(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069743
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド
(51)【国際特許分類】
C08G 18/34 20060101AFI20240515BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C08G18/34 030
C08G18/76 057
C08G18/76 014
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095622
(22)【出願日】2021-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021048864
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健太
(72)【発明者】
【氏名】吉野 文子
(72)【発明者】
【氏名】森北 達弥
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034BA02
4J034CA25
4J034CA26
4J034CB04
4J034CC12
4J034CC52
4J034CC61
4J034CC65
4J034CC67
4J034CD05
4J034HA01
4J034HA07
4J034HA13
4J034HA14
4J034HC12
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034JA14
4J034JA30
4J034KA01
4J034KB02
4J034KD11
4J034KE02
4J034QA05
4J034QA07
4J034QB14
4J034QC08
4J034RA11
4J034RA16
(57)【要約】
【課題】フィルム状に成形した時、高い引張弾性率と高いMIT回数とが両立したポリアミドイミド(PAI)フィルムを得ることできるPAIの提供。
【解決手段】酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたPAIであって、および/またはトリレンジイソシアネート(TDI)に置換されており、酸価が12mg-KOH/g以下、対数粘度が1.30dl/g以上であることを特徴とするPAI。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたポリアミドイミド(PAI)であって、TODIの一部がメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)および/またはトリレンジイソシアネート(TDI)に置換されており、酸価が12mg-KOH/g以下、対数粘度が1.30dl/g以上であることを特徴とするPAI。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、フィルム状に成形して、複写機、プリンタ等の中間転写ベルト、定着ベルト等として好適に用いられるポリアミドイミド(PAI)に関する。
【背景技術】
【0002】
高速化が求められる複写機、プリンタの中間転写ベルト、定着ベルトとして、耐熱性、機械特性、寸法安定性に優れたPAI等のポリイミド系材料からなるフィルムが広く用いられている。
これらのベルトは、例えば、PAIを含有する溶液を金型に塗布、乾燥することにより得ることができ、通常、厚みが30μm~150μmのPAIフィルムからなるシームレスのベルトとして用いられる。
【0003】
PAIから得られるPAIフィルムとしては、酸成分としてトリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたPAIからなるフィルムが知られている。 特許文献1~8には、このような化学構造を有するPAIフィルムからなるPAIベルトは、寸法安定性、耐熱性、力学特性(特に剛性)に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-147199号公報
【特許文献2】特開2004-155947号公報
【特許文献3】特開2003-261768号公報
【特許文献4】特開2007-16097号公報
【特許文献5】特開2011-79965号公報
【特許文献6】特開2018-72583号公報
【特許文献7】特開2015-106022号公報
【特許文献8】特開2009-086190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献に記載された酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIを用いたPAIからなるベルトは、ベルトとしての強靭性、すなわちフィルムとした時の耐折れ性(MIT特性)が十分ではなく、ベルトを複写機に装着して長時間使用した際、破断や割れが起こることがあった。 このようなことから、複写機用のベルトとして用いられるPAIとしては、フィルムとした際に高い弾性率(剛性)を有することに加え、良好なMIT特性(高いMIT回数)を有するものが求められていた。
【0006】
そこで、本発明は前記課題を解決するものであって、フィルム状に成形した時、高い弾性率と高いMIT回数とが両立したPAIフィルムを得ることできるPAIの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の化学構造および酸価を有する新規なPAIとすることにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、「酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたポリアミドイミド(PAI)であって、TODIの一部がメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)および/またはトリレンジイソシアネート(TDI)に置換されており、酸価が12mg-KOH/g以下、対数粘度が1.30dl/g以上であることを特徴とするPAI」を趣旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPAIをフィルム状に成形することにより、高い弾性率と高いMIT回数とが両立したPAIフィルムとすることができる。従い、このPAIフィルムからなるPAIベルトは、複写機、プリンタの中間転写ベルト、定着ベルトとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のPAIは、酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたポリアミドイミド(PAI)樹脂であって、TODIの一部がメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)に置換されており、酸価が12mg-KOH/g以下、対数粘度が1.30dl/g以上であることが必要である。 ここで、酸価は、主として、PAIの末端カルボン酸濃度に依存して計測される数値であり、対数粘度は、PAIの分子量に依存して計測される数値である。この数値を12mg-KOH/g以下、対数粘度が1.30dl/g以上とすることにより、フィルムとした時の剛性を確保した上で、良好な耐折れ性(MIT特性)を確保することができる。
PAIの酸価は、10mg-KOH/g以下とすることが好ましく、8mg-KOH/g以下とすることがより好ましい。
PAIの対数粘度は、1.40dl/g以上とすることが好ましく、1.50dl/g以上とすることがより好ましい。
酸価は、JIS K0070(1992)の規定に基づき、ブロモチモールブルー(BTB)を指示薬として用い、中和滴定法で測定することにより確認することができる。
対数粘度は、PAI0.5gを100mlのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解した溶液を25℃でウベローデ粘度管を用いて測定することにより確認することができる。
【0012】
本発明のPAIは、例えば、以下のような方法で、溶液として得ることができる。
すなわち、略等モルのTMAとTODIとを、溶媒中、重合反応させることにより得ることができる。
ここで、本発明のPAIにおいては、TODIの一部を、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)に置換することが必要である。この置換比率としては、TODIの5~70モル%をMDIに置換することが好ましく、10~70モル%とすることがより好ましい。このようにすることにより、光学的に均一なPAI溶液とすることができる。光学的に均一かどうかは目視により判定することができる。すなわち、溶液を観察し、白濁が認められた場合を光学的に不均一、白濁が認められない場合を光学的に均一とする。
【0013】
酸成分としては、無水トリメリット酸(TMA)のみを用いることが好ましいが、TMAの一部は、他の酸成分で置換されていてもよい。具体的には、TMAの10モル%以下であれば、ピロメリット酸無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物等で置換されていてもよい。 ただ、この置換率が5モル%を超えると、高いMIT回数とすることが難しくなることがある。 従って、例えば、国際公開2003/072639号に開示されているような、「酸成分としてトリメリット酸無水物/3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物/3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物=70~90/5~25/5~25(モル%)であり、ジイソシアネート成分として3,3′-ジメチル-4,4′-ビフェニルジイソシアネートを含む」PAI等とすることは、高い引張弾性率と高いMIT回数を同時に確保する観点からは、有効な方法とは言えない。
【0014】
酸成分と、イソシアネート成分とのモル比は、1/1.01~1.05とすることが好ましい。
このように、イソシアネート成分を酸成分に対し小過剰用いることにより、本発明で規定された12mg-KOH/g以下の酸価を有するPAI溶液を得ることができる。
さらに重合反応に際しては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)等の塩基性化合物を触媒としてTMAに対し、0.01~1モル%配合することが好ましい。
このような塩基性触媒を用いることにより、さらに酸価が低減されたPAIを含む溶液とすることができる。
【0015】
重合反応に用いられる溶媒に制限はないが、アミド系溶媒を用いることが好ましい。アミド系溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または混合物として用いることができる。これらの中で、NMP、DMAc、およびそれらの混合物が好ましい。これらの重合溶媒は、その水分率が100ppm以下に脱水されていることが好ましい。
【0016】
重合反応を行う際の反応温度としては、100~200℃が好ましく、120~180℃がより好ましい。この反応において、モノマーおよび溶媒の添加順序は特に制限はなく、いかなる順序でもよい。
【0017】
前記のようにして得られる本発明のPAIを含有する溶液は、その溶液粘度が、10Pa・s以上、200Pa・s以下であることが好ましく、80Pa・s以上、150Pa・s以下とすることがより好ましい。ここで、溶液粘度は、トキメック社製、DVL-BII型デジタル粘度計(B型粘度計)を用い、30℃における回転粘度を測定することにより確認することができる。
【0018】
本発明のPAIを含有する溶液の濃度は、10質量%超、25質量%未満とすることが好ましく、16質量%以上、22質量%以下とすることがより好ましい。
【0019】
本発明のPAIを含有する溶液には、PAIの帯電特性を調整するために、カーボンブラック、黒鉛粒子等の導電性フィラを配合することができる。
【0020】
前記のようにして得られる本発明のPAIを含有する溶液は、これを基材上に塗布、乾燥することにより、本発明のPAIからなるフィルムとすることができる。
これらのPAIフィルムは、通常の無孔PAIフィルムまたは多孔質PAIフィルムとすることができる。
用いる基材に制限はないが、銅箔等の金属箔、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム等の有機高分子フィルムを好ましく用いることができる。
多孔質PAIフィルムを得るには、前記のようにして得られるアミド系溶媒を含むPAI溶液にエーテル系溶媒であるテトラグライム等PAIに対する貧溶媒を加え、この溶液を、基材上に塗布、乾燥すればよい。
このような多孔質PAIフィルム製造方法の詳細については、例えば、特許第6656192号公報の記述を参照することができる。
本発明のPAIからなる多孔質フィルムは、例えば75質量%という高気孔率の多孔質フィルムであっても、良好な力学的特性(例えば比引張弾性率)を確保することができる。
また、本発明のPAIを含有する溶液を、円筒状の金型に塗布、乾燥後、脱型することにより、PAIフィルムからなるシームレスのベルトとすることができる。
なお、PAI溶液からフィルム(無孔または多孔質)を得る際の乾燥条件としては、50~180℃の温度で予備乾燥した後、200~300℃とすることが好ましい。
また、成形されたPAIフィルムの厚みに制限はないが、通常、1~200μm程度である。
【0021】
本発明のPAIは、厚み70μm程度のフィルムとした時の、引張弾性率が4GPa以上、MIT回数が2000回以上であることが好ましく、引張弾性率が5GPa以上、MIT回数が4000回以上であることがより好ましい。
このようにすることにより、例えば、剛性と強靭性とが両立した複写機用のベルトとして用いることができる。
なお、PAIフィルムの引張弾性率は、JIS-K7127(1999)に準拠して測定することにより確認することができる。
また、PAIフィルムのMIT回数は、JIS-P8115(2001)に準拠して、荷重を9.8Nとして測定することにより確認することができる。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0023】
<実施例1>
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、TMA:1.00モル、TODI:0.82モル、MDI:0.20モル、DABCO:0.0005モルを固形分濃度が20質量%となるように脱水されたNMP(水分率90ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させることにより、PAI固形分濃度が18質量%のPAI溶液を得た。
このPAIの酸価および対数粘度の測定結果を表1に示す。
次に、ポリエステルフィルム上に、得られたPAI溶液を塗布し、80℃で10分、130℃で10分乾燥後、塗膜をポリエステルフィルムから剥離した。その後、この塗膜を金枠に挟持し、窒素ガス雰囲気下、290℃で60分乾燥することにより、厚みが70μmのPAIフィルム(無孔)を得た。
このPAIフィルムの引張弾性率とMIT回数とを前記したJISに基づく方法により測定し、以下の基準で評価した結果を表1に示す。
【0024】
<引張弾性率>
A:5GPa以上
B:5GPa未満、4GPa以上
C:4GPa未満
<MIT回数>
A:4000回以上
B:4000回未満、2000回以上
C:2000回未満
【0025】
<実施例2~6>
イソシアネート成分の組成を表1に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI溶液を得た。これらのPAIの酸価および対数粘度の測定結果を表1に示す。
次に、これらのPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。そのフィルム特性を測定した結果を表1に示す。
【0026】
<比較例1~4>
イソシアネート成分の組成を表1に示す通りとし、重合触媒であるDABCOを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同様にして、PAI溶液を得た。これらのPAIの酸価および対数粘度の測定結果を表1に示す。
次に、これらのPAI溶液から、実施例1と同様にして、PAIフィルムを得た。そのフィルム特性を測定した結果を表1に示す。
【0027】
<比較例5>
イソシアネート成分として、「TODI:0.94モル、MDI:0.06モル」を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、重合反応を行ったが、反応終了後も液は濁ったままであり、光学的に均一なPAI溶液を得ることはできなかった。
【0028】
<比較例6>
イソシアネート成分として、「TODI:1.02モル」を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、重合反応を行ったが、反応終了後も液は濁ったままであり、光学的に均一なPAI溶液を得ることはできなかった。
【0029】
【0030】
実施例で示したように、本発明のPAIから、高い弾性率と高いMIT回数とが両立したPAIフィルムを得ることできる。