列を有するPPRモチーフを挙げることができる。
【0053】
【0054】
本発明においては、上記の配列のA、A、Lii位のアミノ酸、またはA、Lii位のアミノ酸が保存されるという条件で、上記の配列と80%以上(好ましくは、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の配列相同性(または、配列同一性)を有し、Uに対する結合性を有するPPRモチーフを用いてもよい。
【0055】
本発明においては、上記の配列のA、A、Lii位のアミノ酸、またはA、Lii位のアミノ酸が保存されるという条件で、上記の配列に対して7塩基以内(すなわち、1、2、3、4、5、6、または7塩基)の置換、付加、および/または欠失を有し、Uに対する結合性を有するPPRモチーフを用いてもよい。なお、アミノ酸の置換は、例えば本分野において知られているアミノ酸の保存的置換であってよい。
【0056】
本発明において用いてよいG結合性PPRモチーフの非限定的な例として、以下の配列を有するPPRモチーフを挙げることができる。
【0057】
【0058】
本発明においては、上記の配列のA、A、Lii位のアミノ酸、またはA、Lii位のアミノ酸が保存されるという条件で、上記の配列と80%以上(好ましくは、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の配列相同性(または、配列同一性)を有し、Gに対する結合性を有するPPRモチーフを用いてもよい。
【0059】
本発明においては、上記の配列のA、A、Lii位のアミノ酸、またはA、Lii位のアミノ酸が保存されるという条件で、上記の配列に対して7塩基以内(すなわち、1、2、3、4、5、6、または7塩基)の置換、付加、および/または欠失を有し、Gに対する結合性を有するPPRモチーフを用いてもよい。なお、アミノ酸の置換は、例えば本分野において知られているアミノ酸の保存的置換であってよい。
【0060】
本発明で塩基配列(ヌクレオチド配列ということもある。)又はアミノ酸配列に関し「同一性」というときは、特に記載した場合を除き、2つの配列を最適の態様で整列させた場合に、2つの配列間で共有する一致した塩基又はアミノ酸の個数の百分率を意味する。すなわち、同一性=(一致した位置の数/位置の全数)×100で算出でき、有償または無償で頒布されているアルゴリズムを用いて計算することができる。また、このようなアルゴリズムは、例えばAltschul et al., J.Mol.Biol. 215(1990) 403-410に記載されるNBLAST及びXBLASTプログラム中に組込まれている。より詳細には、塩基配列又はアミノ酸配列の同一性に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズム又はプログラム(例えば、BLASTN、BLASTP、BLASTX、ClustalW)により行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメーターは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。
【0061】
アミノ酸の保存的置換とは、例えば性質の似たアミノ酸への置換であってよい。性質の似たアミノ酸とは、例えばハイドロパシー、荷電、pKa、溶解性等の物性が似ているアミノ酸をいい、例えば、次のようなものを指す。
・疎水性アミノ酸;アラニン、バリン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン;
・非疎水性アミノ酸;アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、リジン、セリン、トレオニン、システイン、ヒスチジン;
・親水性アミノ酸;アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、リジン、セリン、トレオニン;
・酸性アミノ酸:アスパラギン酸、グルタミン酸;
・塩基性アミノ酸:リジン、アルギニン、ヒスチジン;
・中性アミノ酸:アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン;
・含硫アミノ酸:メチオニン、システイン;
・含芳香環アミノ酸:チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン。
【0062】
[本発明によるDM1の治療]
本発明の効果は、本発明のPPRタンパク質が対象の細胞内において異常伸長したCUGリピート配列を含むmRNAに結合することにより発揮される。対象の細胞内へのPPRタンパク質の送達手段は限定されず、本発明のPPRタンパク質をコードする核酸を対象の細胞内へ送達し、対象の細胞内で本発明のPPRタンパク質を発現させてもよいし、本発明のPPRタンパク質自体を対象の細胞内へ送達してもよい。タンパク質や核酸の送達手段は限定されず、本分野において知られている様々な手段を用いることができる。本発明に用いることができる、対象の細胞内への核酸またはタンパク質の送達手段の非限定的な例としては、リポソーム、脂質ナノ粒子(LNP)、高分子ミセル、エマルジョン、高分子マイクロカプセル、抗体-核酸複合体、抗体-薬物複合体、ウイルス、等を挙げることができる。
【0063】
本発明に用いてよいウイルスベクターの非限定的な例としては、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、または、単純ヘルペスウイルスベクターを挙げることができ、細胞または組織への指向性、宿主ゲノムへの核酸組み込みの要否等によって、当業者が適宜選択することできる。
【0064】
AAVベクターは分裂細胞と静止状態の細胞の何れにも感染できる能力があり、遺伝物質を非常に多様な細胞種に移送することができるため、本発明において特に好適に用いることができる。現在までにAAVの12種類の血清型(AAV1~AAV12)が報告されており、既知の血清型のすべてが様々な種類の組織細胞に感染することができる。本発明に用いてよいAAVベクターの血清型は限定されないが、例えば筋組織(骨格筋、心筋、および/または平滑筋)に対する指向性を有することが知られている、AAV1ベクター、AAV2ベクター、AAV6ベクター、AAV7ベクター、AAV8ベクター、AAV9ベクター、AAV10ベクター、AAV11ベクターまたはAAV12ベクターを用いてよい。
【0065】
本発明を用いたDM1の治療は、DM1に罹患する対象の生体内に本発明を直接適用する態様(in vivo)であってもよく、本発明を用いて生体外で細胞または組織を処理し、対象の生体内に導入する態様(ex vivo)であってもよい。
【0066】
本発明のPPRタンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターの製造方法は限定されず、当業者が常法(例えば、市販のタンパク質発現ベクター製造キットの使用、市販のウイルス発現ベクター製造キットの使用、製造業者への委託、等)により製造することができる。
【0067】
本発明のPPRタンパク質の製造方法は限定されないが、例えば、本明細書に記載の方法によって設計されたPPRタンパク質をコードする発現ベクター(例えば、プラスミド、トランスポゾン、ウイルス、等)を含む細胞(例えば、動物細胞、植物細胞、大腸菌、酵母、等)から、常法によってPPRタンパク質を選択的に抽出および/または精製することにより、所望のPPRタンパク質を得ることができる。
【0068】
本明細書において用いられる用語は、特に定義されたものを除き、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0069】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。
【0070】
異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書及び関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0071】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明はいろいろな態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【実施例0072】
[実施例1:CUG繰り返しRNA配列に結合するPPRタンパク質の作製及びRNAに対する結合解析]
【0073】
CUG繰り返しRNA配列に結合するPPRタンパク質(以降、CUG-PPRと略する。)の作製、及びその結合解析のために組換えタンパク質を作製し、RNA結合実験を実施した。
【0074】
<実験材料および方法>
(1)PPR発現プラスミドベクターの調製
大腸菌発現プラスミドベクターpET-22bのMultiple cloning siteへ、ルシフェラーゼ、PPRタンパク質、3xヘキサヒスチジンタグの順番で融合した遺伝子をクローニングした。融合遺伝子の発現はT7プロモーターに制御される。PCR法にて正しいサイズの遺伝子のクローニングを確認し、遺伝子配列をシーケンシングにて確認をした(配列番号11~14)。Luc-CUG-PPR1、Luc-CUG-PPR2、Luc-CUG-PPR3、Luc-CUG-PPR4とし、以降の試験に用いた。
【0075】
【表1】
【0076】
上記の表1中のPPRタンパク質に含まれるPPRモチーフの配列の詳細を以下に示す。いずれのPPRタンパク質も18個のPPRモチーフを含む。

【表2】


【表3】


【表4】


【表5】

【0077】
(2)PPRタンパク質の調製
上記で構築した発現プラスミドベクターを大腸菌Rosetta(DE3)株へ遺伝子導入した。この大腸菌を2mLの100μg/μLアンピシリン入りLB培地で37℃で12時間培養した。OD600が、0.5から0.8に到達した時に15℃のインキュベーターに培養液を移し、30分間静置させた。その後、100μL(終濃度0.1mM IPTG)を加え、15℃で16時間培養を行った。5,000×g、4℃、10分間遠心を行い、大腸菌ペレットを回収し、1.5mLの溶解バッファー(20mM Tris-HCl、pH8.0、150mM NaCl、0.5%NP-40、1mM MgCl、2mg/mlリゾチーム、1mM PMSF、2μlのDNase)を添加し、-80℃で20分間凍結させた。25℃、30分間振盪しながら細胞の凍結破砕を実施した。続いて、3700rpm、4℃、15分間遠心操作を行い、可溶性のPPRタンパク質を含む上清(大腸菌ライセート)を回収し、以下の実験に用いた。
【0078】
(3)PPRタンパク質のRNAへの結合試験
PPRタンパク質とRNAとの結合試験は、ストレプトアビジンプレート上でのPPRタンパク質とビオチン化RNAとの結合実験方法を用いて実施した。標的であるCUG×7配列を含む30塩基のRNA(GACACUGCUGCUGCUGCUGCUGCUGAUGCA(配列番号15))、並びに非標的であるCAG×6を含む30塩基のRNA(GACAUGCCAGCAGCAGCAGCAGCAGGACUG(配列番号16))に、5’末端にビオチンを修飾したRNAプローブをそれぞれ合成した(Greiner社に依頼)。2.5pmolビオチン化RNAプローブをストレプトアビジンコーティングプレート(Cat No.15502、Thermo fisher)に添加し、30分間、室温で反応させた。プローブ洗浄バッファー(20mM Tris-HCl(pH7.6)、150mM NaCl、5mM MgCl、0.5% NP-40、1mM DTT、0.1% BSA)で洗浄した。バックグラウンド測定のために、ビオチン化RNAを加えずに溶解バッファーを加えたウェルも準備した(“-Probe”とする)。その後、ブロッキングバッファー(20mM Tris-HCl(pH7.6)、150mM NaCl、5mM MgCl、0.5% NP-40、1mM DTT、1% BSA)を加え、30分間、室温でプレート表面のブロッキングを行った。1.5×10LU/μL発光量を有するルシフェラーゼ融合PPRタンパク質が含まれる大腸菌ライセートを100μLをウェルに添加し、30分間、室温で結合反応を行った。200μLの洗浄バッファー(20mM Tris-HCl(pH7.6)、150mM NaCl、5mM MgCl、0.5% NP-40、1mM DTT)で5回洗浄を行い、洗浄バッファーを用いて2500倍に希釈したルシフェラーゼ基質(Promega、E151A)40μLをウェルへ加えて5分間反応させた後、発光量をプレートリーダー(PerkinElmer、Cat No.5103-35)で測定した。
【0079】
<結果>
結果を図1に示した。Luc-CUG-PPR1、Luc-CUG-PPR2、Luc-CUG-PPR3、Luc-CUG-PPR4の全てについて、CUGプローブに対する結合性を有し、CAGプローブには結合性を有しなかった。すなわち、いずれのPPRタンパク質も、CUGリピート配列に対する高い結合特異性を有していた。
【0080】
[実施例2:DM1モデル細胞におけるRNA凝集体形成に対するPPRの効果]
DM1モデル細胞にPPRタンパク質を作用させ、FISH(fluorescent in situ hybridization)法にてRNA凝集体の数を測定した。
【0081】
<実験材料および方法>
(1)DM1モデル細胞
DM1細胞モデルとして、C2C12細胞に800CTGリピートを含むDMPK遺伝子領域を導入した細胞(C2C12-DMPK800R、Nucleic Acids Research,2014,42(10),6591-6602)を使用した。C2C12-DMPK800は以下の手順で作製した。すなわち、DMPK遺伝子3’非翻訳領域に800CTGを挿入した配列を含むプラスミド(pLC16)とPhiC31インテグラーゼを発現するプラスミドを、共にマウス筋芽細胞株C2C12にNucleofector(商品名、Lonza社)を用いてトランスフェクションした後、ピューロマイシンを添加した選択培地を用いて安定発現株を選択した。続いて、安定発現株にCreリコンビナーゼを発現するプラスミドをトランスフェクションし、ハイグロマイシンを添加した選択培地を用いて、800のCUGリピートをもつmRNAの転写が誘導されるクローンを選択した。
【0082】
(2)細胞トランスフェクション用のPPRタンパク質発現プラスミドベクターの作製
哺乳類発現プラスミドベクターへ、順に緑色蛍光タンパク質mCLover3遺伝子、PPRタンパク質遺伝子、3×核局在性シグナル、3×FLAGエピトープタグの融合遺伝子をクローニングした。融合遺伝子の発現はCMVプロモーターとSV40 poly-Aシグナルにより制御される。PCR法にて正しいサイズの遺伝子のクローニングを確認し、遺伝子の配列をシーケンシングにて確認をした。また、コントロールとしてPPRタンパク質遺伝子を含まない融合遺伝子、即ち、緑色蛍光タンパク質mCLover3遺伝子、3×核局在性シグナル、3×FLAGエピトープタグの融合遺伝子についても同手法にて調製を行なった。順に、mCLo-CUG-PPR1,mCLo-CUG-PPR2,mCLo-CUG-PPR3, mCLo-CUG-PPR4,mCLo-emptyとし、以降の試験に用いた。なお、各発現プラスミドベクターにおいてコードされるPPRタンパク質(PPR1~PPR4)の配列は、表1に記載の各PPRタンパク質の配列と同一である。
【0083】
【表6】
【0084】
(3)RNA凝集体形成数の計測
DM1モデル細胞は、10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン含有DMEM培地を用いて、37℃、5%CO条件下で培養した。上記で構築した200ngのプラスミドDNA、0.6μL Fugene(登録商標)-HD(Promega、E2311)、200μL Opti-MEMを混ぜ合わせ、全量ウェルへ加え、37℃、5%CO環境下で72時間培養したのちに3%パラホルムアルデヒドで15分間室温にて固定した。固定後、PBSで2回洗浄した後に、0.5%TritonX-100含有PBSで5分間透過処理した。次に30%ホルムアミド含有の2×SSCバッファーで10分間プレハイブリダイゼーション処理した。その後、30%ホルムアミド、2μg/mL BSA、66μg/mL yeast tRNA、2mMバナジル複合体(vanadyl complex)、1ng/μL Texas Red CAG probe含有の2×SSCバッファーで37℃、1時間ハイブリダイゼーション処理した。30%ホルムアミド含有の2×SSCバッファーで42℃、30分間ポストハイブリダイゼーション処理した後に、1×SSCバッファーで1回洗浄し、その後にPBSで2回洗浄した。Vectashield with DAPI(商品名、Vector Laboratories社)を用いて固定した後、蛍光顕微鏡(Keyence PZ-9000)で核内のRNA凝集体の数を計測した。
【0085】
<結果>
結果を図2に示した。図2から明らかなように、未処理群のDM1モデル細胞では、RNA凝集体陽性細胞率が40%を超えていたが、PPRタンパク質を適用した4実験群では、RNA凝集体陽性細胞率は有意に低下した。
【0086】
[実施例3:DM1モデル細胞におけるスプライシング異常に対するPPRタンパク質の効果]
DM1モデル細胞にPPRタンパク質を適用し、Atp2a1遺伝子のexon 22におけるスプライシング異常が改善するか否かを検証した。
【0087】
<実験材料および方法>
(1)DM1モデル細胞
実施例2と同じDM1モデル細胞(C2C12-DMPK800R)を使用した。
【0088】
(2)PPRタンパク質
実施例2と同じ発現プラスミドベクターを使用した。
【0089】
(3)スプライシング産物の定量
DM1モデル細胞に実施例2と同手法にてPPRタンパク質発現プラスミドベクターを遺伝子導入し、72時間後にRNeasy Mini Plus Kit(商品名、Qiagen)を用いてtotal RNAを抽出した。コントロールとして、PPRタンパク質発現プラスミドベクターを遺伝子導入していないDM1モデル細胞を用い、同様にtotal RNAを抽出した。続いて、SuperScript III First Strand Symthesis System(Invitrogen)を用いてcDNAを調製した。cDNAをRNaseH処理した後、以下のAtp2a1 exon 22 RTプライマーを用いてRT-PCRを行った。RT-PCR産物を2%アガロースゲルで電気泳動し、GelRedを用いて染色した後、イメージアナライザー(ChemiDoc Touchイメージングシステム、BioRad)で正常型のPCR産物と異常型のPCR産物をそれぞれ定量した。
Atp2a1 exon 22 RTプライマー
Fw: GCTCATGGTCCTCAAGATCTCAC (配列番号22)
Rv: GGGTCAGTGCCTCAGCTTTG (配列番号23)
【0090】
<結果>
結果を図3に示した。下段はRT-PCR産物の電気泳動の結果であり、上段はRT-PCR産物における正常型の割合を示すグラフである。PPRタンパク質未処理群では異常型の比率が正常型より多かった。PPRタンパク質を作用させることにより、DM1モデル細胞における正常型の比率が有意に増加し、スプライシング異常が改善することが示された。
【0091】
[実施例4:DM1モデル細胞における筋分化異常に対するPPRタンパク質の効果]
DM1モデル細胞にPPRタンパク質を作用させ、DM1モデル細胞の筋分化効率が改善するか否かを検証した。
【0092】
<実験材料および方法>
(1)DM1モデル細胞
実施例2と同じDM1モデル細胞(C2C12-DMPK800R)を使用した。
【0093】
(2)PPRタンパク質
実施例2と同じPPRタンパク質の発現プラスミドベクターを使用した。
【0094】
(3)筋分化効率の定量
DM1モデル細胞に実施例2と同手法にてPPRタンパク質発現プラスミドベクターを遺伝子導入した。翌日に分化培地に交換をし、トランスフェクション72時間後にDAPIのよる核染色、並びに抗MyHC抗体を用いた抗体染色を実施した。まず抗体染色され、さらに細胞内の核数が2以上の細胞を筋管細胞と定め、観測視野で確認された筋管細胞中の核の総数を計測した(以下、値Aとする。)。続いて、前文の筋管細胞だけでなく、未分化細胞も含んだ視野全体の核の総数を計測する(以下、値Bとする。)。Fusion indexは、値Aを値Bで除した百分率を表し、筋分化効率を意味する。
【0095】
<結果>
結果を図4に示した。空ベクター投与群(図中で“no”と表示)ではFusion indexは3程度を示した。一方、PPR投与群ではいずれもFusion indexが5~15程度であり、筋分化効率の有意な改善が認められた。
【0096】
[実施例5:DM1モデルマウスにおけるPPRの効果]
DM1モデルマウスにCUG-PPR遺伝子を搭載したAAV6を前脛骨筋へ単回投与し、前脛骨筋における筋強直症状に対する効果、Atp2a1遺伝子と骨格筋型クロライドチャネル(Clcn1)遺伝子のスプライシング異常に対する効果、並びにRNA凝集体形成数を検証した。
【0097】
<実験材料および方法>
(1)使用動物
DM1モデルマウスとしてHSALRマウス(Dr. Charles Thornton(University of Rochester)より譲渡され、大阪大学の実験動物施設で繁殖させたもの)を使用した。HSALRマウスはhACTA遺伝子(筋細胞で恒常的に発現するヒト遺伝子)3’側非翻訳領域にCTG反復配列を220回に伸長したものをゲノム中に組み込んだトランスジェニック動物で、筋細胞でCUG配列が伸長したmRNAが発現することによって、DM1の症状が現れる(Science,2000,289(5485),1769-73)。コントロールとして、野生型マウス(FVB/NJclマウス、日本クレアより購入)を使用した。実験には、14週齢の雌雄マウスを用いた。
【0098】
(2)PPRタンパク質
(AAVベクターの製造)
AAVベクター(AAVpro(商標) Helper Free System (AAV6),Takara,6651構成品)のマルチクローニングサイトに、順に、緑色蛍光タンパク質mCLover3、PPRタンパク質、3×核局在シグナル、3×FLAGエピトープタグが順に融合した遺伝子を挿入した。PCRでの構築遺伝子の発現サイズの確認、およびシーケンシングによって挿入配列の確認を行なった。CMVプロモーター、およびHuman growth hormone polyAシグナルにより融合遺伝子の発現は制御される。
【0099】
(AAVベクターの調製)
前項で構築したAAVベクターをpRC6ベクター、並びにphelperベクター(共にAAVpro(商標) Helper Free System (AAV6), Takara, 6651の構成品)のそれぞれ20μgをPolyethylenimine,Linear,MW25000(Polysciences, Inc., 23966-1)を用いて2.5×10細胞数のAAVpro(商標)HEK293T cell line(Takara, 632273)に遺伝子導入した。トランスフェクション3日後にAAV産生細胞を取得した。AAV精製はAAVpro(商標)Purification Kit Maxi(all serotype)(Takara,6666)を用いた。AAVpro titration kit for real time PCR ver.2(Takara, 6233)を用いてタイター測定を実施し、5×1011vg/mLにD-PBSで希釈し投与溶液とした。順に、AAV6-mCLo-CUG-PPR1、AAV6-mCLo-CUG-PPR2、AAV6-mCLo-emptyとし、以降の試験に用いた。なお、各AAVベクターにおいてコードされるPPRタンパク質(PPR1、PPR2)の配列は、表1に記載の各PPRタンパク質の配列と同一である。
【0100】
(3)群分け、投与スケジュール
AAV6-mCLo-CUG-PPR1投与DM1群、AAV6-mCLo-CUG-PPR2投与DM1群、AAV6-mCLo-empty投与DM1群、PBS投与DM1群の4群を設けた(各群n=5(♂3、♀2の左右の肢を使用)。AAVの投与量は1×1010vg/legとし、単回投与した。PBS投与DM1群には、同容量のPBSを単回投与した。
【0101】
(4)RNA凝集体形成数の計測
最終投与の56日後に、マウスから前脛骨筋を採取し切片を作製した。PBSで2回洗浄した後に、0.5%TritonX-100含有PBSで5分間透過処理した。次に30%ホルムアミド含有の2×SSCバッファーで10分間プレハイブリダイゼーション処理した。その後、30%ホルムアミド、2μg/mL BSA、66μg/mL yeast tRNA、2mMバナジル複合体(vanadyl complex)、1ng/μL Texas Red CAG probe含有の2×SSCバッファーで37℃、1時間ハイブリダイゼーション処理した。30%ホルムアミド含有の2×SSCバッファーで42℃、30分間ポストハイブリダイゼーション処理した後に、1×SSCバッファーで1回洗浄し、その後にPBSで2回洗浄した。Vectashield with DAPI(商品名、Vector Laboratories社)を用いて固定した後、蛍光顕微鏡(Keyence PZ-9000)で核内のRNA凝集体の数を計測した。
【0102】
(5)スプライシング産物の定量
最終投与の56日後に、マウスから前脛骨筋を採取した。TRI Reagent(商品名、MRC)を用いてtotal RNAを抽出した後、SuperScript III First Strand Symthesis System(Invitrogen)を用いてcDNAを調製した。cDNAをRNaseH処理した後、実施例2と同様のAtp2a1 exon22 RTプライマーと、以下のClcn1 exon 7a RTプライマーを用いてRT-PCRを行った。RT-PCR産物を2%アガロースゲルで電気泳動し、GelRedを用いて染色した後、イメージアナライザー(ChemiDoc Touchイメージングシステム、BioRad)で正常型のPCR産物と異常型のPCR産物をそれぞれ定量し、RT-PCR産物における正常型の割合を算出した。統計解析にはt-testを用いた。
Clcn1 exon 7a RTプライマー
Fw:TGAAGGAATACCTCACACTCAAGG (配列番号24)
Rv:CACGGAACACAAAGGCACTG (配列番号25)
【0103】
(6)筋強直(ミオトニア)の測定
最終投与の56日後に、麻酔下にてマウス前脛骨筋の電気的筋強直現象を針筋電図で解析した。具体的には、マウス前脛骨筋へ20回の針電極を刺入した時の電気的筋強直現象の発生頻度を次の4段階に分けて評価した。
重症度0:電気的筋強直現象が全くみられない。
重症度1:全体の50%未満に電気的筋強直現象がみられる。
重症度2:全体の50%以上、90%未満に電気的筋強直現象がみられる。
重症度3:電気的筋強直現象が90%以上みられる。
【0104】
<結果>
RNA-fociの解析結果を図5に示した。PBS投与群とAAV6-mCLo-empty投与群ではRNA-fociの陽性細胞率が30%程度を示した。一方、AAV6-mCLo-CUG-PPR1、並びにAAV6-mCLo-CUG-PPR2投与群では有意なRNA-foci陽性率の減少が認められた。
【0105】
スプライシング異常の評価結果を図6に示した。Atp2a1について、PBS投与DM1群、並びにAAV6-mCLo-Empty投与MyoD群では、正常型の割合が約60%を示した。AAV6-mCLo-CUG-PPR1投与DM1群とAAV6-mCLo-CUG-PPR2投与DM1群では、正常型RT-PCR産物の割合が有意に増加したことから、PPRタンパク質投与によりAtp2a1遺伝子のスプライシング異常が改善されることが明らかになった。Clcn1についても同様にPPR投与によりClcn1遺伝子のスプライシング異常が改善されることが認められた。
【0106】
筋強直の解析結果を図7に示した。PBS投与群とAAV6-mCLo-empty投与群は5匹中5匹ともに重症度2の筋強直が検出された。AAV6-mCLo-CUG-PPR1とAAV6-mCLo-CUG-PPR2投与DM1投与群ではいずれも5匹中2匹が重症度1、残りに3匹が重症度2を示した。また、改善した2例はClcn1のスプライシング異常改善効果が高い実験群であった(図8)。
【0107】
以上の結果より、本発明によってCTG反復配列の異常伸長に基づくスプライシング異常が改善され、その結果DM1における筋強直症状が改善されることが示された。
【0108】
[実施例6:DM1モデルマウスを用いた薬効の用量依存性試験]
DM1モデルマウスを用いた薬効の用量依存性を評価するために、DM1モデルマウスにCUG-PPR遺伝子を搭載したAAV9を3×1013,1×1014,3×1014vg/kg量をそれぞれ尾静脈内へ単回投与し、大腿筋における筋強直症状に対する効果、Atp2a1遺伝子と骨格筋型クロライドチャネル(Clcn1)遺伝子のスプライシング異常に対する効果、並びにRNA凝集体形成数を検証した。
【0109】
<実験材料および方法>
(1)使用動物
DM1モデルマウスとしてHSALRマウス(Dr. Charles Thornton(University of Rochester)より譲渡され、大阪大学の実験動物施設で繁殖させたもの)を使用した。HSALRマウスはhACTA遺伝子(筋細胞で恒常的に発現するヒト遺伝子)3’側非翻訳領域にCTG反復配列を220回に伸長したものをゲノム中に組み込んだトランスジェニック動物で、筋細胞でCUG配列が伸長したmRNAが発現することによって、DM1の症状が現れる(Science,2000,289(5485),1769-73)。コントロールとして、野生型マウス(FVB/NJclマウス、日本クレアより購入)を使用した。実験には14週齢の雌雄マウスを用いた。
【0110】
(2)PPRタンパク質
(AAVベクターの製造)
pAAV-CMVベクター(AAVpro(商標) Helper Free System,Takara,6651構成品)のマルチクローニングサイトに、PPRタンパク質、3×核局在シグナルが順に融合した遺伝子を挿入した。PCRでの構築遺伝子の発現サイズの確認、およびシーケンシングによって挿入配列の確認を行なった。CMVプロモーター、およびHuman growth hormone polyAシグナルにより融合遺伝子の発現は制御される。
【0111】
(AAVベクターの調製)
前項で構築したAAVベクターをSignaGen Laboratories社(以下、SG社と略す)で外部委託製造した。パッケージングは、SG社保有のRep/CapプラスミドとHelperプラスミド、並びに弊社から送付したAAVベクターをパッケージング細胞株へコトランスフェクションして実施した。パッケージングされたAAVを含む細胞破砕液を密度勾配遠心法にて精製しタイターを測定した。取得されたAAVは、1.16×1014vg/mlであり容量は5mlであった。これをAAV9-CUG-PPR1として以降の実験に用いた。なお、各AAVベクターにおいてコードされるPPRタンパク質(PPR1)の配列は、表1に記載のPPRタンパク質の配列と同一である。
【0112】
(3)群分け、投与スケジュール
AAV9-CUG-PPR1低用量投与群(以下、Low dose:LDと略する)、AAV9-CUG-PPR1中用量投与群(以下、Middle dose:MDと略する)、AAV9-CUG-PPR1高用量投与群(以下、High dose:HDと略する)、PBS投与群(以下、PBSと略する)の4群を設けた。各群n=5(♂3、♀2のマウス)。AAVの投与量は、LDが3×1013vg/kg、MDが1×1014vg/kg、HDが3×1014vg/kgとし、尾静脈内に単回投与した。PBS投与群には、同容量のPBSを単回投与した。
【0113】
(4)RNA凝集体形成数の計測
最終投与の28日後に、マウスから大腿筋を採取し切片を作製した。PBSで2回洗浄した後に、0.5%TritonX-100含有PBSで5分間透過処理した。次に30%ホルムアミド含有の2×SSCバッファーで10分間プレハイブリダイゼーション処理した。その後、30%ホルムアミド、2μg/mL BSA、66μg/mL yeast tRNA、2mMバナジル複合体(vanadyl complex)、1ng/μL Texas Red CAG probe含有の2×SSCバッファーで37℃、1時間ハイブリダイゼーション処理した。30%ホルムアミド含有の2×SSCバッファーで42℃、30分間ポストハイブリダイゼーション処理した後に、1×SSCバッファーで1回洗浄し、その後にPBSで2回洗浄した。Vectashield with DAPI(商品名、Vector Laboratories社)を用いて固定した後、蛍光顕微鏡(Keyence PZ-9000)で核内のRNA凝集体の数を計測した。
【0114】
(5)スプライシング産物の定量
最終投与の28日後に、マウスから大腿筋を採取した。TRI Reagent(商標)(MRC)を用いてtotal RNAを抽出した後、SuperScript III First Strand Symthesis System(Invitrogen)を用いてcDNAを調製した。cDNAをRNaseH処理した後、実施例2と同様のAtp2a1 exon22 RTプライマーと、以下のClcn1 exon 7a RTプライマーを用いてRT-PCRを行った。RT-PCR産物を2%アガロースゲルで電気泳動し、GelRedを用いて染色した後、イメージアナライザー(ChemiDoc Touchイメージングシステム、BioRad)で正常型のPCR産物と異常型のPCR産物をそれぞれ定量し、RT-PCR産物における正常型の割合を算出した。統計解析にはt-testを用いた。
【0115】
Clcn1 exon 7a RTプライマー
Fw:TGAAGGAATACCTCACACTCAAGG (配列番号24)
Rv:CACGGAACACAAAGGCACTG (配列番号25)
【0116】
(6)筋強直(ミオトニア)の測定
最終投与の28日後に、麻酔下にてマウス大腿筋の電気的筋強直現象を針筋電図で解析した。具体的には、マウス大腿筋へ20回の針電極を刺入した時の電気的筋強直現象の発生頻度を次の4段階に分けて評価した。
重症度0:電気的筋強直現象が全くみられない。
重症度1:全体の50%未満に電気的筋強直現象がみられる。
重症度2:全体の50%以上、90%未満に電気的筋強直現象がみられる。
重症度3:電気的筋強直現象が90%以上みられる。
【0117】
(7)AAV投与マウス組織内におけるPPR mRNA発現量の計測
摘出した大腿筋臓器片をTRIzol Reagent 800μLに湿潤した。破砕用ビーズ(TOMY, SUB-30)を2粒添加し、ビーズ式細胞破砕装置 Micro Smash (トミー精工, MS-100R)を用いて臓器破砕した。4℃、15,000gで5分間遠心して取得された上澄みを600μL回収し、クロロホルム溶液160μLを添加して室温で5分間の転倒混和を行った。その後、4℃、15,000gで5分間遠心し、水相と有機相に分離した。水相を300μL回収し、核酸精製装置Maxwell RSC Instrumentに供し、Total-RNAの精製物を取得した。RNAの濃度と純度は、NanoDrop 8000で吸光度測定を実施した。取得されたRNAの分解度を確認するために、20~250ng/μLのtotal-RNAを使用してLabChip GX Touch HT (PerkinElmer, CLS137031J) による電気泳動を行い、28Sと18S rRNAのバンド強度比から分解が進んでいないことを確認した。cDNAの合成は、取得されたRNA 20~100ng/μLをSuperScript III Reverse Transcriptase (サーモフィッシャーサイエンティフィック(ライフテクノロジーズ), 18080085)の製品手順書に従い逆転写反応を行なった。PPR mRNA 及び GAPDH mRNA量は、作成したcDNA, Brilliant III Ultra-Fast SYBR Green QPCR Master Mix (Agilent, 600882)と下記に記したプライマーをマニュアルに従い混合後、リアルタイムPCRシステム Aria MX(アジレント)を用いて増幅し定量解析を行った。
【0118】
PPR定量PCR用プライマー
Fw:GATGAGGCTTTGGAACTGTTTG (配列番号26)
Rv:TCTCTGGCTCTGCCGGCCTTGC (配列番号27)
【0119】
GAPDH定量PCR用プライマー
Fw:ATCATCCCTGCCTCTACTGG (配列番号28)
Rv:CTGCTTCACCACCTTCTTGA (配列番号29)
【0120】
<結果>
RNA-fociの解析結果を図9に示した。取得した大腿筋臓器切片を用いてRNA-FISH法を実施し、AAV9-CUG-PPR1によるRNA-foci形成抑制効果を検証した結果、AAV9-CUG-PPR1投与群で用量依存的にRNA-fociの形成抑制効果が確認された。PBS投与群ではRNA-foci陽性細胞率が39%、AAV9-CUG-PPR1低用量群では18%、AAV9-CUG-PPR1中用量群では23%、AAV9-CUG-PPR1高用量投与群では17%の形成抑制効果が観察された。
【0121】
スプライシング異常の評価結果を図10に示した。採取した臓器からtotal RNAを回収し、逆転写PCRを行い、Clcn1遺伝子とAtp2a1遺伝子の異常スプライシングを評価した。Clcn1の異常スプライシング現象は筋強直放電現象の直接的な原因として知られているClチャネルである。Atp2a1は同じく筋強直放電に関係するCaトランスポーターで鋭敏なマーカー遺伝子として知られている。スプライシング解析の結果、Clcn1の検出系では、PBS投与群は58%の正常スプライシングを示したところ、AAV9-CUG-PPR1低用量群では72%、AAV9-CUG-PPR1中用量群では78%、AAV9-CUG-PPR1高用量群では82%を示し、用量依存的なスプライシング改善が確認された。Atp2a1の検出系では、PBS投与群は25%の正常スプライシングを示したところ、AAV9-CUG-PPR1低用量群では56%、AAV9-CUG-PPR1中用量群では60%、AAV9-CUG-PPR1高用量群では64%を示し、用量依存的なスプライシング改善が見られた。
【0122】
筋強直放電のPPRによる減少改善効果は、ミオトニア放電数に基づいた4段階でのスコアで表示した。すなわち、スコア0は20回のうち0回、スコア1は20回のうち1から9回、スコア2は20回のうち10から19回、スコア3は20回のうち20回の筋強直放電の検出を意味する。大腿筋を用いた筋強直放電解析の結果、PBS投与群ではスコア3、AAV9-CUG-PPR1低用量群では1/5例がスコア3、4/5例がスコア2を示し、中用量群では4/5例がスコア2、1/5例がスコア1を示し、低用量群では3/5例がスコア2、2/5例がスコア1への改善を示した(図11)。
【0123】
薬物動態を調べるため、解析臓器の大腿筋よりtotal RNAを抽出し、PPR mRNAの定量PCRを実施した。RT-qPCRの結果、用量依存的なPPR mRNAの発現が確認された(図12)。各群のPPR mRNAの発現量は、内部標準にGAPDHを用いてAAV9-CUG-PPR1低用量投与群の一番シグナルが低い個体の値を1とした時の相対値を使用した。それぞれの群の中央値をとると、PBS投与群は0.2, 低用量投与群は0.7, 中用量投与群は1.8, 高用量投与群は2.6であり、用量依存的なPPRの発現が確認された(図12)。
【0124】
以上の結果より、AAV9-CUG-PPR1の用量依存的な筋強直放電の抑制、RNA-fociの形成抑制効果、異常スプライシング改善効果が確認された。
【0125】
[実施例7:DM1モデルマウスにおける薬効における時間軸変化]
DM1モデルマウスを用いた薬効における時間軸変化を評価するために、DM1モデルマウスにCUG-PPR遺伝子を搭載したAAV9を尾静脈内へ単回投与し、各タイムポイントで大腿筋における筋強直症状に対する効果、Atp2a1遺伝子と骨格筋型クロライドチャネル(Clcn1)遺伝子のスプライシング異常に対する効果、並びにRNA凝集体形成数を検証した。
【0126】
<実験材料および方法>
(1)使用動物
DM1モデルマウスとしてHSALRマウス(Dr. Charles Thornton(University of Rochester)より譲渡され、大阪大学の実験動物施設で繁殖させたもの)を使用した。HSALRマウスはhACTA遺伝子(筋細胞で恒常的に発現するヒト遺伝子)3’側非翻訳領域にCTG反復配列を220回に伸長したものをゲノム中に組み込んだトランスジェニック動物で、筋細胞でCUG配列が伸長したmRNAが発現することによって、DM1の症状が現れる(Science,2000,289(5485),1769-73)。コントロールとして、野生型マウス(FVB/NJclマウス、日本クレアより購入)を使用した。実験には12週齢の雌雄マウスを用いた。
【0127】
(2)PPRタンパク質
(AAVベクターの製造)
pAAV-CMVベクター(AAVpro(商標) Helper Free System,Takara,6651構成品)のマルチクローニングサイトに、順に、PPRタンパク質、3×核局在シグナルが順に融合した遺伝子を挿入した。PCRでの構築遺伝子の発現サイズの確認、およびシーケンシングによって挿入配列の確認を行なった。CMVプロモーター、およびHuman growth hormone polyAシグナルにより融合遺伝子の発現は制御される。
【0128】
(AAVベクターの調製)
前項で構築したAAVベクターをSignaGen Laboratories社(以下、SG社と略す)に製造を委託した。パッケージングは、SG社保有のRep/Cap プラスミドとHelperプラスミド、並びに弊社から送付したAAVベクターをパッケージング細胞株へコトランスフェクションして実施した。パッケージングされたAAVを含む細胞破砕液を密度勾配遠心法にて精製しタイターを測定した。取得されたAAVは、1.16×1014vg/mlであり容量は5mlであった。これをAAV9-CUG-PPR1として以降の実験に用いた。なお、各AAVベクターにおいてコードされるPPRタンパク質(PPR1)の配列は、表1に記載のPPRタンパク質の配列と同一である。
【0129】
(3)群分け、投与スケジュール
AAV9-CUG-PPR1投与後14日(2w)、投与後28日(4w)、投与後56日(8w)、投与後112日(16w)の4群を設置した。各群n=5(♂2、♀3)のマウスを使用した。AAVの投与量を3×1014vg/kgとし、尾静脈内に単回投与した。
【0130】
(4)RNA凝集体形成数の計測
最終投与後14、28、56、あるいは112日後に、マウスから大腿筋を採取し切片を作製した。PBSで2回洗浄した後に、0.5%TritonX-100含有PBSで5分間透過処理した。次に30%ホルムアミド含有の2×SSCバッファーで10分間プレハイブリダイゼーション処理した。その後、30%ホルムアミド、2μg/mL BSA、66μg/mL yeast tRNA、2mMバナジル複合体(vanadyl complex)、1ng/μL Texas Red CAG probe含有の2×SSCバッファーで37℃、1時間ハイブリダイゼーション処理した。30%ホルムアミド含有の2×SSCバッファーで42℃、30分間ポストハイブリダイゼーション処理した後に、1×SSCバッファーで1回洗浄し、その後にPBSで2回洗浄した。Vectashield with DAPI(商品名、Vector Laboratories社)を用いて固定した後、蛍光顕微鏡(Keyence PZ-9000)で核内のRNA凝集体の数を計測した。
【0131】
(5)スプライシング産物の定量
最終投与後14、28、56、あるいは112日後に、マウスから大腿筋を採取した。TRI Reagent(商標)(MRC)を用いてtotal RNAを抽出した後、SuperScript III First Strand Symthesis System(Invitrogen)を用いてcDNAを調製した。cDNAをRNaseH処理した後、実施例2と同様のAtp2a1 exon22 RTプライマーと、以下のClcn1 exon 7a RTプライマーを用いてRT-PCRを行った。RT-PCR産物を2%アガロースゲルで電気泳動し、GelRedを用いて染色した後、イメージアナライザー(ChemiDoc Touchイメージングシステム、BioRad)で正常型のPCR産物と異常型のPCR産物をそれぞれ定量し、RT-PCR産物における正常型の割合を算出した。統計解析にはt-testを用いた。
【0132】
Clcn1 exon 7a RTプライマー
Fw:TGAAGGAATACCTCACACTCAAGG (配列番号24)
Rv:CACGGAACACAAAGGCACTG (配列番号25)
【0133】
(6)筋強直(ミオトニア)の測定
剖検直前に、麻酔下にてマウス大腿筋の電気的筋強直現象を針筋電図で解析した。具体的には、マウス大腿筋へ20回の針電極を刺入した時の電気的筋強直現象の発生頻度を次の4段階に分けて評価した。
重症度0:電気的筋強直現象が全くみられない。
重症度1:全体の50%未満に電気的筋強直現象がみられる。
重症度2:全体の50%以上、90%未満に電気的筋強直現象がみられる。
重症度3:電気的筋強直現象が90%以上みられる。
【0134】
<結果>
RNA-fociの解析結果を図13に示した。取得した大腿筋臓器切片を用いてRNA-FISH法を実施し、AAV9-CUG-PPR1によるRNA-foci形成抑制効果を検証した結果、AAV9-CUG-PPR1投与群で用量依存的にRNA-fociの形成抑制効果が確認された。実施例6の用量依存性試験で用いたPBS投与群の値をコントロールとして用いた。コントロール群のRNA-foci陽性細胞率は39%、AAV9-CUG-PPR1投与後14日目の群では36%、投与後28日目の群では23%、投与後56日目の群では19%、投与後112日目の群では18%の形成抑制効果が確認された(図13)。
【0135】
スプライシング異常の評価結果を図14に示した。採取した臓器からtotal RNAを回収し、逆転写PCRを行い、Clcn1遺伝子とAtp2a1遺伝子の異常スプライシングを評価した。Clcn1の異常スプライシング現象は筋強直放電現象の直接的な原因として知られているClチャネルである。Atp2a1は同じく筋強直放電に関係するCaトランスポーターで鋭敏なマーカー遺伝子として知られている。スプライシング解析の結果、Clcn1の検出系では、実施例6で示したPBS投与群は58%の正常スプライシングを示したところ、AAV9-CUG-PPR1投与後14日目の実験群では62%、AAV9-CUG-PPR1投与後28日目では76%、AAV9-CUG-PPR1投与後56日目では79%を示し、AAV9-CUG-PPR1投与後112日目では80%のスプライシング改善が確認された。Atp2a1の検出系では、実施例6で示したPBS投与群は25%の正常スプライシングを示したところ、AAV9-CUG-PPR1投与後14日目の実験群では30%、AAV9-CUG-PPR1投与後28日目では63%、AAV9-CUG-PPR1投与後56日目では76%を示し、AAV9-CUG-PPR1投与後112日目では75%のスプライシング改善が確認された(図14)。
【0136】
筋強直放電のPPRによる減少改善効果は、ミオトニア放電数に基づいた4段階でのスコアで表示した。すなわち、スコア0は20回のうち0回、スコア1は20回のうち1から9回、スコア2は20回のうち10から19回、スコア3は20回のうち20回の筋強直放電の検出を意味する。大腿筋を用いた筋強直放電解析の結果、実施例6で示すPBS投与群ではスコア3、AAV9-CUG-PPR1投与後14日目の実験群では4/5例がスコア3、1/5例がスコア2を示し、AAV9-CUG-PPR1投与後28日目の実験群では5/5例がスコア2を示し、AAV9-CUG-PPR1投与後56日目の実験群では3/5例がスコア2と2/5例がスコア1を示し、投与後112日目の実験群は3/5例がスコア2と2/5例がスコア1を示した(図15)。
【0137】
薬物動態を調べるため、解析臓器の大腿筋よりtotal RNAを抽出し、PPR mRNAの定量PCRを実施した。RT-qPCRの結果、投与後112日目においてもPPRの持続的な発現が確認された(data not shown)。
【0138】
以上の結果より、AAV9-CUG-PPR1投与マウスは投与後14日、28日、56日まで薬効が向上し、投与後112日目でも薬効が持続されていることが確認された。
【0139】
[実施例8:AAV9-CUG-PPR1投与による、DM1関連スプライシング異常の包括的な改善]
<実験材料および方法>
(1)解析臓器
HSALRマウス(14週齢)にAAV9-CUG-PPR1を3×1014vg/kgで尾静脈内に単回投与し、投与後8週(Day56)に摘出した大腿筋組織片をPPR治療群とした。同容量のPBSを単回投与し摘出した大腿筋をPPR未処理群として設置した。遺伝的背景を揃えた野生型FVB/NJclマウスの大腿筋組織片を野生型群として用いた。
【0140】
(2)異常スプライシングイベントの解析
実施例6に記述のtotal RNA抽出法に従い、PPR治療群とPPR未処理群と野生型群の大腿筋からTotal-RNAを抽出し、GENEZWIZ社に必要量を送付してRNAシーケンス(Illumina Hiseq 2×150bp シークエンス)を実施した。送付したRNAに対してPoly Aセレクション法によって、トータルRNA中のribosomal RNAを除去した。RNAを逆転写しcDNAを合成しアダプター付きのライブラリーを調整した。シーケンシングを行い、取得されたリード情報に対してアダプタートリミングをTrimmomatic(v0.33)59を用いて実施した。トリミング処理後のリード配列について参照ゲノムにGRCm39(Ensembleより入手)を用いてアライメント処理をSTAR(v2.7.9a)で行った。スプライシングイベントの特定は、STAR-aligned file (.bam)を基に、 rMATS(v3.2.5) で検出した。変動したスプライシングイベントの特定は、野生型群とPPR未処理群(PBSを投与したHSALRマウス)の比較を行い、「p-adjusted-value」と「InclLevelDifference」を指標として変動の有無を判断し、変動していると定義した候補のみを抽出した。変動スプライシングイベントに対して、FDR(False Discovery Rate)-adjusted P value < 0.05の閾値でカットオフを行い、群間の比較試験に用いた。Percent spliced in index (PSI)は、対象とする遺伝子の全リード数に対するスプライスドインされた転写物量の割合と定義した。Gene ontology解析は、Metascape(https://metascape.org/gp/index.html#/main/step1)を使用した。
【0141】
<結果>
前項で記述した野生型マウス(14週齢)から摘出した大腿筋(以降、野生型群とする), HSALRマウスにPBSを投与し8週間後に摘出した大腿筋(以降、PPR未処理群とする),さらにAAV9-CUG-PPR1を投与し8週間後(Day56)に摘出した大腿筋(以降、PPR処理群)からトータルRNA抽出し、次世代シークエンシング技術により発現しているRNAの網羅的解析を実施した。
【0142】
得られたリード配列のマッピング後、隣り合うエクソン配列のリード数を比較し、PSI (percent spliced in index) を計算し、各遺伝子の各エクソンのインクルージョンレベルを算出した。野生型とPBS投与群のPSIのうち、0.2以上の差があるものを、HSALRマウスで異常になっているスプライシングイベントとした(n=455,図16a左)。AAV9-CUG-PPR1投与後8週目の同スプライシングイベントのPSIとWTにおけるPSIを比較した結果(図16a右)、全体的にPSIが回復していることが分かった。
【0143】
以下の文献において、Atp2a1やClcn1以外のHSA-LRでスプライシング異常が起きることが報告されているスプライシングイベントについても改善が見られた(図16b)。
参考文献:Matthew K Tanner et al. Nucleic Acids Research, Volume 49, Issue 4(2021)
【0144】
異常スプライシングが起きている遺伝子群についてGene ontology 解析を行ったところ筋肉機能や筋肉分化に関連するタームであった。各Gene ontologyにおいて改善が認められる遺伝子数について解析した結果、強く改善(50%より大きい)が認められた遺伝子が40%程度あり、改善(20%より大きい)が認められたものを含めると、90%であることが分かった(図16c)。
【0145】
これらのことから、AAV9-CUG-PPR1の投与によって様々なスプライシング異常が改善することが分かった。
【0146】
[実施例9:AAV9-CUG-PPR1を適用した正常マウスの各臓器におけるPPR mRNAの発現量解析]
【0147】
<実験材料および方法>
(1)解析臓器
AAV9-CUG-PPR1(投与用量:1×1013vg/kg,3×1013vg/kg,または3×1014vg/kg)をiv投与した正常マウスから摘出した4臓器片(心臓、大腿筋、腓腹筋、前脛骨筋)を使用した。
【0148】
(2)投与スケジュールと剖検タイミング
週齢8週の雌の正常マウスを用いた。投与用量を1×1013vg/kg,3×1013vg/kg,または3×1014vg/kgとして尾静脈内投与を行い、容量は10μL/gとして設定した。観察期間は投与後28日とした。マウス各個体から心臓、大腿筋、腓腹筋、前脛骨筋を摘出しPPR mRNAの解析を行なった。
【0149】
(3)AAV投与マウス組織内のPPR mRNA発現量の計測
摘出臓器片からTotal-RNAを抽出しcDNAを合成し定量PCRを実施した。まず、前項で取得した臓器片の50mg(±5mg)片をTRIzol Reagent 800μLに湿潤した。破砕用ビーズ(TOMY, SUB-30)を2粒添加し、ビーズ式細胞破砕装置 Micro Smash(トミー精工, MS-100R)を用いて臓器破砕し、4℃、15,000gで5分間遠心した。取得された上澄みを600μL回収し、クロロホルム溶液を160μL添加して室温で5分間の転倒混和を行った。その後、4℃、15,000gで5分間遠心し、水相と有機相に分離した。水相を300μL回収し、核酸精製装置Maxwell RSC Instrumentに供し、Total-RNAの精製物を取得した。RNAの濃度と純度は、NanoDrop 8000で吸光度測定を実施した。取得されたRNAの分解度を確認するために、20~250ng/μLのtotal-RNAを使用してLabChip GX Touch HT (PerkinElmer, CLS137031J)による電気泳動を行い、28Sと18S rRNAのバンド強度比から分解が進んでいないことを確認した。
【0150】
cDNAの合成は、取得されたRNA20~100ng/μLをSuperScript III Reverse Transcriptase (サーモフィッシャーサイエンティフィック(ライフテクノロジーズ), 18080085)の製品手順書に従い逆転写反応を行なった。
【0151】
定量PCRは、リアルタイムPCRシステム Aria MX(アジレント)を用いてBrilliant III Ultra-Fast SYBR Green QPCR Master Mix(Agilent, 600882)の汎用マニュアルに従い実施した。
【0152】
PPR定量PCR用プライマー
Fw:GATGAGGCTTTGGAACTGTTTG (配列番号26)
Rv:TCTCTGGCTCTGCCGGCCTTGC (配列番号27)
【0153】
GAPDH定量PCR用プライマー
Fw:ATCATCCCTGCCTCTACTGG (配列番号28)
Rv:CTGCTTCACCACCTTCTTGA (配列番号29)
【0154】
<結果>
定量PCRの結果を図17に示す。定量PCRの結果、各組織において用量依存的なPPR発現量の上昇が確認され、最大投与3×1014vg/kg投与群で最大発現量を示した。
【0155】
以上より、全身にAAV9-CUG-PPR1を送達し、発現させることができることが示され、骨格筋、平滑筋に加え、心臓を冒す多臓器疾患であるDM1に対して有効であることが示唆された。
【0156】
[実施例10:AAV9-CUG-PPR1を適用した正常マウスの各臓器におけるPPR mRNAの発現持続性解析]
【0157】
<実験材料および方法>
(1)解析臓器
AAV9-CUG-PPR1(投与用量:1×1014vg/kg)をiv投与した正常マウスから摘出した4臓器片(心臓、大腿筋、腓腹筋、前脛骨筋)を使用した。
【0158】
(2)投与スケジュールと剖検タイミング
週齢8週の雄の正常マウスを用いた。投与用量を1×1014vg/kgとして尾静脈内投与を行い、容量は10μL/gとして設定した。観察期間は投与後14日目、投与後28日目、投与後56日目、投与後112日目、投与後182日目とした。マウス各個体から心臓、大腿筋、腓腹筋、前脛骨筋を摘出しPPR mRNAの解析を行なった。
【0159】
(3)AAV投与マウス組織内のPPR mRNA発現量の計測
摘出臓器片からTotal-RNAを抽出しcDNAを合成し定量PCRを実施した。まず、前項で取得した臓器片の50mg(±5mg)片をTRIzol Reagent 800μLに湿潤し、破砕用ビーズ(TOMY, SUB-30)を2粒添加し、ビーズ式細胞破砕装置 Micro Smash (トミー精工, MS-100R)を用いて臓器破砕した。4℃、15,000gで5分間遠心し取得された上澄みを600μL回収し、クロロホルム溶液を160μL添加して室温で5分間の転倒混和を行った。その後、4℃、15,000gで5分間遠心し、水相と有機相に分離した。水相を300μL回収し、核酸精製装置Maxwell RSC Instrumentに供し、Total-RNAの精製物を取得した。RNAの濃度と純度は、NanoDrop 8000で吸光度測定を実施した。取得されたRNAの分解度を確認するために、20~250ng/μLのtotal-RNAを使用してLabChip GX Touch HT (PerkinElmer, CLS137031J) による電気泳動を行い、28Sと18S rRNAのバンド強度比から分解が進んでいないことを確認した。cDNAの合成は、取得されたRNA 20~100ng/μLをSuperScript III Reverse Transcriptase (サーモフィッシャーサイエンティフィック(ライフテクノロジーズ), 18080085)の製品手順書に従い逆転写反応を行なった。定量PCRは、リアルタイムPCRシステム Aria MX(アジレント)を用いてBrilliant III Ultra-Fast SYBR Green QPCR Master Mix (Agilent, 600882)の汎用マニュアルに従い実施した。
【0160】
PPR定量PCR用プライマー
Fw:GATGAGGCTTTGGAACTGTTTG (配列番号26)
Rv:TCTCTGGCTCTGCCGGCCTTGC (配列番号27)
【0161】
GAPDH定量PCR用プライマー
Fw:ATCATCCCTGCCTCTACTGG (配列番号28)
Rv:CTGCTTCACCACCTTCTTGA (配列番号29)
【0162】
<結果>
定量PCRの結果を図18に示す。定量PCRの結果、投与後183日目においても発現持続が確認され、時間依存的な発現上昇も確認された。先行論文においては、AAV9を尾静脈内投与した場合に、長期間(6ヶ月以上)に渡って発現を持続できることが示されているが、本実験の結果も当該知見と一致する。
【0163】
以上より、本発明は、対象への少ない投与回数で、長期間に渡って所望の効果を奏し得ることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16a
図16b
図16c
図17
図18
【配列表】
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