(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006957
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド二元燃料内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02D 13/02 20060101AFI20240110BHJP
F02D 19/06 20060101ALI20240110BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F02D13/02 A
F02D13/02 B
F02D19/06
F02D41/04
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023066793
(22)【出願日】2023-04-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】PA202200625
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(71)【出願人】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】フルト ヨーアン
【テーマコード(参考)】
3G092
3G301
【Fターム(参考)】
3G092AA03
3G092AA18
3G092AB03
3G092AB07
3G092AB19
3G092AC10
3G092BB06
3G092DE03
3G092FA50
3G301HA02
3G301LB11
3G301MA19
3G301MA23
3G301MA26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】燃料噴射弁の必要スペースとコストが大幅に低減された大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド二元燃料内燃機関を提供する。
【解決手段】アンモニアやメタン等第1燃料及び第1燃料点火用の燃料油とで動作するオットーサイクルモードと、燃料油のみで動作するディーゼルサイクルモードとを有する。この機関は、ピストンの上昇ストローク中に第1燃料を導入する燃料導入弁(50)と、TDC付近で燃料油を噴射する燃料噴射弁(52)と、パイロット点火副室とを備える。燃焼室内の第1燃料及び掃気ガスの混合気は、副室内に導入された燃料油で点火される。また、燃料噴射弁が、機関のオットーサイクルモード動作中にパイロット点火副室に燃料油を導入するように構成され、機関のディーゼルサイクルモード運転中に、燃焼室に燃料油を噴射するように構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア、メタン、メタノール、エタン、LPG、DMEなどの第1燃料と、前記第1燃料の点火用の燃料油とで機関を運転するオットーサイクルモードと;
燃料油のみで機関を運転するディーゼルサイクルモードと;
を有する、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド二元燃料内燃機関であって、前記機関は、
シリンダライナを有する少なくとも1つのシリンダと;
下死点(BDC)と上死点(TDC)の間を往復するピストンと;燃焼室を画定するシリンダカバーと;
前記シリンダの底部に配置される掃気ガス入口であって、少なくとも前記ピストンが下死点にあるときに、酸素を含む掃気ガスを前記燃焼室に導入するための掃気ガス入口と;
前記シリンダに関連付けられて、前記シリンダライナ内において前記掃気ガス入口と前記シリンダカバーとの間に配されるか、前記シリンダカバー内に配される少なくとも1つの燃料導入弁であって、前記ピストンのBDCからTDCへのストローク中に前記第1燃料を導入するための燃料導入弁と;
前記シリンダカバー内または前記シリンダライナ内に配される少なくとも1つの燃料噴射弁であって、前記ピストンがTDCまたはその近傍にあるときに前記燃料油を噴射するための燃料噴射弁と;
前記シリンダカバー又は前記シリンダライナに配され、前記燃焼室に開口する少なくとも1つの副室ポートを有する、少なくとも1つのパイロット点火副室であって、該副室内に導入された前記燃料油で、前記燃焼室内の前記第1燃料及び前記掃気ガスの混合気に点火するための、パイロット点火副室と;
を備え、前記少なくとも1つの燃料噴射弁が、前記機関のオットーサイクルモード動作中に前記パイロット点火副室に前記燃料油を導入するように構成されると共に、前記機関のディーゼルサイクルモード運転中に、少なくとも前記燃焼室に前記燃料油を噴射するように構成されていることを特徴とする、機関。
【請求項2】
前記少なくとも1つの燃料噴射弁は、前記機関のディーゼルサイクルモード運転中に、前記パイロット点火副室と前記燃焼室との両方に燃料油を導入するように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項3】
前記少なくとも1つの燃料噴射弁は、例えば流路を通じて前記副室に開口する少なくとも1つの第1のノズル孔、前記燃焼室に開口する少なくとも1つの第2のノズル孔、及び前記少なくとも1つの第1のノズル孔及び前記少なくとも1つの第2のノズル孔へのアクセスをそれぞれ開放及び閉鎖する手段を備える、請求項1に記載の機関。
【請求項4】
前記少なくとも1つの燃料噴射弁は、
長手方向及び短手方向を有し、後端部と前端部とを有する燃料弁ハウジングと;
前記第1のノズル孔及び第2のノズル孔に開口する少なくとも1つのボアを有するノズルであって、前記燃料弁ハウジングの前記前端部に配置されるノズルと;
前記後端部から前記前端部へと走り、加圧された燃料の供給源に接続される燃料流路と;
軸方向に変位可能な弁針と;
を備え、
前記弁針は、
燃料がノズルへと流れることを防止するべく弁座上に座する閉位置と、
前記弁座から離座して、燃料が前記ノズルの前記少なくとも1つのボアを通って前記第1のノズル孔及び第2のノズル孔に向かう方向に流れることを可能にする、第1の開位置及び第2の開位置とを有し、
前記第1のノズル孔へのアクセスは前記第1の開位置で開かれ、少なくとも前記第2のノズル孔へのアクセスは前記第2の開位置で開かれる、
請求項3に記載の機関。
【請求項5】
前記第1のノズル孔へのアクセスは、前記第2の開位置においても開放され、燃料が前記副室と前記燃焼室の両方に入ることができるようにされる、請求項4に記載の機関。
【請求項6】
前記少なくとも1つの燃料噴射弁はスライド弁であり、前記弁針は、前記ノズルの単一のボア内に突出する細長い部材を有する、請求項4又は5のいずれかに記載の機関。
【請求項7】
前記細長い部材は、中実の第1部分と、弁座から最も離れ中空の第2部分とを有し、前記第2部分は、該第2部分に燃料が入ることを可能とする少なくとも1つのオリフィスを有し、前記第2部分はその自由端で開口しており、
前記弁針が前記弁座から離れた第1の開位置にリフトしたとき、前記細長い部材の自由端は自由にリフトして、1つ又は複数の前記第1のノズル孔へのアクセスを開き、
前記弁針が前記弁座から離れた第2の開位置にリフトしたとき、前記細長い部材の自由端は自由にリフトして、1つ又は複数の前記第2のノズル孔へのアクセスを開く、
請求項6に記載の機関。
【請求項8】
前記スライド弁の前記細長い部材は、弁座から離れた前記第2の開位置に前記弁針がリフトしたときに、1つ又は複数の前記第1のノズル孔へのアクセスを閉じる要素を有する、請求項6に記載の機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア、メタン、メタノール、エタン、LPG、DMEなどの第1燃料と、前記第1燃料の点火用の燃料油とで機関を運転するオットーサイクルモードと;燃料油のみで機関を運転するディーゼルサイクルモードと;を有する、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド二元燃料内燃機関に関する。この機関は、シリンダライナを有する少なくとも1つのシリンダと;下死点(BDC)と上死点(TDC)の間を往復するピストンと;燃焼室を画定するシリンダカバーと;前記シリンダの底部に配置される掃気ガス入口であって、少なくとも前記ピストンが下死点にあるときに、酸素を含む掃気ガスを前記燃焼室に導入するための掃気ガス入口と;前記シリンダに関連付けられて、前記シリンダライナ内において前記掃気ガス入口と前記シリンダカバーとの間に配されるか、前記シリンダカバー内に配される少なくとも1つの燃料導入弁であって、前記ピストンのBDCからTDCへのストローク中に前記第1燃料を導入するための燃料導入弁と;前記シリンダカバー内または前記シリンダライナ内に配される少なくとも1つの燃料噴射弁であって、前記ピストンがTDCまたはその近傍にあるときに前記燃料油を噴射するための燃料噴射弁と;前記シリンダカバー又は前記シリンダライナに配され、前記燃焼室に開口する少なくとも1つの副室ポートを有する、少なくとも1つのパイロット点火副室であって、該副室内に導入された前記燃料油で、前記燃焼室内の前記第1燃料及び前記掃気ガスの混合気に点火するための、パイロット点火副室と;を備え、前記少なくとも1つの燃料噴射弁が、前記機関のオットーサイクルモード動作中に前記パイロット点火副室に前記燃料油を導入するように構成される。
【発明の背景】
【0002】
このような大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド二元燃料内燃機関の例が、特開平2-20037923号に知られている。この先行技術文献では、オットーサイクルモードとディーゼルサイクルモードのそれぞれで燃料油を噴射するために、別々の燃料噴射弁が使用されている。
【0003】
大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド式内燃機関は、例えば大型船舶の推進システムや、発電プラントの一次原動機として使用されている。この2ストロークディーゼル機関のサイズは巨大である。サイズが巨大であることだけが理由ではないが、この2ストロークディーゼル機関は、他の内燃機関とは異なる構造を有する。例えば、排気弁の重量は400kgに達することもあり、ピストンの直径も100cmに達することがある。運転中における燃焼室の最大圧力は、典型的には数百barにもなる。このような高い圧力レベルとピストンサイズから生まれる力は莫大なものである。
【0004】
近年、大型2ストロークディーゼル機関において、アンモニア、エタン、LPG、DMEなどの、別の種類の燃料を扱えるようにすることが求められてきている。燃料油のみで運転する燃料油モードと、代替燃料とパイロット燃料油で運転する代替燃料モードの両方で運転可能な機関は、しばしば二元燃料機関と呼ばれる。
【0005】
このような代替燃料のための二元燃料機関は、これら揮発性の高い燃料のために、専用の燃料システムを備えている。いずれの場合も、機関の停止、燃料油への燃料転換、メンテナンスのために、燃料配管、バルブ、ポンプなどの燃料システムから燃料を完全に排出するための装置が必要である。
【0006】
大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド二元燃料内燃機関は、オットーサイクルモードにおいて、燃料弁から導入されるガス燃料で運転される。この燃料弁は、典型的にはシリンダライナの長手方向中央付近又はシリンダカバーに配される。機関は、ピストンがBDCからTDCに向かう上昇ストロークの途中でガス燃料を導入し、ガス燃料と、酸素を含む掃気ガスとの混合気を燃焼室内で圧縮する。従って予混合プロセスに従って動作する。そして圧縮した混合気を、上死点(TDC)又はその付近において、所定のタイミングで動作する点火手段(例えばパイロット燃料油やパイロットガスの噴射)によって点火する。
【0007】
大型2ストロークターボ過給式内燃機関において、ピストンが上死点(TDC)又はその付近でガス燃料を噴射する場合、燃焼室内の圧縮圧力はほぼ最大になっている。それに比べると、シリンダライナ又はシリンダカバーに配される燃料弁(ガス導入弁)を用いる上記のタイプのガス導入は、燃焼室の圧力が比較的低い時にガス燃料を噴射するため、かなり低い燃料噴射圧力(典型的には5~25bar)を用いることができるという利点を有する。TDC又はその付近でガス燃料を噴射するタイプのエンジンの場合、既にほぼ最大圧縮圧となっている燃焼室の圧力よりも、かなり高い燃料噴射圧力(典型的には300bar以上)を必要とする。ガス燃料の揮発性や高圧下の挙動のため、このような極めて高い圧力でガス燃料を扱うことができる燃料システムは、高価かつ複雑である。
【0008】
このため、圧縮ストロークの途中にガス燃料を噴射するエンジンの燃料供給システムは、ピストンがTDC付近にあるときの高圧下でガス燃料を噴射するエンジンのものに比べて、著しく低コストである。
【0009】
しかし、大型2ストロークディーゼル機関用の燃料噴射弁は非常に大きく、2~3個の主ディーゼル燃料噴射弁と、それぞれパイロット燃料噴射弁を備える1~2個の副室とを機関カバーに取り付けるスペースを見つけることは、困難である。また、燃料噴射弁は高価であり、副室への燃料供給システムを備える別のディーゼル燃料噴射弁を持つことは、大幅なコストアップ(CAPEXの上昇)となる。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、燃料噴射弁の必要スペースとコストに関する上述の課題が少なくとも大幅に低減された、冒頭に述べた種類の大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド二元燃料内燃機関を提供することである。
【0011】
上述の課題やその他の課題が、独立請求項に記載の特徴により解決される。より具体的な実装形態は、従属請求項や明細書、図面から明らかになるだろう。
【0012】
第1の捉え方によれば、アンモニア、メタン、メタノール、エタン、LPG、DMEなどの第1燃料と、前記第1燃料の点火用の燃料油とで機関を運転するオットーサイクルモードと;燃料油のみで機関を運転するディーゼルサイクルモードと;を有する、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド二元燃料内燃機関が提供される。この機関は、シリンダライナを有する少なくとも1つのシリンダと;下死点(BDC)と上死点(TDC)の間を往復するピストンと;燃焼室を画定するシリンダカバーと;前記シリンダの底部に配置される掃気ガス入口であって、少なくとも前記ピストンが下死点にあるときに、酸素を含む掃気ガスを前記燃焼室に導入するための掃気ガス入口と;前記シリンダに関連付けられて、前記シリンダライナ内において前記掃気ガス入口と前記シリンダカバーとの間に配されるか、前記シリンダカバー内に配される少なくとも1つの燃料導入弁であって、前記ピストンのBDCからTDCへのストローク中に前記第1燃料を導入するための燃料導入弁と;前記シリンダカバー内または前記シリンダライナ内に配される少なくとも1つの燃料噴射弁であって、前記ピストンがTDCまたはその近傍にあるときに前記燃料油を噴射するための燃料噴射弁と;前記シリンダカバー又は前記シリンダライナに配され、前記燃焼室に開口する少なくとも1つの副室ポートを有する、少なくとも1つのパイロット点火副室であって、該副室内に導入された前記燃料油で、前記燃焼室内の前記第1燃料及び前記掃気ガスの混合気に点火するための、パイロット点火副室と;を備え、前記少なくとも1つの燃料噴射弁が、前記機関のオットーサイクルモード動作中に前記パイロット点火副室に前記燃料油を導入するように構成されると共に、前記機関のディーゼルサイクルモード運転中に、少なくとも前記燃焼室に前記燃料油を噴射するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明による二元燃料機関(オットーサイクルモード運転中の燃料の点火にパイロット点火副室が使用される)においては、1つの同じ燃料噴射弁が、二元燃料機関の両方の運転モードで使用され得るため、機関全体のコストが削減されうる。このように、別個のパイロット燃料油噴射弁及び供給システムが回避される一方で、副室を有する機関に良好な性能を提供し続けることができる。また、シリンダカバーには、燃料噴射弁や監視装置などの他の機器を取り付けるためのスペースを大幅に広く確保することができる。
【0014】
前記少なくとも1つの燃料噴射弁は、前記機関のディーゼルサイクルモード運転中に、前記パイロット点火副室と前記燃焼室との両方に燃料油を導入するように構成されてもよい。このような実施形態は、燃料噴射弁を簡素化してコストを低減し、さらに機関のディーゼルサイクルモード運転中に、副室への燃料油路を清浄に保つことができる。
【0015】
前記少なくとも1つの燃料噴射弁は、原則として、任意の適切な方法で設計することができるが、(例えば流路を通じて)前記副室に開口する少なくとも1つの第1のノズル孔、前記燃焼室に開口する少なくとも1つの第2のノズル孔、及び前記少なくとも1つの第1のノズル孔及び前記少なくとも1つの第2のノズル孔へのアクセスをそれぞれ開放及び閉鎖する手段を備えていることが好ましい。
【0016】
前記少なくとも1つの燃料噴射弁は、次のようなタイプのものであってもよい。すなわち、長手方向及び短手方向を有し、後端部と前端部とを有する燃料弁ハウジングと;前記第1及び第2のノズル孔に開口する少なくとも1つのボアを有するノズルであって、前記燃料弁ハウジングの前記前端部に配置されるノズルと;前記後端部から前記前端部へと走り、加圧された燃料の供給源に接続される燃料流路と;軸方向に変位可能な弁針と;を備え、前記弁針は、燃料がノズルへと流れることを防止するべく弁座上に座する閉位置と、前記弁針が前記弁座から離座して、燃料が前記ノズルの前記少なくとも1つのボアを通って前記第1及び第2のノズル孔に向かう方向に流れることを可能にする、第1及び第2の開位置とを有し、前記第1のノズル孔へのアクセスは前記第1の開位置で開かれ、少なくとも前記第2のノズル孔へのアクセスは前記第2の開位置で開かれる、タイプの燃料噴射弁であってもよい。
【0017】
本発明の一実施形態では、前記第1のノズル孔へのアクセスは、前記第2の開位置においても開放され、燃料が前記副室と前記燃焼室の両方に入ることができるようにすることができる。
【0018】
前記少なくとも1つの燃料噴射弁は、スライド弁であることが有利でありうる。前記少なくとも1つの燃料噴射弁がスライド弁である場合、前記弁針は、ノズルの単一のボア内に突出する細長い部材であって、中実の第1部分と、弁座から最も離れ中空の第2部分とを有する細長い部材を有し、前記第2部分は、該第2部分に燃料が入ることを可能とする少なくとも1つのオリフィスを有し、前記第2部分はその自由端で開口しており、
【0019】
前記弁針が前記弁座から離れた第1の開位置にリフトしたとき、前記細長い部材の自由端は自由にリフトして、1つ又は複数の前記第1のノズル孔へのアクセスを開放し、
【0020】
前記弁針が前記弁座から離れた第2の開位置にリフトしたとき、前記細長い部材の自由端は自由にリフトして、1つ又は複数の前記第2のノズル孔へのアクセスを開放する。
【0021】
前記スライド弁の前記細長い部材は、前記弁座から離れた前記第2の開位置に前記弁針がリフトしたときに、1つ又は複数の前記第1のノズル孔へのアクセスを閉じる要素を有してもよい。
【0022】
前記シリンダカバーに配される前記少なくとも1つのパイロット点火副室は、前記燃焼室に開口する副室ポートを1つ以上、好ましくは2つ又は3つ備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、本発明をより詳細に説明する。
【
図1】ある例示的実施形態に従う大型2ストローク二元燃料機関を正面方向から見た概観を示す。
【
図2】
図1の大型2ストローク機関を背面方向から見た概観を示す。
【
図3】
図1の大型2ストローク機関の略図表現である。
【
図4】本発明による大型2ストローク二元燃料機関に使用され得る燃料噴射弁の一例を示す。
【
図5】本発明による大型2ストローク二元燃料機関に使用され得るインサートであって、燃料噴射弁と副室を備えるインサートを示す。
【詳細説明】
【0024】
以下の詳細説明において、大型ターボ過給式2ストローククロスヘッド二元燃料内燃機関について本発明を説明する。ただし実施形態によっては、内燃機関は別のタイプの機関で有り得ることに注意されたい。大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド二元燃料内燃機関は、オットーサイクルモードとディーゼルサイクルモードの両方を有する。オットーサイクルモードにおいて、機関は、アンモニア、メタン、メタノール、エタン、LPG、DMEなどの第1燃料と、前記第1燃料の点火用の燃料油とで動作する。ディーゼルサイクルモード機関は、機関が燃料油のみで動作する。
【0025】
図1-
図3は、ターボ過給式大型低速2ストローク二元燃料機関を示している。この機関はクランクシャフト8及びクロスヘッド9を有する。
図3は、ターボ過給式大型低速2ストローク二元燃料機関を、その吸気システム及び排気システムと共に略図により表現したものである。この実施例において、機関は直列に6本のシリンダを有する。ターボ過給式大型低速2ストローク二元燃料機関は、通常、直列に配される4から14のシリンダを有する。これらのシリンダはシリンダフレーム23に担持される。シリンダフレーム23は機関フレーム11に担持される。またこのような機関は、例えば、船舶の主機関や、発電所において発電機を動かすための据え付け型の機関として用いられることができる。機関の全出力は、例えば、1000kWから110000kWでありうる。
【0026】
この実施形態の機関は2ストロークユニフロー式圧縮着火型二元燃料機関である。各シリンダライナ1には、その下部領域に掃気ポート18が設けられ、その上部中央には排気弁が配される。この図示の例では、機関は、アンモニア、メタン、メタノール、エタン、LPG又はDMEなどの第1燃料と、第1燃料の点火のための燃料油とで動作する少なくとも1つの動作モードと、従来の燃料、例えば燃料油(船舶用ディーゼル油)や重油のみで動作する第2のディーゼルサイクルモードとを有している。
【0027】
掃気空気は、掃気受け2を通じて、各シリンダ1の掃気ポート18へと導かれる。ピストン10は、シリンダライナ1中で下死点(BDC)と上死点(TDC)の間を往復し、掃気空気を圧縮する。図示の実施形態では、オットーサイクルモードにおいて、例えばアンモニアの形態の燃料が、シリンダカバー22内に配されている低圧燃料弁50を通じて、シリンダライナ1内の燃焼室53に噴射される。代替実施形態では、オットーサイクルモードの燃料は、掃気ポート18とシリンダカバー22との間のどこか中間で、シリンダライナ1に配置された低圧燃料弁50'を通じて導入されてもよい。本発明による二元燃料機関では、TDC又はその近傍における所定のタイミングでの点火は、シリンダカバー22に配された副室51への点火液噴射によって引き起こされる。この副室51は、後でより詳細に説明するように、燃焼室53に開口する。燃焼が生じ、排気ガスが生成される。図示の実施形態では、各シリンダカバー22は燃料弁50を1つだけ備えているが、燃料弁50を2つ以上備えてもよい。図示の実施形態では、燃料弁50は、特定の1つのタイプの燃料(例えばアンモニア)のみを噴射するように構成されてもよい。その場合は、燃焼室53内に従来燃料を噴射するための、1つ又は複数の燃料弁52も設けられるだろう。従って、機関は2つ又はそれ以上の燃料弁を有するだろう。図示の実施形態では、燃料弁50及び52は両方ともシリンダカバー22に配され、シリンダカバー22の中央部に配される排気弁4の周囲に配される。本発明による機関では、燃料噴射弁52によって、点火燃料が副室51に噴射される。
【0028】
排気弁4が開くと、排気は、シリンダ1に設けられる排気ダクトを通って排気受け3へと流れ、さらに選択触媒還元リアクター(SCRリアクター)28を通って第1の排気管19を通り、ターボ過給器5のタービン6へと進む。そこから排気は、第2の排気管25を通ってエコノマイザ20へ流れ、さらに出口21から大気中へと放出される。SCRリアクターはNOx排出量を低減する。図示していない実施形態によっては、機関はSCRリアクター28を有さないかもしれない。機関は、排気管19から掃気管13に排気ガスの一部を再循環させる排気ガス再循環(EGR)システムを備えてもよい。
【0029】
タービン6は、シャフトを介してコンプレッサ7を駆動する。コンプレッサ9には、空気取り入れ口12を通じて外気が供給される。コンプレッサ7は、圧縮された掃気空気を、掃気受け2に繋がる掃気管13へと送り込む。掃気管13の掃気は、掃気を冷却するためのインタークーラー14を通過する。
【0030】
冷却された掃気は、電気モーター17により駆動される補助ブロワ16を通る。補助ブロワ16は、ターボ過給機5のコンプレッサ7が掃気受け2のために十分な圧力を提供できない場合、すなわち機関が低負荷又は部分負荷である場合に、掃気流を圧縮する。機関の負荷が高い場合は、ターボ過給機のコンプレッサ7が、十分に圧縮された掃気を供給することができるので、補助ブロワ16は逆止め弁15によってバイパスされ、電気モーター17は停止される。
【0031】
機関は、オットーサイクルモードにおいて、代替燃料(第1燃料)を主燃料として動作する。この代替第1燃料は、例えばアンモニア、メタン、メタノール、エタン、LPG又はDMEなどである。代替第1燃料は、実質的に一定の圧力及び温度で第1燃料弁50に供給される
【0032】
従来の燃料システムについてはよく知られているので、図示されておらず、また詳細な説明もなされない。第1の燃料システム30は、燃料弁50に第1の燃料を供給する。
【0033】
本発明によれば、燃料噴射弁52は、機関のオットーサイクルモード動作中にパイロット点火副室51に燃料油を導入するように構成されると共に、機関のディーゼルサイクルモード運転中に、少なくとも燃焼室53に燃料油を噴射するように構成される。
【0034】
燃料噴射弁の例が
図4に描かれている。燃料噴射弁52は、機関のオットーサイクルモード動作中にパイロット点火副室51に燃料油を導入するように構成されると共に、機関のディーゼルサイクルモード運転中に、少なくとも燃焼室53に燃料油を噴射するように構成されている。燃料噴射弁は、(例えば流路56を通じて)副室51に開口する第1のノズル孔31(
図5参照)と、燃焼室53に開口する第2のノズル孔33と、第1のノズル孔31及び第2のノズル孔33へのアクセスをそれぞれ開閉する手段とを備えている。この開閉する手段は細長い部材34の形態を有する。
【0035】
燃料噴射弁52は、長手方向及び短手方向を有し後端36及び前端37を有する燃料弁ハウジング35と、第1ノズル孔31及び第2ノズル孔33に開口する1つのボア39を有するノズル38とを備える。ノズル38はハウジング35の前端37に配置される。燃料流路40は、後端36から前端37に向かって延び、加圧された燃料の供給源に接続される。燃料噴射弁52は、軸方向に変位可能な弁針41を備える。弁針41は、燃料がノズル38へと流れることを防止するべく弁座42に座する閉位置と、弁針41が弁座42から離座して、燃料がノズル38のボア39を通って第1のノズル孔31及び第2のノズル孔33に向かう方向に流れることを可能にする、第1の開位置及び第2の開位置を少なくとも有する。前記第1の開位置では第1のノズル孔31へのアクセスが開かれる。前記第2の開位置では、第1のノズル孔31及び第2のノズル孔33の両方へのアクセスが開かれる。
【0036】
図4に示す燃料噴射弁52はスライド弁であり、その特徴は、弁針41が特別な設計になっていることである。スライド弁の弁針41は、単一ボア39内に突出する細長い部材34を有する。この部材は、中実の第1部分43と、弁座42から最も遠い部分である中空の第2部分44を有する。この中空部分は少なくとも1つのオリフィス45を有し、その自由端46で開口している。動作中、弁針41が弁座42から離れたその開位置へと離座すると、細長い部材34の自由端46もノズル孔41から自由に持ち上げられ、燃料が細長い部材34とボア39の壁の間でボア39内を1つ又は複数のオリフィス45まで流れ、そして中空部分44内部へ流れ込む。そこから燃料は開いた自由端46へと流れ出て、弁針41の第1の開位置で第1のノズル孔31に流入し、第2の開位置で第1のノズル孔31と第2のノズル孔33との両方に流入する。軸方向に変位可能な弁針41は、弁ハウジング35内の長手方向ボア47内に、狭いクリアランスで摺動可能に受容されている。ノズル孔31,33は、軸方向においてノズル38の先端48の近傍に配置されている。図示された実施形態では、この先端部48は閉じられている。位置決めピン49によってノズル38がハウジング35に対して位置決めされることが示されている。
【0037】
図5には、
図4に示したような燃料噴射弁52と副室51を備えたインサート55が示されている。このインサートは、本発明による大型2ストローク二元燃料機関に、新造時に設置したり後付けで設置したりして使用することができる。インサート55はシリンダカバー22に取り付けられる。またインサート55は、燃料噴射弁52の第1ノズル孔31と副室51とを接続する第1流路56と、第2ノズル孔33と燃焼室53とを接続する第2流路57とを有する。
図5において、弁針41、従って細長い部材34は、その閉位置にあり、燃料がどちらのノズル孔にも流れることを防止している。弁針41が第1の開位置までリフトすると、燃料は第1流路56を通じて副室51に入ることが可能となり、弁針41が第2の開位置まで更にリフトすると、燃料は第2の流路57を通じて燃焼室にも入ることが可能になる。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1燃料と、前記第1燃料の点火用の燃料油とで機関を運転するオットーサイクルモードと;
燃料油のみで機関を運転するディーゼルサイクルモードと;
を有する、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド二元燃料内燃機関であって、前記機関は、
シリンダライナを有する少なくとも1つのシリンダと;
下死点(BDC)と上死点(TDC)の間を往復するピストンと;燃焼室を画定するシリンダカバーと;
前記シリンダの底部に配置される掃気ガス入口であって、少なくとも前記ピストンが下死点にあるときに、酸素を含む掃気ガスを前記燃焼室に導入するための掃気ガス入口と;
前記シリンダに関連付けられて、前記シリンダライナ内において前記掃気ガス入口と前記シリンダカバーとの間に配されるか、前記シリンダカバー内に配される少なくとも1つの燃料導入弁であって、前記ピストンのBDCからTDCへのストローク中に前記第1燃料を導入するための燃料導入弁と;
前記シリンダカバー内または前記シリンダライナ内に配される少なくとも1つの燃料噴射弁であって、前記ピストンがTDCまたはその近傍にあるときに前記燃料油を噴射するための燃料噴射弁と;
前記シリンダカバー又は前記シリンダライナに配され、前記燃焼室に開口する少なくとも1つの副室ポートを有する、少なくとも1つのパイロット点火副室であって、該副室内に導入された前記燃料油で、前記燃焼室内の前記第1燃料及び前記掃気ガスの混合気に点火するための、パイロット点火副室と;
を備え、
前記少なくとも1つの燃料噴射弁が、前記機関のオットーサイクルモード動作中に前記パイロット点火副室に前記燃料油を導入するように構成されると共に、前記機関のディーゼルサイクルモード運転中に、少なくとも前記燃焼室に前記燃料油を噴射するように構成されており、
前記少なくとも1つの燃料噴射弁は、例えば流路を通じて前記副室に開口する少なくとも1つの第1のノズル孔、前記燃焼室に開口する少なくとも1つの第2のノズル孔、及び前記少なくとも1つの第1のノズル孔及び前記少なくとも1つの第2のノズル孔へのアクセスをそれぞれ開放及び閉鎖する手段を備える、の機関。
【請求項2】
前記少なくとも1つの燃料噴射弁は、前記機関のディーゼルサイクルモード運転中に、前記パイロット点火副室と前記燃焼室との両方に燃料油を導入するように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項3】
前記第1燃料は、アンモニア、メタン、メタノール、エタン、LPG、DMEのいずれかである、請求項1に記載の機関。
【請求項4】
前記少なくとも1つの燃料噴射弁は、
長手方向及び短手方向を有し、後端部と前端部とを有する燃料弁ハウジングと;
前記第1のノズル孔及び第2のノズル孔に開口する少なくとも1つのボアを有するノズルであって、前記燃料弁ハウジングの前記前端部に配置されるノズルと;
前記後端部から前記前端部へと走り、加圧された燃料の供給源に接続される燃料流路と;
軸方向に変位可能な弁針と;
を備え、
前記弁針は、
燃料がノズルへと流れることを防止するべく弁座上に座する閉位置と、
前記弁座から離座して、燃料が前記ノズルの前記少なくとも1つのボアを通って前記第1のノズル孔及び第2のノズル孔に向かう方向に流れることを可能にする、第1の開位置及び第2の開位置とを有し、
前記第1のノズル孔へのアクセスは前記第1の開位置で開かれ、少なくとも前記第2のノズル孔へのアクセスは前記第2の開位置で開かれる、
請求項1に記載の機関。
【請求項5】
前記第1のノズル孔へのアクセスは、前記第2の開位置においても開放され、燃料が前記副室と前記燃焼室の両方に入ることができるようにされる、請求項4に記載の機関。
【請求項6】
前記少なくとも1つの燃料噴射弁はスライド弁であり、前記弁針は、前記ノズルの単一のボア内に突出する細長い部材を有する、請求項4又は5のいずれかに記載の機関。
【請求項7】
前記細長い部材は、中実の第1部分と、弁座から最も離れ中空の第2部分とを有し、前記第2部分は、該第2部分に燃料が入ることを可能とする少なくとも1つのオリフィスを有し、前記第2部分はその自由端で開口しており、
前記弁針が前記弁座から離れた第1の開位置にリフトしたとき、前記細長い部材の自由端は自由にリフトして、1つ又は複数の前記第1のノズル孔へのアクセスを開き、
前記弁針が前記弁座から離れた第2の開位置にリフトしたとき、前記細長い部材の自由端は自由にリフトして、1つ又は複数の前記第2のノズル孔へのアクセスを開く、
請求項6に記載の機関。
【請求項8】
前記スライド弁の前記細長い部材は、弁座から離れた前記第2の開位置に前記弁針がリフトしたときに、1つ又は複数の前記第1のノズル孔へのアクセスを閉じる要素を有する、請求項6に記載の機関。
【外国語明細書】