(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069715
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品および誘電体磁器組成物
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
H01G4/30 201L
H01G4/30 201D
H01G4/30 201K
H01G4/30 512
H01G4/30 516
H01G4/30 515
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024056801
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】森田 浩一郎
(57)【要約】
【課題】 強誘電性を維持しつつBias特性を改善することができる積層セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】 積層セラミック電子部品は、チタン酸バリウムを主成分とし、コア部および前記コア部を覆うシェル部を有し、前記シェル部にカルシウムが固溶し、前記シェル部におけるカルシウム濃度が前記コア部におけるカルシウム濃度の10倍以上である複数の結晶粒子を含む誘電体層と、前記誘電体層を挟んで設けられ、ニッケルまたは銅を主成分とする内部電極と、前記内部電極に電気的に接続される外部電極と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを主成分とし、コア部および前記コア部を覆うシェル部を有し、前記シェル部にカルシウムが固溶し、前記シェル部におけるカルシウム濃度が前記コア部におけるカルシウム濃度の10倍以上である複数の結晶粒子を含む誘電体層と、
前記誘電体層を挟んで設けられ、ニッケルまたは銅を主成分とする内部電極と、
前記内部電極に電気的に接続される外部電極と、を有する積層セラミック電子部品。
【請求項2】
前記シェル部は、ガドリニウム、ジスプロシウム、ホルミウムまたはイットリウムの少なくとも一つを含む、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項3】
前記複数の結晶粒子同士の境界である粒界または粒界三重点に、ケイ素と、アルミニウム、マグネシウムまたはマンガンの少なくとも一つと、を含む、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項4】
前記複数の結晶粒子の平均粒径は、50nm以上400nm以下である、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項5】
前記誘電体層は、前記複数の結晶粒子とは構造の異なる副結晶粒子を含む、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項6】
前記シェル部は、ストロンチウムをさらに含む、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項7】
前記シェル部は、ストロンチウムをさらに含み、
前記シェル部におけるストロンチウムとカルシウムの和に対するストロンチウムの比率は、0.2以上0.4以下である、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項8】
チタン酸バリウムを主成分とし、コア部および前記コア部を覆うシェル部を有し、前記シェル部にカルシウムが固溶し、前記シェル部におけるカルシウム濃度が前記コア部におけるカルシウム濃度の10倍以上である複数の結晶粒子を有する誘電体磁器組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品および誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話を代表とする高周波通信用システムなどにおいて、ノイズを除去するために、積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multi-Layer ceramic capacitor)などの積層セラミック電子部品が用いられている(例えば、特許文献1~10を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-226263号公報
【特許文献2】特開2002-284571号公報
【特許文献3】特開2009-161417号公報
【特許文献4】特開2007-001859号公報
【特許文献5】特開2017-028225号公報
【特許文献6】特開2013-180906号公報
【特許文献7】特開2016-128372号公報
【特許文献8】特開2017-014093号公報
【特許文献9】特開2006-151766号公報
【特許文献10】特開2013-209239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層セラミック電子部品は、誘電体材料に常誘電体を使用するClass Iと、強誘電体を使用するClass IIとに大別される。Class IIの積層セラミック電子部品は、高誘電率型とも呼ばれ、チタン酸バリウム(BaTiO3)に代表される数千以上という高い比誘電率の材料が使用される。これにより、非常に高い容量密度(単位体積当たりの静電容量)を実現することが可能となり、小型大容量の積層セラミック電子部品が一般に使用されてきた。一方で、Class IIの積層セラミック電子部品は、強誘電体であるがゆえに直流電圧(Dc Bias)が印加されると、その大きさに応じて静電容量が低下するという特性(Dc Bias特性)を持っているため,高電圧用途に不向きであるという欠点があった。
【0005】
近年、車載用途などで高定格電圧かつ高容量の積層セラミック電子部品が求められるようになっているため、Bias特性の改善が重要になっている。Class IIの積層セラミック電子部品において,このBias特性を改善するために、これまでに様々な材料改質の手法が提案されている。主な手法としては、チタン酸バリウムを合成する過程で一部の元素を置換した化合物とすることでチタン酸バリウムとは異なった強誘電体に変えたものをチタン酸バリウムの代わりに主相として用いる方法である。チタンの一部をジルコニウムに変えたBa(Ti,Zr)O3(例えば、特許文献1参照)や、バリウムの一部をカルシウムとストロンチウムで置換した(Ba,Ca,Sr)TiO3(例えば、特許文献2参照)などが挙げられる。他にも、BaZrO3(例えば、特許文献3参照)など、類似の手法の情報が公開されている。別の手法としては、チタン酸バリウムに遷移元素やアルカリ土類などを微量に含ませておくという手法(例えば、特許文献4,5参照)も報告されている。チタン酸バリウムとは全く結晶構造の異なった物性をもつClass IIに対応する材料を用いる方法も提案されている。例えばタングステンブロンズ構造の材料(例えば、特許文献6参照)などである。ビスマスや鉛を用いた材料系で優れたBias特性を有するものの報告も数多くある(例えば、特許文献7,8参照)。
【0006】
しかしながら、チタン酸バリウムの元素置換型(例えば、特許文献1~5)のいずれの材料もチタン酸バリウムの強誘電性を大幅に低下させることでBias特性を穏健なものにするという手段である。それにより、Biasに対する比誘電率の変化率を小さく抑えることはできるが、肝心の比誘電率の絶対値として低くなりすぎてしまう問題があった。チタン酸バリウムとは別の結晶構造の材料(例えば、特許文献6)はBias印加以前の比誘電率がそもそもチタン酸バリウムと比べてかなり低い材料であり、やはり比誘電率の変化率は小さくても比誘電率絶対値としては小さいものになってしまう。ビスマスや鉛を含んだ材料系(例えば、特許文献7,8)は、比誘電率の絶対値的にも材料組成によってバリエーションがあるのでBias特性として有望な材料系ではあるが、ニッケルのような卑金属電極と同時焼成できない(誘電体中で還元してしまう)という問題がある。ビスマス系は、最適酸素分圧条件の幅が狭すぎて量産に向かない。更にビスマス、鉛は、蒸気圧が高く特に還元雰囲気では焼成中に蒸散してしまって焼結性も電気特性も大きく動いてしまうので、個体間の特性ばらつきが許容できない程に大きくなってしまう問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、強誘電性を維持しつつBias特性を改善することができる積層セラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る積層セラミック電子部品は、チタン酸バリウムを主成分とし、コア部および前記コア部を覆うシェル部を有し、前記シェル部にカルシウムが固溶し、前記シェル部におけるカルシウム濃度が前記コア部におけるカルシウム濃度の10倍以上である複数の結晶粒子を含む誘電体層と、前記誘電体層を挟んで設けられ、ニッケルまたは銅を主成分とする内部電極と、前記内部電極に電気的に接続される外部電極と、を有する。
【0009】
上記積層セラミック電子部品において、前記シェル部は、ガドリニウム、ジスプロシウム、ホルミウムまたはイットリウムの少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0010】
上記積層セラミック電子部品において、前記複数の結晶粒子同士の境界である粒界または粒界三重点に、ケイ素と、アルミニウム、マグネシウムまたはマンガンの少なくとも一つと、を含んでいてもよい。
【0011】
上記積層セラミック電子部品において、前記複数の結晶粒子の平均粒径は、50nm以上400nm以下であってもよい。
【0012】
上記積層セラミック電子部品において、前記誘電体層は、前記複数の結晶粒子とは構造の異なる副結晶粒子を含んでいてもよい。
【0013】
上記積層セラミック電子部品において、前記シェル部は、ストロンチウムをさらに含んでいてもよい。
【0014】
上記積層セラミック電子部品において、前記シェル部は、ストロンチウムをさらに含み、前記シェル部におけるストロンチウムとカルシウムの和に対するストロンチウムの比率は、0.2以上0.4以下であってもよい。
【0015】
本発明に係る磁器組成物は、チタン酸バリウムを主成分とし、コア部および前記コア部を覆うシェル部を有し、前記シェル部にカルシウムが固溶し、前記シェル部におけるカルシウム濃度が前記コア部におけるカルシウム濃度の10倍以上である複数の結晶粒子を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、強誘電性を維持しつつBias特性を改善することができる積層セラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係る誘電体磁器組成物を例示する模式的な断面図である。
【
図3】(a)はケース1を例示する図であり、(b)はケース2を例示する図である。
【
図5】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図8】(a)および(b)はXZ断面の拡大図である。
【
図9】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図10】(a)および(b)は内部電極形成工程を例示する図である。
【
図12】実施例1-1の元素マップを示す図である。
【
図13】比較例1-1の元素マップを示す図である。
【
図14】実施例2のTEM-EDX解析による元素マップ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る誘電体磁器組成物を例示する模式的な断面図である。
図1で例示するように、誘電体磁器組成物は、コアシェル構造を有する結晶粒子30を含んでいる。コアシェル構造を有する結晶粒子30は、略球形状のコア部31と、コア部31を囲むように覆うシェル部32とを備えている。コア部31は、添加化合物が固溶していないか、もしくは添加化合物の固溶量が少ない結晶部分である。シェル部32は、添加化合物が固溶しておりかつコア部31の添加化合物濃度よりも高い添加化合物濃度を有している結晶部分である。シェル部32における添加化合物濃度が、コア部31における添加化合物濃度よりも高くなっている。または、シェル部32に添加化合物が拡散しており、コア部31には添加化合物が拡散していない。
【0020】
本実施形態においては、結晶粒子30は、チタン酸バリウムを主成分とする。例えば、結晶粒子30において、チタン酸バリウムが90at%以上含まれている。シェル部32には、カルシウムが固溶している。シェル部32におけるカルシウム濃度は、コア部31におけるカルシウム濃度の10倍以上となっている。
【0021】
この構成によれば、誘電体磁器組成物の比誘電率を低下させすぎることなくBias特性を改善することができるため、高電界で高比誘電率を実現することができる。すなわち、強誘電性を維持しつつBias特性を改善することができる。例えば、
図2で例示するように、他の材料(通常のチタン酸バリウムを主相とする材料や通常のコアシェル構造)では印加電圧が高くなるほど静電容量が低下するが、本実施形態に係る磁器組成物では印加電圧が高くなっても静電容量の低下を抑制することができる。例えば、10V/μm以上において他の材料では得られない高い比誘電率絶対値(例えば、930@10V/μm)も可能となる。また、10V/μmにおいて、本実施形態に係る磁器組成物の静電容量をCnとし、他の材料の静電容量をC
0とした場合に、Cn/C
0≧1.5となる。卑金属の内部電極を用いても、問題が生じない。
【0022】
また、シェル部32には、ホルミウムのような希土類元素を同時に固溶させることで、材料寿命を延ばすことが可能である。加えて、粒界組成の自由度が高いので、ケイ素の他にアルミニウム、マグネシウム、マンガンを粒界に配置することで、Bias特性(粒子の特性)を悪化させずに更なる寿命向上も可能である。
【0023】
以上のような特徴から、車載用途などの高電圧下での高い実効容量に加え、高い信頼性が必要とされるアプリケーションに最適な卑金属内部電極を有する積層セラミック電子部品を設計することができるようになる。
【0024】
ここで、本実施形態に係る誘電体磁器組成物と、他の材料との差異について説明する。まず、他の材料について、ケース1とケース2とに分類する。
図3(a)の結晶粒子は、ケース1であって、チタン酸バリウムのコア部201を有するが、カルシウムが固溶していないシェル部202を有するものである。典型的には、シェル部202への添加物の主成分がマグネシウムとなっている。
図3(b)の結晶粒子は、ケース2であって、(Ba,Ca)TiO
3主体のコア部203へ希土類元素が固溶した結果としてのコアシェル構造である。
【0025】
まず、ケース1の課題について説明する。ケース1では、チタン酸バリウムをコア部201として、シェル部202がMg2+、Mn2+などの、Ti4+サイトを置換する低価数のカチオンで構成されると、シェル部202はTi4+に対してアクセプタ型シェルとなり、電気的中性条件から酸化物イオン欠陥が生成する。酸化物イオン欠陥は、分極をピニングしてBias特性を悪化させたり、電界下でマイグレーションして絶縁劣化を誘発したりする要因となる。逆に、シェル部202がV5+やNb5+などの、Ti4+サイトを置換する高価数のカチオンで構成されると、シェル部202はドナー型となる。この場合、酸化物イオン欠陥ができない代わりに、注入された過剰な電子により絶縁性が低下する。そこで、通常は、アクセプタ型とドナー型のカチオンをバランスよくシェルに配置して特性のバランスを保つ設計が行われる。
【0026】
この点について、本実施形態に係る磁器組成物では、シェル部32への添加元素であるCa2+は、Ba2+サイトを同価数で置換するカチオンであるため、アクセプタにもドナーにもならない。加えて、Ca2+のイオン半径は、Ba2+のイオン半径より小さいので、カルシウムが固溶することでBaTiO3のペロブスカイト構造をもった結晶格子の体積が収縮する。これにより、酸化物イオンとカチオンとの結合が強くなり、酸化物イオン欠陥が電界マイグレーションすることを抑制する効果がある。つまりBias特性と絶縁性と信頼性とのバランスを高いレベルで成立させることが可能となる。
【0027】
次に、ケース2の課題について説明する。元々の粒子がチタン酸バリウムではなく(Ba,Ca)TiO3であるため、コア部203は(Ba,Ca)TiO3となり、希土類元素などを粒子の外から固溶させるとカルシウムを含むシェル部204ができる。しかしながら、コア部203が(Ba,Ca)TiO3であるがゆえに、BaTiO3よりも分極反転にエネルギーが必要であるので、そもそも比誘電率が低く、高誘電率のBaTiO3コアをもつ本実施形態に対して小さな容量の積層セラミック電子部品しか設計できない。構造的にも、ケース2は、本実施形態に係る磁器組成物とは全く異なる。(Ba,Ca)TiO3をコアとした構造では、コアとシェルのカルシウム濃度は原理的に殆ど等しく、カルシウム濃度でコアとシェルが別れないためである。
【0028】
また、特許文献9では、BaTiO3にCaZrO3(あるいはCaOとZrO2)を添加することでカルシウムがBaTiO3の外部から内部へ向かって拡散した領域を持つ構造が開示されている。この文献では、温度特性をX8Rに収めるため、カルシウムの拡散領域の厚みを粒径D50%粒子径の10%~30%の範囲に収めることを必要条件としている。この文献では「Dcバイアス特性」が改善される効果も謳っているが、この文献で「Dcバイアス特性」という用語で述べられている現象は「Dc電界下での比誘電率の経時変化」のことであり、本明細書で謳っているBias特性「外部Dc電界印加によって比誘電率が低下する現象(非線形誘電率特性)」とは同じ名称であるが別の特性である。前者の「Dc電界下での比誘電率の経時変化」は「Dcエージング特性」もしくは「Dcバイアスエージング特性」と呼ばれることが一般的である。本実施形態で改善するのは、「エージング」ではなく「静特性」のDcBias特性であり、対象としている効果は文献の効果と全く異なる。また、本実施形態ではシェル部32の厚みを限定せず、むしろ厚みに分布をもつことが好ましいとしている点でも異なる。また、この文献では希土類元素として「Sc,Er,Tm,Yb及びLuから選択される少なくとも1種」を含むこととしているが、本実施形態に係る磁器組成物ではこれらの希土類元素は必要条件ではない。特許文献10では、TbとYbを含むことを要件にCaをシェル構成元素候補のひとつに挙げている(実施例はMgシェルのみ)ものが存在するが、上述の特許文献9と同様にX8Rの温度特性を確保するための設計でありBias特性を改善するものではない。特にTbとYbは本実施形態の磁器組成物のBias改善効果を得られない。
【0029】
なお、コア部31におけるカルシウム濃度およびシェル部32におけるカルシウム濃度は、以下の手法で測定することができる。まず、Energy Dispersive X-ray Spectroscopy(EDX)検出器を備えた透過電子顕微鏡:Transmission Electron Microscopy(TEM)により、カルシウムの元素マッピングを行う。本構造であれば,カルシウムが殆ど検出されない粒子中央のコア部31と、カルシウムが多量に検出されるシェル部32とでは明瞭なコントラストが得られる(例えば
図12および
図14)。こうして区別されたコア部31とシェル部32の各領域の中心部をEDXで定量分析することで、各領域のカルシウム濃度が判明する。これを粒子10粒について行い、コア部31とシェル部32の各領域の平均カルシウム濃度を算出する。このときシェル部32の平均カルシウム濃度がコア部31の平均カルシウム濃度の10倍以上であれば本構造であることが判明する。
【0030】
シェル部32におけるカルシウム濃度は、コア部31におけるカルシウム濃度の20倍以上であることが好ましく、40倍以上であることがより好ましい。
【0031】
結晶粒子30において、チタン酸バリウム100molに対して、カルシウムの量は、1.0mol以上5.0mol以下であることが好ましく、1.6mol以上4.5mol以下であることがより好ましく、2.0mol以上4.0mol以下であることがさらに好ましい。
【0032】
なお、材料寿命を延ばす観点から、本実施形態に係る磁器組成物のシェル部32は、希土類元素を含んでいることが好ましい。例えば、シェル部32は、ガドリニウム、ジスプロシウム、ホルミウムまたはイットリウムの少なくとも一つを含むことが好ましい。シェル部32において、これらの希土類元素量は、チタン酸バリウム100molに対して、例えば、0.5mol%以上2.0mol%以下であることが好ましく、0.8mol%以上1.5mol%以下であることがより好ましく、1.0mol%以上1.2mol%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
信頼性確保のために、結晶粒子30の粒界に添加元素が存在していることが好ましい。例えば、
図4で例示するように、結晶粒子30と他の結晶粒子との粒界33または粒界三重点34に、ケイ素が存在していることが好ましい。さらに、粒界33または粒界三重点34に、アルミニウム、マグネシウムまたはマンガンの少なくとも1つが存在していることが好ましい。なお、粒界33は、2つの結晶粒子の境界のことである。粒界三重点34は、3つ以上の結晶粒子の境界のことである。
【0034】
本実施形態に係る磁気組成物において、ケイ素量は、チタン酸バリウム100molに対して0.5mol以上3.0mol以下であることが好ましい。ケイ素以外の粒界成分(アルミニウム、マグネシウム、マンガンの1種以上)の合計量は、1.0mol以上5.0mol以下であることが好ましく、1.5mol以上4.0mol以下であることがより好ましく、2.0mol以上3.0mol以下であることがさらに好ましい。
【0035】
コアシェル構造の維持の観点から、結晶粒子の平均粒径に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、磁器組成物において複数の結晶粒子30が互いに焼結している場合に、当該複数の結晶粒子30の平均粒径は、50nm以上であることが好ましく、80nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましい。
【0036】
一方、焼結性確保の観点から、結晶粒子の平均粒径に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、磁器組成物において複数の結晶粒子30が互いに焼結している場合に、当該複数の結晶粒子30の平均粒径は、400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、250nm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
なお、磁器組成物における結晶粒子30の平均粒径は、以下の手法で測定することができる。まず、断面をSEM(走査型電子顕微鏡)にて撮影し,各粒子について電極面と水平方向の最大距離を測定する。100粒についてこれを行い,平均値を算出して求める。
【0038】
また、本実施形態に係る磁器組成物は、結晶粒子30とは構造の異なる副結晶粒子を含んでいることが好ましい。例えば、
図4で例示するように、本実施形態に係る磁器組成物は、副結晶粒子35を含んでいることが好ましい。なお、副結晶粒子35は、TEM-EDXでカルシウムの元素マッピングを実施したときに、カルシウムが殆どいない領域であるコア部31が確認されない、平均粒径より小さいという観点などで、結晶粒子30とは異なる構造を有している。
【0039】
また、本実施形態に係る磁器組成物において複数の結晶粒子30が焼結した構造を有する場合には、各結晶粒子30におけるシェル部32の幅に分布が形成されていることが好ましい。例えば、ある結晶粒子30ではシェル部32の幅を大きく、他の結晶粒子30ではシェル部32の幅を小さいことが好ましい。この場合、結晶粒子30の分極が反転するのに必要な電界強度に分布ができるため、Biasの増加に対する静電容量の落ち方が緩やかになる。したがって、広い電界領域で高い比誘電率を設計できるようになる。例えば、複数の結晶粒子30において、各シェル部32の幅について、最小の幅と最大の幅との差が、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましい。なお、シェル部32の幅は、断面をTEMで観察し、粒子の中心部を通るようにコア中心部から粒界までカルシウム濃度とシリコン濃度の線分析を実施することで求められる。コア部31の中心から粒界に向かって電子線を走査していき,コア中心部カルシウム濃度が10倍となる点をコア部31とシェル部32との境界と定義する。続けてシェル部32から粒界へ向かって電子線を走査していき、シリコン濃度がシェル部32中の10倍以上検出された点をシェル部32と粒界との境界と定義する。ここで、シリコンは主相中に固溶しない元素であるので、実際のシリコン濃度分布はシェル部32中で、検出限界以下で粒界において検出されるという結果になるのが通常である。こうして定めたコア部/シェル部境界とシェル部/粒界境界の間の距離(境界点を含む)をシェル部32の幅と定義する。
【0040】
また、本実施形態に係る結晶粒子は、Bias特性をさらに良好にする観点から、シェル部32にストロンチウムを含んでいることが好ましい。
【0041】
また、ストロンチウムとカルシウムとの和に対するストロンチウムの原子濃度比率が0.2以上となるようにストロンチウムを添加することによって、Bias特性が有意に改善する。しかしながら、ストロンチウムの添加量が多くなると容量温度特性が悪化していく副作用がある。そこで、ストロンチウムとカルシウムとの和に対するストロンチウムの原子濃度比率を0.4以下とすることが好ましい。この場合、容量温度特性をEIA規格X7Tに適合させることができる。
【0042】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図6は、
図5のA-A線断面図である。
図7は、
図5のB-B線断面図である。
図5~
図7で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する素体10と、素体10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、素体10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、素体10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0043】
なお、
図5~
図7において、Z軸方向(第1方向)は、積層方向であり、各内部電極層が対向する方向である。X軸方向(第2方向)は、素体10の長さ方向であって、素体10の2端面が対向する方向であり、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向である。Y軸方向(第3方向)は、内部電極層の幅方向であり、素体10の4側面のうち2端面以外の2側面が対向する方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0044】
素体10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、素体10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13は、誘電体層11と組成が同じであっても、異なっていても構わない。なお、内部電極層12が異なる2つの面に露出して、異なる外部電極に導通していれば、
図5から
図7の構成に限られない。
【0045】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0046】
内部電極層12は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、スズ(Sn)等の卑金属、またはこれらを含む合金を主成分とする。内部電極層12として、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。Z軸方向における内部電極層12の1層当たりの平均厚みは、例えば、5.0μm以下であり、3.0μm以下であり、1.0μm以下である。内部電極層12の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、異なる10層の内部電極層12についてそれぞれ10点ずつ厚みを測定し、全測定点の平均値を導出することによって測定することができる。
【0047】
誘電体層11は、第1実施形態に係る磁器組成物である。誘電体層11の厚みは、例えば、5.0μm以下であり、3.0μm以下であり、1.0μm以下である。誘電体層11の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、異なる10層の誘電体層11についてそれぞれ10点ずつ厚みを測定し、全測定点の平均値を導出することによって測定することができる。
【0048】
誘電体層11には、添加物が添加されていてもよい。誘電体層11への添加物として、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、希土類元素(イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)およびイッテルビウム(Yb))の酸化物、または、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含むガラスが挙げられる。
【0049】
図6で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量部14と称する。すなわち、容量部14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0050】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0051】
図7で例示するように、素体10において、サイドマージン16は、誘電体層11および内部電極層12の2側面側の端部(Y軸方向の端部)を覆うように設けられた領域である。すなわち、サイドマージン16は、Y軸方向において、容量部14の外側に設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0052】
図8(a)は、外部電極20a付近の拡大断面図である。
図8(b)は、外部電極20b付近の拡大断面図である。
図8(a)および
図8(b)では、ハッチを省略している。
図8(a)および
図8(b)で例示するように、外部電極20a,20bは、下地層21上に、めっき層22が設けられた構造を有している。下地層21は、ニッケル、銅などを主成分とする。下地層21は、共材としてセラミック粒子を含んでいてもよく、ガラス成分を含んでいてもよい。めっき層22は、ニッケル、銅、アルミニウム、亜鉛、スズなどの金属またはこれらの2以上の合金を主成分とする。めっき層22は、単一金属成分のめっき層でもよく、互いに異なる金属成分の複数のめっき層でもよい。例えば、めっき層22は、下地層21側から順に、第1めっき層23、第2めっき層24および第3めっき層25が形成された構造を有する。第1めっき層23は、例えば、銅めっき層である。第2めっき層24は、例えば、ニッケルめっき層である。第3めっき層25は、例えば、スズめっき層である。
【0053】
積層セラミックコンデンサ100においては、誘電体層11が第1実施形態に係る磁器組成物を有していることから、強誘電性を維持しつつBias特性を改善することができる。
【0054】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図9は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0055】
(シェル成分の分散工程)
シェル部32に添加するシェル成分をジルコニアビーズとエタノールで分散させる。シェル成分は、カルシウムを含む材料であり、例えば、CaCO3などである。さらに、シェル成分は、Ho2O3などの希土類元素を含んでいてもよい。分散後にジルコニアビーズを分離した液をA液とする。
【0056】
(粒界成分の分散工程)
次に、粒界成分をジルコニアビーズとエタノールで分散させる。粒界成分は、例えば、ケイ素を含む材料であり、例えば、SiO2などである。さらに、粒界成分は、MnCO3、MgO、Al2O3などを含んでいてもよい。分散後にジルコニアビーズを分離した液をB液とする。
【0057】
(混合工程)
次に、チタン酸バリウムの粉末とA液を混合し、トルエンと分散剤を足してジルコニアビーズで分散させる。例えば、チタン酸バリウムの粒度分布のD50%粒子径が1次径になるまで分散させる。分散後にジルコニアビーズを分離した液をC液とする。
【0058】
(攪拌工程)
B液とC液をタンクで合わせて、プロペラで攪拌混合する。
【0059】
(超音波分散工程)
次に、攪拌工程で得られた液に、ポリビニルブチラール(PVB)などの有機バインダを混合し、超音波をかけて有機スラリとする。
【0060】
(塗工工程)
次に、得られた有機スラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上にセラミックグリーンシート51を塗工して乾燥させる。基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。塗工工程を例示する図は省略した。
【0061】
(内部電極形成工程)
次に、
図10(a)で例示するように、セラミックグリーンシート51の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出される内部電極パターン52を配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。例えば、平均粒子径が50nm以下のチタン酸バリウムカルシウムを均一に分散させてもよい。
【0062】
次に、原料粉末作製工程で得られた誘電体磁器組成物に、エチルセルロース系等のバインダと、ターピネオール系等の有機溶剤とを加え、ロールミルにて混練して逆パターン層用の誘電体パターンペーストを得る。
図10(a)で例示するように、セラミックグリーンシート51上において、内部電極パターン52が印刷されていない周辺領域に誘電体パターンペーストを印刷することで誘電体パターン53を配置し、内部電極パターン52との段差を埋める。内部電極パターン52および誘電体パターン53が印刷されたセラミックグリーンシート51を積層単位と称する。
【0063】
その後、
図10(b)で例示するように、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、積層単位を積層していく。例えば、内部電極パターン52の積層数を100~1000層とする。
【0064】
(圧着工程)
図11で例示するように、積層単位が積層された積層体の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着する。カバーシート54のセラミック材料として、一例としては上述した誘電体磁器組成物を用いることができる。その後、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。
【0065】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気、大気雰囲気、等で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-10~10-7atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0066】
(再酸化処理工程)
その後、N2ガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0067】
(めっき処理工程)
その後、外部電極20a,20bの下地層上に、めっき処理により、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行う。以上の工程により、積層セラミックコンデンサ100が完成する。
【0068】
本実施形態に係る製造方法によれば、シェル成分の分散工程と粒界成分の分散工程とが独立して行われる。それにより、焼成時に粒界成分がチタン酸バリウムに固溶することが抑制される。その結果、
図1で説明した磁気組成物を作製することができるようになる。
【0069】
また、チタン酸バリウムのメジアン径と、シェル成分(A液)分散度と、を独立して調整することができる。それにより、焼結後におけるシェル部32の幅を制御することができるとともに、各結晶粒子30のシェル部32の幅に分布を持たせることができるようになる。例えば、ある結晶粒子30ではシェル部32の幅を大きくし、他の結晶粒子30ではシェル部32の幅を小さくすることができるようになる。この場合、結晶粒子30の分極が反転するのに必要な電界強度に分布ができるため、Biasの増加に対する静電容量の落ち方が緩やかになる。したがって、広い電界領域で高い比誘電率を設計できるようになる。
【0070】
上記各実施形態においては、積層セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の積層セラミック電子部品を用いてもよい。
【実施例0071】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0072】
(実施例1-1)
まず、シェル成分であるCaCO3とHo2O3をそれぞれ100molのBaTiO3に対して2.0mol、0.5molとなるように秤量し、ジルコニアビーズとエタノールで分散し、A液を作製した。同様に、粒界成分(SiO2、MnCO3、MgO、Al2O3)をそれぞれ100molのBaTiO3に対して1.0mol、0.5mol、0.5mol、0.5molとなるように秤量し、ジルコニアビーズとエタノールで分散した後、そのスラリをジルコニアビーズと分離してB液を作製した。
【0073】
次に、平均粒子径150nmのBaTiO3粉末と、A液、トルエン、分散剤を混合し、ジルコニアビーズで分散し、BaTiO3の粒度分布のメジアン径が150nmに達したところで分散を止めた。この分散後のスラリをフィルタに通してジルコニアビーズと分離した後、予め作製しておいたC液とタンクで混合し攪拌した。その後、バインダとしてPVB樹脂を混合して超音波分散を行った。
【0074】
こうして作製されたスラリをダイコータでPETフィルム上に4.0μm厚みのセラミックグリーンシートになるように塗工した。このセラミックグリーンシートを乾燥させた後にニッケルペーストを印刷して内部電極パターンとした。印刷後のセラミックグリーンシートを11層積層した。このとき、正極パターンと負極パターンとが交互になるように積層した。この積層方向の上下にカバーシートとして、セラミックグリーンシートと同組成のシートを各400μm積んで、熱圧着した。こうして作製された板状の成形体を個片(チップ)にカットした。
【0075】
カット後のチップの内部電極パターンの引き出し部が露出している対向した2面に、ニッケルペーストをディップして端子電極を形成した。こうして作製したチップを、N2-H2-H2O混合ガスによる還元雰囲気化で800℃まで100℃/hで昇温して脱バインダした。その後、昇温速度を6000℃/hに上げて1250℃まで温度を上げて1分保持した後、室温まで温度を下げた。こうして焼結させたチップに対して、その後にドライN2雰囲気中800℃で再酸化処理を行った。こうして外形1.0mm×0.5mm×0.5mmで有効誘電体総数10のサンプルを得た。焼結後の一層の平均誘電体厚みは3.0μmであった。
【0076】
(実施例1-2)
実施例1-2では、シェル成分のHo2O3の代わりに同量のDy2O3を用いた。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0077】
(実施例1-3)
実施例1-3では、シェル成分のHo2O3の代わりに同量のGd2O3を用いた。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0078】
(実施例1-4)
実施例1-4では、シェル成分のHo2O3の代わりに同量のY2O3を用いた。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0079】
(実施例1-5)
実施例1-5では、シェル成分のHo2O3の代わりに、Ho2O3およびDy2O3の両方を用いた。Ho2O3およびDy2O3の合計量は、実施例1-1でHo2O3を単独で用いた場合と同じとし、Ho2O3およびDy2O3のmol%を同じとした。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0080】
(実施例1-6)
実施例1-6では、シェル成分のHo2O3の代わりに、Ho2O3およびGd2O3の両方を用いた。Ho2O3およびGd2O3の合計量は、実施例1-1でHo2O3を単独で用いた場合と同じとし、Ho2O3およびGd2O3のmol%を同じとした。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0081】
(比較例1-1)
セラミックグリーンシートに用いた材料と配合比は実施例1-1と同じであるが、全ての原材料を一括でジルコニアビーズと溶剤と分散剤で分散してバインダを投入して有機スラリを作成した。また、脱バインダ後の焼成においても300℃/hという標準的な昇温速度を用いた。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0082】
(比較例1-2)
比較例1-2では、シェル成分のHo2O3の代わりに同量のTb2O3を用いた。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0083】
(比較例1-3)
比較例1-3では、シェル成分のHo2O3の代わりに同量のYb2O3を用いた。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0084】
実施例1-1~1-6および比較例1-1~1-3の焼成後のサンプルの断面を、Energy Dispersive X-ray Spectroscopy(EDX)検出器を備えた透過電子顕微鏡:Transmission Electron Microscopy(TEM)で解析した。
図12に実施例1-1の元素マップを示し、
図13に比較例1-1の元素マップを示す。実施例1-1では、BaTiO
3粒子が、中心にBaTiO
3のコア部を残して外周領域をカルシウムとホルミウムのシェル部で覆われたコアシェル構造を形成できていることが分かる。コア部とシェル部のカルシウム量をEDX定量分析すると、コア部のカルシウム量は全く検出されないか、検出されても検出限界に近い極微量であるのに対して、シェル部の母相中チタンに対するカルシウム濃度は2.0mol%%以上となっており、コア部とシェル部のカルシウム濃度差は少なくとも100倍以上存在していることを確認した。一方で、比較例1-1の元素マップを見るとカルシウムとホルミウムは、BaTiO
3とは異なる相として偏析してしまっており、コアシェル構造が形成できなかったことがわかる。
【0085】
これらのサンプルから10V/μmのDC電圧、1kHz、0.5Vrmsの条件でLCRメータによって静電容量を取得した。内部電極層の有効面積、層数、誘電体厚み、および真空の誘電率から、誘電体層の比誘電率を計算した。その結果、実施例1-1と比較例1-1の10V/μm印加下の比誘電率はそれぞれ800と630であった。この結果から、実施例1-1では、比較例1-1と比較して優れたBias特性を実現することが確認された。カルシウムが固溶するシェル部によるBias特性改善の機構の原因は未だ完全に特定されていないが、カルシウムの固溶によって分極反転に必要な電界(抗電界)に分布が導入されたことで、外部電圧に対する分極反転応答(その応答性の係数が誘電率である)の電圧依存性に変化が生じたためと考えられる。また、カルシウムが固溶して結晶格子が収縮することでBaTiO3コアに応力が加わり、当該応力が強誘電体ドメインの安定性に影響を及ぼした可能性もある。この両者は原理的に独立していることから、おそらくは同時に作用しているものと考えられる。
【0086】
実施例1-2から実施例1-6まではカルシウムが固溶したシェル部が形成されており、比誘電率もホルミウム単独の場合と遜色なかった。結果的にはホルミウム単独の実施例1-1が最も優れた特性を示した。一方で、希土類をテルビウム(比較例1-2)とイッテルビウム(比較例1-3)に置換した場合には、実施例1-1から実施例1-6までと同じプロセスで作製したにもかかわらず、カルシウムが固溶するシェル部が形成されず、比較例1-1と同様にカルシウムが偏析してしまった。10V/μm印加下の比誘電率も比較例1-1より更に悪化した。このことから、シェル成分としてテルビウムとイッテルビウムは不適であると判断される。
【0087】
(実施例2)
実施例2では、実施例1-1のBaTiO3の出発粒径150nmを250nmに置き換えた。粒界成分には、MnCO3を用いずに、SiO2、MgO、Al2O3の3種類とした。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0088】
(比較例2)
比較例2では、比較例1-1のBaTiO3の出発粒径150nmを250nmに置き換えた。粒界成分には、MnCO3を用いずに、SiO2、MgO、Al2O3の3種類とした。その他の条件は、比較例1-1と同じとした。
【0089】
実施例2および比較例2のサンプルでは、10V/μmの比誘電率はそれぞれ750と500であった。これらの結果から、実施例2ではBaTiO
3の粒径が異なっても高電界下での比誘電率を高めることができることが確認できた。このことは、実施形態に係る磁器組成物を用いることで、高電圧下で高い実効容量をもつ積層セラミック電子部品の設計が可能であることを意味する。このときの実施例2のTEM-EDX解析による元素マップを
図14に示す。ここでは、コアシェル元素の他に、粒界元素も追加して解析を行った。粒径は異なるが実施例1-1と同様にカルシウムとホルミウムが固溶したシェル部を有するコアシェル構造が確認できた。シェル部のカルシウム濃度は、コア部のカルシウム濃度の10倍以上であることが確認された。加えて、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素が局在した粒界が形成されていることが確認できた。このように、均一に濡れ広がる粒界設計にすることで、シェル成分(カルシウムと希土類元素)を粒子の1粒1粒に行き渡らせることができ、シェルをマクロ的に均一に形成させることができた。
【0090】
(比較例3-1)
比較例3-1では、比較例1-1のBaTiO3の出発粒径150nmを30nmに置き換えた。その他の条件は、比較例1-1と同じとした。
【0091】
(比較例3-2)
比較例3-2では、実施例1-1のBaTiO3の出発粒径150nmを30nmに置き換えた。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0092】
比較例3-1および比較例3-2では、両方とも焼結中にBaTiO3粒子が異常粒成長してしまい、電気特性評価に値しない(最低限の絶縁性を確保できない)ものになってしまったため、誘電率の測定ができなかった。これらの結果から、BaTiO3の出発粒径に下限を設けることが好ましいことがわかった。
【0093】
(比較例4)
比較例4では、比較例1-1のBaTiO3の出発粒径150nmを50nmに置き換えた。その他の条件は、比較例1-1と同じとした。
【0094】
(実施例4)
実施例4では、実施例1-1のBaTiO3の出発粒径150nmを50nmに置き換えた。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0095】
実施例4および比較例4のサンプルでは、10V/μmの比誘電率はそれぞれ930と450であった。これらの結果から、実施例4では高電界下での比誘電率を高めることができることが確認できた。
【0096】
(比較例5)
比較例5では、比較例1-1のBaTiO3の出発粒径150nmを100nmに置き換えた。その他の条件は、比較例1-1と同じとした。
【0097】
(実施例5)
実施例5では、実施例1-1のBaTiO3の出発粒径150nmを100nmに置き換えた。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0098】
実施例5および比較例5のサンプルでは、10V/μmの比誘電率はそれぞれ880と480であった。これらの結果から、実施例5では高電界下での比誘電率を高めることができることが確認できた。
【0099】
(比較例6)
比較例6では、比較例1-1のBaTiO3の出発粒径150nmを400nmに置き換えた。その他の条件は、比較例1-1と同じとした。
【0100】
(実施例6)
実施例6では、実施例1-1のBaTiO3の出発粒径150nmを400nmに置き換えた。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0101】
実施例6および比較例6のサンプルでは、10V/μmの比誘電率はそれぞれ700と350であった。これらの結果から、実施例6では高電界下での比誘電率を高めることができることが確認できた。
【0102】
(比較例7-1)
比較例7-1では、比較例1-1のBaTiO3の出発粒径150nmを500nmに置き換えた。その他の条件は、比較例1-1と同じとした。
【0103】
(比較例7-2)
比較例7-2では、実施例1-1のBaTiO3の出発粒径150nmを500nmに置き換えた。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0104】
比較例7-1および比較例7-2では、両方とも焼成温度を1300℃まで上げても十分に緻密化しなかったため、電気特性の評価ができなかった。これらの結果から、BaTiO3の出発粒径に上限を設けることが好ましいことがわかった。
【0105】
【0106】
(実施例8-1)
実施例8-1では、粒界成分をSiO2の1種類とした。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0107】
(実施例8-2)
実施例8-2では、粒界成分をSiO2、Al2O3の2種類とした。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0108】
(実施例8-3)
実施例8-3では、粒界成分をSiO2、MgOの2種類とした。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0109】
(実施例8-4)
実施例8-4では、粒界成分をSiO2、MnCO3の2種類とした。その他の条件は、実施例1-1と同じとした。
【0110】
比較例1-1、実施例1-1、および実施例8-1~8-4のサンプルについて平均寿命(h@150℃、50V/μm)を測定した。平均寿命については、150℃、50V/μmの条件で、ショート故障に至るまでの時間の平均値を測定した。
【0111】
表2に、結果を示す。表2では、実施例1-1および比較例1-1の結果も合わせて示してある。実施例8-1~8-4のいずれにおいてもカルシウムが固溶したシェル部が形成されており、シェル部におけるカルシウム濃度がコア部におけるカルシウム濃度の10倍以上であった。実施例8-1~8-4のいずれにおいても、Bias特性(高電界下での誘電率)は良好であった。平均寿命については、実施例8-1よりも実施例8-2~8-4および実施例1-1の方が良好であった。これらの結果から、粒界成分として2種類い以上を用いることが好ましいことがわかった。さらに、実施例8-2~8-4よりも実施例1-1の方が良好であったことから、粒界成分として3種類以上用いることが好ましいことがわかった。
【表2】
【0112】
(実施例9-1)
実施例9-1では、シェル部のカルシウムの一部をストロンチウムで置換した。シェル部において、ストロンチウムとカルシウムの和に対するストロンチウムの比率(Sr/(Ca+Sr))は、0.2であった。その他の条件は、実施例2と同じとした。
【0113】
(実施例9-2)
実施例9-2では、シェル部のカルシウムの一部をストロンチウムで置換した。シェル部において、ストロンチウムとカルシウムの和に対するストロンチウムの比率(Sr/(Ca+Sr))は、0.4であった。その他の条件は、実施例2と同じとした。
【0114】
(実施例9-3)
実施例9-3では、シェル部のカルシウムの一部をストロンチウムで置換した。シェル部において、ストロンチウムとカルシウムの和に対するストロンチウムの比率(Sr/(Ca+Sr))は、0.6であった。その他の条件は、実施例2と同じとした。
【0115】
(実施例9-4)
実施例9-4では、シェル部のカルシウムの一部をストロンチウムで置換した。シェル部において、ストロンチウムとカルシウムの和に対するストロンチウムの比率(Sr/(Ca+Sr))は、0.8であった。その他の条件は、実施例2と同じとした。
【0116】
結果を表3に示す。なお、容量温度特性がX7Tを満足するか否かについても調べた。表3の結果から、Sr/(Ca+Sr)が大きくなるほど10V/μmにおける比誘電率が大きくなることがわかった。一方で、Sr/(Ca+Sr)が大きくなるとEIA規格のX7Tを満足しないことがあるため、Sr/(Ca+Sr)は0.4以下であることが好ましいことがわかる。
【表3】
【0117】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。