(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069854
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】デルタシグマモジュレータ
(51)【国際特許分類】
H03M 3/02 20060101AFI20240515BHJP
【FI】
H03M3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180103
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】591141784
【氏名又は名称】学校法人大阪産業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】熊本 敏夫
【テーマコード(参考)】
5J064
【Fターム(参考)】
5J064BA03
5J064BB14
5J064BC06
5J064BC08
5J064BC10
5J064BC11
5J064BC16
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、フィードバック信号のひずみによる精度低下を抑えることができるデルタシグマモジュレータを提供する。
【解決手段】デルタシグマモジュレータは、入力信号及びフィードバック信号の差分を積分する積分回路2と、積分回路2の後段に接続された量子化器3とを備える。量子化器3は、クロックの各周期で、積分回路の出力に基づくハイレベル又はローレベルの電圧と、ハイレベルとローレベルの間のミドルレベルの電圧Vbとを順次出力することでパルス密度変調信号(PDM信号)を生成し、フィードバック信号として出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号及びフィードバック信号の差分を積分する積分回路と、
前記積分回路の後段に接続された量子化器とを備え、
前記量子化器は、クロックの各周期で、前記積分回路の出力に基づくハイレベル又はローレベルの電圧と、ハイレベルとローレベルの間のミドルレベルの電圧とを順次出力することでパルス密度変調信号(PDM信号)を生成し、前記フィードバック信号として出力する、デルタシグマモジュレータ。
【請求項2】
請求項1に記載のデルタシグマモジュレータであって、
前記量子化器は、クロック周期ごとに前記積分回路の出力に基づくハイレベル又はローレベルの電圧を保持するDフリッププロップ回路(DFF回路)と、クロックの各周期で、前記DFF回路で保持されたハイレベル又はローレベルの電圧と、ミドルレベルの電圧とを順次出力するミドルレベル復帰回路(RTM回路)とを含む、デルタシグマモジュレータ。
【請求項3】
請求項2に記載のデルタシグマモジュレータであって、
前記RTM回路は、CMOSインバータと、前記CMOSインバータの入力及び出力間の短絡を、クロック信号に応じてオン/オフするスイッチとを含み、
前記ミドルレベルの電圧は、前記RTM回路の前記CMOSインバータの入力及び出力間を短絡した場合の前記CMOSインバータの出力電圧である、デルタシグマモジュレータ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のデルタシグマモジュレータであって、
前記DFF回路は、CMOSインバータを用いて形成される、デルタシグマモジュレータ。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のデルタシグマモジュレータであって、
前記積分回路は、増幅器と前記増幅器の入力と出力の間に接続されたコンデンサとを含み、
前記増幅器は、CMOSインバータで構成される、デルタシグマモジュレータ。
【請求項6】
請求項2又は3に記載のデルタシグマモジュレータであって、
前記RTM回路は、CMOSインバータと、前記CMOSインバータの入力及び出力間の短絡を、クロック信号に応じてオン/オフするスイッチとを含み、
前記DFF回路は、CMOSインバータを用いて形成され、
前記積分回路は、CMOSインバータと、前記CMOSインバータに並列に接続されたコンデンサとを含み、
前記RTM回路、前記DFF回路及び前記積分回路のCMOSインバータは、同じサイズ及び形状で構成される、デルタシグマモジュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デルタシグマモジュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーバーサンプルアナログデジタル変換器(A/D変換器)は、例えば、各種センサ出力読み出しに用いられ、様々な製品に組み込まれる。A/D変換器は、アナログ部分であるデルタシグマモジュレータと、デジタルフィルタで構成される(非特許文献1参照)。
【0003】
国際公開第2008/023710号には、デルタシグマモジュレータが開示されている。このデルタシグマモジュレータは、入力端子から連続時間信号を入力するループフィルタと、ループフィルタからの出力をクロックに応答して量子化したデジタル信号を出力する量子化器と、デジタル信号に応じたアナログ信号をループフィルタにフィードバックするDA変換器とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
Schreier,Richard/Temes,Gabor C.著、和保 孝夫/安田 彰 監訳、「ΔΣ型アナログ/デジタル変換器入門第2版」、丸善出版、2019年12月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
デルタシグマモジュレータのフィードバック信号において、シンボル間干渉(ISI:Inter Symbol Interference)によって、波形にひずみが生じる場合がある。このひずみは、精度低下の原因となり得る。一方で、デルタシグマモジュレータのアナログ回路構成は、近年、複雑化している。デルタシグマモジュレータの回路構成は簡単であることが好ましい。構成を簡単にすることで、デルタシグマモジュレータの動作確認、IC化、又は基板への実装が容易になる。
【0007】
そこで、本開示は、簡単な構成で、フィードバック信号のひずみによる精度低下を抑えることができるデルタシグマモジュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態におけるデルタシグマモジュレータは、入力信号及びフィードバック信号の差分を積分する積分回路と、前記積分回路の後段に接続された量子化器とを備える。前記量子化器は、クロックの各周期で、前記積分回路の出力に基づくハイレベル又はローレベルの電圧と、ハイレベルとローレベルの間のミドルレベルの電圧とを順次出力することでパルス密度変調信号(PDM信号)を生成し、前記フィードバック信号として出力する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態におけるデルタシグマモジュレータの構成例を示す図。
【
図2】NRZの波形W1及びこれに対応するRTMの波形W2の例を示す図。
【
図3】
図1に示すデルタシグマモジュレータの回路構成の一例を示す図。
【
図5】CMOSインバータの入出力特性の例を示すグラフ。
【
図6】
図3に示すデルタシグマモジュレータの動作例を示すタイミングチャート。
【
図12】量子化器のDラッチ回路の構成例を示す図。
【
図13】量子化器3のDラッチ回路の構成例を示す図。
【
図17】CMOSインバータの他の構成例を示す図。
【
図18】CMOSインバータの他の構成例を示す図。
【
図19】
図4、
図17及び
図18のぞれぞれのCMOSインバータの入出力特性のシミュレーションによる解析結果を示すグラフ。
【
図20】
図3に示す回路構成のデルタシグマモジュレータの動作のシミュレーション結果を示す周波数スペクトラム。
【
図21】デルタシグマモジュレータの試作品における各部の動作波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(構成1)
本発明の実施形態におけるデルタシグマモジュレータは、入力信号及びフィードバック信号の差分を積分する積分回路と、前記積分回路の後段に接続された量子化器とを備える。前記量子化器は、クロックの各周期で、前記積分回路の出力に基づくハイレベル又はローレベルの電圧と、ハイレベルとローレベルの間のミドルレベルの電圧とを順次出力することでパルス密度変調信号(PDM信号)を生成し、前記フィードバック信号として出力する。
【0011】
上記構成1では、フィードバック信号であるPDM信号は、クロック各周期でハイレベルとローレベルの間のミドルレベルに復帰する。これにより、フィードバック信号において、シンボル間干渉が抑制される。そのため、フィードバック信号のひずみを抑えることができる。また、量子化器の出力信号をミドルレベル復帰の形態にするだけなので、回路構成の複雑化は避けられる。結果として、簡単な構成で、フィードバック信号のひずみによる精度低下を抑えることができる。
【0012】
(構成2)
上記構成1において、前記量子化器は、クロック周期ごとに前記積分回路の出力に基づくハイレベル又はローレベルの電圧を保持するDフリッププロップ回路(DFF回路)と、クロックの各周期で、前記DFF回路で保持されたハイレベル又はローレベルの電圧と、ミドルレベルの電圧とを順次出力するミドルレベル復帰回路(RTM回路)とを含んでもよい。これにより、量子化器は、DFF回路にRTM回路を付加した簡単な構成となる。
【0013】
(構成3)
上記構成2において、前記RTM回路は、CMOSインバータと、前記CMOSインバータの入力及び出力の間の短絡を、クロック信号に応じてオン/オフするスイッチとを含んでもよい。前記ミドルレベルの電圧は、前記RTM回路の前記CMOSインバータの入力及び出力間を短絡した場合の前記CMOSインバータの出力電圧である。この構成では、RTM回路のCMOSインバータの入力及ぶ出力間の短絡と切断が、クロック周期ごとに切り替えられる。そのため、より簡単な構成で、フィードバック信号を、周期的にミドルレベル復帰させることができる。
【0014】
(構成4)
上記構成2又は3において、前記DFF回路は、CMOSインバータを用いて形成されてもよい。これにより、量子化器の構成をより簡単にできる。
【0015】
(構成5)
上記構成1~4のいずれかにおいて、前記積分回路は、増幅器と前記増幅器の入力と出力の間に接続されたコンデンサとを含んでもよい。前記増幅器は、CMOSインバータで構成されてもよい。これにより、積分回路の構成をより簡単にできる。
【0016】
(構成6)
上記構成2~4のいずれかにおいて、前記RTM回路は、CMOSインバータと、前記CMOSインバータの入力及び出力間の短絡を、クロック信号に応じてオン/オフするスイッチとを含んでもよい。前記DFF回路は、CMOSインバータを用いて形成されてもよい。前記積分回路は、CMOSインバータと、前記CMOSインバータに並列に接続されたコンデンサとを含んでもよい。この場合、前記RTM回路、前記DFF回路及び前記積分回路のCMOSインバータは、同じサイズ及び形状で構成されてもよい。これにより、積分回路、DFF回路及びRTM回路において、それぞれのCMOSインバータによるミドルレベルの電圧が同じになる。そのため、モジュレータ全体をより簡単な構成としつつ、フィードバック信号をミドル復帰形式にすることができる。
【0017】
上記構成1~6のいずれかにおいて、前記ハイレベルの電圧は、電源電圧とし、前記ローレベルの電圧は、グランドレベルとしてもよい。これにより、量子化器から出力されるフィードバック信号のハイレベルは電源電圧となり、ローレベルはグランドレベルとなる。そのため、量子化器が、フィードバックアナログデジタル変化器(FBADC)として動作する。
上記構成1~6のいずれかにおいて、前記積分回路、前記DFF回路、及び、前記RTM回路の各々は、少なくとも1つのCMOSインバータを含んでもよい。この場合、前記積分回路の少なくとも1つのCMOSインバータ、前記DFF回路の少なくとも1つのCMOSインバータ、及び、前記RTM回路の少なくとも1つのCMOSインバータが直列に接続、すなわち縦続接続(カスケード接続)されてもよい。これにより、デルタシグマモジュレータの回路構成をより簡単にすることができる。
【0018】
上記構成1~6のいずれかにおいて、前記DLL回路は、直列に接続された少なくとも2つのDラッチ回路を含んでもよい。各Dラッチ回路は、直列に接続された第1CMOSインバータ及び第2CMOSインバータと、スイッチと含んでもよい。スイッチは、第1CMOSインバータへの信号入力をオンにして第2CMOSインバータの出力と第1CMOSインバータの入力の間を切り離す第1状態と、第1CMOSインバータへの信号入力をオフにして第2CMOSインバータの出力と第1CMOSインバータの入力との間を接続する第2状態とを、クロック周期で切り替える。2つのDラッチ回路は、一方が第1状態の時は他方が第2状態となるようスイッチで切り替えられる。これにより、簡単な構成で、量子化器を構成できる。
【0019】
なお、Dラッチ回路の出力ノードは、2つのCMOSインバータの間のノード又は2段目のCMOSインバータの出力ノードのいずれかとすることができる。
【0020】
上記構成1~6のいずれかにおいて、前記積分回路は、増幅器と前記増幅器の入力と出力の間に接続されたコンデンサとを含んでもよい。前記増幅器の入力側には、前記フィードバック信号の線と、前記入力信号の線が接続されてもよい。前記フィードバック信号の線及び前記入力信号の線には、それぞれ、抵抗が直列に接続されてもよい。
【0021】
フィードバック信号の線には、直列に接続される抵抗に加えて、コンデンサが、並列に接続されてもよい。入力信号の線には、直列に接続される抵抗に加えて、コンデンサが、並列に接続されてもよい。
積分回路の増幅器は、オペアンプであってもよいし、CMOSインバータであってもよい。
【0022】
(実施形態)
図1は、本実施形態におけるデルタシグマモジュレータの構成例を示す図である。デルタシグマモジュレータは、積分回路2及び量子化器3を備える。積分回路2は、入力信号及びフィードバック信号の差分を積分する。積分回路2は、アナログの入力信号が入力される端子と、フィードバック信号が入力される端子を有する。積分回路2は、例えば、入力信号とフィードバック信号の差分を抽出する演算器と、演算器の出力信号を積分する積分器を含んでもよい。積分回路2は、クロック信号と同期して動作する。これにより、クロック周期で積分値が出力される。
【0023】
量子化器3は、積分回路2の後段に接続される。量子化器3は、積分回路2の出力すなわち積分信号を量子化して、ハイレベル又はローレベルの値を出力する。本実施形態では、量子化器3は、1ビット量子化器である。量子化器3は、クロック信号と同期して動作する。これにより、クロック周期で、ハイレベル又はローレベルの信号が出力される。量子化器3から出力される信号は、PDM信号となる。量子化器3から出力されるPDM信号のパルス密度は、積分回路2に入力されたアナログの入力信号の電圧振幅に応じたものになる。量子化器3の出力は、積分回路2の入力に接続される。量子化器3が出力するPDM信号はフィードバック信号として、積分回路2にフィードバックされる。
【0024】
量子化器3は、クロックの各周期で、積分回路2の出力に基づくハイレベル又はローレベルの電圧(H又はL)と、ミドルレベルの電圧Vbとを、順次出力するよう構成される。ミドルレベルの電圧Vbは、ハイレベルHとローレベルLの間の電圧である。量子化器3は、クロックの各周期のうち、半周期でハイレベル又はローレベルの電圧(H又はL)を出力し、残りの半周期でミドルレベルの電圧Vbを出力する。これにより、各周期でミドルレベルに復帰するPDM信号が出力される。
【0025】
図1の例では、量子化器3は、Dフリップフロップ回路(DFF回路)31と、その後段のミドルレベル復帰回路(RTM回路)32を有する。DFF回路31は、クロックの各周期において、積分回路2から出力された信号を、ハイレベル又はローレベルの電圧で示される1ビットの情報として保持する。RTM回路32は、クロックの各周期において、DFF回路31で保持されたハイレベル又はローレベルの電圧を半周期で出力し、残りの半周期で、ミドルレベルの電圧を出力する。DFF回路31から出力される非ゼロ復帰(NRZ:Non Return to Zero)信号は、RTM回路32によりミドルレベル復帰信号(RTM(Return to Middle)信号)となる。このRTM信号が、フィードバック信号として、積分回路2にフィードバックされる。
【0026】
このように、フィードバック信号をRTMの波形とすることで、NRZの波形に比べて、シンボル間干渉(ISI)によるひずみが抑制される。
図2は、NRZの波形W1及びこれに対応するRTMの波形W2の例を示す図である。
図2に示すように、PDM信号において同じ値(例えば、「1」=ハイレベル)が連続する場合がある。この場合、RTMの波形W2では、連続する「1」の回数だけ、パルスの立ち上がり及び立ち下がりが生じるが、NRZの波形W1では、連続する「1」の期間TAの初めにパルスの立ち上がりがあり、この期間TAの終わりにパルスの立ち下がりがある。そのため、パルスの立ちあがり及び立ち下がりになまりがある場合、NRZの波形の方が、TRMの波形に比べてひずみやすくなる。言い換えると、RTMの波形にすることで、ひずみを抑えることができる。例えば、負荷容量が増えて波形がなまってきた場合に、RTM波形によるひずみ抑制の効果がより顕著になる。
【0027】
図3は、
図1に示すデルタシグマモジュレータの回路構成の一例を示す図である。
図3におけるNOT回路は、CMOSインバータで構成される。
図4は、NOT回路及び、NOT回路を構成するCMOSインバータの回路図の一例を示す。
図4に示すように、CMOSインバータは、pチャネル型MOSFET(pMOS)とnチャネル型MOSFET(nMOS)を組み合わせた回路である。pMOSのゲートとnMOSのゲートが接続され、pMOSのドレインとnMOSのドレインが接続される。ゲートがCMOSの入力(入力端子)となり、ドレインが出力(出力端子)となる。
【0028】
図5は、CMOSインバータの入出力特性の例を示すグラフである。
図5のグラフにおいて、横軸は入力電圧Vin、縦軸は出力電圧Voutを示す。
図5に示すように、入力電圧Vinがハイレベルとローレベルの間の領域において、出力電圧Voutが急激に変化する遷移領域Saがある。遷移領域Saでは、CMOSのpMOS及びnMOSのいずれも飽和領域で動作する。この遷移領域Saでは、入力電圧Vinの変化に対する出力電圧Voutの変化の割合が大きくなる。CMOSインバータの入力電圧Vinを、遷移領域Sa付近とすることで、CMOSインバータを増幅器として動作させることができる。また、CMOSインバータの入力と出力を短絡した場合(Vin=Vout)にCMOSインバータで高い利得の電圧Vbが得られる。この電圧Vbを、RTM回路32のミドルレベルの電圧とすることができる。
【0029】
図3の例では、積分回路2、DFF回路31、及び、RTM回路32が、それぞれ、少なくともとも1つのCMOSインバータを有する。
図3のデルタシグマモジュレータでは、積分回路2のCMOSインバータIV1、DFF回路31のCMOSインバータIV3、IV5及び、RTM回路32のCMOSインバータIV7が、直列に接続、すなわち縦続接続される。これらの縦続接続されたCMOSインバータIV1、IV3、IV5,IV7は、いずれも、遷移領域Saで動作するよう設定されてもよい。これにより、デルタシグマモジュレータの回路構成を簡単にすることができる。また、縦続接続されたCMOSインバータIV1、IV3、IV5,IV7は、いずれも、短絡時の高利得の電圧Vbが同じになるように、同じ大きさ及び形状とすることができる。
【0030】
図3の積分回路2は、アナログの入力信号を入力する端子と、フィードバック信号を入力する端子を有する2入力積分回路である。積分回路2の前段部分には、入力信号の線に設けられる抵抗R1、フィードバック信号の線に設けられる抵抗R2、及び、加算器21が設けられる。加算器21は、入力信号とフィードバック信号を入力し、これらの差分信号を出力する。本例では、加算器21の出力が、入力信号とフィードバック信号の差分信号となるように、フィードバック信号が反転信号となるように、積分回路2及び量子化器3が構成される。
図3では、積分回路2から量子化器3の出力までの縦続接続されたCMOSインバータの数が奇数個になっている。これにより、反転信号がフィードバックされる。なお、積分回路2に入力されるフィードバック信号が非反転信号の場合は、加算器21を減算器とするか、加算器21の前にフィードバック信号を反転させる反転回路を設けてもよい。なお、抵抗R1、R2、及び加算器21は、積分回路2の外に設けられてもよい。
【0031】
積分回路2は、入力信号及びフィードバック信号の差分信号を増幅する増幅器と、増幅器の出力を、増幅器の入力へ帰還させる帰還回路を有する。
図3の例では、増幅器は、CMOSインバータIV1であり、帰還回路は、増幅器の入力と出力の間に直列に接続されたコンデンサC1、C2と並列に接続されたR3を含む。
図3では、帰還回路は、一例として、2次のT型帰還回路であるが、1次又は3次以上であってもよい。また、増幅器は、CMOSインバータの代わりにオペアンプであってもよい。
図3の例では、増幅器の出力側にCMOSインバータIV2がさらに設けられる。CMOSインバータIV2により、DFF回路31から積分回路2への影響を抑制することができる。
【0032】
DFF回路31は、1ビットの量子化器として動作する。2段のDラッチ回路DL1、DL1を有する。
図3の例では、2段のDラッチ回路DL1、DL2のそれぞれは、2つのCMOSインバータ(IV3、IV4及びIV5、IV6)と2つのスイッチ(S1、S2及びS3、S4)を有する。スイッチS1~S4は、クロック信号(Φ又はその反転信号)に応じてオン/オフされる。スイッチS1、S2(又はS3、S4)のオン/オフにより、クロックに基づく周期で、CMOSインバータの入力電圧に応じた電圧を出力するスルーフェーズと、CMOSインバータの出力電圧を保持する保持フェーズを切り替える。
【0033】
具体的には、Dラッチ回路DL1は、直列に接続された2つのCMOSインバータIV3、IV4(第1及び第2COMSインバータの一例)を有する。スイッチS1は、CMOSインバータIV3の入力をオン/オフする。スイッチS2は、CMOSインバータIV3の入力と、CMOSインバータV4の出力との間の接続をオン/オフする。クラック信号に対するスイッチS1のオン/オフと、スイッチS2のオン/オフは反対になる。S1がオン、S2がオフのときにスルーフェーズとなる。S1がオフ、S2がオンのときに保持フェーズとなる。2段目のDラッチ回路DL2も同様に構成される。2段目のDラッチ回路DL2の入力をオン/オフするスイッチS3は、1段目のDラッチ回路DL1のスイッチS1と、オン/オフは反対になる。そのため、DL1がスルーフェーズの時にDL2は保持フェーズとなり、DL1が保持フェーズの時にDL2はスルーフェーズとなる。
【0034】
1段目のDラッチ回路DL1では、スルーフェーズにおいてCMOSインバータIV3は増幅回路として機能する。例えば、Dラッチ回路DL1のCMOSインバータIV3を、積分回路2のCMOSインバータIV1、IV2と、電圧Vbが整合するよう構成することで、スルーフェーズで増幅回路として機能させることができる。
【0035】
2段目のDラッチ回路DL2では、CMOSインバータIV4、IV5のハイレベルの出力電圧を電源電圧VDDとし、ローレベルの出力電圧をグランドレベルとすることができる。これにより、2段目のラッチ回路DL2とRTM回路32が、FBDAC(Feedback Digital to Analog Conveter)として動作する。
【0036】
RTM回路32は、CMOSインバータIV7、IV8と、スイッチS5、S6を含む。スイッチS5、S6は、CMOSインバータIV7への信号の入力をオンにして、CMOSインバータIV7の入力と出力の間を切り離す第1状態と、CMOSインバータIV7への信号の入力をオフにしてCMOSインバータIV7の入力と出力の間を短絡する第2状態とを、クロック信号に基づく周期で切り替える。具体的には、スイッチS5は、CMOSインバータIV7の入力をオン/オフする。スイッチS6は、CMOSインバータIV7の入力と出力の間の短絡をオン/オフする。スイッチS5、S6は、クロック信号に基づく周期でオン/オフされる。スイッチS5のオン/オフは、S6のオン/オフと反対になるよう制御される。S5がオン、S6がオフの時にRTM回路32は第1状態となり、S5がオフ、S6がオンの時にRTM回路32は第2状態となる。
図3の例では、CMOSインバータIV7の出力が、CMOSインバータIV8の入力に接続され、CMOSインバータIV8の出力が、CMOSインバータIV7の入力に接続される。なお、RTM回路32は、CMOSインバータIV8を省略した構成であってもよい(
図14参照)。
【0037】
図6は、
図3に示すデルタシグマモジュレータの動作例を示すタイミングチャートである。
図6の例では、各クロック周期において、積分回路2で、入力信号からフィードバック信号を減算した信号を積分した信号が出力される。1段目のDラッチ回路DL1では、各クロック周期の積分回路2の出力信号をハイレベル又はローレベルの電圧に変換した信号が出力される。2段目のDラッチ回路DL2では、各クロック周期における1段目のDラッチ回路DL1の出力電圧が、クロック半周期遅延して出力される。RTM回路32は、Dラッチ回路DL2の保持フェーズで出力されるハイレベル又はローレベルの電圧をCMOSインバータIV7で反転して出力し、Dラッチ回路DL2のスルーフェーズでは、CMOSインバータIV7の入出力間を短絡して得られるミドルレベルの電圧Vbを出力する。これにより、各クロック周期において、フィードバック信号として、信号電圧であるハイレベル又はローレベルの電圧と、ミドルレベルの電圧Vbが出力される。すなわち、フィードバック信号は、クロック周期で、ミドルレベルにリセットされる。
【0038】
図6に示すタイミングチャートにおいて、Dラッチ回路DL1、DL2から出力される信号はNRZ信号である。そのため、DL1、DL2から出力される信号の符号(ハイ又はロー、1又は0)が複数のクロック周期で連続して同じである場合、クロック周期ごとに符号が変わる場合に比べて、1の重みが変わる(
図6のA1参照)。すなわち、シンボル間干渉(ISI)が生じる。RTM回路32で、クロック周期ごとにミドルレベルの電圧Vbにリセットすることで、ISIが抑制される。このように、本実施形態では、RTM回路32を設けるという簡単な構成で、ISIを抑制し、フィードバック信号のひずみによる精度低下を抑えることができる。
【0039】
図3の構成例では、積分回路2、DFF回路31、RTM回路32の各々がCMOSインバータIV1~IV7を含む構成である。これにより、デルタシグマモジュレータの構成をより簡単にできる。また、積分回路2及びDFF回路31では、CMOSインバータIV1、IV3を増幅器として動作させることができる。これにより、さらに構成を簡単にできる。例えば、ブレッドボード上にデルタシグマモジュレータを実装する場合に、汎用ロジックICを用いずに、CMOSインバータIC、スイッチIC、抵抗、及びコンデンサその他部品の組み合わせにより、デルタシグマモジュレータを実装することができる。
【0040】
積分回路2、DFF回路31、RTM回路32の各々に含まれるCMOSインバータIV1~IV7は、入出力を短絡した場合の高利得の電圧Vbが同じになるように構成されることが好ましい。このために、例えば、CMOSインバータIV1~Iv7は、同じサイズ及び形状で構成されてもよい。複数のCMOSインバータが、同じサイズ及び形状で構成される形態は、例えば、CMOSインバータそれぞれを構成するpMOSFET及びnMOSFETの大きさ及び形状が同じである形態である。この場合、複数のCMOSインバータの電圧Vbが揃う程度に、複数のCMOSインバータそれぞれを構成するpMOSFET、nMOSFETの大きさ及び形状が類似していればよい。
【0041】
なお、デルタシグマモジュレータの回路構成は、
図3に示す例に限られない。例えば、積分回路2は、
図7~
図11のいずれかに示す回路構成としてもよい。
図7及び
図8に示すように、増幅器として、CMOSインバータの代わりにオペアンプApを用いてもよい。この場合、オペアンプApに、入力信号とフィードバック信号の差分信号が入力される。積分回路2は、オペアンプApの差分信号が入力される端子と出力端子とを繋ぐ帰還回路を有する。
図7の例では、帰還回路が1つのコンデンサC1で構成される1次の帰還回路である。
図8の例では、帰還回路は、直列の2つのコンデンサC1、C2及びその間に並列に接続された抵抗R3を有する2次のT型帰還回路である。
図9は、
図3に示す積分回路2の帰還回路を1次の帰還回路にした場合の構成例である。
【0042】
図10及び
図11に示すように、積分回路2の前段部分において、入力信号の線及びフィードバック信号の線のそれぞれにローパスフィルタが設けられてもよい。ローパスフィルタは、例えば、直列に接続された2つの抵抗R21、R22と、それらの間に並列に接続されたコンデンサC21を含むRCフィルタとすることができる。
図10は、帰還回路が1次の例であり、
図11は、帰還回路が2次の例である。
【0043】
図12及び
図13は、量子化器3のDラッチ回路の構成例を示す図である。
図12は、
図3のDラッチ回路DL1、DL2と同様の構成である。
図12及び
図13の例では、Dラッチ回路DL1は、直列に接続された2つのCMOSインバータIV3、IV4を有する。CMOSインバータIV3の出力がCMOSインバータIV4の入力に接続され、CMOSインバータIV4の出力は、スイッチS2を介してCMOSインバータIV3の入力に接続される。
図12では、2つのCMOSインバータIV3、IV4の間のノードが、Dラッチ回路DLの出力ノードとなっている。
図13では、CMOSインバータIV4の出力ノードが、Dラッチ回路DLの出力ノードとなっている。
図12は、入力信号を反転して出力するDラッチ回路の例であり、
図13は、入力信号を反転せずに出力するDラッチ回路の例である。
【0044】
【0045】
図16は、DFF回路31及びRTM回路32のスイッチの回路構成例を示す図である。
図16の例では、スイッチは、p型MOSFET(pMOS)とn型MOSFET(nMOS)を有する。pMOSのドレインとnMOSのドレインが接続され、pMOSとnMOSのソースが接続される。ドレインがスイッチの一方端子aであり、ソースがスイッチの他方端子bである。pMOSのゲート及びnMOSのゲートの一方にはクロック信号Φの反転信号が入力され、他方にはクロック信号Φの非反転信号が入力される。ゲートに閾値電圧は、クロック信号のハイレベルとローレベルの間の電圧に設定される。これにより、クロック信号に応じて、スイッチがオン/オフ制御される。
【0046】
図17及び
図18は、CMOSインバータの他の構成例を示す図である。
図17の例は、
図4に示すCMOSインバータにおいて、電圧源P1、P2を追加した構成である。電圧源P1は、CMOSインバータの入力端子TinとpMOSのゲートの間に接続される。電圧源P1により、入力端子TinよりpMOSのゲートの方が、電圧が高くなる。電圧源P2は、CMOSインバータの入力端子TinとnMOSのゲートの間に接続される。電圧源P2により、nMOSのゲートよりも、入力端子Tinの方が、電圧が高くなる。
【0047】
図18の例は、
図4に示すCMOSインバータにおいて、抵抗R41~R44及びダイオードD1、D2を追加した構成である。抵抗R41は、pMOSのゲートとソース側端子T1との間に接続される。pMOSのソース側端子T1には、例えば、電源電圧VDDが入力される。抵抗R42及びダイオードD1は、pMOSのゲートと入力端子Tinとの間に接続される。pMOSのゲートから入力端子Tinへ向かう方向がダイオードD1の順方向である。抵抗43及びダイオードD2は、入力端子TinとnMOSのゲートの間に接続される。入力端子TinからnMOSのゲートへ向かう方向がダイオードD2の順方向である。抵抗R44は、nMOSのゲートとnMOSのソース側端子T2の間に接続される。nMOSのソース側端子T2は、例えば、グランドに接続される。
【0048】
図17及び
図18に示すように、CMOSインバータにnMOS及びpMOSに加えてさらに部品を付加することで、CMOSインバータの特性を調整することができる。
図19は、
図4、
図17及び
図18のぞれぞれのCMOSインバータの入出力特性のシミュレーションによる解析結果を示すグラフである。
図19において、W1は
図4、W2は
図17、W3は
図18のそれぞれのCMOSインバータの解析結果を示す。
【0049】
本実施形態では、デルタシグマモジュレータにおいてRTM回路32を導入することで、簡単な構成で、精度低下を抑えることができる。また、CMOSインバータを増幅器として動作させることで、デルタシグマモジュレータをさらに簡単な構成にできる。上記例では、CMOSインバータ、スイッチ、抵抗、及びコンデンサの組み合わせでデルタシグマモジュレータを構成できる。例えば、オペアンプ等の複雑なアナログ回路を用いずに、デルタシグマモジュレータを構成できる。例えば、本実施形態のデルタシグマモジュレータは、ICで構成されてもよい。この場合、デルタシグマモジュレータは、回路構成が簡単になるため、IC化が容易になる。或いは、本実施形態のデルタシグマモジュレータは、CMOSインバータIC、スイッチIC、抵抗、及びコンデンサをブレッドボード上に実装することで構成されてもよい。
【0050】
デルタシグマモジュレータは、A/D変換器のアナログ部分として用いられてもよい。この場合、A/D変換器は、デルタシグマモジュレータと、デルタシグマモジュレータの出力信号を処理するデジタルフィルタを含む。この場合、デルタシグマモジュレータは、簡単な構成になるため、A/D変換器のアナログ部分を小さくできる。本発明のデルタシグマモジュレータは、これらに限定されないが、例えば、イメージセンサのカラムA/D変換器、又は、その他のセンサのアナログ出力をデジタルに変換するA/D変換器に用いることができる。この場合、センサのアナログ回路を小さくしつつも、A/D変換の精度を確保することができる。
【0051】
(シミュレーション結果)
図20は、
図3に示す回路構成のデルタシグマモジュレータの動作のシミュレーション結果を示す周波数スペクトラムである。
図20は、デルタシグマモジュレータのデジタル出力の周波数スペクトラムである。シミュレータはLTSPICEを用いた。
図20に示す結果から、
図3に示す回路構成のデルタシグマモジュレータにより、45dB程度の精度が達成可能であることがわかった。
【0052】
(実測結果)
図3に示す回路構成のデルタシグマモジュレータを試作し、測定を行った。
図21は、デルタシグマモジュレータの試作品における各部の動作波形を示す図である。
図21の左は横軸の目盛りが2msの波形であり、右は横軸の目盛りが2μmの波形である。上から順に、クロック信号、入力信号、RTM、再生信号の波形を示す。RTMは、RTM回路の出力波形である。再生信号は、デルタシグマモジュレータの出力を、アナログ低域通過フィルタを介して取り出した信号である。
図20に示す結果では、1ビット量子化の出力波形が、クロックの各周期でミドルレベルの電圧Vbに戻るRTMの波形となっている。
【0053】
図22(a)は、RTM回路を導入した構成(
図3に示す回路構成)の試作品の出力スペクトラムである。
図22(b)は、RTM未導入(
図3に示す回路構成からRTMを除いた構成)の試作品の出力スペクトラムを示す。RTM回路を導入した場合、RTM回路未導入の場合に比べて、精度の改善が見られた。
【0054】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
2:積分回路、3:量子化器、31:DFF回路、31:RTM回路