(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069798
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】排尿流量算出装置、および、排尿流量算出装置と通信可能な端末装置において実行されるプログラム
(51)【国際特許分類】
G01F 1/00 20220101AFI20240515BHJP
G01F 1/20 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
G01F1/00 Q
G01F1/20 F
G01F1/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180007
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】内藤 泰行
(72)【発明者】
【氏名】浮村 理
(72)【発明者】
【氏名】安食 淳
(72)【発明者】
【氏名】末次 智博
(72)【発明者】
【氏名】村田 滋
【テーマコード(参考)】
2F030
【Fターム(参考)】
2F030CA10
(57)【要約】
【課題】 衛生面を維持するための手間を軽減しつつも、排尿の流量をより正確に測定可能とする排尿流量算出装置、および、排尿流量算出装置と通信可能な端末装置において実行されるプログラムを提供する。
【解決手段】 人体から放出される排尿の流量を算出する排尿流量算出装置であって、人体から所定方向へ放出される排尿を当該所定方向に対して側方から撮像した排尿撮像画像に基づき、当該排尿の放出形状に対応する形状を特定するための排尿形状情報を含む排尿に関する情報を算出し(S34)、階層型ニューラルネットワークを用いて算出された排尿形状情報から排尿の流出速度を推定し(S37)、排尿の流量を算出する(S39)。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体から放出される排尿の流量を算出する排尿流量算出装置であって、
人体から所定方向へ放出される排尿を当該所定方向に対して側方から撮像した排尿撮像画像に基づき、当該排尿の放出形状に対応する形状を特定するための排尿形状情報を含む前記排尿に関する情報を算出する情報算出手段と、
液体を所定方向へ放出した場合における当該液体の流出速度を特定するための液体速度情報と、当該液体の放出形状であって前記所定方向に対して側方から見た放出形状に対応する形状を特定するための液体形状情報とを教師データとして機械学習された推定モデルを用いて、前記情報算出手段により算出された排尿形状情報から排尿の流出速度を推定する推定手段と、
前記推定された排尿の流出速度に基づいて、排尿の流量を算出する排尿流量算出手段とを備える、排尿流量算出装置。
【請求項2】
前記情報算出手段は、前記排尿撮像画像に基づき、前記排尿に関する情報として、排尿の断面積を算出し、
前記排尿流量算出手段は、前記推定された排尿の流出速度と、前記情報算出手段により算出された排尿の断面積とに基づいて、排尿の流量を算出する、請求項1に記載の排尿流量算出装置。
【請求項3】
前記液体形状情報は、液体を前記所定方向へ放出した場合における当該液体の放出形状のうち前記側方から見た放出形状に合う2次以上の代数方程式の係数から特定される情報であり、
前記排尿形状情報は、前記排尿撮像画像に基づき、排尿の放出形状に合う2次以上の代数方程式の係数から特定される情報である、請求項1に記載の排尿流量算出装置。
【請求項4】
前記液体形状情報および前記排尿形状情報は、各々、2次以上の代数方程式の定数を含まない情報である、請求項3に記載の排尿流量算出装置。
【請求項5】
前記推定手段は、所定タイミングにおける排尿の流出速度を推定する際に、2次以上の代数方程式のn次の項(nは自然数のいずれか)の係数から特定される情報が同じであっても、前記n次とは異なる項の係数から特定される情報が異なる場合に、排尿の流出速度として異なる速度を推定し得る、請求項3に記載の排尿流量算出装置。
【請求項6】
前記液体速度情報は、前記所定方向へ放出される液体の液面の高さに応じた圧力値から算出される情報である、請求項1~請求項5のいずれかに記載の排尿流量算出装置。
【請求項7】
前記推定モデルは、第1の放出角度で液体が放出されたときの液体速度情報と液体形状情報とを教師データとして機械学習された第1推定モデルと、第2の放出角度で液体が放出されたときの液体速度情報と液体形状情報とを教師データとして機械学習された第2推定モデルとを含む複数種類の推定モデルを含み、
前記情報算出手段は、前記排尿撮像画像に基づき、前記排尿に関する情報として、排尿の放出角度を特定するための放出角度情報を算出し、
前記推定手段は、前記複数種類の推定モデルのうち前記放出角度情報から特定される放出角度に対応する推定モデルを用いて排尿の流出速度を推定する、請求項1~請求項5のいずれかに記載の排尿流量算出装置。
【請求項8】
人体から所定方向へ放出される排尿を当該所定方向に対して側方から撮像した排尿撮像画像に基づき当該排尿の流量を算出する排尿流量算出装置と通信可能な端末装置において実行されるプログラムであって、
人体から所定方向へ放出される排尿を当該所定方向に対して側方から撮像した排尿撮像画像を、前記排尿流量算出装置に送信するステップと、
前記排尿流量算出装置において前記排尿撮像画像から算出された排尿の流量に応じた診断結果を特定するための診断結果情報を受信するステップと、
前記診断結果情報から特定される診断結果を表示するステップとを実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排尿流量算出装置、および、排尿流量算出装置と通信可能な端末装置において実行されるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、前立腺肥大症や過活動膀胱・尿失禁症その他の排尿障害を伴う疾患を正確に診断するために、人体から放出される排尿の流量を測定する技術が知られている。このような技術として、例えば、放出される排尿により回転する水車と、水車の回転を検出する回転検出部とを有し、回転検出部からの出力信号に基いて尿流量を算出する尿流量計測装置(特許文献1)や、尿を吸収する吸収性物品に取り付けられた複数のセンサ素子によるインピーダンスの変化を測定することにより尿吸収量を算定する排尿動態解析装置(特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-105948号公報
【特許文献2】特開2017-207317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および2における排尿の流量を測定する技術では、排尿を接触等させるものであり、装置の衛生面を維持するために手間がかかってしまう。
【0005】
本発明は、衛生面を維持するための手間を軽減しつつも、排尿の流量をより正確に測定可能とする排尿流量算出装置、および、排尿流量算出装置と通信可能な端末装置において実行されるプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の排尿流量算出装置は、人体から放出される排尿の流量を算出する排尿流量算出装置であって、人体から所定方向へ放出される排尿を当該所定方向に対して側方から撮像した排尿撮像画像に基づき、当該排尿の放出形状に対応する形状を特定するための排尿形状情報を含む前記排尿に関する情報を算出する情報算出手段と、液体を所定方向へ放出した場合における当該液体の流出速度を特定するための液体速度情報と、当該液体の放出形状であって前記所定方向に対して側方から見た放出形状に対応する形状を特定するための液体形状情報とを教師データとして機械学習された推定モデルを用いて、前記情報算出手段により算出された排尿形状情報から排尿の流出速度を推定する推定手段と、前記推定された排尿の流出速度に基づいて、排尿の流量を算出する排尿流量算出手段とを備える。
【0007】
本発明の排尿流量算出装置において、前記情報算出手段は、前記排尿撮像画像に基づき、前記排尿に関する情報として、排尿の断面積を算出し、前記排尿流量算出手段は、前記推定された排尿の流出速度と、前記情報算出手段により算出された排尿の断面積とに基づいて、排尿の流量を算出することが好ましい。
【0008】
本発明の排尿流量算出装置において、前記液体形状情報は、液体を前記所定方向へ放出した場合における当該液体の放出形状のうち前記側方から見た放出形状に合う2次以上の代数方程式の係数から特定される情報であり、前記排尿形状情報は、前記排尿撮像画像に基づき、排尿の放出形状に合う2次以上の代数方程式の係数から特定される情報であることが好ましい。
【0009】
本発明の排尿流量算出装置において、前記液体形状情報および前記排尿形状情報は、各々、2次以上の代数方程式の定数を含まない情報であることが好ましい。
【0010】
本発明の排尿流量算出装置において、前記推定手段は、所定タイミングにおける排尿の流出速度を推定する際に、2次以上の代数方程式のn次の項(nはいずれかの自然数)の係数から特定される情報が同じ情報であっても、前記n次とは異なる項の係数から特定される情報が異なる情報である場合に、排尿の流出速度として異なる速度を推定し得ることが好ましい。
【0011】
本発明の排尿流量算出装置において、前記液体速度情報は、前記所定方向へ放出される液体の液面の高さに応じた圧力値から算出される情報であることが好ましい。
【0012】
本発明の排尿流量算出装置において、前記推定モデルは、第1の放出角度で液体が放出されたときの液体速度情報と液体形状情報とを教師データとして機械学習された第1推定モデルと、第2の放出角度で液体が放出されたときの液体速度情報と液体形状情報とを教師データとして機械学習された第2推定モデルとを含む複数種類の推定モデルを含み、
前記情報算出手段は、前記排尿撮像画像に基づき、前記排尿に関する情報として、排尿の放出角度を特定するための放出角度情報を算出し、前記推定手段は、前記複数種類の推定モデルのうち前記放出角度情報から特定される放出角度に対応する推定モデルを用いて排尿の流出速度を推定することが好ましい。
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の人体から所定方向へ放出される排尿を当該所定方向に対して側方から撮像した排尿撮像画像に基づき当該排尿の流量を算出する排尿流量算出装置と通信可能な端末装置において実行されるプログラムは、人体から所定方向へ放出される排尿を当該所定方向に対して側方から撮像した排尿撮像画像を、前記排尿流量算出装置に送信するステップと、前記排尿流量算出装置において前記排尿撮像画像から算出された排尿の流量に応じた診断結果を特定するための診断結果情報を受信するステップと、前記診断結果情報から特定される診断結果を表示するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、排尿撮像画像から推定モデルを用いて排尿の流出速度を推定して排尿の流量を算出できるため、衛生面を維持するための手間を軽減できる。また、液体を所定方向へ放出した場合に特定される液体速度情報と液体形状情報とを教師データとして機械学習されている推定モデルを用いているため、排尿撮像画像から排尿の流量をより正確に算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】排尿流量算出装置が有する機能を説明するための機能ブロック図である。
【
図2】教師データの生成方法の一例を説明するための図である。
【
図3】階層型ニューラルネットワークの一例を説明するための図である。
【
図4】排尿動画像から形状係数を算出するまでの一連の流れを説明するための図である。
【
図5】教師データ算出処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】教師データとして生成されたセットデータの一例を示す図である。
【
図7】教師データとして生成された形状係数と流出速度との相関関係を説明するための図である。
【
図8】排尿流量算出処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図9】機械学習に用いる組データの一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の排尿流量算出装置、および、排尿流量算出装置と通信可能な端末装置において実行されるプログラムについての実施の形態を、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定および制限されるものではない。
【0017】
本実施の形態の排尿流量算出装置1は、メモリ、入力部、表示部、演算処理部、および通信部などを含むコンピュータにより実現されている。排尿流量算出装置1は、メモリに格納されている学習用プログラムを実行することにより、液体を所定方向へ放出した場合における当該液体の流出速度を特定するための液体速度情報(例えば、物理演算により所定条件下(入力された各種パラメータ)において液体を放出させた場合に算出される速度)と、当該液体の放出形状であって所定方向に対して側方(真横、所定方向に対して直交する水平方向)から見た放出形状に対応する形状を特定するための液体形状情報(例えば、物理演算により所定条件下において液体を放出させた場合に算出される放出形状に当てはまる(合致率が高い)2次の代数式の係数など)とを算出して蓄積し、当該蓄積した液体速度情報と液体形状情報とを教師データとして機械学習された推定モデルを構築する。
【0018】
また、排尿流量算出装置1は、メモリに格納されている流量算出用プログラムを実行することにより、人体から所定方向(人体の正面方向)へ放出される排尿を当該所定方向に対して側方(真横、所定方向に対して直交する水平方向)から撮像した排尿撮像画像に基づき、当該排尿の放出形状に対応する形状を特定するための排尿形状情報(例えば、放出形状に当てはまる(合致率が高い)2次の代数式の係数など)を含む排尿に関する情報を算出し、該算出された排尿形状情報から、推定モデルを用いて排尿の流出速度を推定し、推定された排尿の流出速度に基づいて排尿の流量を算出する。
【0019】
(概要)
図1は、本発明に係る排尿流量算出装置1が有する機能を説明するための機能ブロック図である。排尿流量算出装置1は、計算パラメータ入力部11、排尿形状学習部12、画像入力部13、背景処理部14、代表点抽出部15、形状係数算出部16、流出速度推定部17、排尿流量算出部18、および、メモリである記憶部19を有している。
【0020】
排尿流量算出装置1は、学習用プログラムを用いて、液体(例えば、水)が排尿のように放出された場合における当該液体の放出形状(略放物線状となる流下形状)と当該液体の流出速度とを、流体の基礎式を用いた物理演算により算出し、算出されたデータを教師データとして機械学習することにより推定モデル(例えば、階層型ニューラルネットワーク)を構築する。階層型ニューラルネットワークの構築は、
図1に示す計算パラメータ入力部11および排尿形状学習部12により行われる。
【0021】
計算パラメータ入力部11では、液体の放出形状や流出速度を物理演算により算出するために必要となる放出条件に相当する各種パラメータの入力を受け付ける。本実施の形態では、液体が排尿のように略放物線状に放出された場合の一例として、
図2(a)に示すように仮想の液溜まりタンク(人体の膀胱に相当)に溜まっている水が、当該液溜まりタンクの最下部において連通する放出流路(人体の尿道に相当)を介して所定の流出角度で放出される場合を想定する。
図2(b)には、液体の放出形状や流出速度を算出するために必要となる各種パラメータが示されている。
【0022】
図2(b)に示される各種パラメータのうち、g:重力加速度(m/s
2)、p
0:大気圧(Pa)、ρ:排尿密度(kg/m
3)については、一定値であるため、記憶部19に予め記憶されている。計算パラメータ入力部11では、値が一定値ではないパラメータ、すなわちA:液溜まりタンクの水平断面積(m
2)、a:放出流路の流路断面積(m
2)、Q:排尿総流量(m
3)、T:時定数(s)、Δt:時間離散化幅(s)、θ:排尿流出角度(rad)などの値の入力を受け付ける。パラメータのうちT:時定数(s)とは、実際の排尿の流出速度が排尿開始から遅れて上昇していくことを考慮し、この遅れを計算上において再現するためのパラメータである。また、Δt:時間離散化幅(s)とは、液体粒子の位置や流出速度を算出するための一定の時間間隔である。なお、液体の放出形状や流出速度を物理演算により算出するために必要となる各種パラメータとして、
図2(b)ではその一例を示しているが、物理演算に用いるパラメータとしては、これに限らず、例えば、
図2(b)で示すパラメータのうちの一部のパラメータを用いるものであってもよく、
図2(b)で示すパラメータに加えて他のパラメータを用いるものであってもよい。
【0023】
排尿形状学習部12では、計算パラメータ入力部11において入力された各種パラメータを用いて後述する計算式に基づいて、放出流路から継続的に放出される液体のうちΔt間隔で放出される液体粒子に着目して、そのときの放出圧(以下では排尿圧ともいう)を算出し、当該排尿圧から当該液体粒子の流出速度を算出する。また、排尿形状学習部12では、あるタイミングまでに放出された液体粒子各々の流出速度に基づいて、Δt経過後における各液体粒子の位置を算出する。
【0024】
図2(c)は、放出流路から継続的に放出される液体のうち瞬時瞬時(Δt毎)の液体粒子X1~X5を例示している。
図2(c)では、液体粒子X1が流出速度V1で放出され、Δt経過毎に放出される液体粒子X2~X4が流出速度V2~V4で放出された後、液体粒子X5が流出速度V5で放出されたタイミングを示している。
図2(c)は、液体粒子X5が放出されたタイミングを示しているため、排尿形状学習部12では当該タイミングにおける排尿圧を算出し、当該排尿圧に基づいて流出速度としてV5を算出する。
【0025】
一方、液体粒子X1~X4各々については、排尿形状学習部12により液体粒子X1~X4各々が放出されるときの排尿圧に基づき流出速度V1~V4が算出されるとともに、流出速度V1~V4に基づいてΔt経過毎の液体粒子X1~X4各々の位置が算出される。
図2(c)では、液体粒子X5が放出されるタイミングであって液体粒子X4が放出されてからΔt経過後に相当するタイミングにおける液体粒子X1~X4各々の位置が示されている。
【0026】
排尿形状学習部12では、さらに、放出されている液体粒子の位置を代表点として連ねることにより放出形状を特定し、当該放出形状に当てはまる2次の代数式の係数(形状係数ともいう)を算出する。排尿形状学習部12は、算出された液体粒子の位置に対して、その放出形状を表す形状係数を最小自乗法で決定する。例えば、
図2(c)において、排尿形状学習部12は、液体粒子X1~X5各々の位置を特定して、当該位置に当てはまる2次の代数式の形状係数を算出する。例えば、横軸をx,縦軸をyとする2次の代数式:y=ax
2+bx+cを用いて液体粒子各々の位置に曲線を当てはめる(カーブフィッティングする)ことにより、算出された係数a、b、cによって放出形状を特定して形状係数を算出する。
図2(c)では、液体粒子各々の位置に対して点線で示す曲線となる2次の代数式を当てはめている状態を示している。一般的に、2次の代数式の係数のうち2次の項の係数aは、当該2次曲線の例えばx軸方向への開き具合を示し、1次の項の係数bは、Y軸切片における当該2次曲線に対する接線の傾きを示し、定数cは、y軸切片を示している。一方、流出速度は、放出形状(略放物線形状)の曲率やたわみなどに影響する。例えば、流出速度が速い程、x軸方向への開き具合が大きくなるとともに、その影響が接線の傾きやy軸切片にも影響を与えることとなる。このため、2次の代数式の係数a、b、cと流出速度とは相関関係を有している。
【0027】
なお、本実施の形態では、算出した液体粒子の位置に対して2次の代数式に当てはめる例を示すが、2次以上であれば、3次以上の代数式に当てはめて、液体粒子各々の位置の形状をそれらの形状係数として表すようにしてもよい。液体粒子の排尿圧は、都度変化し得る人体の腹圧と同様に変動し得る。このため、液体粒子各々の位置の放出形状は、非定常性を有している。よって、より高次の代数式を用いて当てはめることが望ましく、この場合には液体粒子各々の位置の放出形状との合致率をより高めることができ、精度を向上させることができる。
【0028】
排尿形状学習部12では、Δt毎に算出した形状係数と流出速度とを、一つの組データとして時系列順に蓄積する。このように、各種パラメータとして様々な値の組合せを入力することにより、放出される液体の総流量や流出角度などが異なる複数種類の放出パターンについての形状係数と流出速度とを算出して蓄積することができる。
【0029】
また、排尿形状学習部12では、蓄積した形状係数と流出速度との組合せを教師データとし、
図3に示すように、形状係数a、b、c各々の値を入力、流出速度を出力とする階層型ニューラルネットワークを構築する。教師データを用いたニューラルネットワークの学習には、例えば、誤差逆伝播法が用いられる。
【0030】
排尿流量算出装置1は、構築された階層型ニューラルネットワークを用いることにより、実際の排尿を撮像した排尿動画像に基づき算出された排尿の形状係数から排尿流出速度を推定することが可能となる。排尿流量算出装置1は、流量算出用プログラムを用いて、算出対象(検査対象)として受け付けた排尿を撮像した排尿動画像を画像解析することにより排尿の放出形状・流出角度などを特定するとともに当該放出形状に合致する曲線の形状係数を算出し、当該排尿の放出形状(形状係数)から排尿形状学習部12により構築された階層型ニューラルネットワーク(推定モデル)を用いて排尿の流出速度を推定し、当該排尿の流出速度に基づいて排尿の流量を算出する。排尿の流出速度の推定においては、画像解析により特定される流出角度に対応する階層型ニューラルネットワークが用いられる。排尿の流出速度の推定は、
図1に示す画像入力部13、背景処理部14、代表点抽出部15、形状係数算出部16、流出速度推定部17、排尿流量算出部18により行われる。
【0031】
画像入力部13は、人体から放出される排尿の略放物線形状(落下形状)を特定可能となる方向(放出方向に対して側方(真横))からカメラなどで撮影された排尿動画像を取り込み、記憶部19に記憶させる。
図4は、排尿動画像から形状係数を算出するまでの一連の流れを示す図であり、
図4(a)は、取り込まれた排尿動画像の一例を示している。放出開始時には、流出速度が遅く、徐々に流出速度が速くなるため、弓なり形状(
図4(a)の上段真ん中の図参照)から徐々に放物線形状となり(
図4(a)の上段右の図参照)、流出速度が速くなる程、X軸方向への開き具合が大きくなる(
図4(a)の下段の図参照)。
【0032】
また、画像入力部13は、取り込んだ排尿動画像を、瞬時の静止画像に分割して時系列順に記憶部19に記憶させる。
図4(b)は、取り込まれた排尿動画像のあるタイミングにおける静止画像を示している。なお、静止画像に分割する場合には、さらに、RGBの色ごとの静止画像に分割して記憶部19に記憶させるようにしてもよい。
【0033】
背景処理部14は、予め取得している背景画像または排尿動画像から抽出・作成した背景画像を各時刻の瞬時の静止画像から減算する。これにより、背景部分を除外あるいは抑制し、排尿部分が強調された画像を生成することができる。
【0034】
代表点抽出部15は、背景処理された画像を2値化処理した2値画像において排尿部分を表す画素位置を代表点として抽出する。
図4(c)は、取り込まれた排尿動画像から背景処理された2値画像において代表点が抽出された状態を示している。形状係数算出部16は、前述したとおり、抽出された代表点に対して、その排尿の放出形状を表す形状係数を最小自乗法で決定する。例えば、画像の横軸をx,縦軸をyとする2次の代数式:y=ax
2+bx+cを用いて代表点群に曲線を当てはめる(カーブフィッティングする)ことにより、算出された係数a、b、cによって放出形状を特定して形状係数を算出する。
図4(d)は、代表点に対して点線で示す曲線となる2次の代数式を当てはめている状態を示している。なお、本実施の形態では、前述したとおり、学習時に算出した液体粒子の位置に対して2次の代数式に当てはめるために、排尿の放出形状についても2次の代数式に当てはめる例を示すが、学習時に算出した液体粒子の位置に対して3次以上の代数式を当てはめる場合には排尿の放出形状についても3次以上の代数式に当てはめて、排尿形状をそれらの形状係数として表すようにしてもよい。実際の排尿は、都度変化し得る腹圧などの影響を受けるために非定常性を有している。このため、排尿の放出形状も非定常性を有する形状となる。よって、より高次の代数式を用いて当てはめることが望ましく、この場合には排尿の放出形状との合致率をより高めることができ、精度を向上させることができる。
【0035】
流出速度推定部17は、排尿の放出形状に当てはめられた代数式の係数から、すでに構築されている階層型ニューラルネットワーク(推定モデル)を用いて排尿の流出速度を推定する。排尿流量算出部18は、推定された排尿流出速度と、例えば排尿動画像の画像解析から算出される排尿断面積を掛け合わせて、時間積分することにより、排尿流量の積算値を算出する。以下において、階層型ニューラルネットワークの構築および排尿流量の算出についてより詳細に説明する。
【0036】
(階層型ニューラルネットワークの構築)
図5~
図7は、階層型ニューラルネットワークの構築について詳細に説明するための図である。
図5は、教師データとする形状係数と流出速度との組合せを算出する教師データ算出処理の一例を説明するためのフローチャートである。教師データ算出処理は、学習用プログラムにより実行される処理に含まれる。
【0037】
S01では、計算パラメータの入力を受け付けるための処理が行われる。計算パラメータは、操作者により入力部を介して入力される。ここでは、
図2(a)に示す、A:液溜まりタンクの水平断面積(m
2)、a:放出流路の流路断面積(m
2)、Q:排尿総流量(m
3)、T:時定数(s)、Δt:時間離散化幅(s)、θ:排尿流出角度(rad)などの値の入力を受け付ける。計算パラメータの入力が完了すると、S02以降において入力された計算パラメータに応じた形状係数と流出速度との組合せを算出するための処理が行われる。
【0038】
S02では、放出開始からの経過時間を特定するための時刻tの値として初期値「0」を設定する。S03では、人体における膀胱内初期圧に対応する値(以下、単に膀胱内初期圧、膀胱内圧という)を算出する。本実施の形態では、
図2(a)に示す液溜まりタンクと放出流路との接続部の圧力が膀胱内圧に相当するものとする。
図2(a)に示すように、仮想の液溜まりタンクから液体を放出する場合、Q:排尿総流量やA:液溜まりタンクの水平断面積などにより求められる液面の高さに応じた圧力と、大気圧p
0とが膀胱内初期圧に相当する。このため、膀胱内初期圧p(0)は、式(1)により算出される。
式(1)
S04では、時刻tにおける排尿圧に対応する値(以下、単に排尿圧という)を算出する。本実施の形態では、
図2(a)に示す放出流路の先端から液体が放出(流出)される際の圧力が排尿圧に相当するものとする。排尿圧は、尿道(放出流路に相当)における圧力損失によって膀胱内圧よりも低下するため、この場合の圧力損失係数をζとして、式(2)により算出される。
式(2)
ただし、実際の排尿は、排尿開始時から膀胱内圧に応じた速度で流出されるものではなく、排尿開始時においては低速となり、その後少しずつ上昇して、膀胱内圧に応じた速度に到達する。このため、S04においては、ζを式(3)で表すことにより、流出速度が時定数をTとした一次遅れ系として変化するものとして排尿圧を算出する。
式(3)
S05では、S04で算出した排尿圧に応じて、時刻tにおける排尿の流出速度に相当する値(以下、単に排尿の流出速度という)を算出する。排尿の流出速度は、時刻tにおいて放出流路から流出される液体粒子の流出速度であって、式(4)により算出される。
式(4)
また、水平方向速度成分は式(5)により、鉛直下方方向速度成分は式(6)により各々算出される。
式(5)
式(6)
S05により、例えば
図2(c)において示した液体粒子X5が放出流路の先端から流出されるときに、当該液体粒子X5の流出速度V5が算出されることとなる。なお、液体粒子X5よりも先に流出されている液体粒子X1~X4についての流出速度V1~V4も、各々の液体粒子が放出流路の先端から流出されるときにS05により算出されることとなる。
【0039】
S06では、時刻tまでに放出流路から流出されている液体粒子について、Δt時間経過後の位置(Δt時間後の流出排尿位置)を算出する。例えば、時刻t
eで放出流路から流出した液体粒子は、流出したときの排尿圧に応じた初速度(u
0,v
0)で、時間の進行とともに空間座標(x,y)に従って放物線を描きながら落下することとなる。式(7)は、時刻tに対する式を示している。
式(7)
S06では、t
e<tとなる時刻t
eまでに流出した全ての液体粒子について、次時刻t+Δtにおける位置を式(7)に基づき算出する。なお、S06により、例えば
図2(c)で示すように、液体粒子X5が流出するときに、すでに流出している液体粒子X1~X4の位置が算出されることとなる。
【0040】
S07では、現時刻tまでに流出した全ての液体粒子の次時刻t+Δtにおける位置を代表点とし、当該代表点を連ねることにより放出形状(排尿の放出形状に相当)を特定し、当該放出形状を表す形状係数を算出する。S07では、放出形状に2次曲線(2次の代数式)を当てはめて(フィッティングして)、その係数(形状係数a、b、c)を最小自乗法で算出する。
【0041】
S08では、S05で算出した排尿の流出速度と、S07で算出した形状係数とを一つの組データとして出力(つまり、形状学習データとして記憶部19に記憶)する。S09では、液体が流出して液溜まりタンク内の液面が低下することを考慮して、式(8)を用いて膀胱内圧pを更新する。
式(8)
S10では、時刻tの値としてt+Δtを設定する。S11では、S09で算出した膀胱内圧pが大気圧p
0未満となっているか否かを判定する。S11で膀胱内圧pが大気圧p
0未満となっていると判定されたときには、液溜まりタンク内の液体がすべて流出されているとみなして教師データ算出処理を終了する。
【0042】
一方、膀胱内圧pが大気圧p
0未満となっていると判定されなかったときには、液溜まりタンク内の液体が未だ流出され得る状況であるため、S04以降の処理が行われる。この場合、S04における膀胱内圧としては、S09で算出された値が用いられて排尿圧が算出されて、Δt経過後の排尿の流出速度と形状係数とを算出・出力されることとなる。このように、S04~S08などが繰り返し実行されることにより、入力した計算パラメータ下において液体を流出させたときの形状係数と流出速度とからなる一つの組データを時系列順に蓄積することができる。入力した計算パラメータ下において算出して時系列順に蓄積された1回の放出分(放出開始から終了まで)の組データは、セットデータという。
図6(a)は、セットデータの一例を示す図である。
図6(a)に示すようにセットデータとしては、
図5のS02およびS10で設定される時刻順に当該時刻において算出された形状係数a、b、c、流出速度Vが記憶される。計算パラメータとして様々な値の組合せを入力して形状係数と流出速度と算出して蓄積することにより、流出角度毎に、放出される液体の総流量や流出角度などが異なる複数種類の放出パターンに対応する複数種類のセットデータを蓄積可能となる。
【0043】
なお、蓄積された形状係数および流出速度については、ニューラルネットワークで入出力させるために適した形(0~1の間の値)に補正するための規準化処理が行われる。規準化処理は、学習用プログラムにより実行される処理に含まれる。規準化処理では、あるパラメータ下において算出・蓄積された一つのセットデータ(1回の放出分の組データ)の形状係数a、b、c、流出速度Vの各項目のうちで最大値を抽出し、形状係数a、b、c、流出速度Vの値を抽出した最大値で除した値に補正する処理が行われる。これにより、形状係数a、b、c、流出速度Vの値のうち、最大値であった値については1.0となり、それ以外の値については1未満の値となる。
【0044】
図6(a)のセットデータの例では、例えば、形状係数aの最大値が時刻t
iにおけるa
siであり、形状係数bの最大値が時刻t
jにおけるb
sjであり、形状係数cの最大値が時刻t
kにおけるc
skであり、流出速度Vの最大値が時刻t
mにおけるV
smであるとして、当該セットデータに対して規準化処理を施した場合には、
図6(b)に示すようなセットデータに更新される。
図6(b)は、規準化処理が施された後のセットデータの一例を示す図である。形状係数aについては、時刻t
iにおけるa
siで除した値に更新され(a´とすることで除した状態を示している、以下同様)、形状係数bについては、時刻t
jにおけるb
sjで除した値に更新され、形状係数cについては、時刻t
kにおけるc
skで除した値に更新され、流出速度Vについては、時刻t
mにおけるV
smで除した値に更新される。このため、規準化処理前において最大値であった項目(例えば形状係数aであれば時刻t
i)は、「1.0」に更新され、それ以外の時刻に対応する値は1未満の値に更新される。なお、説明を簡便にするために、以下では規準化前後のいずれについても、単に形状係数および流出速度と称する。
【0045】
図7は、形状係数と流出速度との一例を示す図である。
図7(a)~
図7(c)の縦軸は、各々、形状係数a~cを示しており、横軸は流出速度を示している。放出開始直後においては、ある程度の流出速度(
図7の例では約120mm/s)の状態から流出開始されて急上昇するため、放出されている液体粒子間における流出速度の差が大きくなる。つまり、放出開始直後のあるタイミングにおいては、所定時間(例えば、0.1秒など)前に放出された液体粒子の流出速度と、当該タイミングにおいて放出された液体粒子の流出速度との差が大きくなる。このため、
図7(a)~
図7(c)において例えば流出速度約120~220mm/sの区間X2で示すように、形状係数(特に、形状係数a、b)は、放出開始直後において、比較的大きく変動しながら、流出速度が急上昇する。なお、
図7では、放出開始後から流出速度が最高速度に達するまでの出始めの間における値を〇印でプロットしている。
【0046】
また、放出開始後において放出されている液体粒子間における流出速度の差が小さくなり始める(急上昇ではない上昇状態になる)と、
図7(a)~
図7(c)に示されるように、形状係数a~cは、流出速度が最高速度(例えば、
図7では700mm/s強)に達するまでの間においては、流出速度が速くなる程0に近づくように、0付近の値に徐々に収束する。例えば、流出速度が上昇する程、放出形状は、x軸方向への開き具合が大きくなるとともに、その影響が接線の傾きやy軸切片にも影響を与えることとなる。
【0047】
さらに、最高速度に達して折り返してから(流出速度が遅くなり始めてから)以降においては、流出速度が遅くなる程、0付近から遠ざかる値に徐々に変化する。例えば、流出速度が降下する程、放出形状は、x軸方向への開き具合が小さくなるとともに、その影響が接線の傾きやy軸切片にも影響を与えることとなる。なお、
図7では、最高速度に達して折り返してから以降における出終わりの間における値を×印でプロットしている。
【0048】
また、放出終了直前においては、放出開始直後とは逆に、流出速度が急降下して流出速度が0mm/sで放出終了となるため、放出されている液体粒子間における流出速度の差が大きくなる。このため、
図7において例えば流出速度約80~0mm/sの区間X1に示すように、形状係数a~cは、放出終了直前において、0~1までの間で大きく変動しながら、流出速度が急降下する。なお、区間X1では、流出速度が低速域で急降下するため、区間X2と比較して、形状係数の変動幅が大きくなる。
【0049】
図7(a)~
図7(c)に示すように、放出開始後において放出されている液体粒子間における流出速度の差が小さく、流出速度が徐々に上昇あるいは降下している区間においては、形状係数a~cのいずれも0付近の値を取り得る。しかし、形状係数a~cは流出速度に応じて0付近の微小な範囲で変動し、この形状係数a~c各々の値の組合せと、流出速度とが対応付いており、互いに関連性を有している。このため、例えば、形状係数aの値が同じであっても、当該形状係数aに対応する形状係数bや形状係数cなどの値が異なる場合には、異なる流出速度が対応付くこととなる。
【0050】
所定時間前に放出された液体粒子の流出速度の方が現タイミングにおいて放出された液体粒子の流出速度よりも遅い場合(放出開始から最高速度に到達するまでの間など)の一例である
図7(a)の流出速度180mm/s付近時のa2と、所定時間前に放出された液体粒子の流出速度の方が現タイミングにおいて放出された液体粒子の流出速度よりも速い場合の一例として最高速度を折り返した後の流出速度70mm/s付近時のa1とは、同じ値(約0.1程度)を示しているが、最高速度に到達するまでの流出速度180mm/s付近時のa2に対応する形状係数bおよび形状係数cの値と、最高速度を折り返した後の流出速度70mm/s付近時のa1に対応する形状係数bおよび形状係数cの値とは、
図7に示されるように異なる値となる。また、所定時間前に放出された液体粒子の流出速度の方が現タイミングにおいて放出された液体粒子の流出速度よりも遅い場合の一例である
図7(b)の流出速度180mm/s付近時のb2と、所定時間前に放出された液体粒子の流出速度の方が現タイミングにおいて放出された液体粒子の流出速度よりも速い場合の一例として最高速度を折り返した後の流出速度40mm/s付近時のb1とは、同じ値(約0.1程度)を示しているが、流出速度180mm/s付近時のb2に対応する形状係数aおよび形状係数cの値と、最高速度を折り返した後の流出速度40mm/s付近時のb1に対応する形状係数aおよび形状係数cの値とは、
図7に示されるように異なる値となる。このように、2次の項や1次の項などのある項の形状係数が同じ値であっても、他の項の形状係数の値が異なることとなる。
【0051】
また、同じ流出速度であっても、所定時間前に放出された液体粒子の流出速度の方が現タイミングにおいて放出された液体粒子の流出速度よりも速い場合と、遅い場合とで放出形状は異なることとなる。その結果、同じ流出速度であっても形状係数a~cの値の組合せが異なり得ることとなる。例えば、同じ流出速度180mm/s付近であっても、所定時間前に放出された液体粒子の流出速度の方が現タイミングにおいて放出された液体粒子の流出速度よりも遅い場合(最高速度に到達するまでの期間など)においては形状係数a2や形状係数b2となるのに対して、所定時間前に放出された液体粒子の流出速度の方が現タイミングにおいて放出された液体粒子の流出速度よりも速い場合においては前述した形状係数a3や形状係数b3となり、その結果、同じ流出速度であっても形状係数a~cの値の組合せが異なり得ることとなる。
【0052】
このように蓄積した形状係数および流出速度各々に対応する値を教師データとし、排尿形状学習部12では、
図3に示すように、形状係数に対応する値を入力、流出速度に対応する値を出力とする階層型ニューラルネットワークを構築する。ニューラルネットワークの学習は、あるセットデータに含まれる組データを時系列順に用いて、当該組データの形状係数に対応する値を入力して出力された流出速度に対応する値と、当該組データの流出速度に対応する値との誤差が小さくなるように、中間層における結合係数とオフセットとを調整(誤差逆伝播処理)することにより、当該セットデータ分の組データを用いた調整が行われる。このように、教師データとして、前述した2次の項や1次の項などのある項の形状係数が同じ値であっても他の項の形状係数の値が異なることにより異なる流出速度が対応付けられており、また、同じ流出速度であっても形状係数a~cの値の組合せが異なるとともに逆に形状係数a~cの値の組合せが異なる場合であっても同じ流出速度が対応付けられている場合があるような関係となる形状係数と流出速度とを用いているため、後述する排尿動画像から算出された形状係数の組合せから、より細やかに適切な流出速度を推定可能となる。
【0053】
なお、計算パラメータ入力部11により入力された流出角度は、算出される放出形状と流出速度とに与える影響が大きい。このため、本実施の形態における排尿形状学習部12では、計算パラメータ入力部11により入力された流出角度毎に蓄積されているセットデータを教師データとして用いたニューラルネットワークの学習を行って階層型ニューラルネットワークを構築する。すなわち、本実施の形態における排尿形状学習部12では、流出角度毎に、階層型ニューラルネットワークを構築する。
【0054】
(排尿流量の算出)
次に、階層型ニューラルネットワークを用いた排尿流量の算出について説明する。
図8は、排尿動画像から排尿流量を算出する排尿流量算出処理の一例を説明するためのフローチャートである。排尿流量算出処理は、流量算出用プログラムにより実行される処理に含まれる。
【0055】
S31では、カメラなどで撮影された排尿動画像を取得して記憶部19に記憶する。排尿動画像は、例えば被検者が所有する端末装置から通信回線(インターネット)などを介して送信されて通信部から取り込まれるものや、排尿動画像を記憶した記憶装置を排尿流量算出装置1に接続することにより取り込まれるものなどであってもよい。また、撮影に用いるカメラなどは、複数で同時に撮影してもよく、その場合、排尿する被写体に対し、排尿動画像を撮影する角度や距離が異なっていてもよい。カメラなどで撮影されS31で記憶される排尿動画像(被検者からの排尿動画像)は、少なくとも、人体から所定方向へ放出される排尿を当該所定方向に対して側方から撮像した排尿動画像を含むものであればよく、これに加えて、人体から所定方向へ放出される排尿を当該所定方向に対して正面・逆方向・斜交い方向などから撮像した排尿動画像を含むものであってもよい。
【0056】
S32では、排尿動画像(ここでは人体から所定方向へ放出される排尿を当該所定方向に対して側方から撮像した排尿動画像)を所定間隔(例えば、前述したΔtと同じ時間)毎であって時系列順に瞬時の静止画像に分割して記憶部19に記憶する。S33では、各静止画像について、背景部分を除外して2値化処理を行って2値画像を抽出する。S34では、2値画像における排尿部分を表す画素位置を代表点として抽出し、当該代表点を連ねることにより放出形状を特定し、当該放出形状に当てはまる2次の代数式の係数(形状係数)を算出する。これにより、各静止画像に対応する形状係数が算出される。なお、S34において算出した形状係数は、教師データと同様に、規準化処理が行われて1以下の値(以下では単に形状係数という)に更新される。
【0057】
S35では、2値画像に基づいて排尿が流出された排尿流出点と流出角度とを算出(推定)する。S34において特定される放出形状は、被検者の身体が踵付近を回転軸として前後に揺れることにより、実際には同じ形状であっても特定される放出形状および形状係数が異なることになる。排尿流出点と流出角度とは、S34で特定された放出形状などを、教師データの曲線と同様に、一定の排尿流出点から一定の流出角度で放出された場合の放出形状に補正して、被検者の身体の揺れによるずれを補うために用いられる。排尿時の排尿流出点は、鉛直方向(y軸)に大きく変動せず、また、流出角度は、排尿中一定であるという2つの仮定の下で、排尿流出点と流出角度とが算出される。時々刻々変化する曲線であって、S34で特定される放出形状(排尿近似曲線)の勾配dy/dxをy軸に沿って計算し、その勾配の最もばらつきの小さいy座標を排尿流出点の高さy_0として検出する。その排尿流出点の高さに対応する各時刻の排尿近似曲線の水平座標xは、ばらつきが生じているため、x=0の位置ですべての曲線が交わるように、それぞれの排尿近似曲を水平方向に平行移動させる。これによって、排尿流出点は(0,y_0)として算出される。また、排尿の流出角度は、排尿流出点の高さy_0における排尿近似曲線の勾配dy/dxより算出される。
【0058】
S36では、各静止画像に対応する形状係数を入力する。なお、S36では、S35で算出された流出角度と同じ流出角度が計算パラメータとして入力されたセットデータに基づき構築された階層型ニューラルネットワークに対して、各静止画像に対応する形状係数が入力される。S37では、流出角度に応じた階層型ニューラルネットワークにより推定されて出力された各静止画像に対応する流出速度を取得する。
【0059】
S38では、S33において2値化された2値画像に基づき排尿の断面積を推定する。具体的には、各2値画像の排尿部分のうち最上流位置の排尿の幅を算出し、当該算出した幅を直径とする円を断面積とする。なお、排尿の断面積の推定手法はこれに限るものではない。
【0060】
S39では、S37において推定・取得した排尿の流出速度と、S38において推定した排尿断面積とを掛け合わせて、時間積分する。これにより、排尿流量の積算値を算出することができる。
【0061】
排尿流量算出処理により算出された排尿流量は、医師などによる診断に用いられる。医師は、被検者からの排尿動画像に基づき算出された排尿流量に基づいて、前立腺肥大症や過活動膀胱・尿失禁症その他の排尿障害のリスクや、罹患の可能性、治療の選択肢、通院の必要性などについて診断することができる。なお、医師などによる診断には、排尿流量算出処理により算出された排尿流量に加えて、S31において記憶された各方向から撮像した排尿動画像も用いられ、例えば尿線の形状や連続性などが確認される。また、排尿流量算出装置1は、入力部を介して医師などによる診断結果の入力を受け付ける。排尿流量算出装置1は、診断結果の入力を受け付けることにより、例えば、当該診断結果を特定するための診断結果情報が通信回線などを介して排尿動画像の送信元となる被検者の端末装置に送信する。これにより、端末装置においては、診断結果情報を受信して、診断結果を表示部などに表示する。その結果、被検者は、診断結果を把握することができる。なお、診断結果は、通信回線などを介して送信されるものに限らず、例えば当該診断結果を印刷した診断結果書やPDF化したデータなどを被検者の住所に送付されるものなどであってもよい。
【0062】
本実施の形態における排尿流量算出装置1は、被検者から送信等される排尿動画像に基づいて
図8のS34で算出された排尿の形状係数を階層型ニューラルネットワークに入力することにより、
図8のS37で排尿の流出速度を推定・取得し、排尿流量を算出する。これにより、排尿流量算出装置1が排尿と接することがないため、衛生面を維持するための手間を軽減できる。また、階層型ニューラルネットワークを構築するための教師データとしては、
図2などで示したように、液体を様々な放出条件(計算パラメータ)の下で放出した場合において物理演算により算出される液体の流出速度と形状係数とが用いられている。このため、様々な放出パターンに対応する教師データを容易に生成して機械学習させることができるため、排尿撮像画像から排尿の流出速度・排尿の流量をより正確に算出できる。
【0063】
また、排尿の流量は、
図8のS38、S39で示したように、排尿動画像から排尿の断面積を算出して、S37において推定・取得した排尿の流出速度と掛け合わせて時間積分することにより算出される。このため、複雑な計算処理を行う必要がないため、排尿流量算出装置1の処理負担が増大してしまうことを防止できる。
【0064】
また、教師データとなる液体の形状係数は、液体の放出形状のうち側方から見た放出形状に合う2次の代数方程式の各項の係数から特定される。また、階層型ニューラルネットワークに入力することとなる排尿の形状係数も、排尿の放出形状のうち側方から見た放出形状に合う2次の代数方程式の各項の係数から特定される。これにより、排尿撮像画像から排尿の流出速度・排尿の流量をより正確に算出できる。
【0065】
また、教師データとなる液体の流出速度は、
図5のS04、S05、S09で示したとおり、
図2における液溜まりタンク内の液面の高さに応じた圧力値から算出される。これにより、人体における腹圧と同様に排尿圧を変動させることができ、実際の排尿により一層近い流出速度を生成することができる。
【0066】
また、階層型ニューラルネットワークは、流出角度毎に蓄積されているセットデータを教師データとして用いて機械学習を行い、流出角度毎に構築される。また、流出速度を推定する際にも、
図8のS35で算出された流出角度に応じた階層型ニューラルネットワークが用いられる。これにより、流出角度が異なることにより誤差が大きな流出速度が推定されてしまうことを防止できる。
【0067】
また、本実施の形態における排尿流量算出装置1と通信可能な端末装置においては、端末装置内の記憶部に記憶しているプログラムを実行することにより、人体から所定方向へ放出される排尿を当該所定方向に対して側方・正面・逆方向・斜交い方向などから撮像した排尿動画像を、排尿流量算出装置1に送信し、排尿の流量あるいは尿線の形状や連続性に応じた診断結果を特定するための診断結果情報を受信し、診断結果情報から特定される診断結果を表示部に表示する。これにより、被検者は、病院などに出向くことなく、排尿場所や排尿の時間帯に制約を受けることなく自宅などにおいて排尿の動画像を撮影して送信することにより、診断結果を得ることができる。その結果、被検者の利便性を大幅に向上させることができる。
【0068】
(変形例)
前述した実施の形態では、機械学習に用いる教師データを論理演算により生成する例について説明したが、これに限らず、実際に液体や尿を放出することにより瞬時瞬時の形状係数と流出速度とを時系列順に記憶することにより教師データを生成するようにしてもよい。例えば、実際に液体や尿が放出される際の動画像を撮影するとともに、所定の計測器などを用いて放出される当該液体等の瞬時瞬時の流出速度を算出・記憶し、動画像から瞬時瞬時の形状係数を算出し(
図8のS31~S34と同様)、時系列順に瞬時瞬時の形状係数と流出速度とを組データとするセットデータを生成して教師データとして用いるようにしてもよい。
【0069】
前述した実施の形態では、ニューラルネットワークの機械学習において、あるセットデータに含まれる組データをすべて用いて誤差逆伝播処理を行う例について説明した。しかし、過学習となることを防止するために、ニューラルネットワークの機械学習において、あるセットデータに含まれる組データのうちの一部を用いて(間引いて)誤差逆伝播処理を行うようにしてもよい。
図9は、
図7で示した組データのうち、機械学習に用いる一部の例を示している。組データのうちの一部とは、例えば、Δt:時間離散化幅の数倍(例えば3倍など)の間隔となるデータや、放出開始から流出速度が最大となるまでのデータ(前半のデータ)、放出開始から流出速度が最大に達してから以降のデータ(後半のデータ)であってもよい。
【0070】
前述した実施の形態では、教師データを用いた機械学習により階層型ニューラルネットワークを構築する例について説明したが、これに加えて、さらに強化学習を行うようにしてもよい。これにより機械学習の効率化が可能となる。強化学習とは、ある環境の状態に置かれたエージェントが、行動を選択したときに与えられる報酬をもとに、初期状態からゴールまでの累積報酬を最大化するような方策を獲得する仕組みのことである。強化学習ではAIの一種であるソフトウェアエージェント(以下「エージェント」という)と環境が相互作用することで学習を進めていく。ここにエージェントとはAIの一種であり、ユーザやソフトウェアなどと通信しながら自らがある程度の判断能力を持って自律的にふるまい永続的に活動するソフトウェアのことである。エージェントが環境に対して或る行為aを行うことによりその環境の状態sが変化し或る目的状態に達することにより報酬rがエージェントに与えられる。エージェントは、この報酬rを最大化することを目的として状態sを入力として行為aを出力する関数を学習する。
【0071】
前述した実施形態では、教師データに含まれる形状係数として、2次以上の代数方程式の係数(各項の係数a・b、定数c)を用いた例について示した。しかし、放出開始時において、定数は、
図7(c)に示すように負の値となる一方で、その影響を吸収するために各項の係数は、
図7(a)(b)に示すように大きく変動している。これを解消するために、例えば、教師データに含まれる形状係数としては、2次以上の代数方程式の各項の係数(例えば、係数a、b)のみとし、定数(定数c)を含まないようにしてもよい。例えば、
図5のS07では、放出形状に2次の代数式:y=ax
2+bxを当てはめて(フィッティングして)、その係数(形状係数a、b)を最小自乗法で算出するようにしてもよい。このように、教師データに含まれる形状係数を2次以上の代数方程式の各項の係数(例えば、係数a、b)のみとした場合、
図8のS34においても2次以上の代数方程式の各項の係数(例えば、係数a、b)のみ算出して、当該係数のみを階層型ニューラルネットワークに入力するようにしてもよい。これにより、前述した実施形態と比較して、定数による影響が無くなるため、排尿撮像画像から排尿の流出速度をより正確に算出できる。
【0072】
前述した実施形態では、
図5のS09において式(8)に基づき所定量減算された膀胱内圧pに更新する例について説明したが、これに限らず、人体の腹圧のようにタイミングによっては大きく減算したり、あるいは減算しなかったりといったようにして、放出途中において大量に放出されたり、放出が少量あるいは中断されたりするような放出形状を想定して、排尿の流出速度および形状係数を算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 :排尿流量算出装置
11 :計算パラメータ入力部
12 :排尿形状学習部
13 :画像入力部
14 :背景処理部
15 :代表点抽出部
16 :形状係数算出部
17 :流出速度推定部
18 :排尿流量算出部
19 :記憶部