(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069606
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ボツリヌス神経毒バイオハイブリッド
(51)【国際特許分類】
C07K 14/33 20060101AFI20240514BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240514BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240514BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240514BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20240514BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240514BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C07K14/33
C12N15/31 ZNA
C07K19/00
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z
A61P21/00
A61K8/64
A61K38/16
A61Q19/08
【審査請求】有
【請求項の数】32
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024043984
(22)【出願日】2024-03-19
(62)【分割の表示】P 2020568035の分割
【原出願日】2019-02-21
(31)【優先権主張番号】1850213-8
(32)【優先日】2018-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(71)【出願人】
【識別番号】520325430
【氏名又は名称】トクソテック アー・ベー
【氏名又は名称原語表記】ToxoTech AB
【住所又は居所原語表記】Sergeantgrand 16, 177 43 Jarfalla, Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ポール ステンマルク
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー マスヤー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シナプトタグミン受容体、シナプス関連小胞2受容体及びガングリオシド受容体に相乗的に結合する新規のボツリヌス神経毒(BoNT)重鎖結合ドメインを提供する。
【解決手段】N末端(H
C
N)及びC末端(H
CC)を有するボツリヌス神経毒(BoNT)重鎖結合ドメイン(H
C/TAB)であって、H
C/TABは、a)シナプトタグミン(Syt)受容体結合部位、b)シナプス関連小胞2(SV2)受容体結合部位、c)ガングリオシド(Gang)受容体結合部位を含み、前記H
C/TABは、Syt受容体、SV2受容体、及び、Gang受容体に相乗的に結合するように適合されている、前記BoNT重鎖結合ドメイン(H
C/TAB)である。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N末端(HCN)及びC末端(HCC)を有するボツリヌス神経毒(BoNT)重鎖結合ドメイン(HC/TAB)であって、HC/TABは、
a)シナプトタグミン(Syt)受容体結合部位、及び
b)シナプス関連小胞2(SV2)受容体結合部位、及び
c)ガングリオシド(Gang)受容体結合部位
を含み、前記HC/TABは、シナプトタグミン(Syt)受容体、シナプス関連小胞2(SV2)受容体及びガングリオシド(Gang)受容体に相乗的に結合するように適合されている、前記ボツリヌス神経毒(BoNT)重鎖結合ドメイン(HC/TAB)。
【請求項2】
Gang受容体結合部位を形成する配列が、任意のGang受容体結合BoNT血清型及びそれらのサブタイプから生じる、請求項1に記載のHC/TBA。
【請求項3】
Syt受容体結合部位を形成する配列が、任意のSyt受容体結合BoNT血清型及びそれらのサブタイプから生じる、請求項1又は2に記載のHC/TBA。
【請求項4】
SV2受容体結合部位を形成する配列が、任意のSV2受容体結合BoNT血清型及びそれらのサブタイプから生じる、請求項1から3までのいずれか1項に記載のHC/TBA。
【請求項5】
HCN配列が、任意のSV2受容体結合BoNT血清型及びそれらのサブタイプから生じる、請求項1から4までのいずれか1項に記載のHC/TBA。
【請求項6】
HCCドメインが、BoNT血清型A(BoNT/A)及びBoNT血清型B(BoNT/B)からの配列から互換的に構成されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載のHC/TBA。
【請求項7】
前記HCC端が、配列A1B1A2B2A3に従って構成され、AがBoNT/Aからの配列を示し、BがBoNT/Bからの配列を示すことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のHC/TBA。
【請求項8】
B1、A2及びB2の配列が、HC/TAB全体のための安定した分子内界面を作出するための変異及び/又は欠失を含む、請求項7に記載のHC/TBA。
【請求項9】
Gang受容体結合部位を形成する配列が、BoNT/Bから生じる、請求項1から8までのいずれか1項に記載のHC/TBA。
【請求項10】
Gang受容体結合部位を形成する配列が、B2に位置する、請求項7又は8に記載のHC/TBA。
【請求項11】
Syt受容体結合部位を形成する配列が、BoNT B、DC又はGから生じる、請求項1から10までのいずれか1項に記載のHC/TBA。
【請求項12】
Syt受容体結合部位を形成する配列が、B1及びB2に位置する、請求項7、8又は10のいずれか1項に記載のHC/TBA。
【請求項13】
HCN配列が、BoNT/Aから生じる、請求項1から12までのいずれか1項に記載のHC/TBA。
【請求項14】
SV2受容体結合部位を形成する配列が、HCNに位置し、HCCにおいてA1及びA3に位置する、請求項7、8、10又は12のいずれか1項に記載のHC/TBA。
【請求項15】
配列番号1の配列に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%同一であるアミノ酸配列を有する、請求項1から14までのいずれか1項に記載のHC/TAB。
【請求項16】
直接又はリンカーを介して他のタンパク質、ポリペプチド、アミノ酸配列又は蛍光プローブのいずれか1つ以上に結合した、請求項1から15までのいずれか1項に記載のHC/TABを含むポリペプチド。
【請求項17】
前記ポリペプチドが、HC/TABに加えて重鎖転座ドメイン(HN)、軽鎖(LC)及びポリペプチド配列におけるLCとHNとの間に位置するプロテアーゼ部位を含むことを特徴とするBoNTポリペプチド(BoNT/TAB)であり、ここでHN及びLCは、それぞれ互いに独立して、BoNT血清型A、B、C、D、DC、E、En、F、G又はX及びそれらのサブタイプのいずれかから生じる、請求項16に記載のポリペプチド。
【請求項18】
さらに、直接又はリンカーを介してそれらに連結した、任意の他のタンパク質、ポリペプチド、アミノ酸配列又は蛍光プローブを含む、請求項17に記載のポリペプチド。
【請求項19】
プロテアーゼ部位が、エキソプロテアーゼ部位である、請求項17又は18に記載のポリペプチド。
【請求項20】
配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号10又は配列番号12のいずれかの配列に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%同一であるアミノ酸配列を有する、請求項16から19までのいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項21】
請求項1から15までのいずれか1項に記載のHC/TAB又は請求項16から20までのいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸配列を含むベクター。
【請求項22】
配列番号4、配列番号7、配列番号9、配列番号11又は配列番号13のいずれかの配列に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%同一である核酸配列を有する、請求項21に記載のベクター。
【請求項23】
治療的方法又は美容的方法において使用するための、請求項1から15までのいずれか1項に記載のHC/TAB又は請求項16から20までのいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項24】
治療的方法又は美容的方法が、筋肉を弱める及び/又は不活性化する治療である、請求項23に記載の使用のためのHC/TAB又はポリペプチド。
【請求項25】
治療的方法が、神経筋障害、及び痙性筋障害を含む群から選択される障害の治療及び/又は予防である、請求項23又は24に記載の使用のためのHC/TAB又はポリペプチド。
【請求項26】
障害が、痙攣性発声障害、痙性斜頸、喉頭ジストニア、顎口腔発声障害、舌ジストニア、頸部ジストニア、上肢局所性ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼疾患、脳性麻痺、局所性痙攣及び他の音声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス、四肢痙攣、チック、動作時振戦、歯ぎしり、肛門裂傷、アカラシア、嚥下障害及び他の筋緊張障害、並びに筋肉群の不随意運動、流涙、多汗、過度の唾液分泌、過度の胃腸分泌、分泌障害、筋痙攣による痛み、頭痛、スポーツ外傷、及びうつ状態によって特徴付けられる他の障害から構成される群から選択される、請求項23から25までのいずれか1項に記載の使用のためのHC/TAB又はポリペプチド。
【請求項27】
シナプスプロセスにおける前記タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸配列又は蛍光プローブの役割を調査するための、薬理試験で使用するための請求項16に記載のポリペプチド。
【請求項28】
任意のタンパク質、ポリペプチド、アミノ酸配列又はそれに結合された蛍光プローブを神経表面に効果的に輸送するためのビヒクルとして使用するための、請求項1から15までのいずれか1項に記載のHC/TAB。
【請求項29】
任意のタンパク質、ポリペプチド、アミノ酸配列又は蛍光プローブを、毒素転座システムを使用して神経細胞質ゾルに効果的に輸送するためのビヒクルとして使用するための、請求項17から20までのいずれか1項に記載のBoNT/TAB。
【請求項30】
請求項1から15までのいずれか1項に記載のHC/TAB又は請求項16から20までのいずれか1項に記載のポリペプチドを含む、医薬組成物又は化粧品組成物。
【請求項31】
請求項30に記載の組成物及び組成物の治療的投与のための指示を含むキット。
【請求項32】
望ましくないニューロン活性に関連する状態を治療する方法であって、請求項1から15までのいずれか1項に記載のHC/TAB、又は請求項16から20までのいずれか1項に記載のポリペプチド、又は請求項30に記載の医薬組成物の治療的有効量を対象に投与して、前記状態を治療することを含み、前記状態が、痙攣性発声障害、痙性斜頸、喉頭ジストニア、顎口腔発声障害、舌ジストニア、頸部ジストニア、上肢局所性ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼疾患、脳性麻痺、局所性痙攣及び他の音声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス、四肢痙攣、チック、動作時振戦、歯ぎしり、肛門裂傷、アカラシア、嚥下障害及び他の筋緊張障害、並びに筋肉群の不随意運動、流涙、多汗、過度の唾液分泌、過度の胃腸分泌、分泌障害、筋痙攣による痛み、頭痛、スポーツ外傷、及びうつ状態、及び皮膚科的又は美的/美容的状態によって特徴付けられる他の障害から構成される群から選択される、望ましくないニューロン活性に関連する状態を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボツリヌス神経毒ポリペプチド、特にキメラボツリヌス神経毒の重鎖に関する。
【0002】
背景技術
ボツリヌス神経毒(BoNT)は、公知の最も強力なタンパク質毒素であり、まれな麻痺性疾患であるボツリヌス中毒の原因物質である。細菌毒のこのファミリーは、8つの血清型であるBoNT/A-G、及び既に述べられているBoNT/X(Montal、2010年;Zhangら、2017年)からなる。これらは、全て共通の構造を共有し、翻訳後に重鎖(HC、100kDa)に単一のジスルフィド架橋により連結された軽鎖(LC、50kDa)から構成される二本鎖分子に切断される150kDaのタンパク質として表される。LCが細胞内触媒活性を担っている場合に、HCはN末端転座ドメイン(HN)及びC末端結合ドメイン(HC)を有する2つの機能ドメインを保持する。BoNTは、最初に特定の細胞表面受容体を介してコリン作動性神経終末を認識し、そして次に小胞内にエンドサイトーシスによって取り込まれる。酸性のエンドソーム環境は、サイトゾル内でのLCの転座を可能にする構造変化を生じ、毒素転座ともいわれる。遊離した触媒ドメインである亜鉛プロテアーゼは、3つのニューロンSNARE(可溶性N-エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体)の1つを特異的に標的とすることができる:BoNT/A、BoNT/C及びBoNT/EはSNAP-25を切断する;BoNT/B、BoNT/D、BoNT/F、BoNT/G及びBoNT/XはVAMP(シナプトブレビン)を標的とする;シンタキシンはBoNT/Cによって切断される(Schiavoら、2000年;Zhangら、2017年)。これらの3つのタンパク質は、シナプス小胞と原形質膜との融合を媒介する複合体を形成する(Sudhof及びRothman、2009年)。SNAREのいずれかのタンパク質分解は、エキソサイトーシスを阻害し、したがって神経伝達物質の放出を阻害し、ボツリヌス中毒の弛緩性麻痺症状を効果的に生じる(Rossettoら、2014年)。3つの機能ドメインの配列は以前に記載されている(Lacy DBら、1999年)。触媒ドメインは、アミノ酸1~437、アミノ酸448~872の転座ドメイン、及びアミノ酸873~1295の結合ドメインから構成されており、Lacy DBらのBoNT/A配列を参照している。全てのBoNT血清型及びそれらのサブタイプは非常に相同であるため、他の血清型又はサブタイプにおいて対応するドメインの位置は非常に似ている。
【0003】
これらの毒素の高い効力は、神経筋障害、例えば斜視、頸部ジストニア及び眼瞼痙攣、並びにアセチルコリンの放出に関与する他の状態、例えば多汗症の治療において非常に有用な治療薬となる(Chen、2012年)。BoNT/A及びBoNT/Bは、治療薬として認証及び市販されている唯一の血清型である。BoNT/Aは、一般的に、ヒトでの有効性が高いと考えられており、したがって、ほとんどの場合に血清型として選択される(Bentivoglioら、2015年)。しかしながら、毒素の治療効果が一時的のみであるため、BoNTでの治療は、通常、注射を繰り返す必要がある。これは、報告によると、BoNT/Aに対する免疫応答を生じる患者のごく一部に耐性が出現したことを導く(Langeら、2009年;Naumannら、2013年)。BoNT/Bは代替案を表すが、その低い有効性は、高用量を要求することを意味し、したがって免疫原性のリスクが高くなる(Dressler及びBigalke、2005年)。さらに、BoNT/Bは、いくつかの有害事象、例えば痛い注射、より短い作用期間、及びより頻繁な副作用にも関連する(Bentivoglioら、2015年)。主な有害作用は、筋痙攣の治療にもしばしば関連しているが、しかし美容用途には関連していない。これは、有害作用が主に身体の他の領域への毒素の拡散によるものであり、毒素の拡散の可能性が注射された用量に直接関係しているからである。有害作用は、一過性の重大でない事象、例えば眼瞼下垂及びや複視から、生命にかかわる事象、さらには死までの範囲にわたる。
【0004】
BoNT/A及びBoNT/Bのニューロンへの結合は詳細に特徴付けられており、シナプス小胞タンパク質とニューロン膜上で固定されたガングリオシドとを含む二重受容体メカニズムに基づく。BoNT/Aのタンパク質受容体は、SV2として同定された(Dongら、2006年、Mahrholdら、2006年)。より正確には、BoNT/Aは、いくつかのヒトSV2アイソフォームA、B及びCに結合できるが、毒素は、SV2A及びSV2BのN-グリコシル化型のみを認識する(Yaoら、2016年)。BoNT/Bのタンパク質受容体は、シナプトタグミン(Syt)(Nishikiら、1994年、1996年;Dongら、2003年)であり、ヒトではSyt2よりもSyt1が優先される(Strotmeierら、2012年)。ガングリオシドの認識は、全てのBoNT(Binz及びRummel、2009年)の中毒プロセスの最初のステップであり、それらの配列において保存されたモチーフH...SxWY...Gを中心とした共有結合メカニズムにより媒介される。BoNT/Aは、GT1b及びGD1aの末端N-アセチルガラクトサミン-ガラクトース部分への結合が好ましく(Takamizawaら、1986年;Schengrundら、1991年)、BoNT/Bのデータは、GD1b及びGT1bのジシアリルモチーフが好ましいことを示唆している。異なる血清型は、それらの炭水化物の特異性及びアフィニティーにおいて変化する(Rummel、2013)。
【0005】
種々のBoNT血清型のモジュラー配置及び特有の特性は、毒素をタンパク質工学の選択対象とする。特に、いくつかの研究は、血清型間でドメイン全体を交換することが可能であり(Masuyerら、2014年)、したがって独特の製薬の可能性を有する新たな毒素を得ることができることを示している。例えば、BoNT/Aの転座及び触媒ドメインに関連するBoNT/Bの結合ドメインからなるいくつかの分子が生成されている(Rummelら、2011年;Wangら、2012年;Kutschenkoら、2017年)。これらのいわゆるキメラ毒素は、シナプトタグミンについてのBoNT/Bの高いアフィニティー、及びSV2と比較してニューロン上のこの受容体のより高い発現に関連していた、活性のエフィカシー(efficacy)及び持続期間の点で魅力的な薬理学的特性を示した(Takamoriら、2006年;Wilhelmら、2014年)。
【0006】
発明の要約
中和抗体の生成及び毒素の拡散の双方が注射された投与量に直接関係しているため、同レベルの毒素活性を維持しながら毒素投与量を下げることが強く望まれ、これは、個々の毒素分子のエフィカシーを高める必要があることを意味する。したがって、本発明の目的は、改善された持続期間及びポテンシー(potency)を有し、かつ注射部位から拡散するリスクがより少ないBoNTポリペプチドを提供することである。本発明者らは、キメラBoNTポリペプチドの操作における前記した以前の試みの重要な問題を特定している。以前の試みでは、ポリペプチドの構造的側面は考慮されていなかった。
【0007】
構造に基づくアプローチと、BoNT/A及びBoNT/Bの受容体結合メカニズムに対する現在の知識とを使用して、本発明者らは、SV2C受容体、シナプトタグミン受容体及びガングリオシド受容体を認識できる、特異的に設計されたHCドメイン(HC/TAB)を含む新しい分子TriRecABTox(BoNT/TAB)を設計した。本発明者らは、BoNT/TABを組換えにより発現及び精製できることを示している。X線結晶学を使用して、本発明者らは、さらに、BoNT/TABがその3つの受容体に同時に結合できることを実証している。したがって、BoNT/TABは、高められたアフィニティーを有する神経細胞を認識し、かつBoNT/A治療に代わり高いエフィカシーである可能性を有する。
【0008】
したがって、前記目的は、ボツリヌス神経毒(BoNT)重鎖結合ドメイン(HC/TAB)を提供する第一の態様によって達成され、ここで、HC/TABは、a)シナプトタグミン(Syt)受容体結合部位、及びb)シナプス関連小胞2(SV2)受容体結合部位、及びc)ガングリオシド(Gang)受容体結合部位を含み、前記HC/TABは、シナプトタグミン(Syt)受容体、シナプス関連小胞2(SV2)受容体及びガングリオシド(Gang)受容体に相乗的に結合するように適合されている。
【0009】
HC/TABは、N末端(HCN)及びC末端(HCC)を有する。一実施形態に従って、HCCドメインは、BoNT血清型A(BoNT/A)及びBoNT血清型B(BoNT/B)からの配列から互換的に構成される。
【0010】
さらなる実施形態に従って、前記HCC端は、配列A1B1A2B2A3に従って構成され、AはBoNT/Aからの配列を示し、BはBoNT/Bからの配列を示す。
【0011】
さらなる実施形態に従って、B1、A2及びB2の配列は、HC/TAB全体のための安定した分子内界面を作出するための変異及び/又は欠失を含む。
【0012】
さらなる実施形態に従って、Gang受容体結合部位を形成する配列は、任意のGang受容体結合BoNT血清型及びそれらのサブタイプから生じる。
【0013】
さらなる実施形態に従って、Gang受容体結合部位を形成する配列は、BoNT/Bから生じる。
【0014】
さらなる実施形態に従って、Gang受容体結合部位を形成する配列は、B2に位置する。
【0015】
さらなる実施形態に従って、Syt受容体結合部位を形成する配列は、任意のSyt受容体結合BoNT血清型及びそれらのサブタイプから生じる。
【0016】
さらなる実施形態に従って、Syt受容体結合部位を形成する配列は、BoNT B、DC又はGから生じる。
【0017】
さらなる実施形態に従って、Syt受容体結合部位を形成する配列は、B1及びB2に位置する。
【0018】
さらなる実施形態に従って、HCN配列は、任意のSV2受容体結合BoNT血清型及びそれらのサブタイプから生じる。
【0019】
さらなる実施形態に従って、HCN配列は、BoNT/Aから生じる。
【0020】
さらなる実施形態に従って、SV2受容体結合部位を形成する配列は、HCNに位置し、HCCにおいてA1及びA3に位置する。
【0021】
さらなる実施形態に従って、HC/TABは、配列番号1、3、5、6、8、10又は12のいずれかの配列に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%同一であるアミノ酸配列を有する。
【0022】
第二の態様に従って、直接又はリンカーを介して他のタンパク質、ポリペプチド、アミノ酸配列又は蛍光プローブに結合された、第一の態様及び第一の態様の任意の実施形態に従ったHC/TABを含むポリペプチドが提供される。
【0023】
第二の態様の実施形態に従って、前記ポリペプチドは、HC/TABに加えて重鎖転座ドメイン(HN)、軽鎖(LC)及びポリペプチド配列におけるLCとHNとの間に位置するプロテアーゼ部位を含むことを特徴とするBoNTポリペプチド(BoNT/TAB)であり、ここでHN及びLCは、それぞれ互いに独立して、BoNT血清型A、B、C、D、DC、E、En、F、G又はX及びそれらのサブタイプ、並びにBoNT様ポリペプチドのいずれかから生じる。
【0024】
さらなる実施形態に従って、ポリペプチドは、直接又はリンカーを介してそれらに連結された、任意の他のタンパク質、ポリペプチド、アミノ酸配列又は蛍光プローブを含んでよい。
【0025】
さらなる実施形態に従って、プロテアーゼ部位は、エキソプロテアーゼ部位である。さらなる実施形態に従って、エキソプロテアーゼ部位は、Xa因子部位である。
【0026】
さらなる実施形態に従って、第二の態様に従ったポリペプチドは、配列番号1、3、5、6、8、10又は12のいずれかの配列に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%同一であるアミノ酸配列を有する。
【0027】
第三の態様に従って、第一の態様及び第一の態様の任意の実施形態に従ったHC/TABをコードする核酸配列、又は第二の態様及び第二の態様の任意の実施形態に従ったポリペプチドをコードする核酸配列を含むベクターが提供される。
【0028】
第四の態様に従って、治療的方法における、又は美容的方法における、第一の態様及び第一の態様の任意の実施形態に従ったHC/TAB、又は第二の態様及び第二の態様の任意の実施形態に従ったポリペプチの使用が提供される。
【0029】
第四の態様の一実施形態に従って、治療的方法又は美容的方法は、筋肉を弱める及び/又は不活性化する治療である。
【0030】
第四の態様のさらなる実施形態に従って、治療的方法は、神経筋障害、アセチルコリンの放出に関与する状態、及び痙性筋障害を含む群から選択される障害の治療及び/又は予防である。
【0031】
さらなる実施形態に従って、障害は、痙攣性発声障害、痙性斜頸、喉頭ジストニア、顎口腔発声障害(oromandibular dysphonia)、舌ジストニア、頸部ジストニア、上肢局所性ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼疾患、脳性麻痺、局所性痙攣及び他の音声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス、四肢痙攣、チック、動作時振戦、歯ぎしり、肛門裂傷、アカラシア、嚥下障害及び他の筋緊張障害、並びに筋肉群の不随意運動、流涙、多汗、過度の唾液分泌、過度の胃腸分泌、分泌障害、筋痙攣による痛み、頭痛、スポーツ外傷、及びうつ状態によって特徴付けられる他の障害から構成される群から選択される。
【0032】
さらなる実施形態に従って、第一の態様及び第一の態様の任意の実施形態に従ったHC/TAB、又は第二の態様及び第二の態様の任意の実施形態に従ったポリペプチドは、シナプスプロセスにおける前記タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸配列又は蛍光プローブの役割を調査するために薬理学的試験において使用されうる。
【0033】
さらなる実施形態に従って、第一の態様及び第一の態様の任意の実施形態に従ったHC/TAB、又は第二の態様及び第二の態様の任意の実施形態に従ったポリペプチドは、任意のタンパク質、ポリペプチド、アミノ酸配列又はそれに結合された蛍光プローブを神経表面に効果的に輸送するためのビヒクルとして使用されうる。
【0034】
さらなる実施形態に従って、第一の態様及び第一の態様の任意の実施形態に従ったHC/TAB、又は第二の態様及び第二の態様の任意の実施形態に従ったポリペプチドは、任意のタンパク質、ポリペプチド、アミノ酸配列又は蛍光プローブを、毒素転座システムを使用して神経細胞質ゾルに効果的に輸送するためのビヒクルとして使用されうる。
【0035】
第五の態様に従って、第一の態様及び第一の態様の任意の実施形態に従ったHC/TAB、又は第二の態様及び第二の態様の任意の実施形態に従ったポリペプチドを含む医薬組成物又は化粧品組成物が提供される。
【0036】
第五の態様の一実施形態に従って、組成物は、製剤的及び/又は美容的に許容できる賦形剤、キャリヤー又は他の添加剤をさらに含みうる。
【0037】
第六の態様に従って、第五の態様の組成物及び組成物の治療的投与のための指示を含むキット(kit of parts)が提供される。
【0038】
第七の態様に従って、望ましくないニューロン活性に関連する状態を治療する方法が提供され、この方法は、第一の態様及び第一の態様の任意の実施形態に従ったHC/TAB、又は第二の態様及び第二の態様の任意の実施形態に従ったポリペプチド、又は第五の態様の組成物の治療的有効量を対象に投与して、前記状態を治療することを含み、ここで、前記状態は、痙攣性発声障害、痙性斜頸、喉頭ジストニア、顎口腔発声障害、舌ジストニア、頸部ジストニア、上肢局所性ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼疾患、脳性麻痺、局所性痙攣及び他の音声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス、四肢痙攣、チック、動作時振戦、歯ぎしり、肛門裂傷、アカラシア、嚥下障害及び他の筋緊張障害、並びに筋肉群の不随意運動、流涙、多汗、過度の唾液分泌、過度の胃腸分泌、分泌障害、筋痙攣による痛み、頭痛、スポーツ外傷、及びうつ状態、及び皮膚科的又は美的/美容的状態によって特徴付けられる他の障害から構成される群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】BoNT/A及びBoNT/Bによる受容体結合に関する構造情報。(a)GT1b(PDB 2VU)と、及びヒトのグリコシル化SV2C(PDB 5JLV)と複合したBoNT/Aの結合ドメインの結晶構造の重ね合わせ。(b)GD1a及びラットのシナプトタグミン2(PDB 4KBB)と複合したBoNT/Bの結合ドメインの結晶構造。タンパク質はリボンの形式で表示し、炭水化物は棒として表示した。(c)H
C/A(Uniprot P10845)及びH
C/B(Uniprot P10844)の配列アラインメント、ここで二次構造要素も提供される(ESPript3.0で作成された図;Robert及びGouet、2014年)。受容体の結合に直接関与する領域は、SV2受容体についてH
C/A配列の上及びSyt受容体についてH
C/B配列の下の線で、それぞれのドメインについて強調表示されている;ガングリオシド受容体結合部位には、縞模様の灰色の線で下線を引く。
【
図2】H
C/A及びH
C/Bによる受容体結合を有するH
C/TABの配列アラインメント。タンパク質配列をClustalOと共に整列させた(Sieversら、2011年)。H
C/TABの設計において使用されるH
C/A及びH
C/Bのセグメントを、それぞれ黒(白の文字)及び明るい灰色(黒の文字)で強調表示する。欠失を含む位置を、濃い灰色(ダッシュ)で示した。
【
図3】H
C/TABの特徴。(a)精製したH
C/TABのSDS-PAGE分析、及びH
C/A及びH
C/B対照との比較。(b)ポリヒスチジンプローブを使用したウエスタンブロット分析、(a)と同一試料。「M」は分子量マーカーを示す。
【
図4】SV2C、ヒトのシナプトタグミン1及びGD1aと複合したTriRecABToxの結合ドメインのX線結晶構造。(a)SV2C、hSyt1及びGD1aを有するH
C/TABのリボン表示。(b~d)SV2C受容体結合部位(b)、GD1a(c)及びhSyt1(d)の周囲の2σでの2Fo-Fc電子密度マップ(メッシュ)の例。
【
図5】SV2受容体への結合。(a)hSV2Cと複合したH
C/TAB及びH
C/A(PDB 4JRA)の結晶構造の重ね合わせ。(b)グリコシル化hSV2との複合体におけるH
C/TAB及びH
C/A(PDB 5JLV)の結晶構造の重ね合わせ。結合に関与する残基(Benoitら、2014年)を棒として示し、対応するH
C/A位置に従って標識付けする。
【
図6】シナプトタグミンへの結合。それぞれヒトSyt1及びラットSyt2と複合したH
C/TAB及びH
C/B(PDB 4KBB)の結晶構造の重ね合わせ。結合に関与する残基(Jinら、2006年;Chaiら、2006年)を棒として示し、対応するH
C/B位置に従って標識付けする。
【
図7】GD1aへの結合。GD1aとの複合体におけるH
C/TAB及びH
C/B(PDB 4KBB)の結晶構造の重ね合わせ(それぞれ暗い灰色及び明るい灰色)。結合に関与する残基(Berntssonら、2013年)を棒として示し、対応するH
C/B位置に従って標識付けする。
【
図8】BoNT/TABの特徴。(a)H
C/A及びH
C/B対照との、精製したBoNT/TABのSDS-PAGE分析。(b~d)ポリヒスチジンプローブ(b);H
C/A(c)及びH
C/B(d)抗血清を使用したウエスタンブロット分析。(a)と同一の試料、「M」は分子量マーカーを示す。
【
図9】BoNT/TABの活性化。(a)機能ドメイン組織化を説明するBoNT/TAB構築物の略図。設計したプロテアーゼ活性化部位を、黒い破線で示す。軽鎖と重鎖の間の天然のジスルフィド架橋を、黒い線(b)BoNT/TAB活性化アッセイのSDS-PAGE分析として示す。非還元型(NR)及び還元型(R)の非活性化BoNT/TAB(左)及びXa因子活性化BoNT/TAB(右)。目的の断片に注釈を付けている;「M」は分子量マーカーを示す。
【
図10】H
C/TABの拡張使用。(a)H
C/TABに関連する潜在的な機能性BoNT誘導体の略図。構築物は、任意の血清型又はサブタイプ(「n」)からの機能的なBoNTドメインからなる。プロテアーゼ活性化部位(黒い破線)も含めるべきである。(b)神経細胞の表面にカーゴタンパク質を輸送するためにH
C/TABを使用する潜在的な構築物の概略図。
【
図11】H
C/TABの精製。(a)5mlのHisTrap FFカラムを使用したアフィニティークロマトグラフィー精製からのクロマトグラフ(A
280トレース)。(b)Superdex200カラムを使用したサイズ排除精製のクロマトグラフ(A
280トレース)。精製プロセスの段階及びH
C/TABを有する画分を強調表示する。
【
図12】SV2C、hSyt1及びGD1aと複合したH
C/TABの結晶。(a)20%(v/v)ポリエチレングリコール6000、0.1Mクエン酸塩(pH5.0)中で成長させた結晶。(b)Diamond I04-1ステーションでデータ収集するためにクライオループに取り付けられた結晶。(c)結晶のX線回折パターン。
【
図13】BoNT/TABの精製。(a)5mlのHisTrap FFカラムを使用したアフィニティークロマトグラフィー精製からのクロマトグラフ(A
280トレース)。(b)Superdex200カラムを使用したサイズ排除精製のクロマトグラフ(A
280トレース)。精製プロセスの段階及びBoNT/TABを有する画分を強調表示する。
【
図14】SV2C、ヒトシナプトタグミン1及びGD1aと複合したH
C/TABの結合ドメインのX線結晶構造。(a)及び(b)H
C/TAB(a)及びH
C/TAB2.1(b)の結晶構造の温度分析(パテ半径表示)、ここで半径はB因子に比例する。ループ「360」を示し、位置360及び362を黒で強調表示する。(c)SV2C、hSyt1及びGD1a(棒で表示)との複合H
C/TAB2.1のX線結晶構造。(d)(c)と同様に脂質結合ループを標識付けし、疎水性残基を棒として示す。
【
図15】H
C/TAB2.1の精製。(a)5mlのHisTrap FFカラムを使用したアフィニティークロマトグラフィー精製からのクロマトグラフ(A
280トレース)。(b)Superdex200カラムを使用したゲル濾過精製のクロマトグラフ(A
280トレース)。H
C/TAB2.1の画分を表示する。(c)及び(d)H
C/TAB2.1の特徴。(c)におけるアフィニティークロマトグラフィー及びゲル濾過(d)から精製したH
C/TAB2.1の画分のSDS-PAGE分析;左側の最初のレーンは分子量マーカーを示す。H
C/TAB2.1に対応したバンドを表示する。
【
図16】H
C/TAB2.1.1及びH
C/TAB2.1.3の精製。(a)及び(b)それぞれH
C/TAB2.1.1のアフィニティークロマトグラフィー精製及びゲル濾過からのクロマトグラフ(A
280トレース)。H
C/TAB2.1.1の画分を表示する。(c)及び(d)それぞれH
C/TAB2.1.3のアフィニティークロマトグラフィー精製及びゲル濾過からのクロマトグラフ(A
280トレース)。H
C/TAB2.1.3の画分を表示する。(d)H
C/TAB2.1.1及びH
C/TAB2.1.3の特徴。精製した試料のSDS-PAGE分析;左側の最初のレーンは分子量マーカーを示す。H
C/TAB2.1.1及びH
C/TAB2.1.3に対応したバンドを表示する。
【
図17】
図X4:BoNT/TAB2.1.3の精製。(a)及び(b)BoNT/TAB2.1.3精製からの画分のSDS-PAGE分析。アフィニティークロマトグラフィー(a)及びゲル濾過(b)からの画分;左側の最初のレーンは分子量マーカーを示す。BoNT/TAB2.1.3に対応するバンドを表示する。(c)精製したBoNT/TAB2.1.3試料のSDS-PAGE分析。レーン1:トロンビン活性化前の試料、レーン2:最終活性化試料(トロンビン処理後の処理)。完全長(単鎖)、HC及びLCに対応するバンドを表示する。右側のレーンは分子量マーカーを示す。(d)Superdex200カラムを使用した最終ゲル濾過(トロンビン処理後の切断)のクロマトグラフ(A
280トレース)。BoNT/TAB2.1.3の画分を表示する。
【0040】
定義
本明細書において使用される場合に、ボツリヌス神経毒「BoNT」という用語は、ボツリヌス神経毒からの任意のポリペプチド又は断片を包含する。BoNTという用語は、完全長のBoNTを示しうる。BoNTという用語は、BoNTがニューロンに入り、神経伝達物質の放出を阻害する、全体的な細胞メカニズムを実行できるBoNTの断片を示しうる。BoNTという用語は、任意の特定の機能又は活性をその断片が必要としない単なるBoNTの断片を示しうる。
【0041】
本明細書において使用される場合に、「転座ドメイン」又は「HN」という用語は、BoNT軽鎖転座を媒介する中毒プロセスの転座ステップを実行できるBoNTドメインを意味する。したがって、HNは、膜を越えて細胞の細胞質へのBoNT軽鎖の移動を促進する。
【0042】
本明細書において使用される場合に、「結合ドメイン」という用語は、「HCドメイン」と同義であり、例えば標的細胞の原形質膜表面にあるBoNT特異的受容体システムへのBoNTの結合を含む、中毒プロセスの細胞結合ステップを実行できる任意の天然に生じるBoNT受容体結合ドメインを意味する。
【0043】
本開示において、「核酸」及び「遺伝子」という用語は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列又はポリヌクレオチドを説明するために互換的に使用される。
【0044】
詳細な説明
背景技術の段落において明記したように、BoNTは軽鎖(LC)を含み、単一のジスルフィド架橋によって重鎖(HC)に連結される。重鎖(HC)は、N末端転座ドメイン(HN)及びC末端結合ドメイン(HC)を有する2つの機能ドメインを保持しているが、LCは細胞内触媒活性を担っている。したがって、HCは、感受性ニューロン上に発現する特定の受容体に特異的かつ不可逆的に結合できる受容体結合ドメインを含み、一方で、HNは、付着したLCをエンドソーム様膜小胞から細胞質ゾルに移動させるチャネルを形成する。異なるBoNT血清型は、HC上で異なるセットの受容体結合部位、典型的に2つの受容体結合部位を有する。本発明者らは、この知識を使用して、3つの異なる受容体についての結合部位を含む新規のBoNT HC結合ドメイン(HC/TAB)を設計している。
【0045】
本発明者は、以下を含むHC/TABドメインを設計することによりこれを達成した:
a)シナプトタグミン(Syt)受容体結合部位、及び
b)シナプス関連小胞2(SV2)受容体結合部位、及び
c)ガングリオシド(Gang)受容体結合部位。
設計したHC/TABドメインの構造は、HC/TABを、シナプトタグミン(Syt)受容体、シナプス関連小胞2(SV2)受容体及びガングリオシド(Gang)受容体に相乗的に結合させる。したがって、ニューロン細胞上の3つの受容体への相乗的な結合が達せられ、新規のHC/TABドメインに他のBoNT HCドメインと比較してアフィニティーを強化させる。したがって、ニューロンへの全体的な結合を改善し、結果として毒素のエフィカシーを改善する。
【0046】
HCは、さらに、N末端(HCN)及びC末端(HCC)を含む。本発明の重要な特徴は、受容体結合ドメインがBoNTに配置されているHC/TABのHCC末端の構造である。
【0047】
HC/TABの一実施形態において、HCC末端は、BoNT血清型A(BoNT/A)及びBoNT血清型B(BoNT/B)からの配列から交換可能に構成される。この交換可能な構造を設計することにより、本発明者らは、3つ全ての受容体への相乗的な結合を最適化することができた。
【0048】
本発明のさらなる実施形態において、H
CC端は、配列A
1B
1A
2B
2A
3に従って構成され、ここで、Aは、BoNT/Aからの配列を示し、Bは、BoNT/Bからの配列を示す(
図2を参照されたい)。これは、H
C/TABの構造をさらに最適化し、3つの受容体結合ドメインを、3つ全ての前記受容体に少なくとも相乗的に、可能であればさらに同時に結合することを可能にする。本発明者らは、3つ全ての受容体への同時結合が、このA
1B
1A
2B
2A
3配列を用いてin vitroで生じることを示している。この特定の実施形態に従って操作されたA
1B
1A
2B
2A
3配列は、配列番号1において記載されている。
【0049】
上記に従ってH
C/TABをさらに最適化するために、変異及び欠失を導入して、安定した分子内界面を作出している(
図2を参照されたい)。配列番号1において、位置306、360及び362において置換を実施し、元の配列と比較して、位置265/266と位置360/361の間で欠失を実施した。しかしながら、当業者は、前記の特定位置から+1、+2、+3、+4、+5、又は-1、-2、-3、-4もしくは-5の位置でのアミノ酸の変異及び/又は欠失が、同一の効果を有することを認識するであろう。したがって、特定のアミノ酸位置から±5のアミノ酸の位置での任意のかかる改質は、本開示の範囲内に含まれる。
【0050】
前記特定の実施形態及び以下の全ての実施例に従って、ガングリオシド受容体結合部位はBoNT/Bに由来するが、任意のGang受容体結合BoNT血清型及びそれらのサブタイプ、例えばBoNT血清型A、B、C、D、DC、E、En、F、GもしくはX又はそれらのサブタイプに由来してよいと考えられる。それというのも、全ての血清型がガングリオシド受容体結合部位を有しているからである。
【0051】
本発明の好ましい実施形態に従って、Gang受容体結合部位を形成する配列は、B2に位置する。
【0052】
SV2受容体結合ドメインは、通常、SV2受容体結合BoNT血清型及びそれらのサブタイプ、特にBoNT血清型A、D、E及びFに由来しうる。前記特定の実施形態及び以下の全ての実施例において、SV2受容体結合ドメインはBoNT/Aに由来するが、当業者が認識しているように、SV2受容体結合ドメインを含む任意の血清型を、添付の特許請求の範囲によるHC/TABの目的及び意図される使用に従って、前記ドメインの起源として使用してよい。
【0053】
SV2受容体結合ドメインの一部は、HCN末端に存在する。したがって、結果として、HCN配列は、SV2受容体結合BoNT血清型及びそれらのサブタイプのいずれかに由来しうる。前記特定の実施形態及び以下の全ての実施例において、HCN末端は、BoNT/Aに由来する。しかしながら、当業者が認識しているように、SV2受容体結合ドメインが機能的である限り、HCN配列は、BoNT血清型C、D、E、F又はGのいずれかに由来してもよい。
【0054】
さらに、本発明の好ましい実施形態に従って、SV2受容体結合部位を形成する配列は、HCNに位置し、HCCにおいてA1及びA3に位置する。
【0055】
Syt受容体結合部位は、任意のSyt受容体結合BoNT血清型及びそれらのサブタイプに由来しうる。特に、Syt受容体結合部位は、BoNT血清型B、キメラDC又はGに由来しうる。本発明の好ましい実施形態に従って、Syt受容体結合部位を形成する配列は、B1及びB2に位置する。
【0056】
本発明は、前記に従ってHC/TABを含むポリペプチドも提供する。したがって、ポリペプチドは、他のタンパク質、ポリペプチド、アミノ酸配列、又は蛍光プローブを含んでよく、直接又はリンカーを介してHC/TABに結合される。以下、HC/TABに結合されるタンパク質、ポリペプチド又はアミノ酸配列を「タンパク質」という。
【0057】
好ましい一実施形態に従って、ポリペプチドは、HN及びLC、並びにポリペプチド配列におけるLCとHNとの間に位置するエキソプロテアーゼ部位をさらに含む組換えBoNTポリペプチド(BoNT/TAB)である。
【0058】
エキソプロテアーゼ部位は、一本鎖ポリペプチドを二本鎖分子に切断することを可能にし、活性毒素にする分子を生じる。本発明の実施形態に従って、エキソプロテアーゼ部位は、Xa因子部位であるが、これは本発明によるポリペプチドの限定的な特徴ではない。
【0059】
一実施形態に従って、その活性型でのBoNT/TABは、配列番号5によるものである。他の実施形態に従って、その活性型でのBoNT/TABは、配列番号6、8、10又は12の配列のいずれかによるものである。好ましくは、その活性型でのBoNT/TABは、配列番号12によるものである。
【0060】
HNとLCの双方は、それぞれ独立して、BoNT血清型A、B、C、D、DC、E、En、F、G又はX、及びそれらのサブタイプ、並びにBoNT様ポリペプチドのいずれかに由来する。BoNTに似ている新たなタンパク質、すなわち類似したドメイン構造及び異なる程度の配列同一性を有しているが、クロストリジウム・ボツリヌス(C.-botulinum)以外の生物によって産生された新たなタンパク質が出現している。したがって、当業者は、BoNT血清型、それらのサブタイプ、又はBoNT様ポリペプチドのいずれかからHN及び/又はLCを選択することができるであろう。
【0061】
前記したHC/TABに導入された変異及び欠失は、設計したBoNT/TABが、正確な構造及び要求される活性と共に可溶性タンパク質として生成されることを、さらに確実にする。
【0062】
前記に従ったポリペプチドは、HC/TABが組換えにより生成される必要があるため、好ましくは組換えにより生成される。
【0063】
したがって、本開示は、前記に従ったHC/TAB又はポリペプチドのいずれかをコードする単離した核酸及び/又は組換え核酸も提供する。本開示のHC/TAB又はポリペプチドをコードする核酸は、二本鎖又は一本鎖のDNA又はRNAであってよい。特定の態様において、単離されたポリペプチド断片をコードする目的の核酸は、本明細書において記載したHC/TAB又はポリペプチドのいずれかのバリアントであるポリペプチドをコードする核酸を含むとさらに理解される。バリアントヌクレオチド配列は、1つ以上のヌクレオチドの置換、付加又は欠失によって異なる配列、例えばアレルバリアントを含む。
【0064】
本発明は、前記に従ったHC/TABをコードする核酸配列を含むベクターも提供する。ベクターは、さらに、HC/TABと共に組み換えにより生成されて、1つのポリペプチドでHC/TABに結合した前記タンパク質又はプローブを得る、他のタンパク質又はプローブをコードする核酸配列を含みうる。ベクターは、好ましくは発現ベクターである。ベクターは、核酸に操作可能に連結させたプロモーターを含みうる。本明細書において記載されるポリペプチドの発現のために種々のプロモーターを使用することができ、それらは当該技術分野における当業者に公知である。
【0065】
核酸を含む発現ベクターは、従来の技術(例えば、エレクトロポレーション、リポソームトランスフェクション、及びリン酸カルシウム沈殿)によって宿主細胞に移すことができ、そしてトランスフェクトした細胞を従来の技術によって培養して、本明細書において記載されるポリペプチドを生成する。いくつかの実施形態において、本明細書において記載したポリペプチドの発現は、構成的プロモーター、誘導性プロモーター又は組織特異的プロモーターによって調節される。
【0066】
ポリペプチドは、真核生物又は原核生物の任意の細胞において、又は酵母において生成されうる。本発明によるポリペプチドは、さらに無細胞系で生成されうる。当業者は、選択した発現系をその人に容易に適用できるであろう。本発明のポリペプチドを生成するために使用される発現系は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0067】
組換えタンパク質の精製及び改変は、ポリタンパク質前駆体の設計が当業者によって容易に認識される多くの実施形態を含みうるように、当該技術分野において周知である。
【0068】
ポリペプチドに含まれるタンパク質は、神経細胞に輸送される、及び/又は神経細胞に内在化される任意の目的のタンパク質であってよい。
【0069】
タンパク質の内在化が所望される場合に、HNがタンパク質を神経細胞に移行させるチャネルを提供するため、HC/TABと共にポリペプチドに前記に従ったポリペプチド中でHNを含み、LCを目的のタンパク質に置き換えることが有利であってよい。神経細胞表面がタンパク質の標的である場合に、目的のタンパク質をHC/TABに直接結合することが有利であってよい。したがって、目的とした送達に応じて、以下の組み合わせが得られてよい:
i)タンパク質 - HC/TAB
ii)タンパク質 - HN - HC/TAB
iii)タンパク質 - LC - HN -HC/TAB。
【0070】
前記i)に従って、カーゴタンパク質をHC/TABに結合することにより、カーゴタンパク質は、ニューロン表面を標的としうる。通常の細胞表面のリサイクリングプロセスを介したいくつかの内在化がおそらく生じるが、神経細胞表面は、かかるアプローチの主な標的となる。
【0071】
カーゴタンパク質を、前記ii)に従ってHC/TABに結合されたHNに、又は前記iii)に従ってBoNT/TABに結合することにより、前記カーゴタンパク質は、毒素移行システムを使用して、ニューロン内でより効率的に輸送されうる。背景技術において記載したように、BoNT毒素が小胞におけるニューロン細胞に内在化されると、小胞における酸性エンドソーム環境が、小胞から細胞のサイトゾルへのLCの移行を可能にする構造変化をもたらす。したがって、内在化小胞からサイトゾルへBoNTのLCを移行させるためのメカニズムである前記毒素移行システムは、BoNT/TABの使用により、前述したカーゴタンパク質をニューロン細胞のサイトゾルに移行するために使用されうる。カーゴタンパク質は、LCの代わりにHNに結合されてよく、その際、エキソプロテアーゼ部位は、前記で開示したカーゴタンパク質とHNとの間に配置され、又はカーゴタンパク質は、LCに結合されてよい。双方のバリアントは、神経細胞のサイトゾルへのカーゴタンパク質の輸送を可能にする。
【0072】
したがって、HC/TAB及びBoNT/TABの双方は、ニューロンへ及び/又はニューロン中へ任意のタンパク質を輸送するための媒体として使用されてよい。これは、例えばシナプスプロセスにおけるタンパク質の役割を調査するために、薬理学的試験でHC/TAB及び/又はBoNT/TABを使用する可能性も提供する。
【0073】
カーゴタンパク質は、例えば、任意のタンパク質タグ、例えばアフィニティー又は蛍光のタグ又はプローブであってよい。したがって、かかるタンパク質タグに対応する任意の核酸を、前記で開示したベクターに含めてよい。当業者は、ベクターに目的の任意の遺伝子を含めるための標準的なクローニング方法、及びタンパク質発現のための標準的なプロトコルを使用することができるであろう。
【0074】
BoNTの結合ドメイン及びカーゴタンパク質は、翻訳後にそれらの組換えを可能にするソルターゼシステムで別々に発現できた。したがって、ソルターゼのトランスペプチダーゼ活性は、in vitroで融合タンパク質を生成するためのツールとして使用されてよく、当該技術分野内の当業者の知識の範囲内である。つまり、認識モチーフ(LPXTG)が、目的のタンパク質のC末端に付加され、オリゴグリシンモチーフが、ライゲーションされる第二のタンパク質のN末端に付加される。タンパク質混合物にソルターゼを添加すると、2つのペプチドは、天然のペプチド結合を介して共有結合する。この方法は、本発明によるポリペプチドを生成するために使用されうる。この場合に、これは、認識モチーフが、目的のタンパク質のC末端に付加され、かつオリゴグリシンモチーフが、HC/TAB又はBoNT/TABのN末端に付加されることを意味する。
【0075】
さらに、HC/TAB及び/又はBoNT/TABは、治療的方法又は美容的方法において使用されてよい。典型的に、HC/TAB及び/又はBoNT/TABの使用は、BoNT/A及び/又はBoNT/B生成物のために既に実施されている使用に非常に類似しうる。これらは、方法及び治療を含み、該方法及び治療の目的は、筋肉を弱める及び/又は不活性化することである。
【0076】
本発明によるHC/TABは、細胞に対してより高いアフィニティーを有し、結果としてより高いエフィカシーを有するBoNT/TABの注入を可能にする。したがって、より少ない投与量を要求し、より長い活性の持続期間を可能にする。したがって、BoNT/A又はBoNT/Bと比較して少量のBoNT/TABを注入しても同一の効果が得られ、注入部位から拡散するBoNT/TABが少なくなるため、有害作用が減少する。より高い効率、より強くより効率的な結合、及びより少ない投与量を要求するため、注入部位を超えて拡散する余剰のBoNT/TABが少なくなる。さらに、BoNTは、持続する効果により投与される頻度が低くなる可能性があり、それらの結果として免疫応答及び有害反応のリスクも最小限にする。
【0077】
前記に従ったHC/TAB及び/又はBoNT/TABで治療及び/又は予防されうる典型的な病状は、神経筋障害、アセチルコリンの放出に関与する状態、及び痙攣性筋障害を含む群から選択される障害である。より詳述すれば、痙攣性発声障害、痙性斜頸、喉頭ジストニア、顎口腔発声障害、舌ジストニア、頸部ジストニア、上肢局所性ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼疾患、脳性麻痺、局所性痙攣及び他の音声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス、四肢痙攣、チック、動作時振戦、歯ぎしり、肛門裂傷、アカラシア、嚥下障害及び他の筋緊張障害、並びに筋肉群の不随意運動、流涙、多汗、過度の唾液分泌、過度の胃腸分泌、分泌障害、筋痙攣による痛み、頭痛、スポーツ外傷、及びうつ状態によって特徴付けられる他の障害からなる群から選択される障害に関してよい。
【0078】
美容的方法に関して、HC/TAB及び/又はBoNT/TABは、好ましくは、皺、眉間溝又は不要な線を防止及び/又は治療して、前記皺、溝及び線を低減するために使用されうる。
【0079】
前記に従ったHC/TAB及び/又はBoNT/TABは、任意の適した医薬組成物又は化粧品組成物に配合されうる。HC/TAB及び/又はBoNT/TABを含む医薬組成物は、さらに、薬剤的に許容される賦形剤、キャリヤー又は他の添加剤を含みうる。HC/TAB及び/又はBoNT/TABを含む化粧品組成物は、さらに、美容的に許容される賦形剤、キャリヤー又は他の添加剤を含みうる。
【0080】
医薬組成物又は化粧品組成物の投与は、注射を介してよく、その際、注射は、望ましくない神経活動が存在する身体の部位に投与される。典型的に、注射による投与のための組成物は、無菌等張水性緩衝液中で溶液である。必要な場合に、組成物は、可溶化剤及び注射部位の痛みを和らげるための局所麻酔薬も含んでよい。
【0081】
さらに、医薬組成物又は化粧品組成物は、組成物の治療的投与のための指示を伴うキットに含まれてよい。かかるキットにおいて、組成物の成分は、例えば、活性剤の量を示す密封容器、例えばアンプル又はサッシェ中で乾燥凍結乾燥粉末又は無水濃縮物として、単位投与量形で別々に又は共に混合して供給されてよい。組成物は、注入によって投与されてもよく、その場合、無菌の医薬品グレードの水又は生理食塩水を含有する注入ボトルで分配できる。組成物を注射により投与する場合に、投与前に成分を混合できるように、注入のための滅菌水又は生理食塩水のアンプルを提供できる。全身投与のための組成物は、液体、例えば、滅菌生理食塩水、乳酸加リンゲル液又はハンクス液であってよい。さらに、組成物は、固体形態であってよく、かつ使用直前に再び溶解又は懸濁されてよい。凍結乾燥した形も考えられる。組成物は、脂質粒子又は小胞、例えばリポソーム又は微結晶の内部に含まれてよく、非経口投与にも適している。
【0082】
したがって、本発明者らは、SV2C受容体、シナプトタグミン受容体及びガングリオシド受容体の3つ全てに同時に結合するように適合された操作したBoNTバイオハイブリッドを開発した。それにより、先行技術のBoNTポリペプチドよりも高いポテンシー、エフィカシー及び持続期間を有するBoNTバイオハイブリッドが提供される。それにより、本発明のバイオハイブリッドの使用は、同一の効果を維持しながら、先行技術による投与量よりも低い投与量の毒素の投与を可能にする。さらに、本発明のバイオハイブリッドの使用は、以前に使用されていたBoNTの場合よりも低い頻度の投与を可能にする。したがって、本発明のBoNTバイオハイブリッドでの患者の治療は、先行技術におけるように頻繁に投与する必要がないという点で、より快適である。
【0083】
実験の部
材料及び方法
構築物。HC及び完全長(不活性)TriRecABTox(それぞれHC/TAB及びBoNT/TAB)をコードするcDNAを、大腸菌発現のためにコドン最適化し(DNA配列についての補足情報を参照されたい)、N末端6×Hisタグ(GenScript、NJ、USA)を有するpET-28a(+)ベクター中で合成及びコロニー形成した。研究において使用したTriRecABTox構築物は、安全上の不安を回避するために触媒部位に3つの変異を有する(E224Q/R363A/Y366F)(Rossettoら、2001年;Binzら、2002年)。BoNT/TAB遺伝子は、1311のアミノ酸をコードし、かつHC/TAB遺伝子は、残基[875~1311]に対応する。
【0084】
タンパク質の発現及び精製。目的の遺伝子を保有するプラスミドを、大腸菌BL21(DE3)細胞(New England BioLabs、USA)に形質転換した。同一のプロトコルを、双方のタンパク質に使用した。発現を、カナマイシン50μg/mlを有するTB培地中で37℃で約3時間細胞を成長させ、そして最終濃度1mMのIPTGで誘発させ、LEXシステム(Epyphite3、Canada)で18℃で一晩放置した。細胞を採取し、そして-80℃で保存した。タンパク質抽出のための細胞溶解を、200mM NaCl、25mMイミダゾール及び5%(v/v)グリセロールを有する25mM HEPES(pH7.2)中で、20kPsiでのEmulsiflex-C3(Avestin、Germany)を用いて実施した。細胞片を、4℃、267000gで45分間の超遠心分離により遠心沈殿した。タンパク質を最初にアフィニティークロマトグラフィーにより精製した:上清を5mlのHisTrap FFカラム(GE Healthcare、Sweden)上に装填し、25mM HEPES(pH7.2)、200mM NaCl、25mMイミダゾール及び5%(v/v)グリセロールで洗浄し、そして、そのタンパク質を、25mM HEPES(pH7.2)、200mM NaCl、250mMイミダゾール及び5%(v/v)グリセロールで溶出した。そしてその試料を、25mM HEPES(pH7.2)、200mM NaCl、及び5%(v/v)グリセロールに対して一晩透析し、同様の緩衝液(GE Healthcare、Sweden)中でSuperdex200カラムを使用して最終サイズ排除精製ステップを実施した。200mM NaCl、0.025mM TCEP及び5%グリセロールを有する25mM HEPES(pH7.2)中で、HC/TABを4.5mg/mlで、及びBoNT/TABを7.3mg/mlで維持した。
【0085】
タンパク質の特徴。タンパク質試料を、NuPAGE 4~12%Bis-Trisゲルを使用してゲル電気泳動、及びPVDF膜(ThermoFisher、Sweden)上で実施したウエスタンブロットによって分析した。HC/A及びHC/Bに対する一次抗体を社内で調製(ウサギで産生)し、抗ウサギIgGペルオキシダーゼ抗体(カタログ#SAB3700852、Sigma、Sweden)で探索した。ポリヒスチジンタグを、HRP接合モノクローナル抗体(AD1.1.10、カタログ#MA1-80218、ThermoFisher、Sweden)を使用して探索した。検出のためにTMB基質(Promega、Sweden)を使用した。HC/TABと同様に精製し、Hisタグ付きのHC/A及びHC/Bからなる社内対照を比較のために含んだ。
【0086】
BoNT/TABの活性化。完全長(不活性)TriRecABToxを、二本鎖型に活性化させるために軽鎖と重鎖との間のXa因子切断部位(IEGR)で設計した。BoNT/TAB 100μgをXa因子2μg(New England BioLabs、USA)と4℃で一晩インキュベートして活性化を実施した。活性化の結果を(前記のように)ゲル電気泳動により分析した。
【0087】
SV2C-L4のクローニング、発現及び精製。シナプス小胞糖タンパク質2C(SV2C-L4、残基474~567 Uniprot ID Q496J9)の4番目の内腔ドメインの相互作用部分を、cDNAから増幅させ、そしてLICクローニングを使用してpNIC28-Bsa4(TEV部位を有するN末端His6タグ)ベクター中にクローニングした。SV2CL4を、前記と同様のプロトコルを使用して、大腸菌BL21(DE3)(New England BioLabs、USA)中で発現させた。Hisタグ付きSV2C-L4を、2mM HisTrap HPカラム(GE Healthcare、Sweden)のアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、20mM HEPES(pH7.5)、500mM NaCl、10%(v/v)グリセロール、50mM イミダゾール及び0.5mM TCEPで洗浄した。タンパク質は、20mM HEPES(pH7.5)、500mM NaCl、10%(v/v)グリセロール、500 mMイミダゾール及び0.5mM TCEPで溶出した。そして、SV2CL4を、20mM HEPES(pH7.5)、300mM NaCl、10%(v/v)グリセロール、及び0.5mM TCEP中でSuperdex 75 HiLoad 16/60カラム(GE Healthcare、Sweden)を使用して、サイズ排除によりさらに精製した。
【0088】
X線結晶解析。結晶化のための試料を、3.6mg/mlでのHC/TABを室温で15分間、1mg/mlでのSV2C-L4(組換えヒトSV2C細胞外ループ4[残基475~565]、1mM hSytIペプチド(GEGKEDAFSKLKEKFMNELHK、GenScript、USAにより合成した)及び4mM GD1aオリゴ糖(Elicityl、France)でプレインキュベートすることにより調製した。
【0089】
結晶を、シッティングドロップセットアップを使用して、20%(v/v)ポリエチレングリコール6000、0.1M クエン酸(pH5.0)(JCSG-plus screen B9、Molecular Dimensions、United Kingdom)からなるリザーバー溶液100nlと混合した試料200nlで成長させ、そして21℃でインキュベートした。結晶が2週間以内に出現し、そしてその結晶をクライオループに移し、液体窒素で凍結した。
【0090】
回折データを、PILATUS-6M検出器(Dectris、Switzerland)を備えたDiamond Light Source(Didcot、UK)のステーションI04-1で収集した。1.5Åまでの完全なデータセットを、100°Kでの単結晶から収集した。生データ画像を、CCP4 suite 7.0(CCP4、1994年)を使用して、DIALS(Gildeaら、2014年)及びAIMLESS(Evans、2006年)で加工及び縮尺した。
【0091】
分子置換を、SV2C-L4(PDBコード4JRA)との複合体でのHC/Aの、並びにラットSytII及びGD1a(PDBコード4KBB)との複合体でのHC/Bの座標から作成されたモデルで実施して、PHASER(McCoyら、2007年)で構造解の初期フェーズを決定した。作業モデルを、REFMAC5(Murshudovら、2011年)を使用して改良し、そしてCOOT(Emsleyら、2010年)で手動で調整した。Fo-Fcの電子密度のピークが3σを超える位置に水分子を追加し、そして潜在的な水素結合を作成できた。検証を、MOLPROBITY(Chenら、2010年)で実施した。ラマチャンドラン統計は、全ての残基の97.0%が最も好ましい領域にあり、許可されていない領域に1つの外れ値を有することを示す。結晶解析データの統計を表1にまとめる。図を、PyMOL(Schroedinger、LLC、USA)で作図した。
【0092】
結果
TriRecABToxの設計:3つの受容体結合部位有する設計したボツリヌス毒素。
【0093】
3つの受容体毒素の概念を具体化するために、本発明者らは、最初に受容体とのBoNT/A及びBoNT/B分子相互作用に関して利用可能な構造情報を分析した。Yaoら(2016年)及びBenoitら(2014年)による最近の研究は、それぞれ、翻訳後の改変のある(PDB 5JLV)、及び翻訳後の改変のない(PDB 4JRA)、SV2Cとの複合体におけるBoNT/Aの受容体結合ドメインのX線結晶構造を提供する。SV2C(loop4)の内腔ドメインは、SV2CのN型糖鎖がH
CNに対して伸長している間に、主に2つのサブドメインの界面で開いたβストランドとの骨格間相互作用を介してH
C/Aに関連付けられる四辺形のβヘリックスを形成する(
図1)。これらの構造と一緒に、グリコシル化SV2A及びSV2Bにも伸長されるべき2つのSV2型への共通の結合形式を実証した(Yaoら、2016年)。これらの研究は、毒素SV2相互作用に関与する主要な残基及び複数の部位を強調しており、したがってTriRecABToxの設計において維持する必要がある(
図1)。これらは、BoNT/Aのセグメント[949~953]、[1062~1066]、[1138~1157]及び[1287~1296]を含んだ。残基数は、BoNT/A1(Uniprot-P10845)の配列に基づく。
【0094】
シナプトタグミンと複合したBoNT/Bのいくつかの結晶構造も説明されており、その受容体との毒素の相互作用を定義するのに役立つ(Chaiら、2006年;Jinら、2006年;Berntssonら、2013年)(
図1)。結合すると、Sytペプチドは、BoNT/Bのセグメント[1113~1118]及び[1183~1205]を直接含む、C末端サブドメインの遠端上の溝に沿って結合する短いらせん構造をとる。残基数は、BoNT/B1(Uniprot-P10844)の配列に基づく。したがって、これらの領域を、TriRecABTox構築物に含めることが不可欠であると見なした。
【0095】
さらに、ガングリオシド受容体と複合した結晶構造BoNT/A及びBoNT/B(Stenmarkら、2008年;Hamarkら、2017年;Berntssonら、2013年)は、それぞれの血清型についての炭水化物結合部位の詳細な説明を提供した。この部位は、ボツリヌス神経毒ファミリーにわたって高度に保存されており、中央のSxWYモチーフ(/Aで1264~1267、/Bで1260~1263)、及び周囲のループ領域から構成されるH
CCサブドメイン(
図1)の浅いポケットからなる。注目すべきことに、このポケットは、BoNT/BにおけるSyt受容体結合部位に隣接し、ループ[1244~1253]により分けられるが、2つの受容体の同時結合に対するアロステリック効果は報告されていない(Bertnssonら、2013年)。Syt受容体結合部位への任意の構造変化を最小限にする目的で、BoNT/AよりむしろBoNT/Bのガングリオシド受容体結合部位をTriRecABToxの設計に組み込むことがより適していると考えられた。
【0096】
3つの異なる受容体への結合のために不可欠な2つの血清型からの成分を同定した後に、さらなる構造分析を実施して、それらを単一分子に統合した。この程度まで、BoNT/A(Uniprot P10845)及びBoNT/B(Uniprot P10844)の一次配列を、ClustalO(Sieversら、2011年)で整列し、それらの結合ドメインの3次元構造を重ね合わせた(
図1)。2つの血清型は、全体的な配列同一性を40%共有するが、しかしながら受容体認識のための主な領域であるH
CのC末端サブドメインの類似性は34%まで低下する。結合ドメインのコアフォールドは、全てのクロストリジウム神経毒にわたって保存されているが(Swaminathan、2011年;Rummelら、2011年)、連結するループの長さに顕著な変動がある。したがって、インタクトなドメインの主な構造を維持するために、二次構造(
図1)も考慮することが重要であった。その結果、新たに設計された分子のための鋳型は、BoNT/A及びBoNT/B要素間の複数の代替として現れ、互換性がないであろう新規の非天然分子内界面を作出する。H
C/A及びH
C/Bの重ね合わせた結晶構造の検査は、発明者が主要な位置での単一のアミノ置換又は欠失のいずれかによって潜在的な不調和を修正することにより設計を最適化することを可能にした(
図2)。特に、矛盾する領域内の全ての残基の側鎖を見直して、BoNT/Bから同等のBoNT/Aアミノ酸への3つの置換を生じた:N1180、G1234、N1236(配列番号3)。さらに、いくつかのアミノ酸を削除して(
図2)、二次構造要素を一致させ、転移界面のループ領域におけるBoNT/AとBoNT/Bとの間の長さのばらつきを補正した。欠失を、BoNT/A及びBoNT/B配列と比較して、L1139とG1140との間、及びG1234とT1235との間(配列番号3を参照)で実施した(
図2)。
【0097】
得られるTriRecABToxという名の分子は、SV2、シナプトタグミン、ガングリオシドの3つの受容体に結合できるべきである。そのタンパク質配列は、配列番号3(不活性型)及び配列番号5(活性型)で提供される。
【0098】
TriRecABTox結合ドメインの調製及び特徴付け。
【0099】
TriRecABToxの特徴付けに対する最初のステップは、結合ドメイン(H
C/TAB)を組換えにより生成して、その生化学的特性を分析することであった。この目的のために、タンパク質配列を、大腸菌での発現のためにコドン最適化した。得られた遺伝子を、pET-28a(+)ベクターにクローニングして、N末端ポリヒスチジンタグを含ませ、そしてタンパク質精製プロセスを容易にした。詳細を方法のセクションにおいて提供する。本発明者らは、アフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除技術(
図11)を使用して、H
C/TABを発現させ、部分的に精製できる(
図3)ことを示した。元の試料は、おそらく残留宿主細胞タンパク質に対応するいくつかの低分子量汚染物質を示した。イオン交換クロマトグラフィー又は疎水性相互作用クロマトグラフィーのような方法を使用する追加の精製ステップは、より高純度の試料を得るのに役立つはずである。Hisタグ付きH
C/TABの存在をウエスタンブロットによって確認し、予期したサイズ(約53kDa)での単一のバンドを観察した(
図3)。
【0100】
TriRecABTox結合ドメインの3つの受容体と複合した結晶構造。
【0101】
H
C/TABがその3つの受容体に結合する能力を評価するために、H
C/TABとヒトSV2C内腔ドメイン[残基475~565]、ヒトSyt1ペプチド[残基34~53]及びGD1a炭水化物とを含む同時結晶化試験を設定した。高分解能(1.5Å)まで回折した結晶を得て(
図12)、完全なデータセットを収集できた(表1)。その構造を、全ての潜在的な成分を有する入力モデルを使用して分子置換により解析した。その解析は、結晶構造が4つの要素全てを含み、H
C/TABが3つの受容体に同時に結合した(H
C/TAB-3Rといわれる)(
図4)ことを確認した。この結果は、TriRecABToxがin vitroでその目的を達成でき、原子の詳細における受容体結合メカニズムの完全な分析も可能にするという最初の実験的証拠を提供する。新たに決定した構造情報を使用して、H
C/TAB、H
C/A、H
C/B、及びそれぞれの受容体の間の相互作用を直接比較できた。
【0102】
【表1-1】
【表1-2】
*括弧内の値は、最高分解能のシェルについてである。
【0103】
最初に、新たに設計したBoNT/TABの結合ドメインは、その2つのサブドメイン(レクチン様H
CN及びとH
CCのβ-トレフォイルフォールド)で予期されるフォールドを示す(
図4)。H
C/Aと重ね合わせた場合に0.69Å(364Cαを超える)、H
C/Bでは0.81Å(370Cαを超える)の低い二乗平均偏差(rmsd)により示されるように、作成した複数の新たな分子内界面は、全体的な構造を乱さなかった。完全なH
C/TABを、無秩序化したN末端ポリヒスチジンタグ及びループ[1169~1173]を除いてモデル化した[876~1311]。これらの部分の電子密度の欠如は、これらの領域があらゆる相互作用に関与せず、かつ結晶の溶媒に到達できる領域内に配置されているという事実により説明されうる。
【0104】
H
C/TAB-3R構造を、SV2Cと複合したH
C/Aの構造と比較した。SV2C内腔ドメインの構造は、双方の複合体で同一であり、0.483Å(88Cα超)のrmsdを有する。2つの構造を、H
Cドメインに基づいて3次元で配置し、SV2Cが同一の位置にあることを示し、このことは本発明者の設計から予期されていた(
図5)。特に、SV2受容体結合に不可欠であると設計され、かつH
C/TABに含まれていたH
C/Aからの領域は、完全に保存される。H
C/AとSV2Cの間の界面は、PISA(Kissinel、2015年)で分析され、双方のタンパク質からの開鎖が相補的なβ-シート構造を形成する、主に静電相互作用を含む540A
2の表面積に対応する(Benoitら、2014年)。H
C/TABでの対応する分析は、630Å
2のSV2Cでの表面積を示し、かつ同等数の水素結合を有する結合メカニズムを確認した。さらに、本発明者らは、H
C/TAB-3RをH
C/A-gSV2C複合体と比較することにより、グリコシル化SV2への潜在的な結合も検討した(
図5)。N559のNグリコシル化は、受容体認識に不可欠であることが近年示され、SV2アイソフォーム全体にわたって保存される(Yaoら、2016年)。注目すべきことに、H
C/AとSV2Cの間のタンパク質間相互作用は、グリコシル化の有無にかかわらず非常に類似している。炭水化物鎖は、H
CNサブドメインに向かって伸びている。タンパク質-グリカン相互作用に関与するH
C/A残基の分析は、それらの位置が、H
C/TAB-3Rで完全に保存されていることを示し、したがって、H
C/TABは、SV2のN-グリコシル化アイソフォームを認識できる。
【0105】
次に、本発明者らは、H
C/TAB-3R構造を、rSyt2と複合したH
C/Bの構造と比較した。BoNT/Bを、さまざまなアフィニティーを有しているが、げっ歯類のホモログと類似の方法でヒトシナプトタグミンに結合すると予測する(Taoら、2017年)。ここで示した結晶構造において、hSyt1は、H
C/BにおけるrSyt2と同一の結合溝内に位置するαヘリックス配置もとる(
図6)。それぞれのH
Cドメインに結合したrSyt2とhSyt1の重ね合わせは、0.560Åのrmsd(13Cα以上)で保存したペプチド構成を確認する。さらに、受容体結合ポケットは、H
C/TAB中で完全に保存されており、結合に関与する全ての残基は、双方の構造において同様の構成を示す(
図6)。これを、11個の静電結合も含むH
C/TAB:hSyt1相互作用について861Å
2のインターフェースを算出したPISA分析で確認し、これは7個の静電結合を有する712Å
2H
C/B:rSyt2界面(PDB 4KBB)に相当する。認識メカニズムは、主に強力なタンパク質間疎水性相互作用に基づく。接触表面積と静電相互作用数とのわずかな差異は、hSyt1とrSyt2の間の配列多様性、特にペプチドのC末端側に向かう配列多様性により説明されうる。
【0106】
H
C/TAB-3R構造に含まれる3番目の受容体は、Gal2からSia5までの明確な電子密度を観察したGD1a炭水化物に対応する(
図4)。非相互作用の柔軟な炭水化物部分から予期されるように、電子密度はGlc1及びSia6について見られなかった。ガングリオシド受容体結合部位は詳細に研究されており、GD1aと複合したH
C/Bの結晶構造は、末端のSia(α2-3)Gal部分についてのこの血清型の好ましさを確認した(Bertnssonら、2013年;Rummel、2016年)。TriRecABToxを、H
C/B結合ポケットを統合するように設計し、2つの構造(
図7)を比較すると、結合ポケットの主要な残基(S1260、W1262、Y1263)は完全に保存されており、かつ天然毒素と同様にGD1aと相互作用する。GD1a結合H
C/Bと比較すると、ほぼ顕著な例外なく、ほとんどの結合部位は変化しないままである。H
C/TAB-3Rにおいて、N1122の側鎖は、リガンドとは反対側を向き、一方でH
C/Bの同等物であるN1105は、Sia5と直接水素結合する。これは、H
C/B:GD1a構造におけるI1240(7Å離れている)と比較して、H
C/TAB-3RにおけるSia5とのより強い疎水性相互作用(距離4.3Å)を示すI1257の位置によりある程度補償される。
【0107】
全体的にHC/TAB-3R結晶構造から得られた結果は、単一のTriRecABTox分子が、親BoNT/A及びBoNT/Bの結合メカニズムを複製する方法でSV2受容体、シナプトタグミン受容体及びそのガングリオシド受容体に同時に結合できることを確認する。
【0108】
完全長の不活性TriRecABToxの作成及び特徴付け。
【0109】
H
C/TABの結合能力を確立し、本発明者らは、完全長の触媒的に不活性なTriRecABTox(BoNT/TAB;配列番号3)を発現及び精製し続けた。この目的のために、本発明者らは、1311個のアミノ酸をコードし、かつH
C/TABに関連するBoNT/Aドメインに対応するLC及びH
Nと共に3つのBoNT機能ドメインを含む合成遺伝子を設計した。安全性を考慮して、触媒部位の3つの変異を含んだ(E224Q/R363A/Y366F)(Rossettoら、2001年;Binzら、2002年)。前記したH
C/TAB構築物のように、タンパク質配列を、大腸菌での発現のためにコドン最適化し、N末端ポリヒスチジンタグを有するpET-28a(+)にクローニングした。詳細を方法の段落において提供する。本発明者らは、BoNT/TABを約152kDaの可溶性タンパク質として発現できたことを示した。精製のために使用した最初の方法は、均一でない物質の限られた量を得たが(
図8;
図13)、イオン交換クロマトグラフィー又は疎水性相互作用クロマトグラフィーのような方法を使用するさらなる精製が、より純粋な物質を得て、かつゲル電気泳動により見られる残留宿主細胞タンパク質を排除するのに役立つはずである。かかる方法は、純度80%超を有する組換えBoNT/B構築物を生成するために近年使用されていた(Elliotら、2017年)。
【0110】
追加の特徴付けを実施して、ヒスチジンタグの存在を確信したが、プロービング抗体との反応は、対照と比較して非常に弱く(
図8B)、かすかなバンドを適切なサイズで識別できた。そのアッセイは、約70kDaの汚染物質との交差反応も示した。さらに、BoNT/TABは、双方の結合ドメインのためのエピトープを含むはずであるため、予期したように、H
C/A(
図8C)及びH
C/B(
図8C)に対して生じさせた社内の抗血清と最終的に反応させた。
【0111】
TriRecABToxの制御した活性化
二本鎖型への活性化が完全に活性のある毒素を得るに必要であるため、BoNT/TABを、軽鎖と重鎖の間でXa因子切断部位IEGR[442~445]を用いて設計した(
図9A)。前記した完全長BoNT/TAB試料(配列番号5)を使用して、活性化アッセイを実施した。試料の不均質性にも関わらず、BoNT/TABとXa因子を毒素50μgに対してプロテアーゼ1μgとの比率で4℃で一晩インキュベートした後に、完全な活性化を得た(
図9B)。ゲル電気泳動は、還元剤の存在下で実行した場合に、ほとんどHC及びLCに対応するであろう約100kDa及び50kDaの2つの断片へのBoNT/TABの分離を示した。これら2つの鎖は、C430とC458の間でジスルフィド架橋によって共に結合されており、非還元状態で約150kDaでの単一バンドを説明する。HC及びLCに対応するバンドは、非還元試料においても見られ、試料調製中のジスルフィド架橋のある程度の還元によって生じてよいが、これらのバンドは非活性化対照において明らかに見られなかった。
【0112】
まとめると、活性化アッセイは、最初に、生成したタンパク質が設計したBoNT/TABに対応するという証拠を提供し、次に、二本鎖分子への活性化ステップを正常に管理できるという証拠を提供した。したがって、かかるステップは、活性のある完全長TriRecABToxの生成に含まれてよい。
【0113】
BoNT/TABの最適化
材料及び方法
構築物。HC/TAB及びバリアントをコードするcDNAを、前記したようにpET28(a)ベクターにGenScript(NJ、USA)によりクローニングした。BoNT/TAB2.1.3を、Toxogen GmbH(Hannover、Germany)によるpET29(a)ベクターにクローニングした。
【0114】
タンパク質の発現及び精製。HC/TABバリアントについて前記したように、BoNT/TAB2.1.3を、HC/TABのために使用されるもの(アフィニティークロマトグラフィー及びゲル濾過)と同様のプロトコルで、Toxogen GmbH(Hannover、Germany)により調製した。さらに、BoNT/TAB2.1.3の活性化及びタグ除去を、0.05U/μgの濃度でのトロンビンを用いて実施し、BoNT/TAB2.1.3を、ゲル濾過によってさらに精製した。試料を、200mM NaCl及び5%グリセロールを有する25mM HEPES(pH7.2)中で保存した。
【0115】
タンパク質の特徴。前記したとおり(NuPAGE 4~12%Bis-Trisゲルを使用したゲル電気泳動)。
【0116】
X線結晶解析。結晶化のための試料を、6.5mg/mlでのHC/TAB2.1を室温で15分間、1mg/mlでのSV2C-L4(組換えヒトSV2C細胞外ループ4[残基475~565]、1mM hSytIペプチド(GEGKEDAFSKLKEKFMNELHK、GenScript、USAにより合成した)及び4mM GD1aオリゴ糖(Elicityl、France)でプレインキュベートすることにより調製した。結晶を、シッティングドロップセットアップを使用して、20%(v/v)ポリエチレングリコール3350、0.2M クエン酸カリウム(JCSG-plus screen B12、Molecular Dimensions、United Kingdom)からなるリザーバー溶液100nlと混合した試料200nlで成長させ、そして21℃でインキュベートした。結晶が1週間以内に出現し、そしてその結晶をクライオループに移し、液体窒素で凍結した。回折データを、PILATUS-6M検出器(Dectris、Switzerland)を備えたDiamond Light Source(Didcot、UK)のステーションI04で収集した。1.4Åまでの完全なデータセットを、100°Kでの単結晶から収集した。生データ画像を、CCP4 suite 7.0(CCP4、1994年)を使用して、DIALS(Gildeaら、2014年)及びAIMLESS(Evans、2006年)で加工及び縮尺した。
【0117】
分子置換を、PHASER(McCoyら、2007年)において以前に定義したHC/TABの構造で実施した。作業モデルを、REFMAC5(Murshudovら、2011年)を使用して改良し、そしてCOOT(Emsleyら、2010年)で手動で調整した。Fo-Fcの電子密度のピークが3σを超える位置に水分子を追加し、そして潜在的な水素結合を作成できた。検証を、MOLPROBITY(Chenら、2010年)で実施した。ラマチャンドラン統計は、全ての残基の97.0%が最も好ましい領域にあり、許可されていない領域に1つの外れ値を有することを示す。結晶解析データの統計を表X1にまとめる。
【0118】
HC/TAB、HC/TAB2.1の生成
3つの受容体に結合したHC/TABの結晶構造を分析して、分子の安定性及び機能を改善するために改変できた潜在的な部位を同定した。
【0119】
特に、結晶構造内の局所温度因子(B因子)の分析は、無秩序な領域を思わせる高いB因子を有するタンパク質の局所安定性の指標として解釈されうる。この分析から、H
C/TABの2つのサブドメイン間の界面にある、D357からN362(配列番号6)からなる標識付けした「ループ360」であるループを、最適化のために検討した(
図14を参照されたい)。残基G360及びN362(配列番号1)を、BoNT/Bにおいて同等の残基に変更し、それぞれP360及びY362に変異させて、新たな構築物である標識付けしたH
C/TAB2.1(配列番号6)の配列に組み込んだ。
【0120】
この新たな構築物のためのプラスミドを、部位特異的突然変異誘発(GenScript、USA)によって調製し、大腸菌でのH
C/TAB2.1の組換え発現のために使用した。使用したプロトコルは、H
C/TABの生成と同一であった(発現及び精製についての最初の方法の段落を参照されたい)。H
C/TAB2.1を、アフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除技術を使用して、発現及び部分的に精製できたを示した(
図15)。試料は、おそらく残留宿主細胞タンパク質に対応するいくつかの低分子量汚染物質を示した。イオン交換クロマトグラフィー又は疎水性相互作用クロマトグラフィーのような方法を使用する追加の精製ステップは、より高純度の試料を得るのに役立つはずである。
【0121】
精製したH
C/TAB2.1(配列番号6)を、ヒトSV2C内腔ドメイン[残基475~565]、ヒトSyt1ペプチド[残基34~53]及びGD1a炭水化物との同時結晶化試験で使用した。高分解能(1.4Å)まで回折した結晶を得て、完全なデータセットを収集できた(表2)。その構造を、3つの受容体(H
C/TAB-3R)に結合したH
C/TABの結晶構造を使用して分子置換により解析した。新たな構造は、H
C/TAB-3Rに既に見えている全ての要素を示し、H
C/TAB2.1がH
C/TABに従って3つの受容体に同時に結合できるという実験的証拠を提供した。B因子の分析は、ループ「360」についての改善した安定性を示した(D357~Y362、
図14)。全体として、H
C/TAB2.1の挙動は、H
C/TABの挙動に類似し、双方の構築物は収率及び純度の点で同等の分布を示した。
【0122】
【表2】
*括弧内の値は、最高分解能のシェルについてである。
【0123】
より可溶性のバリアントH
C/TAB2.1.3の生成
H
C/TABバリアントの今後の機能分析に備えるために、H
C/TAB2.1を、近年記載されたソルターゼライゲーション実験(Zhangら、2017年)と互換性を持つように適合させた。この実験は、活性を試験するために使用できる完全長の活性BoNTの安全で制御した再構築を可能にする。この構築物は、切断可能なN末端Hisタグを付けたN末端切断型H
C/TAB2.1に対応し、H
C/TAB2.1.1(配列番号8)とラベル付けした。H
C/TAB2.1.1についてのクローンを準備し(GenScript)、前記したように発現及び精製のために使用した(
図16)。H
C/TAB2.1.1を、アフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除技術を使用して、発現及び部分的に精製できたを示した。試料は、おそらく残留宿主細胞タンパク質に対応するいくつかの低分子量汚染物質を示した。イオン交換クロマトグラフィー又は疎水性相互作用クロマトグラフィーのような方法を使用する追加の精製ステップは、より高純度の試料を得るのに役立つはずである。
【0124】
H
C/TAB2.1の構造的特徴のさらなる分析は、残りのタンパク質から突出する表面に露出した疎水性ループの存在を明らかにした(残基389~393、配列番号6、
図14d)。さらに、このループは、BoNT/B及び他の血清型の脂質結合要素として近年同定された(Sternら、2018年)。この疎水性領域がH
C/TABの溶解度を妨げうると仮定して、溶解度を高めるためにこのループを切断して、二重アスパラギンモチーフに置き換えた新たな構築物を設計した。この構築物を、H
C/TAB2.1.3(配列番号10)とラベル付けした。H
C/TAB2.1.3についてのクローンを準備し(GenScript)、前記したように発現及び精製のために使用した(
図16)。H
C/TAB2.1.3を、アフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除技術を使用して、発現及び部分的に精製できたを示した。試料は、おそらく残留宿主細胞タンパク質に対応するいくつかの低分子量汚染物質を示した。イオン交換クロマトグラフィー又は疎水性相互作用クロマトグラフィーのような方法を使用する追加の精製ステップは、より高純度の試料を得るのに役立つはずである。注目すべきことに、H
C/TAB2.1.3は、H
C/TAB2.1.1と比較して、より優れた発現収量及び溶解性を示した(
図16)。
【0125】
完全長の活性BoNT/TAB2.1.3の生成
BoNT/TABの今後の機能分析に備えるために、H
C/TAB2.1.3構築物に基づく完全長の活性バリアントを生成し、BoNT/TAB2.1.3(配列番号12)とラベル付けした。生成の全てのステップを、Toxogen GmbH(Hannover、Germany)の契約に基づいて、認可された施設で実施した。BoNT/TAB2.1.3を、pET29(a)ベクターにクローニングし、前記したように、生成物の活性化のために、切断可能なC末端のStrepタグ及びポリヒスチジンタグ、並びにHCドメイン及びLCドメインの間に設計したトロンビン切断部位(配列番号13)を含ませた。BoNT/TAB2.1.3を、可溶性タンパク質として発現させ、トロンビンで精製及び活性化させた(
図17)。精製のために使用した方法は、アフィニティークロマトグラフィー及びゲル濾過を含み、純度90%超を有するBoNT/TAB2.1.3製品を導いた。
【0126】
さらなる実験
受容体結合アッセイ
アッセイを、BoNT/TABの受容体結合特性がBoNT/A及び/又はBoNT/Bと比較する場合に実施する。
【0127】
例えば、以前に記載された方法から改変されたガングリオシド受容体結合アッセイを実施する。簡単に言えば、このELISAにおいて、目的のガングリオシド受容体(GT1b、GD1b、GD1a、又はGM1a)を、96ウェルマイクロプレート(Chenら、2008年;Willjesら、2013年)上で固定し、そして毒素(又はそれらの結合ドメイン)を適用し、ホースラディッシュオキシダーゼ(HRP)に接合させたモノクローナル抗ポリヒスチジン抗体で結合した物質をプローブする。この定量的アプローチは、BoNT/TABのガングリオシド受容体結合特性がBoNT/Bの特性と類似していることを確認するのに十分な情報を提供するはずである。
【0128】
ガングリオシド受容体結合ELISA。ガングリオシドGT1b、GD1b、GD1a、及びGM1aを、Carbosynth(Compton、UK)から購入する。ガングリオシドをメタノールで希釈して、最終濃度2.5μg/mlにし、100μL(0.25μg)を96ウェルPVCアッセイプレートのそれぞれのウェルに適用する。21℃(一晩)で溶媒を蒸発させた後に、そのウェルを、200μLのPBS/0.1%(w/v)BSAで洗浄(3x)する。非特異的結合部位を、200μLのPBS/2%(w/v)BSA中で21℃で2時間インキュベートすることによりブロックする。結合アッセイを、4℃で2時間、試料を含むウェルあたり100μLのPBS/0.1%(w/v)BSA中で実施した(6μM~0.003μMの範囲の系列3倍希釈)。インキュベートした後に、ウェルをPBS/0.1%(w/v)BSAで3回洗浄し、そしてHRP-抗His抗体(ThermoFisher#MA1-80218)で1:2000希釈(100μl/ウェル)で1時間4℃でインキュベートする。最終的に、PBS/0.1%(w/v)BSAで3回洗浄した後に、Ultra TMB(100μL/ウェル)を使用して結合試料を検出する。21℃で5分間インキュベートした後に、100μLの1M硫酸を添加することにより反応を停止する。450nmでの吸光度を、Tecan Infinite 200(Maennedorf、Switzerland)で測定する。結果を、Prism(GraphPad、La Jolla、CA、USA)で、非線形結合フィットを使用して分析する。
【0129】
シナプトタグミン受容体への結合特性を評価するために、等温滴定熱量測定(ITC)を、Berntssonら(2013)年によって記載されたアッセイと同様に実施する。毒素へのhSytペプチドの結合を測定し、BoNT/TABがBoNT/Bに類似して受容体に結合できることを確認するアフィニティー値(Kd)を提供するはずである。
【0130】
等温滴定熱量測定。試料を、20mMリン酸カリウム(pH7.0)、0.15M NaCl中で追加のサイズ排除クロマトグラフィーステップ(Superdex200、GE Healthcare、Sweden)によって調製する。BoNT又はそれらの結合ドメインへのSytペプチドの会合は、ITC200(GE Healthcare、Sweden)で25℃、750rpmで測定する。タンパク質溶液200μL(20μM)を細胞に添加する。結合を、ペプチド(GenScript、USA国)の添加時に、200μMの濃度で、それぞれ2.5μLの16段階の注入で測定する。最初の滴定を0.5μLに設定し、その後データ分析で削除する。データを、製造元により提供されるOriginソフトウェアで分析する。
【0131】
SV2Cへの結合を、Benoitら(2014)によって記載されたようにプルダウンアッセイを使用して評価する。簡単に言えば、タグ付けした毒素及びタグなしの受容体(又はその逆)を一緒にインキュベートし、Ni-セファロースにロードし、そして洗浄して溶出する。結果をSDS-PAGEにより可視化する。
【0132】
Digit Abduction Score(DAS)アッセイ
BoNT調製のポテンシーを、マウスDigit Abduction Score(DAS)アッセイ(Broideら、2013年)を使用して評価できる。このアッセイは、マウス又はラットの後肢骨格筋への筋肉内注射後の毒素の局所的な筋力低下エフィカシーをin vivoで測定する。毒素は、特徴的な後肢驚愕反応を生じる動物の能力における測定可能な用量依存的な減少を誘発する。この非致死法は、近年記載された組換えBoNT/B分子(Elliotら、2017年)のような、種々のBoNT血清型又は誘導体の薬理学的特性を推定するために定期的に使用されている。BoNT/A又はBoNT/Bと比較して、BoNT/TABのポテンシー及び効果の持続期間を評価するために、同様の方法論を使用する。
【0133】
考察
この研究において、発明者らは、BoNT/A及びBoNT/Bの結合メカニズムの構造及び分子の詳細を使用して、強化された細胞認識能力を呈する新たな分子TriRecABToxを設計する方法を説明した。BoNT/A構造及びBoNT/B構造の厳密な多次元比較は、発明者らが、SV2のための受容体結合部位、シナプトタグミン、及びガングリオシドを単一分子に統合する無傷の毒素の足場を維持するために必要な主要要素を同定することを可能にした。交互のBoNT/A要素及びBoNT/B要素からなる新たに作成した設計を、新たに作成した非天然分子内界面を補償するために適応性の変異又は欠失を含めることによって最適化した。かかる改変を、操作した毒素であるBoNT/TABが、正確な構造及び要求される活性と共に可溶性タンパク質として生成されるために必要であると見なした。
【0134】
本発明者らは、最初に、改変した受容体認識機能を保持するそれ自体の結合ドメインHC/TABを、大腸菌での組換え発現を介して生成することにより、設計の安定性を評価した。HC/TABを、部分的に精製できる可溶性タンパク質としてN末端ポリヒスチジンタグを付けて発現させ、操作した構築物の生存率を実証した。第2のステップにおいて、本発明者らは、触媒により不活性な形態での完全長BoNT/TAB構築物の生成を進めた。再び、本発明者らは、それが153kDaの可溶性タンパク質として発現し、かつ標準的な液体クロマトグラフィー技術で部分的に精製できたことを示した。HC/TAB及びBoNT/TABの双方にポリヒスチジンタグが存在することは、Ni-セファロースマトリックスでのアフィニティークロマトグラフィーによる精製を可能にした。他のアフィニティー方法を使用してよく、受容体結合での干渉を防ぐためにタンパク質のN末端に優先的に配置されるべきアフィニティータグを含んでよい。最初の調製は不均一な試料の純度を示すが、精製プロセスの最適化は、医薬品標準の生成物を導くはずである。BoNT/TABの活性型は、本発明の研究において使用される非活性な分子と同様の全体的な構造及び結合特性を有することを付け加える必要がある。本発明者らは、受容体結合を妨害しないように除去可能なC末端タグでうまく精製した活性型のBoNT/TAB(BoNT/TAB2.1.3)を生成するためにToxogen GmbH(Hannover、Germany)と契約した。
【0135】
さらに、一本鎖BoNTの二本鎖分子への翻訳後切断は、毒素の活性のために不可欠なステップである(DasGupta及びSathyamoorthy、1985年;Shoneら、1985年)。天然毒素は、通常、宿主プロテアーゼによって活性化されるが、組換えBoNT生成物は全てエキソペプチダーゼで処理する必要がある。毒素に関する初期の研究は、トリプシンが非特異的にBoNT/Aを活性のある二本鎖型に切断できたことを示した(Shoneら、1985年)が、しかしながらこれは毒素の望ましくない追加の分解をもたらしうる。より最近では、組換え技術は、目的のタンパク質内の特定のプロテアーゼ認識モチーフを操作でき、したがって、BoNTの活性化戦略をより適切に制御できる(Suttonら、2005年)。ここで、本発明者らは、LCとHCとの間にXa因子部位を含ませ、毒素の完全な活性化を観察し、したがって、この酵素の有効性を実証した。BoNT/TABの将来的な生成は、毒素の活性化を可能にする精製段階を組み込み、続いて最終生成物からエキソプロテアーゼを除去する必要がある。Xa因子は適切であるように見えるが、他の酵素を試験し、活性化の許容可能な収量を達することに成功していることを証明してよい。本発明者らは、トロンビンエキソプロテアーゼでうまく活性化され、均一に精製させた活性型のBoNT/TAB(BoNT/TAB2.1.3)を製造するためにToxogen GmbH(Hannover、Germany)と契約した。
【0136】
HC/TABの構造的完全性を検証し、その強化された機能性を確認する手段として、本発明者らは、精製した試料をヒトSV2C、ヒトSyt1及びGD1a炭水化物と複合して同時結晶化した。複合体のX線結晶構造を、高分解能(1.5Å)で解析し、HC/TABの単一分子が3つ全ての受容体に同時に結合できたという決定的な実験的証拠を提供した。さらに、HC/A及びHC/Bの公知の構造とそれぞれの受容体との比較は、HC/TABが。ほぼ同じ結合メカニズムに従っていることを示した。
【0137】
結晶構造はHC/TABが少なくともin vitroでその目的を果たすことができたことを示したが、その受容体結合特性を完全に特徴付けるために追加の生化学実験を実施する必要がある。これらは、タンパク質受容体でのプルダウンアッセイ及びITCアッセイ、並びにガングリオシド受容体結合ELISAを含む。BoNT/TABは、SV2受容体結合についてのBoNT/Aと同様に、並びにガングリオシド受容体及びシナプトタグミン受容体の結合に関してはBoNT/Bと同様に機能すると予期する。さらに、in vivoでの実験は、治療薬としてのBoNT/TABの真の可能性に関する主要な兆候を提供する。マウスDASアッセイは、BoNT調製物を評価するために古典的に使用されており(Broideら、2013年)、現在利用可能な生成物と比較して本発明者が分子の有効性及び活性の持続期間を決定することを可能にする。
【0138】
さらに、BoNT/TABの設計を、いくつかの配列要素を改変して、その生化学的特性及び安定性を改善することにより、さらに最適化してよい。かかる変更は、3つの受容体に同時に結合できる可溶性BoNTを導く欠失又は変異を含みうる。本発明者らは、より安定なバリアント(HC/TAB2.1)及びより高い生産収率を有するより可溶性のバリアント(HC/TAB2.1.3)をうまく生成した。
【0139】
安全性の観点から、BoNT/TABは、2つの存在する血清型に由来するため、新たな脅威を示さないことを付け加えるべきである。それは、現在入手可能な抗毒素、例えばボツリヌス中毒抗毒素7価BAT又はBoNT/A及びBoNT/Bについて他の承認された解毒剤によって認識されることが期待される。
【0140】
血清型A及びBは、市場で入手可能な唯一の承認されたBoNTである。BoNT/Aは治療に使用される主な毒素であるが、低い免疫原性、及び高いエフィカシーを有する分子は、より安全な代替となる(Naumannら、2013年)。BoNTの薬理学的ポテンシャルを高めるために、BoNTの特性を改善する複数の試みがある(Masuyeら、2014年)。近年成功した例は、Taoら(2017年)による研究があり、その研究では、BoNT/B(E1191M/S1199Y)の主要な位置で操作した変異が、ヒトのシナプトタグミン2受容体に対するより高い毒素のアフィニティーをもたらし、野生型と比較して神経伝達の遮断において約11倍高いエフィカシーを示した。BoNTのエフィカシーを改善するための他のアプローチは、Elliottら(2017年)によって採用され、BoNT/Bの基質に対する触媒活性を増加させることが公知である単一変異(S201P)の影響を分析した。この場合、BoNT/B変異体は、複数の細胞ベースのアッセイで及びin vivoで野生型を超える利点は存在しなかった。BoNT/Bに関するこれら2つの研究をまとめると、毒素のエフィカシーにおける制限段階は、後期の細胞内活性ではなく、初期の神経認識にあることが示唆される。
【0141】
ある血清型の結合特性を別の血清型の触媒活性と組み合わせることを意図した以前の研究は、ドメイン全体を交換したキメラ分子の設計を導いた(Wangら、2008年、2012年;Rummelら、2011年)。より詳述すれば、Rummelら(2011年)及びWangら(2012年)は、BoNT/AのHN+LCドメインに関連するH
C/Bドメインkaranaru類似の分子を設計及び試験した。これらの組換え毒素は、野生型BoNT/Aと比較して、高められたポテンシーを示し、かつマウスにおけるより長い効果を誘発すると報告した(Kutschenkoら、2017年)。血清型Aの相補的ドメイン(すなわちLC+H
N+H
Cn)と結合させたBoNT/BのC末端サブドメイン(H
Cc)からなる構築物を評価すると同様の観察結果が得られ、野生型と比較して4倍高いポテンシーを示した(Rummelら、2011年)。前記した全ての分子は、BoNT/Bの2つの受容体であるシナプトタグミン及びガングリオシドのみを認識するという共通点があった。これらの結果は、ニューロンのBoNT/B受容体のより高い有病率によって許容されるLC/Aのより多くの摂取のおかげで、長期間の効果及びより高いエフィカシーを得られることを示唆している。さらに、これらのキメラ分子は、異なる血清型のドメインを組み合わせることから生じ、これらの生成物の潜在力に影響しうるドメイン間分子内衝突の可能性を考慮していない。
BoNT操作に関する最新の研究の結果を考慮すると、初期の細胞認識を変更することは、治療生成物の薬理学的特性を高める最も効率的な方法の1つであることは明らかである。したがって、BoNT/TABは、BoNT/B受容体であるシナプトタグミン及びガングリオシドと共にSV2受容体を認識するようにうまく設計させた単一の生成物であり、大きな可能性を示し、かつ野生型BoNT/A及びBoNT/Bよりもさらに効果的であってよい。
BoNT/TABにおける主な技術革新は、複数の受容体相互作用を可能にする結合ドメインの設計である。現在の証拠は、H
C/TABとBoNT/Aの転座及び触媒ドメインとの関連が、最も強力なポテンシーを有する分子(BoNT/TABで設計したように)を提供することを暗示している。しかしながら、H
C/TABは、他の血清型の機能ドメインと組み合わせる場合にさらに興味深いかもしれない(
図10a)。さらに、H
C/TABは、シナプスプロセスを調査するための薬理学的ツールとして使用する目的の他のタンパク質と組み合わせてもよい(
図10b)。BoNT/TABで実施されるin vivoアッセイは、かかる目的のためにその有用性を明らかにする必要がある。
【0142】
参考文献
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【外国語明細書】