(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069850
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】入浴装置
(51)【国際特許分類】
A61H 33/00 20060101AFI20240515BHJP
A47K 3/022 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
A61H33/00 310G
A61H33/00 310K
A47K3/022
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180098
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000103471
【氏名又は名称】オージー技研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池上 省吾
【テーマコード(参考)】
4C094
【Fターム(参考)】
4C094AA01
4C094BB04
4C094CC02
4C094CC08
4C094DD14
4C094GG02
(57)【要約】
【課題】入浴介助作業における介助者の手間を軽減でき、浴槽の設置スペースの増大を抑制することが可能な入浴装置を提供する。
【解決手段】扉部4で開閉する開口部が側面に設けられた浴槽3と、入浴者の乗る乗部6が台車部5上に分離連結可能に設けられた搬送車と、を備え、入浴者の横方向に搬送車を移動して前記側面から浴槽3に進入することで、台車部5が浴槽3の下方に収納され、乗部6が前記開口部を通して浴槽3内に挿入されるよう構成され、扉部4は浴槽3の下方に収納可能である。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
扉部で開閉する開口部が側面に設けられた浴槽と、
入浴者の乗る乗部が台車部上に分離連結可能に設けられた搬送車と、を備え、
前記入浴者の横方向に前記搬送車を移動して前記側面から前記浴槽に進入することで、前記台車部が前記浴槽の下方に収納され、前記乗部が前記開口部を通して前記浴槽内に挿入されるよう構成され、
前記扉部は前記浴槽の下方に収納可能である、
ことを特徴とする入浴装置。
【請求項2】
前記扉部は、前記浴槽の底部と、前記浴槽の下方に収納された前記台車部との間の空間に収納可能である、ことを特徴とする請求項1に記載の入浴装置。
【請求項3】
前記扉部は平板形状である、ことを特徴とする請求項1に記載の入浴装置。
【請求項4】
前記扉部は手動で開閉する、ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の入浴装置。
【請求項5】
前記扉部の開閉操作を補助するための補助手段を設けた、ことを特徴とする請求項4に記載の入浴装置。
【請求項6】
前記補助手段は、前記扉部の下方部位に設けた重りである、ことを特徴とする請求項5に記載の入浴装置。
【請求項7】
前記扉部を開閉する際に掴む把持部を前記扉部に設けた、ことを特徴とする請求項4に記載の入浴装置。
【請求項8】
水平面内において前記横方向に直交する方向を縦方向とするとき、前記浴槽の下方に収納された前記台車部の前記縦方向における中心位置に対して対称ないし略対称となるように前記把持部を設けた、ことを特徴とする請求項7に記載の入浴装置。
【請求項9】
前記浴槽には前記開口部側から視認可能なマークが設けられ、
前記乗部はサイドフェンスを備え、前記乗部が前記浴槽内に挿入された状態を横方向から見たとき、前記マークと同一の鉛直線上にほぼ位置する別のマークが前記サイドフェンスに設けられた、ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の入浴装置。
【請求項10】
前記乗部は、前記浴槽に挿入されるときに取り得る複数の形態を有し、複数のそれぞれの前記形態に対応する前記別のマークが前記サイドフェンスに複数設けられた、ことを特徴とする請求項9に記載の入浴装置。
【請求項11】
前記搬送車として、前記台車部が昇降可能なタイプと、前記台車部の上下方向の位置が固定されたタイプとを使用可能である、ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の入浴装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入浴者を搬送する搬送車と浴槽とを備えた入浴装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、浴槽の側壁に扉で開閉される開口部が設けられ、扉は蝶番により浴槽に取付けられた入浴装置が記載されている。扉が開いた状態の浴槽の側壁に車椅子の台車を連結し、台車上の座部を台車から分離し、横方向に座部を移動して開口部から浴槽内に入れるようになっている。特許文献2には、浴槽の開口部から浴槽内へ搬送車を入浴者の足側から進入すると、台車と座部が分離し、台車は浴槽の下方に位置し、座部が浴槽内に位置する入浴装置が記載されている。浴槽には開口部を開閉する扉が設けられ、扉は蝶番により浴槽に取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6674292号公報
【特許文献2】特許第5493187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の入浴装置では、座部を浴槽内に移動させた後、扉を閉める際には、台車を邪魔にならない位置まで移動させる必要があり、介助者にとって手間であった。また、特許文献2に記載の入浴装置において、浴槽の側壁に蝶番で連結された扉で開閉される開口部を設け、横方向に座部を移動して開口部から浴槽内に入れようとする場合、扉の幅が大きくなり扉を開いた際に浴槽の側壁から扉が大きく突出するため、扉の手前に大きな空間が必要になる。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、入浴介助作業における介助者の手間を軽減でき、浴槽の設置スペースの増大を抑制することが可能な入浴装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために以下の手段を提供する。
【0007】
本発明の入浴装置は、扉部で開閉する開口部が側面に設けられた浴槽と、入浴者の乗る乗部が台車部上に分離連結可能に設けられた搬送車と、を備え、前記入浴者の横方向に前記搬送車を移動して前記側面から前記浴槽に進入することで、前記台車部が前記浴槽の下方に収納され、前記乗部が前記開口部を通して前記浴槽内に挿入されるよう構成され、前記扉部は前記浴槽の下方に収納可能である、ことを特徴とする。これによれば、搬送車の台車部が入浴介助作業の妨げにならない。扉部の開閉時に台車部を浴槽から離れた位置に移動させる必要性がなく、介助者の手間が軽減される。また、浴室内に浴槽を配置する際に、扉部の手前に扉部の幅に相当する空間を確保する必要がない。
【0008】
本発明の入浴装置において、好ましい実施態様では、前記扉部は、前記浴槽の底部と、前記浴槽の下方に収納された前記台車部との間の空間に収納可能である。これによれば、扉部の幅を小さくするよう扉部を折りたたむような構造(例えば折れ戸のような扉部が2枚に折れて開く構造)にする必要はなく、扉部をそのままの形状で浴槽の下方に収納することができる。
【0009】
本発明の入浴装置において、好ましい実施態様では、前記扉部は平板形状である。これによれば、扉を収納する浴槽の下方空間において、扉の厚み方向に必要な空間の長さを小さくすることができる。
【0010】
本発明の入浴装置において、好ましい実施態様では、前記扉部は手動で開閉する。これによれば、扉部を移動させる駆動源が不要なので、コストダウンができる。
【0011】
本発明の入浴装置において、好ましい実施態様では、前記扉部の開閉操作を補助するための補助手段を設けた。これによれば、補助手段がない場合に比べて小さい力で扉部の開閉操作を行うことができ、扉部の開閉操作が容易になる。
【0012】
本発明の入浴装置において、好ましい実施態様では、前記補助手段は、前記扉部の下方部位に設けた重りである。これによれば、補助手段を簡易な構成で実現できる。
【0013】
本発明の入浴装置において、好ましい実施態様では、前記扉部を開閉する際に掴む把持部を前記扉部に設けた。これによれば、扉部の開閉操作が容易になる。
【0014】
本発明の入浴装置において、好ましい実施態様では、水平面内において前記横方向に直交する方向を縦方向とするとき、前記浴槽の下方に収納された前記台車部の前記縦方向における中心位置に対して対称ないし略対称となるように前記把持部を設けた。これによれば、搬送車を横方向に移動して浴槽に進入させる際に、把持部を搬送車の進入位置の目安にすることができる。
【0015】
本発明の入浴装置において、好ましい実施態様では、前記浴槽には前記開口部側から視認可能なマークが設けられ、前記乗部はサイドフェンスを備え、前記乗部が前記浴槽内に挿入された状態を横方向から見たとき、前記マークと同一の鉛直線上にほぼ位置する別のマークが前記サイドフェンスに設けられている。これによれば、浴槽に設けられたマークとサイドフェンスに設けられた別のマークを、搬送車を浴槽に進入させるときの目印とすることができる。
【0016】
本発明の入浴装置において、好ましい実施態様では、前記乗部は、前記浴槽に挿入されるときに取り得る複数の形態を有し、複数のそれぞれの前記形態に対応する前記別のマークが前記サイドフェンスに複数設けられている。これによれば、浴槽に設けられたマークと、乗部の形態に応じてサイドフェンスに設けられた別のマークを、搬送車を浴槽に進入させるときの目印とすることができる。
【0017】
本発明の入浴装置において、好ましい実施態様では、前記搬送車として、前記台車部が昇降可能なタイプと、前記台車部の上下方向の位置が固定されたタイプとを使用可能である。これによれば、台車部が上昇した状態での介助作業が必要な場合は台車部が昇降可能な搬送車(昇降式)を使用でき、台車部の昇降機能が不要な場合は台車部の上下方向の位置が固定された搬送車(固定式)を使用できるなど、介助の状況に応じて昇降式の搬送車又は固定式の搬送車を使用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、入浴介助作業における介助者の手間を軽減でき、浴槽の設置スペースの増大を抑制することが可能な入浴装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態による入浴装置の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態による搬送車の斜視図である。
【
図3】同搬送車の乗部が取り得る形態の一例を示す図である。
【
図6】
図4のB-B線で切断した断面の一部を示す部分拡大断面図である。
【
図7】同搬送車の足受け部に設けられた平板の拡大正面図である。
【
図8】本発明の一実施形態による浴槽の扉部を省略した斜視図である。
【
図10】同搬送車を同浴槽に進入させた状態を示す正面図である。
【
図11】同搬送車を同浴槽に進入させた状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、本発明の一実施形態による入浴装置1は搬送車2と浴槽3とを備えており、
図1は入浴時の状態を示している。浴槽3は平面視で略長方形状であり、長手方向の一側面に開閉可能な扉部4を備えている。
図2にも示すように、搬送車2は、台車部5と、入浴者の乗る乗部6とを有し、乗部6は台車部5上に分離連結可能に設けられている。入浴装置1を用いて入浴する場合、乗部6に入浴者を乗せた搬送車2を入浴者の横方向に移動して、扉部4が開いた状態の浴槽3に近づけ、浴槽3の一側面から搬送車2を進入させることで、台車部5が浴槽3の下方に収納され、乗部6が浴槽3内に挿入される。その後、扉部4を閉めてレバー7で扉部4を固定し、浴槽3内に給湯して入浴することができる。ここで、方向を表す前後左右は搬送車2の乗部6に着座した入浴者から見た方向とする。なお、左右方向を横方向とし、水平面内において横方向に直交する方向(前後方向)を縦方向とする。
【0021】
次に搬送車2について
図2を参照して説明する。台車部5は台車フレーム8の4箇所に車輪9を備え(
図2では3箇所の車輪9が記載され1箇所の車輪9は見えないため記載されていない)、床面を走行可能に構成されており、台車フレーム8の上面の4箇所には、乗部6を分離連結可能に支持するための受具10が設けられている。搬送車2は台車部5が昇降可能なタイプ(昇降式)であり、例えばアクチュエータとXリンク機構を用いた昇降機構を用いることができるが、具体的な構成についての説明を省略する。
【0022】
乗部6は、背凭れ部11、座部12、足受け部13、腰部用サイドフェンス14、上肢用サイドフェンス15及び乗部フレーム16を有している。背凭れ部11の上端部と、上端部近傍の両側には、搬送車2の搬送時や背凭れ部11の水平に対する角度(傾斜角度)の変更時などに介助者が把持する把持部17T、17L、17R(17Rは後述の
図4参照)が設けられている。乗部フレーム16には4箇所に連結支持体18が軸支され、各連結支持体18は台車部5の受具10によって回動しないように保持されることで、乗部6と台車部5との連結状態が保たれる。連結支持体18を受具10からわずかに上昇させた状態で、連結支持体18に右から左の方向(矢印Eの方向)に向けて外力が働くと連結支持体18は左の方向に回動し、乗部6と台車部5との連結状態が解除されて分離するが、連結支持体18に左から右の方向に向けて外力が働いても、連結支持体18は右の方向(矢印Fの方向)に回動しないように、連結支持体18の回動軸の近傍に設けた不図示のストッパによって規制されている。乗部フレーム16には、乗部6が台車部5から分離し浴槽3内に挿入される際の移動手段となるローラ67が設けられている。腰部用サイドフェンス14には第1マーク14a、第2マーク14bが設けられており、前後の2か所には孔14cが設けられている。第1マーク14a、第2マーク14bの説明は後述する。
【0023】
図3は乗部6が取り得る形態の一例であり、
図2に示す形態(第1形態)を実線で示している。第1形態では座部12と足受け部13とが山の形状に傾斜している。第1形態の他に、座部12(仮想線12a)と足受け部13(仮想線13a)とがほぼ水平であり、背凭れ部11(仮想線11a)の水平からの傾斜角度が約60度である第2形態、第2形態から背凭れ部11を後方に倒す(リクライニング)ことで、背凭れ部11(仮想線11b)の傾斜角度が約42度となる第3形態、第3形態から背凭れ部11をさらに後方に倒すことで、背凭れ部11(仮想線11c)がほぼ水平(傾斜角度が約0度)になる第4形態、及び、第2形態から足受け部13を下げることで、足受け部13(仮想線13b)が台車部5に近接した第5形態をとることができる。ここで、第5形態は入浴者を乗部6に乗せて搬送する際に通常使用される形態である。なお、第1形態は、第2形態から乗部6をチルトさせる(背凭れ部11と座部12のなす角度を維持した状態で背凭れ部11を後方に倒す)ことで得られる形態であり、第1形態での背凭れ部11の傾斜角度は約42度である。第1形態における座部12は、前側に比べて後側が低くなるよう傾斜しているため、入浴者の臀部が座部12の前方へずり込むことを防止することができる。ここで、乗部6が第1形態、第2形態又は第3形態のとき、搬送車2を浴槽3に進入させることができる。なお、背凭れ部11の傾斜角度は一例であり、上記とは別の角度に設定できるよう乗部6を構成してもよい。
【0024】
図4は乗部6の底面図であり、
図5は
図4のA-A線で切断した断面図である。座部12は座部フレーム19と、座部フレーム19に固定された座面20とを有し、座部フレーム19は棒状の連結部材21によって乗部フレーム16に対して回転可能に取り付けられている。座面20の先端側の中央部には先端から後方へ凹んだ凹部20aが設けられている。背凭れ部11は背凭れフレーム22と、背凭れフレーム22に固定された背凭れ23とを有し、背凭れフレーム22は連結部24において座部フレーム19に対し回転可能に取り付けられている。
【0025】
次に、背凭れ部11の傾斜角度を変更するリクライニング機構について
図5を参照して説明する。背凭れ部11は、リクライニング軸25の回りに回転することで傾斜角度が変更されるように構成されている。背凭れ部11の下端部に受板26が設けられ、受板26には2つの凹部27a、27bを有する細長状の溝27が形成されている。座部フレーム19の後端部には軸28の回りに回転可能なリクライニング片29が取り付けられ、リクライニング片29の端部に設けた棒部材30は受板26の溝27に嵌められている。背凭れ部11の背面の上方付近に設けられたリクライニング操作部31は、受板26に隣接して設けられ背凭れ部11の長手方向に沿ってスライド可能な操作片32(
図4参照)を操作するもので、リクライニング操作部31と操作片32とは接続部材33(
図4参照)によって繋がれている。リクライニング片29の棒部材30が受板26の凹部27a、27bのいずれか、例えば凹部27bに嵌まっているとき(第2形態による背凭れ部11の状態)、介助者が例えば把持部17Tを把持した状態でリクライニング操作部31を上方に動かすと、操作片32が上方にスライドすることでリクライニング片29の棒部材が受板26の凹部27bから外れる。そして、背凭れ部11の傾きを変更し、リクライニング操作部31を元に戻してリクライニング片29の棒部材30を別の凹部27aに嵌合させることで、第3形態による背凭れ部11の状態になり、背凭れ部11の傾斜角度を変更することができる。なお、リクライニング片29の棒部材30が受板26の溝部27a、27bのいずれにも嵌まっていない場合、背凭れ部11はほぼ水平な状態(第4形態による背凭れ部11の状態)となる。
【0026】
次に、乗部6をチルトさせるチルト機構について
図5を参照して説明する。乗部6は乗部フレーム16に対してチルト軸34で軸支されており、チルト軸34の回りに回転することでチルトされる。乗部フレーム16の前端部近傍に波形状の板部材であるチルトロック金具35が固定されている。座部フレーム19には、軸36の回りに回転可能なロック片37が設けられ、ロック片37の先端部には左右方向に延在するロックピン38が設けられている。
図5に示すように、ロックピン38がチルトロック金具35の上端部の切欠きに係合すると、乗部6は第1形態となる。乗部フレーム16の中間位置には、軸が鉛直方向になるように後方ストッパ39(
図4参照)が設けられており、後方ストッパ39の上端部は座部フレーム19と当接する状態となるため、乗部6の第1形態が維持される。また、ロックピン38がチルトロック金具35の凹部35aに係合すると、乗部6は第2形態となる。このとき、乗部フレーム16の前方位置に設けられた前方ストッパ40(
図3参照)の先端部は座部フレーム19と当接する状態となり、乗部6の第2形態が維持される。背凭れ部11の背面に設けられたチルトロック操作部41は、接続部材42によってロック片37の中間部に接続されている。
図5において、介助者が例えば把持部17Tを把持した状態でチルトロック操作部41を上方に動かすと、ロック片37は軸36を中心に反時計回りに回動し、ロックピン38とチルトロック金具35の係合状態が解除され、乗部6を反時計回りに回動させた後、ロックピン38をチルトロック金具35の凹部35aに係合させると、乗部6を第2形態にすることができる。このように、ロックピン38をチルトロック金具35の切欠き又は凹部35aに選択的に係合させることで、乗部6を第1形態と第2形態との間で姿勢変更することができる。
【0027】
足受け部13について
図6、7を用いて説明する。
図6は
図4のB-B線で切断した断面の一部を示す部分拡大断面図であり、
図7は後述の平板68の拡大正面図である。足受け部13は、第1フレーム43a、第2フレーム43b、第3フレーム43c、第1フレーム43aの上部に設けられ入浴者の下腿を受ける下腿受け44、及びフットレスト45を備える。フットレスト45は第2フレーム43bに軸46で軸支されており、
図3の第5形態からフットレスト45がほぼ鉛直になるまで上方に回転させることができる。フットレスト45の先端側の中央部には先端から後方へ凹んだ凹部45a(
図4参照)が設けられている。第1フレーム43aの基端部は座部フレーム19の先端部の軸47で軸支されている。第2フレーム43bの基端部は乗部フレーム16の先端部に軸70で軸支されている。第3フレーム43cの基端部は乗部フレーム16の先端部に軸支され、第3フレーム43cの先端部は第2フレーム43bの先端部と連結部71で連結されている(
図4参照)。また、第3フレーム43cの先端部には平板68が取り付けられており、
図7に示すように平板68はへの字形状の溝部68aを有している。第1フレーム43aの先端部には左右方向に延在する円柱状のピン(不図示)が設けられており、このピンが平板68の溝部68aに移動可能な状態で嵌まっている。このため、第1フレーム43aの先端部は平板68の溝部68a内をスライド可能な状態で第3フレーム43cの先端部に連結されている。第2形態の搬送車1において乗部6をチルトさせるとき、座部フレーム19に軸支された第1フレーム43aの基端部が乗部6のチルトに伴い上方に移動するため、第1形態に変化する。
【0028】
次に浴槽3について説明する。
図8は扉部4を省略して示す浴槽3の斜視図である。浴槽3は、長手方向の一側面に、扉部4で開閉する開口部48を有している。浴槽3の底部には、乗部6が浴槽3内に進入するとき、乗部6のローラ67が嵌まる2本のレール49が設けられている。浴槽3の下側には、台車部5を収納可能な空間(収納空間)50が設けられ、収納空間50の両端部には、搬送車2が浴槽3に進入する際に台車部5の側面をガイドする一対のガイド部51が設けられている。ガイド部51から収納空間50内に突出した2つの連結解除部材52が設けられており、搬送車2が浴槽3に進入すると、搬送車2の連結支持体18が連結解除部材52にあたって倒れることで、台車部5から乗部6が分離し、台車部5は浴槽3の下方に収納され、乗部6は開口部48を通して浴槽3内に挿入される。
【0029】
浴槽3の開口部48とは反対側の側面には、浴槽3内に供給する湯を貯めておく貯湯槽53(後述の
図12参照)が設けられている。浴槽3には、貯湯槽53の湯を浴槽3内に供給する給湯口54、浴槽3内の湯を排出する排出口55、所定の水位を超える水位の湯を排出するためのオーバーフロー口56、噴流浴を行うときに噴流を吐出する噴流発生ノズル57、入浴者の肩付近に湯を掛けるための肩掛けシャワーノズル58、介助者などが使用するハンドシャワー59、入浴条件の設定や入浴、退浴の操作などを行う操作部60が設けられている。開口部48側に設けた肩掛けシャワーノズル58は、浴槽3への搬送車2の出し入れ時に邪魔にならないよう、浴槽3への取付部分において略鉛直軸の回りに回動可能になっている。レバー7については、
図8のように鉛直方向に位置した状態で扉部4を閉め、その後、
図1に示すように回転させることで扉部4が固定される。レバー7は人手で動かすようにしてもよく、電気などの動力源を用いて動かすようにしてもよい。また、浴槽3には、開口部48側から視認可能であって、搬送車2を浴槽3に進入させるときの目印となるマーク61が設けられているが、マーク61に関する説明は後述する。
【0030】
次に、扉部4について
図9A、9Bを用いて説明する。扉部4は、扉部本体62と、扉部本体62の下方部位に設けた重り63a、63bを有しており、扉部本体62及び重り63a、63bは平板形状である。扉部本体62の両端部の中間部位には、摺動性のよい硬質樹脂で形成された板状部材77が設けられている。扉部本体62の両側面の下方部位にはそれぞれローラ64を設けている。扉部本体62の上辺には、扉部4を開閉する際に掴む把持部65を設けている。
図9Bにおいて、把持部65は扉部本体62の上辺から右上の方へ傾いて形成されており、扉部4を閉めたとき(
図1の状態)把持部65が浴槽3の内側の方へ傾くように構成されている。一例として扉部本体62の幅a=1820mm、高さb=740mm、厚みc=50mmである。また、扉部本体62の重量は25kg、重り63aの重量は23kg、重り63bの重量は13kgである。ここで、扉部4の重心は、2つのローラ64の回転軸を結ぶ線(破線64a)よりも下方に位置するよう構成されている。例えば、扉部4の重心は破線64aよりも10mmだけ下方に位置している。なお、2つの把持部63a、63bを設けた例を示しているが、把持部の個数は1個でもよく、3個以上の複数でもよい。また、重りの個数は1個でもよく、3個以上の複数でもよい。
【0031】
図10、11は、乗部6が第1形態のときの搬送車2を浴槽3に進入させた状態を示す正面図、平面図であり、台車部5が浴槽3の下方に収納され、乗部6が浴槽3内に挿入され、扉部4を閉める前の状態を示す。
図10に示すように扉部4は、浴槽3の底部と、浴槽3の下方に収納された台車部5との間の空間に収納された状態であり、この収納状態では、
図11に示すように、把持部65の一部が浴槽3の底部よりも左方向に突出している。扉部4は平板形状のため、扉部4を収納する浴槽3の下方空間において、扉部4の厚み方向に必要な空間の長さを小さくすることができる。また、
図11に示すように、台車部5のほとんどは浴槽3の下方に位置しており、台車部5の端部が浴槽3の端部から多少はみ出しているものの、介助者による入浴介助作業の邪魔にはならない程度である。
【0032】
次に、搬送車2を浴槽3に進入させるとき、搬送車2の進入位置の目印となる構成について説明する。
図10、11示すように、浴槽3の下方に収納された扉部4では、縦方向において、2個の把持部65の互いに近接した各端部65aから等距離にある位置が、浴槽3の下方に収納された台車部5の縦方向における中心位置(台車部中心位置とする)と一致、すなわち、台車部中心位置に対して対称となるように把持部65が設けられている。このため、介助者が搬送車2を浴槽3に近づけるとき、介助者から把持部65が見えている間では、台車部5が把持部65の間に位置するように搬送車2を移動させることで、搬送車2の位置決めをすることができる。このように、把持部65を搬送車2の浴槽3への進入位置の目印にすることができる。また、把持部65を少なくとも1個備え、1個の把持部65を、その把持部65の縦方向における中心位置と、台車部中心位置とが一致、すなわち、台車部中心位置に対して対称となるように設けてもよい。この場合、1個の把持部65を搬送車2の浴槽3への進入位置の目安にすることができる。この1個の把持部65は、搬送車2を浴槽3に進入させるときに連結支持体18等の搬送車2の部材との接触を避けるため、搬送車2を浴槽3に進入させた状態を横方向から見たときに2個の連結支持体18の間に1個の把持部65が位置するよう設ければよい。なお、台車部中心位置に対して略対称となるように把持部65を設けてもよい。すなわち、台車部中心位置に対して対称ないし略対称となるように把持部65を設けることで、その把持部65を搬送車2の浴槽3への進入位置の目印にすることができる。
【0033】
次に、搬送車2が浴槽3にさらに近づき介助者から把持部65が見えなくなったときの、目印となる構成について説明する。
図10に示すように、正面(又は横方向)から見たとき、浴槽3に設けたマーク61と搬送車2の腰部用サイドフェンス14に設けた第1マーク14aとは同一の鉛直線上にほぼ位置するように構成されており、この位置は、台車部中心位置と略一致する位置である。また、乗部6が第2形態又は第3形態の搬送車2を浴槽3に進入させた状態を正面から見たとき、腰部用サイドフェンス14の第2マーク14bが浴槽3のマーク61と同一の鉛直線上にほぼ位置するように構成されている。このため、乗部6を第1形態としたときの搬送車2を浴槽3に進入させるとき、腰部用サイドフェンス14の第1マーク14aが浴槽3のマーク61の縦方向の位置に合うように搬送車2を移動させることで、搬送車2の位置決めをすることができる。また、乗部6を第2形態又は第3形態としたときの搬送車2を浴槽3に進入させるとき、腰部用サイドフェンス14の第2マーク14bが浴槽3のマーク61の縦方向の位置に合うように搬送車2を移動させることで、搬送車2の位置決めをすることができる。このように、腰部用サイドフェンス14の第1マーク14a又は第2マーク14bと浴槽のマーク61は、搬送車2を浴槽3に進入させるときの目印となり、台車部5を一対のガイド部51の間に挿入させることができる。なお、搬送車2を浴槽3に進入させるとき、又は、浴槽3内に挿入された乗部6を浴槽3から引き出すとき、介助者は乗部6の腰部用サイドフェンス14(例えば前側の孔14cの周辺部分)と把持部17Lを把持して作業することができる。
【0034】
図12は
図11のC-C線で切断した断面図である。浴槽3には上下に対となるレール66が設けられ、このレール66間に扉部4のローラ64が挿入されており、ローラ64はレール66間をレール66に沿って移動可能である。一例として、レール66は水平に対して1~2度傾斜して設けられており、右側に比べて左側が高くなっている。
図13は
図12の領域Dを拡大した部分拡大図である。レバー7にはローラ72とレバーロックピン73が設けられ、レバーロックピン73は不図示のばね部材によって矢印Gの方向へ付勢されている。浴槽3にはレバー7の近傍に被嵌合部材74が設けられ(
図10も参照)、被嵌合部材74はレバーロックピン73の先端部73aが嵌まる凹部74aを有している。扉部4を閉めた状態でレバー7を回転させるとローラ72は扉部4の板状部材77の表面上を転がり、
図1のようにレバー7が略水平になると、扉部4はローラ72によって押圧された状態で固定される。
図1の状態ではレバーロックピン73の先端部73aが被嵌合部材74の凹部74aに嵌まっている。このため、例えば介助者が誤ってレバー7を下方向に押すことでレバー7が回転することを防止することができる。なお、扉部4の固定を解除するときは、レバーロックピン73を矢印Gとは逆方向に引いて先端部73aを被嵌合部材74の凹部74aから外し、レバー7を回転させればよい。
【0035】
扉部4の開閉操作は、以下に説明する方法により手動で行うことができる。すなわち、浴槽3の下方に収納された扉部4の把持部65を掴んで左方向に扉部4をいっぱいまで引き出し、扉部4を上方に回転させ(扉部4はローラ64の回転軸の回りに回転する)、扉部4を閉めた状態にする。このとき、扉部4に設けられた仮ロック部材75(
図9A参照)が、浴槽3に設けた仮ロックレバー76(
図8参照)に引っ掛かった状態になり、扉部4が倒れないように仮ロックされる。その後、レバー7を略水平になるまで回転させて扉部4を固定することで、
図1に示す状態になる。また、
図1の状態からレバーロックピン73を引っ張り、レバー7を略鉛直になるまで回転して扉部4の固定を解除し、仮ロックレバー76を上方に回転させて仮ロック状態を解除し、扉部4を左側に倒して右方向に押し込むことにより、扉部4を浴槽3の下方に収納することができる。扉部4は重り63a、63bを備えており、前述のようにレール66は水平に対して1~2度傾斜しているので、扉部4を浴槽3の下方に収納する際に扉部4を押し込みやすくなっている。また、前述のように扉部4の重心は、
図9Aに示す破線64aよりも下方に位置するよう構成されているため、扉部4が浴槽3の下方から引き出された状態では、扉部4の上辺側(把持部65が設けられた辺側)が重り63a、63b側よりも上方に位置する姿勢でバランスを保っており、重り63a、63bを備えていない場合に比べて、扉部4を閉める場合に扉部4を上方に回転させるときに必要な力を軽減することができる。また、扉部4を開ける場合に扉部4を左側に倒して右方向に押し込むときに必要な力も軽減することができる。ここで、扉部4が浴槽3の下方に収納された状態では、浴槽3の下方の開口部48近傍に設けられたローラ69(
図8参照)によって扉部4の上辺側が上方へ移動しないように規制されている。このように、重り63a、63bは扉部4の開閉操作を補助するための補助手段であり、扉部4を手動で開閉するときに必要となる力を軽減することができ、扉部4の開閉操作が容易となる。また、扉部4を手動で開閉する場合には扉部4を移動させるための駆動源が不要なので、コストダウンができる。なお、扉部4を電気などの動力源を用いて動かすようにしてもよい。
【0036】
次に、昇降式の搬送車2を用いた入浴装置1による入浴方法の一例について説明する。
[移乗、搬送]
まず乗部6を第5形態にした搬送車2において、入浴者の移乗時にフットレスト45が邪魔にならないよう、フットレスト45がほぼ鉛直状態になるまで回転させた後、入浴者を搬送車2に移乗させる。必要に応じて上肢用サイドフェンス15及び腰部用サイドフェンス14を回転させて移乗時の邪魔にならないようにする。ここで、前述のように座面20に凹部20aが形成され、フットレスト45に凹部45aが形成されているため、入浴者の移乗作業を行う介助者の脚がフットレスト45、座面20に当たることを避けることができ、凹部20a、45aが形成されていない場合に比べて入浴者の移乗作業を行いやすくすることができる。入浴者を搬送車2に乗せたら、介助者はフットレスト45を下ろして乗部6を第5形態にした後、搬送車2の把持部13L、13Rを把持して浴槽3の近くまで搬送する。
【0037】
[洗身、進入]
続いて介助者は、背凭れ部11を後方へ倒すとともに足受け部13を引き上げることで、乗部6を第4形態に姿勢変更し、乗部6を適当な高さまで上昇させた後、入浴者の身体を洗う洗身作業を行う。洗身作業が終わると、介助者は乗部6を下限位置まで下降させた後、入浴者の好みに応じて乗部6を第1形態~第3形態のいずれかの形態に姿勢変更する。その後、介助者は乗部6の腰部用サイドフェンス14と把持部17Lを把持して搬送車2を横方向に移動させて浴槽3に進入させると、台車部5から分離した乗部6は浴槽3内に挿入され、台車部5は浴槽3の下方に収納される。ここで、前述のように、扉部4の把持部65、浴槽3のマーク61、腰部用サイドフェンス14の第1、2マーク14a、14bを、搬送車2を浴槽3に進入させるときの目印とすることができる。
【0038】
[入浴]
続いて、扉部4を手動で閉めてレバー7で固定した後、貯湯槽53から浴槽3に給湯することで、乗部6上の入浴者を入浴させることができる。
[退浴、搬送]
入浴が終わると浴槽3内の湯を排出した後、介助者はレバー7を操作して扉部4の固定を解除し、扉部4を浴槽3の下方に収納する。そして、介助者が乗部6の腰部用サイドフェンス14と把持部17Lを把持して乗部6を浴槽3から引き出すと乗部6と台車部5とが連結され、さらに搬送車2を引き動かすことで、浴槽3から搬送車2を離間させる。その後、介助者は入浴者の身体を拭くなどし、乗部6を第5形態にして入浴者を元の場所まで搬送した後、入浴者を搬送車2から別の車椅子などに移乗させて入浴作業を終了する。
【0039】
なお、上記実施形態では搬送車2が昇降式の場合について説明したが、搬送車2として台車部5の上下方向の位置が固定されたタイプ(台車部5が昇降しない固定式)を使用することができる。例えば、台車部5が上昇した状態での介助作業が必要な場合は昇降式の搬送車2を使用でき、台車部5の昇降が不要な場合は固定式の搬送車2を使用できるなど、介助の状況に応じて昇降式の搬送車2又は固定式の搬送車2を使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、搬送車を横方向に移動させて乗部を浴槽内に挿入する形態の入浴装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 入浴装置
2 搬送車
3 浴槽
4 扉部
5 台車部
6 乗部
7 レバー
14 腰部用サイドフェンス
14a 第1マーク
14b 第2マーク
48 開口部
50 空間
61 マーク
62 扉部本体
63a、63b 重り
65 把持部