(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006968
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】VI型コラーゲンの発現を指標とする評価方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075254
(22)【出願日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2022105181
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】横田 真理子
(72)【発明者】
【氏名】清野 絢美
(72)【発明者】
【氏名】五味 貴優
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QQ79
4B063QR48
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4B063QR77
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】肌作用物質の評価にかかる新規な方法を提供すること。
【解決手段】細胞におけるVI型コラーゲンの発現を指標として肌作用物質を評価する、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞におけるVI型コラーゲンの発現を指標として肌作用物質を評価する、方法。
【請求項2】
前記細胞は線維芽細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞は、G0期に誘導された細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
被験物質の存在下で細胞を培養する工程と、
該細胞におけるVI型コラーゲンの発現量を測定する工程と、
該発現量が、被験物質の非存在下で培養した細胞のVI型コラーゲンの発現量と比較して高い場合に、前記被験物質を前記肌作用物質として選択する工程と、
を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞は、G0期に誘導された細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記のG0期に誘導された細胞は、G0期への誘導処理前と比して、G0期への誘導処理後におけるMKI67遺伝子の発現が低下した細胞である、請求項3又は5に記載の方法。
【請求項7】
2種以上の被験物質を添加することを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項8】
前記肌作用物質は、G0期の細胞へ作用する物質である、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記肌作用物質は、オートファジー活性化作用を有する物質である、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記肌作用物質は、G0期の細胞におけるオートファジー活性化作用を有する物質である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記肌作用物質は、細胞外マトリックス産生亢進作用を有する物質である、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記肌作用物質は、G0期の細胞における、細胞外マトリックス産生亢進作用を有する物質である、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞外マトリックスが、ルミカン(lumican;LUM)、エラスチン(elastin;ELN)、EMILIN-1(elastin microfibril interfacer 1)から選択される1種又は2種以上を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
請求項4又は5に記載の方法を行うスクリーニング工程と、
前記スクリーニング工程により選択された物質を含有させる工程と、
を含む、組成物の設計方法。
【請求項15】
請求項4又は5に記載の方法により、G0期に誘導された細胞を用いてスクリーニングを行う第1のスクリーニング工程と、
G0期に誘導されていない細胞を用いて肌作用物質をスクリーニングする第2のスクリーニング工程と、
前記第1のスクリーニング工程により選択された物質と、前記第2のスクリーニング工程で選択された物質を含有させる工程と、
を含む、組成物の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VI型コラーゲンの発現を指標とし、肌作用物質を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
VI型コラーゲンは、細胞外においてビーズ状のマイクロフィラメントを形成するコラーゲンである。VI型コラーゲンは、細胞マトリックスを構成する成分や細胞表面の受容体と相互作用し、複雑な網目状構造を形成する。
【0003】
皮膚組織において、VI型コラーゲンは、表皮以外の真皮、皮下組織、血管系、神経線維、毛包等に広く分布し、特に表皮と真皮の接合部である基底膜に多く存在する。そして、Col6a1欠損マウスでは、皮膚の引張強度が低下し、コラーゲン線維と基底膜の構造が変化することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
また、VI型コラーゲンが欠損すると、筋ジストロフィー等の疾患が引き起こされるとともに、アポトーシスやオートファジーなどの機構に著しい影響を与えることが知られている(非特許文献2)。
例えば、ColVI欠損マウス(Col6a1-/-)の初代及び不死化線維芽細胞を用いた研究により、VI型コラーゲンの欠損は線維芽細胞においてオートファジーの制御に影響を与えることが示されている(非特許文献3)。
【0005】
ここで、オートファジーは、細胞が持っている、細胞内のタンパク質及び細胞小器官を分解するための仕組みの一つである。オートファジーの活性化はアポトーシス、ネクローシス等の細胞死の抑制、そして組織中の幹細胞の減衰の抑止などに繋がることが知られ、オートファジーを活性化する物質には、抗老化作用及び長寿化の作用があることが知られている(非特許文献4)。
【0006】
また、オートファジーは生体内に侵入した微生物などの病原菌を分解する作用もあり、生体を微生物の感染から守る免疫機構の一端を担っている(非特許文献4)。さらにオートファジーは抗炎症作用も有していることが知られている(非特許文献4)。
オートファジーが関連する疾患としては、癌、神経障害疾患、感染症、免疫異常などが報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】PLoS One. 2014 Aug 26;9(8)
【非特許文献2】Matrix Biol. 2021 Jun;100-101:162-172.
【非特許文献3】Front Physiol. 2018 Aug 17;9:1129.
【非特許文献4】N Engl J Med. 2013 Feb 14;368(7):651-62.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、肌状態の改善等に用いる肌作用物質のスクリーニングは、基本的には、細胞周期において細胞分裂をしている活動期の細胞に作用する成分を選択するものであった。一方、組織には細胞分裂を止めている休止状態(G0期)の細胞が一定数存在することが知られている。そこで、本発明者らは、従来着目されていなかったG0期の細胞においても皮膚組織を構成する成分を活性化させることができれば、より肌状態を改善できるものと考え、G0期の細胞に作用する成分のスクリーニング方法を求めて鋭意研究を行った。
【0009】
すなわち、本発明は、肌作用物質の評価にかかる新規な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題のあるところ、本発明者らは、G0期に誘導された細胞においてVI型コラーゲンの発現が上昇することを見出した。さらに、ヒト皮膚線維芽細胞を用いた実験により、肌においてもVI型コラーゲンの発現がオートファジーの活性化に寄与することで、肌状態の改善に関与することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、細胞におけるVI型コラーゲンの発現を指標として肌作用物質を評価する方法である。
上記方法によれば、肌状態の改善等、肌に対し作用する肌作用物質について、評価を行うことができる。
【0012】
本発明の好ましい実施形態では、前記細胞は線維芽細胞である。
線維芽細胞を用いることで、肌作用物質の評価を適切に行うことができる。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、前記細胞は、G0期に誘導された細胞である。
G0期に誘導された細胞を用いることで、G0期で発現が上昇するVI型コラーゲンを指標としたスクリーニングを精度良く行うことができる。
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、本発明は、
被験物質の存在下で細胞を培養する工程と、
該細胞におけるVI型コラーゲンの発現量を測定する工程と、
該発現量が、被験物質の非存在下で培養した細胞のVI型コラーゲンの発現量と比較して高い場合に、前記被験物質を前記肌作用物質として選択する工程と、を備える。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、前記のG0期に誘導された細胞は、G0期への誘導処理前と比して、G0期への誘導処理後におけるMKI67遺伝子の発現が低下した細胞である。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、2種以上の被験物質を添加することを特徴とする。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、前記肌作用物質は、G0期の細胞へ作用する物質である。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、前記肌作用物質は、オートファジー活性化作用を有する物質である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、前記肌作用物質は、G0期の細胞におけるオートファジー活性化作用を有する物質である。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記肌作用物質は、細胞外マトリックス産生亢進作用を有する物質である。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記肌作用物質は、G0期の細胞における、細胞外マトリックス産生亢進作用を有する物質である。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記細胞外マトリックスが、ルミカン(lumican;LUM)、エラスチン(elastin;ELN)、EMILIN-1(elastin microfibril interfacer 1)から選択される1種又は2種以上を含む。
【0023】
本発明は、上述の方法を行うスクリーニング工程と、
前記スクリーニング工程により選択された物質を含有させる工程と、
を含む、組成物の設計方法にも関する。
【0024】
また、本発明は、上述の方法により、G0期に誘導された細胞を用いてスクリーニングを行う第1のスクリーニング工程と、
G0期に誘導されていない細胞を用いて肌作用物質をスクリーニングする第2のスクリーニング工程と、
前記第1のスクリーニング工程により選択された物質と、前記第2のスクリーニング工程で選択された物質を含有させる工程と、
を含む、組成物の設計方法にも関する。
上述の設計方法によれば、G0期の細胞にアプローチする物質と、G0期以外の活動期の細胞にアプローチする物質の両方を含み、より肌への作用効果を示す組成物を設計することができる。
【0025】
また、上記課題を解決するための本発明(第2の発明)は、G0期に誘導された細胞を用いて、指標物質の発現に基づき肌作用物質を評価する方法である。
【0026】
かかる第2の発明の好ましい形態は、以下の通りである。
【0027】
[1]G0期に誘導された細胞を用いて、指標物質の発現に基づき肌作用物質を評価する、方法。
【0028】
[2]前記指標物質が、VI型コラーゲンである、[1]に記載の方法。
【0029】
[3]前記指標物質が、細胞外マトリックス関連因子である、[1]又は[2]に記載の方法。
【0030】
[4]前記細胞外マトリックス関連因子は、コラーゲン、エミリン(elastin microfibril interfacer;EMILIN)、フィブリリン(fibrillin:FBN)、ミクロフィブリル結合タンパク質(microfibrillar associated protein;MFAP)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、TGFβ(Transforming Growth Factor-β)及び潜在型TGFβ結合タンパク質(Latent TGFβ binding proteins;LTBP)から選択される1種又は2種以上である、[3]に記載の方法。
【0031】
[5]被験物質の存在下でG0期へ誘導された細胞を培養する工程と、該細胞における前記指標物質の発現量を測定する工程と、該発現量が、被験物質の非存在下で培養した細胞の指標物質の発現量と比較して高い場合に、前記被験物質を前記肌作用物質として選択する工程と、を備える、[1]~[4]の何れかに記載の方法。
【0032】
[6]前記のG0期に誘導された細胞は、G0期への誘導処理前と比して、G0期への誘導処理後におけるMKI67遺伝子の発現が低下した細胞である、[1]~[5]の何れかに記載の方法。
【0033】
[7]2種以上の被験物質を添加することを特徴とする、[1]~[6]の何れかに記載の方法。
【0034】
[8][5]~[7]の何れかに記載の方法を行うスクリーニング工程と、前記スクリーニング工程により選択された物質を含有させる工程と、を含む、組成物の設計方法。
【0035】
[9][5]~[7]の何れかに記載の方法により、G0期に誘導された細胞を用いてスクリーニングを行う第1のスクリーニング工程と、G0期に誘導されていない細胞を用いて肌作用物質をスクリーニングする第2のスクリーニング工程と、前記第1のスクリーニング工程により選択された物質と、前記第2のスクリーニング工程で選択された物質を含有させる工程と、を含む、組成物の設計方法。
【0036】
上記の第2の発明によれば、G0期に誘導された細胞において効果を発揮することのできる肌作用物質を探索することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、肌作用物質の評価の新規な方法を提供することができる。
より具体的には、本発明は、VI型コラーゲンの発現を指標とすることで、新規な観点から肌作用物質を評価することができる。また、本発明は、G0期へ誘導された細胞を用いることで、G0期において産生される皮膚組織の構成成分に作用する肌作用物質を評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0039】
<VI型コラーゲンの発現を指標とした評価方法>
(1)評価方法
本発明は、VI型コラーゲンの発現を指標とし、肌作用物質を評価する方法に関する。
本発明において、「肌作用物質を評価する」とは、ある被験物質が肌に何らかの作用をし得るかを評価することを意味する。前記作用としては、好ましくは、肌に美容上好ましい作用であり、より好ましくは肌状態の改善作用である。
【0040】
本発明の好ましい実施形態では、本発明は、VI型コラーゲンの発現を指標とし、肌作用物質をスクリーニングする。
本発明においては、「肌作用物質をスクリーニングする」とは、ある被験物質が肌に何らかの作用をし得るかを評価することのうち、被験物質の中から一定の美容効果を与えると期待される候補物質を選択することを意味する。
【0041】
後述の実施例で示す通り、VI型コラーゲンは、加齢に伴い真皮下層の真皮網状層において発現が低下する。そのため、本発明の評価方法によれば、肌作用物質として、VI型コラーゲンの産生低下に伴う肌状態の悪化に対し好適に作用する物質を評価することができる。そして、当該作用物質は、好ましくは加齢によるVI型コラーゲンの産生低下に伴う肌状態の悪化に対し、好適に作用する物質である。
【0042】
次いで、好ましい実施形態であるスクリーニング方法について説明を加える。当該スクリーニング方法は、培養工程、測定工程、及び選択工程を備える。以下、各工程ついて詳述する。
【0043】
(i)培養工程
培養工程は、被験物質の存在下で細胞を培養する工程である。細胞培養の方法は特に限定されず、使用する細胞の性質にあわせて付着培養や浮遊培養を適宜採用することができる。
【0044】
また、本発明で使用する細胞は、皮膚組織の細胞であることが好ましい。VI型コラーゲンの発現を指標とし、主に皮膚組織の真皮組織層に作用する物質を評価するという観点からは、線維芽細胞を用いることが好ましい。
【0045】
また、本発明においては生体より採取した皮膚、または培養皮膚三次元モデルを用いてもよい。皮膚としては、所望により体毛を除去し、生体より採取した皮膚断片であって、表皮顆粒層、表皮基底層及び真皮部分からなるものが好ましい。
【0046】
培養皮膚三次元モデルとしては、ヒト等の皮膚より採取した細胞(正常ヒト表皮角化細胞(Normal human epidermal keratinocyte;NHEK)、正常ヒト皮膚線維芽細胞(Normal human dermal fibroblast;NHDF)等)を培養して三次元構造を構築し、皮膚の構造に疑似させたものが好ましく、このような形態の市販品を購入して使用することもできる。好ましい市販品としては、例えば、倉敷紡績株式会社から販売されている「EFT-400」などが好適に例示できる。
【0047】
また、本発明では、G0期に誘導された細胞を用いることが好ましい。
細胞をG0期へ誘導する方法は、既存の手法を採用することができる。例えば、血清枯渇培地で一定期間培養することにより、細胞周期がG0期である細胞を豊富に含む細胞群を得る方法が好ましく例示できる。
また、通常培養した細胞に対して活動期の細胞マーカーであるKi67抗体で標識し、Ki67(MKI67)陰性細胞をG0期の細胞としてフローサイトメトリー法により分取する方法も例示できる。抗体の種類は限定されるものでなく、G0期の細胞を標識できるものであれば用いることができる。また、Ki67をコードするMKI67遺伝子の発現低下を確認することで、細胞がG0期に誘導されていることを確認してもよい。
さらに、通常培養した細胞に対して、細胞周期を停止させるユビキチンリガーゼFbxw7やサイクリンC阻害剤のような薬剤を添加する方法も例示できる。
【0048】
ここで、本発明においては、細胞分裂が停止し、休止状態である細胞を、G0期(休止期)の細胞と定義する。また、G0期以外のG1期、S期、G2期、又はM期に相当する細胞は、活動期の細胞と称する。
【0049】
培養のための培地も特に限定されず、公知のものを使用することができる。DMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium)などが好適に例示できる。
【0050】
培養工程の期間は特に限定されず、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは12時間以上、特に好ましくは1日以上である。培養期間の上限も特に限定されず、目安として、好ましくは1カ月以下、より好ましくは3週間以下、さらに好ましくは2週間以下、特に好ましくは1週間以下である。
【0051】
培養工程においては被験物質の存在下で培養を行う。具体的には培地に被験物質を添加して培養を行う実施形態が挙げられる。被験物質の種類は限定されず、低分子化合物、高分子化合物、タンパク質、ペプチド、核酸など際限なく適用することができる。被験物質は純粋な化合物であってもよいし、2以上の成分を含む混合物、例えば植物や動物の抽出物であってもよい。
【0052】
培養工程では、1種の被験物質を用いてもよいし、2種以上の被験物質を用いてもよい。ここで、被験物質の組み合わせによる相乗効果を評価する場合には、2種以上の被験物質を添加することが好ましい。
【0053】
培養工程においては被験物質の存在下での培養と並行して、比較対象として被験物質の非存在下での細胞培養を実施してもよい。この場合、培養条件は被験物質の有無を除き、一致させておくことが好ましい。
【0054】
(ii)測定工程
測定工程は、培養工程を経た細胞におけるVI型コラーゲンの発現を測定する工程である。好ましくは、測定工程では、VI型コラーゲンの発現量を測定する。
VI型コラーゲンの発現量の測定方法は特に限定されず、VI型コラーゲンをコードする遺伝子より転写されたmRNAを計測対象とする定量的PCRやノザンブロッティング、VI型コラーゲンを指標物質とする免疫染色、ウェスタンブロッティング、ELISAなどの免疫学的手法を例示することができる。定量性の高さ及び簡便性の観点から、定量的PCRが特に好ましく例示できる。これら測定手段の具体的な実施態様は特に限定されず、常法により行うことができる。
【0055】
VI型コラーゲンは、基本構成としてα1鎖、α2鎖、α3鎖、α4鎖、α5鎖、及びα6鎖から選ばれるヘテロ三量体を備える。α1鎖、α2鎖、α3鎖、α4鎖、α5鎖、及びα6鎖は、それぞれCOL6A1、COL6A2、COL6A3、COL6A4、COL6A5、COL6A6遺伝子にコードされている。
測定工程では、VI型コラーゲンを構成するα鎖を全て検出してもよいし、一部を検出してもよい。また、COL6A1及び/又はCOL6A3を検出することが好ましい。
【0056】
なお、上述したVI型コラーゲンをコードするヒトの遺伝子配列はそれぞれ公開されており、mRNAを計測対象とする定量的PCRを行う場合、当業者は適宜プライマーを設計してPCRに供することができる。また、市販されているプライマーを使用してもよい。
【0057】
また、G0期へ誘導された細胞を用いて評価を行う場合、測定工程において、被験物質の存在下で培養した細胞におけるVI型コラーゲンの発現の上昇率を算出する形態も好ましく例示できる。この場合、細胞におけるVI型コラーゲンの発現量を測定し、該発現量に基づき、被験物質の非存在下で培養した細胞のVI型コラーゲンの発現量に対する前記細胞のVI型コラーゲンの発現上昇率を算出する工程を含む。
具体的には、G0期へ誘導され、かつ被験物質の非存在下で培養した細胞におけるVI型コラーゲンの発現量を基準値(100%)とした場合の、G0期へ誘導され、かつ被験物質の存在下で培養した細胞におけるVI型コラーゲンの発現量の変動を、VI型コラーゲンの発現上昇率とすることができる。
なお、発現量の変動(上昇)の程度としては、基準値(100%)に対して110%以上が好ましく、125%以上がより好ましい。
【0058】
(iii)選択工程
選択工程は、測定工程にて測定したVI型コラーゲンの発現に基づいて、肌作用物質を選択する工程である。より具体的には、被験物質の存在下で培養した細胞におけるVI型コラーゲンの発現量が、被験物質の非存在下で細胞を培養した細胞のVI型コラーゲンの発現量と比較して高い場合に、前記被験物質を肌作用物質として選択する。
【0059】
ここで、選択工程にて選択した被験物質を、そのまま有効成分として判別してもよいし、または、2次スクリーニングに供するための有効成分候補として判別しても構わない。
【0060】
G0期へ誘導された細胞を用いて評価を行う場合にも、上述の通り、被験物質の非存在下で細胞を培養した細胞と、被験物質の存在下で培養した細胞におけるVI型コラーゲンの発現量を比較することで、肌作用物質を選択することができる。
【0061】
さらに、G0期へ誘導された細胞を用いて評価を行う場合には、(ii)測定工程で算出した「被験物質の存在下で培養した細胞におけるVI型コラーゲンの発現上昇率」を基準に、肌作用物質を選択する形態も好ましく例示できる。本実施形態では、該発現上昇率が基準値と比較して高い場合に、被験物質を肌作用物質として選択する。
本実施形態とすることにより、G0期への誘導により上昇したVI型コラーゲンの発現をさらに上昇させる成分を選択することができる。
【0062】
ここで、上記基準値は、G0期へ誘導され、かつ被験物質の非存在下で培養した細胞におけるVI型コラーゲンの発現量とすることが好ましい。
【0063】
また、本発明者らは、VI型コラーゲンの存在下において、ヒト皮膚線維芽細胞においてオートファジー関連遺伝子の発現が活性化されることを発見した。この結果より、皮膚組織において、発現が亢進されたVI型コラーゲンにより、オートファジー活性を促進させることができることを見出した。
すなわち、本発明では、VI型コラーゲンの発現を指標とし、肌作用物質としてオートファジー活性化物質を評価することができる。そして、本発明の評価方法において、VI型コラーゲンの発現を指標とすることで、オートファジー活性化物質をスクリーニングすることができる。
【0064】
また、本発明は、オートファジーの活性化に起因する肌状態の改善成分の評価又はスクリーニングに用いることができる。
【0065】
本発明者らは、オートファジー機能の低下が確認された高齢者の皮膚線維芽細胞において、ヒアルロン酸量が若年者に比較し低下していることを見出している(特許第5938193号公報)。すなわち、老化によるオートファジー機能低下にはシワ形成との関係が示唆されることから、本発明は、オートファジーの活性化に起因する抗老化成分、シワ抑制及び/又は改善成分の評価並びにスクリーニングに用いることができる。
【0066】
さらに、本発明者らは、VI型コラーゲンの存在下において、ヒト皮膚線維芽細胞において細胞外マトリックス関連遺伝子の発現が活性化されることを発見した。この結果より、皮膚組織において発現が亢進されたVI型コラーゲンにより、真皮組織における細胞外マトリックスの産生を亢進させることができることを見出した。
すなわち、本発明では、評価対象の肌作用物質は、細胞外マトリックス産生亢進作用を有する物質(細胞外マトリックス産生亢進物質)とすることができる。そして、本発明では、VI型コラーゲンの発現を指標とし、細胞外マトリックス産生亢進物質について評価することができる。
さらには、本発明の評価方法は、VI型コラーゲンの発現を指標とすることで、細胞外マトリックス産生亢進物質をスクリーニングすることができる。
【0067】
VI型コラーゲンの発現に伴い産生が亢進される細胞外マトリックスとしては、ルミカン(lumican;LUM)、エラスチン(elastin;ELN)、EMILIN-1(elastin microfibril interfacer 1)が好適に挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上の発現を亢進する物質を、評価対象である肌作用物質とすることができる。
【0068】
上述のVI型コラーゲンの発現を指標とした評価方法により肌への作用を有するとして選択された物質(肌作用物質)は、任意の調製方法により組成物に含有させることができる。すなわち、上述のVI型コラーゲンの発現を指標とした評価方法は、組成物の設計に好適に用いることができる。かかる組成物としては、例えば医薬品、医薬部外品、化粧料等の皮膚外用組成物や飲食品等が好適に挙げられ、またこれらは皮膚状態の改善及び/又は抗老化等の用途に好ましく適用できる。
【0069】
当該組成物の設計方法は、好ましくは、上述の評価方法を行うスクリーニング工程と、前記スクリーニング工程により選択された物質を含有させる工程を含む。
【0070】
スクリーニング工程では、G0期に誘導された細胞を用いてスクリーニングを行うことが好ましい。これにより、細胞分裂を停止し休止状態にある細胞に対して一定の作用を有する肌作用物質を含む組成物を設計することができる。
【0071】
また、好ましい実施形態では、G0期に誘導された細胞を用いて、上述のVI型コラーゲンの発現を指標とした評価方法を行う第1のスクリーニング工程と、G0期に誘導されていない細胞を用いて肌作用物質をスクリーニングする第2のスクリーニング工程と、前記第1のスクリーニング工程により選択された物質と、前記第2のスクリーニング工程で選択された物質を含有させる工程とを含む。
上述の設計方法によれば、細胞周期の休止期(G0期)の細胞に作用する物質と、活動期に作用する物質の両方を含む組成物を設計することができるため、肌への好ましい作用がより発揮される組成物を得ることができる。
【0072】
また、選択された物質(肌作用物質)を組成物に含有させる場合、その製造に際しては、化粧料、医薬部外品、医薬品などの製剤化で通常使用される成分を任意に配合することができる。選択された物質(肌作用物質)を飲食品に含有させる場合においても、その製造に際しては、食品製造において通常使用される成分を任意に配合することができる。
【0073】
<G0期へ誘導された細胞を用いた評価方法>
本発明は、G0期へ誘導された細胞を用いて、肌作用物質を評価する方法にも関する。
本発明の<G0期へ誘導された細胞を用いた評価方法>において使用する用語の定義は、上述の<VI型コラーゲンの発現を指標とした評価方法>と同様に解釈するものとする。また、上述の<VI型コラーゲンの発現を指標とした評価方法>に記載した好ましい実施形態は、本発明の<G0期へ誘導された細胞を用いた評価方法>においても適用できる。
【0074】
本発明は、細胞周期が活発に変動している細胞だけでなく、休止期(G0期)の細胞を活性化させるための肌作用物質をスクリーニングするといった、本発明者らの新規な着想に基づきなされたものである。従来、細胞を用いたスクリーニング方法では、活動期に誘導された細胞を使用していたことから、実際にスクリーニングされる物質は、主として活動期にある細胞への作用効果を奏する物質となっていた。
一方で、本発明のG0期の細胞を用いた評価方法によれば、従来着目されていなかったG0期に誘導された細胞に働きかける肌作用物質を評価することができる。
【0075】
好ましい実施形態では、本発明は、G0期へ誘導された細胞を用いて肌作用物質をスクリーニングする。具体的には、本発明は、被験物質の存在下でG0期へ誘導された細胞を培養する工程と、該細胞における指標物質の発現量を測定する工程とを備える。
【0076】
以下、好ましい実施形態について、上述の培養工程、測定工程、及び選択工程の各工程ついて詳述するが、各工程において<VI型コラーゲンの発現を指標とした評価方法>と同様の部分は適宜省略する。
【0077】
培養工程では、G0期に誘導された細胞を用いる。細胞をG0期へ誘導する詳細な手順、方法等は、上述の<VI型コラーゲンの発現を指標とした評価方法>の記載を準用する。
【0078】
次いで、測定工程では、評価又はスクリーニングの目的に応じて、適切な指標物質を選択することができる。指標物質としては、皮膚組織の構成成分であるVI型コラーゲン、皮膚組織の形成・分解等に関与する因子であるオートファジー関連因子等が挙げられる。
【0079】
本発明においては、指標物質としてVI型コラーゲンの発現を測定することが好ましい。VI型コラーゲンはG0期の細胞において発現が上昇するコラーゲンであるため、G0期に誘導された細胞を用いることでより精度の高い評価又はスクリーニングを行うことができる。
【0080】
また、本発明においては、指標物質として細胞外マトリックスの発現を測定することも好ましい。指標物質とする細胞外マトリックスは、G0期の細胞において発現が上昇するものであればよく、コラーゲン、エミリン(elastin microfibril interfacer;EMILIN)、フィブリリン(fibrillin:FBN)、ミクロフィブリル結合タンパク質(microfibrillar associated protein;MFAP)から選ばれる1種又は2種以上が好適に挙げられる。
上記の細胞外マトリックスはG0期の細胞において発現が上昇するため、G0期に誘導された細胞を用いて上記細胞外マトリックスの発現を指標とすることで、より精度の高い評価又はスクリーニングを行うことができる。
【0081】
例えば、G0期の細胞において発現が上昇するコラーゲンとしては、上記のVI型(6型)以外では、4型、5型、9型、12型、13型、14型、18型、19型、20型、23型、25型、26型、27型、及び28型が挙げられ、中でも4型、12型、26型であることが好ましい。
【0082】
G0期の細胞において発現が上昇するエミリンとしては、EMILIN-1及びEMILIN-3が好ましく挙げられる。
【0083】
G0期の細胞において発現が上昇するフィブリリンとしては、FBN1が好ましく挙げられる。
【0084】
G0期の細胞において発現が上昇するMFAPとしては、MFAP2、MFAP3L(microfibrillar associated protein 3 like)、MFAP4が挙げられ、中でもMFAP4が好ましい。
【0085】
G0期に誘導された細胞における細胞外マトリックスの発現は、細胞外マトリックスの産生に関与する因子(細胞外マトリックス関連因子)の発現を測定することで測定できる。細胞外マトリックス関連因子としては、上述したコラーゲン、エミリン、フィブリリン、及びMFAPに加え、線維芽細胞増殖因子(FGF)、TGFβ(Transforming Growth Factor-β)及び潜在型TGFβ結合タンパク質(Latent TGFβ binding proteins;LTBP)が好適に挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上の発現を測定することが好ましい。
【0086】
測定するTGFβとしては、TGFB2(transforming growth factor beta 2)、TGFB3、TGFBR3(transforming growth factor beta receptor III)が好ましい。
測定するLTBPとしては、LTBP3、LTBP4が好ましい。
【0087】
測定工程では、細胞マトリックスを構成する成分(タンパク質)を検出してもよいし、当該細胞外マトリックスの構成成分をコードする遺伝子の発現を測定してもよい。mRNAを計測対象とする定量的PCRを行う場合、公開された遺伝子配列の情報に基づき、当業者は適宜プライマーを設計してPCRに供することができる。また、市販されているプライマーを使用してもよい。
【0088】
また、被験物質の存在下で培養した細胞における指標物質(例えばVI型コラーゲン)の発現の上昇率を算出する形態とすることも好ましい。本実施形態とする場合、指標物質は、活動期と比してG0期に発現が上昇するものであることが好ましい。
【0089】
次いで、選択工程では、指標物質の発現量が、被験物質の非存在下で培養した細胞の指標物質の発現量と比較して高い場合に、前記被験物質を前記肌作用物質として選択する。
【0090】
測定工程で算出した発現上昇率が基準値と比較して高い場合に、被験物質を肌作用物質として選択する形態とすることもできる。本実施形態では、前記基準値は、被験物質の存在下で培養した細胞における指標物質の発現量とすることが好ましい。
本実施形態とすることにより、G0期への誘導により上昇した指標物質の発現をさらに上昇させる成分を選択することができる。
【0091】
上述のG0期へ誘導された細胞を用いた評価方法により肌への作用を有するとして選択された物質(肌作用物質)は、任意の調製方法により組成物に含有させることができる。すなわち、上述のG0期へ誘導された細胞を用いた評価方法は、組成物の設計に好適に用いることができる。
【0092】
当該組成物の設計方法は、好ましくは、上述の評価方法を行うスクリーニング工程と、前記スクリーニング工程により選択された物質を含有させる工程を含む。
【0093】
好ましい実施形態では、上述のG0期へ誘導された細胞を用いた評価方法を行う第1のスクリーニング工程と、G0期に誘導されていない細胞を用いて肌作用物質をスクリーニングする第2のスクリーニング工程と、前記第1のスクリーニング工程により選択された物質と、前記第2のスクリーニング工程で選択された物質を含有させる工程とを含む。
上述の設計方法によれば、細胞周期の休止期(G0期)の細胞に作用する物質と、活動期に作用する物質の両方を含む組成物を設計することができるため、肌への好ましい作用がより発揮される組成物を得ることができる。
【0094】
上述の設計方法により得られる組成物の形態は特に限定されない。好ましい形態は、上述の<VI型コラーゲンの発現を指標とした評価方法>の記載を準用する。
【実施例0095】
<試験例1>G0期に誘導された細胞におけるVI型コラーゲンの発現亢進
培地(10%FBS+DMEM)を用いて、培養プレートに正常ヒト真皮線維芽細胞(NHDFs)をセミコンフルエントになるよう播種した。細胞の接着後、培地(10%FBS+DMEM、血清枯渇なし(コントロール))あるいは培地(0%FBS+DMEM、血清枯渇あり)の条件で細胞を培養し、細胞からRNAを回収した。
【0096】
回収したRNAを、リアルタイムPCR法を用いて分析し、VI型コラーゲンの遺伝子(COL6A1及びCOL6A3)の発現を評価した。同時に、細胞がG0期に誘導されていることを確認する目的でMKI67の遺伝子発現低下を確認した。さらに、比較例としてI型コラーゲンの遺伝子発現を評価した。
【0097】
表1に示すように、血清枯渇なしの条件に対し、血清枯渇ありの条件においてMKI67遺伝子発現の顕著な減少が確認されたことから、血清枯渇ありの条件において細胞がG0期に誘導されたといえる。そして、G0期への誘導が確認された血清枯渇ありの条件において、VI型コラーゲン(COL6A1、COL6A3)の発現が亢進することが確認された。
一方で、同条件においてI型コラーゲン(COL1A1)の発現への影響は認められなかった。
【0098】
【0099】
以上の結果から、G0期に誘導された細胞を用いて物質のスクリーニング等の評価を行う場合、VI型コラーゲンの発現を指標とすることができることが示された。また、VI型コラーゲンは活動期よりもG0期において発現が上昇することから、VI型コラーゲンの発現を指標とした評価を行う場合、G0期に誘導した細胞を用いることでより精度の高い評価を行うことができるといえる。
【0100】
さらに、G0期の細胞において、VI型コラーゲンの発現が上昇するが、この作用機序にはI型コラーゲンの発現は関与しないことが明らかとなった。
【0101】
<試験例2>VI型コラーゲンの発現を亢進するエキスのスクリーニング
培地(10%FBS+DMEM)を用いて、培養プレートに正常ヒト真皮線維芽細胞(NHDFs)を、セミコンフルエントになるよう播種した。細胞の接着後、培地(10%FBS+DMEM)あるいは培地(0%FBS+DMEM)に下記表2に記載のエキス(生物由来抽出物)を、各々最終濃度0.2質量%(乾燥質量で0.0008~0.002質量%)となるように添加してエキス含有培地とし、当該培地にて細胞を培養後、細胞からRNAを回収した。
コントロール(NC)としては、エキスを未添加の培地(10%FBS+DMEM)を用いて、同様の条件で培養したものを用いた。
【0102】
回収したRNAを、リアルタイムPCR法を用いて分析し、VI型コラーゲン(COL6A1)の遺伝子発現を評価した。具体的には、血清枯渇ありかつエキス未添加の細胞における遺伝子発現量を基準とし、血清枯渇ありの細胞におけるエキス添加後の遺伝子発現量を算出した。表2は、血清枯渇ありかつエキス未添加の細胞における遺伝子発現量を基準値(100%)とした場合における、エキス添加後の遺伝子発現の上昇率(%)を示す。
【0103】
【0104】
表2に示すように、0.2%カモミラエキス、0.2%ガマエキス又は0.2%酵母エキス(1)を添加した場合、VI型コラーゲンの発現量が上昇したことが示された。このように、VI型コラーゲンの発現を指標として、皮膚組織におけるVI型コラーゲンの発現量に起因する肌状態に関与する物質について、スクリーニングすることが可能である。また、上述の方法により、G0期へ誘導されることで上昇したVI型コラーゲンの発現を、さらに上昇させることができる物質をスクリーニングできることが示された。
【0105】
さらに、0.2%カモミラエキス(1)と、0.2%エチナシ葉エキス、0.2%ガマエキス、又は0.2%テンチャエキスを共に添加した場合、0.2%カモミラエキス(1)を単独で添加した場合よりも、G0期におけるVI型コラーゲン発現上昇の更なる亢進作用が認められた。このように、複数の候補物質の組み合わせについて評価する際にも、本発明は好適に使用できる。
【0106】
<試験例3>VI型コラーゲンのコーティングによるオートファジーの促進作用
VI型コラーゲン(COL6A1、COL6A3)で培養プレートの底面を一晩コーティングした後、培地(10%FBS+DMEM)に正常ヒト真皮線維芽細胞(NHDFs)をセミコンフルエントになるよう播種した。また、コントロール(NC)として、VI型コラーゲンをコーティングしていない培養プレートに細胞を播種した。細胞の接着後、24時間培養し、細胞からRNAを回収した。
【0107】
回収したRNAを、リアルタイムPCR法を用いて分析し、オートファジー関連の遺伝子(MTOR、ATG3、ATG5、ATG7、ATG12)の発現を評価した。結果を表3に示す。
【0108】
【0109】
表3に示すように、VI型コラーゲン(COL6A1、COL6A3)をコーティングした条件において、上述のオートファジー関連遺伝子の発現が亢進した。これにより、VI型コラーゲンの発現を亢進させることにより、オートファジーを活性化させること可能であると推認される。すなわち、この結果は、VI型コラーゲンの発現を指標として、オートファジー活性化作用を有する物質をスクリーニングできることを示している。
【0110】
<試験例4>VI型コラーゲンのコーティングによる細胞マトリックスの促進作用
VI型コラーゲン(COL6A1、COL6A3)で培養プレートの底面を一晩コーティングした後、培地(10%FBS+DMEM)に正常ヒト真皮線維芽細胞(NHDFs)をセミコンフルエントになるよう播種した。また、コントロール(NC)として、VI型コラーゲンをコーティングしていない培養プレートに細胞を播種した。細胞の接着後、24時間培養し、細胞からRNAを回収した。
【0111】
回収したRNAについて、DNA array法(ClariomTM S アッセイ)を用いて遺伝子発現を評価した。そして、遺伝子発現が向上した細胞外マトリックス関連遺伝子を選択した。結果を表4に示す。
【0112】
【0113】
表4に示すように、VI型コラーゲン(COL6A1、COL6A3)をコーティングした条件において、細胞外マトリックス関連遺伝子(LUM、ELN及びEMILIN-1)の発現が亢進した。これにより、VI型コラーゲンの発現を亢進させることにより、真皮の細胞外マトリックスの産生を亢進させることが可能であるといえる。すなわち、この結果は、VI型コラーゲンの発現を指標として、細胞外マトリックス産生亢進作用を有する物質をスクリーニングできることを示している。
【0114】
<試験例5>G0期に誘導された細胞における真皮細胞外マトリックス関連遺伝子の発現亢進
培地(10%FBS+DMEM)を用いて、培養プレートにNHDFsをセミコンフルエントになるよう播種した。細胞の接着後、培地(10%FBS+DMEM、血清枯渇なし(コントロール))あるいは培地(0%FBS+DMEM、血清枯渇あり)の条件で細胞を培養し、細胞からRNAを回収した。
続いて、DNA array法(ClariomTM S アッセイ)を用いて遺伝子発現を評価した。遺伝子発現が亢進した真皮細胞外マトリックス関連遺伝子(41遺伝子)を、表5に示す。
【0115】
【0116】
表5に示す通り、遺伝子発現解析の結果、G0期に誘導されたNHDFにおいて、真皮の細胞外マトリックス構造の維持への関与に関係する因子(細胞外マトリックス関連因子)の発現が亢進することが明らかとなった。具体的には、コラーゲン、エミリン、フィブリリン、MFAP4等の細胞外マトリックスの発現が亢進していた。また、FGF、TGFβ及びLTBP等の細胞外マトリックス成分の産生に寄与する遺伝子の発現亢進も確認された。
これにより、G0期に誘導された細胞を用いて物質のスクリーニング等の評価を行う場合、上記の細胞外マトリックス関連因子の発現を指標とすることができることが示された。
【0117】
<試験例6>加齢に伴うVI型コラーゲンの発現量の変化
20代、30代、50代、60代の女性を各年代から2名ずつ選出し、頬部組織を採取した。得られたヒト頬部組織を用いてパラフィンブロックを作製し、当該パラフィンブロックを薄切して組織片を得た。
【0118】
次いで、取得した組織片について、免疫組織化学染色法によりCOL6A1を染色し、蛍光顕微鏡を用いて染色画像を取得した。得られた染色画像について、同一ピクセル当たりCOL6A1由来の平均輝度値を算出し、各検体のCOL6A1発現量とした。COL6A1発現量は、20~30代と50~60代の2群に分け、各群n=4として群ごとの平均を算出した。
結果を、表6に示す。
【0119】
【0120】
表6に記載の通り、50~60代の被検者では、20~30代の被検者と比して、真皮網状層(下層)においてVI型コラーゲン発現量が低いことが確認された。すなわち、真皮網状層(下層)において、加齢によりVI型コラーゲンの発現が低下することが明らかとなった。