(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069865
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】顔料捺染インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20240515BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20240515BHJP
D06P 1/52 20060101ALI20240515BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20240515BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240515BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C09D11/322
C09D11/54
D06P1/52
C09B67/20 F
B41J2/01 501
B41J2/01 123
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41M5/00 134
B41M5/00 114
B41M5/00 132
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180118
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】中村 友
(72)【発明者】
【氏名】内田 健太
(72)【発明者】
【氏名】山田 明子
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FA10
2C056FB03
2C056FC01
2C056HA42
2C056HA46
2H186AA04
2H186AA05
2H186AB03
2H186AB10
2H186AB12
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2H186AB47
2H186AB57
2H186BA08
2H186DA17
2H186FA14
2H186FB11
2H186FB22
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB58
4H157CB08
4J039AE04
4J039AE06
4J039BA04
4J039BA14
4J039BA29
4J039BC09
4J039BC36
4J039BE12
4J039CA07
4J039EA36
4J039EA44
4J039EA46
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】優れた発色性(黒濃度)及び吐出信頼性を得ることができる顔料捺染インクジェットインク組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物は、30℃でのパルスNMRによる測定から算出される比表面積が50m2/g以上である自己分散ブラック顔料と、金属アルカリと、水溶性有機溶剤と、水と、を含有するものであり、前記金属アルカリの含有量に対する前記自己分散ブラック顔料の含有量が組成比で13以上40以下であり、前記水溶性有機溶剤は、SP値11以上の化合物を含有し、前記水溶性有機溶剤は、SP値11未満の化合物を、インク組成物の総量に対して0.3質量%を超えて含有しない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
30℃でのパルスNMRによる測定から算出される比表面積が50m2/g以上である自己分散ブラック顔料と、
金属アルカリと、
水溶性有機溶剤と、
水と、を含有し、
前記金属アルカリの含有量に対する前記自己分散ブラック顔料の含有量が組成比で13以上40以下であり、
前記水溶性有機溶剤は、SP値11以上の化合物を含有し、
前記水溶性有機溶剤は、SP値11未満の化合物を、インク組成物の総量に対して0.3質量%を超えて含有しない、顔料捺染インクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記自己分散ブラック顔料の含有量は、インク組成物の総量に対して3質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の顔料捺染インクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記インク組成物が、定着樹脂を含有し、
前記定着樹脂は、ポリカーボネート骨格を含むウレタン樹脂である、請求項1に記載の顔料捺染インクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記定着樹脂は、ブロックイソシアネートを含む反応型ウレタン樹脂である、請求項3に記載の顔料捺染インクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記定着樹脂の含有量は、インク組成物の総量に対して3質量%以上10質量%以下である、請求項3又は請求項4に記載の顔料捺染インクジェットインク組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の顔料捺染インクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して布帛に付着させるインク付着工程と、
カチオン性化合物を含有する処理液を、前記インクジェットヘッドから吐出して前記布帛に付着させる処理液付着工程と、を有し、
前記インク付着工程と、前記処理液付着工程とを、同一の主走査により前記布帛の同一の走査領域に対して行う、インクジェット記録方法。
【請求項7】
前記インクジェットヘッドは、ノズル形成面に、前記インク組成物を吐出する第1ノズル列と、前記インク組成物を吐出する第2ノズル列と、を有する、請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
さらに、樹脂粒子を含有するコート液を、前記インクジェットヘッドから吐出して前記布帛に付着させるコート液付着工程を有し、
前記コート液付着工程は、前記インク付着工程と同時又は後に行われ、
前記インク付着工程における前記インク組成物の打込量を1とした時の前記コート液付着工程における前記コート液の打込量が0.4以下である、請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料捺染インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
織物、編物及び不織布等の布帛に対して、画像を記録する捺染が知られている。近年、捺染に用いるインクを効率良く使用できる等との観点から、捺染においてもインクジェット記録方法が利用されている。そして、画像の発色性が良好である観点から、色材として顔料を含む顔料捺染インクジェットインク組成物が、インクジェット記録方法において用いられている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、自己分散顔料を含有する顔料捺染インクジェットインク組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、顔料捺染インクジェットインク組成物においては、特に黒色の濃度(発色性)が未だ十分ではなかった。一方で、発色性(黒濃度)を向上させると、吐出信頼性が低下する新たな課題が発生した。したがって、発色性(黒濃度)及び吐出信頼性に優れる顔料捺染インクジェットインク組成物が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る顔料捺染インクジェットインク組成物の一態様は、
30℃でのパルスNMRによる測定から算出される比表面積が50m2/g以上である自己分散ブラック顔料と、
金属アルカリと、
水溶性有機溶剤と、
水と、を含有するものであり、
前記金属アルカリの含有量に対する前記自己分散ブラック顔料の含有量が組成比で13以上40以下であり、
前記水溶性有機溶剤は、SP値11以上の化合物を含有し、
前記水溶性有機溶剤は、SP値11未満の化合物を、インク組成物の総量に対して0.3質量%を超えて含有しない。
【0007】
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
上記一態様の顔料捺染インクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して布帛に付着させるインク付着工程と、
カチオン性化合物を含有する処理液を、前記インクジェットヘッドから吐出して前記布帛に付着させる処理液付着工程と、を有し、
前記インク付着工程と、前記処理液付着工程とを、同一の主走査により前記布帛の同一の走査領域に対して行うものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る記録方法に適用可能なインクジェット捺染装置の概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0010】
1.顔料捺染インクジェットインク組成物
本発明の一実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物は、30℃でのパルスNMRによる測定から算出される比表面積が50m2/g以上である自己分散ブラック顔料と、金属アルカリと、水溶性有機溶剤と、水と、を含有するものであり、前記金属アルカリの含有量に対する前記自己分散ブラック顔料の含有量が組成比で13以上40以下であり、前記水溶性有機溶剤は、SP値11以上の化合物を含有し、前記水溶性有機溶剤は、SP値11未満の化合物を、インク組成物の総量に対して0.3質量%を超えて含有しない。
【0011】
顔料捺染インクジェットインク組成物においては、特に発色性(黒濃度)が未だ十分ではなかった。そこで、30℃でのパルスNMRによる測定から算出される比表面積が50m2/g以上である自己分散ブラック顔料(比表面積が大きい特定の顔料)を用いることで、発色性(黒濃度)を向上させることができた。これは、顔料の比表面積が大きいことにより、カチオン性化合物等のインクを凝集させる成分を含む処理液との反応性が向上するためと推測する。すなわち、比表面積が大きい顔料は、凝集が起こりやすく、また記録媒体表面に吸着しやすく、記録媒体表面により留まりやすいものであるため発色性(黒濃度)が向上する。
【0012】
一方で、比表面積が大きい特定の顔料を用いる場合には、反応性が高いことに起因すると推測されるインクジェットヘッドの目詰まりが生じやすく、吐出信頼性が低下するという新たな課題が発生した。
【0013】
これに際して、本発明者らは、金属アルカリを特定範囲内の量で含有させることで、比表面積が大きい特定の顔料を含有する場合であっても、インクの分散安定性が向上し、吐出信頼性が改善することを見出した。加えて、水溶性有機溶剤におけるSP値を調整することにより、比表面積が大きい特定の顔料の分散安定性をより向上させ、乾燥時の急激な増粘を抑えて吐出信頼性が改善できた。以上のように、本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物によれば、優れた発色性(黒濃度)及び吐出信頼性を得ることができる。
【0014】
以下、本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物(以下、「インク組成物」ともいう。)に含有される各成分について説明する。
【0015】
1.1 自己分散ブラック顔料
本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物は、30℃でのパルスNMRによる測定から算出される比表面積が50m2/g以上である自己分散ブラック顔料を含有する。
【0016】
「自己分散」とは、分散剤等が併存しなくともそれ自身で媒体中に分散できる性質をいう。すなわち、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても、その表面の親水基により、媒体中に安定に存在している状態である。
【0017】
自己分散ブラック顔料は、特に限定されないが、その表面にカルボニル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ヒドロキシル基、スルホン基、アンモニウム基、及びこれらの塩からなる群より選択される1種以上の官能基が、直接的又は間接的に結合することにより表面改質された顔料であることが好ましい。自己分散ブラック顔料は、特に、高濃度で黒色を印刷でき、吐出信頼性に一層優れる観点から、カーボンブラックを表面改質したものであることが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170(以上商品名、デグサ社製)等が挙げられる。
【0018】
自己分散ブラック顔料の表面改質としては、次亜ハロゲン酸若しくは次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、オゾンによる酸化処理、又は、過硫酸若しくは過硫酸塩による酸化処理が好ましい。
【0019】
自己分散ブラック顔料としては、公知の方法で調整した調製品又は市販品が用いられる。市販品としては、例えば、オリエント化学工業(株)製の「マイクロジェットCW1」、「マイクロジェットCW2」、キャボット社製の「CAB-O-JET 200」、「CAB-O-JET 300」等が挙げられる。
【0020】
自己分散ブラック顔料は、30℃でのパルスNMRによる測定から算出される比表面積が50m2/g以上である。上記比表面積は、発色性(黒濃度)により優れる傾向にある観点から、60m2/g以上が好ましく、70m2/g以上がより好ましく、80m2/g以上がさらに好ましい。また、上記比表面積は、吐出信頼性により優れる傾向にある観点から、500m2/g以下であることが好ましく、350m2/g以下であることがより好ましく、200m2/g以下であることがさらに好ましく、150m2/g以下であることが特に好ましい。
【0021】
パルスNMRによる測定から算出される自己分散ブラック顔料の比表面積(Sp)は、下記式(1)で求められる自己分散ブラック顔料の体積濃度(Ψp)を用いて、下記式(2)により得られる。
【0022】
Ψp=(Sc/Sd)/[(1-Sc)/Td] ・・・式(1)
(式中、Scは、測定試料(自己分散ブラック顔料の分散液)の顔料固形分濃度(質量%)を示し、Sdは、測定試料(自己分散ブラック顔料の分散液)の顔料の密度[g/cm3]を示し、Tdは、測定試料(分散媒)の密度[g/cm3]を示す。)
【0023】
ここで、固形分濃度とは、対象の物質(ここでは、自己分散ブラック顔料)を分散液中の固形分として換算した濃度である。Sdは、例えば、自己分散ブラック顔料の構成成分がカーボンブラックである場合には1.7を用いる。Tdは、例えば、分散媒が水である場合には1.0を用い、他の種類の分散媒あるいは分散媒の混合物を使用する場合は、それに応じた密度を用いる。
【0024】
Sp={[(Rav/Rb)-1]×Rb}/(Ka×Ψp) ・・・式(2)
(式中、Spは、インク組成物中の自己分散ブラック顔料の比表面積[m2/g]を示し、Ravは、測定試料(自己分散ブラック顔料の分散液)を用いて得られたパルスNMRの測定値(緩和時間)の逆数を示し、Rbは、測定試料(分散媒)を用いて得られたパルスNMRの測定値(緩和時間)の逆数を示し、Kaは、使用する分散媒と自己分散ブラック顔料による係数(Ka=0.0016)を示す。)
【0025】
自己分散ブラック顔料の比表面積を調整する方法としては、自己分散ブラック顔料の表面処理に用いる表面処理剤の濃度、添加量などを調整したり、表面処理条件(例えば、処理温度、処理時間等)を調整したり、表面処理剤の種類などを適宜変更するといった方法が挙げられる。通常、顔料表面に導入された官能基の量が多いと比表面積は大きくなる傾向にある。なお、顔料表面の単位面積当たりの官能基導入量が等しい場合に、顔料の体積平均粒子径が小さいほうが、自己分散顔料の比表面積が大きくなる傾向にある。
【0026】
自己分散ブラック顔料の平均粒子径(D50)は、インク組成物の吐出信頼性及び発色性(黒濃度)により優れる傾向にある観点から、5nm~400nmの範囲が好ましく、30nm~300nmの範囲がより好ましく、50nm~200nmの範囲がさらに好ましい。
【0027】
なお、「平均粒子径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒子径のことを指すものとする。平均粒子径は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置として、例えば、「マイクロトラックシリーズ」(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いることができる。
【0028】
自己分散ブラック顔料の含有量は、発色性(黒濃度)により優れる傾向にある観点から、インク組成物の総量に対して、0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましく、3.0質量%以上が特に好ましく、3.5質量%以上がより特に好ましい。また、自己分散ブラック顔料の含有量は、摩擦堅牢性や吐出信頼性により優れる傾向にある観点から、インク組成物の総量に対して、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、8質量%以下が特に好ましく、5質量%以下がより特に好ましい。
特に、自己分散ブラック顔料の含有量は、インク組成物の総量に対して3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。自己分散ブラック顔料の含有量がこのような範囲内にあると、発色性(黒濃度)と摩擦堅牢性との両者に優れる傾向がある。
【0029】
1.2 金属アルカリ
本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物は、金属アルカリを含有する。金属アルカリとしては、金属元素を有するアルカリ成分であれば特に限定されないが、例えば、金属水酸化物が挙げられ、より具体的には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化リチウムからなる群より選ばれる1つ以上が挙げられる。金属アルカリは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0030】
本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物は、金属アルカリの含有量に対する前述の自己分散ブラック顔料の含有量が組成比で13以上40以下であり、15以上35以下が好ましく、17以上32以下がより好ましく、20以上30以下がさらに好ましく、22以上28以下が特に好ましい。該組成比が13以上であると、自己分散ブラック顔料の表面の親水基による反発力が十分となり、優れたインクの分散安定性が得られる。また、該組成比が40以下であると、金属アルカリによるアタック性が抑制されるため、優れたインクの分散安定性が得られる。
【0031】
金属アルカリの含有量は、吐出信頼性がより向上する観点から、インク組成物の総量に対して0.05質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
1.3 水溶性有機溶剤
本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物は、水溶性有機溶剤を含有する。なお、「水溶性有機溶剤」とは、水に対して溶解性を示す有機溶剤であればよいが、例えば、20℃における水への溶解度が10g/100g水以上の有機溶剤を好適に用いることができる。
【0033】
有機溶剤としては、例えば、エステル類、アルキレングリコールエーテル類、環状エステル類、含窒素溶剤、アルコール類、多価アルコール類等を挙げることができる。含窒素溶剤としては環状アミド類、非環状アミド類などを挙げることができる。非環状アミド類としてはアルコキシアルキルアミド類などが挙げられる。
【0034】
エステル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート、等のグリコールモノアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート、等のグリコールジエステル類が挙げられる。
【0035】
アルキレングリコールエーテル類としては、アルキレングリコールのモノエーテル又はジエーテルであればよく、アルキルエーテルが好ましい。具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類;及び、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテル類が挙げられる。
【0036】
環状エステル類としては、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、β-ヘキサノラクトン、γ-ヘキサノラクトン、δ-ヘキサノラクトン、β-ヘプタノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-ヘプタノラクトン、ε-ヘプタノラクトン、γ-オクタノラクトン、δ-オクタノラクトン、ε-オクタノラクトン、δ-ノナラクトン、ε-ノナラクトン、ε-デカノラクトン等の環状エステル類(ラクトン類)、並びに、それらのカルボニル基に隣接するメチレン基の水素が炭素数1~4のアルキル基によって置換された化合物を挙げることができる。
【0037】
アルコキシアルキルアミド類としては、例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、等を例示することができる。
【0038】
環状アミド類としては、ラクタム類が挙げられ、例えば、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン、1-プロピル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、等のピロリドン類などが挙げられる。これらは樹脂の皮膜化を促進させる点で好ましく、特に2-ピロリドンがより好ましい。
【0039】
アルコール類としては、例えば、アルカンが有する1つの水素原子がヒドロキシル基によって置換された化合物が挙げられる。該アルカンとしては、炭素数10以下のものが好ましく、6以下のものがより好ましく、3以下のものが更に好ましい。アルカンの炭素数は1以上であり、2以上であることが好ましい。アルカンは、直鎖型であってもよく、分枝型であってもよい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、及びtert-ペンタノール、2-フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、フェノキシプロパノールなどがあげられる。
【0040】
多価アルコール類は、分子中に2個以上の水酸基を有するものである。多価アルコール類は、例えば、アルカンジオール類とポリオール類とに分けることができる。
【0041】
アルカンジオール類とは、例えば、アルカンが2個の水酸基で置換された化合物が挙げられる。アルカンジオール類としては、例えば、エチレングリコール(別名:エタン-1,2-ジオール)、プロピレングリコール(別名:プロパン-1,2-ジオール)、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブチレングリコール(別名:1,3-ブタンジオール)、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール等を挙げることができる。
【0042】
ポリオール類としては、例えば、アルカンジオール類の2分子以上が水酸基同士で分子間縮合した縮合物、水酸基を3個以上有する化合物などが挙げられる。
【0043】
アルカンジオール類の2分子以上が水酸基同士で分子間縮合した縮合物としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のジアルキレングリコールや、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のトリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0044】
水酸基を3個以上有する化合物は、アルカンやポリエーテル構造を骨格とする、3個以上の水酸基を有する化合物である。水酸基を3個以上有する化合物としては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,5-ヘキサントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ポリオキシプロピレントリオールなどが挙げられる。
【0045】
水溶性有機溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して5~40質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましく、15~25質量%がさらに好ましい。
【0047】
本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物における水溶性有機溶剤は、SP値11以上の化合物を含有する。これにより、比表面積が大きい特定の顔料の分散安定性をより向上させ、乾燥時の急激な増粘を抑えて吐出信頼性を改善できる。
【0048】
水溶性有機溶剤は、吐出信頼性により優れる傾向にある観点から、SP値11.5以上の化合物を含有することが好ましく、SP値12以上の化合物を含有することがより好ましく、SP値12.5以上の化合物を含有することがさらに好ましく、SP値13以上の化合物を含有することが特に好ましく、SP値13.5以上の化合物を含有することがより特に好ましく、SP値14以上の化合物を含有することが殊更に好ましい。
【0049】
ここで、「SP値」とは、相溶化パラメーター(Solubility Parameter)といい、溶解度パラメーターともいうことができる。以下に示されるハンセン(Hansen)の数式を用いて算出された値を意味する。Hansenの溶解度パラメーターは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメーターを、分散項δd、極性項δp、及び水素結合項δhの3成分に分割し、3次元空間に表したものである。本明細書においては、SP値をδ[(cal/cm3)0.5]で表し、下記式(3)を用いて算出される値を用いる。
δ[(cal/cm3)0.5]=(δd2+δp2+δh2)0.5 ・・・式(3)
【0050】
SP値11以上の化合物としては、例えば、1,2-ヘキサンジオール(SP値:12.2)、N-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(SP値:12.5)、ジエチレングリコール(SP値:13.7)、プロピレングリコール(SP値:14.2)、エチレングリコール(SP値:16.1)、グリセリン(SP値:16.7)等が挙げられる。これらの中でも、グリセリン(SP値:16.7)、プロピレングリコール(SP値:14.2)がより好ましい。
【0051】
SP値11以上の化合物の含有量は、吐出信頼性により優れる傾向にある観点から、インク組成物の総量に対して5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。
また、吐出信頼性にさらに優れる傾向にある観点から、SP値16以上の化合物の含有量は、インク組成物の総量に対して10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。
【0052】
本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物における水溶性有機溶剤は、SP値11未満の化合物を、インク組成物の総量に対して0.3質量%を超えて含有しない。これにより、比表面積が大きい特定の顔料の分散安定性をより向上させ、乾燥時の急激な増粘を抑えて吐出信頼性を改善できる。
【0053】
水溶性有機溶剤は、吐出信頼性により優れる傾向にある観点から、SP値11未満の化合物を、インク組成物の総量に対して0.25質量%を超えて含有しないことが好ましく、0.2質量%を超えて含有しないことがより好ましく、0.1質量%を超えて含有しないことがさらに好ましく、0.05質量%を超えて含有しないことが特に好ましく、含有しないことがより特に好ましい。
【0054】
SP値11未満の化合物としては、例えば、2-メチルペンタン-1,3-ジオール(SP値10.3)、エチレングリコールモノエチルエーテル(SP値10.5)、エチレングリコールモノブチルエーテル(SP値9.5)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値10.2)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.0)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.2)、2-ピロリドン(SP値:10.9)等が挙げられる。
【0055】
1.4 水
本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物は、水を含有する。水としては、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水などの純水又は超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を紫外線照射又は過酸化水素添加などにより滅菌処理した水は、長期間に亘りカビやバクテリアの発生を抑制することができるので好ましい。
【0056】
水の含有量は、特に限定されないが、インク組成物の総量に対して30~95質量%が好ましく、40~90質量%がより好ましく、50~80質量%がさらに好ましい。
【0057】
1.5 定着樹脂
本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物は、定着樹脂を含有することが好ましい。定着樹脂は、記録媒体に付着させたインク組成物の成分の密着性を向上させ、摩擦堅牢性をより向上できる機能を有する。このような定着樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂(スチレンアクリル樹脂含む)、フルオレン樹脂、オレフィン樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル樹脂等からなる定着樹脂が挙げられる。これらの定着樹脂は、粒子状(樹脂粒子)であってもよく、エマルジョン形態で取り扱われることが多いが、粉体の性状であってもよい。
【0058】
ウレタン樹脂とは、ウレタン骨格を有する樹脂の総称であり、イソシアネート基が水酸基、アミノ基、ウレタン結合基、カルボキシル基等の活性水素含有基と反応して形成されるウレタン結合、尿素結合、又はアロファネート結合を含む樹脂をいう。ウレタン樹脂には、ウレタン骨格以外に、主鎖にエーテル骨格を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル骨格を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート骨格を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂等を使用できる。
【0059】
アクリル樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体を1成分として重合して得られる重合体の総称であって、例えば、アクリル系単量体から得られる樹脂や、アクリル系単量体とこれ以外の単量体との共重合体などが挙げられる。アクリル系単量体としてはアクリルアミド、アクリロニトリル等も使用可能である。なお、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを表す。
【0060】
アクリル樹脂は、例えばアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であるアクリル-ビニル系樹脂、スチレンなどのビニル系単量体との共重合体が挙げられる。なかでもスチレンアクリル樹脂は、スチレン単量体とアクリル系単量体とから得られる共重合体であり、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。
【0061】
オレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンに由来する構造を有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。
【0062】
定着樹脂は、1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0063】
定着樹脂は、市販品を用いてもよく、例えば、タケラックWS5100(架橋性ウレタン樹脂、ポリカーボネート系、三井化学社製)、タケラックW6110(非架橋性ウレタン樹脂、ポリカーボネート系、三井化学社製)、タケラックW5661(非架橋性ウレタン樹脂、ポリエーテル系、三井化学社製)などが挙げられる。
【0064】
これらの中でも、定着樹脂は、摩擦堅牢性により優れる傾向にある観点から、ポリカーボネート骨格を含むウレタン樹脂であることが好ましい。「ポリカーボネート骨格」としては、例えば、下記式(4)で表される骨格であることが好ましい。
【0065】
-O[-(C=O)-O-R-O]n- ・・・式(4)
(式中、Rは、直鎖状若しくは分岐状又は環状のアルキレン基を表し、上記アルキレン基は、エーテル結合及び/又はエステル結合を有してもよく、nは、1以上の整数を表す。)
【0066】
特に、定着樹脂は、摩擦堅牢性にさらに優れる傾向にある観点から、ポリカーボネート骨格を含むウレタン樹脂であって、かつ、ブロックイソシアネートを含む反応型ウレタン樹脂であることが好ましい。
【0067】
「ブロックイソシアネートを含む反応型ウレタン樹脂」とは、イソシアネート基が、ブロック剤により化学的に保護、つまり、キャッピングあるいはブロッキングされている、ブロックドイソシアネート基を含む架橋性のウレタン樹脂である。ブロックドイソシアネート基は、熱が加えられることにより脱保護されて活性化し、結合、例えば、ウレタン結合、尿素結合、アロファネート結合等を形成することになる。
【0068】
ブロックイソシアネートを含む反応型ウレタン樹脂のブロックドイソシアネート基は、1分子に3つ以上設けられていることが好ましく、そのような場合活性イソシアネート基の反応により、架橋構造が形成される。
【0069】
ブロック剤は、イソシアネート基をブロックして不活性化する一方、脱ブロック後にはイソシアネート基を再生又は活性化し、また、イソシアネート基をブロックした状態及び脱ブロックされた状態において、イソシアネート基を活性化させる触媒作用も有する。
【0070】
ブロック剤としては、例えば、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ピリミジン系化合物、グアニジン系化合物、アルコール系化合物、フェノール系化合物、活性メチレン系化合物、アミン系化合物、イミン系化合物、オキシム系化合物、カルバミン酸系化合物、尿素系化合物、酸アミド系(ラクタム系)化合物、酸イミド系化合物、トリアゾール系化合物、ピラゾール系化合物、メルカプタン系化合物、重亜硫酸塩等が挙げられる。
【0071】
定着樹脂の含有量は、インク組成物の総量に対して3質量%以上10質量%以下であることが好ましく、4質量%以上9質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。定着樹脂の含有量が上記範囲内にあると、摩擦堅牢性と、吐出信頼性や保存安定性とをバランスよく向上できる傾向にある。
【0072】
1.6 界面活性剤
本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物は、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤は、インク組成物の表面張力を低下させ記録媒体との濡れ性を向上させる機能を備える。界面活性剤の中でも、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0073】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、エア・プロダクツ&ケミカルズ社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上全て商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
【0074】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業社製)、シルフェイスSAG002、005、503A、008(以上商品名、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0075】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-3440(ビックケミー・ジャパン社製)、サーフロンS-241、S-242、S-243(以上商品名、AGCセイミケミカル社製)、フタージェント215M(ネオス社製)等が挙げられる。
【0076】
上記界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0077】
界面活性剤を含有させる場合の含有量は、インク組成物の総量に対して、0.1質量%以上2質量%以下が好ましく、0.4質量%以上1.5質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上1.0質量%以下がさらに好ましい。
【0078】
1.7 その他の成分
本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物は、必要に応じて、pH調整剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート剤、粘度調整剤、溶解助剤、酸化防止剤等の添加剤を含有してもよい。このような添加剤を含有させる場合の含有量は、インク組成物の総量に対して0.1~5質量%が好ましく、0.1~3質量がより好ましく、0.1~1質量%がさらに好ましい。
【0079】
1.8 インク組成物の調製方法及び物性
本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物は、前述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0080】
本実施形態に係る顔料捺染インクジェットインク組成物は、インクジェット法によって記録媒体に付与される。そのため、顔料捺染インクジェットインク組成物は、記録品質とインクジェット記録用のインクとしての信頼性とのバランスの観点から、25℃における表面張力が10mN/m以上40mN/m以下であることが好ましく、25mN/m以上40mN/m以下であることがより好ましい。表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計CBVP-Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、25℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0081】
また、同様の観点から、顔料捺染インクジェットインク組成物の20℃における粘度は、2mPa・s以上15mPa・s以下であることが好ましく、2mPa・s以上5mPa・s以下であることがより好ましく、2mPa・s以上3.6mPa・s以下であることがより好ましい。粘度の測定は、例えば、粘弾性試験機MCR-300(商品名、Pysica社製)を用いて20℃の環境下での粘度を測定することができる。
【0082】
2.インクジェット記録方法
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法は、上述の顔料捺染インクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して布帛に付着させるインク付着工程と、カチオン性化合物を含有する処理液を、前記インクジェットヘッドから吐出して前記布帛に付着させる処理液付着工程と、を有し、前記インク付着工程と、前記処理液付着工程とを、同一の主走査により前記布帛の同一の走査領域に対して行うものである。
【0083】
本実施形態に係る記録方法によれば、上述の顔料捺染インクジェットインク組成物を用いるものであるため、優れた発色性(黒濃度)及び吐出信頼性を得ることができる。
【0084】
以下、本実施形態に係る記録方法が備える、各工程について説明する。
【0085】
2.1 インク付着工程
本実施形態に係る記録方法は、上述の顔料捺染インクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して布帛に付着させるインク付着工程を有する。
【0086】
布帛を構成する素材としては、特に限定されず、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリウレタン等の合成繊維、ポリ乳酸等の生分解性繊維等が挙げられ、これらの混紡繊維であってもよい。布帛は、上記の繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。
【0087】
本実施形態において、布帛の形態としては、例えば、布地、衣類やその他の服飾品等が挙げられる。布地には、織物、編物、不織布等が含まれる。衣類やその他の服飾品には、縫製後のTシャツ、ハンカチ、スカーフ、タオル、手提げ袋、布製のバッグ、カーテン、シーツ、ベッドカバー、壁紙等のファーニチャー類の他、縫製前の部品としての裁断前後の布地なども含まれる。これらの形態としては、ロール状に巻かれた長尺のもの、所定の大きさに切断されたもの、製品形状のもの等が挙げられる。
【0088】
布帛としては、染料によって予め着色された綿布帛を用いてもよい。布帛が予め着色される染料としては、例えば、酸性染料、塩基性染料等の水溶性染料、分散剤を併用する分散染料、反応性染料等が挙げられる。布帛の綿布帛を用いる場合には、綿の染色に適した反応性染料を用いることが好ましい。
【0089】
顔料捺染インクジェットインク組成物の付着量は、布帛の記録領域の単位面積あたり、10~40g/m2であることが好ましく、15~35g/m2であることがより好ましく、20~30g/m2であることがさらに好ましい。
一方で、インクジェットヘッドが、ノズル形成面に、インク組成物を吐出する第1ノズル列と、インク組成物を吐出する第2ノズル列と、を有する場合(後述する)においては、顔料捺染インクジェットインク組成物の付着量は、布帛の記録領域の単位面積あたり、20~80g/m2であることが好ましく、30~70g/m2であることがより好ましく、40~60g/m2であることがさらに好ましい。インク組成物の付着量が上記範囲内であると、発色性(黒濃度)により優れる傾向にある。
【0090】
本実施形態に係る記録方法は、インク付着工程と、後述の処理液付着工程とを、同一の主走査により前記布帛の同一の走査領域に対して行うものである。このような、インク組成物と処理液とを、同一の主走査(インクジェットヘッドを布帛の搬送方向と垂直方向に移動させること)により、布帛の同一の走査領域に対して付着させる態様(ウェットオンウェット方式)であると、両者は液体同士で接触する。これにより、インク組成物と処理液の反応が進行しやすく、布帛表面におけるインクの定着性が良好になるため、発色性(黒濃度)がより向上する。
【0091】
なお、インクジェット法により処理液を塗布することで、インクジェット法ではないスプレー等により塗布する場合と比較して、発色性(黒濃度)により優れる傾向にある。これは、インクジェット法による塗布であると、吐出量を少なく制御でき、かつ、ウェットオンウェット方式で即座にインクと接触できるため、処理液とインクの反応が進行しやすくなったものと推測される。これに対して、インクジェット法ではないスプレー等による塗布の場合には、吐出量を少なく制御することは難しく、また通常乾燥工程を経ることで、インクと処理液がウェットオンウェット方式で即座に接触することはないため、処理液とインクの反応に劣った。すなわち、処理液をスプレー等により多量に布帛に塗布し乾燥を行った後においては、処理液自体が布帛内部に浸透してしまうことや、処理液の乾燥後の成分とインクとの反応は固体/液体の反応であることなどに起因して、後から着弾するインクがすぐには凝集せず、発色性(黒濃度)に劣る傾向にある。
【0092】
インク付着工程においては、上述の顔料捺染インクジェットインク組成物の他に、カラーインク組成物を付着させてもよい。
【0093】
<カラーインク組成物>
カラーインク組成物は、ブラック以外の、例えば、シアン、イエロー、マゼンタなどの色材を含有する。色材以外の成分及びその含有量等は、上述の顔料捺染インクジェットインク組成物と同様にできる。
【0094】
色材としては、染料と顔料のいずれも用いることができる。顔料は、光やガス等に対して退色しにくい性質を有していることから、好ましく用いられる。顔料を用いて記録媒体上に形成された画像は、画質に優れるだけでなく、耐水性、耐ガス性、耐光性等に優れ、保存性が良好となる。この性質は、特に低浸透性基材及び非浸透性基材である記録媒体上に画像が形成される場合に顕著である。
【0095】
顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄などを使用することができる。一方、有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料等を使用することができる。アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キノフラロン顔料等が挙げられる。
【0096】
ホワイトインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化マグネシウム、及び酸化ジルコニウムの白色無機顔料が挙げられる。当該白色無機顔料以外に、白色の中空樹脂微粒子及び高分子粒子などの白色有機顔料を使用することもできる。
【0097】
イエローインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0098】
マゼンタインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0099】
シアンインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
【0100】
また、マゼンタ、シアン、およびイエロー以外のカラーインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメント グリーン 7、10、C.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63が挙げられる。
【0101】
パール顔料としては、特に限定されないが、例えば、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。
【0102】
メタリック顔料としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などの単体又は合金からなる粒子が挙げられる。
【0103】
色材として顔料を使用する場合には、顔料が水中で安定的に分散保持できるようにすることが好ましい。その方法としては、水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂等の樹脂分散剤にて分散させる方法(以下、この方法により処理された顔料を「樹脂分散顔料」ということがある。)、分散剤にて分散させる方法(以下、この方法により処理された顔料を「分散剤分散顔料」ということがある。)、顔料粒子表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、前記の樹脂あるいは分散剤なしで水中に分散及び/又は溶解可能とする方法(以下、この方法により処理された顔料を「表面処理顔料」ということがある。)等が挙げられる。
【0104】
カラーインク組成物は、前記の樹脂分散顔料、分散剤分散顔料、表面処理顔料のいずれも用いることができ、必要に応じて複数種混合した形で用いることもできるが、樹脂分散顔料を含有していることが好ましい。
【0105】
樹脂分散顔料に用いられる樹脂分散剤としては、ポリビニルアルコール類、ポリアクリル酸、アクリル酸-アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体、酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル-クロトン酸共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体等及びこれらの塩が挙げられる。これらの中でも、疎水性官能基を有するモノマーと親水性官能基を持つモノマーとの共重合体、疎水性官能基と親水性官能基とを併せ持つモノマーからなる重合体が好ましい。共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0106】
樹脂分散剤の含有割合は、分散すべき顔料によって適宜選択することができるが、カラーインク組成物中の顔料の含有量100質量部に対して、好ましくは5質量部以上200質量部以下、より好ましくは30質量部以上120質量部以下である。
【0107】
染料としては、酸性染料が好ましい。酸性染料としては、アゾ系,アントラキノン系,ピラゾロン系,フタロシアニン系,キサンテン系,インジゴイド系,トリフェニルメタン系等が挙げられる。酸性染料の具体例としては、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94等が挙げられる。染料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
カラーインク組成物に含まれる色材の含有量の下限値は、カラーインク組成物の全質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。一方、カラーインク組成物に含まれる色材の含有量の上限値は、カラーインク組成物の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。色材の含有量が前記範囲にあることにより、記録媒体上に形成された画像は、耐水性、耐ガス性、耐光性等に優れ、インク保存性も良好となる。
【0109】
2.2 処理液付着工程
本実施形態に係る記録方法は、カチオン性化合物を含有する処理液を、インクジェットヘッドから吐出して布帛に付着させる処理液付着工程を有する。
【0110】
なお、処理液は、布帛に着色を行うために用いるインク組成物ではなく、インク組成物と共に用いる補助液である。また、処理液は、インク組成物の成分を凝集または増粘させ得るものであることが好ましく、インク組成物の成分を凝集または増粘させる成分を含むものであることがより好ましい。処理液は、色材を含有してもよいが、処理液の総質量に対して0.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましく、下限は0質量%である。処理液は色材を含有しないことが好ましい。
【0111】
処理液の付着量は、布帛の記録領域の単位面積あたり、10~40g/m2であることが好ましく、15~35g/m2であることがより好ましく、20~30g/m2であることがさらに好ましい。
【0112】
<処理液>
以下、処理液に含有する各成分について説明する。なお、処理液は、上述の顔料捺染インクジェットインク組成物と同様の成分を含有するものであってよく、含有量についても同様とできる。
【0113】
〔凝集剤〕
処理液は凝集剤を含有する。凝集剤は、インク組成物に含まれる顔料や樹脂等の成分と速やかに反応し得る。そうすると、インク組成物中の成分の分散状態が破壊されて凝集し、この凝集物が顔料の記録媒体への浸透を阻害するため、記録画像の画質の向上の点で優れたものとなると考えられる。
【0114】
凝集剤としては、例えば、多価金属塩、カチオン性樹脂、カチオン性界面活性剤等のカチオン性化合物、有機酸が挙げられる。これらの凝集剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの凝集剤の中でも、インク組成物に含まれる成分との反応性に優れるという点から、カチオン性化合物を用いることが好ましい。
【0115】
多価金属塩としては、二価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶な化合物である。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+などの二価金属イオン;Al3+、Fe3+、Cr3+などの三価金属イオンが挙げられる。陰イオンとしては、Cl-、I-、Br-、SO4
2-、ClO3-、NO3-、およびHCOO-、CH3COO-などが挙げられる。これらの多価金属塩の中でも、処理液の安定性や凝集剤としての反応性の観点から、カルシウム塩およびマグネシウム塩が好ましい。
【0116】
カチオン性樹脂としては、例えば、カチオン性のウレタン樹脂、カチオン性のオレフィン樹脂、カチオン性のアミン系樹脂などが挙げられる。カチオン性のアミン系樹脂はアミノ基を有する樹脂であればよく、アリルアミン樹脂、ポリアミン樹脂、4級アンモニウム塩ポリマー、ポリアミド樹脂等が挙げられる。ポリアミン樹脂として樹脂の主骨格中にアミノ基を有するものが挙げられる。アリルアミン樹脂としては樹脂の主骨格中にアリル基に由来する構造を有するものが挙げられる。4級アンモニウム塩ポリマーは構造中に4級アンモニウム塩を有する樹脂が挙げられる。ポリアミド樹脂としては、樹脂の主骨格中にアミド基を有し、樹脂の側鎖にアミノ基を有するものが挙げられる。カチオン性樹脂の中でも、カチオン性のアミン系樹脂は反応性が優れるだけでなく、入手しやすいため好ましい。
【0117】
有機酸としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ピルビン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。有機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機酸の塩で多価金属塩でもあるものは多価金属塩に含めるものとする。
【0118】
処理液の凝集剤の濃度は、処理液の総量に対し、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。また、処理液の凝集剤の濃度は、処理液の総質量に対し、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、8質量%以下であることが特に好ましい。
【0119】
〔水〕
処理液は、水を含有していてもよい。用いることができる水としては、上述した顔料捺染インクジェットインク組成物と同様にできる。
【0120】
水の含有量は、処理液の総量に対し、50~99質量%が好ましく、60~98質量%がより好ましく、70~97質量%がさらに好ましく、80~96質量%が特に好ましい。
【0121】
〔界面活性剤〕
処理液は、界面活性剤を含有していてもよい。用いることができる界面活性剤やその含有量としては、上述した顔料捺染インクジェットインク組成物と同様にできる。
【0122】
〔その他の成分〕
処理液は、有機溶剤を含有してもよい。また、必要に応じて、pH調整剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート剤、粘度調整剤、溶解助剤、酸化防止剤等の添加剤を含有してもよい。
【0123】
2.3 コート液付着工程
本実施形態に係る記録方法は、さらに、樹脂粒子を含有するコート液を、インクジェットヘッドから吐出して布帛に付着させるコート液付着工程を有していてもよい。
【0124】
コート液付着工程を有することで、摩擦堅牢性をより向上させることができる。一方で、コート液付着工程を有する場合には、布帛上の液体量が多くなり、インク組成物中の顔料が布帛内部に移動してしまい、発色性が低下しやすい課題が従来あった。これに対して、本実施形態に係る記録方法によれば、優れた発色性(黒濃度)を維持しつつ、摩擦堅牢性においてもより優れたものにできる。
【0125】
コート液付着工程は、上述のインク付着工程と同時又は後に行われることが好ましい。このような順序でコート液付着工程を行うことで、摩擦堅牢性により優れる傾向にある。なお、上述のインク付着工程の後にコート液付着工程を行う場合、インクが乾燥する前にコート液付着工程を行っても、インクが乾燥してからコート液付着工程を行ってもよい。本発明の効果をより享受できる観点から、インクが乾燥する前にコート液付着工程を行うことが好ましい。
【0126】
コート液の付着量(打込量)は、布帛の記録領域の単位面積あたり、2~40g/m2であることが好ましく、3~30g/m2であることがより好ましく、4~20g/m2であることがさらに好ましく、5~15g/m2であることが特に好ましい。
【0127】
コート液付着工程においては、上述のインク付着工程におけるインク組成物の打込量を1とした時のコート液付着工程におけるコート液の打込量が1.0以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.6以下であることがさらに好ましく、0.4以下であることが特に好ましい。コート液の該打込量の下限値は、特に限定されないが、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。コート液の該打込量が上記範囲内にあると、発色性(黒濃度)と摩擦堅牢性をバランスよく向上できる傾向にある。
【0128】
<コート液>
以下、コート液に含有する各成分について説明する。なお、コート液は、上述の顔料捺染インクジェットインク組成物と同様の成分を含有するものであってよく、含有量についても同様とできる。
【0129】
〔樹脂粒子〕
コート液は、樹脂粒子を含有する。樹脂粒子としては、上述の顔料捺染インクジェットインク組成物に含有し得る、粒子状の定着樹脂と同様にできる。
【0130】
樹脂粒子は、摩擦堅牢性に優れる傾向にある観点から、ポリカーボネート骨格を含むウレタン樹脂であって、かつ、ブロックイソシアネートを含む反応型ウレタン樹脂であることが好ましい。
【0131】
樹脂粒子の含有量は、コート液の総量に対して2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、4質量%以上18質量%以下であることがより好ましく、6質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。樹脂粒子の含有量が上記範囲内にあると、摩擦堅牢性と、コート液の吐出信頼性とをバランスよく向上できる傾向にある。
【0132】
〔水〕
コート液は、水を含有していてもよい。用いることができる水及びその含有量は、上述した顔料捺染インクジェットインク組成物と同様にできる。
【0133】
〔有機溶剤〕
コート液は、有機溶剤を含有していてもよい。用いることができる有機溶剤及びその含有量は、上述した顔料捺染インクジェットインク組成物と同様にできる。
【0134】
〔金属アルカリ〕
コート液は、金属アルカリを含有していてもよい。用いることができる金属アルカリ及びその含有量は、上述した顔料捺染インクジェットインク組成物と同様にできる。
【0135】
〔界面活性剤〕
コート液は、界面活性剤を含有していてもよい。用いることができる界面活性剤及びその含有量は、上述した顔料捺染インクジェットインク組成物と同様にできる。
【0136】
〔その他の成分〕
コート液は、必要に応じて、pH調整剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート剤、粘度調整剤、溶解助剤、酸化防止剤等の添加剤を含有してもよい。
【0137】
2.4 加熱工程
本実施形態に係る記録方法は、上述のインク付着工程及び処理液付着工程の後に、布帛に付着したインク等を加熱する工程を備えていてもよい。
【0138】
加熱方法としては、特に限定されないが、例えば、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、サーモフィックス法などが挙げられる。加熱の熱源は、特に限定されず、例えば、赤外線ランプなどを用いることができる。加熱温度は、インクやコート液中の樹脂が融着され、かつ水分等の媒体が揮発する温度であることが好ましい。例えば、約100℃以上約200℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることがさらに好ましい。ここで、加熱工程における加熱温度とは、布帛に形成された画像等の表面温度を指す。加熱を施す時間は、特に限定されないが、例えば、30秒以上20分以下が好ましく、1分以上10分以下がより好ましい。
【0139】
2.5 その他の工程
本実施形態に係る記録方法は、上述の加熱工程の後に、捺染を行った布帛を水洗、乾燥する工程を備えていてもよい。水洗においては、必要に応じ、ソーピング処理として、布帛に定着されなかったインク等の成分を、熱石けん液等を用いて洗い流してもよい。
【0140】
2.6 インクジェット捺染装置
本実施形態に係る記録方法に適用可能な、インクジェットヘッドを備えるインクジェット捺染装置の例を
図1を参照しながら説明する。
【0141】
なお、以下の説明に用いるインクジェット捺染装置は、所定の方向に移動するキャリッジに記録用のインクジェットヘッドが搭載され、キャリッジの移動に伴ってインクジェットヘッドが移動することにより布帛上に液滴を吐出するシリアルプリンターである。
【0142】
インクジェット捺染装置(プリンター)は、インク組成物や処理液の微小な液滴を吐出する液体吐出部としてのインクジェットヘッドによって、布帛に液滴を着弾させて捺染を行う装置である。
図1は、実施形態で使用可能なインクジェット捺染装置を示す概略斜視図である。
【0143】
図1に示すように、本実施形態においてプリンター1は、インクジェットヘッド3、キャリッジ4、主走査機構5、プラテンローラー6、プリンター1全体の動作を制御する制御部(図示せず)を有する。キャリッジ4は、インクジェットヘッド3を搭載すると共に、インクジェットヘッド3に供給される前述の顔料捺染インクジェットインク組成物や処理液、必要に応じてコート液やカラーインク組成物(以下、「インク等」ともいう。)を収納する液体カートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fが着脱可能である。
【0144】
主走査機構5は、キャリッジ4に接続されたタイミングベルト8、タイミングベルト8を駆動するモーター9、ガイド軸10を有する。ガイド軸10は、キャリッジ4の支持部材として、キャリッジ4の走査方向、すなわち主走査方向MSに架設されている。キャリッジ4は、タイミングベルト8を介してモーター9によって駆動され、ガイド軸10に沿って往復移動が可能である。これにより、主走査機構5は、キャリッジ4を主走査方向MSに往復移動させる機能を有する。
【0145】
プラテンローラー6は、捺染を行う布帛2を、上記主走査方向MSと直交する副走査方向SS、すなわち、布帛2の長さ方向に搬送する機能を有する。これにより、布帛2は副走査方向SSに搬送される。インクジェットヘッド3が搭載されるキャリッジ4は、布帛2の幅方向と略一致する主走査方向MSに往復移動が可能であり、インクジェットヘッド3は布帛2に対して主走査方向MS及び副走査方向SSへ相対的に走査が可能に構成される。
【0146】
液体カートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fは、独立した6つの液体カートリッジである。液体カートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fには、インク等を収納することができる。これらの液体カートリッジには、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、ホワイト、オレンジ等の色を呈するインクや処理液、並びにコート液が個別に収納され、任意に組み合わせて用いることが可能である。
図1では、液体カートリッジの数を6個としているが、これに限定されるものではない。液体カートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fの底部には、各液体カートリッジに収納されたインク等をインクジェットヘッド3へ供給するための供給口(図示せず)が設けられている。
【0147】
インクジェットヘッド3は、液体カートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fから供給されるインク等を制御部(図示せず)による制御のもとで複数のノズルから布帛2に噴射して付着させる手段である。インクジェットヘッド3は、インク等を付着させる布帛2と対向する面(ノズル形成面)に、インク等を吐出して布帛2へ付着させる複数のノズルを備える。これらの複数のノズルは列状に配列されてノズル列が形成され、ノズル列はインク等の種類に対応して個別に配置される。インク等は、各液体カートリッジからインクジェットヘッド3に供給され、インクジェットヘッド3内のアクチュエーター(図示せず)によって、ノズルから液滴として吐出される。吐出されたインク等の液滴は布帛2に着弾し、布帛2への付着処理と、インクによる画像、テキスト、模様、色彩等が布帛2の捺染領域に形成される。なお、インクジェットヘッド3はキャリッジ4に複数備えるものであってよい。
【0148】
インクジェットヘッド3は、ノズル形成面に、前述の顔料捺染インクジェットインク組成物を吐出する第1ノズル列と、前述の顔料捺染インクジェットインク組成物を吐出する第2ノズル列と、を有することが好ましい。このような態様であると、前述の顔料捺染インクジェットインク組成物の付着量を容易に好ましい範囲内とでき、発色性(黒濃度)により優れる傾向にある。すなわち、上記態様であると、前述の顔料捺染インクジェットインク組成物の付着量を、布帛の記録領域の単位面積あたり、好ましくは20~80g/m2、より好ましくは30~70g/m2、さらに好ましくは40~60g/m2へとしやすい。
【0149】
上記第1ノズル列と第2ノズル列の並びは、特に限定されず、隣り合うように配置されるものであってよく、上記第1ノズル列と第2ノズル列との間に他のノズル列を有するように配置されるものであってよい。
【0150】
ここで、インクジェットヘッド3では、駆動手段であるアクチュエーターとして圧電素子を用いているが、この方式に限定されない。例えば、アクチュエーターとしての振動板を静電吸着により変位させる電気機械変換素子や、加熱によって生じる気泡によってインク組成物を液滴として吐出させる電気熱変換素子を用いてもよい。
【0151】
プリンター1には、乾燥手段や加熱手段(いずれも図示せず)を設けてもよい。乾燥手段及び加熱手段は、布帛2に付着したインク等を効率的に乾燥させるための手段である。乾燥手段及び加熱手段は、布帛2を乾燥・加熱できる位置に設けられていれば、その設置位置は特に限定されない。布帛2に付着したインク等を効率的に乾燥するために、例えば、
図1であれば、乾燥手段及び加熱手段は、インクジェットヘッド3と対向する位置に設置することができる。
【0152】
乾燥手段及び加熱手段としては、例えば、布帛2を熱源に接触させて加熱するプリントヒーター機構や、赤外線や2,450MHz程度に極大波長をもつ電磁波であるマイクロウェーブ等を照射する機構や、温風を吹き付けたりするドライヤー機構等が挙げられる。布帛2の加熱は、インクジェットヘッド3のノズルから吐出されたインク等の液滴が布帛2に付着する前又は付着する時に行われる。加熱の諸条件の制御、例えば、加熱実施のタイミング、加熱温度、加熱時間等は、制御部によって行われる。
【0153】
また、乾燥手段及び加熱手段を、布帛2の搬送方向の下流側に設置しても良い。この場合には、ノズルから吐出されたインク等が布帛2に付着して画像が形成された後に、当該布帛2の加熱を行う。これにより、布帛2に付着したインク等の乾燥性が向上する。
【0154】
3.実施例
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。
【0155】
3.1 顔料捺染インクジェットインク組成物の調製
下表1~2の組成になるように各成分を容器に入れ、イオン交換水を各インク組成物の総量が100質量%となるように添加し、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、さらに、直径0.3mmのジルコニアビーズを充填したビーズミルにて分散処理を行うことにより十分に混合した。1時間攪拌してから、5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて濾過することで各実施例及び各比較例に係る顔料捺染インクジェットインク組成物を得た。なお、下表1~2中の顔料及び樹脂は、有効成分である固形分換算の質量%を示した。
【0156】
顔料分散液A~Cは、以下の手順で調製を行った。市販のカーボンブラックであるS170(デグサ社製商品名)20gを水500gに混合して、家庭用ミキサーで5分間分散した。得られた液を攪拌装置付きの3L容のガラス容器に入れ、攪拌機で攪拌しながら、オゾン濃度8質量%のオゾン含有ガスを500mL/分導入した。その際、オゾン発生器はペルメレック電極社製の電解発生型のオゾナイザーを用いてオゾンを発生させた。また導入時間は1分~1時間の間で調整することで、所望の表面改質することができる。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA-100(商品名、アドバンテック東洋社製)で濾過し、さらに固形分濃度が20質量%になるまで0.1Nの水酸化カリウム溶液を添加しpH9に調整しながら濃縮を行い、自己分散型顔料分散液Aを得た。また、オゾン含有ガスの濃度と導入時間を所望量に調整すること以外は同様にして、自己分散型顔料分散液B、Cを得た。
【0157】
各顔料分散液中の顔料の比表面積[m2/g]は、以下の測定条件にてパルスNMRより得られた測定値を用いて、下記式(1)及び式(2)より算出して求めた。
【0158】
〔測定条件〕
パルスNMR:Xigo nanotools社製Acorn Drop
測定温度:30℃
測定試料:0.5mL
測定試料A1:各顔料分散液
測定試料A2:測定試料A1の遠心分離(415,000G×60分、25℃)後の上澄み液
【0159】
Ψp=(Sc/Sd)/[(1-Sc)/Td] ・・・式(1)
(式中、Scは、測定試料A1の顔料固形分濃度(質量%)を示し、Sdは、測定試料A1の顔料の密度[g/cm3]を示し、Tdは、測定試料A2の上澄み液の密度[g/cm3]を示す。なお、Sc:顔料固形分濃度、Sd:顔料の密度(カーボンブラックは約1.7)、Td:上澄み液の密度(水の場合は1.0)は、全てインク組成物の組成から算出して求めた。)
【0160】
Sp={[(Rav/Rb)-1]×Rb}/(0.0016×Ψp)・・式(2)
(式中、Spは、インク組成物中の自己分散ブラック顔料の比表面積[m2/g]を示し、Ravは、測定試料A1を用いて得られたパルスNMRの測定値(緩和時間)の逆数を示し、Rbは、測定試料A2を用いて得られたパルスNMRの測定値(緩和時間)の逆数を示す。)
【0161】
3.2 処理液の調製
以下の組成になるように各成分を容器に入れ、イオン交換水を処理液の総量が100質量%となるように添加し、上述の顔料捺染インクジェットインク組成物と同様にして処理液を得た。
【0162】
〔処理液〕
硫酸カルシウム:5質量%
サーフィノール485:0.50質量%
イオン交換水:残量
【0163】
なお、「サーフィノール485」は、エア・プロダクツ&ケミカルズ社製の商品名であり、アセチレングリコール系界面活性剤である。
【0164】
3.3 コート液の調製
以下の組成になるように各成分を容器に入れ、イオン交換水をコート液の総量が100質量%となるように添加し、上述の顔料捺染インクジェットインク組成物と同様にしてコート液を得た。
【0165】
〔コート液〕
架橋性のポリカーボネート系ウレタン樹脂:10質量%
グリセリン:20質量%
プロピレングリコール:2質量%
NaOH:0.10質量%
BYK348:0.50質量%
イオン交換水:残量
【0166】
なお、「架橋性のポリカーボネート系ウレタン樹脂」は、タケラックWS5100(三井化学社製商品名)を用いた。また、「BYK348」は、ビックケミー・ジャパン社製の商品名であり、シリコーン系界面活性剤である。
【0167】
【0168】
【0169】
上表1~2の記載について説明を補足する。
【0170】
〔インク組成〕
・「架橋性 ポリカーボネート系ウレタン樹脂」として、三井化学社製タケラックWS5100を用いた。
・「非架橋性 ポリカーボネート系ウレタン樹脂」として、三井化学社製タケラックW6110を用いた。
・「非架橋性 ポリエーテル系ウレタン樹脂」として、三井化学社製タケラックW5661を用いた。
なお、「架橋性」とは、ブロックイソシアネートを含む反応型であることをいう。また、「ポリカーボネート系」とは、ポリカーボネート骨格を含むことをいう。
・「BYK348」は、ビックケミー・ジャパン社製の商品名であり、シリコーン系界面活性剤である。
【0171】
〔記録方法〕
・「Bkインク」とは、顔料捺染インクジェットインク組成物である。
・「同一主走査吐出」とは、インク付着工程と、処理液付着工程とを、同一の主走査により布帛の同一の走査領域に対して行うことである。
・「事前塗布」の方法としては、予め、綿ブロード(布帛)に対し処理液をパッド法にて絞り率70%でパディングした後、120℃、5分間乾燥し、前処理済み布帛を得た。
・「1列打ち」とは、記録方法に用いるインクジェットヘッドには、ノズル形成面に、顔料捺染インクジェットインク組成物を吐出するノズル列が1列あることをいう。
・「2列打ち」とは、記録方法に用いるインクジェットヘッドには、ノズル形成面に、顔料捺染インクジェットインク組成物を吐出するノズル列が2列あることをいう。
【0172】
3.4 捺染物の作製方法
インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製の製品名「SC-F2000」)を用いたインクジェット方式により、上表1~2に記載の条件で印刷を行い、白色の綿ブロード(布帛)に対し画像を形成した。上記画像の形成工程において、解像度を、1440×720dpiとし、印刷範囲をA4サイズとし、顔料捺染インクジェットインク組成物を上表1~2に記載の塗布量のベタ印刷とすることにより画像を形成した。その後、高温スチーマー(辻井染機工業株式会社製の「HT-3-550型」)を使用し、160℃で5分の条件で乾燥することにより布帛に画像が形成された捺染物を製造した。ここで、ベタ印刷とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域にある画素について、その全ての画素にインクの液滴(ドット)を着弾させることを示す。
【0173】
3.5 評価方法
3.5.1 目詰まり評価(吐出信頼性)
各実施例及び比較例に係る顔料捺染インクジェットインク組成物をインクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製品の「SC-F2000」)のヘッド全列に充填し、全列正常に吐出することを確認した。その後、プリントヘッドを待機位置からずらして印字領域にて停止させた状態で、40℃20%RH環境下に3日間放置した。放置後、プリントヘッドを待機位置に戻してゴムワイパーを用いて拭き取りを手動で行った。そして吐出が回復するまでにかかったクリーニング数を数え、以下の基準により評価した。
(評価基準)
A:クリーニング3回以下で全ノズルが回復した。
B:クリーニング4回以上10回以下で全ノズルが回復した。
C:クリーニング11回以上でも回復しなかった。
【0174】
3.5.2 発色性(黒濃度)
上記で得られた各例の捺染物について、Gretag社製の測色機Spectrolinoを用いて記録物のOD値を測定し、以下の基準により評価した。
(評価基準)
AA:1.6以上。
A:1.5以上1.6未満。
B:1.4以上1.5未満。
C:1.4未満。
【0175】
3.5.3 摩擦堅牢性
上記で得られた各例の捺染物に対してISO-105 X12に規定の方法に従い、I型(クロックメーター)試験機を用いて摩擦に対する染色堅牢度試験を実施した。乾摩擦をISO-105 X12に規定される乾燥試験に則って試験し、汚染グレースケールを用いて評価した。評価基準は以下の通りとした。
(評価基準)
AA:3-4級以上。
A:3級以上、3-4級未満。
B:2-3級以上、3級未満。
C:2-3級未満。
【0176】
3.5.4 保存安定性
各実施例及び比較例に係る顔料捺染インクジェットインク組成物をガラス製の50ccサンプル瓶に入れて密封し、これらのガラス瓶を50℃の恒温槽内に投入し、50℃の環境下で14日間放置した。放置終了後、十分に室温に戻ってから、粘度を測定した。粘度はPysica社の粘弾性試験機MCR-300(製品名)を用いて、インク組成物の温度を25℃に調整し、Shear Rateが200のときの粘度を読み取ることにより求めた。そして、初期の粘度に対する、14日後の粘度変化率Aを計算した。評価基準は以下の通りである。
(評価基準)
A:粘度変化率Aが±5%以内。
B:粘度変化率Aが±5%以上10%未満。
C:粘度変化率Aが±10%以上。
【0177】
3.6 評価結果
評価結果を上表1~2に示す。
【0178】
上表1~2に記載の評価結果より、30℃でのパルスNMRによる測定から算出される比表面積が50m2/g以上である自己分散ブラック顔料と、金属アルカリと、水溶性有機溶剤と、水と、を含有し、金属アルカリの含有量に対する自己分散ブラック顔料の含有量が組成比で13以上40以下であり、水溶性有機溶剤は、SP値11以上の化合物を含有し、水溶性有機溶剤は、SP値11未満の化合物を、インク組成物の総量に対して0.3質量%を超えて含有しない、顔料捺染インクジェットインク組成物である各実施例においては、優れた発色性(黒濃度)及び吐出信頼性を得ることができた。
【0179】
実施例1と比較例1との対比より、自己分散ブラック顔料の比表面積が50m2/g以上でない場合には、優れた発色性(黒濃度)が得られなかった。
【0180】
実施例1と比較例2との対比より、水溶性有機溶剤が、SP値11未満の化合物を、インク組成物の総量に対して0.3質量%を超えて含有する場合には、優れた吐出信頼性が得られなかった。
【0181】
実施例1と比較例3との対比より、水溶性有機溶剤が、SP値11以上の化合物を含有しない場合には、優れた吐出信頼性及び保存安定性が得られなかった。
【0182】
実施例1と比較例4,5との対比より、金属アルカリの含有量に対する自己分散ブラック顔料の含有量が組成比で13以上40以下でない場合には、優れた吐出信頼性や保存安定性が得られなかった。
【0183】
実施例1~3の結果より、自己分散ブラック顔料の含有量が特定の範囲内であると、発色性(黒濃度)及び吐出信頼性、並びに摩擦堅牢性及び保存安定性により優れた。
【0184】
実施例1,4の結果より、自己分散ブラック顔料の比表面積は50m2/g以上であれば、優れた発色性(黒濃度)が得られた。
【0185】
実施例1,5,6の結果より、定着樹脂の含有量が特定の範囲内であると、摩擦堅牢性並びに、吐出信頼性及び保存安定性により優れた。
【0186】
実施例1,9,10の結果より、水溶性有機溶剤のSP値がより高いと、吐出信頼性が向上する傾向にあった。
【0187】
実施例1,11の結果より、インク組成物を2列打ちにすると、発色性(黒濃度)により優れた。
【0188】
実施例1,12~14の結果より、コート液をさらに付着させると、摩擦堅牢性により優れた。
【0189】
実施例1,15の結果より、処理液を同一主走査吐出により付着させると、発色性(黒濃度)により優れた。
【0190】
上述した実施形態から以下の内容が導き出される。
【0191】
顔料捺染インクジェットインク組成物の一態様は、
30℃でのパルスNMRによる測定から算出される比表面積が50m2/g以上である自己分散ブラック顔料と、
金属アルカリと、
水溶性有機溶剤と、
水と、を含有するものであり、
前記金属アルカリの含有量に対する前記自己分散ブラック顔料の含有量が組成比で13以上40以下であり、
前記水溶性有機溶剤は、SP値11以上の化合物を含有し、
前記水溶性有機溶剤は、SP値11未満の化合物を、インク組成物の総量に対して0.3質量%を超えて含有しない。
【0192】
上記顔料捺染インクジェットインク組成物の一態様において、
前記自己分散ブラック顔料の含有量は、インク組成物の総量に対して3質量%以上10質量%以下であってよい。
【0193】
上記顔料捺染インクジェットインク組成物の何れかの態様において、
前記インク組成物が、定着樹脂を含有し、
前記定着樹脂は、ポリカーボネート骨格を含むウレタン樹脂であってよい。
【0194】
上記顔料捺染インクジェットインク組成物の何れかの態様において、
前記定着樹脂は、ブロックイソシアネートを含む反応型ウレタン樹脂であってよい。
【0195】
上記顔料捺染インクジェットインク組成物の何れかの態様において、
前記定着樹脂の含有量は、インク組成物の総量に対して3質量%以上10質量%以下であってよい。
【0196】
インクジェット記録方法の一態様は、
上記何れかの態様の顔料捺染インクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して布帛に付着させるインク付着工程と、
カチオン性化合物を含有する処理液を、前記インクジェットヘッドから吐出して前記布帛に付着させる処理液付着工程と、を有し、
前記インク付着工程と、前記処理液付着工程とを、同一の主走査により前記布帛の同一の走査領域に対して行うものである。
【0197】
上記インクジェット記録方法の一態様において、
前記インクジェットヘッドは、ノズル形成面に、前記インク組成物を吐出する第1ノズル列と、前記インク組成物を吐出する第2ノズル列と、を有していてもよい。
【0198】
上記インクジェット記録方法の何れかの態様において、
さらに、樹脂粒子を含有するコート液を、前記インクジェットヘッドから吐出して前記布帛に付着させるコート液付着工程を有し、
前記コート液付着工程は、前記インク付着工程と同時又は後に行われ、
前記インク付着工程における前記インク組成物の打込量を1とした時の前記コート液付着工程における前記コート液の打込量が0.4以下であってよい。
【0199】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成、を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0200】
1…プリンター、2…布帛、3…インクジェットヘッド、4…キャリッジ、5…主走査機構、6…プラテンローラー、7a,7b,7c,7d,7e,7f…液体カートリッジ、8…タイミングベルト、9…モーター、10…ガイド軸