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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069500
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】抗GPC3一本鎖抗体を含むCAR
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240514BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 15/24 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 5/078 20100101ALN20240514BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240514BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20240514BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20240514BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20240514BHJP
   C07K 14/54 20060101ALN20240514BHJP
   C07K 14/435 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/24
C12N15/63 Z
C12N5/078
C12N15/13
C07K19/00
C07K16/18
C07K14/705
C07K14/54
C07K14/435
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041035
(22)【出願日】2024-03-15
(62)【分割の表示】P 2020531303の分割
【原出願日】2019-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2018133970
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517107531
【氏名又は名称】ノイルイミューン・バイオテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(72)【発明者】
【氏名】玉田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】佐古田 幸美
(72)【発明者】
【氏名】安達 圭志
(57)【要約】
【課題】 本発明は、細胞膜に局在するGPC3に特異的に結合でき、かつ、CAR-T細胞を用いたがん免疫療法に有用な一本鎖抗体を含むCARや、かかるCARを発現する免疫担当細胞等を提供することを課題とする。
【解決手段】 請求項1に定義されている特定の重鎖CDR1~3と、特定の軽鎖CDR1~3とを含み、かつヒト由来GPC3ポリペプチドに特異的に結合する一本鎖抗体;該一本鎖抗体のカルボキシル末端に融合した細胞膜貫通領域;及び該細胞膜貫通領域のカルボキシル末端に融合した免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域;を含むCARをコードする遺伝子を作製し、免疫担当細胞へ導入すると、優れたがん細胞傷害活性及びインターフェロンγ(IFN-γ)産生能を有するCAR発現免疫担当細胞を作製できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)、インターロイキン7(IL―7)、及びケモカインリガンド19(CCL19)を発現し、
前記CARが、配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるヒトGPC3(Glypican-3)由来のポリペプチドに特異的に結合する一本鎖抗体と、該一本鎖抗体のカルボキシル末端に融合した細胞膜貫通領域と、該細胞膜貫通領域のカルボキシル末端に融合した免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域とを含み、
前記一本鎖抗体が、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3とを含み、
前記一本鎖抗体が、配列番号7に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含み、
前記一本鎖抗体が、配列番号8に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む、
免疫担当細胞。
【請求項2】
一本鎖抗体が、
配列番号12に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいは
配列番号13に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項1に記載の免疫担当細胞。
【請求項3】
細胞膜貫通領域と、該細胞膜貫通領域のカルボキシル末端に融合した免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域とが、配列番号14~16のいずれかに示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1又は2に記載の免疫担当細胞。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の免疫担当細胞と、薬学的に許容される添加剤とを含有する抗がん剤。
【請求項5】
免疫担当細胞に導入し、IL-7、CCL19及びCARを発現する免疫担当細胞を製造するために用いられる、CARをコードするCAR遺伝子であって、
前記CARが、配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるヒトGPC3(Glypican-3)由来のポリペプチドに特異的に結合する一本鎖抗体と、該一本鎖抗体のカルボキシル末端に融合した細胞膜貫通領域と、該細胞膜貫通領域のカルボキシル末端に融合した免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域とを含み、
前記一本鎖抗体が、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3とを含み、
前記一本鎖抗体が、配列番号7に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含み、
前記一本鎖抗体が、配列番号8に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む、
CAR遺伝子。
【請求項6】
プロモーターと、該プロモーターの下流に作動可能に連結されているCARをコードするCAR遺伝子と、IL-7をコードする遺伝子と、CCL19をコードする遺伝子とを含み、
前記CARが、配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるヒトGPC3(Glypican-3)由来のポリペプチドに特異的に結合する一本鎖抗体と、該一本鎖抗体のカルボキシル末端に融合した細胞膜貫通領域と、該細胞膜貫通領域のカルボキシル末端に融合した免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域とを含み、
前記一本鎖抗体が、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3とを含み、
前記一本鎖抗体が、配列番号7に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含み、
前記一本鎖抗体が、配列番号8に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む、
ベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるヒトGPC3(Glypican-3)由来のポリペプチドに特異的に結合する一本鎖抗体と、該一本鎖抗体のカルボキシル(C)末端に融合した細胞膜貫通領域と、該細胞膜貫通領域のC末端に融合した免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域とを含むキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor;以下、「CAR」ともいう);前記CARを発現する免疫担当細胞;前記免疫担当細胞を含む抗がん剤;前記CARをコードするCAR遺伝子;及び前記CAR遺伝子を含むベクター;に関する。
【背景技術】
【0002】
CARは、がん細胞の細胞表面抗原を認識する一本鎖抗体と、T細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を融合させた人工的なキメラタンパク質である。CARをコードする遺伝子を、腫瘍反応性を示さない末梢血T細胞(末梢血Tリンパ球)に導入することにより、腫瘍反応性を示すCAR発現T細胞(以下、「CAR-T細胞」ともいう)を大量に作製することが可能となる。腫瘍反応性を示すCAR-T細胞は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)との相互作用に依存することなく、がん細胞傷害活性を有する。
【0003】
CAR-T細胞の投与によるがん免疫療法、より具体的には、患者からT細胞を採取し、かかるT細胞にCARをコードする遺伝子を導入して増幅し、再度患者に移入する療法(非特許文献1)は、現在世界中で臨床試験が進行しており、白血病やリンパ腫などの造血器悪性腫瘍などにおいて有効性を示す結果が得られている。
【0004】
近年、様々なCAR-T細胞の研究が進められてきた。例えば、CD19抗原結合領域と細胞膜貫通領域と4-1BB共刺激シグナル領域と、CD3ζシグナル領域からなるCARをコードする核酸を含む修飾された自己ヒトT細胞を含む医薬組成物(特許文献1)、がん細胞に結合する1つ又は複数のタグ付きタンパク質の配合物と同時に又は別々に被験体に投与される、前記タグ付きタンパク質に結合し、がん細胞死を誘導する1つ又は複数の治療的に有効な抗タグキメラ抗原受容体(AT-CAR)発現T細胞集団(特許文献2)、ヒト抗体139の抗原結合ドメイン、細胞外ヒンジドメイン、細胞膜貫通ドメイン、及び細胞内T細胞シグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体をコードする核酸を含む細胞(特許文献3)、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含む細胞であって、前記キメラ抗原受容体が抗原結合ドメイン、細胞膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、及び、特定のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含む細胞(特許文献4)、細胞表面膜上にCD19特異的キメラ受容体を発現及び保有し、前記キメラ受容体が免疫細胞のエフェクター機能のための細胞内シグナリングドメイン、少なくとも1つの細胞膜貫通ドメイン及び少なくとも1つの細胞外ドメインからなり、細胞外ドメインがCD19特異的受容体を含む、遺伝子工学的に作製されたCD19特異的T細胞(特許文献5)や、細胞内ドメインとしてグルココルチロイド誘導腫瘍壊死因子受容体(GITR)の細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体をコードする核酸が導入されたキメラ抗原受容体発現細胞(特許文献6)が提案されている。また、最近、本発明者らは、CAR-T細胞中に、インターロイキン7(IL―7)やケモカインリガンド19(CCL19)を発現させると、従来のCAR-T細胞よりも優れた免疫誘導効果や抗腫瘍活性が発揮されることを報告している(特許文献7)。
【0005】
一方、GPC3は、胎生期の組織、特に肝臓・腎臓で発現し、器官形成に関わる細胞外マトリックスタンパク質である。GPC3は、成人組織においては胎盤以外に発現は認められないものの、肝細胞がん、メラノーマ、卵巣明細胞がん、肺扁平上皮がん等の様々ながん組織において発現が認められる。このようにGPC3は、α-フェトプロテイン(α-fetoprotein;AFP)、癌胎児性抗原(Carcinoembryonic antigen;CEA)等のタンパク質と同様に、胎生期の組織に発現するタンパク質であるため、胎児性癌抗原に分類される。すなわち、GPC3は、正常組織細胞においては発現しないが、がん細胞に特異的に発現する特徴を示すため、がん治療の標的分子や、腫瘍マーカー及び診断マーカーとして有用である。
【0006】
既存の抗GPC3抗体の代表として、バイオモザイク社から販売されているモノクローナル抗体1G12がある。この抗体はGPC3の複雑な構造や局在を回避してデザインされた抗原(GPC3のC末側70残基のポリペプチド)をBalb/cマウスに免疫し、ハイブリドーマを作製し、当該抗原を用いたスクリーニングにより得られた抗体である。また国内製薬メーカーが開発した抗体GC33及びGC199も、同様のコンセプトを基にして樹立したモノクローナル抗体であり、GPC3のC末端側部分断片を抗原として得られた抗体である(特許文献8)。
【0007】
最近、本発明者らは、既存の抗体(例えば、GC33、GC199)とは異なるエピトープを認識し、かつ一本鎖抗体の状態でも細胞膜に局在するGPC3に特異的に結合できる抗GPC3抗体を見出している(PCT/JP2018/257)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/0106449号明細書
【特許文献2】特表2014-504294号公報
【特許文献3】特表2014-516510号公報
【特許文献4】特表2014-507118号公報
【特許文献5】特開2011-004749号公報
【特許文献6】国際公開第2013/051718号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2016/056228号パンフレット
【特許文献8】特許第4011100号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】中沢洋三 信州医誌 61(4):197~203(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、細胞膜に局在するGPC3に特異的に結合でき、かつ、CAR-T細胞を用いたがん免疫療法に有用な一本鎖抗体を含むCARや、かかるCARを発現する免疫担当細胞等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を続けている。その過程において、国内製薬メーカーが開発した抗GPC3抗体(GC33抗体)を基に、抗GPC3一本鎖抗体を作製し、かかる抗GPC3一本鎖抗体が融合したCARが発現するベクターをT細胞へ導入すると、優れたがん細胞傷害活性及びインターフェロンγ(IFN-γ)産生能を有するCAR-T細胞を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるヒトGPC3(Glypican-3)由来のポリペプチドに特異的に結合する一本鎖抗体と、該一本鎖抗体のカルボキシル末端に融合した細胞膜貫通領域と、該細胞膜貫通領域のカルボキシル末端に融合した免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域とを含むキメラ抗原受容体(CAR)であって、
前記一本鎖抗体が、
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、
配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3とを含む、
前記CAR(以下、「本件CAR」ということがある)。
〔2〕一本鎖抗体が、
配列番号7に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号8に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む、
上記〔1〕に記載のCAR。
〔3〕一本鎖抗体が、
配列番号12に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいは
配列番号13に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、
上記〔1〕又は〔2〕に記載のCAR。
〔4〕細胞膜貫通領域と、該細胞膜貫通領域のカルボキシル末端に融合した免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域とが、配列番号14~16のいずれかに示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のCAR。
〔5〕上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のCARを発現する免疫担当細胞(以下、「本件免疫担当細胞」ということがある)。
〔6〕さらに、インターロイキン7(IL―7)、及びケモカインリガンド19(CCL19)を発現する上記〔5〕に記載の免疫担当細胞。
〔7〕上記〔5〕又は〔6〕に記載の免疫担当細胞と、薬学的に許容される添加剤とを含有する抗がん剤(以下、「本件抗がん剤」ということがある)。
〔8〕上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のCARをコードするCAR遺伝子(以下、「本件CAR遺伝子」ということがある)。
〔9〕プロモーターと、該プロモーターの下流に作動可能に連結されている請求項8に記載のCARをコードするCAR遺伝子とを含むベクター(以下、「本件CAR発現ベクター」ということがある)。
【0013】
また、本発明の実施の他の形態として、本件CAR発現ベクターを免疫担当細胞に導入するステップを含む、本件CARを発現する免疫担当細胞の作製方法;や、本件CAR発現ベクターを免疫担当細胞に導入することにより作製された、本件CARを発現する免疫担当細胞;や、本件CAR遺伝子を含む、本件CARを発現する免疫担当細胞(好ましくは、さらにIL-7遺伝子及びCCL19遺伝子を含む、本件CAR、並びにIL-7及びCCL19を発現する免疫担当細胞);を挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、本件CARが、T細胞等の免疫担当細胞の細胞膜上に発現すると、当該免疫担当細胞は、優れたがん細胞傷害活性及びIFN-γ産生能を発揮する。このため、本件CARは、免疫担当細胞を用いたがん免疫療法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】T細胞(図1A)及びCAR-T細胞(図1B)におけるCAR(横軸)並びにCD8(縦軸)の発現をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。図中の四角で囲った「Q1」、「Q2」、「Q3」、及び「Q4」の領域は、それぞれ「CAR陰性CD8陽性T細胞群」、「CAR陽性CD8陽性T細胞群」、「CAR陽性CD8陰性T細胞群」、及び「CAR陰性CD8陰性T細胞群」を示し、これら4種細胞群の全細胞数に対する各細胞群の細胞数の割合(%)をそれぞれの領域に示す。
図2】Sk-HEP-1細胞(図中の「mock」)、及びSk-HEP-1 GPC3細胞(図中の「GPC3」)を、T細胞群(図中の「T細胞」)又は抗GPC3scFv CAR-T細胞を含むT細胞群(図中の「CAR-T細胞」)の存在下で培養したときの、CD45陰性細胞(残存するSk-HEP-1 GPC3細胞に相当)数(図2A)、及び全細胞に対する当該CD45陰性細胞の割合(図2B)を解析した結果を示す。
図3】Sk-HEP-1細胞(図中の「mock」)、及びSk-HEP-1 GPC3細胞(図中の「GPC3」)を、T細胞群(図中の「T細胞」)又は抗GPC3scFv CAR-T細胞を含むT細胞群(図中の「CAR-T細胞」)の存在下で培養したときの、培養液中に産生されたIFN-γの濃度を解析した結果を示す図である。
図4】Sk-HEP-1細胞(図中の「mock」)、及びSk-HEP-1 GPC3細胞(図中の「GPC3」)を、T細胞群(図中の「T細胞」)又は抗GPC3scFv CAR-T細胞を含むT細胞群(図中の「CAR-T細胞」)の存在下で培養したときの、培養液中に産生されたIL-7(図4A)とCCL19(図4B)の濃度を解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本件CARは、i)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重(H)鎖相補性決定領域(CDR)1、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるH鎖CDR2、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるH鎖CDR3と、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽(L)鎖CDR1、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるL鎖CDR2、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるL鎖CDR3とを含み、かつ、配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるヒトGPC3由来のポリペプチド(ヒトGPC3の537番目のグリシン~563番目のリジンからなるポリペプチドに相当)に特異的に結合する一本鎖抗体(single chain Fv;scFv)(以下、「本件一本鎖抗体」ということがある);ii)本件一本鎖抗体のC末端に融合した細胞膜貫通領域;及びiii)かかる細胞膜貫通領域のC末端に融合した免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域;のi)~iii)を少なくとも含むポリペプチドであり、ここで、本件一本鎖抗体と細胞膜貫通領域との間や、細胞膜貫通領域と免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域との間は、ペプチドリンカーやIgG4ヒンジ領域を介して融合してもよい。また、本件一本鎖抗体には、通常、上記H鎖CDR1~3を含むH鎖可変(V)領域と、上記L鎖CDR1~3を含むL鎖V領域とが含まれ、ここでH鎖V領域とL鎖V領域との間は、通常、ペプチドリンカーを介して結合している。
【0017】
上記ペプチドリンカーの長さとしては、例えば、1~100アミノ酸残基、好ましくは10~50アミノ酸残基を挙げることができる。また、本件抗体におけるペプチドリンカーとしては、具体的には、1~4つのグリシン(G)と、1つのセリン(S)とからなるアミノ酸配列が3つ連続に連なったものを挙げることができる。
【0018】
本件一本鎖抗体のV領域のうち、CDR1~3以外の領域として、フレームワーク領域(FR)が含まれる。かかるFRのうちH鎖FRとしては、H鎖CDR1のN末端に連結されているH鎖FR1や、H鎖CDR1のC末端(H鎖CDR2のN末端)に連結されているH鎖FR2や、H鎖CDR2のC末端(H鎖CDR3のN末端)に連結されているH鎖FR3や、H鎖CDR3のC末端に連結されているH鎖FR4を挙げることができる。また、上記FRのうちL鎖FRとしては、L鎖CDR1のN末端に連結されているL鎖FR1や、L鎖CDR1のC末端(L鎖CDR2のN末端)に連結されているL鎖FR2や、L鎖CDR2のC末端(L鎖CDR3のN末端)に連結されているL鎖FR3や、L鎖CDR3のC末端に連結されているL鎖FR4を挙げることができる。
【0019】
上記H鎖FR1としては、具体的には、配列番号7で示されるアミノ酸配列の1~30番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド、又は当該ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。
【0020】
上記H鎖FR2としては、具体的には、配列番号7で示されるアミノ酸配列の36~49番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド、又は当該ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。
【0021】
上記H鎖FR3としては、具体的には、配列番号7で示されるアミノ酸配列の67~98番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド、又は当該ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。
【0022】
上記H鎖FR4としては、具体的には、配列番号7で示されるアミノ酸配列の105~114番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド、又は当該ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。
【0023】
上記L鎖FR1としては、具体的には、配列番号8で示されるアミノ酸配列の1~23番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド、又は当該ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。
【0024】
上記L鎖FR2としては、具体的には、配列番号8で示されるアミノ酸配列の40~54番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド、又は当該ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。
【0025】
上記L鎖FR3としては、具体的には、配列番号8で示されるアミノ酸配列の62~93番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド、又は当該ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。
【0026】
上記L鎖FR4としては、具体的には、配列番号8で示されるアミノ酸配列の103~113番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド、又は当該ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。
【0027】
本件一本鎖抗体のFRとしては、既知のヒト抗体のFRが好ましい。かかる「既知のヒト抗体のFR」としては、例えば、GenBank等の公知の配列データベースに登録されているヒト抗体のFR、ヒト抗体の各サブグループに由来する共通配列(Human Most Homologous Consensus Sequence;Kabat,E. A.らのSequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept. Health and Human Services, 1991)から選択されたFR等を挙げることができる。
【0028】
本件一本鎖抗体におけるH鎖CDR1は、通常、kabatによる番号付け(文献「kabat, E.A. et al., (1991) NIH Publication No. 91-3242, sequences ofproteins of immunological interest」参照)でH31~35の位置に存在する。また、本件一本鎖抗体におけるH鎖CDR2は、通常、kabatによる番号付けでH50~52、H52A、及びH53~65の位置に存在する。また、本件一本鎖抗体におけるH鎖CDR3は、通常、kabatによる番号付けでH95~100、H100A、H100B、H101、及びH102の位置に存在する。また、本件一本鎖抗体におけるL鎖CDR1は、通常、kabatによる番号付けでL24~34の位置に存在する。また、本件一本鎖抗体におけるL鎖CDR2は、通常、kabatによる番号付けでL50~56の位置に存在する。また、本件一本鎖抗体におけるL鎖CDR3は、通常、kabatによる番号付けでL89~97の位置に存在する。
【0029】
本件一本鎖抗体におけるH鎖V領域としては、具体的には、配列番号7に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるH鎖V領域を挙げることができ、また、本件一本鎖抗体におけるL鎖V領域としては、具体的には、配列番号8に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるL鎖V領域を挙げることができる。
【0030】
本件一本鎖抗体としては、具体的には、後述する本実施例でその効果が実証されているもの、すなわち、配列番号12に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む一本鎖抗体や、配列番号13に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む一本鎖抗体を挙げることができる。
【0031】
上記細胞膜貫通領域としては、細胞膜を貫通することができるペプチドであればよく、例えば、CD8、T細胞受容体のα、β鎖、CD3ζ、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、ICOS、CD154、EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)、又はGITR由来の細胞膜貫通領域の全部又は一部の領域を挙げることができ、具体的には、配列番号14に示されるアミノ酸配列の1~83番目のアミノ酸残基からなるヒトCD8細胞膜貫通領域を挙げることができる。また、上記細胞膜貫通領域としては、細胞膜を貫通することができるペプチドのC末端側の1~10アミノ酸残基、好ましくは6~7アミノ酸残基が削除されたものであってもよく、例えば、配列番号14に示されるアミノ酸配列の1~77番目のアミノ酸残基からなる、前記ヒトCD8細胞膜貫通領域の改変体1や、配列番号14に示されるアミノ酸配列の1~76番目のアミノ酸残基からなる、前記ヒトCD8細胞膜貫通領域の改変体2を挙げることができる。
【0032】
上記免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域としては、本件一本鎖抗体がヒトGPC3に結合した際に、免疫担当細胞内にシグナル伝達することが可能な領域であればよく、CD28、4-1BB(CD137)、GITR、CD27,OX40、HVEM、CD3ζ、Fc Receptor-associated γchainの細胞内領域のポリペプチドから選択される少なくとも1種又は2種以上を含むものが好ましく、CD28、4-1BB、及びCD3ζの細胞内領域のポリペプチド3種を含むものがより好ましい。かかるCD28の細胞内領域のポリペプチドとしては、具体的には、配列番号14に示されるアミノ酸配列の85~124番目のアミノ酸残基からなるヒトCD28の細胞内領域のポリペプチドを挙げることができる。また、上記「4-1BBの細胞内領域のポリペプチド」としては、具体的には、配列番号14に示されるアミノ酸配列の125~170番目のアミノ酸残基からなるヒト4-1BBの細胞内領域のポリペプチドを挙げることができる。また、上記CD3ζの細胞内領域のポリペプチドとしては、具体的には、配列番号14に示されるアミノ酸配列の172~283番目のアミノ酸残基からなるヒトCD3ζの細胞内領域のポリペプチドを挙げることができる。
【0033】
なお、配列番号14に示されるアミノ酸配列の84番目のアルギニン(Arg)、配列番号15に示されるアミノ酸配列の78番目のアルギニン、配列番号16に示されるアミノ酸配列の77番目のアルギニンは、上記ヒトCD8由来の細胞膜貫通領域のポリぺプチドと上記ヒトCD28の細胞内領域のポリペプチドの共通配列である。また、配列番号14に示されるアミノ酸配列の171番目のロイシン(Leu)、配列番号15に示されるアミノ酸配列の165番目のロイシン、配列番号16に示されるアミノ酸配列の164番目のロイシンは、上記ヒト4-1BBの細胞内領域のポリペプチドと上記ヒトCD3ζの細胞内領域のポリペプチドの共通配列である。
【0034】
本明細書において、「免疫担当細胞」とは、生体において免疫機能を担う細胞(好ましくは、生体から分離された細胞)を意味する。免疫担当細胞としては、例えば、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、B細胞等のリンパ球系細胞や、単球、マクロファージ、樹状細胞等の抗原提示細胞や、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞等の顆粒球を挙げることができ、具体的には、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、マウス等の哺乳動物由来のT細胞、中でもヒト由来のT細胞を好適に例示することができる。また、T細胞は、例えば、血液、骨髄液等の体液や、脾臓、胸腺、リンパ節等の組織、若しくは原発腫瘍、転移性腫瘍、がん性腹水等のがん組織から免疫担当細胞を含む細胞集団を分離し、得ることができる。また、前記細胞集団に含まれるT細胞の割合を高めるため、分離した前記細胞集団を、必要に応じて定法により更に単離又は精製し、得ることもできる。さらに、T細胞は、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(induced pluripotent stem cells)から作製されたものを利用してもよい。かかるT細胞としては、アルファ・ベータT細胞、ガンマ・デルタT細胞、CD8T細胞、CD4T細胞、腫瘍浸潤T細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、NKT細胞を挙げることができる。なお、免疫担当細胞の由来と投与対象とは同じであっても異なってもよい。さらに、投与対象がヒトの場合において、免疫担当細胞としては、投与対象としての患者本人から採取した自家細胞を用いても、他人から採取した他家細胞を用いてもよい。すなわち、ドナーとレシピエントは一致しても不一致でもよいが、一致することが好ましい。
【0035】
上記投与対象としては、哺乳動物又は哺乳動物細胞を好適に挙げることができ、かかる哺乳動物の中でも、ヒト、マウス、イヌ、ラット、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、サル、チンパンジーをより好適に挙げることができ、ヒトを特に好適に挙げることができる。
【0036】
本件CARは、好ましくは、がん治療において、がん患者から採取された免疫担当細胞の細胞表面上にエクスビボで発現させるために用いられる。免疫担当細胞としてT細胞を用いる場合、本件CARにおける細胞膜貫通領域と、かかる細胞膜貫通領域のC末端に融合した免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域とからなるペプチドとしては、具体的には、配列番号14~16のいずれかに示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドを挙げることができる。また、本件CARとしては、具体的に、本件一本鎖抗体と、かかる一本鎖抗体のC末端側に連結した、配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドとを含むものや、本件一本鎖抗体と、かかる一本鎖抗体のC末端側に連結した、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドとを含むものや、本件一本鎖抗体と、かかる一本鎖抗体のC末端側に連結した、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドとを含むものを挙げることができる。
【0037】
本件免疫担当細胞としては、本件CARを発現する免疫担当細胞であればよく、本件CARは通常天然には存在しないため、内在性ではなく、外来性のCARを発現する免疫担当細胞である。本件免疫担当細胞としては、さらに、IL―7及び/又はCCL19を発現するものが好ましい。免疫担当細胞がIL―7及び/又はCCL19の発現が認められない細胞(例えば、T細胞)である場合や、免疫担当細胞がT細胞以外であってIL―7及び/又はCCL19の発現が低い細胞の場合には、本件免疫担当細胞としては、外来性のIL―7及び/又はCCL19を発現するものが好ましい。ここで、外来性のIL―7及び/又はCCL19を発現する免疫担当細胞は、免疫担当細胞に、外来性のIL-7遺伝子及び/又はCCL19遺伝子(好ましくは、プロモーターの下流に作動可能に連結されている外来性のIL-7遺伝子及び/又はCCL19遺伝子)を導入することにより得ることができる。外来性のIL-7遺伝子及び/又はCCL19遺伝子を導入して得られた免疫担当細胞は、該免疫担当細胞内に、ゲノムに組み込まれた状態で、あるいは、ゲノムに組み込まれない状態(例えば、エピソーマルな状態)で、外来性のIL-7遺伝子及び/又はCCL19遺伝子を含有する。なお、本件免疫担当細胞には、本件免疫担当細胞を培養して得られた本件CARを発現する細胞培養物も含まれる。
【0038】
本件免疫担当細胞は、本件CAR発現ベクターを、免疫担当細胞へ導入することにより作製することができる。導入する方法としては、免疫担当細胞にDNAを導入する方法であればよく、例えば、エレクトロポレーション法(Cytotechnology,3,133(1990))、リン酸カルシウム法(特開平2-227075号公報)、リポフェクション法(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,84,7413(1987))、ウイルス感染法等の方法を挙げることができる。かかるウイルス感染法としては、CAR発現ベクター(国際公開2016/056228号パンフレット)と、パッケージングプラスミドとをGP2-293細胞(タカラバイオ社製)、Plat-GP細胞(コスモ・バイオ社製)、PG13細胞(ATCC CRL-10686)、PA317細胞(ATCC CRL-9078)などのパッケージング細胞にトランスフェクションして組換えウイルスを作製し、かかる組換えウイルスをT細胞に感染させる方法を挙げることができる。本件CAR発現ベクターを導入して得られた免疫担当細胞(本件免疫担当細胞)は、ゲノムに組み込まれた状態で、あるいは、ゲノムに組み込まれない状態で、該免疫担当細胞内に本件CAR遺伝子を含有する。
【0039】
また、本件免疫担当細胞は、本件CARをコードするヌクレオチドをコードするヌクレオチドを、公知の遺伝子編集技術を用いて、適切なプロモーターの制御下で発現可能なように、細胞のゲノムに組み込むことによって製造してもよい。公知の遺伝子編集技術としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN(転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ)、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)-Casシステム等のエンドヌクレアーゼを用いる技術を例示することができる。
【0040】
本件抗がん剤は、「抗がんのため(すなわち、がんの増殖を抑制するため)」という用途が特定された、本件免疫担当細胞と、薬学的に許容される添加剤とを含有する組成物であればよく、ここで薬学的に許容される添加剤としては、例えば、生理食塩水、緩衝生理食塩水、細胞培養培地、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール、安定剤、可溶化剤、界面活性剤、緩衝剤、防腐剤、等張化剤、充填剤、潤滑剤を挙げることができる。また、上記添加剤は、1種類の添加剤からなる単体であっても、複数種類(少なくとも2種類)の添加剤を含む混合物であってもよい。
【0041】
本件抗がん剤は、当業者に既知の方法を用いて、がん増殖の抑制(換言すると、がん治療)を必要とする被験者(がん患者)に投与することができ、投与方法としては、例えば、静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、動脈内、髄内、心臓内、関節内、滑液嚢内、頭蓋内、髄腔内、くも膜下(髄液)等へ注射する方法や、腫瘍部位へカテーテルを利用して投与する方法を挙げることができる。
【0042】
本件抗がん剤に含まれる本件免疫担当細胞の数としては、がんの種類、位置、重症度、治療を受ける被験体の年齢、体重、状態などの条件を基に、適宜選択することができ、例えば、一回の投与において1×10~1×1010個、好ましくは1×10~1×10個、より好ましくは5×10~5×10個である。
【0043】
本件抗がん剤の投与回数は、例えば、1日あたり4回、3回、2回、1回である。また、本件抗がん剤の投与間隔は、例えば、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、6日おき、7日おき、8日おき、9日おき、1月おきである。
【0044】
本件抗がん剤の投与対象のがんとしては、例えば、大腸癌(結腸癌又は直腸癌);胃癌;肝臓癌;脳腫瘍;肺癌(腺癌、扁平上皮癌、腺扁平上皮癌、未分化癌、大細胞癌、小細胞癌);食道癌;十二指腸癌;小腸癌;皮膚癌;乳癌;前立腺癌;膀胱癌;膣癌;子宮頸部癌;子宮体癌;腎臓癌;膵臓癌;脾臓癌;気管癌;気管支癌;頭頚部癌;胆嚢癌;胆管癌;精巣癌;卵巣癌;骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋組織、神経組織、血管組織、又は造血組織における癌(具体的には、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫などの肉腫;肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫などの芽腫;胚細胞腫瘍;リンパ腫;白血病);等を挙げることができる。
【0045】
本件抗がん剤は、他の抗がん剤と併用して用いることもできる。他の抗がん剤としては、シクロホスファミド、ベンダムスチン、イオスファミド、ダカルバジン等のアルキル化薬、ペントスタチン、フルダラビン、クラドリビン、メソトレキセート、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、エノシタビン等の代謝拮抗薬、リツキシマブ、セツキシマブ、トラスツズマブ等の分子標的薬、イマチニブ、ゲフェチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダサチニブ、スニチニブ、トラメチニブ等のキナーゼ阻害剤、ボルテゾミブ等のプロテアソーム阻害剤、シクロスポリン、タクロリムス等のカルシニューリン阻害薬、イダルビジン、ドキソルビシンマイトマイシンC等の抗がん性抗生物質、イリノテカン、エトポシド等の植物アルカロイド、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン等のプラチナ製剤、タモキシフェン、ビカルダミド等のホルモン療法薬、インターフェロン、ニボルマブ、ペンブロリズマブ等の免疫制御薬を挙げることができる。
【0046】
上記「本件抗がん剤と他の抗がん剤と併用して用いる」方法としては、他の抗がん剤を用いて処理し、その後本件抗がん剤を用いる方法や、本件抗がん剤と他の抗がん剤を同時に用いる方法や、本件抗がん剤を用いて処理し、その後他の抗がん剤を用いる方法を挙げることができる。また、本件抗がん剤と他の抗がん剤と併用した場合には、がんの治療効果がより向上するとともに、それぞれの投与回数又は投与量を減らすことで、それぞれによる副作用を低減させることが可能となる。
【0047】
本件CAR遺伝子としては、i)本件一本鎖抗体、ii)本件一本鎖抗体のC末端に融合した細胞膜貫通領域、及びiii)かかる細胞膜貫通領域のC末端に融合した免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域のi)~iii)を少なくとも含むポリペプチドをコードする抗体遺伝子(ヌクレオチド)であれば特に制限されず、ここで、本件一本鎖抗体をコードする抗体遺伝子としては、具体的には、配列番号9に示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列からなるH鎖V領域遺伝子(配列番号7に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるH鎖V領域をコードする遺伝子)と、配列番号10に示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列からなるL鎖V領域遺伝子(配列番号8に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるL鎖V領域をコードする遺伝子)とを含む抗体遺伝子を挙げることができる。
【0048】
本明細書において、用語「同一性」は、ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列近似性の程度(これは、クエリー配列と他の好ましくは同一の型の配列(核酸若しくはタンパク質配列)とのマッチングにより決定される)を意味する。「同一性」を計算及び決定する好ましいコンピュータープログラム法としては、例えば、GCG BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(Altschulet al.,J.Mol.Biol.1990,215:403-410;Altschulet al.,Nucleic Acids Res.1997,25:3389-3402;Devereux etal.,Nucleic Acid Res.1984,12:387)、並びにBLASTN 2.0(Gish W.,http://blast.Wustl.edu,1996-2002)、並びにFASTA(Pearson及びLipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988,85:2444-2448)、並びに最も長く重複した一対のコンティグを決定及びアライメントするGCG GelMerge(Wibur及びLipman,SIAMJ.Appl.Math.1984,44:557-567;Needleman及びWunsch,J.Mol.Biol.1970,48:443-453)を挙げることができる。
【0049】
本明細書において、「少なくとも80%以上の同一性」とは、同一性が80%以上であることを意味し、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上、特により好ましくは98%以上、最も好ましくは100%の同一性を意味する。
【0050】
本明細書において、「配列番号Xに示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列」とは、換言すると、「配列番号Xに示されるアミノ酸配列において、0、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」であり、かつ、配列番号Xに示されるアミノ酸配列と同等の機能を有する。ここで、「1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1~30個の範囲内、好ましくは1~20個の範囲内、より好ましくは1~15個の範囲内、さらに好ましくは1~10個の範囲内、さらに好ましくは1~5個の範囲内、さらに好ましくは1~3個の範囲内、さらに好ましくは1~2個の範囲内の数のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を意味する。これらアミノ酸残基の変異処理は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発等の当業者に既知の任意の方法により行うことができる。
【0051】
本明細書において、「プロモーターの下流に作動可能に連結されている・・・遺伝子」とは、プロモーターが遺伝子の転写を開始することができるように、プロモーターDNAと、遺伝子DNAとが機能的に連結されていることを意味する。
【0052】
本件CAR発現ベクターにおけるプロモーターとしては、プロモーターの下流に位置する本件CAR遺伝子がコードするmRNAの転写を開始させる領域であればよく、プロモーターには、通常転写開始点(TSS)が含まれる。
【0053】
本件CAR発現ベクターにおけるプロモーターやベクターの種類は、導入する宿主細胞(免疫担当細胞)の種類に応じて適宜選択することができ、ここで、プロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター、NFATプロモーター、HIFプロモーター等を挙げることができる。また、ベクターとしては、例えば、pMSGVベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))やpMSCVベクター(タカラバイオ社製)などのレトロウイルスベクター又はかかるベクター由来のものを挙げることができる。
【0054】
本件CAR発現ベクターとしては、遺伝子発現効率をさらに高めるために、エンハンサー領域やリボソーム結合領域(RBS;ribosome binding site)のヌクレオチド配列をさらに含むものや、本件免疫担当細胞のスクリーニングのために、本件免疫担当細胞の種類に応じた薬剤耐性遺伝子(例えば、スペクチノマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ジェネティシン耐性遺伝子等)をさらに含むものであってもよい。かかるエンハンサー領域は、通常プロモーターの上流に配置され、RBSは、通常プロモーターと本件CAR遺伝子の間に配置される。本件CAR発現ベクターにおける本件CAR遺伝子のヌクレオチド配列は、発現させる本件免疫担当細胞に合わせてコドン配列の最適化がされていてもよい。本件CAR、本件CAR発現ベクター、及び本件CAR遺伝子は、遺伝子組み換え技術を用いて公知の方法により作製することができる。
【0055】
本件CAR発現ベクターとしては、本件CAR遺伝子以外の遺伝子、例えば、IL―7遺伝子、CCL19遺伝子、アポトーシス作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子(自殺遺伝子)をさらに含むもの(好ましくは、プロモーターの下流に作動可能に連結されているIL―7遺伝子、CCL19遺伝子、自殺遺伝子)であってもよい。かかる自殺遺伝子としては、例えば、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ[HSV-TK]をコードする遺伝子、誘導性カスパーゼ9[inducible caspase 9]をコードする遺伝子を挙げることができる。本件CAR発現ベクターに自殺遺伝子を含ませることによって、がんの治療経過に応じて、例えば、がん細胞が消失した場合に、自殺遺伝子がコードするポリペプチドの機能を活性化する薬剤(例えば、HSV-TKの場合、ガンシクロビルであり、誘導性カスパーゼ9の場合、二量体誘導化合物[chemicalinduction of dimerization:CID]であるAP1903)を投与することにより、不要となった、生体内の本件免疫担当細胞を死滅させることが可能となる(Cooper LJ., et. al. Cytotherapy. 2006;8(2):105-17., Jensen M. C. et.al. Biol Blood Marrow Transplant. 2010 Sep;16(9):1245-56., Jones BS. Front Pharmacol.2014 Nov 27;5:254., Minagawa K., Pharmaceuticals (Basel). 2015 May8;8(2):230-49., Bole-Richard E., Front Pharmacol. 2015 Aug 25;6:174)。
【0056】
本明細書において引用された、学術文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0057】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、GP2-293パッケージング細胞株(タカラバイオ社製)の培養は、10%ウシ胎児血清(FBS)と、ペニシリンG及びストレプトマイシン硫酸塩とを含むDMEM(Dulbecco's ModifiedEagle's Medium)培養液存在下、COインキュベーター(37℃条件下)内で行った。また、ヒトT細胞の培養は、ペニシリンG(100Unit/mL)等を含むGT-T551(タカラバイオ社製)培養液存在下、COインキュベーター(37℃条件下)内で行った。
【実施例0058】
1.材料の調製
[CAR、hIL-7、hCCL19、及びHSV-TK発現レトロウイルスベクターの作製]
国内製薬メーカーが開発した抗GPC3抗体(GC33抗体)のH鎖V領域(V)及びL鎖V領域(V)のアミノ酸配列に基づき、2種類の抗GPC3 ヒト型scFv(V-リンカー-V[配列番号12のアミノ酸配列からなるポリペプチド]、及びV-リンカー-V[配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチド])をデザインした(表1参照)。かかるリンカーは、ポリペプチド「GGGGS」を3回繰り返した15アミノ酸残基からなるものを使用した。
【0059】
【表1】
表中、二重四角はリンカーを示し、一重下線はVを示し、二重下線はVを示す。
【0060】
デザインした2種類の抗GPC3 ヒト型scFvのうち、V-リンカー-V(配列番号12のアミノ酸配列からなるポリペプチド)を例として選択し、その下流に、ヒトCD8由来細胞膜貫通領域;及びヒトCD28/4-1BB/CD3zeta由来免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域;からなる融合ペプチド(配列番号17のアミノ酸配列の243~525番目のアミノ酸残基)を連結し、配列番号17のアミノ酸配列からなる抗GPC3scFv CARをデザインした(表2参照)。
【0061】
【表2】
表中、一重下線は、抗GPC3ヒト型scFvを示し、二重下線は、ヒトCD8由来細胞膜貫通領域;及びヒトCD28/4-1BB/CD3zeta由来免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域;からなる融合ペプチドを示す。
【0062】
さらに、デザインした抗GPC3 scFv CARの上流には、ヒトイムノグロブリンH鎖由来シグナルシーケンス(配列番号18の1~19番目のアミノ酸残基)を連結し、また、その下流には、順に、2A自己切断型ペプチド(配列番号18のアミノ酸配列の551~575番目のアミノ酸残基)、ヒト(h)IL-7(配列番号18のアミノ酸配列の577~753番目のアミノ酸残基)、2A自己切断型ペプチド(配列番号18のアミノ酸配列の754~778番目のアミノ酸残基)、hCCL19(配列番号18のアミノ酸配列の779~876番目のアミノ酸残基)、2A自己切断型ペプチド(配列番号18のアミノ酸配列の877~901番目のアミノ酸残基)、及び単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)(配列番号18のアミノ酸配列の902~1277番目のアミノ酸残基)を連結し、配列番号18のアミノ酸配列からなる融合ポリペプチド(抗GPC3scFv CAR+hIL-7+hCCL19+HSV-TK)をデザインした(表3参照)。
【0063】
【表3】
表中、一重四角はヒトイムノグロブリンH鎖由来シグナルシーケンスを示し、二重四角は2A自己切断型ペプチドを示し、一重下線はCARを示し、二重下線はhIL-7を示し、破下線はhCCL19を示し、波下線はHSV-TKを示す。
【0064】
そして、上記融合ポリペプチド(CAR+hIL-7+hCCL19+HSV-TK)をコードし、かつヒト型のコドンに最適化したヌクレオチド配列からなる遺伝子DNA(配列番号19のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、表4参照)を、pMSGVレトロウイルスベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))に組み込み、CAR、hIL-7、hCCL19、及びHSV-TK発現用レトロウイルスベクター(以下、「抗GPC3scFv CAR等発現用レトロウイルスベクター」という)を作製した(国際公開2016/056228号パンフレット参照)。
【0065】
【表4】
表中、一重四角はヒトイムノグロブリンH鎖由来シグナルシーケンスをコードする遺伝子を示し、二重四角は2A自己切断型ペプチドをコードする遺伝子を示し、一重下線はCARをコードする遺伝子を示し、二重下線はhIL-7をコードする遺伝子を示し、破下線はhCCL19をコードする遺伝子を示し、波下線はHSV-TKをコードする遺伝子を示す。
【0066】
[組換えレトロウイルスの作製]
作製した抗GPC3 scFv CAR等発現用レトロウイルスベクターを、リポフェクタミン3000(ライフテクノロジー社製)を用いてGP2-293パッケージング細胞株(タカラバイオ社製)へトランスフェクションした。トランスフェクション48時間後に、産生された組換えレトロウイルス(抗GPC3scFv CAR等発現用レトロウイルス)を含む培養上清を回収した。
【0067】
[組換えレトロウイルスのT細胞への感染]
抗GPC3 scFv CAR発現T細胞を作製するために、組換えレトロウイルス(抗GPC3 scFv CAR等発現用レトロウイルス)を、T細胞へ感染させることで、上記T細胞に上記抗GPC3scFv CAR等発現用レトロウイルスベクターを導入した。具体的には、末梢血単核球を、健常人末梢血から定法に従って単離した後、固層化した抗CD3モノクローナル抗体クローン(OKT3)(5μg/mL)及びレトロネクチン(登録商標;タカラバイオ社製、25μg/mL)、並びにIL-2存在下で48時間活性化培養した。ウイルス吸着プレートは、レトロネクチンでコートしたプレート上に、抗GPC3scFv CAR等発現用組換えレトロウイルスを含む培養上清を添加後、4℃、2000gにて2時間遠心し、作製した。作製したウイルス吸着プレート上に、活性化培養したヒトT細胞を1×10cells/mLとなるように播種し、IL-2の存在下で一晩培養した。翌日にT細胞を回収し、新しいウイルス吸着プレートに播種して2回目のウイルス感染を行った。4時間培養後に細胞を回収し、3倍量の培養液を添加して細胞培養用プレートに播種した後、3日間培養した。
【0068】
2.方法
[フローサイトメトリー解析]
抗GPC3 scFv CAR等発現用レトロウイルスを感染させたヒトT細胞が、抗GPC3 scFv CARを発現していることを確認するために、フローサイトメトリー解析を行った。具体的には、抗GPC3scFv CAR等発現用レトロウイルスを感染させたヒトT細胞群(抗GPC3 scFv CAR-T細胞を含むT細胞群)を、ビオチン化したリコンビナントGPC3タンパク質(R&D社製)の存在下で、氷上で30分インキュベートした。FACSBuffer(1%BSA/PBS溶液)を加えて遠心処理し、上清を除いた後、APC標識抗CD8抗体(Biolegend社製)と、BV421標識ストレプトアビジン(Biolegend社製)を添加し、氷上で30分インキュベートした。APC及びBV421の検出、並びにこれらの蛍光レベルの測定は、フローサイトメーター(BD LSR Fortessa)(BDBiosciences社製)を用いて行った。なお、ネガティブコントロールとして、抗GPC3 scFv CAR等発現用レトロウイルス未感染のヒトT細胞群(T細胞群)についても、同様にフローサイトメトリー解析を行った。
【0069】
[GPC3発現がん細胞に対する傷害活性]
抗GPC3 scFv CAR-T細胞のがん細胞傷害活性を確認するために、GPC3発現がん細胞を、抗GPC3 scFv CAR-T細胞を含むT細胞群存在下で培養した。具体的には、抗GPC3scFv CAR-T細胞を含むT細胞群と、肝細胞がん由来細胞株(Sk-HEP-1細胞)(ECACCより購入)、又はGPC3を発現させたSk-HEP-1細胞(Sk-HEP-1GPC3細胞)とを、1:1(1×10個/ウェル)にて混合し、24ウェルプレートで培養した。48時間後に細胞を回収し、Phycoerythrin標識抗CD45抗体(Biolegend社製)存在下で、氷上で30分インキュベートした。FACS Buffer(1%BSA/PBS溶液)を加えて遠心処理し、上清を除いた後、Phycoerythrinの検出及び蛍光レベルの解析は、フローサイトメーター(BD LSR Fortessa)(BD Biosciences社製)を用いて行い、CD45陽性細胞(T細胞に相当)、及びCD45陰性細胞(残存するSk-HEP-1GPC3細胞に相当)の数及び割合を測定した。
【0070】
[抗GPC3 scFv CAR-T細胞のIFN-γ産生能]
抗GPC3 scFv CAR-T細胞が、インターフェロンγ(IFN-γ)産生能を有するか否かを解析した。具体的には、抗GPC3 scFv CAR-T細胞を含むT細胞群(図3中の「CAR-T細胞」)、又は遺伝子非導入T細胞群(図3中の「T細胞」)を、Sk-HEP-1細胞、又はSk-HEP-1GPC3細胞と、1:1(1×10/ウェルずつ)にて混合し、24ウェルプレートで48時間培養し、培養上清中に産生されるIFN-γの濃度をELISA(Biolegend社製)にて測定した。
【0071】
[抗GPC3 scFv CAR-T細胞のIL-7及びCCL19産生能]
抗GPC3 scFv CAR-T細胞が、IL-7及びCCL19産生能を有するか否かを解析した。具体的には、抗GPC3 scFv CAR-T細胞を含むT細胞群(図4中の「CAR-T細胞」)、又は遺伝子非導入T細胞群(図4中の「T細胞」)を、Sk-HEP-1細胞、又はSk-HEP-1GPC3細胞と、1:1(1×10/ウェルずつ)にて混合し、24ウェルプレートで48時間培養し、培養上清中に産生されるIL-7及びCCL19の濃度をELISA(R&D社製)にて測定した。ネガティブコントロールとして、CAR遺伝子非導入T細胞群(T細胞)と、Sk-HEP-1細胞、又はSk-HEP-1GPC3細胞を同条件にて培養した。
【0072】
3.結果
[フローサイトメトリー解析]
抗GPC3 scFv CAR等発現用レトロウイルスを感染させたヒトT細胞群のうち、48.1%の細胞が、BV421が検出されるCAR陽性であることが示された(図1B参照)。一方、当該レトロウイルス未感染のヒトT細胞群ではほとんどCAR陽性細胞は認められなかった(図1A参照)。この結果は、抗GPC3scFv CAR等発現用レトロウイルスを感染させたヒトT細胞群のうち、約50%の細胞が抗GPC3 scFv CARを発現するT細胞(抗GPC3 scFv CAR-T細胞)であることを示している。
【0073】
[GPC3発現がん細胞に対する傷害活性]
抗GPC3 scFv CAR-T細胞を含むT細胞群は、抗GPC3 scFv CAR等発現用レトロウイルス未感染のT細胞群を用いた場合と比べ、Sk-HEP-1GPC3細胞(図2の「GPC3」)に対する傷害活性が非常に高く、Sk-HEP-1 GPC3細胞のほとんどを死滅させた(図2参照)。一方、抗GPC3 scFv CAR-T細胞を含むT細胞群は、Sk-HEP-1細胞(図2の「mock」)に対しては、T細胞群と同様に、傷害活性をほとんど示さなかった(図2参照)。この結果は、抗GPC3scFv CAR-T細胞は、GPC3を発現するがん細胞特異的に細胞傷害活性を発揮することを示している。
【0074】
[抗GPC3 scFv CAR-T細胞のIFN-γ産生能]
抗GPC3 scFv CAR-T細胞を含むT細胞群は、Sk-HEP-1 GPC3細胞存在下では、抗GPC3 scFv CAR等発現用レトロウイルス未感染のT細胞群を用いた場合と比べ、IFN-γ産生能が非常に高かった(図3参照)。一方、抗GPC3 scFv CAR-T細胞を含むT細胞群は、Sk-HEP-1細胞存在下では、T細胞群と同様に、IFN-γ産生能はほとんど認められなかった(図3参照)。この結果は、抗GPC3 scFv CAR-T細胞における抗GPC3 scFvが、がん細胞におけるGPC3表面抗原に結合し、活性化した結果、IFN-γが産生されたことを示している。
【0075】
[抗GPC3 scFv CAR-T細胞のIL-7及びCCL19産生能]
抗GPC3 scFv CAR-T細胞を含むT細胞群は、Sk-HEP-1細胞存在下では低値のIL-7とCCL19を産生したが、Sk-HEP-1 GPC3細胞存在下では、さらに高いIL-7とCCL19を産生した(図4参照)。抗GPC3scFv CAR等発現用レトロウイルス未感染のT細胞群では、Sk-HEP-1細胞存在下でもSk-HEP-1 GPC3細胞存在下でも、IL-7産生とCCL19産生はほとんど認められなかった。この結果は、抗GPC3scFv CAR-T細胞はIL-7やCCL19を産生することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、免疫担当細胞を用いたがん免疫療法の分野に資するものである。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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