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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069811
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】内燃機関のバルブタイミング制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20240515BHJP
【FI】
F01L1/356 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180027
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】横澤 宙
【テーマコード(参考)】
3G018
【Fターム(参考)】
3G018AB02
3G018BA33
3G018CA18
3G018DA60
3G018DA73
3G018DA84
3G018DA85
3G018FA01
3G018FA07
3G018GA17
3G018GA18
(57)【要約】
【課題】部品点数を削減して構造を簡素化できると共に、製造コストの低減化が図れるバルブタイミング制御装置を提供する。
【解決手段】制御弁27は、ロータ14のバルブ収容孔14aに収容されるバルブボディ31と、バルブボディの内部に軸方向へ移動可能に設けられたスプール弁32と、バルブボディの固定用溝部35に取り付けられた固定クリップ36と、を有している。固定クリップ36は、バルブボディの外周に設けられた固定用溝部35に取り付けられ、各貫通孔35a、35bを介してバルブ孔31aの内部に臨んだ一対のアーム部36bがスプール弁の軸方向の一方向の最大移動を規制し、ロータに設けられた収容溝19に嵌入した一対の嵌合部36cがバルブボディをロータに固定するようになっている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムシャフトの端部にボルトによって固定されるベーンロータを有し、前記ベーンロータに作用する油圧によって機関弁の開閉時期を可変にする内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記ベーンロータのロータに設けられたバルブ収容孔に収容されるバルブボディと、
前記バルブボディの内部に軸方向へ移動可能に設けられて、移動することによって前記ベーンロータに作用する油圧を切り替えるスプール弁と、
前記バルブボディの外周に保持され、前記バルブボディを前記バルブ収容孔に取り付けるための固定部材であって、
前記バルブボディの外周に径方向に沿って設けられた固定用溝部を介して一部が前記バルブボディの内部に臨み、前記スプール弁の軸方向の一方向の最大移動を規制する第1部位と、前記バルブボディの外部に位置し、前記ロータに設けられた収容溝に挿入され前記ロータに保持される第2部位と、を有する固定部材と、
を備えたことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記固定部材は、線材によってU字形状に折曲形成されて、長手方向の一端部に有する基部と、該基部の両端から直線状に延びた一対の前記第1部位と、有し、
前記第2部位は、一対の第1部位の前記基部と反対側の両端から延びて互いに反対方向へ折曲形成されていることを特徴とすることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記固定部材は、前記一対の第1部位が前記基部を中心として開閉方向へ弾性変形可能に形成されて、前記固定用溝部に嵌着した状態で、前記基部と該基部と反対側の前記一対の第1部位の端部によって前記バルブボディに対する径方向の移動が規制されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記一対の第2部位は、各第1部位との結合箇所が互いに反対方向へ外側に向かって折り曲げられて拡開状態に形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記収容溝は、ロータの軸方向の一端面の前記バルブ収容孔の孔縁部に形成され、前記バルブボディをバルブ収容孔に挿入した際に前記固定部材の両第2部位が収容され、
前記収容溝に収容された両第2部位は、前記ボルトの頭部座面で保持されることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記固定用溝部は、一部が前記バルブボディの内部と外部を連通する一対の貫通孔として構成され、
前記一対の貫通孔は、前記バルブボディに形成されたポートから流出した流体を外部に排出する排出孔としても機能することを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記バルブボディは、周壁の外周に円筒状の小径部を有し、
前記小径部の外周面に前記固定用溝部が形成されていると共に、前記固定用溝部の一部が前記小径部の径方向に沿って平行に切欠されて前記一対の前記貫通孔が形成され、
前記固定用溝部の一対の貫通孔の間に2つの連結部が前記固定用溝部の内周壁によってそれぞれ形成され、
前記2つの連結部に、前記固定部材の基部と前記第1部位の一部が係り止めされていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項8】
請求項4に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記収容溝の対向壁面のうち少なくとも一方の壁面に、前記固定部材の第2部位の少なくとも一方の先端部が挿入係止する係止用穴が形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のバルブタイミング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載された従来のバルブタイミング制御装置は、内燃機関のカムシャフトの一端部に3本のボルトによって固定され、ハウジングの内部に相対回転可能に配置されたベーンロータと、ベーンロータのロータの内部軸心方向に有するバルブ収容孔に設けられて、ハウジングの内部に有する複数の油圧室に供給される油圧の流れを制御する制御弁と、を有している。
【0003】
制御弁は、バルブボディの軸方向の前端部に嵌合溝が形成され、この嵌合溝に嵌合したステー部材を介して前記複数のボルトのうち1本のボルトによって前記ベーンロータのバルブ収容孔内に固定されている。
【0004】
また、バルブボディの内部には、軸方向の移動位置に応じて前記油圧の流れを変えるスプール弁が設けられている。このスプール弁は、バルブボディの前端部に嵌着固定されたストッパリングによって軸方向の一方の最大移動位置が規制されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6408438号公報(図1図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来のバルブタイミング制御装置にあっては、制御弁は、バルブボディがベーンロータに対してステー部材を介してボルトによって固定され、前記スプール弁の軸方向の一方の最大移動位置がバルブボディの前端部に嵌着されたストッパリングによって規制されている。このように、バルブボディのベーンロータに対する固定手段としてのステー部材やボルトの他に、スプール弁の軸方向の一方の最大移動位置規制手段としてのストッパリングを設けていることから、全体に部品点数が多くなると共に、構造が複雑になって製造コストが高騰するおそれがある。しかも、部品点数の増加に伴って装置の組み立て作業能率が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、前記従来のバルブタイミング制御装置の技術的課題に鑑みて案出されたもので、部品点数の削減による構造の簡素化と製造コストの低減化を図り得る内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供することを一つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の好ましい態様によれば、とりわけ、カムシャフトにボルトによって固定されたベーンロータに設けられる制御弁は、前記ベーンロータのロータに設けられたバルブ収容孔に収容されるバルブボディと、前記バルブボディの内部に軸方向へ移動可能に設けられて、移動することによって前記ベーンロータに作用する油圧を切り替えるスプール弁と、前記バルブボディの外周に保持され、前記バルブボディを前記バルブ収容孔に取り付けるための固定部材であって、前記バルブボディの外周に径方向に沿って設けられた固定用溝部を介して一部が前記バルブボディの内部に臨み、前記スプール弁の軸方向の一方向の最大移動を規制する第1部位と、前記バルブボディの外部に位置し、前記ロータに設けられた収容溝に嵌入して前記ロータに保持される第2部位と、を有する固定部材と、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、部品点数を削減できることによって、構造を簡素化できると共に、製造コストの低減化が図れる。また、部品点数の削減に伴って装置の組み立て作業能率の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る内燃機関のバルブタイミング制御装置の縦断面図である。
図2】バルブタイミング制御装置の主要部品の分解斜視図である。
図3】フロントカバーを外したバルブタイミング制御装置を示し、ベーンロータが最遅角側に相対回転した状態を示す正面図である。
図4】はフロントカバーを外したバルブタイミング制御装置を示し、ベーンロータが最進角側に相対回転した状態を示す正面図である。
図5】本実施形態に供される制御弁の分解斜視図である。
図6】本実施形態に供される固定クリップを示す斜視図である。
図7】制御弁に固定クリップが取り付けられた状態を示し、(a)は制御弁の側面図、(b)は(a)のA-A線断面図、(c)は(b)のB-B線断面図である。
図8】本実施形態に供されるスプール弁が軸方向へ移動して油路を変化させた状態を示し、(a)はスプール弁が軸方向の一方側へ最大移動した状態を示す制御弁の縦断面図、(b)はスプール弁が軸方向の他方側へ最大移動した状態を示す制御弁の縦断面図である。
図9】本実施形態に供される固定クリップがバルブボディの固定用溝部に係入する状態を示す説明図である。
図10】同固定クリップが固定用溝部に嵌着した状態でバルブボディをバルブ収容孔に収容した状態を示すフロントプレート側から視た一部拡大図である。
図11】同固定クリップが固定用溝部に嵌着して両嵌合部がロータの収容溝に収容された状態でボルトによって保持された状態を示すフロントプレート側から視た装置の正面図である。
図12】本発明の第2実施形態を示すフロントプレート側から視た装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る内燃機関のバルブタイミング制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、内燃機関のバルブタイミング制御装置を排気弁側に適用したものを示しているが、吸気弁側に適用することも可能である。
【0012】
図1は本発明に係る内燃機関のバルブタイミング制御装置の縦断面図、図2はバルブタイミング制御装置の主要部品の分解斜視図、図3はフロントカバーを外したバルブタイミング制御装置を示し、ベーンロータが最遅角側に相対回転した状態を示す正面図、図4はフロントカバーを外したバルブタイミング制御装置を示し、ベーンロータが最進角側に相対回転した状態を示す正面図である。
【0013】
バルブタイミング制御装置は、図1図4に示すように、機関のクランクシャフトにより図外のタイミングチェーンを介して回転駆動される駆動回転体であるタイミングスプロケット(以下、スプロケットという。)1と、スプロケット1に対して相対回転可能に設けられた排気側のカムシャフト2と、スプロケット1とカムシャフト2との間に配置されて、該両者1,2の相対回転位相を変更する位相変更機構3と、該位相変更機構3を最遅角側の相対回転位置でロックさせるロック機構4と、位相変更機構3とロック機構4を作動させる油圧回路5と、を備えている。
【0014】
なお、駆動回転体としては、タイミングベルトによって回転力が伝達されるタイミングプーリであっても良い。
【0015】
スプロケット1は、円環板状に形成されて、外周にタイミングチェーンが巻回される歯車部1aが設けられている。また、スプロケット1は、後述するハウジング6が回転軸方向から結合されて、該ハウジング6の軸方向の一端開口を閉塞するリアカバーとしての機能も有している。また、スプロケット1は、中央位置にカムシャフト2の軸方向の一端部2aが相対回転可能に挿入される挿入孔1bが貫通形成されている共に、外周部のハウジング6側の内側面には図外の複数(本実施形態では4つ)の雌ねじ孔が周方向の等間隔位置に設けられている。
【0016】
カムシャフト2は、図外のシリンダヘッド上に複数のカム軸受を介して回転自在に支持されている。このカムシャフト2は、外周面の回転軸方向の所定位置に機関弁である図外の吸気弁をバルブスプリングのばね力に抗して開作動させる回転カムが気筒毎に設けられている。また、カムシャフト2の一端部2aの内部軸心方向には、後述するバルブボディ31の軸方向の他端部が挿入配置される収容孔2bが形成されている。また、一端部2aの内部軸方向には、収容孔2bと連続して形成されて、後述する制御弁27から排出された油圧を外部に排出する段差径状のドレン通路孔2cが形成されている。
【0017】
また、カムシャフト2は、一端部2aの収容孔2bよりも径方向外側には3つの雌ねじ孔2dが一端部2aの先端面から内部軸方向に沿って形成されている。この各雌ねじ孔2dには、後述するロータ14を結合する複数本(本実施形態では3本)のボルト12の軸部12bの外周面に形成された雄ねじ部12cが螺着するようになっている。
【0018】
ボルト12は、内部に六角溝が形成された頭部12aと、該頭部12aの一端側に一体に設けられた軸部12bと、該軸部12bの外周面に形成された雄ねじ部12cとを有している。また、頭部12aと軸部12bとの結合箇所には、フランジ状の着座部12dが一体に設けられている。
【0019】
位相変更機構3は、図1図4に示すように、スプロケット1に対して複数(本実施形態では4本)のボルト13によって軸方向から結合され、内部に作動室を有する円筒状のハウジング6と、ハウジング6の内部に該ハウジング6に対して相対回転可能に収容された従動回転体であるベーンロータ7と、ハウジング6の作動室内にベーンロータ7を介して形成された複数(本実施形態ではそれぞれ4つ)の遅角作動室9と進角作動室10と、を備えている。
【0020】
ハウジング6は、圧粉金属を焼結して成形された焼結金属によって円筒状に形成されている。また、ハウジング6の軸方向の一端側には、該一端側の開口を閉塞するフロントカバー11が設けられている。
【0021】
ハウジング6は、内周面に複数(本実施形態では4つ)のシュー8a~8dが突設されている。この各シュー8a~8dは、正面視ほぼ台形状に形成されていると共に、内部軸方向には、各ボルト13が挿入される4つのボルト挿入孔8eがそれぞれ貫通形成されている。
【0022】
フロントカバー11は、例えば鉄系金属によって円盤状に形成されて、中央に比較的大径な挿入孔11aが貫通形成されている。また、フロントカバー11は、外周部の周方向のほぼ等間隔位置に前記各ボルト13が挿入される図外の4つのボルト挿通孔が貫通形成されている。なお、各ボルト挿通孔の外側孔縁には、各ボルト13の頭部の円錐状下面が嵌合するザグリ部が形成されている。
【0023】
スプロケット1とハウジング6及びフロントカバー11は、各ボルト挿通孔や各ボルト挿入孔8eを挿入して先端部がスプロケット1の各雌ねじ孔に螺着する4本のボルト13によって回転軸方向から結合されている。
【0024】
ベーンロータ7は、ハウジング6と同じく焼結金属によって一体に形成されている。ベーンロータ7は、図1及び図3図4に示すように、中央のロータ14と、該ロータ14の外周面に円周方向のほぼ90°の等間隔位置に放射状に突設された複数(本実施形態では4つ)のベーン15a~15dと、から構成されている。
【0025】
ロータ14は、比較的大径な円柱状に形成され、中央の内部軸方向にカムシャフト2の収容孔2bと連続するバルブ収容孔14aが貫通形成されている。また、ロータ14は、回転軸方向の一端面(カムシャフト2側の後端面)にカムシャフト2の一端部2aの先端部が嵌合する円形状の嵌合溝14bが形成されている。また、ロータ14は、バルブ収容孔14aよりも径方向外側の位置に複数(本実施形態では3つ)のボルト挿入孔14cが回転軸方向に沿って貫通形成されている。この各ボルト挿入孔14cには、前記3本のボルト12の軸部12bが挿通されるようになっている。
【0026】
ロータ14は、内部にそれぞれ4本の遅角通路孔17と進角通路孔18が径方向に沿って貫通形成されている。この各遅角通路孔17と各進角通路孔18は、内側の各一端部がバルブ収容孔14a(制御弁27)に開口している一方、外側の各他端部が対応する各遅角作動室9と各進角作動室10にそれぞれ開口している。
【0027】
そして、バルブ収容孔14aの軸方向の一端部側の内周には、図2図3に示すように、収容溝19が形成されている。この収容溝19は、バルブ収容孔14aの孔縁から径方向に切り欠かれて、正面視(フロントカバー11側から視て)ほぼ矩形状に形成されている。収容溝19は、その溝深さが後述する固定クリップ36の線径よりも僅かに大きく形成されて、該固定クリップ36の各嵌合部36c、36cが収容保持されるようになっている。収容溝19は、ロータ14の3つのボルト挿入孔14cのうち、1つのボルト挿入孔14cの近傍に形成されている。この1つのボルト挿入孔14cの挿入される1本のボルト12は、雄ねじ部12cをカムシャフ2の雌ねじ孔2dに締め付けた際に、フランジ状の着座部12dの一部が収容溝19の中央部を覆う状態となるように形成されている。つまり、着座部12dは、収容溝19内に収容された固定クリップ36の各嵌合部36c、36cを軸方向外側から保持して抜け出しを規制するようになっている。
【0028】
各ベーン15a~15dは、その径方向の突出長さが比較的短く形成されて、それぞれが各シュー8a~8dの間に配置されている。また、1つの第1ベーン15a以外の3つのベーン15b~15dは、円周方向の巾がほぼ同一に設定されて比較的薄肉に形成されている。第1ベーン15aは、周方向の幅が大きく形成されて内部にロック機構4の一部が設けられている。
【0029】
各ベーン15a~15dの外周面にそれぞれ形成されたシール溝には、ハウジング6の内周面との間をシールするシール部材16がそれぞれ設けられている。また、ハウジング6の各シュー8a~8dの対向する各先端面8fは、ロータ14の外周面に倣って円弧状に形成されて、ロータ14の外周面との間を摺接しながらメタルシールするようになっている。
【0030】
また、ベーンロータ7は、遅角側へ最大に相対回転すると、第1ベーン15aの一側面が対向する一方のシュー8aの対向側面に当接する。これによって、ベーンロータ7は、最大遅角側の回転位置が機械的に規制されるようになっている(図3参照)。また、ベーンロータ7は、進角側へ最大に相対回転すると、第1ベーン15aの他側面が対向する他方のシュー8bの対向側面に当接する。これによって、ベーンロータ7は、最大進角側の回転位置が機械的に規制されるようになっている(図4参照)。
【0031】
各ベーン15a~15dの正逆回転方向の両側面と各シュー8a~8dの両側面との間には、前述した各遅角作動室9と各進角作動室10が設けられている。各遅角作動室9と各進角作動室10には、ロータ14の内部に径方向に向かって形成された前記遅角通路孔17と進角通路孔18の各他端部がそれぞれ開口形成されている。
【0032】
各遅角通路孔17と各進角通路孔18は、それぞれ断面形状が円形状に形成されていると共に、後述する制御弁27のそれぞれ4つの遅角ポート37及び進角ポート38を介して油圧回路5にそれぞれに連通している。
【0033】
ロック機構4は、周知の構造であるから具体的な説明は省略するが、機関の停止時などにおいてハウジング6に対してベーンロータ7を最遅角側の回転位置に保持するものである。
【0034】
油圧回路5は、図1に示すように、カムシャフト2の軸受ジャーナル部やカムシャフト2の内部軸方向に形成された供給通路25と、該供給通路25の上流側に設けられて、吐出通路26aを介して供給通路25に作動油圧を吐出するオイルポンプ26と、ロータ14の内部軸方向に設けられて、機関運転状態に応じて各遅角通路孔17と各進角通路孔18の流路を切り換える制御弁27と、該制御弁27の流路の切り換えによって、各遅角、進角作動室9、10のいずれか一方の作動油圧をオイルパン28に排出する排出通路29と、ロータ14の内部に設けられて、オイルポンプ26から供給通路25に供給された油圧を制御弁27方向にのみ許容する逆止弁30と、を備えている。
【0035】
供給通路25は、上流部がオイルポンプ26の吐出通路26aと連通している一方、下流部がロータ14内の設けられた後述する凹部14dに逆止弁30を介して連通している。
【0036】
オイルポンプ26は、一般的な例えばベーンタイプあるいはトロコイドタイプのものが用いられている。
【0037】
図5は本実施形態に供される制御弁の制御弁の分解斜視図、図6は本実施形態に供される固定クリップを示す斜視図、図7は制御弁に固定クリップが取り付けられた状態を示し、(a)は制御弁の側面図、(b)は(a)のA-A線断面図、(c)は(b)のB-B線断面図である。
【0038】
制御弁27は、図1図2及び図5に示すように、ロータ14のバルブ収容孔14aに収容された円筒状のバルブボディ31と、該バルブボディ31の内部軸方向に貫通形成されたバルブ孔31a内に摺動可能に設けられたスプール弁32と、該スプール弁32を図1の左方向へ付勢するバルブスプリング33と、スプール弁32をバルブスプリング33のばね力に抗して図1中、右方向へ押し出す電磁アクチュエータ34と、から主として構成されている。
【0039】
バルブボディ31は、例えば鉄系金属材によって内部中空状の円筒状に形成されて、内部軸方向にバルブ孔31aが貫通形成されている。バルブボディ31は、図5及び図7(a)~(c)に示すように、電磁アクチュエータ34側の軸方向の一端部に有する小径部31bの外周に円環状の固定用溝部35が形成されている。
この固定用溝部35は、両側部が径方向(上下方向)に沿って切り欠かれ、この切り欠きによってバルブ孔31aの内部に開口したスリット状の貫通孔35a、35bが形成されている。この両貫通孔35a、35bは、径方向(上下方向)に沿って平行に形成されており、これらを介して後述する固定クリップ36の一対のアーム部36b、36bの一部がバルブ孔31a内に臨むように貫通形成されている。また、固定用溝部35は、両貫通孔35a、35bの長手方向の上下端部の位置に小径部31bの周壁の残余部で形成された一対の連結部35c、35dを有している。この両連結部35c、35dは、図7(b)で示すように、図中の上下位置に所定肉厚の断面円弧状に形成されている。なお、一対の貫通孔35a、35bは、前記遅角ポート37から流下した作動油を後述する第1ドレン孔41aに導く排出孔としても機能する。
【0040】
バルブボディ31は、固定用溝部35に嵌着した後述の固定クリップ36によってバルブ収容孔14aの内部に着脱可能に取り付けられる。
【0041】
バルブボディ31は、軸方向の一端部(小径部31b)寄りの位置に遅角ポート37が周壁の径方向へ貫通形成されていると共に、この遅角ポート37の内側開口端に円環状の第1グルーブ溝37aが形成されている。また、軸方向の他端部寄りの位置には、進角ポート38が周壁の径方向へ貫通形成されていると共に、この進角ポート38の内側開口端に円環状の第2グルーブ溝38aが形成されている。
【0042】
遅角ポート37と進角ポート38との間、つまり第1グルーブ溝37aと第2グルーブ溝38aの間には、逆止弁30を通った流体である作動油を、スプール弁32を介して遅角ポート37あるいは進角ポート38に導入する導入ポート39が形成されている。この導入ポート39は、バルブボディ31の周壁を径方向に沿って貫通形成されて、後述する径方向孔に連通している。
また、導入ポート39の外側開口端に、円環状の保持溝39aが形成されており、この保持溝39aには、図5及び図7(a)(c)に示すように、円筒状の濾過フィルタ40が装着されている。この濾過フィルタ40は、逆止弁30を介して後述する径方向孔47から導入ポート39へ導入される作動油内のコンタミなどを捕集するようになっている。
【0043】
バルブボディ31の小径部31bの内部には、スプール弁32の移動位置に応じて前記第1グルーブ溝37aと適宜連通する第1ドレン孔41aが形成されている。この第1ドレン孔41aは、排出通路29を介してオイルパン28の内部と連通している。
【0044】
バルブボディ31の他端部に有する円盤状の端壁の中央には、スプール弁32を介して第2グルーブ溝と適宜連通する第2ドレン孔41bが貫通形成されている、この第2ドレン孔41bは、カムシャフト2のドレン通路孔2cと排出通路29を介してオイルパン28の内部に連通している。
【0045】
各遅角ポート37と各進角ポート38は、図1に示すように、それぞれの内側開口が第1、第2グルーブ溝37a、38aを介してバルブ孔31a(スプール弁32)に臨み、外側開口が各進角通路孔18と各遅角通路孔17に径方向から連通している。
【0046】
固定クリップ36は、図5図7に示すように、鉄系金属線材をほぼU字形状に折り曲げて形成されており、長手方向の一端部側の基部36aと、該基部36aの両端縁から平行に伸びた一対の第1部位であるアーム部36b、36bと、該一対のアーム部36b、36bの先端側に有し、前記ロータ14の収容溝19にバルブボディ31の軸方向から嵌入してロータ14に保持される一対の第2部位である嵌合部36c、36cと、を有している。
【0047】
基部36aは、固定用溝部35の図7(b)中、下側の連結部35dの外周に沿ったほぼ円弧状に形成されて、固定クリップ36が自身の弾性力によって固定用溝部35の内部に嵌着した状態では、該連結部35dの下面に当接配置される。
【0048】
各アーム部36b、36bは、固定クリップ36が弾性力によって固定用溝部35の内部に嵌着した状態では、各下端部36d、36dが前記下側の第1連結部35dの両側面を挟みこむように配置されていると共に、各上端部36e、36eが上側の第2連結部35cの両側面を挟み込むように配置されている。また、アーム部36b、36bは、長手方向の各中央部が固定用溝部35の前記各貫通孔35a、35bに配置されてバルブ孔31aの内部に臨んでいる。つまり、各アーム部36b、36bは、各中央部がバルブ孔31aのほぼ接線方向に沿って該バルブ孔31aの内部に配置されている。
【0049】
各嵌合部36c、36cは、図6及び図7(b)に示すように、各アーム部36b、36bの先端部から互いに反対方向へほぼ逆L字形状に折り曲げられて、バルブボディ31がロータ14のバルブ収容孔14aの内部に収容された状態では、各先端縁36d、36dが前記収容溝19の対向壁面19a、19bに近接配置されて、無用な開き方向の変形が前記対向壁面19a、19bで規制されている。
【0050】
したがって、固定クリップ36は、バルブボディ31の固定用溝部35の外周に弾性的に嵌着した状態で軸方向へ抜け止めされていると共に、各嵌合部36c、36cが収容溝19に収容保持された後に、前述したロータ14をカムシャフト2に固定する3本のボルト12中、1本のボルト12の着座部12dによって保持されて収容溝19からの抜け出しと径方向の移動が規制されるようになっている。
【0051】
固定クリップ36の固定用溝部35に対する取り付ける方法などについては、後述する図9に基づいて具体的に説明する。
【0052】
スプール弁32は、図1図5及び図7(c)に示すように、円柱状に形成された本体の外周に互いに軸方向に離れて配置された第1ランド部32a及び第2ランド部32bが形成されていると共に、該第1、第2ランド部32a、32b間にバルブボディ31の導入ポート39と連通する筒状通路溝32cが形成されている。また、本体の軸方向のカムシャフト2側の一端部には、第2ランド部32bと軸方向に離れて配置された円筒状のガイド部32dが設けられている。このガイド部32dは、バルブ孔31aの内周面にスプール弁32を摺動案内するものであり、外径は第1、第2ランド部32a、32bの外径と同一に設定されている。
【0053】
また、第2ランド部32bとガイド部32dとの間には、進角ポート38の第2グルーブ溝38aとガイド部32dの内部に形成されたドレン通路32eに適宜連通する複数(本実施形態では4つ)のドレン孔32fが径方向に沿って貫通形成されている。前記ドレン通路32eは、バルブボディ31の第2ドレン孔41bを介して排出通路29に連通している。
【0054】
また、スプール弁32は、本体の軸方向の他端面32g、つまり、第1ランド部32aの外端面の中央には、電磁アクチュエータ34の後述するプッシュロッド59に軸方向から当接する軸部32hが一体に設けられている。
【0055】
バルブスプリング33は、バルブボディ31の他端部の内周段差部とスプール弁32のガイド部32dの内端縁との間に配置されて、スプール弁32を図1中、左方向へ付勢している。このとき、スプール弁32は、図1及び図7(c)に示すように、他端面32gが前記固定クリップ36の両アーム部36b、36bに軸方向から当接して最大左方向の移動位置が規制されるようになっている。
【0056】
逆止弁30は、図1に示すように、ロータ14のカムシャフト2側の一端面から内部軸方向に沿って形成された凹部14d内に設けられており、凹部14d内を軸方向に沿って摺動可能な弁体42と、凹部14dの開口端に固定されて、前記弁体42が離着座可能な円環状のバルブシート43と、弁体42をバルブシート43の着座方向へ付勢するチェックスプリング44と、を有している。
【0057】
また、ロータ14のバルブ収容孔14aの内周面には、凹部14dとバルブボディ31の導入ポート39とを連通する径方向孔47が設けられている。
【0058】
電磁アクチュエータ34は、図1及び図2に示すように、合成樹脂材のケーシング51と、該ケーシング51の内部に磁性材のボビン52を介して収容された環状のコイル53と、該コイル53の外周を取り囲むように配置された磁性材の筒状部材54と、ボビン52の内周側に配置固定された磁性材の固定鉄心55と、を備えている。
【0059】
また、電磁アクチュエータ34は、固定鉄心55の内周面に当接配置された非磁性材のスリーブ57と、該スリーブ57の内部に軸方向へ摺動可能に有する円柱状の可動鉄心58と、該可動鉄心58の先端部に有するプッシュロッド59と、固定鉄心55の前端側に固定された磁性材である保持プレート60と、を備えている。
【0060】
ケーシング51は、図外の筒状部と、該筒状部の後端部に一体に有し、電子コントロールユニットであるECUに電気的に接続されるコネクタ部56を備えている。このコネクタ部56は、ほぼ全体がケーシング51内に埋設された一対の端子片の各一端部がコイル53に接続されている。一方、外部に露出した各他端部は、ECU側の雄コネクタの端子に接続されている。
【0061】
プッシュロッド59は、円柱軸状に形成されて、軸方向の先端部の先端面に鋼球状の押圧部がインサート成形されている。この押圧部は、スプール弁32の軸部32hの先端面32iに軸方向から当接している。また、このプッシュロッド59は、後端部から先端部の内部軸心方向に図外の空気抜き孔が貫通形成されている。
【0062】
保持プレート60は、円盤状に形成されて、内周部に可動鉄心58の方向へ凹んだ円環凹部を有している。この円環凹部の中央には、プッシュロッド59の先端部が摺動可能に挿入される挿入孔が貫通形成されている。
【0063】
コイル53は、ECUからの通電により励磁され、この励磁力によって可動鉄心58とプッシュロッド59を、図1の右方向へ移動させる。これによって、プッシュロッド59は、スプール弁32をバルブスプリング33のばね力に抗して右方向へ移動させるようになっている。コイル53への通電量は、ECUからのパルス電流によって可変制御されている
なお、スプール弁32は、コイル53への非通電によってバルブスプリング33のばね力で図1に示す最大左方向位置に移動制御される。また、スプール弁32は、コイル53への通電中における通電量に応じて、図1中、右方向の最大右方向位置に移動制御される。スプール弁32は、コイル53への通電量を制御することによって軸方向の中間移動位置に保持することも可能である。
【0064】
この中間移動位置では、第1、第2ランド部32a、32bが、各遅角ポート37と各進角ポート38を開いた状態にする。
【0065】
ECUは、内部のコンピュータが図外のクランク角センサ(機関回転数検出)やエアーフローメータ、機関水温センサ、機関温度センサ、スロットルバルブ開度センサおよびカムシャフト2の現在の回転位相を検出するカム角センサなどの各種センサ類からの情報信号を入力して現在の機関運転状態を検出している。
【0066】
また、ECUは、前述のように、電磁アクチュエータ34のコイル53への通電を遮断してスプール弁32を図1の最大右方向の移動位置に制御する。あるいは、コイル53に対してパルス電流を出力して通電量(デューティ比)を制御して、最大左側の位置から中間移動位置、最大右方向の移動位置となるように連続的に可変制御するようになっている。
〔本実施形態のバルブタイミング制御装置の作用〕
以下、本実施形態に供されるバルブタイミング制御装置の作用を簡単に説明する。
【0067】
図8は本実施形態に供されるスプール弁が軸方向へ移動して油路を変化させた状態を示し、(a)はスプール弁が軸方向の一方側へ最大に移動して固定クリップで位置規制された状態を示す制御弁の縦断面図、(b)はスプール弁が軸方向の他方側へ最大移動した状態を示す制御弁の縦断面図である。
【0068】
機関停止状態になると、オイルポンプ26も停止されて吐出通路26aから作動油圧が供給されないと共に、ECUからコイル53への通電もなく非通電状態となる。したがって、スプール弁32は、図1及び図8(a)に示すように、バルブスプリング33のばね力で左方向に付勢されていると共に、他端面32gが固定クリップ36の両アーム部36b、36bに当接して最大左側の移動位置に保持されている。このとき、逆止弁30は、弁体42がチェックスプリング44のばね力によってバルブシート43に着座して通路孔43aを閉じている。
【0069】
次に、機関が始動されると、オイルポンプ26も駆動して吐出通路26aから供給通路25に作動油圧を圧送する。この始動初期の作動油圧が通路孔43aを介して弁体42の頭部に作用する。このため、弁体42は、チェックスプリング44のばね力に抗して後退移動して、バルブシート43から離間しつつ通路孔43aを開く。このとき、弁体42は、油圧によって最大に後退移動して作動油の十分な流量を確保する。
【0070】
このため、吐出通路26aから供給通路25内に流入した作動油は、弁体42の外周側から凹部14dに流入し、ここから径方向孔47を通って導入ポート39に流入し、さらにスプール弁32の筒状通路溝32cを通って第1グルーブ溝37aと各遅角ポート37に流入し、ここから各遅角通路孔17を介して各遅角作動室9に供給されて内部圧力が上昇する。
【0071】
同時に、スプール弁32は、各進角ポート38と第2グルーブ溝38a及びドレン孔32fを連通させる。このため、各進角作動室10の作動油は、各進角通路孔18などを通って各進角ポート38などを通ってバルブボディ31の第2ドレン孔41bを通ってドレン通路孔2cから排出通路29を介してオイルパン28内に排出される。
【0072】
したがって、ベーンロータ7は、図3に示す最遅角の相対回転位置に維持されていることから、吸気弁のバルブタイミングが遅角側に制御された状態になる。これによって、機関の始動性が良好になる。
【0073】
この時点ではロック機構4によってベーンロータ7がロックされている。したがって、カムシャフト2に発生する交番トルクによるベーンロータ7のばたつきなどを抑制できる。
【0074】
次に、機関運転状態の変化に伴って、ECUからコイル53への通電量が大きくなると、可動鉄心58がプッシュロッド59を図1中、最大右方向へ移動させる。これにより、スプール弁32は、図8(b)に示すように、バルブスプリング33のばね力に抗して最大右方向へ移動する。
【0075】
この状態では、スプール弁32は、第2ランド部32bが第2グルーブ溝38aを介して進角ポート38と筒状通路溝32cと連通させる。同時に、第1ランド部32aが、各遅角ポート37と第1ドレン孔41aとを連通させる。
【0076】
このため、逆止弁30の開かれた弁体42から径方向孔47を通った作動油は、筒状通路溝32cと進角ポート38を通って、各進角通路孔18から各進角作動室10内に供給される。一方、各遅角作動室9内の作動油は、各遅角通路孔17から各遅角ポート37、第1グルーブ溝37aを通って第1ドレン孔41aの内部に流入する。ここに流入した作動油は、排出通路29を介してオイルパン28内に排出される。したがって、各進角作動室10の内圧が上昇すると共に、各遅角作動室9の内圧が低下する。
【0077】
また、進角作動室10に供給された作動油は、ロック機構4のロック状態を解除する。これによって、ベーンロータ7は、回転規制が解除されてフリーな状態になる。
【0078】
したがって、ベーンロータ7は、図4に示すように、各進角作動室10の油圧の上昇に伴い他方向へ回転して最大進角側へ相対回転する。これによって、吸気弁は、開閉タイミングが最進角位相特性になって吸気弁とのバルブオーバーラップが大きくなり、吸気充填効率が高くなって機関の出力トルクの向上が図れる。
〔ロータに対する制御弁の取り付け方法〕
以下、制御弁27(バルブボディ31)を、ロータ14のバルブ収容孔14a内に固定クリップ36によって取り付ける方法について説明する。なお、バルブボディ31のバルブ孔31a内には予めスプール弁32が収容配置されている。
【0079】
図9は本実施形態の供される固定クリップをバルブボディの固定用溝部に係入する状態を示す説明図、図10は同固定クリップが固定用溝部に嵌着した状態でバルブボディをバルブ収容孔に収容した状態を示すフロントプレート側から視た一部拡大図、図11は同固定クリップが固定用溝部に嵌着して両嵌合部がロータの収容溝に収容された状態でボルトによって保持された状態を示すフロントプレート側から視た装置の正面図である。
【0080】
まず、予め固定クリップ36を、バルブボディ31に取り付けるには、固定クリップ36の両アーム部36b、36bの上端部36e、36eを、固定用溝部35の第1連結部35dの両端縁にあてがいつつ固定クリップ36を弾性力に抗して図9の矢印方向へ下から押し上げる。そうすると、固定クリップ36は、基部36aを中心として拡径方向に開いた状態となり、さらにそのまま押し上げると、自身の弾性復帰力で図7(c)に示すように、各アーム部36b、36bの下端部36d、36dと上端部36e、36eが下側の連結部35dと上側の連結部35eの各両端面をそれぞれ挟み込むように圧接する。同時に、各嵌合部36c、36cの内方へ折り曲げられた下端部が、上側の連結部35eの両側上縁に弾性的に係止する。これによって、固定クリップ36は、弾性力で固定用溝部35に固定されると共に、両アーム部36b、36bが両貫通孔35a、35bを介してバルブ孔31a内に配置される。このとき、固定クリップ36の両嵌合部36c、36cは、固定用溝部35から上方へ突出した状態になる。なお、このとき、スプール弁32は、バルブスプリング33のばね力に抗して最大右方向(最大奥)まで押し込まれており、固定クリップ36が固定用溝部35に取り付けられた後は押し込みが解除される。
【0081】
次に、この状態から、図10に示すように、バルブボディ31を、他端部側からバルブ収容孔14aに挿入するが、このとき、固定クリップ36の両嵌合部36c、36cをロータ14の収容溝19に位置合わせを行いつつ該収容溝19内に軸方向から収容配置する。
その後、図11に示すように、ハウジング6内に収容されたロータ14をカムシャフト2の一端部2aに位置決めしつつ3本のボルト12をカムシャフト2の各雌ねじ孔2dに螺着しつつ締め付ければ、ロータ14がカムシャフト2に軸方向から固定される。
【0082】
このとき、1本のボルト12は、対応するスプロケット1の雌ねじ孔にねじ込むと頭部12aのフランジ状の着座部12dが収容溝19の一部を覆う形で該収容溝19内の各嵌合部36c、36cを跨いで保持する。
【0083】
このため、バルブボディ31を、ロータ14のバルブ収容孔14aに固定クリップ36によって安定かつ確実に固定することが可能になる。つまり、固定クリップ36は、バルブボディ31をロータ14に固定する機能を有している。
【0084】
また、固定クリップ36は、前述のように、固定用溝部35に取り付けた状態では両アーム部36b、36bが各貫通孔35a、35bを介してバルブ孔31a内に臨み、スプール弁32の最大一方向(図1の左方向)の移動位置を規制するストッパとしても機能する。
【0085】
したがって、本実施形態によれば、固定クリップ36は、バルブボディ31をロータ14のバルブ収容孔14aに取り付け固定する機能と、スプール弁32の一方向の最大移動位置を規制するストッパ機能の少なくとも2つの機能を有している。
【0086】
このため、本実施形態では、前記公報記載の従来技術のようなバルブボディをロータに固定するためのステーや、スプール弁の最大移動位置を規制するためのスナップリングなどの別部材を設ける場合に比較して、部品点数の削減が図れると共に、全体の構造が簡素化される。このため、製造作業能率の向上が図れると共に、コストの低減化が図れる。
【0087】
また、固定クリップ36が、固定機能とストッパ機能を有することから、これらの機能を有する部材を別々に設ける場合に比べて装置の組み立て作業も容易になる。
【0088】
固定クリップ36を、金属線材によって単純なU字形状としたことから、製造が容易であると共に、低コスト化が図れる。
【0089】
また、固定クリップ36は、基部36aを中心として各アーム部36b、36b側を弾性力に抗して開きながらバルブボディ31の固定用溝部35に弾性復帰力で嵌着させると、基部36aと一対の嵌合部36c、36cが固定用溝部の各連結部35c、35dに係止した状態になることから、固定クリップ36の径方向の移動、つまり、固定用溝部35からの不用意な抜け出しが規制される。
また、固定用溝部35の2つの連結部35c、35dは、小径部31dの壁部によって形成されていることから、この各連結部35c、35cに係止される基部36aとアーム部36b、36bの上端部36e、36eはバルブボディ31の小径部31b以外の外周面から外部へ突出することがない。換言すれば、基部36aやアーム部36b、36bの上端部36e、36eは、小径部31bの内部に収容された形で配置されることから、バルブボディ31の外周面から突出することがない。この結果、バルブボディ31が挿入保持されるロータ14のバルブ収容孔14aの内径を拡径化する必要がない。
〔第2実施形態〕
図12は本発明の第2実施形態を示し、基本構成は第1実施形態と同じであるが、異なるところは、前記ロータの収容溝19の対向壁面19a、19bに、固定クリップ36の嵌合部36c、36cの各先端部が係入する一対の係止用穴19c、19dが設けられている。
【0090】
各係止用穴19c、19dは、内径が各嵌合部36c,36cの各先端部の外径よりも僅かに大きく形成されて、該各先端部が収容溝19の内部から係入可能になっている。
【0091】
そして、固定クリップ36がバルブボディ31の固定用溝部35に固定した状態で該バルブボディ31をロータ14のバルブ収容孔14aに挿入する際に、例えば、ペンチ状の治具を用いて前記両嵌合部36c、36cを弾性反力に抗して挟み込んで互いに近接させつつ収容溝19内に収容する。その後、両嵌合部36c、36cの各先端部を各係止用穴19c、19dに位置決めしつつ治具による挟持力を解放する。これによって、各嵌合部36c、36cの各先端部が、各係止用穴19c、19dに収容溝19の横方向から係入して係止固定される。
【0092】
したがって、バルブボディ31は、ボルト12を用いずとも固定クリップ36のみによってバルブ収容孔14aからの軸方向の移動と周方向の回転が規制されて、ロータ14に対する安定かつ確実な固定状態が得られる。
【0093】
また、バルブボディ31は、ボルト12を用いずに固定クリップ36のみでロータ14に固定されることから、バルブボディ31などの組み立て搬送時にロータ14に固定クリップ36によって予め固定した状態で搬送することができるので、別々に搬送する場合に比較して搬送作業が容易になる。
【0094】
また、前述した収容溝19の係止用穴19c、19dは、対向壁面19a、19bのいずれか一方に形成することも可能である。
【0095】
本発明は、前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、固定クリップ36の形状をさらに変更することも可能であり、各アーム部36b、36bを軸方向の中央部を互いに近づけるように湾曲状に形成することも可能である。
さらに、固定クリップ36の各嵌合部36c、36cの形状を変更すると共に、収容溝19の対向壁面19a、19bに凹溝を形成して、この各凹溝に各嵌合部36c、36cを弾性的に係合させることも可能である。
【符号の説明】
【0096】
1…タイミングスプロケット(駆動回転体)、2…カムシャフト、2a…一端部、2b…雌ねじ孔、3…位相変更機構、5…油圧回路、6…ハウジング、7…ベーンロータ、9…遅角作動室、10…進角作動室、14…ロータ、14a…バルブ収容孔、15a~15d…ベーン、17…遅角通路孔、18…進角通路孔、26…オイルポンプ、19…収容溝、19a・19b…両側壁面、27…制御弁、31…バルブボディ、32…スプール弁、35…固定用溝部、35a・35b…貫通孔、35c・35d…連結部、36…固定クリップ(固定部材)、36a…基部、36b・36b…アーム部(第1部位)、36c・36c…嵌合部(第2部位)、36d・36d…アーム部の下端部、36e・36e…アーム部の上端部、37…遅角ポート、38…進角ポート、39…導入ポート。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12