(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069639
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、及びエポキシ樹脂組成物の硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/62 20060101AFI20240514BHJP
C08G 59/28 20060101ALI20240514BHJP
C08G 59/24 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C08G59/62
C08G59/28
C08G59/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024045111
(22)【出願日】2024-03-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真典
(57)【要約】
【課題】充填剤を含んでいても、強度の高い硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物、及びエポキシ樹脂組成物の硬化物を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂と、(B)潜在性硬化剤と、(C)フェノール硬化剤と、(D)充填剤と、を含み、前記(C)フェノール硬化剤の含有量が前記(A)エポキシ樹脂100質量部に対して0質量部超30質量部以下である、エポキシ樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、(B)潜在性硬化剤と、(C)フェノール硬化剤と、(D)充填剤と、を含み、
前記(C)フェノール硬化剤の含有量が前記(A)エポキシ樹脂100質量部に対して0質量部超30質量部以下である、エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)潜在性硬化剤は、昇温速度10℃/minの示差走査熱量測定により求められるエポキシ樹脂との反応における発熱終了温度と発熱開始温度の差が95℃以下である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)潜在性硬化剤は、昇温速度10℃/minの示差走査熱量測定により求められるエポキシ樹脂との反応における発熱開始温度が70℃以上である、請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)エポキシ樹脂が、N,N-ジグリシジルアニリン型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、及び環状脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)エポキシ樹脂が、N,N-ジグリシジルアニリン型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン型エポキシ樹脂、及びアミノフェノール型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)エポキシ樹脂が、環状脂肪族エポキシ樹脂を含む、請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記(B)潜在性硬化剤が、コアシェル構造を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記(B)潜在性硬化剤が、マスターバッチ型である、請求項7に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
120℃で60分加熱硬化後の硬化物は、100℃における弾性率(G’100)と30℃における弾性率(G’30)の比(G’100/G’30)が、0.55以上である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
粘弾性装置による80℃での測定において、動的粘性率が105mPa・sに到達する時間が5分以上であり、
120℃で60分間加熱硬化後の硬化物は、動的粘弾性測定におけるtanδピークトップ温度によってあらわされるガラス転移温度が100℃以上である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、及びエポキシ樹脂組成物の硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、電子機器、電気電子部品の絶縁材料、封止材料、接着剤、及び導電性材料等の、幅広い用途に利用されている。
特に電子機器は、高機能化、小型化、薄型化に伴い、半導体チップの小型集積化、回路の高密度化と共に、生産性の大幅な改善や、電子機器のモバイル用途における可搬性、信頼性の向上等が求められている。
【0003】
エポキシ樹脂組成物を硬化させる方法としては、使用時にエポキシ樹脂と硬化剤とを混合して硬化させる方法があり、これは二液性エポキシ樹脂組成物の硬化方法である。前記二液性エポキシ樹脂組成物の硬化方法においては、エポキシ樹脂と硬化剤とを別々に保管し、使用時には両者を計量した上で迅速かつ均一に混合する必要があり、取扱いが煩雑であるという問題点がある。さらに、エポキシ樹脂と硬化剤とを一旦混合してしまうと、その後の可使時間が限定されるため、両者を予め大量に混合しておくことができないという問題点もある。
【0004】
上述したような二液性エポキシ樹脂組成物の問題点を解決する目的で、一液性エポキシ樹脂組成物が提案されており、例えば、潜在性硬化剤をエポキシ樹脂に配合した、一液性エポキシ樹脂組成物が提案されている。
【0005】
一液性のエポキシ樹脂組成物は、その取扱い性の高さから、近年、特に電子機器分野において、接着と信頼性確保のため、半導体チップと基板の隙間を埋めるアンダーフィルとして用いられている。このようなアンダーフィルには半導体チップと基板間の狭い隙間を短時間で充填させるため、エポキシ樹脂組成物を80~90℃に加熱して粘度を下げ、毛細管現象を利用して隙間への充填が行われる。また、このようなアンダーフィルには、接着性や信頼性の観点から、半導体チップとの線膨張係数差を小さくすることが求められている。
【0006】
かかる状況下、特許文献1にはエポキシ樹脂組成物の安定性を改善することを目的として、フェノール硬化剤の硬化促進剤として、マイクロカプセル化された潜在性硬化剤を使用する方法が開示されている。また、エポキシ樹脂組成物の線膨張係数を下げる方法として、無機充填剤のような充填剤をアンダーフィル材に添加する方法も開示されている。
一方、特許文献2には、低温硬化を行うことを目的として、フェノール硬化剤ではなく潜在性硬化剤を硬化剤として用いる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-108155公報
【特許文献2】特開2017-66256公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1は安定性と反応性両立について改善が示されているが、130℃以下の低温での硬化性については改善の余地が残されていた。
【0009】
特許文献2には、低温硬化を行うことを目的として、フェノール硬化剤ではなく潜在性硬化剤を硬化剤として用いる方法が記載されているが、得られる硬化物は脆く、硬化物の切断や研磨といった加工性については改善の余地が残されていた。このように、従来の潜在性硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物は充填剤を添加すると、その硬化物強度が低下することが課題であった。
【0010】
本発明では、充填剤を含んでいても、強度の高い硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物、及びエポキシ樹脂組成物の硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討した結果、以下の技術的手段によって、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の実施形態を包含する。
<1>
(A)エポキシ樹脂と、(B)潜在性硬化剤と、(C)フェノール硬化剤と、(D)充填剤と、を含み、
前記(C)フェノール硬化剤の含有量が前記(A)エポキシ樹脂100質量部に対して0質量部超30質量部以下である、エポキシ樹脂組成物。
<2>
前記(B)潜在性硬化剤は、昇温速度10℃/minの示差走査熱量測定により求められるエポキシ樹脂との反応における発熱終了温度と発熱開始温度の差が95℃以下である、<1>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<3>
前記(B)潜在性硬化剤は、昇温速度10℃/minの示差走査熱量測定により求められるエポキシ樹脂との反応における発熱開始温度が70℃以上である、<2>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<4>
前記(A)エポキシ樹脂が、N,N-ジグリシジルアニリン型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、及び環状脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、<3>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<5>
前記(A)エポキシ樹脂が、N,N-ジグリシジルアニリン型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン型エポキシ樹脂、及びアミノフェノール型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、<3>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<6>
前記(A)エポキシ樹脂が、環状脂肪族エポキシ樹脂を含む、<3>に記載のエポキシ樹脂組成物。
<7>
前記(B)潜在性硬化剤が、コアシェル構造を有する、<1>~<6>のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
<8>
前記(B)潜在性硬化剤が、マスターバッチ型である、<1>~<7>のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
<9>
120℃で60分加熱硬化後の硬化物は、100℃における弾性率(G’100)と30℃における弾性率(G’30)の比(G’100/G’30)が、0.55以上である、<1>~<8>のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
<10>
粘弾性装置による80℃での測定において、動的粘性率が105mPa・sに到達する時間が5分以上であり、
120℃で60分間加熱硬化後の硬化物は、動的粘弾性測定におけるtanδピークトップ温度によってあらわされるガラス転移温度が100℃以上である、<1>~<9>のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
<11>
<1>~<10>のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、充填剤を含んでいても、強度の高い硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物、及びエポキシ樹脂組成物の硬化物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。
【0014】
[エポキシ樹脂組成物]
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、
(A)エポキシ樹脂と、(B)潜在性硬化剤と、(C)フェノール硬化剤と、(D)充填剤と、を含み、
前記(C)フェノール硬化剤の含有量が前記(A)エポキシ樹脂100質量部に対して0質量部超30質量部以下である。
【0015】
上記構成を有することで、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、充填剤を含んでいても強度の高い硬化物を得ることができる。
【0016】
((A)エポキシ樹脂)
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂を含有する。(A)エポキシ樹脂としては、特に限定されるものではなく、各種公知のものを適宜選択して用いることができる。(A)エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
(A)エポキシ樹脂は、以下に限定されるものではないが、例えば、
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、テトラブロモビフェニル型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ベンゾフェノン型エポキシ樹脂、フェニルベンゾエート型エポキシ樹脂、ジフェニルスルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルスルホキシド型エポキシ樹脂、ジフェニルスルホン型エポキシ樹脂、ジフェニルジスルフィド型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂、メチルヒドロキノン型エポキシ樹脂、ジブチルヒドロキノン型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、メチルレゾルシン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジルアニリン型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン型エポキシ樹脂等の2官能型エポキシ樹脂類;
【0018】
トリアジン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、等の3官能型エポキシ樹脂類;
【0019】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジアミノベンゼン型エポキシ樹脂等の4官能型エポキシ樹脂類;
【0020】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ブロモ化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂類;
【0021】
(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレンエーテルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等のジグリシジル非環状脂肪族エポキシ樹脂;
【0022】
トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル等のトリグリシジル非環状脂肪族エポキシ樹脂;
【0023】
ビニル(3,4-シクロヘキセン)ジオキシド、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-5,1-スピロ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-m-ジオキサン等の脂環式エポキシ樹脂;
【0024】
シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等のシクロヘキサン型ジグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエン型ジグリシジルエーテル、テトラグリシジルビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の環状脂肪族エポキシ樹脂;
【0025】
1,3-ジグリシジル-5-メチル-5-エチルヒダントイン等のヒダントイン型エポキシ樹脂;及び
【0026】
1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのようなシリコーン骨格を有するエポキシ樹脂;
【0027】
2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレンエーテルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサン型ジグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエン型ジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ビニル(3,4-シクロヘキセン)ジオキシド、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-5,1-スピロ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-m-ジオキサン、テトラグリシジルビス(アミノメチル)シクロヘキサンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂、1,3-ジグリシジル-5-メチル- 5-エチルヒダントイン型エポキシ樹脂、1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン型エポキシ樹脂、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p-s-ブチルフェニルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、o-フェニルフェノールグリシジルエーテル、p-フェニルフェノールグリシジルエーテル、N-グリシジルフタルイミド、n-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、α-ピネンオキシド、アリルグリシジルエーテル、1-ビニル-3,4-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-4-(2-メチルオキシラニル)-1-メチルシクロヘキサン、1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、ネオデカン酸グリシジルエステル等の反応性希釈剤としても使用できる脂肪族エポキシ樹脂、及び脂環式エポキシ樹脂類;
等が挙げられる。
【0028】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、及びビスフェノールF型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0029】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、N,N-ジグリシジルアニリン型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、N,N-ジグリシジルアニリン型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン型エポキシ樹脂、及びアミノフェノール型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、アミノフェノール型エポキシ樹脂を含むことが更に好ましい。
これらのエポキシ樹脂を用いることで、エポキシ樹脂組成物の流動性を維持しつつ、硬化物Tgが高くなり、高温保存後の接着力変化が小さくなる。なお、前述のビスフェノールA型エポキシ樹脂、又はビスフェノールF型エポキシ樹脂に加えて、当該エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0030】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、環状脂肪族エポキシ樹脂を含むことが好ましく、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルを含むことがより好ましい。これらのエポキシ樹脂を用いることで、エポキシ樹脂組成物の流動性を維持しつつ、硬化物靭性が改善する。なお、前述のビスフェノールA型エポキシ樹脂、又はビスフェノールF型エポキシ樹脂に加えて、当該エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0031】
((B)潜在性硬化剤)
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、潜在性硬化剤を含む。潜在性硬化剤とは、上記エポキシ樹脂の硬化剤であって、その硬化作用が、適切な物理的又は化学的刺激(熱、水分との反応、電磁波、超音波、機械的剪断等)により復元されうるようにブロックされているものを指す。そのため、エポキシ樹脂と潜在性硬化剤を混合して得られる混合物において、硬化反応は常温ではほとんど又は全く進行しないが、この混合物に適切な刺激を与えると、硬化反応が進行する。潜在性硬化剤としては、常温(例えば25℃)において固体であるもの及び液体であるものが挙げられる。本実施形態において用いられる潜在性硬化剤は、25℃において固体であることが好ましい。
【0032】
本実施形態において、潜在性硬化剤の硬化作用は、加熱前には実質的に発現せず、加熱により復元されうる、熱潜在性硬化剤であることが好ましい。熱潜在性硬化剤の硬化作用は、80℃より高い温度への加熱により復元されうることがより好ましい。熱潜在性硬化剤において、硬化作用を、加熱により復元されうるように、可逆的にブロックする手段の例としては、軟化点を有する物質への変性、マイクロカプセルへの封入等のコアシェル構造の導入等を挙げることができる。
【0033】
本実施形態において、熱潜在性硬化剤は、軟化点を有する変性アミン又はコアシェル構造を有する潜在性硬化剤であることが好ましい。
【0034】
本実施形態で用いる軟化点を有する変性アミンは、25℃で固体であり、アミン化合物を含む。アミン化合物は、例えば脂肪族第一級アミン、脂環式第一級アミン、芳香族第一級アミン、脂肪族第二級アミン、脂環式第二級アミン、芳香族第二級アミン、脂肪族第三級アミン、脂環式第三級アミン、芳香族第三級アミン、イミダゾール化合物及びイミダゾリン化合物から選択すればよい。アミン化合物は、脂肪族第三級アミン、脂環式第三級アミン、芳香族第三級アミン、イミダゾール化合物及びイミダゾリン化合物から選択されることが好ましい。また、アミン化合物は、カルボン酸、スルホン酸、イソシアネート、エポキシド等との反応生成物の形態で用いてもよい。これらの化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。例えば、上記アミン化合物を、そのカルボン酸、スルホン酸、イソシアネート、又はエポキシドとの反応生成物を組み合わせて使用することができる。一実施形態において、軟化点を有する変性アミンは、イミダゾール化合物及び/又は第三級アミン化合物を含む。
【0035】
軟化点を有する変性アミンは、商業的に入手可能であるが、公知の方法で調製することもできる。軟化点を有する変性アミンの市販品の代表的な例としては、フジキュアーFXR-1121、FXR-1020、FXR-1030、FXR-1032、FXR-1081、FXR-1131(いずれもT&K TOKA社製)、アミキュアPN-H、PN-23、PN-23J、PN-31、PN-31J、PN-40、PN-40J、PN-50、MY-H、MY-24、MY-25、VDH、VDH-J、UDH、UDH-J(いずれも味の素ファインテクノ社製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本実施形態において、潜在性硬化剤は、コアシェル構造を有するものを使用することが好ましい。潜在性硬化剤のコアシェル構造は、例えば、硬化剤を含有するコアと、当該コアの表面に形成されるコーティング剤からなるシェルとを有する。
シェルとしては樹脂及び/又は無機酸化物を含むことが好ましい。加熱時の破壊し易さ、及び硬化物の均一性の観点から、シェルは、樹脂を含むことが好ましい。
シェルに含まれる樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、合成樹脂は、膜の安定性と加熱時の破壊性のバランスの観点から、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂が好ましい。
【0037】
コアシェル構造を有する潜在性硬化剤としては、マイクロカプセル型潜在性硬化剤が挙げられる。マイクロカプセル型潜在性硬化剤は、硬化作用がマイクロカプセル化により可逆的にブロックされている、エポキシ樹脂用の硬化剤である。このマイクロカプセル型潜在性硬化剤において、硬化作用は加熱等によって復元されうる。マイクロカプセル型潜在性硬化剤に含まれる硬化剤は、上記エポキシ樹脂を硬化させることができる限り特に限定されない。マイクロカプセル型潜在性硬化剤に含まれる硬化剤の例としては、アミン化合物(イミダゾール化合物を含む)等が挙げられる。
【0038】
マイクロカプセル型潜在性硬化剤は、アミン化合物を含むことが好ましい。アミン化合物は、例えば脂肪族第一級アミン、脂環式第一級アミン、芳香族第一級アミン、脂肪族第二級アミン、脂環式第二級アミン、芳香族第二級アミン、脂肪族第三級アミン、脂環式第三級アミン、芳香族第三級アミン、イミダゾール化合物及びイミダゾリン化合物から選択すればよい。アミン化合物は、脂肪族第三級アミン、脂環式第三級アミン、芳香族第三級アミン、イミダゾール化合物及びイミダゾリン化合物から選択されることが好ましい。また、アミン化合物は、カルボン酸、スルホン酸、イソシアネート、エポキシド等との反応生成物の形態で用いてもよい。これらの化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。例えば、上記アミン化合物を、そのカルボン酸、スルホン酸、イソシアネート、又はエポキシドとの反応生成物を組み合わせて使用することができる。
【0039】
一実施形態において、マイクロカプセル型潜在性硬化剤は、イミダゾール化合物を含むことが好ましい。イミダゾール化合物の例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール等の2-置換イミダゾール化合物;1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト等のトリメリット酸塩;2,4-ジアミノ-6-[(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[(2-ウンデシル-1-イミダゾリル)エチル]s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[(2-エチル-4-メチル-1-イミダゾリル)エチル]s-トリアジン等のトリアジン環含有化合物;2,4-ジアミノ-6-[(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]s-トリアジンのイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物及び2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。また、他の例として、エポキシ樹脂への上記イミダゾールの付加物等が挙げられる。
【0040】
本実施形態で使用するマイクロカプセル型潜在性硬化剤は、商業的に入手可能であるが、硬化剤をマイクロカプセル化する公知の方法で調製することもできる。公知のマイクロカプセル化する方法としては、例えば、硬化剤の微粉末粒子の表面に被膜を形成し得る材料によりコーティングする方法が挙げられる。マイクロカプセル型潜在性硬化剤の市販品の代表的な例としては、ノバキュアHXA3042HP、HX-3722、HX-3742、HX-3088、HX-3921HP、HXA3922HP、HXA3932HP、HX-3941HP、HXA4921HP、HXA4922HP、HXA4982HP、HXA5923、HXA5945HP、HXA5911HP、HXA9042HP、HXA9192HP、HXA9322HP、HXA9382HP、LSA-H2204等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
なお、マイクロカプセル型潜在性硬化剤には、液状エポキシ樹脂と、それに分散された、マイクロカプセルに封入された硬化剤からなる粉末とを含む分散液の形態で提供されるものがある。そのような形態の硬化剤を使用する場合、この液状エポキシ樹脂の量も、本実施形態のエポキシ樹脂組成物における上記(A)エポキシ樹脂の量に含まれることに注意すべきである。
【0042】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、潜在性硬化剤を単独で含んでいてもよく、2種以上組み合わせて含んでいてもよい。また本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、本実施形態の効果が損なわれない範囲で、潜在性硬化剤を、他の形態の硬化剤と組み合わせて含んでいてもよい。
【0043】
(B)潜在性硬化剤は、10℃/minの示差走査熱量測定(DSC)により求められるエポキシ樹脂との反応における発熱終了温度と発熱開始温度の差が95℃以下であることが好ましい。発熱終了温度と開始温度の差は、より好ましくは90℃以下であり、さらに好ましくは85℃以下であり、80℃以下がよりさらに好ましい。
DSC測定における発熱終了温度と開始温度の差が95℃以下であることは硬化反応のばらつきが少なく、急峻に進行することを意味しており、均一な硬化物得ることが可能となり、ガラス状態において弾性率の温度依存性が小さくなる。弾性率の温度依存性が小さくなると、加熱時の接着強度が高くなる傾向がある。
【0044】
(B)潜在性硬化剤は、10℃/minの示差走査熱量測定(DSC)により求められるエポキシ樹脂との反応における発熱開始温度は、好ましくは70℃以上120℃以下であり、より好ましくは80℃以上115℃以下であり、さらに好ましくは85℃以上110℃以下である。
発熱開始温度が70℃以上であることにより、加熱時安定性が高くなり、発熱開始温度が120℃以下であることによりエポキシ樹脂組成物の低温硬化性が良好となる傾向がある。
【0045】
DSCの発熱開始温度及び終了温度は、潜在性硬化剤の種類だけでなく、DSC測定試料における潜在性硬化剤の割合、エポキシ樹脂の種類及び割合によって、また、DSC測定における昇温速度によっても変化する。本実施形態においては、発熱開始温度及び終了温度は、後述の実施例に記載の測定方法及び測定条件で求められる値をDSCの発熱開始温度及び終了温度として採用する。
【0046】
本実施形態において、(B)潜在性硬化剤とエポキシ樹脂との反応における発熱開始、終了温度の測定方法について、より具体的に以下に示す。
(B)潜在性硬化剤10質量部に、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC社製EXA830CRP)20質量部を計量し、均一に分散させる。ここで言う(B)潜在性硬化剤とは、液状エポキシ樹脂に分散されたマスターバッチ型硬化剤の場合、液状エポキシ樹脂を除いた硬化剤成分のみを指す。なお、(B)潜在性硬化剤とは、コアシェル構造を有する潜在性硬化剤である場合、コアとシェル両方を含んだ成分を指す。
DSC7020(株式会社 日立ハイテクサイエンス製)を用いて、上記分散液を10mg計量し、25℃から250℃まで10℃/minの昇温速度で昇温し、DSC曲線及びDSCの一次微分であるDDSC曲線を取得する。DDSCの値は試料の発熱量が増加する場合は負、発熱量が減少する場合は正の値となる設定である。
DDSCの値が最小となる温度以下の温度でDDSCの値が-0.2mW/minとなる最大温度を発熱開始温度、DDSCの値が0.2mW/minとなる最大温度を発熱終了温度とする。
【0047】
(B)潜在性硬化剤の含有量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは2質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは3質量部以上50質量部以下であり、さらに好ましくは5質量部以上30質量部以下である。含有量が2質量部以上であることにより硬化性が改善し硬化物Tgが高くなる傾向がある。一方、(B)潜在性硬化剤の含有量が、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して100質量部以下であることにより、樹脂組成物の粘度を低くすることができ、取り扱いが容易となる。
【0048】
上述のコアシェル構造を有する潜在性硬化剤は、マスターバッチ型であることが好ましい。マスターバッチ型潜在性硬化剤は、液状のエポキシ樹脂に分散されたコアシェル構造を有する潜在性硬化剤である。マスターバッチ化されていることによりエポキシ樹脂などの他の材料との混錬が容易になる。
【0049】
((C)フェノール硬化剤)
本実施形態のエポキシ樹脂脂組成物は、フェノール硬化剤を含む。フェノール硬化剤は、潜在性でない。フェノール硬化剤は、遊離フェノール性ヒドロキシル基を有し、上記(A)エポキシ樹脂を硬化させることができるフェノール化合物を含む限り、特に限定されない。
上記フェノール化合物としては、フェノール樹脂、特に、フェノール類又はナフトール類(例えば、フェノール、クレゾール、ナフトール、アルキルフェノール、ビスフェノール、テルペンフェノールなど)とホルムアルデヒドを縮合させて得られるノボラック樹脂が好ましく用いられる。ノボラック樹脂の例としては、フェノールノボラック樹脂、o-クレゾールノボラック樹脂、p-クレゾールノボラック樹脂、α-ナフトールノボラック樹脂、β-ナフトールノボラック樹脂、t-ブチルフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、キシリレン変性ノボラック樹脂、デカリン変性ノボラック樹脂、アリル化フェノールノボラック樹脂等が挙げられる。他のフェノール樹脂の例としては、ジシクロペンタジエンクレゾール樹脂、ポリパラビニルフェノール、ポリ(ジ-o-ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ-m-ヒドロキシフェニル)メタン及びポリ(ジ-p-ヒドロキシフェニル)メタン等が挙げられる。これらのフェノール化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。作業性の観点から、フェノール硬化剤は、液状エポキシ樹脂との配合しやすさの観点から、25℃で液状であることが好ましい。25℃で液状であるフェノール硬化剤としてアリル化フェノールノボラック樹脂が挙げられる。
【0050】
本実施形態におけるエポキシ樹脂組成物が(C)フェノール硬化剤を含有することで、(B)潜在性硬化剤の低温での硬化反応を抑制することで昇温過程での粘度上昇が起こりにくく、硬化剤成分が均一に拡散した後に硬化反応が進むため、均一で強度の強い硬化物を得ることが可能となる。
【0051】
(C)フェノール硬化剤は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して、0質量部超30質量部以下であり、好ましくは1質量部以上25質量部以下であり、より好ましくは2質量部以上15質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以上12質量部以下である。この配合部数の範囲に調整することで、充填剤を含んでいても、強度の高い硬化物を得ることのできる、エポキシ樹脂組成物が得られる。また、当該配合部数であることで、低温での硬化性を維持しつつ、硬化物強度を改善することが可能となる。
【0052】
((D)充填剤)
本実施形態におけるエポキシ樹脂組成物は充填剤を含む。充填剤を含むことによって、硬化物の線膨張係数が低下し、基板と半導体チップ間の剥がれを抑制することが可能となる。
【0053】
充填剤は、特に限定されず、公知の各種充填剤を使用することができる。充填剤の具体的な例としては、シリカフィラー、アルミナフィラー、タルクフィラー、炭酸カルシウムフィラーなどの無機フィラー及び、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィラーやアクリルポリマーフィラー、シリコーンフィラーなどの有機フィラー等が挙げられる。本実施形態のある態様においては、充填剤は、シリカフィラー又はシリコーンフィラーを含み、好ましくは、シリカフィラーを含む。
また充填剤は、表面処理剤、例えばシランカップリング剤(フェニル基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の置換基を有していてもよい)等のカップリング剤で表面処理されていてもよい。本実施形態のある態様においては、充填剤の少なくとも一部が表面処理されていることが、充填剤割合を高くしても流動性を維持しやすい観点から好ましい。
【0054】
充填剤の粒度分布、平均粒径等は特に限定されないが、平均粒径が0.005μm以上20.0μm以下の充填剤を用いることが好ましい。充填剤の平均粒径は0.01μm以上15.0μm以下であることが好ましく、0.05μm以上10.0μm以下であることがより好ましい。平均粒径が20.0μm以下であると、狭ギャップへの注入性が容易になり、平均粒径が0.005μm以上であると充填剤の充填割合を高くすることが可能となる。本明細書において、充填剤の平均粒径は、特に断りのない限り、ISO-13320(2009)に準拠してレーザー回折法によって測定した、体積基準のメジアン径(d50)を指す。本実施形態に用いられる充填剤は、ディスペンサーでの吐出性の観点から、球状であることが好ましい。
【0055】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、(D)充填剤の量は、エポキシ樹脂組成物全体に対して20~60体積%である。充填剤が2種以上の充填剤を含む場合、充填剤の量は、全ての充填剤の量の合計である。充填剤の量がエポキシ樹脂組成物全体に対して20体積%未満であると、線膨張が高すぎ、半導体チップと基板間の剥がれが生じやすくなる。充填剤の量は、エポキシ樹脂組成物全体に対して、好ましくは25体積%以上であり、より好ましくは30体積%以上である。一方、充填剤の量が60体積%超であると、エポキシ樹脂組成物の流動性の悪化や硬化物の機械物性の悪化が懸念される。
エポキシ樹脂組成物全体の体積に対する充填剤の体積の比(体積%)は、例えば倍率3000倍にて取得したエポキシ樹脂組成物の硬化物における断面の画像データを、適切な画像処理ソフトウェアによる、2値化処理等を含む適切な画像処理に付すことにより、求めることができる。画像データは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて取得することができる。また、この体積の比(体積%)は、エポキシ樹脂組成物全体及び充填剤の質量や比重から計算で求めてもよい。
【0056】
((E)その他の添加剤)
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、上記成分を配合することによって得られるが、その他の添加剤を必要に応じて本実施形態の目的、効果を損なわない範囲で添加することができる。その他の添加剤としては、離型剤、難燃剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、接着付与剤、低応力剤、着色剤、カップリング剤等が挙げられる。
【0057】
離型剤は、硬化物の成形型からの離型性を向上させるために添加される。離型剤としては、例えば、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、ポリプロピレン、モンタン酸、モンタン酸と飽和アルコール、2-(2-ヒドロキシエチルアミノ)エタノール、エチレングリコール、グリセリン等とのエステル化合物であるモンタンワックス、ステアリン酸、ステアリン酸エステル、ステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0058】
難燃剤は、硬化物に難燃性を付与するために添加される。難燃剤は公知のものを全て使用することができ、特に制限されない。難燃剤としては、例えば、ホスファゼン化合物、シリコーン化合物、モリブデン酸亜鉛担持タルク、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化モリブデン等が挙げられる。
【0059】
イオントラップ剤は、樹脂組成物中に含まれるイオン不純物を捕捉し、熱劣化及び吸湿劣化を防ぐために添加される。イオントラップ剤は公知のものを全て使用することができ、特に制限されない。イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス化合物、希土類酸化物等が挙げられる。
【0060】
その他の添加剤の配合量は、エポキシ樹脂組成物の用途により異なるが、いずれの添加剤もエポキシ樹脂組成物全体の10質量%以下の量が好ましい。
【0061】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、120℃で60分加熱硬化後の硬化物が、100℃における弾性率(G’100)と30℃における弾性率(G’30)の比(G’100/G’30)が、0.55以上であることが好ましい。100℃における弾性率と30℃における弾性率の比がこの値以上であることにより高温での接着力を維持できる傾向がある。
【0062】
当該比(G’100/G‘30)は、好ましくは0.65以上であり、さらに好ましくは0.75以上である。また、当該比(G’100/G‘30)は、その上限値が特に制限されるものではないが、0.99以下であることが好ましい。当該比(G’100/G‘30)の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0063】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、粘弾性装置による80℃での測定において、動的粘性率が105mPa・sに到達する時間が、好ましくは5分以上であり、より好ましくは10分以上であり、さらに好ましくは30分以上である。80℃での測定において動的粘性率が105mPa・sに到達する時間が5分以上であることにより、アンダーフィル用途で使用した際、加熱時の狭ギャップ浸透性が改善する傾向がある。当該到達時間は、実施例に記載の方法による。
80℃での測定において動的粘性率が105mPa・sに到達する時間を10分以上にするためには、エポキシ樹脂との反応における発熱開始温度が75℃以上であるエポキシ樹脂硬化剤を使用することが挙げられる。
【0064】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は120℃で60分間加熱硬化後の硬化物が、動的粘弾性(Dynamic Mechanical Analysis:DMA)測定におけるtanδピークトップ温度によってあらわされるガラス転移温度が100℃以上であることが好ましく、105℃以上であることがより好ましく、110℃以上がさらに好ましい。
当該ガラス転移温度が100℃以上であることにより、85℃85%RHの耐湿熱試験での接着力低下が抑えられる傾向がある。当該ガラス転移温度の測定方法は、実施例に記載の方法による。当該ガラス転移温度を100℃以上にする方法として、エポキシ樹脂との反応における発熱終了温度が180℃以下であるエポキシ樹脂硬化剤を使用することが挙げられる。
【0065】
(他の硬化剤成分)
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、上述した成分以外にも本実施形態の効果を失わない範囲で酸無水物系硬化剤、活性エステル硬化剤、アミン系硬化剤、チオール系硬化剤からなる1種若しくは2種以上の硬化剤を含んでいてもよい。他の硬化剤成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0066】
酸無水物系硬化剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0067】
活性エステル硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤として機能し活性エステルを有するものであれば特に制限はないが、1分子中に2個以上の活性エステル基を有する化合物が好ましい。耐熱性等の観点から、カルボン酸化合物及び/又はチオカルボン酸化合物と、ヒドロキシ化合物及び/又はチオール化合物とを反応させたものから得られる活性エステル化合物がより好ましく、カルボン酸化合物と、フェノール化合物、ナフトール化合物、チオール化合物とから選択される1種又は2種以上とを反応させたものから得られる活性エステル化合物がさらに好ましい。そして、カルボン酸化合物とフェノール性水酸基を有する芳香族化合物とを反応させたものから得られる1分子中に2個以上の活性エステル基を有する芳香族化合物がさらに一層好ましい。そして、少なくとも2個以上のカルボン酸を1分子中に有する化合物と、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物とを反応させたものから得られる芳香族化合物であり、かつ該芳香族化合物の1分子中に2個以上の活性エステル基を有する芳香族化合物が殊更好ましい。また、直鎖状又は多分岐状であってもよい。また、少なくとも2個以上のカルボン酸を1分子中に有する化合物が脂肪族鎖を含む化合物であればエポキシ樹脂との相溶性を高くすることができ、芳香族環を有する化合物であれば耐熱性を高くすることができる。
【0068】
アミン系硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、ジシアンジアミド、ジシアンジアミド-アニリン付加物、ジシアンジアミド-メチルアニリン付加物、ジシアンジアミド-ジアミノジフェニルメタン付加物、ジシアンジアミド-ジアミノジフェニルエーテル付加物等のジシアンジアミド誘導体、硝酸グアニジン、炭酸グアニジン、リン酸グアニジン、スルファミン酸グアニジン、重炭酸アミノグアニジン等のグアニジン塩、アセチルグアニジン、ジアセチルグアニジン、プロピオニルグアニジン、ジプロピオニルグアニジン、シアノアセチルグアニジン、コハク酸グアニジン、ジエチルシアノアセチルグアニジン、ジシアンジアミジン、N-オキシメチル-N’-シアノグアニジン、N,N’-ジカルボエトキシグアニジン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4、4’-ジアミノジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0069】
チオール系硬化剤としては、1分子中に2個以上のチオール基を含有するものであればよく、以下に限定されるものではないが、例えば、3,3’-ジチオジプロピオン酸、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、エチレングリコールジチオグリコレート、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、トリス[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、1,3,4,6-テトラキス(2-メルカプトエチル)グリコールウリル、4-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,10-デカンジチオール等が挙げられる。耐衝撃性の観点から、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)が好ましく、低温硬化性の観点から、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)がより好ましい。
【0070】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物における、他の硬化剤成分の含有量は、所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、反応性の観点から、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは1.0質量%以上である。また、本実施形態のエポキシ樹脂組成物における、他の硬化剤成分の含有量は、安定性の観点から、50質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0071】
〔エポキシ樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂と、(B)潜在性硬化剤と、(C)フェノール硬化剤と、(D)充填剤と、必要に応じて他の硬化剤成分や充填剤や添加剤等と、を混合することにより製造できる。混合時には、当業界で公知の手法を適用することができる。例えば、硬化しない程度の温度で混合する方法が挙げられる。
【0072】
〔エポキシ樹脂組成物の硬化物〕
エポキシ樹脂組成物は、例えば、熱硬化することで得られる。硬化温度としては、特に限定されないが、例えば100℃~250℃であってもよく、100℃~200℃であってもよい。
エポキシ樹脂組成物は、例えば、半導体チップと基板の隙間を埋めるアンダーフィルとして用いることができる。
【実施例0073】
以下、実施例等を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本実施形態はこれらに限定されるものではない。すなわち、当業者は以下に示す実施例に様々な変更を加えて本実施形態を実施することができる。なお、以下において特に断りのない限り、「部」は質量基準である。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0074】
<評価>
(硬化物強度)
本実施例の硬化物強度は以下の手順で作製されたフィルム状硬化物を用いて測定した。厚み0.1mmのアルミシート上にエポキシ樹脂組成物を2g計量する。アプリケータ(ヨシミツ精機社製YA型、隙間0.1mm)の平坦部にカプトンテープ(日東電工社製P-221 厚み0.069mm)を5枚貼り付け隙間を調整し、エポキシ樹脂組成物を塗布、120℃で60分間熱硬化を行い0.5mm厚のフィルム状硬化物を得た。アルミシートから、得られたフィルム状硬化物を剥がし、カッターナイフを用いて5mm×40mmの短冊状に切り出し、島津製作所社製オートグラフAGXを用いてチャック間距離を20mm。延伸速度を100mm/分とし、引張強度測定を実施した。各5サンプルで測定した中央値を、以下の基準で評価した。なお、熱硬化後にエポキシ樹脂組成物が十分に硬化しておらず、フィルム状硬化物がアルミシートから剥離できなかったものについては「未硬化」と記載した。
◎ 40MPa以上
〇 30MPa以上40MPa未満
△ 20MPa以上30MPa未満
× 5MPa以上20MPa未満
×× 5MPa未満
【0075】
(加熱時安定性)
後述する実施例及び比較例にて得られたエポキシ樹脂組成物を以下の方法に基づいてレオメータ(HAAKE社製、MARS)を用いてパラレルプレート法により測定した。ギャップ0.5mm、回転プレートの直径2mm、Frequency 1.0Hz、Strain一定(1.0Pa・s)条件において測定部の温度を80℃に安定させたのち、動的粘性率が105mPa・sを越えた時間を記録し、以下の基準で判定を行った。
◎ 30分以上
〇 20分以上30分未満
△ 10分以上20分未満
× 5分以上10分未満
×× 5分未満
【0076】
(硬化物Tg、弾性率温度依存性)
動的粘弾性測定装置(TA Instruments社、RSA-G2)を用いて、以下の手順で、硬化物のガラス転移温度(Tg)、弾性率の測定を行った。
引張強度測定用サンプルと同様の方法で厚さ0.5mmのフィルム状硬化物を作製後、幅5mm×長さ40mmに切り出し、正確な寸法を測定し、サンプルとした。
サンプルを、動的粘弾性測定装置(DMA)にセットし、測定モード:引張、周波数f=1Hz、温度:25~250℃(昇温:4℃/分)の条件で測定を行った。
測定により得られた、貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G’’)から、損失正接(tanδ)=G’’/G’を算出し、tanδのピークトップ温度を、硬化物のガラス転移温度(Tg)として求めた。
弾性率の温度依存性は、100℃と30℃のG’の比を、以下の基準で判定を行った。なお、サンプル切り出し時や測定中、Tg以下の温度領域でサンプルが破断した場合は測定不可と記載した。
◎ 0.75以上
〇 0.65以上0.75未満
△ 0.55以上0.65未満
× 0.45以上0.55未満
×× 0.45未満
【0077】
(実施例及び比較例)
表中に示すとおりの配合比とし、エポキシ樹脂組成物を調製した。得られたエポキシ樹脂組成物について上述の評価を行い表に示した。
【0078】
<成分記載>
以下、下記の表中に記載する成分を示す。
(A)エポキシ樹脂
A-1:EXA830CRP(DIC社製ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量160g/eq)
A-2:EXA850CRP(DIC社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量172g/eq)
A-3:CDMDG(レゾナック社製シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、エポキシ当量136g/eq)
A-4:jER630(三菱ケミカル社製アミノフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ当量100g/eq)
【0079】
(B)潜在性硬化剤(一部(A)エポキシ樹脂を含む)
B-1:ノバキュアHXA9322HP(旭化成社製マイクロカプセル化されたマスターバッチ型潜在性硬化剤)
B-2:ノバキュアHXA3932HP(旭化成社製マイクロカプセル化されたマスターバッチ型潜在性硬化剤)
B-3:ノバキュアLSA-H2204(旭化成社製マイクロカプセル化されたマスターバッチ型潜在性硬化剤)
B-4:アミキュアPN-23J(味の素ファインテクノ社製エポキシ樹脂潜在性硬化剤)
各潜在性硬化剤について、上述の方法による、エポキシ樹脂との反応における発熱開始温度、終了温度及びその温度差は表1に示すとおりである。
【0080】
【0081】
(B-1)~(B-3)はいずれも粉体のマイクロカプセル型潜在性硬化剤が、液状のエポキシ樹脂に分散しているマスターバッチ(潜在性硬化剤/エポキシ樹脂=1:2(質量比))の形態で提供されている。この分散液を構成するエポキシ樹脂は(A)エポキシ樹脂の一部をなすものとして扱われる。よって表2では(B-1)~(B-3)中の潜在性硬化剤のみの量を(B)欄に示し、(B-1)~(B-3)中のエポキシ樹脂の量は(A)欄に示す。
【0082】
(C)フェノール硬化剤
C-1:MEH-8000H(アリル化フェノールノボラック樹脂、明和化成
社製液状フェノール硬化剤、水酸基当量141g/eq)
C-2:2-アリルフェノール(試薬、水酸基当量134g/eq)
【0083】
(D)充填剤
D-1:SO-E2(アドマテックス社製の球状シリカ、D50=0.8μm、密度2.65g/cm3)
【0084】