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特開2024-69884ウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069884
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】ウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/63 20060101AFI20240515BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240515BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
G01N21/63 Z
C09K11/06
C01B33/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180159
(22)【出願日】2022-11-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (A)令和4年8月17日に、第71回高分子討論会 予稿 1Pe069にて発表 (B)令和4年9月5日に、第71回高分子討論会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】松尾 匠
(72)【発明者】
【氏名】谷久保 泰樹
【テーマコード(参考)】
2G043
4G072
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043DA02
2G043EA10
2G043KA01
2G043KA02
4G072AA25
4G072BB05
4G072BB07
4G072DD04
4G072GG02
4G072HH14
4G072JJ42
4G072JJ47
4G072LL15
4G072MM02
4G072MM03
4G072MM22
4G072MM31
4G072QQ09
4G072TT01
4G072UU04
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】本発明は、ウィスパリング・ギャラリー・モード共振を発現することができ、製造が容易であり、様々な発光体を利用可能な粒子と、当該粒子を使う環境センシング方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子は、非発光性微粒子と発光体を含有し、発光体が非発光性微粒子を被覆していることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非発光性微粒子と発光体を含有し、発光体が非発光性微粒子を被覆していることを特徴とするウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子。
【請求項2】
前記非発光性微粒子の平均粒子径が3μm以上、10μm以下である請求項1に記載のウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子。
【請求項3】
(前記ウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子の円周L)-1と共振スペクトルのモード間隔ΔEをプロットした近似直線の決定係数が0.9以上である請求項1に記載のウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子。
【請求項4】
前記非発光性微粒子がシリカ微粒子である請求項1に記載のウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子。
【請求項5】
請求項1に記載のウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子に励起光を照射する工程、及び、
ウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子の発光スペクトルを測定する工程を含むことを特徴とする環境センシング方法。
【請求項6】
励起光の照射と発光スペクトルの測定を2回以上行い、発光スペクトルを比較する請求項5に記載の環境センシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィスパリング・ギャラリー・モード共振を発現することができ、製造が容易な粒子と、当該粒子を使う環境センシング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
センサーとは、自然現象や人工物の状態、又はそれら変化など、対象の情報を処理や認識が可能な信号に変換する素子をいう。しかし、一般的に、僅かな変化を検出できるセンサーは複雑な機構を有し、高価である場合がある。
【0003】
ところで、構造体の内部に閉じ込められた光が干渉を起こし、発光スペクトルが鋭くなるというウィスパリング・ギャラリー・モード共振という現象が知られている。特許文献1と非特許文献1には、ウィスパリング・ギャラリー・モード共振を発現可能なπ-共役系発光高分子からなる微粒子が開示されている。特許文献2には、発光性ナノ粒子が封入された無機材料粒子が、ウィスパリング・ギャラリー・モード共振を発現可能であることが記載されている。
【0004】
その他、特許文献3には、表面に沿って発光材料粒子が分散されているポリシロキサンフィラー粒子が高分子材料中に分散しているシリコーン製品が開示されている。特許文献4,5には、ナノ粒子コアに発光団が共有結合している発光組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-137312号公報
【特許文献2】特表2020-523432号公報
【特許文献3】特表2015-514154号公報
【特許文献4】特表2011-504525号公報
【特許文献5】特表2010-532423号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kenichi Tabataら,SCIENTIFIC REPORTS,2014,4,5902
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、ウィスパリング・ギャラリー・モード共振を発現可能な粒子は知られていた。しかし、ウィスパリング・ギャラリー・モード共振を効率的に発現するには、粒子径をできるだけ球形に近くすることが必要であるが、発光体自体からなる粒子、発光体を内部に分散させた粒子、及び発光団を表面に共有結合させた粒子は、球形にすることが簡単でないか、又は製造コストが高いといえる。また、特許文献3の粒子は、その表面の10%以下が発光材料粒子を担持しているに過ぎない。
そこで本発明は、ウィスパリング・ギャラリー・モード共振を発現することができ、製造が容易であり、様々な発光体を利用可能な粒子と、当該粒子を使う環境センシング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、非発光性微粒子を発光体で被覆することにより、ウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現が可能な粒子を容易に製造できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0009】
[1] 非発光性微粒子と発光体を含有し、発光体が非発光性微粒子を被覆していることを特徴とするウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子。
[2] 前記非発光性微粒子の平均粒子径が3μm以上、10μm以下である前記[1]に記載のウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子。
[3] (前記ウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子の円周L)-1と共振スペクトルのモード間隔ΔEをプロットした近似直線の決定係数が0.9以上である前記[1]または[2]に記載のウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子。
[4] 前記非発光性微粒子がシリカ微粒子である前記[1]~[3]のいずれかに記載のウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかに記載のウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子に励起光を照射する工程、及び、
ウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子の発光スペクトルを測定する工程を含むことを特徴とする環境センシング方法。
[6] 励起光の照射と発光スペクトルの測定を2回以上行い、発光スペクトルを比較する前記[5]に記載の環境センシング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明粒子は、非発光性微粒子を発光体で被覆するのみで容易に製造することができる。また、発光体としては、溶媒に溶解できたり加熱により溶融可能なものであれば、基本的にあらゆる発光体が利用可能である。更に、本発明粒子は、僅かな環境の変化でも、ウィスパリング・ギャラリー・モード共振による発光スペクトルのピーク位置がずれ、環境の変化を検出可能である。よって、本発明は、鋭敏な環境センサーの開発を可能にできる技術として、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、粒子ウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現の原理を示す模式図である。
図2図2(1)は、原料シリカ粒子のSEM写真であり、図2(2)は、シリカ粒子を高分子発光体でコーティングしたシリカ/発光体粒子のSEM写真である。
図3図3(1)は、シリカ粒子を高分子発光体でコーティングしたシリカ/発光体粒子のTEM写真であり、図3(2)は、同粒子のSiマッピングTEM写真であり、図3(3)は、同粒子のSマッピングTEM写真である。
図4図4(1)は、シリカ/高分子発光体粒子の発光スペクトルであり、図4(2)は、シリカ/低分子発光体粒子の発光スペクトルである。
図5図5は、トルエン蒸気への暴露の前後におけるシリカ/発光体粒子の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るウィスパリング・ギャラリー・モード共振発現粒子は、非発光性微粒子と発光体を含有し、発光体が非発光性微粒子を被覆していることを特徴とする。以下、ウィスパリング・ギャラリー・モードを「WGM」と略記する場合がある。
【0013】
本発明に係るWGM共振発現粒子は、表面が発光体で被覆されており、発光体に励起光を照射すると発光体より生じる蛍光が非発光性微粒子内で全反射し、蛍光の波長に応じて強め合う光干渉が周期的に起こる(図1)。かかる光干渉が起こる蛍光の波長は、WGMの周りの環境により鋭敏にシフトするため、本発明に係るWGM共振発現粒子は、環境センシングに有用である。
【0014】
非発光性微粒子は、自らは発光しないことに加えて、発光体から生じた蛍光の少なくとも一部が内部に侵入できる程度に透明である必要がある。例えば、非発光性微粒子の材質として、可視光の屈折率nが1.6以下の材質を用いることができる。屈折率は、真空中の光速を物質中の光速で除した値であり、n=c/ν=(εμ/ε0μ01/2(式中、cは真空中の光速度を示し、νは材質中の光速度を示し、εは材質の誘電率を示し、μは材質の透磁率を示し、ε0は真空の誘電率を示し、μ0は真空の透磁率を示す。)で表される。可視光は、波長が400nm以上、800nm以下の光をいうものとする。非発光性微粒子の屈折率が1.6以下であれば、発光体から生じた蛍光は非発光性微粒子の内部へより確実に侵入できるといえる。前記屈折率の下限は特に制限されず、1でもよいが、1.4が好ましい。非発光性微粒子の屈折率は、カタログ値があればカタログ値を参照すればよいが、屈折計により測定することができる。
【0015】
非発光性微粒子の材質は、発光体から生じた蛍光の少なくとも一部を粒子内部に侵入させ得る程度の透明性を有するものであれば特に制限されないが、例えば、酸化ケイ素(シリカ)等の半金属酸化物;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリマー;In2O:Sn(ITO)、SnO2:Sb、ZnO:Al等の透明金属酸化物が挙げられる。
【0016】
本発明に係るWGM共振発現粒子がWGM共振を良好に発現するためには、非発光性微粒子が球形または略球形である必要がある。例えば、原料非発光性微粒子を拡大観察し、その画像を画像解析ソフトで解析し、画像中の10個以上、100個以下の代表的な微粒子の長径と短径を求め、短径/長径の比の平均値が0.8以上であれば、画像中で微粒子は様々な方向を向いているはずであるので、画像中の微粒子は球形または略球形であると推測できる。上記比としては、0.9以上が好ましく、0.95以上または0.98以上がより好ましい。
【0017】
或いは、WGM共振発光において、共振器の長さ、即ちWGM共振発現粒子の円周Lの逆数(L-1)と、共振スペクトルのモード間隔ΔE、即ちWGM共振スペクトルのピークとピークとの間隔は、下記式の通り比例関係にある。
eff=hc/(ΔE×L)
[式中、neffは有効屈折率を示し、hはプランク係数を示し、cは光速を示し、ΔEは共振スペクトルのモード間隔(cm-1)を示し、Lは円周の長さ(cm)を示す。]
【0018】
よって、本発明に係るWGM共振発現粒子に波長を違えつつ励起光を照射して発光スペクトルを測定する場合、(WGM共振発現粒子の円周L)-1と共振スペクトルのモード間隔ΔEをプロットした近似直線の決定係数が0.9以上であれば、非発光性微粒子は十分に球形または略球形であると推測され、本発明に係るWGM共振発現粒子は、WGM共振を良好に発現可能であるといえる。上記決定係数としては、0.92以上または0.95以上が好ましく、0.98以上または0.99以上がより好ましい。
【0019】
球形または略球形の非発光性微粒子は、その材質などに応じた常法により製造することができる。例えば球形または略球形のシリカ粒子は、ゾルゲル法により得られた粒子を更に焼成することにより製造できる。球形または略球形のポリマー微粒子は、水を含む溶媒を使う乳化重合法や懸濁重合法により製造することができる。
【0020】
WGM共振発現のためには、発光体の励起光の吸収ピーク波長などに応じて、非発光性微粒子はWGM共振に適した適度な大きさを有することが好ましい。例えば、非発光性微粒子の平均粒子径d50としては、3μm以上、10μm以下が好ましい。なお、本開示において平均粒子径d50とは、非発光性微粒子が市販のものであり且つそのカタログ値があればカタログ値を参照すればよく、かかるカタログ値が無い場合には、非発光性微粒子の電子顕微鏡写真を画像解析ソフトで解析することにより求めればよい。
【0021】
発光体は、励起光の照射により蛍光を発することができるものであれば特に制限されないが、例えば、高分子発光体としては、ポリ(4,4’-ジフェニレンジフェニルビニレン)(PDPV)、ポリp-フェニレン(PPP)、ポリフルオレン(PF)、ポリチオフェン、ポリ(1,4-フェニレンビニレン)(PPV)、ポリフェニレン、アクリロニトリル系ポリマー、及びこれらの共重合体などがあり、これら高分子発光体には、置換基として、溶解性や融解性の向上などのためにアルキル基を導入してもよいし、発光ユニットの剛直化に伴う高発光性の担保のためにフルオロ基を導入してもよい。
【0022】
低分子発光体としては、例えば、アセン、フェニレン、チオフェンフェニレン、フェニレンビニレン、アクリロニトリルを骨格として有する低分子材料が挙げられ、より具体的には、4,4’-ビス(2,2-ジフェニル-エテン-1-イル)ジフェニル(DPVBi)、トリス(8-キノリナト)アルミニウム(III)(Alq3)、及び4-ジシアノメチレン-2-メチル-6-(ジュロリジン-4-イル-ビニル)-4H-フィタン(DCM2)などが挙げられる。
【0023】
本発明に係るWGM共振発現粒子においては、発光体が非発光性微粒子を被覆している。良好なWGM共振の発現のためには、非発光性微粒子の全面または略全面が発光体により覆われていることが好ましい。具体的には、WGM共振発現粒子の電子顕微鏡画像などの二次元画像において、非発光性微粒子の表面の80%以上が発光体に被覆されていることが好ましい。当該割合としては、90%以上または95%以上が好ましく、98%以上または99%以上がより好ましく、100%がより更に好ましい。
【0024】
非発光性微粒子を発光体で被覆する方法は特に制限されないが、発光体の溶液または溶融物に非発光性微粒子を浸漬するか、又は発光体の溶液または溶融物を非発光性微粒子に噴霧したり添加した後に、乾燥または冷却すればよい。
【0025】
発光体の被覆量は特に制限されないが、例えば、非発光性微粒子に対する発光体の割合を、1質量%以上、20質量%以下とすることができる。また、非発光性微粒子の表面における発光体のコーティング厚を、0.1μm以上、1μm以下とすることができる。なお、非発光性微粒子の真球度が高ければ、発光体の被覆厚さは不均一であってもよい。
【0026】
本発明に係るWGM共振発現粒子は、僅かな環境の変化でも、WGM共振による発光スペクトルのピーク位置がずれ、環境の変化を検出可能である。以下、本発明に係る環境センシング方法を説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
【0027】
(1)励起光照射工程
本工程では、本発明に係るWGM共振発現粒子に励起光を照射する。照射光の波長は、WGM共振の検出のため、発光体の励起光の吸収ピーク波長を含み、ある程度の幅を有する。照射光の波長の幅としては、例えば、100nm以上、500nm以下とすることができる。
【0028】
WGM共振発現粒子の状態は特に制限されないが、例えば、基板に担持しておくことができる。基板としては、例えば、ガラス基板や、金基板などの金属基板が挙げられる。
【0029】
(2)発光スペクトルの測定工程
本工程では、励起光の照射によるWGM共振発現粒子の発光スペクトルを測定する。測定は、顕微分光により、1個のWGM共振発現粒子の発光スペクトルを測定することが好ましい。これにより、径の異なる粒子に由来するノイズを抑制することができる。
【0030】
発光体の発光スペクトルは、通常、1以上のピークを有するなだらかな山状になる。それに対して、WGM共振発現粒子の発光スペクトルは、用いた発光体の発光スペクトルのバンド内において、蛍光の波長に応じた細かなピークを周期的に有する(例えば、図4,5を参照)。
【0031】
(3)比較工程
本工程では、前記励起光照射工程1と前記発光スペクトル測定工程2によるWGM発光スペクトル測定を2回以上行い、そのWGM共振ピーク波長を比較することで、環境の変化の有無を確認する。即ち、環境に変化が無ければ、発光スペクトルにも変わりがないはずである。それに対して、WGM共振発現粒子の周囲の環境に変化があれば、WGM共振の発現に由来するピークがシフトする。
【0032】
例えば、環境の変化の無い定常状態において前記励起光照射工程1と前記発光スペクトル測定工程2を行い、発光スペクトルを得ておく。加えて、WGM共振発現粒子の周辺環境の変化の有無を確認したい時期に、前記励起光照射工程1と前記発光スペクトル測定工程2を行い、得られた発光スペクトルと定常状態の発光スペクトルを比較することにより、環境の変化の有無を確認することができる。
【実施例0033】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0034】
実施例1: シリカ/発光体粒子の製造
(1)シリカ粒子の発光体コーティング
平均粒子径d50が6.0~6.8μmである市販のシリカ粒子(「リクロスフェア(登録商標)Si60(5μm)」メルク社製)(29mg)、高分子発光体であるテトラフルオロフェニレン-ビチオフェン交互共重合体(2.9g)、及びクロロホルム(1mL)をスクリュー管に入れ、加熱することにより共重合体を完全に溶解した後、室温まで冷却した。吸引濾過によりシリカ粒子を濾別し、濾液を得た。吸引を継続しつつ、得られた濾液を濾紙上のシリカ粒子にかけた。濾紙上のシリカ粒子をスクリュー管に回収し、同共重合体(1mg)をクロロホルム(1mL)に溶解した溶液を加え、再度吸引濾過した。吸引を5~10分間程度継続することによりシリカ粒子を乾燥した後、スクリュー管内に回収した。
【0035】
(2)電子顕微鏡観察
原料シリカ粒子と得られた高分子発光体被覆シリカ粒子(以下、「シリカ/発光体粒子」という)を走査型電子顕微鏡(「SE8020」日立ハイテクオロジーズ社製)で観察した。また、シリカ/発光体粒子を透過型電子顕微鏡(「JEM-2100F」日本電子社製)で観察し、エネルギー分散型X線分光器によりSiとSの分布を測定した。シリカ粒子とシリカ/発光体粒子のSEM写真を図2に、シリカ/発光体粒子のTEM写真を図3(1)に、SiマッピングTEM写真を図3(2)に、SマッピングTEM写真を図3(3)に示す。
図2に示される結果の通り、発光体コーティングによっては粒子表面の状態が大きく変わっていないことが確認された。
また、図3に示される結果の通り、豊富なSi含量が認められ、且つチオフェン環に由来するSの均一な分散分布が認められ、シリカ粒子が発光体により均一にコーティングされていることが確認された。
また、シリカ/発光体粒子の光学顕微鏡写真を画像処理ソフトで処理し、19個の粒子の円周を求めた。
【0036】
(3)発光スペクトル測定
レーザーダイオードを使って波長405nmの励起光をシリカ/発光体粒子に照射し、蛍光を50倍対物レンズ(N.A.=0.15)で集光し、ファイバー分光器(「SA-100A」ラムダビジョン社製)で検出した。結果を図4(1)に示す。
図4(1)に示される結果の通り、照射光の波長に応じて周期的に鋭い発光バンドが認められたことから、強め合う光干渉が周期的に表れており、シリカ粒子内部で光共振が生じていることが確認された。
【0037】
また、円周Lを求めた各シリカ/発光体粒子にレーザー光を照射し、得られた共振スペクトルのモード間隔ΔEを求めた。L-1(cm-1)をy軸に、ΔE(cm-1)をx軸にプロットし、近似直線を得たところ、得られた近似直線の決定係数は>0.99であった。
【0038】
実施例2: シリカ/発光体粒子の製造
実施例1(1)において、テトラフルオロフェニレン-ビチオフェン交互共重合体を、下記化学構造を有する低分子発光体である1,4-ビス[α-シアノ-4-(2-デシルテトラデシル)オキシスチリル]-2,5-ジメトキシベンゼンに変更した以外は同様にして、シリカ/発光体粒子を作製した。
【0039】
【化1】
【0040】
得られたシリカ/発光体粒子の発光スペクトルを、実施例1(3)と同様に測定した。結果を図4(2)に示す。
図4(2)に示される結果の通り、高分子発光体の代わりに低分子発光体でコーティングしたシリカ粒子にも、照射光の波長に応じて周期的に鋭い発光バンドが認められたことから、強め合う光干渉が周期的に表れており、シリカ粒子内部で光共振が生じていることが確認された。
【0041】
実施例3: センシング機能の評価
実施例1で製造したシリカ/高分子発光体粒子を真空乾燥した後、実施例1(3)と同様にして、発光スペクトルを測定した。
次いで、シリカ/高分子発光体粒子をTEM観察用グリッド(「マイクログリッドNP-C15」応研商事社製)上に固定し、φ100mm×高さ167mmのベルジャー(「VKB-200」桐山製作所社製)に入れた。更に、スライドガラス上にトルエン(300μL)を滴下し、ベルジャー内に入れ、一晩静置した。一晩経過した後には、トルエンは完全に揮発していた。その後、グリッドを取り出し、実施例1(3)と同様にして発光スペクトルを測定した。結果を図5に示す。
図5に示される結果の通り、トルエン蒸気への暴露の前後において、発光スペクトルのピーク位置が約5nmシフトしたことから、本発明に係るシリカ/発光体粒子は、粒子周辺の環境変化を感度良く検知できることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5