(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069491
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】SiOx層具備基材
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20240514BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20240514BHJP
【FI】
B32B9/00 A
C08J7/04 Z CEQ
C08J7/04 CES
C08J7/04 CEW
C08J7/04 CFF
C08J7/04 CFH
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040668
(22)【出願日】2024-03-15
(62)【分割の表示】P 2022189207の分割
【原出願日】2019-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】391052622
【氏名又は名称】株式会社都ローラー工業
(71)【出願人】
【識別番号】312008833
【氏名又は名称】町田 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】町田 成司
(72)【発明者】
【氏名】町田 成康
(57)【要約】
【課題】 ゴムや樹脂から染み出す成
分によって引き起こされる不具合を防止することのできるSiO
X層具備基材を提供することにある。
【解決手段】 本発明のSiO
X層具備基材は、表出成分を含有する基材であって、
基材が、少なくとも表出成分である可塑剤を含有するゴム製又は樹脂製の基材であり、その基材の
表面よりも内側を含む表層にSiO
X層を備えたものである
。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表出成分を含有する基材であって、
前記基材が、少なくとも表出成分である可塑剤を含有するゴム製又は樹脂製の基材であり、
前記基材の表面よりも内側を含む表層にSiOX層を備えた、
ことを特徴とするSiOX層具備基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール状やシート状、板状といった各種形状の部材に関し、より詳しくは、基材の表層にシリコン(ケイ素)と酸素が化合した非晶質のSiOXを含む層(以下「SiOX層」という)を備えた部材(以下「SiOX層具備基材」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルムの製造ラインや半導体の製造ライン、印刷機、事務機器といった様々な場面でローラーが用いられている。使用されるローラーとしては、ゴムロールや金属ロール、樹脂ロール、メッキロール等がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記ゴムロールは、基材となるゴム材の内部からシロキサン等の成分が表面に染み出すことがあり、染み出した成分がフィルムやプリント基板に付着して、絶縁破壊を引き起こすことがある。
【0005】
また、前記金属ロールは、基材となる金属の内部から金属イオンが溶出し、溶出した金属イオンに起因する不具合(例えば、リチウムイオン二次電池の正極板の製造にあたり、集電体に活物質を塗布する際に溶出した金属イオンが集電体に付着して電池の性能を低下させる不具合等)が生じることがある。樹脂ロールでも基材となる樹脂材の内部から分散剤等の成分が染み出し、染み出した成分が前記不具合の原因となることがある。
【0006】
金属ロールや樹脂ロール、ゴムロールの他には、メッキ処理によって表面にメッキ層を備えたもの(メッキロール)もあるが、メッキロールの場合にも、ゴム材や樹脂材の内側から染み出す成分や金属から溶出する金属イオン(以下、これらを「表出成分」といい、ゴムや樹脂から成分が染み出すこと及び金属から金属イオンが溶出することを「表出」という)を抑えることはできず、同様の問題が生じることがある。
【0007】
また、前述の問題はロールに限らず、シート状の部材や板状の部材、ベルト状の部材など、その形状に関わらず生じうる問題である。
【0008】
本発明は前記事情を鑑みてなされたものであり、その解決課題は、ゴムや樹脂から染み出す表出成分によって引き起こされる各種の不具合を防止することのできるSiOX層具備基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のSiOX層具備基材は、表出成分を含有する基材であって、基材が、少なくとも表出成分である可塑剤を含有するゴム製又は樹脂製の基材であり、その基材の表面よりも内側を含む表層にSiOX層を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本件発明のSiOX層具備基材は、基材の表層にSiOX層を備えているため、基材内部からの成分の染み出しや金属イオンの溶出を抑制することができ、染み出した成分や溶出した金属イオンに起因する各種不具合を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)は本発明のSiO
X層具備基材の一例を示す断面図、(b)は(a)のIb部拡大図。
【
図2】SiO
X層の形成に用いる装置一例を示す概略図。
【
図3】(a)は本発明のSiO
X層具備基材の他例を示す断面図、(b)は本発明のSiO
X層具備基材の他例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
本発明のSiO
X層具備基材の実施形態の一例を、図面を参照して説明する。ここでは、SiO
X層具備基材が、ゴムロールの場合を一例とする。一例として
図1(a)(b)に示すSiO
X層具備基材は、ゴム製基材1の表層にSiO
X層2を備えている。
【0013】
前記ゴム製基材1は、ゴムロールの母材となる部分である。ゴム製基材1には、例えば、汎用ゴムであるエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)やスチレンブタジエンゴム(SBD)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Si)、フッ素ゴム(F)等を用いることができる。
【0014】
この実施形態のゴム製基材1は中空ロールであり、その内側には、ゴム製基材1の変形を防止する芯金(硬質管)3が設けられている。硬質管3には、例えば、金属パイプや炭素鋼パイプ、ステンレスパイプなどを用いることができる。
【0015】
図1(a)(b)に示すように、この実施形態のゴム製基材1及び硬質管3は、ベアリング4を介して軸材5の外側に装備されている。この場合、ベアリング4はゴム製基材1の両端側に埋設された金属性のフランジ6などを介して設けるのが好ましい。ゴム製基材1は無垢材(中実材)であってもよい。また、ゴム製基材1はロール状以外の形状、例えば、円柱状や円錐状、平板状、シート状、球状、多面形状、棒状等、ベルト状とすることもできる。
【0016】
前記SiOX層2は、シリコン(ケイ素)と酸素が化合した非晶質のSiOXを含む層(アモルファスシリコン層)であり、代表的な例では、SiOやSiO2等があげられる。SiOX層2はゴム製基材1の表層に形成される。ここでいう表層とは、ゴム製基材1の表面よりも内側を意味するが、ゴム製基材1の表面よりも盛り上がる(皮膜として表面上に形成される)場合も含まれる。
【0017】
この実施形態では、SiOX層2を厚さ1μm程度としているが、この厚さは一例であり、膜厚は1μmより厚くても薄くてもよい。いずれの場合も、SiOX層2がゴム製基材1の表面に食い込み、ゴム製基材1の表面が変質又は改質された状態となる。
【0018】
SiO
X層2は、例えば、
図2に示す装置を用いて生成することができる。
図2において、7は真空チャンバー、8はRF高周波電源、9はRF電極、10は高電圧パルス電源、11はガス注入口である。RF高周波電源8に代えてICP(Inductively・Coupled・Plasma:誘導結合プラズマ)電源を用いることもできる。
【0019】
前記真空チャンバー7内にゴム製基材1をセットし、真空チャンバー7内を真空状態にする。次いで、ガス注入口11から真空チャンバー7内にケイ素を含む原料ガス(例えば、HMDSO、HMDS、TMS等)を注入する。原料ガスを真空チャンバー7内に注入した状態でRF高周波電源8により高周波電圧を印加するとプラズマが発生する。これにより真空チャンバー7内の原料ガスが反応し、ゴム製基材1の表層が変質又は改質して、ゴム製基材1の表層にガラス質であるSiOX層2が形成される。
【0020】
原料に使用するHMDSO、HMDS、TMSは純粋なケイ素(Si)のガスではなく炭素(C)や水素(H)等の元素を含んでいる。そのため、本発明のSiOXの構造体の中には炭素や水素などを含有してもよい。
【0021】
なお、原料ガスの供給に際して、原料ガスの分解を促進しやすくするためのヘリウム(He)やアルゴン(Ar)を同時に供給することもできる。また、SiOXを形成しやすくするため、原料ガスと同時に酸素(O2)を供給することもできる。
【0022】
図2の装置を用いてSiO
X層2を形成する場合、RF出力は、500Wを中心として50W~3kWの範囲で設定することができる。
【0023】
(その他の実施形態)
前記実施形態では、ゴム製基材1を、ベアリング4を介して軸材5の外側に装備する場合を一例としているが、
図3(a)に示すように、ゴム製基材1は金属製や樹脂製といった各種材質製の芯材12の外側に装備することもできる。
【0024】
硬質の芯材12を用いる場合、
図3(b)に示すように、芯材12を基材として、その表層にSiO
X層2を直接形成することもできる。
【0025】
前記実施形態では、ゴム製基材1がロール状の場合を一例としているが、ゴム製基材1はロール状以外の形状、例えば、円柱状や円錐状、平板状、シート状、球状、多面形状、棒状、ベルト状等とすることもできる。
【0026】
前記実施形態では、基材がゴム製基材1の場合を一例としているが、基材は金属製や樹脂製のものであってもよい。また、基材は、金属製基材や樹脂製基材、ゴム製基材の外側にメッキ層を備えた基材(メッキ処理基材)であってもよい。
【0027】
前記実施形態では、真空チャンバー7内にHMDSOやHMDS、TMSといったケイ素を含む原料ガスを注入してSiOX層2を形成する場合を一例としているが、基材自体にケイ素が含まれている場合には、前記原料ガスは注入しなくてもよい。この場合、酸素(O2)をソースガスとして、アルゴン(Ar)やヘリウム(He)、窒素(N)を励起ガスとして発生させ、プラズマを用いることで基材内のケイ素が反応し、基材の表層にSiOX層2を形成させることもできる。励起ガスに窒素を使用した場合、SiOXの構造体に窒素が含有するが問題はない。
【0028】
前記実施形態のように、基材の表層にSiOX層2が形成されることで、表出成分の表出が防止される。この結果、表出成分(例えば、シロキサン)がフィルムに付着することによる品質の低下等の問題が解消されるなど、従来問題となっていた表出成分に起因する各種の不具合を解消することができる。
【0029】
また、摩擦係数や粘着性の高い従来のゴムロールでは、フィルムのような薄物の対象物を処理する場合に対象物にシワがよるなどの課題があったが、前記実施形態のように基材の表層にSiOX層2が形成されることで、滑り性や剥離性が向上し、このような問題も生じにくくなる。
【0030】
加えて、前記実施形態のように、基材の表層にSiOX層2が形成されることで、耐熱性や耐摩耗性、剥離性が向上するため、摩擦による基材の表面の摩耗を抑えることもできる。さらに、摩耗による摩耗粉の発生が少なくなるため、接触したフィルムやプリント基板等電子部材の汚れや損傷が生じにくくなる。
【0031】
前記各実施形態のSiOX層具備基材のように、ロール状のゴム製基材1の表層にSiOX層2を形成することで、フィルムやプリント基板、ガラス基板等のガイドロールや圧延ロール、搬送ロール、塗布ロール、ドライラミネートロール、プラテンロール等として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のゴム材表層のSiOX層具備基材は、フィルムの製造ラインや半導体の製造ラインといった各種製造ラインをはじめ、印刷機や複合機等の各種事務機器で利用されるローラー、その他形状の各種部材として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 ゴム製基材
2 SiOX層(アモルファスシリコン層)
3 硬質管
4 ベアリング
5 軸材
6 フランジ
7 真空チャンバー
8 RF高周波電源
9 RF電極
10 高電圧パルス電源
11 ガス注入口
12 芯材