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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006977
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】エアフィルタ及びフィルタエレメント
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20240110BHJP
   B01D 46/52 20060101ALI20240110BHJP
   B03C 3/28 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B01D39/16 E
B01D39/16 A
B01D46/52 A
B03C3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077787
(22)【出願日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2022106171
(32)【優先日】2022-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小堀 暁
(72)【発明者】
【氏名】木村 直貴
【テーマコード(参考)】
4D019
4D054
4D058
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA13
4D019BB02
4D019BB03
4D019BB05
4D019BC01
4D019BC04
4D019BC05
4D019BC06
4D019BC07
4D019BC10
4D019BC11
4D019BD01
4D019CA02
4D019CB01
4D019CB06
4D019DA02
4D019DA03
4D019DA06
4D054AA11
4D054BC16
4D058JA13
4D058JB14
4D058JB39
4D058JB50
4D058SA13
4D058TA03
4D058TA06
4D058TA07
(57)【要約】
【課題】帯電性能の低下を抑制でき、圧力損失が低く捕集性能が高い、抗ウイルス性を有するエアフィルタを提供すること。
【解決手段】本発明のエアフィルタは、帯電繊維層と、抗ウイルス性を有する処理剤が添着された非帯電繊維層とが有機樹脂を介して接着しており、前記有機樹脂量が3.0~50.0g/mである。帯電繊維層と非帯電繊維層とを接着する有機樹脂量が3.0g/m以上であることで、非帯電繊維層から帯電繊維層への抗ウイルス性を有する処理剤の染み出しを有機樹脂が抑制し、エアフィルタの帯電性能の低下を抑制でき、捕集性能が高いエアフィルタである。また、帯電繊維層と非帯電繊維層とを接着する有機樹脂量が50.0g/m以下であることで、有機樹脂がエアフィルタの空隙を塞ぐことが防止されており、圧力損失が低く捕集性能が高いエアフィルタである。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電繊維層と、抗ウイルス性を有する処理剤が添着された非帯電繊維層とが有機樹脂を介して接着しており、前記有機樹脂量が3.0~50.0g/mである、エアフィルタ。
【請求項2】
前記抗ウイルス性を有する処理剤がカチオン界面活性剤である、請求項1に記載のエアフィルタ。
【請求項3】
前記非帯電繊維層に抗菌性を有する処理剤が添着された、請求項1に記載のエアフィルタ。
【請求項4】
前記有機樹脂がポリオレフィン系樹脂である、請求項1に記載のエアフィルタ。
【請求項5】
前記有機樹脂がシート状である、請求項1に記載のエアフィルタ。
【請求項6】
前記非帯電繊維層における、前記有機樹脂を介して前記帯電繊維層と接着している側の反対側の主面上に活性炭を有する、請求項1に記載のエアフィルタ。
【請求項7】
前記有機樹脂の、前記帯電繊維層と接している部分に抗ウイルス性を有する処理剤が含まれていない、請求項1に記載のエアフィルタ。
【請求項8】
プリーツ加工された請求項1~7のいずれか1項に記載のエアフィルタの周縁部に外枠を備える、フィルタエレメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性を有するエアフィルタ、及び前記エアフィルタを備えてなるフィルタエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1(特開2014-008498号公報)、特許文献2(特開2005-152793号公報)に開示されているように、帯電された繊維層と抗ウイルス性を有する処理剤を含む繊維層とを積層させた、抗ウイルス性を有するエアフィルタが用いられている。
【0003】
なお、特許文献1及び2には、繊維層同士を接着剤により接着することが開示されているものの、使用する接着剤の種類や接着態様の詳細については開示されておらず、検討もされていない。また、特許文献1及び2には、エアフィルタが帯電された繊維層を有する事で微細な塵埃を集塵でき、捕集性能が高いエアフィルタを実現できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-008498号公報
【特許文献2】特開2005-152793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に開示されたエアフィルタは、エアフィルタを使用するうちに、繊維層から抗ウイルス性を有する処理剤が帯電された繊維層(以降、帯電繊維層と称することがある)に染み出すことで、当該処理剤によって帯電繊維層の帯電量が低下するためか、エアフィルタの捕集性能が大きく低下することがあった。また、繊維層同士を接着している接着剤量によっては、エアフィルタの圧力損失が高いことがあった。
【0006】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、帯電性能の低下を抑制でき、圧力損失が低く捕集性能が高い、抗ウイルス性を有するエアフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、「帯電繊維層と、抗ウイルス性を有する処理剤が添着された非帯電繊維層とが有機樹脂を介して接着しており、前記有機樹脂量が3.0~50.0g/mである、エアフィルタ。」である。
【0008】
本発明の請求項2にかかる発明は、「前記抗ウイルス性を有する処理剤がカチオン界面活性剤である、請求項1に記載のエアフィルタ。」である。
【0009】
本発明の請求項3にかかる発明は、「前記非帯電繊維層に抗菌性を有する処理剤が添着された、請求項1に記載のエアフィルタ。」である。
【0010】
本発明の請求項4にかかる発明は、「前記有機樹脂がポリオレフィン系樹脂である、請求項1に記載のエアフィルタ。」である。
【0011】
本発明の請求項5にかかる発明は、「前記有機樹脂がシート状である、請求項1に記載のエアフィルタ。」である。
【0012】
本発明の請求項6にかかる発明は、「前記非帯電繊維層における、前記有機樹脂を介して前記帯電繊維層と接着している側の反対側の主面上に活性炭を有する、請求項1に記載のエアフィルタ。」である。
【0013】
本発明の請求項7にかかる発明は、「前記有機樹脂の、前記帯電繊維層と接している部分に、抗ウイルス性を有する処理剤が含まれていない、請求項1に記載のエアフィルタ。」である。
【0014】
本発明の請求項8にかかる発明は、「プリーツ加工された請求項1~7のいずれか1項に記載のエアフィルタの周縁部に外枠を備える、フィルタエレメント。」である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1にかかるエアフィルタは、帯電繊維層と、抗ウイルス性を有する処理剤が添着された非帯電繊維層とが有機樹脂を介して接着しており、前記有機樹脂量が3.0~50.0g/mである。帯電繊維層と非帯電繊維層とを接着する有機樹脂量が3.0g/m以上であることで、非帯電繊維層から帯電繊維層への抗ウイルス性を有する処理剤の染み出しを有機樹脂が抑制し、エアフィルタの帯電性能の低下を抑制でき、捕集性能が高いエアフィルタである。また、帯電繊維層と非帯電繊維層とを接着する有機樹脂量が50.0g/m以下であることで、有機樹脂がエアフィルタの空隙を塞ぐことが防止されており、圧力損失が低く捕集性能が高いエアフィルタである。
【0016】
本発明の請求項2にかかるエアフィルタは、抗ウイルス性を有する処理剤がカチオン界面活性剤である。界面活性剤は抗ウイルス性が高く、また、カチオン界面活性剤は繊維表面に強く吸着できる。そのため、非帯電繊維層に添着されている処理剤がエアフィルタ外へ脱離し難く、抗ウイルス性が長時間持続できるエアフィルタである。
【0017】
本発明の請求項3にかかるエアフィルタは、エアフィルタを構成する非帯電繊維層に、抗ウイルス性を有する処理剤の他に抗菌性を有する処理剤が添着されている。抗菌性を有する処理剤が添着されていることにより、エアフィルタが抗ウイルス性を有する他に抗菌性を有する。
【0018】
本発明の請求項4にかかるエアフィルタは、帯電繊維層と非帯電繊維層とを接着している有機樹脂がポリオレフィン系樹脂である。ポリオレフィン系樹脂は疎水性であり、かつ耐薬品性が高いことから、非帯電繊維層から帯電繊維層への抗ウイルス性を有する処理剤の染み出しを効果的に抑制できる。そのため、より帯電性能の低下を抑制でき圧力損失が低く捕集性能が高いエアフィルタである。
【0019】
本発明の請求項5にかかるエアフィルタは、帯電繊維層と非帯電繊維層とを接着している有機樹脂がシート状である。帯電繊維層と非帯電繊維層とを接着している有機樹脂がシート状であると、有機樹脂が帯電繊維層と非帯電繊維層の界面で面状に存在することから、シート状の有機樹脂の存在によって、より非帯電繊維層から帯電繊維層への抗ウイルス性を有する処理剤の染み出しが抑制されている。そのため、より帯電性能の低下を抑制でき圧力損失が低く捕集性能が高いエアフィルタである。
【0020】
本発明の請求項6にかかるエアフィルタは、非帯電繊維層の、帯電繊維層と接着している側の反対側の主面上に活性炭を有することで、エアフィルタが脱臭作用を有する。また、活性炭は湿度に応じて空気中の水分を吸湿・放湿する能力を有することから、活性炭を上流側にしてエアフィルタを使用することで、活性炭より下流側の抗ウイルス性を有する処理剤が添着された非帯電繊維層周辺の湿度を一定にできる。その結果、エアフィルタの使用環境に左右されにくく、抗ウイルス性を有する処理剤による抗ウイルス性能を維持できるエアフィルタである。
【0021】
本発明の請求項7にかかるエアフィルタは、エアフィルタを構成する有機樹脂の、帯電繊維層と接している部分に抗ウイルス性を有する処理剤が含まれていない。そのため、帯電繊維層の帯電性能が処理剤によって帯電性能が低下しない。その結果、圧力損失が低く捕集性能が高いエアフィルタである。
【0022】
本発明の請求項8にかかるフィルタエレメントは、本願発明にかかるエアフィルタを備えているため帯電性能の低下を抑制でき、圧力損失が低く捕集性能が高い。また、プリーツ加工されたエアフィルタは濾過面積が大きく、更に、周縁部に外枠を備えてなるので空気漏れが少ないことで、更に捕集性能が高いフィルタエレメントである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のエアフィルタは、帯電繊維層と、抗ウイルス性を有する処理剤が添着された非帯電繊維層とが有機樹脂を介して接着しており、その有機樹脂量が3.0~50.0g/mである。有機樹脂量が3.0g/m以上であることで、抗ウイルス性を有する処理剤が添着された非帯電繊維層から帯電繊維層への抗ウイルス性を有する処理剤の染み出しを有機樹脂が抑制し、エアフィルタの帯電性能の低下を抑制でき、捕集性能が高いエアフィルタである。また、有機樹脂量が50.0g/m以下であることで、有機樹脂がエアフィルタの空隙を塞ぐことが防止されており、圧力損失が上昇しにくく捕集性能が高いエアフィルタであることができる。この有機樹脂量は、捕集性能などのフィルタ性能の観点から、4.0~30.0g/mがより好ましく、5.0~20.0g/mが更に好ましい。
【0024】
有機樹脂の構成樹脂は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレンなど)、エチレン酢酸ビニル樹脂やポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(ナイロンなど)などを用いることができる。これらの中でも、有機樹脂がポリオレフィン系樹脂であると、ポリオレフィン系樹脂は疎水性であり、かつ耐薬品性が高いことから非帯電繊維層から帯電繊維層への抗ウイルス性を有する処理剤の染み出しを抑制する能力が高く、より帯電性能の低下を抑制でき、圧力損失が低く捕集性能が高いエアフィルタであるから好ましい。また、本発明で用いる有機樹脂は、1種類であっても、2種類以上であってもよい。
【0025】
本発明のエアフィルタは、帯電繊維層の帯電性能が抗ウイルス性を有する処理剤によって低下するのが防止されており、圧力損失が低く捕集性能が高いエアフィルタを実現できるように、エアフィルタを構成する有機樹脂の、帯電繊維層と接している部分に抗ウイルス性を有する処理剤が含まれていないのが好ましい。
【0026】
このような態様のフィルタは、帯電繊維層と抗ウイルス性を有する処理剤が添着された非帯電繊維層とを接着させる有機樹脂として、抗ウイルス性を有する処理剤を含有しない有機樹脂を採用することで、実現可能である。
【0027】
エアフィルタを構成する有機樹脂の、帯電繊維層と接している部分に、抗ウイルス性を有する処理剤が含まれているかどうか確認する方法としては、エアフィルタから帯電繊維層を剥離させ、剥離した帯電繊維層に付着している有機樹脂を分析することで確認できる。剥離した帯電繊維層に付着している有機樹脂に、抗ウイルス性を有する処理剤が含まれていなければ、エアフィルタを構成する有機樹脂の、帯電繊維層と接している部分に、抗ウイルス性を有する処理剤が含まれていないと判断し、剥離した帯電繊維層に付着している有機樹脂に、抗ウイルス性を有する処理剤が含まれていれば、エアフィルタを構成する有機樹脂の、帯電繊維層と接している部分に、抗ウイルス性を有する処理剤が含まれていると判断する。また、有機樹脂における帯電繊維層と接している部分に抗ウイルス性を有する処理剤が含まれているかどうか分析する方法としては、FT-IRやガスクロマトグラフィーなど、公知の分析方法で分析することができる。
【0028】
エアフィルタにおける、帯電繊維層と非帯電繊維層とが有機樹脂を介して接着しているときの有機樹脂の形状は、例えばシート状、粒子状などが挙げられるが、有機樹脂の形状がシート状であると、有機樹脂が帯電繊維層と非帯電繊維層の界面で面状に存在し、より抗ウイルス性を有する処理剤が添着された非帯電繊維層から帯電繊維層への抗ウイルス性を有する処理剤の染み出しを有機樹脂が抑制でき、より帯電性能の低下を抑制でき、圧力損失が低く捕集性能が高いエアフィルタであることから好ましい。
【0029】
本発明のエアフィルタは、帯電繊維層と、抗ウイルス性を有する処理剤が添着された非帯電繊維層とが有機樹脂を介して接着しており、帯電繊維層と非帯電繊維層とが接触していない。これにより、非帯電繊維層から帯電繊維層への抗ウイルス性を有する処理剤の染み出しを抑制し、エアフィルタの帯電性能の低下を抑制できる。帯電繊維層と非帯電繊維層が接触していないかどうかは、エアフィルタの断面が露出するようにエアフィルタを厚さ方向に切断して、この切断面を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察することで確認できる。
【0030】
本発明のエアフィルタは、フィルタの圧力損失低減及び捕集性能の向上のため帯電繊維層を有する。帯電繊維層は、例えば、不織布や織物あるいは編物などから構成することができる。これらの中でも、厚さ方向における粗密構造が容易に調整でき、また、塵埃の捕集効率が優れることから、帯電繊維層は不織布であるのが好ましい。
【0031】
本発明のエアフィルタを構成する帯電繊維層は、例えば、不織布や織物あるいは編物などから構成することができる。これらの中でも、厚さ方向における粗密構造が容易に調整でき、また、塵埃の捕集効率が優れることから、非帯電繊維層は不織布であるのが好ましい。
【0032】
前記帯電繊維層の構成繊維を構成する有機樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素あるいは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、ニトリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)、ビニロン繊維など、公知の有機樹脂からなることができる。
【0033】
特に、帯電繊維層の構成繊維が体積固有抵抗値1014Ω・cm以上の樹脂を含んでいると(より好ましくは、体積固有抵抗値1014Ω・cm以上の樹脂のみから構成されていると)、後述する極性液体帯電方法において、帯電量の多い帯電繊維層であることができるため、濾過性能に優れるエアフィルタを提供でき好ましい。体積固有抵抗値が1014Ω・cm以上の樹脂として、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂など)、ポリ四フッ化エチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどを挙げることができる。
【0034】
なお、これらの有機樹脂は、直鎖状のポリマー構造または分岐状のポリマー構造のいずれからなるものでも構わず、また有機樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また有機樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、有機樹脂を混ぜ合わせたものでも良く、特に限定されるものではない。
【0035】
また、帯電繊維層の帯電量が多く、濾過性能に優れるエアフィルタを提供できるように、帯電繊維層の構成繊維に含まれる樹脂(特に、体積固有抵抗値1014Ω・cm以上の樹脂)に、帯電助剤を混合するのが好ましい。
【0036】
帯電助剤として、例えば、ヒンダードアミン系化合物、脂肪族金属塩(例えば、ステアリン酸のマグネシウム塩、ステアリン酸のアルミニウム塩など)、不飽和カルボン酸変性高分子のうちから選ばれた1種または2種以上の化合物を、添加剤として添加することができる。これら一連の添加剤の中でもヒンダードアミン系化合物を添加するのが好ましく、その具体例として、例えば、ポリ[{(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)などを挙げることができる。
【0037】
樹脂の質量に対する帯電助剤の添加質量の割合は、特に限定されるものではないが、帯電助剤の添加質量が少な過ぎると、帯電繊維層における帯電効果が期待するよりも小さいおそれがある。また、帯電助剤の添加質量が多過ぎると、帯電繊維層の強度が劣るおそれがある。そのため、樹脂の質量100質量%に対し帯電助剤の添加質量は、0.01質量%~5質量%が好ましい。
【0038】
帯電繊維層を構成する繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の有機樹脂を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。特に、繊維径が細く目付が軽いにも関わらず、繊維が均一に分散して存在することでエアフィルタの濾過性能を向上可能な帯電繊維層であるように、帯電繊維層は直接紡糸法を用いて調製された布帛由来の繊維層であるのが好ましい。このような帯電繊維層を提供可能な布帛として、メルトブロー不織布やスパンボンド不織布を好適に採用できる。
【0039】
帯電繊維層を構成する繊維は、一種類あるいは複数種類の有機樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の有機樹脂を含んでなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型などの複合繊維を使用することができる。
【0040】
帯電繊維層の構成繊維の繊維径については特に限定するものではないが、繊維径は、0.5~50μmが好ましく、0.8~40μmがより好ましく、1.0~30μmが更に好ましい。帯電繊維層の構成繊維の繊維長は、長ければ長いほど、帯電繊維層の形態安定性が優れることから、5.0mm以上が好ましく、10.0mm以上がより好ましく、20.0mm以上が更に好ましく、連続繊維であってもよい。
【0041】
帯電繊維層の目付は適宜選択できるが、目付が低いほどエアフィルタの圧力損失が低下できるものの、目付が低すぎるとエアフィルタの捕集効率が過剰に低下するおそれがある。そのため、帯電繊維層の目付は1~60g/mが好ましく、5~30g/mがより好ましく、10~20g/mが更に好ましい。
【0042】
なお、帯電繊維層の目付は、以下の方法で算出することができる。
(帯電繊維層の目付の算出方法)
エアフィルタから帯電繊維層を容易に単離できる場合には、単離することで取得した帯電繊維層の重量を計測し、取得した帯電繊維層における最も面積の広い面(主面)1m当たりの重量に換算することで、帯電繊維層の目付(g/m)を算出する。
【0043】
また、エアフィルタから帯電繊維層を容易に単離できない場合には、エアフィルタから帯電繊維層以外の構造物を除去する。このようにして取得した帯電繊維層から、上述と同様にして重量を計測し、1mあたりの重量に換算することで目付を算出する。
【0044】
帯電繊維層の厚さは適宜選択でき、0.05~1mmであることができ、0.1~0.8mmであることができ、0.2~0.5mmであることができる。
【0045】
なお、帯電繊維層の厚さは、以下の方法で算出することができる。
(帯電繊維層の厚さの算出方法)
エアフィルタから帯電繊維層を容易に単離できる場合には、単離することで取得した帯電繊維層の主面からもう一方の主面に向けて、主面上へ20g/cmの荷重を付加したときの両主面間の長さを、高精度デジタル測長機を用いて測定し、その長さを帯電繊維層の厚さ(mm)とする。
【0046】
また、エアフィルタから帯電繊維層を容易に単離できない場合には、エアフィルタから帯電繊維層以外の構造物を除去する。このようにして取得した帯電繊維層から、上述と同様にして厚さを算出する。
【0047】
帯電繊維層における帯電態様は、極性液体帯電方法やコロナ放電により帯電させるコロナ帯電など、公知の帯電方法へ供してなる帯電態様を適宜選択できるが、濾過性能に優れるエアフィルタを提供できることから、極性液体帯電方法へ供してなる帯電態様であるのが好ましい。極性液体帯電方法へ供してなる帯電態様の帯電繊維層が濾過性能に優れる理由は、完全に解明されていない。しかし、繊維集合体の内外に関わらず繊維集合体を構成する繊維の表面全体が均一に帯電されるため、また、各繊維に繊維表面に電荷が分極して存在する帯電態様となるため、帯電量が多い帯電態様であると考えられる。
【0048】
本発明のエアフィルタは抗ウイルス性付与のため、帯電繊維層の他に抗ウイルス性を有する処理剤が添着された非帯電繊維層を有する。非帯電繊維層に添着された抗ウイルス性を有する処理剤は、例えば、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カテキン類、銀・銅などの金属イオンなどであることができる。これらの中でも抗ウイルス性を有する処理剤が界面活性剤であると、抗ウイルス性が高いことから好ましく、界面活性剤の中でもカチオン界面活性剤であると、カチオン界面活性剤は繊維表面に強く吸着できる。そのため、非帯電繊維層に添着されている処理剤がエアフィルタ外へ脱離し難く、抗ウイルス性が長時間持続できるエアフィルタであることからより好ましい。
【0049】
前記非帯電性繊維層には抗菌性及び抗アレル物質性付与のため、抗ウイルス性を有する処理剤の他に抗菌性を有する処理剤、抗アレル物質性を有する処理剤を含んでいても良い。これらの処理剤は、例えば、低級アルコール、カテキン類、カルコン類、銀・銅などの金属イオン、金属錯体などであることができる。
【0050】
本発明のエアフィルタを構成する非帯電繊維層は、例えば、不織布や織物あるいは編物などから構成することができる。これらの中でも、厚さ方向における粗密構造が容易に調整でき、また、塵埃の捕集効率が優れることから、非帯電繊維層は不織布であるのが好ましい。
【0051】
前記非帯電繊維層の構成繊維を構成する有機樹脂としては、帯電繊維層の構成繊維を構成する有機樹脂と同様の有機樹脂であることができる。また、非帯電繊維層を構成する繊維は、帯電繊維層を構成する繊維と同様の方法で得ることができる。更に、帯電繊維層を構成する繊維は、非帯電繊維層を構成する繊維と同様に、一種類あるいは複数種類の有機樹脂から構成されてなるものでも構わない。
【0052】
非帯電繊維層の構成繊維の繊維径については特に限定するものではないが、繊維径は、1.0~300μmが好ましく、1.5~250μmがより好ましく、2.0~200μmが更に好ましい。非帯電繊維層の構成繊維の繊維長は、長ければ長いほど、非帯電繊維層の形態安定性が優れることから、5.0mm以上が好ましく、10.0mm以上がより好ましく、20.0mm以上が更に好ましく、連続繊維であってもよい。
【0053】
非帯電繊維層の目付は適宜選択できるが、目付が低いほどエアフィルタの圧力損失が低下できるものの、目付が低すぎるとエアフィルタの捕集効率が過剰に低下するおそれがある。そのため、非帯電繊維層の目付は5~120g/mが好ましく、10~100g/mがより好ましく、15~90g/mが更に好ましく、20~50g/mが更に好ましい。
【0054】
なお、非帯電繊維層の目付は、以下の方法で算出することができる。
(非帯電繊維層の目付の算出方法)
エアフィルタから非帯電繊維層を容易に単離できる場合には、単離することで取得した非帯電繊維層の重量を計測し、取得した非帯電繊維層における最も面積の広い面(主面)1m当たりの重量に換算することで、非帯電繊維層の目付(g/m)を算出する。
【0055】
また、エアフィルタから非帯電繊維層を容易に単離できない場合には、エアフィルタから非帯電繊維層以外の構造物を除去する。このようにして取得した非帯電繊維層から、上述と同様にして重量を計測し、1mあたりの重量に換算することで目付を算出する。
【0056】
非帯電繊維層の厚さは適宜選択でき、0.05~1mmであることができ、0.08~0.7mmであることができ、0.1~0.3mmであることができる。
【0057】
なお、非帯電繊維層の厚さは、以下の方法で算出することができる。
(非帯電繊維層の厚さの算出方法)
エアフィルタから非帯電繊維層を容易に単離できる場合には、単離することで取得した非帯電繊維層の主面からもう一方の主面に向けて、主面上へ20g/cmの荷重を付加したときの両主面間の長さを、高精度デジタル測長機を用いて測定し、その長さを非帯電繊維層の厚さ(mm)とする。
【0058】
また、エアフィルタから非帯電繊維層を容易に単離できない場合には、エアフィルタから非帯電繊維層以外の構造物を除去する。このようにして取得した非帯電繊維層から、上述と同様にして厚さを算出する。
【0059】
本発明のエアフィルタを構成する帯電繊維層及び非帯電繊維層には、機能性粒子を有していてもよい。
【0060】
機能性粒子として、例えば、活性炭、放射性物質吸着剤(例えば、ゼオライト、紺青(プルシアンブルー)など)、抗カビ剤、触媒(例えば、酸化チタンや二酸化マンガンあるいは白金担持アルミナなど)、調湿剤(例えば、シリカゲルやシリカマイクロカプセルなど)、活性炭やカーボンブラックなどの脱臭剤、色素、リン酸系難燃剤や水酸化アルミニウムなどの難燃剤、消臭剤、防虫剤、殺菌剤、芳香剤、陽イオン交換樹脂や陰イオン交換樹脂などの粒子を挙げることができる。なお、機能性粒子は帯電繊維層、非帯電繊維層の内部に担持して存在していても、帯電繊維層、非帯電繊維層の表面に存在してもよく、帯電繊維層、非帯電繊維層を構成する繊維中に練り込まれている態様であることもできる。
【0061】
機能性粒子を有するエアフィルタの中でも、非帯電繊維層の、有機樹脂を介して帯電繊維層と接着している側の反対側の主面上に活性炭を有すると、エアフィルタが脱臭作用を有する。また、活性炭は湿度に応じて空気中の水分を吸湿・放湿する能力を有することから、これにより活性炭を上流側にしてエアフィルタを使用することで、活性炭により、活性炭より下流側の抗ウイルス性を有する処理剤が添着された非帯電繊維層周辺の湿度を一定にできる。その結果、エアフィルタの使用環境によらず抗ウイルス性を有する処理剤による抗ウイルス性能を維持できるエアフィルタである。
【0062】
また、本発明のエアフィルタには、抗ウイルス性を有する処理剤が塵埃により汚染され、抗ウイルス性が低下することを防ぐため、また、エアフィルタを構成する帯電繊維層及び非帯電繊維層の構成繊維や機能性粒子が飛散することを防止するために、エアフィルタの表面にカバー材を設けてもよい。カバー材は、例えば、不織布や織物あるいは編物などから構成することができる。また、カバー材の構成樹脂は、帯電繊維層、非帯電繊維層と同様の有機樹脂であることができる。さらに、カバー材には、上述の抗菌性を有する処理剤、抗アレル物質性を有する処理剤、機能性粒子を有していてもよい。
【0063】
本発明のエアフィルタの目付、厚さについては適宜調整するが、エアフィルタの塵埃捕集量が多くできるように、また、エアフィルタの圧力損失増大を抑制できるように、さらに、エアフィルタをフィルタエレメントへ加工する場合には、加工性(プリーツ加工性等)が優れるように、目付は50~1,000g/mが好ましく、100~700g/mがより好ましく、150~500g/mが更に好ましい。厚さは、0.3~2mmが好ましく、0.5~1.5mmがより好ましく、0.6~1.2mmが更に好ましく、0.7~1.2mmが更に好ましい。なお、エアフィルタの厚さは、主面上へ20g/cmの荷重を付加したときの両主面間の長さを指す。
【0064】
本発明のエアフィルタは特に加工していない平板形状のものであってもよいが、プリーツ加工した本発明のエアフィルタの周縁部に外枠を備えてなるフィルタエレメントは、濾過面積が広く、更に、周縁部に外枠を備えてなるので空気漏れが少ないことで、捕集性能が高いことから好ましい。
【0065】
本発明のフィルタエレメントのプリーツ高さは、5.0~50.0mmが好ましく、10.0~45.0mmがより好ましく、15.0~30.0mmが更に好ましい。フィルタエレメントのプリーツ間隔は、2.0~20.0mmが好ましく、3.0~15.0mmがより好ましく、3.0~10.0mmが更に好ましい。フィルタエレメントにおける外枠は、エアフィルタがプリーツ加工されたものの周縁部の全体(例えばエアフィルタがプリーツ加工されたものの平面形状が長方形の場合、プリーツの折り目方向に直交する方向の周縁部、及びプリーツの折り目方向に平行する方向の周縁部)にあってもよいし、エアフィルタがプリーツ加工されたものの周縁部の一部のみ(例えばエアフィルタがプリーツ加工されたものの平面形状が長方形の場合、プリーツ形状を固定し保持することを目的としてプリーツの折り目方向に直交する方向の周縁部のみなど)にあってもよい。
【0066】
また、プリーツ加工したエアフィルタと外枠の接着は、例えば、ポリ酢酸ビニルなどのホットメルト樹脂を外枠とエアフィルタとの間に介在させることにより行うことができる。更に、外枠としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、各種樹脂、紙、あるいは不織布からなる外枠を使用することができる。
【0067】
なお、上述のようなエアフィルタ及びフィルタエレメントは、例えば、額縁状のフィルタフレームに収納するなどして、フィルタユニットとして使用することができる。
【0068】
更に本発明のエアフィルタは、プリーツ加工以外の加工に供してもよい。本発明のエアフィルタを加工したものとしては、例えば、エアフィルタを巻回するように加工し、エアフィルタを巻出して使用するロールフィルタ装置用のロールフィルタなどが挙げられる。
【0069】
次に、本発明のエアフィルタの製造方法について説明する。
【0070】
まず、帯電繊維層及び非帯電繊維層を構成する繊維集合体をそれぞれ用意する。これらの繊維集合体は、例えば、不織布や織物あるいは編物であることができる。繊維集合体が織物や編物である場合、前述のようにして調製した繊維を、織るあるいは編むことで調製して繊維集合体を構成することができる。繊維集合体が不織布である場合、例えば、乾式法による乾式不織布、湿式法による湿式不織布、直接紡糸法によるスパンボンド不織布、メルトブロー不織布、静電紡糸不織布などを用いることができる。これらの中でも、エアフィルタの加工性(プリーツ加工等)が優れることから、繊維集合体は不織布であるのが好ましい。
【0071】
繊維集合体が不織布である場合、不織布の構成繊維を結合する方法として、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維同士をバインダで一体化する方法、あるいは、不織布の構成繊維を結合する前の繊維ウエブが熱可塑性樹脂を備える繊維を含んでいる場合には、繊維ウエブを加熱処理することで前記熱可塑性樹脂を溶融して、繊維同士を一体化する方法を挙げることができる。なお、繊維ウエブを加熱処理する方法として、例えば、カレンダーロールにより加熱加圧する方法、熱風乾燥機により加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して熱可塑性樹脂繊維を溶融させる方法などを用いることができる。
【0072】
次に、繊維集合体を帯電させ、帯電繊維層前駆体を製造する。このときの帯電方法は水などの極性液体を付与し、超音波などで力を作用させ、極性液体を除去することで帯電させる極性液体帯電方法やコロナ放電による帯電方法など、公知の帯電方法であることができるが、濾過性能に優れるエアフィルタを提供できることから、上述の極性液体帯電方法が好ましい。
【0073】
次に、帯電繊維層前駆体とは別の繊維集合体に、抗ウイルス性を有する処理剤、また、必要に応じて抗菌性を有する処理剤を添着させ、非帯電繊維層前駆体を製造する。この時用いる抗ウイルス性を有する処理剤、抗菌性を有する処理剤は、前述の処理剤を用いることができる。これらの処理剤を、繊維集合体に添着させる方法としては、特に限定するものではないが、処理剤を含有する溶液/分散液に、繊維集合体を浸漬する方法、処理剤を含有する溶液/分散液を、繊維集合体に噴霧する方法、処理剤を含有する溶液/分散液を、繊維集合体に塗布する方法などであることができる。
【0074】
次に、帯電繊維層前駆体と非帯電繊維層前駆体とを、有機樹脂を介して接着させる。このときの接着方法は、帯電繊維層前駆体または非帯電繊維層前駆体の主面上に熱した有機樹脂(ホットメルト樹脂)をスプレーで散布してシート状の有機樹脂を形成し重ね合わせて接着する方法、帯電繊維層前駆体と非帯電繊維層前駆体との間にシート状または粒子状の有機樹脂を挟み、熱を掛けて接着する方法などであることができるが、ホットメルト樹脂をスプレーで散布してシート状の有機樹脂を形成し重ね合わせて帯電繊維層前駆体と非帯電繊維層前駆体とを接着させると、製造したエアフィルタにおいて、有機樹脂が帯電繊維層と非帯電繊維層の界面で分散して存在する傾向があることから、抗ウイルス性を有する処理剤を含む非帯電繊維層から帯電繊維層への抗ウイルス性を有する処理剤の染み出しを有機樹脂がより抑制でき、より帯電性能の低下を抑制できるエアフィルタであることから好ましい。
【0075】
帯電繊維層、非帯電繊維層のうち少なくとも一方の表面に機能性粒子を有するエアフィルタは、帯電繊維層前駆体と非帯電繊維層前駆体とを接着させる前に機能性粒子を帯電繊維層前駆体及び/又は非帯電繊維層前駆体に接着させる方法、帯電繊維層前駆体と非帯電繊維層前駆体とを有機樹脂を介して接着させるときに帯電繊維層前駆体と非帯電繊維層前駆体とを接着させる有機樹脂と機能性粒子を混合し接着させる方法、帯電繊維層前駆体と非帯電繊維層前駆体とを有機樹脂を介して接着させた後、機能性粒子を帯電繊維層及び/又は非帯電繊維層に接着させる方法のいずれかの方法で製造する。このときの機能性粒子を接着させる方法は、例えば、帯電繊維層前駆体、非帯電繊維層前駆体、あるいはエアフィルタの主面上にホットメルト樹脂をスプレーで散布してシート状の有機樹脂を形成し、その上に機能性粒子を散布して接着する方法、帯電繊維層前駆体、非帯電繊維層前駆体、あるいはエアフィルタの主面上に有機樹脂を噴霧あるいは塗布し、その上に機能性粒子を散布し、熱を掛けて接着する方法、粒子状の有機樹脂と機能性粒子の混合物を帯電繊維層前駆体、非帯電繊維層前駆体、あるいはエアフィルタに噴霧し、熱を掛けて接着する方法をとることができる。また、カバー材を有するエアフィルタは、帯電繊維層前駆体と非帯電繊維層前駆体とを接着させる前にカバー材を接着させる方法、帯電繊維層前駆体と非帯電繊維層前駆体とを接着させた後カバー材を接着させる方法のいずれかの方法で製造する。このときのカバー材の接着方法は、有機樹脂で接着させる方法、及び、超音波照射により繊維を溶解し接着させる方法などの公知の方法であることができる。
【実施例0076】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
(繊維集合体A1の準備)
ポリエステル樹脂製のスパンボンド不織布(目付:22.0g/m、厚さ:0.15mm、繊維径:50~150μm)を準備した。
次に、前記スパンボンド不織布にカチオン系界面活性剤(抗ウイルス性を有する処理剤)含有液を含浸し乾燥させ、目付22.2g/mの繊維集合体A1を製造した。
【0078】
(繊維集合体B1の準備)
熱可塑性樹脂として、融点160℃のポリプロピレン樹脂を用い、押出機およびギヤポンプ、メルトブロー口金、圧縮空気発生装置および空気加熱機、捕集コンベア、および巻取機からなる装置を用いて、メルトブロー不織布(目付12.0g/m、厚さ0.35mm、繊維径2~20μm、連続繊維)を製造した。その後、前記メルトブロー不織布に水を付与し、超音波などで力を作用させ、極性液体を除去することで帯電させる極性液体帯電方法によりメルトブロー不織布を帯電させ、繊維集合体B1を製造した。
【0079】
(エアフィルタの製造)
ポリエステル樹脂製のスパンボンド不織布(目付:40.0g/m、厚さ:0.2mm、繊維径:50~150μm、連続繊維)から構成されたカバー材を準備した。
次に、カバー材の一方の主面上に、溶融されたナイロン樹脂のホットメルトスプレーを10.0g/m施し、ナイロン樹脂が溶融している間にその上から活性炭(平均粒子径:400μm、比表面積:1100m/g)を総量が100g/mになるように均一に散布し、カバー材と活性炭を接着させた。
さらに、カバー材の活性炭を有する主面上に、カバー材と活性炭との接着に用いたものと同じ溶融されたナイロン樹脂のホットメルトスプレーを10.0g/m施し、ナイロン樹脂が溶融している間にその上から繊維集合体A1を積層し、ロール間距離0.5mmの120℃に加熱した2本のロールの間に通し、繊維集合体A1-活性炭-カバー材の積層体を製造した。
さらに、前記積層体の、繊維集合体A1側の主面に、溶融された抗ウイルス性を有する処理剤を含まないポリオレフィン樹脂のホットメルトスプレーを10.0g/m施し、ポリオレフィン樹脂が溶融している間に繊維集合体B1を積層させて、ロール間距離0.7mmの常温の2本のロールの間に通し、目付204.2g/m、厚さ0.7mmのカバー材-活性炭-繊維集合体A1由来の非帯電繊維層-繊維集合体B1由来の帯電繊維層の順に積層されたエアフィルタを製造した。このとき、カバー材と活性炭を接着させたナイロン樹脂、非帯電繊維層と活性炭を接着させたナイロン樹脂、非帯電繊維層と帯電繊維層を接着させたポリオレフィン樹脂は、いずれもシート状であった。なお、エアフィルタを構成するシート状のポリオレフィン樹脂の、帯電繊維層と接している部分には、抗ウイルス性を有する処理剤は含まれていなかった。また、エアフィルタの断面が露出するように厚さ方向に切断して、切断面を確認したところ、非帯電繊維層と帯電繊維層がシート状のポリオレフィン樹脂で区切られ、接触していなかった。
【0080】
(フィルタエレメントの製造)
前記エアフィルタをプリーツ加工機に供し、また、ホットメルト樹脂を用いて不織布から構成された幅29mmの外枠をフィルタの周縁部全体に貼り付け、プリーツ高さ28mm、プリーツ間隔7.0mm、たて214mm、よこ188mm、高さ29mmのフィルタエレメントを製造した。
【0081】
(実施例2)
(繊維集合体B2の準備)
芯成分がポリプロピレン樹脂、鞘成分がポリエチレン樹脂から構成された芯鞘型複合繊維(繊度6.6dtex、繊維長76mm)100mass%から構成された乾式不織布(目付50g/m、厚さ:0.45mm)を製造した。その後、前記乾式不織布をコロナ放電により帯電させ、繊維集合体B2を製造した。
【0082】
(エアフィルタ及びフィルタエレメントの製造)
繊維集合体B1の代わりに上述の繊維集合体B2を用いたことを除いては、実施例1と同様にして、エアフィルタ(目付:242.2g/m、厚さ0.8mm)及びフィルタエレメントを製造した。なお、エアフィルタを構成するシート状のポリオレフィン樹脂の、帯電繊維層と接している部分には、抗ウイルス性を有する処理剤は含まれていなかった。また、エアフィルタの断面が露出するように厚さ方向に切断して、切断面を確認したところ、非帯電繊維層と帯電繊維層がシート状のポリオレフィン樹脂で区切られ、接触していなかった。
【0083】
(実施例3)
(エアフィルタ及びフィルタエレメントの製造)
繊維集合体A1-活性炭-カバー材の積層体と、繊維集合体B1を接着させたときに施したポリオレフィン樹脂のホットメルトスプレー量が5.0g/mであったことを除いては、実施例1と同様にしてエアフィルタ(目付:199.2g/m、厚さ0.7mm)及びフィルタエレメントを製造した。なお、エアフィルタを構成するシート状のポリオレフィン樹脂の、帯電繊維層と接している部分には、抗ウイルス性を有する処理剤は含まれていなかった。また、エアフィルタの断面が露出するように厚さ方向に切断して、切断面を確認したところ、非帯電繊維層と帯電繊維層がシート状のポリオレフィン樹脂で区切られ、接触していなかった。
【0084】
(比較例1)
(エアフィルタ及びフィルタエレメントの製造)
繊維集合体A1-活性炭-カバー材の積層体と、繊維集合体B1を接着させたときに施したポリオレフィン樹脂のホットメルトスプレー量が2.0g/mであったことを除いては、実施例1と同様にしてエアフィルタ(目付:196.2g/m、厚さ0.7mm)及びフィルタエレメントを製造した。なお、エアフィルタを構成するシート状のポリオレフィン樹脂の、帯電繊維層と接している部分には、抗ウイルス性を有する処理剤は含まれていなかった。また、エアフィルタの断面が露出するように厚さ方向に切断して、切断面を確認したところ、非帯電繊維層と帯電繊維層がシート状のポリオレフィン樹脂で区切られ、接触していなかった。
【0085】
(比較例2)
(エアフィルタ及びフィルタエレメントの製造)
繊維集合体A1-活性炭-カバー材の積層体と、繊維集合体B1を接着させたときに施したポリオレフィン樹脂のホットメルトスプレー量が60.0g/mであったことを除いては、実施例1と同様にしてエアフィルタ(目付:254.2g/m、厚さ0.8mm)及びフィルタエレメントを製造した。なお、エアフィルタを構成するシート状のポリオレフィン樹脂の、帯電繊維層と接している部分には、抗ウイルス性を有する処理剤は含まれていなかった。また、エアフィルタの断面が露出するように厚さ方向に切断して、切断面を確認したところ、非帯電繊維層と帯電繊維層がシート状のポリオレフィン樹脂で区切られ、接触していなかった。
【0086】
実施例及び比較例のフィルタエレメントを構成するエアフィルタの物性を、以下の表1に示す。なお、スパンボンド不織布はSBと略称し、メルトブロー不織布はMBと略称し、乾式不織布は乾式と略称する。その他、帯電繊維層の帯電方法について、極性液体帯電方法はWUCと略称し、コロナ放電はコロナと略称する。
【0087】
【表1】
【0088】
実施例及び比較例のエアフィルタ及びフィルタエレメントを、以下の方法で評価した。
【0089】
(圧力損失試験)
実施例及び比較例のエアフィルタを、カバー材側が上流側、帯電繊維層側が下流側になるように取り付け、面風速6m/minでカバー材側から帯電繊維層側に向けて鉛直方向に空気を通過させ、エアフィルタの上下流の圧力差をMODUS社製デジタルマノメータMA2-04P差圧計で測定した。測定は1つのエアフィルタから任意に5箇所をサンプリングして行い、その平均値をエアフィルタの圧力損失(単位:Pa)とした。
【0090】
(帯電層の効率低下試験)
(1)(A)実施例及び比較例のフィルタエレメント、(B)実施例及び比較例のエアフィルタを、温度40℃、相対湿度90%に調節したチャンバーに30日間放置し、その後実施例に記載の方法と同じ方法で製造したフィルタエレメントを用意した。
(2)(A)~(B)のフィルタエレメントをカバー材側が上流側、帯電繊維層側が下流側になるように試験装置に取り付け、粒子径0.3~0.5mmの大気塵を試験装置の上流側に供給し、フィルタエレメントの上流側で上流側粒子個数を測定した。
(3)風量100m/hで上流側(カバー材側)から下流側(帯電繊維層側)に向けて鉛直方向に空気を通過させ、フィルタエレメントの下流側で下流側粒子個数をパーティクルカウンタで測定した。
(4)下記式から捕集率を算出した。
捕集率(%)={1-(下流側粒子個数)/(上流側粒子個数)}×100
【0091】
(抗ウイルス性試験)
JIS L 1922:2016「繊維製品の抗ウイルス性試験方法」のプラーク測定法により、実施例及び比較例のエアフィルタ、及び、綿100%の対照試料の感染価を測定し、14.3.2「抗ウイルス活性値の計算」によりエアフィルタ及び対照試料の感染価から抗ウイルス活性値Mvをそれぞれ求めた。なお、試験に用いたウイルスはインフルエンザウイルスであった。
JIS L 1922:2016「繊維製品の抗ウイルス性試験方法」の附属表G「抗ウイルス評価」を基にし、Mv≧3.0(十分な効果あり)であるものを「〇」、Mv<3.0であるものを「×」とした。
【0092】
実施例及び比較例の評価結果を、以下の表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
実施例1、3のエアフィルタは、同じ帯電繊維層(繊維集合体B1由来)を使用した比較例1、2のエアフィルタと比較して、圧力損失が小さいエアフィルタであった。
【0095】
また、実施例1、3のフィルタエレメントは、比較例1、2のフィルタエレメントと比較して、捕集性能が高く、また、時間経過による帯電性能が低下しにくいフィルタエレメントであった。
【0096】
これにより、非帯電繊維層と帯電繊維層とを接着する有機樹脂量が本願発明の範囲内であることで、圧力損失が小さく、また時間経過による帯電性能が低下しにくく捕集性能が高いエアフィルタ及びフィルタエレメントが実現できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によるエアフィルタ及びフィルタエレメントは、室内などの空気を清浄化するためのエアフィルタに使用できるが、特に自動車や鉄道車両などの車室内の空気を清浄化するためのエアフィルタとして好ましく使用される。