(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069449
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】積層体を評価する方法、積層体を評価する装置、積層体を製造する方法、及び積層体を製造する装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/892 20060101AFI20240514BHJP
G01N 21/59 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
G01N21/892 C
G01N21/59 M
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039598
(22)【出願日】2024-03-14
(62)【分割の表示】P 2019132201の分割
【原出願日】2019-07-17
(31)【優先権主張番号】P 2018134007
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521140191
【氏名又は名称】ツェット・エフ・オートモーティブ・ジャーマニー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋佑
(72)【発明者】
【氏名】山崎 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】田上 徹
(57)【要約】
【課題】2以上の層が貼り合されてなる積層体の貼合せ強度を、正確に且つ簡便に評価する。
【解決手段】2以上の層が貼り合されてなる積層体を評価する方法であって、前記積層体の二次元画像を取得する画像取得ステップと、前記二次元画像からエアポケット対応領域を検出する検出ステップと、前記エアポケット対応領域の面積に関連する特性値を求める特性値取得ステップと、前記特性値に基づき前記積層体の貼合せ強度を評価する評価ステップとを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の層が貼り合されてなる積層体を評価する方法であって、
前記積層体の二次元画像を取得する画像取得ステップと、
前記二次元画像からエアポケット対応領域を検出する検出ステップと、
前記エアポケット対応領域の面積に関連する特性値を求める特性値取得ステップと、
前記特性値に基づき前記積層体の貼合せ強度を評価する評価ステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体を評価する方法、積層体を評価する装置、積層体を製造する方法、及び積層体を製造する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用エアバッグ、アウトドア用品、衣料品等の用途において、シート状材料の層が複数貼り合されてなる積層体が知られている。例えば、特許文献1には、布層14の壁部分に気密材料の薄膜が全表面にわたって施された繊維ガスバッグ材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1044803号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような積層体は、特許文献1に開示されているようなガスバッグ(エアバッグ)に代表される、高い強度が要求される用途で用いられる場合が多い。そして、積層体の強度は、積層体を構成する層の貼合せ強度に大きく依存することから、貼合せ強度を正確に且つ簡便に評価する方法が求められている。
【0005】
従来、例えば2層が貼り合されてなる積層体の貼合せ強度は、実際に一方の層を他方の層から引き剥がす際に加えられる負荷(剥離力)を測定することによって評価されていた。しかしながら、このような従来の評価方法では、層同士を引き剥がす手段、すなわち積層体を破壊するための力学的な手段が必要であり、また手順も煩雑であった。
【0006】
上記の点に鑑みて、本発明の一態様は、2以上の層が貼り合されてなる積層体の貼合せ強度を、正確に且つ簡便に評価することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、2以上の層が貼り合されてなる積層体を評価する方法であって、前記積層体の二次元画像を取得する画像取得ステップと、前記二次元画像からエアポケット対応領域を検出する検出ステップと、前記エアポケット対応領域の面積に関連する特性値を求める特性値取得ステップと、前記特性値に基づき前記積層体の貼合せ強度を評価する評価ステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、2以上の層が貼り合されてなる積層体の貼合せ強度を、正確に且つ簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一形態による積層体の製造装置の概略図である。
【
図2】エアポケットを含む積層体の断面写真である。
【
図3】本発明の一形態による積層体の評価装置の概略図である。
【
図4】本発明の一形態による積層体の評価装置の機能構成図である。
【
図6】取得された二次元画像に基づき生成された二値化画像の例である。
【
図7】実施例1-1~1-3について、ボイド率と貼合せ強度との相関関係を示すグラフである。
【
図8】実施例2-1及び2-2について、ボイド率と貼合せ強度との相関関係を示すグラフである。
【
図9】実施例3-1及び3-2について、ボイド率と貼合せ強度との相関関係を示すグラフである。
【
図10】実施例4-1で取得された積層体の断面画像である。
【
図11】
図10の断面画像に基づき生成された二値化画像ある。
【
図12】実施例4-2で取得された積層体の断面画像である。
【
図13】
図12の断面画像に基づき生成された二値化画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一形態は、積層体を評価する方法であって、2以上の層が貼り合されてなる積層体を評価する方法であって、前記積層体の二次元画像を取得する画像取得ステップと、前記二次元画像からエアポケット対応領域を検出する検出ステップと、前記エアポケット対応領域の面積に関連する特性値を求める特性値取得ステップと、前記特性値に基づき前記積層体の貼合せ強度を評価する評価ステップとを含むものである。
【0011】
また、本発明の一形態は、2以上の層が貼り合されてなる積層体を評価する装置であって、前記積層体の二次元画像を取得する画像取得手段と、前記二次元画像からエアポケット対応領域を検出する検出手段と、前記エアポケット対応領域の面積に関連する特性値を求める特性値取得手段と、前記特性値に基づき前記積層体の貼合せ強度を評価する評価手段とを備えるものである。
【0012】
本形態における評価対象である積層体は、2以上の層が貼り合されてなるシート状の構造物である。積層体を構成する2以上の層のうち少なくとも一層が可撓性を有することが好ましく、全層が可撓性を有することが好ましい。また、積層体は、全体として可撓性を有し、気密性を有することが好ましい。積層体は、例えば、2以上の層のうち一層が基布であり、別の一層がポリマー層である構成とすることができる。その場合、基布が、積層体の最も外側の層(表面層又は裏面層)であることが好ましい。本形態における積層体は、車両用エアバッグ、アウトドア用品、衣料品、包装材等の用途で好適に用いられ、特に車両用エアバッグの材料として好適に用いられる。
【0013】
基布とポリマー層とが貼り合されて積層体が構成されている場合、基布は、積層体の強度を確保するための支持体としての機能を有する。基布は、繊維を含むシート状の構造体であり、織物、編物、不織布であってよい。基布には、全体にわたり又は部分的に縫製がされていてもよい。基布に含まれる繊維の種類は特に限定されないが、合成繊維、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、無機繊維、及びこれらの組合せ(混紡、混織を含む)とすることができる。
【0014】
一方、ポリマー層は、主としてポリマーを含む、可撓性を有する層であって、基布と貼り合されて形成される積層体に、気密性を付与するものが好ましい。用いられるポリマーは特に限定されず、樹脂、ゴム、エラストマーと呼ばれるもの等を含む。
【0015】
積層体が2層からなる場合には、例えば基布とポリマー層とをそれぞれ準備し、両者を互いに上下に重ね合せ、加熱及び/又は加圧することによって互いに貼り合されて製造されたものであってよい。その際、基布及び/又はポリマー層の少なくとも一部を溶融又は軟化させて、両者を貼り合せることができる。両層の貼合せの際、補助的に接着剤を用いてもよい。また、積層体は、加熱及び/又は加圧によらず、2層が接着剤により貼り合せられたものであってもよい。上記の製造工程は、3層以上を貼り合せてなる積層体の場合も同様である。
【0016】
図1に、積層体の製造装置100、及びこの製造装置100に含まれる貼合せ装置20の例を示す。
図1には、積層体は、基布とポリマー層とが貼り合されて作製される例を示す。すなわち、貼合せ装置20では、予め巻かれていた基布4及びポリマー層1がそれぞれ巻き解かれ、重ねて搬送され、貼合せ装置20において貼り合せられる。重ね合された基布4及びポリマー層1は、貼合せ装置20において、加熱部22及び加圧部(ニップロール等)23によって、加熱及び/又は加圧される。なお、図示の例では、加熱部22及び加圧部23は別々に構成されているが、加熱及び加圧は同じ部材によって行うこともできる。
【0017】
積層体は、上記以外の方法によって製造されたものであってもよい。積層体は、押出機等によって層状に押出成形されたポリマー層を、冷却前の軟かい状態で基布上に重ねるように供給し、必要に応じて加熱及び/又は加圧して製造されたものであってもよい。また、基布の製造装置(織機等)とポリマー層の製造装置(押出機等)とを近接して配設し、作製された直後の基布上に、押出し直後のポリマー層を供給し、必要に応じて加熱及び/又は加圧して製造されたものであってもよい。さらに、基布及び/又はポリマー層を溶融又は軟化させず、基布とポリマー層とを接着剤を介して貼り合せることによって製造されたものであってもよい。
【0018】
積層体における層間の貼合せ強度は、積層体を用いて製造される最終製品の品質に大きく関わることから、その評価は重要であり、評価を的確にまた簡便に行うことが求められている。しかし、従来の貼合せ強度の評価方法は、貼り合されていた層を引き剥がす際(層間の貼合せを破壊する際)の剥離力を測定するというものであり、この方法では、引剥しのための力学的な手段が必要である他、手順も煩雑であった。また、従来の評価をインラインで行い、評価結果を貼合せ装置にフィードバックすることは困難であった。そのため、積層体の製造中に、貼合せ条件を適切なものに修正、調整することはできなかった。
【0019】
これに対し、本発明者は、従来行われているように層同士を引き剥がして剥離力を測定するのではなく、積層体の二次元画像を取得し、この画像を解析することによって、積層体の貼合せ強度を評価する方法を見出した。本形態の方法によれば、正確に且つ簡便に積層体の貼合せ強度を評価することができる。
【0020】
例えば、積層体における基布とポリマー層との貼合せ部分においては、両層が密着せずに、基布表面とポリマー層表面との間が局所的に離間する場合がある。すなわち、両層間に空気等のガスが封入される部分が生じる場合がある。本明細書では、このような部分を、エアポケット又はボイドと呼ぶ。このようなエアポケットは、2層のうち少なくとも一方の層の表面に凹凸がある場合、2層の少なくとも一方が可撓性を有する場合、2層を比較的少量の接着剤を介して貼り合せた場合等に形成され得る。
【0021】
図2に、例として、基布にポリマー層を貼り合せてなる積層体を、積層体の面方向(積層体の面に沿った方向)に直交する方向で切った断面写真を示す。
図2の積層体は、複数の単繊維の束が互いに直交する方向に延在するように織られた平織の基布4の上に、ポリマー層1が貼り付けられたものである。
図2に示されているように、基布4の繊維の束の縁部付近には、基布4とポリマー層1との間が離間している領域、すなわちエアポケットAPが形成されている。
【0022】
本発明者は、このようなエアポケットの存在が、積層体の貼合せ強度に影響していること、そして、エアポケットの存在比率と貼合せ強度とが相関関係を有することを見出した。また一方で、積層体の二次元画像を取得して、エアポケットに対応する領域(エアポケット対応領域ともいう)を検出し、その面積に関連する特性値を求め、その特性値に基づき貼合せ強度を求めることができることを見出した。そして、上記エアポケット対応領域は、取得された画像の光学的特徴量に基づいて容易に検出することができる。
【0023】
図3に、上記の評価方法を行うために用いられる評価装置10の概略図を例示する。評価装置10は、基布4とポリマー層1とが貼り合されてなる積層体5の二次元画像を取得し、解析して、評価できる装置である。
図3に示すように、評価装置10は、積層体5の二次元画像を取得するための撮像手段18と、撮像手段18に接続された情報処理装置19とを備えている。撮像手段18は、積層体5の画像を拡大する像拡大手段18aと、像拡大手段18aに近接した又は接続された撮像手段本体18bとを備えている。
【0024】
像拡大手段18aとしては、例えば実体顕微鏡や拡大鏡等を用いることができる。画像は2~50倍程度に拡大されることが好ましい。また、撮像手段本体18bは、例えばCCDカメラ、CMOSカメラといったデジタルカメラとすることができる。像拡大手段18aと撮像手段本体18bとは統合され一体化されていてよい。
【0025】
撮像手段18は、積層体5の一方の側(図示の例では上側)に配置されていてよい。積層体5の他方の側には、積層体5に向けて光Lを投射する光源(投光手段)17を配置することができる。この配置によって、透過画像を撮影することができる。ここで、積層体5が互いに異なる2層を有する場合、どちらの層の側から撮影してもよい。なお、積層体5が基布とポリマー層とから構成されている場合に透過画像を撮影する場合、エアポケットの輪郭をより明確に撮影できることから、ポリマー層側から撮影することが好ましい。また、撮像手段18と光源17との配置は図示のものに限られず、光源17を、撮像手段18と同じ側に配置し、反射画像を撮影することもできる。反射画像を撮影する場合には、光源17からの光Lは、積層体5の面方向に対して垂直に当てるのではなく、斜め方向から当てることが好ましい。
【0026】
このように、撮像手段18によって得られる画像は、反射画像であってもよいし透過画像であってもよい。反射画像及び透過画像の両方を撮影して、両データに基づき解析を行ってもよい。また、反射画像、透過画像に関わらず、複数の画像を撮影して、複数の画像に基づき解析を行うこともできる。さらに、図示の例では、撮像手段18は積層体5の面方向に直交する線上に配置されており、平面視画像が取得されるが、撮像手段18によって取得される画像は平面視画像に限られず、積層体5を斜め方向から撮像した画像であってもよい。なお、光源17が撮像手段18に設けられて、両者が一体化された装置となっていてもよい。
【0027】
情報処理装置19は、撮像手段18によって撮影された積層体5の画像データを取り込み、解析して、評価する。情報処理装置19としては、演算処理機能と表示機能を有する任意の情報処理装置とすることができ、汎用のパーソナルコンピュータとすることができる。情報処理装置19による解析では、積層体5の二次元画像においてエアポケット対応領域を検出し、検出されたエアポケット対応領域の面積に関連する特性値を取得し、この特性値に基づき積層体の貼合せ強度を評価することができる。
【0028】
図4に、本形態による評価方法を実施するための評価装置10の機能構成例を示す。
図4に示すように、評価装置10は、入力手段11、出力手段12、画像取得手段(画像取込み手段)13、記憶手段14、解析手段15、及び制御手段16を有するように構成されている。解析手段15は、エアポケット検出手段15a、特性値取得手段15b、及び評価手段15cを備えていてよい。
【0029】
入力手段11は、例えば使用者等から画像取得や画像解析に関する指示等の、各種の指示の開始/終了、設定等の入力を受け付ける。入力手段11は、タッチパネル、キーボード、マウス等の入力インターフェースとすることができ、またマイク等の音声入力デバイスであってもよい。
【0030】
出力手段12は、入力手段11により入力された内容や、入力内容に基づいて実行された内容等の出力を行う。出力手段12は、例えば、ディスプレイやスピーカ等であってよい。
【0031】
画像取得手段13は、上述の撮像手段18によって撮影された画像又は画像の情報を取り込むことができる。画像取得手段13によって取得される画像は、グレースケール画像(モノクロ画像)であってもよいし、カラー画像であってもよい。
【0032】
記憶手段14は、画像取得手段13によって取得された画像や、解析手段15におけるエアポケット検出手段15a、特性値取得手段15b、及び評価手段15cによる解析結果の各種データ等を記憶する。また、後述のように、評価装置10が貼合せ装置20と接続されて、積層体の製造装置100を構成している場合には、記憶手段14は、貼合せ装置20の貼合せ条件に関する設定値や、用いられる層の材質や厚み、得ようとする積層体の用途等のデータ、貼合せ強度の許容レベル等に関連する値等を記憶することもできる。
【0033】
エアポケット検出手段15aは、画像取得手段13によって取得された積層体5の二次元画像に対して画像処理を行い、エアポケット対応領域を検出する手段である。上述のように、積層体の2層間に存在するエアポケットは空気等のガスが封入されている部分であるため、その部分の光の屈折率は周囲とは異なり、光の透過率や反射率が異なっている。このため、得られた二次元画像における、エアポケット対応領域の光学的特徴量は周囲と異なっている。よって、取得された二次元画像の光学的特徴量の分布を測定することによって、二次元画像におけるエアポケット対応領域を容易に抽出することができる。
【0034】
なお、エアポケット対応領域とは、画像において、エアポケット(基布とポリマー層とが貼り合せられていない部分)が占める二次元領域であってよいし、エアポケットの存在によって周囲と異なる光学的特徴量を示す領域とすることもできる。例えば、エアポケットが占める二次元領域と、その周辺の、エアポケットの存在によって貼合せ強度が弱まっている領域とを含む領域であってもよいし、エアポケットが占める二次元領域内の光学的特徴量が周囲と顕著に異なる領域とすることもできる。
【0035】
上記の光学的特徴量は、例えば、輝度値、コントラスト値等であってよい。また、取得される画像をカラー画像とした場合には、色相や彩度等の色空間に関する特徴量であってもよい。エアポケットが占める領域を良好に検出することができること、また画像処理を容易に行うことができること等から、光学的特徴量は輝度値であることが好ましい。
【0036】
図5に、画像取得手段13によって取得された画像を例示する。
図5は、基布とポリマー層とが貼り合されてなる積層体を、ポリマー層の側から撮像した画像である。
図5に示す積層体に用いられている基布は、複数の単繊維の束である経糸及び緯糸が平織されてなる基布であるが、経糸と緯糸とが交差する位置にエアポケットが観察されている。
【0037】
エアポケット検出手段15aによる画像処理は、取得された画像に対して直接行うこともできるし、画像を所定の形式に変換して変換後の画像に対して行うこともできる。例えば、取り込まれた画像を、まずグレースケール画像に変換してもよい。
【0038】
エアポケット検出手段15aにおいては、取得された画像又は取得され所定の形式に変換された画像に対し、所定の閾値を基準として二値化処理を施すことができる。例えば、8ビット、256階調(0~255)のグレースケール画像において、二値化処理によって、閾値を245として、輝度値254以下の画素を黒色(輝度値0)、輝度値255の画素を白色(輝度値255)に変換し、二値化画像を生成することができる。
図3に示すような評価装置10を用いた場合、上記二値化画像において白色の領域がエアポケット対応領域になり得る。なお、閾値は上記の値に限られることはなく、評価対象である積層体の厚さ、用いられている材料、撮像の条件等によって適宜選択することができる。
【0039】
一方、上記二値化処理後、画像の白黒を反転させることもできる。これにより、エアポケット対応領域が黒色、それ以外の領域が白色に表示される。
図6に、取得画像を二値化し、さらに白黒反転させた画像を示す。
図6の例では、黒色の領域がエアポケット対応領域に相当している。
【0040】
なお、画像には、二値化処理を行う前又は後に、ガウシアンフィルタ処理、メディアンフィルタ処理等の平滑化、鮮鋭化等の処理を施すこともできる。また、目視にてエアポケットを観察して確認しながら、輪郭をマニュアルで修正することもできる。
【0041】
特性値取得手段15bは、エアポケット検出手段15aによって検出(抽出)されたエアポケット対応領域に基づき、貼合せ強度の指標となる特性値を求める手段である。特性値は、エアポケット対応領域の面積に関連する特性値であってよい。特性値は、例えば、解析画像全面積S
Tに対する、エアポケット対応領域の面積の合計S
APの割合(%)(S
AP/S
T×100)とすることができ、この割合はボイド率(%)と呼ぶ場合がある。上述の白黒反転させた二値化画像(
図6)においては、このボイド率は、白色領域の合計S
Wと黒色領域の合計S
Bとの和に対する、黒色領域の合計S
B(%)(S
B/(S
W+S
B)×100)である。
【0042】
エアポケット対応領域の面積に関する特性値は、ボイド率(%)に限らず、エアポケット対応領域の面積の合計や、最大値、平均値等であってもよいし、エアポケット対応領域の面積の分布から求められる値、例えばメジアン値、標準偏差等とすることもできる。
【0043】
評価手段15cは、手段15bによって取得されたエアポケットに関する特性値に基づき、積層体を評価することができる。より具体的には、エアポケット対応領域の面積に関する特性値に基づき、積層体の貼合せ強度を評価することができる。
【0044】
上述のように、エアポケット対応領域の面積に関する特性値と、貼合せ強度との間には相関関係がある。よって、既存の複数の積層体について両者の相関関係を求めておくことで、評価対象の積層体の貼合せ強度を評価することが可能になる。例えば、積層体の材料となる2層の材質、厚さ等を変更せずに、貼合せ工程の件を変えて複数試作する。そして、各試作積層体について、上述のように特性値(ボイド率等)を求めるとともに各試作積層体の貼合せ強度を求め、両者の相関関係を求める(検量線を引く)。このような相関関係を求めておけば、評価したい積層体の二次元画像を解析することで、貼合せ強度を定性的に又は定量的に評価することができる。
【0045】
上記の相関関係を構築する段階では、所定の2層を含む試作積層体の貼合せ強度として、従来の測定方法による剥離力を測定してもよい。エアポケット対応領域の面積に関する特性値と剥離力との相関関係を求めておき、その相関関係に基づき貼合せ強度(剥離力)を推定できる。よって、貼合せ強度が未知の積層体について引剥しによる剥離力を測定する必要はなく、積層体を破壊せずに済む。
【0046】
また、一般に、2層が貼り合されてなる積層体においては、剥離力が小さいと、耐圧性も小さい。よって、貼合せ強度として、積層体の耐圧性を測定することができる。耐圧性は、例えば、所定面積の積層体を測定冶具に固定し、積層体の基布側から空気、水等の媒体を用いて圧力を加え徐々に上昇させて、積層体が破壊された時の圧力(破断時圧又は破壊時圧(kPa))を測定することで求めることができる。
【0047】
また、耐圧性は、内圧保持特性、例えば内圧保持率として測定することもできる。内圧保持率は、例えば、積層体を金属製の管に、積層体が管端部を覆うように配置し、フランジ付の蓋等で管と積層体との間が密になるように積層体を固定し、管内にガスを充填し、内圧が最大となった時点でガス充填を停止する。そして、最大内圧を測定した後、内圧を経時的に測定し、減衰率等を算出することができる。このような減衰率と、上述のように取得したエアポケット対応領域の面積に関連する特性値との相関関係を求め、積層体の評価に利用することができる。
【0048】
また、エアバッグ等の用途として積層体が、後述のように袋状になっている場合には、袋状に形成された積層体の内圧保持特性を測定してもよい。例えば、袋状積層体の内圧を所定の初期内圧P0としておき、ガス流入口にガスポンプ等を繋いでガス流入口からガスを流入させ、ガス流入口付近に取り付けた圧力センサによって袋状積層体の内圧Piを測定する。所定時間経過後の初期内圧P0に対する袋状積層体の内圧Piの百分率を、内圧保持率(Pi/P0×100)とすることができる。このような内圧保持率と、上述のように取得したエアポケット対応領域の面積に関連する特性値との相関関係を求め、積層体の評価に利用することができる。上記方式で内圧保持率を測定することによって実際の使用状況に即した特性を測定できるので、袋状の積層体のより実用的な評価を行うことができる。
【0049】
上記の特性値と貼合せ強度との相関関係は、グラフ又は式(モデル)として表すことができる。相関関係を表すグラフ又は式は、記憶手段14に記憶しておくことができる。相関関係を表す式は、エアポケット対応領域の面積に関する特性値を独立変数とし、貼合せ強度を従属変数とした回帰分析を行うことで求めることができる。その場合、複数の特性値を独立変数としてもよいし、特性値と積層体の別の物性とを独立変数としてもよい。後述のように、エアポケット対応領域の面積に関する特性値がボイド率であり、貼合せ強度が積層体の耐圧性(破断時圧、内圧保持率等)である場合、ボイド率をX、耐圧性をYとして、
Y=logX+b
という関係が成立し得る。
【0050】
しかし、特性値と貼合せ強度との相関関係を表す回帰式上記のものに限られず、積層体の層構成、層を形成材料の種類や寸法等に応じて、線形回帰式や累乗回帰式等を利用することができる。また、積層体の貼合せ強度に関連して2種以上の特性を測定した場合、例えば、積層体の破断時圧及び内圧保持率の両方を求めた場合には、そのような2種以上の特性を独立変数として、重回帰分析等を行うこともできる。
【0051】
なお、以上説明したエアポケット検出手段15a、手段15b、及び評価手段15cで行われる処理の少なくとも一部には、例えば、ImageJ等の画像処理ソフトを利用することもできる。
【0052】
制御手段16は、評価装置10を構成する各手段11~15の制御を行う。また、後述のように、評価装置10が貼合せ装置20と接続されて、積層体の製造装置100を構成している場合には、制御手段16は、貼合せ装置20のフィードバック制御の機能も担うことができる。
【0053】
以上の各手段11~16は、コンピュータに実行させるプログラムとして生成することができ、これを汎用のパーソナルコンピュータ、サーバ等にインストールすることによって、本形態による評価装置10を実現することができる。
【0054】
本発明の一形態は、2以上の層が貼り合されてなる積層体を製造する方法であってよい。この製造方法は、2以上の層を貼り合せて積層体を形成し、上述の積層体を評価する方法によって、積層体の貼合せ強度をインラインで評価することを含む。
【0055】
また、本発明の一形態は、2以上の層が貼り合されてなる積層体を製造する装置であって、少なくとも一層がポリマー製である2以上の層を貼り合せて積層体を形成する貼合せ手段と、貼合せ手段に後置された、上述の積層体を評価する装置とを備えている。
【0056】
図1を再度参照して、積層体の製造方法及び積層体の製造装置100について説明する。
図1には、基布4とポリマー層1とを貼り合せて積層体5を作製する例を示す。
図1に示すように積層体の製造装置100は、積層体の貼合せ装置(ラミネーター)20と、この貼合せ装置20に後置された積層体の評価装置10とを備えている。積層体5は、例えば、ベルトコンベアのような搬送手段によって搬送され、最終的にロール等に巻きとられる場合が多い。評価装置10は、巻き取られる前の搬送中の積層体5の貼合せ強度を評価する、すなわちインラインで積層体5の貼り合せ強度を評価することができる。
【0057】
評価装置10は撮像手段18を備えており、撮像手段18は、搬送中の積層体5の二次元画像を撮影することができる。撮像手段18で撮影された画像のデータは、情報処理装置19に送られ、上述のように解析される。
【0058】
上述のようにエアポケット対応領域と貼合せ強度との間には相関関係があるので、所定の基布と所定のポリマー層とを用いる積層体について予め相関関係を求めておけば、貼合せ強度が未知である積層体の画像を取得することで、貼合せ強度を推定することができる。よって、製造ライン上にある積層体の画像を撮像することができれば、製造中の積層体の評価をすることができる。そして、この評価結果をフィードバックすることで、基布とポリマー層との貼合せの条件、すなわち加熱及び/又は加圧の条件等を変更して、用途に応じた最適な積層体を製造することができる。
【0059】
例えば、用途に応じて貼合せ強度の許容レベルを予め設定して記憶しておき、評価手段15cによる評価結果が許容レベルに達しているか否かを判定することができる。製造中の積層体の貼合せ強度が許容レベルに達していない場合には、加熱部22及び/又は加圧部23の駆動条件を変更する信号を制御手段16に送信し、条件を変更することができる。
【0060】
図1に示す例では、評価装置10は、積層体の製造装置100に含まれている。しかしながら、評価装置10は、積層体の製造装置100に含まれる形態ではなく、独立した装置、すなわち独立型の装置として構成することもできる。
【0061】
このような独立型の評価装置を用いた場合、積層体を、製造ライン上ではなく、製造ラインから外れた状態で、すなわちオフラインで評価することができる。このようなオフラインでの評価は、例えば、製造直後の積層体から評価用サンプル(積層体の片)を切り出し、そのサンプルの解析をすることによって実施することができる。このような解析により、製造直後の積層体の評価、又は製造方法の評価(製造条件等が適切であったかどうかの評価)を行うことができる。評価における解析結果は、積層体の製造装置100に組み込まれた評価装置(
図1)の場合と同様に、評価装置10内に、具体的には記憶手段14内に記憶させることができる。製造装置の使用者は、記憶された解析結果又は評価結果を踏まえて、積層体の製造中又は製造装置の次の稼働時に、製造装置の条件を変更することができる。
【0062】
また、独立型の評価装置を用いた場合、製造直後の積層体のみならず、製造から時間が経過した積層体、例えば、製造後、所定の条件で所定時間保管又は放置しておいた積層体を評価することもできる。このような積層体を評価するためには、積層体から評価用サンプルを切り出してそのサンプルの解析をしてもよいし、積層体をそのまま解析してもよい。いずれの場合であっても、製造から時間が経過した積層体を解析して得た解析結果と、製造直後の積層体を解析して得た解析結果と比較することで、時間経過による積層体の品質変化を評価することができる。
【0063】
さらに、独立型の評価装置によって、積層体から製品(エアバッグ等)を製造するための工程の一部又は全部、例えば切断等の行程が施された後の積層体を評価することもできる。この場合、製造された製品に含まれている積層体を評価することもできるし、既に使用された製品に含まれた積層体を評価することもできる。既に使用された製品に含まれる積層体を評価する場合、使用開始前の積層体を解析して得た解析結果と、所定時間及び所定条件で使用された積層体を解析して得た解析結果とを比較することで、使用による積層体の品質変化を評価することができる。
【0064】
このような時間経過による品質変化、又は使用による品質変化を評価した場合、評価の結果を、保管方法、使用方法等の改善に役立てることができる。
【0065】
評価装置が独立型として構成された場合であっても、当該評価装置の具体的な構成は、基本的には
図1~
図4を参照して上述した構成と同様とすることができる。しかし、独立型の評価装置には、製造装置100(
図1)内に組み込まれることによる制約がないため、評価装置のより具体的な構成及び評価方法の構成は、さらなるバリエーションを含み得る。
【0066】
例えば、評価装置10における撮像手段18(
図3及び
図4)によって得られる積層体の二次元画像は、積層体の平面視画像のみならず、断面画像とすることもできる。すなわち、積層体を厚み方向に沿って切断して、その断面を撮像することができる。断面画像を利用した評価を行うことで、特に積層体がエアバッグ等に用いるために袋状に構成されている場合には、袋状積層体の構造部分(本体部分ともいう)及び/又は後述のシーム部(端部ともいう)を、とりわけシーム部を好適に選択的に評価することができる。断面画像を撮像する場合、
図3における積層体5は、積層体を厚み方向に沿って薄く切り出したサンプル片に置き換えられる。なお、用いられる断面画像は、断面に直交する方向で撮像した画像でもよいし、断面を斜めからの方向で撮像した画像でもよい。
【0067】
断面画像を作成するための積層体のサンプル片は、顕微鏡等の像拡大手段18a及び撮像手段本体18b(
図3)を用いて撮像することができる。積層体の切断方法は特に限定されないが、ミクロトーム、ウルトラミクロトーム等を用いることが好ましい。サンプル片の切断によって薄片を作成することができる。また、ミクロトーム等を用いた切断に伴う前処理、すなわちサンプルの固定方法も限定はされず、凍結、エポキシ樹脂等を用いた包埋等とすることができる。
【0068】
なお、薄片状のサンプルを取得する際、積層体に織物基布が含まれている場合、積層体を厚み方向に切断する切断線の方向は、織物を構成する経糸及び緯糸のいずれかの方向に沿ってしてもよいし、両糸と交わる方向であってもよい。
【0069】
取得した断面画像は、上述の平面視画像と同様に、エアポケット検出手段15a(
図4)によって画像処理することができる。すなわち、断面画像を所定の形式に変換した後、或いは取得した断面画像に対して直接、二値化処理を施すことができる。これにより、断面において観察されるエアポケット対応領域を検出することができる。
【0070】
断面画像を顕微鏡を用いて撮影する場合の投光方法は、特に限定されない。平面視画像の取得について説明した形態(
図3)と同様に、光源(投光手段)17は、積層体のサンプル薄片の下側から、すなわち撮像手段18と反対側に配置してもよいし、撮像手段18と同じ側に配置してもよい。また、撮像においては、明視野法、暗視野法等を利用することができる。
【0071】
図10に、撮像手段18によって取得できる断面画像の例を示す。
図10は、後述の実施例4-1による積層体の断面画像である。この断面画像は、平織の織物基布の両面にポリマー層が貼り合されてなる積層体から凍結ミクロトーム法によって一方の繊維の方向に沿った切断線で切断した薄片を、顕微鏡(像拡大手段)を用いて撮像した画像(
図2と同様に切断して得た画像)である。なお、
図10の画像は、暗視野法によって観察及び撮像された画像である。
図10によれば、基布とポリマー層との間、特に経糸と緯糸とが交差する位置に、エアポケットが黒色に写し出されていることが分かる。
【0072】
図11に、
図10の断面画像を所定の閾値を基準として二値化処理し、画像の白黒を反転させた画像の例を示す。
図11に示す二値化画像においては、
図10で黒色に写し出されていたエアポケット対応領域は、白色に表示されており、それ以外の領域と光学的特徴が異なっている。
【0073】
本例のように断面画像を用いた場合でも、二値化画像(
図10)から、貼り合せの強度の指標を求めることができる。具体的には、平面視画像を用いた場合と同様に、特性値取得手段15b(
図4)によって、ボイド率等の、エアポケット対応領域の面積に関連する特性値を求めることができる。そして、平面視画像を用いた場合と同様に、求められた特性値と貼合せ強度との相関関係を求めておくことで、積層体の貼合せ強度を評価することができる。
【0074】
なお、平面視画像から取得された、エアポケット対応領域の面積に関連する特性値と、断面画像から取得された、エアポケット対応領域の面積に関連する特性値とを組み合わせて、積層体の貼合せ強度を評価してもよい。すなわち、平面視画像から取得される所定の特性値、及び断面画像から取得される所定の特性値を基準として、両方の特性値に基づく基準を満たすか否かで評価をしてもよい。例えば、平面視画像から求められたボイド率が所定値未満であり、且つ断面画像から求められたボイド率が所定値未満の場合に、品質が良好である、との判断をすることができる。判断の基準となるボイド率の所定値は、例えば、平面視画像から求められるボイド率に関しては、所望の破断時圧が得られるボイド率閾値を予め求めておき、断面画像から求められるボイド率に関しては、所望の内圧保持率が得られるボイド率閾値を予め求めておくことによって、設定してもよい。さらに、積層体が袋状に構成される場合であって、例えば基布としてワンピースウーブンを用いる場合には、平面視画像を基布の本体部分から取得し、断面画像を基布のシーム部(後述)から取得し、各画像に基づきそれぞれボイド率を求めることができる。このような2つの基準によって、より的確に積層体の評価を行うことができる。
【0075】
よって、本形態は、2以上の層が貼り合されてなる積層体を評価する方法であって、積層体の平面視画像及び断面画像を取得する画像取得ステップと、平面視画像及び断面画像からそれぞれエアポケット対応領域を検出する検出ステップと、平面視画像及び断面画像からそれぞれエアポケット対応領域の面積に関連する特性値を求める特性値取得ステップと、上記の各特性値に基づき積層体の貼合せ強度を評価する評価ステップとを含む方法であってもよい。
【0076】
本形態で評価される積層体はシート状であり、この形態には、平面状の他、筒状、袋状、風船状に形成された形態も含まれる。よって、
図1に示すような貼合せ装置20で貼合され、搬送される積層体は、複数重ねられた状態になっていてもよい。そのような場合でも、同じ条件で画像を取得して画像処理すれば、積層体のエアポケット対応領域の存在と貼合せ強度との相関関係を、上述のように求めることができる。
【0077】
また、上述の積層体の評価方法を用いることで、2層が貼り合されてなる積層体に、さらにもう1層が配置された積層体の評価も良好に行うことができる。例えば、基布の両面にそれぞれポリマー層が貼られた3層構造の積層体について、積層体全体の強度を評価することができる。
【0078】
積層体を構成する2層のうち一方が基布である場合、基布は、機械的強度が高いことから織物が好ましい。織物である場合、複数の経糸と複数の緯糸とを組み合わせた2軸構造とすることができるし、複数の経糸と、複数の緯糸と、複数の斜糸とを組み合わせた3軸構造とすることもできる。また、織物が2軸構造である場合、織物の織り形式は平織、綾織、繻子織等とすることができるが、強度及び製造の容易性から平織された織物であるとより好ましい。また、基布には、平面状の基布ではなく、目的とする製品の立体形状に合わせて湾曲面を有することができるように、縫い目なく袋状に織り上げられたワンピースウーブン(One Piece Woven;OPW)も含まれる。
【0079】
なお、エアバッグ等の用途として積層体が袋状になっている場合、気密性が高い製品が得られることから、積層体に含まれる基布をワンピースウーブンとすることが好ましい。ワンピースウーブンである袋状の基布を用いる場合、基布を作製して、袋状の基布の両面にポリマー層をそれぞれ配置する。すなわち、袋内の気体が抜かれて基布の本体部分が2層重ねられた状態で、その両側にそれぞれポリマー層を配置する。そして、基布の縁部において、両面に配置させたポリマー層を接合させる。その場合、基布の縁部には、シーム部(端部)が形成されていてもよい。シーム部は、基布の本体部分(袋本体を形成している部分)とは基布の織り方が変更され、単層として存在する部分である。よって、ワンピースウーブンの基布を含む積層体は、袋内の気体が抜かれた状態で、接合されていない基布が2層重ねられた部分の両側からポリマー層がそれぞれ貼られている本体部分と、単層の基布の両側からポリマー層がそれぞれ貼られているシーム部とを有し得る。このような構成による積層体では、基布の縁部付近、特にシーム部では十分な面積の平面視画像を取得しにくい場合があるが、断面画像は十分な範囲で取得しやすい。そのため、積層体の二次元画像を取得する場合に、断面画像を取得して、取得画像から得られた特性値に基づき積層体の評価を行うことで、基布の縁部付近、特にシーム部における積層体の各層同士の貼合せ強度を良好に評価することができる。
【0080】
基布に含まれる繊維の種類は特に限定されないが、合成繊維、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、無機繊維、及びこれらの組合せ(混紡、混織を含む)とすることができる。中でも、合成繊維、特にポリマー繊維であると好ましい。繊維としては、芯鞘型繊維、サイドバイサイド型繊維、分割型繊維などの複合繊維を用いることもできる。繊維がポリマー繊維である場合、ポリマーとしては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、サルフォン系繊維、ポリエーテルケトン繊維等が挙げられる。
【0081】
基布が織物である場合、基布は2種以上の繊維を含んでいてよく、例えば、異なる方向に延在する糸に用いられる繊維として、異なる材質、繊度、又は断面形状の繊維を使用することができる。例えば、経糸と緯糸とを含む2軸構造を有する場合、経糸と緯糸とを異なる種類の材質からなる繊維とすることができる。この場合、経糸及び緯糸の少なくとも一方をポリエステル繊維とすることができる。
【0082】
基布は、総繊度(単糸繊度×合糸数)が100~700dtexである糸を用いて形成されるものであってよい。また、基布に用いられている繊維の単糸繊度は、1~10dtexであると好ましい。基布が平織の織物である場合、織り密度としては、経糸及び緯糸がそれぞれ、5~30本/cm2であることが好ましい。基布の目付(1m2当たり重量)は、30~300g/m2程度であってよい。
【0083】
積層体を構成する2層のうち一方が可撓性ポリマー層である場合、ポリマー層に用いられるポリマーは、樹脂、ゴム、エラストマーと呼ばれるもの等であってよい。熱融着によって基布に貼り合せることができることから、熱可塑性の材料であることが好ましい。ポリマー層は単層であってもよいし、2以上の層からなっていてもよい。ポリマー層が2以上の層からなっている場合、2以上の層の材質、厚さは互いに同じであっても異なっていてもよい。また、2層以上の可撓性ポリマー層が基布に貼り合されてなる構成の場合、基布に貼り合される側の層が熱可塑性材料からなる層であることが好ましい。
【0084】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の1種以上が挙げられる。これらの樹脂は、層構成や使用目的等に応じて酸等により変性されていてもよい。
【0085】
ポリオレフィン樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン等が挙げられる。使用されるポリオレフィンは、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸、又はその無水物等の誘導体等によって変性されたものであってもよい。
【0086】
エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー等のうち1種以上を挙げることができる。
【0087】
熱可塑性の材料としては熱可塑性ポリエステル系エラストマーが好ましい。熱可塑性ポリエステル系エラストマーである場合には、ハードセグメントとして、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、又はポリトリメチレンテレフタレートを含み、ポリブチレンテレフタレートを含み、ソフトセグメントとして、脂肪族ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルを含んでいるものが好ましい。また、熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、ラジカル発生剤の存在下で、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸又はその無水物等の誘導体等によって変性されていてもよい。
【0088】
ポリマー層を構成するポリマーの融点は、70~250℃程度であってよい。なお、ポリマーの融点とは、層の温度を上昇させた場合に層が軟化して、層中のポリマーの分子同士が相対運動を始め、ポリマーが流動性を示すようになる温度を指す。ポリマーの融点は、示差走査熱量計で測定された融解ピーク温度とすることができる。
【0089】
なお、ポリマー層が複数の層が積層されなる場合、少なくとも、基布に接着されるポリマー層が融点を示す材料からなっていることが好ましく、その融点が上記範囲であると好ましい。
【0090】
なお、ポリマー層には、ポリマー以外のその他の成分が添加されていてもよい。その他の成分としては、顔料、充填材、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、加水分解防止剤等の添加剤が挙げられる。
【実施例0091】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0092】
[I.平面視画像を利用した実施例]
以下の各実施例では、同じ基布及び同じポリマー層を用い、貼合せ温度及び貼合せ速度(搬送速度)を変更して積層体を複数作製した。そして、各積層体の平面視画像からボイド率(エアポケットの比率)を測定する一方、各積層体の耐圧性(破断時圧)を測定し、各積層体についてボイド率と耐圧性との相関を求めた。
【0093】
(実施例1-1)
基布CL1(ポリエステル製、経糸及び緯糸の総繊度がそれぞれ470dtex、目付が200g/m
2)を準備した。また、フィルムF1(融点170℃のポリマー層と融点125℃のポリマー層とを積層させた多層フィルム)を準備した。そして、
図1で説明した積層体の製造装置100と同様の装置を用いて、加熱・加圧により基布CL1とフィルムF1とを、フィルムF1の層のうち融点が低い方の層が基布CL1側となるようにして貼り合せ、積層体を作製した。この際、加熱温度150℃で、また貼合せ速度を3~10m/minの間で変更して、計4つの積層体を作製した。
【0094】
作製された積層体を、実体顕微鏡(Nikon社製、SMZ1500)を用いて平面視で観察倍率30倍で映し出し、カメラヘッドによりその画像を撮影した。画像は、カメラコントロールユニット(Nikon社製、Digital Sight DS-L3、2560×1920ピクセル)を用いて取り込んだ。取り込まれた画像は、画像処理ソフト(ImageJ)を用いて、8ビット、256階調のグレースケール画像に変換した。さらに、白黒反転させた後、輝度値254を閾値とした二値化画像(輝度値254以下を黒色(輝度値0)、輝度値255を白色とした画像)に変換した。
【0095】
二値化処理された上記画像において、画像面積全体に対する黒色領域の面積(%)、すなわち、黒色領域の面積の合計SB/(黒色領域の面積の合計SB+白色領域の面積の合計SW)×100を求め、この値をエアポケットの存在割合であるボイド率(%)とした。
【0096】
一方で、計4つの各積層体について、耐圧性を破断時圧(kPa)として測定した。耐圧性の測定は以下のようにして行った。積層体を20cm角に切り出し、Textest社製FX3000 4Hのサンプルホルダーに固定した。そして、圧力を120kPa/minのスピードで上昇させ、積層体が損傷した時点の圧力を測定することによって行った。
【0097】
各積層体のボイド率と耐圧性とを、片対数グラフにプロットした(
図7)。なお、
図7のグラフ中、耐圧性が250kPaを示す位置に点線を引いているが、この耐圧性を積層体の貼合せ強度の許容レベルとすることができる。よって、
図1に示すような製造装置100により積層体の製造する場合には、加熱、加圧等の制御を、
図7に示すようなグラフ中の許容レベルを基準として制御することができる。
【0098】
(実施例1-2)
フィルムF1に替えてフィルムF2(融点209℃のポリマー層と融点149℃のポリマー層と積層させた多層フィルム)を用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、基布CL1とフィルムF2とを貼り合せ、積層体を作製した。その際、貼合せ温度を170~180℃の間で、貼合せ速度を3~10m/minの間で変更して、計3つの積層体を作製した。さらに、実施例1-1と同様にして、各積層体について、ボイド率及び耐圧性(破断時圧)を求め、片対数グラフにプロットした(
図7)。
【0099】
(実施例1-3)
フィルムF1に替えてフィルムF3(融点209℃の層、融点150℃の層、及び融点109℃の層をこの順で積層させた多層フィルム、層はいずれもポリマー層)を用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、積層体を作製した。その際、フィルムF3の層のうち融点が最も低い層が基布CL1側となるようにして、フィルムF3を基布CL1とを貼り合せた。また、貼合せ温度を170~180℃の間で、貼合せ速度を3~10m/minの間で変更して、計4つの積層体を作製した。さらに、実施例1-1と同様にして、各積層体について、ボイド率及び耐圧性(破断時圧)を求め、片対数グラフにプロットした(
図7)。
【0100】
(実施例2-1)
基布CL2(ポリエステル製、経糸及び緯糸の総繊度がそれぞれ470dtex、目付が220g/m
2)を準備した。また、上述のフィルムF1を準備した。実施例1-1と同様にして、加熱・加圧により基布CL2とフィルムF1とを貼り合せ、積層体を作製した。その際、貼合せ温度を170℃とし、貼合せ速度を3~10m/minの間で変更して、計4つの積層体を作製した。さらに、実施例1-1と同様にして、各積層体を、ボイド率及び耐圧性(破断時圧)を求め、片対数グラフにプロットした(
図8)。
【0101】
(実施例2-2)
フィルムF1に替えて上述のフィルムF4(融点187℃のポリマー層と融点144℃のポリマー層と積層させた多層フィルム)を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして、計4つの積層体を作製した。さらに、実施例2-1と同様にして、各積層体を、ボイド率及び耐圧性(破断時圧)を求め、片対数グラフにプロットした(
図8)。
【0102】
(実施例3-1)
基布CL3(ポリエステル製、経糸及び緯糸の総繊度がそれぞれ470dtex、目付が210g/m
2)を準備した。また、フィルムF2を準備した。実施例1-1と同様にして、加熱・加圧により基布CL3とフィルムF2とを貼り合せ、積層体を作製した。その際、貼合せ温度を170℃とし、貼合せ速度を3~10m/minの間で変更して、計4つの積層体を作製した。さらに、実施例1-1と同様にして、各積層体を、ボイド率及び耐圧性(破断時圧)を求め、片対数グラフにプロットした(
図9)。
【0103】
(実施例3-2)
フィルムF2に替えて上述のフィルムF3を用いたこと以外は、実施例3-1と同様にして、計4つの積層体を作製した。さらに、実施例3-1と同様にして、各積層体を、ボイド率及び耐圧性(破断時圧)を求め、片対数グラフにプロットした(
図9)。
【0104】
図7~9より、所定の基布と所定のポリマー層とを用いた積層体について、ボイド率と耐圧性(貼合せ強度)との間に良好な相関が見出された。このような相関に基づいて、積層体の貼合せ強度を、正確に且つ簡便に評価することができる。
【0105】
[II.断面画像を利用した実施例]
同じ基布及び同じポリマー層を用い、貼合せ速度を変更して積層体を作製した。そして、各積層体の断面画像からボイド率(エアポケットの比率)を測定する一方、各積層体の耐圧性を内圧保持率として求めた。
【0106】
(実施例4-1)
基布CL1(本例では、袋状に織られたエアバック用ワンピースウーブン)、及びフィルムF3を準備した。基布CL1を平面状に広げ(袋状の基布の2層が重ねられた状態で)、フィルムF3を基布CL1の両面に、フィルムF3の多層のうち融点が低い方の層が基布CL1側となるようにしてそれぞれ配置し、
図1における貼合せ装置20による加熱・加圧によって、基布CL1が2つのフィルムF3で挟まれてなる積層体(袋状の基布CL1の外面にフィルムF3が貼られたもの)を作製した。貼り合せ時の温度は175℃、貼り合せ速度は2.4m/minであった。なお、作製された積層体の縁部は、基布CL1が含まれておらず、フィルムF3同士が直接接合した部分を含んでいる。
【0107】
一方、基布CL1のシーム部(端部)の断面画像を取得した。すなわち、基布CL1の縁部において、基布単層の両側にフィルムF3が張られた部分から断面画像を取得した。より具体的には、凍結ミクロトーム法によって、積層体の厚み方向に沿って切断された薄片を作製した。この薄片を、Nicon社製、LV-100を用いて、観察倍率150倍で写し、撮影した。
【0108】
画像は、カメラコントロールユニット(Nikon社製、Digital Sight DS-L3、2560×1920ピクセル)を用いて取り込んだ。取り込まれた画像は、画像処理ソフト(ImageJ)を用いて、8ビット、256階調のグレースケール画像に変換した。さらに、白黒反転させた後、輝度値254を閾値とした二値化画像(輝度値254以下を黒色(輝度値0)、輝度値255を白色とした画像)に変換した。
【0109】
二値化処理された上記画像において、画像面積全体に対する黒色領域の面積(%)、すなわち、黒色領域の面積の合計S
B/(黒色領域の面積の合計S
B+白色領域の面積の合計S
W)×100を求め、この値をエアポケットの存在割合であるボイド率(%)とした。
図10及び
図11に、実施例4-1の断面画像及び二値化処理された後の画像をそれぞれ示す。
【0110】
一方で、積層体の内圧保持率を求めた。具体的には、袋状の積層体のガス(空気)流入口に圧縮ガス発生装置を繋ぎ、ガスを送り込み、初期内圧を70kPaとした。その後、空気の送り込みを停止し、ガス流入口付近に取り付けた圧力センサによって積層体の内圧を測定した。そして、初期内圧に対する6秒後の内圧の百分率を求め、内圧保持率(%)とした。結果を表1に示す。
【0111】
(実施例4-2)
実施例4-1と同様にして、基布CL1及びフィルムF3からなる袋状の積層体を作成したが、貼り合せ時の速度は1.6mm/minであった。そして、実施例4-1と同様に、シーム部の断面画像を取得し、取得した画像から二値化処理画像をさらに取得した。
図12及び
図13に、実施例4-1の断面画像及び二値化処理された後の画像をそれぞれ示す。
【0112】
実施例4-1と同様にして、ボイド率を求め、内圧保持率を測定した。結果を表1に示す。
【0113】
【0114】
表1より、ボイド率が比較的小さい実施例4-2の積層体は、ボイド率が比較的大きい実施例4-1の積層体よりも内圧保持率が大きいことが分かった。よって、本形態による評価装置及び評価方法によって、積層体の断面画像を撮像してボイド率を求めることで、積層体の内圧保持率、ひいては貼合せ強度の大小の傾向を推定でき、評価することができる。