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特開2024-69940同材摺動性に優れた熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物及びそれからなる成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069940
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】同材摺動性に優れた熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物及びそれからなる成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240515BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240515BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20240515BHJP
   C08L 83/10 20060101ALI20240515BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L83/04
C08K5/29
C08L83/10
C08L63/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180246
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】中島 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】赤石 卓也
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CD013
4J002CD043
4J002CD063
4J002CD123
4J002CD143
4J002CF041
4J002CF071
4J002CF101
4J002CG041
4J002CP162
4J002CP172
4J002ER006
4J002FD040
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD172
4J002FD333
4J002FD336
4J002GN00
4J002GQ01
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】 同材摺動性と耐久性に優れ、成形加工時の機台汚染がない熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)と滑剤とを含有する熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、滑剤として、シリコーン系滑剤(B)(好ましくはポリエステル変性シリコーン化合物)のみを含有し、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)100重量部に対するシリコーン系滑剤(B)の配合割合が0.5~10重量部であり、樹脂組成物の還元粘度が1.9~3.5dl/gである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)と滑剤とを含有する熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、滑剤として、シリコーン系滑剤(B)のみを含有すること、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)100重量部に対するシリコーン系滑剤(B)の配合割合が0.5~10重量部であること、及び熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物の還元粘度が1.9~3.5dl/gであることを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項2】
シリコーン系滑剤(B)が、ポリエステル変性されたシリコーン化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物が、増粘剤(C)を更に含有することを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項4】
増粘剤(C)が、エポキシ化合物またはカルボジイミド化合物であることを特徴とする、請求項3に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物からなることを特徴とする成形体。
【請求項6】
成形体が、自動車部品であることを特徴とする請求項5に記載の成形体。
【請求項7】
成形体が、自動車の等速ジョイントブーツであることを特徴とする請求項6に記載の成形体。
【請求項8】
成形体が、自動車の内装部品であることを特徴とする請求項6に記載の成形体。
【請求項9】
成形体が、リテーナー、チューブ、又は電線の被覆材であることを特徴とする請求項5に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品の成形体、特に等速ジョイントブーツ等の部材に好適に使用できる熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、同材摺動性と耐久性に優れるだけでなく、成形加工時の機台汚染性も改善された熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステルエラストマーは、柔軟性、反発弾性、低温特性、屈曲疲労性等のエラストマーとしての特性を有しながら、熱可塑性エラストマーの中でも特に優れた耐熱性、耐油性を有する。加えて、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形等の様々な工法による成形加工が可能である。これらの利点に鑑みて、熱可塑性ポリエステルエラストマーは、自動車部品や電気・電子部品などの長期的に使用される工業製品を始めとして、繊維、シート・フィルム、ボトル・容器等の幅広い用途に使用されている。
【0003】
自動車部品の中でも等速ジョイントブーツは、等速ジョイントを保護するための部材であり、その構造上、金属-樹脂の組み合わせのような異種材料からなる部材間の接触運動よりも、樹脂-樹脂の組み合わせのような同種材料からなる部材間の接触運動が多い。そのため、樹脂-樹脂の組み合わせのような同種材料からなる部材間の接触運動による摩耗を低減させること、即ち同材摺動性を向上させることが要求される。特に、熱可塑性ポリエステルエラストマーは、同材間での凝着性が高いため、熱可塑性ポリエステルエラストマーを樹脂として使用して成形された等速ジョイントブーツでは、同材同士が接触した際に表面が強固に密着してしまい、両者を引き剥がす際の抵抗が大きい。そのため、熱可塑性ポリエステルエラストマーから成形された等速ジョイントブーツでは、同材摺動性の向上が強く要求される。また、同材摺動性の向上は、リテーナー、チューブ、電線の被覆材等でも要求される。
【0004】
自動車部品用の熱可塑性ポリエステルエラストマーには、部材間の接触運動による摩耗を低減させるために、滑剤を配合することが一般的である。滑剤としては、従来、ビニル変性オレフィンなどのオレフィン系滑剤や、エチレンビスオレイン酸アマイドなどのアマイド系滑剤が使用されている(特許文献1の明細書の段落[0055]~[0056]参照)。
【0005】
しかしながら、オレフィン系滑剤は、熱可塑性ポリエステルエラストマーに配合した場合、異種材料間での摺動性は向上させることができるが、同材摺動性の向上効果に劣るという問題がある。一方、アマイド系滑剤は、同材摺動性の向上効果をある程度有するが、同材摺動性の向上効果を十分に発揮させるために必要な量を配合すると、成形加工時に表面にブリードしてしまい、成形加工に使用される機台が汚染されてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-142551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決するために鑑み創案されたものであり、その目的は、同材摺動性と耐久性に優れ、かつ成形加工時の機台汚染がない熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、熱可塑性ポリエステルエラストマー用の滑剤としてシリコーン系の滑剤のみを特定の割合で熱可塑性ポリエステルエラストマーに配合することによって、成形加工時の機台汚染を生じることなく優れた同材摺動性を達成できることを見出した。また、樹脂組成物の還元粘度を一定値以上にすることにより、耐熱老化性や耐屈曲疲労性などの耐久性も高いレベルで達成できることを見出した。これらの知見に基づき、本発明者は、本発明の完成に至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)~(9)の構成を有する。
(1)熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)と滑剤とを含有する熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、滑剤として、シリコーン系滑剤(B)のみを含有すること、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)100重量部に対するシリコーン系滑剤(B)の配合割合が0.5~10重量部であること、及び熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物の還元粘度が1.9~3.5dl/gであることを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
(2)シリコーン系滑剤(B)が、ポリエステル変性されたシリコーン化合物であることを特徴とする、(1)に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
(3)熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物が、増粘剤(C)を更に含有することを特徴とする、(1)に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
(4)増粘剤(C)が、エポキシ化合物またはカルボジイミド化合物であることを特徴とする、(3)に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物からなることを特徴とする成形体。
(6)成形体が、自動車部品であることを特徴とする(5)に記載の成形体。
(7)成形体が、自動車の等速ジョイントブーツであることを特徴とする(6)に記載の成形体。
(8)成形体が、自動車の内装部品であることを特徴とする(6)に記載の成形体。
(9)成形体が、リテーナー、チューブ、又は電線の被覆材であることを特徴とする(5)に記載の成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、同材摺動性と耐久性に優れ、かつ成形加工時の機台汚染がない熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供することができる。本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、上述の特性を有するので、自動車部品の成形体、特に高い同材摺動性を要求される自動車の等速ジョイントブーツ等の成形材料に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)と、滑剤としてシリコーン系滑剤(B)のみを特定の割合で含有し、特定の範囲の還元粘度を有するものである。以下、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物について詳述する。
【0012】
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)]
本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合されてなるものである。
【0013】
好ましくは、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族又は脂環族ジオールとから構成される結晶性ポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル及び脂肪族ポリカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種のソフトセグメントとを主たる構成成分とするものである。前記ソフトセグメント成分の含有量は、95~5質量%であることが好ましく、より好ましくは90~10質量%であり、さらに好ましくは85~15質量%であり、特に好ましくは75~25質量%である。また、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)は、ソフトセグメント成分の含有量が異なる2種類以上のものを併用して、上述のソフトセグメント含有量となるように調整してもよい。
【0014】
熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸としては、公知の芳香族ジカルボン酸が広く用いられ、特に限定されないが、主たる芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸であることが好ましい。ナフタレンジカルボン酸には、異性体が存在するが、その中でも2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。その他の酸成分としては、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。これらは樹脂の融点を大きく低下させない範囲で用いられ、その量は全酸成分の35モル%未満、好ましくは30モル%未満である。
【0015】
熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する脂肪族又は脂環族ジオールとしては、公知の脂肪族又は脂環族ジオールが広く用いられ、特に限定されないが、主として炭素数2~8のアルキレングリコール類であることが好ましい。具体的にはエチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。1,4-ブタンジオール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールが最も好ましい。
【0016】
具体的には、上記のハードセグメントのポリエステルを構成する成分としては、ブチレンテレフタレート単位(テレフタル酸と1,4-ブタンジオールからなる単位)あるいはブチレンナフタレート単位(2,6-ナフタレンジカルボン酸と1,4-ブタンジオールからなる単位)よりなるものが物性、成形性、コストパフォーマンスの点で好ましい。
【0017】
熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)のソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種である。
【0018】
脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。これらの中でも、弾性特性の点から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0019】
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペートなどが挙げられる。これらの中でも、弾性特性の点から、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペートが好ましい。
【0020】
脂肪族ポリカーボネートは、主として炭素数2~12の脂肪族ジオール残基からなるものであることが好ましい。これらの脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオールなどが挙げられる。特に、得られる熱可塑性ポリエステルエラストマーの柔軟性や低温特性の点から、炭素数5~12の脂肪族ジオールが好ましい。これらの成分は、単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0021】
具体的には、本発明で使用する熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)は、テレフタル酸、1,4-ブタンジオール、及びポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを主たる成分とする共重合体であることが好ましい。熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)を構成するジカルボン酸成分中、テレフタル酸が40モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)を構成するグリコール成分中、1,4-ブタンジオールとポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールの合計が40モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0022】
前記ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールの数平均分子量は、500~4000であることが好ましい。数平均分子量が500未満であると、エラストマー特性を発現しにくい場合がある。一方、数平均分子量が4000を超えると、ハードセグメント成分との相溶性が低下し、ブロック状に共重合することが難しくなる場合がある。ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールの数平均分子量は、800以上3000以下であることがより好ましく、1000以上2500以下であることがさらに好ましい。
【0023】
熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)は、従来公知の方法で製造することができる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、およびソフトセグメント成分を触媒の存在下でエステル交換反応させて、得られる反応生成物を重縮合する方法や、ジカルボン酸と過剰量のグリコールおよびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル化反応させて、得られる反応生成物を重縮合する方法を採用することができる。
【0024】
[シリコーン系滑剤(B)]
本発明では、滑剤として、シリコーン系滑剤(B)のみを使用し、他の種類の滑剤を使用しない。本発明で使用するシリコーン系滑剤(B)としては、例えばポリエステル変性されたシリコーン化合物、アクリル変性されたシリコーン化合物、オレフィン変性されたシリコーン化合物、エポキシ変性されたシリコーン化合物、及び超高分子量シリコーン化合物が挙げられる。これらはいずれも、少なくとも一つのシリコーン(ポリシロキサン)構造を含むポリマー化合物である。
【0025】
これらのシリコーン系滑剤(B)は、同材摺動性の向上効果に優れ、しかもブリードしにくいという特性を有する。その理由は、これらのシリコーン系滑剤(B)は、化合物中のシリコーン濃度が高く、しかも熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)との相溶性に優れる骨格を有するためである。つまり、化合物中のシリコーン濃度が高いことで、成形品表面に効率的にシリコーンが存在しやすくなり、同材摺動性を効果的に発現することができる。また、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)との相溶性に優れる骨格を有することで、マトリクス側の樹脂との絡まり合いが向上するためにブリードしにくく、かつ混錬時の分散性に優れる。
【0026】
本発明で使用するシリコーン系滑剤(B)には、シリコーンオイルやシリコーンパウダーは含まれない。シリコーンオイルは、分散性が良好ではなく、樹脂との相溶性も完全でないことから、多量に配合すると、経時で分離して表面付近に集まり、ブリードやブルーム等の問題が起きやすく、シリコーンパウダーは、固体粒子がフィラーとして作用するために成形性や表面性に悪影響があるうえ、組成物の樹脂成分との密着性が良くないために界面から剥離が起きやすく、多量に用いると組成物自体の強度が低下する問題があるためである。前述した本発明で使用するシリコーン化合物は、このような問題が発現しない。
【0027】
本発明では、滑剤として、上記の特定のシリコーン系滑剤(B)「のみ」を含有し、それ以外の他の種類の滑剤は一切含有しない。シリコーン系滑剤(B)以外の種類の滑剤として、オレフィン系滑剤やアマイド系滑剤が常用されるが、オレフィン系滑剤は、同材摺動性の向上効果に劣るという問題がある。また、アマイド系滑剤は、同材摺動性の向上効果をある程度有するが、同材摺動性の向上効果を十分に発揮させるために必要な量を配合すると、成形加工時に表面にブリードしてしまい、成形加工に使用される機台が汚染されてしまうという問題がある。従って、当然これらの滑剤は本発明の滑剤には含有されない。
【0028】
シリコーン系滑剤(B)としては、ポリエステル変性されたシリコーン化合物が、上述の熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)との相溶性の観点から特に好ましい。従って、シリコーン系滑剤(B)は、ポリエステル変性されたシリコーン化合物を50質量%以上、好ましくは100質量%使用することが好ましい。ポリエステル変性されたシリコーン化合物は、上述の化合物中のシリコーン濃度の観点から、シリコーン部分の比率が高い方が組成物の摺動性が良くなり、ポリエステル系ポリマーの比率が高い方が組成物への分散性が良くなる傾向がある。これらのバランスを考慮して、シリコーンとポリエステル系ポリマーの重合比(シリコーン/ポリエステル)は、質量比で、5/95~95/5が好ましく、10/90~90/10がより好ましく、15/85~85/15がさらに好ましい。
【0029】
シリコーン系滑剤(B)のポリエステルエラストマー樹脂(A)への配合割合は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して0.5~10質量部であることが必要である。この配合割合の下限は、好ましくは0.7質量部であり、より好ましくは1.0質量部であり、さらに好ましくは1.5質量部である。また、この配合割合の上限は、好ましくは9.0質量部であり、より好ましくは8.5質量部であり、さらに好ましくは8.0質量部である。この配合割合が上記下限未満では成形品表面に存在するシリコーン量が少なくなり、同材摺動性の向上効果が不十分となるおそれがある。一方、上記下限を超えると、ブリードを生じたり、機械物性の低下等が生じるおそれがある。
【0030】
[還元粘度]
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、還元粘度が1.9~3.5dl/gであることが必要であり、好ましくは、2.0~3.2dl/gであり、より好ましくは、2.1~3.0dl/gである。還元粘度が上記下限未満では、樹脂組成物としての耐熱老化性および耐屈曲疲労性が不十分であり、目的とする性能が得られないおそれがある。一方、還元粘度が上記上限を超えると、増粘剤の過剰による増粘剤由来の金型汚れが発生したり、成形加工性、特に射出成形時のフローマークなどの成形品の外観不良が生じるおそれがある。還元粘度は、熱可塑性ポリエステルエラストマーの合成時に分子量を調節することにより、制御することができる。また、後述するように、増粘剤(C)を熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物に添加することによって事後的に調節することもできる。例えば、熱可塑性ポリエステルエラストマーは、一般的に2.0dl/g以下の低い還元粘度を有するため、増粘剤(C)の使用により熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物の規定還元粘度を達成することができるが、2.0dl/gを超える(例えば2.5dl/g以上の)高い還元粘度を有する熱可塑性ポリエステルエラストマーでは、増粘剤(C)を加えずに規定還元粘度を容易に達成することができる。
【0031】
[増粘剤(C)]
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物には、上述のように還元粘度の調節のために増粘剤(C)をさらに配合することができる。本発明で好ましい増粘剤(C)は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の持つヒドロキシル基あるいはカルボキシル基と反応し得る官能基を有する反応性化合物(以下、単に反応性化合物と称することがある)である。反応し得る官能基としては、エポキシ基(グリシジル基)、酸無水物基、カルボジイミド基、およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、より好ましくは、エポキシ基(グリシジル基)、またはカルボジイミド基である。増粘剤(C)は、かかる官能基を1分子あたり2個以上含有する。このような増粘剤(C)としては、例えばエポキシ化合物又はカルボジイミド化合物を挙げることができる。
【0032】
[エポキシ化合物]
エポキシ化合物としては、2つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物が好ましい。具体的には、2つのエポキシ基を持つ1,6-ジハイドロキシナフタレンジグリシジルエーテルや1,3-ビス(オキシラニルメトキシ)ベンゼン、3つのエポキシ基を持つ1,3,5-トリス(2,3-エポキシプロピル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンやジグリセロールトリグリシジルエーテル、4つのエポキシ基を持つ1-クロロ-2,3-エポキシプロパン・ホルムアルデヒド・2,7-ナフタレンジオール重縮合物やペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルが挙げられる。中でも、骨格に耐熱性を保有した多官能のエポキシ化合物であることが好ましい。特に、ナフタレン構造を骨格に持つ2官能、もしくは4官能のエポキシ化合物、またはトリアジン構造を骨格に持つ3官能のエポキシ化合物が好ましい。熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の溶液粘度上昇の程度や、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の酸価を効率良く低下させることができる効果や、エポキシ自身の凝集・固化によるゲル化の発生程度を考慮すると、2官能または3官能のエポキシ化合物が好ましい。
【0033】
[カルボジイミド化合物]
カルボジイミド化合物は、1分子内にカルボジイミド基(-N=C=N-の構造)を2つ以上有するポリカルボジイミドであればよく、例えば、脂肪族ポリカルボジイミド、脂環族ポリカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミドやこれらの共重合体などが挙げられる。好ましくは脂肪族ポリカルボジイミド化合物又は脂環族ポリカルボジイミド化合物である。
【0034】
カルボジイミド化合物は、例えば、ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素反応により得ることができる。ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3,5-トリイソプロピルフェニレン-2,4-ジイソシアネートなどが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を共重合させて用いることもできる。また、分岐構造を導入したり、カルボジイミド基やイソシアネート基以外の官能基を共重合により導入したりしてもよい。さらに、末端のイソシアネートはそのままでも使用可能であるが、末端のイソシアネートを反応させることにより重合度を制御してもよいし、末端イソシアネートの一部を封鎖してもよい。
【0035】
カルボジイミド化合物としては、特に、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどに由来する脂環族ポリカルボジイミドが好ましく、特に、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドが好ましい。
【0036】
カルボジイミド化合物は、1分子あたり2~50個のカルボジイミド基を含有することが、安定性と取り扱い性の点で好ましい。より好ましくは1分子あたりカルボジイミド基を5~30個含有するのがよい。カルボジイミド分子中のカルボジイミドの個数(すなわちカルボジイミド基数)は、ジイソシアネート化合物から得られたポリカルボジイミドであれば、重合度に相当する。例えば、21個のジイソシアネート化合物が鎖状につながって得られたポリカルボジイミドの重合度は20であり、分子鎖中のカルボジイミド基数は20である。通常、ポリカルボジイミド化合物は、種々の長さの分子の混合物であり、カルボジイミド基数は、平均値で表される。前記範囲のカルボジイミド基数を有し、室温付近で固形であると、粉末化できるので、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)との混合時の作業性や相溶性に優れ、均一反応性、耐ブリードアウト性の点でも好ましい。なお、カルボジイミド基数は、例えば、常法(アミンで溶解して塩酸で逆滴定を行う方法)を用いて測定できる。
【0037】
カルボジイミド化合物は、末端にイソシアネート基を有し、イソシアネート基含有率が0.5~4質量%であることが、安定性と取り扱い性の点で好ましい。より好ましくは、イソシアネート基含有率は1~3質量%である。特に、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドであって、前記範囲のイソシアネート基含有率を有するものが好ましい。なお、イソシアネート基含有率は常法(アミンで溶解して塩酸で逆滴定を行う方法)を用いて測定できる。
【0038】
増粘剤(C)の含有量は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、最大5質量部であることが好ましく、より好ましくは最大4質量部であり、さらに好ましくは最大3質量部である。増粘剤(C)の含有量は、目標とする分子鎖延長効果に照らして適宜決定すればよいが、含有量が上記上限を超えると、増粘効果が過剰となり成形性に悪影響を与えたり、成形品の機械的特性に影響を与えるおそれがある。増粘剤(C)がエポキシ化合物の場合、上記上限を超えると、エポキシ化合物の凝集硬化によって成形品表面に凸凹が生じることがある。増粘剤(C)がカルボジイミド化合物の場合、上記上限を超えると、ポリカルボジイミド化合物の塩基性により熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の加水分解が生じ機械的特性に影響を与えるおそれがある。
【0039】
[その他の添加剤]
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物には、必要に応じて、芳香族アミン系、ヒンダードフェノール系、リン系、硫黄系などの汎用の酸化防止剤を配合してもよい。
【0040】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物に耐候性を必要とする場合は、紫外線吸収剤および/またはヒンダードアミン系化合物を添加することが好ましい。例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアゾール系、ニッケル系、サリチル系光安定剤が使用可能である。具体的には、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、p-t-ブチルフェニルサリシレート、2,4-ジ-t-ブチルフェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-3’、5’-ビス(α,α-ジメチルベンジルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンアゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾチリアゾール、2,5-ビス-〔5’-t-ブチルベンゾキサゾリル-(2)〕-チオフェン、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル燐酸モノエチルエステル)ニッケル塩、2-エトキシ-5-t-ブチル-2’-エチルオキサリックアシッド-ビス-アニリド85~90%と2-エトキシ-5-t-ブチル-2’-エチル-4’-t-ブチルオキサリックアシッド-ビス-アニリド10~15%の混合物、2-〔2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-エトキシ-2’-エチルオキサザリックアシッドビスアニリド、2-〔2’-ヒドロオキシ-5’-メチル-3’-(3’’,4’’,5’’,6’’-テトラヒドロフタルイミド-メチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-i-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクタデシルオキシベンゾフェノン、サリチル酸フェニルなどの光安定剤を挙げることができる。光安定剤の含有量は、熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物に対して、0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。
【0041】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物には、上記の添加剤以外に、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)以外の樹脂、無機フィラー、安定剤、老化防止剤、着色顔料、無機、有機系の充填剤、カップリング剤、タック性向上剤、クエンチャー、金属不活性化剤等の安定剤、難燃剤等の添加剤を配合することができる。
【0042】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210に準拠)が0.1~10g/10minであることが好ましい。このメルトフローレートは、より好ましくは0.15~8g/10min、さらにより好ましくは0.2~6g/10min、特に好ましくは0.2~4g/10minである。
【0043】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物の製造方法は、当業者に公知の方法を適宜採用すればよく、例えば単軸もしくは二軸のスクリュー式溶融混錬機、または、ニーダー式加熱機に代表される通常の熱可塑性樹脂の混合機を用いて各成分を溶融混練し、続いて造粒工程によりペレット化する方法により製造することができる。
【0044】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、公知の成形方法により成形体とすることができる。成形方法は、特に限定されるものではなく、例えば射出成形、ブロー成形、押出成形、発泡成形、異形成形、カレンダー成形を採用することができる。本発明では、ブロー成形および射出成形が好ましい。
【0045】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、上記のように構成されているので、同材摺動性及び耐久性に優れ、かつ成形加工時の機台汚染がないため、自動車部品の成形体、特に高い同材摺動性を要求される自動車の等速ジョイントブーツ等の成形材料に好適に使用することができる。また、同様に同材摺動性の向上が要求されるリテーナー、チューブ、電線の被覆材等の成形材料にも好適に使用することができる。さらに、同材摺動性の向上が要求される用途以外にも、例えば樹脂-人の身体が接触して摩耗する自動車の内装部品(コンソール、アームレスト、ニーパッド、メーターフード等)の成形材料としても広く使用することができる。
【実施例0046】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物の効果を以下の実施例によって示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、実施例及び比較例中、部及び百分率は、特に断りのない限り、質量基準で示す。また、実施例及び比較例における測定及び性能評価は、以下の手順で行なった。
【0047】
[還元粘度(dl/g)]
充分乾燥した熱可塑性ポリエステルエラストマー、又は熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物0.02gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒10mlに溶解し、ウベローゼ粘度計にて30℃で測定した。
【0048】
[同材摺動性]
同材摺動性の指標として、動摩擦係数を測定した。動摩擦係数は、面圧力が0.5MPaと1.0MPaの二つの条件で測定した。後者の条件は、自動車の等速ジョイントブーツにおいて想定される最大面圧力に相当し、前者の条件は、それより低い面圧力に相当する。
【0049】
[動摩擦係数]
動摩擦係数は、スラストシリンダー式の摩耗試験機を用いて測定した。
射出成形機を用い,熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を230℃の温度設定にて2mm厚×100mm×100mmの平板に成形した後、4分割して平板試験片とした。同様の条件にて中空円筒の試験片を成形し、摩耗試験時の相手材とした。
スラスト摩耗試験は、中空円筒試験片を平板試験片に0.5MPaまたは1.0MPaの面圧力で押し付けた状態で56rpmの回転数で20分間摩耗させ、試験終了時の摩擦係数を読み取り、動摩擦係数(μ)を算出した。
面圧力0.5MPaの条件では、動摩擦係数が1.0未満を〇、1.0以上1.5未満を△、1.5以上を×とした。面圧力1.0MPaの条件では、動摩擦係数が0.60未満を〇、0.60以上0.75未満を△、0.75以上を×とした。
【0050】
[機台汚染性]
シリンダー温度230℃にて射出成形品(幅100mm、長さ100mm、厚み2.0mm)を作成し、連続30ショット成形後の金型への汚れ付着の有無を目視で確認した。
金型への汚れ付着が目視で視認できない場合を〇、視認できる場合を×とした。
【0051】
[耐熱老化性]
シリンダー温度230℃にて作製した射出成形品(幅100mm、長さ100mm、厚み2.0mm)の樹脂の流動方向に対して直角方向にJIS3号ダンベル形状に打ち抜き、試験片を作製した。試験片を150℃の熱風乾燥機にてアニールし、その後、JIS K6251:2010に準じて引張伸度(切断時伸び)を測定した。引張伸度が初期の50%に到達した時間を伸度半減期とした。
伸度半減時間が300時間以上の場合を〇、300時間未満の場合を×とした。
なお、表1には、具体的な伸度半減時間も併記した。
【0052】
[耐屈曲疲労性]
デマッチャ屈曲き裂試験機BE-102(テスター産業株式会社製)を用い、以下の所定の試験片について、130℃の雰囲気下で、チャック間を75mmと19mmにする繰り返し屈曲を300回/分の速度で実施し、破断に至るまでの回数で耐屈曲疲労性を評価した。試験片としては、シリンダー温度230℃にて作製した射出成形品(幅20mm、長さ100mm、厚さ3.6mm、長さ方向の中央部の20mm幅全体に、R2.4の溝部有り)を用いた。
破断までの屈曲回数が300万回以上の場合を〇、300万回未満の場合を×とした。
なお、表1には、具体的な屈曲回数も併記した。
【0053】
[成形加工性]
熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を溶融混錬する際、熱可塑性ポリエステルエラストマーの酸末端と増粘剤が過剰に反応することでゲル状架橋物が生成する場合がある。成形加工性は、このゲル状架橋物の生成の有無の指標である。具体的には、目視でストランドの光沢性や平滑性が失われたりストランド切れが発生したりすることがなく、粘度増加が可能であった場合を〇、目視でストランドの光沢性や平滑性が失われるか、またはストランド切れが発生し、粘度増加が不可能であった場合を×とした。
【0054】
実施例及び比較例の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物で使用した各成分の詳細は、以下の通りである。
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)]
(A-1)ジメチルテレフタレート、1,4-ブタンジオール、及び数平均分子量が1500のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを原料として、ソフトセグメント成分の含有量が47.1質量部の熱可塑性ポリエステルエラストマーを合成した。この熱可塑性ポリエステルエラストマーの還元粘度は、1.8dl/gであった。
(A-2)(A-1)で合成した熱可塑性ポリエステルエラストマーを固相重合により高粘度化し、還元粘度2.6dl/gの高粘度ポリエステルエラストマーを得た。
【0055】
[シリコーン系滑剤(B)]
(B-1)ポリエステル変性されたシリコーン化合物(Evonik Operations GmbH製、TEGOMER H-Si 6441P、ペレット状)
(B-2)超高分子量オレフィン系シリコーン(旭化成ワッカーシリコーン(株)製、GENIOPLAST Pellet S、ペレット状)
(B-3)アクリル変性されたシリコーン化合物(三菱ケミカル(株)製、メタブレン SX-005、粉体状)
(B-4)アクリル変性されたシリコーン化合物(日信化学工業(株)製、シャリーヌ R-175S、粉体状)
【0056】
[シリコーン系以外の滑剤]
(オレフィン系滑剤)ビニル変性ポリエチレン(日油(株)製、モディパー A1401)
(アマイド系滑剤)エチレンビスオレイン酸アマイド
【0057】
[増粘剤(C)]
(C-1)トリアジン骨格含有3官能エポキシ化合物
(C-2)脂肪族ポリカルボジイミド化合物
【0058】
[添加剤]
ポリアミド樹脂(ARKEMA製、Platamid HX2651)
アミン系酸化防止剤(精工化学(株)製、ノンフレックスDCD)
フェノール系酸化防止剤(Chemtura Corporation製、ANOX20)
フェノール系酸化防止剤(ソンウォンインターナショナルジャパン(株)製、SONGNOX 1098)
硫黄系酸化防止剤(第一工業製薬(株)製、ラスミットLG)
【0059】
実施例1~10及び比較例1~8
熱可塑性ポリエステルエラストマー100質量部に対して、各成分をそれぞれ表1に記載の比率にて、二軸スクリュー式押出機にて、混練・ペレット化した。混錬時のシリンダー温度は、250℃に設定した。得られた熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物のペレットを用いて、性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1からわかるように、本発明の要件を満たす実施例1~10は、同材摺動性、機台汚染性、耐久性、及び生産安定性のいずれの評価においても良好である。特に、シリコーン系滑剤(B)として、ポリエステル変性されたシリコーン化合物を使用する実施例1~5,9,10は、シリコーン系滑剤(B)としてそれ以外のものを使用する実施例6~8と比べて、動摩擦係数が低く、同材摺動性に特に優れている。一方、滑剤としてシリコーン系のものではなく、オレフィン系のものを使用した比較例1は、動摩擦係数が高く、同材摺動性に劣る。滑剤としてシリコーン系のものではなく、アマイド系のものを使用した比較例2は、金型汚れがひどく、機台汚染の問題がある。滑剤としてシリコーン系のものとアマイド系のものを併用した比較例3も、金型汚れがひどく、機台汚染の問題がある。滑剤を全く配合していない比較例4は、動摩擦係数が高く、同材摺動性に劣る。滑剤としてシリコーン系のものを使用するが、その配合量が多すぎる比較例5は、金型汚れがひどく、機台汚染の問題がある。熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物の還元粘度が低すぎる比較例6は、耐久性に劣る。熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物の還元粘度が高すぎる比較例7,8は、増粘剤の過剰による増粘剤由来の金型汚れが発生する(比較例7)か、又は成形加工性に劣る(比較例8)。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の熱可塑ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、同材摺動性及び耐久性に優れ、かつ成形加工時の機台汚染がなく、耐久性にも優れている。従って、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、自動車部品の成形体、特に高い同材摺動性を要求される自動車の等速ジョイントブーツ等の成形材料に好適に使用することができる。また、同様に同材摺動性の向上が要求されるリテーナー、チューブ、電線の被覆材等の成形材料にも好適に使用することができる。さらに、同材摺動性の向上が要求される用途以外にも、例えば樹脂-人の身体が接触して摩耗する自動車の内装部品(コンソール、アームレスト、ニーパッド、メーターフード等)の成形材料としても広く使用することができる。