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特開2024-69805パルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法
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  • 特開-パルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法 図1
  • 特開-パルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069805
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】パルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20240515BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20240515BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20240515BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B23K9/12 305
B23K9/09
B23K9/073 545
B23K9/095 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180020
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】本田 怜央
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA03
4E082AB01
4E082BA04
4E082CA01
4E082DA01
4E082EC03
4E082EF16
(57)【要約】
【課題】パルスアーク溶接と短絡移行アーク溶接とを交互に切り換えて溶接するパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法において、溶接方法の切り換えを円滑に行うこと。
【解決手段】溶接ワイヤを第1送給速度で送給して時刻t1~t2のパルスアーク溶接を行う期間と、溶接ワイヤを第1送給速度よりも小さな値の第2送給速度で送給して時刻t2~t3の短絡移行アーク溶接を行う期間とを交互に切り換えて溶接するパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法において、時刻t1にパルスアーク溶接の期間が開始した時点から、時刻t1~t11のパルス初期期間中は、溶接ワイヤを第1送給速度よりも小さな値のパルス初期送給速度で送給Fwする。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを第1送給速度で送給してパルスアーク溶接を行う期間と、前記溶接ワイヤを前記第1送給速度よりも小さな値の第2送給速度で送給して短絡移行アーク溶接を行う期間とを交互に切り換えて溶接するパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法において、
前記パルスアーク溶接の期間が開始した時点からパルス初期期間中は、前記溶接ワイヤを前記第1送給速度よりも小さな値のパルス初期送給速度で送給する、
ことを特徴とするパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法。
【請求項2】
前記パルス初期送給速度は前記第2送給速度以下の値とする、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法。
【請求項3】
前記パルス初期送給速度から前記第1送給速度へとスロープを有して切り換える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスアーク溶接を行う期間と短絡移行アーク溶接を行う期間とを交互に切り換えて溶接するパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤを送給し、パルスアーク溶接を行う期間と短絡移行アーク溶接を行う期間とを交互に切り換えて溶接する方法が使用されている(例えば、特許文献1参照)。この場合の切換周波数は、0.1~10Hz程度である。この溶接方法では、ウロコ状の美麗なビードを形成することができる。さらには、この溶接方法では、パルスアーク溶接の期間と短絡移行アーク溶接の期間との比率を調整することによって、母材への入熱制御を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-93403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、パルスアーク溶接と短絡移行アーク溶接との切換時に、溶滴移行形態がスプレー移行と短絡移行とに変化するために、溶接状態が不安定になるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明では、パルスアーク溶接と短絡移行アーク溶接との切り換えを円滑に行うことができるパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを第1送給速度で送給してパルスアーク溶接を行う期間と、前記溶接ワイヤを前記第1送給速度よりも小さな値の第2送給速度で送給して短絡移行アーク溶接を行う期間とを交互に切り換えて溶接するパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法において、
前記パルスアーク溶接の期間が開始した時点からパルス初期期間中は、前記溶接ワイヤを前記第1送給速度よりも小さな値のパルス初期送給速度で送給する、
ことを特徴とするパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法である。
【0007】
請求項2の発明は、
前記パルス初期送給速度は前記第2送給速度以下の値とする、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法である。
【0008】
請求項3の発明は、
前記パルス初期送給速度から前記第1送給速度へとスロープを有して切り換える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パルスアーク溶接と短絡移行アーク溶接との切り換えを円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0013】
電源主回路MCは、3相200V等の商用交流電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御による出力制御を行い、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力する。電源主回路MCは、図示は省略するが、交流商用電源を整流する1次整流回路、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路、整流された直流を平滑するリアクトルを備えている。
【0014】
溶接ワイヤ1は、送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を通って送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接ワイヤ1と母材2との間に溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0015】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。平均電圧検出回路VADは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、平均電圧検出信号Vadを出力する。平均電圧検出信号Vadは、電圧検出信号Vdをローパスフィルタに通すことによって算出する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧検出信号Vdと後述する溶接電圧設定信号Vrとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0016】
平均電圧誤差増幅回路EVAは、後述する溶接電圧設定信号Vrと上記の平均電圧検出信号Vadとの誤差を増幅して、平均電圧誤差増幅信号Evaを出力する。パルス周期タイマ回路TFCは、上記の平均電圧誤差増幅信号Evaを入力として、平均電圧誤差増幅信号Evaを電圧/周波数変換して、パルス周期ごとに短時間Highレベルとなるパルス周期信号Tfを出力する。ピーク期間タイマ回路TPPは、上記のパルス周期信号Tfを入力として、パルス周期信号Tfが短時間Highレベルに変化するごとに予め定めたピーク期間中はHighレベルとなり、その後はLowレベルとなるピーク期間信号Tppを出力する。ピーク期間信号TppがHighレベルのときはピーク期間となり、Lowレベルのときはベース期間となる。
【0017】
パルスアーク溶接期間設定回路T1Rは、予め定めたパルスアーク溶接期間設定信号T1rを出力する。第1送給速度設定回路F1Rは、パルスアーク溶接期間中の送給速度を設定するための第1送給速度設定信号F1rを出力する。第1溶接電圧設定回路V1Rは、パルスアーク溶接期間中の溶接電圧Vwを設定するための第1溶接電圧設定信号V1rを出力する。
【0018】
短絡移行アーク溶接期間設定回路T2Rは、予め定めた短絡移行アーク溶接期間設定信号T2rを出力する。第2送給速度設定回路F2Rは、短絡移行アーク溶接期間中の送給速度を設定するための第2送給速度設定信号F2rを出力する。ここで、F2r<F1rである。第2溶接電圧設定回路V2Rは、短絡移行アーク溶接期間中の溶接電圧Vwを設定するための第2溶接電圧設定信号V2rを出力する。
【0019】
短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルとなる短絡判別信号Sdを出力する。
【0020】
タイマ回路TMは、上記のパルスアーク溶接期間設定信号T1r及び上記の短絡移行アーク溶接期間設定信号T2rを入力として、以下の処理を行い、タイマ信号Tmを出力する。
1)パルスアーク溶接期間設定信号T1rによって定まるパルスアーク溶接期間中は、タイマ信号Tm=1を出力する。
2)続いて、短絡移行アーク溶接期間設定信号T2rによって定まる短絡移行アーク溶接期間中は、タイマ信号Tm=2を出力する。
3)上記の1)及び2)の処理を繰り返す。
【0021】
パルス初期期間タイマ回路TPCは、上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tm=1(パルスアーク溶接期間)に変化した時点から予め定めたパルス初期期間中はHighレベルとなるパルス初期期間信号Tpcを出力する。
【0022】
パルス初期送給速度設定回路FPRは、予め定めたパルス初期送給速度設定信号Fprを出力する。ここで、Fpr<F1rである。また、Fpr≦F2rであっても良い。
【0023】
短絡初期期間タイマ回路TDCは、上記のタイマ信号Tm及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の1)又は2)のいずれかの処理を行い、短絡初期期間信号Tdcを出力する。
1)タイマ信号Tm=2(短絡移行アーク溶接期間)に変化した時点から予め定めた短絡初期期間中はHighレベルとなる短絡初期期間信号Tdcを出力する。
2)タイマ信号Tm=2(短絡移行アーク溶接期間)に変化した時点から、短絡判別信号Sdが最初にHighレベル(短絡期間)に変化するまでの短絡初期期間中はHighレベルとなる短絡初期期間信号Tdcを出力する。
【0024】
短絡初期送給速度設定回路FDRは、予め定めた短絡初期送給速度設定信号Fdrを出力する。ここで、Fdr>F2rである。また、Fdr<F1r、Fdr=F1r又はFdr>F1rであっても良い。
【0025】
送給速度設定回路FRは、上記の第1送給速度設定信号F1r、上記の第2送給速度設定信号F2r、上記のパルス初期送給速度設定信号Fpr、上記の短絡初期送給速度設定信号Fdr、上記のタイマ信号Tm、上記のパルス初期期間信号Tpc及び上記の短絡初期期間信号Tdcを入力として、以下の処理を行い、送給速度設定信号Frを出力する。
1)タイマ信号Tm=1(パルスアーク溶接期間)に変化すると、パルス初期送給速度設定信号Fprの値となる送給速度設定信号Frを出力する。
2)パルス初期期間信号TpcがHighレベルからLowレベルに変化してパルス初期期間が終了すると、パルス初期送給速度設定信号Fprの値からスロープを有して変化して第1送給速度設定信号F1rの値に到達するとその値を維持する送給速度設定信号Frを出力する。
3)タイマ信号Tm=2(短絡移行アーク溶接期間)に変化すると、短絡初期送給速度設定信号Fdrの値となる送給速度設定信号Frを出力する。
4)短絡初期期間信号TdcがHighレベルからLowレベルに変化して短絡初期期間が終了すると、短絡初期送給速度設定信号Fdrの値からスロープを有して変化して第2送給速度設定信号F2rの値に到達するとその値を維持する送給速度設定信号Frを出力する。
【0026】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frによって定まる送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。送給モータWMは、上記の送給制御信号Fcに従って溶接ワイヤ1を送給する。
【0027】
溶接電圧設定回路VRは、上記の第1溶接電圧設定信号V1r、上記の第2溶接電圧設定信号V2r及び上記のタイマ信号Tmを入力として、以下の処理を行い、溶接電圧設定信号Vrを出力する。
1)タイマ信号Tm=1(パルスアーク溶接期間)に変化すると、第2電圧設定信号V2rの値からスロープを有して第1電圧設定信号V1rの値へと変化する溶接電圧設定信号Vrを出力する。
2)タイマ信号Tm=2(短絡移行アーク溶接期間)に変化すると、第1電圧設定信号V1rの値からスロープを有して第2電圧設定信号V2rの値へと変化する溶接電圧設定信号Vrを出力する。
【0028】
ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。
【0029】
電流制御設定回路ICRは、上記のピーク電流設定信号Ipr、上記のベース電流設定信号Ibr及び上記のピーク期間信号Tppを入力として、ピーク期間信号TppがHighレベル(ピーク期間)のときはピーク電流設定信号Iprを電流制御設定信号Icrとして出力し、Lowレベルのときはベース電流設定信号Ibrを電流制御設定信号Icrとして出力する。
【0030】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icrと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0031】
溶接方法切換回路SMは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tm=1(パルスアーク溶接期間)のときは電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、タイマ信号Tm=2(短絡移行アーク溶接期間)のときは電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。したがって、溶接電源はパルスアーク溶接期間中は定電流制御され、短絡移行アーク溶接期間中は定電圧制御される。
【0032】
駆動回路DVは、上記の誤差増幅信号Eaに基づいてパルス幅変調制御を行い、上記の電源主回路MCのインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力する。
【0033】
図2は、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接・短絡移行アーク溶接切換制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(D)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(E)は短絡初期期間信号Tdcの時間変化を示し、同図(F)はパルス初期期間信号Tpcの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0034】
時刻t1~t2の期間が予め定めたパルスアーク溶接期間であり、時刻t2~t3の期間が予め定めた短絡移行アーク溶接期間である。時刻t1~t11の期間がパルス初期期間となる。時刻t2~t21の期間が短絡初期期間となる。パルスアーク溶接期間と短絡移行アーク溶接期間とは交互に繰り返される。パルス初期期間は、図1のパルス初期期間タイマ回路TPCによって、パルスアーク溶接期間に変化した時点から所定期間として設定される。所定期間は、アーク長が長くなり短絡が発生しなくなる50~150ms程度に設定される。短絡初期期間は、図1の短絡初期期間タイマ回路TDCによって以下の1)又は2)のいずれかの期間として設定される。同図では、2)の場合について説明する。
1)短絡移行アーク溶接期間に変化した時点から所定期間を短絡初期期間として設定する。所定期間は、短絡が最初に発生する期間である50~150ms程度に設定される。
2)短絡移行アーク溶接期間に変化した時点から、最初の短絡が発生するまでの期間を短絡初期期間として設定する。この方法では、短絡初期期間は所定値ではないが、100ms程度となる。
【0035】
(1)時刻t1~t2のパルスアーク溶接期間の動作
時刻t1においてパルスアーク溶接期間が開始すると、同図(F)に示すように、パルス初期期間信号TpcがHighレベルとなり、パルス初期期間が開始する。同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t1~t11のパルス初期期間中は、図1のパルス初期送給速度設定信号Fprの値となる。その後は、送給速度Fwは、時刻t11~t2の期間中は、パルス初期送給速度設定信号Fprの値からスロープを有して図1の第1送給速度設定信号F1rの値へと加速する。このパルスアーク溶接期間中は、同図(C)に示すように、複数のパルス周期のピーク電流とベース電流とが通電し、同図(D)に示すように、ピーク電圧とベース電圧とが印加する。パルス周期は、溶接電圧Vwの平均値が図1の第1溶接電圧設定信号V1rの値と等しくなるように制御される。ピーク電流は、例えば450Aに設定される。ベース電流は、例えば50Aに設定される。この期間中はほとんど短絡が発生しないために、同図(B)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベル(アーク期間)のままである。
【0036】
(2)時刻t2~t3の短絡移行アーク溶接期間の動作
時刻t2において短絡移行アーク溶接期間が開始すると、同図(E)に示すように、短絡初期期間信号TdcがHighレベルとなり、短絡初期期間が開始する。同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t2~t21の短絡初期期間中は、図1の短絡初期送給速度設定信号Fdrの値となる。その後は、送給速度Fwは、時刻t21~t3の期間中は、短絡初期送給速度設定信号Fdrの値からスロープを有して図1の第2送給速度設定信号F2rの値へと減速する。時刻t21において短絡移行アーク溶接期間が開始してから最初の短絡が発生したために、同図(B)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベルとなる。これに応動して、同図(E)に示すように、短絡初期期間信号TdcがLowレベルに変化して、短絡初期期間が終了する。図1の溶接電圧設定信号Vrは、図1の第2溶接電圧設定信号V2rとなる。同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、短絡期間中は増加し、アーク期間中は減少する。同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは、短絡期間中は数Vの短絡電圧値となり、アーク期間中は数十Vのアーク電圧値となる。同図(B)に示すように、短絡判別信号Sdは、短絡期間中はHighレベルとなる。溶接電圧Vwは、図1の第2溶接電圧設定信号V2rの値と等しくなるように定電圧制御される。
【0037】
上述した各パラメータの数値例を以下に示す。
溶接ワイヤ:軟鋼ソリッドワイヤ、直径1.2mm
シールドガス:20%アルゴンガス+80%炭酸ガス
パルスアーク溶接の条件:第1送給速度8m/min(溶接電流200A)、溶接電圧27V、パルス初期送給速度3m/min
短絡移行アーク溶接の条件:第2送給速度4m/min(溶接電流100A)、第2溶接電圧17V、短絡初期送給速度7m/min
パルスアーク溶接期間500ms、短絡移行アーク溶接期間500ms
パルス初期期間100ms、短絡初期期間100ms
送給速度の各スロープ期間50ns
【0038】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、パルスアーク溶接の期間が開始した時点からパルス初期期間中は、溶接ワイヤを第1送給速度よりも小さな値のパルス初期送給速度で送給する。パルスアーク溶接期間が開始した時点において、送給速度を第1送給速度に切り換えると、送給速度に比べてワイヤ溶融速度が追従できずに、短絡が多発する状態となる。このような状態となると、溶接状態が不安定になり、ビード外観が悪くなる。そこで、本実施の形態のように、パルスアーク溶接期間が開始された時点からパルス初期期間中は、送給速度を第1送給速度よりも小さな値のパルス初期送給速度に切り換えることによって、送給速度を遅くして短絡の発生を防止している。このために、本実施の形態では、短絡移行アーク溶接とパルスアーク溶接との切り換えを円滑に行うことができる。
【0039】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、パルス初期送給速度は第2送給速度以下の値とする。このようにすれば、送給速度がさらに遅くなるので、短絡の発生をより確実に防止することができる。
【0040】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、パルス初期送給速度から第1送給速度へとスロープを有して切り換える。このようにすると、パルス初期期間からの溶接状態の移行がより円滑になる。
【0041】
本実施の形態によれば、短絡移行アーク溶接の期間が開始した時点から短絡初期期間中は、溶接ワイヤを第2送給速度よりも大きな値の短絡初期送給速度で送給する。短絡移行アーク溶接期間が開始した時点において、送給速度を第2送給速度に切り換えると、短絡がなかなか発生せずにアーク発生状態が長く続く状態となる。このような状態となると、溶接状態が不安定になり、ビード外観が悪くなる。そこで、本実施の形態のように、短絡移行アーク溶接期間が開始された時点から短絡初期期間中は、送給速度を第2送給速度よりも大きな値の短絡初期送給速度に切り換えることによって、早期に短絡が発生するように促している。このために、本実施の形態では、パルスアーク溶接と短絡移行アーク溶接との切り換えを円滑に行うことができる。
【0042】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、短絡初期期間を、最初に短絡が発生するまでの期間とする。このようにすると、最初の短絡の発生をより確実に促すことができる。
【0043】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、短絡初期送給速度を、第1送給速度と同一の値とする。このようにすると、短絡初期送給速度を設定する必要がないので、送給速度のパラメータの設定が簡易となる。
【0044】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、短絡初期送給速度から第2送給速度へとスロープを有して切り換える。このようにすると、短絡初期期間からの溶接状態の移行がより円滑になる。
【符号の説明】
【0045】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
Ea 誤差増幅信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
EVA 平均電圧誤差増幅回路
Eva 平均電圧誤差増幅信号
F1R 第1送給速度設定回路
F1r 第1送給速度設定信号
F2R 第2送給速度設定回路
F2r 第2送給速度設定信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FDR 短絡初期送給速度設定回路
Fdr 短絡初期送給速度設定信号
FPR パルス初期送給速度設定回路
Fpr パルス初期送給速度設定信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
IBR ベース電流設定回路
Ibr ベース電流設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
IPR ピーク電流設定回路
Ipr ピーク電流設定信号
Iw 溶接電流
MC 電源主回路
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
SM 溶接方法切換回路
T1R パルスアーク溶接期間設定回路
T1r パルスアーク溶接期間設定信号
T2R 短絡移行アーク溶接期間設定回路
T2r 短絡移行アーク溶接期間設定信号
TDC 短絡初期期間タイマ回路
Tdc 短絡初期期間信号
TFC パルス周期タイマ回路
Tf パルス周期信号
TM タイマ回路
Tm タイマ信号
TPC パルス初期期間タイマ回路
Tpc パルス初期期間信号
TPP ピーク期間タイマ回路
Tpp ピーク期間信号
V1R 第1溶接電圧設定回路
V1r 第1溶接電圧設定信号
V2R 第2溶接電圧設定回路
V2r 第2溶接電圧設定信号
VAD 平均電圧検出回路
Vad 平均電圧検出信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
VR 溶接電圧設定回路
Vr 溶接電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WM 送給モータ
図1
図2