(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069929
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240515BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20240515BHJP
F16C 19/28 20060101ALI20240515BHJP
F16C 33/48 20060101ALI20240515BHJP
F16C 33/46 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16C19/26
F16C19/28
F16C33/48
F16C33/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180226
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正幸
【テーマコード(参考)】
3J027
3J701
【Fターム(参考)】
3J027GC08
3J027GC13
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE21
3J701AA13
3J701AA24
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA69
3J701FA31
3J701GA11
3J701XB50
(57)【要約】
【課題】外歯歯車の長寿命化を図る。
【解決手段】内歯歯車411,421と、内歯歯車と噛合う外歯歯車35と、外歯歯車を撓み変形させる起振体30Aと、起振体と外歯歯車の間に配置される起振体軸受31と、を備えた撓み噛合い式歯車装置1であって、起振体軸受31は、転動体31bと、当該転動体を保持する保持器310と、を有し、保持器は、N個の転動体を収容する第1ポケット311と、N個とは異なるM個の転動体を収容する第2ポケット312と、を有し、Nを2以上の整数、Mを1以上の整数とするように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、
前記内歯歯車と噛合う外歯歯車と、
前記外歯歯車を撓み変形させる起振体と、
前記起振体と前記外歯歯車の間に配置される起振体軸受と、
を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記起振体軸受は、転動体と、当該転動体を保持する保持器と、を有し、
前記保持器は、N個の前記転動体を収容する第1ポケットと、N個とは異なるM個の前記転動体を収容する第2ポケットとを有し、
Nを2以上の整数、Mを1以上の整数とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
Nを2とし、Mを1とする
請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
前記第1ポケットと前記第2ポケットは周方向に交互に設けられる
請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
前記転動体の総数がN+Mの倍数とされる
請求項3に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
複数の前記第1ポケット又は複数の前記第2ポケットが連続して隣接する箇所を一部に有する
請求項3に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項6】
前記転動体の総数がN+Mの倍数ではない
請求項5に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項7】
前記第1ポケットは、N個の前記転動体が収容されることで、前記第1ポケットに面する周方向壁とN個の前記転動体同士の接触により、前記転動体の径方向内側への脱落が防止される構成とされる
請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項8】
前記第1ポケットに面する前記周方向壁の前記第1ポケット側の面には、周方向に突出して前記転動体の径方向内側への脱落を防止する脱落防止部を有しない
請求項7に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項9】
少なくとも一つの前記第1ポケットは、当該第1ポケットから180度の位相が異なる位置に他の前記第1ポケットが存在しない
請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項10】
前記転動体は、円筒ころである
請求項1から9のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撓み噛合い式歯車装置は、可撓性を有する外歯歯車と起振体との間に起振体軸受を設け、外歯歯車と起振体の相対的な回転の円滑化を図っている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記撓み噛合い式歯車装置では、外歯歯車が起振体により周期的に撓むことで応力が変動する。従って、このような応力の変動を生じる外歯歯車について長寿命化が要求されていた。
【0005】
本発明は、外歯歯車について長寿命化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
内歯歯車と、内歯歯車と噛合う外歯歯車と、外歯歯車を撓み変形させる起振体と、起振体と外歯歯車の間に配置される起振体軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記起振体軸受は、転動体と、当該転動体を保持する保持器と、を有し、
前記保持器は、N個の前記転動体を収容する第1ポケットと、N個とは異なるM個の前記転動体を収容する第2ポケットと、を有し、
Nを2以上の整数、Mを1以上の整数とする
撓み噛合い式歯車装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外歯歯車について長寿命化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態である撓み噛合い式歯車装置を示す軸方向断面図である
【
図2】起振体軸受、外歯歯車及び起振体軸を軸方向から見た正面図である。
【
図5】比較例としての起振体軸受、外歯歯車及び起振体軸を軸方向から見た正面図である。
【
図6】他の形態(1)の起振体軸受、外歯歯車及び起振体軸を軸方向から見た正面図である。
【
図8】他の形態(2)の起振体軸受、外歯歯車及び起振体軸を軸方向から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
[撓み噛合い式歯車装置の全体構成]
図1は、本発明の実施形態である撓み噛合い式歯車装置1を示す軸方向断面図である。なお、
図1では、撓み噛合い式歯車装置1の回転軸O1よりも上側部分が後述する起振体30Aの長軸に沿った方向を含む断面図を示す。さらに、回転軸O1よりも下側部分が起振体30Aの短軸に沿った方向を含む断面図を示す。
ここで、以下の説明では、後述する回転軸O1に平行な方向を軸方向、回転軸O1を中心とする円周に沿った方向を周方向という。さらに、回転軸O1を中心とする円周の半径に沿った方向を径方向という。
【0011】
撓み噛合い式歯車装置1は、例えば、減速装置である。撓み噛合い式歯車装置1の用途は特に限定されることなく、様々な用途に適用できる。
この撓み噛合い式歯車装置1は、起振体軸30、起振体軸受31、外歯歯車35、第1内歯部411(内歯歯車)、第2内歯部421(内歯歯車)、ケーシング43を備える。さらに、撓み噛合い式歯車装置1は、第1カバー44、第2カバー45、入力軸受46,47、主軸受48及び規制部材としてのストッパーリング51、52を備える。
【0012】
起振体軸30は、回転軸O1を中心に回転する中空筒状の軸である。起振体軸30は、回転軸O1に垂直な断面の外形が非円形(例えば楕円状)の起振体30Aと、起振体30Aの軸方向の両側に設けられた軸部30B、30Cとを有する。楕円状は、幾何学的に厳密な楕円である必要はなく、略楕円を含む。ここでいう楕円状は、回転軸O1に直交する長軸と回転軸O1と長軸とに直交する短軸とを有する長円形状であればよい。
軸部30B、30Cは、回転軸O1に垂直な断面の外形が円形の軸である。
なお、起振体軸30は、中実軸であってもよい。
【0013】
第1内歯部411は、剛性を有する内歯歯車としての第1内歯部材41の内周の一部に歯が設けられて構成される。
第2内歯部421は、剛性を有する第2内歯部材42の内周の一部に歯が設けられて構成される。
【0014】
外歯歯車35は、第1外歯部32、第2外歯部33及び基部34を有する。
第1外歯部32と第2外歯部33とは、可撓性を有する一つの金属製の円筒状の基部34の外周において、軸方向の一方と他方とに並んで一体的に設けられている。
そして、第1外歯部32は、第1内歯部411と噛合し、第2外歯部33は、第2内歯部421と噛合している。
【0015】
起振体軸受31は、例えばコロ軸受であり、起振体30Aと第1外歯部32及び第2外歯部33が形成された基部34との間に配置される。起振体30Aと第1外歯部32及び第2外歯部33とは、起振体軸受31を介して相対的に回転可能にされる。
起振体軸受31は、基部34の内側に嵌入される外輪31aと、複数の転動体(円筒ころ)31bと、複数の転動体31bを保持する保持器310とを有する。
複数の転動体31bは、第1群の転動体31bと第2群の転動体31bとを有する。
第1群の転動体31bは、第1外歯部32及び第1内歯部411の径方向内方に配置され、周方向に並ぶ複数の転動体31bからなる。
第2群の転動体31bは、第2外歯部33及び第2内歯部421の径方向内方に配置され、周方向に並ぶ複数の転動体31bからなる。
これら第1群及び第2群の転動体31bは、起振体30Aの外周を内側転走面、外輪31aの内周を外側転走面として転動する。
【0016】
起振体軸受31は、起振体30Aとは別体の内輪を有してもよい。また、起振体軸受31は、外輪31aをなくして、基部34の内周を外側転走面としてもよい。転動体の種類も特に限定されるものではなく、例えば玉でもよい。また、転動体の列数も2つに限定されるものではなく、1列でもよいし、3列以上でもよい。
なお、本実施形態における起振体軸受31の特徴的な構成については後述する。
【0017】
ストッパーリング51は、外歯歯車35及び起振体軸受31の軸方向の一端部と入力軸受46との間に配置される。ストッパーリング52は、外歯歯車35及び起振体軸受31の軸方向の他端部と入力軸受47との間に配置される。
これらのストッパーリング51,52は、外歯歯車35と起振体軸受31の軸方向の移動を規制する。
【0018】
ケーシング43は、第2内歯部材42の外周側を覆う。ケーシング43の内周部には、主軸受48の外輪部が形成されており、主軸受48を介して第2内歯部材42を回転自在に支持している。ケーシング43は、例えば、ボルトのような連結部材431を介して第1内歯部材41と連結される。
【0019】
主軸受48は、例えば、クロスローラ軸受であり、第2内歯部材42と一体化された内輪部とケーシング43と一体化された外輪部との間に配置される複数の転動体とを有する。なお、主軸受48は、第2内歯部材42とケーシング43との間で、軸方向に離間した複数の軸受(アンギュラ玉軸受、テーパ軸受等)から構成されてもよい。
また、ケーシング43と第2内歯部材42との間であって、主軸受48よりも出力側には、オイルシール541が設けられ、軸方向外側(出力側)への潤滑剤の流出を抑制する。
【0020】
第1カバー44は、例えば、ボルト等の連結部材441を介して第1内歯部材41と連結されている。
第1カバー44は、第1外歯部32と第1内歯部411とを軸方向の反出力側から覆う。第1内歯部材41及びケーシング43は、直接または間接的に外部部材に連結される。
【0021】
なお、本実施形態では、外部部材と連結されて減速された運動を外部部材に出力する側を出力側(
図1における左側)と呼ぶ。外部部材は、相手部材ともいい、例えば、撓み噛合い式歯車装置1を部品として組み込む本体装置の相互に動力伝達が行われる一方の部材等である。また、本実施形態では、軸方向における出力側とは反対側を反出力側(
図1における右側)と呼ぶ。
【0022】
第1カバー44と起振体軸30の軸部30Bとの間には入力軸受46が配置され、起振体軸30は、回転自在に第1カバー44に支持される。なお、入力軸受46は、玉軸受を例示しているが他のラジアル軸受を使用しても良い。
第1カバー44と軸部30Bとの間の入力軸受46よりも反出力側には、オイルシール542が設けられ、軸方向外側(反出力側)への潤滑剤の流出を抑制する。
【0023】
第2カバー45は、例えば、ボルト等の連結部材533を介して第2内歯部材42と連結され、第2外歯部33と第2内歯部421とを軸方向の出力側から覆う。第2カバー45及び第2内歯部材42は、減速された運動を出力する外部部材に連結される。なお、この外部部材は、第1内歯部材41等が連結される外部部材に対して相対回転する部材である。
第2カバー45と起振体軸30の軸部30Cとの間には入力軸受47が配置され、起振体軸30は、回転自在に第2カバー45に支持される。なお、入力軸受47は、玉軸受を例示しているが他のラジアル軸受を使用しても良い。
第2カバー45と軸部30Cとの間であって、入力軸受47よりも出力側には、オイルシール543が設けられ、軸方向外側(出力側)への潤滑剤の流出を抑制する。なお、第2カバー45は、第2内歯部材42と一体的に形成されてもよい。
【0024】
さらに、第1内歯部材41とケーシング43の間にはシール用のOリング551が介挿されている。
第1内歯部材41と第1カバー44の間にはシール用のOリング552が介挿され、第2内歯部材42と第2カバー45の間にはシール用のOリング553が介挿されている。
従って、撓み噛合い式歯車装置1の内部空間は、潤滑剤が封入される潤滑剤封入空間とされ、オイルシール541~543やOリング551~553によって密封されている。
内部空間は、第1外歯部32と第1内歯部411の噛合い部、第2外歯部33と第2内歯部421の噛合い部が設けられた空間である。さらに、内部空間には、主軸受48、入力軸受46,47、起振体軸受31等も設けられている。これらは、潤滑剤を必要とする構成である。
【0025】
[減速動作]
図示略のモータ等から回転運動が入力され、起振体軸30が回転すると、起振体30Aの運動が第1外歯部32及び第2外歯部33に伝わる。このとき、第1外歯部32及び第2外歯部33は、起振体30Aの外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、第1外歯部32は、固定された第1内歯部材41の第1内歯部411と長軸部分で噛合っている。このため、第1外歯部32及び第2外歯部33は、起振体30Aと同じ回転速度で回転せず、第1外歯部32及び第2外歯部33の内側で起振体30Aが相対的に回転する。そして、この相対的な回転に伴って、第1外歯部32及び第2外歯部33は長軸位置と短軸位置とが周方向に移動するように撓み変形する。なお、長軸位置とは、起振体30Aの長軸の延長線上となる位置であり、短軸位置とは、起振体30Aの短軸の延長線上となる位置である。この変形の周期は、起振体軸30の回転周期に比例する。
【0026】
第1外歯部32及び第2外歯部33が撓み変形する際、その長軸位置が移動することで、第1外歯部32と第1内歯部411との噛合う位置が回転方向に変化する。ここで、例えば、第1外歯部32の歯数を100、第1内歯部411の歯数を102とすると、噛合う位置が一周するごとに、第1外歯部32と第1内歯部411との噛合う歯がずれる。これにより第1外歯部32が第1内歯部411よりも少ない歯数分回転(自転)する。上記の歯数であれば、起振体軸30の回転運動は減速比100:2で減速されて第1外歯部32に伝達される。
【0027】
一方、第1外歯部32と基部34を共通とする第2外歯部33は、第2内歯部421と噛合っている。このため、起振体軸30の回転によって第2外歯部33と第2内歯部421との噛合う位置も回転方向に変化する。一方、本実施形態においては、第2内歯部421の歯数と第2外歯部33の歯数とは一致しているため(例えば、両者ともに歯数は100)、第2外歯部33と第2内歯部421とは相対的に回転しない。即ち、第2外歯部33の回転運動は、減速比1:1で第2内歯部421へ伝達される。これらによって、起振体軸30の回転運動が減速比100:2で減速されて、第2内歯部材42及び第2カバー45へ伝達される。そして、この減速された回転運動が外部部材に出力される。
【0028】
[起振体軸受の特徴的な構成について]
図2は起振体軸受31、外歯歯車35及び起振体軸30を軸方向から見た正面図、
図3は保持器310の部分的な斜視図、
図4は起振体軸受31の拡大断面図である。なお、
図2において起振体軸受31の保持器310のみを軸方向中間位置における軸垂直断面で図示している。また、起振体軸受31の第1群の転動体31bと第2群の転動体31bの軸方向から見た配置と保持器310の構造は一致しており、
図2ではこれらの内の一方を図示している。
【0029】
保持器310は、
図1のように、軸方向幅が外歯歯車35の二分の一と略一致した円筒体である。つまり、第1群の転動体31bの保持器310と第2群の転動体31bの保持器310とが軸方向に並んだ状態で合計の軸方向幅が外歯歯車35と略一致する。
保持器310は、外径が外輪31aより小さく、内径が起振体30Aの長軸よりも大きく設定されている。また、保持器310の径方向の厚さは、転動体31bの外径よりも小さい。
なお、上記保持器310及び外輪31aは、撓み噛合い式歯車装置1に組み込まれていない状態で軸方向から見て正円形である。上述の保持器310の外径及び内径の記載は、正円形の状態を前提としている。
【0030】
保持器310には、
図3のように、径方向から見て略矩形となる第1ポケット311及び第2ポケット312が径方向に貫通形成されている。
第1ポケット311は、転動体31bの収容数Nを2個(N=2)とし、第2ポケット312は、転動体31bの収容数Mを1個(M=1)としている。
保持器310には、八つ(偶数)の第1ポケット311と八つ(偶数)の第2ポケット312とが周方向に一つずつ交互に並んで形成されている。これにより、保持器310に保持される転動体31bの総数は、(N+M)の倍数(8倍)で合計24個となっている。
【0031】
第1ポケット311と第2ポケット312は、いずれも軸方向の幅が、転動体31bよりもわずかに広く、内部の転動体31bが円滑に転動可能な幅となっている。
保持器310には、周方向に交互に並んだ第1ポケット311と第2ポケット312と仕切る周方向壁としての柱部313が16個形成されている。
【0032】
図3及び
図4のように、各柱部313は、第1ポケット311側の面314と第2ポケット312側の面315とを有する。そして、各柱部313は、それぞれの面314,315の径方向外側端部に、脱落防止部としての爪部316,317を有する。
【0033】
第1ポケット311の周方向両側の二つの柱部313の対向する二つの面314は、互いに平行に近い状態であって、径方向内側が互いに接近する方向にわずかに傾斜している。
そして、上記二つの柱部313の互いに対向する面314の径方向内側の端部同士の間隔wi1が転動体31bの外径の二倍よりも若干狭くなるように設定されている。
一方、上記互いに対向する面314の径方向中央部あたりから径方向外側については、対向面314同士の間隔が転動体31bの外径の二倍に等しいかこれよりも広い。
【0034】
これらによって、第1ポケット311内で二つの転動体31bは、径方向に移動可能だが、径方向内側には、いわゆるキーストーン状態となって脱落しないようになっている。
このため、第1ポケット311の対向する二つの面314は、径方向内側への転動体31bの脱落防止部としての爪部は形成されていない。これら二つの面314は、前述した爪部316を除いて略平坦となっている。
【0035】
また、上記二つの柱部313の互いに対向する面314の傾斜により、二つの面314の径方向外側の端部同士の間隔は、転動体31bの外径の二倍よりも広くなっている。
しかしながら、各面314の径方向外側の端部には、爪部316が互いに周方向に沿って接近する方向に延出されている。そして、各爪部316の先端部同士の間隔wo1は、転動体31bの外径の二倍よりも狭くなるように設定されている。
従って、第1ポケット311内で二つの転動体31bは、径方向外側にも脱落しないようになっている。
【0036】
上記間隔wi1及び間隔wo1と転動体31bの外径との大小関係は、保持器310が正円形の状態である場合を前提としている。
なお、保持器310は、その内側に配置された起振体30Aの短軸部分が第1ポケット311に接近した状態で間隔wi1が最も広げられる。この状態で、間隔wi1が転動体31bの外径の二倍よりも狭くなるように設定してもよい。
また、保持器310は、その内側に配置された起振体30Aの長軸部分が第1ポケット311に接近した状態で間隔wo1が最も広げられる。この状態で、間隔wo1が転動体31bの外径の二倍よりも狭くなるように設定してもよい。
【0037】
第2ポケット312の周方向両側の二つの柱部313の対向する二つの面315は、互いに平行に近い状態であって、径方向内側が互いに接近する方向にわずかに傾斜している。
そして、上記二つの柱部313の互いに対向する面315の径方向内側の端部同士の間隔wi2が転動体31bの外径よりも若干狭くなるように設定されている。
一方、上記互いに対向する面315の径方向中央部あたりから径方向外側については、対向面315同士の間隔が転動体31bの外径に等しいかこれよりも広い。
【0038】
これらによって、第2ポケット312内で一つの転動体31bは、径方向に移動可能だが、径方向内側には脱落しないようになっている。
このため、第2ポケット312の対向する二つの面315は、径方向内側への転動体31bの脱落防止部としての爪部は形成されていない。これら二つの面315は、前述した爪部317を除いて略平坦となっている。
【0039】
また、上記二つの柱部313の互いに対向する面315の傾斜により、二つの面315の径方向外側の端部同士の間隔は、転動体31bの外径よりも広くなっている。
この場合も、各面315の径方向外側の端部には、爪部317が互いに周方向に沿って接近する方向に延出されている。そして、各爪部317の先端部同士の間隔wo2は、転動体31bの外径よりも狭くなるように設定されている。
従って、第2ポケット312内で一つの転動体31bは、径方向外側にも脱落しないようになっている。
【0040】
上記間隔wi2及び間隔wo2と転動体31bの外径との大小関係も、保持器310が正円形の状態である場合を前提としている。
この場合も、起振体30Aの短軸部分が第2ポケット312に接近した状態で間隔wi2が転動体31bの外径よりも狭くなるように設定してもよい。
同様に、起振体30Aの長軸部分が第2ポケット312に接近した状態で間隔wo2が転動体31bの外径よりも狭くなるように設定してもよい。
【0041】
起振体軸受31は、隣り合う転動体31bの周方向の間隔が、第1ポケット311により狭くなる箇所(狭間隔)と、柱部313が介在して広くなる箇所(広間隔)とがある。上記保持器310の構成の場合、各転動体31bは、一つの狭間隔の次に二つの広間隔が連続するというパターンが周方向に繰り返されるように並んでいる。
【0042】
[比較例について]
ここで、転動体31bの周方向の配置について比較例としての起振体軸受31Xの正面図を
図5に示す。この起振体軸受31Xについて起振体軸受31と共通する構成については同符号を付している。
【0043】
起振体軸受31Xは、前述した保持器310と異なる保持器310Xを有する。また、この起振体軸受31Xは、転動体31bの個体数が起振体軸受31より少ない19個を例示しているが、起振体軸受31と同じ24個としてもよい。
【0044】
起振体軸受31Xの保持器310Xは、従来から使用されている一般的な保持器の構造を有する。
保持器310Xは、径方向から見て略矩形となる19個のポケット311Xが径方向に貫通形成されている。各ポケット311Xは、周方向に均一間隔で形成されている。また、各ポケット311Xは、転動体31bの収容数を1個としている。
【0045】
保持器310Xは、各ポケット311Xを周方向に仕切る周方向壁としての柱部313Xを有する。
ポケット311Xの周方向両側の二つの柱部313Xの対向する二つの面は、互いに平行であって、互いの間隔は、転動体31bの外径よりもわずかに広くなっている。
また、二つの柱部313Xの対向する二つの面の径方向外側端部と径方向内側端部には、いずれも、転動体31bの脱落防止部としての爪部を有する。
【0046】
起振体軸受31Xは、隣り合う転動体31bの周方向の間隔が、柱部313Xが介在して広くなる箇所(この場合も広間隔とする)のみである。上記保持器310Xの構成の場合、各転動体31bは、広間隔が周方向に繰り返されるように並んでいる。
【0047】
[発明の実施形態の技術的効果]
図2~
図4に示す起振体軸受31を備える撓み噛合い式歯車装置1の技術的効果について、
図5に示す起振体軸受31Xを使用する場合との比較により説明する。
【0048】
外歯歯車35は、相対回転を行う起振体30Aの短軸位置が径方向内側を通過する際に、内径が最大限に拡大する方向に広げられて、応力が大きくなる。特に、外歯歯車35の内側で、起振体軸受31,31Xの二つの転動体31bの広間隔となる位置と起振体30Aの短軸位置とが一致すると、外歯歯車35の応力は最大となる。
【0049】
起振体軸受31は、転動体31bについて、一回の狭間隔と二回の広間隔とが周方向に繰り返される配置である。一方、起振体軸受31Xは、転動体31bについて、広間隔のみが周方向に繰り返される配置である。
【0050】
従って、内側に起振体軸受31Xが設けられている場合には、起振体30Aの回転に伴い、外歯歯車35に対して大きな応力が一定周期で繰り返し発生する。このため、外歯歯車35に劣化や破損が生じやすくなり、長寿命化を図ることが困難となる。
これに対して、内側に起振体軸受31が設けられている場合には、起振体30Aの回転に伴い、外歯歯車35に対して大きな応力が繰り返されない。起振体軸受31の場合には、広間隔による大きな応力が二回連続してから狭間隔による小さな応力が一回生じる。従って、外歯歯車35に対して、大きな応力が一定周期で連続せず、周期的に小さい応力が介在する。
このため、外歯歯車35の劣化や破損を抑制し、長寿命化を図ることが可能となる。
【0051】
なお、起振体軸受31と起振体軸受31Xは、転動体31bの数が異なり、柱部313と柱部313Xの周方向の幅も異なるので、比較条件が完全に一致しない。
しかしながら、転動体31bの数を揃えた場合、或いは、柱部313と柱部313Xの周方向の幅を揃えた場合でも、起振体軸受31は、長寿命化の観点で有利である。
比較条件を揃えた場合でも、起振体軸受31Xは、最大応力を周期的に連続して外歯歯車35に発生させるので、外歯歯車35の長寿命化が困難だからである。
【0052】
なお、柱部313の数をより低減させるために、保持器に第1ポケット311のみを設ける構成も考えられる。しかしながら、この構成の場合、柱部313が一定間隔で配置されるので、狭間隔と広間隔とが交互となり、大きな応力と小さな応力とが交互に外歯歯車35に生じる。従って、大きな応力が周期的に外歯歯車35に生じるため、外歯歯車35の長寿命化を図ることは困難である。
さらに、この場合、第1ポケット311で互いに摺動する転動体31bの数が増えるため、摺動による動力伝達の損失や転動体31bの摩耗による寿命低下を生じ得る。
これに対して、起振体軸受31は、外歯歯車35に最大応力が一定周期で繰り返し生じることを回避できるため、上記構成よりも長寿命化を図ることが可能となる。また、摺動する転動体31bの数が少ないので、摺動による動力伝達の損失や転動体31bの摩耗を抑制することが可能となる。
【0053】
以上のように、撓み噛合い式歯車装置1は、起振体軸受31の保持器310が第1ポケット311と第2ポケット312を有するので、外歯歯車35の長寿命化を図ることが可能となる。
【0054】
さらに、保持器310の第1ポケット311の転動体31bの数Nを2とし、第2ポケット312の転動体31bの数Mを1としている。
このため、起振体軸受31において摺接する転動体31bの数の低減を図ることができ、長寿命化を図りつつ、駆動時の摺動による損失の低減を図ることが可能となる。
【0055】
また、起振体軸受31は、第1ポケット311と第2ポケット312は周方向に交互に設けられている。この場合、第1ポケット311内の二つの転動体31bによる摺動抵抗箇所が周方向に均一に展開されるので、外歯歯車35と起振体30Aの円滑な相対回転が可能となる。
特に、起振体軸受31は、転動体31bの総数をN+Mの倍数としているので、第1ポケット311と第2ポケット312とが交互とならない箇所がない。従って、外歯歯車35と起振体30Aのさらなる円滑な相対回転が可能となる。
【0056】
また、起振体軸受31の保持器310は、第1ポケット311に収容された2個の転動体31bが両側の面314に接触して径方向内側への脱落が防止される構成である。
このため、各面314における径方向内側端部に脱落防止部としての爪部を有しない構造を採ることができる。このため、保持器310の構造の簡易化により製造を容易に行うことが可能となる。特に、保持器310を樹脂成型する場合には、径方向の少なくとも一方に爪部を設けないことにより、離型性が向上し、製造をより容易に行うことが可能となる。
【0057】
[起振体軸受の他の形態(1)]
撓み噛合い式歯車装置1は、他の形態(1)に示す起振体軸受31Aを搭載することが可能である。
図6は他の形態(1)の起振体軸受31A、外歯歯車35及び起振体軸30を軸方向から見た正面図、
図7は起振体軸受31Aの拡大断面図である。
なお、起振体軸受31Aについて、前述した起振体軸受31と同じ構成については同符号を付して重複する説明は省略する。
【0058】
この起振体軸受31Aは、保持器310Aの構成と転動体31bの個数が前述した起振体軸受31と異なる。
保持器310Aは、転動体31bの収容数N=2の第1ポケット311と収容数M=1の第2ポケット312とが周方向に交互に形成されている。但し、保持器310と異なり、保持器310Aは、第1ポケット311と第2ポケット312がいずれも奇数、例えば、7つ設けられている。従って、転動体31bの総数が、N+Mの7倍で21個となっている。
【0059】
この場合、転動体31bの個体数の違いにより、保持器310Aの柱部313の周方向の幅が保持器310と異なるが、第1ポケット311、第2ポケット312及び柱部313の機能は、ほぼ同一である。
但し、保持器310Aの場合、第1ポケット311及び第2ポケット312の数が奇数である。このため、各第1ポケット311に対して180度の位相が異なる位置に他の第1ポケット311が存在しない配置となっている。この保持器310Aの場合、各第1ポケット311に対する180度の位相が異なる位置には、第2ポケット312が配置されている。
【0060】
この場合、起振体30Aの短軸の両端部に同時に起振体軸受31Aの広間隔が位置する状態が発生しないので、外歯歯車35に生じる最大応力を緩和することができる。従って、撓み噛合い式歯車装置1に起振体軸受31Aを搭載した場合には、さらなる外歯歯車35の長寿命化を図ることが可能となる。
【0061】
なお、この形態(1)では、全ての第1ポケット311について、180度の位相が異なる位置に他の第1ポケット311が存在しない配置となる構成を例示したが、これに限定されない。例えば、少なくとも一つの第1ポケット311について、180度の位相が異なる位置に他の第1ポケット311が存在しない配置となる構成としてもよい。そのような構成は、例えば、一部の柱部313の周方向の幅を調整すること等により実現できる。
【0062】
[起振体軸受の他の形態(2)]
撓み噛合い式歯車装置1は、他の形態(2)に示す起振体軸受31Bを搭載することが可能である。
図8は他の形態(2)の起振体軸受31B、外歯歯車35及び起振体軸30を軸方向から見た正面図、
図9は起振体軸受31Bの拡大断面図である。
なお、起振体軸受31Bについて、前述した起振体軸受31と同じ構成については同符号を付して重複する説明は省略する。
【0063】
この起振体軸受31Bは、保持器310Bの構成と転動体31bの個数が前述した起振体軸受31と異なる。
保持器310Bは、転動体31bの収容数N=2の第1ポケット311と収容数M=1の第2ポケット312とが周方向に交互に形成されている。前述した保持器310,310Aは、いずれも第1ポケット311と第2ポケット312とが交互に並び、第1ポケット311又は第2ポケット312が連続する箇所がなかった。
これに対して、保持器310Bは、全周の一部において、第1ポケット311と第2ポケット312とが交互とならず、第2ポケット312が三つ並ぶ箇所を有する。
【0064】
保持器310Bは、第1ポケット311が7つ、第2ポケット312が9つ設けられており、
図8の下部において、第2ポケット312が3つ連続して設けられている。
その結果、転動体31bの総数が、N+Mの倍数とならず、23個となっている。
【0065】
この場合、各ポケット311,312の個数と転動体31bの個体数の違いにより、保持器310Bの柱部313の周方向の幅が保持器310と異なるが、第1ポケット311、第2ポケット312及び柱部313の機能は、ほぼ同一である。
【0066】
保持器310Bの場合、第2ポケット312が三つ並ぶ箇所で広間隔が四連続で並ぶ。しかし、起振体軸受31Bの場合も、外歯歯車35に対して、大きな応力が一定周期で発生しないので、外歯歯車35の劣化や破損を抑制し、長寿命化を図ることが可能となる。
【0067】
保持器310Bの第1及び第2ポケット311,312の各個数、N、Mの設定数等によっては、全周に渡って、第1ポケット311と第2ポケット312とが交互に配置することが困難な場合がある。
その場合でも、起振体軸受31Bは、保持器310Bにおける広間隔の周期性を回避する構成とすることにより、保持器310Bの設計の自由度を確保しつつ外歯歯車35の長寿命化が可能となる。
なお、この形態(2)では、第2ポケット312が連続する例を示したが、第1ポケット311が連続する構成としてもよい。
【0068】
[起振体軸受の他の各種の形態]
撓み噛合い式歯車装置1は、以下に説明する他の形態の起振体軸受を搭載することが可能である。
例えば、起振体軸受は、保持器が、第1ポケットと第2ポケットが周方向に一つずつ交互となる配置で構成されなくともよい。
即ち、第1ポケットと第2ポケットがいずれも同じ複数個ずつ交互に連続する配置としてもよい。具体的には、第1ポケットと第2ポケットとが二つずつ交互に並ぶ等である。
【0069】
また、第1ポケットと第2ポケットがいずれも異なる個数ずつ交互に連続する配置としてもよい。具体的には、第1ポケットが三つ、第2ポケットが一つで交互に並ぶ等である。
【0070】
また、第1ポケットと第2ポケットがいずれも不定の個数ずつ交互に連続する配置としてもよい。具体的には、第1ポケットが三つ、第2ポケットが一つ、第1ポケットが四つ、第2ポケットが二つ等、並び数を変化させて交互に並ぶ等である。
これらの場合も、保持器における広間隔の周期性を回避する構成とすることにより、保持器の設計の自由度を確保しつつ外歯歯車35の長寿命化が可能となる。
【0071】
また、起振体軸受の保持器は、第1ポケットと第2ポケットのみでなくともよい。例えば、保持器は、第1ポケットと第2ポケットのいずれとも転動体31bの収容数が異なる第3のポケットを有する構成としてもよい。さらには、保持器は、収容数が異なる四種以上のポケットを有する構成としてもよい。
【0072】
また、第1ポケット311の収容数Nと第2ポケット312の収容数Mとは、Nを2以上の整数、MをN以外の1以上の整数とする範囲で任意に変更可能である。
【0073】
[その他]
上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態で示した撓み噛合い式歯車装置1は、筒型の構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、筒型以外の撓み噛合い式歯車装置、例えばカップ型やシルクハット型などにも、上述した各種の起振体軸受を好適に適用することが可能である。
【0074】
また、上述した各種の保持器は、第1ポケット311と第2ポケット312の両方について、転動体31bの径方向内側への脱落を防止する脱落防止部を有さない構成を例示している。
しかしながら、保持器は、転動体31bの径方向内側への脱落を防止する脱落防止部としての爪部を有する構成としてもよい。
その場合、各ポケット311,312内の周方向に対向する面は、平行でもよいし、径方向内側又は径方向外側のいずれかが狭くなるように傾斜してもよい。
また、保持器は、1ポケット311又は第2ポケット312のいずれか一方のみについて、転動体31bの径方向内側への脱落を防止する脱落防止部を有さない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 撓み噛合い式歯車装置
30 起振体軸
30A 起振体
30B、30C 軸部
31,31A,31B,31X 起振体軸受
31a 外輪
31b 転動体
32 第1外歯部
33 第2外歯部
34 基部
35 外歯歯車
310,310A,310B,310X 保持器
311 第1ポケット
312 第2ポケット
311X ポケット
313,313X 柱部(周方向壁)
314,315 面
316,317 爪部(脱落防止部)
wi1,wi2,wo1,wo2 間隔
M 収容数
N 収容数
O1 回転軸