(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069873
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20240515BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180137
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601EE15
4C601GB22
4C601HH01
4C601HH05
4C601HH07
(57)【要約】
【課題】オフセット形成用の副波形を含む複合送信信号に相当するPWM送信信号が生成される超音波診断装置において、振動素子での発熱及び電磁ノイズの漏洩を抑制する。
【解決手段】PWM送信信号60は、副波形及び主波形を含む複合送信信号に対してパルス幅変調を適用することにより生じる信号である。PWM送信信号60は、副波形に相当する副パルス列62と、主波形に相当する主パルス64と、を含む。BPFにおいて、副波形に相当する低周波数成分及び電磁ノイズの原因となる高周波数成分が抑圧される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PWM送信信号を出力する送信器と、
前記送信器と振動素子との間に設けられ、前記PWM送信信号が通過するフィルタであって、少なくともハイパスフィルタとして機能するフィルタと、
を含み、
前記PWM送信信号は、元信号としての複合送信信号に対してパルス幅変調を適用することにより生じる信号であり、
前記複合送信信号は、ベースラインの一方側に設けられるオフセット形成用の副波形と、前記副波形中のオフセットレベルから立ち上がって前記ベースラインの他方側へ進入する主波形と、を含み、
前記フィルタにおいて、前記PWM送信信号に含まれる低周波数成分であって前記副波形に相当する低周波数成分が抑圧される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記送信器は、ベースライン電圧、一方極性を有するオフセット電圧、及び、他方極性を有するピーク電圧、を生成する回路であり、
前記PWM送信信号は、
前記副波形に相当する副パルス列であって、前記ベースライン電圧から前記オフセット電圧に達する複数の副パルスにより構成された副パルス列と、
前記主波形に相当する主パルスであって、前記オフセット電圧から前記ピーク電圧に達する主パルスと、
を含む、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記フィルタはバンドパスフィルタであり、
前記フィルタにおいて、更に、前記PWM送信信号に含まれる高周波数成分が抑圧される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3記載の超音波診断装置において、
前記低周波数成分は、前記振動素子の周波数帯域よりも低い周波数成分であり、
前記高周波数成分は、前記振動素子の周波数帯域よりも高い周波数成分である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記振動素子を有するプローブヘッド、前記プローブヘッドから引き出されたプローブケーブル、及び、前記プローブケーブルの端に設けられたプローブコネクタを有するプローブと、
前記プローブコネクタが着脱可能に接続され、前記送信器を有する装置本体と、
を含み、
前記フィルタは、前記装置本体内又は前記プローブコネクタ内に設けられた、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波診断装置に関し、特に、送信信号の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は送信部を有する。送信部は、一般に、複数の振動素子に対して供給する複数の送信信号を生成する複数の送信器を有する。送信信号の生成方式として、線形増幅方式、及び、スイッチング方式、が知られている。
【0003】
線形増幅方式では、一般に、各送信器において、デジタル送信信号からアナログ送信信号が生成され、生成されたアナログ送信信号が線形増幅される。スイッチング方式では、一般に、各送信器において、振動素子に接続された信号線に印加する電圧を切り替えることにより送信信号が生成される。
【0004】
特許文献1には、上記の線形増幅方式が開示されている。特許文献1に開示された超音波診断装置は、複数の送信器及び複数の線形増幅器を有する。各送信器において、特有の形態を有する送信信号が生成されている。具体的には、その送信信号は、ベースラインの一方側に設けられるオフセット形成用の副波形、及び、副波形のオフセットレベルからベースラインの他方側に入るインパルス状の主波形、を含む。副波形は振動素子の周波数帯域から外れる低周波数成分により構成される。ベースラインレベルからではなくオフセットレベルから主波形が立ち上がっているので、主波形の波高値を増大できる。つまり、送信される超音波のパワーを増大できる。
【0005】
特許文献2には、上記のスイッチング方式が開示されている。具体的には、特許文献2には、トライステートを有する送信器を用いて送信信号を生成する技術が開示されている。送信信号の生成に際して、元信号に対してパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)が適用されている。送信器からPWM送信信号が出力されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008- 43721号公報
【特許文献2】特表2016-527005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、複合送信信号は、超音波に変換される主波形の他、実質的に見て超音波には変換されない副波形(低周波数成分)を有している。副波形の有するパワーが振動素子において熱に変換されるものと考えられる。
【0008】
超音波診断装置のコストダウンのためには、複合送信信号に代えて、複合送信信号と等価なPWM送信信号を用いることが望まれる。PWM送信信号を用いる場合にも、振動素子での発熱が問題となる。PWM送信信号を用いる場合には、更に、電磁ノイズの漏洩という問題が生じ易くなる。
【0009】
なお、特許文献1及び特許文献2のいずれにも、振動素子の発熱に対する対策、及び、電磁ノイズの漏洩に対する対策は開示されていない。
【0010】
本開示の目的は、オフセット形成用の副波形を含む複合送信信号に相当するPWM送信信号が生成される超音波診断装置において、振動素子での発熱を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る超音波診断装置は、PWM送信信号を出力する送信器と、前記送信器と振動素子との間に設けられ、前記PWM送信信号が通過するフィルタであって、少なくともハイパスフィルタとして機能するフィルタと、を含み、前記PWM送信信号は、元信号としての複合送信信号に対してパルス幅変調を適用することにより生じる信号であり、前記複合送信信号は、ベースラインの一方側に設けられるオフセット形成用の副波形と、前記副波形中のオフセットレベルから立ち上がって前記ベースラインの他方側へ進入する主波形と、を含み、前記フィルタにおいて、前記PWM送信信号に含まれる低周波数成分であって前記副波形に相当する低周波数成分が抑圧される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、オフセット形成用の副波形を含む複合送信信号に相当するPWM送信信号が生成される超音波診断装置において、振動素子での発熱を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、送信器、及び、フィルタを有する。送信器は、PWM送信信号を出力する。フィルタは、送信器と振動素子との間に設けられる。そのフィルタをPWM送信信号が通過する。フィルタは、少なくともハイパスフィルタとして機能する。PWM送信信号は、元信号としての複合送信信号に対してパルス幅変調を適用することにより生じる信号である。複合送信信号は、ベースラインの一方側に設けられるオフセット形成用の副波形と、副波形中のオフセットレベルから立ち上がってベースラインの他方側へ進入する主波形と、を含む。フィルタにおいて、PWM送信信号に含まれる低周波数成分であって副波形に相当する低周波数成分が抑圧される。
【0016】
上記構成によれば、フィルタにおいて、副波形に相当する低周波数成分が抑圧されるので、振動素子に到達する低周波数成分の量が少なくなる。よって、振動素子での発熱を抑制できる。PWM送信信号は、パルス幅変調後の送信信号であり、時間軸上に並ぶ多様なパルス幅を有する複数のパルス(正パルス、負パルス)により構成されるものである。低周波数成分は、振動素子の周波数帯域よりも低い周波数成分であり、振動素子において超音波に変換されない成分である。
【0017】
送信器から複合送信信号に相当するPWM送信信号が出力されれば足り、送信器においてパルス幅変調を実際に実施する必要はない。一般に、PWM送信信号の設計段階において、複合送信信号に対してパルス幅変調を適用するシミュレーションが実行され、そのシミュレーション結果に基づいて送信器の動作を制御する条件が見出される。もちろん、送信器において実際の又は仮想的な複合送信信号に対してパルス幅変調が適用され、これによりPWM送信信号が生成されてもよい。
【0018】
実施形態において、送信器は、ベースライン電圧、一方極性を有するオフセット電圧、及び、他方極性を有するピーク電圧、を生成する回路である。PWM送信信号は、副波形に相当する副パルス列と、主波形に相当する主パルスと、を含む。副パルス列は、ベースライン電圧からオフセット電圧に達する複数の副パルスにより構成される。主パルスは、オフセット電圧からピーク電圧に達するパルスである。
【0019】
実施形態において、フィルタはバンドパスフィルタである。フィルタにおいて、更に、PWM送信信号に含まれる高周波数成分が抑圧される。この構成によれば、外部への電磁ノイズの漏洩を低減できる。高周波数成分は、振動素子の周波数帯域よりも高い周波数成分である。振動素子の周波数帯域は、例えば、使用周波数帯域である。振動素子の周波数帯域が最大レベルから3dB下がった2つの点に基づいて定義されてもよい。
【0020】
実施形態に係る超音波診断装置はプローブ及び装置本体を有する。プローブは、振動素子を有するプローブヘッド、プローブヘッドから引き出されたプローブケーブル、及び、プローブケーブルの端に設けられたプローブコネクタを有する。装置本体は、送信器を有し、装置本体にはプローブコネクタが着脱可能に接続される。フィルタは、装置本体内又はプローブコネクタ内に設けられる。
【0021】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波診断装置が示されている。図示された超音波診断装置10は、病院等の医療機関において超音波検査を実施する場合に使用される装置である。超音波診断装置10は、装置本体12及び超音波プローブ14により構成される。
【0022】
超音波プローブ14は、プローブヘッド16、プローブケーブル18及びプローブコネクタ20からなる。プローブコネクタ20は、装置本体12が有するコネクタ22に対して着脱可能に装着される。
【0023】
プローブヘッド16内には、複数の振動素子23aからなる振動素子アレイ23が設けられている。振動素子アレイ23により超音波ビームが形成される。超音波ビームの電子走査が繰り返し実行される。電子走査方式として、電子リニア走査方式、電子セクタ走査方式等が知られている。プローブヘッド16内に二次元振動素子アレイを設けてもよい。プローブケーブル18は、複数の信号線からなる信号線束を有する。
【0024】
続いて、装置本体12について説明する。送信部24は、送信ビームフォーマーとして機能する電子回路である。送信時において、送信部24は、複数の送信信号を複数の振動素子23aに対して並列的に出力する。
【0025】
送信部24は、送信器群26及びBPF(バンドパスフィルタ)群28を有する。送信器群26は、複数の送信器26aにより構成される。BPF群28は、複数のBPF28aにより構成される。各送信器26aは、スイッチング方式に従ってPWM送信信号を出力する回路である。具体的には、3つの電源電圧を順次選択することによりPWM送信信号が生成されている。各送信器26aの動作は、送受信制御部32により制御される。
【0026】
各BPF28aは、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタとして機能する。例えば、各BPF28aは、振動素子23aの周波数帯域に等しい通過帯域を有する。各BPF28aをPWM送信信号が通過する過程で、PWM送信信号における低周波数成分及び高周波数成分が抑圧される。
【0027】
低周波数成分は、通過帯域よりも低い周波数成分であり、高周波数成分は、通過帯域よりも高い周波数成分である。振動素子23aの周波数帯域は、例えば、使用周波数帯域である。周波数帯域又は通過帯域が、最高レベルから3dB下がった2点により定義されてもよい。低周波数成分は、超音波に変換されずに熱に変換される無効成分である。高周波成分は、電磁ノイズの原因となる成分である。
【0028】
実施形態においては、送信部24の中にBPF群28が設けられていたが、BPF群を分岐部29とコネクタ22の間に配置してもよい。BPF群を、コネクタ22の中又はプローブコネクタ20の中に配置してもよい。プローブケーブル18からの電磁ノイズの漏洩を抑制する観点からは、送信器群26とプローブケーブル18との間にBPF群28を設けるのが望ましい。
【0029】
振動素子アレイ23と送信部24との間には信号線群が設けられている。信号線群における分岐部29から分岐信号線群が引き出されており、分岐信号線群が受信部30に接続されている。
【0030】
受信部30は、受信ビームフォーマーとして機能する電子回路である。受信部30は、アンプ群、ADC群、遅延器群、加算器等を有する。受信時において、複数の振動素子23aから並列的に出力された複数の受信信号が受信部30に入力される。受信部30において、複数の受信信号に対する整相加算が適用され、これにより受信ビームデータが生成される。電子走査方向に並ぶ複数の受信ビームデータにより受信フレームデータが構成される。時間軸上において並ぶ複数の受信フレームデータが図示されていないビームデータ処理部を経て画像形成部34へ送られる。
【0031】
画像形成部34は、複数の受信フレームデータから複数の表示フレームデータを生成する回路である。具体的には、画像形成部34はデジタルスキャンコンバータ(DSC)を有する。複数の表示フレームデータは動画像としての超音波画像(例えば断層画像)を構成する。超音波画像のデータが表示処理部36を経由して表示器38に送られる。表示器38に超音波画像が表示される。
【0032】
主制御部40は、超音波診断装置を構成する各要素の動作を制御するものである。主制御部40は、プログラムを実行するプロセッサを有する。プロセッサは例えばCPUである。主制御部40から送受信制御部32へ送受信条件を示すデータが与えられている。そのデータに従って送受信制御部32が送信部24及び受信部30の動作を制御する。複数のPWM送信信号の生成に当たっては、送受信制御部32が各送信器26aのスイッチング動作を制御する。送受信制御部32は例えばプロセッサにより構成される。
【0033】
図2には、第1の複合送信信号42が示されている。
図1に示した各送信器においては、第1の複合送信信号42に相当するPWM送信信号が生成される。第1の複合送信信号42は、PWM送信信号から見て、元信号と言い得る。もっとも、各送信器からPWM送信信号が出力されれば足り、各送信器においてパルス幅変調が実際に実行される必要は必ずしもない。
【0034】
第1の複合送信信号42は、副波形46及び主波形48により構成される。副波形46は、オフセット形成用の補助的な波形である。副波形46は、ベースライン44の一方側(図示の例では負極側)に設けられた山状又は台形状の波形である。副波形46の頂部がオフセットレベル47を形成している。副波形46は、具体的には、前部46a及び後部46bを有する。
【0035】
前部46aは、緩やかなスロープ形態を有し、具体的には、ベースライン44からオフセットレベル47まで滑らかに変化する形態を有する。後部46bも、緩やかなスロープ形態を有し、具体的には、オフセットレベル47からベースライン44まで滑らかに変化する形態を有する。
【0036】
主波形48は、副波形46の中央部分つまりオフセットレベル47からベースライン44の他方側(図示の例では正極側)へ到達するインパルス状の形態を有する。主波形48の高さ56は、図示の例では、オフセットレベル47の絶対値の2倍である。
【0037】
符号50は、ベースラインに相当する電圧を示しており、それは通常、0Vである。符号52は、オフセットレベルに相当する電圧を示しており、それは例えば-100Vである。符号54は、主波形48が到達するピークレベルに相当する電圧を示しており、それは例えば+100Vである。主波形48は、例えば200Vの高さを有する。そのような主波形を振動素子に供給すれば、超音波パワーを増大できる。
【0038】
図2に示した第1の複合送信信号を生成するためには、各送信器に対して高精度の線形増幅器を設ける必要がある。より安価かつ簡易な送信器により上記同様の効果を得るために、実施形態では、各送信器において、例えば、
図3に示す第1のPWM送信信号60が生成される。
【0039】
図3において、第1のPWM送信信号60は、
図2に示した第1の複合送信信号に対してパルス幅変調を適用することにより生じる信号である。すなわち、第1のPWM送信信号60は、第1の複合送信信号に相当する信号であり、機能的に見て、第1の複合送信信号と等価な信号である。
【0040】
第1のPWM送信信号60は、上記の副波形に相当する副パルス列62及び上記の主波形に相当する主パルス64により構成される。副パルス列62は、ベースライン66の一方側(図示の例では負極側)に生じている。
【0041】
具体的には、副パルス列62は、前側のサブパルス列62a及び後側のサブパルス列62bにより構成される。前側のサブパルス列62aにおいては、符号78aが示すように、副パルス列62の中央から前側に離れるに従って、パルス幅が小さくなっており、また、パルス間隔が広がっている。同様に、後側のサブパルス列62bにおいては、符号78bが示すように、副パルス列62の中央から後側に離れるに従って、パルス幅が小さくなっており、また、パルス間隔が広がっている。
【0042】
副パルス列62における中央部がオフセットレベルを形成しており、そのオフセットレベルからベースライン66の他方側(図示の例では正極側)のピークレベルまで主パルス64が伸びている。主パルス64の波高値が符号76で示されている。その波高値76は、オフセットレベルの絶対値の2倍である。
【0043】
符号70は、ベースラインに相当する電圧を示しており、それは通常、0Vである。符号72は、オフセットレベルに相当する電圧を示しており、それは例えば-100Vである。符号74は、ピークレベルに相当する電圧を示しており、それは例えば+100Vである。主パルス64は、例えば200Vの高さを有する。
【0044】
3種類の電圧を順次選択することによりPWM送信信号60を生成できる。よって、送信器の構成を極めて簡易にできる。例えば、3つの電圧ラインに接続された3つのスイッチングトランジスタを設けることにより、送信器を構成できる。
【0045】
もっとも、PWM送信信号60は、上記の副波形に相当する低周波数成分を含んでおり、また、多数のパルスから生じる高周波成分を含んでいる。低周波成分が振動素子に到達すると、振動素子において発熱が生じる。高周波成分は例えばプローブケーブル内の信号線から電磁ノイズとして外部に放射される。
【0046】
実施形態においては、各送信器の後段にBPFが設けられている。BPFにより、上記の低周波数成分が抑圧される。これにより振動素子での発熱が抑制される。また、BPFにより、上記の高周波成分が抑圧される。これにより外部に漏洩する電磁ノイズが抑圧される。
【0047】
図4には、BPFから出力される第1の送信信号80が示されている。上記の第1のPWM信号をBPFに通過させることにより、第1の送信信号80が生成される。第1の送信信号80は、主パルスに相当するパルス82を有している。その波高値は、例えば200Vであり、又は、それに近い。パルス82の両側には、パルス82とは逆向きの2つのサブパルス83a,83bが生じている。それらのピークによって、事実上、オフセットレベルが形成されている。なお、2つのパルス83a,83bの両側にはパルス状の波形は認められない(符号83c,83dを参照)。
【0048】
上記のように、BPFを通過した第1の送信信号80を、プローブケーブルを通じて、振動素子へ送ることにより、振動素子での発熱を抑制でき、また、電磁ノイズの漏洩を抑制できる。BPFの通過帯域を操作することにより、所望の特性をもった送信信号を生成し得る。
【0049】
図5には、第2の複合送信信号84が示されている。第2の複合送信信号84は、
図2に示した第1の複合送信信号とその前側に連結された補助波形とからなる。
【0050】
具体的に説明すると、第2の複合送信信号84は、副波形86、主波形90、及び、補助波形88により構成される。ベースライン100を挟んで、副波形86と補助波形88は基本的に線対称の関係を有している。ベースライン100の一方側(図示の例では負極側)に副波形86が生じている。副波形86は、前部86a及び後部86bを有する。副波形86の頂部がオフセットレベルを形成している。オフセットレベルからベースライン100の他方側に属するピークレベルまで、主波形90が伸長している。その波高値が符号92で示されている。
【0051】
副波形86の前側に補助波形88が連なっている。補助波形88はベースラインの他方側(図示の例において正極側)に存在する。補助波形88は、山状又は台形状の形態を有し、それは前部88a及び後部88bにより構成される。前部88aは、緩やかなスロープ状の形態を有し、具体的には、ベースラインレベルからピークレベルまで滑らかに変化する形態を有する。後部88bも、緩やかなスロープ状の形態を有し、具体的には、ピークレベルからベースラインレベルまで滑らかに変化する形態を有する。前部88aと後部88bは連なっている。
【0052】
符号94は、ベースライン100に相当する電圧を示しており、それは通常、0Vである。符号96は、オフセットレベルに相当する電圧を示しており、それは例えば-100Vである。符号98は、ピークレベルに相当する電圧を示しており、それは例えば+100Vである。主波形90は、例えば200Vの高さを有する。
【0053】
送信器において第1の複合送信信号を生成する場合、送信器内において電荷(例えば負電荷)が蓄積されてしまい、その蓄積された電荷が送信器の動作に悪影響を及ぼすことが考えられる。そのような問題が生じそうな場合、第2の複合送信信号84を採用することが望まれる。ベースライン100を挟んで補助波形88と副波形86とが対称な関係を有するので、いずれかの極性をもった電荷の蓄積を防止でき又はそれを軽減できる。
【0054】
図6には、第2のPWM送信信号102が示されている。この第2のPWM送信信号102は、上記の第2の複合送信信号に対するパルス幅変調により生成される信号である。上記同様に、送信器において実際にパルス幅変調が実行される必要は必ずしもない。第2のPWM送信信号102は、副パルス列104、主パルス108及び補助パルス列106により構成される。
【0055】
副パルス列104は、ベースライン114の一方側(図示の例において負極側)に存在し、それは前部104a及び後部104bにより構成される。前部104aはサブパルス列により構成され、後部104bもサブパルス列により構成される。符号110aが示すように、副パルス列104の中央から前側に離れるに従って、パルス幅が徐々に小さくされており、また、パルス間隔が徐々に広がっている。同様に、符号110bが示すように、副パルス列104の中央から後側に離れるに従って、パルス幅が徐々に小さくされており、また、パルス間隔が徐々に広がっている。
【0056】
副パルス列104の中央部がオフセットレベルを形成している。そのオフセットレベルからベースライン114の他方側(図示の例において正極側)にあるピークレベルまで主パルス108が伸長している。その波高値は、オフセットレベルの絶対値の2倍である。
【0057】
補助パルス列106は、ベースライン114の他方側(図示の例において正極側)に存在し、それも前部106a及び後部106bにより構成される。但し、前部106a及び後部106bは連なっており、補助パルス列106の中央に、大きなパルス幅を有する補助パルス112cが存在している。
【0058】
前部106aはサブパルス列により構成され、後部106bもサブパルス列により構成される。符号112aが示すように、補助パルス列106の中央から前側に離れるに従って、パルス幅が徐々に小さくされており、また、パルス間隔が徐々に広がっている。同様に、符号112bが示すように、補助パルス列106の中央から後側に離れるに従って、パルス幅が徐々に小さくされており、また、パルス間隔が徐々に広がっている。補助パルス列106と副パルス列104との間には隙間113が生じている。
【0059】
各送信器において第2のPWM送信信号を生成することにより、各送信器の構成を簡略化でき、且つ、各送信器において電荷蓄積の問題が生じることを回避できる。
【0060】
図7には、第2の送信信号122が示されている。上記の第2のPWM送信信号をBPFに入力すると、BPFから第2の送信信号122が出力される。上記のように、BPFは、振動素子の周波数帯域に相当する通過帯域を有する。
【0061】
第2の送信信号122は、主パルスに相当するパルス124を有している。その波高値は、例えば200Vであり、又は、それに近い。パルス124の両側には、パルス124とは逆向きの2つのサブパルス126a,126bが生じている。それらのピークによって、事実上、オフセットレベルが形成されている。なお、2つのパルス126a,126bの両側にはパルス状の波形は認められない(符号126c,126dを参照)。
【0062】
上記のように、BPFを通過した第2の送信信号122を、プローブケーブルを通じて、振動素子へ送ることにより、振動素子での発熱を抑制でき、また、電磁ノイズの漏洩を抑制できる。
【0063】
上記実施形態においては、各送信器の後段にBPFが設けられていたが、各送信器の後段にHPF(ハイパスフィルタ)(ローカットフィルタとも言う)を設けてもよい。HPFにより、PWM送信信号に含まれる低周波数成分が抑圧されるので、振動素子での発熱を抑制できる。なお、PWM送信信号に代えて複合送信信号をBPF又はLPFを介して振動素子へ供給してもよい。その場合にも、振動素子での発熱を抑制できる。
【符号の説明】
【0064】
10 超音波診断装置、12 装置本体、14 超音波プローブ、24 送信部、26 送信器群、28 BPF群、30 受信部、32 送受信制御部、42 第1の複合送信信号、60 第1のPWM送信信号、80 第1の送信信号、84 第2の複合送信信号、102 第2のPWM送信信号、122 第2の送信信号。