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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069737
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/15 20160101AFI20240515BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20240515BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240515BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20240515BHJP
   B60W 30/182 20200101ALI20240515BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20240515BHJP
   B60W 30/16 20200101ALI20240515BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20240515BHJP
【FI】
B60W20/15 ZHV
B60W10/08 900
B60W10/06 900
B60K6/442
B60W30/182
B60W30/14
B60W30/16
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050169
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄大
【テーマコード(参考)】
3D202
3D241
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202BB01
3D202BB11
3D202CC02
3D202DD01
3D202DD05
3D202DD13
3D202DD19
3D202DD24
3D202FF02
3D202FF12
3D241BA01
3D241BA02
3D241BA26
3D241BA44
3D241BA51
3D241BC01
3D241CA06
3D241CC02
3D241CC03
3D241CD12
3D241DA13Z
3D241DB02Z
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC08
5H125AC12
5H125CA01
5H125CA04
5H125CA09
5H125EE42
5H125EE49
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】クルーズ制御とEV優先制御とを両立させて、燃費性能を更に向上させる車両の走行制御装置を提供する。
【解決手段】走行駆動源としてエンジン及びモータを搭載し走行状態に基づいてシリーズモード、パラレルモード、EVモードと、を切替制御するハイブリッドコントロールユニット18を備えたハイブリッド車に備えられ、EVモードの実行機会を増加させるモータ優先制御を実行指示するEV優先スイッチ21aと、車両の目標車速を設定して車両を自動走行させるクルーズコントロールユニット22と、を備えた車両の走行制御装置であって、ハイブリッドコントロールユニット18は、EV優先スイッチ21aによりモータ優先制御が実行指示された際に、クルーズコントロールユニット22による自動走行における目標車速の最大値をEVモードにおける走行可能上限車速に設定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行駆動源として、エンジン及びモータを備えた車両に搭載され、
前記車両の走行状態に基づいて、前記モータ及びエンジンを運転する第1走行モードと、前記エンジンを停止して前記モータを運転する第2走行モードと、を切替制御する走行モード切替制御部と、
前記第2走行モードの実行機会を増加させるモータ優先制御を実行指示するモータ優先制御指示部と、
前記車両の目標車速を設定して前記車両を自動走行させる自動走行制御部と、
を備えた車両の走行制御装置であって、
前記モータ優先制御が実行指示された際に、前記自動走行において前記目標車速の最大値を前記第2走行モードにおける走行可能上限車速に設定する走行制御部を備えたことを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記走行制御部は、前記自動走行制御部により前記目標車速が前記第2走行モードにおける走行可能上限車速より高い車速に設定されて自動走行しているときには、前記モータ優先制御の実行を規制することを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記走行制御部は、前記自動走行制御部による前記第2走行モードでの自動走行中に、前記モータ優先制御が実行指示されている状態で前記車両のアクセルが操作された場合には、アクセル操作量に基づいて前記第1走行モードと前記第2走行モードとを切り替えることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】

前記走行制御部は、前記自動走行制御部による前記第2走行モードでの自動走行中に前記モータ優先制御が実行指示されている状態で前記車両のアクセルが操作された場合に、アクセル操作量が所定値以上である場合には前記第2走行モードから前記第1走行モードに切り替え、アクセル操作量が所定値未満である場合には前記第2走行モードを維持することを特徴とする請求項3に記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記走行制御部は、前記自動走行中に前記モータ優先制御が実行指示されている状態でアクセル操作されて前記モータ及び前記エンジンが作動して車速が第2走行モードでの走行可能上限車速を超えた後に、アクセル操作がオフになった場合には、前記目標車速の最大値を前記走行可能上限車速にした前記自動走行を再開することを特徴とする請求項4に記載の車両の走行制御装置。
【請求項6】
前記目標車速を設定する目標車速設定部を備え、
前記自動走行制御部は、車速が前記目標車速になるように前記モータ及び前記エンジンを作動制御するクルーズコントロール装置であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両の走行制御装置。
【請求項7】
前記自動走行制御部は、先行車両に追従走行するように前記モータ及び前記エンジンを作動制御するアダプティブクルーズコントロール装置であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の走行制御装置に係り、詳しくは、クルーズコントロール装置を備えるとともに走行モードを切替可能なハイブリッド車における走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両において、例えばEVモード、シリーズモード、パラレルモードといった走行モードを切り替え可能な車両が知られている。これらの走行モードは、例えばアクセル操作量等に基づく要求トルクや車速等の運転条件に応じて自動的に切り替えられる。
一方、車両の多くには、任意に設定した目標車速での自動走行が可能なクルーズコントロール装置が備えられている。また近年では、先行車に自動的に追従走行するアダプティブクルーズコントロール装置を搭載した車両も増加してきている。
【0003】
更に、特許文献1には、ハイブリッド車両において、EVモードの選択機会を増加させることで、燃費性能を向上させるEV優先制御が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6649607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたEV優先制御は、例えば車両の運転者によって操作指示されることで、EVモードが選択される条件を広げてEVモードの機会を増加させるものである。
しかしながら、例えばクルーズコントロール装置による自動走行中にEV優先指示をしても設定した目標車速ではEVモードへの切り換えが不能であるといったように、クルーズ制御とEV優先制御の両立が困難である場合がある。これに対し、EVモードによるクルーズ制御をより多くの機会で可能にして、静粛性能、燃費性能を向上させることが要求されている。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、自動走行(クルーズ制御)とモータ優先制御(EV優先制御)とが両立する機会を増加させて、静粛性能、燃費性能を向上させる車両の走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の走行制御装置は、車両の走行駆動源として、エンジン及びモータを備えた車両に搭載され、前記車両の走行状態に基づいて、前記モータ及びエンジンを運転する第1走行モードと、前記エンジンを停止して前記モータを運転する第2走行モードと、を切替制御する走行モード切替制御部と、前記第2走行モードの実行機会を増加させるモータ優先制御を実行指示するモータ優先制御指示部と、前記車両の目標車速を設定して前記車両を自動走行させる自動走行制御部と、
を備えた車両の走行制御装置であって、前記モータ優先制御が実行指示された際に、前記自動走行において前記目標車速の最大値を前記第2走行モードにおける走行可能上限車速に設定する走行制御部を備えたことを特徴とする。
【0008】
これにより、モータ優先制御が実行指示された際には、目標車速が第2走行モードにおける走行可能上限車速に設定されることで、第2走行モードによる自動走行が継続して可能となる。よって、自動走行において第2走行モードの機会を増加できる。
好ましくは、前記走行制御部は、前記自動走行制御部により前記目標車速が前記第2走行モードにおける走行可能上限車速より高い車速に設定されて自動走行しているときには、前記モータ優先制御の実行を規制するとよい。
【0009】
これにより、目標車速が走行可能上限車速より高い状態で自動走行しているときには、第2走行モードの実行を抑制して第1走行モードが選択されることで、高い車速での自動走行が可能になる。
好ましくは、前記走行制御部は、前記自動走行制御部による前記第2走行モードでの自動走行中に、前記モータ優先制御が実行指示されている状態で前記車両のアクセルが操作された場合には、アクセル操作量に基づいて前記走行モードを切り換えるとよい。
【0010】
これにより、モータ優先制御が実行指示されている状態での自動走行中に、アクセル操作に応じて走行モードが切り替えられるので、運転者の意思に対応して走行モードが切り替えられ、使用性の優れた自動走行が可能になる。
好ましくは、前記走行制御部は、前記自動走行制御部による前記第2走行モードでの自動走行中に前記モータ優先制御が実行指示されている状態で前記車両のアクセルが操作された場合に、アクセル操作量が所定値以上である場合には前記第2走行モードから前記第1走行モードに切り替え、アクセル操作量が所定値未満である場合には前記第2走行モードを維持するとよい。
【0011】
これにより、モータ優先制御が実行指示されている状態での自動走行中に、アクセルが大きく操作されている場合には第2走行モードから第1走行モードに切り替わり、車両全体の出力を確保して走行性能を向上できる。一方、アクセルが小さく操作されている場合には第2走行モードか維持され、車両の静粛性能及び燃費性能を向上できる。
好ましくは、前記走行制御部は、前記自動走行中に前記モータ優先制御が実行指示されている状態でアクセル操作されて前記モータ及び前記エンジンが作動して車速が第2走行モードでの走行可能上限車速を超えた後に、アクセル操作がオフになった場合には、前記目標車速の最大値を前記走行可能上限車速にした前記自動走行を再開するとよい。
【0012】
これにより、アクセルオフから第2走行モードでの自動走行が再開されるので、第2走行モードによる自動運転の機会が増加する。
好ましくは、前記目標車速を設定する目標車速設定部を備え、前記自動走行制御部は、車速が前記目標車速になるように前記モータ及び前記エンジンを作動制御するクルーズコントロール装置であるとよい。
【0013】
これにより、クルーズコントロール装置による自動走行中にモータ優先制御が実行指示された際に、目標車速が第2走行モードにおける走行可能上限車速に設定されることで、第2走行モードの優先が可能になる。
好ましくは、前記自動走行制御部は、前記先行車両に追従走行するように前記モータ及び前記エンジンを作動制御するアダプティブクルーズコントロール装置であるとよい。
【0014】
これにより、アダプティブクルーズコントロール装置による自動走行中にモータ優先制御が実行指示された際に、目標車速が第2走行モードにおける走行可能上限車速に設定されることで、第2走行モードの優先が可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両の走行制御装置によれば、モータ優先制御が実行指示された際には、第2走行モードにおける走行可能上限車速に目標車速が設定されることで、第2走行モードによる自動走行が継続して可能になる。
これにより、自動走行においてエンジンを停止してモータを駆動させる第2走行モードの機会が増加して、車両の静粛性能、燃費性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態の走行制御装置が適用された車両の全体構成図である。
図2】EVモードとシリーズモードとの運転領域の切り換えを示す特性図の一例である。
図3】本実施形態の走行制御装置の構成を示すブロック図である。
図4】EV走行可能車速以下でのクルーズ制御中においてEV優先制御をON操作した場合の最大駆動トルク、アクセル操作量、車速の推移の一例を示すタイムチャートである。
図5】EV走行可能車速より高い車速でのクルーズ制御中においてEV優先制御をON操作した場合の最大駆動トルク、アクセル操作量、車速の推移の一例を示すタイムチャートである。
図6】EV優先スイッチのON状態でクルーズ制御を開始した場合の最大駆動トルク、アクセル操作量、車速の推移の一例を示すタイムチャートである。
図7】クルーズ制御中かつEV優先制御中に、ディテントを踏み越えたアクセルオーバーライドをした場合の最大駆動トルク、アクセル操作量、車速の推移の一例を示すタイムチャートである。
図8】クルーズ制御中かつEV優先制御中に、ディテント未満のアクセルオーバーライドをした場合の最大駆動トルク、アクセル操作量、車速の推移の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をプラグインハイブリッド車両(以下、車両1という)の走行制御装置に具体化した実施形態を説明する。
図1は本実施形態の走行制御装置が適用された車両の全体構成図である。
本実施形態に係る車両1は、走行駆動源としてフロントモータ2、リヤモータ5及び及びエンジン3を備えたプラグインハイブリッド車である。
【0018】
車両1は、フロントモータ2の出力またはフロントモータ2及びエンジン3の出力により前輪4を駆動し、リヤモータ5の出力により後輪6を駆動するように構成された4輪駆動車である。
エンジン3の出力軸は減速機7を介して前輪4の駆動軸8と連結され、減速機7には内部の動力伝達を断接可能なクラッチ9が内蔵されている。クラッチ9の接続時にはエンジン3の駆動力が減速機7及び駆動軸8を経て前輪4に伝達され、クラッチ9の切断時にはエンジン3と前輪4との連結が切り離される。
【0019】
減速機7のクラッチ9より動力伝達方向の下流側(前輪4側)にはフロントモータ2が連結され、その駆動力が減速機7から駆動軸8を経て前輪4に伝達されるようになっている。また、減速機7のクラッチ9より動力伝達方向の上流側(エンジン3側)にはモータジェネレータ10が連結され、クラッチ9の切断時において、モータジェネレータ10はエンジン3の駆動により発電したり、或いはエンジン3を始動するスタータモータとして機能したりする。また、リヤモータ5は減速機11を介して後輪6の駆動軸12と連結され、その駆動力が減速機11から駆動軸12を経て後輪6に伝達されるように構成されている。
【0020】
エンジン3には、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されたエンジンコントロールユニット14が接続され、このエンジンコントロールユニット14によりエンジン3のスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等が制御されてエンジン3が運転される。
フロントモータ2、リヤモータ5及びモータジェネレータ10は三相交流電動機であり、それらの電源として走行用バッテリ15(走行駆動用蓄電池)が備えられている。走行用バッテリ15は、例えばリチウムイオン電池等の二次電池から構成され、その充電率(State Of Charge、以下、SOC)の算出や温度の検出を行うバッテリモニタリングユニット15aを内蔵している。
【0021】
フロントモータ2及びモータジェネレータ10はフロントモータコントロールユニット16を介して走行用バッテリ15に接続され、フロントモータコントロールユニット16にはフロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bが備えられている。走行用バッテリ15からの直流電力は、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bにより三相交流電力に変換されてフロントモータ2やモータジェネレータ10に供給される。また、フロントモータ2による回生電力やモータジェネレータ10による発電電力は、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bにより直流電力に変換されて走行用バッテリ15に充電される。
【0022】
同様に、リヤモータ5はリヤモータコントロールユニット17を介して走行用バッテリ15に接続され、リヤモータコントロールユニット17にはリヤモータ用インバータ17aが備えられている。走行用バッテリ15からの直流電力は、リヤモータ用インバータ17aにより三相交流電力に変換されてリヤモータ5に供給され、リヤモータ5による回生電力は、リヤモータ用インバータ17aにより直流電力に変換されて走行用バッテリ15に充電される。
【0023】
また、車両1には、走行用バッテリ15を外部電源によって充電する充電機13が備えられている。
ハイブリッドコントロールユニット18(走行モード切替制御部、走行制御部)は、車両1の総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されている。このハイブリッドコントロールユニット18により、エンジン3、フロントモータ2、モータジェネレータ10、リヤモータ5の各運転状態、及び減速機7のクラッチ9の断接状態等が制御される。ハイブリッドコントロールユニット18の入力側には、走行用バッテリ15のバッテリモニタリングユニット15a、フロントモータコントロールユニット16、リヤモータコントロールユニット17、エンジンコントロールユニット14、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ19、及び車速Vspを検出する車速センサ20が接続されており、これらの機器からの検出及び作動情報が入力される。
【0024】
また、ハイブリッドコントロールユニット18の出力側には、フロントモータコントロールユニット16、リヤモータコントロールユニット17、減速機7のクラッチ9、及びエンジンコントロールユニット14が接続されている。さらに、ハイブリッドコントロールユニット18には、スピーカやディスプレイ及び入力スイッチ等からなるユーザーインターフェース21が接続されており、このユーザーインターフェース21により運転者への各種警告や運転者による各種入力操作が実行可能となっている。
【0025】
そして、ハイブリッドコントロールユニット18は、アクセル開度センサ19や車速センサ20の各種検出量等に基づき、車両1の走行モードをEVモード、シリーズモード、パラレルモードの間で切り換える。例えば、高速領域のようにエンジン3の効率が高い領域では、走行モードをパラレルモードとする。また、中低速領域では、走行用バッテリ15の充電率SOCや車両走行駆動用の要求トルク(目標駆動トルク)等に基づきEVモードとシリーズモードとの間で切り換える。
【0026】
EVモードでは、減速機7のクラッチ9を切断すると共にエンジン3を停止し、走行用バッテリ15からの電力によりフロントモータ2やリヤモータ5を駆動して車両1を走行させる。
シリーズモードでは、減速機7のクラッチ9を切断した上で、エンジン3を運転してモータジェネレータ10を駆動し、その発電電力及び走行用バッテリ15からの電力によりフロントモータ2やリヤモータ5を駆動して車両1を走行させる。なお、モータジェネレータ10による発電電力のうち余剰電力を走行用バッテリ15に充電する。
【0027】
パラレルモードでは、減速機7のクラッチ9を接続した上で、エンジン3を運転して駆動力を減速機7から前輪4に伝達すると共に、エンジン駆動力に余剰があるときには、フロントモータ2で回生し、エンジン駆動力が足りないときには、バッテリ電力を使ってフロントモータ2でアシストする。
なお、、シリーズモード及びパラレルモードは本発明における第1走行モード、EVモードは本発明における第2走行モードに該当する。
【0028】
また、ハイブリッドコントロールユニット18は、上記各種検出量及び作動情報等の車両1の走行状態に基づき車両1の走行に必要な総要求出力を算出し、その総要求出力を、EVモード及びシリーズモードではフロントモータ2側とリヤモータ5側とに配分し、パラレルモードではフロントモータ2側とエンジン3側とリヤモータ5側とに配分する。そして、それぞれに配分した要求出力、及びフロントモータ2から前輪4までの減速機7のギヤ比、エンジン3から前輪4までの減速機7のギヤ比、リヤモータ5から後輪6までの減速機11のギヤ比に基づき、フロントモータ2、エンジン3、リヤモータ5のそれぞれの要求トルクを設定し、各要求トルクを達成するようにフロントモータコントロールユニット16、リヤモータコントロールユニット17及びエンジンコントロールユニット14に指令信号を出力する。
【0029】
フロントモータコントロールユニット16及びリヤモータコントロールユニット17ではハイブリッドコントロールユニット18からの指令信号に基づき、フロントモータ2及びリヤモータ5の要求トルクを達成するためにフロントモータ2及びリヤモータ5の各相のコイルに流すべき目標電流値を算出する。そして、目標電流値に基づきフロントモータ用インバータ16a及びリヤモータ用インバータ17aをスイッチング制御して各コイルの電流値を目標電流値に制御し、それぞれの要求トルクを達成する。尚、モータジェネレータ10の発電時も同様であり、負側の要求トルクから求めた目標電流値に基づきモータジェネレータ用インバータ16bをスイッチング制御し、これにより目標電流値を達成する。
【0030】
エンジンコントロールユニット14ではハイブリッドコントロールユニット18からの指令信号に基づき、エンジン3の要求トルクの達成のためのスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等の目標値を算出し、それらの目標値に基づく制御により要求トルクを達成する。
更に、本実施形態の車両1は、運転者がEVモードとシリーズモードとの間の切換特性を選択できるようになっている。具体的には、通常の切換特性である通常モードに加え、通常モードに比較してEVモードの運転領域を拡大したEV優先制御(モータ優先制御)が可能になっている。EV優先制御は、EV優先スイッチ21a(モータ優先制御指示部)の操作によりEV優先モードが選択されることで実行される。そのためにユーザーインターフェース21にはEV優先スイッチ21aが備えられており、EV優先スイッチ21aの非操作時には通常モードが選択され、EV優先スイッチ21aの操作時にはEV優先モードが選択されるようになっている。
【0031】
図2はEVモードとシリーズモードとの運転領域を通常モードとEV優先モードとで比較した特性図の一例であり、縦軸を車両1の目標駆動トルク、横軸を車速とし、通常モードでの走行モードの境界線を実線で、EV優先モードでの走行モードの境界線を破線で示している。相対的に目標駆動トルク及び車速が低い運転領域ではEVモードが選択され、車速や目標駆動トルクが増加するとシリーズモードに切り換えられるが、通常モードに対してEV優先モードでは、境界線が高トルク側及び高車速側に設定されることで、よりEVモードの運転領域が拡大されている。よって、EV優先モードでは通常モードよりもEVモードの選択頻度、ひいてはフロントモータ2やリヤモータ5の使用頻度が高められて燃費性能や環境性能の向上が達成される。
【0032】
一方、ハイブリッドコントロールユニット18には、クルーズコントロールユニット22(アダプティブクルーズコントロール装置、自動走行制御部)が接続されている。このクルーズコントロールユニット22は、ステアリングスイッチ23(目標車速設定部)等によって設定した目標車速で自動走行させるクルーズコントロール機能に加えて、先行車両に追従走行するアダプティブクルーズコントロール機能を備えている。
【0033】
図3は走行制御装置25の構成を示すブロック図である。
本実施形態の走行制御装置25は、車両1のハイブリッドコントロールユニット18及びクルーズコントロールユニット22によって構成される。
ハイブリッドコントロールユニット18には、EV優先モード変更判定部30と、各種トルク演算部31と、モータ・エンジン分配トルク演算部32を備えられている。
【0034】
EV優先モード変更判定部30は、EV優先スイッチ21aの操作によりEV優先モードが選択されている際に、車速等に基づいて、通常モードとEV優先モードのうちEV優先モードに設定してよいか判定する。
各種トルク演算部31は、EV優先モード変更判定部30において選択された通常モードあるいはEV優先モードに対応して車両1の最大駆動トルクTmax等の各種トルクを演算する。車両1の最大駆動トルクTmaxは、クルーズコントロールユニット22に出力される。
【0035】
モータ・エンジン分配トルク演算部32は、クルーズコントロールユニット22において設定された車両1の目標駆動トルクを、フロントモータ2、リヤモータ5による出力とエンジン3からの出力に分配するように演算し、対応するモータコントロールユニット16、17及びエンジンコントロールユニット14に分配された目標駆動トルクを出力する。
【0036】
クルーズコントロールユニット22は、通常クルーズモード制御部35とEV優先クルーズモード制御部36とクルーズモード判定部37とを備えている。
通常クルーズモード制御部35及びEV優先クルーズモード制御部36は、各種トルク演算部31から入力した最大駆動トルクTmaxを上限値として、クルーズ走行させるための車両1の目標駆動トルクを演算する。通常クルーズモード制御部35は通常モードにおけるクルーズ走行の際に要する車両1の目標駆動トルクを、EV優先クルーズモード制御部はEV優先モードにおけるクルーズ走行の際に要する車両1の目標駆動トルクを演算する。
【0037】
クルーズモード判定部37は、EV優先モード変更判定部30によって判定された通常モードあるいはEV優先モードに対応して、通常クルーズモード制御部35あるいはEV優先クルーズモード制御部36において演算された車両1の目標駆動トルクを選択し、
モータ・エンジン分配トルク演算部32に出力する。
次に、図4~8を用いて、EV優先制御とクルーズ制御とを同時に実行した際の、最大駆動トルクTmaxの設定について説明する。
【0038】
図4は、EV走行可能車速(VmaxEV、EVモードにおける走行可能上限車速)以下でのクルーズ制御中においてEV優先制御をON操作した場合の最大駆動トルクTmax、アクセル操作量(実アクセル量APS、クルーズ制御によるアクセル量Virtual APS)、車速(実車速Vsp、設定した目標車速Vset)の推移の一例を示すタイムチャートである。
図4に示すように、エンジンON状態でACCがON、即ちクルーズ制御中に、EV優先スイッチ21aをON操作することで、EV優先モードがONになる(ON-ACT)。このとき、実際の車速VspがEV走行可能車速VmaxEV以下である場合には、エンジン3を停止させ、モータ2、5のみ作動させるEVモードにする。なお、エンジンON状態でのクルーズ制御中では、最大駆動トルクTmaxは、エンジン3及びモータ2、5の最大駆動トルクであり、EVモード時には最大駆動トルクTmaxは、モータ2、5の最大駆動トルクとなる。この場合には、エンジン3を停止させても、クルーズ制御において設定した目標車速Vset(例えば120km)に車速Vspが維持される。
【0039】
図5は、EV走行可能車速VmaxEVより高い車速でのクルーズ制御中においてEV優先制御をON操作した場合の最大駆動トルクTmax、アクセル操作量、車速の推移の一例を示すタイムチャートである。
図5に示すように、エンジンON状態でEV走行可能車速VmaxEVより高い車速でのクルーズ制御中においてEV優先スイッチ21aをON操作した場合には、EV優先モードがONにならずにOFF(通常モード)に維持される。したがって、エンジン3が停止せずに、エンジン3とモータ2、5の両方で出力して最大駆動トルクTmaxがエンジン3とモータ2、5による最大駆動トルクに維持される。これにより、車両1の目標駆動トルクが確保可能になりクルーズ制御において設定した目標車速Vset(例えば150km)に車速Vspが維持される。
【0040】
図6は、EV優先スイッチのON状態でクルーズ制御を開始した場合の最大駆動トルクTmax、アクセル操作量、車速の推移の一例を示すタイムチャートである。
図6に示すように、エンジンON状態でクルーズ制御のOFF状態での走行時に、EV優先スイッチ21aをONにすると、EV優先モードのスタンバイ状態(ON-std)となる。このスタンバイ状態のときに例えばレジュームスイッチ(RES/+スイッチ)をONにしてクルーズ制御を開始しようとしても、車速VspがEV走行可能車速VmaxEVより高い場合には、エンジン3を停止させずにエンジン3とモータ2、5の両方での出力を維持して最大駆動トルクTmaxがエンジン3とモータ2、5による最大駆動トルクに設定され、車両1の目標駆動トルクが確保可能になる(図6中の(1))。
【0041】
EV優先モードのスタンバイ状態において、レジュームスイッチ等をONにしてクルーズ制御を開始しようとした際に、車速VspがEV走行可能車速VmaxEV以下の場合には、エンジン3を停止させモータ2、5のみ作動させるEVモードとなり、クルーズ制御がONになる。ここでの最大駆動トルクTmaxは、モータ2、5の最大駆動トルクとなる(図6中の2)。
【0042】
図7は、クルーズ制御中かつEV優先制御中に、ディテント(WOT、所定値)を踏み越えたアクセルオーバーライドをした場合の最大駆動トルクTmax、アクセル操作量、車速の推移の一例を示すタイムチャートである。
図7に示すように、クルーズ制御中かつEV優先制御中に、ディテントを踏み越えたアクセルオーバーライドをした場合には、アクセル操作に伴い車速Vspが増加してEV走行可能車速VmaxEVに到達した時点でエンジン3を始動させてエンジン3とモータ2、5の両方で出力する。ここでの最大駆動トルクTmaxは、エンジン3とモータ2、5による最大駆動トルクになり、加速性能を確保できる。
【0043】
その後、アクセル操作をOFF(アクセルオーバーライドOFF)にしたときには、設定可能最大車速VmaxをEV走行可能車速VmaxEVとしたクルーズ走行を再開する。ここでは、設定された目標車速VsetがEV走行可能車速VmaxEVより低い値(80km/h)であるので、この目標車速Vsetに向かって車速Vspが低下する。このとき、車速VspがEV走行可能車速VmaxEV以下となった時点でエンジン3を停止させEVモードにするとともに、最大駆動トルクTmaxをモータ2、5の最大駆動トルクにする。
【0044】
図8は、クルーズ制御中かつEV優先制御中に、ディテント未満のアクセルオーバーライドをした場合の最大駆動トルクTmax、仮想アクセル操作量、車速の推移の一例を示すタイムチャートである。
図8に示すように、クルーズ制御中かつEV優先制御中に、ディテント未満のアクセルオーバーライドをした場合には、アクセル操作に伴い車速Vspが増加してもEV走行可能車速VmaxEVを超えないので、エンジン3を停止させたままとし、EVモードに維持する。
【0045】
その後、アクセル操作をOFF(アクセルオーバーライドOFF)にしたときには、設定可能最大車速VmaxをEV走行可能車速VmaxEVに設定してクルーズ走行を再開するが、設定された目標車速VsetがEV走行可能車速VmaxEVより低い値(80km/h)であるので、この目標車速Vsetに向かって車速が低下する。なお、このようにディテント未満のアクセルオーバーライドの場合は、最大駆動トルクTmaxは、モータ2、5による最大駆動トルクに維持される。
【0046】
以上のように、本実施形態に係る車両1は、車両走行するための目標駆動トルクと車速に応じて走行モードが、EVモード、シリーズモード、パラレルモードのいずれかに切り換えらる。更に、EV優先スイッチ21aが備えられており、運転者がEV優先スイッチ21aを操作することで、EVモードが選択される目標駆動トルクや車速等の運転範囲を広げて優先的にEVモードにするEV優先制御が可能になっている。
【0047】
更に、車両1は、クルーズ制御が可能であり、運転者等が設定した車速、実車速、先行車両との距離等に応じて目標駆動トルクが自動的に設定される。
本実施形態では、EV優先制御とクルーズ制御との両方が実行される場合における走行制御に特徴を有している。
EV優先スイッチ21aが操作されてEV優先制御が実行指示された際には、クルーズ制御における目標車速が、EVモードにおける走行可能上限車速であるEV走行可能車速VmaxEVに設定される。これにより、EVモードが継続して可能となり、自動走行においてもEVモードの優先機会が増加して、車両1の静粛性能、燃費性能を向上できる。
【0048】
また、目標車速がEV走行可能車速VmaxEVより高い車速に設定されて自動走行しているときには、EV優先制御の実行が規制される。これにより、EVモードの実行を抑制してエンジン3を駆動するシリーズモードが選択されることで、高い車速での自動走行が可能になる。
また、EVモードでの自動走行中に、EV優先制御が実行指示されている状態で車両1のアクセルが操作された場合には、アクセル操作量に基づいて走行モードの切り換えが変更される。
【0049】
例えば、シリーズモードでの自動走行中にEV優先制御が実行指示されている状態で車両1のアクセルが操作された場合に、所定値(例えばEV走行可能車速VmaxEVを超える程度)以上にアクセル操作量が増加した場合には、シリーズモードを維持し、アクセル操作量が所定値未満である場合にはシリーズモードからEVモードに切り替えさせる。
これにより、EV優先制御が実行指示されている状態での自動走行中に、アクセルが大きく操作されている場合にはシリーズモードを維持して車両全体の出力を確保し走行性能を向上できる。一方、アクセルが小さく操作されている場合にはシリーズモードからEVモードに切り替わり、車両1の静粛性能及び燃費性能を向上できる。
【0050】
また、自動走行中にモータ優先制御が実行指示されている状態でアクセル操作されてモータ2、5及びエンジン3が作動して車速がEV走行可能車速VmaxEVを超えた後に、アクセル操作がオフになった場合には、目標車速の最大値をEV走行可能車速VmaxEVにした自動走行が再開されるので、EVモードによる自動運転の機会を増加させ、容易にかつ静粛性能及び燃費性能の優れた運転が可能になる。
【0051】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、ハイブリッドコントロールユニット18とは別に、アダプティブクルーズ制御を行うクルーズコントロールユニット22を備えているが、例えばアダプティブクルーズ機能を有しない通常のクルーズコントロール機能を有する車両では、ハイブリッドコントロールユニット18の内部にクルーズ制御部40(クルーズコントロール装置、自動走行制御部)を備えていることが多い。
【0052】
図9に示すように、ハイブリッドコントロールユニット18の内部のクルーズ制御部40には、図3に示すクルーズコントロールユニット22と同様に、通常クルーズモード制御部35とEV優先クルーズモード制御部36とクルーズモード判定部37とを備え、上記実施形態と同様にEV優先制御及びクルーズ制御を行えばよい。
また、上記実施形態は、EVモード、シリーズモード、パラレルモードを切り替え可能なプラグインハイブリッド車に本発明を適用しているが、少なくともモータで走行駆動するEVモードと、エンジン及びモータで走行駆動する走行モードが切り換え可能なハイブリッド車に広く適用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 車両
2 フロントモータ(モータ)
3 エンジン
5 リヤモータ(モータ)
18 ハイブリッドコントロールユニット(走行モード切替制御部、走行制御部)
21 ユーザーインターフェース
21a EV優先スイッチ(モータ優先制御指示部)
22 クルーズコントロールユニット(アダプティブクルーズコントロール装置、自動走行制御部)
23 ステアリングスイッチ(目標車速設定部)
25 走行制御装置
40 クルーズ制御部(クルーズコントロール装置、自動走行制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8