(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069539
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】操作されたキメラ抗原受容体およびCARの調節因子を含む組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240514BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240514BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240514BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240514BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240514BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240514BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240514BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20240514BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240514BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N7/01
C12N15/867 Z
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C07K14/725
C07K16/28
C07K19/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024042171
(22)【出願日】2024-03-18
(62)【分割の表示】P 2021552866の分割
【原出願日】2020-03-06
(31)【優先権主張番号】1903237.4
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1914216.5
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1916077.9
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】517215973
【氏名又は名称】オートラス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マーティン プーレ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィジャイ ペッダレッディガリ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン イティン
(57)【要約】
【課題】細胞組成物を作製する方法であって、細胞の集団を少なくとも2つのウイルスベクターの混合物で形質導入するステップを含み、ここで、少なくとも1つのベクターが、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含み;ここで、少なくとも1つのベクターが、前記CAR、前記CARを発現する細胞、または標的細胞の活性を調整する活性調節因子をコードする核酸を含む、方法を提供すること。
【解決手段】かかる方法によって作製された細胞組成物およびがんなどの疾患の処置でのその使用も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ウイルスベクター組成物、細胞に形質導入するためのその使用、およびかかる方法によって作製された細胞組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
腫瘍不均一性は、異なる腫瘍細胞がそれぞれ異なる形態および表現型のプロフィール(細胞の形態、遺伝子発現、代謝、運動性、増殖、および転移能が含まれる)を示し得るという所見を指す。
【0003】
不均一性は、患者間、腫瘍間(腫瘍間不均一性)、腫瘍内(腫瘍内不均一性)で生じる。不均一性は腫瘍細胞間で複数のタイプが認められており、これらのタイプは、遺伝的および非遺伝的なばらつきの両方に由来する。
【0004】
腫瘍細胞間の不均一性は、腫瘍微小環境内の不均一性によりさらに増大し得る。腫瘍内の位置(例えば、利用できる酸素)が異なると腫瘍細胞が受ける選択圧が異なり、その結果、腫瘍の異なる空間的領域内で優位なサブクローンの範囲が広くなる。また、クローン優位性が微小環境に影響されることは、多くの患者で認められる原発性腫瘍と転移性腫瘍との間の不均一性ならびに同一タイプの腫瘍を有する患者間で認められる腫瘍間不均一性の理由である可能性がある。
【0005】
がん細胞の不均一性は、有効な処置ストラテジーを設計する上での重要な課題をもたらしている。
【0006】
例えば、不均一な腫瘍は、異なるクローン集団間で細胞傷害薬に対する感受性が異なり得る。これは、治療有効性を阻害または変化させ得るクローンの相互作用に起因する。
【0007】
不均一な腫瘍に薬物を投与しても、全ての腫瘍細胞を死滅させることは稀である。最初の不均一な腫瘍集団が障壁となる場合があり、その結果、わずかな薬物耐性細胞(存在するならば)が生存する。これにより、耐性を示す腫瘍集団は、分岐進化メカニズムによって新規の腫瘍を複製および成長させることができる(上記を参照のこと)。結果として再度集合した腫瘍は不均一であり、最初に使用した薬物治療に耐性を示す。また、再度集合した腫瘍は、より悪性度の高い様式で再発し得る。
【0008】
キメラ抗原受容体(CAR)
キメラ抗原受容体は、例えば、モノクローナル抗体(mAb)の特異性をT細胞のエフェクター機能とつなぎ合わせたタンパク質である。その通常の形態は、抗原認識アミノ末端、スペーサー、T細胞の生存シグナルおよび活性化シグナルを伝達する化合物エンドドメインと全てが接続された膜貫通ドメインを有するタイプI膜貫通ドメインタンパク質の形態である(
図1Aを参照のこと)。
【0009】
これらの分子の最も一般的な形態は、標的抗原を認識するモノクローナル抗体由来の単鎖可変断片(scFv)の、スペーサーおよび膜貫通ドメインを介してシグナル伝達エンドドメインと融合した融合物である。かかる分子により、その標的のscFvによる認識に応答してT細胞を活性化させる。T細胞がかかるCARを発現するとき、T細胞は、標的抗原を発現する標的細胞を認識して死滅させる。腫瘍関連抗原に対していくつかのCARが開発されており、かかるCAR発現T細胞を用いた養子移入アプローチは、種々のがんの処置について現在臨床試験中である。
【0010】
CAR処置を成功させるには、腫瘍細胞が標的抗原を発現する必要がある。不均一な腫瘍、特に固形がんでは、抗原発現が不均一であり、全てのがん細胞によって発現された単一の標的抗原を見出すことは可能でない場合がある。
【0011】
さらに、B細胞悪性疾患におけるCAR T細胞試験から新たに得られたデータは、この治療薬クラスに対する共通の耐性機序が、標的抗原が喪失したか下方調節された腫瘍の出現であることを実証している。抗原の喪失または低抗原による回避が生じると、さらに不均一に標的抗原が発現され、固形腫瘍を処置する上でさらに大きな障壁となる可能性がある。この課題を克服するための潜在的なアプローチには、CAR T細胞を多重特異性にし、低レベルの標的抗原に応答するように操作すること、およびCAR誘導性の炎症反応の結果としての天然の抗腫瘍免疫応答のより効率の良い誘導が含まれる。
【0012】
CAR T細胞の臨床研究から、CAR T細胞の生着、拡大増殖(expansion)、お
よび存続が臨床活性、特に応答の持続に必須であることが確証されている。in vivoでのCAR-T細胞、特に固形がんの処置のためのCAR-T細胞が十分に存続できない重要な理由は、CAR-T細胞が好ましくない腫瘍の微小環境を克服することが困難であることにある。特に、CAR T細胞は、固形がんの腫瘍床内に生着および拡大増殖できない場合がある。
【0013】
CAR T細胞の存続および活性を、サイトカインの投与、またはサイトカイン、毒素、もしくは他の因子を分泌または発現するようにCAR T細胞を操作することによって増強することができる。しかしながら、これらのアプローチには以下の限界がある:サイトカインの全身投与は有毒であり得る;サイトカインの構成的産生が制御されない増殖および形質転換をもたらし得る。
【0014】
したがって、患者間ならびに同一患者内の腫瘍細胞間および腫瘍細胞部位間の不均一性を特に念頭に置いたCAR-T細胞治療が一般に遭遇する問題に取り組む代替CAR処置アプローチが必要である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】古典的キメラ抗原受容体を示す概要図。(a)キメラ抗原受容体の基本スキーム;(b)第1世代の受容体;(c)第2世代の受容体;(d)第3世代の受容体。
【0016】
【
図2】in vivoでのa)T細胞活性化およびb)T細胞阻害の機序を示す概要図。
【0017】
【
図3】JAK-STATシグナル伝達経路(α-インターフェロンによって活性化される)を示す概要図。
【0018】
【
図4】キメラ抗原受容体の異なる結合ドメイン形式。(a)Fab CAR形式;(b)dAb CAR形式;(c)scFv CAR形式
【0019】
【
図5】2つの遺伝子を共発現するシングルベクター(A);および各々が単一の遺伝子を発現する2つのベクターの混合物(B)での形質導入によって得た形質導入細胞組成物の相違を示す概要図。バイシストロン性カセットを有するシングルベクターで細胞を形質導入する場合、首尾よく形質導入されたあらゆる細胞は、およそ1:1の化学量論量で両方の導入遺伝子を発現する(A)。しかしながら,細胞を複数のベクターで形質導入する場合、さらに多くの不均一な集団が得られる:形質導入された細胞は、第1の導入遺伝子のみ、第2の導入遺伝子のみ、または両方の導入遺伝子を発現し得る。両方の導入遺伝子を発現する細胞では、遺伝子Aおよび遺伝子Bの相対発現レベルは、完全に不定である(B)。
【0020】
【
図6】T細胞をベクター(AおよびB)の混合物で形質導入した場合、ある比率の細胞を形質導入しない場合;ある比率の細胞をベクターAのみで形質導入した場合;ある比率の細胞をベクターBのみで形質導入した場合;およびある比率の細胞をベクターAおよびBで形質導入した場合を示す散布図。この研究では、細胞をベクターの混合物で形質導入し、そのうちの1つは抗CD19 CARを発現し、そのうちの1つはCD22 CARを発現する。
【0021】
【
図7】実施例3に記載のデュアルベクター組成物で使用したベクターによって発現された分子を示す概要図。ベクター1は、GD2に結合する抗原結合ドメインを有するCAR(GD2 CAR)、構成性に活性なサイトカイン受容体(CCR)および選別/自殺遺伝子(RQR8)を発現する。ベクター2は、同一のGD2 CAR、ドミナントネガティブSHP-2(ΔSHP2);ドミナントネガティブトランスフォーミング成長因子(TGF)βII受容体(ΔTGFbRII)、および同一の選別/自殺遺伝子(RQR8)を発現する。
【0022】
【
図8】一重および二重に形質導入されたT細胞集団がGD2発現(SupT1 GD2)標的細胞および非発現(SupT1 NT)標的細胞を死滅させる能力の調査。
【0023】
【
図9】さらなる抗原刺激を行わずに無サイトカイン完全細胞培養培地中で7日間培養した後の一重および二重に形質導入されたT細胞集団の増殖の調査。
【0024】
【
図10-1】一重および二重に形質導入されたT細胞集団がTGFβの存在下または非存在下でGD2発現(SupT1 GD2)標的細胞および非発現(SupT1 NT)標的細胞を死滅させる能力の調査。
【
図10-2】一重および二重に形質導入されたT細胞集団がTGFβの存在下または非存在下でGD2発現(SupT1 GD2)標的細胞および非発現(SupT1 NT)標的細胞を死滅させる能力の調査。
【0025】
【
図11-1】TGFβの存在下または非存在下でGD2発現(SupT1 GD2)標的細胞および非発現(SupT1 NT)標的細胞を共培養した後の一重および二重に形質導入されたT細胞集団由来のサイトカイン産生(IFNγ)の調査。
【
図11-2】TGFβの存在下または非存在下でGD2発現(SupT1 GD2)標的細胞および非発現(SupT1 NT)標的細胞を共培養した後の一重および二重に形質導入されたT細胞集団由来のサイトカイン産生(IFNγ)の調査。
【0026】
【
図12A】
図12。NSGマウスの樹立神経芽細胞腫異種移植片モデルにおける静脈内投与によるデュアルベクター組成物で形質導入されたT細胞の抗腫瘍活性を調査したin vivoアッセイの結果。1×10
6個のCHLA-255 Fluc細胞を、雌NSGマウスにi.v.注射した。BLIによって安定な生着を検出することができるまで15日間異種移植片を定着させた。GD2 CARを発現するシングルベクター(GD2 CAR)での細胞の形質導入または実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7 CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII)での形質導入のいずれかによって、CAR-T細胞を作製した。CAR T細胞を、3×10
6個のCAR T細胞/マウスの用量でi.v.投与した。CHLA-255 Flucの定量した生物発光シグナルを、全流束(total flux)(光子/秒)として経時的にプロットした。A.GD2 CARのみを発現するCAR-T細胞(GD2 CAR);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)を投与したマウスについての経時蛍光シグナルを示すグラフ。B.GD2 CARのみを発現するCAR-T細胞(GD2 CAR);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)の投与から-1、2、7、10、および14日後に得たマウスの腹側画像。C.実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7 CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)で形質導入された細胞を投与したマウスについての経時蛍光シグナルを示すグラフ。D.実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7 CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)で形質導入された細胞の投与から-1、2、7、10、および14日後に得たマウスの腹側画像。
【
図12B】
図12。NSGマウスの樹立神経芽細胞腫異種移植片モデルにおける静脈内投与によるデュアルベクター組成物で形質導入されたT細胞の抗腫瘍活性を調査したin vivoアッセイの結果。1×10
6個のCHLA-255 Fluc細胞を、雌NSGマウスにi.v.注射した。BLIによって安定な生着を検出することができるまで15日間異種移植片を定着させた。GD2 CARを発現するシングルベクター(GD2 CAR)での細胞の形質導入または実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7 CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII)での形質導入のいずれかによって、CAR-T細胞を作製した。CAR T細胞を、3×10
6個のCAR T細胞/マウスの用量でi.v.投与した。CHLA-255 Flucの定量した生物発光シグナルを、全流束(total flux)(光子/秒)として経時的にプロットした。A.GD2 CARのみを発現するCAR-T細胞(GD2 CAR);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)を投与したマウスについての経時蛍光シグナルを示すグラフ。B.GD2 CARのみを発現するCAR-T細胞(GD2 CAR);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)の投与から-1、2、7、10、および14日後に得たマウスの腹側画像。C.実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7 CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)で形質導入された細胞を投与したマウスについての経時蛍光シグナルを示すグラフ。D.実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7 CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)で形質導入された細胞の投与から-1、2、7、10、および14日後に得たマウスの腹側画像。
【
図12C】
図12。NSGマウスの樹立神経芽細胞腫異種移植片モデルにおける静脈内投与によるデュアルベクター組成物で形質導入されたT細胞の抗腫瘍活性を調査したin vivoアッセイの結果。1×10
6個のCHLA-255 Fluc細胞を、雌NSGマウスにi.v.注射した。BLIによって安定な生着を検出することができるまで15日間異種移植片を定着させた。GD2 CARを発現するシングルベクター(GD2 CAR)での細胞の形質導入または実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7 CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII)での形質導入のいずれかによって、CAR-T細胞を作製した。CAR T細胞を、3×10
6個のCAR T細胞/マウスの用量でi.v.投与した。CHLA-255 Flucの定量した生物発光シグナルを、全流束(total flux)(光子/秒)として経時的にプロットした。A.GD2 CARのみを発現するCAR-T細胞(GD2 CAR);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)を投与したマウスについての経時蛍光シグナルを示すグラフ。B.GD2 CARのみを発現するCAR-T細胞(GD2 CAR);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)の投与から-1、2、7、10、および14日後に得たマウスの腹側画像。C.実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7 CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)で形質導入された細胞を投与したマウスについての経時蛍光シグナルを示すグラフ。D.実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7 CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)で形質導入された細胞の投与から-1、2、7、10、および14日後に得たマウスの腹側画像。
【
図12D】
図12。NSGマウスの樹立神経芽細胞腫異種移植片モデルにおける静脈内投与によるデュアルベクター組成物で形質導入されたT細胞の抗腫瘍活性を調査したin vivoアッセイの結果。1×10
6個のCHLA-255 Fluc細胞を、雌NSGマウスにi.v.注射した。BLIによって安定な生着を検出することができるまで15日間異種移植片を定着させた。GD2 CARを発現するシングルベクター(GD2 CAR)での細胞の形質導入または実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7 CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII)での形質導入のいずれかによって、CAR-T細胞を作製した。CAR T細胞を、3×10
6個のCAR T細胞/マウスの用量でi.v.投与した。CHLA-255 Flucの定量した生物発光シグナルを、全流束(total flux)(光子/秒)として経時的にプロットした。A.GD2 CARのみを発現するCAR-T細胞(GD2 CAR);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)を投与したマウスについての経時蛍光シグナルを示すグラフ。B.GD2 CARのみを発現するCAR-T細胞(GD2 CAR);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)の投与から-1、2、7、10、および14日後に得たマウスの腹側画像。C.実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7 CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)で形質導入された細胞を投与したマウスについての経時蛍光シグナルを示すグラフ。D.実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7 CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII);非形質導入T細胞(NT)、または緩衝液のみ(PBS)で形質導入された細胞の投与から-1、2、7、10、および14日後に得たマウスの腹側画像。
【0027】
【
図13A】
図13。(A)実施例6に記載のトリプルベクター組成物「AUTO7」で使用したベクターによって発現された分子を示す概要図。 ベクターAは、短縮SHP2(dSHP2);安全スイッチRQR8;新規のヒト化バインダー7A12に基づいた抗PSMA CAR(7A12-28z);およびドミナントネガティブTGFβRII(dnTBRII)を発現する。 ベクターBは、構成性に活性なIL-7受容体(CCR_IL7)を発現する。 ベクターCは、RapaCasp9自殺遺伝子(RapaCasp9);CD19(dCD19)、およびIL-12モジュール(flexiIL-12)を発現する。「2A」は、FMDV 2Aペプチドに基づいた共発現配列である。 (B)トリプルベクター組成物についての別の配置。成分は、上記の(A)に示すとおりである。dNGFRは、マーカータンパク質として使用される短縮神経成長因子受容体である。
【
図13B】
図13。(A)実施例6に記載のトリプルベクター組成物「AUTO7」で使用したベクターによって発現された分子を示す概要図。 ベクターAは、短縮SHP2(dSHP2);安全スイッチRQR8;新規のヒト化バインダー7A12に基づいた抗PSMA CAR(7A12-28z);およびドミナントネガティブTGFβRII(dnTBRII)を発現する。 ベクターBは、構成性に活性なIL-7受容体(CCR_IL7)を発現する。 ベクターCは、RapaCasp9自殺遺伝子(RapaCasp9);CD19(dCD19)、およびIL-12モジュール(flexiIL-12)を発現する。「2A」は、FMDV 2Aペプチドに基づいた共発現配列である。 (B)トリプルベクター組成物についての別の配置。成分は、上記の(A)に示すとおりである。dNGFRは、マーカータンパク質として使用される短縮神経成長因子受容体である。
【0028】
【
図14】一重、二重、および三重に形質導入されたT細胞がPSMAを発現する標的細胞を死滅させる能力を調査したFACSベースの殺滅(FBK)アッセイの結果。A:標的細胞の生存を示すために細胞蛍光分析を使用した24時間のインキュベーション後のFBK。B:24時間後に記載の共培養物から上清を回収し、ELISAによって検出することによって測定したCAR T細胞によるIL-2およびIFNγの分泌。 AUTO7を、ベクターAを使用した一重形質導入の産物(「AUTO7/A」)、またはベクターAおよびBを使用したダブル形質導入の産物(「AUTO7/AB」)、またはベクターA、B、およびCを使用した三重形質導入の産物(「AUTO7/ABC」)として調査した。AUTO7を、同一の抗PSMAバインダー7A12を使用して開発した第2世代のCAR(「親」)に対して試験した。 異なるレベルでヒトPSMA抗原を発現するように操作したSupT1標的細胞(SupT1-PSMAhigh、SupT1-PSMAlow)を、標的細胞として使用した。非操作SupT1細胞(SupT1-NT)を、負の対照として使用した。CAR T細胞を、エフェクター:標的比1:2で標的細胞と共培養した。
【0029】
【
図15A】
図15。無サイトカイン完全細胞培養培地中での培養後に、一重、二重、および三重に形質導入されたT細胞がPSMAを発現する標的細胞を死滅させる能力を調査したFACSベースの殺滅(FBK)アッセイの結果。「飢餓条件」での7日間の培養後、CAR T細胞を、SupT1-PSMAhigh標的細胞およびSupT1-PSMAlow標的細胞(または負の対照としてのSupT1-NT細胞)と1:2および1:8のエフェクター:標的比で共培養した。A:標的細胞の生存を示すために細胞蛍光分析を使用した24時間のインキュベーション後のFBK。B:24時間後に記載の共培養物から上清を回収し、ELISAによって検出することによって測定したCAR T細胞によるIL-2およびIFNγの分泌。
【
図15B】
図15。無サイトカイン完全細胞培養培地中での培養後に、一重、二重、および三重に形質導入されたT細胞がPSMAを発現する標的細胞を死滅させる能力を調査したFACSベースの殺滅(FBK)アッセイの結果。「飢餓条件」での7日間の培養後、CAR T細胞を、SupT1-PSMAhigh標的細胞およびSupT1-PSMAlow標的細胞(または負の対照としてのSupT1-NT細胞)と1:2および1:8のエフェクター:標的比で共培養した。A:標的細胞の生存を示すために細胞蛍光分析を使用した24時間のインキュベーション後のFBK。B:24時間後に記載の共培養物から上清を回収し、ELISAによって検出することによって測定したCAR T細胞によるIL-2およびIFNγの分泌。
【0030】
【
図16】TGFβの存在下または非存在下で一重、二重、および三重に形質導入されたT細胞がPSMAを発現する標的細胞を死滅させる能力を調査したFACSベースの殺滅(FBK)アッセイの結果。CAR T細胞を、10ng/ml TGFβ1の存在下または非存在下のいずれかでSupT1-PSMAhigh標的およびSupT1-PSMAlow標的と1:2および1:8(E:T)の比で7日間共培養した(SupT1-NTを対照として使用した)。標的細胞の殺滅をFACSによって定量し、標的のみに対して正規化した。
【0031】
【
図17】標的細胞での再刺激を繰り返した後の一重、二重、および三重に形質導入されたT細胞がPSMAを発現する標的細胞を死滅させる能力を調査したFACSベースの殺滅(FBK)アッセイの結果。形質導入されたT細胞を、SupT1-PSMAhigh標的細胞またはSupT1-PSMAlow標的細胞と1:1(E:T)の比で共培養した。7日ごとにCAR T細胞を5×10
4個のSupT1細胞で再度刺激した。標的細胞の殺滅をFACSによって定量後、各々新たに再刺激を行った。
【0032】
【
図18A-1】
図18。NSGマウスの前立腺がん異種移植片モデルにおける静脈内投与によるトリプルベクター組成物で形質導入されたT細胞の抗腫瘍活性を調査したin vivoアッセイ。5×10
6個のPSMA陽性PC3ヒト細胞株を、雌NSGマウスの側腹部に注射した。触診およびカリパスによる測定によって安定な生着を検出することができるまで3週間異種移植片を定着させた。CAR T細胞を、1×10
6個のCAR T細胞/マウスの用量でi.v.投与した。カリパス測定を、1週間に2~3回行った。A:ベクターAを使用した一重形質導入(「AUTO7/A」)、ベクターAおよびBを使用した二重形質導入(「AUTO7/AB」)、ベクターA、B、およびCを使用した三重形質導入(「AUTO7/ABC」);または同一の抗PSMAバインダー7A12を使用して開発した第2世代のCAR(「親」)によって作製した細胞を投与したマウスについてのデータ;B:
図18Aに示すデータのまとめ。
【
図18A-2】
図18。NSGマウスの前立腺がん異種移植片モデルにおける静脈内投与によるトリプルベクター組成物で形質導入されたT細胞の抗腫瘍活性を調査したin vivoアッセイ。5×10
6個のPSMA陽性PC3ヒト細胞株を、雌NSGマウスの側腹部に注射した。触診およびカリパスによる測定によって安定な生着を検出することができるまで3週間異種移植片を定着させた。CAR T細胞を、1×10
6個のCAR T細胞/マウスの用量でi.v.投与した。カリパス測定を、1週間に2~3回行った。A:ベクターAを使用した一重形質導入(「AUTO7/A」)、ベクターAおよびBを使用した二重形質導入(「AUTO7/AB」)、ベクターA、B、およびCを使用した三重形質導入(「AUTO7/ABC」);または同一の抗PSMAバインダー7A12を使用して開発した第2世代のCAR(「親」)によって作製した細胞を投与したマウスについてのデータ;B:
図18Aに示すデータのまとめ。
【
図18B】
図18。NSGマウスの前立腺がん異種移植片モデルにおける静脈内投与によるトリプルベクター組成物で形質導入されたT細胞の抗腫瘍活性を調査したin vivoアッセイ。5×10
6個のPSMA陽性PC3ヒト細胞株を、雌NSGマウスの側腹部に注射した。触診およびカリパスによる測定によって安定な生着を検出することができるまで3週間異種移植片を定着させた。CAR T細胞を、1×10
6個のCAR T細胞/マウスの用量でi.v.投与した。カリパス測定を、1週間に2~3回行った。A:ベクターAを使用した一重形質導入(「AUTO7/A」)、ベクターAおよびBを使用した二重形質導入(「AUTO7/AB」)、ベクターA、B、およびCを使用した三重形質導入(「AUTO7/ABC」);または同一の抗PSMAバインダー7A12を使用して開発した第2世代のCAR(「親」)によって作製した細胞を投与したマウスについてのデータ;B:
図18Aに示すデータのまとめ。
【発明の概要】
【0033】
発明の態様の概要
本発明者らは、CAR治療における腫瘍細胞および微小環境の不均一性の問題に取り組むための組み合わせアプローチを開発した。
【0034】
細胞を複数のベクターで同時に形質導入する場合、得られた産物は、単独でおよび組み合わせで形質導入された細胞の混合物である。例えば、細胞を2つのベクター(導入遺伝子Aを含むベクターおよび導入遺伝子Bを含むベクター)で形質導入する場合、形質導入された細胞は、Aのみを発現する細胞;Bのみを発現する細胞;ならびにAおよびBの両方を発現する細胞の混合物である(
図5B)。各々導入遺伝子を含む3つのベクターで形質導入された細胞について、得られた形質導入された細胞は、以下の混合物である:Aのみ;Bのみ;Cのみ;AおよびB;AおよびC;BおよびC;ならびにA、B、およびCを発現する細胞。
【0035】
本発明は、治療用CAR-T細胞産物などの混合物を使用することを含む。組み合わせ産物を使用すると、標的細胞におけるおよび腫瘍微小環境における差違に適応する産物の能力を強化する固有の柔軟性が得られる。
【0036】
例えば、ベクターは、異なるCAR(例えば、その抗原結合ドメインおよび/または共刺激ドメイン(複数可)が異なり得る)の組み合わせをコードし得る。あるいはまたはさらに、1またはそれを超えるベクターは、CARの、CARを発現する細胞の、または標的細胞の活性を調整する活性調節因子をコードし得る。組み合わせCAR T細胞組成物をin vivoで投与する場合、細胞は、体内の異なる腫瘍部位に移動する。CAR(複数可)と活性調節因子(複数可)の特定の組み合わせを発現するCAR-T細胞亜集団はどれであっても腫瘍部位で生存し、存続し、標的細胞を死滅させる能力を最適に備えているので、産物中の他の亜集団を超える選択的利点を有し、これらの亜集団に打ち勝つ。こうして、CAR-T細胞産物は、患者間および同一患者内の部位間の腫瘍不均一性に適応することができる。
【0037】
また、本方法を使用して、患者を分析して患者内でどのCAR-T細胞の亜集団が最良の存続および/または活性を示すのかを調査することによって、どのベクターの組み合わせが特定の疾患または疾患のサブタイプの処置のためのCAR-T細胞の生成に最適であるのかを確証することができる。
【0038】
したがって、第1の態様では、本発明は、細胞組成物を作製する方法であって、細胞の集団を少なくとも2つのウイルスベクターの混合物で形質導入するステップを含み、ここで、少なくとも1つのベクターが、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む、方法を提供する。
【0039】
本発明の方法を、操作されたT細胞受容体を発現する細胞に等しく適用し得る。また、下記のありとあらゆる態様および実施形態は、操作されたTCR発現細胞に適用可能である。
【0040】
混合物は、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれを超えるウイルスベクターを含み得る。
【0041】
混合物中の2またはそれを超えるウイルスベクターは、各々、CARをコードする核酸配列を含み得る。第1のCARおよび第2のCARは、異なる抗原結合ドメインおよび/または異なるスペーサーおよび/または異なるエンドドメインを有し得る。
【0042】
1またはそれを超えるウイルスベクターのCARをコードする核酸は、2またはそれを超えるCARをコードし得る。例えば、核酸は、CAR論理ゲート(ORゲートなど)をコードし得る。
【0043】
本発明は、細胞組成物を作製する方法であって、細胞の集団を少なくとも2つのウイルスベクターの混合物で形質導入するステップを含み、ここで、少なくとも1つのベクターが、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含み;ここで、少なくとも1つのベクターが、前述のCARの、前述のCARを発現する細胞の、または標的細胞の活性を調整する活性調節因子をコードする核酸を含む、方法を提供する。
【0044】
本発明のテクノロジーは、活性調節因子(複数可)の発現に関連する限り、CARや操作されたTCRを発現しない養子細胞治療用の細胞(腫瘍浸潤リンパ球(TIL)など)に等しく適用される。また、下記のありとあらゆる態様および実施形態は、活性調節因子(複数可)の発現に関連する限り、治療用T細胞(TILなど)に一般に適用可能である。
【0045】
混合物中の1またはそれを超えるウイルスベクターは、このベクターで形質導入された細胞がCARおよび活性調節因子を共発現するように、CARおよび活性調節因子の両方をコードする核酸配列を含み得る。
【0046】
CARの活性を調整する活性調節因子は、CAR発現細胞:標的細胞シナプスでのリン酸化と脱リン酸化との間のバランスに影響を及ぼし得る。例えば、活性調節因子は、CARエンドドメインにおいて免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM)をリン酸化することができるキナーゼドメインを含み得る。
【0047】
あるいは、活性調節因子は、キナーゼをCARの近傍(キナーゼがCARエンドドメインにおいてITAMをリン酸化することができる場所)に動員することができる場合がある。
【0048】
CAR発現細胞の活性を調整する活性調節因子は、細胞内分子であり得るか、細胞表面に発現され得る。
【0049】
in vivoでは、膜結合した免疫阻害性受容体(CTLA4、PD-1、LAG-3、2B4、またはBTLA1など)は、T細胞活性化を阻害する。活性調節因子は、この阻害性経路を遮断するか、影響を及ぼし得る。
【0050】
活性調節因子は、阻害性免疫受容体に結合するか、阻害性免疫受容体(immunreceptor)のリガンドに結合する抗体などの作用因子であり得る。
【0051】
阻害性免疫受容体(CTLA4、PD-1、LAG-3、2B4、またはBTLA1など)によって媒介された阻害を遮断または軽減する活性調節因子は、ITAMのリン酸化が有利となるように、T細胞:標的細胞シナプスでのリン酸化:脱リン酸化(dephosporylation)のバランスを崩し、T細胞の活性化をもたらし得る。例えば、活性調節因子は、阻害性受容体(複数可)のエンドドメイン(endodmain)においてITIMのリン酸化を遮断または軽減し得るか、SHP-1およびSHP-2などのタンパク質によるCARシグナル伝達ドメインにおけるITAMの脱リン酸化を遮断または軽減し得る。
【0052】
活性調節因子は、ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2であり得る。
【0053】
例えば、活性調節因子は、リン酸化した免疫受容抑制性チロシンモチーフ(ITIM)に結合するタンパク質(SHP-1またはSHP-2など)に由来するSH2ドメインを含むが、ホスファターゼドメインを欠く短縮タンパク質であり得る。
【0054】
活性調節因子は、IL12、flexiIL-12、GM-CSF、IL7、IL15、IL21、IL2、またはCCL19などのサイトカインまたはケモカインであり得る。
【0055】
あるいは、活性調節因子は、CAR発現細胞におけるサイトカイン/ケモカインシグナル伝達経路に影響を及ぼし得る。
【0056】
例えば、活性調節因子は、サイトカイン受容体エンドドメインを含むキメラサイトカイン受容体であり得る。エキソドメインは、異なるサイトカイン-受容体に由来し得るか、サイトカイン受容体に由来しない場合がある。エキソドメインは、リガンド(例えば、腫瘍抗原または分泌因子)に結合し得る。リガンドが存在するとサイトカイン受容体エンドドメインの2つの鎖が会合してサイトカインシグナル伝達に至り得る。
【0057】
活性調節因子は、構成性に活性なキメラサイトカイン受容体であり得る。活性調節因子は、自発的にか作用因子(二量体化の化学誘導物質すなわちCID)の存在下で2つのサイトカイン受容体エンドドメインが一緒になって二量体化する2つの鎖を含み得る。
【0058】
活性調節因子は、JAK/STATサイトカインシグナル伝達経路に影響を及ぼし得る。活性調節因子は、誘導性または構成性に活性なシグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)またはヤヌスキナーゼ(JAK)を含み得る。
【0059】
活性調節因子は、接着分子または転写因子であり得るか、これらを含み得る。転写因子は、CAR発現細胞の分化および/または疲弊を防止または軽減し得る。
【0060】
本発明の活性調節因子は、TGFβシグナル伝達を調整し得る。
【0061】
例えば、活性調節因子は、TGFβ受容体へのTGFβ結合を遮断または軽減し得る;活性調節因子は、TGFβまたはTGFβRと、TGFβRまたはTGFβへの結合を競合し得る;あるいは、活性調節因子は、例えばSMADを介した下流TGFβシグナル伝達を調整し得る。活性調節因子は、ドミナントネガティブTGFβ受容体であり得る。
【0062】
本発明の活性調節因子は、T細胞に共刺激シグナルを提供し得る。
【0063】
例えば、活性調節因子(activity modulatory)は、TNF受容体、キメラTNF受容体、またはTNF受容体リガンドであり得る。
【0064】
活性調節因子は、標的細胞(例えば、腫瘍細胞)の活性を調整し得る。
【0065】
作用因子は、毒素、プロドラッグ、またはプロドラッグ活性化化合物であり得る。
【0066】
活性調節因子は、細胞内で発現されたか、組み合わせて発現された場合に小分子を合成することができる酵素であり得る。CAR発現細胞内でかかる酵素または酵素の組み合わせが発現すると、前述の細胞上で小分子(腫瘍細胞に有毒な小分子など)を合成する能力を付与することができる。
【0067】
あるいは、活性調節因子は、CAR発現細胞によって分泌される酵素であり得る。活性調節因子は、細胞表面で分泌または発現された場合に、操作された細胞の細胞外の分子を枯渇させる1またはそれを超える酵素であり得、前述の分子は、以下:
(i)腫瘍細胞が生存、増殖、転移するか、または化学抵抗性を示すために必要であり、そして/または
(ii)操作された細胞の生存、増殖、または活性に有害である。
【0068】
酵素(複数可)は、例えば、アミノ酸もしくはアミノ酸代謝産物、核酸塩基(ヌクレオシドまたはヌクレオチドなど)、または脂質を枯渇させ得る。
【0069】
本発明の方法では、ウイルスベクターの混合物は、ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2をコードする核酸配列を含む少なくとも1つのベクター;およびドミナントネガティブトランスフォーミング成長因子(TGF)β受容体をコードする核酸配列を含む少なくとも1つのベクターを含み得る。
【0070】
ウイルスベクターの混合物は、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つのウイルスベクターを含み得、そのうちの少なくとも1つが、CARをコードする核酸配列を含み;そのうちの少なくとも1つが、活性調節因子をコードする核酸配列を含む。
【0071】
本発明は、以下のステップを含み得る:
(i)細胞の集団を少なくとも2つのウイルスベクターの混合物で形質導入するステップ;および
(ii)ステップ(i)由来の前述の形質導入された細胞集団からCAR発現細胞を選択するステップ。
【0072】
あるいは、混合物中のウイルスベクターの各々がCARをコードする核酸配列を含む場合、形質導入された細胞集団からCAR発現細胞を選択または精製する必要はない場合がある。
【0073】
第2の態様では、本発明は、ウイルスベクター組成物を提供する。ウイルスベクター組成物は、2またはそれを超えるベクターの混合物を含み得る。ベクター組成物は、本発明の第1の態様の方法での使用に適切であり得る。
【0074】
ウイルスベクター組成物は、第1のベクターおよび第2のベクターを含み得、その両方がキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む。
【0075】
第1のベクターによって発現されるCARは、第2のベクターによって発現されるCARと同一であり得る。例えば、第1のベクターによって発現されるCARは、第2のベクターによって発現されるCARと同一の抗原結合ドメインを有し得る。
【0076】
また、第1のベクターおよび/または第2のベクターは、CARの、CARを発現する細胞の、または標的細胞の活性を調整する活性調節因子を発現し得る。第1のベクターおよび第2のベクターの両方が活性調節因子を発現する場合、第1のベクターおよび第2のベクターは、異なる活性調節因子または活性調節因子の異なる組み合わせを発現し得る。
【0077】
例えば、第1のベクターおよび第2のベクターは、ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2;ドミナントネガティブトランスフォーミング成長因子(TGF)β受容体;および構成性に活性なキメラサイトカイン受容体から選択される1またはそれを超える活性調節因子を発現し得る。
【0078】
1つの配置において、第1のベクターは、ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2をコードする核酸配列およびドミナントネガティブトランスフォーミング成長因子(TGF)β受容体をコードする核酸配列を含み得る;第2のベクターは、構成性に活性なキメラサイトカイン受容体をコードする核酸配列を含み得る。
【0079】
第1および第2のベクターが同一のCARをコードする場合、CARは、ジシアロガングリオシド(GD2)に結合する抗原結合ドメインを有し得る。
【0080】
第1のベクターおよび/または第2のベクターは、自殺遺伝子をコードする核酸配列を含み得る。
【0081】
また、本発明は、本発明の方法によって作製されたか、ex vivoで細胞を本発明のベクター組成物で形質導入することによって作製された細胞組成物を提供する。
【0082】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の方法によって作製されたか、細胞の集団を本発明の第2の態様のウイルスベクター組成物で形質導入することによって作製された細胞組成物を提供する。
【0083】
第4の態様では、本発明の第3の態様の細胞組成物を被験体に投与するステップを含む、被験体の疾患を処置する方法を提供する。
【0084】
第5の態様では、疾患の処置および/または防止に使用するための、本発明の第3の態様の細胞組成物を提供する。
【0085】
第6の態様では、疾患の処置および/または防止のための医薬の製造における、本発明の第3の態様の細胞組成物の使用を提供する。
【0086】
第7の態様では、疾患を処置するためのCAR発現細胞の成分の最適な組み合わせを決定する方法であって、以下のステップ:
(i)本発明の第2の態様に記載の細胞組成物を、前述の疾患を有する被験体に投与するステップ;
(ii)前述の患者または前述の患者由来の試料をモニタリングして、前述の細胞組成物中のどの細胞の亜集団が最も高いレベルの生着および/または増殖を示すのかを決定する、モニタリングするステップ;および
(iii)亜集団中の前述の細胞の表現型/遺伝子型を解析して、これらの前述の細胞によって発現されたCAR(複数可)および/または活性調節因子(複数可)を確認する、解析するステップ
を含む、方法を提供する。
【0087】
さらなる態様
本発明はまた、以下の番号をつけたパラグラフにまとめたさらなる態様を提供する。
1.ドミナントネガティブSHP-2をコードする核酸配列およびドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列を含む核酸構築物。
2.以下の構造を有するパラグラフ1に記載の核酸構築物:
dnSHP-coexpr-dnTGFβR、または
dnTGFβR-coexpr-dnSHP
ここで、
dnSHPは、ドミナントネガティブSHP-2をコードする核酸配列であり、
「coexpr」は、個別の実体として2つのポリペプチドを共発現することができる核酸配列であり、
「dnTGFβR」は、ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列である。
3.CARをコードする核酸配列も含むパラグラフ1に記載の核酸構築物。
4.以下の構造を有するパラグラフ3に記載の核酸構築物:
CAR-coexpr1-dnSHP-coexpr2-dnTGFβR
CAR-coexpr1-dnTGFβR-coexpr2-dnSHP
dnTGFβR-coexpr1-CAR-coexpr2-dnSHP
dnTGFβR-coexpr1-dnSHP-coexpr2-CAR
dnSHP-coexpr1-dnTGFβR-coexpr2-CARまたは
dnSHP-coexpr1-CAR-coexpr2-dnTGFβR
ここで、
dnSHPは、ドミナントネガティブSHP-2をコードする核酸配列であり、
「coexpr1」および「coexpr2」は、同一でも異なっていてもよく、個別の実体として3つのポリペプチドを共発現することができる核酸配列であり、
「dnTGFβR」は、ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列であり;
「CAR」は、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列である。
5.以下の構造を有するパラグラフ4に記載の核酸構築物:
dnSHP-coexpr1-CAR-coexpr2-dnTGFβR。
6.CARが以下の標的抗原:CD19、CD22、BCMA、PSMA、CD79、GD2、またはFCRL5のうちの1つに結合する、パラグラフ3~5のいずれかに記載の核酸構築物。
7.2つのCARをコードするバイシストロン性核酸配列を含む、パラグラフ3に記載の核酸構築物。
8.以下の構造を有するパラグラフ7に記載の核酸構築物:
dnSHP-coexpr1-CAR1-coexpr2-CAR2-coexpr3-dnTGFβR
ここで、
「dnSHP」は、ドミナントネガティブSHP-2をコードする核酸配列であり、
「coexpr1」、「coexpr2」、および「coexpr3」は、同一でも異なっていてもよく、個別の実体として4つのポリペプチドを共発現することができる核酸配列であり;
「CAR1」は、第1のキメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「CAR2」は、第2のキメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「dnTGFβR」は、ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列である。
9.一方のCARはCD19に結合し、他方のCARはCD22に結合する、パラグラフ7または8に記載の核酸構築物。
10.CARは、CD19に結合し、以下を含む抗原結合ドメインを有するパラグラフ6に記載の核酸構築物:
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
CDR1-GYAFSSS(配列番号1);
CDR2-YPGDED(配列番号2)
CDR3-SLLYGDYLDY(配列番号3);および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
CDR1-SASSSVSYMH(配列番号4);
CDR2-DTSKLAS(配列番号5)
CDR3-QQWNINPLT(配列番号6)。
11.抗原結合ドメインが、配列番号7として示した配列を有するVHドメインおよび配列番号8として示した配列を有するVLドメインを含む、パラグラフ10に記載の核酸構築物。
12.自殺遺伝子をコードする核酸配列も含む、前述のパラグラフのいずれかに記載の核酸構築物。
13.前述のパラグラフのいずれかに記載の核酸構築物を含むベクター。
14.パラグラフ13に記載の第1のベクターおよびキメラ抗原受容体(CAR)または活性調節因子をコードする核酸配列を含む第2のベクターを含む、ベクターのキット。
15.ドミナントネガティブSHP-2をコードする核酸配列を含む第1のベクターおよびドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列を含む第2のベクターを含む、ベクターのキット。
16.第1のベクターが第1のCARをコードする核酸配列を含み、第2のベクターが第2のCARをコードする核酸配列を含む、パラグラフ15に記載のベクターのキット。
17.第1および第2のCARが同一の標的抗原を有する、パラグラフ16に記載のベクターのキット。
18.第1および第2のCARが同一である、パラグラフ16に記載のベクターのキット。
19.パラグラフ12に記載の第1のベクター、およびキメラサイトカイン受容体(CCR)をコードする第2のベクターを含む、ベクターのキット。
20.第1のベクターが第1のCARをコードする核酸配列を含み、第2のベクターが第2のCARをコードする核酸配列を含む、パラグラフ19に記載のベクターのキット。
21.第1および第2のCARが同一の標的抗原を有する、パラグラフ20に記載のベクターのキット。
22.第1および第2のCARが同一である、パラグラフ20に記載のベクターのキット。
23.第1のベクターが第1の自殺遺伝子をコードする核酸配列を含み、第2のベクターが第2の自殺遺伝子をコードする核酸配列を含む、パラグラフ14~22のいずれかに記載のベクターのキット。
24.第1および第2の自殺遺伝子が同一の分子によって誘発される、パラグラフ23に記載のベクターのキット。
25.第1および第2の自殺遺伝子が異なる分子によって誘発される、パラグラフ23に記載のベクターのキット。
26.ベクターが以下の構造を有する、パラグラフ23~25のいずれかに記載のベクターのキット:
ベクター1:CAR1-coexpr1-SG1-coepr2-dSHP2-coexpr3-dnTGFβR
ベクター2:CAR2-coexpr4-SG2-coepr5-CCR
ここで、
「CAR1」は、第1のキメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「coexpr1」、「coexpr2」、「coexpr3」、「coexpr4」、「co-expr5」は、同一でも異なっていてもよく、個別の実体として7つのポリペプチドを共発現することができる核酸配列であり;
「SG1」は、第1の自殺遺伝子をコードする核酸配列であり;
「dnSHP」は、ドミナントネガティブSHP-2をコードする核酸配列であり;
「dnTGFβR」は、ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列であり;
「CAR2」は、CAR1と同一でも同一でなくてもよい第2のキメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「SG2」は、SG1と同一でも同一でなくてもよい第1の自殺遺伝子をコードする核酸配列であり;
「CCR」は、キメラサイトカイン受容体をコードする核酸配列である。
27.サイトカインをコードする核酸配列を含む第3のベクターも含む、パラグラフ14~26のいずれかに記載のベクターのキット。
28.サイトカインが、IL-12またはFlexi-IL12である、パラグラフ27に記載のベクターのキット。
29.ベクターが以下の構造を有するパラグラフ28に記載のベクターのキット:
ベクター1:dnSHP2-coexpr1-SG1-coepr2-CAR-coexpr3-dnTGFβR
ベクター2:CCR
ベクター3:SG2-coexpr4-flexiIL12
ここで、
「dnSHP」は、ドミナントネガティブSHP-2をコードする核酸配列であり;
「coexpr1」、「coexpr2」、「coexpr3」、および「coexpr4」は、同一でも異なっていてもよく、個別の実体としてベクター1および3上の6つのポリペプチドを共発現することができる核酸配列であり;
「SG1」は、第1の自殺遺伝子をコードする核酸配列であり;
「CAR」は、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「dnTGFβR」は、ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列であり;
「CCR」は、キメラサイトカイン受容体をコードする核酸配列であり;
「SG2」は、SG1と同一でも同一でなくてもよい第1の自殺遺伝子をコードする核酸配列であり;
「flexiIL12」は、flexi-IL-12をコードする核酸配列である。
30.以下の混合物を含むベクター組成物:パラグラフ13に記載のベクターおよび少なくとも1つの他のウイルスベクター;パラグラフ14~26のいずれかに定義の第1および第2のベクター;またはパラグラフ27~29のいずれかに定義の第1、第2、および第3のベクター。
31.パラグラフ13に記載のベクター、パラグラフ14~29のいずれかに記載のベクターのキット、またはパラグラフ30に記載のベクター組成物で細胞の集団を形質導入するステップを含む、細胞組成物を作製する方法。
32.ドミナントネガティブSHP-2およびドミナントネガティブTGFβ受容体を共発現する細胞。
33.1またはそれを超えるキメラ抗原受容体(CAR(複数可))も発現する、パラグラフ32に記載の細胞。
34.CAR(複数可)がパラグラフ6~11のいずれかに定義の通りである、パラグラフ33に記載の細胞。
35.パラグラフ31に記載の方法によって作製されたか、パラグラフ32~34のいずれかに記載の複数の細胞を含む、細胞組成物。
36.パラグラフ35に記載の細胞組成物を被験体に投与するステップを含む、疾患を処置および/または防止する方法。
37.疾患ががんである、パラグラフ36に記載の方法。
38.疾患の処置および/または防止で用いるためのパラグラフ35に記載の細胞組成物。
39.疾患の処置および/または防止のための医薬の製造におけるパラグラフ32~34のいずれかに記載の細胞の使用。
40.ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列;IL7をコードする核酸配列;およびCCL19をコードする核酸配列を含む、核酸構築物。
41.以下の構造を有するパラグラフ40に記載の核酸構築物:
dnTGFβR-coexpr1-IL7-coexpr2-CCL19;
dnTGFβR-coexpr1-CCL19-coexpr2-IL7;
IL7-coexpr1-CCL19-coexpr2-dnTGFβR;
IL7-coexpr1-dnTGFβR-CCL19-coexpr2;
CCL19-coexpr1-IL7-coexpr2-dnTGFβR;または
CCL19-coexpr1-dnTGFβR-coexpr2-IL7
ここで、
「dnTGFβR」は、ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列であり;
「IL7」は、IL7をコードする核酸配列であり、
「CCL19」は、CCL19をコードする核酸配列であり、
「coexpr1」および「coexpr2」は、同一でも異なっていてもよく、個別の実体として3つのポリペプチドを共発現することができる核酸配列である。
42.CARをコードする核酸配列も含む、パラグラフ40に記載の核酸構築物。
43.以下の構造を有するパラグラフ3に記載の核酸構築物:
CAR-coexpr1-dnTGFβR-coexpr2-IL7-coexpr3-CCL19;
ここで、
dnTGFβR」は、ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列であり;
「IL7」は、IL7をコードする核酸配列であり、
「CCL19」は、CCL19をコードする核酸配列であり、
「CAR」は、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり、
「coexpr1」、「coexpr2」、および「coexpr3」は、同一でも異なっていてもよく、個別の実体として4つのポリペプチドを共発現することができる核酸配列である。
44.CARがGD2に結合する、パラグラフ3~5のいずれかに記載の核酸構築物。
45.パラグラフ40~44のいずれかに記載の核酸構築物を含むベクター。
46.IL7をコードする核酸配列およびCCL19をコードする核酸配列を含む第1のベクター;およびドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列を含む第2のベクターを含む、ベクターのキット。
47.両方のベクターが、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列も含む、パラグラフ46に記載のベクターのキット。
48.第1のベクターによってコードされるCARが、第2のベクターによってコードされるCARと同一である、パラグラフ47に記載のベクターのキット。
49.CARがGD2に結合する、パラグラフ48に記載のベクターのキット。
50.細胞の集団を、パラグラフ45に記載のベクターまたはパラグラフ46~49のいずれかに記載のベクターのキットで形質導入するステップを含む、細胞組成物を作製する方法。
51.ドミナントネガティブTGFβ受容体、IL7、およびCCL19を共発現する細胞。
52.1またはそれを超えるキメラ抗原受容体(CAR(複数可))も発現する、パラグラフ51に記載の細胞。
53.パラグラフ46に記載の方法によって作製されたか、パラグラフ51または52に記載の複数の細胞を含む、細胞組成物。
54.パラグラフ49に記載の細胞組成物を被験体に投与するステップを含む、疾患を処置および/または防止する方法。
55.疾患ががんである、パラグラフ54に記載の方法。
56.疾患の処置および/または防止で用いるためのパラグラフ53に記載の細胞組成物。
57.疾患の処置および/または防止のための医薬の製造におけるパラグラフ51または52に記載の細胞の使用。
【0088】
上記のパラグラフおよび下記の特許請求の範囲では、核酸構築物またはベクターのポリペプチドをコードするエレメント(「dnSHP」、「dnTGFβR」、「IL7」、「CCL19」、および「CAR」など)は、構築物中に任意の順序で存在し得る。
【0089】
以下の詳細な説明は、核酸およびポリペプチド配列、ポリペプチド成分、ベクター、細胞、方法などに関連する限り、特許請求の範囲内の本発明の態様に関する上記パラグラフに説明された態様に等しく適用される。
【発明を実施するための形態】
【0090】
詳細な説明
本発明は、細胞の集団を少なくとも2つのウイルスベクターの混合物で形質導入するステップを含む、細胞組成物を作製する方法に関する。
【0091】
ウイルスベクターは、例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターであり得る。
【0092】
レトロウイルスは、そのゲノムをRNAからDNAに「逆転写する」能力を主な特徴とする二本鎖RNAエンベロープウイルスである。ビリオンは直径が100~120nmであり、ヌクレオキャプシドタンパク質と複合体化した同一のRNAプラス鎖の二量体ゲノムを含む。ゲノムは、ウイルス感染に必要な酵素タンパク質(すなわち逆転写酵素、インテグラーゼ、およびプロテアーゼ)も含むタンパク質キャプシド中に封入されている。マトリックスタンパク質は、キャプシドコアに外側に、エンベロープ(宿主の細胞膜に由来し、ウイルスのコア粒子を取り囲む脂質二重層)と相互作用する層を形成する。ウイルスエンベロープ糖タンパク質はこの二重層上に係留し、宿主細胞上の特異的受容体の認識および感染過程の開始を担う。エンベロープタンパク質は、2つのサブユニット(脂質膜内にタンパク質を係留する膜貫通(TM)サブユニットおよび細胞受容体に結合する表面(SU)サブユニット)によって形成される。
【0093】
ゲノム構造に基づいて、レトロウイルスは、シンプルレトロウイルス(MLVおよびマウス白血病ウイルスなど);またはコンプレックスレトロウイルス(HIVおよびEIAVなど)に分類される。レトロウイルスは、以下の4つの遺伝子をコードする:gag(群特異抗原)、pro(プロテアーゼ)、pol(ポリメラーゼ)、およびenv(エンベロープ)。gag配列は、以下の3つの主な構造タンパク質をコードする:マトリックスタンパク質、ヌクレオキャプシドタンパク質、およびキャプシドタンパク質。pro配列は、粒子のアセンブリ、出芽、および成熟中のGagおよびGag-Polの切断を担うプロテアーゼをコードする。pol配列は、酵素(逆転写酵素およびインテグラーゼ、前者は感染過程中のウイルスゲノムのRNAからDNAへの逆転写を触媒し、後者は、プロウイルスDNAの宿主細胞ゲノムへの組込みを担う)をコードする。env配列は、エンベロープ糖タンパク質のSUサブユニットおよびTMサブユニットの両方をコードする。さらに、レトロウイルスゲノムには、以下などの非コードシス作用配列が存在する:2つのLTR(長末端反復)(遺伝子発現、逆転写、および宿主細胞の染色体への組込みを駆動するのに必要なエレメントを含む);新規に形成されたビリオンへのウイルスRNAの特異的パッケージングに必要なパッケージングシグナル(ψ)と呼ばれる配列;および逆転写中にプラス鎖DNA合成を開始するための部位として機能するポリプリントラクト(PPT)。gag、pro、pol、およびenvに加えて、コンプレックスレトロウイルス(レンチウイルスなど)は、ウイルス遺伝子発現、感染粒子のアセンブリを調節し、感染細胞中でのウイルス複製を調整するアクセサリ遺伝子(vif、vpr、vpu、nef、tat、およびrevが含まれる)を有する。
【0094】
感染過程中、レトロウイルスは、最初に、特異的細胞表面受容体に付着する。感受性宿主細胞に侵入すると、次いで、レトロウイルスRNAゲノムは、親ウイルス内に保有されているウイルスがコードした逆転写酵素によってDNAにコピーされる。このDNAは宿主の細胞核に輸送され、その後に細胞核でDNAが宿主ゲノムに組み込まれる。この段階では、典型的にはプロウイルスと呼ばれる。プロウイルスは、細胞分裂中は宿主染色体内で安定であり、他の細胞タンパク質と同様に転写される。プロウイルスは、さらなるウイルスの作製に必要なタンパク質およびパッケージング機序をコードし、「出芽」として公知の過程によって細胞から離れることができる。
【0095】
レトロウイルスおよびレンチウイルスなどのエンベロープを有するウイルスが宿主細胞から出芽する場合、これらのウイルスは宿主細胞の脂質膜の一部となる。こうして、宿主細胞由来膜タンパク質は、レトロウイルス粒子の一部になる。本発明は、目的のタンパク質をウイルス粒子のエンベロープに導入するためにこの過程を利用する。
【0096】
ウイルスベクター
レトロウイルスおよびレンチウイルスを、核酸配列または複数の核酸配列を標的細胞に導入するためのベクターまたは送達系として使用しても良い。in vitro、ex vivo、またはin vivoで移入することができる。この様式で使用する場合、ウイルスは、典型的には、ウイルスベクターと呼ばれる。
【0097】
一般にレトロウイルスベクターと呼ばれるガンマ-レトロウイルスベクターは、1990年の遺伝子療法の臨床試験で使用された最初のウイルスベクターであり、依然として最も使用されているものの1つである。最近になって、コンプレックスレトロウイルス(ヒト免疫不全ウイルス(HIV)など)由来のレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に形質導入できるので、関心が持たれている。レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターの遺伝子移入ツールとしての最も魅力的な特徴には、巨大な遺伝子を負荷できること(9kbまで)、患者の免疫応答が最小限であること、in vivoおよびin vitroでの形質導入効率が高いこと、ならびに標的細胞の遺伝的内容を持続的に改変して、送達された遺伝子の発現を長期間維持できることが含まれる。
【0098】
レトロウイルスベクターは、遺伝情報を真核細胞に送達させることができる任意の適切なレトロウイルスに基づくことができる。例えば、レトロウイルスベクターは、アルファレトロウイルスベクター、ガンマレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、またはスプマレトロウイルスベクターであり得る。かかるベクターは、遺伝子療法による処置および他の遺伝子送達用途で広く使用されている。
【0099】
本発明のウイルスベクターは、レトロウイルスベクター(ガンマ-レトロウイルスベクターなど)であり得る。ウイルスベクターは、ヒト免疫不全ウイルスに基づき得る。
【0100】
本発明のウイルスベクターは、レンチウイルスベクターであり得る。ベクターは、非霊長類レンチウイルス(ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)など)に基づき得る。
【0101】
核酸配列および構築物
本発明の方法で使用されるウイルスベクターの混合物では、各ベクターは、1またはそれを超える核酸配列を含み得る。例えば、混合物中のベクターの1つまたは複数は、共発現される複数の核酸配列を含む核酸構築物を含み得る。核酸構築物は、例えば、バイシストロン性またはトリシストロン性であり得る。核酸構築物は、2、3、4、または5つの導入遺伝子を含み得る。
【0102】
核酸構築物中の核酸配列は、2またはそれを超えるポリペプチドが翻訳された時点で細胞内または細胞上に個別に発現することができる「共発現」配列によって分離され得る。
【0103】
共発現配列は、核酸構築物が切断部位(複数可)によって連結した2またはそれを超えるポリペプチドを産生し含むように、切断部位をコードし得る。ポリペプチドが産生されたときに、いかなる外部の切断活性を必要とすることなく個別のポリペプチドに直ちに切断されるように、切断部位は自己切断され得る。
【0104】
切断部位は、2またはそれを超えるポリペプチドが分離されることを可能にする任意の配列であり得る。
【0105】
用語「切断」を本明細書中で便宜上使用するが、切断部位により、古典的な切断以外の機序によってポリペプチドを個別の実体に分離することができる。例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)2A自己切断ペプチド(以下を参照のこと)について、以下の「切断」活性を説明するための種々のモデルが提案されている:宿主細胞プロテイナーゼによるタンパク質分解活性、自己タンパク質分解、または翻訳効果(Donnellyら(2001)J.Gen.Virol.82:1027-1041)。かかる「切断」の正確な機序は、切断部位がタンパク質をコードする核酸配列の間に配置されたときに個別の実体としてタンパク質を発現する限り、本発明の目的には重要でない。
【0106】
切断部位は、フューリン切断部位であり得る。
【0107】
フューリンは、サブチリシン様プロタンパク質転換酵素ファミリーに属する酵素である。このファミリーのメンバーは、潜在的な前駆体タンパク質をその生物学的に活性な生成物へと処理するプロタンパク質転換酵素である。フューリンは、カルシウム依存性セリンエンドプロテアーゼであり、その対となる塩基性アミノ酸プロセシング部位で前駆体タンパク質を効率的に切断することができる。フューリン基質の例には、プロ副甲状腺ホルモン、トランスフォーミング成長因子ベータ1前駆体、プロアルブミン、プロ-ベータ-セクレターゼ、1型膜マトリックスメタロプロテイナーゼ、プロ神経成長因子のベータサブユニット、およびフォンウィルブランド因子が含まれる。フューリンは、塩基性アミノ酸標的配列(規範的に、Arg-X-(Arg/Lys)-Arg’)(配列番号58)のすぐ下流のタンパク質を切断し、ゴルジ装置中で富化される。
【0108】
切断部位は、タバコエッチ病ウイルス(TEV)切断部位であり得る。
【0109】
TEVプロテアーゼは、高度に配列特異的なシステインプロテアーゼであり、キモトリプシン様プロテアーゼである。TEVプロテアーゼは、その標的切断部位に非常に特異的であり、したがって、in vitroおよびin vivoの両方において融合タンパク質の切断を制御するために頻繁に使用される。コンセンサスTEV切断部位は、ENLYFQ\S(ここで、「\」は切断されるペプチド結合を示す)(配列番号59)である。哺乳動物細胞(ヒト細胞など)は、TEVプロテアーゼを発現しない。したがって、本核酸構築物がTEV切断部位を含み、哺乳動物細胞中で発現される実施形態では、外因性TEVプロテアーゼは哺乳動物細胞中でも発現されなければならない。
【0110】
切断部位は、自己切断ペプチドをコードし得る。
【0111】
「自己切断ペプチド」は、タンパク質および自己切断ペプチドを含むポリペプチドが産生されたときに、いかなる外部の切断活性も必要とせずに個別かつ分離した第1および第2のポリペプチドに直ちに「切断される」かまたは分離されるように機能するペプチドを指す。
【0112】
自己切断ペプチドは、アフトウイルスまたはカルジオウイルス由来の2A自己切断ペプチドであり得る。アフトウイルスおよびカルジオウイルスの一次2A/2B切断は、それ自体のC末端での2A「切断」によって媒介される。アフトウイルス(apthovirus)(口蹄疫ウイルス(FMDV)およびウマ鼻炎Aウイルスなど)では、2A領域は、約18アミノ酸の短い部分であり、タンパク質2BのN末端残基(保存プロリン残基)と共に、それ自体のC末端での「切断」を媒介することができる自律エレメントを示す(上記のDonellyら(2001))。
【0113】
「2A様」配列は、アフトウイルスまたはカルジオウイルス以外のピコルナウイルス、「ピコルナウイルス様」昆虫ウイルス、タイプCロタウイルス、ならびにTrypanosoma sppおよび細菌配列内の反復配列で見出されている(上記のDonnellyら(2001))。
【0114】
切断部位は、配列番号9に示す2A様配列を含み得る。
配列番号9
RAEGRGSLLTCGDVEENPGP
【0115】
本発明は、ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2をコードする核酸配列およびドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列を含む核酸構築物を提供する。
【0116】
ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2およびTGFβ受容体を、以下により詳細に記載する。
【0117】
核酸構築物は、以下の構造を有し得る:
dnSHP-coexpr-dnTGFβR、または
dnTGFβR-coexpr-dnSHP
ここで、
dnSHPは、ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2をコードする核酸配列であり、
「coexpr」は、個別の実体として2つのポリペプチドを共発現することができる核酸配列であり、
dnTGFβRは、ドミナントネガティブTGFβ受容体である。
【0118】
また、核酸構築物は、CARをコードする核酸配列を含み得る。その場合、核酸構築物は、以下の構造を有し得る:
CAR-coexpr1-dnSHP-coexpr2-dnTGFβR
CAR-coexpr1-dnTGFβR-coexpr2-dnSHP
dnTGFβR-coexpr1-CAR-coexpr2-dnSHP
dnTGFβR-coexpr1-dnSHP-coexpr2-CAR
dnSHP-coexpr1-dnTGFβR-coexpr2-CARまたは
dnSHP-coexpr1-CAR-coexpr2-dnTGFβR
ここで、
dnSHPは、ドミナントネガティブSHP-2をコードする核酸配列であり、
「coexpr1」および「coexpr2」は、同一でも異なっていてもよく、個別の実体として3つのポリペプチドを共発現することができる核酸配列であり、
dnTGFβRは、ドミナントネガティブTGFβ受容体であり;
CARは、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列である。
【0119】
自殺遺伝子
また、核酸構築物は、自殺遺伝子をコードする核酸を含み得る。
【0120】
T細胞は生着し、自律性であるので、患者におけるCAR T細胞を選択的に欠失させる手段が望ましい。自殺遺伝子は、許容できない毒性に直面したときに注入したT細胞を選択的に破壊する遺伝子コード可能な機序である。自殺遺伝子を用いた初期の臨床経験は、T細胞をガンシクロビル感受性にするヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)を用いたものである。HSV-TKは、有効性の高い自殺遺伝子である。しかしながら、予め形成された免疫応答により、ハプロタイプ一致の幹細胞移植などのかなり免疫抑制された臨床的状況へのHSV-TKの使用は制限され得る。誘導性カスパーゼ9(iCasp9)は、カスパーゼ9の活性化ドメインを改変されたFKBP12で置き換えることによって構築された自殺遺伝子である。iCasp9は、本来は不活性な小分子の二量体化の誘導化合物(CID)によって活性化される。iCasp9は、ハプロタイプ一致のHSCTの状況で最近試験されており、GvHDを予防する(abort)ことができる。
iCasp9およびHSV-TKの両方は細胞内タンパク質であるため、唯一の導入遺伝子として使用する場合、これらをマーカー遺伝子と共発現させて形質導入された細胞を選択することが可能である。
【0121】
WO2016/135470号は、カスパーゼ9も含むが、ラパマイシンまたはラパマイシンアナログを使用して二量体化するように誘導することができる自殺遺伝子を記載している。
【0122】
この自殺遺伝子は、時折Rapcasp9またはRapacasp9と呼ばれ、配列番号80として示したアミノ酸配列を有する。
配列番号80(Rapcasp9)
【化4】
【0123】
WO2013/153391号は、抗体QBEnd10および治療用抗体リツキシマブを用いて溶解される発現細胞で検出することができるRQR8として公知のマーカー/自殺遺伝子を記載している。
【0124】
選別/自殺遺伝子RQR8は、配列番号79として示したアミノ酸配列を有する。
配列番号79(RQR8)
CPYSNPSLCSGGGGSELPTQGTFSNVSTNVSPAKPTTTACPYSNPSLCSGGGGSPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCNHRNRRRVCKCPRPVV
【0125】
本発明のウイルスベクター組成物内のベクターのうちの1つまたは複数中で自殺遺伝子を誘導することにより、ある比率の被験体内の形質導入された細胞を選択的に消失させることができる。
【0126】
例えば、2つのベクターAおよびBについて、形質導入された細胞は、ベクターAのみで形質導入された細胞、ベクターBのみで形質導入された細胞、およびベクターAおよびBの両方で形質導入された細胞の混合物である。ベクターAが自殺遺伝子を発現するか共発現する場合、自殺遺伝子を活性化するとベクターAのみまたはベクターAおよびBで形質導入された細胞は欠失されるが、ベクターBのみで形質導入された細胞は欠失されない。
【0127】
これは、混合物中の1つのベクターが潜在的に危険であるか有毒である遺伝子をコードする場合に特に有用である。自殺遺伝子がそのベクターのカセット上含まれる場合、患者が許容できない免疫学的事象または有毒な事象にある場合には、自殺遺伝子を誘発することによって問題の遺伝子を発現する細胞を選択的に欠失させることができる。潜在的に危険な遺伝子/自殺遺伝子の組み合わせを含まない他のベクター組み合わせを発現する細胞は欠失されず、その治療効果を継続することができる。
【0128】
例えば、自殺遺伝子(suicide gee)を、免疫調節サイトカイン(IL-12など)または構成性に活性なサイトカイン受容体を発現するベクター中に含めてよい(以下を参照のこと)。
【0129】
ウイルスベクター組成物
本発明は、ウイルスベクター混合物を含むウイルスベクター組成物を提供する。組成物は、2またはそれを超える(two of more)ウイルスベクターの簡潔な混合によって作
製され得る。組成物は、2個と10個との間のウイルスベクター(例えば、2、3、4、5、または6個のウイルスベクター)を含み得る。
【0130】
混合物中のウイルスベクターは、各々が1またはそれを超える導入遺伝子を含み得る。組成物中の2またはそれを超えるウイルスベクターは、1またはそれを超える導入遺伝子が重複し得る。例えば、組成物中の2つのウイルスベクターは、同一のCARをコードする核酸配列を含み得るが、他の核酸配列によってコードされる活性調節因子(複数可)の存在またはタイプが異なり得る。
【0131】
組成物中のウイルスベクター(複数可)のうちの1つまたは複数は、ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2をコードする核酸配列を含み得る。組成物中の1またはそれを超えるウイルスベクターは、ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列を含み得る。組成物中の1またはそれを超えるウイルスベクターは、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含み得る。
【0132】
ウイルスベクター組成物は、ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2をコードする核酸配列およびドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列を含むベクターを含み得る。
【0133】
ウイルスベクター組成物は、複数のベクターを含み得、その各々が異なる活性調節因子(複数可)または活性調節因子の組み合わせをコードする。
【0134】
キメラ抗原受容体
本発明の方法では、ウイルスベクターの混合物中の少なくとも1つのベクターは、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含み得る。
【0135】
キメラ抗原受容体(CAR)
図1に模式的に示されるCARは、細胞外抗原認識ドメイン(バインダー)が細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)に接続しているキメラタイプI膜貫通タンパク質である。バインダーは、典型的には、モノクローナル抗体(mAb)由来の単鎖可変断片(scFv)であるが、抗体様抗原結合部位を含む他の形式に基づくことができる。スペーサードメインは、通常、バインダーを膜から分離し、適切な配向を可能にするために必要である。使用される一般的なスペーサードメインは、IgG1のFcである。より小型のスペーサー、例えば、抗原に応じて、CD8α由来のストーク、さらにはIgG1ヒンジのみですら十分な場合がある。膜貫通ドメインは、細胞膜内にタンパク質を係留し、スペーサーをエンドドメインに接続する。
【0136】
初期のCARデザインは、FcεR1のγ鎖またはCD3ζのいずれかの細胞内部分に由来するエンドドメインを有していた。結果的に、これらの第1世代の受容体は免疫学的シグナル1を伝達し、同族標的細胞のT細胞による殺滅を引き起こすのに十分であったが、T細胞を、それが増殖および生存するように十分に活性化することはできなかった。この限界を克服するために、複合エンドドメインが以下のように構築された:T細胞共刺激分子の細胞内部分とCD3ζの細胞内部分との融合により、抗原認識後に活性化および共刺激シグナルを同時に伝達することができる第2世代の受容体が得られる。最も一般的に使用される共刺激ドメインは、CD28の共刺激ドメインである。これは最も効力のある共刺激シグナル(すなわち、T細胞増殖を引き起こす免疫学的シグナル2)を供給する。いくつかの受容体も記載されており、この受容体には、TNF受容体ファミリーエンドドメイン(生存シグナルを伝達する密接に関連するOX40および41BBなど)が含まれる。活性化、増殖、および生存シグナルを伝達することができるエンドドメインを有するさらにより効力のある第3世代のCARをここに記載している。
【0137】
CARコード核酸を、例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターを使用してT細胞に導入して、養子細胞移入のためのがん特異的T細胞を生成し得る。CARが標的抗原に結合するとき、この結合により、CARが発現されるT細胞に活性化シグナルが伝達される。したがって、CARは、T細胞の特異性および細胞傷害性を、標的にされた抗原を発現する腫瘍細胞に向ける。
【0138】
タンデムCAR(TanCAR)
タンデムCARまたはTanCARとして公知の二重特異性CARは、2つまたはそれを超えるがん特異的マーカーを同時に標的にするように開発されている。TanCARでは、細胞外ドメインは、リンカーによって連結された2つの抗原結合特異性部位をタンデムで含む。したがって、2つの結合特異性部位(scFvs)の両方は、単一の膜貫通部分に連結される:一方のscFvは膜に近接しており、他方は遠位にある。TanCARが標的抗原のいずれかまたは両方に結合する場合、これにより、TanCARが発現される細胞に活性化シグナルが伝達される。
【0139】
Grada et al(2013、Mol Ther Nucleic Acids
2:e105)は、CD19特異的scFvを含み、その後にGly-Serリンカー、次いで、HER2特異的scFvが続くTanCARを記載している。HER2-scFvは、膜近傍の位置に存在し、CD19-scFvは遠位に存在した。TanCARは、2つの腫瘍制限抗原の各々に対して別個のT細胞反応性を誘導することが示された。それぞれの長さのHER2(632aa/125Å)およびCD19(280aa、65Å)が空間配置に役立つので、この配置を選択した。HER2 scFvがHER2の最も遠位の4ループに結合することも知られていた。
【0140】
抗原結合ドメイン
抗原結合ドメインは、抗原を認識するCARの一部である。多数の抗原結合ドメインが当該分野で公知であり、抗体、抗体模倣物、およびT細胞受容体の抗原結合部位に基づいた抗原結合ドメインが含まれる。例えば、抗原結合ドメインは、以下を含み得る:モノクローナル抗体由来の単鎖可変断片(scFv);標的抗原の天然リガンド;標的に対して十分な親和性を有するペプチド;単一ドメイン抗体;Darpinなどの人工単一バインダー(設計されたアンキリン反復タンパク質);またはT細胞受容体由来の単鎖。
【0141】
古典的CARでは、抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体由来の単鎖可変断片(scFv)を含む(
図4cを参照のこと)。ドメイン抗体(dAb)抗原結合ドメインまたはVHH抗原結合ドメインを有するCARも産生されている(
図4bを参照のこと)、または、それは、例えば、モノクローナル抗体のFab断片を含む(
図4aを参照のこと)。FabCARは、以下の2つの鎖を含む:抗体様軽鎖可変領域(VL)および定常領域(CL)を有する鎖;および重鎖可変領域(VH)および定常領域(CH)を有する鎖。一方の鎖はまた、膜貫通ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインを含む。CLとCHとの間の会合により、受容体が組み立てられる。
【0142】
Fab CARの2本の鎖は、以下の一般構造を有し得る:
VH-CH-スペーサー-膜貫通ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン;および
VL-CL
または
VL-CL-スペーサー-膜貫通ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン;および
VH-CH。
【0143】
Fab型キメラ受容体について、抗原結合ドメインは、一方のポリペプチド鎖由来のVHおよび他方のポリペプチド鎖由来のVLで構成されている。
【0144】
ポリペプチド鎖は、VH/VLドメインとCH/CLドメインとの間にリンカーを含み得る。リンカーは、可動性を示し、VH/VLドメインをCH/CLドメインから空間的
に分離するのに役立ち得る。
【0145】
CARの抗原結合ドメインは、腫瘍関連抗原に結合し得る。例えば、以下の表1に示すように、種々の腫瘍関連抗原(TAA)が公知である。
【0146】
【0147】
各CARは、以下の標的抗原のうちの1つに結合し得る:CD19、CD22、BCMA、PSMA、GD2、CD79、またはFCRL5。
【0148】
CD19
CD19に結合するCARの抗原結合ドメインは、表2に示すCD19バインダーの1つに由来する配列を含み得る。
【0149】
【0150】
あるいは、CD19に結合するCARは、以下を含む抗原結合ドメインを有し得る:
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
CDR1-GYAFSSS(配列番号1);
CDR2-YPGDED(配列番号2)
CDR3-SLLYGDYLDY(配列番号3);および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
CDR1-SASSSVSYMH(配列番号4);
CDR2-DTSKLAS(配列番号5)
CDR3-QQWNINPLT(配列番号6)。
【0151】
抗原結合ドメインは、配列番号7として示した配列を有するVHドメイン;および配列番号8として示した配列を有するVLドメインを含み得る。
配列番号7-VH配列
QVQLQQSGPELVKPGASVKISCKASGYAFSSSWMNWVKQRPGKGLEWIGRIYPGDEDTNYSGKFKDKATLTADKSSTTAYMQLSSLTSEDSAVYFCARSLLYGDYLDYWGQGTTLTVSS
配列番号8-VL配列
QIVLTQSPAIMSASPGEKVTMTCSASSSVSYMHWYQQKSGTSPKRWIYDTSKLASGVPDRFSGSGSGTSYFLTINNMEAEDAATYYCQQWNINPLTFGAGTKLELKR
【0152】
CD22
Haso et al.(Blood;2013;121(7))に記載のように、CD22に結合するCARは、m971、HA22、またはBL22に由来する抗原ドメインを有し得る。
【0153】
あるいは、CD22に結合するCARは、英国特許出願第1809773.3号に記載の抗原結合ドメイン(以下を含むものなど)を有し得る:
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
CDR1-NFAMA(配列番号10)
CDR2-SISTGGGNTYYRDSVKG(配列番号11)
CDR3-QRNYYDGSYDYEGYTMDA(配列番号12);および
b)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖可変領域(VL):
CDR1-RSSQDIGNYLT(配列番号13)
CDR2-GAIKLED(配列番号14)
CDR3-LQSIQYP(配列番号15)
【0154】
CD22 CARの抗原結合ドメインは、配列番号16として示した配列を有するVHドメイン;および配列番号17として示した配列を有するVLドメインを含み得る。
配列番号16
EVQLVESGGGLVQPGRSLKLSCAASGFTFSNFAMAWVRQPPTKGLEWVASISTGGGNTYYRDSVKGRFTISRDDAKNTQYLQMDSLRSEDTATYYCARQRNYYDGSYDYEGYTMDAWGQGTSVTVSS
配列番号17
DIQMTQSPSSLSASLGDRVTITCRSSQDIGNYLTWFQQKVGRSPRRMIYGAIKLEDGVPSRFSGSRSGSDYSLTISSLESEDVADYQCLQSIQYPFTFGSGTKLEIK
【0155】
BCMA
いくつかのBCMA標的CARは、臨床開発中である(bb2121、LCAR-B38M、MCARH171、JCARH125、P-BCMA-101、FCARH143、bb21217、およびCT053が含まれる)。
【0156】
WO2015/052538号は、抗原結合ドメインがBCMAの天然リガンドである増殖誘導リガンド(APRIL)に由来するBCMA標的CARを記載している。
【0157】
英国特許出願第1815775.0号は、14種のBCMA結合ドメインについてのVHおよびVLドメインおよびCARにおけるその使用を記載している。
【0158】
PSMA
前立腺特異的膜抗原(PSMA)に特異的なCARを発現するT細胞は、前立腺がん処置について現在臨床試験中である(Junhans et al(2016)Prostate 76:1257-1270)。
【0159】
GD2
ジシアロガングリオシド(GD2)(シアル酸含有スフィンゴ糖脂質(glycosphinolipid))に結合するCARが開発されている。かかるCARは、例えば、GD2バインダー14g2a、またはWO2015/132604号に記載のhuK666に基づき得る。
【0160】
GD2に結合するCARは、以下を含む抗原結合ドメインを有し得る:
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
CDR1-SYNIH(配列番号71);
CDR2-VIWAGGSTNYNSALMS(配列番号72)
CDR3-RSDDYSWFAY(配列番号73);および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
CDR1-RASSSVSSSYLH(配列番号74);
CDR2-STSNLAS(配列番号75)
CDR3-QQYSGYPIT(配列番号76)。
【0161】
GD2結合ドメインは、配列番号77として示した配列を有するVHドメイン;および/または配列番号78として示した配列を有するVLドメインを含み得る。
配列番号77(ヒト化KM666 VH配列)
QVQLQESGPGLVKPSQTLSITCTVSGFSLASYNIHWVRQPPGKGLEWLGVIWAGGSTNYNSALMSRLTISKDNSKNQVFLKMSSLTAADTAVYYCAKRSDDYSWFAYWGQGTLVTVSS
配列番号78(ヒト化KM666 VH配列)
ENQMTQSPSSLSASVGDRVTMTCRASSSVSSSYLHWYQQKSGKAPKVWIYSTSNLASGVPSRFSGSGSGTDYTLTISSLQPEDFATYYCQQYSGYPITFGQGTKVEIK
【0162】
FCRL5
市販のFcRL5に対するモノクローナル抗体(CD307e(ThermoFisher)およびREA391(Miltenyi Biotec)など)が公知である。
【0163】
WO2016090337号は、FcRL5に結合するいくつかのscFv型抗原結合ドメインを記載している。
【0164】
英国特許出願第1815775.0号は、抗FCRL5 CARを記載している。
【0165】
CD79
いくつかの抗CD79抗体が以前に記載されている(JCB117、SN8、CB3.1、2F2(ポラツズマブ)など)。
【0166】
英国特許出願第1807870.9号は、種々のCD79 CARを記載している。
【0167】
ウイルスベクターの組成物がCARをコードする核酸配列を含む1つを超えるベクターを含む場合、CARは、異なる抗原結合ドメインを有し得る。CARは異なる抗原を認識し得るか、CARは同一の抗原に結合し得るが、異なる抗原結合ドメインを有する。同一の抗原に結合するが、異なる抗原結合ドメインを有するCARは、抗原の異なるエピトープに結合し得、そして/または異なる親和性および/またはオンまたはオフレートを有し得る。
【0168】
CARの標的抗原に対する親和性および/またはそのオンおよびオフレートは、CARが標的細胞を死滅させる能力に影響を及ぼすことができる。例えば、米国特許出願公開第US 2018/0064785号において、オンレートおよびオフレートが迅速な抗体由来のCARによってCAR T細胞が標的細胞をより良好に連続的に死滅させることが報告されている。標的抗原に対する複数のCARを含むCAR-T細胞組成物を患者に投与することにより、患者または患者の特定の部位において標的細胞を死滅させるのに最良に適した抗原結合ドメインを有するCARは、活性化/生存/増殖シグナルを受け取り、優位になる。本発明の組成物はこの点における柔軟性を付与し、さらに、異なるCARを有するCAR-T細胞の亜集団が同一の患者内の異なる部位で「打ち勝つ」ことを可能にする。
【0169】
細胞内T細胞シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)
CARは、活性化エンドドメイン(CARのシグナル伝達部分)を含むか、これに会合し得る。抗原認識後、受容体のクラスターおよびシグナルが細胞に伝達される。最も一般的に使用されているエンドドメイン成分は、3つのITAMを含むCD3-ゼータのエンドドメイン成分である。これは、抗原への結合後にT細胞に活性化シグナルを伝達する。CD3-ゼータは、十分に適格な活性化シグナルを提供しない場合があり、さらなる共刺激シグナル伝達が必要であり得る。例えば、キメラCD28およびOX40を、増殖/生存シグナルを伝達させるためにCD3-ゼータと共に使用することができるか、3つ全てを共に使用することができる。
【0170】
CARのエンドドメインは、CD28エンドドメインならびにOX40およびCD3-ゼータエンドドメインを含み得る。
【0171】
エンドドメインは、以下を含み得る:
(i)ITAM含有エンドドメイン(CD3ゼータ由来のエンドドメインなど);および/または
(ii)共刺激ドメイン(CD28由来のエンドドメインなど);および/または
(iii)生存シグナルを伝達するドメイン(例えば、TNF受容体ファミリーエンドドメイン(OX-40または4-1BBなど))。
【0172】
ITAMモチーフを含むエンドドメインは、本発明において活性化エンドドメインとして作用することができる。いくつかのタンパク質は、1またはそれを超えるITAMモチーフを有するエンドドメインを含むことが公知である。かかるタンパク質の例には、CD3イプシロン鎖、CD3ガンマ鎖、およびCD3デルタ鎖が含まれる。ITAMモチーフを、任意の2つの他のアミノ酸によってロイシンまたはイソロイシンと隔てられたチロシン(それにより、シグネチャーYxxL/I(配列番号60)が得られる)として容易に認識することができる。常にではないが典型的には、これらのモチーフのうちの2つは、分子のテールで6~8アミノ酸によって隔てられている(YxxL/Ix(6-8)YxxL/I)。それ故に、当業者は、活性化シグナルを伝達するために1またはそれを超えるITAMを含む既存のタンパク質を容易に見出すことができる。さらに、モチーフが簡潔な二次構造および複雑な二次構造を必要としないことを考慮すると、当業者は、活性化シグナルを伝達するための人工ITAMを含むポリペプチドを設計することができる(合成シグナル伝達分子に関するWO2000/063372号を参照のこと)。
【0173】
CARの抗原認識部分がシグナル伝達部分由来の個別の分子上に存在するいくつかの系が記載されている(WO015/150771号;WO2016/124930号、およびWO2016/030691号に記載のものなど)。本発明の方法で使用されるウイルスベクターのうちの1つまたは複数は、かかる「分割CAR」をコードし得る。あるいは、1つのベクターは、抗原認識部分をコードする核酸配列を含み得、1つのベクターは、細胞内シグナル伝達ドメインをコードする核酸配列を含み得る。
【0174】
ウイルスベクターの組成物がCARをコードする核酸配列を含む1つを超えるベクターを含む場合、CARは、異なるエンドドメインまたは異なるエンドドメインの組み合わせを有し得る。例えば、1つのCARは第2世代のCARであり得、1つのCARは第3世代のCARであり得る。あるいは、両方のCARが第2世代のCARであり得るが、異なる共刺激ドメインを有し得る。例えば、異なる第2世代のCARシグナル伝達ドメインには、以下が含まれる:41BB-CD3ζ;OX40-CD3ζ、およびCD28-CD3ζ。
【0175】
シグナルペプチド
ベクター組成物中の1またはそれを超える核酸配列は、CARまたは活性調節因子が細胞の内側に発現される場合に、新生タンパク質が小胞体に導かれ、その後に細胞表面に導かれ、細胞表面で発現される(または分泌される)ようなシグナルペプチドをコードし得る。
【0176】
シグナルペプチドのコアは、単一のアルファ-ヘリックスを形成する傾向がある一続きの長い疎水性アミノ酸を含み得る。シグナルペプチドは、短い正電荷のアミノ酸鎖から始まる場合があり、これは、移動(translocation)中のポリペプチドの適切なトポロジー
を強化するのに役立つ。シグナルペプチドの末端では、典型的には、シグナルペプチダーゼによって認識および切断される一続きのアミノ酸が存在する。シグナルペプチダーゼは、移動中または移動完了後のいずれかにシグナルペプチドを切断して、遊離シグナルペプチドおよび成熟タンパク質を生成し得る。次いで、遊離シグナルペプチドは、特異的プロテアーゼによって消化される。
【0177】
シグナルペプチドは、分子のアミノ末端に存在し得る。
【0178】
CARは、以下の一般式を有し得る:
シグナルペプチド-抗原結合ドメイン-スペーサードメイン-膜貫通ドメイン-細胞内T細胞シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)。
【0179】
スペーサー
CARは、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインと接続し、かつ抗原結合ドメインをエンドドメインから空間的に分離するスペーサー配列を含む。可動性スペーサーにより、抗原結合ドメインを異なる方向に配向させて抗原結合を可能にする。
【0180】
スペーサー配列は、例えば、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジ、もしくはCD8ストーク、またはその組み合わせを含み得る。スペーサーは、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジ、またはCD8ストークと類似の長さおよび/またはドメインスペーシング特性を有する代替配列を代替的に含み得る。
【0181】
ウイルスベクターの組成物がCARをコードする核酸配列を含む1つを超えるベクターを含む場合、CARは異なるスペーサーを有し得る。
【0182】
ORゲート
本発明の細胞組成物は、2つまたはそれを超えるCARを含み得る。これは、各々がCARをコードする核酸配列を含む2またはそれを超えるベクターでの形質導入の結果としてであり得る;あるいは、2またはそれを超えるCARをコードする核酸構築物を含むシングルベクターでの形質導入の結果としてであり得る。
【0183】
CARを、1またはそれより多くの他の賦活性または抑制性のキメラ抗原受容体と組み合わせて使用してよい。例えば、本発明のCARを、「論理ゲート」において1またはそれより多くのCARと組み合わせて使用してよく、CAR組み合わせは、T細胞などの細胞によって発現されるとき、少なくとも2つの標的抗原の特定の発現パターンを検出することができる。少なくとも2つの標的抗原が抗原Aおよび抗原Bとして任意に示される場合、3つの可能な選択肢は以下の通りである:
「ORゲート」-T細胞は、抗原Aまたは抗原Bのいずれかが標的細胞上に存在するときに引き起こす 「ANDゲート」-T細胞は、抗原AおよびBの両方が標的細胞上に存在するときに引き起こす
「AND NOTゲート」-T細胞は、抗原Aが単独で標的細胞上に存在する場合に引き起こすが、T細胞は、抗原AおよびBの両方が標的細胞上に存在する場合に引き起こさない
【0184】
これらのCAR組み合わせを発現する操作されたT細胞を、2またはそれより多くのマーカーのがん細胞の特定の発現(または発現の欠如)に基づいて、がん細胞に精巧に特異的であるように調整することができる。
【0185】
かかる「論理ゲート」は、例えば、WO2015/075469号、WO2015/075470号、およびWO2015/075470号に記載されている。
【0186】
「ORゲート」は、標的細胞によって発現された個別の標的抗原にそれぞれ指向する2つまたはそれより多くの賦活CARを含む。ORゲートの利点は、有効性が抗原A+抗原Bとなるので、標的細胞上の有効に標的可能な抗原が増加することである。単一抗原のレベルが、CAR-T細胞が有効に標的にするのに必要な閾値未満であり得るので、このことは標的細胞上に変動するか低い密度で発現される抗原に特に重要である。また、ORゲートは、抗原回避現象が避けられる。例えば、いくつかのリンパ腫および白血病は、CD19が標的にされた後にCD19陰性になる:この現象が起こる場合、別の抗原と組み合わせてCD19を標的にするORゲートを使用すると「バックアップ」抗原が得られる。WO2016/102965号に記載のように、「バックアップ」抗原はCD22であり得る。
【0187】
活性調節因子
本発明の方法では、ウイルスベクター混合物中の少なくとも1つのベクターは、活性調節因子をコードする核酸配列を含み得る。これが事実である場合、本発明のCAR発現細胞組成物で形質導入された細胞の少なくとも一部は、1またはそれを超える活性調節因子を発現する。活性調節因子は、CARの、CARを発現する細胞の、または標的細胞の活性を調整するCAR発現細胞によって作製された分子である。
【0188】
活性調節因子は、細胞表面で発現されるか、CAR発現細胞によって分泌される細胞内分子であり得る。
【0189】
CARの活性の調整
1.ITAMリン酸化の強化
in vivoでのT細胞活性化中に(
図2aに模式的に示す)、T細胞受容体(TCR)によって抗原認識されると、CD3ζ上の免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM)がリン酸化される。リン酸化されたITAMは、ZAP70 SH2ドメインによって認識されてT細胞が活性化される。
【0190】
T細胞活性化は、TCRによる抗原認識を下流の活性化シグナルに変換するために速度論的分離(kinetic segregation)を使用する。簡潔に述べれば、基底状態では、T細胞膜上のシグナル伝達成分は動的ホメオスタシスにあるため、脱リン酸化されたITAMがリン酸化されたITAMよりも優先される。これは、lckなどの膜係留キナーゼよりも膜貫通CD45/CD148ホスファターゼの活性が高いことに起因する。T細胞が同族抗原のT細胞受容体(またはCAR)認識によって標的細胞に結合する場合、強固な免疫学的シナプスが形成される。このT細胞と標的膜が近接して並置されることにより、CD45/CD148は、そのエクトドメインが巨大でシナプスに収まることができないために排除される。ホスファターゼの非存在下でシナプス中の高濃度のT細胞受容体に結合したITAMおよびキナーゼが分離すると、リン酸化されたITAMが優位の状態に至る。ZAP70は、閾値のリン酸化されたITAMを認識し、T細胞活性化シグナルを伝達する。
【0191】
この過程は、CAR媒介性T細胞活性化中の過程と本質的に同一である。活性化CARは、その細胞内シグナル伝達ドメイン内に1またはそれを超えるITAMを含み、これは、通常は、このシグナル伝達ドメインがCD3ζのエンドドメインを含むからである。CARによって抗原が認識されると、CARシグナル伝達ドメイン内のITAM(複数可)がリン酸化され、それによりT細胞が活性化される。
【0192】
図2bに模式的に示されるように、PD1などの抑制性免疫受容体により、リン酸化されたITAMが脱リン酸化される。PD1は、そのエンドドメイン内にITIMを有し、ITIMは、PTPN6(SHP-1)およびSHP-2などの分子のSH2ドメインによって認識される。認識の際に、PTPN6は、膜近傍領域に動員され、そのホスファターゼドメインはその後にITAMドメインを脱リン酸化し、免疫活性化が阻害される。
【0193】
CAR活性を調整することができる活性調節因子は、CARシグナル伝達ドメイン内のITAM(複数可)を直接または間接的にリン酸化することができる場合がある。
【0194】
1.1 キナーゼの供給または動員
例えば、活性調節因子は、キナーゼドメインを含むか、キナーゼドメインを含む個別の分子をCARの周辺に動員することができる膜標的分子であり得る。WO2018/193231号は、かかる「リン酸化増幅エンドドメイン」を有する種々の分子を記載している。
【0195】
ITAMを直接リン酸化することができる活性調節因子は、チロシンキナーゼドメイン(Srcファミリーキナーゼのキナーゼドメインなど)を含み得、その例には、Fyn、Src、Lck、またはその誘導体(Lck(Y505F)など)が含まれる。Fyn、Src、Lck、およびLck(Y505)のチロシンキナーゼドメインを、配列番号18~21として以下にそれぞれ示す。
【0196】
Fynのチロシンキナーゼドメイン(配列番号18)
LQLIKRLGNGQFGEVWMGTWNGNTKVAIKTLKPGTMSPESFLEEAQIMKKLKHDKLVQLYAVVSEEPIYIVTEYMNKGSLLDFLKDGEGRALKLPNLVDMAAQVAAGMAYIERMNYIHRDLRSANILVGNGLICKIADFGLARLIEDNEYTARQGAKFPIKWTAPERALYGRFTIKSDVWSFGILLTELVTKGRVPYPGMNNREVLEQVERGYRMPCPQDCPISLHELMIHCWKKDPEERPTFEYLQSFLEDYF
【0197】
Srcのチロシンキナーゼドメイン(配列番号19)
LRLEVKLGQGCFGEVWMGTWNGTTRVAIKTLKPGTMSPEAFLQEAQVMKKLRHEKLVQLYAVVSEEPIYIVTEYMSKGSLLDFLKGETGKYLRLPQLVDMAAQIASGMAYVERMNYVHRDLRAANILVGENLVCKVADFGLARLIEDNEYTARQGAKFPIKWTAPEAALYGRFTIKSDVWSFGILLTELTTKGRVPYPGMVNREVLDQVERGYRMPCPPECPESLHDLMCQCWRKEPEERPTFEYLQAFLEDYF
【0198】
Lckのチロシンキナーゼドメイン(配列番号20):
LKLVERLGAGQFGEVWMGYYNGHTKVAVKSLKQGSMSPDAFLAEANLMKQLQHQRLVRLYAVVTQEPIYIITEYMENGSLVDFLKTPSGIKLTINKLLDMAAQIAEGMAFIEERNYIHRDLRAANILVSDTLSCKIADFGLARLIEDNEYTAREGAKFPIKWTAPEAINYGTFTIKSDVWSFGILLTEIVTHGRIPYPGMTNPEVIQNLERGYRMVRPDNCPEELYQLMRLCWKERPEDRPTFDYLRSVLEDFF
【0199】
Lck_Y505Fのチロシンキナーゼドメイン(配列番号21)
LKLVERLGAGQFGEVWMGYYNGHTKVAVRSLKQGSMSPDAFLAEANLMKQLQHQRLVRLYAVVTQEPIYIITEYMENGSLVDFLKTPSGIKLTINKLLDMAAQIAEGMAFIEERNYIHRDLRAANILVSDTLSCKIADFGLARLIEDNEYTAREGAKFPIKWTAPEAINYGTFTIKSDVWSFGILLTEIVTHGRIPYPGMTNPEVIQNLERGYRMVRPDNCPEELYQLMRLCWKERPEDRPTFDYLRSVLEDFF
【0200】
ITAMを間接的にリン酸化することができる活性調節因子は、CD4またはCD8共受容体の細胞内ドメインを含み得る。
【0201】
上述のように、T細胞活性化中に、CD3(またはCAR)のITAMは、Lckによってリン酸化され、次いで、ZAP70に結合する。ZAP70がCD3に結合した後に、共受容体CD4またはCD8はTCR/CD3複合体と会合するようになり、主要適合遺伝子複合体(major compatibility complex)(MHC)に結合する。CD4/CD8共受容体の前述の複合体との会合により、TCR-MHCペプチド(MHCp)相互作用が安定化し、動員された/遊離Lck(recruited/free Lck)がCD3エレメント、ZAP70、ならびに多くの他の下流標的をリン酸化し続ける
。
【0202】
CD4およびCD8の細胞質尾部を含む活性調節因子は、Lckの動員によってCARが生成したシグナルを増幅し、これは活性化されたT細胞のシグナル伝達カスケードの多数の分子成分の活性化に不可欠である。ヒトCD4およびCD8の細胞内ドメインの配列を、配列番号22および23として以下に示す。
CD4の細胞質尾部(配列番号22)
CVRCRHRRRQAERMSQIKRLLSEKKTCQCPHRFQKTCSPI
CD8の細胞質尾部(配列番号23)
LYCNHRNRRRVCKCPRPVVKSGDKPSLSARYV
【0203】
CAR活性によって調整される活性調節因子は、膜に係留され得る。この点において、かかる活性調節因子は、膜貫通ドメイン配列またはミリストイル化配列を含み得る。
【0204】
CAR-T細胞の活性の調整
1.チェックポイント阻害
CAR発現細胞活性を調整することができる活性調節因子は、阻害性免疫受容体(CTLA4、PD-1、LAG-3、2B4、またはBTLA1など)によって媒介されるCAR媒介性T細胞活性化の阻害を遮断または軽減し得る(前述および
図2bに模式的に記載)。
【0205】
活性調節因子は、阻害性免疫受容体に結合するか、阻害性免疫受容体(immunreceptor)のリガンドに結合する抗体などの作用因子であり得る。活性調節因子は、CTLA4、PD-1、LAG-3、2B4、またはBTLA1に結合し得るか、CTLA4、PD-1、LAG-3、2B4、またはBTLA1のリガンドに結合し得る。
【0206】
PD-1/PD-L1
がんの病状において、上記のように、腫瘍細胞上のPD-L1がT細胞上のPD-1と相互作用するとT細胞活性化が軽減され、したがって、免疫系が腫瘍細胞を攻撃しようとするのを妨害する。PD-L1のPD-1受容体との相互作用を遮断する阻害剤を使用すると、前述の方法でがんが免疫系を回避するのを防止することができる。いくつかのPD-1阻害剤およびPD-L1阻害剤は、数あるがんタイプのうちで特に、進行性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞癌、膀胱がん、およびホジキンリンパ腫での使用について病院内で臨床試験中である。いくつかのかかる阻害剤が現在承認されている(PD1阻害剤ニボルマブおよびペムブロリズマブならびにPD-L1阻害剤アテゾリズマブ、アベルマブ、およびデュルバルマブが含まれる)。
【0207】
CTLA4
CTLA4は、活性化されたT細胞によって発現され、T細胞に阻害シグナルを伝達する免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。CTLA4はT細胞共刺激タンパク質(CD28)に類似し、両分子は抗原提示細胞上のCD80およびCD86(それぞれB7-1およびB7-2とも呼ばれる)に結合する。CTLA-4はCD28よりも高い親和性およびアビディティでCD80およびCD86に結合するため、CTLA-4はそのリガンドのために、CD28を打ち負かすことができる。CTLA4はT細胞に阻害シグナルを伝達するのに対して、CD28は刺激シグナルを伝達する。
【0208】
CTLA4に対するアンタゴニスト抗体には、イピリムマブおよびトレメリムマブが含まれる。
【0209】
LAG-3
LAG-3およびCD223としても公知のリンパ球活性化遺伝子3は、T細胞機能に多様な生物学的効果を有する免疫チェックポイント受容体である。
【0210】
LAG3に対する抗体には、現在のところ第1相臨床試験中のレラチマブおよび前臨床開発段階のいくつかの他の抗体が含まれる。LAG-3は、CTLA-4またはPD-1より良好なチェックポイント阻害剤の標的であり得るが、これは、これら2つのチェックポイントに対する抗体がエフェクターT細胞のみを活性化し、Treg活性を阻害しないのに対して、アンタゴニストLAG-3抗体はTエフェクター細胞の活性化(予め活性化されたLAG-3+細胞へのLAG-3阻害シグナルの下方調節による)および誘導性の(すなわち、抗原特異的)Treg抑制活性の阻害の両方が可能であるからである。LAG-3抗体およびCTLA-4抗体またはPD-1抗体が関与する併用療法も進行中である。
【0211】
1.2 ドミナントネガティブSHP
阻害性免疫受容体(CTLA4、PD-1、LAG-3、2B4、またはBTLA1など)によって媒介された阻害を遮断または軽減する活性調節因子は、ITAMのリン酸化が有利となるように、T細胞:標的細胞シナプスでのリン酸化:脱リン酸化(dephosporylation)のバランスを崩し、T細胞の活性化をもたらし得る。例えば、活性調節因子は、阻害性受容体(複数可)のエンドドメイン(endodmain)においてITIMのリン酸化を遮断または軽減し得るか、SHP-1およびSHP-2などのタンパク質によるCARシグナル伝達ドメインにおけるITAMの脱リン酸化を遮断または軽減し得る。
【0212】
WO2016/193696号は、T細胞:標的細胞シナプスでのリン酸化:脱リン酸化(dephosporylation)のバランスを調整することができる種々の異なるタイプのタンパク質を記載している。例えば、活性調節因子は、一方または両方のSH2ドメインを含むが、ホスファターゼドメインを欠くSHP-1またはSHP-2の短縮形態を含み得る。CAR-T細胞中で発現された場合、これらの分子は、野生型SHP-1およびSHP-2のドミナントネガティブバージョンとして作用し、内因性分子とリン酸化されたITIMへの結合を競合する。
【0213】
活性調節因子は、リン酸化された免疫受容抑制性チロシンモチーフ(ITIM)に結合するが、ホスファターゼドメインを欠くタンパク質由来のSH2ドメインを含む短縮タンパク質であり得る。短縮タンパク質は、一方または両方のSHP-1 SH2ドメインを含み得るが、SHP-1ホスファターゼドメインを欠き得る。あるいは、短縮タンパク質は、一方または両方のSHP-2 SH2ドメインを含み得るが、SHP-2ホスファターゼドメインを欠き得る。
【0214】
SHP-1
Src相同領域2ドメイン含有ホスファターゼ-1(SHP-1)は、タンパク質チロシンホスファターゼファミリーのメンバーである。これは、PTPN6としても公知である。
【0215】
SHP-1のN末端領域は、SHP-1とその基質との相互作用を媒介する2つのタンデムSH2ドメインを含む。C末端領域は、チロシン-タンパク質ホスファターゼドメインを含む。
【0216】
SHP-1は、いくつかの抑制性免疫受容体またはITIM含有受容体に結合し、これらからのシグナルを伝播することができる。かかる受容体の例には、PD1、PDCD1、BTLA4、LILRB1、LAIR1、CTLA4、KIR2DL1、KIR2DL4、KIR2DL5、KIR3DL1、およびKIR3DL3が含まれるが、これらに限定されない。
【0217】
ヒトSHP-1タンパク質は、UniProtKB受託番号P29350を有する。
【0218】
活性調節因子は、配列番号24として以下に示すSHP-1タンデムSH2ドメインを含むか、これからなり得る。
【0219】
SHP-1 SH2完全ドメイン(配列番号24)
MVRWFHRDLSGLDAETLLKGRGVHGSFLARPSRKNQGDFSLSVRVGDQVTHIRIQNSGDFYDLYGGEKFATLTELVEYYTQQQGVLQDRDGTIIHLKYPLNCSDPTSERWYHGHMSGGQAETLLQAKGEPWTFLVRESLSQPGDFVLSVLSDQPKAGPGSPLRVTHIKVMCEGGRYTVGGLETFDSLTDLVEHFKKTGIEEASGAFVYLRQPYY
【0220】
SHP-1は、配列のN末端の残基4~100および110~213に2つのSH2ドメインを有する。活性調節因子は、配列番号25および26として示した配列の一方または両方を含み得る。
【0221】
SHP-1 SH2 1(配列番号25)
WFHRDLSGLDAETLLKGRGVHGSFLARPSRKNQGDFSLSVRVGDQVTHIRIQNSGDFYDLYGGEKFATLTELVEYYTQQQGVLQDRDGTIIHLKYPL
【0222】
SHP-2 SH2 2(配列番号26)
WYHGHMSGGQAETLLQAKGEPWTFLVRESLSQPGDFVLSVLSDQPKAGPGSPLRVTHIKVMCEGGRYTVGGLETFDSLTDLVEHFKKTGIEEASGAFVYLRQPY
【0223】
活性調節因子は、少なくとも80、85、90、95、98、または99%の配列同一性を有する配列番号24、25、または26のバリアントを含み得るが、但し、バリアントの配列が必要な性質を有するSH2ドメイン配列であることを条件とする。換言すれば、バリアント配列は、SHP-1を動員することが可能なPD1、PDCD1、BTLA4、LILRB1、LAIR1、CTLA4、KIR2DL1、KIR2DL4、KIR2DL5、KIR3DL1、またはKIR3DL3のうちの少なくとも1つの細胞質尾部中のリン酸化されたチロシン残基に結合するはずである。
【0224】
SHP-2
PTPN11、PTP-1D、およびPTP-2Cとしても公知のSHP-2は、タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)ファミリーのメンバーである。PTPN6と同様に、SHP-2は、そのN末端の2つのタンデムSH2ドメイン、それに続くタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)ドメインからなるドメイン構造を有する。不活性状態では、N末端SH2ドメインは、PTPドメインに結合し、活性部位への潜在的な基質の接近を遮断する。したがって、SHP-2は自己阻害される。標的ホスホ-チロシル残基への結合の際に、N末端SH2ドメインがPTPドメインから放出され、自己阻害を軽減することによって酵素を触媒的に活性化する。
【0225】
ヒトSHP-2は、UniProtKB受託番号P35235-1を有する。
【0226】
活性調節因子は、配列番号29として以下に示すSHP-1タンデムSH2ドメインを含むか、これからなり得る。SHP-1は、配列のN末端の残基6~102および112~216に2つのSH2ドメインを有する。活性調節因子は、配列番号27および28として示した配列の一方または両方を含み得る。
【0227】
SHP-2の第1のSH2ドメイン(配列番号27)
WFHPNITGVEAENLLLTRGVDGSFLARPSKSNPGDFTLSVRRNGAVTHIKIQNTGDYYDLYGGEKFATLAELVQYYMEHHGQLKEKNGDVIELKYPL
【0228】
SHP-2の第2のSH2ドメイン(配列番号28)
WFHGHLSGKEAEKLLTEKGKHGSFLVRESQSHPGDFVLSVRTGDDKGESNDGKSKVTHVMIRCQELKYDVGGGERFDSLTDLVEHYKKNPMVETLGTVLQLKQPL
【0229】
SHP-2の両方のSH2ドメイン(配列番号29)
WFHPNITGVEAENLLLTRGVDGSFLARPSKSNPGDFTLSVRRNGAVTHIKIQNTGDYYDLYGGEKFATLAELVQYYMEHHGQLKEKNGDVIELKYPLNCADPTSERWFHGHLSGKEAEKLLTEKGKHGSFLVRESQSHPGDFVLSVRTGDDKGESNDGKSKVTHVMIRCQELKYDVGGGERFDSLTDLVEHYKKNPMVETLGTVLQLKQPL
【0230】
活性調節因子は、少なくとも80、85、90、95、98、または99%の配列同一性を有する配列番号27、28、または29のバリアントを含み得るが、但し、バリアントの配列が必要な性質を有するSH2ドメイン配列であることを条件とする。換言すれば、バリアント配列は、SHP-2を動員することが可能なPD1、PDCD1、BTLA4、LILRB1、LAIR1、CTLA4、KIR2DL1、KIR2DL4、KIR2DL5、KIR3DL1、またはKIR3DL3のうちの少なくとも1つの細胞質尾部中のリン酸化されたチロシン残基に結合するはずである。
【0231】
3.サイトカインおよびサイトカインシグナル伝達
活性調節因子は、サイトカインまたはケモカインであり得る。サイトカインは、CAR発現細胞の活性を調整し、そして/または腫瘍微小環境を調整し得る。
【0232】
活性調節因子は、以下から選択されるサイトカインまたはケモカインであり得る:IL12、flexiIL12、GM-CSF、IL7、IL15、IL21、IL2、およびCCL19。特に、この作用因子は、IL-7またはIL-12であり得る。
【0233】
IL-7は、B細胞およびT細胞の発生に重要なサイトカインである。IL-7は、複能性(多能性)造血幹細胞のリンパ球系前駆細胞への分化を刺激し、全てのリンパ球系細胞(B細胞、T細胞、およびNK細胞)の増殖を刺激する。
【0234】
Il-7および肝細胞成長因子(HGF)はヘテロ二量体を形成し、プレ-プロB細胞成長刺激因子として機能する。このサイトカインは、初期T細胞発生中のT細胞受容体ベータ(TCRβ)のV(D)J再編成の補因子であることが見いだされている。ヒトIl-7のアミノ酸配列は、UniProt(受託番号P13232)から入手可能である。
【0235】
インターロイキン12(IL-12)は、腫瘍微小環境を調整してがんに対する免疫応答を向け直すことに特に関心が持たれている強力な免疫調節性サイトカインである。IL-12は全身毒性を示すため、IL-12を局所産生する方法に関心が寄せられている。PCT/GB2018/052204号は、環境代謝産物(キヌレニンなど)の存在下で活性化されるプロモーターの制御下でIL-12などの免疫調節サイトカインが産生される構築物を記載している。キヌレニンなどの代謝産物の存在下でIL-12が選択的に産生されると、CARまたはTCRを発現する細胞が腫瘍微小環境に存在する場合のみにおいてIL-12を局所的に産生することができる。
【0236】
あるいは、免疫調節サイトカインは、フレーム-スリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフ(translational readthrough motif)の下流に配置され得る。これによ
り、サイトカイン発現を制御し、CARに関してサイトカインの発現のレベルを低下させる手段が得られる。
【0237】
フレーム-スリップモチーフ(FSM)は、ウラシル、チミン、またはグアニンの各塩基の反復(配列UUUUUUU(配列番号61)など)を含み得る。
【0238】
また、フレーム-スリップモチーフは、終止コドンを含み得る。例えば、FSMは、以下の配列のうちの1つを含み得る:
UUUUUUUGA(配列番号62)
UUUUUUUAG(配列番号63)
UUUUUUUAA(配列番号64)。
【0239】
翻訳リードスルーモチーフ(TRM)は、配列STOP-CUAGまたはSTOP-CAAUUA(ここで、「STOP」は終止コドンである)を含み得る。例えば、翻訳リードスルーモチーフは、以下の配列のうちの1つを含み得る:
UGA-CUAG(配列番号65)
UAG-CUAG(配列番号66)
UAA-CUAG(配列番号67)
UGA-CAAUUA(配列番号68)
UAG-CAAUUA(配列番号69)
UAA-CAAUUA(配列番号70)。
【0240】
IL-12は、2つの個別の遺伝子であるIL-12A(p35)およびIL-12B(p40)によってコードされるヘテロ二量体サイトカインである。活性なヘテロ二量体(「p70」と呼ばれる)は、タンパク質合成後に形成される。活性調節因子は、「flexi-IL12」であり得、これは、リンカーによって連結されたIL-12αサブユニットとIL-12βサブユニットとの間の融合物である。安定なflexi-IL-12配列を、配列番号81として以下に示す。
【0241】
配列番号81(flexi-IL-12配列)
【化1】
【化2】
【0242】
配列番号81では、セリン-グリシンリンカーを、下線をつけた太字で示している。
【0243】
本発明の活性調節因子は、細胞の微小環境内の環境代謝産物の存在に応じて選択的に発現されるサイトカインであり得る。環境代謝産物は、アリール炭化水素受容体(AHR)を活性化し得る。環境代謝産物は、キヌレニなどのトリプトファン代謝産物であり得る。
【0244】
あるいは、作用因子は、サイトカインまたはケモカインの発現または活性に影響を及ぼし得る。例えば、作用因子は、サイトカインまたはケモカインのドミナントネガティブバージョンであり得る。ドミナントネガティブバージョンは、例えば、受容体に結合して野生型サイトカイン/ケモカインと競合するが、サイトカイン/ケモカインシグナル伝達を誘発しないサイトカイン/ケモカインの変異バージョンまたは短縮バージョンであり得る。
【0245】
例えば、作用因子は、サイトカイン受容体またはケモカイン受容体のドミナントネガティブバージョンであり得る。ドミナントネガティブバージョンは、例えば、サイトカインに結合して野生型サイトカイン/ケモカイン受容体へのその結合を遮断するサイトカイン/ケモカイン受容体の変異バージョンまたは短縮バージョンであり得る。
【0246】
あるいは、作用因子は、サイトカインまたはケモカインのシグナル伝達経路を遮断するか、そうでなければ調整する抗体または抗体断片であり得る。
【0247】
活性調節因子は、サイトカイン受容体エンドドメインを含むキメラサイトカイン受容体であり得る。
【0248】
活性調節因子は、T細胞増殖を強化するサイトカイン(IL-7など)由来のエンドドメインに融合した免疫阻害性サイトカイン(IL-4など)由来のエキソドメインを含み得る(Leen et al(2014)Mol.Ther.22:1211-1220)。
【0249】
活性調節因子は、CCL19などのケモカインであり得る。ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド19(CCL19)は、EBI1リガンドケモカイン(ELC)およびマクロファージ炎症タンパク質-3-ベータ(MIP-3-ベータ)としても公知のCCケモカインファミリーに属する小型サイトカインである。CCL19は、ケモカイン受容体ケモカイン受容体CCR7への結合によってその標的細胞への効果を顕在化させる。CCL19は、ある特定の免疫系細胞(樹状細胞および抗原結合B細胞およびCCR7+セントラルメモリーT細胞が含まれる)を誘引する。ヒトCCL19のアミノ酸配列は、UniProt(受託番号 Q99731)から入手可能である。
【0250】
3.1 キメラサイトカイン受容体
あるいは、活性調節因子は、非サイトカイン受容体エキソドメインを含み得る。WO2017/029512号は、以下を含むキメラサイトカイン受容体(CCR)を記載している:腫瘍分泌因子、ケモカイン、および細胞表面抗原から選択されるリガンドに結合するエキソドメイン;およびサイトカイン受容体エンドドメイン。
【0251】
キメラサイトカイン受容体は、以下の2つのポリペプチドを含み得る:
(i)以下を含む第1のポリペプチド:
(a)リガンドの第1のエピトープに結合する第1の抗原結合ドメイン
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖;および
(ii)以下を含む第2のポリペプチド:
(a)リガンドの第2のエピトープに結合する第2の抗原結合ドメイン(b)サイトカイン-受容体エンドドメインの第2の鎖。
【0252】
あるいは、以下の2つのポリペプチドを含むキメラサイトカイン受容体:
(i)以下を含む第1のポリペプチド:
(a)重鎖可変ドメイン(VH)
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖;および
(ii)以下を含む第2のポリペプチド:
(a)軽鎖可変ドメイン(VL)
(b)サイトカイン-受容体エンドドメインの第2の鎖。
【0253】
例えば、サイトカイン受容体エンドドメインは、以下を含み得る:
(i)IL-2受容体β鎖エンドドメイン
(ii)IL-7受容体α鎖エンドドメイン;
(iii)IL-15受容体α鎖エンドドメイン;または
(iv)共通のγ鎖受容体エンドドメイン。
【0254】
サイトカイン受容体エンドドメインは、(i)、(ii)、または(iii);および(iv)を含み得る。
【0255】
サイトカイン受容体エンドドメインは、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子受容体(GMCSF-R)由来のα鎖エンドドメインおよびβ鎖エンドドメインを含み得る。
【0256】
リガンドは、腫瘍分泌因子、例えば、以下から選択される腫瘍分泌因子であり得る:前立腺特異的抗原(PSA)、癌胎児性抗原(CEA)、血管内皮成長因子(VEGF)、およびCA125。
【0257】
リガンドは、ケモカイン、例えば、以下から選択されるケモカインであり得る:CXCL12、CCL2、CCL4、CCL5、およびCCL22。
【0258】
リガンドは、細胞表面分子(膜貫通タンパク質など)であり得る。リガンドは、例えば、CD22であり得る。
【0259】
構成性に活性なキメラサイトカイン受容体
活性調節因子は、構成性に活性なキメラサイトカイン受容体であり得る。活性調節因子は、自発的にか作用因子(二量体化の化学誘導物質すなわちCID)の存在下で2つのサイトカイン受容体エンドドメインを一緒にして二量体化する2つの鎖を含み得る。
【0260】
したがって、活性調節因子は、二量体化ドメイン;およびサイトカイン受容体エンドドメインを含み得る。
【0261】
二量体化は自発的に起こる場合があり、この場合、キメラ膜貫通タンパク質は構成性に活性である。あるいは、二量体化は二量体化の化学誘導物質(CID)の存在下でのみ起こる場合があり、この場合、膜貫通タンパク質のみにより、CIDの存在下でサイトカイン型シグナル伝達が生じる。
【0262】
適切な二量体化ドメインおよびCIDは、WO2015/150771号(その内容が本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0263】
例えば、一方の二量体化ドメインがFK結合タンパク質12(FKBP12)のラパマイシン結合ドメインを含む場合があり、他方はmTORのFKBP12-ラパマイシン結合(FRB)ドメインを含む場合があり;CIDは、ラパマイシンまたはその誘導体であり得る。
【0264】
一方の二量体化ドメインは、FK結合タンパク質12(FKBP12)のFK506(タクロリムス)結合ドメインを含む場合があり、他方の二量体化ドメインは、シクロフィリンA(cylcophilin A)のシクロスポリン結合ドメインを含む場合があり;CIDは、FK506/シクロスポリン融合物またはその誘導体であり得る。
【0265】
一方の二量体化ドメインは、エストロゲン結合ドメイン(EBD)を含む場合があり、他方の二量体化ドメインは、ストレプトアビジン結合ドメインを含む場合があり;CIDは、エストロン/ビオチン融合タンパク質またはその誘導体であり得る。
【0266】
一方の二量体化ドメインは、糖質コルチコイド結合ドメイン(GBD)を含む場合があり、他方の二量体化ドメインは、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)結合ドメインを含む場合があり;CIDは、デキサメタゾン/メトトレキサート融合タンパク質またはその誘導体であり得る。
【0267】
一方の二量体化ドメインは、O6-アルキルグアニン-DNAアルキルトランスフェラーゼ(AGT)結合ドメインを含む場合があり、他方の二量体化ドメインは、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)結合ドメインを含む場合があり;CIDは、O6-ベンジルグアニン誘導体/メトトレキサー融合タンパク質またはその誘導体であり得る。
【0268】
一方の二量体化ドメインは、レチノイン酸受容体ドメインを含む場合があり、他方の二量体化ドメインは、エクジソン(ecodysone)受容体ドメインを含む場合があり;CIDは、RSL1またはその誘導体であり得る。
【0269】
二量体化ドメインが自発的にヘテロ二量体化する場合、このドメインは、抗体の二量体化ドメインに基づき得る。特に、二量体化ドメインは、重鎖定常ドメイン(CH)および軽鎖定常ドメイン(CL)の二量体化部分を含み得る。定常ドメインの「二量体化部分」は、鎖間ジスルフィド結合を形成する配列の一部である。
【0270】
キメラサイトカイン受容体は、エキソドメインとして抗体のFab部分を含み得る。この点において、キメラ抗原は、以下の2つのポリペプチドを含み得る:
(i)以下を含む第1のポリペプチド:
(a)重鎖定常ドメイン(CH)
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖;および
(ii)以下を含む第2のポリペプチド:
(a)軽鎖定常ドメイン(CL)
(b)サイトカイン-受容体エンドドメインの第2の鎖。
【0271】
サイトカイン受容体エンドドメインは、以下を含み得る:
(i)IL-2受容体β鎖エンドドメイン
(ii)IL-7受容体α鎖エンドドメイン;または
(iii)IL-15受容体α鎖エンドドメイン;および/または
(iv)共通のγ鎖受容体エンドドメイン。
【0272】
サイトカイン受容体エンドドメインは、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子受容体(GMCSF-R)由来のα鎖エンドドメインおよびβ鎖エンドドメインを含み得る。
【0273】
IL-2、IL-7、またはGM-CSFの各受容体エンドドメインを有する構成性に活性なCCRは、以下の構造のうちの1つを有し得る:
Fab_CCR_IL2:HuLightKappa-IL2RgTM-IL2RgEndo-2A-HuCH1-IL2bTM-IL2RbENDO
Fab_CCR_IL7:HuLightKappa-IL2RgTM-IL2RgEndo-2A-HuCH1-IL7RaTM-IL7RaENDO
Fab_CCR_GMCSF:
HuLightKappa-GMCSFRbTM-GMCSFRbEndo-2A-HuCH1-GMCSFRaTM-GMCSFRaENDO
ここで、
HuLightKappaはヒトκ軽鎖であり、
IL2RgTMは、ヒトIL2R共通ガンマ鎖由来の膜貫通ドメインであり、
IL2RgEndoは、ヒトIL2R共通ガンマ鎖由来のエンドドメインであり、
2Aは、2Aペプチドなどの自己切断ペプチドであり得る2つのポリペプチドの共発現(co-expesion)が可能な配列であり、
HuCH1はヒトCH1であり、
IL2bTMは、ヒトIL-2Rベータ由来の膜貫通ドメインであり、
IL2RbENDOは、ヒトIL2Rベータ由来のエンドドメインであり、
IL7RaTMは、ヒトIL-7Rアルファ由来の膜貫通ドメインであり、
IL7RaENDOは、ヒトIL-7Rアルファ由来のエンドドメインであり、
GMCSFRbTMは、ヒトGM-CSFR共通ベータ鎖由来の膜貫通ドメインであり、
GMCSFRbEndoは、GM-CSFR共通ベータ鎖由来のエンドドメインであり、
GMCSFRaTMは、ヒトGF-CSFRアルファ由来の膜貫通ドメインであり、
GMCSFRaENDOは、ヒトGM-CSFRアルファ由来のエンドドメインである。
【0274】
配列番号30~43として以下に示した構成性に活性なサイトカイン受容体を作製するための成分の配列。
【0275】
配列番号30(ヒトκ軽鎖)
RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0276】
配列番号31(ヒトヒンジ)
EPKSCDKTHTCPPCPKDPK
【0277】
配列番号32(ヒトCH1)
STKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRV
【0278】
配列番号33(ヒトIL2R共通ガンマ鎖由来の膜貫通ドメイン):
VVISVGSMGLIISLLCVYFWL
【0279】
配列番号34(ヒトIL-2Rベータ由来の膜貫通ドメイン)
IPWLGHLLVGLSGAFGFIILVYLLI
【0280】
配列番号36(ヒトIL-7Rアルファ由来の膜貫通ドメイン)
PILLTISILSFFSVALLVILACVLW
【0281】
配列番号37(ヒトGF-CSFRアルファ由来の膜貫通ドメイン)
NLGSVYIYVLLIVGTLVCGIVLGFLF
【0282】
配列番号38(ヒトGM-CSFR共通ベータ鎖由来の膜貫通ドメイン)
VLALIVIFLTIAVLLAL
【0283】
配列番号39(ヒトIL2R共通ガンマ鎖由来のエンドドメイン)
ERTMPRIPTLKNLEDLVTEYHGNFSAWSGVSKGLAESLQPDYSERLCLVSEIPPKGGALGEGPGASPCNQHSPYWAPPCYTLKPET
【0284】
配列番号40(ヒトIL-2Rベータ由来のエンドドメイン)
NCRNTGPWLKKVLKCNTPDPSKFFSQLSSEHGGDVQKWLSSPFPSSSFSPGGLAPEISPLEVLERDKVTQLLLQQDKVPEPASLSSNHSLTSCFTNQGYFFFHLPDALEIEACQVYFTYDPYSEEDPDEGVAGAPTGSSPQPLQPLSGEDDAYCTFPSRDDLLLFSPSLLGGPSPPSTAPGGSGAGEERMPPSLQERVPRDWDPQPLGPPTPGVPDLVDFQPPPELVLREAGEEVPDAGPREGVSFPWSRPPGQGEFRALNARLPLNTDAYLSLQELQGQDPTHLV
【0285】
配列番号41(ヒトIL-7Rアルファ由来のエンドドメイン)
KKRIKPIVWPSLPDHKKTLEHLCKKPRKNLNVSFNPESFLDCQIHRVDDIQARDEVEGFLQDTFPQQLEESEKQRLGGDVQSPNCPSEDVVITPESFGRDSSLTCLAGNVSACDAPILSSSRSLDCRESGKNGPHVYQDLLLSLGTTNSTLPPPFSLQSGILTLNPVAQGQPILTSLGSNQEEAYVTMSSFYQNEQ
【0286】
配列番号42(ヒトGM-CSFRアルファ由来のエンドドメイン)
KRFLRIQRLFPPVPQIKDKLNDNHEVEDEIIWEEFTPEEGKGYREEVLTVKEIT
【0287】
配列番号43(GM-CSFR共通ベータ鎖由来のエンドドメイン)
RFCGIYGYRLRRKWEEKIPNPSKSHLFQNGSAELWPPGSMSAFTSGSPPHQGPWGSRFPELEGVFPVGFGDSEVSPLTIEDPKHVCDPPSGPDTTPAASDLPTEQPPSPQPGPPAASHTPEKQASSFDFNGPYLGPPHSRSLPDILGQPEPPQEGGSQKSPPPGSLEYLCLPAGGQVQLVPLAQAMGPGQAVEVERRPSQGAAGSPSLESGGGPAPPALGPRVGGQDQKDSPVAIPMSSGDTEDPGVASGYVSSADLVFTPNSGASSVSLVPSLGLPSDQTPSLCPGLASGPPGAPGPVKSGFEGYVELPPIEGRSPRSPRNNPVPPEAKSPVLNPGERPADVSPTSPQPEGLLVLQQVGDYCFLPGLGPGPLSLRSKPSSPGPGPEIKNLDQAFQVKKPPGQAVPQVPVIQLFKALKQQDYLSLPPWEVNKPGEVC
【0288】
活性調節因子は、少なくとも80、85、90、95、98、または99%の配列同一性を有する配列番号30~43のうちの1つまたは複数のバリアントを含み得るが、但し、バリアント配列は必要な性質を有することを条件とする。例えば、バリアントCHまたはCL配列は、CL/CH含有鎖と二量体を形成する能力を保持すべきである。サイトカイン受容体エンドドメイン由来のバリアント鎖は、サイトカイン受容体の相互鎖(reciprocal chain)とカップリングした場合にサイトカイン媒介性シグナル伝達を誘発する能
力を保持すべきである。
【0289】
3.3 JAK/STAT
シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)分子は、サイトカイン媒介性シグナル伝達に関与する転写因子のファミリーである。STAT転写因子は、細胞表面受容体の細胞質領域に動員され、リン酸化によって活性化される。活性化された時点で、STAT転写因子は二量体化して、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む活性化されたSTAT分子を形成し、細胞核内に移動し、そこで遺伝子発現に影響を及ぼす。STAT転写因子は、細胞成長過程および細胞分化の調節で役割を果たす。JAK-STATシグナル伝達は、以下の3つの主な成分からなる:(1)細胞膜を透過する受容体、(2)前述の受容体に結合されるヤヌスキナーゼ(JAK)、および(3)シグナルを核およびDNA内に輸送するシグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)(
図3を参照のこと)。
【0290】
細胞内に構成性に活性なまたは誘導性に活性なJAK分子またはSTAT分子を含めることによって、CAR発現細胞の生着および存続を強化することが可能である。国際特許出願番号PCT/GB2018/052583号は、構成性に活性なSTAT分子(国際特許出願番号PCT/GB2018/052583号の
図4)および誘導性STAT分子(国際特許出願番号PCT/GB2018/052583号の
図5)の種々の代替配置を記載している。
【0291】
国際特許出願番号PCT/GB2018/052583号に記載のように、構成性に活性なJAK分子は、構成性に活性なSTAT分子について下記のように、自発的に二量体化するか、リンカーによって連結される2つのJAKポリペプチドを発現することによって作製され得る。あるいは、機能獲得型変異を含む構成性に活性なJAKが発現され得る。
【0292】
活性調節因子は、構成性に活性なまたは誘導性のシグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)分子であり得る。
【0293】
細胞のSTAT分子は、第1の二量体化ドメイン(DD)を含む第1のSTATポリペプチドおよび第1のDDに結合する第2のDDを含む第2のSTATポリペプチドを含み得る。
【0294】
細胞のSTAT分子の第1および第2のDDは、例えば、ロイシンジッパードメイン;または重鎖定常領域および軽鎖定常領域を含み得る。
【0295】
細胞の誘導性STAT分子は、STAT分子の第1のDDおよび第2のDDを二量体化させ、それにより、STAT分子の活性化を誘導する作用因子の存在下で誘導性に活性であり得る。例えば、第1のDDはFRBを含み得、第2のDDはFKBP12を含み得、作用因子はラパマイシンであり得る。
【0296】
あるいは、細胞のSTAT分子は、STAT分子の第1のDDおよび第2のDDを解離させ、それにより、STAT分子の非活性化を誘導する作用因子の存在下で誘導性に不活性であり得る。第1のDDはTetRBを含み得、第2のDDはTiPを含み得、作用因子は、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはミノサイクリンであり得る。
【0297】
構成性に活性なSTATは、機能獲得型(GOF)変異を含み得るか、リンカー配列によって連結された第1のSTATポリペプチドおよび第2のSTATポリペプチドを含み得る。
【0298】
細胞は、係留ドメインおよび第1の結合ドメイン(BD)を含む膜係留分子、ならびに第1のBDに特異的に結合する第2のBDを含む構成性に活性なSTAT分子を含み得る。第1および第2のBDの結合は、作用因子の存在下で構成性に活性なSTAT分子が膜係留分子から解離されるような作用因子の存在によって破壊することができ、それにより構成性に活性なSTAT分子が自由に核に移動する。
【0299】
細胞のSTAT分子の第1および第2のDD;または細胞の膜係留分子の第1のBDおよび細胞のSTAT分子の第2のBDは、Tet抑制タンパク質(TetR)および転写誘導ペプチド(TiP)をそれぞれ含み得;作用因子は、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはミノサイクリンであり得る。
【0300】
細胞は、a)STAT放出ドメインによって連結されたCARおよび構成性に活性なSTAT分子、およびb)STAT放出分子であって、CARに特異的な標的抗原を認識したときのみにSTAT放出ドメインでCARから構成性に活性なSTAT分子を放出し、その結果、放出の際に、構成性に活性なSTAT分子が自由に核に移動する、STAT放出分子を含み得る。
【0301】
STAT放出分子は、例えばリン酸化された免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM)に結合するCAR標的ドメインを含み得る。例えば、CAR標的ドメインは、1またはそれを超えるZAP70 SH2ドメインを含み得る。
【0302】
本発明の細胞のSTAT放出ドメインは、プロテアーゼ切断部位を含み得、細胞のSTAT放出分子は、プロテアーゼドメインを含み得、その結果、CARの標的抗原の認識の際にプロテアーゼドメインがプロテアーゼ切断部位を切断し、STAT分子が放出される。
【0303】
4.接着分子
細胞接着分子(CAM)は、細胞表面上に存在し、細胞接着における他の細胞または細胞外マトリックス(ECM)との結合に関与するタンパク質である。
【0304】
これらのタンパク質は、典型的には膜貫通受容体であり、以下の3つのドメインから構成される:細胞骨格と相互作用する細胞内ドメイン、膜貫通ドメイン、および同種の他のCAM(同種結合)または他のCAMもしくは細胞外マトリックス(異種結合)のいずれかと相互作用する細胞外ドメイン。
【0305】
ほとんどのCAMは、以下の4つのタンパク質ファミリーに属する:Ig(免疫グロブリン)スーパーファミリー(IgSF CAM)、インテグリン、カドヘリン、およびセレクチン。
【0306】
本発明の活性調節因子は、CAR発現細胞またはTCR発現細胞の活性を調整する接着分子であり得るか、これらを含み得る。
【0307】
5.転写因子
本発明の作用因子は、CAR発現細胞またはTCR発現細胞の活性を調整する転写因子であり得るか、これらを含み得る。
【0308】
転写因子は、特異的DNA配列への結合によってDNAから伝令RNAへの遺伝情報の転写速度を制御し、前述の配列を含むか、前述の配列に近接する遺伝子の発現を調節するタンパク質である。
【0309】
転写因子は、RNAポリメラーゼの動員を促進するか(アクチベーターとして)、遮断する(リプレッサーとして)ことによって作用する。
【0310】
転写因子は、DNAのエンハンサー領域またはプロモーター領域のいずれかに付着する少なくとも1つのDNA結合ドメイン(DBD)を含む。転写因子に応じて、隣接遺伝子の転写は、上方調節されるか下方調節される。また、転写因子は、転写共調節因子などの他のタンパク質の結合部位を有するトランス活性化ドメイン(TAD)を含む。
【0311】
転写因子は、遺伝子発現調節のための種々の機序(DNAへのRNAポリメラーゼの結合の安定化もしくは遮断、またはヒストンタンパク質のアセチル化もしくは脱アセチル化の触媒が含まれる)を使用する。転写因子は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)活性を有し得る(ヒストンタンパク質をアセチル化してDNAのヒストンとの会合を減弱し、DNAをより転写しやすくし、それにより転写が上方調節される)。あるいは、転写因子は、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)活性を有し得る(ヒストンタンパク質を脱アセチル化してDNAのヒストンとの会合を強化し、DNAをより転写しにくくし、それにより転写が下方調節される)。転写因子が機能し得る別の機序は、コアクチベータータンパク質またはコリプレッサータンパク質を転写因子DNA複合体に動員することによる機序である。
【0312】
転写は、構成性に活性であるか条件的に(すなわち、活性化を必要とする)活性であり得る。
【0313】
転写因子は、天然に存在するか人工物であり得る。
【0314】
5.1 転写再プログラミング
CAR-T細胞を有効にするためには、CAR-T細胞がin vivoで存続して拡大増殖し、過度の急速な分化および疲弊に耐性を示すことが重要である。CAR T細胞の存続および生着は、ナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞、およびT幹細胞記憶T細胞の投与比率が関連する。
【0315】
WO2018/115865号は、キメラ抗原受容体(CAR)および転写因子を共発現する細胞を記載している。転写因子が発現すると、in vitroおよび/またはin vivoでの細胞の分化および/または疲弊が防止または軽減される場合がある。細胞内でCARが転写因子と共発現することにより、細胞の分化および/または疲弊を防止または軽減することが可能である。これにより、免疫療法用の細胞組成物中のナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞、および幹細胞記憶細胞の比率が高くなり、in vivoで細胞がより有効に存続および拡大増殖される。
【0316】
本発明の活性調節因子は、転写因子であり得る。転写因子は、細胞の分化および/または疲弊を防止または軽減し得る。
【0317】
転写因子は、エフェクターメモリーリプレッサー(BLIMP-1など)であり得る。
【0318】
あるいは、転写因子は、セントラルメモリーリプレッサー(BCL6またはBach2など)であり得る。
【0319】
転写因子は、ALKによるリン酸化能が低下しているか除去されているBach2またはBach2の改変バージョンであり得るか、これらを含み得る。例えば、改変Bach2は、1またはそれを超える以下の位置に変異を含み得る:Ser-535、Ser-509、Ser-520。
【0320】
転写因子は、FOXO1、EOMES、Runx3、またはCBFベータであり得る。
【0321】
6.TGFβシグナル伝達の調整
【0322】
操作された細胞は、養子免疫療法が制限される厳しい微小環境に直面する。腫瘍微小環境内の主な阻害機序のうちの1つは、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)である。TGFβシグナル伝達経路は、種々の細胞過程を調節するシグナル伝達調節において極めて重要な役割を果たす。また、TGFβは、T細胞ホメオスタシスおよび細胞機能の調節において中心的な役割を果たす。特に、TGFβシグナル伝達は、T細胞の免疫低下状態(増殖および活性化の低下)に関与する。TGFβ発現は、腫瘍の免疫抑制性微小環境に関連する。
【0323】
種々のがん性腫瘍細胞は、TGFβを直接産生することが公知である。がん性細胞によるTGFβ産生に加えて、TGFβは、腫瘍部位に存在する多種多様ながん性細胞(腫瘍関連T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、上皮細胞、および間質細胞など)が産生できる。
【0324】
トランスフォーミング成長因子ベータ受容体は、セリン/トレオニンキナーゼ受容体のスーパーファミリーである。これらの受容体は、成長因子およびサイトカインシグナル伝達タンパク質のTGFβスーパーファミリーのメンバーに結合する。5つのII型受容体(活性型受容体である)および7つのI型受容体(シグナル伝達型伝播受容体である)が存在する。
【0325】
補助共受容体(III型受容体としても公知)も存在する。リガンドのTGFβスーパーファミリーの各サブファミリーは、I型受容体およびII型受容体に結合する。
【0326】
3つのトランスフォーミング成長因子は、多くの活性を有する。TGFβ1および2は、がんに関与し、これらは、がん幹細胞を刺激し、線維症/線維形成性反応を増大させ、腫瘍の免疫認識を抑制し得る。
【0327】
TGFβ1、2、および3は、受容体TβRIIへの結合、その後のTβRIへの会合、TGFβ2の場合はさらなるTβRIIIへの会合によってシグナルを伝達する。これにより、TβRIを介したSMADによってその後にシグナルが伝達される。
【0328】
TGFβは、典型的には、プレプロ形態で分泌される。「プレ」は、小胞体(ER)へ侵入した際に切断されるN末端シグナルペプチドである。「プロ」は、ER中で切断されるが共有結合が持続し、TGFβ周囲に潜伏関連ペプチド(LAP)と呼ばれるケージを形成する。ケージは、種々のプロテアーゼ(特にトロンビンおよびメタロプロテアーゼが含まれる)に反応して開く。C末端領域は、タンパク質分解的切断によるプロ領域からのTGFβ分子の放出後に成熟TGFβ分子になる。成熟TGFβタンパク質が二量体化して、活性なホモ二量体を産生する。
【0329】
TGFβホモ二量体は、TGFβ遺伝子産物のN末端領域由来のLAPと相互作用して、小型の潜伏型複合体(SLC)と呼ばれる複合体を形成する。この複合体は、別のタンパク質(潜伏型TGFβ結合タンパク質(LTBP)と呼ばれる細胞外マトリックス(ECM)タンパク質)に結合されるまで細胞内に残存し、このタンパク質と共に大型の潜伏型複合体(LLC)と呼ばれる複合体を形成する。LLCは、ECMに分泌される。TGFβは、いくつかのプロテアーゼクラス(メタロプロテアーゼおよびトロンビンが含まれる)によってこの複合体から生物学的に活性な形態に放出される。
【0330】
本発明の活性調節因子は、TGFβシグナル伝達を調整し得る。
【0331】
例えば、活性調節因子は、TGFβ受容体へのTGFβ結合を遮断または軽減し得る;活性調節因子は、TGFβまたはTGFβRと、TGFβRまたはTGFβへの結合を競合し得る;あるいは、活性調節因子は、例えばSMADを介した下流TGFβシグナル伝達を調整し得る。
【0332】
活性調節因子は、TGFβまたはTGFβ受容体に結合する抗体などの作用因子であり得る。
【0333】
フレソリムマブは、TGFβ1~3を遮断する免疫調節性抗体である。フレソリムマブは、転移性黒色腫および高悪性度神経膠腫で試験されている。フレソリムマブは、腫瘍特異的免疫応答の増強効果をいくらか示したが、腫瘍を根絶できなかった。TGFβに結合する他の抗体には、レルデリムバブおよびメテリムマブが含まれる。
Bedinger et al(2016)は、複数のTGFβイソ型を中和する種々のヒトモノクローナル抗体を記載している(MAbs 8(2):389-404)。
【0334】
あるいは、活性調節因子は、TβRII(TβRII-Fc)またはIII型受容体(ベータグリカン)のいずれかの可溶性エクトドメインを含む組み換えFc-融合タンパク質であり得る。可溶性TβRIIおよび可溶性TβRIII(βグリカン)は、TGF-βの結合を防止するデコイ受容体として機能する。
【0335】
6.1 ドミナントネガティブTGFβ
活性調節因子は、トランスフォーミング成長因子ベータ受容体(TβR)に結合してトランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)とのTβRの相互作用を破壊することができる分泌性因子であり得る。
【0336】
活性調節因子は、ドミナントネガティブTGFβであり得る。
【0337】
本明細書中で使用される「ドミナントネガティブTGFβ」またはdnTGFβは、分泌性因子TGFβが野生型TGFβに拮抗的に作用することを意味する。
【0338】
ドミナントネガティブTGFβは、野生型TGFβによって誘導されたシグナル伝達を阻害するため、その生物学的作用を中和する。
【0339】
活性調節因子は、変異体TGFβであり得る。
【0340】
野生型TGFβ2の成熟タンパク質を、配列番号44として以下に示す。
ALDAAYCFRNVQDNCCLRPLYIDFKRDLGWKWIHEPKGYNANFCAGACPYLWSSDTQHSRVLSLYNTINPEASASPCCVSQDLEPLTILYYIGKTPKIEQLSNMIVKSCKCS(配列番号44)。
【0341】
変異体TGFβは、アミノ酸番号を配列番号44とのアラインメントによって決定した場合に、アミノ酸残基W30、W32、L101、L51、Q67、およびY6に1またはそれを超える変異を含み得、変異は以下の通りである:
アミノ酸残基30は、N、R、K、D、Q、L、S、P、V、I、G、C、T、A、またはEに変異しており;そして/または
アミノ酸残基32は、Aに変異しており;そして/または
アミノ酸残基101は、A、Eに変異しており;そして/または
アミノ酸残基51は、Q、W、Y、Aに変異しており;そして/または
アミノ酸残基67は、H、F、Y、W、Yに変異しており;そして/または
アミノ酸残基6は、Aまたはそのバリアントに変異している。
【0342】
あるいは、活性調節因子は、短縮TGFβポリペプチド(単量体TGFβなど)を含み得る。Kim et al(2017)は、TGFβシグナル伝達を遮断するためのドミナントネガティブとして機能する操作されたTGFβ単量体を記載している(J.Biol.Chem.doi:10.1074/jbc.M116.768754)。
【0343】
短縮TGFβは、ヒールヘリックスα3(TGFβI型受容体(TβRI)への結合に不可欠であるが、TβRIIへの結合には必ずしも必要でない構造モチーフ)を欠き得る。
【0344】
TGFβ単量体のアミノ酸配列を配列番号45に記載する。配列番号45は、シグナルペプチドおよび潜伏関連ペプチド(LAP)を含む。
MHYCVLSAFLILHLVTVALSLSTCSTLDMDQFMRKRIEAIRGQILSKLKLTSPPEDYPEPEEVPPEVISIYNSTRDLLQEKASRRAAACERERSDEEYYAKEVYKIDMPPFFPSENAIPPTFYRPYFRIVRFDVSAMEKNASNLVKAEFRVFRLQNPKARVPEQRIELYQILKSKDLTSPTQRYIDSKVVKTRAEGEWLSFDVTDAVHEWLHHKDRNLGFKISLHCPCCTFVPSNNYIIPNKSEELEARFAGIDGTSTYTSGDQKTIKSTRKKNSGKTPHLLLMLLPSYRLESQQTNRRKKRALDAAYCFRNVQDNCCLRPLYIDFRKDLGWKWIHEPKGYNANFCAGACPYRASKSPSCVSQDLEPLTIVYYVGRKPKVEQLSNMIVKSCKCS(配列番号45)。
【0345】
活性調節因子は、配列番号45に記載のアミノ酸配列またはそのバリアントを有し得る。バリアントTGFβ単量体は、配列番号45に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有し得るが、但し、ポリペプチドが、トランスフォーミング成長因子ベータ受容体(TβR)に結合し、かつトランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)との相互作用を破壊することができる単量体を提供することを条件とする。
【0346】
6.2 ドミナントネガティブTGFβ受容体
活性TGFβ受容体(TβR)は、2つのTGFβ受容体I(TβRI)および2つのTGFβ受容体 II(TβRII)によって構成されるヘテロ四量体である。TGFβ1は、潜伏形態で分泌され、複数の機序によって活性化される。活性化された時点で、TGFβ1はTβRII、TβRIと複合体を形成し、TβRIがリン酸化および活性化される。
【0347】
活性調節因子は、ドミナントネガティブTGFβ受容体であり得る。ドミナントネガティブTGFβ受容体は、キナーゼドメインを欠き得る。
【0348】
例えば、活性調節因子は、TGF受容体IIの単量体バージョンである配列番号46として示した配列を含むか、これからなり得る。
【0349】
配列番号46(dnTGFβ RII)
TIPPHVQKSVNNDMIVTDNNGAVKFPQLCKFCDVRFSTCDNQKSCMSNCSITSICEKPQEVCVAVWRKNDENITLETVCHDPKLPYHDFILEDAASPKCIMKEKKKPGETFFMCSCSSDECNDNIIFSEEYNTSNPDLLLVIFQVTGISLLPPLGVAISVIIIFYCYRVNRQQKLSS
【0350】
ドミナントネガティブTGF-βRII(dnTGF-βRII)は、侵襲性ヒト前立腺がんマウスモデルにおけるPSMA標的CAR-T細胞増殖、サイトカイン分泌、疲弊耐性、長期in vivo存続、および腫瘍根絶の誘導を増強することが報告されている(Kloss et al(2018)Mol.Ther.26:1855-1866)。
【0351】
6.3 SMAD
上述のように、活性TGFβ受容体(TβR)は、2つのTGFβ受容体 I(TβRI)および2つのTGFβ受容体 II(TβRII)によって構成されるヘテロ四量体である。活性化されたTGF-βが親和性の高いトランスフォーミング成長因子-β受容体-2(TβRII)に結合したときにシグナル伝達が開始される。この結合には、トランスフォーミング成長因子-β受容体-3(TβRIII)(βグリカンとしても公知であり、TβRIIの高次構造を変化させてリガンド-受容体結合を容易にする)の関与を必要とし、次いで、TGF-β受容体-1/ALK-5(TβR1)(セリン/トレオニンキナーゼ)がTGF-β/TβRII複合体に動員され、SMAD2およびSMAD3(SMADタンパク質の受容体調節ファミリーに属する)のリン酸化によってシグナル伝達を開始する。リン酸化されたSMAD2およびSMAD3が組み合わされてSMAD4とヘテロマー複合体を形成し、この複合体が細胞核に移行して種々の転写因子と相互作用し、最終的に細胞応答に至る。
【0352】
SMADタンパク質は、TGFβの活性化の際に細胞外シグナルを膜から核へ伝達するための細胞内転写因子である。以下の3つのタイプのSMADが同定されている:受容体調節SMAD(R-SMAD)(SMAD2およびSMAD3が含まれる)およびコモンメディエーターSMAD(co-SMAD)(SMAD4のみが含まれる。最後に、阻害性SMAD(I-SMAD)(SMAD6およびSMAD7が含まれる)。
【0353】
SMADタンパク質は、リンカー領域によって連結された2つの球状ドメインからなる。SMADのN末端ドメイン(すなわち、「Madホモロジー1」(MH1)ドメイン)の主な機能は、DNAに結合することである。C末端ドメイン(すなわち、MH2ドメイン)は、多数のレギュレータータンパク質およびエフェクタータンパク質(TβR受容体が含まれる)、ある特定の細胞質アンカータンパク質、系列特異的DNA結合補因子、およびクロマチン修飾因子とのタンパク質間相互作用を媒介する。TGFβの存在下で、R-SMADは、TGFβ受容体によってリン酸化される。このリン酸化は、SMADのC末端配列pSer-X-pSer中の2つのセリン残基を標的にし、SMAD転写複合体の形成を駆動する酸性テールが生成される。MH2ドメインのN末端部分内の2つの保存されたアミノ酸のミスセンス変異が、結腸直腸がん患者で同定されている。これら2つの変異により、WT SMADタンパク質の活性に対抗するドミナントネガティブな挙動が獲得される。
【0354】
活性調節因子は、単剤療法としてか、アルキル化剤である、膠芽細胞腫用のロムスチンまたはテモゾロミド(temozolamide)との組み合わせ、および他の組み合わせで試験されているガルニセルチブなどのSMADシグナル伝達阻害剤であり得る。
【0355】
あるいは、活性調節因子は、MH2ドメインのみを発現するシグナル短縮SMAD2およびSMAD3およびSMAD4のドミナントネガティブバージョンであり得る。活性調節因子は、以下であり得る:i)MH2、ii)短縮された最後の24aaを欠くMH2、およびiii)短縮SMAD2_MH2-リンカー-SMAD3_MH2。これらのドミナントネガティブは、野生型SMADタンパク質と、受容体ドッキングドメインについておよびパートナータンパク質との結合について競合するため、TGFβシグナル伝達が軽減または遮断される。
【0356】
dnSMADは、SMAD2、SMAD3、および/またはSMAD4のうちの1つまたは複数から選択され得る。dnSMADは、機能的なMH1ドメインを欠く。
【0357】
MH1ドメインは、SMADタンパク質のN末端の保存されたMADホモロジードメインである。MH1ドメインは、DNAに結合することができ、MH2ドメインの機能を負に調節する。
【0358】
MH2ドメインは、SMADタンパク質のC末端の保存されたMADホモロジードメインである。MH2ドメインは、中央のβ-サンドイッチを保存されたループ-ヘリックスと共に含み、ホスホ-セリン残基に結合することができる。MH2ドメインは、レギュレータータンパク質およびエフェクタータンパク質(TβR受容体、細胞質アンカータンパク質、系列特異的DNA結合補因子、およびクロマチン修飾因子が含まれる)とのタンパク質:タンパク質相互作用を媒介する
【0359】
活性調節因子は、SMAD2、SMAD3、およびSMAD4由来の野生型 MH2ドメインを含み得るか、これらから本質的になり得るか、これらからなり得る。これらのMH2ドメインのアミノ酸配列を、配列番号47~49として以下に示す。
WCSIAYYELNQRVGETFHASQPSLTVDGFTDPSNSERFCLGLLSNVNRNATVEMTRRHIGRGVRLYYIGGEVFAECLSDSAIFVQSPNCNQRYGWHPATVCKIPPGCNLKIFNNQEFAALLAQSVNQGFEAVYQLTRMCTIRMSFVKGWGAEYRRQTVTSTPCWIELHLNGPLQWLDKVLTQMGSPSVRCSSMS(配列番号47-SMAD2のMH2ドメイン)
WCSISYYELNQRVGETFHASQPSMTVDGFTDPSNSERFCLGLLSNVNRNAAVELTRRHIGRGVRLYYIGGEVFAECLSDSAIFVQSPNCNQRYGWHPATVCKIPPGCNLKIFNNQEFAALLAQSVNQGFEAVYQLTRMCTIRMSFVKGWGAEYRRQTVTSTPCWIELHLNGPLQWLDKVLTQMGSPSIRCSSVS(配列番号48-SMAD3のMH2ドメイン)
WCSIAYFEMDVQVGETFKVPSSCPIVTVDGYVDPSGGDRFCLGQLSNVHRTEAIERARLHIGKGVQLECKGEGDVWVRCLSDHAVFVQSYYLDREAGRAPGDAVHKIYPSAYIKVFDLRQCHRQMQQQAATAQAAAAAQAAAVAGNIPGPGSVGGIAPAISLSAAAGIGVDDLRRLCILRMSFVKGWGPDYPRQSIKETPCWIEIHLHRALQLLDEVLHTMPIADPQPLD(配列番号49-SMAD4のMH2ドメイン)
【0360】
活性調節因子は、野生型MH2ドメインのC末端から最大24アミノ酸が欠失した、上に概説したMH2ドメインの1つの短縮バージョンを含み得るか、これから本質的になり得る。
【0361】
活性調節因子は、リン酸化されたTGFβ受容体に対するdnSMADの結合親和性を増加させる変異をMH2ドメイン中に含み得る。活性調節因子は、以下から本質的になりうるか、以下からなり得る:変異R497H、K507Q、および/またはR515G(アミノ酸付番は配列番号49に記載の付番に対応する)を含むSMAD4ポリペプチドのMH2ドメイン;変異K378Rおよび/またはK314R(アミノ酸付番は配列番号48に記載の付番に対応する)を含むSMAD3のMH2ドメイン。
【0362】
活性調節因子は、少なくとも2つの上記定義のdnSMADポリペプチドを含むキメラdnSMADであり得る。キメラdnSMADのdnSMADポリペプチドは、リンカードメインによって連結され得る。
【0363】
dnSMAD2ポリペプチドおよびdnSMAD3ポリペプチドを含むキメラdnSMADのアミノ酸配列を、配列番号50として以下に示す。
WCSIAYYELNQRVGETFHASQPSLTVDGFTDPSNSERFCLGLLSNVNRNATVEMTRRHIGRGVRLYYIGGEVFAECLSDSAIFVQSPNCNQRYGWHPATVCKIPPGCNLKIFNNQEFAALLAQSVNQGFEAVYQLTRMCTIRMSFVKGWGAEYRRQTVTSTPCWIELHLNGPLQWLDKVLTQMLEYSGGGSGGGSLEWCSISYYELNQRVGETFHASQPSMTVDGFTDPSNSERFCLGLLSNVNRNAAVELTRRHIGRGVRLYYIGGEVFAECLSDSAIFVQSPNCNQRYGWHPATVCKIPPGCNLKIFNNQEFAALLAQSVNQGFEAVYQLTRMCTIRMSFVKGWGAEYRRQTVTSTPCWIELHLNGPLQWLDKVLTQM (配列番号50)
【0364】
dnSMADまたはキメラdnSMADは、以下として示した配列を含み得る:配列番号47~50;または配列番号47~50に対して少なくとも80%(好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも99%)の配列同一性を有するバリアントであって、但し、バリアント配列が野生型SMADタンパク質と、受容体ドッキングドメインについておよびパートナータンパク質との結合について競合し、TGFβシグナル伝達を軽減または遮断する能力を保持することを条件とする。
【0365】
7.代謝酵素
活性調節因子は、代謝酵素(AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)またはイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)など)であり得る。
【0366】
AMPKは、そのほとんどが細胞エネルギーが低いときにグルコースおよび脂肪酸の取り込みおよび酸化を活性化させるための細胞エネルギーホメオスタシスで役割を果たす。
【0367】
AMPKは、α、β、およびγサブユニットによって形成されたヘテロ三量体タンパク質複合体である。これら3つのサブユニットの各々は、AMPKの安定性および活性の両方で特異的な役割を担っている。具体的には、γサブユニットは、AMPKにAMP:ATP比のシフトを高感度で検出する能力を付与する4つの特定のシスタチオニンβシンターゼ(CBS)ドメインを含む。4つのCBSドメインは、一般にBatemanドメインと呼ばれるAMPの2つの結合部位を作出する。1つのAMPがBatemanドメインに結合すると、他のBatemanドメインに対する第2のAMPの結合親和性が協同的に増加する。AMPが両方のBatemanドメインに結合するので、γサブユニットは高次構造が変化し、αサブユニット上に見いだされる触媒ドメインが露出する。上流AMPKキナーゼ(AMPKK)によってトレオニン-172がリン酸化される場合にAMPKが活性化されるようになる場所はこの触媒ドメイン内である。また、α、β、およびγサブユニットは、異なるイソ型で見いだすことができる:γサブユニットは、γ1、γ2、またはγ3イソ型のいずれかとして存在することができ;βサブユニットは、β1またはβ2イソ型のいずれかとして存在することができ;αサブユニットは、α1またはα2イソ型のいずれかとして存在することができる。
【0368】
以下のヒト遺伝子は、AMPKサブユニットをコードする:
α-PRKAA1、PRKAA2
β-PRKAB1、PRKAB2
γ-PRKAG1、PRKAG2、PRKAG3。
【0369】
活性調節因子は、1またはそれを超えるAMPKサブユニットを含み得る。活性調節因子は、AMPK由来のα、β、およびγサブユニットを含み得る。
【0370】
IDHはイソシトラートの酸化的カルボキシル化を触媒し、アルファ-ケトグルタラート(α-ケトグルタラート)およびCO2が産生される。これは、イソシトラート(第二級アルコール)のオキサロスクシナート(ケトン)への酸化、その後のカルボキシル基ベータのケトンへの脱カルボキシル化(アルファ-ケトグルタラートが形成される)を含む2つの過程である。ヒトでは、IDHは、以下の3つのイソ型で存在する:IDH3は、クエン酸サイクルの第3のステップを触媒する一方で、ミトコンドリア内でNAD+をNADHへ変換する。イソ型IDH1およびIDH2は、クエン酸サイクルの環境の外側で同一の反応を触媒し、補因子としてNAD+の代わりにNADP+を使用する。これらは、サイトゾルならびにミトコンドリアおよびペルオキシソームに局在する。
【0371】
活性調節因子は、IHD1、IHD2、またはIHD3であり得る。ヒトIDH1、2、および3のアミノ酸配列は、以下の受託番号でNCBIデータベースにある:CAG38738.1(IDH1);NP_002159.2(IDH2、イソ型1);NP_001276839.1(IDH2、イソ型2);NP_001277043.1(IDH2、イソ型3);NP_689996.4(IDH3、イソ型1);NP_001274178.1(IDH3、イソ型2);NP_001339753.1(IDH3、イソ型3)。
【0372】
8.共刺激シグナル
本発明の活性調節因子は、T細胞に共刺激シグナルを提供し得る。
【0373】
例えば、活性調節因子(activity modulatory)は、TNF受容体、キメラTNF受容体、またはTNF受容体リガンドであり得る。
【0374】
TNFファミリー共刺激分子は、その個体発生中にT細胞に生存シグナルおよび拡大シグナル(expansion signal)を提供する。これらのTNF受容体(TNFR)は、TN
F受容体関連因子(TRAF)セカンドメッセンジャーを介して、シグナルを発する。
【0375】
TNFRSF9(4-1BB)、TNFRSF4(OX40)、TNFRSF5(CD40)、およびTNFRSF14(GITR)は、T細胞に生存シグナルを伝達する。TNFRSF7(CD27)およびTNFRSF14(HVEM)は、ナイーブT細胞によって発現される。OX40および4-1BBの発現は抗原刺激に応答して誘導され、これらのTNFRは、エフェクターT細胞のマーカーであることが提案されている。CD27およびGITRが従来のT細胞によって構成性に発現され得るのにもかかわらず、これらの発現はまた、OX40および4-1BBの発現の上方調節と並行して、T細胞活性化後に強く上方調節される。
【0376】
OX40、4-1BB、およびGITRの発現の誘導または上方調節は、ナイーブT細胞による抗原認識およびその活性化後24時間以内に生じ、記憶T細胞ではより一層迅速に生じる;これらの受容体の発現は、数時間または実に数日間継続し得る。
【0377】
TNF受容体TNFRSF35/デス受容体3(D3R)は、炎症組織によって一過性に上方調節されるTL1Aによって活性化され、この相互作用は、確立された免疫応答後のT細胞活性の後期に重要なようである。
【0378】
CD40はT細胞によって発現されないが、CD40LおよびCD40/CD40Lは、B細胞の分化および拡大に特に重要である。
【0379】
TNFRSF11A(RANK)はT細胞によって発現されないが、RANK/RANK-L経路は免疫発達に重要であり、破骨細胞活性の重要な経路でもあり、骨転移中で活性である。
【0380】
TNFRSF12A(Fn14)はT細胞によって発現されないが、損傷組織または炎症組織およびほとんどのがんにおいてそのリガンドTWEAKと共に発現される。
【0381】
8.1 キメラTNF受容体
国際特許出願番号PCT/GB2018/053629号は、(a)TNFRリガンドに結合することができる結合ドメイン;および(b)TNFRシグナル伝達ドメインを含むキメラTNF受容体を記載している。
【0382】
キメラTNFRの存在により、操作された細胞(例えば、CAR T細胞)へ改善された生存シグナルが提供されるように、TNFRシグナル伝達の厳格な時間的および/または空間的な制御を切り離すことができる。キメラTNFRは、腫瘍微小環境における完全な生理学的免疫応答の欠如を補い得る。キメラTNFRは、抗原結合ドメインが会合し、それ故に、腫瘍微小環境で必要な共刺激シグナルが誘導されるように構築することができる。
【0383】
キメラTNFRの抗原結合ドメインは、TNFRのリガンド結合ドメインを含み得る。例えば、抗原結合ドメインは、D3R、HVEM、CD27、CD40、RANK、またはFn14のリガンド結合ドメインを含み得る。
【0384】
キメラTNFRのシグナル伝達ドメインは、活性化シグナル伝達ドメイン(TNFR関連因子(TRAF)を介してシグナル伝達することができるものなど)であり得る。例えば、活性化シグナル伝達ドメインは、4-1BBエンドドメイン、OX40エンドドメイン、またはGITRエンドドメインのシグナル伝達部分を含み得る。
【0385】
活性調節因子は、HVEM-41BBキメラ、CD27-41BBキメラ、RANK-41BBキメラ、またはFn14-41BBキメラであり得る。これらのキメラTNF受容体の適切なアミノ酸配列の例を、配列番号51~54として以下に示し、ここで、エクトドメイン(ectotomain)を通常の文字で示し、膜貫通ドメインを太字で示し、41BBエンドドメインを斜体で示す。
【0386】
【0387】
8.2 TNF受容体リガンド
TNF関連サイトカイン(TNFファミリーリガンド)は、短い細胞質側尾部(15~25残基長)および受容体結合部位が位置するシグネチャーTNF相同ドメインを含むより大きな細胞外領域(約50アミノ酸)を有するタイプII膜貫通タンパク質(細胞内N末端)である。
【0388】
TNFRおよびそのリガンドの概要を、表3に提供する。
【0389】
【0390】
活性調節因子は、TNF受容体リガンド(CD40L(CD154)、OX40L(CD134)、または41BBLなど)であり得るか、これらを含み得る。これらのタンパク質のアミノ酸配列を、配列番号55~57として以下に示す。
【0391】
配列番号55(CD40L)
MIETYNQTSPRSAATGLPISMKIFMYLLTVFLITQMIGSALFAVYLHRRLDKIEDERNLHEDFVFMKTIQRCNTGERSLSLLNCEEIKSQFEGFVKDIMLNKEETKKENSFEMQKGDQNPQIAAHVISEASSKTTSVLQWAEKGYYTMSNNLVTLENGKQLTVKRQGLYYIYAQVTFCSNREASSQAPFIASLCLKSPGRFERILLRAANTHSSAKPCGQQSIHLGGVFELQPGASVFVNVTDPSQVSHGTGFTSFGLLKL
【0392】
配列番号56(OX40L)
MERVQPLEENVGNAARPRFERNKLLLVASVIQGLGLLLCFTYICLHFSALQVSHRYPRIQSIKVQFTEYKKEKGFILTSQKEDEIMKVQNNSVIINCDGFYLISLKGYFSQEVNISLHYQKDEEPLFQLKKVRSVNSLMVASLTYKDKVYLNVTTDNTSLDDFHVNGGELILIHQNPGEFCVL
【0393】
配列番号57(41BBL)
MEYASDASLDPEAPWPPAPRARACRVLPWALVAGLLLLLLLAAACAVFLACPWAVSGARASPGSAASPRLREGPELSPDDPAGLLDLRQGMFAQLVAQNVLLIDGPLSWYSDPGLAGVSLTGGLSYKEDTKELVVAKAGVYYVFFQLELRRVVAGEGSGSVSLALHLQPLRSAAGAAALALTVDLPPASSEARNSAFGFQGRLLHLSAGQRLGVHLHTEARARHAWQLTQGATVLGLFRVTPEIPAGLPSPRSE
【0394】
キメラRTK
受容体タンパク質-チロシンキナーゼ(RPTK)は、胚発生、細胞の成長、代謝、および免疫機能を媒介する細胞内シグナル調節因子のファミリーを構成する。RPTKはしばしばがんにおいて調節不全となり、増殖を促進する。
【0395】
CAR T細胞の増殖能は、異なるバインダーと構造との間で一致せず、増殖を最大に促す特徴はよくわかっていない。CAR T細胞は、厳しい腫瘍微小環境に曝され、二量体様式でRPTKを組み込むことによりCAR T細胞の増殖を有利にすることができる。同族リガンドの非存在下でシグナル伝達可能なRTKを発現させると、腫瘍の免疫欠損環境が破壊されてCAR T細胞の生存シグナルが改善される。
【0396】
RTKは、リガンド誘導性二量体化/オリゴマー化によってシグナルを伝達し、その細胞質尾部のキナーゼドメイン活性化ループ中のチロシン残基が自己リン酸化される。RTKがリガンドを媒介してオリゴマー化されると、2ステップで活性化される(触媒活性の増加および下流シグナル伝達タンパク質のドッキング部位の生成)。
【0397】
典型的には、RTKはホモ二量体化されてシグナルを伝達する。
【0398】
RTKの自己リン酸化は、シスまたはトランスで起こり得る。リン酸化されたチロシン残基は、多数のSH2含有シグナル伝達分子のドッキング部位を構成する。一般に、全てのRTKは、以下などの共通の下流シグナルタンパク質を介してシグナルを伝達する:PI3キナーゼ、Ras-Raf-MAPK、JNK、およびPLCγ。シグナル伝達は、JAK-STAT経路によって媒介される。
【0399】
活性調節因子は、同族リガンドの非存在下でシグナルを伝達することができる受容体チロシンキナーゼ(RTK)であり得る。かかるRTKは、英国特許出願公開第1803079.1号に記載されている。
【0400】
RTKは、同族リガンドの非存在下でシグナルを伝達することができるように、過剰発現され、そして/または変異を含み得る。
【0401】
RTKは、キメラRTKであり得る。キメラRTKは、キメラRTKの二量体化またはオリゴマー化を媒介するエクトドメインまたはエンドドメインを含み得る。
【0402】
キメラRTKの二量体化またはオリゴマー化を媒介するドメインは、ジスルフィド結合を含み得る(例えば、前述のドメインは、ヒンジドメインであり得るか、これを含み得る)。
【0403】
あるいは、キメラRTKの二量体化またはオリゴマー化を媒介するドメインは、化学的に操作可能な二量体化ドメインまたはオリゴマー化ドメインを含み得る。キメラRTKの二量体化またはオリゴマー化は、作用因子によって誘導可能な場合がある。
【0404】
ヒトRTKサブファミリーおよびRTKのまとめを、表4に示す。
【表4】
【0405】
表2に示したヒトRTKのUniProt受託番号および関連するアミノ酸配列の例を、表5に提供する。
【0406】
【0407】
標的細胞活性の調整
【0408】
活性調節因子は、標的細胞(例えば、腫瘍細胞)の活性を調整し得る。
【0409】
例えば、作用因子は、毒素(腫瘍細胞に有毒な毒素など)であり得る。例えば、作用因子は、ジフテリア毒素、シュードモナス毒素、またはシゲラ毒素であり得る。
【0410】
あるいは、活性調節因子は、プロドラッグまたはプロドラッグ活性化化合物であり得る。活性調節因子は、プロドラッグ活性化酵素であり得る。
【0411】
プロドラッグは、細胞傷害性化合物のがん細胞への標的送達で広く使用されている。プロドラッグは、酵素的または化学的な変換を受けて活性形態を再生する薬物分子の不活性または低活性の誘導体である。
【0412】
標的がん治療では、内因性の標的特異性を欠く従来の化学療法剤は、腫瘍細胞に集中してその細胞傷害性を腫瘍細胞に向け直すように合理的に修正される。多数の従来の非特異的化学療法剤(ドキソルビシン、パクリタキセル、カンプトテシン(camptothecan)、シスプラチン、およびその誘導体など)の有用性は、プロドラッグ(特に、細胞標的部分を有するプロドラッグ)への改変によって有意に拡大されている。
【0413】
活性調節因子は、個別に投与された特異的不活性基質(プロドラッグ)を細胞傷害性生成物に活性化する酵素であり得る。活性調節因子は、シトシンデアミナーゼ(CD)であり得るか、これを含み得、これは、プロドラッグ5-フルオロシトシン(5-FC)を5-フルオロウラシル(5-FU)に変換し、その下流代謝拮抗物質によりいわゆる「チミン飢餓死」に至る。あるいは、活性調節因子は、シトシンデアミナーゼ/ウラシルホスホ-リボシルトランスフェラーゼ融合物(CD/UPRT;Fcy::Fur遺伝子によってコードされる)であり得るか、これを含み得、これは、5-FU系代謝拮抗物質を生成するためにも使用されている。他の代謝拮抗物質のプロドラッグには、アシクロビルおよびガンシクロビル(組換えチミジル酸キナーゼを使用して活性な三リン酸に活性化される)ならびに6-メチル-2’-デオキシリボシドおよび2-フルオロ-2’-デオキシアデノシン(プリンヌクレオシドホスホリラーゼによって6’-メチルプリンおよび2-フルオロアデニンにそれぞれ変換される)などのヌクレオシドアナログが含まれる。ヒトデオキシシチジンキナーゼ(DCK)およびチミジル酸キナーゼ(tmpk)は、ある範囲の(非生理学的)プロドラッグを一リン酸化することができる(ゲムシタビン(dFdC)、ブロモビニル-デオキシウリジン(BVdU)、シタラビン(AraC)、および3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)一リン酸など)。また、DCKのウリジン一リン酸キナーゼとのキメラ融合物(DCK::UMK)が、膵癌においてゲムシタビンをその細胞傷害性二リン酸代謝産物(dFdCDP)に直接活性化するために開発されている。化学療法剤が特異的活性化酵素の基質に誘導体化された「デザイナー」プロドラッグも存在する。例には、ドキソルビシンとメルファランのフェノキシアセトアミドコンジュゲート(ペニシリン-Vアミダーゼによって加水分解される)、エトポシド(VP-16)のジピペリジニルコンジュゲート(組換えカルボキシルエステラーゼによって加水分解される)、および5-FUのセファロスポリンコンジュゲート(β-ラクタマーゼによる加水分解のために設計された)が含まれる。
【0414】
活性調節因子は、プロドラッグ-コンジュゲート(congugate)(例えば、毒素を含むプロドラッグコンジュゲート)を切断することができる酵素であり得る。プロドラッグコンジュゲートと同様に、多数の標的毒素は、ターゲティング部分(例えば、免疫毒素の場合、抗体)、切断可能なリンカー、および薬物(細胞傷害性酵素)からなる。モキセツモマブパスドトクスは、Pseudomonas aeruginosa由来の短縮外毒素A(天然受容体-結合ドメイン(N末端の250残基に位置する)が細胞表面CD22抗原を標的にする単鎖可変断片で置き換えられている)からなる。細胞傷害活性は、C末端セグメント(残基405~613、PE3と呼ばれる)によって完全に付与されている。このコンジュゲートはこのままでは不活性な毒素である:細胞傷害性に活性化するには、エンドサイトーシス中にプロテアーゼフューリンによって残基279と280との間を切断する必要がある。したがって、モキセツモマブパスドトクスは、機能的には、標的化プロドラッグコンジュゲートであり、外毒素A由来の残基251~364(ドメインII)がその切断によって細胞傷害性PE3を放出するリンカーとしての機能を果たす。
【0415】
1.CAR T細胞の生合成
活性調節因子は、細胞内で発現されたか、組み合わせて発現された場合に小分子を合成することができる酵素であり得る。
【0416】
国際特許出願番号PCT/GB2018/053262号は、操作された細胞が小分子、特に治療小分子を産生することができるトランスジェニックな合成生物経路をコードする操作された細胞を記載している。操作された細胞は、以下を含み得る;(i)キメラ抗原受容体(CAR)またはトランスジェニックT細胞受容体(TCR);および(ii)細胞内で組み合わせて発現された場合に治療小分子を合成することができる1またはそれを超える酵素をコードする1またはそれを超える操作されたポリヌクレオチド。
【0417】
例えば1、2、3、4、または5つの酵素が存在し得る。1またはそれを超える酵素は、1またはそれを超えるオープンリーディングフレームでコードされ得る。1またはそれを超える酵素は、単一のオープンリーディングフレームでコードされ得る。適切には、各酵素は、切断部位によって隔てられ得る。切断部位は、自己切断部位(FMD-2A様ペプチドをコードする配列など)であり得る。
【0418】
治療小分子は、例えば、細胞傷害性分子;細胞増殖抑制分子;腫瘍の分化を誘導することができる作用因子;または炎症誘発性分子であり得る。特に、小分子は、ビオラセインもしくはその誘導体、またはゲラニオールであり得る。
【0419】
標的細胞の微小環境を調整する作用因子
活性調節因子は、標的細胞(例えば、腫瘍細胞)の環境を調整する作用因子であり得る。
【0420】
例えば、作用因子は、上記で考察したサイトカイン(IL-7またはIL-12など)またはケモカイン(CCL19など)であり得る。あるいは、作用因子は、上記で考察したサイトカインまたはケモカインの発現または活性に影響を及ぼし得る。
【0421】
1.CAR-T細胞分泌酵素
免疫微小環境は、腫瘍の生存および/または進行と免疫応答との間のバランスを変化させることができる小分子代謝産物および栄養素を含む。微小環境の調整は、免疫応答に有利となるようにバランスを変化させ得、そして/または適応免疫治療の活性または有効性(CARまたはトランスジェニックTCRを発現する操作された細胞の有効性など)を改善することができる。
【0422】
本発明に関連する活性調節因子(activity modulatory)は、腫瘍微小環境内の1またはそれを超える代謝産物または栄養素のレベルを調整し、免疫細胞(免疫応答に関与するT細胞など)に有利であり、そして/または腫瘍細胞を排除するようにバランスを偏らせる場合がある。
【0423】
例えば、活性調節因子は、細胞表面で分泌または発現された場合に、操作された細胞の細胞外の分子を枯渇させる1またはそれを超える酵素であり得、前述の分子は、以下:
(i)腫瘍細胞が生存、増殖、転移するか、または化学抵抗性を示すために必要であり、そして/または
(ii)操作された細胞の生存、増殖、または活性に有害である。
【0424】
英国特許出願第1820443.8号は、細胞表面でかかる酵素を分泌するか発現する操作された細胞を記載している。
【0425】
酵素(複数可)は、アミノ酸もしくはアミノ酸代謝産物、核酸塩基(ヌクレオシドまたはヌクレオチドなど)、または脂質を枯渇させ得る。
【0426】
活性調節因子が腫瘍細胞の成長または生存に必要な栄養素または代謝産物を枯渇させる場合、免疫細胞(例えば、CAR-T細胞)は、前述の分子の非存在下にて細胞外環境内で生存するように操作され得る。例えば、細胞は、前述の分子またはその前駆体が細胞内で合成されるように操作され得る。
【0427】
細胞組成物
また、本発明は、本発明の方法によって作製された細胞組成物を提供する。
【0428】
本発明は、細胞組成物であって、前述の組成物が非形質導入細胞、一重に形質導入された細胞、組み合わせて形質導入された細胞の混合物を含むように複数のウイルスベクターで細胞を形質導入することによって作製された細胞組成物を提供する。
【0429】
本発明の方法で使用したウイルスベクターの混合物中の少なくとも1つのベクターは、CARをコードする核酸配列を含む。したがって、細胞組成物は、単一および組み合わせて形質導入されたCAR発現細胞の混合物を含み得る。
【0430】
「組み合わせて形質導入された」は、細胞が少なくとも2つのウイルスベクターで形質導入されることを意味する。例えば、細胞を2つのベクター(導入遺伝子Aを含むベクターおよび導入遺伝子Bを含むベクター)で形質導入する場合、形質導入された細胞は、Aのみを発現する細胞;Bのみを発現する細胞;ならびにAおよびBの両方を発現する細胞の混合物である。この状況では、AおよびBを発現する細胞は、組み合わせて形質導入される。
【0431】
各々導入遺伝子を含む3つのベクターで形質導入された細胞について、得られた形質導入された細胞は、以下の混合物である:Aのみ;Bのみ;Cのみ;AおよびB;AおよびC;BおよびC;ならびにA、B、およびCを発現する細胞。この状況では、AおよびB;AおよびC;BおよびCを発現する3つの亜集団;ならびにA、B、およびCを発現する細胞は、組み合わせて形質導入されている。
【0432】
細胞組成物は、ウイルスベクターの混合物中に異なるベクターの組み合わせでの形質導入によって得られた複数の亜集団を含む。
【0433】
細胞組成物は、細胞溶解性免疫細胞(T細胞および/またはNK細胞など)を含み得る。
【0434】
T細胞またはTリンパ球は、細胞性免疫において中心的な役割を果たすリンパ球の1つの型である。これらは、細胞表面上のT細胞受容体(TCR)の存在によって他のリンパ球(B細胞およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)など)と区別することができる。以下にまとめているように、種々のタイプのT細胞が存在する。
【0435】
ヘルパーTヘルパー細胞(TH細胞)は、免疫学的過程(B細胞の形質細胞およびメモリーB細胞への成熟ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化が含まれる)において他の白血球を補助する。TH細胞は、その表面上でCD4を発現する。TH細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面上のMHCクラスII分子によってペプチド抗原が提示されたときに活性化されるようになる。これらの細胞は、異なるタイプの免疫応答を容易にするために異なるサイトカインを分泌するいくつかのサブタイプ(TH1、TH2、TH3、TH17、Th9、またはTFH)のうちの1つに分化することができる。
【0436】
細胞溶解性T細胞(TC細胞、またはCTL)は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植片拒絶にも関与する。CTLは、その表面にCD8を発現する。これらの細胞は、全ての有核細胞の表面上に存在するMHCクラスIに関連する抗原への結合によってその標的を認識する。IL-10、アデノシン、および制御性T細胞によって分泌される他の分子を介して、CD8+細胞をアネルギー状態に不活性化することができ、それにより実験的自己免疫性脳脊髄炎などの自己免疫疾患を予防する。
【0437】
メモリーT細胞は、感染から回復した後に長期間にわたって維持される抗原特異的T細胞のサブセットである。メモリーT細胞は、その同族抗原への再曝露の際に迅速に多数のエフェクターT細胞へと拡大増殖する(expand)ため、免疫系に過去の感染を「記憶」させている。メモリーT細胞は、以下の3つのサブタイプを含む:セントラルメモリーT細胞(TCM細胞)および2つのタイプのエフェクターメモリーT細胞(TEM細胞およびTEMRA細胞)。メモリー細胞は、CD4+またはCD8+のいずれかであり得る。メモリーT細胞は、典型的には、細胞表面タンパク質CD45ROを発現する。
【0438】
以前は抑制性T細胞として公知であった制御性T細胞(Treg細胞)は、免疫寛容の維持に不可欠である。その主な役割は、免疫反応の終了に向けてT細胞性免疫を停止させること、および胸腺内でのネガティブ選択過程を回避した自己反応性T細胞を抑制することである。
【0439】
CD4+Treg細胞の2つの主なクラス(内在性Treg細胞および適応Treg細胞)が記載されている。
【0440】
内在性Treg細胞(CD4+CD25+FoxP3+Treg細胞としても公知)は、胸腺内で生じ、発生中のT細胞の、TSLPで活性化されている骨髄系(CD11c+)樹状細胞および形質細胞様(CD123+)樹状細胞の両方との相互作用に関与している。内在性Treg細胞は、FoxP3と呼ばれる細胞内分子の存在によって他のT細胞と区別することができる。FOXP3遺伝子を変異させると制御性T細胞の発生が阻止され、致死性自己免疫疾患IPEXを引き起こし得る。
【0441】
適応Treg細胞(Tr1細胞またはTh3細胞としても公知)は、正常な免疫応答中に生じ得る。
【0442】
ナチュラルキラー細胞(またはNK細胞)は、先天性免疫系の一部を成す。NK細胞は、ウイルス感染細胞からの内生シグナルに対してMHC依存性様式で迅速に応答する。
【0443】
NK細胞(先天性リンパ球系細胞群に属する)は大顆粒リンパ球(LGL)と定義され、Bリンパ球およびTリンパ球を生成する共通のリンパ球系前駆細胞から分化した第3の細胞を構成する。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃腺、および胸腺で分化および成熟し、次いで、循環内に入ることが公知である。
【0444】
本発明の細胞は、上記の細胞型のうちのいずれかであり得る。
【0445】
本発明の方法を用いて導入されるべき細胞は、血液試料、例えば、白血球除去物(leukapheresate)に由来し得る。細胞は、末梢血単核球(PBMC)であり得るか、これを含み得る。
【0446】
細胞は、患者自体の末梢血(第一者)から、またはドナー末梢血(第二者)または無関係のドナー由来の末梢血(第三者)由来の造血幹細胞移植においてex vivoで作り出すことができる。
【0447】
あるいは、細胞は、誘導前駆細胞または胚性前駆細胞の、例えば、T細胞またはNK細胞へのex vivo分化に由来し得る。あるいは、溶解機能を保持し、かつ治療に役立つもの(therapeutic)として作用することができる不死化T細胞株が使用され得る。
【0448】
細胞は、本発明の第1の態様のキメラポリペプチドが得られる分子をコードする核酸で形質導入される前に、例えば抗CD3モノクローナル抗体での処置によって活性化および/または拡大増殖され得る。
【0449】
形質導入後、次いで、細胞を、CARの発現に基づいて精製する(例えば、選択する)ことができる。形質導入後にCARの非存在下で活性調節因子を発現する細胞の亜集団が存在し得る場合に、CAR発現に基づいて細胞を選択することが望ましい場合がある。ウイルスベクター混合物中のベクターの各々がCARをコードする核酸配列を含む場合、いかなる細胞もCARの非存在下では活性調節因子を発現することが可能でないはずであるので、CAR発現に基づいて細胞を精製または選別する必要はない場合がある。
【0450】
医薬組成物
単一および組み合わせて形質導入されたCAR発現細胞の混合物を含む本発明の細胞組成物は、医薬組成物として患者に投与され得る。
【0451】
医薬組成物は、さらに、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、または賦形剤を含み得る。医薬組成物は、必要に応じて、1またはそれより多くのさらなる薬学的に活性なポリペプチドおよび/または化合物を含み得る。かかる製剤は、例えば、静脈内注入に適切な形態であり得る。
【0452】
処置方法
本発明は、(例えば、上記の医薬組成物中の)本発明の細胞組成物を被験体に投与するステップを含む、疾患を処置する方法を提供する。
【0453】
疾患を処置する方法は、本発明の細胞組成物の治療的使用に関する。疾患に関連する少なくとも1つの症状を緩和、軽減、もしくは改善し、および/または疾患の進行を遅延、軽減、もしく遮断するために、疾患または状態を既に有する被験体に細胞組成物を投与することができる。
【0454】
疾患を予防する方法は、本発明の細胞組成物の予防的使用に関する。未だ罹患しておらず、および/または疾患のいかなる症状も示していない被験体に、疾患の原因を予防するか損なわせるか、疾患に関連する少なくとも1つの症状の発生を軽減または予防するためにかかる細胞組成物を投与することができる。被験体は、疾患の素因を有し得るか、発症リスクがあると考えられ得る。
【0455】
本方法は、以下のステップを含み得る:
(i)細胞を含む試料を単離するステップ;
(ii)かかる細胞を、少なくとも2つのウイルスベクターの混合物で形質導入するするステップ;
(iii)(ii)由来の細胞を被験体に投与するステップ。
【0456】
本発明はまた、疾患の処置および/または予防で用いるための本発明の細胞組成物に提供する。
【0457】
本発明はまた、疾患の処置のための医薬の製造における本発明の細胞組成物の使用に関する。
【0458】
本発明の方法によって処置されるべき疾患は、がん性疾患(膀胱がん、乳がん、結腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん(腎細胞がん)、白血病、肺がん、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、膵臓がん、前立腺がん、および甲状腺がんなど)であり得る。
【0459】
疾患は、多発性骨髄腫(MM)、B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、神経芽細胞腫、T細胞急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)、またはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)であり得る。
【0460】
疾患は、形質細胞障害、例えば、形質細胞腫、形質細胞白血病、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症,アミロイドーシス、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、孤立性骨形質細胞腫、髄外性形質細胞腫、骨硬化性骨髄腫、重鎖病、意義未確定の単クローン性ガンマグロブリン血症、またはくすぶり型多発性骨髄腫であり得る。
【0461】
本発明の組成物の細胞は、がん細胞などの標的細胞を死滅させることが可能であり得る。標的細胞は、標的細胞付近の腫瘍分泌性のリガンドまたはケモカインリガンドの存在によって特徴付けられ得る。標的細胞は、標的細胞表面に腫瘍関連抗原(TAA)の発現と共に可溶性リガンドが存在することによって特徴付けられ得る。
【0462】
本発明の組成物内の異なる細胞亜集団は、同一の疾患を有する異なる患者間および患者内の異なる疾患部位(例えば、腫瘍部位)の両方において標的細胞を死滅させる能力のレベルが異なり得る。
【0463】
CAR発現細胞の結果に基づく操作
また、本発明は、疾患を処置するためのCAR発現細胞の成分の最適な組み合わせを決定する方法を提供する。
【0464】
上記で説明した通り、本発明の細胞組成物は、CAR発現細胞の混合物を含み、混合物には単一で形質導入されているものもあれば、組み合わせて形質導入されているものもある。異なる亜集団の数は、形質導入のために使用した混合物中のウイルスベクターの数に依存する。3つのベクターA、B、およびCについて、以下の7つの形質導入細胞集団が存在するはずである:以下で形質導入した集団:Aのみ;Bのみ;Cのみ;AおよびB;AおよびC;BおよびC;ならびにA、B、およびC。4つのベクターA、B、C、およびDについて、以下の15の異なる亜集団が存在する:Aのみ;Bのみ;Cのみ;Dのみ;AおよびB;AおよびC;AおよびD;BおよびC;BおよびD;CおよびD;A、B、およびC;A、B、およびD;A、C、およびD;B、C、およびD;ならびにA、B、C、およびD。
【0465】
組成物中の各ベクターがCARをコードする核酸および/または活性調節因子をコードする核酸を含む場合、細胞組成物は、各々がCAR(複数可)および活性調節因子(複数可)の異なる組み合わせを発現する形質導入された細胞亜集団の混合物である。
【0466】
例えば、ウイルスベクターの混合物は、1またはそれを超えるCARおよび複数の異なる活性調節因子を発現し得る。ベクターの混合物での細胞の形質導入によって作製されたCAR発現細胞は、標的細胞の殺滅、生存、生着、チェックポイント阻害への耐性、および/または厳しい腫瘍微小環境に対する耐性に関して異なる性質をCAR発現細胞に付与し得る活性調節因子(複数可)の複数の異なる組み合わせを発現する。in vivoでは、CAR(複数可)および活性調節因子の特定の組み合わせを発現する細胞の1つの亜集団は、患者内または患者における特定の部位内の特定の条件に最良に適合する。前述の亜集団は、最も有効な活性化シグナル、生存シグナル、および/または増殖シグナルを受け、細胞組成物中の他の亜集団に打ち勝つ。
【0467】
投与後の患者においてCAR発現細胞を分析することにより、どの亜集団が最良に生存し、生着し、標的細胞を死滅させるのかを解明することが可能である。この亜集団の表現型または遺伝子型を分析することにより、亜集団のベクターのどの組み合わせが細胞組成物の作製中に首尾よく形質導入されるのかを解明することが可能である。
【0468】
この情報を使用して、あらゆる形質導入細胞がCAR(複数可)および活性調節因子(複数可)の最も首尾の良い組み合わせを発現する相同な(homogenous)CAR発現細胞組成物を設計することができる。
【0469】
方法は、以下のステップを含み得る:
(i)疾患を有する被験体に細胞組成物を投与するステップ;
(ii)患者または患者由来の試料(複数可)をモニタリングして、細胞組成物中のどの細胞の亜集団が最も高い生存、生着、増殖活性化、および/または標的細胞殺滅レベルを示すのかを決定する、モニタリングするステップ;および
(iii)亜集団中の前述の細胞の表現型/遺伝子型を解析して、前述の細胞によって発現されたCAR(複数可)および/または活性調節因子(複数可)を確認する、解析するステップ。
【0470】
また、上記の方法によって疾患を処置するためのCAR発現細胞の成分の最適な組み合わせを決定し、次いで、同定された成分の組み合わせを発現するシングルベクターで細胞を形質導入するステップを含む、疾患の処置での使用のためのCAR発現細胞組成物を産生する方法を提供する。得られた細胞組成物は、全てのCAR発現細胞が成分の同一の組み合わせを発現するという意味において均一である。
【0471】
成分の同定された組み合わせを発現する2またはそれを超えるベクターで細胞を形質導入し、次いで、均一なCAR発現細胞組成物に到達するように全ての同定された成分を発現する細胞を選別することも可能である。
【0472】
また、本発明は、かかる方法によって作製された細胞組成物を提供する。
【0473】
本発明を、ここに、実施例によってさらに説明するが、実施例は本発明の実施において当業者を補助することを意図し、本発明の範囲を制限することを決して意図しない。
【実施例0474】
実施例1-複数のベクターで形質導入されたCAR-T細胞組成物の生成
以下のいずれかを発現するレンチウイルスベクターを生成した:a)PGKプロモーターの制御下、抗CD19抗原結合ドメイン、CD8ストークスペーサーおよび膜貫通ドメイン、ならびに化合物4-1BB-CD3ζエンドドメインを含むWO2016/139487号に記載の第2世代の抗CD19 CAR(pCCL.PGK.aCD19cat-CD8STK-41BBZ);またはb)EF1αプロモーターの制御下、上記に配列番号10~15として示したCDR、CD8ストークスペーサーおよびCD3ζを含む第2世代のエンドドメイン、ならびに4-1BB共刺激ドメインを有する抗CD22 CAR(pCCL.EF1a.aCD22_9A8-1-64_LH_scFv-CD8STK-41BBz)。
【0475】
2つの個別のレンチウイルス上清を作製し、2.5+2.5のMOIで1:1に混合した。2つのCARの発現パターンを、抗イディオタイプ抗体を使用して抗CD19 CARの発現について染色し、可溶性CD22を使用してCD22 CARの発現について染色するフローサイトメトリーによって調査した。結果を
図6に示す。レンチウイルス組成物での形質導入後、細胞は、非形質導入細胞(46.5%);抗CD19 CARのみを発現する細胞(23.1%);抗CD22 CARのみを発現する細胞(11.1%)、ならびにCD19およびCD22 CARの両方を発現する細胞(19.3%)の混合物である。
【0476】
実施例2-複数のベクターを用いた形質導入による組み合わせ様式で拡張モジュール(複数可)を組み合わせたCAR(複数可)の発現
マーカー遺伝子および特定の条件下で活性を示すことが予想される以下の拡張モジュールのうちの1つと組み合わせた第2世代の抗CD19 CAR(Fmc63-41BBz)を含むベクターを構築する:
【0477】
dnSHP2-SH2ドメインを有するが、ホスファターゼドメインを欠くSHP2の短縮バージョン。配列は、配列番号29として上に示している。短縮タンパク質は、ドミナントネガティブとして作用し、野生型タンパク質とPD1などの阻害性免疫受容体上のリン酸化されたITIMへの結合を競合する。
【0478】
dnTGFBRII-キナーゼドメインを欠くドミナントネガティブTGFβ受容体。配列は、配列番号46として上に示している。dnTGFBRIIは、野生型TGF-β受容体とTGF-βへの結合を競合し、TGFβ媒介性シグナル伝達を下方調節する。
【0479】
CCR-上記のようにIL-2、IL-7、またはGM-CSF受容体エンドドメインを有する構成性に活性なキメラサイトカイン受容体。かかる構成性に活性なCCRの成分の配列は、配列番号30~43として上に示している。かかる受容体が存在すると、構成性に(すなわち、関連するサイトカインの非存在下で)サイトカインシグナル伝達が生じる。
【0480】
以下のカセットを含むレトロウイルスベクターを構築する(GFP、mKate、およびRQR8はマーカー遺伝子である):
ベクターA-CAR+dnSHP+GFP
ベクターB-CAR+dnTBRII+mKate
ベクターC-CAR+CCR+RQR8
【0481】
T細胞を、MOIが2.5:2.5の1:1混合物中の上記の2つのベクターをコードする2つのレトロウイルスの混合物で形質導入する。得られた混合集団は、第1のベクターまたは第2のベクターまたは両方のベクターを発現するT細胞を含む。マーカー遺伝子の発現を測定するフローサイトメトリーによって形質導入を検出および測定する。例えば、ベクターAおよびBの混合物で形質導入した細胞について、マーカー遺伝子GFPおよびmKateを使用して形質導入を検出および測定する。
【0482】
増殖を測定するために、形質導入したT細胞集団を、色素Cell Trace Violet(CTV)(細胞内で加水分解されて保持される蛍光色素)で標識した。CTVは405nm(紫色)レーザーによって励起され、蛍光をパシフィックブルーチャネルで検出することができる。T細胞を、PBS中で2×106細胞/mlに再懸濁し、1ul/mlの5mM CTVを添加する。T細胞を、CTVとともに37℃で20分間インキュベートする。その後に、細胞を5Vの完全培地を添加してクエンチする。5分間のインキュベーション後、T細胞を洗浄し、2mlの完全培地に再懸濁する。室温でさらに10分間インキュベートすると酢酸加水分解が生じ、色素が保持されることが可能である。
【0483】
標識したT細胞を、CD-19発現標的細胞と4日間または7日間共培養する。ベクターAを含むベクター混合物中のdnSHP2拡張モジュールの機能を調査するために、標的抗原およびPDL1を共発現する標的細胞を使用する。ベクターBを含むベクター混合物中のdnTBRII 拡張モジュールの機能を調査するために、T細胞を、可溶性TGF-βの存在下で標的細胞と共培養する。
【0484】
ウェルあたり5×104個の形質導入されたT細胞および等数の標的細胞(比1:1)を使用して、総体積が0.2mlの96ウェルプレート中でアッセイを行う。4日目または7日目の時点で、T細胞をフローサイトメトリーによって分析して、T細胞が分裂するにつれて生じるCTVの希釈を測定する。共培養終了時のT細胞の存在数を計算し、T細胞の投入数と比較した増殖を倍数として表す。
【0485】
標的細胞が発揮した免疫抑制に対応するモジュール中の優先的な拡大増殖を、前述の集団におけるセルトレースバイオレット色素の減少および集団に対応するマーカーの増加によって評価する。
【0486】
実施例3-2つの個別のレトロウイルスベクターでの二重形質導入による拡張モジュールを有する抗GD2-CAR T細胞産物の生成
背景:神経芽細胞腫は、小児において最もよく見られる頭蓋外固形がんであり、高リスク疾患を有する小児の長期生存率は低い。
【0487】
難治性/再発性神経芽細胞腫のためのGD2標的CARTの現在進行中の第I相臨床研究(NCT02761915)は、オンターゲット/オフ腫瘍毒性を誘導しない播種性疾患に対する活性を示す。しかしながら、CARTの存続は制限され、臨床活性は一過性で不完全であった。
【0488】
この研究で使用したGD2 CARを基礎として、本発明者らは、AUTO6NGと名付けた次世代のT細胞産物候補を開発した。AUTO6NG産物は、2つの個別のレトロウイルスベクターでのT細胞の二重形質導入によって産生された3つの個別のGD2標的CAR T細胞集団からなる。第1のベクターは、構成性にシグナル伝達するIL7サイトカイン受容体(IL7R_CCR)または構成性にシグナル伝達するIL2サイトカイン受容体(IL2R_CCR)と共発現するGD2を標的にするCARの発現を指示し(産物A)、一方で、第2のベクターは、ドミナントネガティブTGFbRII(dnTGFbRII)および短縮SHP2(dSHP2)と共発現する同一のGD2 CARをコードするトリシストロン性レトロウイルスベクターである(産物B)。dSHP2は、阻害シグナル(PD1に由来する阻害シグナルなど)に対する耐性を付与する。
【0489】
【0490】
GD2 CARは、WO2015/132604号に記載の通りであり、配列番号77として示した配列を有するVHドメインおよび配列番号78として示した配列を有するVLドメインを有する抗原結合ドメインを有する。
【0491】
構成性にシグナル伝達するIL2およびIL7サイトカイン受容体は、WO2017/029512号に記載の通りである。IL2 CCRは、IL-2受容体β鎖エンドドメイン(配列番号40)を有する第1のポリペプチドおよび共通のγ鎖受容体エンドドメイン(配列番号39)を含む第2のポリペプチドを含み;それに対して、IL7 CCRは、IL-7受容体α鎖エンドドメイン(配列番号41)を有する第1のポリペプチドおよび共通のγ鎖受容体エンドドメイン(配列番号39)を含む第2のポリペプチドを含む。
【0492】
選別/自殺遺伝子RQR8は、WO2013/153391号に記載の通りであり、配列番号79として示した配列を有する。
【0493】
ドミナントネガティブTGFbRII(dnTGFbRII)は、配列番号46として上に示した配列を有する。
【0494】
短縮SHP2(dSHP2)は、配列番号29として上に示した配列を有する。
【0495】
実施例4-一重および二重に形質導入された細胞の細胞傷害能およびin vitroでの種々のベクター発現エレメントの機能の調査
ヒトT細胞を、産物の混合物A/B/A+B(AUTO6NG)を生じる両方のベクターにて二重に形質導入したか、産物AまたはBを個別に生じる各ベクターにて一重に形質導入した。対照は、非形質導入細胞(NT)およびGD2 CARのみを発現する細胞を含んでいた。
【0496】
i)細胞傷害性アッセイ
種々のエフェクター細胞型を、GD2発現SupT1標的細胞(SupT1 GD2)または対照(非形質導入標的細胞(SupT1 NT))と72時間共培養し、標的細胞の溶解率をフローサイトメトリーによって分析した。結果を
図8に示す。全てのCAR発現エフェクター細胞は、GD2発現標的細胞を死滅させることができた。デュアルベクター組成物(産物A/B/A+B)で形質導入したT細胞は、細胞傷害性アッセイにおいてGD2陽性腫瘍細胞株に対して効力が高かったが、一重に形質導入されたCAR T細胞(産物AまたはB)と比較して差異は認められなかった。
【0497】
ii)CCRの検証
上記の種々の形質導入されたCAR T細胞および対照NT T細胞を、セルトレースバイオレット(CTV)で標識し、さらに抗原刺激することなく無サイトカイン完全細胞培養培地中で7日間培養した。in vitroでの存続を、7日後のCTV色素が薄まった増殖細胞の比率およびCAR T細胞の絶対数として定量した。結果を
図9に示す。構成性にシグナル伝達するIL7サイトカイン受容体(IL7R_CCR)または構成性にシグナル伝達するIL2サイトカイン受容体(IL2R_CCR)のいずれかを発現する産物Aで形質導入したT細胞;または産物A+Bで形質導入したT細胞は、非形質導入細胞(NT)、GD2 CARのみを発現するベクターで形質導入した細胞、または産物B(GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII)のみを発現するベクターで形質導入した細胞と比較して増殖が増加した。IL2またはIL7R_CCRのいずれかが発現すると、T細胞が自律的に成長することなく改変T細胞に外因性サイトカイン非依存性の生存能および恒常的増殖が付与された。
【0498】
iii)dTGFbRIIの検証
上記の種々の形質導入CAR T細胞および対照NT T細胞を、GD2発現SupT1標的細胞(SupT1 GD2)または対照(非形質導入標的細胞(SupT1 NT))と、E:T比1:2または1:8で、10ng/ml TGFβの存在下または非存在下にて7日間共培養した。標的細胞の殺滅をフローサイトメトリーによって分析し、IFNγの分泌をELISAによって分析した。結果をそれぞれ
図10および11に示す。dnTGFbRIIを発現する産物Bで形質導入したか;産物A+Bで形質導入したCAR T細胞は、GD2 CARのみを発現するCAR-T細胞またはいずれかの産物A(GD2 CAR+IL2 CCRまたはGD2 CAR+IL7 CCR)のみを発現するベクターで形質導入した細胞と比較して、標的細胞殺滅のTGFβ媒介性阻害に対する耐性を示した。産物Bまたは産物A+Bで形質導入したCAR T細胞は、TGFβの存在下でのIFNγ分泌が、TGFβの非存在下で認められるものに匹敵するレベルまで回復した。対照的に、GD2 CARのみを発現するCAR-T細胞、またはいずれかの産物Aのみを発現するベクターで形質導入した細胞によるIFNγ分泌は、TGFβの存在下で有意に阻害された。したがって、dnTGFbRIIを発現するT細胞は、in vitroでのTGFβ媒介性免疫抑制に対する耐性が証明された。
【0499】
実施例5-神経芽細胞腫の異種移植片モデルにおけるin vivoでの二重形質導入したCAR-T細胞産物の抗腫瘍活性の調査
in vivoアッセイを使用して、NSGマウスの樹立神経芽細胞腫異種移植片モデルにおける静脈内投与によるデュアルベクター組成物で形質導入されたT細胞の抗腫瘍活性を調査した。10~14週齢の雌NSGマウスに、100万個のホタルルシフェラーゼ発現CHLA-255細胞(CHLA-255 FFluc)を静脈内注射した。BLIによって安定な生着を検出することができるまで15日間異種移植片を定着させた。GD2 CARを発現するシングルベクター(GD2 CAR)での細胞の形質導入または実施例3に記載され、
図7に例示されたデュアルベクター組成物(GD2 CAR+IL7
CCR/GD2 CAR+dSHP2+dTGFbRII)での形質導入のいずれかによって、CAR-T細胞を作製した。マウスに、10×10
6個のCAR T細胞(導入効率50%)、3×10
6個のCAR T細胞(導入効率50%)、20×10
6個のNT T細胞(10×10
6個のCAR T細胞の用量に等価な総T細胞)、またはPBSを静脈内注射した。14日後、腫瘍成長を、週2回の生物発光イメージングによって評価した。
【0500】
結果を
図12に示す。簡潔なGD2 CARのみを発現するCAR T細胞の静脈内送達は、腫瘍成長に有意な影響を及ぼさなかった(
図12AおよびB)。対照的に、デュアルベクター組成物で形質導入したCAR T細胞を3×10
6個および10×10
6個の両方の用量にて静脈内送達すると、腫瘍負荷量が立証されているNSGマウスにおいて強力な抗腫瘍活性および延命が示された(
図12CおよびD)。
【0501】
実施例6-3つの個別のレトロウイルスベクターでの三重形質導入による拡張モジュールを有する抗PSMA CAR T細胞産物の生成
本発明者らは、以下のいくつかの機能的モジュールからなる前立腺がん処置のための組み合わせ/多モジュールCAR T治療薬(「AUTO7」)を開発した:1)第2世代のCD28-CD3z化合物エンドドメイン(7A12-28z)を有する抗PSMA CAR;2)安全スイッチ(WO2016/135470号に記載されており、上記の配列番号80として示した配列を有するRapaCasp9);3)上記の配列番号46として示した配列を有するTGFβ1耐性を誘導するためのドミナントネガティブTGFβRII(dnTBRII);4)上記の配列番号29として示した配列を有するPD1/PD-L1経路阻害のための短縮SHP2(dnSHP2);5)上記の増殖を誘導するための構成性に活性なIL7受容体(CCR_IL7);6)配列番号79として示した配列を有する選別-自殺遺伝子 RQR8;および7)配列番号81として示した配列を有するストップ-スキップ配列(SS)の下流に位置するリンパ球動員/活性化のための超低分泌性IL-12(flexiIL-12)。ベクターデザインを、
図13Aに示す。
【0502】
第1のベクター(A)は、dnSHP2、自殺遺伝子RQR8、CAR、およびdnTBRIIをコードし;第2のベクター(B)は、構成性に活性なIL7受容体をコードし;第3のベクター(C)は、第2の自殺遺伝子:Rapcasp9;およびflexi-IL12をコードする。
【0503】
ベクターAおよびベクターC上に異なる自殺遺伝子を有することで、柔軟性が得られる。CAR関連毒性が患者に認められる場合、リツキシマブを用いた患者を処置する通常の方法(RQR8選別/自殺遺伝子を介してCARを発現する細胞のアポトーシスを誘発する)でCARを発現する細胞を選択的に除去することが可能である。しかしながら、IL-12分泌に関連すると考えられる毒性が認められる場合、RapaCasp9自殺遺伝子を介してアポトーシスを誘発するためにラパマイシンまたはラパマイシン類似体を付加することによってベクターCで形質導入した細胞を選択的に破壊することができる。治療産物が3つのベクターの混合物で形質導入した細胞を含むので、治療産物は、1つ、2つ、または3つ全てのベクターの全ての種々の組み合わせで形質導入した細胞の異なる亜集団を有する組み合わせ産物である。これは、RapaCasp9自殺遺伝子を誘発するいくつかのCAR発現細胞が生存するはずであることを意味する。例えば、ベクターAのみまたはベクターAおよびBの組み合わせで形質導入した細胞は、RapaCasp9を発現せず、ラパマイシンでの処置に影響を受けないはずである。これは、in vivoで治療産物を「改変し」、IL-12発現細胞を選択的に欠失させる一方で、CAR媒介性の抗腫瘍効果を維持するためのCAR発現細胞集団を残存させることが可能であることを意味する。
【0504】
AUTO7を、ベクターAを使用した一重形質導入の産物(「AUTO7/A」)、またはベクターAおよびBを使用したダブル形質導入の産物(「AUTO7/AB」)、またはベクターA、B、およびCを使用した三重形質導入の産物(「AUTO7/ABC」)として調査した。同一の抗PSMAバインダー7A12を使用して開発した第2世代のCAR(「親」)に対してAUTO7を試験した。
【0505】
実施例7-一重、二重、および三重に形質導入された細胞の細胞傷害能およびin vitroでの種々のベクター発現エレメントの機能の調査
上記のシングル、デュアル、およびトリプルベクターの組み合わせで形質導入したT細胞が標的細胞を死滅させる能力を、FACSベースの殺滅アッセイを使用して調査した。
異なるレベルでヒトPSMA抗原を発現するように操作したSupT1細胞(SupT1-PSMAhigh、SupT1-PSMAlow)を、標的細胞として使用した。非操作SupT1細胞(SupT1-NT)を、負の対照として使用した。CAR T細胞を、エフェクター:標的比1:2で標的細胞と共培養した。FBKを、24時間のインキュベーション後に細胞蛍光分析によってアッセイし、結果を
図14Aに示す。CAR T細胞によるIL-2およびIFNγの分泌を、24時間後に記載の共培養物から上清を回収し、ELISAによって検出することによって測定し、結果を14BおよびCにそれぞれ示す。
【0506】
ベクターAを使用した一重形質導入(「AUTO7/A」)、ベクターAおよびBを使用したダブル形質導入(「AUTO7/AB」)、またはベクターA、B、およびCを使用した三重形質導入(「AUTO7/ABC」)によって産生された細胞組成物の全てが、細胞傷害性アッセイにおいてPSMA陽性腫瘍細胞株に対する効力が高いことが見いだされた。細胞傷害性およびサイトカイン放出は、CARのみの対照(CAR alone control)として使用した同一の抗PSMAバインダー7A12を使用して開発した第2世代の
CAR(「親」)で認められたものに匹敵した。
【0507】
一重、二重、および三重に形質導入されたAUTO7T細胞がIL-2の非存在下での培養後に標的細胞を死滅させる能力を調査するために、形質導入されたT細胞を、IL2の上清を含まない培地を用いて飢餓条件で7日間培養した。7日後、CAR T細胞を計数し、SupT1-PSMAhigh標的細胞およびSupT1-PSMAlow標的細胞(または負の対照としてのSupT1-NT細胞)と共にプレーティングした。CAR
T細胞を、標的細胞と、エフェクター:標的比1:2および1:8で共培養した。FBKを、インキュベーション24時間後に細胞蛍光分析によってアッセイした(
図15A)。CAR T細胞によるIL-2およびIFNγの分泌を、24時間後に記載の共培養物から上清を回収し、ELISAによって検出することによって測定した(
図15B)。
【0508】
対照CARを発現する細胞およびベクターAのみで形質導入した細胞が、飢餓条件下での培養後に細胞傷害性およびサイトカイン放出を阻害したにもかかわらず、この効果はデュアルまたはトリプルベクター組み合わせ(ベクターA+BまたはA、B+C)で形質導入した細胞ではあまり顕著ではなかったことが見いだされた。ベクターBは、構成性に活性なサイトカイン受容体を発現する遺伝子を含む:IL7R_CCRモジュール。このモジュールが発現すると、細胞傷害性を妨害することなくサイトカイン非依存性での生存能力および増殖がもたらされる;飢餓後、AUTO7/ABまたはAUTO7/ABCで形質導入した細胞は、PSMA発現標的細胞を依然として有効に死滅させることが示された。
【0509】
一重、二重、および三重に形質導入されたAUTO7 T細胞がTGFβの存在下で標的細胞を死滅させる能力を調査するために、形質導入されたT細胞を、SupT1-PSMAhigh標的およびSupT1-PSMAlow標的と1:2および1:8(E:T)の比にて10ng/ml TGFβ1の存在下または非存在下のいずれかで7日間共培養した(SupT1-NTを対照として使用した)。標的細胞の殺滅をFACSによって定量し、標的のみに対して正規化した。結果を
図16に示す。
【0510】
1:8のE:T比で、CARのみの対照を発現するT細胞による標的細胞の殺滅は、培養培地にTGFβ1を添加することによって阻害された。この阻害効果は、ベクター組み合わせA;A+B;またはA、B+Cのうちのいずれかで形質導入した細胞で軽減された。ベクターAは、T細胞シグナル伝達のTGFβ媒介性阻害を遮断することが以前に示されているdnTGFβRIIエレメントをコードする。
【0511】
一重、二重、および三重に形質導入されたAUTO7 T細胞が標的抗原への反復曝露後に標的細胞を死滅させる能力を調査するために、形質導入された細胞を、SupT1-PSMAhigh標的細胞またはSupT1-PSMAlow標的細胞と1:1の比(E:T)で共培養し、7日毎にCAR T細胞を5×10
4個のSupT1細胞で再度刺激した。標的細胞の殺滅をFACSによって定量後、新規の各々のCAR T細胞を再刺激した。結果を
図17に示す。
【0512】
2回の再刺激後(2週目)、ベクター組み合わせA+BまたはA+B+Cで形質導入した細胞は、CARのみまたはベクターAで形質導入した細胞よりも標的細胞を遥かに多く死滅させた。3回の再刺激後(3週目)、ベクター組み合わせA+B+Cで形質導入した細胞は、最良の標的細胞の殺滅を示した。
【0513】
実施例8-一重、二重、および三重に形質導入された細胞の細胞傷害能およびin vivoでの種々のベクター発現エレメントの機能の調査
in vivoアッセイを使用して、NSGマウスの樹立異種移植片モデルにおける静脈内投与によるシングル、デュアル、またはトリプルベクター組成物で形質導入されたT細胞の抗腫瘍活性を調査した。
【0514】
雌NSGマウスに、5×10
6個のPSMA陽性PC3ヒト細胞株を側腹部に注射した。触診およびカリパスによる測定によって安定な生着を検出することができるまで3週間異種移植片を定着させた。CAR T細胞を、1×10
6個のCAR T細胞/マウスの用量でi.v.投与した。カリパス測定を、1週間に2~3回行った。結果を
図18に示す。
【0515】
CARのみを発現するT細胞で(非経口)処置したマウスは、非形質導入細胞を投与したマウスよりも腫瘍成長の遅延を示したが、腫瘍成長は制御されなかった。CAR、dnSHP2、およびdnTGFβRIIをコードするベクターAで形質導入したT細胞を投与したマウスは、初期に腫瘍成長を示し(9月9日)、その後に腫瘍サイズが減少した(9月23日)。研究終了時に、腫瘍成長がいくらか再開が観察された(10月7日)。
【0516】
ベクターA+Bで形質導入したT細胞を投与したマウスは、初期に腫瘍成長を示し(9月9日~16日)、しかしながらその後に腫瘍サイズが減少し、この効果は研究期間にわたって持続された。三重に形質導入されたAUTO7 CAR T細胞は、腫瘍を完全に根絶させ、毒性の兆候は認められなかった。ベクター組み合わせ、特にA+BおよびA+B+Cは、異種移植片モデルでのマウスにおける腫瘍成長の軽減および生存の促進がCARのみよりも有意に改善されることを示している。
【0517】
結果は、多モジュールAUTO7産物の実行可能性および有効性を証明している。IL7R_CCR、ss_fIL12、dnTGFβRII、およびdSHP2の各モジュールを抗PSMA CAR産物に付加すると、存続の延長、増殖、活性化、ならびにTGFβ1およびPD1/PDL1によって駆動される免疫阻害に対する耐性によってT細胞機能が強化された。
【0518】
方法
バインダーの生成
PSMA-バインダーを、遺伝子ワクチン接種したラット由来の抗PSMA抗体のCDRグラフティングによって生成した。
【0519】
細胞株
PC3細胞、SupT1細胞株(NTおよびPSMA+)を、10%ウシ胎児血清(FBS)および1%GlutaMAXを補充したRPMI-1640培地中で培養した。T細胞を末梢血単核球(PBMC)から単離し、10%FBS、1%GlutaMAX、および100U/mL IL-2を補充したRPMI-1640培地中で維持した。
【0520】
形質導入
レトロウイルスを、RDFプラスミド(RD114エンベロープ)、gag/polプラスミド、およびCARプラスミドを含むGeneJuiceを用いてHEK293T細胞を一過性にトランスフェクトすることによって生成した。レトロウイルスの上清を、48時間後および72時間後に採取した。T細胞を、TC処理したT175フラスコ中で0.5μg/mLの抗CD3抗体および抗CD28抗体を使用して刺激し、100U/mL
IL-2中で保持した。TC未処理の6ウェルプレートを、Retronectinでコーティングし、4℃で24時間インキュベーション後、T細胞を形質導入した。合計3mlのウイルス上清/複数の上清をプレーティング後に1mlの活性化T細胞(濃度1×106細胞/ml)を添加し、次いで、100U/mLのIL-2を添加し、1000×gにて室温で40分間遠心分離し、37℃および5%CO2で2~3日間インキュベートした。
【0521】
ヒトT細胞は以下であった:
・ベクターA、B、およびCで三重形質導入され、産物の混合物(AUTO7/ABC)を生成するもの
・ベクターAおよびBで二重形質導入され、産物の混合物(AUTO7/AB)を生成するもの
・ベクターAで一重形質導入され、単一の産物(AUTO7/A)を生成するもの
【0522】
細胞傷害性アッセイ
CAR T細胞を、SupT1-NTおよびSupT1-PSMAとエフェクター:標的比(E:T比)1:2または1:8でTC処置した96ウェルプレート中で共培養した。24時間の共培養後に抗CD3-PeCy7およびQben10-APCで染色することによって読み取りを行ってエフェクターT細胞および標的細胞を識別し、SYTOX Blue7-AAD死細胞染色剤を使用して、死細胞を排除した。細胞傷害性の読み取り値をフローサイトメトリーによって評価した。
【0523】
TGFの存在下での細胞傷害性アッセイ
CAR T細胞を、SupT1-NTおよびSupT1-PSMAhighおよびSupT1-PSMAlowとエフェクター:標的比(E:T比)1:2または1:8でTC処置した96ウェルプレート中で共培養した。TGFβ1を0日目に10ng/mlの濃度で添加し、細胞傷害性の読み取り値を7日目にフローサイトメトリーによって評価した。
【0524】
in vitro再刺激アッセイ
CAR T細胞を、SupT1-PSMAhigh標的細胞またはSupT1-PSMAlow標的細胞と1:1の比(E:T)で共培養した。7日ごとにCAR T細胞を5×104個のSupT1細胞で再度刺激した。細胞傷害性を、上記のようにFBKアッセイによって評価し、再刺激後の標的:エフェクター比を、細胞蛍光分析によって高めた。上清を回収してサイトカイン放出を評価した。
【0525】
サイトカインELISA
ヒトIL-2 ELISA MAX(商標)DeluxeキットおよびヒトIFN-γ
ELISA MAX(商標)Deluxeキットを使用して、細胞傷害性アッセイから採取した共培養物上清中のサイトカイン分泌レベルを評価した。
【0526】
in vivo実験
5×106個のPSMA陽性PC3ヒト細胞株を、雌NSGマウスの側腹部に注射した。触診およびカリパスによる測定によって安定な生着を検出することができるまで3週間異種移植片を定着させた。ヒトPBMCを、一重、二重、または三重形質導入によって作出した。CAR T細胞を、1×106個のCAR T細胞/マウスの用量でi.v.投与した。1週間に2~3回カリパスで測定し、動物プロトコールが終了するまで追跡した。
【0527】
上記明細書中に記載の全ての刊行物は、本明細書中で参考として援用される。本発明の記載の方法およびシステムの種々の修正および変形は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者に明らかである。本発明を特定の好ましい実施形態と併せて記載しているが、特許請求の範囲に記載の発明がかかる特定の実施形態に過度に制限されるべきではないと理解すべきである。実際、分子生物学または関連分野の当業者に明らかな本発明の実施のための記載の様式の種々の修正は、以下の特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
細胞組成物を作製する方法であって、細胞の集団を少なくとも2つのウイルスベクターの混合物で形質導入するステップを含み、ここで、少なくとも1つのベクターが、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含み;ここで、少なくとも1つのベクターが、前記CAR、前記CARを発現する細胞、または標的細胞の活性を調整する活性調節因子をコードする核酸を含む、方法。
(項目2)
前記活性調節因子が、ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記活性調節因子が、ドミナントネガティブトランスフォーミング成長因子(TGF)β受容体である、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記活性調節因子が、構成性に活性なキメラサイトカイン受容体である、項目1に記載の方法。
(項目5)
ウイルスベクターの前記混合物中で、少なくとも1つのベクターが、ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2をコードする核酸配列を含み;少なくとも1つのベクターが、ドミナントネガティブトランスフォーミング成長因子(TGF)β受容体をコードする核酸配列を含む、項目1に記載の方法。
(項目6)
ウイルスベクターの前記混合物が、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つのウイルスベクターを含み、そのうちの少なくとも1つが、CARをコードする核酸配列を含み;そのうちの少なくとも1つが、活性調節因子をコードする核酸配列を含む、項目1に記載の方法。
(項目7)
以下のステップ:
(i)細胞の集団を少なくとも2つのウイルスベクターの混合物で形質導入するステップ;および
(ii)ステップ(i)由来の前記形質導入された細胞の集団からCAR発現細胞を選択するステップ
を含む、前記項目のいずれかに記載の細胞組成物を作製する方法。
(項目8)
前記混合物中の前記ウイルスベクターの各々が、CARをコードする核酸配列を含む、項目1~5のいずれかに記載の方法。
(項目9)
項目1~8のいずれかに定義のウイルスベクター混合物を含むウイルスベクター組成物。
(項目10)
第1のベクターおよび第2のベクターを含み、その両方がキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む、項目9に記載のウイルスベクター組成物。
(項目11)
前記第1のベクターの核酸配列および前記第2のベクターの核酸配列が同一のCARをコードする、項目10に記載のウイルスベクター組成物。
(項目12)
前記第1のベクターおよび前記第2のベクターの両方が、前記CAR、前記CARを発現する細胞、または標的細胞の活性を調整する活性調節因子をコードする核酸も含む、項目10または11に記載のウイルスベクター組成物。
(項目13)
前記活性調節因子が、ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2;ドミナントネガティブトランスフォーミング成長因子(TGF)β受容体;および構成性に活性なキメラサイトカイン受容体から選択される、項目12に記載のウイルスベクター組成物。(項目14)
前記第1のベクターが、ドミナントネガティブなSHP-1またはSHP-2をコードする核酸配列およびドミナントネガティブトランスフォーミング成長因子(TGF)β受容体をコードする核酸配列を含み;前記第2のベクターが、構成性に活性なキメラサイトカイン受容体をコードする核酸配列を含む、項目13に記載のウイルスベクター組成物。(項目15)
前記第1および第2のベクターが同一のCARをコードし、前記CARがジシアロガングリオシド(GD2)に結合する抗原結合ドメインを有する、項目11~14のいずれかに記載のウイルスベクター組成物。
(項目16)
前記第1のベクターおよび/または前記第2のベクターが、自殺遺伝子をコードする核酸配列を含む、項目10~15のいずれかに記載のウイルスベクター組成物。
(項目17)
項目1~8のいずれかに記載の方法によって作製されたか、細胞を項目9~16のいずれかに記載のベクター組成物で形質導入することによって作製された細胞組成物。
(項目18)
被験体の疾患を処置する方法であって、項目17に記載の細胞組成物を前記被験体に投与するステップを含む、方法。
(項目19)
疾患の処置および/または防止に使用するための、項目17に記載の細胞組成物。
(項目20)
疾患の処置および/または防止のための医薬の製造における、項目17に記載の細胞組成物の使用。
(項目21)
疾患を処置するためのCAR発現細胞の成分の最適な組み合わせを決定する方法であって、以下のステップ:
(i)項目17に記載の細胞組成物を、前記疾患を有する被験体に投与するステップ;
(ii)前記患者または前記患者由来の試料をモニタリングして、前記細胞組成物中のどの細胞の亜集団が最も高いレベルの生着および/または増殖を示すのかを決定する、モニタリングするステップ;および
(iii)亜集団中の前記細胞の表現型/遺伝子型を解析して、前記細胞によって発現されたCAR(複数可)および/または活性調節因子(複数可)を確認する、解析するステップ
を含む、方法。