(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069799
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】封口板及び筒形電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/152 20210101AFI20240515BHJP
H01M 50/159 20210101ALI20240515BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20240515BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20240515BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20240515BHJP
H01M 50/545 20210101ALI20240515BHJP
H01M 50/548 20210101ALI20240515BHJP
H01M 50/167 20210101ALI20240515BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20240515BHJP
H01M 50/186 20210101ALI20240515BHJP
H01M 50/56 20210101ALI20240515BHJP
H01M 50/559 20210101ALI20240515BHJP
H01M 50/133 20210101ALI20240515BHJP
H01M 50/134 20210101ALI20240515BHJP
【FI】
H01M50/152
H01M50/159
H01M50/342 101
H01M50/107
H01M50/119
H01M50/545
H01M50/548 201
H01M50/167
H01M50/184 D
H01M50/186
H01M50/56
H01M50/559
H01M50/133
H01M50/134
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180011
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 皓己
(72)【発明者】
【氏名】渡部 徳久
【テーマコード(参考)】
5H011
5H012
5H043
【Fターム(参考)】
5H011AA09
5H011AA13
5H011CC06
5H011DD15
5H011EE04
5H011FF03
5H011GG02
5H011KK01
5H011KK07
5H012AA01
5H012BB02
5H012JJ01
5H012JJ06
5H043AA04
5H043AA19
5H043BA07
5H043CA03
5H043CA15
5H043DA03
5H043GA13
5H043HA08D
5H043JA01D
5H043JA04D
5H043JA11D
5H043KA01D
5H043LA02D
5H043LA34D
(57)【要約】
【課題】製造性及び製品安全性の低下を抑え、高品質の筒形電池を実現する。
【解決手段】封口板40は、金属製であって、筒形電池1の外装缶10の封口に用いられる。封口板40は、ガス排出弁の機構を備える。封口に用いられる前の封口板40は、平坦部41aを有する底板部41と、底板部41の外周に設けられ底板部41から立ち上がった側面部42とを備え、平坦部41aのビッカース硬度(HV)が側面部42のビッカース硬度(HV)よりも低い構成とされる。例えば、平坦部41aのビッカース硬度(HV)は100以上160以下の範囲とされ、側面部42のビッカース硬度(HV)は260以上330以下の範囲とされる。このような封口板40が用いられ、外装缶10の封口が行われ、筒形電池1が実現される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形電池用の金属製の封口板であって、
平坦部を有する底板部と、
前記底板部の外周に設けられ、前記底板部から立ち上がった側面部と、
を備え、
前記平坦部のビッカース硬度(HV)が、前記側面部のビッカース硬度(HV)よりも低い、ガス排出弁の機構を備える封口板。
【請求項2】
前記平坦部のビッカース硬度(HV)が、100以上160以下の範囲である、請求項1に記載の封口板。
【請求項3】
前記側面部のビッカース硬度(HV)が、260以上330以下の範囲である、請求項1に記載の封口板。
【請求項4】
前記底板部は、前記平坦部の外側に設けられ、前記平坦部から、前記側面部が立ち上がる方向とは反対側に膨らみ、前記側面部と接続される遷移部を有する、請求項1に記載の封口板。
【請求項5】
前記平坦部の板厚が、前記側面部の板厚よりも薄い、請求項1に記載の封口板。
【請求項6】
請求項1に記載の封口板が用いられた筒形電池。
【請求項7】
開口部を有する有底筒状の金属製の外装缶と、
前記外装缶の内部に収容され、第1電極と前記第1電極とは異なる極性の第2電極とを有し、前記第1電極が前記外装缶と電気的に接続される発電要素と、
ガスケットを介して前記開口部を封口し、前記発電要素の前記第2電極が電気的に接続される前記封口板と、
前記封口板の、前記外装缶の前記内部とは反対側に設けられ、前記封口板と電気的に接続され、前記封口板の前記平坦部に向かって突出した突起部を有する端子と、
を含む、請求項6に記載の筒形電池。
【請求項8】
前記外装缶は、側壁部に外部から前記内部に向かって窪んだビーディング部と、前記開口部の縁部が前記内部に向かってかしめられたかしめ部とを有し、
前記封口板は、前記側面部が、前記ガスケットを介して前記ビーディング部と前記かしめ部との間に挟まれて固定され、前記開口部を封口する、請求項7に記載の筒形電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封口板及び筒形電池に関する。
【背景技術】
【0002】
筒形電池に関し、内部に発電要素を組み込んだ有底中空円筒形状の電極缶にビーディング部を形成し、その電極缶内部に封口ガスケット、封口板及び負極端子を挿入してから開口端部を内方に折り曲げて電極缶の開口部を封口する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筒形電池として、開口部を有する有底筒状の金属製の外装缶の内部に発電要素を収容し、外装缶の開口部を、ガスケットを介して金属製の封口板で封口するものが知られている。発電要素は、正極及び負極を有し、そのうちの一方が外装缶と電気的に接続され、他方が封口板と電気的に接続される。
【0005】
このような筒形電池に関し、封口板の外側に、封口板側に向かって突出した突起部を有する端子を設ける技術が知られている。この筒形電池では、何らかの異常で内部にガスが発生して電池内圧が過剰に上昇した際、封口板が外側に膨らんで端子の突起部に当たり、突起部によって封口板に孔が開けられることで、発生したガスが外部に排出される。即ち、封口板及び突起部を、異常時のガス抜き弁、安全弁機構として機能させ、筒形電池の過剰な電池内圧の上昇、それによる爆発的な破裂を抑える。
【0006】
しかし、封口板が比較的柔らかい場合には、電池内圧の上昇に伴う膨らみが生じ易くなり、ガス抜き弁としての作動性(弁作動性)を高めることが期待される一方、電池製造時にかかる負荷、例えば、封口板をガスケットへ挿入するために押さえ込む際の負荷によって、封口板が変形し易くなる。封口板の変形は、筒形電池の密閉性や弁作動性に影響を及ぼす恐れがある。また、封口板が比較的硬い場合には、電池内圧の上昇に伴う膨らみが生じ難くなり、弁作動性の低下、それによる筒形電池の爆発的な破裂を招き易くなる恐れがあるほか、外装缶の開口部を封口する際の加工性が低下してしまい、筒形電池の密閉性の高い封口が行えなくなる恐れがある。
【0007】
1つの側面では、本発明は、筒形電池の製造性及び製品安全性の低下を抑え、高品質の筒形電池を得ることのできる封口板を実現することを目的とする。
また、1つの側面では、本発明は、そのような封口板を用い、製造性及び製品安全性の低下を抑え、高品質の筒形電池を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、筒形電池用の金属製の封口板であって、平坦部を有する底板部と、前記底板部の外周に設けられ、前記底板部から立ち上がった側面部と、を備え、前記平坦部のビッカース硬度(HV)が、前記側面部のビッカース硬度(HV)よりも低い、ガス排出弁の機構を備える封口板が提供される。
【0009】
また、1つの態様では、上記のような封口板を用いた筒形電池が提供される。
【発明の効果】
【0010】
1つの側面では、筒形電池の製造性及び製品安全性の低下を抑え、高品質の筒形電池を得ることのできる封口板を実現することが可能になる。
また、1つの側面では、そのような封口板を用い、製造性及び製品安全性の低下を抑え、高品質の筒形電池を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】封口板の硬さが筒形電池に及ぼす影響の例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は筒形電池の一例について説明する図である。
図1には、筒形電池の一例の要部断面図を示している。
図1に示す筒形電池1は、円筒形のリチウム一次電池の一例である。筒形電池1は、外装缶10、発電要素20、ガスケット30、封口板40、端子50及び非水電解液60を含む。
【0013】
外装缶10は、一端に開口部11を有する有底筒状、この例では有底円筒状の金属製の容器である。外装缶10は、底部12と、底部12の縁から立ち上がる側壁部13とを有する。側壁部13の、底部12側とは反対側の一端に、底部12と対向して開口部11が設けられる。外装缶10には、各種金属、例えば、ステンレスが用いられる。外装缶10は、例えば、ステンレス等の金属板をプレス加工することで、有底円筒状に成形される。尚、外装缶10の底部12は、
図1に示すように、端子(端子50とは反対極性の端子)として機能させる部位を突出させた形状とされてもよい。外装缶10の側壁部13には、開口部11から比較的近い位置に、外装缶10の外部から内部に向かって窪んだビーディング部13aが設けられる。
【0014】
発電要素20は、互いに極性の異なる電極、即ち、正極及び負極を有する。例えば、発電要素20は、発電要素20の正極として機能する円筒状の正極層21と、発電要素20の負極として機能する円筒状の負極層22と、正極層21と負極層22との間に設けられる有底円筒状のセパレータ23とを有する。
図1の例では、セパレータ23の外側に正極層21が設けられ、セパレータ23の内側に負極層22が設けられる。正極層21は、外装缶10と電気的に接続される。この場合、外装缶10は、筒形電池1の正極端子として機能する。負極層22は、外装缶10とは電気的に分離される。
【0015】
尚、発電要素20の正極層21を、「第1電極」とも言う。発電要素20の負極層22を、「第2電極」とも言う。
発電要素20の正極層21(第1電極)には、正極活物質である二酸化マンガンを含有する正極合剤を含む正極作用物質が用いられる。例えば、正極層21は、二酸化マンガンのほか、黒鉛、バインダのフッ素樹脂等を混合した正極合剤粉を円筒状に成形することで形成される。発電要素20の負極層22(第2電極)には、負極活物質であるリチウムを含む負極作用物質が用いられる。例えば、負極層22は、リチウム金属板を円筒状に加工することで形成される。発電要素20のセパレータ23には、微孔性フィルムや不織布等の絶縁性の材料が用いられる。例えば、セパレータ23は、ポリプロピレン製の不織布等を円筒状とし、一端を熱融着等により閉塞することで、有底円筒状に形成される。
【0016】
発電要素20は更に、負極層22の内側に設けられ、負極層22と電気的に接続された負極集電体24を有する。負極集電体24には、リード部24aが取り付けられる。負極集電体24及びリード部24aには、各種金属、例えば、ステンレスが用いられる。後述のように、リード部24aは、正極層21が電気的に接続される外装缶10とは反対極性の端子として機能する端子50と電気的に接続される。
【0017】
ガスケット30は、中央部に開口部31を有するリング状の形状とされる。ガスケット30には、絶縁性を有する各種絶縁材料、例えば、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂等の絶縁性を有する樹脂材料が用いられる。
【0018】
封口板40は、金属製であって、平面視で外形が円形状とされる。封口板40には、各種金属、例えば、ステンレスが用いられる。封口板40は、
図1に示すように、平坦部41aを有する底板部41と、底板部41の外周に設けられ底板部41から立ち上がった側面部42とを備える。尚、封口板40の構成の詳細については後述する。封口板40は、ガスケット30に挿入され、側面部42を含む外縁部がガスケット30で覆われる。封口板40の底板部41には、発電要素20の負極集電体24から延びるリード部24aが電気的に接続される。リード部24aは、ガスケット30の開口部31を挿通されて、封口板40の底板部41に溶接等により接続される。
【0019】
端子50は、封口板40上、即ち、外装缶10の内部に収容される発電要素20側とは反対側に設けられる。端子50は、例えば、ハット形状とされ、封口板40の底板部41から離間する中央部に、封口板40の底板部41側に向かって突出するように、突起部51が設けられる。突起部51は、刃突起とも称される。端子50には、各種金属、例えば、ステンレスが用いられる。突起部51は、端子50の中央部における一部を切り欠き、その切り欠いた部分を下方(封口板40の底板部41側)に折り曲げることで、形成される。封口板40上に設けられる端子50は、封口板40と電気的に接続される。端子50は、封口板40及びそれに接続されるリード部24aを通じて、発電要素20の負極集電体24及び負極層22と電気的に接続される。端子50は、筒形電池1の負極端子として機能する。
【0020】
発電要素20が収容される外装缶10の内部には、所定の非水電解液60が収容される。非水電解液60には、例えば、非水系溶媒にリチウム塩を溶解させた非水系有機電解液が用いられる。
【0021】
筒形電池1の製造(組み立て)時には、内部に発電要素20及び非水電解液60が収容された外装缶10の開口部11に、ガスケット30に挿入されてリード部24aが接続された封口板40が、外装缶10のビーディング部13aを座にして載置される。封口板40上には、端子50が載置される。その状態から、外装缶10の開口部11の縁部11aが、端子50及び封口板40の外縁部並びにガスケット30を介して、外装缶10のビーディング部13a側へかしめられる。これにより、かしめられた外装缶10の縁部11aとビーディング部13aとの間に、ガスケット30を介して端子50及び封口板40の外縁部が挟まれて固定され、外装缶10の開口部11が端子50、封口板40及びガスケット30で封口される。かしめ加工により、封口板40の側面部42は、端子50の外縁部の上側に折れ曲がった状態となる。
【0022】
尚、外装缶10の、開口部11の縁部11aが内部(ビーディング部13a側)に向かってかしめられた部位、即ち、かしめられた縁部11aを、「かしめ部」とも言う。
筒形電池1では、発電要素20及び非水電解液60が収容され、端子50、封口板40及びガスケット30で封口された外装缶10の内部に、何らかの異常でガスが発生することが起こり得る。仮に、筒形電池1が密閉状態のまま、発生したガスによって電池内圧が上昇し続けると、爆発的な破裂を引き起こす恐れがある。これに対し、筒形電池1では、内部にガスが発生して電池内圧が過剰に上昇した際、封口板40が外側に膨らんで端子50の突起部51に当たり、突起部51によって封口板40に孔が開けられることで、内部で発生したガスが外部に排出されるようになっている。即ち、筒形電池1では、封口板40及び突起部51が、異常時のガス抜き弁、安全弁機構として機能する。これにより、筒形電池1の過剰な電池内圧の上昇、それによる爆発的な破裂が抑えられるようになっている。
【0023】
上記のような構成を有する筒形電池1に用いられる封口板40について更に説明する。
図2は封口板の一例について説明する図である。
図2(A)には封口板の一例の平面図を示し、
図2(B)には
図2(A)のII-II断面図を示している。
【0024】
図2(A)及び
図2(B)には、上記のような筒形電池1の製造(組み立て)前に準備される封口板40、即ち、ガスケット30へ挿入する前、又は、外装缶10のビーディング部13aに載置する前若しくは開口部11の縁部11aをかしめる前の封口板40を示している。
【0025】
封口板40は、
図2(及び上記
図1)に示すように、平坦部41aを有する底板部41と、底板部41の外周に設けられ底板部41から立ち上がった側面部42とを備える。底板部41は、平坦部41aの外側に設けられて側面部42へと接続される遷移部41bを有する。遷移部41bは、平坦部41aの外側に設けられ、平坦部41aから、側面部42が立ち上がる方向(
図2(B)の上方)とは反対側(
図2(B)の下方)に膨らみ、側面部42と接続される。底板部41の、平坦部41aから窪んだ遷移部41bに、当該遷移部41bと対応する形状とされた上記端子50(
図1)の外縁部が挿入される。
【0026】
封口板40は、所定の板厚の所定の金属板を加工することで成形される。例えば、封口板40は、板厚0.08mmのステンレス板を、順送プレスやトランスファープレスで加工することで、容易に成形される。尚、封口板40の板厚は、0.08mmに限定されるものではない。例えば後述のように、必要に応じて金属板の種類を適宜選択したり金属板の硬度を適宜調整したりすることで、板厚が0.03mmから1.5mmの範囲にある金属板を加工して得られる封口板40について、同様の作用効果が得られることが期待される。
【0027】
筒形電池1の製造(組み立て)時には、上記のような構成を有する封口板40が、ガスケット30に挿入される。そして、上記
図1について述べたように、ガスケット30に挿入されてリード部24aが接続された封口板40が、発電要素20及び非水電解液60が収容された外装缶10の開口部11に、ビーディング部13aを座にして載置され、封口板40上に端子50が載置される。その状態から、外装缶10の開口部11の縁部11aがかしめられ、縁部11a(かしめ部)とビーディング部13aとの間にガスケット30を介して端子50及び封口板40の外縁部が挟まれて固定され、開口部11が端子50、封口板40及びガスケット30で封口される。かしめ加工により、封口板40の側面部42は、端子50の外縁部の上側に折れ曲がった状態となる。
【0028】
ところで、筒形電池1では、封口板40の硬さが、筒形電池1の製造性及び製品安全性に影響を及ぼし、筒形電池1の品質に影響を及ぼし得る。この点について、
図3を参照して説明する。
【0029】
図3は封口板の硬さが筒形電池に及ぼす影響の例について説明する図である。
図3(A)及び
図3(B)にはそれぞれ、筒形電池の封口部付近の一例の要部断面図を示している。
【0030】
例えば、筒形電池1の封口板40が比較的柔らかい場合には、電池内圧の上昇に伴う膨らみが生じ易くなり、ガス抜き弁としての作動性(弁作動性)を高めることが期待される一方、筒形電池1の製造時にかかる負荷によって、封口板40が変形し易くなる。例えば、封口板40のガスケット30への挿入時に、封口板40の底板部41における平坦部41aが押さえ込まれて平坦部41aに負荷がかかり、平坦部41aが変形、即ち、封口板40が変形してしまうことが起こり得る。
【0031】
封口板40が変形すると、ガスケット30に対する収まりが悪くなり、例えば、
図3(A)のP1部に示すように、封口板40の外縁部(側面部42及び遷移部41b)の一部がガスケット30から浮き上がり(密着不具合)、封口板40等による外装缶10の密閉性の低下、筒形電池1の製造性の低下を招く恐れがある。筒形電池1の密閉性の低下は、外装缶10の内部に収容される非水電解液60の漏洩や、内部への外気の侵入等を引き起こし、筒形電池1の動作安定性や信頼性といった品質の低下を招く恐れがある。このほか、封口板40が変形すると、端子50の突起部51との距離或いは接触圧が変わってしまい、突起部51によって封口板40に孔が開く電池内圧の閾値(封口板40がガス抜き弁として作動する時の電池内圧、弁作動圧)に変化或いはばらつきが生じ、筒形電池1の製品安全性、品質の低下を招く恐れがある。
【0032】
また、封口板40が比較的硬い場合には、電池内圧の上昇に伴う膨らみが生じ難くなるため、弁作動性が低下(弁作動圧が上昇)し、筒形電池1が爆発的な破裂を引き起こし易くなり、筒形電池1の製品安全性、品質の低下を招く恐れがある。このほか、封口板40が比較的硬い場合には、外装缶10の開口部11をかしめ加工により封口する際の加工性が低下してしまい、例えば、
図3(B)のP2部及びP3部に示すように、封口板40の側面部42が端子50の外縁部の上側へ十分に折れ曲がらず、筒形電池1の密閉性の高い正常な封口が行えなくなり、筒形電池1の製造性の低下を招く恐れがある。上記の通り、筒形電池1の密閉性の低下は、外装缶10の内部に収容される非水電解液60の漏洩や、内部への外気の侵入等を引き起こし、筒形電池1の動作安定性や信頼性等といった品質の低下を招く恐れがある。
【0033】
そこで、上記のような点に鑑み、筒形電池1の封口板40として、底板部41における平坦部41aのビッカース硬度(HV)が、側面部42のビッカース硬度(HV)よりも低い、封口板40を用いる。封口板40として、側面部42のビッカース硬度(HV)が、底板部41における平坦部41aのビッカース硬度(HV)よりも高い、封口板40を用いる、とも言える。ここで、封口板40の平坦部41a及び側面部42のビッカース硬度(HV)は、JIS規格(JIS 2244-1:2020)に基づいて測定されるビッカース硬度である。
【0034】
封口板40の平坦部41aのビッカース硬度(HV)は、例えば、100以上160以下の範囲に設定される。封口板40の側面部42のビッカース硬度(HV)は、例えば、260以上330以下の範囲に設定される。
【0035】
封口板40では、その底板部41における平坦部41aのビッカース硬度(HV)が100以上160以下の範囲に設定されることで、筒形電池1の製造時の不具合が抑えられる。即ち、平坦部41aが柔らかすぎず、封口板40のガスケット30への挿入時に、底板部41における平坦部41aが押さえ込まれて平坦部41aに負荷がかかっても、平坦部41aが変形してしまうことが抑えられる。そのため、平坦部41aの変形に起因した封口板40とガスケット30との密着不具合(
図3(A))が抑えられ、封口板40等による外装缶10の密閉性の低下、筒形電池1の製造性の低下が抑えられる。筒形電池1の密閉性の低下が抑えられることで、外装缶10の内部に収容される非水電解液60の漏洩や、内部への外気の侵入等が抑えられ、筒形電池1の動作安定性や信頼性といった品質の低下が抑えられる。このほか、封口板40の変形が抑えられることで、端子50の突起部51との距離或いは接触圧が変わること、それによって突起部51で封口板40に孔が開く電池内圧の閾値に変化或いはばらつきが生じることが抑えられ、筒形電池1の製品安全性、品質の低下が抑えられる。
【0036】
封口板40では、平坦部41aのビッカース硬度(HV)が100以上160以下の範囲に設定されることで、平坦部41aが硬すぎず、電池内圧の上昇に伴う膨らみが生じ難くなることが抑えられる。そのため、封口板40の弁作動性の低下、弁作動性の低下による電池内圧の過剰な上昇、それによる爆発的な破裂が抑えられ、筒形電池1の製品安全性、品質の低下が抑えられる。
【0037】
また封口板40では、その側面部42のビッカース硬度(HV)が260以上330以下の範囲に設定されることで、側面部42が硬すぎず、外装缶10の開口部11をかしめ加工により封口する際の加工性の低下が抑えられる。封口板40の側面部42が端子50の外縁部の上側に十分に折れ曲がらず筒形電池1の密閉性が低下すること(
図3(B))が抑えられ、筒形電池1の製造性の低下が抑えられる。筒形電池1の密閉性の低下が抑えられることで、外装缶10の内部に収容される非水電解液60の漏洩や、内部への外気の侵入等が抑えられ、筒形電池1の動作安定性や信頼性といった品質の低下が抑えられる。
【0038】
尚、外装缶10の開口部11を封口するためにその縁部11aがかしめられる際、封口板40の側面部42は、そのかしめられる際の加工硬化によって硬度が高くなり得る。そのため、封口前に側面部42のビッカース硬度(HV)が260以上330以下の範囲であった封口板40は、封口が行われて筒形電池1に組み込まれた状態では、その側面部42のビッカース硬度(HV)が、260(封口前の下限値)以上であり、330(封口前の上限値)を上回る場合がある。
【0039】
また、封口板40において、平坦部41aの板厚と、側面部42の板厚とは、異なっていてもよい。例えば、封口板40において、平坦部41aの板厚を、側面部42の板厚よりも薄くしてもよい。平坦部41aの板厚を比較的薄くすることで、側面部42の強度を確保しつつ、平坦部41aにおいて端子50の突起部51による孔開きが生じ易くなるようにして封口板40の弁作動性を高めることが可能になる。
【0040】
平坦部41aのビッカース硬度(HV)が側面部42のビッカース硬度(HV)よりも低い封口板40、或いは、平坦部41aのビッカース硬度(HV)を100以上160以下の範囲とし、側面部42のビッカース硬度(HV)を260以上330以下の範囲とする封口板40は、次のような手法を用いて実現することができる。
【0041】
例えば、所定の板厚のステンレス等の金属板に対するプレス加工によって側面部42を成形する際の加工硬化により、平坦部41aよりもビッカース硬度(HV)の高い側面部42を得ることができる。
【0042】
その際は、用いる金属板の種類を選択、例えば、封口板40の平坦部41aに採用されるビッカース硬度(HV)(100以上160以下の範囲)を有するような金属板を選択し、その金属板のプレス加工により側面部42を成形する。例えば、このような方法により、所定のビッカース硬度(HV)(100以上160以下の範囲)の平坦部41aと、平坦部41aよりも高い所定のビッカース硬度(HV)(260以上330以下の範囲)の側面部42とを得る。
【0043】
或いは、用いる金属板のビッカース硬度(HV)が、封口板40の平坦部41aに採用されるビッカース硬度(HV)(100以上160以下の範囲)を上回っている場合には、次のような方法を採用する。即ち、当該金属板に対して予め熱処理(焼きなまし)を施すことでその硬度を低下させ、封口板40の平坦部41aに採用されるビッカース硬度(HV)(100以上160以下の範囲)となるような金属板とする。その金属板のプレス加工により側面部42を成形する。例えば、このような方法により、所定のビッカース硬度(HV)(100以上160以下の範囲)の平坦部41aと、平坦部41aよりも高い所定のビッカース硬度(HV)(260以上330以下の範囲)の側面部42とを得ることもできる。
【0044】
また、一連のプレス加工によって得られた封口板40の平坦部41a及び側面部42が所定のビッカース硬度(HV)の範囲とならない場合には、次のような方法を採用し、平坦部41a及び側面部42のビッカース硬度(HV)を調整することもできる。
【0045】
例えば、一連のプレス加工によって得られた封口板40を熱処理し、平坦部41a及び側面部42の硬度を低下させることで、所定のビッカース硬度(HV)(100以上160以下の範囲)の平坦部41aと、平坦部41aよりも高い所定のビッカース硬度(HV)(260以上330以下の範囲)の側面部42とを得ることができる。
【0046】
このほか、プレス加工によって平坦部41aを所定のビッカース硬度(HV)(100以上160以下の範囲)とし、絞り加工の金型のクリアランスを調整して加工硬化によって側面部42を所定のビッカース硬度(HV)(260以上330以下の範囲)とすることもできる。
【0047】
例えば、このようにして得られる平坦部41a及び側面部42を備える封口板40が用いられ、外装缶10の封口が行われ、筒形電池1が実現される。
次に、封口板40の平坦部41a及び側面部42のビッカース硬度(HV)が筒形電池1の製造性及び製品安全性並びに品質に及ぼす影響について評価した結果について説明する。
【0048】
実施例として、ビッカース硬度(HV)が100以上160以下の範囲にある平坦部41aを備えた封口板40、及び、ビッカース硬度(HV)が260以上330以下の範囲にある側面部42を備えた封口板40を準備し、上記
図1に示したような構成を有する筒形電池1を作製するための工程を実施した(実施例1-7)。
【0049】
また、比較例として、ビッカース硬度(HV)が100以上160以下の範囲にない平坦部41aを備えた封口板40、及び、ビッカース硬度(HV)が260以上330以下の範囲にない側面部42を備えた封口板40を準備し、上記
図1に示したような構成を有する筒形電池1を作製するための工程を実施した(比較例1-5)。
【0050】
尚、ここでは、実施例及び比較例の筒形電池1として、直径17mmで高さ33.5mmの円筒形のリチウム一次電池を作製した。
まず、封口板40をガスケット30に挿入する際の不具合発生数を評価した結果について述べる。結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
表1において、比較例1では、平坦部41aのビッカース硬度(HV)が90である封口板40を10個準備し、それぞれをガスケット30に挿入する工程を実施した。比較例1では、平坦部41aが比較的柔らかく、変形し易いため、封口板40が変形する不具合が、10個中3個の封口板40で発生した。
【0053】
表1において、実施例1では、平坦部41aのビッカース硬度(HV)が110である封口板40を10個準備し、それぞれをガスケット30に挿入する工程を実施した。実施例1では、比較例1に比べて平坦部41aが比較的硬く、変形し難く、封口板40が変形する不具合が、10個の封口板40のいずれにも発生しなかった。
【0054】
表1において、実施例2では、平坦部41aのビッカース硬度(HV)が140である封口板40を10個準備し、それぞれをガスケット30に挿入する工程を実施した。実施例2でも、実施例1と同様、封口板40が変形する不具合は、10個の封口板40のいずれにも発生しなかった。
【0055】
表1において、実施例3では、平坦部41aのビッカース硬度(HV)が155である封口板40を10個準備し、それぞれをガスケット30に挿入する工程を実施した。実施例3でも、実施例1と同様、封口板40が変形する不具合は、10個の封口板40のいずれにも発生しなかった。
【0056】
表1において、比較例2では、平坦部41aのビッカース硬度(HV)が170である封口板40を10個準備し、それぞれをガスケット30に挿入する工程を実施した。比較例2では、封口板40が変形する不具合は、10個の封口板40のいずれにも発生しなかった。
【0057】
続いて、封口板40を用いた筒形電池1の弁作動圧を評価した結果について述べる。結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
表2において、実施例4では、平坦部41aのビッカース硬度(HV)が155である封口板40を用いた筒形電池1を5個準備した。そして、それぞれの筒形電池1について、封口板40がガス抜き弁として作動する時の弁作動圧を測定し、その平均値を100%とした。
【0060】
表2において、比較例3では、平坦部41aのビッカース硬度(HV)が260である封口板40を用いた筒形電池1を5個準備した。そして、それぞれの筒形電池1について、封口板40がガス抜き弁として作動する時の弁作動圧を測定し、その平均値を求め、実施例4の弁作動圧の平均値に対する相対比を求めた。実施例4の弁作動圧の平均値を100%とした時、比較例3の弁作動圧の平均値は、150%となった。
【0061】
平坦部41aのビッカース硬度(HV)が260である比較例3の封口板40を用いた筒形電池1では、弁作動圧が比較的高くなり、電池内圧が上昇した際、封口板40が迅速にガス抜き弁として作動せず、爆発的な破裂を引き起こす危険性がある。
【0062】
表1及び表2の結果から、封口板40の平坦部41aは、そのビッカース硬度(HV)を100以上160以下の範囲に設定することが好ましい。尚、平坦部41aのビッカース硬度(HV)が170である封口板40を用いた比較例2(表1)では、ガスケット30への挿入時の不具合の発生は抑えられるものの、弁作動圧(表2)が比較的高くなる可能性がある。そのため、平坦部41aのビッカース硬度(HV)は、好ましくは100以上160以下の範囲に設定される。
【0063】
平坦部41aのビッカース硬度(HV)を100以上160以下の範囲に設定することで、ガスケット30への挿入時に封口板40が変形する不具合の発生を効果的に抑え、製造性の低下を抑えて、密閉性の高い筒形電池1を実現することができる。また、平坦部41aのビッカース硬度(HV)を100以上160以下の範囲に設定することで、弁作動性の低下を効果的に抑え、製品安全性の高い筒形電池1を実現することができる。
【0064】
続いて、外装缶10をかしめ加工により封口する際の不具合発生数を評価した結果について述べる。結果を表3に示す。
【0065】
【0066】
外装缶10の封口は、ガスケット30に挿入された封口板40が、外装缶10の開口部11に、ビーディング部13aを座にして載置され、封口板40上に端子50が載置された状態から、外装缶10の開口部11の縁部11aがかしめられることで行われる。上記
図1に示したように、外装缶10のかしめられた開口部11の縁部11a(かしめ部)と側壁部13のビーディング部13aとの間に、ガスケット30を介して端子50及び封口板40の外縁部が挟まれて固定され、開口部11が端子50、封口板40及びガスケット30で封口される。かしめ加工により、封口板40の側面部42は、端子50の外縁部の上側に折れ曲がった状態となる。
【0067】
表3において、比較例4に示す、側面部42のビッカース硬度(HV)が250といった比較的低い封口板40は、プレス加工のみでは、側面部42を成形する際の加工硬化によって硬度が高くなるため、作製することができなかった。
【0068】
表3において、実施例5では、側面部42のビッカース硬度(HV)が260である封口板40を10個準備し、それぞれを用いて外装缶10を封口する工程を実施した。実施例5では、側面部42が硬すぎて十分に折れ曲がらず密閉性の高い封口が行えないといった不具合は、10個の封口板40のいずれを用いた場合にも発生しなかった。
【0069】
表3において、実施例6では、側面部42のビッカース硬度(HV)が280である封口板40を10個準備し、それぞれを用いて外装缶10を封口する工程を実施した。実施例6でも、実施例5と同様、側面部42が十分に折れ曲がらず密閉性の高い封口が行えないといった不具合は、10個の封口板40のいずれを用いた場合にも発生しなかった。
【0070】
表3において、実施例7では、側面部42のビッカース硬度(HV)が330である封口板40を10個準備し、それぞれを用いて外装缶10を封口する工程を実施した。実施例7でも、実施例5と同様、側面部42が十分に折れ曲がらず密閉性の高い封口が行えないといった不具合は、10個の封口板40のいずれを用いた場合にも発生しなかった。
【0071】
表3において、比較例5では、側面部42のビッカース硬度(HV)が340である封口板40を10個準備し、それぞれを用いて外装缶10を封口する工程を実施した。比較例5では、側面部42が硬すぎて十分に折れ曲がらず密閉性の高い封口が行えないといった不具合が、10個中2個の封口板40で発生した。
【0072】
表3の結果から、封口板40の側面部42は、そのビッカース硬度(HV)を260以上330以下の範囲に設定することが好ましい。ビッカース硬度(HV)が260以上330以下の範囲の側面部42は、プレス加工のみで得ることができる。また、側面部42のビッカース硬度(HV)を260以上330以下の範囲とすることで、封口時の不具合の発生を効果的に抑え、製造性の低下を抑えて、密閉性の高い筒形電池1を実現することができる。
【0073】
以上説明したように、筒形電池1に用いる封口板40として、底板部41における平坦部41aのビッカース硬度(HV)が、側面部42のビッカース硬度(HV)よりも低い、封口板40を用いる。封口板40として、側面部42のビッカース硬度(HV)が、底板部41における平坦部41aのビッカース硬度(HV)よりも高い、封口板40を用いる、とも言える。ここで、平坦部41aのビッカース硬度(HV)は、100以上160以下の範囲に設定されることが好ましい。側面部42のビッカース硬度(HV)は、260以上330以下の範囲に設定されることが好ましい。これにより、筒形電池1の製造性及び製品安全性の低下を抑え、高品質の筒形電池1を得ることのできる封口板40が実現される。また、そのような封口板が用いられることで、製造性及び製品安全性の低下が抑えられ、高品質の筒形電池1が実現される。
【0074】
尚、外装缶10の開口部11を封口するためにその縁部11aがかしめられる際、封口板40の側面部42は、そのかしめられる際の加工硬化によって硬度が高くなり得る。そのため、封口前に側面部42のビッカース硬度(HV)が260以上330以下の範囲であった封口板40は、封口が行われて筒形電池1に組み込まれた状態では、その側面部42のビッカース硬度(HV)が、260(封口前の下限値)以上であり、330(封口前の上限値)を上回る場合がある。
【0075】
以上の説明では、筒形電池1として、円筒形の電池を例にしたが、筒形電池1の形状は、そのような円筒形に限定されるものではなく、角筒形であってもよい。また、以上の説明では、筒形電池1として、リチウム一次電池を例にしたが、筒形電池1は、そのようなリチウム一次電池に限定されるものではなく、リチウム二次電池、その他の各種一次電池又は二次電池であってもよい。また、以上の説明では、円筒状に成形した電極(正極層21及び負極層22)を備えた発電要素20を例にしたが、外装缶10に収容する発電要素として、板状の電極を巻回したいわゆる渦状電極体を備えたものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 筒形電池
10 外装缶
11 開口部
11a 縁部
12 底部
13 側壁部
13a ビーディング部
20 発電要素
21 正極層
22 負極層
23 セパレータ
24 負極集電体
24a リード部
30 ガスケット
31 開口部
40 封口板
41 底板部
41a 平坦部
41b 遷移部
42 側面部
50 端子
51 突起部
60 非水電解液