(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069735
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 55/00 20060101AFI20240515BHJP
C08L 33/12 20060101ALI20240515BHJP
C08L 25/12 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C08L55/00
C08L33/12
C08L25/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048953
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 亘
(72)【発明者】
【氏名】松原 達宏
(72)【発明者】
【氏名】西野 広平
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC06Z
4J002BG03Y
4J002BG04Y
4J002BG06W
4J002BG06Y
4J002BN16X
4J002FD020
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD170
4J002GM00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】可塑剤等への耐薬品性、透明性に優れる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明によれば、熱可塑性樹脂組成物であって、芳香族ビニル系単量体単位(a)、メタクリル酸エステル系単量体単位(b)、アクリル酸エステル単量体単位(c)を含む相を含有し、ジエン系ゴム状弾性体を有するグラフト系共重合体を含み、前記相100質量%中に含まれるアクリル酸エステル単量体(c)が1~15質量%であり、前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる粒子のうち、ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子の短径の平均値が50nm以下である、熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物であって、
芳香族ビニル系単量体単位(a)、メタクリル酸エステル系単量体単位(b)、アクリル酸エステル単量体単位(c)を含む相を含有し、
ジエン系ゴム状弾性体を有するグラフト系共重合体を含み、
前記相100質量%中に含まれるアクリル酸エステル単量体(c)が1~15質量%であり、
前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる粒子のうち、ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子の短径の平均値が50nm以下である、
熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記相100質量%中に含まれる芳香族ビニル系単量体単位(a)が20~50質量%、メタクリル酸エステル系単量体(b)が30~75質量%であり、熱可塑性樹脂組成物から得られる2mm厚の成形品のHaze値が10%以下である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
重合体(A)、グラフト系共重合体(B)、及びメタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)成分の合計質量を100質量%とした場合に、前記重合体(A)を20~60質量%、前記グラフト系共重合体(B)を10~45質量%、前記メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)を1~15質量%の範囲内で含み、
前記重合体(A)は、芳香族ビニル系単量体単位及びメタクリル酸エステル系単量体単位の合計質量を100質量%とした場合に、芳香族ビニル系単量体単位を0~40質量%、メタクリル酸エステル系単量体単位を60~100質量%の範囲内で含み、
前記グラフト系共重合体(B)は、ジエン系ゴム状弾性体に少なくとも芳香族ビニル系単量体を共重合してなるグラフト系共重合体を含み、
前記メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)は、メタクリル酸エステル系重合体ブロック及びアクリル酸エステル系重合体ブロックの合計質量を100%とした場合に、メタクリル酸エステル系重合体ブロックを25~75質量%、アクリル酸エステル系重合体ブロックを25~75質量%の範囲内で含む、
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
芳香族ビニル系単量体単位、シアン化ビニル系単量体単位の合計質量を100質量%とした場合に、芳香族ビニル系単量体単位が75~90質量%、シアン化ビニル系単量体単位が10~25質量%である共重合体(D)を1~50質量%含む請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
グラフト系共重合体(B)が、ジエン系ゴム状弾性体に芳香族ビニル系単量体と、メタクリル酸エステル系単量体と、シアン化ビニル系単量体とを共重合してなるグラフト系共重合体である請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
重合体(A)、グラフト系共重合体(B)、及びメタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)成分の合計質量を100質量%とした場合に、前記重合体(A)を20~60質量%、前記グラフト系共重合体(B)を10~45質量%、前記メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)を1~15質量%の範囲内で配合し、溶融混練する工程を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
前記重合体(A)は、芳香族ビニル系単量体単位及びメタクリル酸エステル系単量体単位の合計質量を100質量%とした場合に、芳香族ビニル系単量体単位を0~40質量%、メタクリル酸エステル系単量体単位を60~100質量%の範囲内で含み、
前記グラフト系共重合体(B)は、ジエン系ゴム状弾性体に少なくとも芳香族ビニル系単量体を共重合してなるグラフト系共重合体であり、
前記メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)は、メタクリル酸エステル系重合体ブロック及びアクリル酸エステル系重合体ブロックの合計質量を100%とした場合に、メタクリル酸エステル系重合体ブロックを25~75質量%、アクリル酸エステル系重合体ブロックを25~75質量%の範囲内で含む、
熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂組成物、その成形体及びその成形体を用いた耐薬品性透明成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ABS樹脂のようなゴム変性熱可塑性樹脂は、耐衝撃性、機械物性、成形加工性に優れているため、家電製品、電気・電子機器部品、OA機器、パチンコ部品等に幅広く使用されており、特に機能面等で透明性を必要とされる用途には、透明ABS樹脂が使用される。しかしながら、このような透明樹脂は、アルコールや可塑剤などの有機溶剤や脂肪乳剤などに対する耐性が十分ではなく、用途や使用環境によっては割れやクラックが発生するという問題点があり、耐薬品性の改善を求められている。
【0003】
これら透明ABS樹脂の耐薬品性を向上させる手段としては、シアン化ビニルの含有割合を高めることが一般的に知られており、いわゆる高ニトリル含有熱可塑性樹脂組成物が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1~2では、スチレン-アクリロニトリル-メタクリル酸メチルの共重合体とグラフト系共重合体からなる樹脂組成物が提案されている。また、特許文献3では、炭素数1~4のアルキルアクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体及びグラフト系共重合体からなる樹脂組成物が提案されている。さらに、特許文献4では、スチレン-メタクリル酸メチル系樹脂、シアン化ビニルと芳香族ビニルの共重合体、ゴム状弾性体にスチレン系単量体とメタクリル酸エステル系単量体とシアン化ビニル系単量体とを共重合してなるグラフト系共重合体からなる樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-179873号公報
【特許文献2】特開2002-212369号公報
【特許文献3】特開平2-274747号公報
【特許文献4】特願2010-546647号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記文献記載の従来技術ではニトリル系官能基を有する構造を多く有するため透明性が悪化するという問題を有しており、かつ洗剤に対する耐性については例示があるが、三方活栓等の塩ビチューブと接続する部材では塩ビチューブに含まれる可塑剤がブリードアウトして汚染されることで割れが発生するなど必ずしも耐薬品性が充分でない課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、芳香族ビニル系単量体単位、メタクリル酸エステル系単量体単位、アクリル酸エステル単量体単位を含む相を含有し、ジエン系ゴム状弾性体を有するグラフト系共重合体を含み、当該相100質量%中に含まれるアクリル酸エステル単量体が1~15質量%であり、前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる粒子のうち、ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子の短径の平均値が50nm以下である熱可塑性樹脂組成物が可塑剤等への耐薬品性、透明性に優れることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。芳香族ビニル系単量体単位(a)、メタクリル酸エステル系単量体単位(b)、アクリル酸エステル単量体単位(c)を含む相を含有し、ジエン系ゴム状弾性体を有するグラフト系共重合体を含み、前記相100質量%中に含まれるアクリル酸エステル単量体(c)が1~15質量%であり、前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる粒子のうち、ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子の短径の平均値が50nm以下である、熱可塑性樹脂組成物。
【0009】
本発明は一側面において、前記相100質量%中に含まれる芳香族ビニル系単量体単位(a)が20~50質量%、メタクリル酸エステル系単量体(b)が30~75質量%であり、熱可塑性樹脂組成物から得られる2mm厚の成形品のHaze値が10%以下である、熱可塑性樹脂組成物である。
【0010】
また、本発明は一側面において、重合体(A)、グラフト系共重合体(B)、及びメタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)成分の合計質量を100質量%とした場合に、前記重合体(A)を20~60質量%、前記グラフト系共重合体(B)を10~45質量%、前記メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)を1~15質量%の範囲内で含み、前記重合体(A)は、芳香族ビニル系単量体単位及びメタクリル酸エステル系単量体単位の合計質量を100質量%とした場合に、芳香族ビニル系単量体単位を0~40質量%、メタクリル酸エステル系単量体単位を60~100質量%の範囲内で含み、前記グラフト系共重合体(B)は、ジエン系ゴム状弾性体に少なくとも芳香族ビニル系単量体を共重合してなるグラフト系共重合体を含み、前記メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)は、メタクリル酸エステル系重合体ブロック及びアクリル酸エステル系重合体ブロックの合計質量を100%とした場合に、メタクリル酸エステル系重合体ブロックを25~75質量%、アクリル酸エステル系重合体ブロックを25~75質量%の範囲内で含む、熱可塑性樹脂組成物である。
【0011】
本発明は一側面において、芳香族ビニル系単量体単位、シアン化ビニル系単量体単位の合計質量を100質量%とした場合に、芳香族ビニル系単量体単位が75~90質量%、シアン化ビニル系単量体単位が10~25質量%である共重合体(D)を1~50質量%含む、熱可塑性樹脂組成物である。
【0012】
また、本発明は一側面において、グラフト系共重合体(B)がジエン系ゴム状弾性体に芳香族ビニル系単量体と、メタクリル酸エステル系単量体と、シアン化ビニル系単量体とを共重合してなるグラフト系共重合体である、熱可塑性樹脂組成物である。
【0013】
本発明は一側面において、重合体(A)、グラフト系共重合体(B)、及びメタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)成分の合計質量を100質量%とした場合に、前記重合体(A)を20~60質量%、前記グラフト系共重合体(B)を10~45質量%、前記メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)を1~15質量%の範囲内で配合し、溶融混練する工程を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、前記重合体(A)は、芳香族ビニル系単量体単位及びメタクリル酸エステル系単量体単位の合計質量を100質量%とした場合に、芳香族ビニル系単量体単位を0~40質量%、メタクリル酸エステル系単量体単位を60~100質量%の範囲内で含み、前記グラフト系共重合体(B)は、ジエン系ゴム状弾性体に少なくとも芳香族ビニル系単量体を共重合してなるグラフト系共重合体であり、前記メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)は、メタクリル酸エステル系重合体ブロック及びアクリル酸エステル系重合体ブロックの合計質量を100%とした場合に、メタクリル酸エステル系重合体ブロックを25~75質量%、アクリル酸エステル系重合体ブロックを25~75質量%の範囲内で含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は透明性、耐薬品性に優れるため可塑剤を含むプラスチックと接触する等、耐薬品性が要求される医療用器具や家電製品、通信関連機器及び一般雑貨などの用途分野で幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例2で得られた熱可塑性樹脂組成物を染色した後にTEM観察して得られた写真である。
【
図2】実施例3で得られた熱可塑性樹脂組成物を染色した後にTEM観察して得られた写真である。
【
図3】比較例3で得られた熱可塑性樹脂組成物を染色した後にTEM観察して得られた写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<用語の説明>
本願明細書において、例えば、「A~B」なる記載は、A以上でありB以下であることを意味する。
【0017】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
【0018】
<熱可塑性樹脂組成物に含有される相>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物に含有される相は、芳香族ビニル系単量体単位(a)、メタクリル酸エステル系単量体単位(b)、及びアクリル酸エステル単量体単位(c)を含有する。当該相は、本発明の効果を損なわない範囲で、シアン化ビニル系単量体単位(d)、無水マレイン酸、N-フェニルマレイミド、N-メチルマレイミド等のN-置換マレイミド系単量体単位、及びグリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体を含有してもよい。当該相は、実質的に芳香族ビニル系単量体単位(a)、メタクリル酸エステル系単量体単位(b)、及びアクリル酸エステル単量体単位(c)のみを含有するものであってもよい。
また、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、芳香族ビニル系単量体単位(a)、メタクリル酸エステル系単量体単位(b)、及びアクリル酸エステル単量体単位(c)を含有する相以外の相をさらに含有してもよい。
【0019】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物に含有される相は、芳香族ビニル系単量体単位(a)を含有する。芳香族ビニル系単量体としては特に限定されないが、スチレン、αーメチルスチレン、pーメチルスチレン、3、5ージメチルスチレン、4ーメトキシスチレン、2ーヒドロキシスチレンなどの置換基を有する置換スチレン、αーブロムスチレン、2、4ージクロロスチレンなどのハロゲン化スチレン、1ービニルナフタレンなどが挙げられる。芳香族ビニル系単量体単位(a)は、入手の容易性や重合性等の観点から、スチレンまたはαーメチルスチレンが好ましい。
【0020】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物に含有される相は、メタクリル酸エステル系単量体単位(b)を含有する。メタクリル酸エステル系単量体単位としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のメタクリル酸エステルがあげられるが、樹脂への耐熱性付与の観点からは、メチルメタクリレートを用いることが好ましい。これらのメタクリル酸エステル系単量体は単独で用いてもよいが二種類以上を併用してもよい。これらのメタクリル酸エステル系単量体単位については、例えば、対応する単量体からなる、あるいは含んでなる原料を用いて製造することができる。
【0021】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物に含有される相は、アクリル酸エステル単量体単位(c)を含有する。アクリル酸エステル単位を誘導する単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等が挙げられる。アクリル酸エステル単量体単位(c)は、耐薬品性の観点から、アクリル酸ブチルが好ましい。
【0022】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物中に含まれる粒子のうち、ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子の短径の平均値は、50nm以下である。ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子とは、アクリル系ブロック共重合体に由来する粒子である。
一態様においては、ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子が確認できなくてもよい。ここでいう「ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子が確認できない」とは、例えば、以下に示す条件においてTEM観察を行った場合に、四酸化オスミウム(OsO
4)により染色された粒子以外に他の部分と明確に明度が異なる部分が観測されない状態となることをいう。このような場合には、当該ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子を構成しうる成分がナノ分散している場合があり、透明性を損なわず耐薬品性を発揮できる。一方で、短径の平均値が50nmを超えると、透明性が悪化するため好ましくない。ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子の短径の平均値が40nm以下であると好ましく、30nm以下であると更に好ましい。ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子の形状については特に限定されず、球状、ロッド状などであってもよい。
また、短径とは、明相部を構成する粒子中の対角線を結んだ径の最小径をいう。
<TEM観察条件>
TEM観察は以下の通り行った。樹脂組成物のペレットから超薄切片を切り出し、四酸化オスミウム蒸気中で30分間染色し、更に四酸化ルテニウム蒸気中で30分間染色した。透過型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、H-7500)を用いて、写真を撮影した。なお、撮影は、6000~20,000倍の範囲で適宜設定する。なお、本発明の
図1~3は拡大倍率を20,000倍(加速電圧80kv)とした。
【0023】
熱可塑性樹脂組成物に含まれる粒子のうち、ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子の短径の平均値は、例えば、以下のようにして算出できる。
(1)ジエン系ゴム状弾性体を選択的に染色可能な物質(例えば四酸化オスミウム(OsO
4))により樹脂を染色し、さらに飽和系炭化水素の非晶部を染色する物質(四酸化ルテニウム(RuO
4))で染色して、TEM観察を行う。(
図1~
図3)
(2)観察したTEM画像の3μm四方の領域において観測される粒子のうち、ジエン系ゴム状弾性体以外の粒子として染色されていない粒子を30個選択し、その短径を測定し、その数の算術平均を求める。
また、TEM-IRや、ナノIRイメージング等によっても、熱可塑性樹脂組成物に含まれる粒子の組成を特定可能である。このような手法によりジエン系ゴム状弾性体以外の粒子を特定し、上述のようにしてその短径の平均値を算出することも可能である。
【0024】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物に含まれる粒子のうち、ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子の短径の平均値を50nm以下とする方法は特に限定されないが、特定の組成をもつメタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)を他の樹脂と溶融混錬する方法が簡便で好ましい。メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)中のメタクリル酸エステル単位(b)、アクリル酸エステル単位(c)を誘導する単量体としては前述した単量体が挙げられる。
【0025】
メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体のうちメタクリル酸エステル系重合体ブロックは、メタクリル酸エステル系重合体ブロックを主体とする重合体ブロックであり、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体100質量%中にメタクリル酸エステル単位を25~75質量%含むことが好ましく、より好ましくは35~65質量%、さらに好ましくは45~55質量%含む。具体的には例えば、25、35、45、55、65、又は、75質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体のうちアクリル酸エステル系重合体ブロックは、アクリル酸エステル系重合体ブロックを主体とする重合体ブロックであり、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体100質量%中にアクリル酸エステル単位を25~75質量%含むことが好ましく、より好ましくは35~65質量%、さらに好ましくは45~55質量%含む。アクリル酸エステル系重合体ブロックが75質量%を超える場合は分散が不充分となり、透明性が低下する。具体的には例えば、25、35、45、55、65、又は、75質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0027】
熱可塑性樹脂組成物に含有される相100質量%中に含まれる芳香族ビニル系単量体単位(a)の含有量は20~50質量%であることが好ましく、20~30質量%であることがさらに好ましい。具体的には例えば、20、22、24、26、28、30、35、40、45、又は50質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。芳香族ビニル系単量体単位(a)の含有量が50質量%を超えると熱可塑性樹脂組成物の透明性が低下したり耐薬品性が低下する。芳香族ビニル系単量体単位(a)の含有量が20質量%未満であると、成形性や剛性などの機械物性が低下する。
【0028】
熱可塑性樹脂組成物に含有される相100質量%中に含まれるメタクリル酸エステル系単量体単位(b)の含有量は30~80質量%であることが好ましく、50~75質量%であることがさらに好ましい。具体的には例えば、30、40、50、55、60、65、70、75、又は80質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。メタクリル酸エステル系単量体単位(b)の含有量が80質量%を超えると熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度が低下する。また、メタクリル酸エステル系単量体単位(b)の含有量が30質量%未満であると、透明性が低下する。
【0029】
熱可塑性樹脂組成物に含有される相100質量%中に含まれるアクリル酸エステル単量体単位(c)の含有量は、耐薬品性や透明性、耐熱性の観点から、1~15質量%であり、4~10質量%であることが好ましい。具体的には例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は15質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0030】
熱可塑性樹脂組成物に含有される相100質量%中に含まれる、芳香族ビニル系単量体芳香族ビニル系単量体単位(a)、メタクリル酸エステル系単量体単位(b)、及びアクリル酸エステル単量体単位(c)以外の成分は、本発明の耐薬品性や透明性、強度を保つ観点から、20質量%未満であることが好ましく、より好ましくは15質量%未満である。具体的には例えば、20、18、16、または15質量%未満である。熱可塑性樹脂組成物に含有される相は、実質的に芳香族ビニル系単量体単位(a)、メタクリル酸エステル系単量体単位(b)、及びアクリル酸エステル単量体単位(c)のみを含有するものであってもよい。
熱可塑性樹脂組成物に含有される相に含まれる各単量体単位の含有量は、配合する原料の組成をIRやNMR等で分析して配合量から算出する方法や、熱可塑性樹脂組成物のMEK可溶分について熱分解GC/MSやNMR等を測定することで求められる。
【0031】
<メタクリル酸エステル系単量体単位を含む重合体(A)>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物はメタクリル酸エステル系単量体単位を含む重合体(A)を含有してもよい。この構造は、特に限定されず、芳香族ビニル系単量体単位及びメタクリル酸エステル系単量体単位を含む任意の構造の共重合体を用いることができる。すなわち、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、グラフト系共重合体等のブロック共重合体のいずれの構造の共重合体であってもよい。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物100質量%に含まれる重合体(A)の含有量は、透明性の観点から20質量%以上であり、好ましくは25質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上である。また、耐薬品性、強度の観点から60質量%以下であり、好ましくは55質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。
【0032】
上記の重合体(A)が有するメタクリル酸エステル系単量体単位としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のメタクリル酸エステルに由来する単量体単位があげられるが、樹脂への耐熱性付与の観点からは、メチルメタクリレートに由来する単量体単位を有することが好ましい。重合体(A)は、これらのメタクリル酸エステル系単量体を単独で有していてもよいが二種類以上を有してもよい。これらのメタクリル酸エステル系単量体単位については、例えば、対応する単量体の1種又は2種以上からなる、あるいはそれらを含んでなる原料を用いて製造することができる。
【0033】
上記の重合体(A)は、芳香族ビニル系単量体単位とメタクリル酸エステル系単量体単位の他に共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含む共重合体であってもよい。その他の共重合可能な単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、α,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル、α,β-不飽和カルボン酸、芳香族ビニル、シアン化ビニル、N-置換マレイミド類、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0034】
なお、この重合体(A)は、芳香族ビニル系単量体単位、メタクリル酸エステル系単量体単位、及びその他の共重合可能な単量体の合計質量を100質量%とした場合に、芳香族ビニル系単量体単位が0~40質量%、メタクリル酸エステル系単量体単位が60~100質量%の範囲内で含まれていると、相の単量体単位組成を前記範囲に調整しやすいため好ましい。また、芳香族ビニル系単量体単位が0~30質量%、メタクリル酸エステル系単量体単位が70~100質量%の範囲内で含まれていることがより好ましく、芳香族ビニル系単量体単位が0~25質量%、メタクリル酸エステル系単量体単位が75~100質量%の範囲内で含まれていることが更に好ましく、芳香族ビニル系単量体単位が0~20質量%、メタクリル酸エステル系単量体単位が80~100質量%の範囲内で含まれていることが更により好ましい。
また、この重合体(A)は、芳香族ビニル系単量体単位、メタクリル酸エステル系単量体単位、及びその他の共重合可能な単量体の合計質量を100質量%とした場合に、その他の共重合可能な単量体が5質量%未満、好ましくは3質量%未満含まれていることが透明性や強度を保てるため好ましい。
【0035】
<グラフト系共重合体(B)>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物はグラフト系共重合体(B)を含有する。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物100質量%に含まれるグラフト共重合体(B)の含有量は、耐衝撃性の観点から10質量%以上であり、好ましくは17質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。また、流動性の観点から45質量%以下であり、好ましくは42質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
【0036】
グラフト系共重合体(B)を構成するジエン系ゴム状弾性体としては、特に限定されないが、例えば、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下のジエン系ゴム状弾性体が挙げられる。ジエン系ゴム状弾性体としては、以下に限定されないが、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエンブロック共重合ゴム、スチレン-イソプレンブロック共重合ゴム等の共役ジエン系ゴム、が挙げられる。これらのジエン系ゴム状弾性体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
これらの中でも、耐衝撃性や歪み下の耐薬品性の観点から、ジエン系ゴム状弾性体は、共役ジエン系ゴムであることが好ましく、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴムであることがより好ましい。
【0038】
また、グラフト系共重合体(B)に含まれるジエン系ゴム状弾性体は、耐衝撃性や歪み下の耐薬品性の観点から、粒子状の形態であることが好ましい。ジエン系ゴム状弾性体が粒子状であるとき、当該粒子の質量平均粒子径は、100nm以上500nm未満が好ましい。100nm以上であると、耐薬品性や耐衝撃性の改良効果が大きくなり、500nm未満であれば、耐衝撃性に加えて光沢等の外観を保持する傾向にある。
【0039】
ジエン系ゴム状弾性体にグラフトさせる単量体としては、少なくとも芳香族ビニル系単量体を含む。芳香族ビニル構造に対応する単量体としては重合体(A)で芳香族ビニル単量体の具体例として例示したものが挙げられる。
【0040】
その他にジエン系ゴム状弾性体にグラフトさせる単量体として、特に限定されるものではないが、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体を含むことがさらに好ましい。メタクリル酸エステル系単量体としては重合体(A)で具体例として例示したものが挙げられる。
【0041】
上記グラフト共重合体の単量体として使用されるシアン化ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、及びエタクリロニトリルが挙げられる。これらのシアン化ビニル単量体は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
グラフト系共重合体(B)を構成するジエン系ゴム状弾性体の製造方法としては、特に限定されず、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状懸濁重合法、及び乳化重合法が挙げられる。これらの中でも、粒子状のゴム成分が得られ、その粒子径の制御が容易である観点から、乳化重合法、懸濁重合法、又は塊状懸濁重合法が好ましい。
【0043】
グラフト系共重合体(B)を構成するジエン系ゴム状弾性体として、複数のTgを有する重合体を用いる場合は、異なる単量体組成のものを、多段階に分けて重合する。すなわち、各々異なる単量体組成で重合した、各々が異なるTgを有する複数種類の重合体を得、これらの混合物とすることにより、上記のようなジエン系ゴム状弾性体を製造することができる。この場合、乳化重合法を用い、多段重合により製造することが好ましい。
【0044】
また、ジエン系ゴム状弾性体として、組成勾配を有する重合体を用いる場合、単量体組成を連続的に変化させて重合することにより、当該ジエン系ゴム状弾性体を製造することができる。
【0045】
ジエン系ゴム状弾性体として、芳香族ビニル系単量体と、共役ジエン系単量体のブロック共重合体(例えば、スチレン-ブタジエンブロック共重合体)を用いる場合、溶液中でリビングアニオン重合を行うことにより、上記のようなジエン系ゴム状弾性体を製造することができる。
【0046】
また、グラフト系共重合体(B)を製造する方法、例えば、ジエン系ゴム状弾性体に単量体混合物をグラフト共重合させる方法としては、特に限定されず、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状懸濁重合法、乳化重合法が挙げられる。なお、粒子状のジエン系ゴム状弾性体を製造した後、同一の反応器で連続的にグラフト共重合を行ってもよく、ジエン系ゴム状弾性体粒子を一旦ラテックスとして単離した後、グラフト共重合を行ってもよい。
【0047】
グラフト系共重合体(B)は、ジエン系ゴム状弾性体を有し、これに上述のような単量体単位がグラフト共重したグラフト系共重合体である。グラフト系共重合体(B)は、ゴム状弾性体を主成分として有し、グラフト系共重合体(B)100質量%に対するジエン系ゴム状弾性体の割合が30質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上である。
【0048】
グラフト系共重合体(B)において、グラフト共重合している単量体単位とジエン系ゴム状弾性体の合計質量100質量%に対する、メタクリル酸エステル系単量体の割合は5~50質量%であることが好ましく、10~45質量%であることがより好ましく、15~40質量%であることがさらに好ましい。具体的には例えば、5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。グラフト共重合しているメタクリル酸エステル系単量体の割合が5質量%以上であると、透明性の観点から好ましい。また、メタクリル酸エステル系単量体の割合が50質量%以下であると、耐衝撃性の観点から好ましい。
グラフト系共重合体(B)において、ジエン系ゴム状弾性体にグラフトさせる単量体であって、上記の芳香族ビニル系単量体、メタクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル単量体以外の単量体は、グラフト系共重合体(B)100質量%中5質量%未満であることが好ましい。グラフト系共重合体(B)において、ジエン系ゴム状弾性体にグラフトさせる単量体は、実質的に芳香族ビニル系単量体、メタクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル単量体のみであってもよい。
【0049】
<メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物はメタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)を含有してもよい。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物100質量%に含まれるメタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)は1~15質量%の範囲内であり、3~13質量%が好ましく、5~11質量%が更に好ましい。1質量%未満であると耐薬品性が劣り、15質量%を超えると耐熱性が低下する。
【0050】
メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)は屈折率が1.472~1.485であることが好ましい。上記範囲の屈折率を有することで、樹脂組成物の透明性を保持することが可能となる。
【0051】
上記ブロック共重合体の結合形態に特に制限はなく、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、重合体ブロックを4以上有するマルチブロック共重合、スター型ブロック共重合体を用いることができるが、製造の容易さからジブロック共重合体、トリブロック共重合体が好ましい。
【0052】
上記ブロック共重合体(C)の製造方法としては特に制限はないが、例えば、各重合体ブロックを構成する単量体をリビング重合する方法が使用される。このようなリビング重合の手法としては、例えば、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩などの鉱酸塩存在下でアニオン重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし、有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法などが挙げられる。
【0053】
上記ブロック共重合体(C)は、本発明の効果を損なわない範囲で、アクリル酸エステルを主体とする単量体、あるいはメタクリル酸メチルを主体とする単量体とは異なる単量体単位を有していてもよい。
【0054】
上記異なる単量体として、不飽和カルボン酸、オレフィン、共役ジエン、芳香族ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、ε-カプロラクトン、バレロラクトンなどが挙げられる。
このような異なる単量体の含有量は、ブロック共重合体(C)を構成するアクリル酸エステルを主体とする単量体、メタクリル酸メチルを主体とする単量体、及びこれらとは異なる単量体単位の合計含有量を100質量%とした場合に、好ましくは5質量%未満であり、より好ましくは3質量%未満であることが透明性や耐薬品性を保つため好ましい。
【0055】
<共重合体(D)>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、シアン化ビニル単量体単位と、芳香族ビニル系単量体単位とを構成単位として含む共重合体(D)を含有することが好ましい。
【0056】
共重合体(D)を構成するシアン化ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、及びエタクリロニトリルが挙げられ、重合性の観点からアクリロニトリルが好ましい。これらのシアン化ビニル単量体は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
共重合体(D)を構成する芳香族ビニル系単量体単位に対応する芳香族ビニル系単量体としては、重合体(A)に含まれる芳香族ビニル系単量体の具体例として例示したものが挙げられる。
【0058】
共重合体(D)は、シアン化ビニル単量体及び芳香族ビニル系単量体と共重合可能なその他の単量体に対応する単量体単位を含んでもよい。その他の単量体としては、アクリル酸エステル単量体が挙げられる。アクリル酸エステル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート等が挙げられる。また、その他の単量体としては、無水マレイン酸、N-フェニルマレイミド、N-メチルマレイミド等のN-置換マレイミド系単量体、及びグリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体も挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
このようなシアン化ビニル単量体及び芳香族ビニル系単量体と共重合可能なその他の単量体の含有量は、共重合体(D)を構成するシアン化ビニル単量体単位、芳香族ビニル系単量体単位、共重合可能なその他の単量体、及びその他の単量体の合計含有量を100質量%とした場合に好ましくは10質量%未満であり、より好ましくは5質量%未満であることが耐薬品性や透明性を保つため好ましい。
【0059】
共重合体(D)を構成するシアン化ビニル単量体単位及び芳香族ビニル系単量体単位の合計質量(100質量%)に対する、シアン化ビニル単量体単位の割合は10~25質量%であることが好ましく、15~25質量%であることがさらに好ましく、17~22質量%であることがより好ましい。シアン化ビニル単量体単位の割合が10質量%以上であると、耐薬品性の観点から好ましい。また、シアン化ビニル単量体単位の割合が25質量%以下であると、透明性の観点から好ましい。
【0060】
また、共重合体(D)を構成するシアン化ビニル単量体単位及び芳香族ビニル系単量体単位の合計質量(100質量%)に対する、芳香族ビニル系単量体単位の割合は、75~90質量%であることが好ましく、75~85質量%であることがさらに好ましく、78~83質量%であることがより好ましい。芳香族ビニル系単量体単位の割合が75質量%以上であると透明性の観点から好ましく、90質量%以下であると、耐薬品性の観点から好ましい。
【0061】
共重合体(D)は、透明性、及び耐薬品性の観点から、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物100質量%中、1~50質量%であり、5~45質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。
【0062】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の製造において、溶融押出しについて特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、重合体(A)、グラフト系共重合体(B)、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)及び共重合体(D)をヘンシェルミキサーやタンブラーミキサー等の公知の混合装置にて予備混合した後、単軸押出機または二軸押出機等に供給して溶融混練した後、ペレットとして調整する方法がある。
【0063】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物には、重合体(A)、グラフト系共重合体(B)、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)及び共重合体(D)以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で任意の公知の添加剤を配合することができる。例えば、流動性や離型性を向上させるために、高級脂肪酸、酸エステル系、及び酸アミド系、さらに高級アルコール等の可塑剤や滑剤、シリコーンオイル等を配合することができる。また、耐候性を付与するために、ホスファイト系、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、及びシアノアクリレート系の酸化防止剤や紫外線吸収剤を配合することができる。その他、帯電防止剤、着色剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、発泡剤、発泡助剤、架橋剤、架橋助剤などを配合することができる。
【0064】
本実施形態の成形品は、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の成形品であれば、特に限定されるものではなく、公知の成形法により製造することができる。
成形法としては、以下に限定されず、例えば、プレス成形法、射出成形法、ガスアシスト射出成形法、溶着成形法、押出成形法、吹込成形法、フィルム成形法、中空成形法、多相成形法、及び発泡成形法が挙げられる。これらの中でも、生産性の観点から、射出成形法、ガスアシスト射出成形法が好ましい。
【0065】
射出成形法を用いる場合、シリンダー設定温度は220~290℃が好ましい。射出成形に十分な流動性を確保するために220℃以上が好ましく、より好ましくは225℃以上、さらに好ましくは230℃以上である。また、樹脂の熱劣化防止の観点から、290℃以下が好ましく、より好ましくは280℃以下、さらに好ましくは270℃以下である。また射出成形法においては、金属とのインサート成形、アウトサート成形、ガスアシスト成形等を組み合わせて使用してもよい。使用する金型についても特に限定されず、ゲート形状についてもピンゲート、タブゲート、フィルムゲート、サブマリンゲート、ファンゲート、リングゲート、ダイレクトゲート、及びディスクゲートのいずれの種類であってもよい。金型温度は、30~90℃が好ましく、50~70℃がより好ましい。30℃以上であることにより、成形品の表面平滑性が高くなる。90℃以下であることにより冷却速度が上がるため生産性が向上する。
【実施例0066】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態は、以下の例に限定されるものではない。実施例及び比較例中の評価、各種測定は以下の方法で行った。また、組成及び配合は、特に記述がない限り質量単位を示す。
【0067】
〔熱可塑性樹脂組成物の原料〕
(重合体(A))
<A-1>
三菱ケミカル社アクリペットVH5(メタクリル酸メチル99質量%、アクリル酸メチル1.0質量%)を重合体(A-1)として用いた。
【0068】
<A-2>
攪拌翼を備えた容積約20Lの完全混合型連続反応槽、容積約11Lの塔式プラグフロー型連続反応槽、予熱器を備えたフラッシュ型脱揮槽を直列に接続して構成した。メタクリル酸メチル70質量%、スチレン18質量%、エチルベンゼン12質量%で構成する溶液に対し、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.0073質量部、n-ドデシルメルカプタン0.32質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時3.9kgで温度125℃に保った完全混合型連続反応槽に供給し、重合した。完全混合型連続反応槽出口における転化率は55~58%に制御した。さらにこの重合溶液を流れの方向に向かって125℃から144℃の勾配がつくように調整した塔式プラグフロー型連続反応槽に供給し、重合した。塔式プラグフロー型連続反応槽出口における転化率を75~78%に制御した。この重合溶液を予熱器で230℃に加温しながら、1.3kPaに減圧したフラッシュ型脱揮槽に導入し、槽内温度235℃にて未反応単量体を除去した。232℃の樹脂をギアポンプで抜き出し、ストランド状に押出し切断することにより、ペレット形状のスチレン-メタクリル酸エステル系共重合体(A-2)を得た。
【0069】
<A-3>
メタクリル酸メチルを63質量%、スチレンを25質量%にした以外は(A-2)と同様にペレット形状のスチレン-メタクリル酸エステル系共重合体(A-3)を得た。
【0070】
(グラフト系共重合体(B))
<B-1>
体積平均粒子径0.31μmのジエン系ゴム状弾性体ラテックスを固形分換算で30kg計量して容積200Lのオートクレーブに移し、純水90kgを加え、撹拌しながら窒素気流下で温度50℃に昇温した。ここに硫酸第一鉄1.5g、エチレンジアミン四酢酸・四ナトリウム3g、ナトリウム・ホルムアルデヒドスルホキシレート100gを純水2kgに溶解したものを加え、スチレン7.5kg、メチルメタクリレート22.5kg、t-ドデシルメルカプタン60gからなる混合物と、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド60g、オレイン酸カリウム450gを純水8kgに分散した溶解液とを別々に6時間かけて連続添加した。添加終了後、温度を70℃に昇温して、さらにジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド30g添加した後2時間放置して重合を終了させた。得られた乳化液にn-オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート300gを加え、純水で固形分を15質量%に希釈した後に温度70℃に昇温し、激しく撹拌しながら希硫酸を加えて塩析を行い、その後温度を95℃に昇温して凝固させ、次に脱水、水洗、乾燥して粉末状のグラフト共重合体含有重合体(B-1)を得た。
【0071】
<B-2>
Dow社製パラロイドEXL-2678(ブタジエン系ゴム75質量%、メタクリル酸メチル8質量%、スチレン17質量%のメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体)をグラフト系重合体(B-2)として用いた。
【0072】
<B-3>
三菱ケミカル社製メタブレンC-223A(ブタジエン系ゴム87質量%、アクリロニトリル7質量%、スチレン6質量%のアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)をグラフト系重合体(B-3)として用いた。
【0073】
<C-1>
クラレ社製クラリティLA1892(アクリル酸n-ブチル50質量%、メタクリル酸メチル50質量%のジブロック共重合体、屈折率1.479)をメタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C-1)として用いた。
【0074】
<C-2>
クラレ社製クラリティLA4285(アクリル酸n-ブチル50質量%、メタクリル酸メチル50質量%のトリブロック共重合体、屈折率1.479)をメタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C-2)として用いた。
【0075】
<C-3>
クラレ社製クラリティLA2140(アクリル酸n-ブチル80質量%、メタクリル酸メチル20質量%のジブロック共重合体、屈折率1.469)をメタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C-3)として用いた。
【0076】
(共重合体(D))
<D-1>
撹拌機を備えた容積約20リットルの完全混合型連続反応槽、容積約40Lの塔式プラグフロー型連続反応槽、予熱器を備えたフラッシュ型脱揮槽を直列に接続して構成した。スチレン81質量部、アクリロニトリル19質量部、エチルベンゼン10質量部で構成する溶液に対し、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.02質量部とn-ドデシルメルカプタン0.02質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時6.0kgで温度130℃に制御した完全混合型連続反応槽に供給し、重合した。なお、完全混合型反応器の撹拌数は180rpmで実施した。さらに完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、流れの方向に向かって温度130℃から160℃の勾配がつくように調整した塔式プラグフロー型連続反応槽に供給し、重合した。この重合溶液を予熱器で230℃に加温しながら、1.0kPaに減圧したフラッシュ型脱揮槽に導入し、槽内温度235℃にて未反応単量体を除去した。この樹脂をストランド状に押出し切断することによりペレット形状の共重合体(D-1)を得た。
【0077】
<D-2>
スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部、n-ドデシルメルカプタン0.025質量部とした以外は、(D-1)と同様に行い、共重合体(D-2)を得た。
【0078】
<D-3>
スチレン88質量部、アクリロニトリル12質量部とした以外は、(D-1)と同様に行い、共重合体(D-3)を得た。
【0079】
<評価方法>
全光線透過率・HAZE:ASTM D-1003に準じて、厚さ2mmのプレートを日本電色工業社製HAZEメーター(NDH-2000)を用いて全光線透過率及びHAZEを測定し、全光線透過率を透明性とした。
【0080】
耐薬品性:ベルゲン式1/4楕円治具にプレス成形した試験片(350×20×2mmt)を曲率に沿って固定し、対象薬品を均一に塗布し23℃、湿度55%RH下で48時間放置後、クレーズ及びクラックの発生状況を確認し、下記式より臨界歪みε(%)を算出し、その値が0.3%未満のものを×、0.3~0.6%のものを△、0.6~0.9%のものを○、0.9%以上のものを◎とした。なお、薬品としてジオクチルフタレート(DOP、東京化成工業株式会社製)、フタル酸ジプロピル(DINP、東京化成工業株式会社製)、消毒用エタノール(健栄製薬株式会社製)を使用した。
・ε=bt/2a2{1-X2(a2-b2)/a4}-3/2×100
・ε:臨界歪み(%)
・a:治具の長軸(=250mm)
・b:治具の短軸(=150mm)
・t:試験片の厚み(=2mm)
・X:クラック発生位置からの距離(mm)。
【0081】
<実施例1~13、比較例1~4>
上記の方法で得られた重合体(A)、グラフト系共重合体(B)、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル系ブロック共重合体(C)、共重合体(D)を表1及び2に示す配合割合にてヘンシェルミキサーで混合した後、二軸押出機(東芝機械社製TEM35B、シリンダー温度220℃)を用いて溶融混練してペレットを作成し熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性樹脂組成物に含有される相の組成及びジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子の短径の平均値は前述した方法で算出した。次いでこのペレットを射出成形し、成形体を得た。得られた成形体の透明性、耐薬品性を評価し、表1、2に示した。
【0082】
<
図1~3>
図1:実施例2で得られた熱可塑性樹脂組成物のジエン系ゴム状弾性体を、四酸化オスミウム(OsO
4)及び四酸化ルテニウム(RuO
4)で常法により二重染色した後にTEM観察して得られた写真である。ジエン系ゴム状弾性体非含有粒子(熱可塑性樹脂組成物に含まれる粒子のうち、ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子)が明相部として観測される。ジエン系ゴム状弾性体非含有粒子の短径の平均値(熱可塑性樹脂組成物に含まれる粒子のうち、ジエン系ゴム状弾性体を含まない粒子の短径の平均値)は、50nm以下である。
図2:実施例3で得られた熱可塑性樹脂組成物を、実施例2と同様に二重染色した後にTEM観察して得られた写真である。ジエン系ゴム状弾性体非含有粒子が線状の明相部として観測される。ジエン系ゴム状弾性体非含有粒子の短径の平均値は、50nm以下である。
図3:比較例3で得られた熱可塑性樹脂組成物を、実施例2と同様に二重染色した後にTEM観察して得られた写真である。ジエン系ゴム状弾性体非含有粒子が明相部として観測される。ジエン系ゴム状弾性体非含有粒子の短径の平均値は、50nmを超えている。
【0083】
【0084】
【0085】
表1の結果から、本発明にかかる実施例は、得られた成形体が優れた透明性と可塑剤等への耐薬品性を備えていることが分かる。表2の結果から、本発明の構成を満たさない比較例は、得られた成形体が透明性と可塑剤等への耐薬品性の少なくとも一方が劣っていることが分かる。