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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069736
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】円筒形電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/593 20210101AFI20240515BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20240515BHJP
   H01M 50/107 20210101ALI20240515BHJP
   H01M 50/533 20210101ALI20240515BHJP
【FI】
H01M50/593
H01M50/184 D
H01M50/107
H01M50/533
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050084
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大竹 学
(72)【発明者】
【氏名】矢冨 翔太
【テーマコード(参考)】
5H011
5H043
【Fターム(参考)】
5H011AA13
5H011CC06
5H011EE04
5H011FF02
5H011GG02
5H011KK01
5H043AA04
5H043CA03
5H043CA12
5H043EA22
5H043GA22
5H043GA24
5H043GA30
5H043JA02E
5H043JA03D
5H043KA45D
5H043LA03D
5H043LA11E
5H043LA21D
5H043LA22D
(57)【要約】
【課題】絶縁板の損傷で電極体が損傷しにくくて、電池が異常発熱した際に発生するガス排出性能と電極体への電解質の含浸性を向上できる円筒形電池を提供すること。
【解決手段】円筒形電池10が、有底筒状の外装缶16、外装缶16内に収容される巻回形の電極体14、外装缶16の開口を塞ぐ封口体17、及び、外装缶16内に配置され、軸方向に関して封口体17と電極体14との間に位置する上部絶縁板18を備える。上部絶縁板18が、軸方向の電極体14側の下面51に、環状の第1溝と、径方向の内側から第1溝側へ略径方向の外方側に延在する複数の第2溝を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の外装缶と、
前記外装缶内に収容される巻回形の電極体と、
前記外装缶の開口を塞ぐ封口体と、
前記外装缶内に配置され、軸方向に関して前記封口体と前記電極体との間に位置する絶縁板と、を備え、
前記絶縁板が、前記軸方向の前記電極体側の端面に、環状の第1溝と、径方向の内側から前記第1溝側へ略径方向の外方側に延在する複数の第2溝とを有する、円筒形電池。
【請求項2】
前記外装缶において前記封口体を収容している封口部の前記径方向の外径が、前記外装缶において前記電極体を収容している胴体部の前記径方向の外径よりも小さい、請求項1に記載の円筒形電池。
【請求項3】
前記第2溝が、前記第1溝に連通している、請求項1又は2に記載の円筒形電池。
【請求項4】
前記電極体と前記封口体を電気的に接続するリードを備え、
前記絶縁板が前記リードを挿通するリード挿通孔を有し、
軸方向から見たときの平面図で、前記リード挿通孔の開口面積が前記絶縁板の外縁で囲まれた領域の面積の1/3以上となっている、請求項1から3までのいずれか1項に記載の円筒形電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、円筒形電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、円筒形電池としては、特許文献1に記載されているものがある。この円筒形電池では、封口体と電極体の間に絶縁板を配置することで、電極体の負極と封口体との電気的な接続を防止している。また、この円筒形電池では、電池が異常発熱した際に電極体で生じる高温のガスを排気するための排気弁を封口体に設けると共に、当該ガスを封口体側に通過させるための貫通孔を絶縁板に設けている。この貫通孔は、正極と封口体とを電気的に接続する正極リードを通過させる用途や、電極体に電解質を浸漬させる用途でも用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-103131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池を高容量化するためには、電極体を大きくする必要があるが、電極体が大きくなると、電池が異常発熱した際に発生するガスの量も大きくなるため、ガスを封口体側に流動させる貫通孔を確実に確保するために絶縁板の強度を高くする必要がある。しかし、絶縁板の強度を高くすると、電池がその落下等で外部から外力を受けて変形したときに絶縁板の外縁部が割れ易くなるため、その破片で電極体が損傷する虞がある。
【0005】
更には、電池の高容量化のために、合剤層の厚膜化や、集電体及びセパレータの薄膜化を行って、電極材料を高密度化すると、電池内部の空隙が減少するため、電池作製時の電解質の含浸性が低下し易い。
【0006】
そこで、本開示の目的は、絶縁板の損傷で電極体が損傷しにくくて、電池が異常発熱した際に発生するガス排出性能と電極体への電解質の含浸性も向上できる円筒形電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本開示の円筒形電池は、有底筒状の外装缶と、外装缶内に収容される巻回形の電極体と、外装缶の開口を塞ぐ封口体と、外装缶内に配置され、軸方向に関して封口体と電極体との間に位置する絶縁板と、を備え、絶縁板が、軸方向の電極体側の端面に、環状の第1溝と、径方向の内側から第1溝側へ略径方向の外方側に延在する複数の第2溝とを有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る円筒形電池によれば、絶縁板の損傷で電極体が損傷しにくくて、電池が異常発熱した際に発生するガス排出性能と電極体への電解質の含浸性も向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係る円筒形電池の軸方向の断面図である。
図2A】上部絶縁板を軸方向の外側から見たときの平面図である。
図2B図2AのA‐A線断面図である。
図3A】実施例2の上部絶縁板を軸方向の外側から見たときの平面図である。
図3B図3AのB‐B線断面図である。
図4A】実施例3の上部絶縁板を軸方向の外側から見たときの平面図である。
図4B図4AのC‐C線断面図である。
図5A】実施例4の上部絶縁板を軸方向の外側から見たときの平面図である。
図5B図5AのD‐D線断面図である。
図6A】実施例5の上部絶縁板を軸方向の外側から見たときの平面図である。
図6B図6AのE‐E線断面図である。
図7A】比較例1の上部絶縁板を軸方向の外側から見たときの平面図である。
図7B図7AのF‐F線断面図である。
図8A】比較例2の上部絶縁板を軸方向の外側から見たときの平面図である。
図8B図8AのG‐G線断面図である。
図9A】比較例3の上部絶縁板を軸方向の外側から見たときの平面図である。
図9B図9AのH‐H線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る円筒形電池の実施形態について詳細に説明する。なお、本開示の円筒形電池は、一次電池でもよく、二次電池でもよい。また、水系電解質を用いた電池でもよく、非水系電解質を用いた電池でもよい。以下では、一実施形態である円筒形電池10として、非水電解質を用いた非水電解質二次電池(リチウムイオン電池)を例示するが、本開示の円筒形電池はこれに限定されない。
【0011】
以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて新たな実施形態を構築することは当初から想定されている。また、以下の実施形態では、図面において同一構成に同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、複数の図面には、模式図が含まれ、異なる図間において、各部材における、縦、横、高さ等の寸法比は、必ずしも一致しない。本明細書では、説明の便宜上、円筒形電池10の軸方向(高さ方向)の封口体17側を「上」とし、軸方向の外装缶16の底側を「下」とする。また、以下で説明される構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素であり、必須の構成要素ではない。
【0012】
図1は、本開示の一実施形態に係る円筒形電池10の軸方向の断面図である。図1に示すように、円筒形電池10は、巻回型の電極体14、非水電解質(図示せず)、電極体14及び非水電解質を収容する有底筒状で金属製の外装缶16、及び外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17を備える。電極体14は、長尺状の正極11と長尺状の負極12が長尺状の2枚のセパレータ13を介して巻回された構造を有する。
【0013】
負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11より長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。また、2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。負極12は、電極体14の巻き始め端を構成してもよい。しかし、一般的には、セパレータ13が負極12の巻き始め側端を超えて延出し、セパレータ13の巻き始め側端が電極体14の巻き始め端となる。
【0014】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、およびこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素原子の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有してもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。電解質塩には、LiPF等のリチウム塩が使用される。
【0015】
正極11は、正極集電体と、正極集電体の両面に形成された正極合剤層とを有する。正極集電体には、アルミニウム、アルミニウム合金など、正極11の電位範囲で安定な金属箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合剤層は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を含む。正極11は、例えば正極集電体上に正極活物質、導電剤、及び結着剤等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合剤層を集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0016】
正極活物質は、リチウム含有金属複合酸化物を主成分として構成される。リチウム含有金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。好ましいリチウム含有金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mn、Alの少なくとも1種を含有する複合酸化物である。
【0017】
正極合剤層に含まれる導電剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合剤層に含まれる結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0018】
負極12は、負極集電体と、負極集電体の両面に形成された負極合剤層を有する。負極集電体には、銅、銅合金など、負極12の電位範囲で安定な金属箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合剤層は、負極活物質、及び結着剤を含む。負極12は、例えば負極集電体上に負極活物質、及び結着剤等を含む負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合剤層を集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0019】
負極活物質には、一般的に、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素材料が用いられる。好ましい炭素材料は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛などの黒鉛である。負極合剤層には、負極活物質として、ケイ素(Si)を含有するSi材料が含まれていてもよい。また、負極活物質には、Si以外のリチウムと合金化する金属、当該金属を含有する合金、当該金属を含有する化合物等が用いられてもよい。
【0020】
負極合剤層に含まれる結着剤には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等を用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)又はその変性体を用いる。負極合剤層には、例えばSBR等に加えて、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコールなどが含まれていてもよい。
【0021】
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、セルロースなどが好ましい。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれでもよい。セパレータ13の表面には、耐熱層などが形成されてもよい。
【0022】
図1に示すように、正極リード20は、正極集電体における巻回方向の中央部等の中間部に電気的に接続され、負極リード21は、負極集電体における巻回方向の巻き終わり端部に電気的に接続される。しかし、負極リードは、負極集電体における巻回方向の巻き始め端部に電気的に接続されてもよい。又は、電極体が2つの負極リードを有して、一方の負極リードが、負極集電体における巻回方向の巻き始め端部に電気的に接続され、他方の負極リードが、負極集電体における巻回方向の巻き終わり端部に電気的に接続されてもよい。又は、負極集電体における巻回方向の巻き終わり側端部を外装缶の内面に当接させることで、負極と外装缶を電気的に接続してもよい。
【0023】
円筒形電池10は、電極体14の上方に上部絶縁板18を有し、電極体14の下方に下部絶縁板19を有する。正極リード20は、上部絶縁板18の第1貫通孔55(図2A参照)を通って封口体17側に延び、負極リード21は、下部絶縁板19の外側を通って、外装缶16の底部68側に延びる。正極リード20は封口体17の底板である端子板23の下面に溶接等で接続され、端子板23と電気的に接続された封口体17の天板である封口板26が正極端子となる。また、負極リード21は外装缶16の底部68の内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0024】
円筒形電池10は、外装缶16と封口体17との間に配置される樹脂製のガスケット27を更に備える。ガスケット27は、外装缶16と封口体17に挟持され、封口体17を外装缶16に対して絶縁する。ガスケット27は、電池内部の気密性を保つためのシール材の役割と、外装缶16と封口体17を絶縁する絶縁材としての役割を有する。外装缶16は、円筒外周面の軸方向の一部に環状の溝入れ部34を有する。
【0025】
溝入れ部34は、例えば、円筒外周面の一部を、径方向内側にスピニング加工して径方向内方側に窪ませることで形成できる。外装缶16は、溝入れ部34を含む有底筒状部30と、環状の肩部38を有する。有底筒状部30は、電極体14と非水電解質を収容し、肩部38は、有底筒状部30の開口側の端部から径方向内方側に折り曲げられて該内方側に延びる。肩部38は、外装缶16の上端部を内側に折り曲げて封口体17の周縁部45側にかしめる際に形成される。封口体17は、肩部38と溝入れ部34の間にガスケット27を介して外装缶16にかしめ固定される。このようにして、円筒形電池10の内部空間を密閉する。
【0026】
外装缶16の外径は、溝入れ部34を境に変化している。詳しくは、外装缶16において封口体17を収容している封口部41の径方向の外径が、外装缶16において電極体14を収容している胴体部42の径方向の外径よりも小さくなっている。封口部41は、溝入れ部34よりも軸方向上側に位置し、胴体部42は、溝入れ部34よりも軸方向下側に位置する。
【0027】
外装缶16は、例えば、次のように作製できる。先ず、鋼板に絞り加工を施すことにより、平板状の鋼板から有底で略円筒形状の金属部材を作製する。その後、この金属部材に、下部絶縁板19、2つのリード20,21を接合した電極体14、及び上部絶縁板18をその順に挿入する。次に、金属部材の軸方向の開口側の端部を縮径金型を用いて径方向内方に変形させて縮径する。その後、縮径されて径が小さくなっている個所にガスケット27と封口体17を配置する。続いて、金属部材において外径が変動する箇所の周辺にスピニング加工を施して、溝入れ部34を形成する。最後に、金属部材の開口側の端部を径方向内方側に折り曲げて肩部38を形成することで外装缶16を作製する。
【0028】
封口体17は、電極体14側から順に、端子板23、下弁体24a、絶縁部材25、上弁体24b、及び封口板26が積層された構造を有する。下弁体24a及び上弁体24bは、排気弁24を構成する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。端子板23は、少なくとも1つの貫通孔23aを有する。また、下弁体24aと上弁体24bは、各々の中央部で接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。
【0029】
円筒形電池10が異常発熱して、円筒形電池10の内圧が上昇すると、下弁体24aが上弁体24bを封口板26側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24aと上弁体24bの間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体24bが破断して、封口板26の貫通孔26aからガスが排出される。このガスの排出により、円筒形電池10の内圧が過度に上昇して円筒形電池10が破裂することを防止し、円筒形電池10の安全性を高くしている。
【0030】
次に、上部絶縁板18の構造について詳細に説明する。上部絶縁板18は、樹脂で構成される。図1に示すように、上部絶縁板18は、軸方向下側の下面(軸方向の電極体14側の端面)51に溝60を有する。図2Aは、上部絶縁板18を軸方向下側から見たときの平面図であり、図2Bは、図2AのA‐A線断面図である。図2A及び図2Bに示すように、溝60は、第1溝61と、複数の第2溝62を含む。第1溝61は、軸方向下側から見たときの平面視が略円形の環状溝であり、円筒形電池10の周方向に延在する。図2Bに示すように、第1溝61は、軸方向上側に行くにしたがって径方向の幅が徐々に小さくなる形状をしており、軸方向上側の先端が尖った形状を有している。
【0031】
図2Aに示すように、第2溝62は、径方向内側から第1溝61側へ略径方向の外方側に延在する。周方向に隣り合う2つの第2溝62で構成される全ての組で、2つの第2溝62がなす角度は、略同一であると好ましい。しかし、周方向に隣り合う2つの第2溝62で構成される複数の組が、2つの第2溝62がなす角度が略同一でない2以上の組を有してもよい。第2溝62を第2溝62の幅方向と軸方向とを含む平面で切断したときの断面形状は、如何なる形状でもよく、例えば、矩形の形状や半円形状等でもよい。複数の第2溝62は、放射状に径方向に延在している。各第2溝62は、径方向外方側で第1溝61に連通している。また、2以上の第2溝62は、上部絶縁板18の径方向の中央部で合流し、2以上の第2溝62は、径方向の中央部で互い連通する。
【0032】
図2Aに示すように、上部絶縁板18は、リード挿通孔の一例としての半円形状の第1貫通孔55を有する。第1貫通孔55は、正極リード20を通過させると共に円筒形電池10が異常発熱したときに電極体14で発生した高温ガスを封口体17側に流動させるために上部絶縁板18に設けられる。また、第1貫通孔55は、上方から注液された非水電解質(例えば、電解液)を胴体部42の方に流動させるために設けられる。
【0033】
軸方向から見たときの平面視において、第1貫通孔55の開口面積は、上部絶縁板18の外縁59で囲まれた領域の面積の1/3以上かつ1/2以下になっている。第1貫通孔55の円弧状の内側縁55aは、略周方向に延在している。上部絶縁板18は、1以上の第2貫通孔56を更に有する。第2貫通孔56の開口面積は、第1貫通孔55の開口面積よりも小さくなっている。第2貫通孔56は、上方から注液された非水電解質(例えば、電解液)を胴体部42内に均一かつ迅速に充填するために上部絶縁板18に設けられる。なお、第1貫通孔55の開口形状は、半円形状に限らず如何なる形状でもよい。また、軸方向から見たときの平面視において、第1貫通孔の開口面積は、上部絶縁板の外縁で囲まれた領域の面積の1/3未満でもよく、1/2よりも大きくてもよい。また、上部絶縁板は、上述の第2貫通孔を有さなくてもよい。
【0034】
以上、円筒形電池10によれば、上部絶縁板18が、環状の第1溝61を有しているので、円筒形電池10の落下等で外装缶16からの力が上部絶縁板18に加わった場合、上部絶縁板18を厚さが薄い第1溝61に沿うように割ることができ、上部絶縁板18が不規則に割れることを抑制又は防止できる。すなわち、外力が上部絶縁板18に作用したときに、上部絶縁板18の破片が電極体14側に飛散することを抑制又は防止できる。よって、円筒形電池10の異常発熱時に上部絶縁板18が溶けてガス排気孔の役割を有する第1貫通孔55の少なくとも一部を塞がないように、上部絶縁板18を溶けにくくて硬い材料で構成しても、上部絶縁板18の破片で電極体14が損傷することを抑制又は防止でき、そのような破損に起因する短絡の発生を抑制又は防止できる。
【0035】
また、非水電解質を第1溝61に沿うように径方向に流動させることができ、非水電解質を周方向により均等かつ迅速に充填することができる。更には、上部絶縁板18が、径方向の内側から第1溝61側へ略径方向の外方側に延在する複数の第2溝62を有するので、外装缶16の開口側から充填した非水電解質(例えば、電解液)を第2溝62に沿うように径方向に流動させることもできる。したがって、非水電解質を径方向により均等かつ迅速に充填することができる。よって、非水電解質を電極体14内により均等かつ迅速に含侵させることができる。
【0036】
また、外装缶16において封口体17を収容している封口部41の径方向の外径が、外装缶16において電極体14を収容している胴体部42の径方向の外径よりも小さい。
【0037】
円筒形電池を高容量化する場合、一般的には、外装缶の大径化に伴って封口体の外径も大径化する必要があるが、そのまま大径化をすると、封口体の強度低下となるため、部品材料の厚みを上げ、強度を確保する必要がある。しかし、そのような部品材料の厚みの増加は、円筒形電池の重量増加や、円筒形電池のコスト増につながる。
【0038】
これに対し、上記構成によれば、封口部41の内径を変動させずに容量を大きくすることができるので、十分な強度を有する既存の封口体17を用いて外装缶16の開口を封止できる。したがって、封口体17の十分な強度を確保できるだけでなく、円筒形電池10の重量増加やコスト増を抑制できる。更には、容量が異なる複数の円筒形電池で封口体17を共通化できるので、封口体17の量産化につながり、円筒形電池10のコストを更に低減することができる。
【0039】
また、第2溝62が、第1溝61に連通している。
【0040】
上記構成によれば、第1溝61を伝って周方向に流動する非水電解質を第2溝62に沿うように径方向に流動させることができ、その逆に、第2溝62を伝って径方向に流動する非水電解質を第1溝61に沿うように周方向に流動させることもできる。したがって、非水電解質を周方向及び径方向に更に均等かつ迅速に充填することができ、その結果、非水電解質を電極体14内に更に均等かつ迅速に含侵させることができる。なお、本構成と異なり、環状の第1溝は、放射状に延在する第2溝に連通していなくてもよい。
【0041】
また、軸方向から見たときの平面視において、第1貫通孔55の開口面積が、上部絶縁板18の外縁で囲まれた領域の面積の1/3以上になっている。
【0042】
上記構成によれば、円筒形電池10が異常発熱したときに高温のガスを円滑に封口体17側に流動させることができる。また、第1貫通孔55を用いて正極リード20を容易に端子板23に接合することができ、非水電解質を電極体14内に更に均一かつ迅速に含侵させることができる。
【0043】
また、第1溝61が、軸方向上側に行くにしたがって径方向の幅が徐々に小さくなる形状を有し、第1溝61の軸方向上側の先端が尖った形状を有している。したがって、過大な外力が加わった場合に第1溝61の軸方向上側の先端が割れの起点となる上部絶縁板18の割れを実現し易い。よって、上部絶縁板18の割れ方を更に精密に制御でき、上部絶縁板18の破片が電極体14を損傷することを略確実に防止できる。
【0044】
<電解液浸透試験、平板圧壊試験、及び燃焼試験>
本願発明者は、次に説明する実施例1~5の円筒形電池と比較例1~3の円筒形電池の夫々に次に説明する平板圧壊試験と燃焼試験を施した。なお、本開示の円筒形電池が実施例1~5の円筒形電池に限定されないことは言うまでもなく、例えば、本開示の円筒形電池の上部絶縁板の寸法や材料が、実施例1~5の上部絶縁板の寸法や材料に限定されないことをは言うまでもない。
【0045】
[実施例1の円筒形電池]
(上部絶縁板の作製)
図2Aに軸方向下側から見た平面図を示すと共に、図2B図2AのA-A線断面図を示す上部絶縁板18を作製した。詳しくは、ガラス繊維を混合したフェノール樹脂(GP)からなる外径20mm、厚み0.3mmの円板形状の絶縁体における絶縁体外周より2mm内方の位置に、幅0.1mm、深さ0.2mmの環状の第1溝(切り欠き)61を設けた。また、上記円板形状の絶縁体に、絶縁体の中心から環状の第1溝61へ向かう幅0.1mm、深さ0.1mmの放射状の複数の第2溝(切り欠き)62を設けた。第1溝61と第2溝62を連通させた。また、上記円板形状の絶縁体に、更に、上述の第1貫通孔55と、上述の複数の第2貫通孔56を設けた。
【0046】
(正極の作製)
正極活物質としてLi(Ni0.8Co0.15Al0.05)Oを使用した。正極活物質100(重量比)、結着剤としてポリフッ化ビニリデンフルオライド2.0(重量比)、及び導電剤としてアセチレンブラック2.0(重量比)を液状成分(NMP)に混合させて正極合剤ペーストを調製した。次に、調製した正極合剤ペーストを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に、正極タブの接続部分を除いて塗布し、乾燥して、正極合剤層を形成した。そのようにして作製した正極の前駆体を、圧縮し、正極を得た。また、正極タブを、正極の中央部分に接合した。
【0047】
(負極の作製)
負極活物質としてグラファイトを使用した。負極活物質100(重量比)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデンフルオライド1.0(重量比)と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース1.0(重量比)と、適量の水とを、双腕式練合機にて攪拌し、負極ペーストを得た。その負極合剤ペーストを、銅箔からなる負極集電体の両面に、負極タブの接続部分を除いて塗布し、乾燥して負極合剤層を形成した。そのようにして作製した負極の前駆体を、圧縮し、負極を得た。また、負極タブを、負極の巻き終わり側の端部に接合した。
【0048】
(電極体の作製)
Φ4の巻芯を用いて上記のようにして作製された正極板と負極板とオレフィン系樹脂からなる微多孔膜のセパレータとを巻取機により巻回し、巻き終り側の終端部に絶縁性の巻き止めテープを取り付けた後、巻芯から取り外すことで円筒状の電極体を作製した。
【0049】
(非水電解質の調製)
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを、体積比40:60(1気圧、25℃換算)で混合した非水溶媒に、電解質塩としてのLiPFを1.0M(モル/リットル)の割合で溶解したものを非水電解質とした。
【0050】
(円筒形電池の作製)
電極群を高さ74.5mm、直径22mmの外装缶に挿入し、開口部を縮径(22mm⇒21mm)した。次に、外装缶内に上部絶縁板18を挿入した。その後、外装缶の開口部に絶縁性の樹脂(ガスケット)を配置してその上から封口体を合わせて非水電解質(電解液)を注入し、プレス機により封口体、ガスケットおよび外装缶開口部をかしめて、円筒形電池を作製した。円筒形電池の定格容量は、5.0Ahとした。
【0051】
[実施例2の円筒形電池]
実施例1と上部絶縁板のみ異なる円筒形電池を実施例2の円筒形電池とした。実施例2では、図3Aに軸方向下側から見た平面図を示すと共に、図3B図3AのB-B線断面図を示す上部絶縁板118を用いた。上部絶縁板118は、次のように作製した。詳しくは、ガラス繊維を混合したフェノール樹脂(GP)からなる外径20mm、厚み0.3mmの円板形状の絶縁体における絶縁板外周より2mm内方の位置に、幅0.1mm、深さ0.15mmの環状の第1溝(切り欠き)161を設けた。また、上記円板形状の絶縁体に、絶縁体の中心から環状の第1溝161へ向かう幅0.1mm、深さ0.1mmの放射状の複数の第2溝(切り欠き)162を設けた。第1溝161と第2溝162を連通させた。上記円板形状の絶縁体に、更に、上述の第1貫通孔55と同一の第1貫通孔155を設けると共に、上述の複数の第2貫通孔56と同一の複数の第2貫通孔156を設けた。
【0052】
[実施例3の円筒形電池]
実施例1と上部絶縁板のみ異なる円筒形電池を実施例3の円筒形電池とした。実施例3では、図4Aに軸方向下側から見た平面図を示すと共に、図4B図4AのC-C線断面図を示す上部絶縁板218を用いた。上部絶縁板218は、次のように作製した。詳しくは、ガラス繊維を混合したフェノール樹脂(GP)からなる外径20mm、厚み0.3mmの円板形状の絶縁体における絶縁板外周より2mm内方の位置に、幅0.1mm、深さ0.2mmの環状の第1溝(切り欠き)261を設けた。また、上記円板形状の絶縁体に、絶縁体の中心から環状の第1溝261へ向かう幅0.1mm、深さ0.1mmの放射状の複数の第2溝(切り欠き)262を設けた。第1溝261と第2溝262は連通させなかった。上記円板形状の絶縁体に、更に、上述の第1貫通孔55と同一の第1貫通孔255を設けると共に、上述の複数の第2貫通孔56と同一の複数の第2貫通孔256を設けた。
【0053】
[実施例4の円筒形電池]
実施例1と上部絶縁板のみ異なる円筒形電池を実施例4の円筒形電池とした。実施例4では、図5Aに軸方向下側から見た平面図を示すと共に、図5B図5AのD-D線断面図を示す上部絶縁板318を用いた。上部絶縁板318は、次のように作製した。詳しくは、ガラス繊維を混合したフェノール樹脂(GP)からなる外径20mm、厚み0.3mmの円板形状の絶縁体における絶縁板外周より1mm内方の位置に、幅0.1mm、深さ0.2mmの環状の第1溝(切り欠き)361を設けた。また、上記円板形状の絶縁体に、絶縁体の中心から環状の第1溝361へ向かう幅0.1mm、深さ0.1mmの放射状の複数の第2溝(切り欠き)362を設けた。第1溝361と第2溝362を連通させた。上記円板形状の絶縁体に、更に、上述の第1貫通孔55と同一の第1貫通孔355を設けると共に、上述の複数の第2貫通孔56と同一の複数の第2貫通孔356を設けた。
【0054】
[実施例5の円筒形電池]
実施例1と上部絶縁板のみ異なる円筒形電池を実施例5の円筒形電池とした。実施例5では、図6Aに軸方向下側から見た平面図を示すと共に、図6B図6AのE-E線断面図を示す上部絶縁板418を用いた。上部絶縁板418は、次のように作製した。詳しくは、ガラス繊維を混合したフェノール樹脂(GP)からなる外径20mm、厚み0.3mmの円板形状の絶縁体における絶縁板外周より3mm内方の位置に、幅0.1mm、深さ0.2mmの環状の第1溝(切り欠き)461を設けた。また、上記円板形状の絶縁体に、絶縁体の中心から環状の第1溝461へ向かう幅0.1mm、深さ0.1mmの放射状の複数の第2溝(切り欠き)462を設けた。第1溝461と第2溝462を連通させた。上記円板形状の絶縁体に、更に、上述の第1貫通孔55と同一の第1貫通孔455を設けると共に、上述の複数の第2貫通孔56と同一の複数の第2貫通孔456を設けた。
【0055】
[比較例1の円筒形電池]
実施例1と上部絶縁板のみ異なる円筒形電池を比較例1の円筒形電池とした。比較例1では、図7Aに軸方向下側から見た平面図を示すと共に、図7B図7AのF-F線断面図を示す上部絶縁板518を用いた。上部絶縁板518は、次のように作製した。詳しくは、ガラス繊維を混合したフェノール樹脂(GP)からなる外径20mm、厚み0.3mmの円板形状の絶縁体における絶縁板外周より2mm内方の位置に、幅0.1mm、深さ0.2mmの環状の溝(切り欠き)561を設けた。また、上記円板形状の絶縁体に、上述の第1貫通孔55と同一の第1貫通孔555を設けると共に、上述の複数の第2貫通孔56と同一の複数の第2貫通孔556を設けた。
【0056】
[比較例2の円筒形電池]
実施例1と上部絶縁板のみ異なる円筒形電池を比較例2の円筒形電池とした。比較例2では、図8Aに軸方向下側から見た平面図を示すと共に、図8B図7AのG-G線断面図を示す上部絶縁板618を用いた。上部絶縁板618は、次のように作製した。詳しくは、ガラス繊維を混合したフェノール樹脂(GP)からなる外径20mm、厚み0.3mmの円板形状の絶縁体に、絶縁体の中心から径方向の外方側へ向かう幅0.1mm、深さ0.1mmの放射状の複数の溝(切り欠き)662を設けた。また、上記円板形状の絶縁体に、上述の第1貫通孔55と同一の第1貫通孔655を設けると共に、上述の複数の第2貫通孔56と同一の複数の第2貫通孔656を設けた。
【0057】
[比較例3の円筒形電池]
実施例1と上部絶縁板のみ異なる円筒形電池を比較例3の円筒形電池とした。比較例3では、図9Aに軸方向下側から見た平面図を示すと共に、図9B図9AのH-H線断面図を示す上部絶縁板718を用いた。上部絶縁板718は、次のように作製した。詳しくは、ガラス繊維を混合したフェノール樹脂(GP)からなる外径20mm、厚み0.3mmの円板形状の絶縁体に、上述の第1貫通孔55と同一の第1貫通孔755を設けると共に、上述の複数の第2貫通孔56と同一の複数の第2貫通孔756を設けた。
【0058】
[電解液浸透試験]
電解液を注入後、液面高さを確認し、液面高さが上部絶縁板よりも下がるまでの時間である電解液浸透時間を測定した。
【0059】
[平板圧壊試験]
平板圧壊試験前に、放電(CC):0.2CA×2.5Vを行った。
圧壊は、略平行に配置した2つの平板で円筒形電池を挟んで円筒形電池を圧縮することで行った。圧壊は、円筒形電池をその直径が10%小さくなるまで圧縮する10%変形圧壊(2つの平板での圧縮距離を変形前の円筒形電池の直径の10%とする圧壊)と、円筒形電池をその直径が25%小さくなるまで圧縮する25%変形圧壊(2つの平板での圧縮距離を変形前の円筒形電池の直径の25%とする圧壊)の2つを行った。
圧壊速度として、15mm/secを採用した。
試験温度として、25℃を採用した。
各円筒形電池において、5つのサンプルで5回の試験を行った。
試験後の電極体上部の上部絶縁板割れに基づく短絡痕の有無を確認することで試験の評価を行った。
【0060】
[燃焼試験]
燃焼試験前に、(CCCV):0.3CA×4.20V,0.05CAカットを行った。
円筒形電池とガスバーナー先端の距離を38mmに設定した。
円筒形電池の側面をガスバーナーで加熱して、円筒形電池を無理やり異常発熱させて燃焼させた。
各円筒形電池において、5つのサンプルで5回の試験を行った。
加熱後に排気弁が作動して破裂に至らなかったものをOKと評価し、排気弁が作動したものの電池が破裂したものをNGと評価した。
また、試験後の電池側面にピンホールが存在しなかったものをOKと評価し、試験後の電池側面にピンホールが存在するものをNGと評価した。
【0061】
[試験結果]
試験結果を表1に示す。
【表1】
表1に示すように、上部絶縁板に環状溝を設けなかった比較例2の円筒形電池では、25%圧壊試験で、5個のうち2個のサンプルで短絡痕が生じた。また、上部絶縁板に環状溝を設けなかった比較例3の円筒形電池でも、25%圧壊試験で、5個のうち3個のサンプルで短絡痕が生じた。これに対し、環状の第1溝を設けた上部絶縁板を用いた実施例1~5の円筒形電池では、10%圧壊及び25%圧壊の全ての試験で、短絡痕が確認できなった。したがって、上部絶縁板に環状の第1溝を設けることで、上部絶縁板の割れ方を制御でき、上部絶縁板の破片が電極体を損傷することを大きく抑制できるか又は防止できる。
【0062】
また、表1に示すように、第1溝及び第2溝の一方のみを設けた上部絶縁板を用いるか、又は第1溝及び第2溝の両方を設けなかった上部絶縁板を用いた、比較例1~3の円筒形電池では、電解液浸透時間が90分以上となり、電解液を迅速に胴体部に充填することができなかった。
【0063】
これに対し、第1溝及び第2溝の両方を設けた上部絶縁板を用いた実施例1~5の円筒形電池では、電解液浸透時間を85分以下に短縮でき、特に、第1溝と第2溝を連通させた実施例1、2、4、5の円筒形電池では、電解液浸透時間を80分以下に大きく短縮できた。したがって、環状の第1溝、及び径方向の内側から第1溝側へ略径方向の外方側に延在する複数の第2溝を上部絶縁板に設けることで、電極体へ電解質を均等かつ迅速に含侵させることができる。また、環状の第1溝と放射状の第2溝を連通させることで、電極体へ電解質を更に均等かつ迅速に含侵させることができる。
【0064】
燃焼試験において、比較例1、3で、幾つかのサンプルで、電池側面にピンホールが生じた。これは、比較例1、3の円筒形電池では、上部絶縁板に略径方向の外方側に延在する複数の第2溝が存在しないため、胴体部から封口部への高温ガスの排気通路が不十分であったため、排気弁が円滑に動作しなかったためであると推察される。これに対し、上部絶縁板に略径方向の外方側に延在する複数の第2溝を設けた実施例1~5、比較例2の円筒形電池は燃焼試験においてピンホールの発生を防ぐことができた。
【0065】
なお、本開示は、上記実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項およびその均等な範囲において種々の改良や変更が可能である。
【0066】
例えば、上記実施形態では、環状の第1溝61が軸方向上側に行くにしたがって径方向の幅が徐々に小さくなる形状を有し、第1溝61の軸方向上側の先端が尖った形状を有する場合について説明した。しかし、環状の第1溝は、径方向と軸方向とを含む平面での切断面で如何なる形状を有してもよく、例えば、矩形の形状を有してもよく、半円の形状を有してもよい。
【0067】
また、上記実施例では、上部絶縁板を、ガラス繊維を混合したフェノール樹脂で作製したが、上部絶縁板は、如何なる材料で作製してもよい。例えば、上部絶縁板は、アクリル、フェノール、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、又はポリフェニルカーボネート等で作製されてもよい。但し、上部絶縁板を、硬い絶縁性材料、例えば、ガラス繊維を混合したフェノール樹脂、アクリル、又はフェノール等で作製すると、円筒形電池が異常発熱したときに、上部絶縁板が溶けてガスの排気通路を塞ぐことを効果的に抑制又は防止できて好ましい。
【0068】
また、外装缶16において封口体17を収容している封口部41の径方向の外径が、外装缶16において電極体14を収容している胴体部42の径方向の外径よりも小さい場合について説明した。しかし、外装缶において封口体を収容している封口部の径方向の外径は、外装缶において電極体を収容している胴体部の径方向の外径と同一でもよく、その外径よりも大きくてもよい。
【0069】
また、図2Aに示すように、正極リード20を挿通するための第1貫通孔55が半円形状の開口を有する場合について説明した。また、上部絶縁板18をその外縁59の直径と厚さ方向(軸方向)を含む平面で2分割したときに、第1貫通孔55が一方側の領域に存在する場合について説明した。しかし、上部絶縁板における正極リードを挿通するための第1貫通孔のレイアウトは、図2Aに示すレイアウトに限らず、如何なるレイアウトでもよい。例えば、正極リードを挿通するための第1貫通孔は、上部絶縁板の径方向の中央部に設けられてもよい。そして、複数の同一の第2溝が周方向に等間隔又は非等間隔な状態で放射状に径方向に延在してもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 円筒形電池、 11 正極、 12 負極、 13 セパレータ、 14 電極体、 16 外装缶、 17 封口体、 18,118,218,318,418 上部絶縁板、 20 正極リード、 21 負極リード、 23 端子板、 24 排気弁、 25 絶縁部材、 26 封口板、 27 ガスケット、 30 有底筒状部、 34 溝入れ部、 41 封口部、 42 胴体部、 60 溝、 61,161,261,361,461 第1溝、 62,162,262,362,462 第2溝、 68 底部。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B